説明

含硫ヒドロキシカルボン酸の製造法

【課題】ヒドロキシニトリル化合物を原料としない、含硫ヒドロキシカルボン酸の製造法を提供する。
【解決手段】含硫ケトールに、当該含硫ケトールを対応するα−ヒドロキシカルボン酸化合物に変換する能力を有するシュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属またはバチルス(Bacillus)属に属する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させることを特徴とする式(2)


(式中、Rは水素、アルキル基等を表す。)で示される含硫α-ヒドロキシカルボン酸化合物の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫ヒドロキシカルボン酸の製造法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、含硫ヒドロキシカルボン酸を製造するには、シアンヒドリンを加水分解する方法が用いられていた。工業的には触媒として硫酸を使用する方法が知られている。また、ヒドロキシニトリル化合物を微生物の作用により加水分解して対応するヒドロキシカルボン酸に変換する方法(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)等が知られている。
しかしながら、触媒として硫酸を使用する方法では、ヒドロキシニトリル化合物と硫酸とが反応した結果、目的物であるヒドロキシカルボン酸と等モル量の硫酸アンモニウムとが副生するために当該副生物の回収工程等が必要となり、工程が煩雑になり、また、微生物を用いてヒドロキシニトリル化合物から対応するヒドロキシカルボン酸化合物を製造する方法では、ヒドロキシニトリル化合物からの分解物であるシアン等により微生物が保持する酵素活性が阻害されたり、生成する大量のアンモニウム塩の処理等が必要となるという問題点があり、製造コストの増大を伴うものであった。
【0003】
【特許文献1】特公昭58−15120号公報
【特許文献2】特開平2−84198号公報
【特許文献3】特開平4−40898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大量の副生物の生成や酵素活性の阻害される恐れのない含硫ヒドロキシカルボン酸の製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、
1.式(1)
【0006】
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を表す。)
で示される含硫ケトールに、当該含硫ケトールを対応する含硫α−ヒドロキシカルボン酸化合物に変換する能力を有するシュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属またはバチルス(Bacillus)属に属する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させることを特徴とする式(2)
【0007】
【化2】

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される含硫α-ヒドロキシカルボン酸化合物の製造法;
2.微生物が、1級または2級のアルコール存在下で培養したシュードモナス(Pseudomonas)属またはロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物である前項1に記載の製造法;
3.微生物が、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)、シュードモナス メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)またはロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)に属する微生物である前項1もしくは2に記載の製造法;
4.微生物が、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)に属する微生物である前項1に記載の製造法;
5.微生物が、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO14164t、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IAM1236、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)JCM2788t、シュードモナス メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)IFO14162、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)ATCC15076、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO12320、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15610株またはロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148株の微生物である前項1〜3の何れかに記載の製造法;
6.微生物が、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)IFO3343t株の微生物である前項1または前項4に記載の製造法;
7.式(1)で示される含硫ケトールにおけるRが炭素数1〜8のアルキル基である前項1〜6の何れかに記載の製造法;
8.1級または2級のアルコールが1級または2級の炭素数1〜5のアルコールである前項2に記載の製造法;および
9.1級または2級のアルコールが1-プロパノールである前項8に記載の製造法等を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、大量の副生物の生成や酵素活性の阻害される恐れのなく、含硫ヒドロキシカルボン酸化合物を効果的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明製造法について説明する。
式(1)で示される含硫ケトール、及び、式(2)で示される含硫ヒドロキシカルボン酸化合物において、Rで示される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基を挙げることができる。また、Rで示される炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。
式(1)で示される含硫ケトール化合物におけるRは、好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基である。
尚、本発明製造法により製造され反応液から回収される、式(1)で示される含硫ケトール化合物に対応した式(2)で示される含硫ヒドロキシカルボン酸化合物は、塩の形であってもよい。
式(1)の化合物は、例えば、チアゾリニウム塩と塩基を触媒とする3−メチルチオプロピオンアルデヒドとパラホルムアルデヒドのカップリング反応(例えば特願2006−199127号などに記載)またはそれに準じて製造することもできる。
【0010】
本発明製造法において用いられる触媒としての微生物の菌体又は菌体処理物は、含硫ケトールを対応する含硫α−ヒドロキシカルボン酸に変換する能力を有するシュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属またはバチルス(Bacillus)属に属する微生物の菌体又は菌体処理物であればよく、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)、シュードモナス メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)等のシュードモナス属に属する微生物、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)等のロドコッカス属に属する微生物、または、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)等のバチルス属に属する微生物等の菌体又は菌体処理物が例示される。好ましくは、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)等のロドコッカス属に属する微生物等の菌体又は菌体処理物を挙げることができる。さらに好ましくは、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)等のロドコッカス属に属する微生物等の菌体又は菌体処理物を挙げることができる。
さらに具体的には例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO14164t、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IAM1236、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)JCM2788t、シュードモナス メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)IFO14162、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)ATCC15076、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO12320、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15610、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148及びバチルス・アルベイ(Bacillus alvei)IFO3343tの微生物であって、水の存在下に培養された菌体又は菌体処理物が挙げられる。好ましくは、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)ATCC15076、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO12320、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15610及びロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148の微生物であって、さらに好ましくはロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15610及びロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148の微生物であって、水の存在下に培養された菌体又は菌体処理物が挙げられる。
【0011】
本発明の方法によれば、式(1)で示される含硫ケトールのカルボキシル基を還元でき、ヒドロキシル基を優先的に酸化できる。ここで「優先的に酸化できる」とは、含硫ケトールのスルフィド酸化よりも一級ヒドロキシル基の酸化が優先的に進行するという意味である。
【0012】
本発明製造法において用いられるシュードモナス属に属するシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)、シュードモナス メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)等の微生物、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属するロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)等の微生物、または、バチルス属に属するバチルス・アルベイ(Bacillus alvei)等の微生物は、炭素源、窒素源、有機塩、無機塩等を適宜含有する各種の微生物を培養するための培地を用いて培養すればよい。
【0013】
当該培地に含まれる炭素源としては、例えば、グルコース、スクロース、グリセロール、でんぷん、アルコール、有機酸及び廃糖蜜が挙げられる。アルコール類としては特に、1級または2級の炭素数1〜5までのアルコール類がよく、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2,2−ジメチル−1−プロパノールが挙げられる。アルコールを添加した培地で上記微生物を培養することにより、反応性を高めることができる。窒素源としては、例えば、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、カザミノ酸、麦芽エキス、大豆粉、コーンスティプリカー(corn steep liquor)、綿実粉、乾燥酵母、硫安及び硝酸ナトリウムが挙げられ、有機塩及び無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸1カリウム、リン酸2カリウム、炭酸カルシウム、酢酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸第1鉄及び塩化コバルトが挙げられる。
【0014】
培養方法としては、例えば、固体培養、液体培養(試験管培養、フラスコ培養、ジャーファーメンター培養等)が挙げられる。
培養温度及び培養液のpHは、本微生物が生育する範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、培養温度は通常、約15〜45℃の範囲、培養液のpHは、通常、約4〜8の範囲を挙げることができる。培養時間は、培養条件により適宜選択することができるが、通常、約1〜7日間である。
【0015】
培養された菌体は、そのまま本発明製造法に用いることができる。本微生物の菌体をそのまま用いる方法としては、例えば、(1)培養液をそのまま用いる方法、(2)培養液の遠心分離等により菌体を集め、集められた菌体(必要に応じて、緩衝液又は水で洗浄した後の湿菌体)を用いる方法等を挙げることができる。
【0016】
また本発明製造法においては、上記のようにて得られた菌体処理物を用いることもできる。当該菌体処理物としては、例えば、培養して得られた菌体を有機溶媒(アセトン、エタノール等)処理したもの、凍結乾燥処理したもの若しくはアルカリ処理したもの、又は、菌体を物理的若しくは酵素的に破砕したもの、又は、これらのものから分離・抽出された粗酵素等を挙げることができる。さらに、菌体処理物には、前記処理を施した後、公知の方法により固定化処理したものも含まれる。
【0017】
本発明製造法は、通常、水の存在下で行われる。この場合の水は、緩衝液の形態であってもよい。当該緩衝液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸のアルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
また本発明製造法は、さらに疎水性有機溶媒を用いて、水と疎水性有機溶媒との存在下で行うこともできる。この場合に用いられる疎水性有機溶媒としては、例えば、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、n−オクチルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類及びこれらの混合物が挙げられる。
また本発明製造法は、さらに親水性有機溶媒を用いて、水と親水性有機溶媒との存在下で行うこともできる。この場合に用いられる親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類及びこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
本発明製造法は、通常、水層のpHが3〜10の範囲内で行われるが、反応が進行する範囲内で適宜変化させてもよい。
【0019】
本発明製造法は、通常、約0〜60℃の範囲内で行われるが、反応が進行する範囲内で適宜変化させてもよい。
【0020】
本発明製造法は、通常、約0.5時間〜約10日間の範囲内で行われる。反応の終点は、原料化合物である含硫ジヒドロキシ化合物の添加終了後、例えば、反応液中の当該含硫ジヒドロキシ化合物の量を、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等により測定することにより確認することができる。
【0021】
本発明製造法における原料化合物である含硫ジヒドロキシ化合物の濃度は、通常、50%(w/v)の以下であり、反応系中の当該含硫ジヒドロキシ化合物の濃度をほぼ一定に保つために、当該含硫ジヒドロキシ化合物を反応系に連続又は逐次加えてもよい。
【0022】
本発明製造法では、必要に応じて反応系に、例えば、グルコース、シュークロース、フルクトース等の糖類、又は、TritonX−100(登録商標)若しくはTween60(登録商標)等の界面活性剤等を加えることもできる。
【0023】
反応終了後、反応液を有機溶媒抽出、濃縮等の通常の後処理を行うことにより、前記含硫ケトールに対応した含硫ヒドロキシカルボン酸化合物を反応液から回収すればよい。回収された含硫ヒドロキシカルボン酸化合物は、必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、蒸留等によりさらに精製することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明製造法を実施例により詳細に説明するが、本発明製造法はこれらの例に限定されるものではない。
【0025】
4−メチルチオ−2−オキソ−1−ブタノールの合成例
磁気回転子を付した200mLフラスコに、室温で3−メチルチオプロピオンアルデヒド23.7g、パラホルムアルデヒド17.7g、3−エチルベンゾチアゾリニウムブロマイド4gおよびtert−ブタノール100gを仕込み、攪拌した。この混合液にトリエチルアミン1.3gを加えた後、内温80℃まで昇温し、同温度で24時間攪拌した。反応後、酢酸エチル100gを加え、水20gで2回洗浄処理し、得られた有機層を濃縮処理した。得られたオイルを減圧蒸留し、留出温度45〜50℃(0.5〜0.6kPa)の留分として3−メチルチオプロピオンアルデヒド15gを回収した後、留出温度85〜95℃(0.3kPa)の留分15g(以下、留分A)を得た。留分Aを、ガスクロマトグラフィ面積百分率法にて分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ−1−ブタノールが40%含まれていた。留分Aをシリカゲルカラムにて、さらに精製した。酢酸エチル:n−ヘキサン=1:4の溶出液にて、低極性不純物を追い出した後、酢酸エチル:n−ヘキサン=2:4の溶出液にて、4−(メチルチオ)−2−オキソ−1−ブタノールを溶出させた。溶媒を留去して、4−(メチルチオ)−2−オキソ−1−ブタノール純度91%(ガスクロマトグラフィ面積百分率法)の留出分1.4gと、純度82%(ガスクロマトグラフィ面積百分率法)の留出分2.0gを得た。これらの留出分はいずれも室温で固化した。
<4−(メチルチオ)−2−オキソ−1−ブタノールのスペクトルデータ>
1H−NMR(δppm,DMSO−d,TMS基準):2.05(s,3H),
2.62(m,2H),2.70(m,2H),4.06(s,2H),
5.13(bs,1H)
MS,m/z(相対強度):134(32,M),106(20),
103(19),86(5),75(55),61(100)
【0026】
実施例1 (本発明製造法による、含硫ケトールからの含硫ヒドロキシカルボン酸化合物の製造例)
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、1−プロパノール20g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これにロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)に属するATCC15610株を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離により菌体を分離することにより、生菌体を得た。ねじ口試験管に0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH7)を1ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁した。当該懸濁液に、原料(4−メチルチオ−2−オキソ−1−ブタノール)を1mg添加した後、得られた混合物を30℃で7日間振盪させた。
反応終了後、反応液を0.5mlサンプリングした。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成した2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸の量を液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸の生成濃度は0.75g/Lであった。
(含量分析条件)
カラム:カデンツァ(Cadenza) CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 80:20
10 80:20
20 50:50
30 50:50
30.1 80:20
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【0027】
実施例2 (本発明製造法による、含硫ケトールからの含硫ヒドロキシカルボン酸化合物の製造例)
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、1−プロパノール20g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これにロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)に属する ATCC19148株を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離により菌体を分離することにより、生菌体を得た。ねじ口試験管に0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH7)を1ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁した。当該懸濁液に、原料(4−メチルチオ−2−オキソ−1−ブタノール)を1mg添加した後、得られた混合物を30℃で7日間振盪させた。
反応終了後、反応液を0.5mlサンプリングした。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成した2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸の量を液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸の生成濃度は0.43g/Lであった。
(含量分析条件)
カラム:カデンツァ(Cadenza) CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 80:20
10 80:20
20 50:50
30 50:50
30.1 80:20
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【0028】
実施例3 (含硫ケトールからの含硫ヒドロキシカルボン酸化合物の製造例)
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、グルコース20g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これにバチルス・アルベイ(Bacillus alvei)に属するIFO3343t株を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離により菌体を分離することにより、生菌体を得た。ねじ口試験管に0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH7)を1ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁した。当該懸濁液に、原料(4−メチルチオ−2−オキソ−1−ブタノール)を1mg添加した後、得られた混合物を30℃で10日間振盪させた。
反応終了後、反応液を0.5mlサンプリングした。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成した2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸の量を液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸の生成濃度は0.03g/Lであった。
(含量分析条件)
カラム:カデンツァ(Cadenza) CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 80:20
10 80:20
20 50:50
30 50:50
30.1 80:20
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【0029】
実施例4 (含硫ケトールからの含硫ヒドロキシカルボン酸化合物の製造例)
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、1−プロパノール20g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これにシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO14164t、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IAM1236、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)JCM2788t、シュードモナス メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)IFO14162、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)ATCC15076、または、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO12320株を植菌した。これらをそれぞれ30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離により菌体をそれぞれ分離することにより、生菌体を得た。ねじ口試験管に0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH7)を1ml入れ、これに上記の生菌体をそれぞれ加えた後、懸濁した。当該懸濁液に、原料(4−メチルチオ−2−オキソ−1−ブタノール)を1mg添加した後、得られた混合物を30℃で5日間、または、10日間振盪させた。
反応終了後、反応液を0.5mlサンプリングした。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成した2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸の量を液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果を表1に示す。

表1


(含量分析条件)
カラム:カデンツァ(Cadenza) CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 80:20
10 80:20
20 50:50
30 50:50
30.1 80:20
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、含硫ヒドロキシカルボン酸化合物を効率的に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基を表す。)
で示される含硫ケトールに、当該含硫ケトールを対応する含硫α−ヒドロキシカルボン酸化合物に変換する能力を有するシュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属またはバチルス(Bacillus)属に属する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させることを特徴とする式(2)
【化2】

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される含硫α-ヒドロキシカルボン酸化合物の製造法。
【請求項2】
微生物が、1級または2級のアルコール存在下で培養したシュードモナス(Pseudomonas)属またはロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物である請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
微生物が、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)、シュードモナス メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)またはロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)に属する微生物である請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
微生物が、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)に属する微生物である請求項1に記載の製造法。
【請求項5】
微生物が、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO14164t、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IAM1236、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)JCM2788t、シュードモナス メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)IFO14162、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)ATCC15076、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO12320、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15610株、または、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148株の微生物である請求項1〜3の何れかに記載の製造法。
【請求項6】
微生物が、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)IFO3343t株の微生物であることを特徴とする請求項1または4に記載の製造法。
【請求項7】
式(1)で示される含硫ケトールにおけるRが炭素数1〜8のアルキル基である請求項1〜6の何れかに記載の製造法。
【請求項8】
1級または2級のアルコールが1級または2級の炭素数1〜5のアルコールである請求項2に記載の製造法。
【請求項9】
1級または2級のアルコールが1-プロパノールである請求項8に記載の製造法。

【公開番号】特開2008−104445(P2008−104445A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12349(P2007−12349)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】