説明

含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法

【課題】 純度の高い含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の粉粒体を安全に且つ操作性よく得る方法を提供する。
【解決手段】 含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法は、下記式(1)
【化2】


(式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R2は含窒素複素環式基を示し、R3は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、N−置換カルバモイル基、N−置換スルファモイル基、N−アシルアミノ基又はN−スルホン酸アシルアミノ基を示す。nは1〜5の整数を示す。nが2〜5の整数の場合、複数個のR3は同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物をアルコールと水の混合溶媒を用いて晶析することを特徴とする。この製造方法において、式(1)で表される化合物に対して、アルコールを1〜10重量倍、水を0.1〜3重量倍用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化銀写真感光材料等として有用な含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法、及び残存溶媒量の少ない含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の粉粒体に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)で示されるようなα位に含窒素複素環式基が結合したβ−ケトアミド誘導体はハロゲン化銀写真感光材料等として有用である。
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R2は窒素原子含有複素環式基を示し、R3は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、N−置換カルバモイル基、N−アシルアミノ基又はN−スルホン酸アシルアミノ基を示す。nは1〜5の整数を示す。nが2〜5の整数の場合、複数個のR3は同一であっても異なっていてもよい)
【0003】
この化合物の製造法として、特開2006−169132号公報には、ベンゼン環に塩素原子が結合している対応する化合物をアルキルアミンと金属化合物触媒の存在下で接触水素還元する方法が開示されている。この文献には、反応液に水を加えて塩を除去し、有機層を濃縮した後、残渣にヘプタンを加えて再結晶することにより目的化合物を得る例が記載されている。しかし、ヘプタンは引火点が低いので、固体を取り出す際には、遠心分離機などの装置に特別の安全対策を施す必要がある。また、ヘプタンを含んだ湿結晶を乾燥する際、事前に湿結晶の粉砕作業が必要である。さらに、乾燥中、固体表面が一部ヘプタンに溶解し、固体同士が付着するため、粒径や形状が不均一となり、大きな塊状のものが混じったものが得られる。そのため、感光材料等として利用する際には、粉砕や分級作業などの煩雑な作業が必要となる。また、ヘプタンから晶析又は再結晶して得られる固体を乾燥しても溶媒を完全に除去することができないという問題もある。
【0004】
なお、上記文献には、前記式(1)と類似した構造を有する化合物[式(1)におけるR1をアリール基に置き換えた化合物]につき、メタノールから再結晶することにより生成物を単離する例が記載されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、前記式(1)で表される化合物をメタノールから晶析又は再結晶する場合には、析出した結晶が固まってシャーベット状となり、撹拌不能となるため、該方法は実用的な方法とは言い難い。
【0005】
【特許文献1】特開2006−169132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、純度の高い含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の粉粒体を安全に且つ操作性よく得る方法を提供することにある。本発明の他の目的は、粒径及び形状が均一な粉粒状の含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体を工業的に効率よく得る方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、残存溶媒量の極めて少ない含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の粉粒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、α位に含窒素複素環式基が結合したβ−ケトアミド誘導体をアルコールと水との混合溶媒を用いて晶析すると、粒径及び形状が均一で残存溶媒量の極めて少ない粉粒体を、安全に操作性よく、工業的に効率よく製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R2は含窒素複素環式基を示し、R3は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、N−置換カルバモイル基、N−置換スルファモイル基、N−アシルアミノ基又はN−スルホン酸アシルアミノ基を示す。nは1〜5の整数を示す。nが2〜5の整数の場合、複数個のR3は同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物をアルコールと水の混合溶媒を用いて晶析することを特徴とする含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法を提供する。
【0009】
この製造方法において、式(1)で表される化合物に対して、アルコールを1〜10重量倍、水を0.1〜3重量倍用いるのが好ましい。また、アルコールとしてメタノールを用いるのが好ましい。式(1)で表される化合物の好ましい例として、R1がt−ブチル基、R2が、5位にアルキル基を有する1,3−オキサゾリジン−2,4−ジオン−3−イル基、R3がアルコキシ基、n=1である化合物が挙げられる。
【0010】
この製造方法では、晶析により、粒径16mm以上の塊状物の含有量が10重量%以下である粉粒体を得ることができる。
【0011】
本発明は、また、下記式(1)
【化3】

(式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R2は含窒素複素環式基を示し、R3は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、N−置換カルバモイル基、N−置換スルファモイル基、N−アシルアミノ基又はN−スルホン酸アシルアミノ基を示す。nは1〜5の整数を示す。nが2〜5の整数の場合、複数個のR3は同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物の粉粒体であって、該粉粒体中に含まれる残存溶媒量が2重量%以下であることを特徴とする含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の粉粒体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、純度の高い含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体を安全に且つ操作性よく得ることができる。また、粒径及び形状が均一な粉粒状の含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体を工業的に効率よく製造できる。さらに、本発明によれば、残存溶媒量の極めて少ない含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の粉粒体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、前記式(1)で表される化合物をアルコールと水の混合溶媒を用いて晶析する。式(1)中、R1は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R2は含窒素複素環式基を示し、R3は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、N−置換カルバモイル基、N−置換スルファモイル基、N−アシルアミノ基又はN−スルホン酸アシルアミノ基を示す。nは1〜5の整数を示す。nが2〜5の整数の場合、複数個のR3は同一であっても異なっていてもよい。
【0014】
1における炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。R1としては、炭素数2〜6のアルキル基が好ましく、特にt−ブチル基が好ましい。
【0015】
前記炭素数1〜8のアルキル基は、官能基等で置換されていてもよい。官能基等としては、例えば、水酸基、オキソ基、アシル基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0016】
2における含窒素複素環式基としては、例えば、下記式(a)〜(j)で表される基が挙げられる。
【化4】

【0017】
上記式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33,R34、R35、R36、R37、R38、R39は、同一又は異なって、水素原子、C1-10アルキル基、アラルキル基、アリール基、C1-10アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、C1-10アルコキシ−カルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基又はN−置換カルバモイル基を示す。
【0018】
前記C1-10アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、トリチル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。C1-10アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ、t−ブチルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ基等が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ、ナフチルオキシ基等が挙げられる。C1-10アルコキシ−カルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブチルオキシカルボニル、t−ブチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル基等が挙げられる。アラルキルオキシカルボニル基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。アリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基等が挙げられる。アシルアミノ基としては、例えば、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ、4−メトキシベンゾイルアミノ基等の炭素数1〜10程度のアシルアミノ基が挙げられる。N−置換カルバモイル基としては、例えば、N−メチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル基等が挙げられる。
【0019】
2における含窒素複素環式基としては、特に、式(a)で表される基(5位に置換基を有していてもよい1,3−オキサゾリジン−2,4−ジオン−3−イル基)が好ましい。式(a)におけるR11、R12としては、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましい。特に、R11及びR12のうち少なくとも一方が炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましい。
【0020】
3におけるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ、t−ブチルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ、イコシルオキシ、ドコシルオキシ基等の炭素数1〜25程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基が挙げられる。なかでも、炭素数8〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基が好ましい。前記アルコキシ基は置換基を有していてもよい。置換基を有するアルコキシ基として、例えば、2−エトキシエチルオキシ基等のアルコキシアルキルオキシ基;ドデシルオキシカルボニルメチルオキシ基、1−ドデシルオキシペンチルオキシ基などのアルコキシカルボニルアルキルオキシ基;N,N−ジ−t−オクチルカルバモイルメチルオキシ基等のN−置換カルバモイルアルキルオキシ基等が挙げられる。
【0021】
3におけるアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、2,4−ジ−t−ペンチルフェニルオキシ基、4−t−オクチルフェニルオキシ基、3−ペンタデシルフェニルオキシ基、4−ドデシルオキシフェニルオキシ基などが挙げられる。R3におけるアルコキシカルボニルオキシ基としては、オクチルオキシカルボニルオキシ基、ドデシルオキシカルボニルオキシ基、テトラデシルオキシカルボニルオキシ基などのC1-20アルコキシ−カルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0022】
3におけるN−置換カルバモイル基としては、例えば、N−ドデシルカルバモイル基、N−テトラデカノイルカルバモイル基、N−(4−エトキシブチルスルホニル)カルバモイル基などが挙げられる。R3におけるN−置換スルファモイル基としては、例えば、N−ドデシルスルファモイル基、N−テトラデカノイルスルファモイル基などが挙げられる。R3におけるN−アシルアミノ基としては、例えば、N−i−オクタデカノイルアミノ基、N−ヘキサデカノイルアミノ基、N−(2−(2,5−ジ−t−ブチルフェニルオキシ)プロピオニルアミノ基などが挙げられる。R3におけるN−スルホン酸アシルアミノ基としては、例えば、N−ドデシルスルホニルアミノ基、N−ヘキサデシルスルホニルアミノ基などが挙げられる。
【0023】
nは、好ましくは、1又は2である。
【0024】
式(1)で表される化合物のなかでも、特に、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【化5】

【0025】
上記式中、R1は前記に同じである。R111、R121は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜30のアルキル基を示す。
【0026】
111、R121における炭素数1〜10のアルキル基としては、前記R11、R12におけるC1-10アルキル基と同様のものが挙げられる。R111及びR121のうち少なくとも一方が炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましい。特に、R111が水素原子で、R121が炭素数1〜10のアルキル基(とりわけ炭素数2〜8のアルキル基)であるのが好ましい。R4としては、特に、炭素数8〜20のアルキル基が好ましい。
【0027】
式(1)で表される化合物は、特開2006−169132号公報に記載の方法により、対応するベンゼン環に塩素原子を有する化合物を還元することにより製造できる。還元反応が完了した後、触媒や生成した塩を濾過や水洗浄などの方法により除去し、反応溶媒を留去した濃縮物を晶析に付すことができる。
【0028】
本発明では、晶析溶媒として、アルコールと水とを用いる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール等の脂肪族アルコールを使用できる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。アルコールとしては、水との混和性の点で、炭素数1〜4の脂肪族アルコールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0029】
使用するアルコールの量は、式(1)で表される化合物に対して1〜10重量倍が好ましい。アルコールの量が少なすぎるとスラリーの撹拌が困難になりやすく、逆に多すぎると歩留まりが低下する傾向となる。
【0030】
水の使用量は、式(1)で表される化合物に対して0.1〜3重量倍が好ましく、0.5〜2重量倍がより好ましい。水の量が少なすぎると固体の析出に伴って液の撹拌性が低下しやすく、逆に水の量が多すぎると生産性が低下する。
【0031】
晶析温度は0〜50℃の範囲が好ましく、0〜40℃の範囲がより好ましい。50℃以上の温度では固体が析出しにくい。本発明の好ましい態様では、30〜50℃の式(1)で表される化合物を含む溶液を0〜25℃程度の温度まで冷却することにより行う。
【0032】
晶析操作としては、式(1)で表される化合物を含む被処理物(前記濃縮物等)をアルコールと水の混合溶媒に加温下で溶解した後、冷却して、式(1)で表される化合物を析出させる方法をとってもよいが、式(1)で表される化合物を含む被処理物(前記濃縮物等)をアルコールに加温下で溶解してアルコール溶液を調製した後、該溶液を冷却する過程で(例えば、結晶が析出しはじめた時点で)、水を添加する方法が好ましい。
【0033】
後者の方法の場合、水は連続的、間欠的、一括等の方法より添加することができる。式(1)で表される化合物のアルコール溶液を、均一な溶液になるまで加熱した後、冷却する途中で水を添加すると、粒径及び形状の均一性が極めて高い粉粒状の固体が析出する。
【0034】
また、式(1)で表される化合物を含む被処理物(前記濃縮物等)をアルコールと水の混合溶媒に溶解した後、溶媒(特に、アルコール)を適宜な量、留去することにより、式(1)で表される化合物を析出させてもよい。
【0035】
晶析の際には、必要に応じて、式(1)で表される化合物の結晶(固体)を種晶として加えてもよい。種晶として加える式(1)で表される化合物の量は、溶解している式(1)で表される化合物の量に対して、0.01〜10重量%程度が好ましい。
【0036】
析出槽の気相部は窒素、アルゴンなどの不活性ガスで置換していてもよい。
【0037】
なお、晶析には、必要に応じて、晶析を妨げない範囲で、アルコール及び水以外の溶媒を共存させてもよい。例えば、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、ブタノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。アルコール及び水以外の溶媒の使用量は、全溶媒量に対して、例えば、30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0038】
上記の方法により析出した固体[式(1)で表される化合物]は、濾過や沈降、遠心分離などの周知の固液分離操作により分取することができる。続いて、固体を固体の融点以下の温度で加熱して固体に付着した溶媒を留去することにより、純度の高い式(1)で表される化合物の粉粒体を得ることができる。
【0039】
本発明の方法によれば、粒径や形状が均一で、しかも残存溶媒量の極めて少ない粉粒状の含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体が得られる。例えば、粒径16mm以上の塊状物の含有量が10重量%以下(より好ましくは6重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下)である粉粒体を得ることができる。そのため、利用に際して、粉砕や分級等の煩雑な作業を特に必要としない。また、残存溶媒量が2重量%以下(特に、1重量%以下)である粉粒体を得ることができる。このような粉粒体は、安全性、取扱性、利用性に優れるとともに、化合物本来の機能が十全に発揮される。また、本発明の方法によれば、かさ密度が0.1〜0.3kg/Lである粉粒状の含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体が得られる。
【0040】
なお、粉粒体の残存溶媒量は該粉粒体を溶融状態にして減圧乾燥した時の重量減少分を測定することにより求めることができる。より具体的には、粉粒体(Wg)を65℃に加熱して溶融状態とし[但し、粉粒体の融点が65℃以上の場合は、粉粒体の融点〜(粉粒体の融点+10℃)の範囲に加熱して溶融状態とし]、10Paで3時間減圧乾燥したときの重量減少分(xg)を測定し、下記式により残存溶媒量(重量%)を求めることができる。
残存溶媒量(重量%)=(x/W)×100
【0041】
前記のように、晶析溶媒としてヘプタンを用いた場合には、針状結晶の微粒子が析出するので、遠心分離機等で濾過を行った際に全体が一つの大きな塊になってしまう。さらに、湿結晶粉砕後の乾燥工程において固体表面が一部ヘプタンに溶解し、固体同士が付着するため、粒径や形状が不均一となった大きな塊状のものが得られる。そのため、感光材料等として利用する際には、粉砕や分級作業などの煩雑な作業が必要となる。また、ヘプタンから晶析又は再結晶して得られる固体は、表面が緻密化しているためか、乾燥しても溶媒を完全に除去することができない。例えば、ヘプタンから晶析又は再結晶して得られる固体を35℃(融点未満の温度)で24時間減圧乾燥しても、残存溶媒量は3.7重量%もあり、乾燥時間を延ばしても残存溶媒量はほとんど変わらない。残存溶媒量が多い固体は、人体に対する安全性、火災の防止、化合物本来の機能の保持等の観点から、望ましくない。なお、晶析溶媒としてヘプタンを用いて得られる結晶のかさ密度は0.35kg/L程度である。
【0042】
また、晶析溶媒としてメタノールを用いた場合には、晶析の途中で、析出した結晶が固まってシャーベット状となり撹拌不能となるため、実用性に欠ける。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、下記式(3)及び(4)中のC49はn−ブチル基を示し、C1225はn−ドデシル基を示す。得られた固体における粒径16mm以上の塊状物の含有量は、篩分け(篩目16mm)を行い、篩上のもの(径が大きいもの)の重量を測定し、全体の重量に対する比率を算出することにより求めた。また、得られた固体における残存溶媒量は前記方法により求めた(減圧乾燥条件:65℃、10Pa、3時間)。
【0044】
製造例1
下記式に従い、式(3)で表される化合物から式(4)で表される化合物を合成した。
【化6】

トルエン1020gに、式(3)で表される化合物500g(842mmol)、トリエチルアミン96g(948mmol)を加えて溶解させた。この溶液を高圧反応器に入れ、5重量%パラジウム炭素触媒25gを加えた。反応容器内の空気を窒素ガスに十分置換した後、水素ガスでさらに置換し、2.0Mpaで反応を開始した。反応終了後、反応液にトルエン510gと水300gを加えて析出しているトリエチルアミン塩酸塩を溶解した後、触媒を濾別した。濾液に2重量%塩酸水溶液191gを加え、有機層を抽出し、水200gで2回洗浄を行い、有機層を中性にした。このトルエン溶液中に含まれる式(4)で表される化合物は2052g(24重量%)であった。このトルエン溶液を以下、調製トルエン溶液とする。
【0045】
実施例1
500mLの4つ口反応器に撹拌羽根をとりつけ、そこに調製トルエン溶液100g(式(4)で表される化合物の含量24g、42.9mmol)を添加した。トルエンが0.3重量%になるまで減圧濃縮を行った。そこにメタノール120gを添加し、40℃に加熱してメタノール溶液とした。メタノール溶液を撹拌速度150rpmで撹拌しながら20℃まで冷却すると23℃付近から結晶が析出した。さらに15分撹拌を行うと結晶が成長し、2mm程の大きさになった。そこに水24gを30分かけて滴下した。滴下終了後、撹拌速度を50rpmにして20℃で1時間撹拌を行った。その後、0℃〜10℃に冷却し、30分撹拌した。結晶を漏斗で濾過し、メタノールと水を等量に混ぜた溶液(36g)でリンスを行った。35℃、30Torr(4kPa)で6時間乾燥させると、式(4)で表される化合物(粉粒状固体)が94%(22.4g、40.2mmol)の収率で得られた。析出した固体の顕微鏡写真(×200)を図1に示す。
得られた粉粒状固体の粒径を調べたところ、粒径16mm以上の塊状物の含有量は0.1重量%であった。また、この固体の残存溶媒量は0.20重量%であり、かさ密度は0.20kg/Lであった。
【0046】
実施例2
500mLの4つ口反応器に撹拌羽根をとりつけ、そこに調製トルエン溶液100g(式(4)で表される化合物の含量24g、42.9mmol)を添加した。トルエンが0.3重量%になるまで減圧濃縮を行った。そこにメタノール120gを添加し、40℃に加熱してメタノール溶液とした。メタノール溶液を撹拌速度150rpmで撹拌しながら25℃まで冷却すると30分後に結晶が析出した。さらに15分撹拌を行うと結晶が成長し、2mm程の大きさになった。そこに水24gを30分かけて滴下した。滴下終了後、撹拌速度を50rpmにして20℃で1時間撹拌を行った。その後、0℃〜10℃に冷却し、30分撹拌した。結晶を漏斗で濾過し、メタノールと水を等量に混ぜた溶液(36g)でリンスを行った。35℃、30Torr(4kPa)で6時間乾燥させると、式(4)で表される化合物(粉粒状固体)が94%(22.4g、40.2mmol)の収率で得られた。
得られた粉粒状固体の粒径を調べたところ、粒径16mm以上の塊状物の含有量は0.1重量%であった。また、この固体の残存溶媒量は0.20重量%であり、かさ密度は0.19kg/Lであった。
【0047】
実施例3
500mLの4つ口反応器に撹拌羽根をとりつけ、そこに調製トルエン溶液100g(式(4)で表される化合物の含量24g、42.9mmol)を添加した。トルエンが8.2重量%になるまで減圧濃縮を行った。そこにメタノール120gを添加し、40℃に加熱してメタノール溶液とした。メタノール溶液を撹拌速度150rpmで撹拌しながら20℃まで冷却すると23℃付近から結晶が析出した。さらに15分撹拌を行うと結晶が成長し、2mm程の大きさになった。そこに水24gを30分かけて滴下した。滴下終了後、撹拌速度を50rpmにして20℃で1時間撹拌を行った。その後、0℃〜10℃に冷却し、30分撹拌した。結晶を漏斗で濾過し、メタノールと水を等量に混ぜた溶液(36g)でリンスを行った。35℃、30Torr(4kPa)で6時間乾燥させると、式(4)で表される化合物(粉粒状固体)が94%(22.4g、40.2mmol)の収率で得られた。
得られた粉粒状固体の粒径を調べたところ、粒径16mm以上の塊状物の含有量は0.1重量%であった。また、この固体の残存溶媒量は0.15重量%であり、かさ密度は0.21kg/Lであった。
【0048】
実施例4
500mLの4つ口反応器に撹拌羽根をとりつけ、そこに調製トルエン溶液100g(式(4)で表される化合物の含量24g、42.9mmol)を添加した。トルエンが5重量%になるまで減圧濃縮を行った。そこにメタノール120gを添加し、40℃に加熱してメタノール溶液とした。そこに水(24g)を添加すると結晶が析出した後、再度溶解する。この液を撹拌速度150rpmで撹拌しながら25℃まで冷却するとオイルアウトが起こった。さらに30分撹拌を行うとオイルの表面から結晶が析出した。撹拌を続けるとオイルの表面から結晶が剥がれ落ち、白い懸濁液になった。その状態で1時間撹拌を行った。その後、0℃〜10℃に冷却し、30分撹拌した。結晶を漏斗で濾過し、メタノールと水を等量に混ぜた溶液(36g)でリンスを行った。35℃、30Torr(4kPa)で6時間乾燥させると、式(4)で表される化合物(粉粒状固体)が94%(22.6g、40.4mmol)の収率で得られた。
得られた粉粒状固体の粒径を調べたところ、粒径16mm以上の塊状物の含有量は4.6重量%であった。また、この固体の残存溶媒量は0.25重量%であり、かさ密度は0.23kg/Lであった。
【0049】
比較例1
500mLの4つ口反応器に撹拌羽根をとりつけ、そこに調製トルエン溶液100g(式(4)で表される化合物の含量24g、42.9mmol)を添加した。トルエンが0.3重量%になるまで減圧濃縮を行った。そこにメタノール120gを添加し、40℃に加熱してメタノール溶液とした。メタノール溶液を撹拌速度150rpmで撹拌しながら20℃まで冷却すると23℃付近で結晶が析出した。20℃に達してから2時間撹拌を行うと、結晶が固まり、撹拌不能となった。
【0050】
製造例2
下記式に従い、式(3)で表される化合物から式(4)で表される化合物を合成した。
【化7】

酢酸エチル860gに、式(3)で表される化合物210g(354mmol)、トリエチルアミン50g(494mmol)を加えて溶解させた。この溶液を高圧反応器に入れ、5重量%パラジウム炭素触媒30gを加えた。反応容器内の空気を窒素ガスに十分置換した後、水素ガスでさらに置換し、0.5Mpaで反応を開始した。反応終了後、反応液に酢酸エチル300gと水130gを加えて析出しているトリエチルアミン塩酸塩を溶解した後、触媒を濾別した。濾液に2重量%塩酸水溶液156gを加え、有機層を抽出し、水150gで数回洗浄し、有機層を中性にした。この酢酸エチル溶液中に含まれる式(4)で表される化合物は175g(15重量%)であった。この酢酸エチル溶液を以下、調製酢酸エチル溶液とする。
【0051】
実施例5
500mLの4つ口反応器に撹拌羽根をとりつけ、そこに調製酢酸エチル溶液157g(式(4)で表される化合物の含量24.0g、42.9mmol)を添加した。酢酸エチルが5.0重量%になるまで減圧濃縮を行った。そこにメタノール120gを添加し、40℃に加熱してメタノール溶液とした。メタノール溶液を撹拌速度150rpmで撹拌しながら20℃まで冷却すると23℃付近から結晶が析出した。さらに10分撹拌を行うと結晶が成長し、2mm程の大きさになった。そこに水24gを30分かけて滴下した。滴下終了後、撹拌速度を50rpmにして20℃で1時間撹拌を行った。その後、0℃〜10℃に冷却を行い、30分撹拌した。結晶を漏斗で濾過し、メタノールと水を等量に混ぜた溶液(36g)でリンスを行った。35℃、30Torr(4kPa)で6時間乾燥させると、式(4)で表される化合物(粉粒状固体)が96%(23.0g、41.1 mmol )の収率で得られた。
得られた粉粒状固体の粒径を調べたところ、粒径16mm以上の塊状物の含有量は0.2重量%であった。また、この固体の残存溶媒量は0.19重量%であり、かさ密度は0.19kg/Lであった。
【0052】
比較例2
500mLの4つ口反応器に撹拌羽根をとりつけ、そこに調製酢酸エチル溶液157g(式(4)で表される化合物の含量24g、42.9mmol)を添加した。減圧濃縮によって酢酸エチルを除去した。そこにヘプタンを86g添加し、40℃に加熱してヘプタン溶液とした。撹拌しながら1時間毎で5℃ずつ冷却していくと10℃付近から結晶が析出した。さらに5℃まで冷却し、15時間熟成させた。結晶を漏斗で濾過し、ヘプタン(29g)でリンスを行った。35℃、30Torr(4kPa)で6時間乾燥させると、式(4)で表される化合物(針状結晶と塊状物の混じったもの)が92%(22.1g、39.4 mmol)の収率で得られた。析出した固体の顕微鏡写真(×200)を図2に示す。
得られた固体の粒径を調べたところ、粒径16mm以上の塊状物の含有量は30重量%であった。また、この固体の残存溶媒量は3.7重量%であり、かさ密度は0.56kg/Lであった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1で得られた析出固体の顕微鏡写真(×200)である。
【図2】比較例2で得られた析出固体の顕微鏡写真(×200)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R2は含窒素複素環式基を示し、R3は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、N−置換カルバモイル基、N−置換スルファモイル基、N−アシルアミノ基又はN−スルホン酸アシルアミノ基を示す。nは1〜5の整数を示す。nが2〜5の整数の場合、複数個のR3は同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物をアルコールと水の混合溶媒を用いて晶析することを特徴とする含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法。
【請求項2】
式(1)で表される化合物に対して、アルコールを1〜10重量倍、水を0.1〜3重量倍用いる請求項1記載の含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法。
【請求項3】
アルコールとしてメタノールを用いる請求項1又は2記載の含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法。
【請求項4】
式(1)において、R1がt−ブチル基、R2が、5位にアルキル基を有する1,3−オキサゾリジン−2,4−ジオン−3−イル基、R3がアルコキシ基、n=1である請求項1〜3の何れかの項に記載の含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法。
【請求項5】
晶析により、粒径16mm以上の塊状物の含有量が10重量%以下である粉粒体を得る請求項1〜4の何れかの項に記載の含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の製造方法。
【請求項6】
下記式(1)
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R2は含窒素複素環式基を示し、R3は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、N−置換カルバモイル基、N−置換スルファモイル基、N−アシルアミノ基又はN−スルホン酸アシルアミノ基を示す。nは1〜5の整数を示す。nが2〜5の整数の場合、複数個のR3は同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物の粉粒体であって、該粉粒体中に含まれる残存溶媒量が2重量%以下であることを特徴とする含窒素複素環を有するβ−ケトアミド誘導体の粉粒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−280510(P2009−280510A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132178(P2008−132178)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】