説明

含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法

【課題】水性媒体中における含フッ素有機酸を過酸化水素及び/又はオゾンの存在下に分解する方法を提供する。
【解決手段】水性液体中に含まれる下記一般式(I)
R−(CF−Z (I)
(式中、Rは、ヘテロ原子を有していてもよくフッ素置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、nは、1〜12の整数を表し、Zは、−COOM又は−SOを表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表される含フッ素有機酸化合物に対し過酸化水素及び/又はオゾンの存在下に分解処理を行うことよりなることを特徴とする上記含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーの乳化重合における乳化剤として、従来から、パーフルオロオクタン酸〔PFOA〕、パーフルオロオクタンスルホン酸〔PFOS〕等の含フッ素有機酸が用いられている。これら含フッ素有機酸は、乳化剤として優れているが、難分解性であるという問題がある。
【0003】
有機化合物の分解方法に関し、下記反応式
+ Fe2+ → HO・ + OH + Fe3+
によるフェントン処理を利用した廃水処理方法が提案されている。
【0004】
フェントン処理を利用した廃水処理方法としては、Fe3+をFe2+に還元する酒石酸等のヒドロキシ酸を用いてフェントン反応を促進させることにより、有機物を含む排水を処理する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、有機物について何ら記載はなく、実施例において化学工場排水と記載されているのみである。
【0005】
廃水中のフェントン反応阻害物質の影響を回避すべく、予め廃水中から有機ハロゲン化合物のみを分離して、Fe3+等の金属錯体と過酸化水素とにより分解する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法では、有機ハロゲン化合物とあるが、実際にはテトラクロロエチレン等のクロロカーボンしか記載されていない。
【0006】
PFOSの分解方法として、PFOSを含む溶媒としての水に超音波を照射することが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。この分解は、見かけ上は常温・常圧であっても、微小領域で5000℃にも達する超音波特殊反応場での熱分解によるとされる。
【0007】
この文献には、また、超音波の代わりにフェントン反応等のヒドロキシラジカル〔・OH〕を主な反応種とする方法では、四塩化炭素、トリクロロエチレン等の炭素−塩素結合をもつ化合物は分解可能であるが、フロン、PFOS等の炭素−フッ素結合をもつ化合物は全く分解できないことが明記されている。
【0008】
この超音波照射による方法は、含フッ素ポリマーの水性分散液に適用すると、含フッ素ポリマーの凝集が生じ、含フッ素ポリマーの分散状態を保持したまま処理することは困難である。
【0009】
燃料電池用の電解質膜に用いられるNafion(登録商標)膜は、特殊なパーフルオロスルホアルコキシル基を有するフッ素系樹脂からなるものであるが、その劣化に過酸化水素が関与していることが示唆されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0010】
Nafion膜を構成するフッ素系樹脂について、燃料電池中の過酸化水素が分解して生じるOHラジカルがポリマー鎖末端のカルボキシル基を攻撃して分解する可能性が示唆されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0011】
しかしながら、Nafion膜を構成するフッ素系樹脂は、燃料電池用途に応じた特殊な化学構造をもつ高分子化合物である。一方、フルオロオレフィンの重合に分散安定剤として使用されているPFOA、PFOS等の低分子の含フッ素有機酸は、ラジカル反応に対して極めて安定であることから、分解し得ることについては知られていなかった。
【特許文献1】特開2004−249258号公報
【特許文献2】特開平6−091276号公報
【非特許文献1】Expected Materials for future(未来材料), vol.4, No.10, 10(2004)
【非特許文献2】PEFC空気極における過酸化水素の副生とNafironに及ぼす影響、第10回燃料電池シンポジウム講演予稿集、261(2003)
【非特許文献3】Advanced Materials for Improved PEMFC Performance and Life,第10回燃料電池シンポジウム講演予稿集、121(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、水性媒体中におけるPFOA、PFOS等の含フッ素有機酸を過酸化水素及び/又はオゾンの存在下に分解する方法を提供することにある。本発明の目的は、また、上記分解を含フッ素ポリマーの分散状態を保持したまま行うことも可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、水性液体中に含まれる下記一般式(I)
R−(CF−Z (I)
(式中、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく水素原子がフッ素置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、nは、1〜12の整数を表し、Zは、−COOM又は−SOを表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表される含フッ素有機酸化合物に対し過酸化水素及び/又はオゾンの存在下に分解処理を行うことよりなることを特徴とする上記含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法は、水性液体中に含まれる含フッ素有機酸化合物に対し過酸化水素及び/又はオゾンの存在下に分解処理を行うことよりなる。
【0015】
上記含フッ素有機酸化合物は、下記一般式(I)
R−(CF−Z (I)
(式中、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく水素原子がフッ素置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、nは、1〜12の整数を表し、Zは、−COOM又は−SOを表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表されるものである。
【0016】
上記一般式(I)におけるRとしての炭化水素基は、上述のとおり、ヘテロ原子を有しているものであってもよいし、水素原子がフッ素置換されているものであってもよいし、ヘテロ原子を有し且つ水素原子がフッ素置換されているものであってよい。
本明細書において、「ヘテロ原子」は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びリン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。上記Rとしての炭化水素基がヘテロ原子を有するものである場合、該ヘテロ原子としては、酸素原子及び/又は窒素原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。上記Rとしての炭化水素基が有し得る酸素原子としては、エーテル結合及び/又はエステル結合を構成する酸素原子であることが好ましい。上記Rとしての炭化水素基が有し得る窒素原子としては、アミノ基又は置換アミノ基を構成する窒素原子であることが好ましい。
【0017】
上記一般式(I)におけるRとしての炭化水素基は、ヘテロ原子を有しないものであることが好ましく、水素原子がフッ素置換されているものが好ましい。上記Rとしての炭化水素基は、フルオロアルキル基であることが好ましく、パーフルオロアルキル基であることがより好ましい。
【0018】
上記一般式(I)におけるnは、1〜12の整数を表す。
上記一般式(I)におけるZは、−COOM又は−SOを表すが、分解しやすい点で、−COOMであることが好ましい(以上、Mは、上記定義のとおり。)。
【0019】
本発明において、含フッ素有機酸化合物は、平均分子量が1000以下であるものが好ましい。
本発明において、含フッ素有機酸化合物は、炭素数が4〜12であるものが好ましい。
【0020】
本発明において、含フッ素有機酸化合物としては、パーフルオロカルボン酸及びその塩が好ましく、炭素数が4〜12のパーフルオロカルボン酸及びその塩がより好ましい。
上記パーフルオロカルボン酸としては、上記一般式(I)で表されるパーフルオロカルボン酸であれば特に限定されず、例えば、パーフルオロオクタン酸等が挙げられる。パーフルオロオクタン酸の塩としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩等が挙げられ、アンモニウム塩が好ましい。本明細書において、パーフルオロオクタン酸及びその塩をまとめてPFOAと略記することがある。
【0021】
本発明において、上記一般式(I)で表される含フッ素有機酸化合物は、分解処理を行う際に、水性液体中に含まれている必要がある。
本発明における水性液体は、少なくとも上記一般式(I)で表される含フッ素有機酸化合物を含むものであり、所望により更に後述の含フッ素ポリマー及び/又は添加剤類をも含むものであってもよい(これら水性液体に含まれる含フッ素有機酸化合物その他のものを、本明細書において、「溶質/分散質」ということがある。)。
また、上記含フッ素有機酸化合物は、上記一般式(I)で表されるものであれば、水性液体中に1種のみ含まれるものであってもよいし、2種以上含まれるものであってもよい。
上記溶質/分散質を含む水性液体としては、水溶液であってもよいし、水性分散液であってもよい。
上記水性液体は、水溶液である場合、水性媒体に上記溶質/分散質が溶質として溶解してなるものであり、水性分散液である場合、水性媒体に上記溶質/分散質が分散質として分散してなるものである。
【0022】
本発明において、上記含フッ素有機酸化合物は、合計で、水性液体の0.001〜2質量%であることが好ましい。
上記含フッ素有機酸化合物は、分解反応効率の点で、水性液体の0.05質量%以上であることがより好ましく、また、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
上記水性液体は、含フッ素ポリマー粒子からなる水性分散体や組成物であってもよいし、該水性分散体や組成物の調製、適用等に伴い生じる廃液であってもよい。
上記水性液体は、上記水性媒体に加え、例えば、含フッ素ポリマー粒子を含むものであってもよいし、更に、上記含フッ素ポリマー粒子製造時に添加する上記含フッ素有機酸化合物以外の公知の界面活性剤、及び/又は、連鎖移動剤、ラジカル捕捉剤等の公知の添加剤等、含フッ素ポリマー粒子からなる水性分散体や組成物の配合物を含むものであってもよい。
【0024】
上記水性液体を構成する水性媒体としては、水を含む液体であれば特に限定されず、例えば、水そのものであってもよいし、水及び水と相溶性をもつ有機液体の混合物であってもよい。
上記「水と相溶性をもつ有機液体」としては、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、パラフィンワックス等のフッ素非含有有機溶媒及び/又はフッ素含有有機溶媒をも含むもの等が挙げられる。
【0025】
水性液体は、上述したように、含フッ素ポリマー粒子をも含むものであってもよい。
本発明における水性液体は、含フッ素ポリマー粒子の存在又は非存在下に含フッ素有機酸化合物を含むものであって、該含フッ素ポリマー粒子は、該水性液体の5質量%未満であるものであってもよい。
【0026】
本明細書において、上記「含フッ素ポリマー粒子の存在又は非存在下に・・・該含フッ素ポリマー粒子は、水性液体の5質量%未満である」とは、含フッ素ポリマー粒子が水性液体の0質量%を超え、5質量%未満である範囲において存在するか又は含フッ素ポリマー粒子が存在しないことを意味する。
本明細書において、水性液体の質量は、上述したとおり、水性媒体、含フッ素有機酸化合物、並びに、所望により含有していてもよい含フッ素ポリマー粒子及び/又は添加剤類の合計質量である。
【0027】
上記含フッ素ポリマー粒子を水性液体の0質量%を超え、5質量%未満である範囲において有する水性液体としては特に限定されないが、例えば、含フッ素ポリマーを得るための重合反応後、濃縮、凝析等により生じる廃水等が挙げられる。
【0028】
本発明における水性液体は、また、含フッ素ポリマー粒子の存在下に含フッ素有機酸化合物を含むものであり、該含フッ素ポリマー粒子は、該水性液体の5〜70質量%であるものであってもよい。
上記含フッ素ポリマー粒子を水性液体の5〜70質量%の範囲において有する水性液体としては特に限定されないが、例えば、含フッ素ポリマーを該範囲にて含む水溶液又は水性分散液等が挙げられる。上記含フッ素ポリマーの水溶液又は水性分散液は、通常、含フッ素ポリマーを得るための重合反応後、所望の含フッ素ポリマー濃度とするため必要に応じて濃縮を行って得られるものである。
【0029】
上記「含フッ素ポリマー粒子」を構成する含フッ素ポリマーは、炭素原子に結合しているフッ素原子を有している重合体である。
上記含フッ素ポリマーとしては、例えば、エラストマー性含フッ素ポリマー、非溶融加工性含フッ素ポリマー、溶融加工性含フッ素ポリマー等が挙げられる。
【0030】
上記エラストマー性含フッ素ポリマーとして、TFE/プロピレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]/エチレン共重合体、HFP/エチレン/TFE共重合体、VDF系重合体等が挙げられる。
なお、上記VDF系重合体は、共単量体の種類及び/又はその量等により、エラストマー性含フッ素ポリマーに相当するものであってもよいし、溶融加工性含フッ素ポリマーに相当するものであってもよい。
【0031】
上記非溶融加工性含フッ素ポリマーとしては、例えば、TFE単独重合体、変性ポリテトラフルオロエチレン[変性PTFE]等が挙げられる。
本明細書において、上記「変性PTFE」とは、TFEと、TFE以外の微量単量体との共重合体であって、非溶融加工性であるものを意味する。
上記微量単量体としては、例えば、パーフルオロオレフィン、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、環式のフッ素化された単量体、パーフルオロ(アルキルエチレン)等が挙げられる。
変性PTFEにおいて、上記微量単量体に由来する微量単量体単位の全単量体単位に占める含有率は、通常0.001〜2モル%の範囲である。
本明細書において、「全単量体単位に占める微量単量体単位の含有率(モル%)」とは、上記「全単量体単位」が由来する単量体、即ち、含フッ素ポリマーを構成することとなった単量体全量に占める、上記微量単量体単位が由来する微量単量体のモル分率(モル%)を意味する。
【0032】
上記溶融加工性含フッ素ポリマーとしては、例えば、エチレン/TFE共重合体[ETFE]、TFE/HFP共重合体[FEP]、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体[TFE/PAVE共重合体]、PVDF、PVD系共重合体、ポリフッ化ビニル[PVF]等が挙げられる。
上記TFE/PAVE共重合体としては、TFE/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[PMVE]共重合体[MFA]、TFE/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)[PEVE]共重合体、TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)[PPVE]共重合体等が挙げられ、なかでも、MFA、TFE/PPVE共重合体が好ましく、TFE/PPVE共重合体がより好ましい。
【0033】
含フッ素ポリマー粒子を構成する含フッ素ポリマーは、パーフルオロポリマーであることが好ましく、TFE単独重合体及び/又は変性PTFEであることがより好ましい。
【0034】
含フッ素ポリマー粒子は、平均一次粒子径が50〜500nmであることが好ましい。含フッ素ポリマー粒子は、上記範囲内の平均一次粒子径を有する場合、分散安定性がよいので、含フッ素有機酸化合物分解の際、凝析等が生じにくい。
上記「平均一次粒子径」とは、重合上がりの重合体の平均粒子径であって、重合後、凝析、濃縮等の後処理をしていない重合体の平均粒子径を意味する。
【0035】
上記含フッ素ポリマー粒子は、懸濁重合、乳化重合等、公知の方法にて含フッ素ポリマーの重合を行うことにより調製することができる。
上記各重合において使用するフッ素含有単量体、フッ素非含有単量体、乳化剤、及び、重合開始剤、連鎖移動剤等の添加剤として、適宜公知のものを使用することができ、また、乳化剤として、本発明における含フッ素有機酸化合物を使用することもできるし、含フッ素有機酸化合物以外の公知の界面活性剤を使用することもできる。
上記重合は、例えば、上述した範囲内の平均一次粒子径を有する含フッ素ポリマーを製造する場合、通常、10〜120℃の温度にすることが好ましく、また、通常、0.5〜10MPa、好ましくは、1.0MPa以上、6.2MPa以下の圧力にすることが好ましい。
【0036】
上記含フッ素ポリマー粒子は、上記重合の後、適宜、希釈、濃縮等の後処理を行い得られたものであってもよい。
上記後処理において、含フッ素ポリマー粒子を安定に分散させるため、上記含フッ素有機酸化合物を使用してもよいし、ノニオン系界面活性剤等、上記含フッ素有機酸化合物以外の公知の界面活性剤を使用してもよい。
【0037】
本発明における分解処理は、水性液体中に含まれる含フッ素有機酸化合物に対し、過酸化水素及び/又はオゾンの存在下に行うものである。
上記分解処理は、ヒドロキシラジカル〔・OH〕が含フッ素有機酸化合物に作用して、含フッ素有機酸化合物を分解することを本質とする。
本発明において、ヒドロキシラジカルは、水性液体中に過酸化水素及び/又はオゾンを存在させることにより、極めて容易に発生させることができる。
【0038】
本発明に用いる過酸化水素及び/又はオゾンは、該過酸化水素及び/又はオゾンにより発生するヒドロキシラジカルが上記範囲内となる量を水性液体内に存在させればよいが、分解処理時における含フッ素有機酸化合物100質量部に対する過酸化水素及び/又はオゾンの好ましい存在量は400〜35000質量部であり、より好ましい下限は450質量部、更に好ましい下限は500質量部であり、より好ましい上限は20000質量部である。
【0039】
本発明に用いる過酸化水素及び/又はオゾンは、分解反応開始時に一括して添加することもできるし、分解反応開始時に加え、分解反応中に逐次的又は連続的に添加することできる。
過酸化水素及び/又はオゾンを逐次的又は連続的に添加する場合、分解反応中の任意の一時点において、上記範囲内の存在量を維持するよう添加することが好ましい。
【0040】
本発明における上記分解処理は、必要に応じて、更に、還元剤の存在下に行うものであってもよい。本発明において、ヒドロキシラジカルは、水性液体中に過酸化水素及び/又はオゾンが存在することのみによって発生することができるが、更に還元剤をも存在させることにより、過酸化水素及び/又はオゾンからヒドロキシラジカルを発生する反応を促進することができる。
本発明に用い得る還元剤としては特に限定されないが、例えば、Fe2+等が好ましく、これらの還元剤を発生し得る化合物として系内に存在させるものであってもよい。上記還元剤としては、フェントン試薬(H+FeSO)を用いることが好ましい。
上記還元剤は、過酸化水素及び/又はオゾンの合計100質量部に対し、5.0×10−3〜5.0×10−2質量部添加することが好ましい。上記添加量は、ラジカル発生促進の効果を得る点で、上記合計100質量部に対し、6.5×10−3質量部以上であることがより好ましく、また、製造コストの点で、1.0×10−2質量部であることがより好ましい。
【0041】
本発明における分解処理の温度は、過酸化水素及び/又はオゾンの添加量、分解させる含フッ素有機酸化合物の種類、量等に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、30〜90℃にて行うことが好ましく、40〜80℃にて行うことがより好ましい。
上記分解処理は、過酸化水素及び/又はオゾンの添加量、分解させる含フッ素有機酸化合物の種類、量等に応じて異なるが、通常、1時間〜6時間行うものである。
【0042】
本発明における分解処理は、必要に応じて、更に、紫外線、超音波、電子線及び電気よりなる群から選ばれる少なくとも1つの外部エネルギーを与えて行うものであってもよい。これら外部エネルギーを水性液体に与えることにより、ヒドロキシラジカルの発生を促進することができる。
上記各外部エネルギーは、過酸化水素及び/又はオゾンの添加量、分解する含フッ素有機酸化合物の種類、量等に応じて、適宜、公知の方法にて付与することができる。
上記外部エネルギーとしては、紫外線及び/又は超音波が好ましく、紫外線であることが好ましい。
上記紫外線の条件として、発光強度は、好ましくは0.4mW/cm以上であり、例えば、極大ピークを365nm及び577nmにおいて約15mW/cm、極小ピークを405nm及び408nmにおいて約6mW/cmに設定することができる。また、上記紫外線の条件としては、発光源から1m地点での放射強度が、140〜180W/cmであることが好ましく、例えば、160W/cmに設定することができる。
【0043】
本発明による分解処理において、含フッ素有機酸化合物の分解は、上述したヒドロキシラジカルが上記一般式(I):R−(CF−ZにおけるZを求核置換により脱離させ、R−(CF−OHを生じることよりなるものであるが、本発明において、分解処理を水性液体中にて行うことにより、該R−(CF−OHをR−(CFn−1−CFOに変換し、更にR−(CFn−1−COOHに変換することとなり、これらの末端変換反応における中間体が水存在下に不安定であることから、上記末端変換反応を速やかに進行させる結果、含フッ素有機酸化合物の分解反応を促進するものと考えられる。
上記により得られるR−(CFn−1−COOHは、末端のカルボキシル基が、系内に存在するヒドロキシラジカルによる攻撃を受け、上記末端変換反応が進行してR−(CFn−2−COOHに変化する(以上、含フッ素有機酸化合物の分解の説明において、R、n及びZは、上記定義したものと同じ。上記(n−1)及び(n−2)におけるnは、上記一般式(I)におけるnと同じ。)。
このように、本発明による分解処理において、含フッ素有機酸化合物の分解反応は、末端が−CFCOOHである化合物を生成する限り、炭素数を逐次減少させながら分解を進行させ、含フッ素有機酸化合物を短鎖化することができる。
【0044】
以上に説明したとおり、本発明における分解処理により行われる反応は、以下のとおり表すことができ、即ち、
水性液体中に含まれる下記一般式(I)
R−(CF−Z (I)
(式中、R、n及びZは、上記定義のとおり。)で表される含フッ素有機酸化合物を過酸化水素及び/又はオゾンの存在下に分解することにより下記一般式(II)
R−(CF−COOM (II)
(式中、Rは、上記一般式(I)におけるRと同じ。Mは、H、NH、Na又はKを表す。mは、0≦m<n(nは、上記一般式(I)におけるnと同じ。)を充足する整数を表す。)で表される短鎖化含フッ素カルボン酸化合物を製造することができる。
【0045】
上記一般式(I)におけるZが−COOM(Mは、上記定義したものと同じ。)であるとき、上記一般式(II)におけるmは、0≦m<n(nは、上記一般式(I)におけるnと同じ。)を充足する整数を表す。
上記一般式(I)におけるZが−SO(Mは、上記定義したものと同じ。)であるとき、本発明の分解処理において、該−SO(Mは、上記と同じ。)はヒドロキシラジカルの求核置換により脱離したのち、上述の末端変換反応により、上記一般式(II)における末端は−COOM(Mは、上記定義したものと同じ。)となるが、該一般式(II)におけるmは、0≦m<n(nは、上記一般式(I)におけるnと同じ。)を充足する整数を表す。
上記一般式(II)におけるmは、例えばヒドロキシラジカル濃度、含フッ素有機酸化合物の濃度、分解処理温度等を調節して分解処理における分解の程度を調整することにより、目的に応じて適宜調整することができる。
【0046】
上記一般式(I)におけるZを構成するMと、上記一般式(II)におけるMとは、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。上記MとMとが異なる種類である場合、例えば、MがH、MがNH、Na又はKであるとき、本発明の方法は、上記一般式(II)で表される短鎖化含フッ素カルボン酸化合物を得るまでの何れかの段階において、NH、Na又はKを系内に導入する工程を含むものである。
【0047】
本発明の方法によれば、含フッ素有機酸化合物を、平均分子量が通常300以下の短鎖化含フッ素カルボン酸化合物に変換することができる。
また、本発明の方法によれば、水性液体中における含フッ素有機酸化合物濃度を、分解処理前の約95%以下、好ましくは約90%以下、より好ましくは約60%以下に減少することができる。
上記短鎖化含フッ素カルボン酸化合物は、低分子量化したものであるので、例えば、含フッ素ポリマー粒子を含む水性液体を分解処理後に塗装、含浸、キャスト製膜、成形加工等に用いる際の焼成により分解しやすく、環境への影響が少なく、また含フッ素ポリマーからなる水性分散液中に存在しても、耐熱性等の含フッ素ポリマーの物性に影響せず、また、含フッ素ポリマーを含む水溶液若しくは水性分散液及びこれらを用いて得られる被膜等の成形体について特性を向上することができる。
本発明の方法は、含フッ素ポリマー重合又はその後工程等により生じる廃水の処理を効率的かつ容易ならしめ、作業安全性を高め、環境への負荷を低減することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の方法によれば、従来、難分解性とされていた含フッ素有機酸化合物を簡便な処理により分解して炭素数を減少させ短鎖化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
実施例1
攪拌機、冷却管を備えた200mlの三口フラスコに、パーフルオロオクタン酸〔PFOA〕濃度2000ppmの水性液体37.5g(下記混合液体における濃度:1500ppm)に、30%過酸化水素1.25g(下記混合液体における濃度:0.75質量%)及び2.2ppm硫酸第一鉄水溶液11.25ml(還元剤、下記混合液体における濃度:0.5ppm)を加え、得られた混合液体を、湯浴中で、内温80℃で3時間攪拌下に保持した。冷却後、分解処理済の混合液体中におけるPFOA濃度を下記条件にてHPLCで測定したところ、1437ppmであった。
【0051】
HPLC測定条件
カラム:ODS−120T(4.6φ×250mm、トーソー社製)
展開液;アセトニトリル/0.6質量%過塩素酸水溶液=1/1(vol/vol%)
サンプル量;20μL
流速;1.0ml/分
検出波長;UV210nm
カラム温度;40℃
なお、PFOA濃度算出にあたり、既知の濃度のPFOA水溶液について上記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いた。
【0052】
実施例2
混合液体におけるPFOA濃度を500ppmに、過酸化水素濃度を2.25質量%に、硫酸第一鉄濃度を1.5ppmに変更した以外は、実施例1と同様に分解処理を行った。得られた水性液体におけるPFOA濃度を実施例1と同様に測定したところ、468ppmであった。
【0053】
実施例3
UV光源(高圧水銀ランプ、100W)を備えた、ガラス製500ml反応容器に、分解処理時において、イオン交換水100ml、PFOA濃度1000ppm、過酸化水素濃度10質量%、硫酸第一鉄濃度6.67ppmとなるよう調製した混合液体について、8時間40℃で、以下の条件で照射を行った。分解処理後の水性液体におけるPFOA濃度を実施例1と同様に測定したところ、615ppmであった。
照射条件
・発光強度:0.4mW/cm以上
極大ピーク:365nm、577nm(約15mW/cm
極小ピーク;405nm、408nm(約6mW/cm
・放射強度;160W/cm(発光源から1mの地点で測定した値)
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の方法は、従来、難分解性とされていた含フッ素有機酸化合物を簡便な分解処理により短鎖化することができ、含フッ素ポリマー重合により生じる廃水の処理を効率的かつ容易ならしめ、また、含フッ素ポリマーを含む水溶液若しくは水性分散液及びこれらを用いて得られる被膜等の成形体について特性を向上することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性液体中に含まれる下記一般式(I)
R−(CF−Z (I)
(式中、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく水素原子がフッ素置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、nは、1〜12の整数を表し、Zは、−COOM又は−SOを表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表される含フッ素有機酸化合物に対し過酸化水素及び/又はオゾンの存在下に分解処理を行うことよりなる
ことを特徴とする前記含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項2】
分解処理は、更に、還元剤の存在下に行うものである請求項1記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項3】
分解処理は、更に、紫外線、超音波、電子線及び電気よりなる群から選ばれる少なくとも1つの外部エネルギーを与えて行うものである請求項1又は2記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項4】
含フッ素有機酸化合物は、平均分子量が1000以下である請求項1、2又は3記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項5】
含フッ素有機酸化合物は、炭素数が4〜12である請求項1、2、3又は4記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項6】
含フッ素有機酸化合物は、パーフルオロカルボン酸である請求項1、2、3、4又は5記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項7】
水性液体は、含フッ素ポリマー粒子の存在又は非存在下に含フッ素有機酸化合物を含むものであり、
前記含フッ素ポリマー粒子は、前記水性液体の5質量%未満である請求項1、2、3、4、5又は6記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項8】
水性液体は、含フッ素ポリマー粒子の存在下に含フッ素有機酸化合物を含むものであり、
前記含フッ素ポリマー粒子は、前記水性液体の5〜70質量%である請求項1、2、3、4、5又は6記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項9】
含フッ素ポリマー粒子は、平均粒子径が50〜500nmである請求項7又は8記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項10】
含フッ素ポリマー粒子を構成する含フッ素ポリマーは、パーフルオロポリマーである請求項7、8又は9記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。
【請求項11】
含フッ素ポリマー粒子を構成する含フッ素ポリマーは、テトラフルオロエチレン単独重合体及び/又は変性ポリテトラフルオロエチレンである請求項7、8又は9記載の含フッ素有機酸化合物の短鎖化方法。

【公開番号】特開2006−169146(P2006−169146A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361928(P2004−361928)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】