説明

吸収性/生分解性複合糸構成物及びその用途

【課題】
2以上の吸収性/生分解性プロフィール及び破断強度保持プロフィールを示し且つ異なる臨床場面においてユニークな特性を示す縦編み複合メッシュのような吸収性複合医療用具を提供することを課題とする。
【解決手段】50g/m2の最小面積密度を有する縦編み複合メッシュであって、(a)個々のフィラメントの直径が約20ミクロン未満である吸収の遅い生分解性マルチフィラメント糸成分であって少なくとも80パーセントのL−ラクチドをベースとする配列を含むセグメント化共重合体を有するものと、(b)個々のフィラメントの直径が約20ミクロンを超える吸収の速いマルチフィラメント糸成分であって少なくとも70パーセントのグリコリド誘導配列を含むセグメント化多軸(polyaxial)共重合体を有するものとを備える、縦編み複合メッシュを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年4月26日に出願された米国仮出願第60/674,826号に基づく優先権を主張した、2006年4月20日出願の国際出願第2006014939号の部分継続出願である。
発明の分野
本発明は、複合縦糸の織物及び編組構成物であって、外科的インプラントとして使用したときに、それらの特性のバイモジュラー変化を示す縦編みメッシュ及び編組縫合材を生じさせるように、有意に異なる吸収/生分解プロフィール及び強度保持プロフィールを有する2タイプの糸をそれぞれ含むものに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
個々の理化学的性質が明らかに異なる非吸収性繊維をブレンドすることは、繊維産業では確立された技術であり、且つ、このようなブレンドにおいて構成繊維に基づくユニークな特性を達成することに向けられている。これらのブレンドの最も一般的に認知されている例としては、(1)羊毛の絶縁特性とポリエステルの高い引張強度とがもたらす利益を享受する織物を製造するための羊毛スフ糸及びポリエチレンテレフタレート(PET)連続マルチフィラメント糸;(2)吸水性で快適な(綿による)強い(PETによる)織物を製造するための綿スフ糸及びPET連続マルチフィラメント糸;(3)強さと親水性とを達成するためのナイロン連続マルチフィラメント糸及び綿スフ糸;及び(4)吸水性で快適な伸縮する織物を生じさせるための綿スフ糸及びポリウレタン連続モノフィラメント糸の組み合わせが挙げられる。非吸収性繊維と吸収性繊維とをブレンドするという技術思想は、ヘルニアメッシュのような数種の繊維状構成物においてポリプロピレン(PP)繊維と吸収性ポリエステル繊維とを組み合わせてこれらのメッシュのPP成分中での組織成長を可能にすることと、該吸収性繊維が時間と共に質量を失うにつれて長期インプラントの質量を減少させることとに関連して、従来技術において非常に限られた範囲で扱われていた。しかしながら、構成糸の繊維特性を組み合わせた繊維特性を生じさせるために2種以上の糸の完全吸収性/生分解性ブレンドを使用することは、これまでのところ従来技術では知られていない。このことは、少なくとも2種の繊維構成要素を有する完全に吸収性/生体分解性の複合糸を扱う本発明を完成させようと努める動機付けとなり、また、これらを、該構成糸に由来する調節され統合された物理化学的性質と生物学的性質を有し、しかもこれらの性質を臨床的に望ましい特定の特性を示すようにさらに改変できる縫合材及びメッシュのような医療用具に転換させた。
【0003】
少なくとも2種の異なる繊維構成要素、言い換えると異なる吸収プロフィールと強度保持プロフィールを示す吸収性/生分解性外科的インプラントを得るという重要な特徴は、本願の親出願であるPCT/US/2006−014939号に開示されている。しかしながら、これらの出願には、新規な臨床治療上の特性を達成することに関わる、外科用縫合材及びヘルニアメッシュのような医療用具の特に新たな構成物デザインが記載されていない。従って、本発明は、完全に吸収性/生分解性の外科用縫合材から作られた新規な構成物デザイン、特に、治癒の遅い組織に使用されるもの並びにヘルニアの治療及び膣組織再建に使用されるような外科用メッシュに関する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概略
概して、本発明は、遅吸収性/生分解性成分と速吸収性/生分解性成分とを含む縦編み複合メッシュ及び編組複合縫合材であって、ユニークな特性を有する外科医療用具を生じさせるように特に所定の寸法で作られ且つ構成されたものに関する。
【0005】
本発明の主要な形態の一つは、(a)個々のフィラメントの直径が約20ミクロン未満である遅吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素;及び(b)個々のフィラメントの直径が約20ミクロンを超える吸収の速い(速吸収性)マルチフィラメント糸構成要素を含む、50g/m2の最小面積密度を有する縦編み複合メッシュであって、該遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素が少なくとも80パーセントのL−ラクチドをベースとする配列を含む分子鎖から作られたセグメント化共重合体であり、該吸収の速いマルチフィラメント構成要素が少なくとも70パーセントのグリコリド誘導配列を含む分子鎖から作られたセグメント化多軸(polyaxial)共重合体であり、しかも、縦糸編み機を使用して全てのガイドバーに1−イン及び1−アウトで通して、該吸収の遅い(遅吸収性)マルチフィラメント構成要素が2個のバーのサンドフライ網パターンで編まれており、また該吸収の速いマルチフィラメント構成要素が標準的な2個のバーのマーキゼットパターンで編まれている、縦編み複合メッシュに関する。或いは、縦糸編み機を使用して全てのガイドバーに1−イン及び1−アウトで通して、該吸収の遅いマルチフィラメント構成要素が2個のバーの完全なトリコットパターンで編まれており、吸収の速いマルチフィラメント構成糸が標準的な2個のバーのマーキゼットパターンで編まれている。
【0006】
本発明の臨床上重要な特徴は、約130g/m2の面積重量を有し且つ少なくとも250Nの最大破断力及びメッシュ幅1cm当たり16Nの応力下で10パーセント未満の最大伸び率を示し、また、pH7.2及び50℃の緩衝液中で約2週間インキュベートしたときに、その最大破断力を20パーセント以上保持し、且つ、メッシュ幅1cm当たり16Nの応力下で少なくとも12パーセントの伸びを受ける、複合メッシュを提供することである。
【0007】
或いは、該メッシュの遅吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素は、少なくとも50パーセントの3−ヒドロキシ酪酸誘導配列よりなる分子鎖から構成されるポリ−3−ヒドロキシアルカノエートを含む。
【0008】
また、本発明は、(a)個々のフィラメントの直径が約20ミクロン未満である遅吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素;及び(b)個々のフィラメントの直径が約20ミクロンを超える吸収の速いマルチフィラメント糸構成要素を含む、50g/m2の最小面積密度を有する縦編み複合メッシュであって、該メッシュが、吸収性重合体により、被覆されていないメッシュの重量を基にして少なくとも0.1パーセントの被覆物追加で被覆されているものも取り扱う。随意に、該被覆物は、約95/5のε−カプロラクトン/グリコリド誘導配列を含む分子鎖から構成される多軸コポリエステルを含み、ここで、該被覆物は、抗腫瘍活性、抗炎症活性、抗菌活性、麻酔活性及び細胞成長促進活性について知られている群から選択される少なくとも1種の生物活性剤を含有する。
【0009】
本発明の別の主要な態様は、(a)個々のフィラメント直径が約20ミクロン未満であり、編組として個々に試験され且つpH7.2及び50℃の燐酸塩緩衝液中で約2週間インキュベートされたときにその初期の破断強度の少なくとも20パーセントを保持することができる遅吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素;及び(b)編組として個々に試験され且つpH7.2及び50℃の燐酸塩緩衝液中で約1日にわたりインキュベートされたときにその初期の破断強度の少なくとも20パーセントを保持することができる速吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素を備える編組複合縫合材を取り扱う。一具体例では、該遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素及び速吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素は、それぞれ該編組のコアとシースを構成する。或いは、該遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素及び速吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素は、それぞれ該編組のシースとコアを構成する。
【0010】
複合縫合材の化学組成の点からみると、一具体例では、該遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素は、少なくとも80パーセントのL−ラクチド誘導配列よりなる分子鎖から構成されるセグメント化共重合体を含み、該速吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素は、少なくとも70パーセントのグリコリド誘導配列よりなる分子鎖から構成されるセグメント化多軸共重合体を含む。或いは、該遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素は、絹、又は少なくとも50パーセントの3−ヒドロキシ酪酸誘導配列よりなる分子鎖から構成されるポリ−3−ヒドロキシアルカノエートを含む。
【0011】
本発明のさらなる態様は、被覆されていない縫合材の重量を基にして少なくとも0.1パーセントの被覆追加で吸収性重合体により被覆された上記のような編組複合縫合材を扱う。随意に、該被覆物は、約95/5のε−カプロラクトン/グリコリド誘導配列を含む分子鎖から構成される多軸コポリエステルを含み、ここで、該被覆物は、抗腫瘍活性、抗炎症活性、抗菌活性、麻酔活性及び細胞成長促進活性について知られている群から選択される少なくとも1種の生物活性剤を含有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
好ましい実施形態の詳細な説明
生体組織内にインプラントを導入した最初の1〜2日の間に、このインプラント部位では急性炎症が支配する。これは、発赤、熱、腫れ及び痛みとして現れる。約3日後に、該インプラントに対するあらゆる持続性局所炎症応答が静まる。非吸収性材料が移植された場合には、この急性炎症は1週間たらず持続し、そして該インプラントの周辺での線維性結合組織の成長は約1月にわたって進行し、概して静的な線維性被膜に至る。該非吸収性インプラントを周辺組織から該被覆で長期にわたり隔離すると、合併症を引き起こす可能性がある。インプラント部位のタイプに応じて、これらの合併症は、ヘルニアメッシュの場合と同様に、(1)感染の危険性を増大させ、(2)インプラント成分と周辺組織との一体化を妨害し、機械的不安定性をもたらす可能性がある。一方、該インプラント材料が経時的に生分解/吸収される場合には、この炎症は、該インプラントが該部位に残留している間に再度漸進的に刺激され得るが、これは、所定の用途において最も望ましい特徴である。これらには、ヘルニアの治療に使用される外科用メッシュがあるが、この場合、炎症の漸進的な再刺激によってコラーゲン沈着の制御と持続及び、非常に重要な機械的安定性をもたらす、メッシュの繊維構成要素との機械的一体化が生じ得る。明らかに、これが移植後の最初の3〜4週間後に終結し、該メッシュの壊滅的な機械的損傷が生じることは誰も予期しないであろう。さらに、炎症の漸進的な再刺激及びコラーゲン沈着の制御は、(1)メッシュ成分の移動及び/又はメッシュ−組織界面での移動;(2)線維芽細胞遊走の容易さを徐々に増加させることを可能にするようにメッシュの空隙率を継続的に増加させること;及び(3)動的な機械的応力下で引き裂き及びほどけに耐える構造的に安定なメッシュ構成を具備することによって達成できる。そして、最適には、該メッシュ構成要素は、(1)少なくとも2つの吸収/強度保持プロフィールであって、1つ目が最初の2〜4週間の間に広く行き渡り、2つ目が4週間以後に連続した再刺激に関与するものを示し;(2)コラーゲンが沈着し、そしてこの部位での機械的負荷がメッシュと周辺組織との間で早期の変形を受けることなく共有され始める最初の3〜4週間以内に、十分な機械的強度及び剛性を示し;(3)創傷治癒及び組織収縮に関連した生体力学的事象、並びに活動的な患者が規則的に運動することによってメッシュの工学的コンプライアンスが徐々に増加することによる漸進的な動的応力に適応し;及び(4)インプラント部位での機械的変化に適応すると共に引き裂き及び破断/ほどけに抵抗する、注意深く縦糸で編まれた構成を有するようにデザインされるべきである。
【0013】
上記議論と関連して、本発明は、最適なメッシュについて示される要件を扱う。同様に、本発明は、損傷組織及び治癒の遅い組織の創傷修復に必要とされるように、移植後3〜4週間だけでなく、4ヶ月まで効果的な包帯を与えることが予期される最適な縫合材の要件を扱う。
【0014】
本発明の重要な一般的態様は、適切な質量を得ることを確実にするための50g/m2の最小密度と、配置後直ちに及び機能的遂行の最初の数週間の間に引き裂き、ほどけ及び/又は破断なしに自然組織に縫合材及び/又は吸収性接着剤を使用して固定することを可能にするための強度とを有する縦編み複合メッシュに関する。これは、組織−メッシュ界面での機械的損傷やメッシュ成分内での機械的損傷を防ぐためである。メッシュを生物学的部位に固定することに関して、最適な吸収性縫合材は、複合メッシュの持続性成分の強度保持プロフィールに匹敵する強度保持プロフィールを維持することが予期されるであろう。それと同時に、該複合メッシュは、(1)個々のフィラメント直径が約20ミクロン未満、好ましくは15ミクロン未満である、該メッシュの比較的柔軟性の多い主マトリックスとしての遅吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素であって、少なくとも6週間、好ましくは8週間を超えて適度な破断強度を保持するもの;(2)個々のフィラメント直径が約20ミクロンを超える、好ましくは25ミクロンを超える、該メッシュの比較的柔軟性の少ない副成分としての速吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素であって、該メッシュの適切な初期剛性を与えること及び周辺組織に容易に固定することに関与すると共に約2〜4週間の短時間破断強度プロフィール(これは、該遅吸収性の柔軟なマトリックスが移植後約2〜4週間で次第に伸張できるようになるのを可能にする)を示すもの;及び(3)耐荷重性に寄与する点と、吸収性組織接着剤、吸収性縫合材又は、例えば、吸収性シアノアクリレート系接着剤と吸収性縫合材との組み合わせを使用して周辺組織に固定できる点で機械的相互依存性を保証するように特別にデザインされた縦編み構成物における吸収の遅いマルチフィラメント構成要素と吸収の速いマルチフィラメント構成要素(当該縦編みの構成の有用な例示は、好ましくはラッセル編み機又はトリコット編み機を使用して全てのガイドバーに18ゲージで1−イン及び1−アウトで通して、吸収の遅いマルチフィラメント構成要素を2バーのサンドフライ網パターンで編み、吸収の速い成分を標準的な2バーのマーキゼットパターンで編むことを伴う)を含むことが予期される。別の複合メッシュの構成は、全てのガイドバーに1−イン及び1−アウトで18ゲージで通して、吸収の遅い成分を2バーの完全なトリコットパターンを用いて編み、吸収の速い成分を標準的な2バーのマーキゼットパターンを用いて編むことを伴う。縦糸の構成は、他のパターンを使用しても達成できる。繊維対繊維の摩擦係数を最小にすることによって複合メッシュの初期破断強度を改善させ、それによってメッシュ構造の摩損を最小にするために、潤滑剤被覆を、メッシュの非被覆重量を基にして0.1〜10パーセントのレベルで該メッシュに適用する。また、該吸収性被覆物は、抗菌剤、接着防止剤及び成長促進剤として知られている薬剤の1以上の群に属する1種以上の生物活性剤の放出を制御するためのキャリヤーとしても使用できる。この理想的な被覆系は、表面に潤滑性を付与する適用容易な結晶性の潤滑重合体系であることができ、しかも、その組成は、移植後の最初の2週間以内に少なくとも速吸収性成分の吸収/生分解プロフィールを調節することを補助するように制御できる。
【0015】
該複合材の吸収の遅い成分及び吸収の速い成分/生分解性の成分は、これまで、独立して整経されるマルチフィラメント糸として説明されているが、(1)整経前に速吸収性/生分解性糸と遅吸収性/生分解性糸とを撚り;(2)中程度又は速い吸収/ 生分解プロフィールを有する1種以上の追加の糸を使用し;(3)単一の又は2つの撚りモノフィラメントとして速吸収性成分を使用し;(4)エラストマー系重合体を基材とする糸構成要素(このものは、吸収の速い、吸収が中程度の又は吸収がさらに速いモノフィラメント、2つ撚りモノフィラメント又はマルチフィラメントの形であることができる)を使用することを伴う、他の代わりの手法を使用することができる。エラストマー成分を使用すると、炎症によって誘導される腫れに直面したときに、移植の初期に適用部位で生じる応力のどのような過渡変化にも適応することが予期される。複合メッシュの性能をさらに調節するために、酵素によって生分解できるマルチフィラメント糸を生分解の遅い成分として使用することができる。このような糸としては、生分解プロフィール及び破断強度保持プロフィールを調節するように化学的に変性された又は変性されていない、絹フィブロイン、ポリ−4−ヒドロキシアルカノエート、カゼイン、キトサン、大豆蛋白質及び同様の天然由来材料を基材とするものが挙げられる。
【0016】
本発明の別の重要な一般的態様は、様々な吸収/生分解プロフィール及び破断強度保持プロフィールを有する少なくとも2種の吸収性/生分解性モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント糸構成要素を含む編組縫合材に関する。複合編組を構成する成分にこのような多様性をもたらすための基本原理は基本的に複合メッシュについて上記したものに類似するが、ただし、該編組を作製する際に、追加の自由度が存在する、すなわち該編粗の基本構造成分としてコア及びシースを有するという事実を除くものとする。一方、該編組の作製は、(1)コアのポッピンングに直面することなしにコア対シースの変動比率を使用すること;(2)コア又はシースとしての遅吸収性/生分解性マルチフィラメント糸と、残りの速吸収性/生分解性マルチフィラメント糸からなる編組を具備すること;(3)エラストマーモノフィラメント、合撚りモノフィラメント又はマルチフィラメント糸を編組構成物の一部分として、好ましくはコア内において可変レベルで使用して弾性レベルを制御すること(これは、縫合材を移植した後最初の数日間で生じる部位の腫れに対応するためである)を伴うことができる。該複合縫合材を被覆して(1)その拘束特性と操作特性とを改善させること;(2)破断強度保持プロフィールをできる限り長引かせること;及び(3)抗菌活性、接着防止活性、抗血栓活性、抗増殖活性、抗腫瘍活性、抗炎症活性及び細胞成長促進活性が知られている群から選択される1種以上の活性剤の制御放出用の吸収性キャリヤーとして機能させることができる。また、該被覆物を、麻酔薬の送達の制御と適時の送達とを可能にするように使用して手術後の痛みを調節することもできる。抗腫瘍剤を有する被覆を使用するという有用な特徴によって、癌患者に複合縫合材を使用して転移の可能性を最小限にとどめることが可能になる。別の有用な特徴は、合成血管移植片と血管周囲の覆いとを固定する際に、(1)2つ以上の吸収/生分解プロフィールを有することで、生物学的事象が行き渡ることに起因した縫合材の線での物理的機械的変化に対応することを可能にすることができ;及び(2)抗血栓剤及び/又は抗増殖剤を使用することが該移植片の長期開存性を維持するのに効果的であり得る複合縫合材を使用することである。
【0017】
本発明の臨床上重要な態様は、血栓塞栓症を治療する際に該複合メッシュを血管の覆いとして使用することを可能にする、抗腫瘍剤、抗炎症剤及び/又は抗増殖剤を含有する被覆剤を有する生物活性メッシュを取り扱う。
【実施例】
【0018】
本発明のさらなる例示を次の実施例で提供する:
例1
複合メッシュ作製用の糸I及びIIの製造
88/12(モル)のL−ラクチド/トリメチレンカーボネート混合物の共重合[米国特許第6,342,065号(2002)に記載された一般的な重合方法に従う]によって製造されたセグメント化L−ラクチド共重合体(P1)を、20孔ダイを使用して溶融紡糸してマルチフィラメント糸Iを製造した(これを所定の複合メッシュの遅吸収性/生分解性成分として使用する)。押し出されたマルチフィラメント糸を、編みメッシュの作製に使用する前に、1段階延伸を使用して100〜120℃の加熱ゴデットでさらに延伸させた。糸Iの典型的な特性を以下に示す。糸IIの製造については、複合メッシュの速吸収性/生分解性成分と、88/7/5(重量)グリコリド/トリメチレンカーボネート/L−ラクチドの混合物の開環重合[米国特許第7,129,319号(2006)に記載された一般的な重合方法を使用した]によって作られた多軸セグメント化グリコリド共重合体(P2)とを、10孔ダイを使用して溶融紡糸し、そしてインライン延伸によって延伸させた。糸IIの典型的な特性及び編みに使用した形態を以下に示す。
【0019】
糸I及びIIの重要な特性:
糸I(2つ撚り天然糸)
繊維カウント:43
デニール範囲:80−100g/9000m
テナシティ範囲:1.8〜4.5g/デニール
伸び:20−30%
糸II(1つ撚り天然糸)
繊維カウント:10
デニール範囲:120−170g/9000m
テナシティ範囲:3.5−5.5g/デニール
伸び:40−70%。
【0020】
例2
複合メッシュ作製の一般的な方法
異なる分解プロフィール(一方が比較的速く分解し、他方が緩やかに分解する)を有する糸I及びIIからなる組成物を、様々な編みパターンを使用して作製して所望の縦編みメッシュを作製した。編物構造を、糸を巻棒に整経させ、そして代表的なラッセル又はトリコット編み機を使用してメッシュを作製する2段階方法を使用して製造した。様々な編成パターン及びI対IIの重量比を変更して当該特定のメッシュの機械的性質を調節することができるし、またそのように調節した。編物構造は、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸又はそれらの組み合わせから構成することができる。編物メッシュを、畝方向及び編目の横列方向に一定に緊張させつつ120℃で1時間にわたり熱硬化又はアニールした。生体内及び/又は試験管内特性を改質させるために、アニール後に被覆剤を適用することができる。
【0021】
例3
メッシュパターンAの編成方法
編成方法は、バー1及び2に通された糸Iの2個の整経巻棒と、バー3及び4に通された糸IIの2個の整経巻棒とを利用した。編み機は18ゲージ針を備えていた。それぞれのパターンについて全てのガイドバーに1イン及び1アウトで18ゲージで通して、糸IIを2バーのマーキゼットパターンで編み、糸Iを2バーのサンドフライ網パターンで編んだ。
【0022】
パターンA(1インチ当たり28個の横列(コース))
バー1:1−0/1−2/2−3/2−1//2x (1イン、1アウト)
バー2:2−3/2−1/1−0/1−2//2x (1イン、1アウト)
バー3:1−0/0−1//4x(1イン、1アウト)
バー4:0−0/3−3//4x(1イン、1アウト)。
【0023】
例4
メッシュパターンBの編成方法
該編成方法は、バー1及び2に通された糸Iの2個の整経巻棒と、バー3及び4に通された糸IIの2個の整経巻棒とを使用した。編み機は18ゲージ針を備えていた。それぞれのパターンについて全てのガイドバーに1イン及び1アウトで18ゲージで通して、糸IIを2バーのマーキゼットパターンで編み、糸Iを2バーの完全なトリコットパターンで編んだ。
【0024】
パターンB(1インチ当たり19個のコース)
バー1:1−0/2−3//4x(1イン、1アウト)
バー2:2−3/1−0//4x(1イン、1アウト)
バー3:1−0/0−1//4x(1イン、1アウト)
バー4:0−0/3−3//4x(1イン、1アウト)。
【0025】
例5
例3からの代表的な複合メッシュのキャラクタリゼーション及び試験管内評価
例3からのメッシュについての試験方法
機械的性質を、固定物形状に関するASTM D3787−01の指針に基づく物理的特性を有するボール破断試験装置を使用して特徴付けた(25.4mmの磨き上げた鋼玉、44.45mmの直径の内部開口)。該メッシュを、緊張を加えることなく固定物に固定し、そして該玉を44.45mm直径の開口の中央に設置した。次いで、この玉を、0.1Nの力を加えるようにメッシュ上の所定位置に打ち付ける。この試験を開始すると、該玉は、最大負荷点によって特徴付けられる破損まで、2.54cm/分で移動する。それぞれの試験に関して、次の3つの特徴をn=4のサンプルサイズについての標準偏差値で記録した。:
(1)試験中に得られた最大破断力(N)
(2)最大負荷点伸び(mm)
(3)71N負荷点伸び(mm)。
【0026】
71N点伸びを使用して16N/cm伸び率を決定した。71Nの値は、開口の直径から算出される(4.445cm×16N/cm=71N)。最初に、メッシュは、44.45mmの直径を有し、且つ、全て一つの平面の状態である。試験が進行するにつれて、該玉は該メッシュを下方に押しやり、そして先端部としての該玉の半径により円錐状の形状を創り出す。CAD及び曲線適合ソフトウェアを使用して、該玉の直線移動を、該玉の中心の下を通って44.45mmの直径までに至る線の長さの変化(放射状拡張)に関連させる数式を展開した。この情報から、伸び率(パーセント)を決定した。
【0027】
試験管内で状態調整された破断強度保持[BSR=(時点最大負荷/初期最大負荷)*100]を、ASTM D3787−01に詳述されている破断試験装置を備えたMTS MiniBionix Universal Tester(型式858)を使用して実施した。試料を最初に試験し、また、50mL試験管中において0.1Mの燐酸ナトリウム緩衝液(pH12.0)を使用して10日間にわたり試験管内で状態調整した後及び0.1Mの燐酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)を使用して関心のある複数の時点にわたって状態調整した後に試験した。試験管をラックに置き、そして一定の軌道撹拌下において50℃でインキュベートした。試料を、機械的性質の試験について予め決められた時点で取り出した(n=3)。
【0028】
例3からの代表的な縦編み複合メッシュの物性
【表1】

【0029】
例3からのメッシュの機械的性質
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
例6
例4からの典型的な複合メッシュのキャラクタリゼーション及び試験管内評価
例4からのメッシュの試験方法
機械的性質の試験を、ASTM D3787−01に詳述されるような破断試験装置を備えたMTS MiniBionix Universal Tester(型式858)を使用して実施した。試料を最初に試験し、そして50mL試験管中において0.1M燐酸ナトリウム緩衝液(pH12.0)を使用して10日間状態調整した後に試験した。試験管をラックに置き、そして一定の軌道撹拌下において50℃でインキュベートした。試料を、機械的性質の試験について予め決められた時点で取り出した(n=3)。
【0033】
例4からの代表的な縦編み複合メッシュの物性
【表5】

【0034】
例4からのメッシュの機械的性質の結果
【表6】

【0035】
【表7】

【0036】
例7
複合編組作製のための糸IIIの製造
例1に記載した同一の重合体先駆物質P2を、マルチフィラメント糸IIIを製造する際に使用した。該重合体を、20孔ダイを使用して溶融紡糸してマルチフィラメント糸IIIを製造し、これを、編組の作製で使用する前に、約100〜120℃の加熱ゴデットで1段階の延伸を使用してさらに延伸させた。
【0037】
例8
糸I−コア及び糸III−シースを有する複合編組SM1−1の作製
編組SM1−1を、1つ撚りとして糸Iの4個のキャリヤーコア及び3つ撚りとして8個のキャリヤー糸IIを使用して製造した。該編組をその初期長さの約5〜10パーセントにまで約90℃の熱風を使用して熱延伸させて編組組織を張った。次いで、この緊張した編組を110℃で1時間アニールして、約110ppi及び約0.35mmの直径を有する編組縫合材を生じさせた。
【0038】
例9
糸III−コア及び糸I−シースを有する複合編組SM1−2の作製
編組SM1−2を、1つ撚りとして糸IIIの6個のキャリヤーコア及び1つ撚りとして糸Iの16個のキャリヤーシースを使用して製造した。該編組を例8に記載した通りに熱延伸及びアニールして約50ppi及び約0.36の直径を有する編組縫合材を生じさせた。
【0039】
例10
編組SM1−1及びSM1−2の縫合材特性の試験管内及び生体内評価
該編組をエチレンオキシドで滅菌し、そして、それらの(1)初期物性;(2)pH7.2及び50℃での加速試験管内破断強度保持プロフィール及び(3)皮下ラットモデルを使用した生体内破断強度保持について試験した。試験管内及び生体内評価の結果を表VIIIにまとめる。
【0040】
【表8】

【0041】
本発明の好ましい具体例を特定の用語及び装置を用いて説明してきた。使用した単語及び用語は単なる例示にすぎない。これらの単語及び用語は、限定というよりはむしろ説明の単語及び用語である。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更及び改変をなし得ることを了解すべきである。さらに、様々な具体例の形態を全部又は一部置き換えることができることも了解すべきである。従って、添付した特許請求の範囲の精神及び範囲を明細書の詳細な説明及び実施例に限定すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50g/m2の最小面積密度を有する縦編み複合メッシュであって、
(a)個々のフィラメントの直径が約20ミクロン未満である吸収の遅い生分解性マルチフィラメント糸構成要素であって少なくとも80パーセントのL−ラクチドをベースとする配列を含むセグメント化共重合体を有するものと、
(b)個々のフィラメントの直径が約20ミクロンを超える吸収の速いマルチフィラメント糸構成要素であって少なくとも70パーセントのグリコリドをベースとする配列を含むセグメント化多軸共重合体を有するものと
を備える、縦編み複合メッシュ。
【請求項2】
縦糸編み機を使用して全てのガイドバーに1−イン及び1−アウトで通して、前記吸収の遅い糸構成要素が2バーのサンドフライ網パターンで編まれており、また前記吸収の速い糸構成要素が標準的な2バーのマーキゼットパターンで編まれている、請求項1に記載の縦編み複合メッシュ。
【請求項3】
縦糸編み機を使用して全てのガイドバーに1−イン及び1−アウトで通して、前記吸収の遅い糸構成要素が2バーの完全なトリコットパターンで編まれており、前記吸収の速い糸構成要素が標準的な2バーのマーキゼットパターンで編まれている、請求項1に記載の縦編み複合メッシュ。
【請求項4】
約130g/m2の面積重量を有し且つ少なくとも250Nの最大破断力及びメッシュ幅1cm当たり16Nの応力下で10パーセント未満の最大伸び率を示し、また、pH7.2及び50℃の緩衝液中で約2週間インキュベートしたときに、前記メッシュがその最大破断力を20パーセント以上保持し、且つ、メッシュ幅1cm当たり16Nの応力下で少なくとも12パーセントの伸びを受ける、請求項2に記載の縦編み複合メッシュ。
【請求項5】
約130g/m2の面積重量を有し且つ少なくとも250Nの最大破断力及びメッシュ幅1cm当たり16Nの応力下で10パーセント未満の最大伸び率を示し、また、pH7.2及び50℃の緩衝液中で約2週間インキュベートしたときに、前記メッシュがその最大破断力を20パーセント以上保持し、且つ、メッシュ幅1cm当たり16Nの応力下で少なくとも12パーセントの伸びを受ける、請求項3に記載の縦編み複合メッシュ。
【請求項6】
被覆されていないメッシュ重量を基にして少なくとも0.1パーセントの吸収性重合体で被覆された、請求項1に記載の縦編み複合メッシュ。
【請求項7】
前記吸収性重合体被覆物が、約95/5のε−カプロラクトン/グリコリド誘導配列の分子鎖を有する多軸コポリエステルを含む、請求項6に記載の縦編み複合メッシュ。
【請求項8】
前記吸収性重合体被覆物が、抗腫瘍剤、抗炎症剤、抗菌剤、麻酔剤及び細胞成長促進剤から選択される少なくとも1種の生物活性剤を含有する、請求項6に記載の縦編み複合メッシュ。
【請求項9】
50g/m2の最小面積密度を有する縦編み複合メッシュであって、
(a)個々のフィラメント直径が約20ミクロン未満である、吸収の遅い生分解性マルチフィラメント糸構成要素であって練絹を含むものと、
(b)個々のフィラメント直径が約20ミクロンを超える吸収の速いマルチフィラメント糸構成要素であって少なくとも70パーセントのグリコリドをベースとする配列を有するセグメント化多軸共重合体を含むものと
を備える縦編み複合メッシュ。
【請求項10】
50g/m2の最小面積密度を有する縦編み複合メッシュであって、
(a)個々のフィラメント直径が約20ミクロン未満である吸収の遅い生分解性マルチフィラメント糸構成要素であって少なくとも50パーセントの3−ヒドロキシ酪酸誘導配列の分子鎖から構成されるポリ−3−ヒドロキシアルカノエートを含むものと、
(b)個々のフィラメント直径が約20ミクロンを超える吸収の速いマルチフィラメント糸構成要素であって少なくとも70パーセントのグリコリドをベースとする配列を有するセグメント化多軸共重合体を含むものと
を備える縦編み複合メッシュ。
【請求項11】
編組複合縫合材であって、
(a)個々のフィラメント直径が約20ミクロン未満であり、編組として個々に試験され且つpH7.2及び50℃の燐酸塩緩衝液中で約2週間インキュベートされたときにその初期の破断強度の少なくとも20パーセントを保持することができる遅吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素と、
(b)編組として個々に試験され且つpH7.2及び50℃の燐酸塩緩衝液中で約1日にわたりインキュベートされたときにその初期の破断強度の少なくとも20パーセントを保持することができる速吸収性/生分解性マルチフィラメント糸構成要素と
を備える編組複合縫合材。
【請求項12】
前記遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素と前記速吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素とが、それぞれ前記編組のコアとシースを構成する、請求項11に記載の編組複合縫合材。
【請求項13】
前記遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素と前記速吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素とが、それぞれ前記編組のシースとコアを構成する、請求項11に記載の編組複合縫合材。
【請求項14】
前記遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素が少なくとも80パーセントのL−ラクチド誘導配列を含む分子鎖から構成されるセグメント化共重合体を含み、前記速吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素が少なくとも70パーセントのグリコリド誘導配列を含む分子鎖から構成されるセグメント化多軸共重合体を含む、請求項11に記載の編組複合縫合材。
【請求項15】
前記遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素が絹を含む、請求項11に記載の編組複合縫合材。
【請求項16】
前記遅吸収性/生分解性マルチフィラメント構成要素が少なくとも50パーセントの3−ヒドロキシ酪酸誘導配列の分子鎖から構成されるポリ−3−ヒドロキシアルカノエートを含む、請求項11に記載の編組複合縫合材。
【請求項17】
被覆されていない縫合材の重量を基にして少なくとも0.1パーセントの吸収性重合体で被覆された、請求項11に記載の編組複合縫合材。
【請求項18】
前記吸収性重合体被覆物が、約95/5のε−カプロラクトン/グリコリド誘導配列を有する分子鎖から構成される多軸コポリエステルを含む、請求項17に記載の編組複合縫合材。
【請求項19】
前記吸収性重合体被覆物が、抗腫瘍剤、抗炎症剤、抗菌剤、麻酔剤及び細胞成長促進剤から選択される少なくとも1種の生物活性剤を含有する、請求項18に記載の編組複合縫合材。

【公開番号】特開2009−22728(P2009−22728A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277732(P2007−277732)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(505208363)ポリ−メド インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】