説明

含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤およびその食品包装体

【課題】
含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤、それを用いた含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法、およびそれらを用いた含硫アミノ酸を含む食品の食品包装体の提供。
【解決手段】
ミョウバン及び/又はクエン酸とpH調整剤からなる、含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤。特にpH調整剤がクエン酸ナトリウムである、前記風味低下防止剤。また、含硫アミノ酸を含む食品が甲殻類、特にカニである、前記風味低下防止剤。これらの風味防止低下剤を用いた含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法。前記風味低下防止剤あるいは風味低下防止方法を用いた含硫アミノ酸を含む食品の食品包装体の提供。特に瓶詰めであり、瓶がガラス製のものである前記食品包装体の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミョウバン及び/又はクエン酸とpH調整剤からなる含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤、それを用いた含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法、およびそれらを用いた含硫アミノ酸を含む食品の食品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農産物や甲殻類あるいは水産加工品等、含硫アミノ酸を含む食品を缶詰にする際、製造工程あるいは保存中に硫化物が発生し、これが缶内の鉄と反応し硫化鉄となり黒変を生じたり、また硫黄臭となって食品の風味を落としてしまうことが知られていた。
これらの諸問題を解決するために、一般に缶詰においては缶の内面に酸化亜鉛粉末を含有する熱硬化型油性塗料(Cエナメル)が塗布されていた(非特許文献1参照)。あるいはツーピース缶体においては缶内面の金属下地上にアルミキレート硬化型エポキシ樹脂塗料からなる下塗り塗膜層と、その塗膜上に酸化亜鉛粉末を含有する熱硬化性油性塗料からなる上塗り塗膜層とを備える缶用アルミニウム板を有底筒状に絞り加工して得られる缶体等が知られている(特許文献1参照)。
また、甲殻類の缶詰においては、黒変やストラバイト(ガラス状の結晶)等の変性が発生しないように、液汁を使用せず窒素ガスを注入し缶を密封することで、変性を抑える方法が報告されている(特許文献2参照)。あるいは、エビやカニをパック詰とするのに黒変や風味低下を抑える方法として、エビ又はカニを塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを含む水溶液と共にパックに封入する方法も報告されている。(特許文献3参照)。
一方、クラゲ等の海水生物の腐敗臭を抑制するために、硫酸アルミニウム又はその塩からなる腐敗臭防止剤が報告されている(特許文献4参照)。また、家畜、ペット等の悪臭を抑制するために、アルカリ金属の炭酸水素塩と明ばんを組み合わせた消臭剤及び消臭方法も報告されている(特許文献5参照)。また、クエン酸を用いて食品の硫化水素臭を除去することは公知であり、例えば加熱凝固卵白をクエン酸溶液に浸漬し硫化水素を抜くことが報告されている(特許文献6参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−101090号公報
【特許文献2】特開平8−275725号公報
【特許文献3】特開平8−280322号公報
【特許文献4】特開2001−122713号公報
【特許文献5】特開平07−163641号公報
【特許文献6】特公昭55−42820号公報
【非特許文献1】缶・びん詰・レトルト食品・飲料 製造講義 総論編、40頁、2002年、日本缶詰協会発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より商品を訴求するために、缶詰ではなく瓶詰めのように中味が外から見えるような形態としたいという要望が存在する。前述の通り、甲殻類を缶詰にした時の異臭問題は知られており、それに対する対策として様々な技術が開発されていたが、こと瓶詰めとなると、缶詰に用いられていた技術を単純に瓶詰めに置き換えることは、例えば缶詰に用いられていた塗料が瓶に付着しない等、瓶の性質上、構造上、あるいは製造工程上難しい問題があり、また可能であっても非常に複雑な工程を経なければならなく、コストアップにも繋がる。また、食品の硫化水素臭を除去するためにクエン酸を添加する、あるいは食品をクエン酸溶液等に通すことは公知であったが、単純にこれを適用しようとしても、臭いが除去できても食感や味に問題が残ってしまう。このような状況に鑑み、本発明者らは甲殻類等の含硫アミノ酸を含む食品、特にカニの瓶詰め製品を製造するにあたり、食感や味が良く、異臭等による風味低下を防止する方法を鋭意研究の結果、ミョウバン及び/又はクエン酸とpH調整剤を該食品に含有させることにより、簡便且つ食感、味が良い優れた風味低下防止効果を見出すに至った。従って本発明は、ミョウバン及び/又はクエン酸とpH調整剤からなる含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤、これを用いた含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法、およびそれらを用いた含硫アミノ酸を含む食品の食品包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ミョウバン及び/又はクエン酸とpH調整剤からなる、含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤に関する。また、pH調整剤がクエン酸ナトリウムである、前記風味低下防止剤に関する。また、含硫アミノ酸を含む食品が甲殻類、特にカニである前記風味低下防止剤に関する。また、これらの風味防止低下剤を用いた含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法に関する。特に、ボイル済みのカニ肉とミョウバン及び/又はクエン酸とクエン酸ナトリウムを配合した調味液を瓶に詰め、レトルト処理することを特徴とする、含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法に関する。さらに、これらの方法により得られた含硫アミノ酸を含む食品の風味低下が防止された製品に関する。また、前記食品の食品包装体、特に瓶詰めであり、瓶がガラス製のものである前記食品包装体に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、含硫アミノ酸を含む食品の瓶詰め、特にカニの瓶詰めの製造工程中、あるいは保存中に起こる異臭等の風味低下を防止し食感や味の良い優れた風味低下防止剤、それを用いた風味低下防止方法、これらによる風味低下が防止された食品包装体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明は、ミョウバン及び/又はクエン酸とpH調整剤からなる、含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤に関する。本発明で用いるミョウバンとしては、一般に食品に用いられるものであれば特に限定されないが、特に好ましくは硫酸カリウムアルミニウム(カリミョウバン、焼ミョウバン等と言われる)が用いられる。また、本発明で用いるクエン酸としては、一般に食品に用いられるものであれば特に限定されない。また、本発明で用いるpH調整剤としては、最終製品のpHを6〜7程度に調整するものであり、一般に食品に用いられるものであれば特に限定されないが、好ましくはクエン酸三ナトリウム(クエン酸ナトリウム)、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、DL−リンゴ酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、特に好ましくはクエン酸ナトリウムが用いられ、これらはそれぞれ単体あるいは混合物として用いても良い。これらの本発明風味低下防止剤の各成分はミョウバン及びクエン酸ナトリウム、クエン酸及びクエン酸ナトリウム、あるいはミョウバン、クエン酸、及びクエン酸ナトリウムの組み合わせで、それぞれ単体あるいは混合物として含硫アミノ酸を含む食品に添加しても良いし、あるいは調味するための調味料と一緒に添加、調味料が液状の場合には溶解して用いても良い。この時、ミョウバンは全体に対し好ましくは0.05〜0.5%、特に好ましくは0.1〜0.2%、クエン酸は全体に対し好ましくは0.005〜0.5%、特に好ましくは0.01〜0.1%、またクエン酸ナトリウムは最終製品のpHが6〜7になるように、全体に対し好ましくは0.1〜2%、特に好ましくは0.5〜1%で用いる。本発明で用いるミョウバン、クエン酸、及びクエン酸ナトリウムは、食品添加物として認められており、一般に市販されている。
本発明で言う含硫アミノ酸を含む食品とは、好ましくは甲殻類、特に好ましくはカニであり、例えばズワイガニ、タラバガニ等が挙げられる。また、甲殻類としてはエビ、あるいは甲殻類以外に鶏肉、ホタテ貝等が挙げられ、これらについても本発明による効果が期待できる。
また、本発明における食品包装体とは、特に瓶詰めである。特に好ましくは瓶がガラス製のものが用いられるが、プラスチック等一般に食品に用いる包装体であれば特に限定されない。
【0008】
次に、本発明における基本的なカニの瓶詰めの製造方法を説明する。原料のカニ肉は、生肉でも冷凍品でも良いが、ボイルされたものあるいはその冷凍品を用いる。冷凍品を用いる場合には適宜解凍して使用する。原料肉を適当量瓶詰めにし、さらに調味液を注入した後、常法によって殺菌し、冷却後製品とする。この時、カニ肉を瓶詰めする前に、例えばリン酸塩、pH調整剤、アミノ酸、乳化剤、アルコール、発色防止剤、品質改良剤、その他適当な食品添加物や調味料等の溶液にカニ肉を漬け込んでも良い。このような処理を一回あるいは複数回行っても良く、また複数回行う場合には、それぞれの溶液の成分は同じものでも違うものでも、適宜所望により決められる。瓶詰めする際に一緒に注入する調味液は、塩分、糖類、うまみ調味料、品質改良剤、保存料等一般的に用いられる成分からなるものであり、この調味液に本発明風味低下防止剤であるミョウバン及び/又はクエン酸とクエン酸ナトリウムを加える。このようにして、食感、味が良く異臭等による風味低下が抑制された、本発明の風味の良いカニ肉の瓶詰め製品を得ることができる。
【実施例】
【0009】
以下の実施例をもって本発明をより詳細に説明するが、これらは単に例示したのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0010】
実施例1:本発明製品の製造
ロシア産ベニズワイガニの2段ボイル済み冷凍品を約48時間かけて解凍し、原料とした。この原料肉を0.3%プラスナールEK(オルガノ社製)水溶液に2時間漬け込んだ後取り出し水切りをした。続いて0.2%ピロリン酸二水素ナトリウム(太洋化学工業社製)水溶液に先に水切りしたカニ肉を5分間漬け込み、取り出して水切りした。水切りされたカニ肉を、底面が六角形のガラス製瓶(容積約200ml)に詰め、塩分、糖類、うまみ調味料、品質改良剤、保存料等から構成され、本発明風味低下防止剤(ミョウバン0.1%、クエン酸0.01%、クエン酸ナトリウム0.7%)を含む調味液を60gを注入した。蓋を締めた後114℃60分間でレトルト処理し、常温まで冷ますことにより本発明製品を得た。
【0011】
実施例2:本発明風味低下防止剤の効果
実施例1と同様にしてサンプルを作製し、本発明風味低下防止剤の効果を確認した。この時、本発明風味低下防止剤であるミョウバン(焼ミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム(乾燥))、内藤製薬社製)、クエン酸(三栄源エフエフアイ社製)、あるいはpH調整剤としてクエン酸ナトリウム(三栄源エフエフアイ社製)をそれぞれ添加、無添加として組み合わせを変え、8種類のサンプルを作製した。また、本発明風味低下防止剤のそれぞれの成分は、実施例1記載の濃度と同様とした。評価は男女各5名のパネラーにより、臭い、食感、味について官能検査によって行った。結果を表1に示す。尚、表中において、成分の項目において○は添加、×は無添加を、官能評価の項目において◎はとても良い、○は良い、△はあまり良くない、をそれぞれ表す。
【0012】
【表1】

【0013】
この結果、本発明風味低下防止剤であるミョウバン、クエン酸、あるいはクエン酸ナトリウムをそれぞれ単独で添加した場合には、全く添加しなかった系と比較すると臭いの項目において効果が認められたが食感、味が良くなかった。ミョウバンとクエン酸ナトリウム、あるいはクエン酸とクエン酸ナトリウムを組み合わせることにより、臭い、食感、味の全ての項目で製品として満足される結果が得られ、さらにミョウバン、クエン酸、クエン酸ナトリウムを組み合わせた場合には、臭いの項目がさらに改善された。従って、本発明風味低下防止剤がの効果が非常に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミョウバン及び/又はクエン酸とpH調整剤からなる、含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤。
【請求項2】
pH調整剤がクエン酸ナトリウムである、請求項1記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤。
【請求項3】
ミョウバンが食品全体に対し0.05〜0.5%の濃度である、請求項1又は2記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤。
【請求項4】
クエン酸が食品全体に対し0.005〜0.5%の濃度である、請求項1乃至3記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤。
【請求項5】
クエン酸ナトリウムが食品全体に対し0.1〜2%の濃度である、請求項1乃至4記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤。
【請求項6】
含硫アミノ酸を含む食品が甲殻類である、請求項1乃至5記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤。
【請求項7】
甲殻類がカニである、請求6記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止剤。
【請求項8】
請求項1乃至7記載の風味低下防止剤を配合することを特徴とする、含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法。
【請求項9】
ボイル済みのカニ肉と、ミョウバン及び/又はクエン酸とクエン酸ナトリウムを配合した調味液を瓶に詰め、レトルト処理することを特徴とする、含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法。
【請求項10】
ミョウバンが食品全体に対し0.05〜0.5%の濃度である、請求項8又は9記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法。
【請求項11】
クエン酸が食品全体に対し0.005〜0.5%の濃度である、請求項8乃至10記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法。
【請求項12】
クエン酸ナトリウムが食品全体に対し0.1〜2%の濃度である、請求項8乃至11記載の含硫アミノ酸を含む食品の風味低下防止方法。
【請求項13】
請求項8乃至12記載の方法により得られた、含硫アミノ酸を含む食品の風味低下が防止された製品。
【請求項14】
請求項1乃至7記載の風味低下防止剤を配合した、含硫アミノ酸を含む食品の食品包装体。
【請求項15】
請求項8乃至12記載の方法により得られた製品を包装した、含硫アミノ酸を含む食品の食品包装体。
【請求項16】
包装体が瓶である、請求項14又は15記載の含硫アミノ酸を含む食品の食品包装体。
【請求項17】
瓶がガラス製である、請求項16記載の含硫アミノ酸を含む食品の食品包装体。

【公開番号】特開2007−37425(P2007−37425A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223133(P2005−223133)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】