説明

含フッ素共重合体組成物および塗料組成物

【課題】靱性の高い塗膜を得ることが可能な塗料組成物を構成できるにもかかわらず、耐ブロッキング性に優れており、常温保管が可能で再溶解の作業性が高く、しかも品質の安定したフレーク状の含フッ素共重合体組成物を提供する。
【解決手段】固形分濃度98.5質量%以上、最大粒子径40mm以下、2mm目開き篩通過率が10質量%以下の樹脂組成物(1)100質量部と、固形分濃度98.5質量%以上、最大粒子径100μm以下の樹脂組成物(2)0.5〜3質量部からなり、前記樹脂組成物(1)の固形分は、ガラス転移点が30〜40℃の共重合体(A)であり、前記樹脂組成物(2)の固形分は、ガラス転移点が50℃以上の共重合体(B)であることを特徴とする含フッ素共重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素共重合体組成物およびこれを用いた塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素共重合体を塗膜成分として用いた塗料組成物は、その塗膜寿命の長さから、躯体の寿命における塗り替え回数を格段に削減できる点、また製品寿命において発生するVOC(揮発性有機化合物)量の少ない点から、環境にやさしい塗料として需要が増大している。
塗料組成物用の有機溶媒としては、大気中に放出された後に紫外線等の影響を受けてもオキシダント等の大気汚染物質に変化しにくいHAPS Free(Hazardous Air Pollutants Free(大気汚染物質でない))溶媒が、米国を中心として使用が拡大してきている。
【0003】
これらHAPS Free溶媒は何種類も存在し、目的に合わせて種々選択されるので、含フッ素共重合体を塗膜成分として用いた塗料組成物についても、種々のHAPS Free溶媒に溶解したものが求められる。
しかし、各々の含フッ素共重合体に対し、複数のHAPS Free溶媒を用いた個々の含フッ素共重合体溶媒組成物を供給することは製品管理上非効率である。またこれらのHAPS Free溶媒を用いて、個々に含フッ素共重合体を重合することは可能であるが、溶媒自身がもつ連鎖移動性の影響で、同じ分子量を得ることが難しく、溶媒によっては重合安定性が損なわれ、溶媒の種類によっては貯蔵安定性が著しく低下してしまう可能性がある。
【0004】
そこで、特定の有機溶媒下で重合を行った後、薄膜蒸発等で乾燥し、固形分濃度で98質量%以上にしたフレーク状の樹脂組成物として需要者に供給し、需用者が必要に応じて任意のHAPS Free溶媒に再溶解することが行われている。
これによれば、特定の有機溶媒下で重合できるので、重合溶媒の影響による分子量変化、重合安定性低下、貯蔵安定性低下等の問題を回避できる。また、需用者は、適宜必要な溶媒で必要な量の含フッ素共重合体溶媒組成物を得ることができる。
【0005】
ところが、ガラス転移点が40℃未満の含フッ素共重合体の場合、フレーク状で供給しても、輸送中の受熱や自重による圧力で粒子同士が付着して一塊になってしまい(ブロッキング)、そのままでは溶媒への再溶解作業が困難になる。そのため再度塊砕工程が必要となり、溶解作業効率が著しく低下する問題があった。
ガラス転移点が40℃より高い含フッ素共重合体を用いることでブロッキングは回避可能であるが、ガラス転移点40℃以下の含フッ素共重合体の方が靱性の高い塗膜を得易い。そのため、ガラス転移点が40℃以下の含フッ素共重合体をフレーク状とする要望は多い。
これらの課題を解決するために、特許文献1では、粉体塗料組成物を、ガラス転移点より20℃低い温度で且つ相対湿度が60%以下の環境下で保管することが提案されている。
【0006】
また、ブロッキング防止技術として、微粒子状シリカやワックスを添加する技術が知られている。例えば、特許文献2、3では、粉体塗料組成物に微粒子のシリカを添加し粉体塗料粒子同士の付着を防止することが提案され、特許文献4では、飽和ポリエステル樹脂に、二次粒子の平均粒径が1ないし5μmで比表面積が200ないし500m/gの範囲にある微粉末ケイ素を添加し、シート間のブロッキングを防止する技術が提案されている。また、特許文献5〜8では、トナー粒子の耐ブロッキング性向上を目的として、種々のワックスを添加することが提案されている。
【特許文献1】国際公開第01/25353号パンフレット
【特許文献2】特開2001−294806号公報
【特許文献3】特開2001−294807号公報
【特許文献4】特開平5−163422号公報
【特許文献5】特開平5−294629号公報
【特許文献6】特開平6−67455号公報
【特許文献7】特開平6−75422号公報
【特許文献8】特開平6−75432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のように、原材料製造から最終使用場所までを一貫して低温低湿状態に置くことは難しい。
また、特許文献2〜8で用いる微粒子状シリカやワックスは粒子一つ一つの質量が小さすぎるため、作業時に発生する静電気によって、ポリエチレンやポリプロピレン製の容器の内袋などに、相当量が付着してしまう。
また、本発明者らが検討した結果、フレーク状の樹脂組成物はトナー粒子に対して格段に粒子径が大きいため、シリカやワックスを均一に混入することが難しいことが分かった。シリカ等を均一に混合できないと、再溶解後の組成を一定にすることが困難で、安定した品質が保てないという問題が生じる。
また、本発明者らが、含フッ素樹脂組成物の安定性や吸湿性を考慮し、末端の水酸基をメチル基に置換した微粒子状シリカを添加することを試みたところ、再溶解後に沈降物を発生させる事が確認された。これは、末端の水酸基が完全にはメチル基に置換されないためであると考えられる。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、靱性の高い塗膜を得ることが可能な塗料組成物を構成できるにもかかわらず、耐ブロッキング性に優れており、常温保管が可能で再溶解の作業性が高く、しかも品質の安定したフレーク状の含フッ素共重合体組成物を提供する。
また、この含フッ素共重合体組成物を用いることにより、原材料の管理が容易でありながら、靱性の高い塗膜を得ることが可能な塗料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を達成するために、鋭意検討した結果、低ガラス転移点の共重合体に対して、これと単量体構成の類似した高ガラス転移点の共重合体をブロッキング防止剤として添加することに想到した。すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
【0010】
[1]固形分濃度98.5質量%以上、最大粒子径40mm以下、2mm目開き篩通過率が10質量%以下の樹脂組成物(1)100質量部と、
固形分濃度98.5質量%以上、最大粒子径100μm以下の樹脂組成物(2)0.5〜3質量部からなり、
前記樹脂組成物(1)の固形分は、クロロトリフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレンから選ばれる1種以上の単量体(a1)と、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、プロペニルエーテル類およびプロペニルエステル類からなる群より選ばれる1種以上の単量体(a2)を重合させてなるガラス転移点が30〜40℃の共重合体(A)であり、
前記樹脂組成物(2)の固形分は、前記単量体(a1)と同種の単量体(b1)と、ビニルエーテル類およびビニルエステル類からなる群より選ばれる1種以上の単量体(b2)を重合させてなるガラス転移点が50℃以上の共重合体(B)であることを特徴とする含フッ素共重合体組成物。
[2][1]に記載の含フッ素共重合体組成物を含有することを特徴とする塗料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の含フッ素共重合体組成物は、靱性の高い塗膜を得ることが可能な塗料組成物を構成できるにもかかわらず、耐ブロッキング性に優れており、常温保管が可能で特別の保管条件を必要としない。また、再溶解が容易であるため、種々の溶媒を用いた多数の含フッ素共重合体の溶媒組成物を用意しなくても、任意の溶媒に必要に応じて適宜再溶解することができる。しかも、品質が安定している。
また、本発明の塗料組成物は、本発明の含フッ素共重合体組成物を用いることにより、靱性の高い塗膜を得ることが可能であるにもかかわらず、原材料の管理が容易であるため製造コストが低い。しかも、品質が安定している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[含フッ素共重合体組成物]
本発明の含フッ素共重合体組成物は、樹脂組成物(1)と樹脂組成物(2)を混合したもの(以下樹脂組成物(1)と樹脂組成物(2)を混合したものを「樹脂組成物(3)」という場合がある。)で、樹脂組成物(1)100質量部と樹脂組成物(2)0.5〜3質量部から構成されている。
樹脂組成物(1)と樹脂組成物(2)は、何れも固形分濃度が98.5質量%以上であって、フレーク状の樹脂組成物の形で流通保管が可能であり、使用時に任意の溶媒に再溶解することが可能である。
【0013】
樹脂組成物(1)と樹脂組成物(2)の固形分濃度は、各々99質量%以上であることが好ましい。固形分濃度が低いことは含有される溶媒量が多いことを意味し、その場合、耐ブロッキング性が低下する。また、固形分濃度が低い樹脂組成物(3)を再溶解した際は、再溶解に用いる溶媒と異なる溶媒(通常は重合溶媒)を無視できない量で含有することとなり、樹脂組成物(3)を再溶解した溶媒組成物の性状や、これを用いて得られる塗料組成物の性状に影響を与えることになり好ましくない。
【0014】
≪樹脂組成物(1)≫
樹脂組成物(1)の固形分は共重合体(A)である。樹脂組成物(1)は、最大粒子径が40mm以下であり、2mm目開き篩通過率が10質量%以下である。
【0015】
<共重合体(A)>
共重合体(A)は、単量体(a1)と、単量体(a2)を重合させてなる共重合体である。共重合体(A)のガラス転移点は30〜40℃である。
【0016】
単量体(a1)は、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)から選ばれる。CTFE又はTFEを単独で用いても併用してもよい。
本発明においては、単量体(a1)として、一般の含フッ素共重合体に使用可能なヘキサフルオロプロピレン(HFP)を用いない。これは、後述の共重合体(B)のガラス転移点が50℃以上であり、これに用いる単量体(b1)が、単量体(a1)と同種であるためである。
単量体(a1)としてHFPを用いると、ガラス転移点が30〜40℃である共重合体を得ることは可能であるが、ガラス転移点が50℃以上の共重合体を得ることは困難である。
単量体(a1)をCTFEおよびTFEから選ばれる1種以上とすることにより、共重合体(A)のガラス転移点を30〜40℃とし、単量体(a1)と同種の単量体(b1)を用いる共重合体(B)のガラス転移点を50℃以上とすることができる。
【0017】
単量体(a2)は、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、プロペニルエーテル類およびプロペニルエステル類からなる群より選ばれる。単量体(a2)は、これらの単量体の何れか1種でもよく、2種以上でもよい。
【0018】
ビニルエーテル類は、下式(1)で表される化合物である。
CH=CHOR…(1)
[ただし、式(1)中のRは、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基であって、水酸基を有していてもよい。]
としては、炭素原子数2〜8のアルキル基が好ましい。
ビニルエーテル類の具体例としては、
ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシネオペンチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;
シクロヘキシルメチルビニルエーテルモノメチルアルコール([4−(vinyloxymethyl)cyclohexyl])methan−1−ol)等のヒドロキシシクロアルキルビニルエーテル類;
tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ネオペンチルビニルエーテル、2−エチルプロピルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテルが挙げられる。
【0019】
ビニルエステル類は、下式(2)で表される化合物である。
CH=CHOOR…(2)
[ただし、式(2)中のRは、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基であって、水酸基を有していてもよい。]
としては、炭素原子数2〜11のアルキル基が好ましい。
ビニルエステル類の具体例としては、ピバリン酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、イソ吉草酸ビニル、ヒドロアンゲリカ酸ビニル、バーサテック酸ビニル、p−tert−ブチル安息香酸ビニルが挙げられる。
【0020】
プロペニルエーテル類は、下式(3)又は下式(4)で表される化合物である。中でも、下式(3)で表される化合物が、単量体(a1)との共重合性に優れることから好ましい。
CH=C(CH)OR…(3)
CHCH=CHOR…(4)
[ただし、式(3)中のRと式(4)中のRは、各々独立に、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基であって、水酸基を有していてもよい。]
、Rとしては、各々炭素原子数1〜2のアルキル基が好ましい。
プロペニルエーテル類の具体例としては、2−メトキシプロペン、エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテルが挙げられる。
【0021】
プロペニルエステル類は、下式(5)又は下式(6)で表される化合物である。
CH=C(CH)OOR…(5)
CHCH=CHOOR…(6)
[ただし、式(5)中のRと式(6)中のRは、各々独立に、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基であって、水酸基を有していてもよい。]
、Rとしては、各々炭素原子数4のアルキル基が好ましい。
【0022】
共重合体(A)のガラス転移点は30〜40℃であり、35〜40℃であることが好ましい。本発明において、共重合体(A)は樹脂組成物(3)の主成分であるため、共重合体(A)のガラス転移点は、樹脂組成物(3)全体の性状に対する寄与が大きい。
共重合体(A)のガラス転移点が30℃未満の場合、樹脂組成物(3)を乾燥させて固形分濃度を上げても、常温下でフレーク形状を維持できない場合がある。また、共重合体(A)のガラス転移点が40℃以下であることにより、樹脂組成物(3)を用いた塗料組成物から得られる塗膜の靱性が高くなる。
【0023】
共重合体(A)のガラス転移点は、単量体(a2)の種類と、分子量で制御することができる。
一般的には主鎖の自由度を抑制するような側鎖をもつ単量体を導入するとガラス転移点は上昇するので、前記式(1)〜(6)におけるR〜Rを適宜選択することによってもガラス転移点を制御できる。
【0024】
また分子量が高くなるとガラス転移点は上昇するので、共重合体(A)の分子量を調整することによってもガラス転移点の制御ができる。ただし、組成物(3)がフレーク状となるためには、共重合体(A)の数平均分子量は5500以上であることが好ましく、6500〜22000であることがより好ましい。したがって、分子量の調整は当該好ましい範囲内で行うことが好ましい。
分子量は、重合時に使用する開始剤や連鎖移動剤の量、モノマーと溶媒の比率等により制御できる。
【0025】
共重合体(A)は、前記単量体(a1)と単量体(a2)を、公知の方法で重合させることによって得られる。例えば、単量体(a1)および単量体(a2)を所定割合で含有する混合物に、重合溶媒の存在下または非存在下で、重合開始剤または電離性放射線などの重合開始源を作用させて共重合反応を行うことによって製造できる。
単量体(a2)の使用量は、共重合体(A)を構成する単量体全体のうちの40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。単量体(a2)の使用量が上記範囲内であると、有機溶媒への溶解性に優れ、塗膜の耐候性に優れる。
重合溶媒としては、キシレン、エタノール、tert−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、エトキシエチルプロピオネート、CHCl等を用いることができる。
開始剤としては、パーオキシブチルピバレート等のパーオキサイド類、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ系開始剤等を用いることができる。
共重合反応後には乾燥を行う。乾燥は、薄膜蒸発、減圧蒸発、スプレードライ等により行うことができる。
【0026】
<粒度>
樹脂組成物(1)は、最大粒子径が40mm以下であり、2mm目開き篩通過率が10質量%以下である。
最大粒子径が40mmを越えると、再溶解時の溶解に要する時間が著しく長くなる。最大粒子径は35mm以下であることがより好ましい。また2mm目開き通過率が10質量%を超えると、比表面積が大きい粒子が多いことによってブロッキングしやすくなる。そのため、樹脂組成物(1)100質量部に対して樹脂組成物(2)を3質量部よりも多く入れないと充分な耐ブロッキング性が得られなくなるので適当でない。2mm目開き通過率は、8質量%以下であることがより好ましい。
樹脂組成物(1)の質量平均粒子径は、10〜25mmであることが好ましく、10〜20mmであることがより好ましい。
上記の樹脂組成物(1)の粒度に関する各数値は、篩メッシュ法による質量測定により求められる。
【0027】
樹脂組成物(1)の粒度は、塊砕条件によって制御される。すなわち、樹脂組成物(1)は、重合によって得られた共重合体(A)を固形分濃度98.5質量%以上まで乾燥した後、溶融状態にて冷却ロール等で板状にした後、ピンクラッシャー等の塊砕機を用い塊砕することで得られる。粒度の調整は、塊砕機の回転数および櫛歯の目開き等によって制御される。
例えば、15mm目開きの櫛歯を持ち、毎秒100回転で回転するピンクラッシャーに、板状にした共重合体(A)を1秒間かけて通過させると、最大粒子径が25〜40mmとなり、2mm目開き篩通過率が1〜10質量%の範囲となる。
【0028】
≪樹脂組成物(2)≫
樹脂組成物(2)の固形分は共重合体(B)である。樹脂組成物(2)の最大粒子径は100μm以下である。
【0029】
<共重合体(B)>
共重合体(B)は、単量体(b1)と、単量体(b2)を重合させてなる共重合体である。共重合体(B)のガラス転移点は50℃以上である。
【0030】
単量体(b1)は、単量体(a1)と同種の単量体である。すなわち、単量体(a1)がCTFE単独である場合は単量体(b1)もCTFE単独であり、単量体(a1)がTFE単独である場合は単量体(b1)もTFE単独であり、単量体(a1)がCTFEとTFEの併用である場合は単量体(b1)もCTFEとTFEの併用である。
単量体(b1)が単量体(a1)と同種の単量体であることにより、樹脂組成物(1)と樹脂組成物(2)の相溶性が得られる。
単量体(a1)がCTFEとTFEの併用である場合、相溶性を確保する観点から、単量体(b1)のCTFEとTFEの比率は、単量体(a1)のCTFEとTFEの比率にできるだけ近いことが好ましく、同じであることが特に好ましい。
上述のように、単量体(b1)をCTFEおよびTFEから選択することにより、共重合体(B)のガラス転移点を50℃以上とすることが可能となる。
【0031】
単量体(b2)は、ビニルエーテル類およびビニルエステル類からなる群より選ばれる。単量体(b2)は、これらの単量体の何れか1種でもよく、2種以上でもよい。
ビニルエーテル類およびビニルエステル類は、単量体(a2)の説明において示したものと同様の化合物から選択して使用できる。
共重合体(B)のガラス転移点を50℃以上とするため、単量体(b2)を、単量体(a2)と同一種類、かつ同一比率とすることは困難である。しかし、樹脂組成物(1)と樹脂組成物(2)の相溶性を確保する観点から、単量体(b2)は、単量体(a2)と同種の単量体から選択することが好ましい。
単量体(b2)は、高いガラス転移点が得られることから、メチル基、シクロヘキシル基、tert−ブチル基を有するものが好ましい。また、架橋反応部位として、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシn−ブチル基を有するものが好ましい。
【0032】
共重合体(B)のガラス転移点は50℃以上であり、51〜70℃であることが好ましい。50℃以上であることにより、常温下で溶融することがなく、耐ブロッキング剤として機能することができる。また、70度以下であれば、単量体(a1)同士の重合箇所があまり多くないと予想され、結晶部位として存在している可能性が低く、組成物全体の透明性が高くなるため好ましい。
【0033】
共重合体(B)のガラス転移点は、共重合体(A)のガラス転移点について説明したのと同様に、単量体(b2)の種類と、分子量で制御される。
単量体(b2)として、ビニルエーテル類および/またはビニルエステル類を用いることにより、共重合体(B)のガラス転移点を50℃以上とすることが可能となる。
また、前記式(1)、(2)におけるR、Rを適宜選択することによってもガラス転移点を制御できる。
【0034】
また分子量が高くなるとガラス転移点は上昇するので、共重合体(B)の分子量を調整することによってもガラス転移点の制御ができる。ただし、組成物(3)がフレーク状となるためには、共重合体(B)の数平均分子量は5500以上であることが好ましく、6500〜22000であることがより好ましい。したがって、分子量の調整は当該好ましい範囲内で行うことが好ましい。
分子量は、重合時に使用する開始剤や連鎖移動剤の量、モノマーと溶媒の比率等により制御することができる。
【0035】
共重合体(B)は、前記単量体(b1)と単量体(b2)を、公知の方法で重合させることによって得られる。
例えば、単量体(b1)および単量体(b2)を所定割合で含有する混合物に、重合溶媒の存在下または非存在下で、重合開始剤または電離性放射線などの重合開始源を作用させて共重合反応を行うことによって製造できる。
単量体(b2)の使用量は、共重合体(B)を構成する単量体全体のうちの40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。単量体(b2)の使用量が上記範囲内であると、有機溶媒への溶解性に優れ、塗膜の耐候性に優れる。
重合溶媒、開始剤としては、共重合体(A)の重合の場合と同様のものを用いることができる。共重合反応後の乾燥も、共重合体(A)の場合と同様にして行うことができる。
【0036】
<粒度>
樹脂組成物(2)は、最大粒子径が100μm以下である。
最大粒子径が100μmを越えると、樹脂組成物(1)を被覆しにくくなる。また、自重が大きくなることから、樹脂組成物(2)を被覆していても、輸送中の振動等によって脱落しやすくなる。そのため、樹脂組成物(2)のブロッキング防止剤としての機能が低下する。最大粒子径は90μm以下であることがより好ましい。
樹脂組成物(2)に占める5μm以上の粒子は、80質量%以上であることが好ましい。これにより、混合時に発生する静電気によって樹脂組成物(2)が包装材に付着してしまう量を少なくすることができ、樹脂組成物(1)を被覆する樹脂組成物(2)の量を充分に確保できる。
上記の樹脂組成物(2)の粒度に関する各数値は、レーザー回折法粒度分布測定器により求められる。
【0037】
樹脂組成物(2)の粒度は、粉砕条件と篩の目開きによって制御される。すなわち、樹脂組成物(2)は、重合によって得られた共重合体(B)を固形分濃度98.5質量%以上まで乾燥した後、溶融状態にて冷却ロール等で板状にしたものをピンクラッシャー等の塊砕機を用いて塊砕し、さらに粉砕機を用いて粉砕し、その後篩を通過させることによって得られる。
最大粒子径は、篩の目開きによって制御される。5μm以下の粒子の割合と質量平均粒子径は、粉砕機の回転数と粉砕時間、および篩の目開きによって制御される。
例えば、破砕羽回転方式の小型粉砕機を用い、12000rpmで10秒間粉砕した後、200メッシュ篩(86μm目開き)で篩わけを1回行うと、通過後の樹脂組成物(2)の質量平均粒子径は、15〜30μmの範囲となる。
【0038】
≪樹脂組成物(3)の製造≫
樹脂組成物(3)は、容器内に樹脂組成物(1)と、樹脂組成物(1)100質量部に対して0.5〜3質量部の樹脂組成物(2)を投入し、該容器を振盪することによって得られる。容器としては、ポリエチレンやポリプロピレンを内袋とする、ダンボール、ファイバードラム、ペーパーバック等が採用される。
本発明において、樹脂組成物(1)と樹脂組成物(2)の質量部は容器中に投入される量の質量部を示す。これは、容器の内袋との摩擦による帯電現象により、投入した樹脂組成物(2)の一部が、樹脂組成物(1)に付着せず内袋に付着してしまい、樹脂組成物(1)に実質的に付着している量を求めることが困難であるためである。
【0039】
樹脂組成物(1)100質量部に対して、樹脂組成物(2)を0.5質量部以上用いることにより、樹脂組成物(1)全体に樹脂組成物(2)が行き渡り、樹脂組成物(2)のブロッキング防止効果を発揮させることができる。
一方、樹脂組成物(1)100質量部に対して、樹脂組成物(2)を3質量部より多く用いると、樹脂組成物(3)全体の特性に対する樹脂組成物(2)の影響が顕著になるので好ましくない。具体的には樹脂組成物(3)を再溶解した際に濁りが発生する場合がある。
【0040】
[塗料組成物]
本発明の塗料組成物は、本発明の含フッ素共重合体組成物(樹脂組成物(3))を含有するものである。樹脂組成物(3)以外には、溶媒や各種添加剤を含有することができる。
樹脂組成物(3)は固形分濃度が98.5質量%以上なので、溶媒としては任意のものを使用できる。例えば、tert−ブチルアセテート、クロルベンゼントリフルオライド、エトキシエチルプロピオネート等が挙げられる。これらの2種以上を併用してもよい。
添加剤としては、二酸化チタンや酸化鉄、カーボンブラック、パール顔料、フタロシアニン銅錯体、キナクリドン、ベンズイミダゾロン、ペリレン、ジオキサジン、金属酸化物錯体、メタリック顔料、シリカ等の顔料;ポリイソシアネート、メラミン等の硬化剤;レベリング剤やクレーター防止剤、レオロジー調整剤、光沢調整剤、滑り性付与剤、はっ水剤、はつ油剤、親水化剤、顔料分散剤、硬化触媒等の添加剤を、適宜組み合わせて使用できる。
本発明の塗料組成物は、樹脂組成物(3)に必要に応じて添加剤を混合した後、溶媒で混合分散することにより製造される。なお、樹脂組成物(3)に溶媒だけを添加して再溶解したものは、塗料用ビヒクルとして使用できる。
本発明の塗料組成物を、スプレーや刷毛などの方法で被塗物に塗装し乾燥することにより、塗膜が形成される。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
≪共重合体≫
<共重合体(A1)の製造>
内容積2500mLのステンレス製撹拌機付きオートクレーブに、炭酸カリウムの11g、エチルビニルエーテル(EVE)の206gと、ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)の129gと、シクロヘキシルビニルエーテル(CHVE)の208gとの単量体混合物、キシレンの587g、エタノールの168g、およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)の660gを導入した。
次いで徐々に昇温し、65℃に達した後、tert−ブチルパーオキシピバレート(PBPV)の10質量%キシレン溶液の15gを11時間かけて添加し、その後13時間保持した。その後冷却し、ろ過を行って残渣を除去し、共重合体(A1)を得た。得られた共重合体(A1)のキシレン溶液を薄膜蒸発し、固形分濃度99質量%になるまで乾燥を行った。
【0042】
こうして得られた乾燥後の共重合体(A1)は、クロマトグラフ(GPC)による数平均分子量(Mn)が13,000であり、示差熱量測定装置(DSC)によるガラス転移点(Tg)が34℃であった。
共重合体(A1)の製造に用いた原料組成、共重合体(A1)の数平均分子量(Mn)およびガラス転移点(Tg)を表1に示す。
【0043】
<共重合体(B1)の製造>
内容積2500mLのステンレス製撹拌機付きオートクレーブに、炭酸カリウムの12g、ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)の145gと、シクロヘキシルビニルエーテル(CHVE)の558gとの単量体混合物、キシレンの503g、エタノールの142g、およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)の660gを導入した。
次いで徐々に昇温し、65℃に達した後、tert−ブチルパーオキシピバレート(PBPV)の10質量%キシレン溶液の14gを8時間かけて添加し、その後16時間保持した。その後冷却し、ろ過を行って残渣を除去し、共重合体(B1)を得た。得られた共重合体(B1)のキシレン溶液を薄膜蒸発し、固形分濃度98.5質量%になるまで乾燥を行った。
【0044】
こうして得られた乾燥後の共重合体(B1)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による数平均分子量(Mn)が13,200であり、示差熱量測定装置(DSC)によるガラス転移点(Tg)が52℃であった。
共重合体(B1)の製造に用いた原料組成、共重合体(B1)の数平均分子量(Mn)およびガラス転移点(Tg)を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
≪フレーク状樹脂組成物≫
<フレーク状樹脂組成物(1a)の製造>
乾燥後の共重合体(A1)を板状にしたものを、20mm目開きの櫛歯を持ち、毎秒100回転で回転するピンクラッシャーに1秒間かけて通過させ、フレーク状樹脂組成物(1a)を得た。得られたフレーク状樹脂組成物(1a)の最大粒子径は35mm、2mm目開き篩通過率は8質量%であった。
【0047】
<フレーク状樹脂組成物(1b)の製造>
乾燥後の共重合体(B1)を板状にしたものを、20mm目開きの櫛歯を持ち、毎秒100回転で回転するピンクラッシャーに1秒間かけて通過させ、フレーク状樹脂組成物(1b)を得た。得られたフレーク状樹脂組成物(1b)の最大粒子径は35mm、2mm目開き篩通過率は7質量%であった。
【0048】
≪粉末状樹脂組成物≫
<粉末状樹脂組成物(2a)の製造>
フレーク状樹脂組成物(1a)を破砕羽回転方式の小型粉砕機を用い、12000rpmで10秒間粉砕した後、200メッシュ篩(86μm目開き)で篩わけし、篩封過分を粉末状樹脂組成物(2a)とした。
得られた粉末状樹脂組成物(2a)のレーザー回折法粒度分布測定器による最大粒子径は95μm、質量平均粒子径は、23μmであった。
【0049】
<粉末状樹脂組成物(2b)の製造>
フレーク状樹脂組成物(1b)を破砕羽回転方式の小型粉砕機を用い、12000rpmで10秒間粉砕した後、200メッシュ篩(86μm目開き)で篩わけし、篩封過分を粉末状樹脂組成物(2b)とした。
得られた粉末状樹脂組成物(2b)のレーザー回折法粒度分布測定器による最大粒子径は95μm、質量平均粒子径は、25μmであった。
【0050】
≪試料≫
<試料1>
ポリエチレンからなる容積0.5Lの容器に、フレーク状樹脂組成物(1a)の50g(100質量部)と、粉末状樹脂組成物(2b)の1.5g(3質量部)を投入して振盪し、試料1を得た。
【0051】
<試料2>
ポリエチレンからなる容積0.5Lの容器に、フレーク状樹脂組成物(1a)の50g(100質量部)と、粉末状樹脂組成物(2b)の0.25g(0.5質量部)を投入して振盪し、試料2を得た。
【0052】
<試料3>
フレーク状樹脂組成物(1a)の50g(100質量部)をもって試料3とした。
【0053】
<試料4>
ポリエチレンからなる容積0.5Lの容器に、フレーク状樹脂組成物(1a)の50g(100質量部)と、粉末状樹脂組成物(2b)の2.5g(5質量部)を投入して振盪し、試料4を得た。
【0054】
<試料5>
ポリエチレンからなる容積0.5Lの容器に、フレーク状樹脂組成物(1a)の50g(100質量部)と、粉末状樹脂組成物(2a)の1.5g(3質量部)を投入して振盪し、試料5を得た。
【0055】
<試料6>
ポリエチレンからなる容積0.5Lの容器に、フレーク状樹脂組成物(1a)の50g(100質量部)と、疎水性微粉末シリカ(日本アエロジル社製品名: AEROSIL R972)の0.15g(0.3質量部)を投入して振盪し、試料6を得た。
【0056】
≪評価≫
得られた各試料について以下の試験を行った。
<ブロッキング試験>
図1に示すように、内径Rが44mmのアクリル製のシリンダー1の片側にコルク製の栓2をし、その中に50gの各試料Sを入れ、その上から直径42mmのアクリル製のピストン3を挿入した。更にその上からピストン3との合計が890gになるように荷重をかけ(59g/cm2)、35℃の恒温槽中に4日間放置した。
その後、形成された各試料のケーキを取り出し、塩化ビニールでライニングされたコンクリート上に、30cmの高さから落下させ、崩壊するか否かを調べ、崩壊したものを○、崩壊しなかったものを×と評価した。
【0057】
<再溶解試験>
ブロッキング試験後の各試料(ブロッキング試験により崩壊しなかった試料については、さらに、プラスチックハンマーにより打撃を与えることにより崩壊させたもの)をキシレンに50質量%濃度で溶解し、溶液の状態を観察した。
【0058】
各試料の原料組成と評価結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
ガラス転移点(Tg)が34℃のフレーク状樹脂組成物(1a)のみからなる試料3ではブロッキングが発生したが、これに、ガラス転移点(Tg)が52℃の粉末状樹脂組成物(2b)を0.5〜3質量%で添加した試料1、2では、ブロッキングの防止効果が認められ、再溶解後の状態も異常がなかった。
これに対して、粉末状樹脂組成物(2b)の添加量を5質量%とした試料4ではブロッキング防止効果は認められるが、再溶解後著しい濁りのある溶液となった。
また、フレーク状樹脂組成物(1a)に、ガラス転移点(Tg)が34℃の粉末状樹脂組成物(2a)を3質量%添加した試料5ではブロッキングが発生した。
また、フレーク状樹脂組成物(1a)に、微粉末シリカを添加した試料6では、ブロッキング防止効果は認められたが、再溶解後に沈降物が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ブロッキング試験の試験方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0062】
1…シリンダー、2…栓、3…ピストン、S…試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分濃度98.5質量%以上、最大粒子径40mm以下、2mm目開き篩通過率が10質量%以下の樹脂組成物(1)100質量部と、
固形分濃度98.5質量%以上、最大粒子径100μm以下の樹脂組成物(2)0.5〜3質量部からなり、
前記樹脂組成物(1)の固形分は、クロロトリフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレンから選ばれる1種以上の単量体(a1)と、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、プロペニルエーテル類およびプロペニルエステル類からなる群より選ばれる1種以上の単量体(a2)を重合させてなるガラス転移点が30〜40℃の共重合体(A)であり、
前記樹脂組成物(2)の固形分は、前記単量体(a1)と同種の単量体(b1)と、ビニルエーテル類およびビニルエステル類からなる群より選ばれる1種以上の単量体(b2)を重合させてなるガラス転移点が50℃以上の共重合体(B)であることを特徴とする含フッ素共重合体組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の含フッ素共重合体組成物を含有することを特徴とする塗料組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2009−197039(P2009−197039A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216934(P2006−216934)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】