説明

含硫黄芳香族ポリマーの製造方法

【課題】比較的温和な反応条件でも高い収率で含硫黄芳香族ポリマーを製造できる方法を提供する。
【解決手段】ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンをアルカリ金属の存在下で反応させて該ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩を得る工程1と、水と有機溶媒との混合溶媒中で、前記工程1で得られた(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩と下記式(2)で表されるジハロゲン化ビアリールとを反応させる工程2とを有する含硫黄芳香族ポリマーの製造方法。


式(2)中、Arは、少なくとも1つの芳香族環を有する二価基または、少なくとも1つのヘテロ原子を含む複素芳香族環を有する二価基を表し、Yは、ハロゲン原子を表す

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫黄芳香族ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性、機械的特性、難燃性、寸法安定性に優れた熱可塑性プラスチックはスーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれ、その中でもポリフェニレンスルフィド(PPS)やポリスルホン(PSF)などの含硫黄芳香族ポリマーは、精密工業部品分野を中心に機械構造部品、電気・電子部品、各種金属の代替分野に用いられている。
【0003】
特許文献1には、N−メチルピロリドンに硫化ナトリウム九水和物を溶解させた後、1,4−ジクロロベンゼンを添加し、約250℃で17時間反応させることによりPPSが収率72%で得る方法が開示されている。しかしながら、この方法では、反応温度が約250℃と高いことから、含硫黄芳香族ポリマーを工業的に製造することが困難であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3354129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、比較的温和な反応条件でも高い収率で含硫黄芳香族ポリマーを製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記式(1)で表されるビス(4−メルカプトフェニル)スルホンをアルカリ金属の存在下で反応させて該ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩を得る工程1と、水と有機溶媒との混合溶媒中で、前記工程1で得られた(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩と下記式(2)で表されるジハロゲン化ビアリールとを反応させる工程2とを有する下記式(3)で表される繰り返し構造単位を有する含硫黄芳香族ポリマーの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
式(2)中、Arは、少なくとも1つの芳香族環を有する二価基または、少なくとも1つのヘテロ原子を含む複素芳香族環を有する二価基を表し、Yは、ハロゲン原子を表す。
【0010】
【化3】

式(3)中、Arは、式(2)におけるArと同じ基を表す。
【0011】
特許文献1に開示されているような従来の含硫黄芳香族ポリマーの製造方法では、有機溶媒に硫化ナトリウム九水和物を溶解させた後、1,4−ジクロロベンゼンを添加し約250℃で17時間反応させており、反応温度条件が非常に高いという不具合があった。
本発明者らは、水と、ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドン等の有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩をジハロゲン化ビアリールと均一で反応させることができ、その結果、比較的温和な反応条件でも高い収率で含硫黄芳香族ポリマーを製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の含硫黄芳香族ポリマーの製造方法は、前記式(1)で表されるビス(4−メルカプトフェニル)スルホンをアルカリ金属の存在下で反応させて該ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩を得る工程1を有する。
【0013】
前記工程1において、前記アルカリ金属は、アルカリ金属水酸化物として前記ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンとの反応に使用することが好ましい。
前記アルカリ金属水酸化物は特に限定されず、市販されているものを用いることができ、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムやこれらの水和物などが挙げられる。なかでも、水酸化リチウムやその水和物が好適に用いられる。
【0014】
前記ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンと前記アルカリ金属水酸化物とを反応させる際の前記アルカリ金属水酸化物の使用量は特に限定されないが、前記ビス(4−メルカプトフェニル)スルホン1モルに対して、1.5〜2.5モルであることが好ましく、1.8〜2.2モルであることがより好ましい。前記アルカリ金属水酸化物の使用量が1.5モル未満であると、得られる含硫黄芳香族ポリマーの収率が低下することがある。前記アルカリ金属水酸化物の使用量が2.5モルを超えると反応液の粘性が高くなり、攪拌が困難になることがある。
【0015】
前記アルカリ金属塩を得る反応は水中で行うことが好ましい。
前記ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンを前記アルカリ金属の存在下で反応させる際の前記水の使用量は特に限定されないが、前記ビス(4−メルカプトフェニル)スルホン100重量部に対して、2〜30重量部であることが好ましく、5〜15重量部であることがより好ましい。
【0016】
本発明の含硫黄芳香族ポリマーの製造方法は、水と有機溶媒との混合溶媒中で、前記工程1で得られた(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩と前記式(2)で表されるジハロゲン化ビアリールとを反応させる工程2を有する。
本発明の含硫黄芳香族ポリマーの製造方法は、水と有機溶媒との混合溶媒中で前記工程2を行うことにより、高い収率で前記式(3)で表される繰り返し構造単位を有する含硫黄芳香族ポリマーを得ることができる。
【0017】
前記ジハロゲン化ビアリールとしては、市販されているものを用いることができ、具体的には例えば、2,6−ジフルオロピリジン、2,6−ジクロロピリジン、2,6−ジブロモピリジン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−ブロモフェニル)スルホンなどが挙げられる。また、前記式(2)において、Yは、塩素原子であることが好ましく、2,6−ジクロロピリジンやビス(4−クロロフェニル)スルホンが好適に用いられる。
【0018】
前記ジハロゲン化ビアリールの使用量は特に限定されないが、前記ビス(4−メルカプトフェニル)スルホン1モルに対して、0.5〜1.5モルであることが好ましく、0.8〜1.2モルであることがより好ましい。前記ジハロゲン化ビアリールの使用量が0.5モル未満であると、得られる含硫黄芳香族ポリマーの収率が低下することがある。前記ジハロゲン化ビアリールの使用量が1.5モルを超えると、得られる含硫黄芳香族ポリマーの純度が低下することがある。
【0019】
前記ジハロゲン化ビアリールを溶解させる有機溶媒は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類や、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類や、アセトニトリル、アクリロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類や、ブチロラクトン、カプロラクトン、ヘキサノラクトン、酢酸エチルなどのエステル類や、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類や、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、石油エーテル、ベンジン、ケロシン、トルエン、キシレン、メシチレン、ベンゼンなどの炭化水素類や、ジメチルホルムアミドなどのアミド類や、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。これらの中でも、ジメチルホルムアミドが好適に用いられる。これらの有機溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
前記有機溶媒の使用量は特に限定されないが、前記ビス(4−メルカプトフェニル)スルホン100重量部に対して、20〜2万重量部であることが好ましく、100〜1万重量部であることがより好ましい。前記有機溶媒の使用量が20重量部未満の場合は、ジハロゲン化ビアリールが溶解せず懸濁状態となり含硫黄芳香族ポリマーの収率が低下するおそれがある。また、前記有機溶媒の使用量が2万重量部を超える場合は、使用量に見合う効果がなく容積効率が悪化し経済的でない。
【0021】
前記(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩と前記式(2)で表されるジハロゲン化ビアリールとを反応させる際の反応温度としては、0〜200℃であることが好ましく、50〜150℃であることがより好ましい。前記反応温度が0℃未満であると、反応に長時間を要するおそれがある。
前記反応温度が200℃を超えると、副生成物が生成するおそれがある。
【0022】
前記式(2)で表されるジハロゲン化ビアリールを滴下等により添加した後、通常1〜30時間前記反応温度で攪拌し、その後、中和、ろ過、洗浄、乾燥することにより、前記式(3)で表される繰り返し構造単位を有する含硫黄芳香族ポリマーを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、比較的温和な反応条件でも高い収率で含硫黄芳香族ポリマーを製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0025】
(実施例1)
[(4−メルカプトフェニル)スルホンと2,6−ジクロロピリジンとからなる含硫黄芳香族ポリマーの製造]
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却器を備え付けた300mL容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、(4−メルカプトフェニル)スルホン5.65g(0.020モル)および水20gを仕込み、水酸化リチウム・一水和物1.76g(0.042モル)を徐々に加え、室温で1時間撹拌した。その後、ジメチルホルムアミド20.0gを加え、2,6−ジクロロピリジン2.96g(0.020モル)をジメチルホルムアミド10.0gに溶解させた溶液を130℃で30分かけて滴下した。滴下終了後は130℃で12時間攪拌した。
0.8重量%の塩酸205.0gを添加した後、濾過を行い、水50.0gとアセトン50gで洗浄した。濾過で得られた共重合体は減圧下、60℃で乾燥させ、前記式(3)で表される繰り返し構造単位を有する含硫黄芳香族ポリマー6.9g((4−メルカプトフェニル)スルホンに対する収率97%)を得た。
なお、得られた共重合体は、IR(KBr)により、メルカプト基(2551(cm−1))を有していないことを確認し同定した。
【0026】
(実施例2)
[(4−メルカプトフェニル)スルホンとビス(4−クロロフェニル)スルホンとからなる含硫黄芳香族ポリマーの製造]
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却器を備え付けた500mL容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、(4−メルカプトフェニル)スルホン5.65g(0.020モル)および水20gを仕込み、水酸化リチウム・一水和物1.76g(0.042モル)を徐々に加え、室温で1時間撹拌した。その後、ジメチルホルムアミド20.0gを加え、ビス(4−クロロフェニル)スルホン5.74g(0.020mol)をジメチルホルムアミド10.0gに溶解させた溶液を130℃で30分かけて滴下した。滴下終了後は130℃で12時間攪拌した。
0.8重量%の塩酸205.0gを添加した後、濾過を行い、水50.0gとアセトン50gで洗浄した。濾過で得られた共重合体は減圧下、60℃で乾燥させ、前記式(3)で表される繰り返し構造単位を有する含硫黄芳香族ポリマー8.9g((4−メルカプトフェニル)スルホンに対する収率90%)を得た。
なお、得られた共重合体は、IR(KBr)により、メルカプト基(2551(cm−1))を有していないことを確認し同定した。
【0027】
(比較例1)
[1,4−ジクロロベンゼンと硫化ナトリウム九水和物からなる含硫黄芳香族ポリマーの製造]
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却器を備え付けた2000mL容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、1,4−ジクロロベンゼン147g(1.0mol)と硫化ナトリウム九水和物240.2g(1.0mol)とを仕込み、N−メチルピロリドン1000mlを加え、250℃で17時間撹拌した。
得られた反応液を濾過した後、水150gを用いて3回洗浄した。濾過で得られたポリマーは減圧下、100℃で乾燥させることにより、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を75.5g、収率70%で得た。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、比較的温和な反応条件でも高い収率で含硫黄芳香族ポリマーを製造できる方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるビス(4−メルカプトフェニル)スルホンをアルカリ金属の存在下で反応させて該ビス(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩を得る工程1と、
水と有機溶媒との混合溶媒中で、前記工程1で得られた(4−メルカプトフェニル)スルホンのアルカリ金属塩と下記式(2)で表されるジハロゲン化ビアリールとを反応させる工程2とを有する
ことを特徴とする下記式(3)で表される繰り返し構造単位を有する含硫黄芳香族ポリマーの製造方法。
【化1】

【化2】

式(2)中、Arは、少なくとも1つの芳香族環を有する二価基または、少なくとも1つのヘテロ原子を含む複素芳香族環を有する二価基を表し、Yは、ハロゲン原子を表す。
【化3】

式(3)中、Arは、式(2)におけるArと同じ基を表す。

【公開番号】特開2012−211217(P2012−211217A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76403(P2011−76403)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】