説明

同位体選択性吸着剤及び同位体の分離濃縮方法

【課題】12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスから14COを容易に分離することが可能な吸着剤及びこの吸着剤を用いた分離濃縮方法を提供する。
【解決手段】原料ガスに含まれる12CO、13CO、14CO、12CO13CO14COのうち14COを選択的に結晶窓を通過させ吸着する同位体選択性吸着剤であり、該同位体選択性吸着剤がA型ゼオライトであることを特徴とする。少なくとも12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスを、前記同位体選択性吸着剤を含む吸着系に接触させて、14COを該吸着剤の結晶窓を選択的に通過、吸着させるとともに、12CO、13CO、14CO、12CO及び13COを流過させて排出し、吸着済の該同位体選択性吸着剤を吸着時より低圧に導くことにより14CO富化ガスを脱着させて回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同位体選択性吸着剤及び同位体の分離濃縮方法に関し、詳細には、原子力プラントにておいて黒鉛燃焼により発生する燃焼ガス中の14COを選択的に分離・回収するのに使用される同位体選択性吸着剤及び同位体の分離濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同位体を分離する方法として、精密蒸留法、レーザー法、吸着法が知られている(例えば、特許文献1〜6参照)。しかし、精密蒸留法は分離係数が小さいため、分離係数を高めようとすると分離、回収に要する費用が膨大となる。
【0003】
特許文献2には、燃料体に多量の黒鉛を使用した高温ガス炉において、黒鉛の燃焼によって生じる12C、13C、14CのCO又はCOから、14Cのみを含有しているものを、レーザー法により分離、回収する方法が開示されている。この文献には、14COのみをイオン化すれば12CO及び13COとの分離が可能であると報告されているが、分離係数は明らかにされていない。
【0004】
特許文献3には、12CO及び13COを含む原料ガスを同位体選択性吸着剤が含まれる吸着系に供給して13COを前記同位体選択性吸着剤に吸着させるとともに12COを前記吸着系から流過させる吸着工程を採用した13COの分離濃縮法が開示されている。同様に、特許文献4には、12CO及び14COを含む原料ガスを同位体選択性吸着剤が含まれる吸着系に供給して14COを前記同位体選択性吸着剤に吸着させるとともに12COを前記吸着系から流過させる吸着工程を採用した14COの分離濃縮法が開示されている。
【特許文献1】特開平6−134261号公報
【特許文献2】特開平6−182158号公報
【特許文献3】特開2004−41985号公報
【特許文献4】特開2004−174420号公報
【特許文献5】特開2004−230267号公報
【特許文献6】特許第4119712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3,4に記載されている方法は、12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスから13COや14COを分離する際に、Na−X型ゼオライトを用いる。同位体選択性吸着剤として用いるフォウジャサイト、ペンタシルゼオライト、モルデナイトには13COや14COは選択的に吸着されるのに対し、Na−A型ゼオライトを用いた場合は13COや14COは吸着されないと報告されている。しかし、本発明者等の検討結果によれば、X型ゼオライトを用いた場合の分離係数は、−30℃で1.043と小さいため、実用化は難しい。
【0006】
また、特許文献2で報告されている、12C、13C、14CのCO又はCOから14COのみをレーザー法で分離する方法では多段化が困難なため、実用化は難しい。
【0007】
とりわけ、黒鉛の燃焼によって生じるガスから同位体を分離することを想定すると、該ガス中の12C、13C、14Cの比率は、およそ、12C:13C:14C=98.9:1.1:0.00007であり、14Cの存在比率が極めて少ないことから、14Cのみを選択的に吸着させて分離するのが得策である。しかも、14COを選択的に吸着させる方法と14COを選択的に吸着させる方法を比べると、毒性が強いCOは負圧で実施しないと危険が伴うが、COはより安全で扱い易い。
【0008】
ゼオライトをCO吸着剤として用いることは周知であり、12C、13C、14Cの吸着性の違いを利用した報告例が特許文献3〜6等に開示されているが、14COを選択的に吸着する同位体選択性吸着剤に関するものはない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスから14COを容易に分離することが可能な吸着剤及びこの吸着剤を用いた分離濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)原料ガスに含まれる12CO、13CO、14CO、12CO13CO14COのうち14COを選択的に結晶窓を通過させ、選択的に吸着する同位体選択性吸着剤であって、
該同位体選択性吸着剤がA型ゼオライトであることを特徴とする同位体選択性吸着剤。
(2)前記A型ゼオライトが、Na−A型ゼオライト、又は、Naの少なくとも一部もしくは全部がLi、Ca、Mg、K、Cu、Rb、Sr、Ag、Sn、Cs、Tl、Ba又はZnで置換されてなるA型ゼオライトであることを特徴とする(1)に記載の同位体選択性吸着剤。
(3)少なくとも12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスを、(1)又は(2)いずれか記載の同位体選択性吸着剤を含む吸着系に接触させて、14COを前記同位体選択性吸着剤の結晶窓を選択的に通過させ、かつ選択的に吸着させるとともに、12CO、13CO、14CO、12CO及び13COを流過させて排出し、吸着済の該同位体選択性吸着剤を吸着時より低圧に導くことにより14CO富化ガスを脱着させて回収することを特徴とする同位体の分離濃縮方法。
(4)少なくとも12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスを、請求項1記載の同位体選択性吸着剤を含む吸着系に接触させて、14COを前記同位体選択性吸着剤の結晶窓を選択的に通過させ、かつ選択的に吸着させるとともに、12CO、13CO、14CO、12CO及び13COを流過させて排出し、吸着済の該同位体選択性吸着剤を吸着時より低圧に導くことにより14CO富化ガスを脱着させて該同位体選択性吸着剤を再生することを特徴とする同位体の分離濃縮方法。
(5)吸着時の吸着温度が−78℃以上60℃以下の温度範囲であることを特徴とする(3)又は(4)に記載の同位体の分離濃縮方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の同位体選択性吸着剤によれば、14CO13CO、及び、14CO12COの分離係数が高いので、原料ガス中の14COを選択的に分離・回収することができる。
【0013】
また、本発明の同位体の分離濃縮方法によれば、上記の吸着剤を圧力スイング法に適用したものであり、14COを吸着させるとともに、12CO、13CO、14CO、12CO13COを流過させることにより、14COと他のガスを分離して14COを減容濃縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る同位体選択性吸着剤は、A型ゼオライトである。該A型ゼオライトの選択的分離性は、同位体間における吸着エネルギー差(吸着性能に関係する)ならびに結晶窓通過エネルギー差(結晶内への吸引性能に関係する)による相乗効果により発揮される。 同位体間における結晶窓通過エネルギー差のないX型ゼオライトよりも、12CO、13CO、14CO、12CO13CO14COの混合系における14COの選択的分離性に優れているのはこのためである。ここでいう「結晶窓」とは、結晶の出入口のことである。
この同位体選択性吸着剤は、下記の3つの相乗効果により、14CO13CO及び12COとの分離係数が高く、原料ガス中の14COを選択的に分離濃縮することができる。
(i)14COの吸着エネルギーが高く、しかもCOに比べて同位体間の吸着エネルギー差が大きい。
(ii)結晶窓通過時において13CO12COに比べ14COのエネルギーが小さく、しかも14COに比べて同位体間のエネルギー差が大きい。
(iii)14COの結晶内移動速度が13CO12COよりも小さい。
【0015】
一例として、各温度におけるLi型ゼオライトのCO同位体分離係数を計算で求めた結果を表1に示す。吸着エネルギーは14COが最も大きく、13CO12COの順に小さくなるので、14CO12CO、及び、14CO13COの分離係数はX型ゼオライトよりも大きく、しかも、吸着温度が低くなる程分離係数は大きくなる。
【表1】

【0016】
上記の同位体選択性吸着剤は、Na−A型ゼオライト、又は、Naの少なくとも一部もしくは全部がLi、Ca、Mg、K、Cu、Rb、Sr、Ag、Sn、Cs、Tl、Ba、Zn等で置換されてなるA型ゼオライトである。好ましい吸着剤はNa−A型ゼオライト又はNaの少なくとも一部もしくは全部がLi、Mg、K、Rb、Ag、Sn、Zn等で置換されてなるA型ゼオライトである。吸着剤の原料となるNa−A型ゼオライトのNaをLi、Ca、Zn等で置換することにより、それぞれの金属イオンとCOとの分子間結合エネルギーが大きくなるとの理由で、14COに対するゼオライトの吸着エネルギーが高くなるとともに、14COの結晶窓通過エネルギーが小さくなり、14COが選択的に結晶内に吸引される効果が生じる。この14COの吸着エネルギーを高めること、ならびに14COの結晶窓通過エネルギーを小さくすること(結晶内に吸引されること)により、12CO、13CO、14CO、12CO13CO14COのうち14COを主に吸着ならびに結晶窓を通過させると共に13CO12COを吸着させないこと及び結晶窓を通過させないことで14COを分離回収することが可能となる。
一方、COはCOに比べて極性が低いためA型ゼオライトとの親和性は弱く、COよりもA型ゼオライトに対する吸着性は低い。また、同様に結晶窓通過エネルギーそのものが小さいため、同位体間の結晶窓通過エネルギー差による分離性能も低い。
【0017】
この同位体選択性吸着剤の製造方法の一例を説明する。まずNa−A型ゼオライト粉末を用意し、次にこのNa−A型ゼオライトに対してLi、Ca、Zn等によるイオン交換を行う。イオン交換は、Liイオン、Caイオン、Znイオン等を含むイオン交換溶液をNa−A型ゼオライトに滴下するバッチ法や、Na−A型ゼオライトをカラムに充填し、先のイオン交換溶液を加圧状態で供給するクロマト法を使用できる。
次にバインダー(カオリン等)及び気孔賦与剤(セルロース等)添加して成形・乾燥し、次に例えば110℃程度で予備加熱を行って表面水分を除去し、次に室温まで冷却して再度水分を表面に付着させる。
次に、650℃以上800℃以下の温度で1〜3時間程度の熱処理を行い、更に室温まで冷却してペレット状のLi−A型ゼオライト、Mg−A型ゼオライトまたはZn−A型ゼオライト等が得られる。
ここで、熱処理温度が650℃未満であると、ゼオライト結晶を安定させることができず、14CO13CO又は12COとの分離係数が低くなるので好ましくなく、熱処理温度が800℃を超えるとゼオライト自体が熱で破壊されてしまうので好ましくない。
【0018】
上記の同位体選択性吸着剤は、相対的高圧条件で少なくとも12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスと接触させて14COを主にA型ゼオライト結晶窓を通過吸着させるとともに他のガスを主にA型ゼオライト結晶外に流過させて排出し、更に相対的低圧に導くことによって14COを脱着させて吸着剤を再生する圧力スイング法(PSA)による分離濃縮に適している。即ち、本発明で用いるPSAでは、例えば、吸着圧力として100〜150kPaで14COを主に該吸着剤に吸着させた後、1〜20kPaに減圧することにより14COを脱着させる。
【0019】
次に、本発明の一実施形態である同位体の分離濃縮装置について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本発明に適用可能な同位体分離濃縮装置の一例を示す。この同位体分離濃縮装置は、同位体選択性吸着剤が充填された3つの吸着塔31,32,33と、原料ガスを各吸着塔31〜33に導入するために各吸着塔31〜33の入口側に接続された入口側流路Aと、各吸着塔31〜33の出口側に接続されて14CO富化ガス(14COが濃縮されたガス)を排出する出口側流路Bと、各吸着塔を低圧にして14CO富化ガスを脱着させるとともに不活性ガスを各吸着塔出口側から流す再生部Cと、脱着後の14CO富化ガス(14COが濃縮されたガス)の一部を一時的に貯留し、この一部の14CO富化ガスを各吸着塔の入口側に供給する並流パージ部Dとを主体として構成されている。
【0020】
各吸着塔31〜33はコールドボックス30内に配置されている。コールドボックス30は、原料ガスの供給時に各吸着塔31〜33内の同位体選択性吸着剤を−78℃以上60℃以下の温度に保つものである。
下限値の−78℃はCOの1気圧での沸点から設定した。60℃は、この方式の上限であり、それ以上は効果がほとんどないことから設定した。なお、低温ほど分離係数は大きくなるため、低温の方が好ましい。また、60℃とした別の理由は、25℃(常温)に吸着剤の温度を設定しても、吸着熱のため60℃程度まで吸着剤の温度が上昇するためである。
次に、入口側流路Aは、各吸着塔31〜33の入口側に接続された流路34と、流路34の途中に配置されて原料ガスを各吸着塔31〜33に送るブロア35と、各吸着塔31〜33の入口側(流路34)に設けられた開閉自在なバルブ1,7,13から構成されている。
次に、出口側流路Bは、各吸着塔31〜33の出口側に接続された流路38と、流路38の途中に配置されて14CO富化ガスを排出するためのブロア39と、各吸着塔31〜33の出口側(流路38)に設けられた開閉自在なバルブ4,10,16から構成されている。
【0021】
次に、再生部Cは、各吸着塔31〜33の入口側に接続された流路41と、流路41の途中に配置されて各吸着塔31〜33を低圧にして14CO富化ガス(14COが濃縮されたガス)を脱着させる真空ポンプ37と、14CO富化ガス(並流パージガス)を一時的に貯留するバッファタンク36と、各吸着塔31〜33の入口側(流路41)に設けられた開閉自在なバルブ2,8,14から構成されている。バッファタンク36内に回収された14CO富化ガスは、並流パージガスとしてバルブ6,12,18を通じて吸着塔31〜33に送り並流パージに使われる。
更に再生部Cには、各吸着塔31〜33の出口側に接続された流路42と、流路42に接続されてヘリウム、アルゴン等の向流パージガスを貯留する向流パージタンク43と、ブロア44と、各吸着塔31〜33の出口側(流路42)に設けられた開閉自在なバルブ5,11,17が備えられている。
【0022】
次に並流パージ部Dは、バッファタンク36内の14CO富化ガス(並流パージガス)を各吸着塔31〜33の入口側に送る流路45と、各吸着塔31〜33の入口側(流路45)に設けられた開閉自在なバルブ3、9,15と、各吸着塔31〜33の出口側から排出された並流パージガスを入口側流路Aに還流する流路46と、各吸着塔31〜33の出口側(流路46)に設けられた開閉自在なバルブ6,12,18とから構成されている。並流パージにより吸着塔31〜33から流過した並流パージガスには、14COが含まれるため、原料ガスに戻して再び分離濃縮に使用される。また、バッファタンク36内の14CO富化ガスの残部は、製品として装置外に取り出される。
【0023】
次に、この同位体分離濃縮装置の動作を説明する。
各吸着塔31〜33では、14CO吸着(吸着工程)−並流パージ(並流パージ工程)−減圧(再生工程)−向流パージ(再生工程)−昇圧という操作サイクルが繰り返し行われる。すなわち、各吸着塔では、
(1)原料ガスの供給(14CO吸着及びこれ以外のガス排出)、
(2)14COが濃縮された14CO富化ガスの供給(並流パージ)と、それによる塔内残留13CO及び12COの置換、
(3)減圧による14COの脱着及び貯留、
(4)14COを含まない向流パージガスを用いた、塔頂よりの逆洗による塔内洗浄(向流パージ)、そして
(5)昇圧
という操作サイクルが行われ、14COの吸着とその他のガスの排出が再び可能な状態となる。14CO13CO12COに対する選択的結晶窓通過性、選択的吸着性及び結晶内移動速度の特性を利用するため、その能力が最大に生かせる様な操作サイクル時間で、このような操作サイクルを繰り返すことで14COを効率よく回収できる。
【0024】
上記操作サイクルを吸着塔31に着目して図1を用いてより詳細に説明すると、まず、吸着工程では、バルブ1を開き、ブロワ35によって、流路34から、少なくとも12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスを、コールドボックス30内の吸着塔31に供給する。このとき原料ガス中に含まれる14COが、吸着塔31内の同位体選択性吸着剤によって選択的に吸着される。14COが吸着された後の原料ガスは12CO、13CO及び14COが高濃度に含まれるとともに12CO及び13COが微量含まれたものとなり、この原料ガスがバルブ4及び流路38を通って装置外に排出される。吸着時の圧力は、0.1MPa以上0.3MPa以下の範囲とすることが好ましい。
原料ガスの供給時には、各吸着塔31〜33内の同位体選択性吸着剤を−78℃以上60℃以下の温度に保つことが好ましい。温度が0℃を超えると14COの吸着率が低下してしまうので好ましくなく、温度を−78℃以下にすると、COの沸点以下にするための負圧にする必要があり、また、低温に保つためのエネルギーが莫大となるので好ましくない。
なお、この時、吸着塔32,33のいずれか一方では、同位体選択性吸着剤に吸着した14COの脱着が行われる。脱着された14CO富化ガスはバッファタンク36に貯留される。
【0025】
次に並流パージ工程では、バルブ1と4を閉じ、バルブ3と6を開き、バッファタンク36から14CO富化ガスの一部(並流パージガス)を吸着塔31に供給する。これにより並流パージガスに含まれる14COが、吸着塔31内のデッドスペース(死容積部)に残存する他のガス及び同位体選択性吸着剤に一部吸着された12CO及び13COと置換され(並流パージ)、塔内の12CO及び13CO濃度を減少させる。並流パージ後に吸着塔31出口側から排出されたガスは、原料ガスの流路34に還流させ、これを別の吸着塔32,33のいずれか一方に供給する。
【0026】
さらに、並流パージを行わなくても、高効率で14COを分離濃縮することもできる。この場合、操作は更に簡略化される。したがって、必要な14CO濃縮率、経済性、操作性等を勘案して並流パージを行うか否かを決定すればよい。
【0027】
次に再生工程では、吸着塔31のバルブ2を開け、残りのバルブ1及び3〜6を閉じ、真空ポンプ37を用いて吸着塔31内を吸着工程時より低圧にして、吸着した14COを含む14CO富化ガスを脱着させ、バッファタンク36に一時的に貯留する。このバッファタンク36内の14CO富化ガスは、流路45を介して別の吸着塔の並流パージに用いる。
【0028】
更に、バルブ5を開き、向流パージタンク43内の向流パージガスを用いて、吸着塔31の塔頂よりの逆洗による塔内洗浄(向流パージ)を行い、吸着塔31内の14COを完全に除去する。向流パージに必要なガス量Gp(LN/batch)は、原料ガス量をG0(LN/batch)、吸着圧力(吸着時の圧力)をPa(atm)、再生圧力をPd(atm)とすると、Gp=G0×K×(Pd/Pa)[式中、K=1.2〜1.5]で表される。
【0029】
これは、真空ポンプ37による単純な減圧で塔内の14COの大半は回収されるが、並流パージで塔内14CO濃度を著しく高めているので単純な減圧だけでは14COの除去が不十分な可能性があるので、減圧による14CO回収に続いて減圧条件下で原料ガスとは逆方向から14COを含まない向流パージガスを供給すること(向流パージ)によって塔内の14COを完全に除去するためである。この向流パージを行うことで、同位体選択性吸着剤を十分に再生させることができ、再度14COの吸着を行う前に14COの完全な吸着除去を達成できる。
【0030】
それから、バルブ2を閉じ、向流パージガスで吸着塔32内を吸着圧力にまで昇圧する。これによって再び14COの吸着が可能となる。これら一連の操作を繰り返すことによって、13COの著しい濃縮を達成することができる。
【0031】
また、n個の吸着塔において、上述した操作サイクルの工程の進行を1/nずつずらして行うことにより、連続した14CO吸着並びに13CO12CO及びCOの流過排出、並流パージ、向流パージによる14CO脱着並びに吸着剤の再生を行うことができる。例えば、図1(n=3)の場合、例えば並流パージの際に吸着塔32の出口側から排出されたガスは、原料ガスの流路34に還流され、ブロワ35によって吸着塔31に供給される。このように、本発明の方法を用いることによって、簡単な操作で連続的且つ効率的な14CO濃縮を行うことができる。
【0032】
通常の黒鉛燃焼排ガス中に含まれる14COは0.667ppm程度であるが、本発明の方法により−78℃の操作温度で14COが0.837ppm程度の14CO富化ガスを得ることができる。なお、適宜吸着塔の数を増やし、吸着工程と14COの脱着行程を順次切り替えて行うようにすれば、14CO富化ガスを連続的に製造することができる。また、得られた14CO富化ガスを再度吸着塔に導入して複数段の処理を行うことにより14COの濃度を高めることも可能である。ちなみに、−78℃の操作温度では、47段で1%純度、90段で50%純度、111段で90%純度、132段で99%純度の14COを得ることができる。
【0033】
以上、3塔形式の装置を例示して本発明を説明したが、適宜、1又は2、あるいは4つ以上の吸着系を用いて行うことも可能である。また、吸着操作を大気圧下で行い、脱着操作を減圧下で行ったり、吸着操作を加圧下で行い、脱着操作を大気圧下で行うなどしてもよく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の同位体選択性吸着剤及び同位体の分離濃縮方法によれば、炭素同位体の一つである14Cを分離濃縮することができるので、一酸化炭素(CO)から14COを分離濃縮する方法に比べて、効率よくかつ安全に14Cを得ることができる。14Cは天然存在比が微量であるので、利用価値が非常に高い。得られた14Cは、例えば医療分野や原子力産業の分野において、核磁気共鳴法や磁気共鳴画像表示法による診断を行う際のマーカー試薬、或いは、腫瘍マーカー等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態である同位体分離濃縮装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0036】
31、32、33 吸着塔
A 入口側流路
B 出口側流路
C 再生部
D 並流パージ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスに含まれる12CO、13CO、14CO、12CO13CO14COのうち14COを選択的に結晶窓を通過させ、選択的に吸着する同位体選択性吸着剤であって、
該同位体選択性吸着剤がA型ゼオライトであることを特徴とする同位体選択性吸着剤。
【請求項2】
前記A型ゼオライトが、Na−A型ゼオライト、又は、Naの少なくとも一部もしくは全部がLi、Ca、Mg、K、Cu、Rb、Sr、Ag、Sn、Cs、Tl、Ba又はZnで置換されてなるA型ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の同位体選択性吸着剤。
【請求項3】
少なくとも12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスを、請求項1又は2いずれか記載の同位体選択性吸着剤を含む吸着系に接触させて、14COを前記同位体選択性吸着剤の結晶窓を選択的に通過させ、かつ選択的に吸着させるとともに、12CO、13CO、14CO、12CO及び13COを流過させて排出し、吸着済の該同位体選択性吸着剤を吸着時より低圧に導くことにより14CO富化ガスを脱着させて回収することを特徴とする同位体の分離濃縮方法。
【請求項4】
少なくとも12CO、13CO、14CO、12CO13CO及び14COを含む原料ガスを、請求項1記載の同位体選択性吸着剤を含む吸着系に接触させて、14COを前記同位体選択性吸着剤の結晶窓を選択的に通過させ、かつ選択的に吸着させるとともに、12CO、13CO、14CO、12CO及び13COを流過させて排出し、吸着済の該同位体選択性吸着剤を吸着時より低圧に導くことにより14CO富化ガスを脱着させて該同位体選択性吸着剤を再生することを特徴とする同位体の分離濃縮方法。
【請求項5】
吸着時の吸着温度が−78℃以上60℃以下の温度範囲であることを特徴とする請求項3又は4に記載の同位体の分離濃縮方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−94654(P2010−94654A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270145(P2008−270145)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】