説明

含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物

【課題】高分子主鎖両末端に反応部位として臭素またはヨウ素原子を有しない含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物の提供。
【解決手段】一般式〔I〕で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物。


この含フッ素ポリエーテル化合物は、一般式〔II〕で表わされる含フッ素ジカルボン酸フルオリド化合物を、一般式〔III〕で表わされるトリフルオロビニロキシ基含有芳香族アミン化合物と反応させ製造される。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物に関する。さらに詳しくは、高分子主鎖両末端に反応部位を有する含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
分子末端に官能基を有する含フッ素ポリエーテル化合物としては、例えば一般式

で表わされる化合物が、特許文献1に記載されている。
【0003】
また、上記化合物の主鎖構造をオリゴマー化したより一般的な化合物として、一般式

で表わされる化合物が、特許文献2に記載されている。
【0004】
これらの一般式で表わされる化合物群は、Si-H基を分子内に複数個有する含フッ素オルガノ水素シロキサン化合物および白金化合物触媒により硬化し、非常に優れた特性(耐薬品性、耐熱性、低温特性)を有するエラストマー性成形物を与え得るとされ、特に-50℃程度の低温条件下でも柔軟性を失わずに、使用に耐え得るとされる。また、これらを主成分とする硬化性組成物は、優れた成形加工性を有し、RIM成形も可能とさせる。しかしながら、この硬化物は、分子内架橋構造にシロキサン結合を有するため、フッ化水素などの酸性物質が存在する条件下で使用されると、化学的劣化によりそれの機械的な強度が低下するなどの好ましくない結果を与えることもある。
【0005】
本発明者は先に、Si-H結合を有する含フッ素オルガノ水素シロキサン化合物を必要としないで硬化可能であり、その上耐熱性、低温特性および成形加工性に優れ、しかも酸性条件下での使用に耐え得る硬化物を与える含フッ素ポリエーテル化合物として、一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、Xのフェニル基上の置換位置はNR1結合置換基に対してm-またはp-位であり、lおよびmはそれぞれ独立に10以上の整数であり、l+mは30〜130である)で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物を提案している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−343336号公報
【特許文献2】特許2,990,646号公報
【特許文献3】WO 2008/126436 A1
【特許文献4】WO 90/15042 A2
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fluoropolymers l: Synthesis (edited by G. Hougham et. al.), 36頁, Plenum Press, New York (1999)
【非特許文献2】Polm. Prepr. (Am. Chem. Soc., Div. Polm. Chem.) 39巻(2), 812頁 (1998)
【非特許文献3】J. Appl. Polym. Sci. 69巻, 2005頁 (1998)
【非特許文献4】Polymer 41巻, 6213頁 (2000)
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc. 128巻, 7055頁 (2006)
【非特許文献6】Tetrahedron Letters 36巻, 6373頁 (1995)
【非特許文献7】Tetrahedron Letters 38巻, 5831頁 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高分子主鎖両末端に反応部位として臭素原子またはヨウ素原子を有しない含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によって、一般式〔I〕

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、lおよびmはそれぞれ独立に10以上の整数であり、l+mは30〜200である)で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物が提供される。
【0010】
かかる含フッ素ポリエーテル化合物は、一般式〔II〕

(ここで、lおよびmはそれぞれ独立に10以上の整数であり、l+mは30〜200である)で表わされる含フッ素ジカルボン酸フルオリド化合物を、一般式〔III〕

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、R2は水素原子またはトリメチルシリル基である)で表わされるトリフルオロビニロキシ基含有芳香族アミン化合物と、好ましくはピリジンまたは3級アミン化合物の存在下で反応させることにより製造される。
【0011】
さらに、本発明に係る含フッ素ポリエーテル化合物は、それの100重量部当り0.1〜10重量部用いられる、下記一般式〔IV〕で表わされる1つの分子中に3つのトリフルオロビニロキシ基を含有する3官能性化合物と共に、硬化性含フッ素ポリエーテル組成物を形成させる。

ここで、Yは炭素数1〜10の3価の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜10の3価のフルオロ炭化水素基、炭素数6〜20の3価の芳香族炭化水素基またはオキシホスホニル基≡P=Oである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る含フッ素ポリエーテル化合物は、高分子主鎖両末端に反応部位としてトリフルオロビニロキシ基を有しており、一般式〔IV〕で表わされる1つの分子中に3つのトリフルオロビニロキシ基を含有する3官能性化合物により硬化することでエラストマー性成形物を与えることができる。得られる成形物は、低温特性、耐薬品性に優れているため、自動車燃料供給系シール材、オイルシール材、航空機燃料系および油圧系シール材、半導体製造装置シール材等の各種用途に好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る含フッ素ポリエーテル化合物

において、lおよびmはそれぞれ独立に10以上の整数であり、l+mは30〜200の整数である。特に、エラストマー性高分子材料の主原料として用いる場合には、硬化後十分な機械的強度を有する成形物を得るために、l+mは50〜150であることが好ましい。R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基である。R1がアルキル基またはフェニル基の場合には、分子間水素結合が妨げられることにより、含フッ素ポリエーテル化合物の粘度を低下させることができる。
【0014】
本発明の含フッ素ポリエーテル化合物は、例えば以下のような一連の工程を経て製造することができる。

注) HFPO:ヘキサフルオロプロペンオキシド
HFP: ヘキサフルオロプロペン
【0015】
第二工程で用いられるトリフルオロビニロキシ基含有芳香族アミン化合物〔III〕において、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、R2は水素原子またはトリメチルシリル基である。また、トリフルオロビニロキシ基(CF2=CFO-)のベンゼン環上の置換位置は、アミノ基(-NR1R2)に対してo-、m-またはp-位である。トリフルオロビニロキシ基含有芳香族アミン化合物〔III〕の具体例としては、2-(トリフルオロビニロキシ)アニリン、3-(2トリフルオロビニロキシ)アニリン、4-(トリフルオロビニロキシ)アニリン、2-(トリフルオロビニロキシ)-N-メチルアニリン、3-(トリフルオロビニロキシ)-N-メチルアニリン、4-(トリフルオロビニロキシ)-N-メチルアニリンまたはこれらのN-トリメチルシリル誘導体等が挙げられる。
【0016】
かかるトリフルオロビニロキシ基含有芳香族アミン〔III〕において、1級アミン化合物は、特許文献4および非特許文献4に記載されているように、アセトアミドフェノールまたはヒドロキシ安息香酸メチルに、1,2-ジブロモテトラフルオロエタンを反応させた後、数工程を経て製造することができる。また、非特許文献5に記載されるように、ブロモフェノールに1,2-ジブロモテトラフルオロエタンを反応させて得られる(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)ブロモベンゼンからも、数工程を経て製造することができる。
【0017】
トリフルオロビニロキシ基含有芳香族2級アミン化合物は、芳香族1級アミン化合物をジアルキル硫酸またはヨウ化アルキル等のアルキル化剤によりN-アルキル化することによって、製造することができる。なお、この場合にはN-アルキル化体の他にN,N-ジアルキル化体が副生するので、アルキル化反応の後、それを分離することが必要である。
【0018】
芳香族1級アミン化合物のN-モノアルキル化のより好ましい方法は、非特許文献6および7に記載されている選択的なN-モノアルキル化である。具体的には、1級アミン化合物を、2-ニトロベンゼンスルホニルクロリドまたは2,4-ジニトロベンゼンスルホニルクロリドと反応させ、スルホンアミド化した後、ヨウ化アルキル等によりN-アルキル化し、その後チオフェノールまたはメルカプト酢酸と反応させることにより、目的とするN-モノアルキル化された2級アミン化合物を選択的に得ることができる。
【0019】
また、(トリフルオロビニロキシ)-N-フェニルアニリンの場合には、パラジウム触媒の存在下で(トリフルオロビニロキシ)アニリンをヨウ化アリールまたは臭化アリールと反応させ、N-アリール化することにより製造することができる(Hartwig-Buchwaldアミネーション)。
【0020】
なお、トリフルオロビニロキシ基含有芳香族2級アミン化合物は、(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)アニリン化合物を先に述べた方法でアルキル化し、次いで脱ハロゲン化反応させることによっても製造することができる。
【0021】
第二工程の、含フッ素ジカルボン酸フルオリドと芳香族1級または2級アミン化合物との反応は、ピリジン等の活性水素を有しない塩基性含窒素複素環化合物またはトリエチルアミン等の3級アミン化合物の存在下で、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル等の含フッ素溶媒、またはこれらの含フッ素溶媒と非プロトン性非フッ素系溶媒との混合溶媒中で-50〜150℃、好ましくは0〜100℃で行われる。含フッ素溶媒の具体例としては、HCFC-225、HFE-449(住友3M製品HFE7100)、HFE-569(住友3M製品HFE-7200)等が挙げられる。非プロトン性非フッ素系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。1級アミンまたは2級アミンの溶解性を考慮すると、含フッ素溶媒と非プロトン性非フッ素系溶媒の混合溶媒を用いるのがより好ましい。
【0022】
なお、芳香族アミン化合物は、R2がトリメチルシリル基である1級または2級アミンであってもよく、含フッ素ジカルボン酸フルオリドと脱FSi(CH3)3反応して、同様の反応生成物を与える。また、芳香族アミン化合物として、トリフルオロビニロキシ基がポリ置換されたものを用いることもでき、この場合には末端基がポリ(トリフルオロビニロキシ)基で置換された含フッ素ポリエーテル化合物が得られる。
【0023】
本発明の含フッ素ポリエーテル化合物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。



【0024】
本発明の含フッ素ポリエーテル化合物は、下記一般式〔IV〕で表わされる1つの分子中に3つのトリフルオロビニロキシ基を含有する3官能性化合物と硬化性組成物を形成することができる。

ここで、Yは炭素数1〜10の3価の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜10の3価のフルオロ炭化水素基、炭素数6〜20の3価の芳香族炭化水素基またはオキシホスホニル基≡P=Oである。
【0025】
かかる3官能性化合物の具体例としては、以下のような化合物が挙げられ(非特許文献1〜3参照)、これらは含フッ素ポリエーテル化合物100重量部に対して、約0.1〜10重量部、好ましくは約1〜5重量部の割合で用いられ、硬化性組成物を形成させる。



【0026】
3官能性化合物による硬化反応は、それのトリフルオロビニロキシ基と含フッ素ポリエーテル化合物のトリフルオロビニロキシ基との反応、すなわちトリフルオロビニロキシ基同士の二量化反応として行われる。硬化反応と同時に、含フッ素ポリエーテル化合物のトリフルオロビニル基同士の二量化反応(鎖延長反応)も進行し得る。
【0027】
硬化性含フッ素ポリエーテル組成物中には、これらの各成分以外に、硬化反応を阻害しない量および純度を有する各種充填剤、補強剤、顔料等適宜配合して用いられる。組成物の調製は、3本ロールミル、プラネタリミキサー等を用いて混練することにより行われ、混合物の硬化は、室温〜200℃で圧縮成形、射出成形、RIM成形等により約1〜60分間行われ、必要に応じて50〜250℃で1〜30時間程度のオーブン加硫(二次加硫)が行われる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0029】
参考例1
含フッ素ジカルボン酸フルオリド化合物の調製

攪拌装置、温度センサ、ガス導入口およびドライアイス/エタノール冷却凝縮器を備えた容量1Lのガラス製反応容器を低温恒温槽内に設置し、ジアルコキシド化合物 CsOCF2CF(CF3)OCF2CF2OCF(CF3)CF2OCs を23ミリモルを含むテトラグライム溶液60gを仕込んだ。内温を-33〜-30℃に調整した後、ガス導入口よりヘキサフルオロプロペンを40g仕込んだ。次に、ヘキサフルオロプロペンオキシドを10g/hr、ヘキサフルオロプロペンを4g/hrの供給速度で反応容器内に仕込んだ。42時間経過後、ガスの供給を停止し(ヘキサフルオロプロペンオキシドの総仕込量は428g)、さらに1時間-33〜-30℃に内温を保った。減圧下でヘキサフルオロプロペンを反応系内より除去した後、室温までゆっくり昇温した。さらに100℃まで昇温し、減圧下でヘキサフルオロプロペンオリゴマーを反応混合物より除去した。このようにして、フッ化セシウム、テトラグライムおよび含フッ素ジカルボン酸フルオリドからなる混合物を淡黄色粘稠な懸濁液として478g得た。これを精製せずに、次の工程に用いた。
【0030】
また、上記混合物の一部をメタノールによりエステル体とした後、19F-NMRによりヘキサフルオロプロペンオキシド数平均重合度および二官能性比(ヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーとのモル分率)を求めた。

s=Fa(-131ppm)ピーク積分値
t=Fb(-133ppm)ピーク積分値
u=Fc(-146ppm)ピーク積分値
注) ケミカルシフトはCFCl3基準
二官能性比=(t/s-0.5)/(t/s+0.5)=0.89
ヘキサフルオロプロペンオキシド数平均重合度=4u/(2t+s)=102
【0031】
参考例2
4-(トリフルオロビニロキシ)-N-メチルアニリンの合成
(1) 4-ヒドロキシ安息香酸メチル100g(0.657モル)およびメタノール300mlからなる溶液に、反応容器を氷水で冷却しながら、水酸化カリウム(純度85%)43.4g(0.657モル)を少量ずつ加え、さらに3時間反応を継続した。減圧下でメタノールを除去した後、140℃、27Paで8時間減圧乾燥した。4-ヒドロキシ安息香酸メチルのカリウム塩が、無色の固体として119g(収率95%)得られた。
(2) 4-ヒドロキシ安息香酸メチルのカリウム塩50g(0.26モル)をジメチルスルホキシド150mlに溶解した溶液中に、窒素雰囲気下、60℃で、1,2-ジブロモテトラフルオロエタン89g(0.34モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに70℃、2時間および90℃、30分間の反応を行った。反応混合物を室温に冷却した後水150mlを加え、ジクロロメタンで生成物を抽出した。その後、通常の後処理を行い粗生成物を84g得た。これを減圧蒸留することで、4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)安息香酸メチル(沸点75〜77℃、13Pa)を、無色の液体として81g(収率93%)得た。
(3) 4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)安息香酸メチル70g(0.211モル)およびメタノール100mlからなる溶液に、水酸化カリウム(純度85%)18.1g(0.274モル)およびメタノール100mlからなるアルカリ溶液を室温条件下で加え、さらに4時間反応を継続した。得られた溶液に、水110mlおよび濃塩酸43gを加え、内容物を十分に混合した。遊離した生成物をジエチルエーテルで抽出し、その後通常の後処理を行い、4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)安息香酸を、無色の固体として65.8g(収率98%)得た。
(4) 4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)安息香酸65.6g(0.207モル)、塩化チオニル32.1g(0.270モル)、ジメチルホルムアミド2.0g(0.027モル)およびクロロホルム160mlからなる混合物を、50℃で2時間反応させた。減圧下でクロロホルムおよび未反応の塩化チオニルを留去した後、さらに残渣を減圧蒸留した。4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)ベンゾイルクロリド(沸点68〜72℃、9Pa)を、無色の液体として67.3g(収率97%)得た。
(5) 4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)ベンゾイルクロリド67.3g(0.201モル)およびテトラヒドロフラン200mlからなる溶液に、アジ化ナトリウム43.1g(0.663モル)および水140mlからなる水溶液を、反応容器を氷水で冷却しながら加えた。1.5時間反応を継続した後水200mlを加え、生成物をジクロロメタンで抽出した。その後通常の後処理を行い、〔4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)フェニル〕アジドメタノンを、無色の液体として67.8g(収率99%)得た。
(6) 〔4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)フェニル〕アジドメタノン67.7g(0.198モル)およびトルエン溶媒650mlからなる溶液を、100℃で1.5時間反応させた。減圧下でトルエンを留去し、次いで残渣を減圧蒸留した。4-イソシアナト-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)ベンゼン(沸点54〜56℃、33Pa)を無色の液体として53.8g(収率87%)得た。
(7) 4-イソシアナト-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)ベンゼン41.3g(0.132モル)、濃塩酸74mlおよび1,2-ジメトキシエタン150mlからなる混合物を、80℃で2時間反応させた。得られた反応混合物に、水酸化カリウム(純度85%)56gおよび水500mlからなるアルカリ水溶液を加えた。生成物をジエチルエーテルで抽出し、次いで通常の後処理を行った。さらに減圧蒸留を行い、4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)アニリン(沸点65〜68℃、53Pa)を、無色の液体として33.6g(収率88%)得た。
(8) 4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)アニリン41.6g(144ミリモル)、ピリジン16.3g(207ミリモル)およびクロロホルム250mlからなる溶液に、2-ニトロベンゼンスルホニルクロリド38.1g(172ミリモル)を加え、1時間室温条件下で反応させた。通常の反応後処理により、N-〔4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)フェニル〕-2-ニトロベンゼンスルホンアミドを、橙色の固体として66.9g(収率98%)得た。
(9) N-〔4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)フェニル〕-2-ニトロベンゼンスルホンアミド66.9g(141ミリモル)、炭酸カリウム97g(705ミリモル)およびジメチルホルムアミド400mlからなる溶液にヨウ化メチル26g(183ミリモル)を加え、室温条件下で2時間反応を行った。通常の反応後処理を行い、N-メチル-N-〔4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)フェニル〕-2-ニトロベンゼンスルホンアミドを、黄色の固体として68.4g(収率99%)得た。
(10) N-メチル-N-〔4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)フェニル〕-2-ニトロベンゼンスルホンアミド55.5g(114ミリモル)、水酸化リチウム・1水和物19.1g(456ミリモル)およびジメチルホルムアミド400mlからなる溶液に、メルカプト酢酸21.0g(228ミリモル)を加え、60℃で2時間反応させた。通常の反応後処理を行った後、反応生成物を蒸留し、4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)-N-メチルアニリン(沸点60〜67℃、13Pa)を、淡黄色の液体として28.5g(収率83%)得た。
(11) 4-(2-ブロモテトラフルオロエトキシ)-N-メチルアニリン 9.6g(32ミリモル)、Zn 2.5g(38ミリモル)および1,2-ジメトキシエタン150mlからなる混合物を、窒素雰囲気下で一夜加熱還流した。冷却後反応混合物をロ過し、ロ液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mlを加え、これをジエチルエーテルで抽出し、通常の後処理を行った。減圧蒸留を行うことにより、4-(トリフルオロビニロキシ)-N-メチルアニリン(沸点59〜62℃、133Pa)を、無色の液体として5.9g(収率91%)得た。
【0032】
実施例1
参考例1で得られた含フッ素ジカルボン酸フルオリド、フッ化セシウムおよびテトラグライムからなる混合物78g(約4.5ミリモル)を、含フッ素系溶媒(住友3M製品HFE-7100)90mlに溶解し、そこにトリエチルアミン1.9g(19ミリモル)およびジエチルエーテル36mlを加えた。これに、参考例2で得られた4-トリフルオロビニロキシ-N-メチルアニリン2.4g(12ミリモル)を加え、30℃で3時間反応を行った。得られた反応混合物を飽和食塩水に加え、分離した有機層を1.5重量%水酸化カリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ロ過した。減圧下でロ液から含フッ素系溶媒およびジエチルエーテルを留去した後、得られた粘稠な液体をジエチルエーテルで数回洗浄し、次いで減圧下でジエチルエーテルを完全に留去した。このようにして、含フッ素ポリエーテル化合物(l+m=102)

を、僅かに黄色味を帯びた透明な液体として60g得た。E型粘度計(東機産業製TEV-22)により粘度を測定したところ、13Pa・s(25℃)であった。
19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準): -125ppm(Fb)
-147ppm(Fc)
-124ppm(Fd)
-131ppm(Fe)
-139ppm(Ff)
1H-NMR(ケミカルシフトはTMS基準): 7.0ppm(Ha)
6.9ppm(Hb)
3.1ppm(Hc)
IR(neat): 1834cm-1(C=C)
1703cm-1(C=O)
1509cm-1(Ar)
【0033】
実施例2
実施例1の含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
1,1,1-トリス(4-トリフルオロビニロキシフェニル)エタン 4重量部

アセチレンカーボンブラック 13重量部
以上の各成分を混合し、硬化性組成物を調製した。
【0034】
この硬化性組成物を、150℃で30分間圧縮成形してP-24 Oリングを成形し、次いで80℃、5時間および230℃、15時間のオーブン加硫(二次加硫)を順次窒素雰囲気下で行い、試験片を得た。
【0035】
得られた硬化性組成物および加硫物について、次の各項目の測定を行った。
硬化試験:モンサント・ディスク・レオメーターを使用し、150℃で、30分間硬化挙
動を測定した
ML 0.7dN・m
MH 6.5dN・m
t10 6.8分
t50 11.2分
t90 16.7分
圧縮永久歪:ASTM D395 Method B準拠
P-24 Oリングについて、200℃、70時間の値を測定し、60%という値を
得た
ガラス転移点(Tg):P-24 Oリングについて、示差走査熱量分析計(SIIナノテクノロジ
ー社製DSC6220)を用いてTgを測定し、-55℃という値を得た


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式〔I〕

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、lおよびmはそれぞれ独立に10以上の整数であり、l+mは30〜200である)で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項2】
一般式〔I〕において、R1がメチル基である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項3】
一般式〔I〕において、l+mが50〜150である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項4】
一般式〔II〕

(ここで、lおよびmはそれぞれ独立に10以上の整数であり、l+mは30〜200である)で表わされる含フッ素ジカルボン酸フルオリド化合物を、一般式〔III〕

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、R2は水素原子またはトリメチルシリル基である)で表わされるトリフルオロビニロキシ基含有芳香族アミン化合物と反応させることを特徴とする請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物の製造方法。
【請求項5】
ピリジンまたは3級アミン化合物の存在下で反応が行われる請求項4記載の含フッ素ポリエーテル化合物の製造方法。
【請求項6】
(A) 請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
(B) 下記一般式〔IV〕で表わされる1つの分子中に 0.1〜10重量部
3つのトリフルオロビニロキシ基を含有する3官能性化合物

(ここで、Yは炭素数1〜10の3価の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜10の3価のフルオロ炭化水素基、炭素数6〜20の3価の芳香族炭化水素基またはオキシホスホニル基≡P=Oである)を含有してなる硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。

【公開番号】特開2011−213837(P2011−213837A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82492(P2010−82492)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】