説明

吸引中のサンプルの異常粘性とピペット詰まりとの識別

吸引中の最大陰圧と取り出し前の平衡圧力の比を粘性に関連づけることにより、その中に詰まりを有する液体サンプルと異常に上昇した粘性を有する液体サンプルを識別する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器からある量の液体を吸引することに関し、さらに詳細には、詰まった液体サンプルと吸引中に異常に上昇した粘性を有する液体サンプルの識別を行うための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿、血清、血漿、脳脊髄液などのような生物学的な液体の化学分析や免疫学的検定を行うために、全自動の診断分析器が市販されている。一般的には、患者のサンプル中の分析物と分析中に用いられる試薬の間の反応は、患者のサンプル中の分析物の濃度が計算できるような信号を発生する。このような自動分析器は一般的に、目的とする量の液体サンプル又は液体試薬を、サンプル容器、試薬容器及び分析器に配置された反応セルのような容器間で移すために、試料採取チップ、プローブ又は針のような吸引手段を用いる。下文では、吸引するという用語の様々な使い方は、ある容器から液体を抜き取り、その液体の少なくともいくらかを同一か別の容器に入れるための全ての過程を指し、さらに液体の取り扱い操作を完了するのに必要な補助器具を含む。
【0003】
吸引器は典型的には細長い針状のプローブ又は中空の管を有するピペットで構成され、液体が吸引されかつ/又は適切なポンプ器具を用いてプローブから取り出される。ピペットは水平と垂直の動きを与える移動機構で運ばれて、ピペットの先端が貯蔵器の中の液体に下げられ、その液体を吸引し、別の場所に移動させられ、そこではその液体を取り出すための最適な位置までピペットが下げられる。ピペットの中に組み込まれえるピストン組み立て品のような、ある種の装置は、真空圧を用いて液体をピペットに吸引し、液体をピペットから取り出すために電気的に操作される。
【0004】
液体を吸引する際に、液体中の異常又は不均一性が吸引過程の全般的な良否に不都合な影響を与えているかどうかを正確に判定することが望ましい。特にその液体が分析しようとする体液のうちのひとつである場合、それらはしばしば不均一な混合物であるため、詰まりのような不均一性、詰まり、泡、異常な液体粘性、不充分な量などが液体の中に存在しえる。ここで用いられているように、用語「塊り(clot)」は吸引される液体中の物理的な集合体と関連する一方、「詰まり(clog)」は不充分なサンプル以外に液体吸引がうまく行われる事へのありとあらゆる物理的な障害であることに関連する。そのような不均一性の吸引過程への影響を判定するためにさまざまな方法が開発されてきた。
【0005】
本出願の譲り受け人に譲渡され、参考として、本明細書に組み込まれる米国特許No.6,370,942は、液体が吸引されたかを検証するための圧力差試験、詰まりと好ましくない細胞の吸引を確認する圧力回復試験及び、詰まり、空気の吸引、(血液細胞の吸引による)粘度変化などのような吸引中の異常を確認するための圧力形状試験(pressure shape test)を含む3つの別々の吸引試験を用いて、部分的または全面的な詰まり又は空気の吸引のような望ましくない事象が起こった場合の液体吸引の良否を評価する方法を開示する。
【0006】
米国特許No.6,022,747は、吸引中の真空度レベルに対応した電圧出力データをマイクロプロセッサーに与える、吸引配管上の圧力変換器を有する血液詰まり検知器を開示する。このマイクロプロセッサーは各々のサンプル吸引試験の圧力積分値を与えるために、吸引サイクル中に時間がたつと真空度示度を積分する。分析に供された試験サンプルの許容性は、参照圧力の積分値と各々の試験サンプルの圧力の積分値の所定の差に基づいている。
【0007】
米国特許No.5,540,081は、圧力センサーの付いたピペット器具に関するもので、複数の圧力差計算回路が異なる圧力計算期間における圧力差を得る。少なくともひとつの前述の識別回路が、得られた圧力差が識別限界値を越えている事を識別する時に詰まり検知警報信号を出力するための警報回路が含まれる。
【0008】
米国特許No.5,503,036は、自動化された液体サンプル吸引/押し出し装置のサンプルプローブの閉塞を検知する為の、閉塞検知回路に関するものである。接続導管内の圧力がサンプルの吸引又は押し出しの開始直後に測定され、吸引又は押し出しの完了後に再び測定される。もし圧力が所定の時間内に所定の範囲に戻っていない場合は、エラー状態が報告される。
【0009】
米国特許No.5,463,895は、サンプル表面上のあぶく又は泡、かつ/又はサンプルの表面上又は中の詰まりの存在のような、液体サンプル中の不均一性を検知する装置と方法を開示・提供する。この方法は、ピペット中の周囲空気の圧力を測定すること、ピペットが容器中のサンプルの方に移動するにつれ空気をピペットに吸引すること、及びかかる容器中の液体の表面レベルを表示するためにピペット中の圧力変化を監視することを含む。吸引後に圧力変化が測定され、所定の標準吸引圧力範囲と比較される。
【0010】
本出願の譲り受け人に譲渡され、参考として、本明細書に組み込まれる米国特許公開番号20070143063は、全域の吸引圧力曲線のプロフィールを判定する事により、かつその次にその実際とそのプロフィールの一部分への数学的近似値の差が、そこに詰まりがあると分かっているサンプルについて測定されたか又は所期の吸引量より少ない事が知られている吸引圧力曲線の線形回帰分析の誤差の標準偏差より少ないかどうかを数値解析で判定することにより、吸引過程の健全性を検証する方法を開示する。
【発明の概要】
【0011】
最先端の臨床分析が進歩するにつれて、吸引サンプル量はますます減少し、その結果異なる粘性の液体の圧力微分値がますます不規則に、または「雑音のように」なっている。加えて、より高い粘性の液体の圧力プロフィールは安定な終点値に達しない。この故に、詰まった液体サンプルと液体の吸引過程で異常に上昇した粘性を有する液体サンプルを識別する方法の必要性がある。
【0012】
それゆえに、詰まった液体サンプルと液体の吸引過程で異常に上昇した粘性を有する液体サンプルを識別する方法を与えることが本発明の目的である。これは、一番目に、吸引(真空)プロフィールの分析から最小サンプル量が存在することを確認することにより達成される。吸引圧力プロフィールの線形回帰分析により、吸引圧力プロフィールの短縮された最終部分に関する誤差の標準偏差が測定される。もし誤差の標準偏差があらかじめ決めておいた臨界値より大きい場合は、この吸引過程は、漏れとか欠陥のあるポンプなどの理由で失敗していたかもしれないし、または不充分な量、詰まり、泡立ち、泡または異常に上昇した粘性を有するサンプルに対して実施されていたかもしれない。詰まったサンプルと高粘性サンプルとを識別するために、吸引中の最大陰圧と取り出し前の平衡圧の比が計算される。この比が吸引される液体の粘性に対して予想外に直線的に相関している事はすでに見出されており、従って詰まった液体サンプルと異常に上昇した粘性を有するサンプルとを識別するために使われる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
別の目的や追加的な特徴と同様に本発明のよりよい理解のために、以下の種々の好適な実施態様の詳細な説明について、付随の図面を併用して言及する:
【図1】本発明が実施されるところの吸引システムの概略図である。
【図2】図1の吸引システムによって得られる典型的な吸引圧力プロフィールのグラフ表示で、好結果のサンプル吸引を可能にするための、充分な量で正常な粘性の詰まりが無いサンプルを示すものである。
【図3】図3のグラフ表示で、吸引圧力プロフィールの一部の線形回帰分析を示すものである。
【図4】サンプル粘性と図3の吸引プロフィールのために判定された圧力比の判定された関係のグラフ表示である。
【図5】ピーク圧力と図3の吸引プロフィールのために判定された圧力比の判定された関係のグラフ表示である。
【図6】図1の吸引システムによって得られる典型的な吸引圧力プロフィールのグラフ表示で、2つの詰まり無しのサンプル、1つの高粘性サンプル、及び詰まりのあるサンプルをシュミレートする濡れた紙玉を有する1つの水サンプルの200マイクロリッターの吸引物の圧力プロフィールを示すものである。
【図7】図1の吸引システムによって得られる典型的な吸引圧力プロフィールのグラフ表示で、所期の量より少ない吸引サンプルを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本出願の譲り受け人に譲渡され、参考として、本明細書に組み込まれる同時係属米国特許出願番号11/857,922で同様の説明がされるように、図1は容器16に収容されるサンプル液体14のような液体を吸引したり取り出したりする為のピペット12を含む本発明を実施するのに役立つ液体吸引と押し出しシステム10を示す。参考として組み込まれる特許及び特許出願を含む、本出願の譲り受け人に譲渡され、参考として、本明細書に組み込まれる米国特許出願番号11/941,204で同様の説明がされるように、かつ参考として組み込まれる特許及び特許出願を含む、本出願の譲り受け人に譲渡され、参考として、本明細書に組み込まれる米国特許出願番号10/862,507で同様の説明がされるように、ひとつのサンプル液体14が液体取り出しシステム10を説明する目的で示されているが、サンプル液体容器16はどんな個数でも自動化された臨床分析機器に存在する事は当業者には明白である。典型的な実施態様においては、液体吸引と取り出しシステム10は自動化された臨床分析機器で使用しうる(示されていない)。このような臨床分析機器は当技術分野で周知であり、当業者は確信をもってこの言及される分析機器の構成要素の機能を周知している。
【0015】
ピペット12は一般的に、そこを通して液体が空洞18に吸引され、かつそこを通して液体が取り出される、末端の開口部40で終わる円錐形に狭まるノーズ形状を有する交換式のピペット先端20を携えるのに適合した中心空洞18を含む。中心空洞18は先端をもったホルダーに連結している先端空洞にむかって開いている。相互的に、ピペット先端20は中心空洞18と一体でありうる。液体吸引と取り出しシステム10は、空洞18中で吸引中に真空圧を、取り出し中に正圧を発生させるために構成される吸引/取り出し圧力制御装置30をさらに含む。圧力源30はピペットに管26で接続され、そこの圧力は、関連した分析機器の操作を制御することに加えて本発明を実施するようにプログラムされたシステムコンピューターを使った制御装置24に結びついた圧力変換器28で監視される。圧力源30の典型は、管26とピペット先端20の反対にあるピペット12の上側に接続されているピストンの組み立て品32である。図1で見られるものと同様の吸引システム10は当業者には周知で、様々な構成要素とデザインで実施されうる。本特許を実施するには、ピペット12からの吸引と取り出しに真空圧が使用される事と吸引と取り出しが監視される事を必要とするのみである。
【0016】
液体吸引と取り出しシステム10は、どんな適切な種類でもよい、図式的に示された移送装置22を典型的に含む。移送装置22は分析器の中で、ピペットがピペット先端20(使い捨ての先端が使われている場合)を持ち上げ、サンプル液体貯蔵器16又は管16から液体14をピペット先端20に吸引し、かつ所期の量のサンプル液体を分析セル38へ取り出す事ができるように、ピペット12を横方向(X方向)、縦方向(Z方向)及び前面から後面(Y方向)に動かすことができる。一般的には、ピペット12の移動を制御する為に、移送装置22の中でステッピングモーター、電気的ドライバー回路、インターフェース回路及びリミットスイッチが使用され、これらはシステムコンピューター24に接続されている。
【0017】
示されているように、ピペット12は、液体14を保持する空洞18と、コンピューター24からの命令に応答する可変真空圧力をピペット12の至るところに発生させるために真空圧力測定装置又は変換器28と圧力制御装置30に接続されている管26を有している。本特許では、ステンレス鋼のような金属又はポリプロピレンや類似の材料のようなプラスチックで作られているピペット12と、ビニール、ポリプロピレン、金属などで作られている管26を用いることができる。圧力測定装置28は、本発明の吸引手順の間ずっと、連続的のみならずまた一定期間ごとに、ピペット12の中の空気圧力を測定する。典型的な圧力測定装置28は、管26の中で測定された空気圧力をコンピューター24に供給するためにコンピューター24に接続された圧力変換器(SenSym, Miltipas, Calif.からのModel SCXL004DN)である。
【0018】
典型的な吸引圧力制御装置30は、注射器ピストンの動きを制御し、圧力制御装置30をして管26を通して空気の吸引と取り出しをせしめることができるステッピングモーター34及びエンコーダー又は自家製のリミットスイッチ(示されていない)に機械的に接続されるピストン注射器装置である。吸引圧力制御装置30と圧力感知装置28は、液体吸引システム10の操作を制御するために用いられるコンピューター24に電気的に接続される。コンピューター24は、ピペット先端24への吸引及びピペット先端24からの液体の取り出しに加えて、移送装置22を用いてのピペット12の動きを制御をする信号も供給する。
【0019】
そのような例では、図1に示すように、圧力制御装置30は、閉じた室内36の中でピストン34を前進させたり引っ込めたりするためのモーター32に接続されたピストン34を含む。ピストン34の下向きの動きは、結果的に室内36の容積を増加させることにつながり、相互接続した管26、空洞18及びピペット先端20から液体14をピペット先端20に吸引するための空洞18に空気を引き込む室内36の中で真空又は陰圧を作り出す。ピストン36を室内36に前進させると室内36の容積が減少し、空気の正圧を与え、その結果、室内36から相互接続した管26、空洞18及び、ピペット先端20へ空気を押し出し、ピペット先端20から先端開口部経由で分析セル38に液体が放出され取り出される。簡単にいうと、ピペット12が分析セル38の上に設置され、あらかじめ吸引された液体14が分析セル38の中に取り出されるときには、図1は移送装置22と管26を点線で示す。ピストン36は、液体14のピペット12への吸引と液体14のピペット12から分析セル38への取り出しを与える。
【0020】
本発明の実施においては、吸引と取り出し過程で発生する圧力プロフィールを分析することにより吸引されたサンプル液体14の粘性を判定するために、吸引圧力制御装置30と圧力感知装置28はコンピューター24で制御され、分析される。吸引されたサンプル液体14の粘性は、以下のごとく、下記でそのさらなる詳細が説明されるように、一連の数学的解析を用いて判定される。
【0021】
例えばA/D(アナログ信号をデジタルデータに変換する)変換器を用いて、圧力データが吸引と取り出しサイクルの間にリアルタイムに集められる。典型的な実施態様においては、アナログ入力サブシステムが圧力感知装置を一定の時間速度で(例えば500Hzで)読み、各々の読み込みをスタンプし、最終的な吸引データ一式への算入のために読み込みをバッファーリングする。吸引過程に並行して、圧力データは定期的にアナログサブシステムバッファーから吸引データ一式に転送される。吸引データ一式は、ポンプ操作の初めの部分の前とその間に発生する一連の時刻がスタンプされた圧力の読みで構成されている。各々のイベント処理(吸引サイクルの開始、ポンプサイクルの開始、吸引圧力読み込み終了)はデータ一式中にマークされる。イベント処理と密接な連結を得るために、データはそれらのイベントと同期しているアナログサブシステムからも読み込まれる。そうして、結果として得られた吸引データ一式は、吸引と取り出し過程の分析を可能にする複数の時刻がスタンプされた圧力とイベントマーカー含む。
【0022】
サンプル液体14の上部表面部分の検知はシステム10を用い、当業者には周知の容量レベル検知技術と、本出願の譲り受け人に譲渡され、参考として本明細書に組み込まれる米国特許番号7,150,190で説明される同様のものを用いて実施することができる。その中で開示された技術は、液体レベル検知器のキャパシタンスのどんな変化も、与えられた時間期間を通して再現性があり一定であり、その結果実際のプローブと液体の接触で引き起こされていて、スプリアスな電気的外乱又は他の測定異常で引き起こされたものではないことを検証しているため、液体レベル検知器の中のキャパシタンス変化はプローブと液体の本当の物理的な接触のみでひきおこされていることを確認している。
【0023】
貯蔵器16の中の液体レベルが判定されるとすぐに、サンプル吸引が始まる。吸引圧力制御装置30によって発生する真空は、サンプル液体14をピペット先端20に汲み上げる。サンプリングする時には、ピペット12がサンプルのレベルに従って貯蔵器16まで下降し、先端20を液体14に浸漬させたままにする。貯蔵器16の直径によって異なる下降速度が用いられる。吸引が完了した後、以下で説明するように圧力プロフィールが調べられ、ピペット先端20は液体サンプル14から引っ込められる。最後に、吸引圧力制御装置30を用いて真空圧力を減少させることにより、ある量の吸引されたサンプル液体14がセル38に取り出される。
【0024】
図2はよく知られた吸引圧力プロフィールを説明するもので、図1の吸引システムで得られる典型的な吸引圧力プロフィールをグラフで表現したものであり、好結果のサンプル吸引を可能にする、充分な量と正常な粘性を有する詰まりのないサンプルを示す。ここで使われているように、サンプル粘性に適用される「正常」と「上昇した」という用語は、患者のサンプル中にみられる液体に適用される通常の意味を有すると一般的に理解されているもので、「正常」とは2から12センチポアズの範囲の粘性を意味し、「異常又は上昇した」とは約15センチポアズより大きい粘性を意味する。加えて、ここで用いられる用語「詰まり」は不充分なサンプル量以外の好結果のサンプル吸引へのどんな物理的な障害にもあてはまり、かつこの用語「詰まり」は、通常部分的または全面的なピペット先端20の閉塞の結果として好結果のサンプル吸引を阻むサンプル液体中の物理的集合体にあてはまる。
図2における吸引過程は以下の事象を含む:
P1 =液体14のピペット12への吸引前の基本圧力
Pb =液体14のピペット12への吸引開始時の相対圧力
Pa =実際の吸引中の相対圧力測定値範囲
Ppk =液体のピペット12への吸引中のピーク圧力
Peq =吸引後と取り出し前の平衡状態における相対圧力
Pd =液体のセル38への取り出し中の相対圧力
【0025】
吸引過程に影響することが知られているパラメーターのひとつは吸引される液体14の目的とする量である。いくつかある操作の中で特に、具体的にはPbがはっきりした後に所定の時間の長さの間吸引圧力制御装置30を操作することにより、液体吸引システム10がこの目的とする量を供給するように制御するようコンピューター24がプログラムされている。これが時間周期「吸引と取り出しサイクル時間」で、その周期内で液体のピペット12への吸引中に圧力測定が行われ、液体14の吸引前の圧力Pに再度達する時点で終了する液体のセル38への取り出しが行われる。
【0026】
下記でそのさらなる詳細が説明されるように、本発明は、充分なサンプル液体14がピペット12の中に吸引された事を確認するために最初に吸引圧力(真空)プロフィールを分析する事により、吸引された液体の粘性かつ/又はその中の詰まりの存在を判定するために、吸引と取り出し過程を監視する。次に、吸引圧力プロフィールの線形回帰分析により、吸引圧力プロフィールの短縮された最終部分に関する誤差の標準偏差が測定される。もし誤差の標準偏差があらかじめ決めておいた臨界値より大きい場合は、サンプル液体は詰まっているか、または異常に上昇した粘性を有すると断定される。詰まったサンプルか高粘性サンプルかを識別するために、吸引中の最大陰圧と取り出し前の平衡圧力の比が計算される。最後に、この比は吸引された液体の粘性が正常な限度内にあるかを確かめるために使われ、かつ、従って詰まった液体サンプルか異常に上昇した粘性を有するサンプルかを識別するために使われる。
【0027】
ピペット先端20が詰まりで閉塞していないこと、及び液体14が正常な範囲にあることを確かめるための本過程における最初の手段は、吸引中のピーク圧力Ppkを計算することによって達成され、そのピーク圧力Ppkは圧力ピークの絶対強度から基本圧力Pを引いたものである。この圧力ピークPpkは吸引中に経験される最大陰圧で、吸引/取り出し圧力制御装置30が目的とする液体量を吸引した後の真空圧力を増加させることをやめた時のPbのおよそ後の時点で現れる。図1で示される実施態様においては、ピストン組立品32の動きが止まる。この基本圧力Pは空のピペット12が液体14に挿入される直前に得られる平均圧力示度である。ピーク圧力Ppkだけではピペット20の詰まりと高すぎる粘性を有するサンプル液体14を正確に識別できない。
【0028】
図6に見られるように、ピーク圧力Ppk近傍の圧力プロフィールは、サンプル液体が水のような低粘性のものか、又は典型的には18.5cpのグリセロールのようなはるかに高い粘性のものか、あるいは詰まりをシミュレートするためにそこに濡れた紙玉を有する水のような低粘性のサンプル液体であるかにかかわらず、似たようなプロフィールを有する。経験的に判定されたピーク圧力Ppkの上限は、ピペット先端20が詰まっているかサンプル液体の粘性が最低値より高いかを断定するためにしか使われないかもしれない。
【0029】
次に、本出願の譲り受け人に譲渡され、参考として、本明細書に組み込まれる同時係属米国特許出願番号11/311,532で説明されるように、実測された吸引圧力プロフィールと吸引中の特定時における「正常な、エラーの無い」吸引の吸引圧力プロフィールの差が断定される。時間間隔Paに関して測定された吸引圧力プロフィールは直線的であることが観測されている。この直線性からのどんな逸脱も、吸引中に好ましくないできごとがあった事を示唆している。直線性から逸脱を定量化するひとつの方法は、線形回帰線LRLを実測された吸引圧力プロフィールに一致させ、その次にLRLと実測された吸引圧力値との回帰の標準偏差を計算することである。このようにして、吸引圧力プロフィールに関する誤差の標準偏差は、異常又は不均一性がないプロフィールと測定されたプロフィールが一致するかどうかを評価する。しかしながら、誤差の低い標準偏差はそれ自体では好結果なサンプル量吸引の指標にはならない。例えば、特にもしサンプルが不充分な吸引量しかなかったとしたら、模擬詰まりの場合の誤差の標準偏差は、図7で概略的に示されるように非常に小さくなる。
【0030】
誤差は確率的誤差と系統誤差部分からなり、分散誤差と偏り誤差と呼ばれる。(N. R. Draper and H. Smith, "Applied Regression Analysis," John Wiley & Sons, 1966, pp. 36 . . .) 本発明ではどちらの誤差も吸引された液体の異常又は不均一性を示す。誤差の高い標準偏差はサンプルが異常であったかもしれない又は不均一性を有したかもしれなかった事を示唆すると思われる。誤差の標準偏差が与えられた値を越えるか越えないかを評価するための多数の他のよく知られた数学的手順が存在する。(Abraham Wald, "Sequential Analysis," Dover Publications, 1947, pp. 125)
【0031】
実例となる実施態様においては図3に示されるように、時間間隔Paに関して測定された実際の圧力値の変動の一つの指標として、好結果のサンプル吸引を可能にするための充分な量で正常な粘性の詰まり無しサンプルがあらかじめ決められている線形回帰線LRLから、誤差の分散が計算される。誤差の分散RVは下記の式で与えられ、yは圧力の実測値、y’はLRLの式から計算された圧力、y−y’は誤差でnはデータ点の数である。
(RV) =(y−y’)2n−2
【0032】
「充分な量と正常な粘性の正常なサンプル」に対して吸引過程が実施され、それがピーク圧力Ppkと誤差分散の両方の必要条件を満たすとき、ピペット先端20の閉塞と異常に高い粘性を有する液体サンプルを識別するために、新しく定義されたピーク/平衡比試験が実施できることがわかっている。このピーク/平衡比試験の第1段階は、吸引後の平衡状態の相対圧力Peqに対するピーク圧力Ppkの比を計算することである。典型的な実施態様においては、吸引と取り出し圧力値が2ms毎に測定され、PeqはPdの開始直前の最後の50圧力示度の平均から基本圧力を引いたものである。図4は、液体サンプルの粘性をピーク/平衡比の関数として経験的に見出した関係である。ピーク圧力Ppkが、ピペット先端20の詰まり閉塞又は高すぎるサンプル粘性の理由で圧力試験の上限を越えていたかどうかを断定することは、図4に示されている関係よりまずサンプル粘性を断定することにより達成される。5、11、と19センチポアズの粘性を有するサンプルについて図5で示されるように、経験的に判定された結果は、もしサンプル粘性が約10センチポアズより高い場合、高すぎる粘性を有するサンプルの結果として、水平の点線で示されるピーク圧力Ppkの上限が越えられることがあらかじめ決まっている(predetermine)。もしサンプル粘性が10センチポアズを越えないがピーク圧力Ppkが圧力試験の上限を越える場合、装置の故障がないのであればサンプルに詰まりがあってピペット先端20を閉塞していたことになる。
【0033】
吸引過程が次に説明するデルタ圧力(Delta-Pressure)と前述の誤差分散必要条件試験に合格した後に適用されると、この上昇したサンプル粘性と詰まったサンプルの識別は最も効果的なものになる。
【0034】
Pendの直前の時間期間を含む吸引サイクルの限られた部分に関して不足しているサンプルのための空気の吸引について、デルタ圧力過程は吸引過程を監視する。図7は、図1の吸引システムで得られる吸引圧力形状のグラフ表示で、本発明と一致する好結果のサンプル吸引を可能にするための量が不充分なサンプルを説明している。本発明は、Pendの範囲内で、もし不充分なサンプルに出会った場合、圧力変換器28で測定された圧力が、図7で「Pss」と特定される一般的に水平線で示されるように水平になるという事実に基づいている。コンピューター24のシステム負荷を軽減するために、Pbで始まってPendで終わる吸引サイクルの全体の約20パーセントの範囲にはいるようにPend範囲が一般的に選択されている。PbとPpkの差が所定の値を越える場合に限り、吸引過程が充分な量のサンプルに実施されたと断定される。図7の破線、は正常な吸引過程を示したもので、正常と不充分な吸引過程の全体の形を対比する為に含まれる。
【0035】
当業者は、ここで開示された発明の実施態様は発明の原理を示したもので、かつそれでもこの発明の範囲の中にはいっているところの他の変更を採用することができることを、十分理解する。例えば、ノズル先端20の直径かつ/又は管26の変化、圧力源30の種類の変更の結果として、上限Ppk値がここで説明されているものより変化することが予想される。従って、本発明は、当明細書に示されかつ説明されている実施態様に限定されなく、下記の請求項のみに限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引と取り出し過程中の患者の液体サンプルの詰まった状態と上昇した粘性を識別する方法であって、
前記液体サンプルに関しての前記吸引及び取り出し過程を表す圧力曲線のプロフィールを判定すること、
前記プロフィールの取り出し部分の前の平衡圧力値に対する前記プロフィールの吸引部分中にみられるピーク圧力値の比を計算すること、および
前記比から前記患者の液体サンプルの粘性を判定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記患者の液体サンプルの粘性が所定の最大粘性値より小さいかを判定し、かつ患者の液体サンプルは詰まった状態を有さないことを前記方法により確かめることをさらに含む
請求項1記載の方法。
【請求項3】
吸引と取り出し過程中の患者の液体サンプルが詰まった状態か上昇した粘性の状態かを識別する方法であって、
前記液体サンプルに関しての前記吸引及び取り出し過程を表す圧力曲線のプロフィール を判定すること、
前記プロフィールの取り出し部分の前の平衡圧力値に対する前記プロフィールの吸引部分中にみられるピーク圧力値の比を計算すること、
前記比から前記患者の液体サンプルの粘性を判定すること、および
前記患者の液体サンプルの粘性が所定の最小粘性値より大きいかを判定すること
を含む方法。
【請求項4】
患者の液体サンプルが上昇した粘性を有することを前記方法により確かめることをさらに含む
請求項3記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−519035(P2011−519035A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506450(P2011−506450)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/041538
【国際公開番号】WO2009/132189
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(508147326)シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】