説明

含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法

【課題】含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルを、工業的に有利な方法で、簡便に高い選択率で収率良く製造できる方法を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)
MOOCCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (1)
(式中、Mは、M又は(M1/2であって、Mはアルカリ金属、4級アンモニウム基又は4級ホスホニウム基であり、Mはアルカリ土類金属である。aは0又は1、bは0〜5の整数、cは1〜10の整数である)で表されるカルボン酸塩を脱炭酸することを特徴とする、一般式(2)
CF2=CF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (2)
(式中、a、b及びcは上記に同じ)で表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式:CF=CFO(CF2CF(CF3)O)nCF2CF2SO2F(式中、nは0又は1である)で表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルは、イオン交換膜材料などの工業原料として有用な化合物である。
【0003】
該含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテル等のスルホニルビニルエーテルの製造方法としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレンオキシドをFCOCF2SO2Fに付加させた後、得られた酸フロリド誘導体を熱分解する方法が知られている(下記特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを2分子以上付加したものからは、CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)nCF2CF2SO2Fで表されるスルホビニルエーテルを得ることは可能であるが、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを1分子付加したものからは、下記式
【0004】
【化1】

【0005】
で表される環化体が主生成物として生じ、化学式CF2=CFOCF2CF2SO2Fで表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルをほとんど得ることができない。
【0006】
また、FCOCF(CF3)OCF2CF2SO2Fを原料として用い、その環化体
【0007】
【化2】

【0008】
を形成した後、CHONaを用いて開環させてCF2=CFOCF2CF2SO3Naとし、その後、末端のSONa基を塩素化してCF2=CFOCF2CF2SO2Clとし、更に、フッ素化してSO2F基に変換する方法も知られている(下記特許文献2参照)。ここに記載されているフッ素化工程は、溶媒としてスルホランを用い、フッ素化剤としてNaFを用いる方法であるが、溶媒として高融点、高沸点を有するスルホランを用いるため、反応中に分解して生じたCF2=CFOCF2CF2SO3Naなどの有効成分や、未反応原料のNaF、副生成物であるNaClとの分離が困難であり、スルホランと固体の有効成分を回収する工程が非常に複雑となる。このため、この方法は、工業的実施は困難であり、産業廃棄物が多量に生じるという問題もある。以上の理由により高い選択率で収率良く目的とする含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルを製造可能な方法が望まれる。
【特許文献1】英国特許1,034,197号
【特許文献2】米国特許第3,560,568号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルを、工業的に有利な方法で、簡便に高い選択率で収率良く製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した問題点に鑑みて鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の構造を有する含フッ素フルオロロスルホニルアルキルビニルエーテルのカルボン酸塩を脱炭酸反応によってビニル化することにより、選択率が顕著に向上し、環化体を生成することなく、高純度の含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルを得ることが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法を提供するものである。
1. 下記一般式(1)
MOOCCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (1)
(式中、Mは、M又は(M1/2であって、Mはアルカリ金属、4級アンモニウム基又は4級ホスホニウム基であり、Mはアルカリ土類金属である。aは0又は1、bは0〜5の整数、cは1〜10の整数である)で表されるカルボン酸塩を脱炭酸することを特徴とする、一般式(2)
CF2=CF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (2)
(式中、a、b及びcは上記に同じ)で表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。
2. 一般式(1)で表されるカルボン酸塩が、一般式(3)
CH2=CHCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (3)
(式中、aは0又は1、bは0〜5の整数、cは1〜10の整数である)で表される化合物を酸化して、一般式(4)
HOOCCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (4)
(式中、a、b及びcは上記に同じ)で表されるカルボン酸とした後、中和反応を行うことよって得られるものである、請求項1に記載の含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。
3. 一般式(1)で表されるカルボン酸塩において、aが0であり、bが0又は1であり、cが1〜4の整数である請求項1又は2に記載の含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。
4. 一般式(1)で表されるカルボン酸塩が、化学式:MOOC CF2CF2OCF2CF2SO2F(式中、Mは、M又は(M1/2であって、Mはアルカリ金属、4級アンモニウム基又は4級ホスホニウム基であり、Mはアルカリ土類金属である。)で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。
【0012】
本発明の製造方法では、原料としては、下記一般式(1)
MOOCCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (1)
(式中、Mは、M又は(M1/2であって、Mはアルカリ金属、4級アンモニウム基又は4級ホスホニウム基であり、Mはアルカリ土類金属である。aは0又は1、bは0〜5の整数、cは1〜10の整数である)で表されるカルボン酸塩を用いる。
【0013】
本発明の製造方法において、原料として用いる一般式(1)で表されるカルボン酸塩は、例えば、下記一般式(3)
CH2=CHCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (3)
(式中、a、b及びcは上記に同じ)
で表される化合物を酸化して、下記一般式(4)
HOOCCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (4)
で表されるカルボン酸とした後、中和反応を行うことよって得ることができる。
【0014】
一般式(3)の化合物の酸化反応は、例えば、酸化剤として、過マンガン酸カリウム、分子状酸素、オゾンなどを用いて行うことができる。
【0015】
酸化剤として、過マンガン酸カリウムを用いる場合には、例えば、水溶液として、上記一般式(3)の化合物と反応させればよい。一般式(3)の化合物は、過マンガン酸カリウムを含む水溶液に直接添加しても良く、或いは、アセトン、アルコールなどの水と相溶性のある溶媒に溶解して、過マンガン酸カリウムと反応させてもよい。
【0016】
分子状酸素又はオゾンを用いる場合には、一般式(3)の化合物又は一般式(3)の化合物を含む溶液中に分子状酸素又はオゾンを吹き込めば良い。
【0017】
酸化剤の使用量は、例えば、一般式(1)の化合物1当量に対して、1〜3当量程度とすればよい。反応温度については、特に限定的ではないが、使用する溶媒などに応じて、−70〜200℃程度、好ましくは15〜150℃程度とすればよい。
【0018】
一般式(4)のカルボン酸の中和反応は、例えば、中和剤として、Na、K等のアルカリ金属の炭酸塩、Ma、Ca等のアルカリ土類金属の炭酸塩等を用いて行うことができる。その他、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等も中和剤として用いることができる。
【0019】
上記した中和剤は、ジグライム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−ピロリドン等の非プロトン性溶媒、水等に溶解して用いることができる。中和反応は、例えば、中和剤を溶解した溶液中に一般式(4)のカルボン酸を添加して混合する方法などを採用できる。
【0020】
中和剤の使用量は、一般式(4)のカルボン酸1当量に対して、1〜2当量程度とすればよい。
【0021】
中和反応の条件については、特に限定的ではないが、脱炭酸反応が進行しない条件とすればよく、通常、0〜100℃程度の温度範囲で反応させればよい。
【0022】
中和反応は、一般式(4)の化合物を含む溶液のpHが7〜9程度となるまで行えばよい。
【0023】
以上の方法によって、原料として用いる一般式(1)で表されるカルボン酸塩を得ることができる。
【0024】
本発明の製造方法では、一般式(1)
MOOCCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (1)
(式中、Mは、M又は(M1/2であって、Mはアルカリ金属、4級アンモニウム基又は4級ホスホニウム基であり、Mはアルカリ土類金属である。aは0又は1、bは0〜5の整数、cは1〜10の整数である)で表されるカルボン酸塩を脱炭酸させることによって、一般式(2)
CF2=CF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (2)
(式中、a、b及びcは上記に同じ)で表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルとすることができる。
【0025】
脱炭酸反応は、中和反応によって一般式(1)のカルボン酸塩を製造した後、反応溶媒中でそのまま加熱するか、或いは、一般式(1)のカルボン酸塩を分離した後、加熱することによって行うことができる。
【0026】
加熱温度は、脱炭酸反応が進行する温度とすればよく、通常、50〜170℃程度とすればよい。
【0027】
以上の方法によって、上記一般式(2)で表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルを得ることができる。
【0028】
得られた粗化合物は、蒸留、カラムクロマトグラフィーなどの公知の方法で精製できる。例えば、水を加えて撹拌することによって二層に分液し、下層は、上記化学式で表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルとなり、上記の方法で精製することができる。
【0029】
この様にして得られる含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルは、例えば、燃料電池電解質ポリマー用のモノマー成分等として有用な物質である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の製造方法によれば、比較的簡単な製造方法によって、非常に高い選択率で収率良く含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルを製造することができる。
【0031】
従って、本発明の製造方法によれば、収率向上に伴うコストダウンが可能であり、更に、産業廃棄物の低減、製造装置の腐食の抑制、製造工程の簡略化などの優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の方法は、例えば、化学式:CF2=CFOCF2CF2SO2Fで表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法として有効に利用できる。
【0033】
この化合物の製造工程の一例を挙げると、まず、CF2=CF2を出発原料として、下記の工程によって、化学式:CH2=CHCF2CF2OCF2CF2SO2Fで表される化合物とする。
CF2=CF2 + サルトン + I2 → ICF2CF2OCF2CF2SO2F
ICF2CF2OCF2CF2SO2F +CH2=CH2 → ICH2CH2CF2CF2OCF2CF2SO2F
ICH2CH2CF2CF2OCF2CF2SO2F +三級アミン →CH2=CHCF2CF2OCF2CF2SO2F
次いで、得られた化合物:CH2=CH CF2CF2OCF2CF2SO2Fについて、上記した条件で酸化及び中和反応を行い、その後、上記した条件に従って脱炭酸反応を行うことによって、目的とするCF2=CFOCF2CF2SO2Fを得ることができる。
【0034】
CH2=CH CF2CF2OCF2CF2SO2 + (O) → HO2C CF2CF2OCF2CF2SO2F
HO2C CF2CF2OCF2CF2SO2F →中和 → MO2C CF2CF2OCF2CF2SO2F
MO2C CF2CF2OCF2CF2SO2F →脱炭酸 → CF2=CFOCF2CF2SO2F

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
MOOCCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (1)
(式中、Mは、M又は(M1/2であって、Mはアルカリ金属、4級アンモニウム基又は4級ホスホニウム基であり、Mはアルカリ土類金属である。aは0又は1、bは0〜5の整数、cは1〜10の整数である)で表されるカルボン酸塩を脱炭酸することを特徴とする、一般式(2)
CF2=CF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (2)
(式中、a、b及びcは上記に同じ)で表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。
【請求項2】
一般式(1)で表されるカルボン酸塩が、一般式(3)
CH2=CHCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (3)
(式中、aは0又は1、bは0〜5の整数、cは1〜10の整数である)で表される化合物を酸化して、一般式(4)
HOOCCFCF(CF2)O(CF2CF(CF3)O)(CF2)SO2F (4)
(式中、a、b及びcは上記に同じ)で表されるカルボン酸とした後、中和反応を行うことよって得られるものである、請求項1に記載の含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるカルボン酸塩において、aが0であり、bが0又は1であり、cが1〜4の整数である請求項1又は2に記載の含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で表されるカルボン酸塩が、化学式:MOOC CF2CF2OCF2CF2SO2F(式中、Mは、M又は(M1/2であって、Mはアルカリ金属、4級アンモニウム基又は4級ホスホニウム基であり、Mはアルカリ土類金属である。)で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2008−127317(P2008−127317A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312941(P2006−312941)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】