説明

吸収性物品

【課題】表面シートにおいて、液の拡散性及び吸収性を高めるとともに、体液の逆戻りを効果的に防止し、かつ立体感に富み、高いクッション性を有する吸収性物品を提供する。
【解決手段】表面シート3は、上層及び下層からなる2層構造の不織布とされるとともに、上層不織布3Aの繊度>下層不織布3Bの繊度関係とされ、所定パターンでエンボスが付与されることにより凹部8,8…及び凸部7,7…が交互に隣接形成されるとともに、前記凹部8,8…が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、前記凸部7,7…が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされ、前記表面シート3の下面側に、前記表面シート3よりも親水度が高く多数の開孔が形成された多孔プラスチックシート6が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面シートにおいて、液の拡散性及び吸収性を高めるとともに、体液の逆戻りを効果的に防止し、かつ立体感に富み、高いクッション性を有する吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、吸収性物品の表面材として、肌への接触面積を低減させることにより湿り感を抑える、或いは質感を出すと共に感触性を高めるなど種々の目的に応じて適宜のエンボスパターンが付与されたものが市場に提供されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、平面部を有しないように多数の畝部と溝部とが交互に配列されており、上記畝部は凸状に湾曲し且つ上記溝部は凹状に湾曲しており、上記溝部は間隔をおいて配置された多数の開孔を有している不織布を表面シートとして使用した吸収性物品が開示されている。
【0004】
しかしながら、表面シートに凹凸を形成した場合は、下面側に配設される体液吸収性部材との密着性が低下するため、経血の拡散性及び吸収性が低下するという問題が新たに発生する。そこで、表面シートや表面シートの下面に配置されるセカンドシートにおいて、密度勾配差を付けることにより体液の流動を制御する技術が提案されている。
【0005】
例えば、下記特許文献2では、身体側に面する透水性の表面側シートと、衣服側に面する裏面側シートと、前記表面側シート及び前記裏面側シートに内包され体液を吸収する機能を有する吸液性コアとを備える吸収性物品において、前記表面側シートと前記吸液性コアとの間に、当該吸液性コアに向く側の繊維密度が当該表面側シートに向く側の繊維密度より大きい体液透過性シート(セカンドシート)が設けられている吸収性物品が提案されている。この吸収性物品の場合は、表面側シートを通過し体液透過性シートの上面に達した体液は、繊維密度の勾配の高い方(吸液性コア側)に導かれるように移動するため、速やかに吸収されるようになるというものである。
【0006】
また、下記特許文献3では、波形状の凹凸面状に加工された不織布表面シートにおいて、波の頂部と底部において繊維密度が高く、側壁部において繊維密度が小さくなるようにし、繊維密度の高い領域と繊維密度の低い領域との境界に多数の開孔が形成された表面シートが提案されている(同文献段落[0050]及び図4参照)。
【特許文献1】特開平8−302555号公報
【特許文献2】特開2003−210523号公報
【特許文献3】特開2001−328191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2記載の吸収性物品の場合、体液透過性シートによって体液の拡散性と吸収性は確実に向上するが、直接肌と接触する表面シート面での拡散性が不十分であり、べた付き感が解消されていない。
【0008】
上記特許文献3記載の表面シートでは、体液は相対的に低繊維密度領域側から高繊維密度領域側に移動するが、波の頂部に高繊維密度領域を有するため、該頂部に体液が保水され易く、べた付きが出やすい。また、繊維密度の高い領域と繊維密度の低い領域との境界に多数の開孔が形成されているため、繊維密度勾配が出来ず、経血が開孔に移行しづらいなどの問題があった。
【0009】
そこで本発明の課題は、表面シートにおいて、液の拡散性及び吸収性を高めるとともに、体液の逆戻りを効果的に防止し、かつ立体感に富み、高いクッション性を有する吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、透液性の表面シートと、裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品において、
前記表面シートは、上層及び下層からなる2層構造の不織布とされるとともに、上層不織布の繊度>下層不織布の繊度関係とされ、所定パターンでエンボスが付与されることにより凹部及び凸部が交互に隣接形成されるとともに、少なくとも体液排出部を含む中央部領域において、前記凹部が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、前記凸部が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされ、前記表面シートの下面側に、前記表面シートよりも親水度が高く多数の開孔が形成された多孔プラスチックシートが配設されていることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の本発明においては、上層及び下層からなる2層構造の不織布とされるとともに、上層不織布の繊度>下層不織布の繊度の関係とされる。すなわち、下層側不織布の繊度を相対的に下げることにより、下層不織布の密度を上層不織布よりも高くし、上下層の不織布間で粗密関係を形成するようにする。
【0012】
同時に、前記表面シートには、所定パターンでエンボスが付与されることにより凹部及び凸部が交互に隣接形成されるとともに、前記凹部が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、前記凸部が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされる。
【0013】
従って、前記表面シートに体液が排出されると、凸部に存在する体液は、繊維密度勾配によって凹部側に速やかに移動するため体液の拡散性が良好となるとともに、上下層の不織布間の粗密関係により、表面側(凸部)に体液が保水されることがなく吸収体側に移行するため、表面シートのべた付き感が解消されるようになる。
【0014】
また、前記表面シートの下面側に、前記表面シートよりも親水度が高く多数の開孔が形成された多孔プラスチックシートを配設するようにしてある。従って、体液が凹部に集まるように拡散した後、その多くが下層側に配置された体液透過性の高い多孔プラスチックシートを通過して吸収体に至るとともに、その後に圧力を受けたとしても、逆戻りが防止されるようになる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記表面シートにおいて、前記上層不織布の繊度が2.2〜1.7dtとされ、前記下層不織布の繊度が1.7dt未満としてある請求項1記載の吸収性物品が提供される。
【0016】
上記請求項2記載の本発明は、表面シートにおける上下層の不織布の繊度を具体的に規定したものである。従来の不織布を用いた表面シートの場合は、繊度2〜3dt程度の繊維を使用しているが、手触り感の滑らかさに欠けるという欠点があった。そこで、不織布の繊度を下げ滑らかさを付与しようとすると、今度は繊維の密度が高くなり、経血が表面シートに残るという問題が発生していた。本発明では、滑らかさを付与するために上層不織布の繊度を2.2〜1.7dtとして繊度を下げたとしても、下層不織布の繊度をそれよりも低い1.7dt未満としているため、粗密関係により経血が吸収体側に吸収され、表面シートには経血が残らない。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記表面シートは、前記体液排出部を含む中央部領域と、この中央部領域を囲む周辺領域とに区画され、前記周辺領域において、前記凹部が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされ、前記凸部が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明は、表面シートは、前記体液排出部を含む中央部領域と、この中央部領域を囲む周辺領域とに区画され、前記中央部領域においては、前記請求項1に係る発明で規定したように、凹部が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、凸部が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされているが、前記周辺領域においては、繊維密度関係が逆の関係、すなわち凹部が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされ、凸部が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされているものである。
【0019】
前記周辺領域では、凹部が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされることにより、この柔軟な低密度領域部分がいわばバネ効果を生み出し、高いクッション性を付与することが可能となる。また、肌と接触する凸部が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされることにより、滑らかさが上がり肌触り感が良好となる。
【0020】
請求項4に係る本発明として、前記多孔プラスチックフィルムにおいて、吸収体側の面の親水度を表面シート側の面よりも高く設定し、表面側から裏面側にかけて親水度勾配を持たせるようにしてある請求項1〜3いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0021】
上記請求項4記載の本発明では、体液の吸収体側への引込み力を上げるために、多孔プラスチックフィルムの吸収体側の面の親水度を表面シート側の面よりも高く設定し、表面側から裏面側にかけて親水度勾配を持たせるようにしたものである。
【0022】
請求項5に係る本発明として、前記多孔プラスチックフィルムの開孔は、表面シート側の開孔径が吸収体側の開孔径よりも大きい漏斗状に形成されている請求項1〜4いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0023】
上記請求項5記載の本発明は、一旦多孔プラスチックフィルムを通過した体液を逆戻りさせないようにするため、開孔を漏斗状とするものである。
【発明の効果】
【0024】
以上詳説のとおり本発明によれば、液の拡散性及び吸収性を高めるとともに、体液の逆戻りを効果的に防止し、かつ立体感に富み、高いクッション性を有する吸収性物品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。図1は本発明に係る生理用ナプキン1の一部破断斜視図である。
〔吸収性物品1の構造〕
生理用ナプキン1は、主にはパンティライナー、生理用ナプキン、おりものシート、失禁パッドなどの用途に供されるもので、例えば図1に示されるように、不透液性裏面シート2と、透液性表面シート3(以下、単に表面シートという。)との間に、吸収体4または同図に示されるように、好ましくはクレープ紙5によって囲繞された吸収体4が介在されるとともに、前記表面シート3と吸収体4との間であって、表面シート3の下面側に多孔プラスチックフィルム6を配置した構造となっている。なお、前記吸収体4の周囲においては、前記不透液性裏面シート2と表面シート3とがホットメルト接着剤等の接着手段によって接合されている。
【0026】
前記不透液性裏面シート2は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、この他に防水フィルムを介在して実質的に不透液性を確保した上で不織布シート(この場合には、防水フィルムと不織布とで不透液性裏面シートを構成する。)などを用いることができる。近年はムレ防止の観点から透湿性を有するものが好適に用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。
【0027】
前記表面シート3は、図2に示されるように、上層3A及び下層3Bからなる2層構造の不織布とされるとともに、上層不織布3Aの繊度>下層不織布3Bの繊度関係とされ、図3に示されるように、所定パターンでエンボスが付与されることにより凹部8,8…及び凸部7,7…が交互に隣接形成されるとともに、前記凹部8,8…が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、前記凸部7,7…が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされる。この表面シート3については後段でさらに具体的に詳述する。
【0028】
前記不透液性裏面シート2と表面シート3との間に介在される吸収体4は、たとえばパルプ中に高吸水性樹脂を混入したもの、或いはパルプ中に化学繊維を混入させるとともに、粒状の高吸水性樹脂を混入したものが使用される。前記吸収体4は、図示のように、形状保持、および経血等を速やかに拡散させるとともに、一旦吸収した経血等の逆戻りを防止するためにクレープ紙5によって囲繞するのが望ましい。前記パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶融パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。
【0029】
前記高吸水性樹脂としては、たとえばポリアクリル酸塩架橋物、自己架橋したポリアクリル酸塩、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体架橋物のケン化物、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体架橋物、ポリスルホン酸塩架橋物や、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドなどの水膨潤性ポリマーを部分架橋したもの等が挙げられる。これらの内、吸水量、吸水速度に優れるアクリル酸またはアクリル酸塩系のものが好適である。前記吸水性能を有する高吸水性樹脂は製造プロセスにおいて、架橋密度および架橋密度勾配を調整することにより吸水力と吸水速度の調整が可能である。前記高吸水性樹脂の含有率は10〜60%とするのが望ましい。高吸水性樹脂含有率が10%未満の場合には、十分な吸収能を与えることができず、60%を超える場合にはパルプ繊維間の絡み合いが無くなり、シート強度が低下し破れや割れ等が発生し易くなる。
【0030】
前記高吸水性樹脂9は、図6に示されるように、裏面シート2側よりも多孔プラスチックフィルム6側の含有量が多くなるように偏在して混入するのが望ましい。これにより、多孔プラスチックフィルム6に到達した体液を吸収体4に効果的に引き込むことが可能となる。
【0031】
前記透液性表面シート3と吸収体4との間に配置される多孔プラスチックフィルム6は、前記表面シート3よりも親水度が高く、かつ多数の開孔6a、6a…が形成されたフィルムシートである。フィルムの素材は、たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系の熱可塑性樹脂フィルムが好適に使用されるが、ポリエステル、ナイロンなどのポリアミド系樹脂、EVAなども使用することができる。
【0032】
前記開孔6aの径は、0.05〜2.0mm、好適には0.1〜1.0mmとし、その開孔数は200〜600個/cm程度とするのが望ましい。前記開孔6aを形成するには、合成樹脂シートを軟化温度付近に軟化させて、多数の開孔を有する支持体の上面に位置させた状態で、支持体の下方から吸引したり、支持体の上面から空気圧を加圧したりする方法や、合成樹脂シート素材に多数のスリットを刻印した後に、シート素材を延伸して開孔させる方法、更には多数のニードル(加熱針)を突き刺すことによって開孔を形成する方法など多種の方法があり、適宜の方法によって形成することができるが、一旦通過した体液の逆戻りを防止するためには、前記ニードルによる開孔方法によって、図5に示されるように、表面シート3側の開孔径d1が吸収体4側の開孔径d2よりも大きい漏斗状に形成するのが望ましい。なお、図5(A)は逆円錐台状に開孔を形成した態様であり、図5(B)は異形に開孔を形成した態様である。また、添付図面では上記図5以外は開孔が省略されている。
【0033】
〔表面シート3及び多孔プラスチックフィルム6からなる表層構造〕
前記表面シート3は、前述したように、上層3A及び下層3Bからなる2層構造の不織布とされるとともに、上層不織布3Aの繊度>下層不織布3Bの繊度関係とされる。具体的には、前記上層不織布3Aの繊度が2.2〜1.7dtとされ、前記下層不織布3Bの繊度が1.7dt未満とされる。この場合、上層不織布3Aを構成する繊維及び下層不織布3Bを構成する繊維に異なる繊度の繊維を用いるようにしても良いし、上層不織布3Aには繊度の異なる繊維を混入することにより繊度を上げるようにしてもよい。
【0034】
また、前記上層不織布3Aと下層不織布3Bの目付けは、上層不織布3Aの目付け>下層不織布3Bの目付けの目付け関係とするのが望ましい。これにより、肌に当たる上層不織布3Aでのクッション性を良好とすることができる。
【0035】
前記表面シート3は、図3に示されるように、所定パターンでエンボスが付与されることにより凹部8,8…及び凸部7,7…が長手方向及び短手方向に交互に隣接形成されるとともに、少なくとも体液排出部Hを含む中央部領域Sにおいては、前記凹部8,8…が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、前記凸部7,7…が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされる。
【0036】
この表面シート3を構成する素材繊維としては、たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維とすることができ、エアスルー法、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、スパンレース法は柔軟性、ドレープ性に富む点で優れ、エアスルー法、サーマルボンド法は嵩高でソフトである点で優れている。これらの中でも、繊維密度勾配を付けやすいエアスルー不織布を使用するのが望ましい。
【0037】
不織布の繊維は、長繊維または短繊維のいずれでもよいが、好ましくはタオル地の風合いを出すため短繊維を使用するのがよい。また、エンボス処理を容易とするために、比較的低融点のポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系繊維のものを用いるのがよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド−バイ−サイド型繊維、分割型繊維等の複合繊維を好適に用いることもできる。
【0038】
前記表面シート3は、体液に対して親水性を有するようにする。具体的には、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維を親水化剤によって表面処理したり、合成繊維の製造過程で親水基を持つ化合物、例えばポリエチレングリコールの酸化生成物などを共存させて重合させる方法や、塩化第2スズのような金属塩で処理し、表面を部分溶解し多孔性とし金属の水酸化物を沈着させる方法等により合成繊維を膨潤または多孔性とし、毛細管現象を応用して親水性を付与した繊維を用いるようにする。
【0039】
この場合、表面シート3の内、上層不織布3Aと下層不織布3Bとで親水度を変えるようにしてもよい。例えば、上層不織布3Aをレギュラー親水とし、下層不織布3Bについては耐久親水とする。下層不織布3Bの親水度を上げることにより、表面に体液を残さず、下層不織布3B側に効果的に移行させることができる。
【0040】
前記表面シート3に対して、凹部8,8…及び凸部7,7…が交互に隣接形成されるとともに、前記凹部8,8…が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、前記凸部7,7…が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされるようにエンボスを付与するには、図7に示されるように、凸状部10a、10a…と凹状部10b、10b…が多数配列された第1エンボスロール10と、凸状部11a、11a…と凹状部11b、11b…とが多数配列された第2エンボスロール11とから構成されるとともに、噛み合わせた状態で前記第1エンボスロール10の凸状部10aと、第2エンボスロール11の凹状部11bが接触するか近接するようにしたものを用い、これら第1エンボスロール10と第2エンボスロール11との間に前記表面シート3を通過させることにより、凹部8,8…及び凸部7,7…が交互に隣接形成するとともに、凹状部8、8…が高圧縮されることにより凸部7よりも繊維密度が高くなるようにすることができる。
【0041】
前記凹部8,8…の間隔Pは、2〜6mm、好ましくは3〜5mmとされ、その中間に凸部7,7…が存在するように形成される。また、凹部8,8…と凸部7,7…とは隣接して形成されることが望ましい。また、高低差hは、0.3〜2mm、好ましくは0.5〜1.0mmとするのが望ましい。
【0042】
前記表面シート3の下面側に積層される多孔プラスチックフィルム6は、前記表面シート3よりも親水度が高くなるように親水化剤によって処理される。かかる親水性の付与は、前記多孔プラスチックフィルム6の表裏面に対して界面活性剤(親水化剤)を塗布することにより成される。
【0043】
前記界面活性剤としては、例えば陰イオン性界面活性剤、カルボン酸塩、アシル化加水分解タンパク質、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン系界面活性剤、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ポリアルキレノキシドブロック共重合物、陽イオン性界面活性剤、第四級アンモニウム塩、両性界面活性剤、イミダゾリニウム誘導体等が挙げられ、この他にも繊維に塗布される界面活性剤として公知の界面活性剤であればどのようなものを適用しても良い。
【0044】
前記界面活性剤の塗布方法としては、例えばスプレーによる塗布、グラビア印刷やフレキソ印刷による塗工、各種コータによるカーテン塗工を上げることができる。親水度の調整は、前記界面活性剤の塗布量を調整することにより行うことが可能である。
【0045】
また、前記多孔プラスチックフィルム6においては、図6に示されるように、吸収体4側の面の親水度を表面シート3側の面よりも高く設定し、表面側から裏面側にかけて親水度勾配を持たせるようにしてもよい。親水度勾配を持たせることにより、多孔プラスチックフィルム6の上面に存在する体液を効果的に吸収体4側に引込みできるようになる。
【0046】
前記表面シート3に対してシート単独の状態でエンボスが付与された後、前記多孔プラスチックフィルム6と積層される。この場合、前記表面シート3の各凹部8,8…において互いに接合されていることが望ましい。接合方法は、熱融着、超音波融着、接着剤等任意の方法を採用することができる。接合部となる凹部8,8…以外の凸部7,7…では多孔プラスチックフィルム6との間に空間が存在することになるため、高いクッション性を有するようになる。接着剤による接合の場合、塗布パターンは、表面シート3の浮きを防止するとともに、多孔プラスチックフィルム6と均一に貼り合わせるために、螺旋状のスパイラルパターン塗布よりは波状線を細かく並べたシグマパターン塗布とするのが望ましい。
【0047】
以上詳述した表層構造の場合は、図6に示されるように、前記凸部7,7…が相対的に繊維密度の低い低密度領域Dとされ、前記凹部8,8…が相対的に繊維密度の高い高密度領域Dとされ、前記低密度領域Dから前記高密度領域Dに至る繊維密度勾配が形成される。その結果、前記表面シート3に体液が排出されると、凸部7,7…に存在する体液は、繊維密度勾配によって凹部8,8…側に速やかに移動するため体液の拡散性が良好となるとともに、表面側(低密度領域D側)に体液が保水されることがなくなるため、べた付き感が解消されるようになる。また、下層側には透過性の高い多孔プラスチックフィルム6が配設されているとともに、該多孔プラスチックフィルム6は前記表面シート3よりも親水度が高く設定されているため、体液が凹部8,8…に集まるように拡散した後、その多くが下層側に配置された透水性の高い多孔プラスチックシート6を透過して吸収体4に至るとともに、その後に圧力を受けた場合でも逆戻りが防止されるようになる。
【0048】
ところで、前記表面シート3は、図1に示されるように、体液排出部Hを含む中央部領域Sと、この中央部領域Sを囲む周辺領域Kとに区画され、前記中央部領域Sにおいては、前述したように、前記凹部8,8…が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、前記凸部7,7…が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされるが、前記周辺領域Kにおいて、図8に示されるように、繊維密度関係が逆の関係、すなわち凹部8、8…が相対的に繊維密度の低い低密度領域Dとされ、凸部7、7…が相対的に繊維密度の高い高密度領域Dとされていることが望ましい。前記周辺領域Kでは、凹部8が相対的に繊維密度の低い低密度領域Dとされることにより、この柔軟な低密度領域Dがいわばバネ効果を生み出し、高いクッション性を付与することが可能となる。
【0049】
前記中央領域Sと周辺領域Kとで、凸部7と凹部8との繊維密度関係を逆転させるには、図9に示されるように、中央部領域Sにおいては、凸状部10a、10d…と凹状部10b、10c…が多数配列された第1エンボスロール10と、凸状部11a、11d…と凹状部11b、11c…とが多数配列された第2エンボスロール11とから構成されるとともに、噛み合わせた状態で、中央部領域Sでは前記第1エンボスロール10の凸状部10aと、第2エンボスロール11の凹状部11bが接触するか近接するようにし、周辺領域Kでは前記第1エンボスロール10の凹状部10cと第2エンボスロールの凸状部11dとが接触するか近接するようにしたものを用い、これら第1エンボスロール10と第2エンボスロール11との間に前記表面シート3を通過させるようにすればよい。
【0050】
〔その他の形態例〕
(1)上記形態例では、凸部7,7…、凹部8…がナプキン長手方向及び短手方向に格子状又は千鳥状に形成された例であるが、凸部7、7…及び凹部8,8…が一方向に沿って交互に、すなわち波状に形成されることでもよい。
(2)上記形態例では、表面シート3に対してシート単独の状態でエンボスを付与した後、前記多孔プラスチックフィルム6と積層させるようにしたが、表面シート3と多孔プラスチックフィルム6とを接着剤等で貼り合わせた後、エンボスを付与するようにしてもよい。表面シート3の高密度領域と多孔プラスチックフィルム6との密着性を高め、経血を移行しやすくするためには、接着剤だけの貼り合わせよりも、表面シートと多孔プラスチックフィルムを一緒にエンボスで付与した方が密着性は高くなる。
【0051】
この場合、表面シート3の柔らかさを維持するため、表面シート3の肌側に当たる部分に熱を当てないようにするのが望ましい。具体的には、図10に示されるように、第1エンボスロール10の凹状部0b部分の熱開放空間10cを連続的に形成し、熱を表面シート3に当てないようにする。表面シート3の凸部7,7…となる部分に熱を当てていないため、表面シート3と多孔プラスチックフィルム6とは熱融着せず、表面シート3と多孔プラスチックフィルム6との間に空間が形成されるようになるため、クッション性は維持されるようになる。なお、操業時のエンボス温度条件は、多孔プラスチックフィルムが高密度ポリエチレンである場合は、融点は130℃であるため、130℃以下で操業し、低密度ポリエチレンの場合は、融点は90℃であるため、90℃以下で操業する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る吸収性物品1の一部は段斜視図である。
【図2】表面シート3の断面図である。
【図3】その要部拡大横断面図である。
【図4】作用効果を説明するための表面シート3の要部拡大断面図である。
【図5】(A)(B)は共に多孔プラスチックフィルム6の開孔態様を示す要部拡大断面図である。
【図6】本吸収性物品1の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図7】第1エンボスロール10と、第2エンボスロール11との噛み合わせ状態を示す図である。
【図8】中央部領域Sと周辺領域Kとで密度関係を変えた表面シート3例を示す横断面図である。
【図9】その場合の第1エンボスロール10と、第2エンボスロール11との噛み合わせ状態を示す図である。
【図10】第1エンボスロール10の変形例を示すエンボスロール断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1…吸収性物品(生理用ナプキン)、2…不透液性裏面シート、3…透液性表面シート、4…吸収体、5…クレープ紙、6…多孔プラスチックフィルム、、7…凸部、8…凹部、9…高吸水性樹脂、10…第1エンボスロール、10a・10d…凸状部、10b・10c…凹状部、11…第2エンボスロール、11a・11d…凸状部、11b・11c…凹状部、D…低密度領域、D…高密度領域、S…中央部領域、K…周辺領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透液性の表面シートと、裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品において、
前記表面シートは、上層及び下層からなる2層構造の不織布とされるとともに、上層不織布の繊度>下層不織布の繊度関係とされ、所定パターンでエンボスが付与されることにより凹部及び凸部が交互に隣接形成されるとともに、少なくとも体液排出部を含む中央部領域において、前記凹部が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされ、前記凸部が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされ、前記表面シートの下面側に、前記表面シートよりも親水度が高く多数の開孔が形成された多孔プラスチックシートが配設されていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記表面シートにおいて、前記上層不織布の繊度が2.2〜1.7dtとされ、前記下層不織布の繊度が1.7dt未満としてある請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記表面シートは、前記体液排出部を含む中央部領域と、この中央部領域を囲む周辺領域とに区画され、前記周辺領域において、前記凹部が相対的に繊維密度の低い低密度領域とされ、前記凸部が相対的に繊維密度の高い高密度領域とされている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記多孔プラスチックフィルムにおいて、吸収体側の面の親水度を表面シート側の面よりも高く設定し、表面側から裏面側にかけて親水度勾配を持たせるようにしてある請求項1〜3いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記多孔プラスチックフィルムの開孔は、表面シート側の開孔径が吸収体側の開孔径よりも大きい漏斗状に形成されている請求項1〜4いずれかに記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−233099(P2009−233099A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83093(P2008−83093)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】