説明

含フッ素アリル化合物の製造方法、および含フッ素エポキシ化合物の製造方法

【課題】含フッ素アリル化合物の製造方法、および含フッ素エポキシ化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記化合物(3)を熱分解反応する下記化合物(4)の製造方法、下記化合物(1)を液相フッ素化反応して下記化合物(2)を得て、つぎに化合物(2)をエステル分解反応して下記化合物(3F)を得て、つぎに化合物(3F)を熱分解反応する下記化合物(4)で表される化合物の製造方法、前記いずれかの製造方法で得られた化合物(4)を酸化反応する下記化合物(5)の製造方法。ただし、XはCl等を、Yはハロゲン原子またはKO−等を、RはF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)−等を、示す。
YCO−CFCFCF−X (3)、
CF=CFCF−X (4)、
COO−CHCHCHCH−X (1)、
COO−CFCFCFCF−X (2)、
FCO−CFCFCF−X (3F)。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素アリル化合物の製造方法、および含フッ素エポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CF=CFCFCl、CF=CFCFBr等のペンタフルオロアリルハライドは、単量体、反応中間体として有用である。
たとえば、CF=CFCFClと酸素を反応させることにより、下式で表される含フッ素エポキシ化合物を製造できる(特許文献1参照。)。
【0003】
【化1】

【0004】
前記含フッ素エポキシ化合物と下記化合物(s1)を反応させて下記化合物(s2)を得て、つぎに化合物(s2)を熱分解反応した場合には、下記化合物(s3)を高収率に製造できる(特許文献2参照。)。
FCO−CFSOF (s1)、
FCO−CF(CFCl)OCFCFSOF (s2)、
CF=CFOCFCFSOF (s3)。
化合物(s3)は、イオン交換容量が大きく電気抵抗が小さい、プロトン交換能を有する含フッ素重合体を製造するための単量体として有用である。
【0005】
CF=CFCFClの製造方法としては、Zn存在下にCFClCFClCFClを脱塩素化する方法が知られている(非特許文献1参照。)。
【0006】
一方、本出願人は、フッ素原子に置換され得る水素原子を含有する化合物中の該水素原子を効率的にフッ素原子に置換せしめる−COFを有する含フッ素化合物の製造方法、たとえば、下記化合物(p1)を液相中でフッ素化して下記化合物(p2)を得て、つぎに化合物(p2)をエステル分解反応することにより下記化合物(p3)を得る方法を提案している(特許文献3など参照。)。
Fq−COO−CH−RHp (p1)、
Fq−COO−CF−RFp (p2)、
Fp−COF (p3)。
式中の記号は下記の意味を示す。
Fq:ペルフルオロ有機基。
Hp:フッ素原子に置換され得る水素原子を含む有機基。
Fp:RHq中のフッ素原子に置換され得る水素原子がフッ素原子に置換された基。
【0007】
【特許文献1】米国特許第3536733号明細書
【特許文献2】特開昭57−028025号公報
【特許文献3】国際公開第00/56694号パンフレット
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,1948,70,130−132
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CF=CFCFClは、非特許文献1に記載されるように、CFClCFClCFClをZn存在下に脱塩素化する方法によって製造されてきた。しかし、前記方法は、副生するZn廃液を別途処理する必要があり、工業的な実施に適した方法ではない。また、CFClCFClCFClは、CClCFClCCl中の塩素原子を部分的にフッ素原子に置換せしめる部分フッ素化法によって製造される。しかし、前記部分フッ素化法によってCFClCFClCFClを効率よく製造するのは容易ではない。
そのため、従来は、CF=CFCFClを効率よく工業的に製造できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は下記発明を提供する。
<1> 下式(3)で表される化合物を熱分解反応する下式(4)で表される化合物の製造方法。
Y−CO−CFCFCF−X (3)、
CF=CFCF−X (4)。
式中の記号は下記の意味を示す。
X:Cl、Br、IまたはOSOF。
Y:ハロゲン原子または式MO−で表される基(ただし、Mはアルカリ金属原子を示す。)。
【0010】
<2> 下式(1)で表される化合物を液相中でフッ素化反応して下式(2)で表される化合物を得て、つぎに該化合物をエステル分解反応して下式(3F)で表される化合物を得て、つぎに該化合物を熱分解反応する下式(4)で表される化合物の製造方法。
−COO−CHCHCHCH−X (1)、
−COO−CFCFCFCF−X (2)、
FCO−CFCFCF−X (3F)、
CF=CFCF−X (4)。
式中の記号は下記の意味を示す。
X:Cl、Br、IまたはOSOF。
:炭素数1〜20のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいぺルフルオロアルキル基。
【0011】
<3> 式(1)で表される化合物を液相中でフッ素ガスを用いてフッ素化反応する<2>に記載の製造方法
<4> <1>〜<3>のいずれかの製造方法で得られた式(4)で表される化合物を酸化反応する下式(5)で表される化合物の製造方法。
【0012】
【化2】

【0013】
式中の記号は下記の意味を示す。
X:Cl、Br、IまたはOSOF。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、単量体、反応中間体として有用な、ペンタフルオロアリルハライド等の含フッ素アリル化合物を、入手容易な化合物から効率よく工業的に製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書において、式中の記号は、特に記載しない限り前記と同義である。本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。他の化合物も同様に記す。
【0016】
本発明は、下記化合物(3)を熱分解反応する下記化合物(4)の製造方法を提供する。
Y−CO−CFCFCF−X (3)、
CF=CFCF−X (4)。
【0017】
化合物(3)は、−COFを有し、そのγ位炭素原子にXが結合している化合物である。化合物(3)を熱分解反応した場合には、化合物(3)のXが脱離してCF=CFCFが生成するか、生成した化合物(4)が異性化してCFCF=CFXが生成することが予想され、化合物(4)を効率よく製造できないと考えられた。しかし、本発明者らは、化合物(3)の熱分解反応により化合物(4)を効率よく製造できることを見い出した。
【0018】
本明細書におけるXは、ClまたはBrであるのが好ましい(以下同様。)。
Yは、ハロゲン原子であるのが好ましく、入手容易性の観点から、フッ素原子であるのが特に好ましい。
式MO−で表される基におけるMは、特に限定されず、ナトリウム原子またはカリウム原子であるのが好ましい。
【0019】
Yが式MO−で表される基である化合物(3)は、Yがハロゲン原子である化合物(3)とアルカリ金属水酸化物を含む水溶液とを反応させる方法、または、前記化合物(3)とCHOHを反応させて下記化合物(3m)を得て、つぎに化合物(3m)とアルカリ金属水酸化物を含む水溶液とを反応させる方法を用いて製造するのが好ましい。
CHOCO−CFCFCF−X (3m)。
【0020】
化合物(3)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
FCO−CFCFCF−Cl、
FCO−CFCFCF−Br、
FCO−CFCFCF−I、
FCO−CFCFCF−OSOF、
KOCO−CFCFCF−Cl、
NaOCO−CFCFCF−Br、
KOCO−CFCFCF−Cl、
NaOCO−CFCFCF−Br、
化合物(4)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CF=CFCF−Cl、
CF=CFCF−Br、
CF=CFCF−I、
CF=CFCF−OSOF。
【0021】
本発明における熱分解反応は、触媒の存在下に行うのが好ましい。
触媒は、酸化ケイ素化合物、アルカリ金属炭酸塩、およびアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種のアルカリ性触媒が好ましく、酸化ケイ素化合物がより好ましく、酸化ケイ素化合物が特に好ましく、アルカリガラスが最も好ましい。
【0022】
酸化ケイ素化合物の具体例としては、アルカリガラスが挙げられ、ソーダライムガラス(NaO−CaO−SiO系ガラス。)、鉛クリスタルガラス(KO−PbO−SiO系ガラス。)、セミクリスタルガラス(KO−PbO−SiO−NaO系ガラス。)、ホウケイ酸塩ガラス(NaO−B−SiO系ガラス。)等が挙げられる。
アルカリ金属炭酸塩の具体例としては、LiCO、KCO、NaCO等が挙げられる。
アルカリ土類金属炭酸塩の具体例としては、CaCO、MgCO、BaCO等が挙げられる。
【0023】
触媒の形状は、特に限定されず、ペレット状であってもよく微粉末状であってもよい。触媒の形状は、化合物(3)と均一接触しやすく固結しにくい観点から、ペレット状が好ましい。
ペレットの形状は、特に限定されず、球状、紡錘状、棒状、筒状のいずれの形状であってもよい。ペレットの径は、1〜20mmが好ましく、2〜5mmが特に好ましい。また、微粉末の形状は、化合物(3)の接触に伴う触媒の自発流動を促進する観点から、中心粒度が10〜500μmの微粉末状が好ましく、中心粒度が50〜200μmの微粉末状が特に好ましい。粉末形状は、球形が好ましい。また、触媒は担体に保持してもよい。
【0024】
本発明における熱分解反応を触媒の存在下に行う場合、熱分解反応は、気固反応または液固反応によって行うのが好ましく、高純度の化合物(4)が得られ反応操作が容易である観点から、気固反応によって行うのが特に好ましい。なお、気固反応においては、化合物(3)が気体であり触媒が固体である。
【0025】
熱分解反応における温度は、50℃〜400℃が好ましく、100℃〜360℃が特に好ましい。
熱分解反応における圧力は、特に限定されない。
【0026】
熱分解反応の好ましい態様としては、化合物(3)の気体を酸化ケイ素化合物が充填された反応器中に流通させる態様が挙げられる。化合物(3)の気体は、不活性ガスで希釈してもよい。この場合、不活性ガスの量は、化合物(3)の気体と不活性ガスとの総量に対して、40モル%〜95モル%が好ましく、50モル%〜90モル%が特に好ましい。不活性ガスの具体例としては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスが挙げられる。
【0027】
本発明の好ましい態様としては、下記化合物(1)を液相フッ素化反応して下記化合物(2)を得て、つぎに化合物(2)をエステル分解反応して化合物(3F)を得て、つぎに化合物(3F)を熱分解反応して化合物(4)を製造する態様が挙げられる。
COO−CHCHCHCH−X (1)、
COO−CFCFCFCF−X (2)、
FCO−CFCFCF−X (3F)。
【0028】
は、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜20のエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基であるのが好ましい。Rの炭素数は、2以上であるのが好ましい。この場合、エステル分解反応により生成する式RC(O)Fで表される化合物は液状であり、その回収が容易である。
の具体例としては、−CFCF、−CF(CF)CFCF、−CF(CF、−CF(CF)O(CFF、−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFF等が挙げられる。
【0029】
化合物(1)は、部分フッ素化された含フッ素エステル化合物である。化合物(1)のフッ素含有量(分子中のフッ素原子の割合)は、液相中でのフッ素化反応に用いられる液相の種類に応じて適宜変更するのが好ましく、通常は30〜70質量%が好ましい。
化合物(1)の分子量は、200〜1000が好ましい。この場合、液相中でのフッ素化反応を円滑に行いうる。すなわち、化合物(1)の分子量が200未満であると、化合物(1)が気化しやすく液相でのフッ素化反応時に気相中で分解反応が起こる場合がある。また、化合物(1)の分子量が1000超であると、化合物(2)の精製が困難になる場合がある。
【0030】
化合物(1)の製造方法としては、式HO−CHCHCHCH−Xで表される化合物と式RCOFで表される化合物とを反応させる方法が挙げられる。
【0031】
化合物(1)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CF(CFCOO−(CHCl、
F(CFOCF(CF)COO−(CHCl、
F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COO−(CHCl、
CF(CFCOO−(CHBr、
F(CFOCF(CF)COO−(CHBr、
F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COO−(CHBr。
【0032】
化合物(1)の液相中でのフッ素化反応は、化合物(1)を液相中でフッ素ガスを用いてフッ素化する方法(液相フッ素化法)、または、化合物(1)を溶解させて得られた無水フッ化水素酸溶液を電解槽中で電解して化合物(1)をフッ素化する方法(電解フッ素化法)によって行うのが好ましく、液相フッ素化法によって行うのが特に好ましい。
【0033】
液相フッ素化法は、本出願人による国際公開00/56694号パンフレットに記載の液相フッ素化法によって実施するのが好ましい。
たとえば、フッ素ガスは、そのままを用いてもよく、不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス等。)で希釈して用いてもよい。後者の場合、不活性ガス中のフッ素ガス量は、10体積%以上が好ましく、20体積%以上が特に好ましい。また、液相フッ素化法における液相は、フッ素ガスに対して不活性な溶媒で構成されれば特に限定されない。前記液相は、C−H結合を含まずC−F結合を必須とする溶媒で構成されるのが好ましく、化合物(1)を1質量%以上(好ましくは5質量%以上。)溶解しうる溶媒で構成されるのが特に好ましい。
【0034】
化合物(2)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CF(CFCOO−(CFCl、
F(CFOCF(CF)COO−(CFCl、
F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COO−(CFCl、
CF(CFCOO−(CFBr、
F(CFOCF(CF)COO−(−CFBr、
F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COO−(CFBr。
【0035】
化合物(2)のエステル分解反応とは、化合物(2)のエステル部分を開裂せしめ、化合物(3F)と式RCOFで表される化合物を生成させる反応である。
化合物(2)のエステル分解反応は、求核剤の存在下に行うのが好ましい。
求核剤は、アルカリ金属フッ化物が好ましく、NaF、NaHF、KFまたはCsFが好ましく、KFが特に好ましい。求核剤の量は、化合物(2)に対して、1〜500モル%が好ましく、10〜100モル%が特に好ましい。
【0036】
エステル分解反応を求核剤の存在下に行う場合、化合物(2)のエステル分解反応は、気固反応または液固反応によって行うのが好ましく、反応操作が容易である観点から、気固反応によって行うのが特に好ましい。なお、気固反応においては、化合物(2)が気体であり触媒が固体である。
【0037】
エステル分解反応における温度は、50℃〜400℃が好ましく、100℃〜360℃が特に好ましい。エステル分解反応における圧力は、特に限定されない。
【0038】
化合物(3F)の熱分解反応は、前記した化合物(3)の熱分解反応と同様に実施するのが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法で得られた化合物(4)は、単量体、反応中間体として有用な含フッ素アリル化合物である。前記化合物(4)を酸化反応することにより、下記化合物(5)を製造するのが好ましい。
【0040】
【化3】

【0041】
化合物(5)とFCO−CFSOFを反応させて式FCO−CF(CFX)OCFCFSOFで表される化合物を得て、つぎに該化合物を熱分解反応することによりCF=CFOCFCFSOFを効率よく製造できる。CF=CFOCFCFSOFは、イオン交換容量が大きく電気抵抗が小さい、プロトン交換能を有する含フッ素重合体を製造するための単量体として有用である。
【0042】
化合物(4)の酸化反応は、化合物(4)を酸素ガスと接触させる方法、または、化合物(4)を次亜塩素酸塩と接触させる方法により行うのが好ましく、反応収率の観点から、化合物(4)を酸素ガスと接触させる方法により行うのが特に好ましい。
【0043】
化合物(4)と酸素ガスと接触させる方法は、不活性溶媒(たとえば、フルオロトリクロロメタン、トリクロロトリフルオロエタン、ペンタフルオロジクロロプロパン、ペルフルオロシクロブタン等。)の存在下に行ってもよく、溶媒の不存在下に行ってもよい。接触における温度は、収率と反応選択率の観点から、50℃〜200℃が好ましく、80℃〜150℃が特に好ましい。
【0044】
化合物(4)と次亜塩素酸塩と接触させる方法は、次亜塩素酸塩を含む水層と、有機層とを含む2層系中で行うのが好ましい。接触における温度は、収率と反応選択率の観点から、50℃〜200℃が好ましく、80℃〜150℃が特に好ましい。
次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸セシウム、次亜塩素酸マグネシウムまたは次亜塩素酸カルシウムが好ましく、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウムが特に好ましい。
【0045】
有機層は、水に不溶または難溶性である不活性有機溶媒で構成されるのが好ましい。前記不活性有機溶媒の具体例としては、脂肪族炭化水素類(n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等。)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン等。)、クロロカーボン類(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等。)、クロロフルオロカーボン類(フルオロトリクロロメタン、トリクロロトリフルオロエタン等。)、フルオロカーボン類(ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロデカン、ヘキサフルオロベンゼン等。)等が挙げられる。
【0046】
水層は、さらに無機塩基を含むのが好ましい。さらに水層は相間移動触媒を含むのが好ましい。
無機塩基は、アルカリ金属水酸化物(たとえば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等。)またはアルカリ土類金属水酸化物(たとえば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等。)が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
相間移動触媒は、次亜塩素酸塩中のカチオンに対する親油性錯化能と有機層に対する親和性とを有する相間移動触媒が好ましく、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩または第4級アルソニウム塩がより好ましく、第4級アンモニウム塩が特に好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中においてはCClFCClFをR−113と記す。圧力は特に表記しないかぎり、ゲージ圧で記す。GC純度とは、ガスクロマトグラフィー分析によるピーク面積比から求めた化合物の純度を示す。収率は、ヘキサフルオロベンゼンを基準とした19F−NMR分析から求めた値である。
【0048】
[例1]FCOCFCFCFCl(以下、化合物(31)という。)の製造例
[例1−1]F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCHCHCHCHCl(以下、化合物(11)という。)の製造例
オートクレーブ(ハステロイC製、内容積200mL)に、CHClCHCHCHOH(25g)を入れた。オートクレーブ内温30℃以下にて、オートクレーブ内を撹拌し、さらに窒素ガスをバブリングさせながら、オートクレーブにCFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COF(155g)をゆっくりと入れた。つぎに、オートクレーブ内温50℃にて、さらにオートクレーブ内を撹拌した。オートクレーブ内容物をGC分析した結果、GC純度97.8%にて化合物(11)が生成していることを確認した。また、CHClCHCHCHOHは検出されなかった。
【0049】
化合物(11)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.89(4H)、3.54(2H)、4.41(2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−80.0〜−81.0(1F)、−81.5(3F)、−82.3〜−82.8(5F)、−83.0(3F)、−84.6〜−85.4(1F)、−129.7(2F)、−131.8(1F)、−145.5(1F)。
【0050】
[例1−2]F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCFCFCFCFCl(以下、化合物(21)という。)の製造例
オートクレーブ(ニッケル製、500mL)にR−113(312g)を加えた後に、オートクレーブ内温25℃にてオートクレーブ内を撹拌した。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また、−10℃に保持した冷却器からは、凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。
オートクレーブ内温25℃にて、オートクレーブに窒素ガスを1時間吹き込み、窒素ガスで20vol%に希釈したフッ素ガス(以下、希釈フッ素ガスと記す。)を流速16.0L/hで1時間吹き込んだ。
【0051】
つぎに、希釈フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例1−1で得た化合物(11)(35g)をR−113(125g)に溶解させた溶液を5.0時間かけて注入した。
そのまま、希釈フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブ内圧力を0.1MPa(ゲージ圧)まで昇圧し、オートクレーブ内温を25℃から40℃に昇温させながら、ベンゼンを0.01g/mL含むR−113溶液を9mL注入した。注入後、オートクレーブ内をそのまま1時間、撹拌した。
つづいて、オートクレーブ内圧を常圧にして、オートクレーブ窒素ガスを1時間吹き込んだ後にオートクレーブ内溶液を回収した。回収したオートクレーブ内容液中のR−113を減圧留去して、無色透明の液体(43.6g)を得た。該液体を19F−NMRで分析した結果、収率94.6%にて化合物(21)が生成していることを確認した。
【0052】
化合物(21)のNMRデータを以下に示す。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−67.7(2F)、−80.0〜−81.0(1F)、−81.5(3F)、−82.3〜−82.8(5F)、−83.0(3F)、−84.6〜−85.4(1F)、−85.99(2F)、−119.7(2F)、−123.9(2F)、−129.7(2F)、−131.8(1F)、−145.5(1F)。
【0053】
[例1−3]化合物(31)の製造例
4つ口フラスコ(内容積50mL)に化合物(21)(38.5g)と、乾燥したフッ化カリウム(1.58g)を入れた。4つ口フラスコには、50℃の温水を流通させたリービッヒコンデンサーを縦に据え付け、コンデンサーの出口ラインにはドライアイスで冷却したガラストラップを接続した。
【0054】
4つ口フラスコ内温を130℃に昇温させ7時間反応させることにより、GC純度99.7%の化合物(31)を含む液体がガラストラップに捕集された。副生物であるF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COFは留出させずにフラスコ内に残した。ガラストラップに回収された液体の総量は、11.24gであった。
【0055】
[例2]CF=CFCFCl(以下、化合物(41)という。)の製造例
底部に窒素ガス導入ラインを、上部にドライアイスで冷却したガラストラップを接続した管状反応器(内径16mm、インコネル製)に、ソーダガラスビーズ(岳南光機社製、#150)を充填高が40cmになるように80mL充填した。塩浴炉によって、管状反応器温度を320℃に保持した。
【0056】
化合物(31)を含む液体が捕集された例1−3のガラストラップを−12℃に保持しながら窒素ガス導入ラインに繋いだ。前記ガラストラップに乾燥窒素ガスを0.24mol/hの流量にて導入することにより、蒸気圧分だけ蒸発した化合物(31)を含む窒素ガスを管状反応器に導入して、化合物(31)の熱分解反応を行った。
前記液体の11.0gが管状反応器に導入された段階で、管状反応器上部のガラストラップに回収された液体(4.86g)を分析した結果、GC純度70.6%にて化合物(41)が生成していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、単量体、CF=CFOCFCFSOF等を製造するための反応中間体として有用な含フッ素アリル化合物を、入手容易な化合物から、効率よく工業的に製造する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(3)で表される化合物を熱分解反応する下式(4)で表される化合物の製造方法。
Y−CO−CFCFCF−X (3)、
CF=CFCF−X (4)。
式中の記号は下記の意味を示す。
X:Cl、Br、IまたはOSOF。
Y:ハロゲン原子または式MO−で表される基(ただし、Mはアルカリ金属原子を示す。)。
【請求項2】
下式(1)で表される化合物を液相中でフッ素化反応して下式(2)で表される化合物を得て、つぎに該化合物をエステル分解反応して下式(3F)で表される化合物を得て、つぎに該化合物を熱分解反応する下式(4)で表される化合物の製造方法。
−COO−CHCHCHCH−X (1)、
−COO−CFCFCFCF−X (2)、
FCO−CFCFCF−X (3F)、
CF=CFCF−X (4)。
式中の記号は下記の意味を示す。
X:Cl、Br、IまたはOSOF。
:炭素数1〜20のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいぺルフルオロアルキル基。
【請求項3】
式(1)で表される化合物を液相中でフッ素ガスを用いてフッ素化反応する請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの製造方法で得られた式(4)で表される化合物を酸化反応する下式(5)で表される化合物の製造方法。
【化1】

式中の記号は下記の意味を示す。
X:Cl、Br、IまたはOSOF。

【公開番号】特開2008−120763(P2008−120763A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309133(P2006−309133)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】