説明

吸収缶

【課題】壁流の発生を抑えることのできる吸収缶。
【解決手段】吸収缶31が、外気の流入する前面部21と、ろ過された外気が流出可能であって面体に取り付けられる後面部22とを有し、前面部21と後面部22との間に吸着剤32が充填される。前面部21と後面部22とのうちの少なくとも一方には、吸着剤32を部分的に覆う環状遮蔽部22bが形成される。環状遮蔽部22bは、外側環状部分81と内側環状部82とを有していて、以下のa,b,cいずれかの態様にある;(態様a)外側環状部分81と吸着剤32との間の第1クリアランスCが内側環状部分82と吸着剤32との間の第2クリアランスCよりも小さくなるように段差53が形成されている態様、(態様b)外側環状部分81と内側環状部分82との間に第1環状リブが形成され、第1環状リブと吸着剤32との間に第3クリアランスが形成されている態様、(態様c)外側環状部分81と内側環状部分82との間に第2環状リブが形成され、第2環状リブにはスリットが形成されている態様。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガスマスク等の面体に取り付けて有毒ガスをろ過するために使用するのに好適な吸収缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスマスクにおける面体の吸気口に取り付けて有毒の外気をろ過するために使用する円筒状の吸収缶は公知ないし周知である。また、吸着剤を充填した吸収缶では、吸収缶の周壁部内面と吸着剤との間に隙間を生じることがあり、そうした吸収缶では、吸収缶の前面から流入した外気の多くが抵抗の少ない隙間を通る壁流となって吸収缶の後面へ向かう。そのようになった吸収缶は、吸着剤の破過が周壁部内面の近傍で急速に進み、吸収缶の径方向中央部には未だ吸着力があるにもかかわらず、寿命が尽きるということがある。このような状況において、特開2005−2378090号公報(特許文献1)に開示の吸収缶は、周壁部内面のうちの上流側に幅の狭い非通気性部材を取り付けることによって、壁流とそれによって生じる破過の進行とを防止している。
【特許文献1】特開2005−2378090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示の吸収缶は、周壁部内面に取り付けた非通気性部材がその内面近傍にある吸着剤を吸収缶の前側から覆うことによって、外気を取り入れるための開口面積を実質的に小さくするということがある。また、非通気性部材の後方にあってこの部材で覆われている吸着剤は、外気のろ過に役立たないということもある。
【0004】
そこで、この発明は、従来の吸収缶におけるこのような問題を解消することができる新規な吸収缶の提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、この発明が対象とするのは、外気が流入する前面部と、前記外気がろ過された後に流出する後面部と、前記前面部と前記後面部との間に介在する非通気性の周壁部とによって円筒状の容器部分が形成され、前記容器部分が前記前面部と前記後面部とに交差する前後方向と、前記前後方向に直交する径方向と、前記周壁部をめぐる周方向とを有するものであって、前記容器部分には前記外気をろ過するための吸着剤が充填されていて、前記後面部が面体に取り付け可能に形成されている吸収缶である。
【0006】
かかる吸収缶において、この発明が特徴とするところは次のとおりである。前記吸着剤は、前記前面部の内面と向かい合う前面と、前記後面部の内面と向かい合う後面とを有する。前記容器部分は、前記前面部と前記後面部とのうちの少なくとも一方が、前記周壁部と一体になった状態で前記周方向へ環状に延びていて前記吸着剤の前記前面および前記後面のいずれかに対向して前記吸着剤を部分的に覆う環状遮蔽部と、前記径方向において前記環状遮蔽部の内側に位置する通気部とを有する。前記前面部と前記後面部とのいずれかにおける前記環状遮蔽部は、前記径方向において、前記周壁部につながる外側環状部分と前記外側環状部分の内側に位置する内側環状部分とを有し、前記前後方向において、前記吸着剤との間にクリアランスを有し、前記外側環状部分と前記内側環状部分とが下記a,b,cいずれかの態様にある;
a.前記外側環状部分が前記吸着剤との間に前記クリアランスの一部分である第1クリアランスを有する一方、前記内側環状部分が前記吸着剤との間に前記クリアランスの一部分である第2クリアランスを有し、前記前後方向において前記第1クリアランスが前記第2クリアランスよりも小さくなるように前記外側環状部分と前記内側環状部分との間に段差が形成されている態様、
b.前記外側環状部分と前記内側環状部分との間には前記環状遮蔽部の内面から前記吸着剤に向かって起立して前記周方向へ延びる第1環状リブが形成されており、前記第1環状リブと前記吸着剤との間には、前記径方向における通気を可能にする前記クリアランスの一部分である第3クリアランスが形成されている態様、
c.前記外側環状部分と前記内側環状部分との間には、前記環状遮蔽部の内面から前記吸着剤に向かって起立して前記周方向へ延びる第2環状リブが形成されており、前記第2環状リブには、前記外側環状部分と前記内側環状部分との間の前記径方向における通気を可能にするスリットが前記クリアランスの一部分として前記周方向へ間欠的に形成されている態様。
【0007】
この発明の実施形態の一つにおいて、前記容器部分は、前記前面部と前記吸着剤とを含む前方部材と、前記後面部を含み前記前方部材が離脱可能に取り付けられている後方部材とによって形成され、前記前方部材には前記吸着剤の前記後面に当接して前記吸着剤を前記前方部材の後方から通気可能に支える支持部が形成されている。
【0008】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記後方部材における前記後面部に形成された前記環状遮蔽部は、前記支持部を介して前記吸着剤の前記後面に対向している。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る吸収缶は、容器部分の前面部と後面部とのうちの少なくとも一方に形成された環状遮蔽部が外側環状部分と内側環状部分とを有し、その環状遮蔽部は、外側環状部分と吸着剤との間の第1クリアランスが内側環状部分と吸着剤との間の第2クリアランスよりも小さくなるように段差が形成されている態様(態様a)、外側環状部分と内側環状部分との間に第1環状リブが形成され、その第1環状リブと吸着剤との間に第3クリアランスが形成されている態様(態様b)、外側環状部分と内側環状部分との間に第2環状リブが形成され、その第2環状リブにはスリットが周方向へ間欠的に形成されている態様(態様c)のいずれかの態様にある。容器部分の前面部にこれら態様a,b,cのいずれかにある環状遮蔽部が形成されているときには、その前面部に進入する外気は、周壁部へ向かう流路が第1クリアランス、第3クリアランス、スリットのいずれかによって狭められているので、吸収缶における壁流の発生が抑制される。容器部分の後面部にこれら態様a,b,cのいずれかにある環状遮蔽部が形成されているときには、吸収缶の前面部に進入した外気のうち、壁流となって後面部に向かった外気は、吸収缶の周壁部から吸収缶の中央部へ向かう流路が第1クリアランス、第3クリアランス、スリットのいずれかによって狭められているので、吸収缶における壁流の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
添付の図面を参照して、この発明に係る吸収缶の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0011】
図1は、吸収缶20の使用形態の一例を示す面体1の側面図である。面体1は着用者(図示せず)の顔面を覆う面口部材3と締紐4とを有し、面口部材3には透明プラスチック材料で形成されたシールド6が含まれている。面口部材3の前部に形成された吸気口19には吸収缶20が分離可能な状態で取り付けられている。面体1の着用者が呼吸をすると、外気は吸収缶20の前面部21から進入して外気に含まれる有毒成分が吸収除去されてろ過された外気となり、吸収缶20の後面部22から面口部材3の内側に向かって流出して着用者の口許に届く。
【0012】
図2は、吸収缶20の斜視図である。図示例の吸収缶20は円筒状のもので、外気が流入する前面部21と、流入した外気がろ過された後に流出する後面部22(図3参照)と、前面部21と後面部22との間に介在する非通気性の周壁部23とを有している。前面部21には、吸収缶20の吸着剤32(図3参照)を前方から部分的に覆っている前方環状遮蔽部27a と、前方環状遮蔽部27aによってその内側に画成される通気部27bとが含まれている。通気部27bはその内側において複数条の前面リブ26が交差して形成する通気可能なグリッド構造28を有している。図中の参照符号Jは通気部27bの口径を示し、双頭矢印L、M、Nは、容器部分31(図3参照)の前後方向と、径方向と、周方向とを示している。
【0013】
図3は、図2のIII−III線切断面の部分図である。吸収缶20は、前面部21と後面部22と周壁部23とによって形成された容器部分31と、容器部分31に充填された吸着剤32とを含んでいる。後面部22は、容器部分31から後方へ突出していて周面に螺状33が形成された管状の取付部34を有し、前面部21から進入してろ過された外気はその取付部34を通って面口部材3へ進むことができる。吸着剤32は、外気中の有毒成分を吸着するためのもので、容器部分31への充填に適するように成形された活性炭粒子等の集合体で形成されている。その吸着剤32は、容器部分31における前面部21の内面21aと向かい合う前面36と、容器部分31における後面部22の内面22aと向かい合う後面37と、周壁部内面23aに密着する周面38とを有している。吸着剤32の前面36は通気性の不織布39aを介して内面21aに密着しており、後面37は通気性の不織布39bを介して内面22aに密着している。ただし、後記のとおり、内面21aと内面22aとは、それぞれに形成されているリブの部分においてのみ吸着剤32に密着しており、それ以外の部分では吸着剤32との間にクリアランスを有している。不織布39a,39bは、活性炭粒子の脱落を防ぐもので、吸着剤32の一部分とみなすことができるものである。このような吸着剤32は、実質的な意味において容器部分31の内面21a,22aに密着しているということができる。吸着剤32はまた、有毒成分等を吸着して吸着能力が所定の閾値になると破過したとみなされ、そのような吸着剤32を含む吸収缶20は新しいものと交換しなければならない。
【0014】
図4は、図3におけるIV−IV線矢視図であるが、吸着剤32の図示を省いて容器部分31の後面部22と周壁部23との内側を示している。後面部22は、その平面形状が円形であって、吸着剤32を後方から部分的に覆う後方環状遮蔽部22bと、後方環状遮蔽部22bによってその内側に画成される開口46とを有し、開口46には取付け部34が形成されている。その開口46は、径方向Mの中心Pに形成されている。後方環状遮蔽部22bには、周壁部23につながっていて周方向Nをめぐるように環を画く外側環状部分81と、周壁部23から離間していて外側環状部分81の内側で環を画く内側環状部分82とが含まれていて、これら両部分81,82の間には段差53(図5参照)が形成されている。後面部22にはまた、吸着剤32の後面37に向かって起立した状態にある複数条の第1リブ41と、複数条の第2リブ42と、複数の環状の第3リブ43とが形成されている。第1リブ41は、外側環状部分81において径方向Mへ延びていて、周壁部内面23aにつながる外端部48aとその反対端部である内端部48bとを有し、周方向Nに間欠的に形成されている。第1リブ41の頂面41dは不織布39bを介して吸着剤32の後面37に密着しており(図3参照)、隣り合う第1リブ41どうしの間には周壁部23の内面23aから中心Pに向かって径方向Mへ延びる第1通気路部分51が形成されている。第1通気路部分51は、吸着剤32の後面37と通気可能につながり(図5参照)、周壁部23から径方向Mへ延びた先端部分が周方向Nに寸法Fを有している。第2リブ42は、内側環状部分82において径方向Mへ延びていて、周方向Nに間欠的に形成されている。図示例の第2リブ42には、第1リブ41の近傍にあって長さの短い第2リブ42aと、長さの長い第2リブ42bと、中間の長さを有する第2リブ42cとが含まれている。第2リブ42の隣り合うものどうしの間には、中心Pに向かって延びる第2通気路部分52が形成されていて、第2リブ42どうしの間の周方向Nの寸法Gには、図示例の如く寸法G,G,Gが含まれている。環状の第3リブ43は、第2リブ42bと交差して第2リブ42bに剛性を与えるとともに、複数の小さな開口47を形成している。第2通気路部分52と第1通気路部分51との間、および第2通気路部分52と開口46との間は通気可能な状態にある。図示例において、容器部分31は内径はSを有し、後面部22の段差53は内径Sを有し、開口46は内径Sを有している。
【0015】
図5は、図4におけるV−V線切断面を吸着剤32とともに示す図であって、そのV−V線は図4に示されているように隣り合う第1リブ41どうしの間、および隣り合う第2リブ42どうしの間にある。なお、図2におけるIII−III線は、図4において径方向へ一列に並ぶ第1リブ41と第2リブ42との上にあるもので、図4におけるこれら第1、第2リブ41,42の切断面は図3に示されている。図3,5から明らかなように、後面部22における後方環状遮蔽部22bでは、第1通気路部分51を含む外側環状部分81と吸着剤32の後面37に密着している不織布39bとの間には第1クリアランスCが形成されており、第2通気路部分52を含む内側環状部分82と不織布39bとの間には第2クリアランスCが形成されていて、第1クリアランスCと第2クリアランスCとの間には寸法Dを有する段差53が形成されている。したがって、第1クリアランスCは、第2クリアランスCよりも寸法Dだけ小さくなっている。なお、図3が示すように、第1リブ41の頂面41dと第2リブ42の頂面42dとは、高さが同じであって不織布39bを介して吸着剤32を支えている。環状リブ43は、その頂面43dが第2リブ42の頂面42d(図3参照)と同じであるかそれよりも低いもので、図5では、頂面42dと同じ高さにある頂面43dが不織布39bを介して吸着剤32を支えている。
【0016】
容器部分31がこのように形成されている吸収缶20では、第1クリアランスCと第2クリアランスCとの間に寸法Dの差が設けられることによって、後面部22の内面22aに沿って径方向Mの中心Pに向かう外気の流路は前後方向Lの寸法が内側環状部分82に比べて外側環状部分81で狭められる。そのために、吸収缶20の前面部21から進入する外気は、吸収缶20の中心Pの近傍では吸着剤32に接触しながら内側環状部分82に向かって速やかに流れる一方、周壁部23の内面23aに沿う部分では、流速を抑えられて吸着剤32に接触しながらゆっくりと外側環状部分81に向かう。外側環状部分81と内側環状部分82とに進入したろ過後の外気は径方向Mの中心Pへ向かい、取付部34を通って面口部材3へと進む。このように吸着剤32を通過する外気のうちで、周壁部内面23aに沿って流れるものである壁流は、吸収缶20の中心Pの近傍を流れるものに比べて単位時間当たりの流量が少なくなる。その結果として、壁流によって吸収缶の破過が局部的に進行し、吸収缶の中心部分には吸着能力があるにもかかわらず吸収缶の寿命が尽きる、という従来技術の問題が解消される。吸収缶20はまた、それに充填した吸着剤32の全部をくまなく使用することが可能になると同時に、吸着剤32の前面部36と後面部37とのほぼ全体を通気可能な面として使用することができるので、破過時間までの寿命が長く、しかも吸気時の通気抵抗が低いものになる。
【0017】
図6,7は、この発明の実施形態の一例を示す図4,5と同様な図である。図6,7に例示の容器部分31では、第1通気路部分51が複数条の第1リブ41と、第1リブ41と交差して容器部分31の周方向Nへ延びる環状の第4リブ44とによって形成されている。第1リブ41は、径方向Mに長いもの41aと短いもの41bとを含み、これらのリブ41a,41bが周方向Nにおいて交互に形成されている。前後方向Lにおいて、第1通気路部分51は、内面22aと不織布39bとの間に第1クリアランスCを有し、第4リブ44の頂部44dと不織布39bとの間に第3クリアランスCを有する。第2通気路部分52は、内面22aと不織布39bとの間に第3クリアランスCよりも大きい第2クリアランスCを有している。このような、第4リブ44を含む第1通気路部分51は、第2通気路部分52と比べると、前後方向Lの寸法が第4リブ44において狭められている。図6,7の容器部分31では、後面部22のうちで第4リブ44と第4リブ44よりも外側の部分とが後方環状遮蔽部22bにおける外側環状部分81を形成し、第4リブ44よりも内側の部分が内側環状部分82を形成している。
【0018】
この容器部分31を使用した吸収缶20においても、周壁部内面23aに沿って流れる外気は第1通気路部分51から第2通気路部分52に向かう流量、換言すると外側環状部81から内側環状部82に向かう流量が第3クリアランスCによって抑えられるので、周壁部内面23aに沿う部分において吸着剤32の破過が進行する速度は、中央部分において吸着剤32の破過が進行する速度よりも特に早くなるということがない。この吸収缶20もまた、破過までの寿命が長く、吸気時の通気抵抗が低いものになる。
【0019】
図8もまた、実施形態の一例を示す図6と同様な図である。ただし、図8の容器部分31に形成された環状の第5リブ45は、隣り合う第1リブ41どうしの間にスリットを有し、そのスリットが周方向Nにおいて第4クリアランスCを形成し、第1通気路部分51と第2通気路部分52とが第4クリアランスCを介してつながっている。第5リブ45は、第1リブ41それぞれの内端部48bの近傍において周方向Nへ延びる突出部45a,45bによって形成されているということができるものでもあり、第4クリアランスCは外側環状部分81と不織布39bとの間のクリアランスの一部分ということができるものでもある。
【0020】
図9,10は、図8におけるIX−IX線切断面とX−X線切断面とを示す図である。IX−IX線は突出部45aと交差しており、X−X線は第4クリアランスCを通っている。突出部45a、45bは、好ましくは不織布39bに接触しているもので(図9参照)、これら突出部45a,45bによって画成される第4クリアランスCは、第1通気路部分51の周方向の寸法を局部的に狭めることによって、第1通気路部分51から第2通気路部分52へ向かう外気の流量を絞り、周壁部内面23aに沿って生じる壁流の流量を抑えるように作用している。図8〜10の容器部分31では、後面部22における後方環状遮蔽部22bのうちで環状の第5リブ45と第5リブ45よりも外側の部分とが外側環状部81を形成し、第5リブ45よりも内側の部分が内側環状部分82を形成している。
【0021】
図11,12において、図11は実施形態の一例を示す容器部分31の斜視図であり、図12は図11におけるXII−XII線切断面を示す図である。図11,12の容器部分31は、前後方向Lにおいて分離可能に連結された前方部材31aと後方部材31bとで形成されている。前方部材31aは、円筒状のもので、前面部61と後面部62との間に吸着剤32が充填されている。前面部61はその全体がグリッド構造63であって通気性のものであり、後面部62もまた全体がグリッド構造63と同様なグリッド構造(図示せず)であって通気性のものであり、これら両グリッド構造が吸着剤32を被覆している不織布39a、39bに密着して吸着剤32を前方と後方とから支える支持部になっている。前方部材31aの周面部64には雄ねじ(図示せず)を有する第1連結部66が形成されている。後方部材31bは、盆状のもので、周壁部67と後面部68とを有し、周壁部67には連結部66に着脱可能な雌ねじ(図示せず)を有する第2連結部69が形成されている。後面部68には、面口部材3に対する取付け部34が形成されている。後面部68にはまた、図8,9における容器部分31に形成された第1リブ41や第5リブ45、第4クリアランスC等と同じリブやクリアランスが形成されていて、図12にはそれらのうちで第5リブ45の一部分のみが参照符号45aによって示されている。そのリブ45aは、前方部材31aの後面部62に接触している。図11,12の容器部分31は、前方部材31aの前面部61と後方部材31bの後面部68とが図8,9における前面部21と後面部22とに相当する部位となるものであるが、前面部61はそれに前方環状遮蔽部27aが形成されていないことにおいて前面部21と異なっている。ただし、後面部68には後方環状遮蔽部22bが形成されている。このような図11,12の容器部分31では、図8,9の容器部分31と同じ作用効果が得られるばかりでなく、吸着剤32が破過時間に達したときには前方部材31aのみを新しいものに交換して、後方部材31bは継続して使用できるという効果も得られる。
【0022】
図13は、実施形態の一例を示す図5と同様な図である。図13における容器部分31では、前面部21のうちの前方環状遮蔽部27aが、周壁部23の内面23aに沿って環を画いていて不織布39aとの間に第5クリアランスCを有する外側環状部分83と、外側環状部分83よりも径方向Mの内側において環を画いていて不織布39aとの間に第6クリアランスCを有する内側環状部分84を有する。外側環状部分83と内側環状部分84との間には寸法Dを有する段差73が形成されているので、前後方向Lにおいて、第5クリアランスCは第6クリアランスCよりも小さくなっている。この容器部分31では、通気部27bから進入しようとする外気が不織布39aに沿って径方向Mの外側へ流れて周壁部23の内面23aに向かう流路は、前後方向Lにおける寸法が段差73によって狭められているので、内面23aに沿う壁流の発生を抑制することができる。この容器部分31は、後面部22に後方環状遮蔽部22bを有し、その後方環状遮蔽部22bにも段差53を有していることによって、壁流の発生を抑制する作用が強くなるのであるが、それほどまでの作用を必要としない場合には、図13の容器部分31から後面部22における段差53を省くことも可能である。段差53を省いた後面部22では、第1クリアランスCを第2クリアランスCと同じ値にすることができる。また、図13の前方環状遮蔽部27a の内面には、図4において第1リブ41や第2リブ42として例示の径方向Lへ延びるリブを形成することもできる。さらにはまた、前方環状遮蔽部27a の内面に、段差73に代えて、図6に例示の環状の第4リブ44と第3クリアランスCとを形成したり、図8に例示の環状の第5リブ45と第4クリアランスCとを形成したりして、これら環状のリブとその外側とに外側環状部83を作り、その内側に内側環状部84をつくって壁流の発生を抑制することもできる。
【0023】
このように、この発明に係る吸収缶20では、前方環状遮蔽部27aと後方環状遮蔽部22bとのうちの少なくとも一方において壁流の発生を抑制することが可能である。
【0024】
表1では、図3〜5に例示の容器部分31を使用した実施例の吸収缶(タイプI)と、図6,7に例示の容器部分31を使用した実施例の吸収缶(タイプII)とについて、第1クリアランスCの値を変化させたときの性能が、比較例の吸収缶(タイプIII,IV,V)の性能と対比して示してある。性能の評価項目は、通気抵抗(Pa)と破過時間(分)とである。実施例における容器部分31には、内径Sが95mm、吸着剤32の前後方向Lの寸法(吸着剤32の厚さ)が20mm、前面部21の開口径Jが60mm、取付部34の内径が60mm、第1,第2リブ41,42の高さが3mm、第1リブ41の長さが7.5mm、第2リブ42の長さが5〜20mm、第1リブ41間の寸法Fが4〜4.5mm、第2リブ42間の寸法Gが3〜8mmのものを使用した。比較例の吸収缶における容器部分は、次のとおりのものである。実施例1の容器部分31と同じ寸法を有しているが、第1クリアランスCと第2クリアランスCとの寸法が同じであって3mmのもの(タイプIII)、容器部分は吸着剤32が充填されている部分における内径が95mmであるが後面部22は第1リブ41が形成されておらず、その後面部22の内径が80mmのもの(タイプIV)、容器部分は図6,7の如く第1リブ41と第2リブ42とが形成されているが環状の第4リブ44の頂部44dが不織布39bに接触していて第3クリアランスCが0mmであり第4リブ44の内径(図4における径Sに相当)が80mmであるもの(タイプV)とを使用した。実施例、比較例いずれの容器部分にも10〜20メッシュの活性炭を70g充填し、不織布39a,39bには厚さ0.5mmを有し通気性が良好なものを使用した。性能の評価に採用したその他の条件は、以下のとおりである。
【0025】
試験ガス(有毒ガス):シクロヘキサン
試験空気流量:30L/min
試験ガス濃度:3000ppm
試験ガスの最高許容透過濃度:5ppm
試験温度:20℃
試験湿度:50%RH
【0026】
【表1】

【0027】
図14,15は、通気抵抗の測定過程を示す系統図と、破過時間の測定過程を示す系統図である。図15においては、試験ガスを混合した空気の供給を開始してから、吸収缶を通過した混合空気における試験ガス濃度が5ppmに達するまでの時間を測定して、その時間を破過時間とした。
【0028】
表1において、実施例の吸収缶を比較例1の吸収缶と対比すると、実施例の吸収缶は通気抵抗がやや上昇する傾向にはあるが、破過時間が長くなる傾向は顕著である。また、実施例で採用したリブに代えて吸収缶の内径を実質的に小さくした比較例2,3の吸収缶では、破過時間が長くなる傾向は実施例と同様であるが、通気抵抗の上昇が大きく、好ましい結果が得られない。
【0029】
表1の実施例によれば、この発明に係る吸収缶20が、比較例の吸収缶と比べて、通気抵抗の上昇を抑えながら、破過時間を長くする効果を有していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】吸収缶が使用されている面体の側面図。
【図2】吸収缶の斜視図。
【図3】図2のIII−III線切断面を示す図。
【図4】図3のIV−IV線切断面を示す図。
【図5】図4のV−V線切断面を示す図。
【図6】実施形態の一例を示す図3と同様な図。
【図7】図6のVII−VII線切断面を示す図。
【図8】実施形態の他の一例を示す図3と同様な図。
【図9】図8のIX−IX線切断面を示す図。
【図10】図8のX−X線切断面を示す図。
【図11】実施形態の他の一例を示す容器部分の斜視図。
【図12】図11のXII−XII線切断面を示す図。
【図13】実施形態の他の一例を示す図5と同様な図。
【図14】通気抵抗測定の系統図。
【図15】破過時間測定の系統図。
【符号の説明】
【0031】
1 面体
20 吸収缶
21 前面部
22 後面部
22b 環状遮蔽部(後方環状遮蔽部)
23 周壁部
23a 内面
27a 環状遮蔽部(前方環状遮蔽部)
27b 通気部
31 容器部分
31a 前方部材
31b 後方部材
32 吸着剤
36 前面
37 後面
41 第1リブ
42 第2リブ
44 第1環状リブ
45 第2環状リブ
48a 外端部
48b 内端部
51 第1通気路
52 第2通気路
53 段差
62 支持部
73 段差
81 外側環状部分
82 内側環状部分
83 外側環状部分
84 内側環状部分
クリアランス(第1クリアランス)
クリアランス(第2クリアランス)
クリアランス(第3クリアランス)
スリット(第4クリアランス)
L 前後方向
M 径方向
N 周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気が流入する前面部と、前記外気がろ過された後に流出する後面部と、前記前面部と前記後面部との間に介在する非通気性の周壁部とによって円筒状の容器部分が形成され、前記容器部分が前記前面部と前記後面部とに交差する前後方向と、前記前後方向に直交する径方向と、前記周壁部をめぐる周方向とを有するものであって、前記容器部分には前記外気をろ過するための吸着剤が充填されていて、前記後面部が面体に取り付け可能に形成されている吸収缶において、
前記吸着剤は、前記前面部の内面と向かい合う前面と、前記後面部の内面と向かい合う後面とを有し、
前記容器部分は、前記前面部と前記後面部とのうちの少なくとも一方が、前記周壁部と一体になった状態で前記周方向へ環状に延びていて前記吸着剤の前記前面および前記後面のいずれかに対向して前記吸着剤を部分的に覆う環状遮蔽部と、前記径方向において前記環状遮蔽部の内側に位置する通気部とを有し、
前記前面部と前記後面部とのいずれかにおける前記環状遮蔽部は、前記径方向において、前記周壁部につながる外側環状部分と前記外側環状部分の内側に位置する内側環状部分とを有し、前記前後方向において、前記吸着剤との間にクリアランスを有し、前記外側環状部分と前記内側環状部分とが下記a,b,cいずれかの態様にあることを特徴とする前記吸収缶;
a.前記外側環状部分が前記吸着剤との間に前記クリアランスの一部分である第1クリアランスを有する一方、前記内側環状部分が前記吸着剤との間に前記クリアランスの一部分である第2クリアランスを有し、前記前後方向において前記第1クリアランスが前記第2クリアランスよりも小さくなるように前記外側環状部分と前記内側環状部分との間に段差が形成されている態様、
b.前記外側環状部分と前記内側環状部分との間には前記環状遮蔽部の内面から前記吸着剤に向かって起立して前記周方向へ延びる第1環状リブが形成されており、前記第1環状リブと前記吸着剤との間には、前記径方向における通気を可能にする前記クリアランスの一部分である第3クリアランスが形成されている態様、
c.前記外側環状部分と前記内側環状部分との間には、前記環状遮蔽部の内面から前記吸着剤に向かって起立して前記周方向へ延びる第2環状リブが形成されており、前記第2環状リブには、前記外側環状部分と前記内側環状部分との間の前記径方向における通気を可能にするスリットが前記クリアランスの一部分として前記周方向へ間欠的に形成されている態様。
【請求項2】
前記容器部分が、前記前面部と前記吸着剤とを含む前方部材と、前記後面部を含み前記前方部材が離脱可能に取り付けられている後方部材とによって形成され、前記前方部材には前記吸着剤の前記後面に当接して前記吸着剤を前記前方部材の後方から通気可能に支える支持部が形成されている請求項1記載の吸収缶。
【請求項3】
前記後方部材における前記後面部に形成された前記環状遮蔽部が前記支持部を介して前記吸着剤の前記後面に対向している請求項2記載の吸収缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−261785(P2009−261785A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117512(P2008−117512)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000162940)興研株式会社 (75)
【Fターム(参考)】