説明

含ケイ素置換基で置換された芳香環を配位子とするルテニウム錯体及びその製造方法

【課題】
本発明は、各種溶媒に対する溶解性が改善された新規なアレーン部位を有するルテニウム錯体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、アレーン部位を有するルテニウム錯体において、アレーン部位に三置換シリル基が導入された新規なルテニウム錯体、及びその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒や医薬品、機能性材料の合成の前駆体として重要なルテニウム芳香環錯体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6員芳香族化合物を配位子とするルテニウム芳香環錯体は、ルテニウム源として水素化触媒や水素移動錯体の前駆体として使われ、また近年では抗腫瘍剤や、半導体デバイスの薄膜電極材料などの前駆体としても用いられてきており、その需要が拡大してきている。 これらのルテニウム芳香環錯体は一般的に、(i)対応する1,3−又は1,4−シクロヘキサジエン類と三塩化ルテニウム(III)三水和物をエタノール又はメタノール中で還流することにより製造される(非特許文献1参照)。
また他の方法として、(ii)上記の方法で得られた[RuCl(p−シメン)]に対し、p−シメンより高沸点であるヘキサメチルベンゼンやデュレン(1,2,4,5−テトラメチルベンゼン)などを、高温のもと融解させ反応を行い、芳香環部位の交換を行う方法などがある(非特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Chem. Soc., Dalton Trans (1974) p. 233
【非特許文献2】Inorg. Chem., 19 (1980) p. 1014-1021
【非特許文献3】Inorg. Synth., 21 (1982) p. 74-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この方法で得られるアレーン部位がアルキルベンゼンである[RuCl(ベンゼン)]や[RuCl(p−シメン)]、[RuCl(メシチレン)]などの既知の錯体は概して各種溶媒に対する溶解性が悪い。そのため、水素化触媒や水素移動触媒の前駆体としてこれらのダイマーを用いるときには、その触媒調整の溶媒が限定されたり、多量の溶媒を用いることが必要になったりするなど工業化スケールでの釜効率や環境への負荷という点で問題となっていた。
本発明は、各種溶媒に対する溶解性が改善された新規なアレーン部位を有するルテニウム錯体、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは上記課題を解決するために検討を重ねた結果、ルテニウム芳香環錯体の芳香環(アレーン)部位に三置換シリル基を導入することにより、各種溶媒への溶解度が向上されたルテニウム芳香環錯体を得ることができることを見出した。
【0006】
本発明は以下の内容を包含するものである。
[1]次の一般式(1)、
[RuX(L)] (1)
(一般式(1)中、Xはハロゲン原子を示し、Lは下記一般式(2)
【0007】
【化1】

【0008】
(一般式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又は炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示し、n1、n2及びn3は0又は1を示す。)
で示される芳香族化合物を示す。)
で表わされるルテニウム錯体。
[2]ハロゲン化ルテニウム又はその水和物と、下記一般式(3)
【0009】
【化2】

【0010】
(一般式(3)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又は炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示し、n1、n2及びn3は0又は1を示す。)
で示されるジエン化合物とを溶媒中で反応させることを特徴とする前記[1]に記載のルテニウム錯体の製造方法。
[3]塩基存在下で反応させることを特徴とする前記[2]に記載の製造方法。
[4]ハロゲン化ルテニウムが塩化ルテニウムであることを特徴とする前記[2]又は[3]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により得られるルテニウム芳香環錯体は、水素化触媒や水素移動触媒に広く用いることができ、触媒の前駆体としてこれらのダイマーを用いるときには、その溶解性の良さから、既知のアレーン部位がアルキルベンゼンであるダイマーに比べ、より多くの種類の触媒調整の溶媒を用いることが可能となる。また、溶解性が改善されることにより、大量の溶媒を用いる必要が無くなるので、工業化スケールでの釜効率が改善されるだけでなく、環境への負荷も少なくなるという点で大きな利点となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
一般式(2)で示される芳香族化合物及び一般式(3)で表されるジエン化合物において、R〜Rで示される炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。好ましいアルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。
一般式(2)で示される芳香族化合物及び一般式(3)で表されるジエン化合物において、R〜Rで示される炭素数3〜6のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
一般式(2)で示される芳香族化合物及び一般式(3)で表されるジエン化合物において、R〜Rで示される炭素数1〜10のアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。好ましいアルコキシ基としては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。
一般式(2)で示される芳香族化合物及び一般式(3)で表されるジエン化合物において、R〜Rで示される炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよいフェニルとしては、前記してきたような炭素数1〜10のアルキル基や炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基が挙げられる。好ましい置換されていてもよいフェニル基としては、無置換のフェニル基、炭素数1〜10好ましくは炭素数1〜5のアルキル基で置換されたフェニル基、例えば、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基などが挙げられる。
一般式(2)で示される芳香族化合物及び一般式(3)で表されるジエン化合物において、R〜Rで示される基の好ましい基としては、炭素数1〜10、より好ましくは1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。
【0013】
また、一般式(2)で示される芳香族化合物及び一般式(3)で表されるジエン化合物において、R及びRで示される、炭素数1〜10のアルキル基や炭素数1〜10のアルコキシ基としては前記したような基が挙げられる。好ましいR及びR基としては、R又はRの両方又は片方が、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基のものが挙げられる。R及びR基における好ましい炭素数1〜10のアルキル基としてはメチル基、エチル基、イソプロピル基などが挙げられる。
【0014】
一般式(2)で示される芳香族化合物及び一般式(3)で表されるジエン化合物において、SiRなどで示される三置換シリル基とは、ケイ素原子の3つの原子価が炭素原子と結合しているシリル基であり、ケイ素原子と結合している炭素原子としては飽和又は不飽和の脂肪族原子、飽和又は不飽和の脂環式原子、又は芳香族原子のいずれであってもよい。好ましい三置換シリル基の具体例としては、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基などのトリアルキル置換シリル基、トリフェニルシリル基などのトリアリール置換シリル基、ジフェニルメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基などのアリール−アルキル置換シリル基などが挙げられる。
また、一般式(2)で示される好ましい芳香族化合物としては、トリメチルシリルベンゼン、トリメチルシリルトルエン、トリメチルシリルキシレン、トリエチルシリルベンゼン、トリエチルシリルトルエン、トリエチルシリルキシレン、t-ブチルジメチルシリルベンゼン、t-ブチルジメチルシリルトルエン、t-ブチルジメチルシリルキシレンなどのトリアルキル置換三置換シリル基をもつトリアルキル置換三置換シリルベンゼン;トリフェニルシリルベンゼン、トリフェニルシリルトルエン、トリフェニルシリルキシレン、ジメチルフェニルシリルベンゼン、ジメチルフェニルシリルトルエン、ジメチルフェニルシリルキシレンなどの少なくとも1個の(置換)フェニル基で置換されている三置換シリル基をもつアルキル置換ベンゼンなどが挙げられる。
ベンゼン環における三置換シリル基は、少なくとも1個あればよく、2個又は3個以上あってもよい。好ましい三置換シリル基の数としては、1個以上、より好ましくは1個又は2個である。複数の三置換シリル基で置換されている場合には、それぞれの三置換シリル基は同じであっても、異なっていてもよい。
【0015】
一般式(1)で示されるルテニウム錯体におけるXのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。好ましいハロゲン原子としては、塩素原子が挙げられる。
【0016】
本発明のルテニウム芳香環錯体の製造方法としては、例えばJ. Chem. Soc., Dalton
Trans(1974)p. 233、Organic & Biomolecular Chemistry(2007), p. 1093などに記載の方法に準じて、一般式(3)で示される1,4−シクロヘキサジエン誘導体と塩化ルテニウム三水和物とを、NaHCOなどの塩基存在下又は塩基非存在下、2−メトキシエタノールなどのアルコール溶媒中にて反応させることにより目的のルテニウム芳香環錯体を製造することができる。
ここで用いられる溶媒としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサノール等の脂肪族アルコール;ベンジルアルコール等のアラルキルアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、2−メトキシエタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル等のジオール類などを用いることができる。
【0017】
一般式(3)で表される1,4−シクロヘキサジエン誘導体の使用量についてはルテニウム原子に対して1〜20等量、好ましくは2〜10等量、より好ましくは3〜6等量である。
また、本発明の錯体の製造方法は塩基存在下で行うこともできる。ここで用いられる塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機塩基;トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、トリイソプロピルアミンなどのアミン類が挙げられる。
【0018】
塩基の使用量としては、ルテニウム原子に対して0.2〜2.0等量、好ましくは1.0〜1.5等量である。
反応温度としては、例えば、60℃〜200℃、好ましくは80℃〜180℃である。
反応時間は用いる反応基質により異なるが、30分〜20時間、好ましくは1時間〜12時間である。本製造法は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行うことが好ましい。反応終了後は、反応混合物をろ過、乾燥等の所望の分離操作を行うことで目的の錯体を得ることができ、操作的に非常に簡便である。
【0019】
一般式(3)で示される1,4−シクロヘキサジエン誘導体は、例えば、Tetrahedron Letters 41(2000) p.6757、又はSynthesis(2000) p.609などに記載の方法に準じて、イソプレンのような1,3−ジエンと、トリメチルシリルアセチレンのような三置換シリル基を有するアセチレン誘導体とを、コバルトなどの金属触媒のもとDiels-Alder反応を行うことにより、6員環状の1,4−シクロヘキサジエン誘導体を製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例における錯体の同定及び純度決定に用いたH−NMRスペクトルは、バリアンテクノロジージャパンリミテッド製Mercury Plus 300 4N型装置(300MHz)で測定した。
【0021】
(参考例1) トリメチル(4−メチル−1,4−シクロヘキサジエニル)シランの製造
四つ口フラスコ内にて、CoBr 1.12g(5.1mmol)、ZnI 5.43g(17mmol)、及びジフェニルホスフィノエタン2.24g(5.6mmol)をジクロロメタン250mlに溶解させ、30℃にて30分間攪拌を行った。その後イソプレン50ml(500mmol)、トリメチルシリルアセチレン63.5ml(450mmol)、及びBuNBH 1.45g(5.6mmol)を加え30℃にて1時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタンの回収を行った後、減圧下で蒸留して目的のジエンであるトリメチル(4−メチル−1,4−シクロヘキサジエニル)シランを68.6g、91.7%の収率(GC純度80%)で得た。
H−NMR (CDCl) δ:
0.08(s, 9H), 1.67 (s, 3H),2.61 (m, 2H),
2.71 (m, 2H), 5.47 (m, 1H), 6.03 (m, 1H),
【0022】
(実施例1)[RuCl(4−(トリメチルシリル)トルエン)]の製造
50mlシュレンク管に、塩化ルテニウム三水和物2.13g(9.0mmol)とトリメチル(4−メチル−1,4−シクロヘキサジエニル)シラン6.8g(40.8mmol)、NaHCO 0.76g(9.0mmol)、水 2.3ml及び2−メトキシエタノール22mlを加え、130℃にて1時間反応を行った。その後室温まで放冷し析出した結晶を濾過することにより目的の[RuCl(4−(トリメチルシリル)トルエン)]を2.06g、76%の収率で得た。
H−NMR (CDCl) δ:
0.39(s, 9H), 2.11 (s, 3H),5.33 (d, 2H), 5.59 (d, 2H)
【0023】
(参考例2)トリイソプロピル(4−メチル−1,4−シクロヘキサジエニル)シランの製造
四つ口フラスコに、CoBr 0.27g(1.2mmol)とZnI 1.33g(4.2mmol)、ジフェニルホスフィノエタン0.55g(1.4mmol)及びジクロロメタン60mlを加え、30℃にて30分間攪拌を行った。その後イソプレン12.2ml(122mmol)、トリイソプロピルシリルアセチレン20g(110mmol)、BuNBH 0.35g(1.4mmol)を加え30℃にて1時間反応させた。ジクロロメタンの回収を行った後、濃縮物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製することにより目的のジエンであるトリイソプロピル(4−メチル−1,4−シクロヘキサジエニル)シランを24.6g、89.7%の収率(GC純度80%)で得た。
H−NMR (CDCl) δ:
1.05(d, 18H), 1.17(m, 3H) ,1.66 (s, 3H), 2.65 (m, 2H),
2.71 (m, 2H), 5.42 (m, 1H), 6.02 (m, 1H)
【0024】
(実施例2)[RuCl(4−(トリイソプロピルシリル)トルエン)]の製造
150mlシュレンク管に、塩化ルテニウム三水和物1.18g(4.5mmol)とトリイソプロピル(4−メチル−1,4−シクロヘキサジエニル)シラン5.6g(22.5mmol)、NaHCO 0.38g(4.5mmol)及び2−メトキシエタノール11mlを加え、130℃にて9時間反応を行った。その後室温まで放冷し析出した結晶を濾過することにより目的の[RuCl(4−(トリイソプロピルシリル)トルエン)]を1.4g、73.0%の収率で得た。
H−NMR (CDCl) δ:
1.15(d, 18H), 1.42(m, 3H), 2.09 (s, 3H), 5.34 (d, 2H), 5.64 (d, 2H)
【0025】
本発明の方法で得られたケイ素置換基を有する[RuCl(アレーン)]錯体と、従来からあるアレーン部位がアルキルベンゼンの[RuCl(アレーン)]錯体の各種溶媒への25℃における溶媒100mlに対する溶解度(g/100ml)を下の表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように本発明の錯体は極性溶媒及び非極性溶媒のいずれに対しても溶解性が高いことがわかる。したがって、本発明の三置換シリル基を有するルテニウム錯体は、触媒として従来のルテニウム触媒に比べて、より高濃度で使用することができることがわかる。
【0028】
(実施例3)[RuCl(4−(トリメチルシリル)トルエン)]の製造
50mlシュレンク管に、塩化ルテニウム三水和物0.533g(2.24mmol)、トリメチル(4−メチル−1,4−シクロヘキサジエニル)シラン1.70g(10.2mmol)、NaHCO 0.188g(2.24mmol)、水1.17ml及びエタノール10.7mlを加え、バス温90℃にて8時間反応を行った。溶媒留去しペンタン30mlを加え析出した結晶を1.25g得た。H−NMR分析より[RuCl(4−(トリメチルシリル)トルエン)]の純度は90%であった。
【0029】
(実施例4)[RuCl(4−(トリメチルシリル)トルエン)]の製造
4つ口フラスコに、塩化ルテニウム三水和物3.00g(11.5mmol)、トリメチル(4−メチル−1,4−シクロヘキサジエニル)シラン9.53g(57.4mmol)、水 6.60ml及びエタノール60mlを加え、バス温90℃にて8時間反応を行った。溶媒留去しペンタン50mlを加え析出した結晶を3.63g得た。H−NMR分析より[RuCl(4−(トリメチルシリル)トルエン)]の純度は70%であった。
【0030】
(参考例3)(4,5−ジメチル−1,4−シクロヘキサジエニル)トリメチルシランの合成
四つ口フラスコ内にてCoBr 0.54g(2.5mmol)とZnI 2.62g(8.2mmol)、ジフェニルホスフィノエタン1.09g(2.7mmol)をジクロロメタン120mlに溶解させ30℃にて0.5時間攪拌を行った。その後、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン27.5ml(244mmol)、トリメチルシリルアセチレン21.5g(219mol)、BuNBH 0.69g(2.7mmol)を加え30℃にて1時間反応させた。ジクロロメタンの回収を行った後、減圧蒸留を行うことにより目的物を23.3g、59.0%収率(GC純度89%)で得た。
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
0.07(s, 9H), 1.64(s, 3H), 1.66(s, 3H), 2.62(m, 4H), 6.00(m, 1H)
【0031】
(実施例5)[RuCl((3,4−ジメチルフェニル)トリメチルシラン)]の合成
50mlシュレンク管にて塩化ルテニウム三水和物0.53g(2.2mmol)と(4,5−ジメチル−1,4−シクロヘキサジエニル)トリメチルシラン1.8g(10.2mmol)、NaHCO 0.19g(2.2mmol)、を2−メトキシエタノール11ml、水1.2mlに溶解させ130℃にて1時間反応を行った。その後−30℃まで冷却し析出した結晶を濾過することにより目的のルテニウム錯体を0.43g、54.8%収率で得た。
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
0.39(s,9H),2.03(s,3H),2.14(s,3H),5.30(m,1H),5.38(m,1H),5.48(m,1H)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)、
[RuX(L)] (1)
(一般式(1)中、Xはハロゲン原子を示し、Lは下記一般式(2)
【化3】

(一般式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又は炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示し、n1、n2及びn3は0又は1を示す。)
で示される芳香族化合物を示す。)
で表わされるルテニウム錯体。
【請求項2】
ハロゲン化ルテニウム又はその水和物と、下記一般式(3)
【化4】

(一般式(3)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又は炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示し、n1、n2及びn3は0又は1を示す。)
で示されるジエン化合物とを溶媒中で反応させることを特徴とする請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。
【請求項3】
塩基存在下で反応させることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン化ルテニウムが、塩化ルテニウムであることを特徴とする請求項2又は3に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−1343(P2011−1343A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97135(P2010−97135)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】