説明

吐出ヘッド及び液滴吐出装置

【課題】吐出口より液滴を吐出するための高水圧に耐えることのできる吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】吐出ヘッド10は、第1の吐出口3aを有する第1のオリフィスプレート3と第2の吐出口を有する第2のオリフィスプレート6とを備え、第1のオリフィスプレート3と第2のオリフィスプレート6とは液体の吐出方向に離間し、対向して配置される。第1のオリフィスプレート3の吐出口3aよりも第2のオリフィスプレート6の吐出口径は小さく、第1のオリフィスプレート3の吐出口3aから吐出された液体が第2の吐出口によって分断されることによって、微小な液滴9が吐出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液等の液体を吐出して液滴化するための吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬を患者に投与する方法として、吸入器を使用して溶液に分散させた薬剤(薬液)を微小液滴にして、患者に吸引させる方法がある。吸入器は、薬液を貯蔵する薬液タンクと、薬液を吐出させる吐出ヘッド及び各部位の動作を制御する制御部から構成される。特に、薬液を肺胞から吸収させるためには、液滴径を少なくとも10μm以下にしないと肺胞に到達できないので、小さな液滴径を持つ液滴を多く発生できることが吸入器に求められる。また、吸入器の携帯性も重要である。患者がどこにいても吸入器を使用できることによって、吸入器治療の用途が広がり、治療の利便性も向上する。
【0003】
吐出方式としてこれまでに多くの方法が提案されており、多くの方式の吸入器が開発され、実用化されている。主な吐出方式を挙げると、まず、超音波によって薬液を振動させ、振動によって薬液表面より液滴を霧化させて、患者に吸入させる方法があり、また、圧電体素子に電圧を加えて振動させ、超音波を発生させる方法が広く利用されている。このとき霧化させた液滴径の分布を改善するために、微細な穴が複数開けられた薄膜であるメッシュを用いて、小さな液滴のみを通すようにフィルタリングさせる改良方法も提案されている。
【0004】
他の吐出方式として、高速の空気流を発生させ、空気流によって薬液を粉砕し霧化させる方法がある。高速空気流を発生させるためにポンプを必要とするため、装置を小型化することができず、携帯吸入器デバイスの用途には向かない。
【0005】
他の吐出方式として、吐出口の近傍にヒーター加熱機構を有し、ヒーターを加熱して液を沸騰させて、吐出口から液滴を吐出させる方法がある(特許文献1参照)。この方式の吐出ヘッドは、液室流路部材とヒーター配線が形成されているヒーターボード基板と、吐出口を有する部材であるオリフィスプレートとが貼り合わされて構成されている。この方式では、吸入器の小型化や液滴の微小化が容易であるものの、吐出量を増大させるためにはヒーター投入電力を増大させなければならず、吐出量増大が難しいことや、さらに加熱によって薬剤が焦げる問題がある。吐出口から薬液を吐出させる方法として、特許文献1に開示されたように、圧電性結晶の変位によって圧力を印加して吐出口から液滴を押し出してもよい。
【0006】
他の吐出方式として、高圧力を加えた薬液を吐出ヘッドの吐出口まで導入し、吐出口から高速の液滴を噴霧させる方式(圧力印加方式)がある。この方式では、薬液が微細な吐出口を通過し、液体の連続した高速の流れである液柱が、吐出口から吐出される。特に吐出口径が小さいと、液柱は吐出口からある距離まで進んだ時に、液柱側面に自然発生した波によって液柱は液滴に破断され、液滴を生成することができる。液柱の破断に必要な、吐出口からの距離を滴化距離と呼ぶ。滴化距離は液柱速度、吐出口径、薬液の表面張力、粘度に依存する。吐出口から滴化距離以内までは薬液は液柱で吐出され、滴化距離以上で薬液は液滴で吐出される。圧力印加方式では、特許文献1の方式が抱える薬液の焦げの問題がなく、吐出に必要な電力も小さくすることが可能で、高吐出量も容易に達成できる利点がある。
【0007】
ところで、圧力印加方式では吐出口が小さいほど、薬液の表面張力に起因して発生する、吐出口でのメニスカス圧力が増大するため、薬液を液柱として吐出させるために必要な吐出圧力が増大する。液柱の慣性力が表面張力に対して優勢になったときに液柱が生成することから、液柱が吐出する条件は式(1)に示すウエーバー数によって決定できる。
【0008】
ρ×D×V/σ (1)
【0009】
ここでρは液密度、Dは吐出口径、Vは吐出口表面での液柱速度、σは液の表面張力である。式(1)がある値以上になれば、液柱が吐出される。そのときの液柱速度を液柱生成速度Vと定義する。それに対応する吐出ヘッド内の吐出圧力をPとすると、PはVの2乗に比例した項を有し、さらに、近似的には、式(1)がある一定値で液柱が吐出するので、ノズル径が小さいほど吐出圧力は増大する。
【0010】
吸入器に使用する吐出ヘッドでは数ミクロンオーダーの液滴を生成する必要がある。圧力印加方式で吐出ヘッドから数ミクロンの液滴径を吐出させる場合、吐出圧力は特許文献2に記載されているように2MPa以上にもなる。そのため、圧力印加方式を使用した吸入器は、薬液に接する部位が高水圧に耐えられる構造を有し、かつ、高圧力を印加する機構が必要となるため、装置耐久性や装置小型化が問題となる。他の技術分野のプリンタでは、コンティニュアスインクジェット方式のプリンタが圧力印加方式を使用しており、圧力印加機構としてポンプを使用し、装置全体も大型である。
【0011】
特許文献2はこのような圧力印加方式を使用した吸入器を開示している。吐出ヘッドと薬液タンクがカートリッジとして一体構造化されており、カートリッジの材料は塑性を持つ。投薬時はバネの力で押し出されたピストンが、カートリッジの一部を押しつぶすことで大きな圧力を発生させ、吐出口から薬液を吐出させる。この方法では、一回の投薬毎にカートリッジを交換する。カートリッジは使い捨てであり、これをシングルドーズと呼ぶ。シングルドーズに対して、カートリッジやヘッド構成を変えずに複数回の投薬を実現する方法をマルチドーズと呼ぶ。
【0012】
特許文献2のようなシングルドーズの吸入器は、一回の投薬ごとにカートリッジを入れ替えなければならないため、吸入操作が煩雑でミスや事故を引き起こしやすい。またカートリッジ材料のコストが増大する。従って、圧力印加方式の吸入器のマルチドーズ化を目指すことが好ましい。そのためには複数回の投薬を行っても、吐出ヘッドは高水圧に対する十分な耐久性がなければならない。また、吸入器の携帯用途を考えると、装置を小型化することが必要である。そのためには吐出圧力を下げて吸入器各部位の構造を簡素化する必要がある。
【0013】
吐出圧力は、液滴を吐出速度V以上で吐出させるために必要な圧力エネルギーと、吐出口における圧力損失Pの和になる。一般の吐出口におけるPは、近似的にハーゲン−ポアズイユ則に従い、以下の式(2)で表せる。
【0014】
=(C×μ×T×V)/D (2)
【0015】
μは液滴の粘度、Tはオリフィスプレートの厚さ、Cは形状などオリフィスプレート構造起因の比例係数である。式(1)、(2)より、吐出圧力を下げるには薬液物性やオリフィスプレートの設計を変えればよい。薬液の表面張力や粘度に関しては薬効を考慮すると大きく変えることはできない。オリフィスプレートに関しては、吐出口径を大きくする、吐出口数を増やす、オリフィスプレート厚を薄くすることなどにより、式(2)のPが減少するため、吐出圧力を減少させることができる。
【0016】
【特許文献1】特許第03553599号公報
【特許文献2】特許第03375637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
一般に、吐出口径や吐出口数は、それぞれ液滴径と吐出量を決定するため、通常は変えることができない。他方、オリフィスプレートの厚みを薄くすることによって、吐出口での圧力損失を減らし、吐出圧力を下げることができる。ところが、オリフィスプレートを薄くすると、オリフィスプレートの強度が弱くなり、オリフィスプレートと吐出ヘッドとの接合が困難になる。接合できたとしても、吐出時の高水圧に耐えられずに接合部から液漏れが生じて、吐出ヘッドが壊れてしまう。また、オリフィスプレート自身も高水圧によって変形し壊れてしまう。
【0018】
特許文献2に開示されたように、高水圧の溶液を封入する容器の一部に、オリフィスプレートを設けた従来型構成では、吐出ヘッドを繰り返し使用しようとすると長時間オリフィスプレートが高水圧に曝されるため、耐久性を確保することが困難であった。ただし、特許文献2に開示されたように吐出ヘッドが使い捨ての場合は、一瞬だけオリフィスプレートが高水圧に曝されるので、従来型構成の吐出ヘッドでも耐久性はさほど問題にはならない。
【0019】
また、吐出圧力低減のために、オリフィスプレートを薄くするほど、吐出ヘッドの耐久性が低下するという未解決の課題があった。
【0020】
本発明は、吐出に必要な圧力を上げることなく、かつ、吐出ヘッドの耐久性も維持しつつ、従来よりも微小な液滴を生成することが可能な吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の吐出ヘッドは、圧力を印加して吐出口から液体を吐出する液滴吐出装置に用いられる吐出ヘッドであって、第1の吐出口径を有する第1の吐出口を備える第1のオリフィスプレートと、前記第1のオリフィスプレートから液体の吐出方向に離間して配置された、第2の吐出口径を有する第2の吐出口を備える第2のオリフィスプレートと、を有し、前記第1の吐出口径よりも前記第2の吐出口径のほうが小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
2枚のオリフィスプレートを用いることにより、以下のような効果を有する。第1の吐出口径よりも小さい第2の吐出口径を有する第2のオリフィスプレートがあるため、第1のオリフィスプレートにおける第1の吐出口は、生成したい液滴径よりも大きくしておくことができる。そのため、吐出圧力を上げる必要がない。よって、第1のオリフィスプレートを薄くする必要もないため、吐出ヘッドの耐久性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、第1の実施形態による吐出ヘッド10を示す。吸入器の液滴吐出装置として搭載される吐出ヘッド10のヘッド基材1は、シール部材2及び第1のオリフィスプレート3を支持する。壁部材である第1のプレート固定部材4は、第1のオリフィスプレート3の外周部を表面から抑え、第1のオリフィスプレート3とシール部材2をヘッド基材1に押し当てている。ネジ5は、プレート固定部材4を貫通し、ヘッド基材1に開けられたネジ穴に嵌め込まれることによって、このような押し圧を発生できる。なお、第1のオリフィスプレート3を固定する機能と壁部材を兼務している第1のプレート固定部材4とは別途に、壁部材を設けてもよい。
【0025】
第1のオリフィスプレート3から吐出方向に離間して、第2のオリフィスプレート6が対向して配置され、第2のプレート固定部材7によって固定される。第2のオリフィスプレート6の位置を制御するために、第1のプレート固定部材4、第2のプレート固定部材7の順でヘッド基材1上に固定される。第2のプレート固定部材7は液流路を塞がないための穴が開けられ、第2のオリフィスプレート6は、その周辺部を介して第2のプレート固定部材7に接合される。
【0026】
第1のオリフィスプレート3は、第1の吐出口3aを有する。第2のオリフィスプレート6は、第1の吐出口3aより吐出口径の小さい第2の吐出口(不図示)を有する。第1の吐出口3aから吐出された液体の流れは、第2のオリフィスプレート6に衝突し、第2の吐出口によってさらに液体の流れが細分化され、第2の吐出口を通過した後に、目的とする液滴径を持つ微小な液滴9が形成される。各第1の吐出口3aから吐出された液滴8aは、複数の第2の吐出口によってさらに小さな液滴9に分割される。
【0027】
第1の吐出口3aから吐出された液柱は、第2のオリフィスプレート6に到達するまでに液滴化させて、液滴形態で第2の吐出口に衝突させることが好ましい。なぜなら、液柱形態よりも液滴形態で第2の吐出口に衝突させるほうが第2の吐出口を通過しやすいためである。この理由として、液滴8aは、その直径が、液柱の直径の約2倍となるように分裂するため、第2のオリフィスプレート6の単位面積あたりに入射する流量が小さくなり、液は第2の吐出口を通過し易いためである。液滴8aが第2の吐出口に衝突することで、第2の吐出口を通過できない薬液(液体)のロスを大幅に低減できる。このため、第2のオリフィスプレート6と第1のオリフィスプレート3との間の距離(離間距離)は、滴化距離以上に設定することが望ましい。
【0028】
滴化距離は液滴径が小さいほど減少するが、1〜10μm径の液滴を吐出する場合は、第2のオリフィスプレート6と第1のオリフィスプレート3との間の距離が50μm以上あれば、液柱は液滴化するので好適である。
【0029】
一方、第2のオリフィスプレート6があまり離れすぎていると、空気抵抗や重力、気流などの影響により、第1の吐出口3aから吐出された液柱の速度が低下し、また方向が擾乱されてしまう。距離が50mm以下であれば上記の問題は小さいことを確認している。以上のことより、第2のオリフィスプレート6と第1のオリフィスプレート3との間の距離は、50μm以上、50mm以下が好適である。
【0030】
第1の吐出口3aは複数で構成されてもよいし、単数でもよい。吐出口数が増えるほど吐出量は増大する。望ましい吐出量を得るために必要な数だけ、第1の吐出口3aは形成される。第1の吐出口3aが複数で構成される場合、吐出口間の距離は、第1の吐出口3aから吐出した液滴同士が衝突しない範囲に設定され、少なくとも第1の吐出口3aの吐出口径(第1の吐出口径)以上であることが好適である。
【0031】
図1において、吐出ヘッド10の液体供給口側で吐出圧力を印加する手段である圧力印加手段(不図示)によって、高い正圧が液体8に加わる。ヘッド基材1、シール部材2、第1のオリフィスプレート3は高水圧に曝されるため、耐久性が要求される。従って、第1のオリフィスプレート3は、液体8の水圧によって壊れないような厚さ(厚み)にすることが必要である。また水圧によってオリフィスプレート3が変形しないことが好適である。もし、オリフィスプレート3に変形が生じると、吐出した液体が、第2のオリフィスプレート6の表面に対して、垂直に入射できなくなる。その結果、第2のオリフィスプレート6を液体が通過しづらくなる。強度の強い第1のオリフィスプレート3を実現するのに好適な厚さの範囲は20μm〜5mmである。このように、第1のオリフィスプレート3は厚くて強度があるため、変形する恐れがない。従って、第1のオリフィスプレート3をシール部材2に直接押し当てて固定することができる。
【0032】
第1の吐出口3aの吐出口径は大きいことが好適である。なぜなら、オリフィスプレート3を厚くすると、式(2)より吐出口における圧力損失が増大してしまう問題が生じるためである。圧力損失は式(2)より吐出口径の二乗に反比例するため、オリフィスプレート3を厚くしても、吐出口径を大きくすれば、圧力損失の増大を十分に抑えられる。しかしながら、前述のとおり、吐出口径を無制限に大きくすると、第1の吐出口3aから吐出した液体の滴化距離が増大して、液滴の状態で第2のオリフィスプレートに衝突させることができなくなる。
【0033】
従って、第1の吐出口3aの吐出口径は10μm以上、500μm以下が好適である。
【0034】
第2のオリフィスプレート6に開けられた第2の吐出口は、狙いとする液滴径を持つ液滴を吐出できるような吐出口径(第2の吐出口径)に設定される。すなわち、第1の吐出口3aの口径よりも第2の吐出口径のほうが小さくなるように設定される。第2のオリフィスプレート6の吐出口数は、第1のオリフィスプレート3の吐出口数より多いことが望ましい。これは、第1の吐出口3aから吐出された径の大きな液滴を、効率的に複数の小液滴に細分化するためである。第1の吐出口3aに対して第2の吐出口の位置合わせを正確に行うことは困難であるため、第2の吐出口は、複数の穴がメッシュ状に規則的かつ高密度に配列されていることが好適である。第2のオリフィスプレート6の広い領域に複数の第2の吐出口が形成されることにより、第1の吐出口3aと第2の吐出口の位置合わせ精度が低くても問題はなくなる。
【0035】
第2の吐出口について、利用者が薬液を吸入する吸入器として好適な吐出口径の範囲は0.1〜10μm、好ましくは3μm〜7μmmである。吸入器以外の用途では、用途に応じて吐出口径が設定される。
【0036】
また、第2の吐出口間の距離が広いと、第1の吐出口3aから吐出された液滴一個が衝突する第2の吐出口の数が少なくなり、液滴が第2のオリフィスプレート6を通過しづらくなる。最悪の場合、第1の吐出口3aから吐出された液滴の一部のみが第2の吐出口を通過し、残りは第2のオリフィスプレート6の裏面に残留してしまい、薬液のロスに繋がる。第2の吐出口間の距離がさらに広がり、第1の吐出口径よりも大きくなると、第1の吐出口3aから吐出された液滴が第2の吐出口に衝突しない場合が起こり得る。従って、少なくとも第2の吐出口間の距離は、第1の吐出口径以下であることが必要である。反対に第2の吐出口間の距離が狭くなり、第2の吐出口径よりも小さくなると、第2の吐出口より吐出した液滴が合体してしまう。従って、第2の吐出口間の距離は、第2の吐出口径以上でなければならない。
【0037】
第2のオリフィスプレート6の厚みは薄く設定され、少なくとも第1のオリフィスプレート3よりも第2のオリフィスプレート6は薄い。これは式(2)の圧力損失を低減するためである。第2のオリフィスプレート6には静水圧が加わることがないため、強度を気にせずに極限までオリフィスプレート6の厚みを小さくすることが可能である。第2のオリフィスプレート6の好適な厚さの範囲は20〜0.1μmである。
【0038】
耐久性と圧力損失低減を両立させる観点から、本発明の好適なオリフィスプレートの形状について説明する。図1のような圧力吐出方式を用いた吐出ヘッドで、圧力印加機構によって昇圧されたヘッド内の、大気に対する圧力差をPとする。
【0039】
ベルヌーイの定理により、近似的にPは圧力損失と液柱の運動エネルギーに分配されるので、式(3)が成り立つ。
【0040】
【数1】

【0041】
式(3)より圧力損失の式(2)は式(4)に書き直される。
【0042】
【数2】

【0043】
第1のオリフィスプレート3の吐出口径と厚さをそれぞれD、Tとし、第2のオリフィスプレート6の吐出口径と厚さをそれぞれD、Tとする。さらに全てのオリフィスプレートでρ、C、μはほぼ等しいと単純化する。第1のオリフィスプレート3には強度が要求されるため、Tはある厚さに設定しなければならない。Dはターゲットとする液滴径得るための大きさに設定しなければならない。従来例のように、厚さTの第1のオリフィスプレートのみで、吐出口径Dで吐出する時の圧力損失と比較して、本発明の構成において第2のオリフィスプレート6の吐出口径Dとして吐出する時の圧力損失を小さくするためには式(5)の関係が要求される。
【0044】
【数3】

【0045】
式(5)の左辺は従来例による吐出ヘッドの圧力損失、右辺は本発明の構成による吐出ヘッドの圧力損失である。P´は式(5)右辺第1項である。通常の溶液や通常形状のオリフィスプレートを用い、Pが極端に小さくなければ式(5)は式(6)のように簡略化される。
【0046】
【数4】

【0047】
第1のオリフィスプレート3と第2のオリフィスプレート6は前述より以下のように設定されている。
【0048】
【数5】

【0049】
【数6】

【0050】
従って、本発明の吐出ヘッドにおいて、強度を保ちながら、従来の吐出ヘッドよりも圧力損失を低減するためには式(6)、(7)、(8)を満たすようにオリフィスプレート3,6を設計すればよい。
【0051】
なお、式(6)は、「(T−T)/D>T/D」と変形できる。
【0052】
第1のオリフィスプレート3は剛性や強度が要求され、厚みが大きくて、吐出口も大きい。比較的簡単に作製しやすいので、多くの材料を使用することができる。材料として、無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物が好適である。具体的にアルミ、シリコン、チタン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、マグネシウム、鉄、マンガン、クロムなどの酸化物、窒化物、炭化物が挙げられる。また、これらから選ばれた複数の元素を含んでいてもよい。通常のステンレス、アルミ、ニッケル、パラジウム、鉄、チタン、シリコン、マンガン、クロム、タンタルで構成されていてもよい。また、これらの化合物でもよい。また、ポリカーボネート、エポキシ、塩化ビニール、パラキシリレン、ポリイミドなどの高分子有機樹脂でもよい。
【0053】
第2のオリフィスプレート6は薄くて、微細な吐出口を形成可能であることが必要である。さらに、表側、裏側に撥水性を持つことが望ましい。これは、微小な穴から吐出しやすくするように、表面の濡れを防止することと、後述するように薬液を回収するためである。一般に撥水性を持つと接着力が弱くなる問題が生じるが、第2のオリフィスプレート6は、接着性や耐水圧性は要求されないので問題とはならない。材料として、フッ素、炭素、シリコンを含有した化合物が挙げられる。またこれらを使用した薄膜をオリフィスプレート表面にコーティングすることが好ましい。フッ素樹脂、ポリカーボネート、エポキシ、塩化ビニール、パラキシリレン、ポリイミドなどの高分子有機樹脂も好適である。アルミ、ニッケル、パラジウム、鉄、チタン、シリコン、マンガン、クロム、タンタルで構成されていてもよい。また、これらの化合物でもよい。
【0054】
第2のオリフィスプレート6の表面の液体の接触角は、第1のオリフィスプレート3の表面の液体の接触角よりも大きいことが好ましい。これは、第1のオリフィスプレート3はヘッド内の薬液に接しており、スムーズに吐出口へ薬液を送る必要から、撥水性が強くないことが望ましく、第2のオリフィスプレート6は、吐出口が小さいため、撥水性を最も強めて、吐出しやすくするためである。また、後述するように、液を回収する観点からも、液を第1のオリフィスプレート3側に集めやすくなるため好適である。
【0055】
図2は、保管時における吐出ヘッド10を示す。吐出ヘッド10からの吐出を終了する場合は、圧力印加機構によってヘッド内の正圧を減圧しゼロまで下げる。もしくは、1〜20kPaの範囲の負圧まで下げられ、保持されることが好ましい。負圧に保持することによって、吐出口から液を回収したり、薬液漏れを防止できる。第1の吐出口3aに存在するメニスカスの表面張力によって、ヘッド内の液が安定に保持される。
【0056】
第2のオリフィスプレート6を通過できなかった液体は、薬液のロスとなる。これを再びヘッド内に回収することで、薬液を無駄なく使用することができる。その方法として、図1に示すように、第1のオリフィスプレート3と第2のオリフィスプレート6との間に存在するプレート固定部材4の低部4aを擂鉢形状にする。これによって、第2のオリフィスプレート6の内側表面や、第1のプレート固定部材4の内面に付着した薬液を、重力によって、第1の吐出口3aへ集められるようにする。第1のプレート固定部材4と第2のオリフィスプレート6の表面は撥水性が高いことが好適である。第1の吐出口3aの付近に集められた薬液は、前述のように、保管時に加える負圧によって第1の吐出口3aから薬液を吐出ヘッド内に回収することができる。プレート固定部材4の形状としては湾曲し、表面形状が滑らかであることが好適である。また、プレート固定部材4が囲んでいる中空部に関しての、オリフィスプレート表面と平行な面に関する断面は、第1のオリフィスプレート3や第2のオリフィスプレート6に近づくにつれて小さくなることが望ましい。このように、プレート固定部材4に囲まれた中空部の断面形状がくびれることによって、第2のオリフィスプレート6を通過できなかった薬液を、スムーズに第1のオリフィスプレート3に移動させることが可能となる。重力以外にも、空気を吹き付ける機構を設けたり、壁を拭くワイパー機構を設けて薬液をスムーズに移動させてもよい。
【0057】
図3は一変形例を示す。これは、液体を第1の吐出口3aから回収せずに、別途回収手段を設けたものである。オリフィスプレート3の吐出口3aを有する部位は、液体の吐出方向へ突出するように、オリフィスプレート3が加工され、回収すべき液が、オリフィスプレート3側へ移動しても、吐出口3aに溜まることはない。オリフィスプレート3の、突出していない部位に、液回収部である液溜め部3及び液回収口3cが設けられている。なお、ヘッド基材1又はプレート固定部材4の表面に液回収口が設けられてもよい。
【0058】
液体は液回収口3cの周辺に集まるように、プレート固定部材4の形状などの吐出ヘッド構造が最適化される。吐出時に液体8に圧力を加えた際に、第1の吐出口3aから液柱を吐出させると同時に、液回収口3cからも液体が吐出される場合がある。液回収口3cから液体が吐出されたとしても、液体を第2のオリフィスプレート6に到達させないで回収できるように、液回収口3cの前面に庇4bを設け、液体が庇4bに衝突してプレート固定部材4に沿って移動し、再び液回収口3cに戻るようにしている。液回収口3cから液体が吐出されることは好ましくないので、吐出しづらくするために、液回収口径は第1の吐出口3aの吐出口径よりも小さいことが好ましい。また、液回収口3cの厚さは、第1の吐出口3aよりも厚いことが好ましい。液回収口3cの前面には液が溜まりやすいような液溜め部3bが設けられ、液溜め部3bがあることによって液回収口3cから吐出しづらくなり、第2のオリフィスプレート6からの液が液溜め部3bに溜まるような構成となる。また、第1の吐出口3aの前面には液が溜まらないので、吐出しやすくなる。
【0059】
薬液(液体)を多少ロスしてもよい用途などでは、吐出した液体を回収しなくてもよい。その場合、プレート固定部材4は第2のオリフィスプレート6の位置を固定する役割のみであるから、第1のオリフィスプレート3と第2のオリフィスプレート6との間の空間は、プレート固定部材4によって完全に覆われていなくてもよい。例えば、プレート固定部材4は柱のみで構成されていてもよい。
【0060】
図4は、吐出ヘッド10を搭載する吸入器の断面図を示す。薬液タンクカートリッジ38は、薬液である液体8の容器となるシリンダー26と、シリンダー26内をスライドできる蓋部材27で構成される。シリンダー26先端の連通口40が、本体側のカートリッジ接続部39と連通し、シリンダー26内の薬液が吐出ヘッド10まで移送される。薬液タンクカートリッジ38と本体は切り離すことが可能である。また、薬液タンクカートリッジ38と吐出ヘッド10の間にバルブが設けられ、連通を遮断してもよい。薬液タンクカートリッジ38が空になったら交換することができる。薬液タンクカートリッジ38と吐出ヘッド10の間にフィルター41と圧力センサー24が設けられる。フィルター41はメッシュ状の部材が好適であり、吐出ヘッド10に入り込むゴミを捕獲する機能を有する。吐出ヘッド10内にフィルター41が設けられてもよい。圧力センサー24によって、連通している薬液全体の圧力をモニターする。
【0061】
吐出ヘッド10内の薬液に吐出圧力を印加する手段として、圧力印加機構が設けられる。圧力印加機構は、薬液タンクカートリッジ38の蓋部材27と接続し、シリンダー26内を往復動作するピストン28、ピストン28内の穴に挿入されたシャフト32、シャフト32を回転させるギアボックス33及びモーター36で構成される。シャフト32とピストン28の接触部では、表面に螺旋状に切られた溝同士が嵌め合わされている。シャフト32の回転の方向によって、ピストン28が往復運動する。モーター36の回転によってピストン28と蓋部材27を往復運動させることにより、薬液の加圧と減圧を行う。
【0062】
吐出させた液滴を患者(利用者)が吸入するための吸入管21が設けられ、吸入管21は吐出ヘッド10の外部を覆い、吐出された液滴を吸入管21内に滞留させるように設計される。患者は、吸入管21を鼻や口に近づけて吸引することによって、液滴化された薬剤を体内に取り込む。吸入器の使用が終了したら、キャップ23を吸入管21上部から被せて保管する。
【0063】
吸入器は、制御回路部29とバッテリ31によって電気的に駆動される。制御回路部29が圧力センサー24を通して薬液の圧力を読み取りながら、モーター36を回転させてピストン28を押し、薬液に正圧を加えることによって吐出ヘッド10から液滴を吐出させる。決められた時間だけ吐出させた後、速やかにピストン28を引いて薬液を負圧にして吐出が終了する。適正な値の負圧に保たれることによって薬液を安定して保管することができる。吐出圧力と時間から吐出量を算出し、吸入した薬剤の量を履歴として制御回路部29のメモリに格納する。患者は日々の薬剤の投薬量を常に把握し、吸入における投薬量をその都度適正化することができる。
【0064】
図4の吸入器は、シリンダー26内の薬液が空になったら、ピストン28と蓋部材27の接続を解除し、薬液タンクカートリッジ38のみを交換する。従って非常に多い回数の投薬を実現できるマルチドーズ機能を持つ。その際には、吐出ヘッド10には何度も高い正圧が加わるが、本発明による吐出ヘッド10は高い耐久性を有するため、繰り返して安定して使用することが可能である。また小さい吐出口を持つ第2のオリフィスプレート6は、薬剤によって目詰まりを起こしやすいが、薬剤タンクカートリッジ38と第2のオリフィスプレート6は連通していないので、第2のオリフィスプレート6を簡単に交換することができる。また、第2のオリフィスプレート6の位置を若干ずらせるようにして、第1のオリフィスプレート3から吐出した液滴が衝突していない部分を使用できるようにしてもよい。第1のオリフィスプレート3は吐出口径が大きいため、吐出口での薬剤の凝集などの問題が起こりにくい。吐出ヘッド10が壊れた場合は、吐出ヘッド10を薬液流路部材25と切り離して交換してもよい。
【0065】
図5は、第2の実施形態による吐出ヘッドを示す。第1の実施形態とほぼ同じ構成であるが、相違点は、エネルギー付与機構50によって発生させたエネルギーを、エネルギー伝達部材51を通して、第2のオリフィスプレート6の一部分あるいは全体に付与する点である。エネルギーとして多くの形態があるが、まず、熱エネルギーが挙げられる。熱エネルギーを第2のオリフィスプレート6に付与する場合は、エネルギー付与機構50として電熱ヒーターが挙げられる。配線によって電熱ヒーターと接続された第2のオリフィスプレート6が加熱されることで、第2のオリフィスプレート6を通過する液滴の表面張力を下げられる。その結果、式(1)より吐出速度を下げられるため、吐出圧力も下げることができる。また、加熱によって、液滴がオリフィスプレートに付着しづらくなるため、液滴がスムーズに第2のオリフィスプレート6を通過できるようになる。第2の吐出口で濡れ不吐が生じることも避けることができる。加熱は液滴を吐出させる短い時間のみ必要であるため、第2のオリフィスプレート6は迅速に加熱され、冷却できることが望ましい。ヒーターは局所的に第2のオリフィスプレート6のみを加熱することが望ましい。そのために第2のオリフィスプレート6の材料は、Ni合金などの金属が好ましい。
【0066】
他のエネルギーとして振動エネルギーが挙げられる。第2のオリフィスプレート6を吐出方向に対して振動させてもよく、吐出方向とは垂直の方向に振動させてもよい。第2のオリフィスプレート6を振動させることによって、第2のオリフィスプレート6を通過する液滴に運動エネルギーを付与し、吐出圧力を下げることができる。また、液滴を分割して、第2の吐出口を通過させやすくなる。エネルギー付与機構50には圧電体などの振動子を用いて、振動子と第2のオリフィスプレート6を振動部材によって連結し、所望の方向に振動させることができる。第2のオリフィスプレート6は微小振動できるようにプレート固定部材4に固定されていないことが好適である。液滴に迅速にエネルギーを付与できるように、振動の周波数としては1kHz〜10MHzが好適である。
【0067】
他のエネルギーとして帯電エネルギーが挙げられる。エネルギー付与機構50としてはは昇圧回路などの電圧印加機構を用いる。好適な例として、第2のオリフィスプレート6は電気的に浮いており、昇圧回路は配線を通じて第2のオリフィスプレート6に高電圧を加えることができる。第1のオリフィスプレート3から吐出された液滴は、第2のオリフィスプレート6の電圧によって帯電され、加速される。液滴が加速された結果、液滴はより大きな運動エネルギーを得るため、第2のオリフィスプレート6を通過しやすくなり、吐出圧力を下げることができる。第2のオリフィスプレート6を高電圧印加のための電極とせずに、オリフィスプレートの近傍に高電圧印加用の電極を別途設けてもよい。また、漏電を避けるために、電極或いは電極周囲の部分は、絶縁体で被覆されていることが好ましい。また、第1のオリフィスプレート3と第2のオリフィスプレート6との間に、薬剤を帯電させるための帯電電極を設け、より確実に液滴を帯電させてもよい。
【0068】
本実施形態は、微小液滴を吐出させる第2のオリフィスプレートを、高水圧に曝される第1のオリフィスプレートから離すことによって可能になった構成である。従来の吐出ヘッドでは、オリフィスプレートは高水圧に曝されて変形してしまうため、発熱や帯電などのエネルギー付与は難しかった。また、エネルギー付与手段は一種類である必要でなく、複数のエネルギー付与手段を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
上記の実施形態は、薬液を吐出するための吐出ヘッドを使用した吸入器であるが、本発明の吐出ヘッドは、吐出させる液体が薬液に限らずに、汎用的に用いることができる。液体として薬液、精製水、芳香剤溶液、エタノール、インク、機能性有機物溶液、機能性金属溶液などが挙げられる。本発明の液滴吐出装置は、吸入器以外にも、加湿器、匂い発生装置、プリンタ、ミスト発生器、電子デバイス(ディスプレイ、配線基板など)の製造装置などに適用できる。本発明の吐出ヘッドを使用した液滴吐出装置は、従来の液滴吐出装置と比較して、吐出耐久性向上と吐出圧力低減の観点において有利である。また、特に微小な液滴を吐出させる上で、これらの優位点が際立つものである。
【実施例】
【0070】
図1に示す構成の吐出ヘッドを作製し、従来例との比較を行った。
【0071】
参照のために、従来例による吐出ヘッドを図6に基づいて説明する。
【0072】
ヘッド基材1にシール部材2とプレート固定部材4が嵌め込まれる。ネジ5によってプレート固定部材4がシール部材2をヘッド基材1に押し当てている。シール部材2は押し圧により変形することによって液体8が外に漏れないように、プレート固定部材4とヘッド基材1との隙間をシールする。シール部材2は弾性を持つ部材が好適で、典型的にはOリングやゴムパッキンが好適である。プレート固定部材4は液流路を塞がないための穴が開けられている。接着剤などによって、オリフィスプレート3の外周部とプレート固定部材4を接着する。オリフィスプレート3はプレート固定部材4に固定される。オリフィスプレート3には吐出口3aが開けられており、オリフィスプレート3はヘッド内の液体8に常に曝され、頻繁に高水圧が加わる。液体供給側に存在する圧力印加機構(不図示)によって、高い正圧が液体8に加わる。正圧が吐出圧力以上になると吐出口3aから液柱が吐出し液滴が生成する。吐出口径は、狙いとする液滴9を吐出できるような大きさに設定される。吸入器として好適な吐出口径の範囲として0.1〜10μmである。このような小さい吐出口径では、前述のように式(2)に示された圧力損失を下げるため、オリフィスプレート3は薄いことが必要である。そのため、オリフィスプレート3の厚みは20μm以下に設定されることが多い。
【0073】
圧力損失を十分に下げたとしても、吐出口3aでの表面張力に打ち勝つために必要な圧力も大きく、吐出圧力は1MPa近くにもなってしまう。その結果、このような薄いオリフィスプレートではほとんどの場合変形が生じてしまう。圧力損失を低減するためオリフィスプレート3をさらに薄くしようとすると、オリフィスプレート3とプレート固定部材4との接合が難しくなり、さらにオリフィスプレート3の変形も大きくなり壊れやすくなる。つまり、一段階の吐出ヘッドで所望の微小な液滴を生成しようとすると、印加圧力を増加させる必要があり、そのときの圧力損失を低減するためには、オリフィスプレートを薄くする必要がある。しかし、そうすると吐出ヘッドの耐久性が低下してしまうのである。
【0074】
まず、図6の構成を有する従来例と、図1の構成を有する実施例1,2による圧力印加方式の吐出ヘッドE1〜E8を作製し、それぞれの吐出実験を行った。実験は、ポンプによって、リザーバーから吐出させる液体が汲み上げられ、正圧を加えられた状態で各吐出ヘッドに送り込まれる。吐出ヘッドのオリフィスプレートよりもポンプ側で、オリフィスプレートから10cmの距離に、圧力センサーが取り付けられており、吐出ヘッドに送り込まれる液体の圧力をモニターできる。吐出した液をCCDカメラと対物レンズ、ストロボによって観察した。
【0075】
吐出ヘッドE1(従来例)
厚さ500μm、吐出口径40μmのルビー製のオリフィスプレートを、シール部材(Oリング)介してヘッド基材に固定した。オリフィスプレート上部からプレート固定部材とネジによって固定した。
【0076】
吐出ヘッドE2(従来例)
厚さ500μm、吐出口径20μmのルビー製のオリフィスプレートを、吐出ヘッドE1と同様に作製した。
【0077】
吐出ヘッドE3(従来例)
厚さ25μm、吐出口径3μmのNi薄膜のオリフィスプレートを電鋳法で作製し、液状のシリコーン系の接着剤を用いて、プレート固定部材に接着した。ネジを使用して、プレート固定部材を、Oリングを介してヘッド基材に固定した。オリフィスプレートが薄いため、Oリングを直接オリフィスプレートに押し付けることができなかった。
【0078】
吐出ヘッドE4(従来例)
厚さ25μm、吐出口径1.5μmのNi電鋳製のオリフィスプレートを吐出ヘッドE3と同様に作製した。
【0079】
吐出ヘッドE5(従来例)
厚さ3μm、吐出口径5μmのNi薄膜のオリフィスプレートを電鋳法で作製し、熱可塑性の固形接着剤を用いて、プレート固定部材に接着した。ネジを使用して、プレート固定部材を、Oリングを介してヘッド基材に固定した。オリフィスプレートが非常に薄いためオリフィスプレートのハンドリングが難しく、また液状接着剤では接着量の均一性の確保などが難しく、固形接着剤を接着に使用した。オリフィスプレートの吐出口に関して、吐出口間の距離が14μm、吐出口の数は1000個である。
【0080】
吐出ヘッドE6(従来例)
厚さ3μm、吐出口径1.5μmのNi薄膜のオリフィスプレートを吐出ヘッドE5と同様な方法で作製した。オリフィスプレートの吐出口に関して、吐出口間の距離は7.5μm、吐出口の数は4000個である。
【0081】
吐出ヘッドE7(実施例1)
吐出ヘッドE1と同じオリフィスプレート(ルビー製、厚さ500μm、吐出口径40μm)を図1に示す第1のオリフィスプレートとして、シール部材(Oリング)を介してヘッド基材に固定した。さらに、第2のオリフィスプレートとして、吐出ヘッドE5と同じオリフィスプレート(Ni電鋳製、厚さ3μm、吐出口径5μm)を同じ方法で第2のプレート固定部材に接着した。第1のオリフィスプレートと第2のオリフィスプレートの距離は8mmである。第1のオリフィスプレートから吐出した液柱は、第2のオリフィスプレートに到達するまでに液滴化されていることを確認した。
【0082】
吐出ヘッドE8(実施例2)
第2のオリフィスプレートとして吐出ヘッドE6と同じオリフィスプレート(Ni電鋳製、厚さ3μm、吐出口径1.5μm)を使用した他は、吐出ヘッドE7と全く同様な構造を持つ。
【0083】
吐出ヘッドE1及び吐出ヘッドE2は、厚くて硬いルビー製のオリフィスプレートを使用するため、20μm以下の吐出口径を開口することができなかった。Niの電鋳薄膜は、5μm以下の微細な吐出口を形成することができたが、薄いために強度が著しく低下し、ヘッド基材への固定が困難になった。
【0084】
次に、吐出させる液体として精製水を使用し、吐出ヘッドE1〜E8について液滴を吐出させ、吐出の様子を調べた。いずれの吐出ヘッドも、吐出口から液柱が生成し、その後、液滴に分裂する過程が観測された。液滴径は吐出口径の約2倍であった。
【0085】
吐出ヘッドE6に関しては液滴が吐出し始めた後で30秒以内に、接着剤とオリフィスプレートの界面から液もれが生じて吐出ヘッドが壊れた。また、吐出ヘッドE4に関しても規模は小さいが、同様な液漏れを起こして、ヘッド内の圧力値が高圧時にふらつき安定せず、かつ吐出口付近で、時々濡れが発生した。従来例による吐出ヘッドE3〜E6は全て水圧によってオリフィスプレートが凸型に変形し、吐出させた液柱が吐出ヘッドの吐出面に対して垂直に揃って吐出しなかった。
【0086】
一方、従来例による吐出ヘッドE1、E2及び実施例1,2による吐出ヘッドE7、E8は、各オリフィスプレートに全く変形は見られなかった。吐出の方向に関しても、吐出ヘッドの吐出面に対して垂直に揃って吐出した。
【0087】
これらのヘッドの吐出口から液滴が吐出し始めたときの吐出圧力を調べた結果を図7に示す。また、式(1)、式(3)、式(4)を使用して、精製水の物性パラメータと実験より得られたパラメータを用いて、通常のオリフィスプレートにおける吐出圧力のオリフィスプレート厚さ依存性を計算した計算値を、実線、破線及び一点鎖線のグラフで示す。オリフィスプレート厚さが薄いほど、また、ノズル径が大きいほど、吐出圧力は下がっている。計算値と実験値を考慮すると、本発明による吐出ヘッドE7、E8は、最もオリフィスプレート厚が薄い従来例の吐出ヘッドE5、E6よりも吐出圧力は若干高いものの、吐出ヘッドE3、E4よりも吐出圧力は低い。吐出ヘッドの耐久性の観点で比較すると、前記のように吐出ヘッドE3〜E6までの従来例よりも、本発明の吐出ヘッドE7、E8は吐出における耐久性が高いことがわかる。
【0088】
以上の結果より、本発明によれば、特に微小な液滴を吐出する際に、高い吐出耐久性と吐出圧力の低減が両立できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、吸入器、点鼻薬送入器などの液剤噴霧方式の医療用機器、あるいは、空調機、空気清浄機、換気設備など、大気圧下において、所定の空気の流れを発生させる機器中において利用される吐出機構において、その利用形態に応じた広範な適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】第1の実施形態による吐出ヘッドの吐出時の状態を示す断面図である。
【図2】図1の吐出ヘッドの非吐出時の状態を示す断面図である。
【図3】第1の実施形態の一変形例による吐出ヘッドを示す断面図である。
【図4】図1の吐出ヘッドを使用した吸入器を示す断面図である。
【図5】第2の実施形態による吐出ヘッドを示す断面図である。
【図6】一従来例による吐出ヘッドを示す断面図である。
【図7】比較実験における吐出ヘッドの各サンプルの吐出口径と吐出圧力の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
1 ヘッド基材
2 シール部材
3,6 オリフィスプレート
4、7 プレート固定部材
8 液体
8a、9 液滴
10 吐出ヘッド
21 吸入管
22 キャップジョイント部
23 キャップ
24 圧力センサー
25 薬液流路部材
26 薬液タンクシリンダー
27 薬液タンク蓋部材
28 ピストン
29 制御回路部
30 表示/インターフェース部
31 バッテリ
32 ピストン送りシャフト
33 ギアボックス
35 モーターシャフト
36 モーター
37 ハウジング
38 薬液タンクカートリッジ
39 カートリッジ接続部
40 連通口
41 フィルター
50 エネルギー付与機構
51 エネルギー伝達部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力を印加して吐出口から液体を吐出する液滴吐出装置に用いられる吐出ヘッドであって、
第1の吐出口径を有する第1の吐出口を備える第1のオリフィスプレートと、
前記第1のオリフィスプレートから液体の吐出方向に離間して配置された、第2の吐出口径を有する第2の吐出口を備える第2のオリフィスプレートと、を有し、
前記第1の吐出口径よりも前記第2の吐出口径のほうが小さいことを特徴とする吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第2のオリフィスプレートは、前記第1の吐出口に対向して、複数の第2の吐出口を備えていることを特徴とする請求項1に記載の吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第1の吐出口から吐出された液体は、前記第2のオリフィスプレートに到達するまでに液滴化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1のオリフィスプレートの厚みよりも前記第2のオリフィスプレートの厚みのほうが小さいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1のオリフィスプレートの厚みをT、前記第1の吐出口径をD、前記第2のオリフィスプレートの厚みをT、前記第2の吐出口径をDとすると、
>T、かつ、D>D、かつ、(T−T)/D>T/D
の関係を満たすことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第2のオリフィスプレートの吐出口間の距離は、前記第2の吐出口径以上、前記第1の吐出口径以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第1の吐出口径は、10μm以上、500μm以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1のオリフィスプレートと前記第2のオリフィスプレートの離間距離は、50μm以上、50mm以下であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第1のオリフィスプレートと前記第2のオリフィスプレートの間に、前記第1の吐出口から吐出され、前記第2の吐出口を通過できなかった液体を回収するための液回収部を有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第2のオリフィスプレートにエネルギーを与えるためのエネルギー付与機構を有することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の吐出ヘッド。
【請求項11】
前記エネルギーは熱エネルギーであることを特徴とする請求項10に記載の吐出ヘッド。
【請求項12】
前記エネルギーは振動エネルギーであることを特徴とする請求項10に記載の吐出ヘッド。
【請求項13】
前記エネルギーは帯電エネルギーであることを特徴とする請求項10に記載の吐出ヘッド。
【請求項14】
前記第2のオリフィスプレートの表面の液体の接触角は、前記第1のオリフィスプレートの表面の液体の接触角よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の吐出ヘッド。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の吐出ヘッドと、
前記液体に対して前記吐出ヘッドから吐出するための圧力を印加する圧力印加手段と、を有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項16】
前記吐出ヘッドから吐出する液体が、利用者に吸入させる薬液であることを特徴とする請求項15に記載の液滴吐出装置。
【請求項17】
請求項16に記載の液滴吐出装置を搭載することを特徴とする吸入器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−88979(P2010−88979A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259233(P2008−259233)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】