説明

吸収性物品

【課題】軟便を速やかに肌から遠ざけるとともに、肌から遠い位置に確実に収容保持しうる吸収性物品を提供する。
【解決手段】肌に対向する排泄液を透過する表面シート1と、排泄液を透過する透過シート2と、この透過シート2の裏面側にあって前記排泄液を保持する綿状パルプを含む吸収要素3とを順に備えた吸収性製品であって、前記表面シート1の軟便透過速度S1、前記透過シート2の軟便透過速度S2、及び前記吸収要素3の表層シート3Aの軟便透過速度S3が、S1>S2>S3、の関係にあるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨て紙おむつや吸収パッド、生理用ナプキン、特に軟便の吸収保持性能を向上させた吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸収性物品では軟便の吸収保持性能が問題となっている。具体的には、軟便が表面シートを通過せずに表面シート上に残る、あるいは表面シートを透過した軟便が吸収体により保持されずに表面シート上に逆戻りするといった事態が発生し、肌のかぶれや、煩雑な肌の拭き取り作業をもたらしている。
【0003】
このような観点から、軟便を速やかに肌から遠ざけるとともに、肌から遠い位置に収容保持する能力(単に、軟便等の吸収性能ともいう)を向上させるために、表面シートとして孔開きシートを用い、軟便の通過を容易にする技術や、表面シートと吸収体との間に軟便収容空間を形成する技術が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これらのうち特に特許文献2のものは軟便の吸収保持性能に優れるように思われるが、本発明者の実験によれば、親水性の連続繊維では、軟便を充分に吸収体まで移行させることが困難であり、軟便の吸収保持性能に関して更なる改善が要望されている。
【特許文献1】特開平2−65861号公報
【特許文献2】特開2001−276125号公報
【特許文献3】特開2001−269362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の主たる課題は、特に尿や軟便の吸収保持性能に優れる吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
排泄液を透過する透過シートと、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する綿状パルプを含む吸収要素とを備えた吸収性製品であって、
前記透過シートの軟便透過速度S2が前記吸収要素の表層の軟便透過速度S3大きいことを特徴とする吸収性物品。
【0007】
<請求項2記載の発明>
肌に対向する排泄液を透過する表面シートと、排泄液を透過する透過シートと、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する綿状パルプを含む吸収要素とを順に備えた吸収性製品であって、
前記表面シートの軟便透過速度S1、前記透過シートの軟便透過速度S2、及び前記吸収要素の表層の軟便透過速度S3が、
S1>S2>S3
の関係にあることを特徴とする吸収性物品。
【0008】
<請求項3記載の発明>
前記表面シートが孔開きシートからなる請求項2記載の吸収性物品。
【0009】
<請求項4記載の発明>
前記孔開きシートの少なくとも肛門に対向する領域に形成された排泄液の透過孔群において、単一の透過孔の有効開口面積が3〜75mm2であり、かつ開口面積率が10〜80%である請求項3記載の吸収性物品。
【0010】
(請求項1〜4記載の発明の作用効果)
本発明においては、表面シートの軟便透過速度S1、透過シートの軟便透過速度S2、及び吸収要素の表層の軟便透過速度S3が、S1>S2>S3の関係にある(この場合、請求項1に記載のように、表面シートを使用することを必須とするものではない)。
【0011】
前述のようにこの種の吸収性物品においては、軟便を速やかに肌から遠ざけるとともに、肌から遠い位置に収容保持する能力が高いことが必要である。これを達成するためには、各構成要素が単に軟便透過速度が高いだけでなく、各構成要素間において軟便透過速度に関し本発明で規定する速度勾配が必要であり、かつ速度の絶対値より速度勾配の方が支配的であることを知見した。
【0012】
本発明の軟便透過速度勾配によれば、尿や軟便の吸収保持性能に優れるものとなる。
【0013】
<請求項5記載の発明>
排泄液を透過する透過シートと、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する吸収要素とを備えた吸収性製品であって、
前記透過シートが撥水性または疎水性の繊維を主体とするシートからなることを特徴とする吸収性物品。
【0014】
(作用効果)
透過シートが親水性であると、尿の場合には透過性に優れるとしても、透過シートに達した排泄液がたとえば軟便の場合には、繊維間に軟便の固形分が保持され、これに伴って軟便中または固形分間の液分も保持され、結局、軟便の液分も透過シート中に保持・残留された状態なり、吸収要素側に移行し難い。
【0015】
これに対し、透過シートが撥水性または疎水性の繊維を主体とするシートを使用すると、繊維間に軟便の固形分の多くが保持されるとしても、軟便中または固形分間の液分に対し撥水性または疎水性の繊維がろ過性を示す機能を示すものと考えられ、もって、液分は固形分から分離して吸収要素側に移行する。その結果、本発明の透過シートは続いて軟便を受け入れる余裕を示し、これらの連続ろ過機能が発揮されるため、軟便の液分を吸収要素側に多くかつ速やかに移行できる。
【0016】
<請求項6記載の発明>
肌に対向する排泄液を透過する表面シートと、排泄液を透過する透過シートと、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する吸収要素とを順に備えた吸収性製品であって、
前記透過シートが撥水性または疎水性の繊維を主体とするシートからなることを特徴とする吸収性物品。
【0017】
(作用効果)
透過シートに対し表面に表面シートを設け、透過シートをいわゆるセカンドシートとすることができる。
【0018】
<請求項7記載の発明>
前記透過シートが、フィラメントの集合体からなり、フィラメントがシートの面方向に配向している請求項5または6記載の吸収性物品。
【0019】
(作用効果)
透過シートとして、フィラメントの集合体からなり、フィラメントがシートの面方向に配向していると、軟便、特にその液分の透過性に優れたものなる。この理由は次の現象に基づくものと考えられる。すなわち、短繊維のランダム不織布の場合には、繊維密度を高く、小さくするにもシート形状を保持するために限界があり、もって軟便の固形分は透過シート中に移行し難い。これに対し、短繊維の集合体でなくフィラメントの集合体であると、フィラメント間に軟便の固形分を移行させることができる。さらに、フィラメントの配向方向が特許文献2のように厚み方向であると、軟便の固形分及び液分の両者がフィラメントの間をすり抜けない限り、液分を吸収要素側に移行させ難いものであるが、本発明のようにフィラメントがシートの面方向に配向していると、軟便の固形分はフィラメント間に保持・残留され、フィラメント群がろ過材として機能し、軟便の液分を吸収要素側に多くかつ速やかに移行できる。
【0020】
<請求項8記載の発明>
フィラメントがスパイラル捲縮しているものである請求項7記載の吸収性物品。
【0021】
(作用効果)
フィラメントがスパイラル捲縮していると、ろ過材として機能がより効果的に発揮し、軟便の液分を吸収要素側により多くかつ速やかに移行できる。
【0022】
<請求項9記載の発明>
前記吸収要素が、綿状パルプを主体とする吸収体と、この吸収体と前記透過シートとの間に位置する表層シートとを有し、前記表層シートはエアスルー不織布からなる請求項5または6記載の吸収性物品。
【0023】
(作用効果)
綿状パルプを主体とする吸収体を使用する場合、形状を保持するために通常はティッシュペーパで包被することが行われている。しかし、尿とは異なり軟便の液分はより粘稠であるの、透過性に劣る。吸収体の表面側が軟便の液分が透過し難いものであると、そこが透過性シートから移行しようとする軟便の液分に対するバリヤーとなり、結局、透過性シートを軟便が透過し難いものとなる。これに対し、本発明に従って、表層シートとしてエアスルー不織布を使用すると、軟便の液分が良好に透過し、最終的に吸収体内に保持でき、かかる保持によって、続く軟便も透過性シートを良好に透過するものとなる。エアスルー不織布として、撥水性または疎水性の繊維からなるものがより効果が高い。
【0024】
<請求項10記載の発明>
前記表層シートは前記吸収体の少なくとも上面に対向して位置し、前記吸収体を包む要素を構成している請求項8記載の吸収性物品。
【0025】
<請求項11記載の発明>
前記表層シートの目付け量が10〜45g/m2である請求項9または10記載の吸収性物品。
【0026】
<請求項12記載の発明>
前記吸収要素中の表層シートの下方に高吸収性ポリマー粒子を有する請求項11記載の吸収性物品。
【0027】
(請求項10〜12記載発明の作用効果)
表層シートの目付け量は、吸収体の少なくとも上面に対向して位置し、ティッシュペーパあるいはクレープ紙と共に吸収体を包む要素を構成する場合、目付け量が10g/m2未満であると、強度的に弱くなるし。他方、吸収体内へ軟便の液分を移行させる速度を速くさせようとすると、高い目付け量が必要となるものの、表層シートの下方に高吸収性ポリマー粒子(SAP)を含有させる場合、目付け量が10g/m2を超えると、吸収体内へ軟便の液分を移行させる速度が低くなる傾向があるとともに、デニール数が高くなり目粗いとなり、高吸収性ポリマー粒子が透過し、包被が充分でなくなる。
【0028】
<請求項13記載の発明>
前記表面シートが孔開きシートからなる請求項6記載の吸収性物品。
【0029】
<請求項14記載の発明>
前記孔開きシートの少なくとも肛門に対向する領域に形成された排泄液の透過孔群において、単一の透過孔の有効開口面積が3〜75mm2であり、かつ開口面積率が10〜80%である請求項13記載の吸収性物品。
【0030】
(請求項13及び14記載発明の作用効果)
前記表面シートが孔開きシートからなる請求項6記載の吸収性物品。
【0031】
<請求項14記載の発明>
記表面シートが孔開きシートからなる、特に、少なくとも肛門に対向する領域に形成された排泄液の透過孔群において、単一の透過孔の有効開口面積が3〜75mm2であり、かつ開口面積率が10〜80%である孔開きシートからなるものを使用すると、軟便の固形分をも透過でき、透過シートへ移行させることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上のとおり、本発明によれば、軟便の吸収性能に優れる吸収性物品となる等の利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を、成人用のパンツ型おむつの使用面にあてがい、使い捨ての吸収パッドの例をもって詳説するが、本発明吸収性物品としては、成人用及び幼児用を問わず、パンツ型おむつ自体やテープ式おむつのほか、生理用ナプキンや失禁ライナーなど各種の吸収性物品に適用できることはいうまでもない。
【0034】
<基本的形態>
図1及び図2に図示する吸収パッドは、肌に対向する排泄液を透過する表面シート1と、排泄液を透過する透過シート2と、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する綿状パルプを含む吸収要素3とを表面側から裏面側に向けて順に備える。さらに表面側に起立するバリヤーカフスB,Bを有する。
【0035】
表面シート1には、少なくとも肛門に対向する領域に、実施の形態では全体に多数の排泄液の透過孔H,H…が形成されている。表面シートは、少なくとも肛門に対向する領域に形成された排泄液の透過孔群において、単一の透過孔の有効開口面積が3〜75mm2であり、かつ開口面積率が10〜80%であるものが好適に使用される。開口面積及び開口面積率が小さいと軟便の固形分の透過性が劣るものとなり、開口面積が過度に大きいと、透過シート表面に残留した軟便の固形分と肌が当たるものとなり、肌のかぶれや、煩雑な肌の清拭作業が必要となる。開口面積率が過度に大きいと、強度的に小さくなり好ましくない。
【0036】
表面シート1に直接対向する透過シート2は、図示例ではセカンドシートとして機能する。その詳細は後述する。
【0037】
透過シート2に直接対向する吸収要素3は、排泄液を保持する綿状パルプを主体とする吸収体3Bと、この吸収体3Bと透過シート2との間に位置する表層シート3Aとを有する。さらに、実施の形態では、額巻きのティッシュペーパやクレープ紙3Cと共に、表層シート3Aが吸収体3Bを包む要素を構成している。
【0038】
透過シート2は、望ましくはエアスルー不織布からなるもので、その詳細は後述する。
【0039】
吸収性物品の裏面側を構成する裏面シート4は、実施の形態では不透液性のシートであり、たとえばプラスチックシートからなる。裏面シート4は通気性を有していてもよい。裏面シート4は、吸収要素3の側縁から側方に延在し、折り返されて表面側に達し、フラップを形成し、表面シート1の側部を覆っている。
【0040】
表面シート4の側部にはバリヤーシート5が設けられ、その外側が表面シート4に固定され、内側の自由部分の先端側は内側に折り返され、その部分に糸ゴムなどの弾性伸縮部材5aがその伸張下で固定されることにより、着用時において自由部分が起立するバリヤーカフスB,Bを構成している。本発明において、バリヤーカフスの有無は限定されないが、軟便の横漏れ防止のためにバリヤーカフスを設けることが望ましい。
【0041】
続いて、他の各種の実施の形態を説明する。図3は、吸収体3Bとして、単一層の吸収体に代えて、幅が狭い上部吸収体3B1と幅広の下部吸収体3B2としたものである。
【0042】
吸収要素3の表層シート3Aの下方の適宜の部位に、液分の大量保持のために、高吸収性ポリマー粒子を(SAP)を設けることができる。この形態として、吸収体3B上に分散散布するほか、吸収体3B中に分散させることもできる。さらに、図4に示すように、上部吸収体3B1と下部吸収体3B2との2層構造とする場合、下部吸収体3B2のみに高吸収性ポリマー粒子を包含させることができる。図示の○で示したものが高吸収性ポリマー粒子である。
【0043】
表層シート3Aは、図5に示すように、孔開きシートとすることができる。この場合、単一の透過孔の有効開口面積が0.5〜40mm2であり、かつ開口面積率が1〜80%であるのが液分透過性の観点から望ましい。孔開きシートである場合、各種の不織布に対し孔開きとするほか、プラスチックシートを孔開きとするものでもよい。
【0044】
いずれにしても、表面シート1の軟便透過速度S1、透過シート2の軟便透過速度S2、及び吸収要素の表層(表層シート3Aとする場合、その表層シート3A)の軟便透過速度S3が、
S1>S2>S3
の関係にあるのが望ましいのである。
【0045】
他方、図6に示すように、必要により、表面シート1を省略できる。
【0046】
また、透過性シートのフィラメントがシートの面方向に配向させる場合、図7の(a)のように製品の長手方向に配向させるほか、(b)のように製品の幅方向にさせることができる。製品の長手方向に配向させる方が、軟便の液分を前後に拡散させつつ透過させる効果が大きい。
【0047】
<構成素材などについて>
表面シートについては先に説明したほか、素材は不織布が肌感触を良好にならしめるために望ましいが、プラスチックシートでもよい。開口の形状は、図示の丸のほか、楕円形三角、四角、菱形、6角形等の孔Hが規則的または不規則に多数配置された形態などを挙げることができる。好適に使用できる不織布としては、エアスルー不織布、レジンボンド不織布、エアレイド不織布、スパンレース不織布、ヒートロール不織布、スパンボンド不織布などを用いることができる。不織布を構成する繊維は、その繊度が、2〜15dtex、特に3〜10dtex、とりわけ4〜10dtexであることが、軟便を吸収する空間を維持し透過性を高める点から好ましい。表面シートの目付け量としては、5〜45g/m2が望ましい。
【0048】
透過シートは、撥水性または疎水性の繊維を主体とするシートからなるものを使用する。特に、フィラメントの集合体、たとえばフィラメントを束としたトウを開繊してシート状としたもの、特にフィラメントがシートの面方向に配向しているもの、さらにはフィラメントがスパイラル捲縮しているものであるのが望ましい。
【0049】
アセテートなどの親水性トウを開繊してシート状としたものでは、軟便の透過性が悪い。撥水性または疎水性の繊維は、前述の理由により軟便の特に液分の透過性に優れるが、たとえばPETのエアスルー不織布では、軟便の特にその液分の透過性が充分でない。これに対し、たとえば撥水性または疎水性の繊維のトウを開繊してシート状としたものを透過性シートとすると、格段に軟便の液分の透過性に優れたものとなる。
【0050】
好適に使用できる撥水性または疎水性のフィラメントとしては、PET、PP、PEなどの繊維のほか、これらを素材とする芯鞘構造のフィラメントを挙げることができる。
【0051】
フィラメントの繊度は、例えば、1〜16デニール、好ましくは1〜10デニール、さらに好ましくは2〜8デニール程度とすることができる。フィラメントは、非捲縮繊維であってもよいが、捲縮繊維であるのが好ましい。捲縮繊維の捲縮度は、例えば、1インチ当たり5〜75個、好ましくは10〜50個、さらに好ましくは15〜50個程度とすることができる。また、均一に捲縮した捲縮繊維を用いる場合が多い。捲縮繊維を用いると、嵩高で軽量な吸収体を製造できるとともに、繊維間の絡み合いにより一体性の高いトウを容易に製造できる。とりわけ、スパイラル捲縮繊維は最適である。トウ構成繊維(フィラメント)の断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、異形(例えば、Y字状、X字状、I字状、R字状など)や中空状などのいずれであってもよい。フィラメントは、例えば、3,000〜1,000,000本、好ましくは5,000〜1,000,000本程度の単繊維を束ねることにより形成されたトウ(繊維束またはフィラメント束)の形で使用することができる。トウは、3,000〜1,000,000本程度のフィラメントを集束して構成するのが好ましい。
【0052】
トウは、繊維間の絡み合いが弱いため、主に形状を維持する目的で、繊維の接触部分を接着または融着する作用を有するバインダーを用いることができる。バ各種の樹脂接着剤、特に熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0053】
本発明のフィラメント集合体は公知の方法により製造できる。この代表例は、先に説明したように、フィラメントを集束してトウを形成し、このトウを開繊する形態である。トウの開繊幅は任意であり、例えば、幅100〜2000mm、好ましくは150〜1500mm程度とすることができる。トウの開繊度合いを調整することにより、フィラメント集合体の密度を調整することができる。フィラメント集合体としては、厚さを10mmとしたときの繊維密度が0.0075g/cm3以下、特に0.0060〜0.0070g/cm3であるものが好適である。過度に繊維密度が高くなると、トウからなる繊維集合体を用いることによる利点が少なくなり、軟便の液分透過性が低下する。また、本発明の透過シートの目付けは、10〜100g/m2であるのが望ましい。透過シートの目付けは、原反となるトウの選択、あるいはその製造条件により調整できる。
【0054】
トウの開繊方法としては、例えば、トウを複数の開繊ロールに掛渡し、トウの進行に伴って次第にトウの幅を拡大して開繊する方法、トウの緊張(伸長)と弛緩(収縮)とを繰返して開繊する方法、圧縮エアーを用いて拡幅・開繊する方法などを用いることができる。
【0055】
図8は開繊設備例を示す概略図である。この例では、原反となるトウ31が順次繰り出され、その搬送過程で、圧縮エアーを用いる拡幅手段32と下流側のロールほど周速の速い複数の開繊ニップロール33,34,35とを組み合わせた開繊部を通過され拡幅・開繊された後、バインダー添加ボックス36に通され、バインダーを付与され、所望の幅・密度のフィラメントの繊維集合体40として形成されるようになっている。本発明の吸収性物品に適用する場合、所望の形状及び寸法に断裁して使用すればよい。
【0056】
本発明の表層シートとしては、エアスルー不織布、レジンボンド不織布、エアレイド不織布、スパンレース不織布、ヒートロール不織布、スパンボンド不織布などを用いることができるが、エアスルー不織布が最適である。
【0057】
エアスルー不織布のうちでも、撥水性または疎水性の繊維を使用することが特に望ましい。撥水性または疎水性の繊維としては、PET、PP、PEなどの繊維のほか、これらを素材とする芯鞘構造の繊維を挙げることができる。
【0058】
表層シートの目付け量としては、10〜60g/m2であるのが望ましい。表層シートは単層のほか、2層以上、たとえば3層構造で積層できる。積層した場合、積層状態での目付け量が10〜60g/m2であるのが望ましい。
【0059】
吸収体の綿状パルプとしては、パルプを公知の方法により積繊し、空気や水流等により交絡処理することにより製造できる。パルプ繊維としては、木材から得られる化学パルプ 、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものを用いることができ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。
【0060】
吸収体中に、高吸収性ポリマーを含有させることができる。この高吸収性ポリマーとしては、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸およびその塩類、アクリル酸塩重合体架橋物、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、澱粉−アクリロニトリルグラフト共重合体の加水分解物、ポリオキシエチレン架橋物、カルボキシメチルセルロース架橋物、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド等の水膨欄性ポリマーを部分架橋したもの、あるいはイソブチレンとマレイン酸との共重合体等が好適に用いられる。製品の吸湿によるブロッキング性を抑制するためにブロッキング防止剤が添加されたものも用いることができる。また高吸収性ポリマーとしては、粉体状、粒子状、顆粒状、ペレット状、ゾル状、サスペンジョン状、ゲル状、フィルム状、不織布状等のさまざまな形態をもったものがあるが、これらはいずれも本発明において使用可能であり、特に粒子状のものが好適に使用される。
【0061】
高吸収性ポリマーの含有させる方法としては、吸収体に対して粉粒状の高吸収性ポリマーを散布する付与する方法、吸収体にモノマー(高吸収性ポリマーとなるもの)を含浸した後に重合する方法や、未架橋のゲル状高吸収性ポリマーを吸収体にコートした後に架橋処理を施す方法等を採用することができる。高吸収性ポリマーの目付け量は、当該吸収体の用途で要求される吸収量に応じて適宜定めることができる。したがって一概には言えないが、一般的には0.03g/cm2以下、特に好適には0.01〜0.025g/cm2とすることができる。
【0062】
また、吸収体中に高吸収性ポリマーを含有させるのに代えて、あるいは吸収体の表面側および裏面側の少なくとも一方に高吸収性ポリマーを層状に設けることもできる。特に吸収体の裏面側に高吸収性ポリマー層を設けることができる。これらの場合において、高吸収性ポリマーは吸収体を包むシートに接着剤により接着することができる。この場合の接着剤としては前述の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0063】
また、吸収体は、表層シートとの併用で、クレープ紙、不織布、孔開きシート等の液透過性シートにより包むことができる。特に、クレープ紙のように吸収性を有するシートが好適に用いられる。
【実施例】
【0064】
(実験例1)
軟便に対する疑似便を作成し、可能な限り、製品に近い構造において、疑似便の透過速度を検討した。疑似便の成分は次記のものである。
成分1.デンプン (片栗粉) 3%
成分2.デンプン (そば粉) 1.5%
成分3.との粉(珪酸アルミニウム) 1.5%
成分4.人工尿 94%
界面活性剤 少量
【0065】
作成に際しては、上記組成の液を、(1) 成分4の人工尿に成分1を入れ攪拌しながら100度で加熱し、デンプンを溶解させる、(2)(1)の温度が室温まで下がった後、成分2を入れる、(3) (2)と同様に成分3を入れる、(4)均一に拡散していることを確認したならば、界面活性剤を添加して28ダインに調整する。
【0066】
さて、図1及び図2の形態の吸収パッドにおいて、透過性シート2を設けない形態について、吸収要素の表層シート3Aとしていかなる材質ものが適切か検討した。表面シートとして、直径6.3mmの排泄液の透過孔を、幅方向及び長手方向に離間距離1.1mmをもって千鳥状に配置した目付け35g/m2の材質がPPのスパンボンド不織布を使用した。
【0067】
比較試料1は、高吸収性ポリマー粒子を含有する綿状パルプを額巻きでクレープ紙により包被したものの、上面については、表層シートを設けないで露出させたものである。これに対し、比較試料2は上層をクレープ紙としたもの、比較試料3〜比較試料5は、エアスルー不織布を使用したものである。
【0068】
これらの各比較試料について、直径3インチの円柱を表面シート上に設置し、50ccの前記疑似便(ただし着色してあるもの)を15cc/秒の速度で連続的に注入した。この注入開始後に疑似便の存在が目視で判明できなくなるまでの時間(秒)を吸収速度とした。また、吸収後において、ストライクスルー性の良否を定性的に判定した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
この実験例1により、表層シートを設けないものやクレープ紙で包被したものは軟便の液分の透過吸収保持性が悪いのに対し、エアスルー不織布は良好な透過吸収保持性を示した。
【0071】
(実験例2)
実験例1により、吸収要素の表層シートとしてはエアスルー不織布を使用するのが好適であることが判ったので、実験例2では、すべてをその形態の吸収要素を使用した上で、透過性シートの材質を選定するための実験を行った。実験方法は、疑似軟便の成分割合を次のように若干変えたほかは実験例1と同じである。
成分1.デンプン (片栗粉) 6%
成分2.デンプン (そば粉) 3%
成分3.との粉(珪酸アルミニウム) 3%
成分4.人工尿 88%
界面活性剤 少量
【0072】
結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表の結果から、親水性のトウを開繊したフィラメントの集合体及び撥水性のエアスルー不織布では吸収速度が遅いことが判明した。これに対し、本発明のトウを開繊した撥水性のフィラメントの集合体を透過性シートに使用したものは著しく吸収速度が速いものであることが知見された。
【0075】
(実験例3)
表面シートとして、3mm2以下のもの(孔開きでないものを含む)は、開口面積率や材質をいかに変えても、いずれも疑似便の透過性が悪いことが知見された。
【0076】
(実験例4)
透過性シートとして、トウを開繊した撥水性でかつスパイラル捲縮したフィラメントの集合体を使用したものは、その捲縮がないものに対し、吸収速度がより速くなることが知見された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る吸収性物品例の展開状態における平面図である。
【図2】図1の2−2線矢視断面図である。
【図3】他の形態の断面図である。
【図4】別の形態の断面図である。
【図5】さらに他の形態の断面図である。
【図6】態様を異にする形態の断面図である。
【図7】フィラメントの配向形態を説明するための吸収性物品の展開状態における平面図である。
【図8】透過性シートを得る場合のトウの開繊方法の概要説明図である。
【符号の説明】
【0078】
1…表面シート、H…表面シートの孔、2…透過性シート、3…吸収要素、3A…表層シート、3B…吸収体、3C…クレープ紙、4…裏面シート、5…バリヤーシート、B…バリヤーカフス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排泄液を透過する透過シートと、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する綿状パルプを含む吸収要素とを備えた吸収性製品であって、
前記透過シートの軟便透過速度S2が前記吸収要素の表層の軟便透過速度S3大きいことを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
肌に対向する排泄液を透過する表面シートと、排泄液を透過する透過シートと、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する綿状パルプを含む吸収要素とを順に備えた吸収性製品であって、
前記表面シートの軟便透過速度S1、前記透過シートの軟便透過速度S2、及び前記吸収要素の表層の軟便透過速度S3が、
S1>S2>S3
の関係にあることを特徴とする吸収性物品。
【請求項3】
前記表面シートが孔開きシートからなる請求項2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記孔開きシートの少なくとも肛門に対向する領域に形成された排泄液の透過孔群において、単一の透過孔の有効開口面積が3〜75mm2であり、かつ開口面積率が10〜80%である請求項3記載の吸収性物品。
【請求項5】
排泄液を透過する透過シートと、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する吸収要素とを備えた吸収性製品であって、
前記透過シートが撥水性または疎水性の繊維を主体とするシートからなることを特徴とする吸収性物品。
【請求項6】
肌に対向する排泄液を透過する表面シートと、排泄液を透過する透過シートと、この透過シートの裏面側にあって前記排泄液を保持する吸収要素とを順に備えた吸収性製品であって、
前記透過シートが撥水性または疎水性の繊維を主体とするシートからなることを特徴とする吸収性物品。
【請求項7】
前記透過シートが、フィラメントの集合体からなり、フィラメントがシートの面方向に配向している請求項5または6記載の吸収性物品。
【請求項8】
フィラメントがスパイラル捲縮しているものである請求項7記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記吸収要素が、綿状パルプを主体とする吸収体と、この吸収体と前記透過シートとの間に位置する表層シートとを有し、前記表層シートはエアスルー不織布からなる請求項5または6記載の吸収性物品。
【請求項10】
前記表層シートは前記吸収体の少なくとも上面に対向して位置し、前記吸収体を包む要素を構成している請求項8記載の吸収性物品。
【請求項11】
前記表層シートの目付け量が10〜45g/m2である請求項9または10記載の吸収性物品。
【請求項12】
前記吸収要素中の表層シートの下方に高吸収性ポリマー粒子を有する請求項11記載の吸収性物品。
【請求項13】
前記表面シートが孔開きシートからなる請求項6記載の吸収性物品。
【請求項14】
前記孔開きシートの少なくとも肛門に対向する領域に形成された排泄液の透過孔群において、単一の透過孔の有効開口面積が3〜75mm2であり、かつ開口面積率が10〜80%である請求項13記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−141647(P2006−141647A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335096(P2004−335096)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】