説明

吸収冷凍機用吸収液

【課題】安価で化学的に安定である新規な吸収冷凍機用吸収液を提供する。
【解決手段】臭化アルカリ土類金属塩と、塩化アルカリ土類金属塩とを有するようにして吸収冷凍機用吸収液を構成する。また、上記吸収冷凍機用吸収液と、冷媒とを有するようにして吸収冷凍機用吸収液を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収冷凍機用吸収液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化により、省エネ・CO削減に関する多くの取り組みが行われている。このような観点から、冷凍機においても、省エネルギー性の高いものが要求されており、このような冷凍機として吸収冷凍機が注目されている。
【0003】
吸収冷凍機は、冷媒が蒸発するときに被冷却物から熱を吸収することを利用して被冷却物を冷却するものである。冷却操作に使用された後の冷媒は、所定の吸収液に吸収させて吸収冷凍機の再生器内に送られ、加熱されて冷媒と吸収液とに分離される。このとき、分離された冷媒は吸収冷凍機内の凝縮器に送られ、冷却水等によって冷却及び凝縮された後、再度蒸発させることによって再度被冷却物の冷却に使用される。一方、吸収液も濃縮されることによって、再度冷媒の吸収に使用されることになる。
【0004】
従来、上記冷媒としては水が用いられ、また、この水に対して高い溶解度を示すとともに、露点を十分低く保持することができるとの観点から、上記吸収液としては、臭化リチウム水溶液が用いられている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
しかしながら、リチウムは希少金属であって高価であり、吸収液自体が高価になってしまう等の理由により吸収冷凍機に使用し得る臭化リチウムに代わる新規な吸収液の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−263466号公報
【特許文献2】特開2000−319646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安価で化学的に安定である新規な吸収冷凍機用吸収液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、臭化アルカリ土類金属塩と、塩化アルカリ土類金属塩とを有することを特徴とする、吸収冷凍機用吸収液に関する。
【0009】
また、本発明は、上記吸収冷凍機用吸収液と、冷媒とを有することを特徴とする、吸収冷凍機用吸収剤に関する。
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、従来の臭化リチウムに代えて、臭化アルカリ土類金属塩と、塩化アルカリ土類金属塩とから吸収冷凍機用吸収液を構成することによって、従来の臭化リチウムと同様に、代表的な冷媒である水に対して高い溶解度を示すとともに、露点を十分低く保持することができることを見出した。
【0011】
さらに、本発明の吸収液は、アルカリ金属塩に比して安価なアルカリ土類金属塩を含むため、吸収液のコストを低減することができる。
【0012】
また、所定の露点を得、同様な冷却作用を奏する際に使用する臭化アルカリ土類金属塩及び塩化アルカリ土類金属塩の合計量におけるハロゲン量を、従来の臭化リチウムにおけるハロゲン量よりも低減することができる。したがって、本発明の吸収液は、従来の臭化リチウムに比して、吸収冷凍機に対する腐食等の問題を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、安価で化学的に安定である新規な吸収冷凍機用吸収液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】吸収冷凍機の一例における概略構成図である。
【図2】吸収液である臭化カルシウム及び塩化カルシウム混合塩水溶液の塩濃度、又は臭化リチウムの濃度と露点との関係を示すグラフである。
【図3】吸収液である臭化カルシウム及び塩化カルシウム混合塩水溶液の溶解度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて説明する。
【0016】
(吸収冷凍機用吸収液)
本発明の吸収冷凍機用吸収液は、臭化アルカリ土類金属塩、及び塩化アルカリ土類金属塩を含む。臭化アルカリ土類金属塩としては、臭化マグネシウム(MgBr)、臭化カルシウム(CaBr)、臭化ストロンチウム(SrBr)、臭化バリウム(BaBr)を挙げることができるが、安価であって、入手が容易であることから臭化カルシウムを用いることが好ましい。同様に塩化アルカリ土類金属塩としては、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化バリウム(BaCl)を挙げることができるが、安価であって、入手が容易であることから塩化カルシウムを用いることが好ましい。
【0017】
なお、本発明の吸収冷凍機用吸収液を実際に使用するに際しては、これら臭化アルカリ土類金属塩、塩化アルカリ土類金属塩を所定の溶媒中に溶解させた状態で使用する。
【0018】
溶媒としては、1−ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エタノール、メタノール等の低級アルコールおよび水などを用いることができる。特に、本発明で用いる代表的な冷媒が水であり、入手や取り扱いが容易であることなどの観点から、上記溶媒としては水を用いることが好ましい。
【0019】
なお、吸収液の吸収性能を向上するために界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、1−オクタノール、1−デカノール、2−オクチルアルコール、2−デカノール、炭素数が6〜7で、水酸基数が1であるアルコール系鎖式飽和炭化水素等を使用できる。さらに再生器に使用する鋼材の腐食抑制のために腐食抑制剤を添加しても良い。
【0020】
上述した溶媒中に溶解させる臭化アルカリ土類金属塩、及び塩化アルカリ土類金属塩の量は、使用する冷媒を吸収して以下に示すように再生に供することができ、冷媒による冷却操作を繰り返し実施することができれば特に限定されるものではない。
【0021】
しかしながら、例えば、冷媒として水を用いる場合、上記臭化アルカリ土類金属及び塩化アルカリ土類金属の溶解量は、59.2質量%以上とすることが好ましい。この場合、露点が約4℃以下となる条件下で、冷媒である水を吸収することができる。したがって、十分低い温度の冷媒を蒸発させて被冷却物を冷却することができるようになるので、被冷却物に対する冷却効率を増大させることができるようになる。
【0022】
なお、吸収器に送られる濃溶液の濃度は、濃溶液の晶出温度限界を25℃とすれば63.5重量%であり、それ以下の濃度であればサイクルを形成できる。
【0023】
また、臭化アルカリ土類金属塩と塩化アルカリ土類金属塩との配合比も特に限定されるものではないが、特に冷媒として水を用いた場合、塩化アルカリ土類金属塩に対して臭化アルカリ土類金属塩の配合比を多くした方が、露点が十分に低い状態で水を吸収することができる。例えば、臭化アルカリ土類金属塩:塩化アルカリ土類金属塩=9:1〜5:5とすることができる。
【0024】
このように、本発明の吸収液は、アルカリ金属に比して安価なアルカリ土類金属を含むため、吸収液のコストを低減することができる。
【0025】
本発明の吸収冷凍機用吸収剤は、上述したハロゲン化アルカリ土類金属塩を含む吸収液と冷媒とからなる。冷媒は、蒸発によって被冷却物を冷却する必要があることから、使用条件の温度下において液体であることが必要である。但し、入手や取り扱いが容易であることなどの観点から、水を最も好ましく用いることができる。
【0026】
(吸収冷凍機及びその運転方法)
次に、本発明の吸収液を用いた吸収冷凍機及びその運転方法の一例について説明する。
【0027】
図1は、単効用吸収冷凍機の一例における概略構成図である。図1に示す吸収冷凍機1は、冷媒Lを蒸発させ、蒸発時の潜熱により冷水を冷却する蒸発器Eと、吸収液Sを冷却しながら蒸発器Eで蒸発した冷媒Lを吸収する吸収器Aと、吸収器Aで冷媒Lを吸収した吸収液Sを加熱して、冷媒Lを蒸発させる再生器Gと、再生器Gで蒸発した冷媒Lを冷却して、凝縮する凝縮器Cとを含む。
【0028】
また、吸収冷凍機1は、吸収器Aから再生器Gへ至る配管20と、再生器Gから吸収器Aへ至る配管30と、凝縮器Cから蒸発器Eに至る配管40とを含む。また、配管20上には、冷媒Lを吸収した吸収液Sを圧送する溶液ポンプ50を含み、更に、配管20を流れる冷媒Lを吸収した吸収液Sと、配管30を流れる吸収液Sとの熱交換を行う熱交換器60とを備える。
【0029】
蒸発器Eでは、冷媒散布装置71から、冷却する対象である冷水が流れる蒸発器チューブ10上に散布される冷媒Lを、蒸発器チューブ10で熱交換することにより蒸発させる。すなわち、冷媒Lが蒸発する際の気化熱により蒸発器チューブ10を流れる冷水W0から熱を奪う。この熱が奪われることにより、冷水W0が冷却される。
【0030】
吸収器Aでは、溶液散布装置72から吸収器チューブ11上に散布される吸収液Sを、吸収器チューブ11を流れる冷却水W1で冷却しながら、蒸発器Eで蒸発した冷媒Lを吸収液S中に吸収する。冷媒Lを吸収した吸収液Sは、吸収器Aの下部に接続された配管20から流出する。吸収器Aから流出した、冷媒Lを吸収した吸収液Sは、配管20の途中に配置された溶液ポンプ50で圧送され、熱交換器60で昇温される。
【0031】
再生器Gでは、溶液散布装置73から再生器チューブ13に散布される、冷媒Lを吸収した吸収液Sを、再生器チューブ13で加熱し、冷媒Lを蒸発させる。冷媒Lが蒸発することにより、冷媒Lが除去された吸収液Sは、再生器Gの下部に接続された配管30から流出する。配管30から流出した吸収液Sは、熱交換器60で、冷媒Lを吸収した吸収液Sを昇温することにより、温度が低下し、その後に、吸収器Aにおいて溶液散布装置72から散布される。再生器チューブ13に供給される外部熱源W2として例えば、温水、蒸気を使用できる。
【0032】
凝縮器Cでは、再生器Gで蒸発した冷媒Lが凝縮器チューブ12を流れる冷却水W1にて冷却されて凝縮する。凝縮した冷媒Lは、凝縮器Cの下部に接続された配管40を通って、蒸発器Eで冷媒散布装置71から散布される。
【0033】
なお、吸収器チューブ11を流れる冷却水と、凝縮器チューブ12を流れる冷却水とは、同じ冷却水W1でもよい。
【0034】
以上のような工程を経ることによって、上記吸収液を用い、冷却する対象である蒸発器チューブ10内を流れる冷水を繰り返し冷却することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例)
臭化カルシウム:塩化カルシウム=7:3(質量比)とし、臭化カルシウム及び塩化カルシウム合計量が55質量%〜62質量%の水溶液を調整し、これを吸収液とした。また、冷媒として水を用い、この冷媒を前記吸収液に対して吸収させた。
【0036】
このときの、水溶液中における臭化カルシウム及び塩化カルシウム混合塩の濃度(質量%)と露点との関係を図2に示し、吸収液である臭化カルシウム及び塩化カルシウム混合塩水溶液の溶解度を図3に示した。
【0037】
(比較例)
上述した臭化カルシウム及び塩化カルシウムに代えて、臭化リチウムを用い、52質量%〜60質量%の水溶液を調整し、これを吸収液とした。また、冷媒として水を用い、この冷媒を前記吸収液に対して吸収させた。
【0038】
このときの、水溶液中における臭化リチウムの濃度(質量%)と露点との関係を図2に示した。
【0039】
図2から明らかなように、比較例である臭化リチウム水溶液の吸収剤に対し、実施例である臭化カルシウム及び塩化カルシウム水溶液の吸収剤は、全体として約1〜2重量%程度高くなるものの、同一の露点を示している。
【0040】
したがって、本発明の臭化カルシウム及び塩化カルシウムを含む吸収液は、冷媒である水に対して、従来の臭化リチウムの場合と同等の溶解度を示すことが分かる。
【0041】
また、図2から、露点が約4℃の場合の、本発明の吸収液における臭化カルシウム及び塩化カルシウム吸収剤の濃度(合計質量%)は約59.2質量%であり、従来の吸収液である臭化リチウムの濃度(質量%)は約58質量%である。
【0042】
したがって、上記吸収液が1000kgであるとすると、本発明の吸収液中には、臭素(Br)が331kg含まれ、塩素(Cl)が113kg含まれて、合計444kgのハロゲン元素が含まれることになる。一方、臭化リチウムの場合は、533kgの臭素が含まれることになる。この結果、本発明の吸収剤は、従来の臭化リチウムと比較して、同じ量の冷媒である水を吸収するために要求される重量において、ハロゲン元素の占める割合が約17%減少していることが分かる。
【0043】
このため、本発明の吸収液は、従来の臭化リチウム吸収液に比して、同じ量の冷媒である水を吸収するのに必要な量に占めるハロゲン元素の割合が大きく減少する。したがって、本発明の吸収液は、従来の臭化リチウムに比して、吸収冷凍機に対する腐食等の問題を低減することができる。
【0044】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0045】
例えば、上記具体例では、臭化アルカリ土類金属塩及び塩化アルカリ土類金属塩として、臭化カルシウム及び塩化カルシウムの場合を中心に説明したが、特に明示はしないものの、その他の臭化アルカリ土類金属塩、及び塩化アルカリ土類金属塩についても同様の結果を得た。
【符号の説明】
【0046】
1 吸収冷凍機
10 蒸発器チューブ
11 吸収器チューブ
12 凝縮器チューブ
13 再生器チューブ
20,30,40 配管
50 溶液ポンプ
60 熱交換器
71 冷媒散布装置
72,73 溶液散布装置
A 吸収器
C 凝縮器
E 蒸発器
G 再生器
L 冷媒
S 吸収剤
W0 冷水
W1 冷却水
W2 外部熱源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭化アルカリ土類金属塩と、塩化アルカリ土類金属塩とを有することを特徴とする、吸収冷凍機用吸収液。
【請求項2】
前記臭化アルカリ土類金属塩は臭化カルシウムであり、前記塩化アルカリ土類金属塩は塩化カルシウムであることを特徴とする、請求項1に記載の吸収冷凍機用吸収剤。
【請求項3】
アルカリ度調整剤及び腐食防止剤を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸収冷凍機用吸収液。
【請求項4】
界面活性剤を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の吸収冷凍機用吸収液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一に記載の吸収冷凍機用吸収液と、冷媒とを有することを特徴とする、吸収冷凍機用吸収剤。
【請求項6】
前記冷媒は水であることを特徴とする、請求項5に記載の吸収冷凍機用吸収剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−196580(P2011−196580A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61389(P2010−61389)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(000199887)川重冷熱工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】