説明

同軸ケーブル素線及び同軸ケーブル並びに多心同軸ケーブル

【課題】同軸ケーブルの中心導体に銅箔糸を用いることにより、屈曲・捻回に対する性能確保と耐久性を備えた同軸ケーブル並びに多心同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】単心線又は撚り線からなる中心導体2a,2bの外周を絶縁体3で覆い、この絶縁体の外周に外部導体4a,4bが配された同軸ケーブル素線1a,1bで、中心導体2を銅箔糸6で形成する。銅箔糸6の中心糸として、アラミド繊維のような耐熱性のある高抗張力繊維を用いる。同軸ケーブルは、上記の同軸ケーブル素線を絶縁材からなる外被で覆って構成される。さらに、複数本の同軸ケーブル素線を共通外被で覆って多心同軸ケーブルとし、又は、複数本の同軸ケーブルを共通外被で覆って多心同軸ケーブルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲部や捻回部分での信号伝送等に用いられる同軸ケーブルに関し、そのための同軸ケーブル素線及び同軸ケーブル並びに多心同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話、小型ビデオカメラ等の普及で、これら情報通信機器の小型・軽量化に加えて、データの高速伝送、高密度化が求められている。そして、これらの通信機器においては、通常、液晶表示部は折りたたみ可能な構造とされていて、このため、機器本体部と表示部との間の電気接続は、回動又は捻回を伴う配線構造とされている。また、一般に、信号線から放射される電磁波によって、回路間に電磁干渉(EMI)が生じるのを抑制することが必要とされている。
【0003】
これに対応するために、機器内の回路実装や配線に折り曲げ可能なフレキシブル基板(FPC)が用いられている。しかし、従来の折りたたみ式に加えて、最近では開閉+捻回タイプの機器が登場し、総じてFPCの配線長が長くなり、グランド電位を最小化するのが困難となっている。FPCを用いた回路配線では、一般に低抵抗のグランド導体の確保とEMI対策として、FPCの一方の面側のほぼ全面をグランド導体層とするベタグランド構造のものが知られているが、回動曲げ部分での屈曲性が悪く割れが生じ断線することがある。
【0004】
このため、回動部のグランド導体部分にスリットを入れたり、信号導体とグランド導体を千鳥状に交互に配列して、グランド導体面績を削減して屈曲性を確保することが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、屈曲性を改善するため、ベタグランド導体を削減したりすると、グランド導体の抵抗値が増加してグランド電位が上がり、また、信号のインピーダンス不整合やEMI特性が悪化する等の問題があり、FPCを用いた配線方式では満足できる有効な解決手段が得られていない。
【0005】
上記のFPCを用いた回動部分の配線に対し、ロボット等の繰返し屈曲が加えられる部分に耐屈曲性シールドケーブルを用いることも知られている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に開示の耐屈曲性シールドケーブルは、シールド層を有する対電線を複数本撚ったケーブル芯の外周を押え巻きし、その外周にシールド層を設け、最外層を外被で覆って構成されている。そして、対電線のシールド層、ケーブル芯のシールド層のいずれも、銅箔糸を用いて横巻又は編組構造で形成することができるとされている。しかし、耐屈曲性シールドケーブルとして開示されているのみで、その使用形態は明らかでない。
【特許文献1】特開2004−88020号公報
【特許文献2】実開平5−38712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FPCを用いた回動部の電気配線に対し、最近は、携帯電話のような折りたたみ機器の開閉・捻回を伴う部分に、極細の同軸ケーブルを複数本束ねたケーブルハーネスを用いて配線する方式が検討されている。この極細の同軸ケーブルからなるケーブルハーネスを用いる配線方式においては、同軸ケーブルの使用によりインピーダンス整合とEMIに対しても問題なしとされている。しかし、使用される同軸ケーブルの中心導体に、ある程度の引張り強度を持たせるために、銅合金撚り線が用いられるが、捻りや曲げに脆く、特に携帯電話用途の捻回特性に難がある。この原因として、導体中に異物混入部や金属分散不良部などが存在し、そこを起点として捻り断線が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、同軸ケーブルの中心導体に銅箔糸を用いることにより、屈曲・捻回に対する性能確保と耐久性を備えた同軸ケーブル素線及び同軸ケーブル並びに多心同軸ケーブルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による同軸ケーブル素線は、単心線又は撚り線からなる中心導体の外周を絶縁体で覆い、この絶縁体の外周に外部導体が配された同軸ケーブル素線であって、中心導体を銅箔糸で形成する。銅箔糸の中心糸として、アラミド繊維のような耐熱性のある高抗張力繊維を用いることが好ましい。
【0009】
また、本発明による同軸ケーブルは、上記の同軸ケーブル素線を絶縁材からなる外被で覆って構成される。さらに、複数本の同軸ケーブル素線を共通外被で覆って多心同軸ケーブルとし、又は、複数本の同軸ケーブルを共通外被で覆って多心同軸ケーブルとすることができる。また、複数本の同軸ケーブル素線或いは同軸ケーブルを、平行一列に並べられたフラット形状の多心同軸ケーブルとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のように、中心導体に銅箔糸を用いることにより、屈曲・捻回に対する性能確保と耐久性を備えた同軸ケーブルを得ることができ、柔軟性に優れ高寿命で信頼性のあるケーブルハーネスを作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1(A)及び図1(B)は、本発明による同軸ケーブル素線の一例を示す図、図1(C)は銅箔糸の構成を説明する図、図1(D)は同軸ケーブルの中心導体を示す図である。図中、1a,1bは同軸ケーブル素線、2aは中心導体(単心線)、2bは中心導体(撚り線)、3は絶縁体、4aは外部導体(リボン導体)、4bは外部導体(丸線)、6は銅箔糸、7は高抗張力繊維、8は銅箔テープを示す。
【0012】
本発明による同軸ケーブル素線1a,1bは、単心線からなる中心導体2a又は撚り線からなる中心導体2bの外周を絶縁体3で覆い、その外側に外部導体4a又は4bを同軸状に配して構成される。この同軸ケーブル素線1a,1bは、後述するように外部導体4a,4bの外側を外被で覆うことにより同軸ケーブルとされ、複数本を共通の外被で覆うことにより多心同軸ケーブルとされる。
【0013】
図1(A)に示す同軸ケーブル素線1aは、例えば、中心導体2aに単心線を用い、外部導体4aを扁平なリボン導体を絶縁体3の外周に、所定の螺旋ピッチ(例えば、巻角45度以上)で均一に巻付けて形成した例である。図1(B)に示す同軸ケーブル素線1bは、例えば、中心導体2bに撚り線を用い、外部導体4bを丸線状の銅合金線を絶縁体3の外周に、横巻又は編組構造で配した例である。なお、図1(A)に示す同軸ケーブル素線1aの中心導体を撚り線、図1(B)に示す同軸ケーブル素線1bの中心導体を単心線としてもよい。
【0014】
本発明においては、上述した形状の同軸ケーブル素線1a,1bの中心導体として、銅箔糸6を単心線で用いるか、又は、撚り線にして用いられる。銅箔糸6は、例えば、図1(C)に示すような形状のもので、一般に、イヤホーン、ヘッドホーンや電話機のカールコード等に用いられ、屈曲強度や柔軟性及び軽量性を備えた通信用特殊導体として知られているものである。また、特許文献2にも開示のように、ケーブルのシールド導体としても広く使用されている。
【0015】
銅箔糸6は、一般にポリエステル系の高抗張力繊維7に、丸線を圧延して作製した平角線状の銅箔テープ8をラップ巻して形成される。また、この他、2〜4枚の銅箔テープを重ね巻きした多重銅箔糸としたものであってもよい。銅箔材料としては、錫合金銅あるいは普通銅が用いられ、銅箔糸6の外径が0.1mm前後のものが汎用されている。本発明においては、この銅箔糸6を単心線で中心導体として使用するか、又は、図1(D)に示すように、複数本(例えば、7本)を撚って中心導体2bとして使用する。単心線の銅箔糸6を複数本撚り合わせることにより、機械的強度を増し、全体の抵抗値を下げることができる。
【0016】
銅箔糸6を同軸ケーブル素線1a,1bの中心導体2a,2bに用いた場合、銅箔糸6は絶縁体3で被覆するためにクロスヘッドに通される。このクロスヘッド通過時に、銅箔糸6の中心糸となっている高抗張力繊維7が加熱され、ポリエステル系の糸では十分耐えることができないことがある。そこで、本発明において使用される高抗張力繊維7としては、高抗張力に優れ、かつ耐熱性のあるアラミド繊維を用いることが好ましい。
【0017】
図2は、本発明による同軸ケーブルの概略を説明する図である。図2(A)及び図2(B)は同軸ケーブルの断面を示し、図2(C)及び図2(D)はその構成要素を部分的に露出させた状態を示した図である。なお、図2(A)は中心導体に単心線を用いる例で示し、図2(B)では中心導体に撚り線を用いる例で示してある。図中、10a,10bは同軸ケーブル、11は外被を示し、その他の符号は図1で用いたのと同じ符号を用いることにより説明を省略する。
【0018】
図2(A)に示す同軸ケーブル10aとしては、例えば、図1(A)に示した同軸ケーブル素線1aの外周を外被11で被覆した構成とすることができる。中心導体2aは、図1(A)で説明したように、単心の銅箔糸を用い、その外側を絶縁体3で被覆し、その外側に扁平なリボン導体を所定の螺旋ピッチ(例えば、巻角45度以上)で均一に巻付けて外部導体4aとしたものである。扁平なリボン導体は、銅、アルミニウム等の良導電材で形成され、丸線を平坦に圧延したものを用いることもできる。なお、リボン導体は、隙間が生じないように密着又はラップさせて巻付ける構造、或いは、巻方向を反対にして2層に巻付ける構造としてもよい。
【0019】
図2(B)に示す同軸ケーブル10bとしては、例えば、図1(B)に示した同軸ケーブル素線1bの外周を外被11で被覆した構成とすることができる。中心導体2bは、図1(B)で説明したように、複数本の銅箔糸を撚った撚り線を用い、その外側を絶縁体3で被覆し、その外側に銅又は合金銅からなる複数本の丸線を横巻又は編組構造で巻付けて外部導体4bとしたものである。
【0020】
以上の如く、中心導体に銅箔糸を用いて形成された同軸ケーブル素線又は同軸ケーブルは、従来の中心導体に銅合金線を用いるものと比べて、柔軟性に富み、しかも、曲げや捻りに強く高寿命なものとすることができる。また、銅箔糸の高抗張力繊維に耐熱性の高いアラミド繊維を用いることにより、高強度を保つことができると共に、絶縁体として高温押出しを必要とするフッ素樹脂で形成することも可能となる。
【0021】
図3は、図1に示した同軸ケーブル素線又は図2に示した同軸ケーブルを複数本用いて多心同軸ケーブルを形成する例を示す図である。図3(A)に示す多心同軸ケーブル12aは、中心導体2aに単心線を用い、図1の同軸ケーブル素線1a又は1bの複数本を円形状にして、共通外被13で多心化した例である。この例においては、各同軸ケーブル素線1a又は1bの外部導体4a又は4bは、互いに接触して電気的に共通接続され、低抵抗とすることができ、シールド電位差を小さく抑えることができる。
【0022】
図3(B)に示す多心同軸ケーブル12bは、中心導体2bに撚り線を用い、図2の同軸ケーブル10a又は10bの複数本を円形状にして、共通外被13で多心化した例である。この例においては、各同軸ケーブル10a又は10bは、それぞれが外被11で保護され、単心に分岐しての配線が容易であり、外部導体4a,4bがバラけることもなく、その取扱性がよくなる。なお、図3(A)及び図3(B)のように複数の同軸ケーブルを円形状に集合させることにより、回動部における捻回性能を高めることができる。
【0023】
図3(C)は、中心導体2aに単心線を用い、図1の同軸ケーブル素線1a又は1bの複数本を、平行一列に並べて共通外被15でフラット形状にした多心同軸ケーブル14aの例を示し、図3(D)は、中心導体2bに撚り線を用い、図2の同軸ケーブル10a又は10bの複数本を、平行一列に並べて共通外被15でフラット形状にした多心同軸ケーブル14bの例を示す。なお、図3(C)及び図3(D)の構成において、共通外被15は、絶縁テープを同軸ケーブルの上下面に接着接合させて被覆する形態であってもよい。
【0024】
図3(C)及び図3(D)は、図3(A)及び図3(B)の多心同軸ケーブルをフラット形状としたもので、それぞれの利点としては、図3(A)及び図3(B)の場合と同様である。そして、フラット形状とすることにより、FPCと同様な使い方が可能であり、特に平坦面に沿っての配線に適し、また、屈曲性能を高めることができる。なお、図3(A)〜図3(D)の何れの例においても、各同軸ケーブルはそれぞれが外部導体4a又は4bでシールドされていて、インピーダンス整合とEMI特性を確保することができる。
【0025】
図4は、図3の各種の多心同軸ケーブルに電気接続端末部を形成した例を示す図である。電気接続端末部は、図4(A)に示すように電気接続しやすい形態に各同軸ケーブルの端部を配列した接続端末16a、或いは、図4(B)に示すように、電気コネクタ等の接続手段が接続された接続端末16bで形成することができる。電気接続は、通常、多数のコンタクトを高密度で一列に配列したジャックコネクタとプラグコネクタにより行われる。このため、多心同軸ケーブル12a,12b或いは14a,14bの各ケーブル端を平行一列に並べて、予め所定のピッチでフラット形状に整列させておくか、電気コネクタを接続して電気コネクタ付きの多心同軸ケーブルとして提供されるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による同軸ケーブル素線を説明する図である。
【図2】本発明による同軸ケーブルを説明する図である。
【図3】本発明による多心同軸ケーブルを説明する図である。
【図4】本発明による電気接続端末を備えた多心同軸ケーブルを示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1a,1b…同軸ケーブル素線、2a…中心導体(単心線)、2b…中心導体(撚り線)、3…絶縁体、4a…外部導体(リボン導体)、4b…外部導体(丸線)、6…銅箔糸、7…高抗張力繊維、8…銅箔テープ、10a,10b…同軸ケーブル、11…外被、12a,12b,14a,14b…多心同軸ケーブル、13,15…共通外被、16a,16b…接続端末。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体の外周を絶縁体で覆い、前記絶縁体の外周に外部導体が配された同軸ケーブル素線であって、前記中心導体が銅箔糸で形成されていることを特徴とする同軸ケーブル素線。
【請求項2】
前記銅箔糸の中心糸に耐熱性の高抗張力繊維が用いられていることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル素線。
【請求項3】
前記高抗張力繊維がアラミド繊維であることを特徴とする請求項2に記載の同軸ケーブル素線。
【請求項4】
前記中心導体は、複数本の銅箔糸を撚った撚り線で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の同軸ケーブル素線。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の同軸ケーブル素線を、絶縁材からなる外被で覆ったことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の同軸ケーブル素線の複数本を、絶縁材からなる共通外被で覆ったことを特徴とする多心同軸ケーブル。
【請求項7】
請求項5に記載の同軸ケーブルの複数本を、絶縁材からなる共通外被で覆ったことを特徴とする多心同軸ケーブル。
【請求項8】
前記同軸ケーブル素線又は同軸ケーブルの複数本が、平行一列に並べられていることを特徴とする請求項6又は7に記載の多心同軸ケーブル。
【請求項9】
少なくとも一方の端部に電気接続端末が形成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の多心同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−93018(P2006−93018A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279855(P2004−279855)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】