説明

吸収性物品

【課題】排泄された尿が着用者の肌を伝わり拡散する場合であっても肌が濡れた状態のままにならない吸収性物品を提供する。
【解決手段】本発明の吸収性物品は、クロッチ域13の吸収性シート60が配置されてない排尿領域に人工尿を滴下吸収させた場合、後ウエスト域12の吸収性シート60が配置されている臀部領域における人工尿の逆戻り量は、排尿領域における人工尿の逆戻り量の200分の1以下の値であり、臀部領域に人工尿を滴下吸収させた場合、臀部領域の人工尿の逆戻り量は、排尿領域に人工尿を滴下吸収させた場合の排尿領域における人工尿の逆戻り量の0.7以下の値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関し、とくに尿取りパッド、使い捨ておむつ、排泄トレーニングパンツ、失禁ブリーフなどの吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収体と、吸収体の表面を被覆するように配置され、少なくとも一部が液透過性材料からなるトップシートと、吸収体の裏面に配置され、液不透過性材料からなるバックシートとを備え、吸収体は、少なくとも着用者の排泄部位に対応する領域(排泄領域)に吸収体の表面から裏面に向けて孔部が形成されたものであり、吸収体の表面にはトップシートが配置されるとともに、吸収体の裏面には、少なくとも排泄領域における孔部の開口部を覆うように拡散シートが配置されており、拡散シートよりも上部で、かつ排泄領域よりも着用時における後方の領域に撥水性シートが配置されている吸収性物品が従来技術として知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
この吸収性物品は、排泄液の吸収性に優れたものであるとともに、排泄液の逆戻りを有効に防止することができる。すなわち、この吸収性物品は、排泄液を吸収体のトップシート側の面(表面)における排泄部位にて吸収させるとともに、その排泄液の一部を吸収体の孔部を通過させて拡散シートに浸透させることにより、この拡散シートを経由させて吸収体の裏面から排泄液を吸収させることができる。このように、排泄液をより広い領域で吸収させることができるため、排泄液の吸収速度が高く、吸収性に優れている。また、この吸収体には、拡散シートよりも上部で、かつ排泄領域よりも着用時における後方の領域に撥水性シートが配置されているため、着用時に体圧がかかりやすく、排泄液が逆戻りしやすい臀部の領域においては、吸収体の表面に排泄液がしみ出すことを制限することができ、排泄液の逆戻りを有効に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−28186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来の吸収性物品では、着用者の排尿部が吸収性物品に接していない場合、排泄された尿が着用者の肌を伝わり拡散し、その結果、後部の撥水性シート上に尿が拡散し、肌が尿で濡れた状態のままになるという問題が生じる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を採用した。
すなわち、本発明は、液透過性のトップシートと、バックシートと、これら両シート間に介在する吸収体と、吸収体およびトップシートの間に配置されたセカンドシートとを含み、前後の長手方向が前ウエスト域と、後ウエスト域と、これらの領域間に位置するクロッチ域とで構成されており、吸収性ポリマーが2枚の液透過性シートに挟持された吸収性シートがトップシートとセカンドシートとの間に存在する長手方向に連なる前ウエスト域、クロッチ域および後ウエスト域を有し、該クロッチ域は着用者の股部にあてがう領域であり、該前ウエスト域は、着用者の股部に対して前側を覆う領域であり、該後ウエスト域は着用者の股部に対して後側を覆う領域である吸収性物品であって、トップシート、バックシート、吸収体は、前ウエスト域、クロッチ域および後ウエスト域にわたって配置され、吸収性シートは、クロッチ域の長手方向の中央から後ウエスト域にわたる領域における、少なくとも後ウエスト域の一部の領域に配置され、吸収性シートが配置されておらず、着用者の排尿部を覆う領域である排尿領域と、吸収性シートが配置され、着用者の臀部を覆う領域である臀部領域とを有し、排尿領域に人工尿を滴下吸収させた場合、臀部領域における人工尿の逆戻り量は、排尿領域における人工尿の逆戻り量の200分の1以下の値であり、臀部領域に人工尿を滴下吸収させた場合の臀部領域における人工尿の逆戻り量は、排尿領域に人工尿を吸収させた場合の排尿領域における人工尿の逆戻り量の0.7以下の値である。また、本発明の他の発明の吸収性物品は、排尿領域から人工尿を滴下吸収させた場合、臀部領域における表面残存水分量は、排尿領域における表面残存水分量の0.8以下の値である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、排泄された尿が着用者の肌を伝わり拡散する場合であっても臀部の肌が尿で濡れた状態のままにならない。すなわち、着用者の肌をさらさらな状態に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、着用者の肌側から見たときの本発明の一実施形態の吸収性物品の平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A断面の概略図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態の吸収性物品の分解図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態の吸収性物品の着用状態を示す図である。
【図5】図5は、着用者の排尿部が吸収性物品に接している場合の、本発明の一実施形態における吸収性物品の排泄された尿の吸収を説明するための図である。
【図6】図6は、着用者の排尿部が吸収性物品に接していない場合の、本発明の一実施形態における吸収性物品の排泄された尿の吸収を説明するための図である。
【図7】図7は、滴下位置および測定位置を説明するための図である。
【図8】図8は、吸収性物品の表面残存水分を測定するための状態量分布測定装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明の一実施形態の吸収性物品を説明する。本発明の一実施形態の吸収性物品は、尿取りパッドである。
図1は、着用者の肌側から見たときの本発明の一実施形態の吸収性物品の平面図であり、図2は、図1のA−A断面の概略図であり、図3は、本発明の一実施形態の吸収性物品の分解図であり、図4は、本発明の一実施形態の吸収性物品の着用状態を示した図である。ここで、図に示されたx軸方向を吸収性物品1の幅方向とし、y軸方向を吸収性物品1の長手方向とする。また、xy方向を吸収性物品1の平面方向とする。
【0010】
図1に示すように、吸収性物品1は、前ウエスト域11と、後ウエスト域12と、前ウエスト域11および後ウエスト域12の間のクロッチ域13とに分けられる。ここで、吸収性物品1の前ウエスト域11側を前側とし、吸収性物品1の後ウエスト域12側を後側とする。図4に示すように、クロッチ域13は、吸収性物品の着用時に着用者100の股部にあてがわれる領域であり、前ウエスト域11は、クロッチ域13に対して前側の領域であり、後ウエスト域12は、クロッチ域13に対して後側の領域である。クロッチ域13では、吸収性物品1の幅方向の長さが小さくなるように側部14が屈曲または湾曲している。ここで、股部とは、着用者が直立したとき、着用者の両大腿部に挟まれる股の領域である。したがって、前ウエスト域11は着用者の腹側を覆い、後ウエスト域12は、着用者の背側を覆うことになる。すなわち、クロッチ域13は着用者の股部にあてがう領域であり、前ウエスト域11は、着用者の股部に対して前側を覆う領域であり、後ウエスト域12は、着用者の股部に対して後側を覆う領域である。また、着用者の排尿部を覆う領域を排尿領域とし、着用者の臀部を覆う領域を臀部領域とする。
【0011】
本発明の一実施形態における吸収性物品1は、透液性のトップシート20と、トップシート20と対向する位置に設けられたバックシート30と、トップシート20およびバックシート30の間に設けられた吸収体40とを含む。トップシート20と吸収体40との間には、セカンドシート50が配置され、トップシート20とセカンドシート50との間には吸収性シート60が配置される。吸収性物品1の幅方向両側には、漏れ防止カフ70が配置されている。以下、吸収性シート60が配置されていない排尿領域を単に排尿領域と呼び、吸収性シート60が配置されている臀部領域を単に臀部領域と呼ぶ。
【0012】
トップシート20は、排泄された尿を透過する液透過性のシートであり、着用者が吸収性物品1を装着したときに、着用者の肌と接触する表面に設けられる。したがって、トップシート20は、肌触りを良好にする機能を有していることが好ましい。たとえば、トップシート20は、細い繊維で作製され、表面が平滑で、変形に対して自由度が大きいことが必要である。トップシート20には、一般に不織布が用いられる。トップシート20に用いられる不織布には、スパンボンド不織布、ポイントボンド不織布、エアスルー不織布などが挙げられる。トップシート20は、前ウエスト域11、クロッチ域13および後ウエスト域12にわたって配置されている。
【0013】
バックシート30は、尿を透過しない液不透過性シートであり、排泄された尿が外に漏れないようにするために設けられている。バックシート30の材料は、排泄された尿を透過しない材料であれば、とくに限定されない。たとえば、防水処理を施した不織布、ポリエチレンなどから構成されるプラスチックフィルム、不織布とプラスチックフィルムとの複合材料などをバックシート30に用いることができる。また、水蒸気がバックシート30を通って発散することによって着用時の吸収性物品1の蒸れを防止するために、バックシート30に通気性フィルムを使用してもよい。なお、おむつの内側に用いる尿取りパッドなどの場合は、バックシートは液不透過性でなくてもよい。バックシート30は、前ウエスト域11、クロッチ域13および後ウエスト域12にわたって配置されている。
【0014】
吸収体40は排泄された尿を吸収し保持する機能を有する。吸収体40には、たとえば、フラッフ状パルプやエアレイド不織布と高吸収性ポリマー(Super Absorbent Polymer:SAP)とからなる吸収体が挙げられる。また、吸収体40には、フラッフ状パルプの代わりに、たとえば、化学パルプ、セルロース繊維、レーヨン、アセテートなどの人工セルロース繊維、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維(複合繊維も含む)を用いた繊維ネットワーク吸収体、ポリウレタン等のフォーム材を用いた発泡吸収体などが挙げられる。
【0015】
吸収体40は、バックシート30の略相似形であり、吸収体40の大きさはバックシート30に比べて小さい。吸収体40は、前ウエスト域11、クロッチ域13および後ウエスト域12にわたって配置されている。吸収体40は、貫通部41と圧搾溝42とを有する。貫通部41は、吸収体40を厚さ方向に貫通する穴であり、貫通部41は、吸収体40の幅方向の中央の位置で、前ウエスト域11からクロッチ域13にかけて長さ方向に延びている。しかし、吸収体40の貫通部41は、吸収体40の吸収性シート60が配置されている領域内まで、長手方向に延びていない。圧搾溝42は、貫通部41の両脇に並べて配置され、前ウエスト域11からクロッチ域13にかけて長さ方向に延び、吸収体40のトップシート側の面から凹んでいる溝である。圧搾溝42の長手方向の長さは、貫通部41の長手方向の長さに比べて短い。吸収体40のトップシート20側の面からバックシート30側の面へ吸収体40を加熱・加圧することによって、圧搾溝42は形成される。吸収体40は、ホットメルト接着剤(Hot Melt Adhesive:HMA)81によりバックシート30と接着している。吸収体40は、バックシート30の略相似形にせず、矩形、長円形などに換えることもできる。
【0016】
なお、貫通部41の代わりに、吸収体40のトップシート20側の面から凹んで、吸収体40が薄くなっている溝部を設けてもよい。また、2つ以上の吸収体を吸収性物品に配置してもよい。たとえば、吸収体40の代わりに、2つの吸収体を厚さ方向に重ねたものを吸収性物品に配置してもよい。また、この場合、2つの吸収体のうち、セカンドシート側の吸収体のみに、またはトップシート20側の吸収体のみに貫通部または溝部を設けるようにしてもよい。さらに、吸収体の貫通部または溝部は、吸収体の吸収性シート60が配置されている領域内まで、長手方向に延びるようにしてもよい。これにより、排泄された尿が、吸収性シート60の下側に早く移動できるので、吸収体40に吸収された尿のより多くが、吸収性シート60によって着用者の肌側に到達しにくくなる。
【0017】
セカンドシート50は、トップシート20の一部の領域から浸透してきた尿を平面方向に拡散させるためのシートである。これにより、吸収体40は、トップシート20の一部の領域から浸透してきた尿を、吸収体40のトップシート20側の面の広い領域で吸収することができる。セカンドシート50は、前ウエスト域11、クロッチ域13および後ウエスト域12にわたって配置されている。
【0018】
セカンドシート50には、ティッシュ、ポイントボンド不織布、レーヨン入りのスパンレース不織布など、液拡散性の高い不織布が好ましくは用いられる。とくにセカンドシート50の液拡散性は、トップシート20の液拡散性よりも高いことが好ましい。たとえば、トップシート20にスパンボンド不織布を用いた場合、スパンボンド不織布よりも液拡散性の高いティッシュ、ポイントボンド不織布、スパンレース不織布(とくにレーヨン入り)またはそれらを組み合わせたものをセカンドシート50に用いることが好ましい。
【0019】
シートの液拡散性は、たとえば、JIS P8141「紙及び板紙−吸水度試験方法−クレム法」に準拠して測定したシートのクレム吸水度で評価することができる。クレム吸水度とは、試験片の下端を鉛直に水の中に浸漬し、毛管現象によって、10分間に水が上昇した高さであり、シートのクレム吸水度が高いほど、シートの拡散性は高い。たとえば、目付が15g/m2のティッシュでは、クレム吸水度が28mmであり、目付が38g/m2のスパンレース不織布(レーヨン入り)では、クレム吸水度が118mmであり、目付が23g/m2のポイントボンド不織布では、クレム吸水度が36mmであり、目付が25g/m2のエアスルー不織布では、クレム吸水度が3mmであり、目付が20g/m2のスパンボンド不織布では、クレム吸水度が2mmであった。したがって、上記不織布の中で、セカンドシート50に用いるシートとして、クレム吸水度がもっとも高いスパンレース不織布(レーヨン入り)がもっとも好ましく、クレム吸水度が高いティッシュおよびポイントボンド不織布も好ましい。しかし、セカンドシート50に用いるシートとして、クレム吸水度が低いエアスルー不織布およびスパンボンド不織布は好ましくない。クレム吸水度は、一般に不織布の密度が高いほど高くなり、レーヨンなどの吸水性繊維を含むとさらに高くなる。
【0020】
吸収性シート60は、吸収性ポリマー61を2枚の液透過性シート62,63で挟持した複合シートである。液透過性シート62,63には、たとえば不織布が用いられる。なお、吸収性ポリマーを3枚以上の液透過性シートで挟持した吸収性シートを作製してもよい。吸収性ポリマーは、水を吸収するポリマーであり、たとえば、水溶性高分子が適度に架橋された三次元網目構造を有する吸収性高分子ポリマーである。このような吸収性高分子ポリマーは、水を吸収する前の体積の数百倍〜千倍の水を吸収するが本質的に水不溶性であり、一旦吸収された水は多少の圧力を加えても離水しない。吸収性ポリマーには、たとえば、デンプン系、アクリル酸系、アミノ酸系の粒子状または繊維状のポリマーが挙げられる。吸収性ポリマー61を2枚の液透過性シート62,63で挟持した後、2枚の液透過性シート62,63を接合することで、吸収性シート60は作製される。したがって、吸収性ポリマー61を2枚の液透過性シート62,63で挟持した後、吸収性ポリマーがこぼれてしまうのを防ぐために吸収性ポリマーの粒径は、液透過性シート62,63の繊維間隙に比べて細かくない方が好ましい。液透過性シート62,63には、たとえば、スパンボンド不織布、ポイントボンド不織布、エアスルー不織布、SMS(Spun bond-Melt blown- Spun bond)不織布などを用いることができる。液透過性シート62,63は、尿に対して透過性を有することが必要であるので、親水化処理がなされていることが好ましい。
【0021】
液透過性シート62,63の吸収性ポリマー61を挟持する面には、長手方向に延び、幅方向に複数並ぶ接着部82、83が設けられている。液透過性シート62,63の吸収性ポリマー61を挟持する面には、長手方向に延び、幅方向に複数並ぶ接着部82、83が設けられている。なお、液透過性シート62,63のうちの一方の液透過性シート62,63の吸収性ポリマー61を挟持する面に接着部82、83を設けてもよい。接着部82、83は、たとえば、ホットメルト接着剤を筋状に塗工することによって形成される。これにより、吸収性ポリマー61は、液透過性シート62,63に固定される。接着部82、83が長手方向に延び、幅方向に複数並ぶのは、すなわち、接着部82、83が筋状であるのは、接着部82、83における尿の透過性はよくないため、接着部82、83の存在しない領域を設けるためである。したがって、接着部の存在しない領域を設けることができる塗工方法であれば、すなわち、接着部を間欠的に配置できる塗工方法であれば、筋状塗工方法に限定されず、オメガ塗工などの非接触塗工方法でもよい。接着部82,83は、後述の吸収性ポリマー存在領域64に間欠的に設けられているので、吸収性ポリマー61が吸収性ポリマー存在領域64の中で偏るのを防止することができる。セカンドシート50側の液透過性シート63に設けられた接着部83の隣接する接着部同士の間の接着部間距離は、トップシート20側の液透過性シート62に設けられた接着部82の接着部間距離に比べて小さい。これにより、吸収性ポリマー61が、セカンドシート50側の液透過性シート63に均等に固定される。
【0022】
吸収性シート60は、クロッチ域13の長手方向の中央から後ウエスト域12にわたる、少なくとも後ウエスト域12の一部の領域に配置されることが好ましい。これにより、着用者の排尿部が吸収性物品1に接している場合は、吸収性シート60を透過せずに排出された尿を吸収体40に直接吸収させることができ、着用者の排尿部が吸収性物品1に接していない場合に、吸収性シート60に尿を吸収させることができる。
【0023】
吸収性シート60では、吸収性ポリマー61は、複数の領域64(以下、吸収性ポリマー存在領域と呼ぶ)に分けて配置され、それぞれの吸収性ポリマー存在領域64の間に吸収性ポリマー61が配置されていない領域(以下、吸収性ポリマー非存在領域と呼ぶ)65を設けられている。これにより、吸収性ポリマー存在領域64の吸収性ポリマー61が尿を吸収して膨潤しきってしまい、尿をさらに吸収できなくなった場合でも、尿は吸収性ポリマー非存在領域65を通過して、吸収体40に吸収される。
【0024】
吸収性ポリマー存在領域64における幅方向の中央の部分は、吸収性ポリマー存在領域64における、幅方向の中央の部分に対して幅方向外側にあるそれぞれの部分に比べて、後側に存在する。これにより、着用者の排尿部が吸収性物品1に接している場合は、排出された尿が、吸収性ポリマー存在領域64の吸収性ポリマー61に吸収されないで、吸収体40に直接吸収させることができ、着用者の排尿部が吸収性物品1に接していない場合に、吸収性ポリマー存在領域64の吸収性ポリマー61に尿を吸収させることができる。
【0025】
吸収性ポリマー存在領域64の平面方向の形状は、吸収性物品1の長手方向で前ウエスト域11から後ウエスト域12への方向に凸であり、かつ吸収性物品1の幅方向に延びる略V字形状である。すなわち、吸収性ポリマー存在領域64の平面方向の形状は、吸収性物品1の長手方向で前ウエスト域11から後ウエスト域12への方向に頂点が向いた略V字形状である。ただし、前ウエスト域11からもっとも離れている吸収性ポリマー存在領域64は、略V字形状において幅方向の中央を切り欠いて2つの領域に分けられることによって形成される形状である。吸収性ポリマー存在領域64の略V字形状は、着用者の臀部に沿った形状であるので、吸収性ポリマー存在領域64は着用者の臀部にフィットし、着用者と吸収性物品1との間の隙間が生じにくくなる。なお、吸収性ポリマー非存在領域が存在すれば、吸収性ポリマー存在領域の形状は略V字形状に限定されない。たとえば、吸収性ポリマー存在領域の形状は、円弧形状、円形、矩形形状、三角形などでもよい。
【0026】
上述したように、吸収性ポリマー61を2枚の液透過性シート62,63で挟持した後、2枚の液透過性シート62,63を接合することで吸収性シート60は作製される。したがって、2枚の液透過性シート62,63の間に吸収性ポリマー61が挟持されている領域が吸収性ポリマー存在領域64であり、2枚の液透過性シート62,63の間に吸収性ポリマー61が挟持されておらず、2枚の液透過性シート62,63同士が接合されている領域が吸収性ポリマー非存在領域65である。この2枚の液透過性シート62,63同士の接合には吸収性ポリマー61の膨潤による膨張力に耐えうる強度が必要である。そうしないと、吸収性ポリマー61の膨潤によって、2枚の液透過性シート62,63同士がはがれて2枚の液透過性シート62,63の間に隙間が生じ、その隙間に吸収性ポリマー61が入り込んで、吸収性ポリマー非存在領域65がなくなってしまう場合がある。この液透過性シート62,63同士の接合には、ヒートシール、ソニックシール、接着剤などを用いることができる。
【0027】
ヒートシールによって液透過性シート62,63同士を接合する場合、ヒートシールの幅方向の線圧が一定になるほど、全体に均一なシール強度になる。このため、ヒートシールの幅方向の線圧は一定であることが好ましい。ヒートシールの幅方向の線圧を均一にするためには、シールされる領域の幅方向の長さの合計を一定にする必要がある。たとえば、上述のように、吸収性ポリマー存在領域64を略V字形状または略円弧形状にし、長手方向に並べることによって吸収性ポリマー非存在領域65の幅方向の長さの合計をほぼ一定にすることができる。接着剤を用いて液透過性シート62,63同士を接合させる場合、吸収性ポリマー61が膨潤しているとき液透過性シート62,63は、湿潤状態であるので、接着剤は、湿潤時においても強度を発揮するタイプが好ましい。
【0028】
吸収性ポリマー61は、尿を吸収すると膨潤するので、吸収性ポリマー存在領域64では、吸収性ポリマー61は、2枚の液透過性シート62,63の間に、吸収性ポリマー61が十分に膨潤できるだけの容積を確保していることが望ましい。2枚の液透過性シート62,63の間に、吸収性ポリマー61を稠密に詰め込み過ぎてしまうと、吸収性ポリマー61が完全には膨潤できないため、吸収性ポリマー61の吸収能を十分に利用できない場合がある。
【0029】
吸収性シート60における吸収性ポリマー存在領域64の数を多くすると、吸収性ポリマー非存在領域65の面積は増えるが、吸収性シート60における吸収性ポリマー61の合計量容積が少なくなるので、吸収性シート60が尿を吸収できる量が小さくなる。一方、吸収性シート60における吸収性ポリマー存在領域64の数を少なくすると、吸収性シート60における吸収性ポリマー61の合計量容積量が多くなり、吸収性シート60が尿を吸収できる量が大きくなるが、吸収性ポリマー非存在領域65の面積は小さくなり、吸収性ポリマーが膨潤したあと、尿が吸収性シート60を透過して吸収体40に吸収されることが起こらなくなってしまう場合がある。したがって、吸収性シート60が吸収できる尿の量と、吸収性ポリマー61が膨潤した後の吸収性シート60の尿の透過性との間のバランスを考慮して、さらに吸収性ポリマー61の種類および投入量からくる膨潤後の容積を考慮して、吸収性ポリマー存在領域64の数を選択する必要がある。たとえば、180mm×130mmの大きさの吸収性シートの場合、1g当たり生理食塩水を60g吸収する吸収性ポリマー2gを、5つの吸収性ポリマー存在領域に分けて配置することによって、尿の吸収性と、吸収性ポリマーが膨潤した後の尿透過性との間のバランスが良好な吸収性シートを得ることができる。
【0030】
漏れ防止カフ70は、排泄された尿が吸収性物品1の幅方向の位置から外部へ漏れるのを防止する。吸収性物品1の幅方向両側部には、長手方向に延びる漏れ防止カフ70が配置されている。漏れ防止カフ70には、SMS不織布などの疎水性の不織布が用いられる。SMS不織布に代えて、防水フィルムなどの防漏性材料を用いることもできる。漏れ防止カフ70は、吸収性物品1の幅方向側部においてトップシート20またはバックシート30と接着剤を用いて接合され、基端部74と、自由端部75とを有する。基端部74は、吸収性物品1の幅方向側部と接合している。接着剤に換えて、ヒートシールで固定することもできる。また、基端部74は、吸収性物品1の側縁やバックシート表面に位置させることもできる。自由端部75は、基端部74に対して、吸収性物品1の幅方向の内側に位置している。漏れ防止カフ70の自由端部75の近傍には、長手方向に延びるとともに伸長状態で取り付けられた弾性体72が設けられている。また、漏れ防止カフ70の長手方向の端側の領域73が、トップシート20と、接着剤を用いて接合されている。弾性体72の収縮力が発現すると、漏れ防止カフ70の長手方向の端側の領域73を除く漏れ防止カフ70の自由端部75が、トップシート20から起立して、排泄された尿が吸収性物品1の幅方向の位置から漏れるのを防止する。漏れ防止カフ70は、吸収性物品1の全長にわたって配置されている必要はなく、少なくともクロッチ域13から後ウエスト域12にわたって配置されていればよい。
【0031】
図1に示したように、弾性体72が収縮していない状態、すなわち漏れ防止カフ70を伸長させた状態では、吸収性シート60のそれぞれの幅方向縁部66は、漏れ防止カフ70のそれぞれの自由端部75よりも幅方向外側にある。着用者が吸収性物品1を装着すると、漏れ防止カフ70はトップシート20上に倒れるので、吸収性シート60の幅方向の両縁部66の幅方向外側は漏れ防止カフ70に覆われる。液透過性が低い漏れ防止カフ70があるので、吸収体40から尿がしみ出してきたとしても、肌に接するのを防ぐことができる。吸収性シート60と漏れ防止カフ70とが重なっている領域では、吸収性シート60から尿が染み出してきたとしても、漏れ防止カフ70が肌に接するのを防ぐことができる。とくに、漏れ防止カフ70の長手方向の端側の領域73では、漏れ防止カフ70はトップシート20またはバックシート30と、接着剤を用いて接着されているので、吸収性シート60の両縁部66と漏れ防止カフ70とが確実に重なるように固定できる。また、これにより、後述の吸収性シート60の体圧によって吸収体40からしみ出した尿が着用者の肌に届かないようにする効果および着用者の肌を伝わって拡散した尿を吸収する効果が大きくなる。
【0032】
次に図を参照して、本発明の一実施形態における吸収性物品1の排泄された尿の吸収について説明する。
【0033】
着用者の排尿部が吸収性物品1に接している場合、図5に示すように、排泄された尿は、排尿領域からトップシート20およびセカンドシート50を通過し(矢印210)、吸収体40に到達する。吸収体40に到達した尿は吸収体40のセカンドシート50側の面から吸収される。吸収体40の貫通部41に到達した一部の尿(矢印210)は、貫通部41の側壁から吸収され(矢印220)、吸収体40の圧搾溝42に到達した一部の尿は、圧搾溝42の側壁から吸収される。貫通部41および/または圧搾溝42を吸収体40に設けることによって、排泄された尿が長手方向へ移動しやすくなるので、排泄された尿の吸収体40への拡散が速くなる。また、排泄された尿の一部は、トップシート20を通過した後、セカンドシート50内を拡散し(矢印230)、吸収体40に吸収される。排泄された尿がセカンドシート50を拡散することによって、排泄された尿は吸収体40のセカンドシート50側の面に大きく広がる。これにより排泄された尿を吸収する、吸収体40の面の面積が増えるので、排泄された尿の吸収体40への拡散が速くなる。
【0034】
セカンドシート50は、吸収性シート60の着用者側の反対側に配置されているので、セカンドシート50を拡散した尿は、吸収性シート60によって着用者の肌側に到達しにくくなる。なぜならば、着用者が仰向けに寝て、着用者の臀部から吸収性物品1の後ウエスト域12に体圧が加えられた場合、吸収体40に吸収された尿はしみ出すが、しみ出した尿は吸収性シート60によって着用者の肌側に到達しにくくなるからである。一方、クロッチ域13における吸収性シート60が配置されていない領域および前ウエスト域11では、吸収性物品1に対して圧力が加えられることがあまりないので、セカンドシート50に拡散した尿が着用者の肌に到達したり、吸収体40に吸収された尿が吸収体40からしみ出したりすることは少ない。したがって、尿が排泄された後も着用者の臀部付近の肌はサラッとしており、排泄された尿による着用者の肌のかぶれを抑制することができる。
【0035】
着用者の排尿部が吸収性物品1に接していない場合、たとえば、着用者が仰向けに寝ている場合、図6に示すように、排泄された尿は、着用者の肌を伝わって、臀部領域のトップシート20に到達する(矢印240)。トップシート20に到達した尿は、吸収性シート60によって吸収される。また、上述したように、吸収性ポリマーは一旦吸収された水は多少の圧力を加えても離水しない性質を有するので、着用者が仰向けに寝て、着用者の臀部から吸収性物品1の後ウエスト域12に体圧が加えられた場合でも、吸収性シート60に吸収された尿は体圧によって吸収性シート60からしみ出すことは少ない。したがって、尿が排泄された後も着用者の肌はサラッとしており、排泄された尿による着用者の肌のかぶれを抑制することができる。とくに、着用者の排尿部が吸収性物品1に接していない状態が継続する着用者の場合、たとえば、着用者が寝たきりの状態である場合、着用者の排尿部が吸収性物品1に接していない状態で尿は排出され、また、着用者の臀部から吸収性物品1の後ウエスト域12に体圧が常に加えられているため、吸収性物品1は好適である。
【0036】
着用者の排尿部が吸収性物品1に接しているときに排泄された尿が吸収体40に吸収された場合に、吸収体40から尿がしみ出して着用者の肌に達することが少ないことは、逆戻り量試験および表面残存水分試験によって確認することができる。また、着用者の排尿部が吸収性物品1に接していないときに排出された尿が吸収体40に吸収された場合に、吸収体40から尿がしみ出して着用者の肌に達することが少ないことは、逆戻り量試験によって確認することができる。逆戻り量試験および表面残存水分試験の試験方法の詳細は、後述の実施例で説明する。
【0037】
たとえば、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体40に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の人工尿の逆戻り量が、排尿領域における人工尿の逆戻り量の200分の1以下の値である場合、着用者の排尿部が吸収性物品1に接しているときに排泄された尿が吸収体40に吸収された後、吸収体40から尿がしみ出して着用者の肌に達することが少ないことになる。より好ましくは、300分の1以下、さらに600分の1以下であることが好ましい。すなわち、尿が排泄された後も臀部領域における尿の逆戻りが少なく、着用者の肌はサラッとしていることになる。とくに、排尿領域に人工尿を400ml滴下して吸収体40に人工尿を吸収させた場合、臀部領域における人工尿の逆戻り量は0.3g以下であることが好ましい。
【0038】
また、臀部領域に人工尿を滴下して吸収体40に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の人工尿の逆戻り量が、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体40に人工尿を吸収させた場合の排尿領域における人工尿の逆戻り量の0.7以下の値である場合、着用者の排尿部が吸収性物品1に接していないときに排泄された尿が吸収体40に吸収された後、吸収体40から尿がしみ出して着用者の肌に達することが少ないことになる。すなわち、尿が排泄された後も着用者の肌はサラッとしていることになる。臀部領域に人工尿を滴下して吸収体40に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の人工尿の逆戻り量が、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体40に人工尿を吸収させた場合の排尿領域における人工尿の逆戻り量の0.6以下、または0.5以下、または0.4以下の値であることがより好ましい。
【0039】
排尿領域に人工尿を滴下して吸収体40に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の表面残存水分量が、排尿領域における表面残存水分量の0.8以下の値である場合、着用者の排尿部が吸収性物品1に接しているときに排泄された尿が吸収体40に吸収された後、吸収体40から尿がしみ出して着用者の肌に達することが少ないことになる。すなわち、尿が排泄された後も着用者の肌はサラッとしていることになる。より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。とくに、排尿領域に人工尿を400ml滴下して吸収体40に人工尿を吸収させた場合、臀部領域におけるトップシート表面の水分率は約50質量%以下であることが好ましく、約40質量%以下であることがより好ましく、約30質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明は尿取りパッドに限定されない。本発明は、たとえば、使い捨ておむつ、排泄トレーニングパンツ、失禁ブリーフなどの吸収性物品であってもよい。
【0041】
実施形態と変形例の一つ、もしくは複数を組み合わせることも可能である。変形例同士をどのように組み合わせることも可能である。
【0042】
以上の説明はあくまで一例であり、発明は、上述の実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、下記の実施例は本発明を限定するものではない。
【0044】
例1:逆戻り量試験
着用者の排尿部が吸収性物品に接している場合および着用者の排尿部が吸収性物品に接していない場合において、排泄された尿が吸収性物品からしみ出して、着用者の臀部が濡れてしまう(リウエット)ことがないことを、以下の試料および試験方法で確認した。
【0045】
試料
以下の構成要素を有する吸収性物品を用いて、逆戻り量試験を行った。
トップシート:目付が20g/m2の親水性のスパンボンド不織布。
吸収性シート:2gの吸収性ポリマーを目付が25g/m2の親水性のエアスルー不織布ではさんで接合したもの。
セカンドシート:目付が15g/m2のティッシュ。
(1)保水量が660gの吸収体の場合
吸収体:目付が278g/m2のパルプと目付が107g/m2の吸収性ポリマーとを有する上層吸収体を目付が214g/m2のパルプと目付が80g/m2の吸収性ポリマーとを有する下層吸収体の上に重ねたもの。
(2)保水量が450gの吸収体の場合
吸収体:目付が220g/m2のパルプと目付が82g/m2の吸収性ポリマーとを有する上層吸収体を目付が180g/m2のパルプと目付が33g/m2の吸収性ポリマーとを有する下層吸収体の上に重ねたもの。
【0046】
試験方法
(1)円筒(直径60mm、重さ550g)を吸収性物品の人口尿の滴下位置に置き、円筒のほぼ中央部、吸収性物品の上方10mmから人工尿80mlを150ml/15secの速度でビュレットから滴下する。これを5分ごとに5回行う。したがって、400mlの人工尿が滴下されることになる。人工尿とは、イオン交換水10リットルに、尿素200g、塩化ナトリウム80g、硫酸マグネシウム80g、塩化カルシウム8gおよび色素:青色1号約1gを溶解させた水溶液である。なお、400mlは、一般に高齢者が3〜4回排泄したときの尿の量である。
(2)400mlの人工尿を投入してから5分経過後、測定位置に70gろ紙(100mm×100mm)を載せ、その上に底面の大きさが100mm×100mmである3.5kgの重りを載せ、吸収性物品からしみ出る人工尿をろ紙に吸収させる。
(3)3分間放置の後、ろ紙の重さを測定する。そして、人工尿を吸収させたろ紙の重さから人工尿を吸収させる前のろ紙の重さを引き算した値が逆戻り量となる。今回の試料は保水量が450g、660gの吸収体を用い、人口尿の量を400mlとしたが、吸収体のパルプまたは吸収性ポリマーの目付が低いか、吸収体の大きさが小さいなどで、保水量が少ない場合には、人口尿の量を保水量の50質量%から90質量%の範囲で調整して測定を行うことができる。
【0047】
滴下位置
図7に示すように、排尿領域内の位置310、たとえば、吸収性物品1の長手方向における前ウエスト域11側の端から吸収性物品1の長手方向の長さの39%の距離の位置、および臀部領域内の位置340、たとえば、吸収性物品1の長手方向における前ウエスト域11側の端から、吸収性物品1の長手方向の長さの60%の距離の位置に人工尿を滴下した。なお、排尿領域内であれば、人工尿を滴下する位置は、位置310および吸収性物品1の長手方向における前ウエスト域11側の端から吸収性物品1の長手方向の長さの39%の距離の位置に限定されない。また、臀部領域内であれば、人工尿を滴下する位置は、位置340および吸収性物品1の長手方向における前ウエスト域11側の端から、吸収性物品1の長手方向の長さの60%の距離の位置に限定されない。
【0048】
測定位置
図7に示すように、滴下位置310,340を中心とした所定の領域320,330を測定位置とした。なお、排尿領域内であれば、測定位置は領域320に限定されず、臀部領域内であれば、測定する位置は領域330に限定されない。
【0049】
結果
結果を表1に示す。
【表1】

【0050】
(1)保水量が660gの吸収体の場合
(i)滴下位置と測定位置がともに排尿領域である場合(図7(a)参照)の逆戻り量の平均値は60.9gであった。
(ii)滴下位置が排尿領域であり、測定位置が臀部領域である場合(図7(b)参照)の逆戻り量の平均値は0.1gであった。
(ii)滴下位置と測定位置がともに臀部領域である場合(図7(c)参照)の逆戻り量の平均値は21.4gであった。
したがって、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の人工尿の逆戻り量の平均値は、排尿領域における人工尿の逆戻り量の平均値の609分の1以下であり、上記臀部領域の人工尿の逆戻り量の最大値は、排尿領域における人工尿の逆戻り量の最小値の195分の1以下であった。また、臀部領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の人工尿の逆戻り量の平均値は、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合の排尿領域における人工尿の逆戻り量の平均値の0.35(2.85分の1)であり、臀部領域の人工尿の逆戻り量の最大値は、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合の排尿領域における人工尿の逆戻り量の最小値の0.50(2.01分の1)であった。
(2)保水量が450gの吸収体の場合
(i)滴下位置が排尿領域であり、測定位置が排尿領域である場合(図7(a)参照)の逆戻り量の平均値は72.0gであった。
(ii)滴下位置が排尿領域であり、測定位置が臀部領域である場合(図7(b)参照)の逆戻り量の平均値は0.2gであった。
(ii)滴下位置が臀部領域であり、測定位置が臀部領域である場合(図7(c)参照)の逆戻り量の平均値は35.9gであった。
したがって、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の人工尿の逆戻り量の平均値は、排尿領域における人工尿の逆戻り量の平均値の360分の1以下であり、臀部領域の人工尿の逆戻り量の最大値は、排尿領域における人工尿の逆戻り量の最小値の218分の1以下であった。また、臀部領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の人工尿の逆戻り量の平均値は、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合の排尿領域における人工尿の逆戻り量の平均値の0.50(2.01分の1)であり、臀部領域の人工尿の逆戻り量の最大値は、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合の排尿領域における人工尿の逆戻り量の最小値の0.62(1.61分の1)であった。
【0051】
例2:表面残存水分試験
着用時に近似した状態において、着用者の排尿部が吸収性物品に接している場合、排泄された尿が吸収性物品からしみ出して、着用者の臀部が湿っている状態にならないことを、以下の試料および試験方法で確認した。
【0052】
試験方法
図8を参照して、状態量分布測定装置による表面残存水分の測定方法を説明する。図8は、吸収性物品の表面残存水分を測定するための状態量分布測定装置400を示す図である。状態量分布測定装置400は、試料の状態量を測定するセンサ402と、吸収性物品から成る、測定すべき試料を載せる試料台であって、上記試料をその上に置くための凸面を有する試料台403と、上記センサの、上記試料に対する接触圧がほぼ一定になるようにセンサを支持する支持機構405と、上記センサが上記試料に対して相対的に移動するようにセンサおよび試料の少なくとも一方を移動させる移動機構406と、移動機構を制御することにより、センサを試料に対して相対的に移動させながら、センサにより、複数箇所において試料の状態量を測定し、そしてそれにより試料の状態量分布を測定する測定機構409とを具備する。
【0053】
センサ402は、静電容量式の水分センサである。また、試料台403は、正円柱を、中心軸線を通る面で切断することにより形成された半正円柱型を有する。さらに、支持機構405は、おもり408の位置により試料4に加えられる荷重を調節することができる天秤であり、図8にBで示される鉛直方向(以下、「方向B」と称する場合がある)に一定の荷重を加えることができる。
【0054】
移動機構406は、試料台403を、正円柱の中心軸線の回りの方向Cに沿って回転させ、かつ試料台403を、正円柱の中心軸線と平行、すなわち、図8では、手前から奥の方向に往復運動させることができる。移動機構406が、試料台403を方向Cに回転させ、さらに試料台403を手前から奥の方向に往復運動させることにより、試料の状態量分布を評価することができる。
【0055】
センサ402は、支持機構405を介して、そして移動機構6は直接、測定機構9に接続されている。試料404は、試料台3の上にセットされ、そして絶縁フィルム407が、センサ402と試料404との間に配置され、そして試料404を覆っている。
【0056】
試料404の表面残存水分率の分布を測定する手順は、以下の通りである。まず、図8に示される状態量分布測定装置1を準備する。次に、試料台403の凸面に、試料404を載せ、試料404の上に、絶縁フィルム407を置き、そして絶縁フィルム407を間に挟んで、試料404の上に、センサ402を置く。次いで、測定機構409を操作して移動機構406を制御し、試料台403を、試料台403の正円柱の中心軸線の回りのC方向に回転させるとともに、試料台403を、手前から奥方向に移動させる。それに伴って、センサ402に、複数箇所における試料404の水分率を測定させる。それらを組み合わせることにより、試料404の水分率の分布を測定する。
【0057】
上記で説明した状態量分布測定装置の測定例を以下に説明する。なお、センサ402によって数値化される電圧(V)は以下の指標で水分率に変換した。
【0058】
シルコット(商標)(ユニ・チャーム(株)製)に、一定量の水分を含ませて、異なる水分率を有する、指標1〜6の標準試料を作製した。次いで、上記標準試料を、20℃で1日間、密封状態で静置した。
【0059】
図8に示される水分量測定装置を準備し、指標1〜6の標準試料を水分量測定装置の試料台に載せ、それらの水分率を測定した。
【0060】
結果を、以下表2に示す。
【表2】

【0061】
上記データから、最小二乗法により、原点を通る検量線を作成したところ、水分率yと、電圧xとの間には、y=32.7x という関係式が得られた。
【0062】
試料
逆戻り量試験に用いた保水量660gの吸収体の場合の試料と同様の構成要素を有する吸収性物品を用いて、表面残存水分試験を行った。
【0063】
試験方法
(1)吸収性物品のクロッチ域の肌非当接側を下方に向けて、下方側が凸になるように吸収性物品をR=110°の角度でU字型に湾曲させる。U字型に湾曲させて測定するのは、実際に着用したときの状態に近づけて測定するためで、排尿領域での尿滴下でも、吸収性物品の表面を後ウエスト域の方向に流れてから吸収される尿が生じる状態となっている。
(2)上述の人工尿80mlを150ml/15secの速度でビュレットから滴下する。これを5分ごとに5回行う。したがって、400mlの人工尿が滴下されることになる。
(3)400mlの人工尿を投入してから5分経過後、吸収性物品を平面上に広げた状態で、2100g(60mm×100mm:35g/cm2)の重りを載せ、30秒間加圧する。
(4)重りをはずした後、状態量分布測定装置を用いて測定位置における水分率を測定する。
【0064】
滴下位置
図7に示すように、排尿領域内の位置310、たとえば、吸収性物品1の長手方向における前ウエスト域11側の端から吸収性物品1の長手方向の長さの39%の距離の位置、および臀部領域内の位置340、たとえば、吸収性物品1の長手方向における前ウエスト域11側の端から、吸収性物品1の長手方向の長さの60%の距離の位置に人工尿を滴下した。人工尿を滴下した位置310は排尿領域を想定したものであり、人工尿を滴下した位置340は臀部領域を想定した位置である。
【0065】
測定位置
上述の逆戻り量試験と同じように、図7に示す滴下位置310,340を中心とした所定の領域320,330を測定位置とした。55mmずつ試料台403をスライドさせながら、領域内の15点を測定し、15点の測定結果の平均値をトップシート表面の水分率とした。
【0066】
結果を表3に示す。
【表3】

(i)滴下位置が排尿領域であり、測定位置が排尿領域である場合(図7(a)参照)の水分率は62.1質量%であった。
(ii)滴下位置が排尿領域であり、測定位置が臀部領域である場合(図7(b)参照)の水分率は49.7質量%であった。
したがって、排尿領域に人工尿を滴下して吸収体に人工尿を吸収させた場合、臀部領域の水分率は、排尿領域における水分率の0.8(1.25分の1)であった。
【0067】
例3:角層水分量試験
以上の戻り量試験および表面残存水分試験の結果より以下のことが分かった。
(i)着用者の臀部を覆う吸収性物品の領域で吸収された尿が、着用者の体圧がかかって着用者の肌に逆戻りしようとしても、吸収性シートの吸収性ポリマーが尿を吸収し逆戻り量を低減することができる。
(ii)吸収性シートを搭載している後ウエスト側のトップシート上の水分は、吸収性シートが吸収するため、低減する。
(iii)排泄された尿が着用者の肌を伝わり、吸収性シート上に拡散しても、吸収性シートが尿を吸収する。
このような効果を有する本発明の一実施形態における吸収性物品が着用者の角層水分量を実際に優位に低減することができるか否かを確認するため、角層水分量試験を行った。
【0068】
試料
逆戻り量試験に用いた試料と同様の構成要素を有する吸収性物品を用いて、保水量450gの吸収体の場合の角層水分量試験を行った。
【0069】
試験方法
40名の女性に上述の吸収性物品を4週間使用してもらい、使用を開始してから4週間後の着用者の角層水分量を評価した。また、比較のために40名の女性に従来の吸収性物品(ユニ・チャーム社製:ライフリー座位安心尿取りパッド)を4週間使用してもらい、使用を開始してから4週間後の着用者の角層水分量を評価した。角層水分量はインピーダンスメーターskikon−200(IBS社製)を用いて皮膚インピーダンスを測定することによって相対的に評価した。測定は着用者の臀部における尾骨および仙骨の部分および背中について行った。
【0070】
結果
本発明の一実施形態における吸収性物品を使用した場合の尾骨部分における角層水分量の平均値は141μSであり、仙骨部分における角層水分量の平均値は119μSであり、背中における角層水分量の平均値は26μSであった。一方、従来の吸収性物品を使用した場合の尾骨部分における角層水分量の平均値は212μSであり、仙骨部分における角層水分量の平均値は234μSであり、背中における角層水分量の平均値は33μSであった。これより、本発明の一実施形態における吸収性物品を着用することによって、角層水分量を低減でき、臀部の過度な湿潤状態を改善できることが分かった。また、吸収性物品を着用しない場合の臀部の角層水分量は、一般に80〜100μSであるので、本発明の一実施形態における吸収性物品を着用することによって、吸収性物品を着用しても吸収性物品を着用しない場合の臀部の角層水分量とほぼ同じ角層水分量に着用者の臀部の各水分量を維持できることが分かった。
【0071】
一般に臀部の肌の角層水分量が多すぎると湿潤状態によって皮膚表面がふやけてしまい、雑菌、便中の消化酵素および摩擦・圧迫の物理的刺激などによって、肌に炎症が発生する場合がある。しかし、本発明の一実施形態における吸収性物品を使用することによって、臀部の肌の角層水分量が多すぎる状態になるのを防止することができ、雑菌、便中の消化酵素および摩擦・圧迫の物理的刺激などによって、肌に炎症が発生するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 吸収性物
20 トップシート
30 バックシート
40 吸収体
41 貫通部
42 圧搾溝
50 セカンドシート
60 吸収性シート
61 吸収性ポリマー
62,63 液透過性シート
64 吸収性ポリマー存在領域
65 吸収性ポリマー非存在領域
66 縁部
70 漏れ防止カフ
71 縁部
72 弾性体
400 状態量分布測定装置
402 センサ
403 試料台
405 支持機構
406 移動機構
409 測定機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性のトップシートと、バックシートと、これら両シート間に介在する吸収体とを含み、前後の長手方向が前ウエスト域と、後ウエスト域と、これらの領域間に位置するクロッチ域とで構成されており、吸収性ポリマーが2枚の液透過性シートに挟持された吸収性シートが前記トップシートと前記吸収体との間に存在する吸収性物品であって、
前記トップシート、前記バックシート、前記吸収体は、前記前ウエスト域、前記クロッチ域および前記後ウエスト域にわたって配置され、
前記吸収性シートは、前記クロッチ域の長手方向の中央から前記後ウエスト域にわたる領域における、少なくとも前記後ウエスト域の一部の領域に配置され、
前記吸収性シートが配置されておらず、着用者の排尿部を覆う領域である排尿領域と、
前記吸収性シートが配置され、着用者の臀部を覆う領域である臀部領域とを有し、
前記排尿領域に人工尿を滴下吸収させた場合、前記臀部領域における前記人工尿の逆戻り量は、前記排尿領域における前記人工尿の逆戻り量の200分の1以下の値であり、
前記臀部領域に前記人工尿を滴下吸収させた場合の前記臀部領域における前記人工尿の逆戻り量は、前記排尿領域に前記人工尿を滴下吸収させた場合の前記排尿領域における前記人工尿の逆戻り量の0.7以下の値である吸収性物品。
【請求項2】
前記排尿領域に前記人工尿を400ml滴下吸収させた場合、前記臀部領域における前記人工尿の逆戻り量は0.3g以下である請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
液透過性のトップシートと、バックシートと、これら両シート間に介在する吸収体とを含み、前後の長手方向が前ウエスト域と、後ウエスト域と、これらの領域間に位置するクロッチ域とで構成されており、吸収性ポリマーが2枚の液透過性シートに挟持された吸収性シートが前記トップシートと前記吸収体との間に存在する吸収性物品であって、
前記吸収性シートは、前記クロッチ域の長手方向の中央から前記後ウエスト域にわたる領域における、少なくとも前記後ウエスト域の一部の領域に配置され、
前記吸収性シートが配置されておらず、着用者の排尿部を覆う領域である排尿領域と、
前記吸収性シートが配置され、着用者の臀部を覆う領域である臀部領域とを有し、
前記排尿領域から人工尿を滴下吸収させた場合、前記臀部領域における表面残存水分量は、前記排尿領域における表面残存水分量の0.8以下の値である吸収性物品。
【請求項4】
前記排尿領域から前記人工尿を400ml滴下吸収させた場合、前記臀部領域における表面の水分率は50質量%以下である請求項3に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記吸収性シートおよび前記吸収体の間にセカンドシートをさらに備え、
前記セカンドシートは、前記前ウエスト域、前記クロッチ域および前記後ウエスト域にわたって配置され、
前記セカンドシートは、前記トップシートよりも液拡散性が高い請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記吸収性シートは、前記2枚の液透過性シートに前記吸収性ポリマーが挟持されている吸収性ポリマー存在領域と、前記2枚の液透過性シートに前記吸収性ポリマーが挟持されていない吸収性ポリマー非存在領域とを有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記吸収性ポリマー存在領域の平面方向の形状は、前記吸収性物品の長手方向で前記前ウエスト域から前記後ウエスト域への方向に頂点が向いた略V字形状である請求項6に記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−110368(P2012−110368A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259457(P2010−259457)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】