説明

吸収体及び吸収性物品

【課題】ゲル化を促進及び/又は抑制することができる吸収体、及びそれを含む吸収性物品を提供する。
【解決手段】多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質と、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤とを含むゲル化剤を含むこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化を促進及び/又は抑制可能な吸収体、並びに当該吸収体を含む吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収体、及びそれを含む吸収性物品は、使い捨ておむつ、生理用製品、医療用血液吸収物品、ペット飼育用製品等において、体液又は排泄物を処理するために用いられており、優れた吸水性能が求められている。吸収体、及びそれを含む吸収性物品には、物品の軽量化、薄型化等が求められており、また環境への配慮や衛生面から、使用後の焼却量の低減又は水洗トイレへの廃棄を可能にする水解性、生分解性等が検討されている。
【0003】
吸収体として、自重の数十倍〜数千倍の水を吸収することができるアクリル酸系吸収材が知られ、複数の製品に用いられている。特に、ポリアクリル酸塩架橋体等から成る高吸水性ポリマーの粒子がパルプ繊維中に分散されている吸収体は、使い捨ておむつ、生理用製品、医療用血液吸収物品、ペット飼育用製品等の分野で広範囲に用いられている。
【0004】
しかし、上記アクリル酸系吸収材は、体液又は排泄物等の液体が、吸収材が存在する位置まで到達した後に吸収、保液及び/又は固定するものであって、すべての液体が吸収剤の位置に到達するまでに時間がかかり、液体が固定化される前に液モレが発生する場合がある。また、上記アクリル酸系吸収材は、満足な吸収性能を得るためには、比較的大量に用いられる必要があり、「吸収体及び吸収性物品の軽量化」が困難である問題点を有する。
【0005】
さらに、上記アクリル酸系吸収材は、その特性として、液体を吸収した後に、当該吸収材の粒子が周囲の空気を取り込みながら体積を大きく増加させるので、吸収後にその厚みが厚くなる傾向があり、「着用中の違和感」及び/又は「吸収性能の低下」が生ずる場合がある。また、上記アクリル酸系吸収材は、イオン交換水に対する吸収率は非常に高いものの、体液等のイオン含有液体に対する吸収率は大きく下がる傾向がある。吸収性能を高めるために、アクリル酸系吸収材の架橋度を下げる試みも行われているが、ゲル強度が低下する等の問題がある。さらに、環境保護の観点から、吸収性物品には、水解性及び/又は生分解性が求められているが、上記アクリル酸系吸収材は、水解性及び生分解性のいずれも満足せず、新たな吸収材が求められている。
【0006】
上記アクリル酸系吸収材の問題点を改良するために、アクリル酸系吸収材を用いない吸収体、例えば、多糖類を用いる吸収体が検討されている。例えば、特許文献1には、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類を含有し、且つ該多糖類が体液又は排泄物中の水分中に溶解又は解離し得る状態で存在している、体液又は排泄物の増粘処理物品等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−201976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されている体液又は排泄物の増粘処理物品は、多価金属イオンの存在により増粘し得る多糖類を用いてはいるものの、その供給源を体液又は排泄物に頼っているため、体液又は排泄物中の金属イオンのみでは増粘効果が低く、また液の吸収保持が不十分であるという問題を有している。
従って、上記アクリル酸系吸収材に代わる多糖類及び多価金属イオンを含むゲル化剤において、ゲル化を促進及び/又は抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質と、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤とを含むゲル化剤を含むことを特徴とする吸収体により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
特に、本発明は、以下の態様に関する。
[態様1]
多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質と、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤とを含むゲル化剤を含むことを特徴とする吸収体。
[態様2]
上記多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、ペクチン、ゲランガム、カラギーナン、グルコマンナン及びグアーガムから成る群から選択される、態様1に記載の吸収体。
【0011】
[態様3]
上記多価金属イオンを供給可能な物質が、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム及び酢酸アルミニウムから成る群から選択される、態様1又は2に記載の吸収体。
[態様4]
上記有機酸が、グルコノ−δ−ラクトン、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及び酢酸から成る群から選択される、態様1〜3のいずれか一つに記載の吸収体。
【0012】
[態様5]
上記多価金属イオン捕捉剤が、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウムから成る群から選択される、態様1〜4のいずれか一つに記載の吸収体。
[態様6]
液透過性トップシート及び液不透過性バックシート、並びに当該2つのシート間に配置された態様1〜5のいずれか一つに記載の吸収体を含む吸収性物品。
【0013】
[態様7]
上記ゲル化剤が、アルコールで湿式造粒されることにより生成した造粒構造を有する、態様6に記載の吸収性物品。
[態様8]
水解性を有する、態様6又は7に記載の吸収性物品。
【0014】
[態様9]
生分解性を有する、態様6〜8のいずれか一つに記載の吸収性物品。
【発明の効果】
【0015】
ゲル化を促進及び/又は抑制可能な本発明の吸収体は、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類が大量の液体を吸収した後に当該多糖類をゲル化させ、単位質量の多糖類当たりの液体吸収率及び保持率を高くすることができるので、ゲル化剤の量を少なくし、そして吸収体及び吸収性物品を軽量化及び/又は薄型化することができる。
また、本発明の吸収体は、溶解及びゲル化の際に空気を取り込むことが少ないので、単位体積の液体を吸収した場合の体積増加率が小さく、変形しにくい。
【0016】
さらに、本発明の吸収体は、有機酸の添加によりゲル化を速くし、そして肌への戻りを簡潔に制御することができるので、構造を単純化することができる。
また、本発明の吸収体は、多価金属イオン捕捉剤の添加によりゲル化を遅らせ、そして単位質量の多糖類当たりの液体吸収率を高くし、そしてアクリル酸系吸収材及び/又はパルプの使用量を減らすことができるので、構造を単純化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、上から順に、表面シート、ゲル化剤を含む層及び裏面シートから成る吸収体の断面図である。
【図2】図2は、上から順に、表面シート、上層、下層及び裏面シートから成り、そして上層がゲル化剤層である吸収体の断面図である。
【図3】図3は、上から順に、表面シート、ゲル化剤を含む層及び裏面シートから成り、ゲル化剤を含む層の幅方向及び/又は吸収体の長さ方向の中央に位置する中央領域と、それ以外の周縁領域との2つの領域から形成され、中央領域が、ゲル化剤領域である吸収体の断面図である。
【図4】図4は、上から順に、表面シート、上層、下層及び裏面シートから成り、そして上層がゲル化剤層であり且つ下層の中央領域がゲル化剤領域である吸収体の断面図である。
【図5】図5は、上から順に、表面シート、上層、下層及び裏面シートから成り、そして上層がゲル化剤層であり且つ下層の周縁領域がゲル化剤領域である吸収体の断面図である。
【図6】図6は、液透過性トップシート及び液不透過性バックシート、並びに当該2つのシート間に配置された図1に示す吸収体を含む吸収性物品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
<<吸収体>>
[多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類]
本明細書において、「多糖類」は、単糖類が複数結合した糖類を意味する。本明細書において、「多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類」は、後述の多価金属イオンの存在下で、系を増粘させる多糖類を意味する。
【0019】
上記多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、ペクチン、ゲランガム、カラギーナン、グルコマンナン、グアーガム、ローカストビンガム、キサンタンガム、グルコース、カルボキシメチルデンプン、マンノース、ガラクトース、アラビノース、フコース、リボース、フルクトース及びデキストランを挙げることができる。好ましくは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、ペクチン、ゲランガム、カラギーナン、グルコマンナン、グアーガムが挙げられる。特に好ましいのは、入手のしやすさの観点から、アルギン酸ナトリウムである。
【0020】
アルギン酸ナトリウムは、海藻類から作られる多糖類であり、海藻の食物繊維の主成分をなすものである。水に溶解して増粘するが、多価金属イオンと反応してゲルを形成することができる。アルギン酸ナトリウムには、β−(1→4)−D−マンヌロン酸(M体)とα−(1→4)−L−グルコン酸(G体)の2種類のウロン酸から成る直鎖状多糖でM−M結合のみからなるM体、G−G結合のみからなるG体、MとGがランダムに配列したランダム体が存在し、M体とG体の比率により、ゲルの性質が大きく異なる。アルギン酸ナトリウムは、天然物由来であるので、生分解性、生体安全性を有し、液体の流動抑制性、粘着性、低摩擦性等の性質を有しているので、食品添加物、糊剤、医薬品、化粧品、創傷被覆材など広い用途に使用されている。
【0021】
アルギン酸ナトリウムは、溶解時の粘度が異なる複数のグレードが市販されているが、本発明の吸収体には、いずれの粘度グレードをも用いることができる。増粘性及び/又はゲル強度の得られやすさの点を考慮すると、高粘度タイプが望ましく、1質量%水溶液で100mPa・s以上、好ましくは500mPa・s以上の粘度を有するものがよい。
【0022】
上記多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類の量は、例えば、当該多糖類の種類及び分子量、多価金属イオンを供給可能な物質の種類及び価数、並びに吸収体の用途及び吸収すべき液体の量によって変化するが、一般的には、坪量として、10〜1,000g/m2、好ましくは50〜500g/m2である。
【0023】
本発明の吸収体に含まれる多糖類の形態としては、例えば、粉体、繊維様構造体、フィルム、発泡体及び基材に固定化された複合体が挙げられる。また、1種又は2種以上の形態の上記多糖類を、吸収体に用いることができる。例えば、2種以上の形態を併用して、多糖類のゾル化及び/又はゲル化のタイミングを調整することができる。
【0024】
上記粉体としては、市販の粒状物そのままの形態が挙げられる。しかし、例えば、市販の粒状物の粒径が小さい場合には、凝集を防ぐために、例えば、有機溶媒又は可塑剤を用いた造粒、界面活性剤によるコーティング等により市販の粒状物を処理することができる。上記造粒に用いられる有機溶媒としては、低級アルコール、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール及びプロピルアルコールを挙げることができ、造粒に用いることができる可塑剤としては、グリセリンを挙げることができる。
【0025】
例えば、造粒は、粉体を上記有機溶媒又は可塑剤と混合して、分散させ、次いで乾燥させることによって、簡潔に実施することができる。上記粉体は、体液等の液体に対する親和性が高いため、そのまま用いた場合には、未溶解部分が生じやすいので、造粒し、粒径を大きくし且つ表面積を増やすことは有用である。
【0026】
上記繊維様構造体としては、任意の製法により製造されたもの、例えば、紡糸し、乾燥させ、繊維様としたものが挙げられる。
上記フィルムとしては、成膜し、乾燥させてシート状としたものが挙げられる。上記フィルムは、平滑で且つ均一な厚みを有するのが一般的であるが、エンボス加工等による凹凸又は3次元構造を有することができる。また、様々な形の開孔や千鳥状等の非連続パターンの切れ目を有してもよく、破砕されたフレーク状であることができる。さらに上記フィルムは、単層又は複層であることができ、層ごとに溶解速度又は溶解量を変化させることができる。
【0027】
上記発泡体としては、任意の製法により製造されたものを用いることができ、例えば、発泡剤及び/又はガスと、泡安定剤とを用いて、泡を多糖類溶液に内包させ、成膜し、乾燥させ、発泡体化したものが挙げられる。上記発泡体の発泡率は特に制限されるものではなく、例えば、数倍〜数十倍に発泡させたものを用いることができる。
【0028】
上記複合体としては、上記多糖類及び基材の複合体、例えば、上記多糖類が基材に固定化されたものが挙げられる。上記多糖類を基材に固定化するために、バインダーを用いることができる。バインダーを用いる場合には、体液等の液体の接触する際に、多糖類の溶解を阻害しないものが好ましい。上記バインダーとしては、例えば、水溶性接着剤として作用するデンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール及びその他の水溶性高分子を挙げることができる。
【0029】
上記複合体用の基材としては、上記多糖類を保持できるものであれば特に制限されず、任意の基材を用いることができる。上記基材としては、例えば、フィルム、シート、及びこれらの開孔物、切り目入り物若しくは引き裂き物、又は布帛、例えば、織布、不織布、編み物、網等が挙げられ、体液等の液体の接触時に多糖類の溶解を阻害しないものが好ましい。
【0030】
[多価金属イオンを供給可能な物質]
本発明の吸収体に含まれる「多価金属イオンを供給可能な物質」は、2価以上の金属イオンを放出することができる水溶性物質、例えば、2価以上の金属イオンを含む塩を意味する。上記多価イオンは、上述の多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類を架橋して、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と多価金属イオンとの間の三次元網目構造を形成し、そして系をゲル化することができる。多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と多価金属イオンを供給可能な物質との間の結合としては、例えば、イオン結合を挙げることができる。
上記2価以上のイオンとしては、例えば、カルシウムイオン及びアルミニウムイオンを挙げることができる。
【0031】
上記多価金属イオンを供給可能な物質としては、例えば、水溶性カルシウム塩又は有機酸の存在下で水溶性を示すカルシウム塩、例えば、リン酸カルシウム、例えば、第1リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム二水和物及び第3リン酸カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム及び酢酸カルシウム、並びに水溶性アルミニウム塩又は有機酸の存在下で水溶性を示すアルミニウム塩、例えば、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム及び酢酸アルミニウムが挙げられる。
【0032】
系のゲル化速度が速い方が好ましい用途には、水溶解度の高いものを用いることができ、そして系のゲル化速度が遅い方が好ましい用途には、水溶解度の低いもの又は有機酸の存在下で水溶性を示すものを用いることができる。
【0033】
上記多価金属イオンを供給可能な物質の量は、例えば、当該物質の種類及び価数、当該多糖類の種類及び分子量、並びに吸収体の用途及び吸収すべき液体の種類及び量によって変化するが、一般的には、坪量として、2〜1000g/m2、好ましくは10〜500g/m2である。
【0034】
本発明の吸収体に含まれる多価金属イオンを供給可能な物質の形態としては、例えば、粉体又は基材に固定化された複合体が挙げられる。
上記粉体としては、市販の粒状物を、そのまま粉体として用いることができる。しかし、例えば、市販の粒状物の粒径が小さい場合には、凝集を防ぐために、上述の「多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類」の項で説明したように、粉体を処理することができる。
【0035】
なお、本発明の吸収体では、上記ゲル化剤が、後述の有機酸及び多価金属イオン捕捉剤を含むので、三次元網目構造の形成を所望の通りに促進及び/又は抑制することができる。しかし、上記多価金属イオンを供給可能な物質を、界面活性剤、ゼラチン、オブラート等でコーティングする手法、又はマイクロカプセル等で被覆する手法を用いると、上記多価金属イオンを供給可能な物質の溶解を制御することができるので、三次元網目構造の形成のタイミングを制御することができる。当該手法を、補助的なゲル化抑制手法として本発明の吸収体に用いることができる。
【0036】
上記複合体としては、上記多価金属イオンを供給可能な物質及び基材の複合体、例えば、上記多価金属イオンを供給可能な物質が基材に固定化されたものが挙げられる。上記多価金属イオンを供給可能な物質を基材に固定化するために、バインダーを用いることができる。バインダーを用いる場合には、体液等の液体の接触する際に、上記多価金属イオンを供給可能な物質の溶解を阻害しないものが好ましい。上記バインダーとしては、例えば、水溶性接着剤として作用するデンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、その他の水溶性高分子を挙げることができる。
【0037】
上記基材としては、上記多価金属イオンを供給可能な物質を保持できるものであれば特に制限されず、任意の基材を用いることができる。上記基材としては、例えば、布帛、例えば、織布、不織布、フィルム及びシートが挙げられ、上述の「多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類」の項で記載されたものと同一のものを用いることができる。
【0038】
[有機酸]
本明細書において、「有機酸」は、系のpHを下げることができる有機化合物を意味する。本発明の吸収体に用いられる有機酸としては、例えば、グルコノ−δ−ラクトン、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及び酢酸を挙げることができる。有機酸は、単独もしくは複数組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記有機酸が、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と多価金属イオンとの間の三次元網目構造の形成を促進する機構は、以下の通りである。
(1)吸収体に浸透した液体中に、ゲル化剤の各成分が溶解し始める、
(2)多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類が溶解することにより、液体の粘度が上がり、流動性が抑制される、
(3)有機酸が溶解して、液体のpHを低下させる、特に、有機酸としてグルコノ−δ−ラクトンを用いた場合には、グルコン酸との平衡反応が生じ、溶液のpHを、徐々に低下させる、そして
(4)pHが低下することにより、多価金属イオンを供給可能な物質から多価金属イオンが放出されやすくなり、放出された多価金属イオンと上記多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類との間の三次元網目構造の形成が促進される。
【0040】
上記有機酸の量は、特に制限されるものではなく、例えば、用いられる多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類、多価金属イオンを供給可能な物質及び多価金属イオン捕捉剤の種類及び量によって異なるものではあるが、一般的には、系のpHを低下させ、多価金属イオンを供給可能な物質の溶解速度を調整し、三次元網目構造の形成を促進させる量であり、適宜設定可能である。
【0041】
本発明の吸収体に含まれる有機酸の形態としては、例えば、粉体及び基材に固定化された複合体が挙げられる。
上記粉体としては、市販の粒状物を、そのまま粉体として用いることができる。しかし、例えば、市販の粒状物の粒径が小さい場合には、凝集を防ぐために、上述の「多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類」の項で説明したように、粉体を処理することができる。
【0042】
上記複合体としては、上記有機酸及び基材の複合体、例えば、上記有機酸が基材に固定化されたものが挙げられる。上記有機酸を基材に固定化するために、バインダーを用いることができる。バインダーを用いる場合には、体液等の液体の接触する際に、上記有機酸の溶解を阻害しないものが好ましい。上記バインダーとしては、例えば、水溶性接着剤として作用するデンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール及びその他の水溶性高分子を挙げることができる。
【0043】
上記基材としては、上記有機酸を保持できるものであれば特に制限されず、任意の基材を用いることができる。上記基材としては、例えば、布帛、例えば、織布、不織布、フィルム及びシートが挙げられ、上述の「多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類」の項で記載されたものと同一のものを用いることができる。
【0044】
[多価金属イオン捕捉剤]
本明細書において、「多価金属イオン捕捉剤」は、例えば、上記多価金属イオンを供給可能な物質、又は体液等の液体に由来する多価金属イオンを捕捉する化合物、例えば、多価金属イオンと錯体を形成する化合物を意味する。本発明の吸収体に用いられる多価金属イオン捕捉剤としては、例えば、カルボン酸塩、例えば、クエン酸ナトリウム、リン酸塩、例えば、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0045】
上記多価金属イオン捕捉剤が、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と多価金属イオンを供給可能な物質との間の三次元網目構造の形成を抑制する機構は、以下の通りである。
(1)吸収体に浸透した液体中に、ゲル化剤の各成分が溶解し始める、
(2)多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類が溶解することにより、液体の粘度が上がり、流動性が抑制される(増粘する)、
(3)溶解した多価金属イオン捕捉剤が、多価金属イオンを供給可能な物質から放出された多価金属イオンを捕捉する(例えば、多価金属イオンと錯体を形成する)、そして
(4)多価金属イオンが捕捉されることにより、溶液中の多価金属イオン濃度が上がらず、三次元網目構造の形成が抑制される。
【0046】
上記多価金属イオン捕捉剤の量は、特に制限されるものではなく、用いられる多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類、多価金属イオンを供給可能な物質及び有機酸の種類及び量によって異なる。
【0047】
本発明の吸収体に含まれる多価金属イオン捕捉剤の形態としては、例えば、粉体又は基材に固定化された複合体が挙げられる。
上記粉体としては、市販の粒状物を、そのまま粉体として用いることができる。しかし、例えば、市販の粒状物の粒径が小さい場合には、凝集を防ぐために、上述の「多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類」の項で説明したように、粉体を処理することができる。
【0048】
上記複合体としては、上記多価金属イオン捕捉剤及び基材の複合体、例えば、上記多価金属イオン捕捉剤が基材に固定化されたものが挙げられる。上記多価金属イオン捕捉剤を基材に固定化するために、バインダーを用いることができる。バインダーを用いる場合には、体液等の液体の接触する際に、上記多価金属イオン捕捉剤の溶解を阻害しないものが好ましい。上記バインダーとしては、例えば、水溶性接着剤として作用するデンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール及びその他の水溶性高分子を挙げることができる。
【0049】
上記基材としては、上記多価金属イオン捕捉剤を保持できるものであれば特に制限されず、任意の基材を用いることができる。上記基材としては、例えば、布帛、例えば、織布、不織布、フィルム及びシートが挙げられ、上述の「多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類」の項で記載されたものと同一のものを用いることができる。
【0050】
[ゲル化剤]
本明細書において、「ゲル化剤」は、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質と、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤とを含む。
【0051】
本発明の吸収体において、ゲル化剤の各成分、すなわち、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質と、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤とを、吸収体内部に、それぞれ別個に導入することができる。上記成分を別個に導入する場合には、個々の成分を、それぞれ、上述の形態で導入することができる。
【0052】
さらに、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質と、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤とを混合してゲル化剤を調製した後、吸収体内に導入することができる。事前にゲル化剤を調製する場合、導入されるゲル化剤の形態としては、例えば、粉体、繊維様構造体、フィルム、発泡体及び基材に固定化された複合体が挙げられる。
【0053】
上記粉体、繊維様構造体、フィルム、発泡体、基材に固定化された複合体としては、上述の「多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類」の項で説明したものと同一の形態であることができる。
【0054】
[吸収体]
本明細書において、「吸収体」は、生理用品、例えば、生理用ナプキン及びパンティライナー、衛生用品、例えば、使い捨ておむつ、尿漏れ防止用シート、失禁患者用の尿取りパッド、体液・血液吸収用医療用品、創傷用品、化粧用パック材、動物用排泄用処理剤、農園芸用品、食品分野における鮮度保持材、結露防止用材、並びに吸水及び/又は保水を必要とする場所で用いられる物等の用途において用いられる、主に液体を吸収するための物を意味する。
【0055】
本発明の吸収体は、内部のゲル化剤及び基材、表側(吸収側)の表面シート、並びに裏側の裏面シートを含むことができる。また、本発明の吸収体が複層構造又は複数領域を含む場合には、本発明の吸収体は、各層の間及び各領域の間に中間シートを含むことができる。
吸収体内部の基材としては、例えば、繊維及び不織布が挙げられる。上記基材は、水解性及び/又は生分解性を有することが好ましい。
【0056】
本発明の吸収体内部の繊維としては、例えば、合成繊維、例えば、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレン/ポリプロピレン繊維、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート複合繊維、ポリビニルアルコール繊維、半合成繊維、例えば、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、天然繊維、再生繊維、例えば、セルロース系繊維、例えば、パルプ繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維から形成されたもの等を挙げることができる。上記繊維は、短繊維/長繊維のいずれでもよく、任意の径のものを用いることができる。さらに上記繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、異型中空繊維、微多孔繊維、接合型複合繊維等であることができる。
【0057】
本発明の吸収体の内部又は表面シート若しくは中間シートに用いられる不織布としては、例えば、サーマルボンド不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド/メルトブロー/スパンボンド不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布、スルーエア(TA)不織布、ポイントボンド(PB)不織布、等の公知の不織布を用いることができる。また、水解可能なティッシュを用いることができる。
また、上記不織布の製法としては、例えば、スルーエア、ポイントボンド、スパンレース等の乾式又は湿式法を挙げることができる。
【0058】
上記不織布は、伸縮性を有するものであることができる。伸縮性の不織布としては、メルトブローンやスパンボンドの各製法により製造された不織布が挙げられる。上記伸縮性の不織布は、熱可塑性エラストマー樹脂を溶融及び紡糸させた伸縮性繊維から製造することができる。
【0059】
本発明の吸収体の裏面シートとしては、例えば、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート又はポリビニルアルコール等から製造されたものが挙げられる。また、例えば、高密度ポリエチレン/低密度ポリエチレンから成る通気フィルム、非通気フィルム、開孔フィルム等が挙げられる。
【0060】
本発明の吸収体は、当技術分野で通常用いられている増粘剤、可塑剤、香料、消臭剤、無機粉末、顔料、染料、抗菌材、粘着剤等の各種添加剤をさらに含むことができる。上記増粘剤として、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等が挙げられ、そして上記可塑剤として、例えば、グリセリン、ソルビトール、ラクチトース、マルチトース、エリスリトール、ペンタエリストース等が挙げられる。乾燥時のフィルム、シートのひび割れ防止のためトレハロースを用いることもできる。これらの添加剤により、吸収材に種々の機能を付与することができる。上記無機粉末としては、例えば、液体に対して不活性な物質、例えば、二酸化ケイ素、ゼオライト、カオリン、クレー等が挙げられる。
【0061】
上述の各種添加剤を、当技術分野で通常用いられる方法に従って、本発明の吸収体に添加することができる。
【0062】
本発明の吸収体の構造は、上述のゲル化剤を含む構造であれば特に制限されず、いかなる構造をも採ることができる。
【0063】
次に、本発明の吸収体の構成を、図面を用いて説明する。なお、図面に記載される態様は、例示であって、本発明をなんら制限するものではない点に留意すべきである。
図1〜5は、全て吸収体1の断面図であり、上側が、表面側、すなわち、人体に触れる側である。
図1は、上から順に、表面シート3、ゲル化剤層2及び裏面シート4から成る吸収体1の断面図である。
【0064】
図2は、上から順に、表面シート3、上層5、下層6及び裏面シート4から成り、そして上層5がゲル化剤層2である吸収体1の断面図である。下層6は、特に限定されず、他の吸収材料、例えば、パルプの層であることができ、又は大量の液体を吸収させる必要がある場合等には、アクリル酸系吸収材の層であることができる。図2のような構成とすることにより、表面側における液体の戻りを効果的に防止することができる。なお、吸収体1内の層は、3層以上であってもよく、中間層及び下層に、パルプ及びアクリル酸系吸収材の層が配置されていてもよい。
【0065】
図3は、上から順に、表面シート3、ゲル化剤を含む層及び裏面シート4から成り、ゲル化剤を含む層の幅方向及び/又は吸収体の長さ方向の中央に位置する中央領域8と、それ以外の周縁領域9との1つ又は2つの領域から形成され、中央領域8が、ゲル化剤領域7である吸収体1の断面図である。図3の構成とすることにより、排尿位置付近における液体の戻りを効果的に防止することができる。なお、吸収体1内の領域は、3つ以上の領域であってもよく、ゲル化剤領域以外の領域に、パルプ及びアクリル酸系吸収材の領域が配置されていてもよい。
【0066】
図4は、上から順に、表面シート3、上層5、下層6及び裏面シート4から成り、そして上層5がゲル化剤層2であり且つ下層の中央領域10ゲル化剤領域7である吸収体1の断面図である。このような構成とすることにより、表面側で、液体の戻りを効果的に防止し且つ特に排尿位置付近における液体の戻りを効果的に防止することができる。
【0067】
図5は、上から順に、表面シート3、上層5、下層6及び裏面シート4から成り、そして上層5がゲル化剤層2であり且つ下層の周縁領域11がゲル化剤領域7である吸収体1の断面図である。このような構成とすることにより、表面側で、液体の戻りを効果的に防止し且つ周縁部付近における液体の戻りを効果的に防止することができる。
【0068】
さらに、本発明の吸収体を、2層又は3層以上の層から構成させ、各層間で、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤の量を変化させることもできる。例えば、下層よりも上層の有機酸濃度を多くし、ゲル化を速め、液体の戻りを効果的に防止することができる。また、下層よりも上層の多価金属イオン捕捉剤濃度を高くし、上層のゲル化を遅くし、下層により多くの液体を浸透させ、全体として吸収量を増やすことができる。
【0069】
さらに、本発明の吸収体を、例えば、中心領域及び周縁領域のように、2つ又は3つ以上の領域に分け、各領域間で、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤の量を変化させることもできる。例えば、周縁領域よりも中心領域に有機酸をより多く配合し、液体の戻りを効果的に防止することができる。また、周縁領域よりも中心領域に多価金属イオン捕捉剤をより多く配合し、中心領域のゲル化を遅くし、周縁領域により多くの液体を浸透させ、全体として吸収量を増やすことができる。
本発明の吸収体を、2層又は3層以上の層から構成させ且つ少なくとも1つの層を2つ又は3つ以上の領域に分け、上述のように、各層及び/又は各領域の有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤の量を変化させることもできる。
【0070】
本発明の吸収体は、ゲル化剤が水解性を有するので、液透過性トップシート及び液不透過性バックシートを、水解性を有する素材から選択することにより、吸収体に水解性を付与することができる。
さらに、本発明の吸収体は、ゲル化剤が生分解性を有するので、液透過性トップシート及び液不透過性バックシートを、生分解性を有する素材から選択することにより、吸収体に生分解性を付与することができる。
【0071】
<<吸収性物品>>
本明細書において、「吸収性物品」とは、生理用品、例えば、生理用ナプキン及びパンティライナー、衛生用品、例えば、使い捨ておむつ、尿漏れ防止用シート、失禁患者用の尿取りパッド、体液・血液吸収用医療用品、創傷用品、化粧用パック材、動物用排泄用処理剤、農園芸用品、食品分野における鮮度保持材、結露防止用材、並びに吸水及び/又は保水を必要とする場所で用いられる物品を意味する。
【0072】
本明細書において、「液透過性トップシート」は、液体、特に体液を透過させる、表側(吸収側)に配置されるシートを意味する。本発明の吸収性物品に用いられる液透過性トップシートとしては、液体が透過するシートであれば特に制限されず、例えば、親水性繊維の不織布、複数の開孔を有する疎水性繊維の不織布、開孔を有するプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0073】
本明細書において、「液不透過性バックシート」は、通常の使用条件下において、液体、特に体液を透過させない、裏側(衣服側)に配置されるシートを意味する。本発明の吸収性物品に用いられる液不透過性バックシートとしては、液体を透過しないシートであれば特に制限されず、当技術分野で用いられている任意のシートであることができ、例えば、フィルム及び不織布を挙げることができる。
【0074】
本発明の吸収性物品の構造は、上記吸収体が液体、特に体液又は液状排泄物を効果的に吸収することができるものであれば特に制限されず、当技術分野で用いられている任意の形態を採ることができるが、次の態様を例示することができる。
(a)液透過性トップシート及び液不透過性バックシート、並びに当該2つのシート間に配置された吸収体を含む吸収性物品。
【0075】
(b)液透過性トップシート及び液不透過性バックシート、並びに当該2つのシート間に配置された吸収体を含む吸収性物品であって、当該表面シートと吸収体との間及び/又は当該吸収体と裏面シートとの間に、拡散及び/又は吸水を補助する材がさらに配置されている吸収性物品。
(c)液透過性トップシート及び液不透過性バックシートの一方又は両方が水解性を有する、上記(a)又は(b)の吸収性物品。
(d)液透過性トップシート及び液不透過性バックシートの一方又は両方が生分解性を有する、上記(a)〜(c)のいずれかの吸収性物品。
【0076】
上記拡散及び/又は吸水を補助する材料としては、例えば、パルプ及び高吸水性樹脂を挙げることができる。
【0077】
次に、本発明の吸収性物品の構成を、図面を用いて説明する。なお、図面に記載される態様は、例示であって、本発明をなんら制限するものではない点に留意すべきである。
図6は、液透過性トップシート13及び液不透過性バックシート14、並びに当該2つのシート間に配置された図1に示す吸収体1を含む吸収性物品12の断面図である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
[製造例1]
アルギン酸ナトリウム(キミカ(株)製、B−S)、第2リン酸カルシウム二水和物(和光純薬工業(株)製)、及びグルコノ−δ−ラクトン(和光純薬工業(株)製)を、それぞれ、1:1:1の質量比で、均一になるまで混合してゲル化剤を調製した。上記ゲル化剤を、霧吹きで水を噴霧することにより、エアスルー不織布(PE/PP芯鞘複合繊維、坪量:40g/m2)の全面に固定化(坪量:150g/m2)し、ゲル化剤シートを生成させた。裏面シート(ポリエチレンフィルム)上に上記ゲル化剤シートを配置し、次いで、表面シート(スルーエア不織布、PE/PP芯鞘複合繊維、坪量:25g/m2)を配置させ、吸収体を製造した。
【0080】
[ゲル化速度制御例−実施例1〜実施例9]
表1の配合に従って、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質と、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤とを混合した。混合物が目視で均一化されたことを確認した後、上記混合物を攪拌しながら人工尿(尿素 2%、塩化ナトリウム 0.8%、硫酸マグネシウム・7水和物 0.08%、塩化カルシウム・2水和物 0.03%をイオン交換水に溶解させて調製)20gを加え、攪拌を続けながら内容物の状態を最大30分間観察し、流動制御時間(ゾル化時間)及びゲル化時間を計測した。
なお、実施例5においては、アルギン酸ナトリウム、第2リン酸カルシウム、グルコノ−δ−ラクトン及びエタノールを混合し、乾燥させることによりゲル化剤を湿式造粒させた。当該造粒されたゲル化剤は、実施例1において製造されたゲル化剤よりも粒径が大きく(目視)、ハンドリング性に優れていた。
【0081】
結果を表1に示す。なお、表1において、「流動制御時間」は、人工尿が加えられてからゲル化剤が増粘するまでの時間を意味する。
【0082】
[ゲル化速度制御例−比較例1及び比較例2]
表1に従って、多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質とを用いた以外は、実施例1に従って、流動抑制時間及びゲル化時間を計測した。
【0083】
【表1】

【0084】
実施例1〜3及び比較例1から、有機酸の添加量に従って、流動制御時間は変わらないが、ゲル化時間が速くなることが分かる。従って、有機酸の添加量により、ゲル化時間を促進及び/又は抑制することができることが分かる。実施例1及び実施例5により、エタノールを用いてゲル化剤を造粒すると、ゲル化時間が、10分から5分へとおおよそ半分になることが分かる。
【0085】
実施例1及び実施例6から、イオン捕捉剤を添加すると、流動制御時間を遅くすることができることが分かる。
実施例7〜9及び比較例2を比較することにより、多価金属イオンを供給可能な物質として、水溶解度の高い乳酸カルシウムを用いた場合には、イオン捕捉剤を添加することにより、ゲル化を抑制できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の吸収体は、生理用品、例えば、生理用ナプキン及びパンティライナー、衛生用品、例えば、使い捨ておむつ、尿漏れ防止用シート、失禁患者用の尿取りパッド、体液・血液吸収用医療用品、創傷用品、化粧用パック材、動物用排泄用処理剤、農園芸用品、食品分野における鮮度保持材、結露防止用材、並びに吸水及び/又は保水を必要とする場所で用いられる物品に用いることができる。
【符号の説明】
【0087】
1 吸収体
2 ゲル化剤層
3 表面シート
4 裏面シート
5 上層
6 下層
7 ゲル化剤領域
8 中央領域
9 周縁領域
10 下層の中央領域
11 下層の周縁領域
12 吸収性物品
13 液透過性トップシート
14 液不透過性バックシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類と、多価金属イオンを供給可能な物質と、有機酸及び/又は多価金属イオン捕捉剤とを含むゲル化剤を含むことを特徴とする吸収体。
【請求項2】
前記多価金属イオンの存在下で増粘し得る多糖類が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、ペクチン、ゲランガム、カラギーナン、グルコマンナン及びグアーガムから成る群から選択される、請求項1に記載の吸収体。
【請求項3】
前記多価金属イオンを供給可能な物質が、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム及び酢酸アルミニウムから成る群から選択される、請求項1又は2に記載の吸収体。
【請求項4】
前記有機酸が、グルコノ−δ−ラクトン、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及び酢酸から成る群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸収体。
【請求項5】
前記多価金属イオン捕捉剤が、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウムから成る群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸収体。
【請求項6】
液透過性トップシート及び液不透過性バックシート、並びに当該2つのシート間に配置された請求項1〜5のいずれか一項に記載の吸収体を含む吸収性物品。
【請求項7】
前記ゲル化剤が、アルコールで湿式造粒されることにより生成した造粒構造を有する、請求項6に記載の吸収性物品。
【請求項8】
水解性を有する、請求項6又は7に記載の吸収性物品。
【請求項9】
生分解性を有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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