説明

含浸型陰極構体および陰極基体の製造方法

【課題】 イオン衝撃後も高電流密度の電子放射が得られるとともに、充分な強度を持った含浸型陰極構体を提供する。
【解決手段】 高融点金属粉末を焼結した多孔質陰極基体の表面に、真空蒸着法によりスカンジウム膜を形成する。水素雰囲気中で1540〜1550℃に加熱して表面のスカンジウム膜を溶融させ、多孔質陰極基体内にスカンジウムを含浸させる。電子放射物質を水素雰囲気中で加熱して多孔質陰極基体内に含浸させる。電子放射物質を含浸する際には含浸温度より低い温度で保持して電子放射物質のガス出しをする。表面をクリーニングした後に、含浸型陰極構体を組み立てて、含浸型陰極構体を電子銃とした後、陽極を配設してダイオード構成の電子管を作成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高電流密度動作が可能な含浸型陰極構体および陰極基体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、走査線を増加させ解像度を改善したカラー受像管や、超高周波対応受像管の開発が要請されており、また、投写管などにおいても輝度の向上が望まれている。
【0003】これら解像度の改善あるいは輝度の向上に対応するためには、陰極からの放出電流密度を従来に対し大幅に増大させる必要がある。
【0004】ところで含浸型陰極は酸化物陰極に比べて大きな放射電流密度が得られ、撮像管、進行波管あるいはクライストロンなどの電子管に使用されている。
【0005】一方、含浸型陰極は、カラー受像管の分野ではHD−TV管あるいはED−TV管などの特殊用途のみに限られていたが、近年大型カラー受像管などにも用いられつつある。
【0006】また、カラー受像管に用いられる含浸型陰極構体は、省電力の目的からコンパクトな構造に形成されている。すなわち、たとえば図2に示すように、含浸型陰極構体1は、両端が開口した筒状の陰極スリーブ2を有し、この陰極スリーブ2の一端部の内側に、開口とほぼ同一面で凹面が上方に向いたカップ状固定部材3が配設され、このカップ状固定部材3内に電子放射物質が含浸された電子放射面を上面にした多孔質陰極基体4が固定され、陰極スリーブ2内のカップ状固定部材3には、多孔質陰極基体4を加熱するヒータ5が配設されている。なお、多孔質陰極基体4は、たとえば空孔率20%の多孔質タングステン(W)で構成され、空孔部にはたとえば酸化バリウム(BaO)、酸化カルシウム(CaO)および酸化アルミニウム(Al2 3 )などの電子放射物質が含浸され、電子放射面上に、スパッタ法などの薄膜形成手段によりイリジウム(Ir)あるいはオスミウム(Os)などの薄膜層が設けられたメタルコート型である。また、陰極スリーブ2の外側には、外周面と所定間隔を保持して筒状ホルダ6が陰極スリーブ2と同軸上に配設され、この筒状ホルダ6の上面には開口7が形成され、この開口7には、複数個、たとえば3個の短冊状のストラップ8が取り付けられ、このストラップ8により陰極スリーブ2を保持している。さらに、筒状ホルダ6の開口7には内方に向けて突出した張出部9が形成され、この張出部9には陰極スリーブ2と同軸状の遮蔽筒11がL字状の支持体12にて3箇所で取り付けられている。なお、これら支持体12は、開口7内でストラップ8と交互に位置している。
【0007】さらに、この含浸型陰極構体1は支持体15で第1グリッド16およびその他図示しないグリッドなどとともにボンドガラス17にて保持され、多孔質陰極基体4が第1グリッド16に形成された開口部18に対向して配設され、電子銃19を形成し電子管内に搭載される。
【0008】そして、この含浸型陰極構体1は、電子管内に搭載された後のエージング工程により、多孔質陰極基体4内に含浸されている酸化バリウムのバリウム(Ba)あるいは酸素(O)などを拡散させることにより、多孔質陰極基体4の表面上に電気2重層が形成され、高放射電流が可能となる。
【0009】さらに、最近では動作温度を下げるとともに、高電流密度の電子放射を得るために、酸化スカンジウムを分散させた多孔質陰極基体4、あるいは、表面にスカンジウム化合物を被着したスカンジウム型の多孔質陰極基体4が開発されつつあるが、特性の再現性が乏しく実用化への障壁となっている。
【0010】このように、従来のカラー受像管などに用いられている含浸型陰極構体は、省電力動作の目的からコンパクトな構造に形成されており、必然的に多孔質陰極基体4は厚さおよび直径が制限され、電子放射物質を充分含浸させることができない。一般的に、含浸型陰極構体の寿命特性は電子放射物質の主要成分であるバリウムの蒸発量に支配され、蒸発によりバリウムが消耗すると陰極基体のバリウム単原子層被覆率が減少して、要求される長寿命特性が得られなくなる。これらの理由から、低温動作および高電流密度動作が可能な含浸型陰極構体の開発が強く要望されている。
【0011】ところが、スカンジウム型の含浸型陰極構体は低温動作および高電流密度動作が可能であるものの、含浸型陰極構体が収納される受像管内の残留ガスのイオン衝撃を陰極基体が受けると、陰極基体の表面からスカンジウムをはじめとする表面の単分子層が消失して電子放射特性が劣化し、回復が遅いとともに充分でない。また、この回復が遅い理由としては、次のような理由が考えられている。
【0012】たとえば、スカンジウム型の含浸型陰極構体にスカンジウムの供給材料として用いられている酸化スカンジウム(Sc2 3 )あるいはタングステン酸スカンジウム(Sc2 3 12)などの場合、以下のようなスカンジウム生成反応が生じている(Applied Surface Science 26 (1986) p173および真空 第31巻 第10号 p833)。
【0013】Sc2 3 +3Ba→2Sc+3BaOSc2 3 12+3Ba→2Sc+3BaWO4なお、これらのスカンジウム生成反応は1100〜1200℃で生じる。すなわち従来のスカンジウム型の含浸型陰極構体の活性化温度は1100〜1200℃であるため、含浸型陰極構体の動作温度である900℃前後ではスカンジウムの生成が不充分となり、イオン衝撃後の電子放射特性の回復が遅くなる。
【0014】また、イオン衝撃後の電子放射特性の回復、すなわちイオン衝撃後のスカンジウムの回復を目的としたものに、特開平1−163941号公報または特開平3−173034号公報などに、スカンジウムまたは水素化スカンジウムなどを陰極基体の材料である高融点金属粉末、たとえばタングステン粉末と混合した後に、プレス、焼結する方法が記載されている。
【0015】しかしながら、これら特開平1−163941号公報または特開平3−173034号公報に記載の方法では、焼結中にスカンジウムの消失を防ぐために焼結温度をあまり高く取れず、たとえば最大1500℃程度とし、一方、スカンジウムの融点は1540℃であるので、陰極基体の強度が不充分となり陰極基体に機械加工時に欠けあるいはクラックを生じるおそれがある。
【0016】また、陰極基体の強度を維持する手段として、陰極基体を単体で焼結させた後に電子放射物質に金属スカンジウムを添加、混合させ、あるいは、金属スカンジウムを直接陰極基体上に載せてこの金属スカンジウム上に電子放射物質を載せるなどにより、水素雰囲気中で、1540℃で金属スカンジウムを含浸させ、ついで1650℃で電子放射物質の含浸する方法が提案されている。
【0017】ところが、この方法では金属スカンジウムを含浸させる時に融けたスカンジウムが電子放射物質と直接接しているために、金属スカンジウムが電子放射物質と反応してスカンジウムの多くが非常に酸化されやすくなり、含浸型陰極構体の動作温度におけるスカンジウム生成反応が不充分になる。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、従来のスカンジウム型の含浸型陰極構体は低温動作および高電流密度動作が可能であるものの、含浸型陰極構体が収納される受像管内の残留ガスのイオン衝撃を陰極基体が受けると、陰極基体の表面からスカンジウムをはじめとする表面の単分子層が消失して電子放射特性が劣化し、回復が遅いとともに充分でない。
【0019】また、特開平1−163941号公報または特開平3−173034号公報に記載の方法では、陰極基体の強度が不充分となり陰極基体に機械加工時に欠けあるいはクラックを生じるおそれがある問題を有している。
【0020】本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、イオン衝撃後も高電流密度の電子放射が得られるとともに、充分な強度を持った含浸型陰極構体および陰極基体の製造方法を提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明は、電子放射物質およびこの電子放射物質に対して0.1ないし10重量%の範囲の金属スカンジウムが含浸された陰極基体と、この陰極基体の電子放射面側と反対側の面に配置された固定部材と、この固定部材を保持する陰極スリーブと、前記陰極基体を加熱するヒータとを具備したものである。
【0022】そして、金属スカンジウムを電子放射物質に対して0.1重量%未満にするとスカンジウムの絶対量が不足したり酸化する割合が増大して高電流密度の電子放射が得られにくく、10重量%より多くすると不活性物質を生成する割合が増大して動作温度での活性化が進行しにくくなり充分な電子放射特性が得られなくなる。
【0023】また、本発明は、陰極基体の表面に金属スカンジウム(Sc)膜を形成し、この金属スカンジウム膜を形成した後に前記陰極基体をこの金属スカンジウムの融点以上の温度で加熱してこの金属スカンジウムを前記陰極基体に含浸し、金属スカンジウムを陰極基体に含浸した後に前記陰極基体に電子放射物質を含浸するものである。
【0024】そして、陰極基体に存在するスカンジウムは、従来例のように最初から酸化スカンジウム(Sc2 3 )あるいはタングステン酸スカンジウム(Sc2 3 12)などの安定した酸化物の状態ではなく、遊離したスカンジウムや不完全な酸化状態のスカンジウムの割合が多くなり、スカンジウム生成反応に依存せず、また、スカンジウム生成したとしてもより低い温度でスカンジウムが生成されため、動作温度においてもスカンジウムの生成は充分行なわれ、イオン衝撃により消失したスカンジウムの回復が大幅に改善されることにより、イオン衝撃後の電子放射特性の回復が図られるとともに、基体材料単体で形成されるため焼結温度を充分高くとれ、充分な強度が得られる。
【0025】また、電子放射物質を含浸する際に電子放射物質を含浸する温度より低い温度で電子放射物質のガス抜きをするもので、電子放射物質のガス抜きをすることによりスカンジウムの酸化を抑制する。
【0026】さらに、電子放射物質を含浸した後、水素雰囲気中で加熱して電子放射物質を含浸する際に酸化したスカンジウムを還元するもので、動作温度においてもスカンジウムの生成は充分行なわれ、イオン衝撃により消失したスカンジウムの回復が大幅に改善されることにより、イオン衝撃後の電子放射特性の回復が図られる。
【0027】またさらに、金属スカンジウムの含有量は、電子放射物質に対して0.1〜10重量%の範囲であるもので、金属スカンジウムを電子放射物質に対して0.1重量%未満にするとスカンジウムの絶対量が不足したり酸化する割合が増大して高電流密度の電子放射が得られにくく、10重量%より多くすると不活性物質を生成する割合が増大して動作温度での活性化が進行しにくくなり充分な電子放射特性が得られなくなる。
【0028】
【発明の実施の形態】以下、本発明の含浸型陰極構体の一実施の形態を図面を参照して説明する。なお、従来例で説明した部分に対応する部分には、同一符号を付して説明する。
【0029】含浸型陰極構体1は、図2に示すように、両端が開口した筒状の陰極スリーブ2を有し、この陰極スリーブ2の一端部の内側に、開口とほぼ同一面で凹面が上方に向いたカップ状固定部材3が配設され、このカップ状固定部材3内に電子放射物質が含浸された電子放射面を上面にした多孔質陰極基体4が固定され、陰極スリーブ2内のカップ状固定部材3には、多孔質陰極基体4を加熱するヒータ5が配設されている。なお、多孔質陰極基体4は、たとえば空孔率20%の多孔質タングステン(W)で構成され、空孔部にはスカンジウム(Sc)が含浸されるとともに、たとえば酸化バリウム(BaO)、酸化カルシウム(CaO)および酸化アルミニウム(Al2 3 )などの電子放射物質が含浸されている。また、陰極スリーブ2の外側には、外周面と所定間隔を保持して筒状ホルダ6が陰極スリーブ2と同軸上に配設され、この筒状ホルダ6の上面には開口7が形成され、この開口7には、複数個、たとえば3個の短冊状のストラップ8が取り付けられ、このストラップ8により陰極スリーブ2を保持している。さらに、筒状ホルダ6の開口7には内方に向けて突出した張出部9が形成され、この張出部9には陰極スリーブ2と同軸状の遮蔽筒11がL字状の支持体12にて3箇所で取り付けられている。なお、これら支持体12は、開口7内でストラップ8と交互に位置している。
【0030】さらに、この含浸型陰極構体1は支持体15で第1グリッド16およびその他図示しないグリッドなどとともにボンドガラス17にて保持され、多孔質陰極基体4が第1グリッド16に形成された開口部18に対向して配設され、電子銃19を形成し電子管内に搭載される。
【0031】ここで、多孔質陰極基体4はたとえば図1に示すように形成される。
【0032】まず、タングステン(W)などの高融点金属粉末を焼結して得られた多孔質陰極基体4の表面に、真空蒸着法によりスカンジウム膜を2.6μmの膜厚で形成する。なお、このスカンジウム膜の膜厚は、スカンジウムが多孔質陰極基体4に含浸される電子放射物質の量に対して3重量%となる量の厚さにしている。
【0033】そして、スカンジウム膜が形成された多孔質陰極基体4を、水素雰囲気中で1540〜1550℃に加熱して表面のスカンジウム膜を溶融させ、多孔質陰極基体4内にスカンジウムを含浸させる。
【0034】次に、酸化バリウム(BaO)、酸化カルシウム(CaO)および酸化アルミニウム(Al2 3 )などを含む電子放射物質を、たとえば水素雰囲気中で1650℃に加熱して多孔質陰極基体4内に含浸させる。また、電子放射物質は、BaO:CaO:Al2 3 =4:1:1のモル比で構成され、電子放射物質を含浸する際には含浸温度より低い温度、たとえば1400℃で1時間保持するなどして電子放射物質のガス出しをする。
【0035】そして、これらスカンジウムおよび電子放射物質が含浸された多孔質陰極基体4は、表面をクリーニングした後に、含浸型陰極構体1を組み立て、この含浸型陰極構体1を電子銃19とした後、陽極を配設してダイオード構成の電子管を作成する。
【0036】次に、このように構成した電子管を用いて実験し、電子放射特性を評価した。
【0037】まず、多孔質陰極基体4の動作温度を約1300Kとし、多孔質陰極基体4−陽極間に200Vのパルス電圧を印加し、印加パルスのデューティを0.1%から9.0%まで変化させた。
【0038】ここで、陽極に電圧が印加されているとき、電子管内で発生するイオンによってイオン衝撃を受け多孔質陰極基体4のスカンジウムが消失する。一方、陽極に電圧が印加されていないとき、多孔質陰極基体4の表面での熱拡散のためにスカンジウムの供給および表面被覆率の回復がなされる。したがって、デューティが高くなるに従い、イオン衝撃によって消失するスカンジウムは増大するので、従来の構成のスカンジウム型の多孔質陰極基体では、低デューティ領域で良好な放出電流特性を示すものの、高デューティ領域では放出電流特性が悪化し、高デューティ領域での動作が要求されるカラー受像管などへの実用化の障害となっている。
【0039】ここで、上述の実施の形態の多孔質陰極基体4を用いた場合のデューティ−放出電流密度特性を図3R>3に示す。なお、aは上記実施の形態のスカンジウム型の多孔質陰極基体4、bは従来のスカンジウム型の多孔質陰極基体、cは従来の一般的なM型の多孔質陰極基体を用いた場合の測定結果である。
【0040】そして、この測定結果によれば、従来のスカンジウム型の多孔質陰極基体ではデューティ0.1%で45A/cm2 に対し、デューティ9%で12A/cm2まで低下する。一方、上記実施の形態のスカンジウム型の多孔質陰極基体4ではデューティ0.1%で従来のものとほぼ同様の40A/cm2 であるが、デューティ9%で17A/cm2 となり、高デューティ領域での放出電流密度の低下を抑制でき、高デューティ領域での電子放射特性が改善されている。また、従来の一般的なM型の多孔質陰極基体と比較すると、低高いずれのデューティ領域でも放出電流特性が優れている。
【0041】この理由としては、酸化バリウム、酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムなどで構成される電子放射物質の含浸に先立って金属スカンジウムを溶融、含浸して多孔質陰極基体4内に取り込んでいるため、多孔質陰極基体4内、表面に存在するスカンジウムは、最初から酸化スカンジウム(Sc2 3 )あるいはタングステン酸スカンジウム(Sc2 3 12)などの安定した酸化物の状態ではなく、遊離したスカンジウムや不完全な酸化状態のスカンジウムの割合が多くなり、スカンジウム生成反応に依存せず、また、スカンジウム生成したとしてもより低い温度でスカンジウムが生成されため、動作温度においてもスカンジウムの生成は充分行なわれ、イオン衝撃により消失したスカンジウムの回復が大幅に改善されることにより、イオン衝撃後の電子放射特性が大きく回復されるためと考えられる。
【0042】なお、上記の実施の形態では、電子放射物質のモル比をBaO:CaO:Al2 3 =4:1:1とし、金属スカンジウムの電子放射物質に対する重量比を3%としたが、多孔質陰極基体4の電子放射特性および寿命試験を満足するものであれば、他のモル比あるいは重量比でもよく、必要とされる重量比になるようにスカンジウム膜厚を調整すればよい。
【0043】また、金属スカンジウムの電子放射物質に対する重量比を3%としたが、0.1重量%以上10重量%以下の範囲であればよい。なお、金属スカンジウムの電子放射物質に対する重量比が0.1重量%未満ではスカンジウムの絶対量が不足したり、また少量であるために酸化される割合が増大して動作温度での活性化が進行しにくくなって充分な電子放射特性は得られなくなる。反対に、金属スカンジウムの電子放射物質に対する重量比が10重量%を超えるとBa3 Sc4 9などの不活性物質を生成する割合が増して寿命試験中に電子放射特性が劣化してくる。
【0044】また、焼結温度を高くとることができるため、多孔質陰極基体4の強度を充分とることができ、多孔質陰極基体4に機械加工時に欠けあるいはクラックを生じることを防止できる。
【0045】次に、他の実施の形態の多孔質陰極基体4について説明する。
【0046】基本的には、上述の実施の形態と同様であるが多孔質陰極基体4の製造方法が異なる。
【0047】上記実施の形態と同様に形成された多孔質陰極基体4の表面に、金属スカンジウムをスパックリングによって2μmの膜厚で成膜する。
【0048】次に、この金属スカンジウムがスパッタリングされた多孔質陰極基体4を、水素雰囲気中で1580℃で多孔質陰極基体4に含浸させる。
【0049】さらに、所定量の電子放射物質を、水素雰囲気中で1650℃の温度で2分間、多孔質陰極基体4に含浸させ、この多孔質陰極基体4をクリーニングした後、上述の実施の形態と同様に電子管を構成する。
【0050】このように構成されたスカンジウム型の多孔質陰極基体4も、上述の実施の形態と同様な電子放射特性が得られた。
【0051】なお、いずれの実施の形態でも、金属スカンジウムの成膜は、真空蒸着あるいはスパッタリング法に限らず、いずれの方法であっても金属スカンジウムが成膜できればよく、また、金属スカンジウムの含浸は水素雰囲気中に限らず、真空中でもよい。
【0052】また、上記実施の形態では金属スカンジウムを用いたが、多孔質陰極基体4の活性化処理温度においてスカンジウムを解離できるような特性を持ち、電子放射特性を満足するようなスカンジウム合金を用いてもよく、成膜はいずれの手段から最適なものを選択すればよい。
【0053】さらに、クリーニングの後に電子放射物質と反応して酸化したスカンジウムを還元するために、水素中での加熱処理してもよい。
【0054】
【発明の効果】本発明によれば、金属スカンジウムを電子放射物質に対して0.1重量%以上10重量%以下にすれば、高電流密度の電子放射が得られる。
【0055】また、基体材料単体で形成されるため焼結温度を充分高くとれ、充分な強度を得ることができる。
【0056】さらに、電子放射物質を含浸した後、水素雰囲気中で加熱して電子放射物質を含浸する際に酸化したスカンジウムを還元するので、動作温度においてもスカンジウムの生成は充分行なわれ、イオン衝撃により消失したスカンジウムの回復が大幅に改善されることにより、イオン衝撃後の電子放射特性の回復を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態の含浸型陰極構体の製造工程を示す説明図である。
【図2】同上含浸型陰極構体を示す断面図である。
【図3】同上デューティと放出電流密度特性との関係を示すグラフである.
【符号の説明】
2 陰極スリーブ
3 カップ状固定部材
4 多孔質陰極基体
5 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電子放射物質およびこの電子放射物質に対して0.1ないし10重量%の範囲の金属スカンジウムが含浸された陰極基体と、この陰極基体の電子放射面側と反対側の面に配置された固定部材と、この固定部材を保持する陰極スリーブと、前記陰極基体を加熱するヒータとを具備したことを特徴とする含浸型陰極構体。
【請求項2】 陰極基体の表面に金属スカンジウム(Sc)膜を形成し、この金属スカンジウム膜を形成した後に前記陰極基体をこの金属スカンジウムの融点以上の温度で加熱してこの金属スカンジウムを前記陰極基体に含浸し、金属スカンジウムを陰極基体に含浸した後に前記陰極基体に電子放射物質を含浸することを特徴とする陰極基体の製造方法。
【請求項3】 電子放射物質を含浸する際に電子放射物質を含浸する温度より低い温度で電子放射物質のガス抜きをすることを特徴とする請求項2記載の陰極基体の製造方法。
【請求項4】 電子放射物質を含浸した後、水素雰囲気中で加熱して電子放射物質を含浸する際に酸化したスカンジウムを還元することを特徴とする請求項2または3記載の陰極基体の製造方法。
【請求項5】 金属スカンジウムの含有量は、電子放射物質に対して0.1〜10重量%の範囲であることを特徴とする請求項2ないし4いずれか記載の陰極基体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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