説明

同期制御システム

【課題】同期制御をマスタ端子主導とし、タイミングフラグ同調によって生じる同期精度低下の要因に対応するための同期制御システムを提供する。
【解決手段】送受信するデータパケットを保持するとともに同期制御のためのパケットを受信したとき同期制御演算のための受信タイミングを取得する伝送インタフェース部と、一定の内部タイミングを生成するタイミング生成部と、特定のスレーブ端子に対して同期要求督促パケットの送信を行い同期要求督促パケットを受信したスレーブ端子から同期要求パケットを受信したときは同期応答パケットを送信する送受信処理部と、データパケットを受信した時刻と受信したデータパケットに付加されている時刻情報とから同期誤差を演算して同期状況の判定を行うとともに同期状況に応じて補正量を調節しタイミング生成部に内部タイミング補正の指令を送信する同期制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、マスタ端子と複数のスレーブ端子との間の同期をとる同期制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、差動保護継電器は、送電線の各端子において計器用変流器により入力された電流を同一時刻にサンプリングしてディジタル化する。そして、このディジタル化された電流データを通信系を介して相互に伝送しあい、各端子で自端の電流と対向端から受信した電流データを用いて差動保護演算を行い事故判定を行う。ここで、同一時刻に電流データのサンプリングを同時に行うことはサンプリング同期と呼ばれる。送電線の各端子間でマスタ端子とスレーブ端子を決め、それぞれ自端子のサンプリングタイミングのデータをタイミングフラグとして送信する。各端子では、自端子のサンプリングタイミング時刻と相手端子からのタイミングフラグの受信時刻との時間間隔を測定し、マスタ端子から時間間隔をスレーブ端子に送信すれば、スレーブ端子ではサンプリング同期誤差を求め、この時間分だけサンプリングタイミングを補正することにより、マスタ端子、スレーブ端子のサンプリングタイミングの同期が実現できる。このような同期制御システムは、差動保護継電器だけでなく多くの伝送システムで適用されている。
【0003】
従来の同期制御システムとして、時計を内蔵した装置へ同期信号が送信される際に要した伝送制御待ち時間により同期する時刻を補正して、精度を向上するようにしたものがある(特許文献1参照)。また、伝送の都度伝送遅延時間が変化しても時間設定側装置及び被時刻設定側装置間での時刻同期の精度を許容誤差範囲内に収めるようにしたものがある(特許文献2参照)。さらに、1極のマスタ端子と複数のリモート局を接続するシリアル伝送路から構成されるネットワークシステムで、サンプリングデータ処理のオーバヘッドを吸収し、収集したデータを早く処理するようにしたものがある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−15421号公報
【特許文献2】特開2006−50121号公報
【特許文献3】特開平11−220481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の同期制御システムは、スレーブ端子が主導で同期制御通信を行っているので、各スレーブ端子が同期制御を行って内部タイミングを合わせることによって、各スレーブ端子からのタイミングフラグが同調する。ここで、保護継電器に代表される装置にギガビットイーサネット(登録商標)に代表される高速ネットワークを適用し、かつ、このような同期制御システムを適用する場合に、スイッチングハブ等の中継機器において各スレーブ端子からのタイミングフラグ受信が同調し、中継機器でのバッファリングによる送出遅延やマスタ端子の打ち返し遅延が生じる。その結果、正確な受信タイミングが得られず、同期精度低下の要因となる。
【0006】
本発明の実施形態では同期制御をマスタ端子主導とし、タイミングフラグ同調によって生じる同期精度低下の要因に対応するための同期制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の同期制御システムは、ネットワークに接続されたマスタ端子と複数のスレーブ端子にそれぞれ伝送処理装置を設け、マスタ端子と複数のスレーブ端子との間の同期を実現する同期制御システムである。マスタ端子の伝送処理装置は、送受信するデータパケットを保持するとともに同期制御のためのパケットを受信したとき同期制御演算のための受信タイミングを取得する伝送インタフェース部と、一定の内部タイミングを生成するタイミング生成部と、特定のスレーブ端子に対して同期要求督促パケットの送信を行い同期要求督促パケットを受信したスレーブ端子から同期要求パケットを受信したときは同期応答パケットを送信する送受信処理部と、データパケットを受信した時刻と受信したデータパケットに付加されている時刻情報とから同期誤差を演算して同期状況の判定を行うとともに同期状況に応じて補正量を調節し前記タイミング生成部に内部タイミング補正の指令を送信する同期制御部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る実施形態1に係る同期制御システムの構成図。
【図2】本発明の実施形態1における同期制御シーケンスの一例を示す説明図。
【図3】本発明の実施形態1におけるマスタ端子が複数スレーブ端子と同期制御を行う場合の同期制御シーケンスの説明図。
【図4】本発明の実施形態1におけるマスタ端子の同期制御のためのパケット送信処理内容を示すフローチャート。
【図5】本発明の実施形態1におけるスレーブ端子の同期制御のためのパケット送信処理内容を示すフローチャート。
【図6】本発明の実施形態1における同期制御部11dにおける同期制御アルゴリズムの処理内容を示すフローチャート。
【図7】本発明の実施形態2におけるマスタ端子が複数スレーブ端子と同期制御を行う場合の同期制御シーケンスの説明図。
【図8】本発明に係る実施形態3に係る同期制御システムの構成図。
【図9】本発明に係る実施形態3における端子情報管理部11eに格納されるテーブルの説明図。
【図10】本発明の実施形態4における伝送インタフェース部の説明図。
【図11】この発明の実施形態5で同期要求督促パケットをマルチキャスト送信する場合のデータパケットの説明図。
【図12】本発明の実施形態5で同期要求督促パケットをマルチキャスト送信する場合の同期制御シーケンスの説明図。
【図13】本発明の実施形態5で同期要求督促パケットをマルチキャスト送信する場合の端子情報管理部のテーブルの説明図。
【図14】本発明の実施形態6でマスタ端子が督促解除指令パケットを送信する場合の同期制御シーケンスの一例の説明図。
【図15】本発明の実施形態6でマスタ端子が督促解除指令パケットを送信する場合の同期制御シーケンス他の一例の説明図である。
【図16】本発明の実施形態6における同期制御システムの遷移の説明図。
【図17】本発明の実施形態7で同期要求督促パケットをマルチキャスト送信する場合の端子情報管理部のテーブルの説明図。
【図18】本発明の実施形態7でマスタ端子がネットワークから切り離された場合の同期制御シーケンスの説明図。
【図19】本発明の実施形態7でネットワークから切り離されたマスタ端子がネットワークに再接続した場合の同期制御シーケンスの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る同期制御システムについて説明する。本発明の実施形態では、保護継電器におけるサンプリング同期制御を例として説明する。
【0010】
(実施形態1)(請求項1対応)
図1は本発明の実施形態1に係る同期制御システムの構成図である。図1の実施形態1では、マスタ端子1及び各スレーブ端子2a〜2nは保護継電器であり、マスタ端子1と各スレーブ端子2a〜2nとの間でサンプリング同期制御を行う場合を示している。
【0011】
図1に示すように、マスタ端子1は伝送処理装置11を有し、伝送処理装置11は、伝送インタフェース部11aと、タイミング生成部11bと、送受信処理部11cと、同期制御部11dとから構成される。保護継電器であるマスタ端子1は保護継電器演算データ12を有し、マスタ端子1の送受信処理部11cは、各スレーブ端子2a〜2nと保護継電器演算データ12を相互に情報を転送し合う。すなわち、各スレーブ端子2a〜2nは、マスタ端子1の保護継電器と同一の機能を有し、各スレーブ端子2a〜2nがそれぞれ中継機器3を介して高速ネットワーク4に接続されている。
【0012】
マスタ端子1及びスレーブ端子2a〜2nは、ネットワーク4及び中継機器3を経由して受信するデータパケットを入力とし、保護継電器演算データ12に含まれる電流値や電圧値など電気量に代表される情報や、機器の監視、制御に必要な情報、及び同期制御のために必要な情報を、送受信処理部11cがデータパケット化したものを出力としている。
【0013】
伝送処理装置11の伝送インタフェース部11aは、データパケットをネットワーク4及び中継機器3を経由して送受信し、データパケットを受信したタイミングを取得している。また、送信する前のデータパケットや他の端子から受信したデータパケットを保持する、FIFO(First-in First-out)に代表されるような機構を有している。
【0014】
伝送処理装置11のタイミング生成部11bは、マスタ端子1及びスレーブ端子2a〜2nにおいて、水晶発振器等に代表される内部時計素子を用いて各自の内部タイミング信号を生成し、伝送処理装置11での共通の処理タイミングとして指令している。
【0015】
伝送処理装置11の送受信処理部11cは、保護継電器演算データ12に含まれる電流値や電圧値など電気量に代表される情報や、同期制御のために必要な情報をデータパケット化して伝送インタフェース部に受け渡し、タイミング生成部11bから指令された処理タイミングを元にサンプリングタイミングの制御を行い、伝送インタフェース部11aが受信したデータパケットの内容の解析を行う。当該データパケットには送信元端子情報と送信先端子情報が含まれ、受信側が送信元端子を識別できるようになっている。
【0016】
また、マスタ端子1は、スレーブ端子2a〜2nのいずれか1つの端子に対して同期要求督促パケット送信を行う。スレーブ端子2a〜2nは、受信したパケットを解析し、それが同期要求督促パケットであった場合に、マスタ端子1に対して同期要求パケットを送信する。マスタ端子1が同期要求パケットを受信した後、同期要求督促パケットを送信した先のスレーブ端子2に対して同期応答パケットを送信する。同期応答パケットを受信したスレーブ端子2は同期応答パケットに含まれる情報を同期制御部11dに受け渡し、同期制御部11dの演算結果に基づいて、タイミング生成部11bが生成する内部タイミング信号の幅を増減することにより同期制御を実施する。なお、送受信処理部11cは、一定時間相手側の保護継電器からの応答が無い場合にタイムアウトと判定し、同期制御の一連のシーケンスを再度やり直す処理を有している。
【0017】
同期制御部11dは、スレーブ端子2a〜2nが受信した同期応答パケットを送受信処理部11cが解析した情報を利用して同期誤差を演算し、演算した同期誤差から同期状態の判定を行い、判定結果に基づいて内部タイミング信号の補正幅をタイミング生成部11bに受け渡す。
【0018】
図2は、本発明の実施形態1における同期制御シーケンスの一例を示す説明図である。図2に示す一例では、保護継電器のマスタ端子1、スレーブ端子2a〜2nは共に、サンプリングタイミングがそれぞれのタイミング生成部11bによって指令されている。
【0019】
図2において、黒丸はマスタ端子1及びスレーブ端子2でのサンプリングタイミングである。すなわち、マスタ端子1のサンプリングタイミングは時点tm1、tm2、tm3…、スレーブ端子2のサンプリングタイミングは時点ts1、ts2、ts3…である。
【0020】
まず最初に、マスタ端子1は、あるサンプリングタイミングtm1で同期要求督促パケットを送信する。スレーブ端子2は時点taで同期要求督促パケットを受信し、その後、受信時刻に最も近いサンプリングタイミングts2(黒丸)で同期要求パケットを送信する。そして、ある伝送遅延Tdを経てマスタ端子1は時点tbで同期要求パケットを受信する。
【0021】
このときマスタ端子1において、伝送インタフェース部11aがパケット受信時刻tbとサンプリングタイミングtm2の時間差TMを取得する。また、このとき両端子のサンプリングタイミングの間には、同期誤差ΔTが存在することになる。
【0022】
その後、マスタ端子1のパケット受信時刻tbとサンプリングタイミングtm2との時間差TMとを情報として含んだ同期応答パケットが送受信処理部11cにより生成され、スレーブ端子2に対して送信する。そして、伝送遅延Tdを経てスレーブ端子2は同期応答パケットを受信する。このときのパケット受信時刻tcとサンプリングタイミングts3との時間差はTSである。スレーブ端子2側では、この時間差TSと同期応答パケットに含まれる時間差TMとから同期誤差ΔTを演算する。伝送遅延Tdは、マスタ端子、スレーブ端子間で一定であると仮定すると、Td=ΔT+TMである。また、時間差TSは、TS=Td+ΔTである。以上より同期誤差ΔTは、(1)式で示される。この同期誤差ΔTを用いて、スレーブ端子2a〜2nは同期状態を判定する。
【0023】
ΔT=(TS−TM)/2 …(1)
次に、マスタ端子1が複数のスレーブ端子2a〜2nと同期制御を行う場合のシーケンスについて説明する。図3は、本発明の実施形態1におけるマスタ端子が複数スレーブ端子と同期制御を行う場合の同期制御シーケンスの説明図である。
【0024】
図3の例では、スレーブ端子2a〜2nのそれぞれに1から始まる端子番号が付加されている(端子番号1〜n)。マスタ端子1はスレーブ端子2a〜2nに対して順に同期要求督促パケットを送信し、最初の端子番号1のスレーブ端子2aから最後の端子番号nのスレーブ端子2nへ同期要求督促パケットを送信し、一巡した後はスレーブ端子2aに戻る。
【0025】
図3の例では、図2に示したような同期制御シーケンスが1つのスレーブ端子2に対して完了するまで、次の送信先に対して同期要求督促パケットは送信しない。すなわち、図3の例では、図2に示した同期制御シーケンスをスレーブ端子2の一つずつに対して順次実施することとなる。
【0026】
次に、同期制御シーケンスにおけるマスタ端子1側の動作について説明する。図4は本発明の実施形態1におけるマスタ端子1の同期制御のためのパケット送信処理内容を示すフローチャートである。図4では、同期制御対象のスレーブ端子2の端子番号をmとする(m≦n)。スレーブ端子1は、あるサンプリングタイミングでスレーブ端子mに対して同期要求督促パケットを送信する(S1)。ここで、ネットワーク障害等の原因により、以前にパケット送信対象のスレーブ端子に対する同期制御処理をタイムアウトしている場合が考えられる。図4の例では、タイムアウト回数が3回以上の場合に、パケット送信対象のスレーブ端子2mが生存していないと判断するものとする。すなわち、マスタ端子1は、スレーブ端子2mのタイムアウト回数が3回以上であるか否かを判定し(S2)、タイムアウト回数が3回以上である場合は、同期要求督促パケットの送信対象のスレーブ端子番号を更新する(S3)。
【0027】
タイムアウト回数が3回未満の場合は、次に一定時間内にスレーブ端子2mからの同期要求パケットの受信があるかどうかを判定する(S4)。一定時間内に同期要求パケットの受信が無い場合は、パケット送信対象のスレーブ端子のタイムアウト回数をカウントアップし(S5)、同期要求督促パケットの送信対象のスレーブ端子番号を更新する(S3)。
【0028】
同期要求パケットの受信がある場合には、スレーブ端子2mへ同期応答パケットを送信し(S6)、以前にタイムアウトをしている場合にはパケット送信対象のスレーブ端子のタイムアウト回数をリセットする(S7)。その後、同期要求督促パケットの送信対象のスレーブ端子番号を更新する(S3)。
【0029】
次に、同期制御シーケンスにおけるスレーブ端子側の動作について説明する。図5は本発明の実施形態1におけるスレーブ端子の同期制御のためのパケット送信処理内容を示すフローチャートである。スレーブ端子2a〜2nのそれぞれにおいて、マスタ端子1からの同期要求督促パケットの受信がある否かを判定し(S1)、同期要求督促パケットの受信がある場合には、マスタ端子1へ同期要求パケットを送信する(S2)。同期要求督促パケットの受信が無い場合には、何も行わずに動作を終了する。同期要求パケット送信後、マスタ端子1からの同期応答パケットの受信があるか否かを判定し(S3)、マスタ端子1からの同期応答パケットの受信がある場合には、同期制御部11dによる同期制御を実行する(S4)。同期応答パケットの受信が無い場合には同じく動作を終了する。
【0030】
次に、本発明の実施形態1における同期制御部11dにおける同期制御アルゴリズムについて説明する。図6は本発明の実施形態1における同期制御部11dにおける同期制御アルゴリズムの処理内容を示すフローチャートである。
【0031】
同期制御部11dは、同期誤差ΔTを演算し(S1)、同期誤差ΔTの大きさ|ΔT|が一定の閾値α(微補正実施の閾値)を越えているか否かを判定し(S2)、同期誤差ΔTの大きさ|ΔT|が一定の閾値αを越えていないときは、十分な同期が行えていると判断し補正を行わない(S3)。
【0032】
一方、閾値αを超えている場合には、次に同期誤差ΔTの大きさ|ΔT|が一定の閾値β(高速補正実施の閾値)を超えているかどうか判定を行う(S4)。同期誤差ΔTの大きさ|ΔT|が閾値βを超えていないときは微補正を行い(S5)、補正幅をタイミング生成部11bに送信する(S6)。ステップS4の判定で閾値βを超えている場合には、同期状態の許容範囲を外れているため、高速補正の対象と判断し高速補正を行い(S7)、補正幅をタイミング生成部11bに送信する(S6)。このように、内部タイミング信号の補正幅を決定し、補正幅をタイミング生成部11bに送信する。
【0033】
本発明の実施形態1による同期制御システムによれば、電気量データに代表されるデータパケットを通信系を介して相互に伝送しあう保護継電器において、同期要求督促パケットをマスタ端子1が送信することで同期制御をマスタ端子1の主導とし、マスタ端子1は各スレーブ端子2a〜2nに対して、順次同期要求督促パケットによりポーリングする。
【0034】
これに対し、従来の同期制御システムにおいては、同期制御がスレーブ端子2a〜2nの主導であり、その結果、各スレーブ端子2a〜2nからの同期要求パケットの送出タイミングが同期する。この方法を用い、かつギガビットイーサネット(登録商標)に代表される高速ネットワークを使用する場合、中継機器3において各スレーブ端子2a〜2nからの同期要求パケットの受信が同調し、スイッチングハブに代表される中継機器3でのバッファリングによる送出遅延やマスタ端子1によるパケットの打ち返し遅延が生じ、保護継電器の端子数が増加するに従って同期精度が低下することが懸念されていた。
【0035】
以上のように、本発明の実施形態1による同期制御システムでは、同期要求督促パケットをマスタ端子1が送信することで同期制御をマスタ端子主導とし、各スレーブ端子2a〜2nに対して一つ一つ一連の同期制御シーケンスを実施することにより、マスタ端子1側ではスレーブ端子2a〜2n側からの同期要求パケット受信が1つの同期制御シーケンスにおいてただ1つとなり、中継機器3でのバッファリングによる送出遅延やマスタ端子1によるパケット打ち返し遅延を回避することが可能となり、それにより複数端子との同期制御において、高精度の同期精度を得ることが可能となる。
【0036】
(実施形態2)(請求項2対応)
本発明の実施形態2について説明する。図7は本発明の実施形態2におけるマスタ端子が複数スレーブ端子と同期制御を行う場合の同期制御シーケンスの説明図である。この実施形態2は、図3に示した実施形態1に対し、マスタ端子1に対して、各スレーブ端子2a〜2nはネットワークに接続していることを伝えるための生存通知パケットを長周期で送信するようにしたものである。実施形態2では、マスタ端子1と各スレーブ端子2a〜2nとの間でサンプリング同期制御を実施する場合において、各スレーブ端子2a〜2nの電源を投入した直後の処理を例に説明する。
【0037】
図7に示すように、実施形態2においては図3の構成に加えて、各スレーブ端子2a〜2nは、長周期に高速ネットワーク4に中継機器3を介して接続していることを通知するための生存通知パケットを送信している。各スレーブ端子2a〜2nの送受信処理部11cは、電源投入直後から長周期で生存通知パケットをマスタ端子1に送信する。生存通知パケットには、送信元のスレーブ端子番号が情報として含まれており、送信先端子が送信元を識別できるようになっている。生存通知パケットを受信したマスタ端子1は、生存通知を送信したスレーブ端子2に対してのみ同期要求督促パケットを送信する。
【0038】
図7の一例では、スレーブ端子2aから生存通知パケットを受信してからしばらくの期間、スレーブ端子2aに対してのみ同期制御シーケンスを実施し続けている。その後、スレーブ端子2nから生存通知を受信し、以後スレーブ端子2nに対しても同期制御シーケンスを実施している。それ以降も、生存通知を送信したスレーブ端子2に対してのみ同期制御シーケンスを順次実施する。
【0039】
以上のように、本発明の実施形態2による同期制御システムでは、スレーブ端子2が長周期でマスタ端子1に対して、ネットワークに接続していることを通知するための生存通知パケットを送信し、生存通知パケットを受信したマスタ端子1は生存通知を送信した各スレーブ端子2に対してのみ同期制御シーケンスを順次実施する。それにより、マスタ端子1はネットワークに接続していない、あるいは電源がオンしていないスレーブ端子2に対して同期要求督促パケットを送信する処理が必要なく、結果的に同期制御シーケンスを最小限に抑えることが可能である。
【0040】
以上により、実施形態1にて述べたマスタ端子1の主導の同期制御に加えて、生存が確認できているスレーブ端子2に対してのみ同期制御を行うことができ、それにより各端子同士でやり取りするパケットを最小限に留め、同期制御の効率を向上することが可能となる。
【0041】
(実施形態3)(請求項3対応)
次に、本発明の実施形態3について説明する。図8は、本発明に係る実施形態3に係る同期制御システムの構成図である。この実施形態3は、伝送処理装置11に対し、スレーブ端子1の情報及び同期制御の状況を管理するためのテーブルを格納した端子情報管理部11eを追加して設けたものである。図1に示した実施形態1と同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0042】
図8に示すように、実施形態3においては、伝送処理装置11に端子情報管理部11eが追加して設けられている。端子情報管理部11eは、送受信処理部11cが解析した受信パケットの情報を元に各スレーブ端子2a〜2nの情報を保存されている。送受信処理部11cは、送受信処理部11cが同期制御のためのパケットを生成する際に、端子情報管理部11eからスレーブ端子2a〜2nの情報を呼び出すことになる。
【0043】
図9は、端子情報管理部11eに格納されるスレーブ端子1の情報及び同期制御の状況を管理するためのテーブルの説明図である。図9に示すように、端子情報管理部11eは、情報のキー値となるスレーブ端子番号カラム11e−a、各スレーブ端子の生存状況カラム11e−b、現在同期制御シーケンス実施中のスレーブ端子を示す同期制御中カラム11e−c、同期制御シーケンス実施中のスレーブ端子に対して同期応答パケット送信が可能な状態か否かを示す同期応答可否カラム11e−d、タイムアウト回数カラム11e−e、及び各スレーブ端子のアドレスを管理するアドレスカラム11e−fから構成されるテーブルを格納している。
【0044】
図9において、アドレスカラム11e−fに保存される形式は、MAC(Media Access Control)アドレスである。テーブルの最大行数は最大端子番号のnであり、生存状況カラム11e−b、同期制御中カラム11e−c、及び同期応答可否カラム11e−dの初期状態は全て「No」である。タイムアウト回数カラム11e−eの初期状態は全て「0」である。アドレスカラム11e−fの初期状態として、全て空白文字が格納されている。
【0045】
図9の一例では、送受信処理部11cが解析した受信データパケットがスレーブ端子2からの生存通知パケットであった場合、生存状況カラム11e−bにおいて端子番号2に対応するセルの内容を「No」から「Yes」に変更し、スレーブ端子2の生存状況を記憶している。また、端子番号1、n−1、nからも同様に生存通知パケットを受信し、各端子番号に対応するセルの内容を「No」から「Yes」に変更している。
【0046】
図9の一例では、同期要求督促パケットを送信し、同期制御中であるスレーブ端子はスレーブ端子2であり、この状態を記憶するために、同期制御中カラム11e−cの該当セルを「Yes」としている。また、図9の一例では、マスタ端子1がスレーブ端子2から同期要求パケットを受信した直後の状態であり、マスタ端子1はスレーブ端子2に対して同期応答パケット送信可能な状態である。この状態を記憶するために、同期応答可否カラム11e−dの該当セルを「Yes」としている。なお、マスタ端子1がスレーブ端子2に対して同期応答パケット送信後は、スレーブ端子2に対する同期制御シーケンス実施完了の状態であるので、同期制御中カラム11e−c及び同期応答可否カラム11e−dの該当セルを「Yes」から「No」に戻すこととなる。
【0047】
図9の一例では、累積してスレーブ端子1からは2回、スレーブ端子n−1からは1回、一定時間に同期要求パケットの受信が無い状態である。送受信処理部11cは図4の処理手順に基づきタイムアウト回数をカウントアップし、端子情報管理部11eに各スレーブ端子のタイムアウトカウント値を渡し、タイムアウト回数カラム11e−fの端子番号1の該当セルに「2」を、端子番号n−1の該当セルに「1」をそれぞれ記憶している。
【0048】
マスタ端子1が生存通知パケットを受信する際に、送受信処理部11cは、同パケットを解析し送信元スレーブ端子2のアドレスを得る。図9の例では、スレーブ端子2a(端子番号1)のアドレスは「11:22:33:44:55:66」、スレーブ端子2b(端子番号2)のアドレスは「11:22:33:44:56:78」、スレーブ端子n−1のアドレスは「11:22:33:44:cd:01」、スレーブ端子nのアドレスは「11:22:33:44:cd:ef」であり、送受信処理部11cは生存通知パケット解析後、これらアドレスを端子情報管理部11eに渡し、アドレスカラム11e−fの該当セルに記憶している。
【0049】
なお、図9の一例ではスレーブ端子2c(端子番号3)がネットワークに接続していないため、各カラムの端子番号3に対応するセルは初期状態のままとなっている。また、相手スレーブ端子が生存していないと判断した場合には、各カラムの端子番号に対応するセルを初期状態にリセットする。
【0050】
以上のように、本発明の実施形態3による同期制御システムでは、スレーブ端子2の生存状況及び同期制御状況、及びアドレスを管理・記憶し、送受信処理部11cが同期制御のための各パケットを生成する際に、これら情報を利用するためにアクセスすることができる。それにより、送受信処理部11cはスレーブ端子番号をキー値に、複数あるスレーブ端子のメンバ情報を一元管理することが可能となる。
【0051】
(実施形態4)(請求項4対応)
次に、本発明の実施形態4について説明する。図10は本発明の実施形態4における伝送インタフェース部11aの説明図である。この実施形態4は、図1に示した実施形態1に対し、伝送インタフェース部11aは、同期制御演算のための受信タイミング取得のためのレジスタを有し、レジスタのアドレスは各々のスレーブ端子2a〜2nの共通のアドレスとし、データパケット受信タイミング回路を1つでまかなうようにしたものである。実施形態4では、マスタ端子1がスレーブ端子2a〜2nから同期要求パケットを受信した場合を例にとり説明する。
【0052】
実施形態4では、伝送インタフェース部11aにおいて受信タイミング取得のためのレジスタを全スレーブ端子2a〜2nの共通のアドレスとする。
【0053】
図10の一例においては、マスタ端子1及びスレーブ端子2a〜2nに内蔵されているレジスタに、受信タイミング取得専用のアドレスが3つ(0100、0104、0108)割り当てられており、各端子がデータパケットを受信した際には、各端子の伝送インタフェース部11aに内蔵されているデータパケット受信タイミング回路を用いて当該レジスタに書き込みを行い、送受信処理部11cは当該レジスタから受信タイミングを読み込む。
【0054】
ここで、マスタ端子2が各スレーブ端子2a〜2nからのデータパケットを受信した場合に、スレーブ端子番号毎に受信タイミング取得レジスタを分けることも可能であるが、スレーブ端子数が4端子以上の場合にはレジスタが足りないし、与えられている3つ全て使用する場合には、端子番号に応じてどのレジスタを使用するか振り分けるような、非効率な処理を必要とする。
【0055】
そこで、図10の一例においては、アドレス0100に位置する受信タイミング1のレジスタのみに使用を統一し、その他2つのアドレスを不使用とし、伝送インタフェース部11aは共通のアドレスを用いて受信タイミングを取得している。
【0056】
以上のように、本発明の実施形態4による同期制御システムでは、データパケットの受信タイミング取得のためのレジスタを全スレーブ端子共通のアドレスとすることにより、データパケット受信タイミング回路の使用を1つのみでまかなうことが可能となり、与えられたハードウェアを拡張することなく同期制御システムが実現可能となる。また、複数端子の端子番号に応じてレジスタの使用を振り分けるような非効率な処理を避けることが可能となる。
【0057】
(実施形態5)(請求項5対応)
本発明の実施形態5について説明する。この実施形態5は、図1に示した実施形態1に対し、送受信処理部11cは、ネットワーク4に接続しているスレーブ端子2a〜2nの数が一定の閾値を超えた場合に、同期要求督促パケットに同期要求を督促するスレーブ端子番号を情報として付加し、同期要求督促パケットをマルチキャスト送信するようにしたものである。実施形態5では、ネットワーク4に接続しているスレーブ端子数が一定の閾値を超えた場合、マスタ端子1と各スレーブ端子2a〜2nとの間でのサンプリング同期制御を例にとり説明する。
【0058】
図3に示した実施形態1では、同期要求督促パケットをユニキャストで送信している。一方、この実施形態5においては、ネットワーク4に中継機器3を介して接続しているスレーブ端子2a〜2nの数nが一定の閾値xを超えた場合に、送受信処理部11cが送信先アドレスをユニキャストアドレスからマルチキャストアドレスに切り替える。また、督促先端子番号を複数指定することにより、複数スレーブ端子2a〜2nに対して同時に同期制御を行う。そして、この状態から電源停止等の理由によりネットワーク4からいくつかのスレーブ端子2の接続が切断し、スレーブ端子数が閾値x以下となった場合は、再び送信先アドレスをユニキャストアドレスに戻す。スレーブ端子数は、端子情報管理部11eの生存状況カラム11e−bの内容を読み込み、内容が「Yes」であるセル数をカウントすることにより求まる。
【0059】
図11は、実施形態5において各端子間で送受信しあうデータパケットの説明図である。図11に示すように、データパケットは、最上位ビットから順に、送信先アドレス、送信元アドレス、上位プロトコル種別を示すタイプ、サンプリングタイミングを表す数値であるサンプリングアドレス、送信データ部、及びフレームチェックシーケンスコードから構成される。
【0060】
データパケットの送信データには、電気量や端子番号、何のデータパケットかを識別するためのパケット種別といった情報を含む。また、パケット種別が同期要求督促パケットでかつ送信先アドレスがマルチキャストアドレスである場合には、督促先端子番号も送信データに含める。
【0061】
図12は、本発明の実施形態5で同期要求督促パケットをマルチキャスト送信する場合の同期制御シーケンスの説明図である。図12中のMはマスタ端子、S1〜Snはスレーブ端子である。図12に示すように、実施形態5においては、図3に示した同期シーケンスに加えて、スレーブ端子の数nが一定の閾値xを超えた場合に、同期要求督促パケットをマルチキャストで送信し、同期要求督促パケットを受信した各スレーブ端子S1〜Snがパケットの内容を解析し、自端子が同期要求督促の対象であった場合に同期要求パケットを送信している。
【0062】
図12の一例では、同期要求督促先端子番号は、同期要求督促パケット送信1回目は1〜4、m回目はn−1〜nと1〜2、m+1回目は3〜6というふうに、4端子ずつ順次指定している。図12より、同期要求督促パケットの送信1回目にはスレーブ端子S1〜4が、送信m回目にはスレーブ端子Sn−1、Sn、S1、S2が同期要求パケットを送信している。
【0063】
ここで、各スレーブ端子S1〜Snの送受信処理部11cは、図11に示したサンプリングアドレスの値を基準に、それぞれ異なるタイミングで同期要求パケットを送信するよう制御している。例えば、サンプリングアドレスをある定数で割った余りが自身の端子番号に一致する場合に送信するよう制御する。それぞれの同期要求パケットを受信したマスタ端子Mは、各サンプリングタイミングに1つずつ、順に同期応答パケットを送信している。
【0064】
次に、図13は、本発明の実施形態5で同期要求督促パケットをマルチキャスト送信する場合の端子情報管理部のテーブルの説明図である。図13の一例では、同期要求督促先スレーブ端子番号を1〜4に指定して同期要求督促パケットをマルチキャストで送信し、その後スレーブ端子1〜3から同期要求パケットを受信し、スレーブ端子S1に対する同期制御シーケンスを実施完了した直後の端子情報管理部11eの状態を表している。
【0065】
同期要求督促パケットを送信した直後は、同期制御中カラム11e−cの端子番号2〜4に対応するセルの内容が「Yes」となる。その次にスレーブ端子S1〜S3から順次同期要求パケットを受信し、同期応答可否カラム11e−dの端子番号2、3に対応するセルの内容が「Yes」となる。その後、スレーブ端子S1に対して同期応答パケットを送信したと同時に、送受信処理部11cがスレーブ端子S1に対する同期制御シーケンスを実施完了したと判断し、同期制御中カラム11e−c及び同期応答可否カラム11e−dの端子番号1に対応するセルの内容を「Yes」から「No」に戻している。スレーブ端子S4に関しては、この時点で同期要求パケットをマスタ端子Mが受信していないため、同期応答可否カラム11e−dの端子番号4に対応するセルの内容は「No」となっている。
【0066】
以上のように、本発明の実施形態5による同期制御システムでは、ネットワーク4に接続しているスレーブ端子数が一定の閾値を超えた場合に同期要求督促パケットの送信先をマルチキャストアドレスに切り替え、同期要求督促パケットの送信データに同期要求督促先端子番号を付加して送信する。各スレーブ端子S1〜Snが同期要求督促パケットを受信した後、送受信処理部11cはマスタ端子M側で同期要求パケットが同調しないよう、それぞれ異なるタイミングで同期要求パケットを送信するよう制御する。それにより、複数スレーブ端子に対して同時に同期制御シーケンスを実施することが可能となる。
【0067】
以上により、マスタ端子Mが複数スレーブ端子と、同期要求パケット受信が同調しないよう同時に同期制御を行うことにより、多数のスレーブ端子との同期制御でも短い間隔で同期制御シーケンスを実施でき、高精度のサンプリング同期が可能となる。
【0068】
(実施形態6)(請求項6対応)
本発明の実施形態6について説明する。この実施形態6は、実施形態5に対し、送受信処理部11cは、ネットワーク4に接続されるスレーブ端子2の数が一定の閾値を下回った場合には、スレーブ端子2がマスタ端子1からの同期要求督促パケットの受信を待たずに同期要求パケットを送信するための督促解除指令パケットをマルチキャスト送信し、ネットワーク4に接続されるスレーブ端子2の数が一定の閾値に達した場合には、スレーブ端子が2マスタ端子1からの同期要求督促パケットの受信を待って同期要求パケットを送信するための督促開始指令パケットを送信するようにしたものである。
【0069】
実施形態6では、ネットワーク4に接続しているスレーブ端子2のうち、いくつかの端子が機器メンテナンス等のためにネットワーク4との接続が切断されたか、あるいは電源を切断したなどの理由により、スレーブ端子数が一定の閾値yを下回った場合、また、いくつかのスレーブ端子2をネットワーク4に接続し、スレーブ端子数が閾値yに達した場合、マスタ端子1と各スレーブ端子2との間でのサンプリング同期制御を一例にとり説明する。
【0070】
図14は、本発明の実施形態6でマスタ端子が督促解除指令パケットを送信する場合の同期制御シーケンスの一例の説明図である。図14中のMはマスタ端子、S1〜Snはスレーブ端子、督促は同期要求督促パケット、要求は同期要求パケット、応答は同期応答パケット、督促解除指令は督促解除指令パケットである。
【0071】
図14の一例では、マスタ端子Mが4つのスレーブ端子S1〜S4と同期制御を実施しており、このときの閾値の設定はy=4である。ここで、スレーブ端子S1、スレーブ端子S2に対して同期制御シーケンス実施を完了し、次にスレーブ端子3に対して同期要求督促パケットを送信しようとしている。
【0072】
図14の一例では、スレーブ端子S3が機器メンテナンス等のためにネットワーク4から接続が切断されたために、スレーブ端子S3からの同期要求パケット受信が一定時間無いため、同期要求督促パケット送信に失敗している。その後、スレーブ端子S3へ同期要求督促パケット再送を実施したが、以降計3回、同期要求督促パケット送信に失敗している。以上より、タイムアウト回数が3回以上であるため、図4の処理によりスレーブ端子S3は生存していないと判断し、端子情報管理部11eの端子番号3に対応する各カラムの内容を初期状態にリセットする。
【0073】
この結果、ネットワーク4に接続しているスレーブ端子数が3となり、閾値y=4を下回っている。マスタ端子Mの送受信処理部11cは端子情報管理部11eの内容を読み取りこれを判断し、督促解除指令パケットをマルチキャスト送信する。督促解除指令パケットは、各スレーブ端子S1〜S4の送受信処理部11cがマスタ端子Mからの同期要求督促パケット受信を待たずに、各々の送信タイミングで同期要求パケットを送信するよう指令を与えるパケットである。
【0074】
督促解除指令パケットを受信した各スレーブ端子S1、S2、S4の送受信処理部11cは、同期要求督促パケット受信を待たずに、またマスタ端子M側で同期要求パケットの受信が同調しないよう、各端子が異なるサンプリングタイミングで同期要求パケットを送信するよう処理を切り替える。
【0075】
送信タイミングの制御方法の一例としては、実施形態5と同様に、サンプリングアドレスをある定数で割った余りが自身の端子番号に一致する場合に送信するよう制御する。これにより、各スレーブ端子S1、S2、S4は督促解除指令パケット受信後から各々のサンプリングタイミングで同期要求パケットを送信することとなる。
【0076】
図15は、本発明の実施形態6でマスタ端子が督促解除指令パケットを送信する場合の同期制御シーケンスの他の一例の説明図である。図15中のMはマスタ端子、S1〜Snはスレーブ端子、督促は同期要求督促パケット、要求は同期要求パケット、応答は同期応答パケット、生存は生存通知パケット、督促解除指令は督促解除指令パケットである。
【0077】
図15の一例では、4つのスレーブ端子S1〜S4のうちスレーブ端子S3がネットワーク4から接続が切断している状態で、他の3つのスレーブ端子S1、S2、S4が各々の送信タイミングで同期要求パケットを送信している。そして、しばらく時間が経過した後、機器メンテナンス完了等を理由にスレーブ端子S3がネットワーク4に接続され、スレーブ端子S3がマスタ端子Mに対して生存通知パケットを送信している。
【0078】
生存通知パケットを受信したマスタ端子Mは、この結果、マスタ端子Mの送受信処理部11cはスレーブ端子数が閾値y=4に達したと判断し、各スレーブ端子S1〜S4がマスタ端子Mからの同期要求督促パケット受信を待って同期要求パケットを送信するよう指令を与えることを目的とした督促開始指令パケットを各スレーブ端子S1〜S4にマルチキャスト送信している。督促開始指令パケットを受信した各スレーブ端子S1〜S4は、マスタ端子Mからの同期要求督促パケット受信を待って同期要求パケットを送信するよう処理を切り替える。以降は、図3と同様の同期シーケンスを各スレーブ端子S1〜S4に対して順次実施している。
【0079】
次に、本発明の実施形態6でスレーブ端子数が変動する場合の同期制御システムの遷移について説明する。図16は本発明の実施形態6における同期制御システムの遷移の説明図である。
【0080】
図16の一例では、初期状態として各スレーブ端子がマスタ端子からの同期要求督促パケットを待たずに同期要求パケットを送信している。スレーブ端子を一つ一つネットワーク4に接続してゆき、経過時間t1にスレーブ端子数がyに達し、マスタ端子は各スレーブ端子に督促開始指令パケットを送信し、各端子は、図3に示した同期制御シーケンスを実施するよう処理を切り替えている。
【0081】
その後もネットワーク4に接続するスレーブ端子数が増えてゆき、経過時間t2でスレーブ端子数がxを超え、この段階でマスタ端子は同期要求督促パケットをマルチキャスト送信に変更し、複数のスレーブ端子と同期制御シーケンスを実施している。しばらく時間経過後、ネットワーク障害等の理由により不特定多数のスレーブ端子がネットワーク4から接続が切断され、スレーブ端子数が徐々に減少している。経過時間t3にスレーブ端子数がxまで減少し、この段階でマスタ端子は同期要求督促パケットをマルチキャスト送信からユニキャスト送信に変更している。
【0082】
その後もネットワーク4に接続しているスレーブ端子数の減少は続き、経過時間t4でスレーブ端子数がyを下回っている。この段階で、マスタ端子は督促解除指令パケットを送信し、各スレーブ端子に対し、マスタ端子からの同期要求督促パケットを待たずに同期要求パケットを送信するよう指示を与えている。その後、ネットワーク障害の復旧等の理由によりネットワーク4から接続が切断していた複数のスレーブ端子が次々にネットワーク4に接続している。そして、経過時間t5でスレーブ端子数がyに達し、マスタ端子は各スレーブ端子に督促開始指令パケットを送信している。以降、スレーブ端子数によって同様の同期制御システムの遷移が行われる。
【0083】
以上のように、本発明の実施形態6による同期制御システムでは、ネットワーク4に接続しているスレーブ端子数が一定の閾値を下回った場合に、スレーブ端子に対して同期要求督促パケット受信を待たずに個々の送信タイミングで同期要求パケットを送信するよう指令を与えるため、督促解除指令パケットを各スレーブ端子にマルチキャスト送信する。それにより、一定数未満のスレーブ端子がネットワークに接続している場合に、他のスレーブ端子で一連の同期制御シーケンスが完了するのを待つことなく同期制御実施が可能となる。
【0084】
また、スレーブ端子数が閾値に達した場合には、逆に、スレーブ端子に対して同期要求督促パケット受信を待って同期要求パケットを送信するよう指令を与えるため、督促開始指令パケットを各スレーブにマルチキャスト送信する。以上により、スレーブ端子数に応じて最適な同期制御処理を実施することができ、端子数によらず高精度のサンプリング同期制御が可能となる。
【0085】
(実施形態7)(請求項7対応)
本発明の実施形態7について説明する。この実施形態7は実施形態2に対し、スレーブ端子の伝送処理装置に端子情報管理部11eを設け、マスタ端子の伝送処理装置はスレーブ端子の伝送処理装置と同様に生存通知パケットをマルチキャスト送信し、マスタ端子の伝送処理装置からの生存通知パケットの受信が一定時間無い場合には端子番号の最も若いスレーブ端子を代理マスタとし、代理マスタは、他のスレーブ端子に対して同期要求督促パケットを送信し、代理マスタが端子情報管理部を用いて他のスレーブ端子の情報及び同期制御の状況を管理するようにしたものである。
【0086】
実施形態7では、マスタ端子が機器メンテナンスやネットワーク障害等の理由によりネットワークからマスタ端子の接続が切断された場合、また、その接続が復旧した場合のスレーブ端子側で実施する処理と情報管理とを一例にとり説明する。
【0087】
実施形態7においては、マスタ端子1だけでなく、マスタ端子1からのデータパケット送信が無くなった場合に、あるスレーブ端子2が代理マスタ端子となって他のスレーブ端子2の情報を管理することができるように、各々のスレーブ端子2a〜2nも端子情報管理部11eを備えている。また、マスタ端子1のネットワーク接続が復旧した場合に、マスタ端子1と各スレーブ端子2a〜2nとの間には同期誤差ΔTが発生するため、代理マスタ端子はマスタ端子1に対して同期制御シーケンスを実施する。そのため、各スレーブ端子2a〜2nはマスタ端子1の情報も管理する。
【0088】
図17は、本発明の実施形態7で同期要求督促パケットをマルチキャスト送信する場合の端子情報管理部のテーブルの説明図である。図17の一例では、端子情報管理部11eのテーブルはマスタ端子の端子番号を「0」として、各カラムにマスタ端子1に対応するセルを有している。また、このときはマスタ端子1がネットワーク4に接続している状態であり、生存状況は「Yes」となっている。
【0089】
実施形態7において、全ての端子が互いの生存状況を把握することができるように、マスタ端子1もスレーブ端子2a〜2nと同様に生存通知パケットを送信し、かつ生存通知パケットをマルチキャスト送信している。
【0090】
図18は、本発明の実施形態7でマスタ端子がネットワークから切り離された場合の同期制御シーケンスの説明図である。図18中のMはマスタ端子、S1〜Snはスレーブ端子、督促は同期要求督促パケット、要求は同期要求パケット、応答は同期応答パケット、生存は生存通知パケットである。
【0091】
図18に示すように、マスタ端子Mは各スレーブ端子S1〜Snに生存通知パケットをマルチキャスト送信している。各スレーブ端子S1〜Snにおいても同様であり、スレーブ端子S1〜Sn側も、端子情報管理部11eを用いて各端子の生存状況を管理している。しばらく時間経過後、機器の不調あるいはネットワーク4の障害等によりマスタ端子Mがネットワーク4から接続が切断したために、生存通知パケットの送信に失敗している。
【0092】
その後、送信失敗が続き、m回目の失敗の後で各スレーブ端子S1〜Snの送受信処理部11cは、内蔵されているタイマカウンタ等を用いて一定時間マスタ端子Mからの生存通知パケット受信が無くマスタ端子が生存していないと判断し、端子情報管理部11eのマスタ端子Mに対応する全セルの情報を初期状態にリセットしている。
【0093】
各スレーブ端子S1〜Snの送受信処理部11cは、生存しているスレーブ端子S1〜Snの中で自端子が最も若い端子番号であるかどうか端子情報管理部11eの情報を読み取り判断し、最も若い端子番号であると判断したスレーブ端子S1が代理マスタ端子として処理を切り替え、残りの各スレーブ端子に対し順次同期要求督促パケットを送信している。
【0094】
図18の一例では、スレーブ端子S1が代理マスタ端子である。この時点から、代理マスタ端子であるスレーブ端子S1は、端子情報管理部11eを用いて、各スレーブ端子S1〜Snの生存状況、同期制御中のスレーブ端子、同期応答の可否、タイムアウト回数、及びアドレスを管理する。以降、代理マスタ端子もネットワーク4との接続が切断され、代理マスタ端子が生存していないと残りの他のスレーブ端子が判断した場合、同様にその次に若い端子番号のスレーブ端子が代理マスタ端子として機能する。
【0095】
図19は、本発明の実施形態7でネットワークから切り離されたマスタ端子がネットワークに再接続した場合の同期制御シーケンスの説明図である。図19中のMはマスタ端子、S1〜Snはスレーブ端子、督促は同期要求督促パケット、要求は同期要求パケット、応答は同期応答パケット、生存は生存通知パケット、督促解除指令は督促解除指令パケットである。
【0096】
図19に示すように、引き続きスレーブ端子S1が代理マスタ端子として機能し、他の各スレーブ端子S2〜Snに対して同期制御シーケンスを実施している。しばらく時間が経過した後、本来のマスタ端子Mからの生存通知を各スレーブ端子S1〜Snが受信し、本来のマスタ端子Mがネットワーク4に接続したことを確認し、送受信処理部11cは、図17に示すように、端子情報管理部11eの生存状況カラム11e−bのマスタ端子(端子番号0)に対応するセルの内容を「Yes」に設定している。
【0097】
ここで、代理マスタ端子であるスレーブ端子S1は、スレーブ端子としての処理に切り替える前に、本来のマスタ端子Mとの同期誤差ΔTを無くす必要がある。そのため、マスタ端子Mに同期制御を促すための督促開始指令パケットをユニキャストで送信している。督促開始指令パケットを受信したマスタ端子の送受信処理部11cは、一旦スレーブ端子としての処理に切り替える。その後、代理マスタ端子であるスレーブ端子S1はマスタ端子Mに対して同期要求督促パケットを送信し、以後しばらくの間、他のスレーブ端子と同様に同期制御シーケンスを実施している。
【0098】
そして、マスタ端子Mの同期誤差ΔTの大きさが図6の処理により「補正なし」と判定されたときに、マスタ端子Mは代理マスタ端子であるスレーブ端子S1に、サンプリング同期が完了したことを通知するための同期完了通知パケットを送信し、その直後、マスタ端子Mの送受信処理部11cは、マスタ端子Mとしての処理に切り替えている。同期完了通知パケットを受信したスレーブ端子S1の送受信処理部11cは、元々のスレーブ端子としての処理に切り替え、マスタ端子Mからの同期要求督促パケット受信を待って同期要求パケットを送信するようにしている。それ以降は、実施形態1、2と同様に、本来のマスタ端子Mが各スレーブ端子S1〜Snに順次同期制御シーケンスを実施する。
【0099】
以上のように、本発明の実施形態7による同期制御システムでは、何らかの不調あるいは機器メンテナンスによりマスタ端子Mがネットワーク4から切り離された場合に、他のスレーブ端子が代理マスタ端子として機能できるように、全ての端子が生存通知パケットを送信し、かつその生存通知パケットをマルチキャスト送信とし、さらにマスタ端子Mだけでなく各スレーブ端子S1〜Snも各端子の情報を管理するようにしている。
【0100】
代理マスタ端子の決定基準は、最も若い端子番号のスレーブ端子である。また、各スレーブ端子はマスタ端子から生存通知パケットの受信が無い状態の継続期間を内蔵のタイマカウンタ等を用いて計測し、生存状況を判断する。代理マスタ端子となるスレーブ端子は、他の各スレーブ端子に同期要求督促パケットを順次送信する。また、本来のマスタ端子から生存通知パケットを受信した場合には、代理マスタ端子であるスレーブ端子がマスタ端子に対して同期制御シーケンスを実施し、マスタ端子との同期誤差が無くなったことを確認した上で、代理マスタ端子であるスレーブ端子は元々のスレーブ端子としての処理に切り替える。
【0101】
以上により、マスタ端子あるいは代理マスタ端子はネットワーク接続が切断しても、同期状態を崩すことなく安定して同期制御を実施することが可能となる。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
1…マスタ端子、11…伝送処理装置、11a…伝送インタフェース部、11b…タイミング生成部、11c…送受信処理部、11d…同期制御部、11e…端子情報管理部、11e−a…端子番号カラム、11e−b…生存状況カラム、11e−c…同期制御中カラム、11e−d…同期応答可否カラム、11e−e…タイムアウト回数カラム、11e−f…アドレスカラム、12…保護継電器演算データ、2a〜2n…スレーブ端子、3…中継装置、4…高速ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークに接続されたマスタ端子と複数のスレーブ端子にそれぞれ伝送処理装置を設け、マスタ端子と複数のスレーブ端子との間の同期を実現する同期制御システムにおいて、前記マスタ端子の伝送処理装置は、送受信するデータパケットを保持するとともに同期制御のためのパケットを受信したとき同期制御演算のための受信タイミングを取得する伝送インタフェース部と、一定の内部タイミングを生成するタイミング生成部と、特定のスレーブ端子に対して同期要求督促パケットの送信を行い同期要求督促パケットを受信したスレーブ端子から同期要求パケットを受信したときは同期応答パケットを送信する送受信処理部と、データパケットを受信した時刻と受信したデータパケットに付加されている時刻情報とから同期誤差を演算して同期状況の判定を行うとともに同期状況に応じて補正量を調節し前記タイミング生成部に内部タイミング補正の指令を送信する同期制御部とを備えたことを特徴とする同期制御システム。
【請求項2】
前記スレーブ端子の伝送処理装置は、前記マスタ端子の伝送処理装置に対して、ネットワークに接続していることを伝えるための生存通知パケットを長周期で送信する機能を備えたことを特徴とする請求項1記載の同期制御システム。
【請求項3】
前記伝送処理装置は、前記スレーブ端子の情報及び同期制御の状況を管理するためのテーブルを格納した端子情報管理部を備えたことを特徴とする請求項1記載の同期制御システム。
【請求項4】
前記伝送インタフェース部は、同期制御演算のための受信タイミング取得のためのレジスタを有し、前記レジスタのアドレスは各々のスレーブ端子の共通のアドレスとし、データパケット受信タイミング回路を1つでまかなうことを特徴とする請求項1記載の同期制御システム。
【請求項5】
前記送受信処理部は、ネットワークに接続しているスレーブ端子の数が一定の閾値を超えた場合に、同期要求督促パケットに同期要求を督促するスレーブ端子番号を情報として付加し、同期要求督促パケットをマルチキャスト送信することを特徴とする請求項1記載の同期制御システム。
【請求項6】
前記送受信処理部は、前記ネットワークに接続されるスレーブ端子の数が一定の閾値を下回った場合には、スレーブ端子がマスタ端子からの同期要求督促パケットの受信を待たずに同期要求パケットを送信するための督促解除指令パケットをマルチキャスト送信し、前記ネットワークに接続されるスレーブ端子の数が一定の閾値に達した場合には、スレーブ端子がマスタ端子からの同期要求督促パケットの受信を待って同期要求パケットを送信するための督促開始指令パケットを送信することを特徴とする請求項5記載の同期制御システム。
【請求項7】
前記スレーブ端子の伝送処理装置は請求項3の端子情報管理部を有するとともに、マスタ端子の伝送処理装置はスレーブ端子の伝送処理装置と同様に生存通知パケットをマルチキャスト送信し、マスタ端子の伝送処理装置からの生存通知パケットの受信が一定時間無い場合には端子番号の最も若いスレーブ端子が代理マスタとなり、代理マスタは、他のスレーブ端子に対して同期要求督促パケットを送信し、代理マスタが前記端子情報管理部を用いてスレーブ端子の情報及び同期制御の状況を管理することを特徴とした請求項2記載の同期制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−227688(P2012−227688A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92861(P2011−92861)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】