説明

吸水性全芳香族ポリエステル繊維

【課題】
高吸水性かつ加工工程通過性、耐摩耗性に優れ、さらには高吸水性樹脂が吸水した後でも強度低下を起こさない高強力・高弾性率繊維を提供する。
【解決手段】
繊維表面の少なくとも一部に高吸水性樹脂およびオルガノポリシロキサンがフィルム状にコーティングされた全芳香族ポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高吸水性かつ耐摩耗性、加工工程通過性の優れた全芳香族ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度・高弾性率繊維は光ケーブルのテンションメンバーとして用いられるが、近年、該繊維に吸水性高分子を付着させ、光ケーブルに水が浸入した場合に毛管現象により縦方向に水が拡散するのを食い止める機能を付与した高強力・高弾性率繊維が多く用いられている。
【0003】
前記したような高強力・高弾性率繊維としては、例えば、粒径100ミクロン未満の高吸水性樹脂と高膨潤剤およびオイル等の分散液を含有する水遮断性材料でコートされた繊維が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、特許文献1で記載されているような方法では、高吸水性樹脂の粉砕工程が必要な上に、繊維表面に粒子状に付着しているために加工工程中で脱落することが多く、繊維へ均一に付着することが難しく、付着斑が発生し易い、耐摩耗性に劣る等の問題点があった。
【0004】
また、油中水形エマルジョン中の水中に高吸水性樹脂を含有させて樹脂を付着させた繊維が開示されている(例えば、特許文献2〜3参照。)。しかし、これらの方法は油除去が容易ではなく、油除去時に防爆設備を用いなければならず、設備が過大となり、安全性に劣る。また、これら特許文献1〜3にある高強力・高弾性率繊維としてはアラミドなどの全芳香族ポリアミド繊維が該当するが、アラミドなどの全芳香族ポリアミド繊維は、高吸水性樹脂が吸水した後に強度低下を起こす、耐摩耗性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−528986号公報
【特許文献2】特開平4−263670号公報
【特許文献3】特表平7−504463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高吸水性かつ加工工程通過性、耐摩耗性に優れ、さらには高吸水性樹脂が吸水した後でも強度低下を起こさない高強力・高弾性率繊維を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、全芳香族ポリエステル繊維の表面の少なくとも一部に高吸水性樹脂および特定のシリコン系膨潤剤をフィルム状にコーティングすることで、得られる繊維は高吸水性でありながら耐摩耗性に優れるとともに、高吸水性樹脂が吸水した後でも強度低下を起こさず、かつ加工工程通過性の良好な高強度・高弾性率繊維が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は繊維表面の少なくとも一部に高吸水性樹脂およびオルガノポリシロキサンがフィルム状にコーティングされた全芳香族ポリエステル繊維であり、好ましくは高吸水性樹脂がポリアクリル酸の部分的あるいは全体に中和された架橋体からなり、さらにはオルガノポリシロキサンが重合度50000〜200000のオルガノポリシロキサンである上記の全芳香族ポリエステル繊維である。
【0009】
また本発明は、ポリアクリル酸の部分的あるいは全体に中和された化合物とポリエチレンイミンの水溶液とオルガノポリシロキサンおよび界面活性剤からなる水溶液を全芳香族ポリエステル繊維に付着、乾燥させた後、加熱して架橋させることにより吸水性を付与する上記の全芳香族ポリエステル繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高吸水性樹脂とオルガノポリシロキサンが全芳香族ポリエステル繊維表面にフィルム状にコーティングされているので耐摩耗性に優れ、さらには高吸水性樹脂が吸水した後でも、従来の高強度・高弾性率繊維であるアラミドなどの全芳香族ポリアミド繊維に比べて強度低下を起こさないので光ケーブルのテンションメンバーに用いた場合に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。代表的な高強力・高弾性率繊維としては、全芳香族ポリアミド繊維(いわゆるアラミド繊維)、全芳香族ポリエステル繊維(いわゆるポリアリレート繊維)が挙げられるが、本発明においては全芳香族ポリエステル繊維であることが、高強度・高弾性といった特徴に加え、吸湿性が低い、耐摩耗性に優れる、切断し難い、衝撃吸収性に優れるなどの特徴を有する点から必要である。
【0012】
本発明にいう全芳香族ポリエステル繊維とは、溶融相において光学的異方性(液晶性)を示す芳香族ポリエステルあるいは芳香族ポリエステルアミドであり、例えば試料をホットステージに載せ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0013】
本発明で用いる全芳香族ポリエステルは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸の反復構成単位を主成分とするものや、上記構成単位に芳香族ヒドロキシアミンを加えた反復構成単位を主成分とする全芳香族ポリエステルアミドを包含する。
【0014】
また本発明で用いる全芳香族ポリエステルには、本発明の効果が損なわれない程度に、他の芳香族、脂環族、脂肪族のジオール、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ジアミン、ヒドロキシアミン等を含んでいてもよい。具体的には、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジオキシナフタレン、ベンゼンジアミン等が挙げられる。しかしながら、これらのモノマ−が10モル%を越えると本発明の効果は損なわれるおそれがある。
【0015】
本発明で用いられる全芳香族ポリエステルの融点(Tm)は260〜380℃であることが好ましく、270〜350℃であることがより好ましい。ここでいう融点とは、JIS K7121試験法に準拠し、示差走査熱量計(DSC:例えばメトラー社製TA3000)で観察される主吸熱ピークのピークトップ温度である。
【0016】
本発明に用いられる全芳香族ポリエステルポリマーとして好ましい例は下記化1(P)、(Q)の繰返し構成単位からなるポリマーである。
さらに好ましくは、下記[A]、[B]、[C]、[D]、[E]の反復構成単位からなる部分が90モル%以上であり、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比を有する全芳香族ポリエステルアミドで構成された繊維である。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
本発明の全芳香族ポリエステル繊維は、常法によりポリマーを溶融紡糸して得られるが、該芳香族ポリエステルの融点よりさらに10℃以上高い紡糸温度(かつ溶融液晶を形成している温度範囲内)で、剪断速度10sec−1以上、紡糸ドラフト20以上の条件で紡糸するのが好ましい。かかる剪断速度および紡糸ドラフトで紡糸することにより、分子の配向化が進行し優れた強度等の性能を得ることができる。剪断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔当たりのポリマーと吐出量をQ(cm/sec)とするときr=4Q/πrで計算される。ノズル横断面が円でない場合には、横断面積と同値の面積を有する円の半径をrとする。
【0020】
強度、弾性率、耐摩耗性、耐疲労性等を向上させるために、紡糸原糸を熱処理および/あるいは延伸熱処理する必要がある。熱処理は、不活性雰囲気のみで行っても良いし、途中から活性雰囲気化で熱処理を行っても良い。なお、不活性雰囲気下とは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中あるいは減圧下を意味し、酸素等の活性ガスが0.1体積%以下であることをいう。また活性雰囲気下とは、酸素等の活性ガスを1体積%以上含んでいる雰囲気を言い、好ましくは10体積%以上の酸素含有気体であり、コスト的には空気を用いることが好ましい。水分が存在すると加水分解反応も併行して進行するので、露点が−20℃以下,好ましくは−40℃以下の乾燥気体を使用する。
【0021】
好ましい熱処理の温度条件は、溶融紡糸前のポリマーの融点Tm対して、Tm−35℃からTm−2℃の温度範囲であり、このような温度条件で加熱することにより高温下において高い強度をおよび弾性率を実現できる全芳香族ポリエステル繊維を得ることができる。また、加熱処理は、一定の温度で行っても良いし、加熱により漸進的に上昇する繊維の融点にあわせて、順次昇温してもよい。また、熱処理条件は、単繊維繊度(dtex)あたりに加熱された、(融点との温度差:℃)と(加熱時間:時間)との積によって表わすことも可能であり、この場合、50≦(融点との温度差)×(加熱時間)/(単繊維繊度)≦100程度の熱処理により、本発明で規定する特定の全芳香族ポリエステル繊維を得ることが可能となる。熱の供給は、気体等の媒体によって行う場合、加熱板、赤外ヒーター等による輻射を利用する方法、熱ローラー、プレート等に接触させて行う方法、高周波等を利用した内部加熱方法等があり、目的により、緊張下あるいは無緊張下で行われる。処理の形状は、カセ状、チ−ズ状、トウ状(例えば金網等にのせて行う)、あるいは、ローラーの連続処理によって行われ、繊維の形態としてはフィラメント、カットファイバ−いずれも可能である。
【0022】
本発明の全芳香族ポリエステル繊維には、必要に応じてポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエステルケトン、フッソ樹脂等の熱可塑性ポリマーを含有していても良く、酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
本発明においては前記全芳香族ポリエステル繊維の繊維表面の少なくとも一部に高吸水性樹脂およびポリシロキサンがフィルム状にコーティングされていることが重要である。吸水性樹脂が粒子状である場合、繊維へ均一に付着することが難しく、付着斑が発生しやすい。また、コーティング形態がフィルム状でない場合、例えば繊維表面に粒子状に付着している場合は加工工程中で粒子が脱落しやすいため、耐久性に問題がある。
【0024】
本発明で用いる高吸水性樹脂としては、架橋され、部分的に中和されたポリアクリル酸、架橋され、部分的に中和されたデンプンアクリル酸グラフトポリマー、架橋され、部分的に中和された、イソブチレンおよび無水マレイン酸のコポリマー、ビニルアセテート−アクリル酸コポリマーの高吸水性樹脂ケン化生成物、アクリルアミドポリマーまたはアクリルアミドコポリマーの水解物、アクリロニトリルコポリマーの水解物、これらの混合物、またはこれらのコポリマーなどが挙げられる。さらに高吸水性樹脂の具体的な例としては、部分的または全体に中和され、部分的または全体に架橋されたポリ(アクリル酸)誘導体(PACA)、部分的または全体に架橋された、ポリ(ナトリウムまたはカリウムアクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホネート)誘導体(PAMPS)、部分的または全体に架橋された、ポリ(クロロトリメチルアミノエチル−アクリレート)誘導体(PCTA)、部分的または全体に架橋された、ポリ(アクリルアミド)誘導体(PAAD)、それらの混合物、またはそれらのコポリマーなどが挙げられる。
【0025】
本発明で用いるオルガノポリシロキサンは、下記式(I)により示される繰返し単位からなる。
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、X1,X2,X3及びX4は、それぞれ同一または異なって、−H、−OH,−COOH、−R、−NH、−ROH、−RCOOH、または−RNHを表し、Rはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基などのC1−5アルキル基)またはアリール基(例えば、フェニル基)を示す。またm,nは1以上の整数を示す。)
【0028】
本発明で用いるオルガノポリシロキサンは、耐摩耗性、脱落防止性の点から、平均重合度が50000〜200000である高重合度グレードであることが好ましい。
【0029】
高吸水性樹脂の繊維へのコーティング方法としては、高吸水性樹脂の前駆体であるポリアクリル酸の部分的あるいは全体に中和された化合物とポリエチレンイミンとオルガノポリシロキサンおよび界面活性剤からなる水溶液をオイリングノズルにて繊維表面に均一に付着させた後、80℃以上の温度にて乾燥後、熱処理することにより架橋させる方法が挙げられる。前記コーティング方法を用いることにより、繊維表面の少なくとも一部に高吸水性樹脂およびオルガノポリシロキサンをフィルム状にコーティングすることができる。
前記コーティング方法において熱処理を行わない場合は架橋反応が進行しないため、本発明の目的とする高吸水性の繊維が得られない。
【0030】
前記コーティング方法にて用いる界面活性剤としてはノニオン系、アニオン系及びカチオン系などの界面活性剤を用いれば良い。たとえばポリオキシエチレンアルキルフェニルエ−テル、第4級アンモニウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。界面活性剤の使用量はポリシロキサン100質量部に対して1〜50質量部程度が適当である。
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。
【0032】
[強度および弾性率]
JIS L1013に準じ、試長20cm、初荷重0.1g/d、引張速度10cm/minの条件で破断強伸度及び弾性率(初期引張抵抗度)を求め、5点以上の平均値を採用した。
【0033】
[吸水率]
繊維サンプルを約5m採取して、10分水に浸漬、その後遠心脱水した後重量を測定した。
その後70℃4時間熱風乾燥後70℃で2時間真空乾燥を行い、乾燥後重量を測定した。 吸水率={(脱水後重量−乾燥後重量)/乾燥後重量}×100
【0034】
[耐摩耗性]
試験糸1本を無撚で反転プーリーと他端のフリーローラーとの間に3回撚り合わせることで8の字状に取り付け、フリーローラーに10kgの荷重をかけ、105回/分の速度の反転プーリーで試験糸を往復拠り合せ摩耗させて切断までの回数を測定する。
【0035】
[参考例1]
<繊維の準備>
p−アセトキシ安息香酸[A]60モル、6−アセトキシ−2−ナフトエ酸[B]4モル、テレフタル酸[C]18モル、4,4’−ビスフェノ−ル[D]14モル、およびp−アミノフェノ−ル[E]4モルから溶融異方性芳香族ポリエステルアミドを得た。このポリマーの融点は340℃であった。該ポリマーを、ノズル径0.1mmφ、ホ−ル数200個の口金より、紡糸温度360℃、紡糸速度1000m/minで溶融紡糸し、1580dtex/200fのフィラメントを得た。
得られた紡糸原糸の繊維性能は、
強度 (DT)=7.5cN/dtex
伸度 (DE)=1.5%
弾性率 (YM)=580cN/dtex
であった。
得られた紡糸原糸を180℃に均一化した後4時間で300℃まで昇温し、300℃で8時間熱処理を行った。得られた繊維性能は
強度 (DT)=21.5cN/dtex
伸度 (DE)=2.8%
弾性率 (YM)=740cN/dtex
であった。
【0036】
[参考例2]
<吸水性樹脂溶液液の準備>
(1)水酸化ナトリウム30.5gに水962.5g添加し、溶解する。
(2)上記(1)の溶液中にポリアクリル酸(ジュリマーAC−10LHPK(東亜化学社製))74.5gを徐々に攪拌・溶解させる。
(3)ポリエチレンイミン(エポミンSP−200(日本触媒社製))1.125gを採取し、水50gに溶解させる。
(4)上記(2)の溶液中に上記(3)の溶液を徐々に攪拌しながら添加し均一になるまで攪拌する。攪拌後の溶液は約9質量%濃度の溶液である。
【0037】
[参考例3]
<オルガノポリシロキサン水溶液の準備>
重合度100000のオルガノシリコンエマルジョン水溶液(松本油脂製薬(株)シリコンソフナー318)を薄め、12%溶液を作成した。
【0038】
[参考例4]
<吸水性樹脂の繊維への付与>
参考例1で得られた繊維1580dtex/200fを無撚りで20m/minで解舒し、吸水性樹脂溶液とオルガノシリコン水溶液の混合物を所定付着量になる様に計量しながらオイリングノズルにて付着し、120℃の熱風炉で18秒かけて乾燥し、200℃の熱風炉で熱処理を連続的に行った。
【0039】
[実施例1]
参考例1で得られた繊維に対し、参考例2の吸水性樹脂が2.5質量%、参考例3のオルガノポリシロキサンが1.0質量%となるように付与し、参考例4の条件にて乾燥、熱処理を行った。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
参考例1で得られた繊維に対し、参考例2の吸水性樹脂が5.0質量%、参考例3のオルガノポリシロキサンが1.0質量%となるように付与し、参考例4の条件にて乾燥、熱処理を行った。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
参考例1で得られた繊維に対し、参考例2の吸水性樹脂を2.5質量%付与し、一方、参考例3のオルガノポリシロキサンを付与せずに、参考例4の条件にて乾燥、熱処理を行った。結果を表1に示す。
【0042】
[比較例2]
参考例1で得られた繊維に対し、参考例2の吸水性樹脂が2.5質量%、参考例3のオルガノポリシロキサンが1.0質量%となるように付与し、参考例4の条件において乾燥のみを行った。結果を表1に示す。
【0043】
[比較例3]
ケブラーT49(東レ・デュポン社製)に対して、参考例2の吸水性樹脂が2.5質量%、参考例3のオルガノポリシロキサンが1.0質量%となるように付与し、乾燥、熱処理を行った。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例4]
参考例1で得られた繊維に対し、エステルオイル潤滑剤を主成分とする乳化剤にて乳化したアクアキープ10SH・NF(住友精化社製:粒子径20〜30μm)を付着量2.5質量%となるように付着させ、乾燥、熱処理を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例5]
参考例1で得られた繊維に対し、特許文献3にあるMirox W 45985(Chemische Fabrik Stockhausen GmbH製)70質量部、Span85(ICI Holland B.V.製)10質量部、Exxol D80(Exxon Chemical Holland B.V.製)20質量部、を2.5質量%になるように付与し、乾燥、熱処理を行った。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すとおり、本発明の繊維は、吸水率が高く、しかも吸水後の繊維強度が吸水前と比べて低下しておらず、したがって吸水後の耐久性に優れる。
一方、比較例1では参考例4の工程において、オルガノポリシロキサンを付与していないため、ローラーに固定した樹脂で糸がとられ、単糸切れをおこした。また、得られた繊維は耐摩耗性が著しく劣っていた。比較例2は参考例4の工程において熱処理を行わず乾燥のみであるため架橋反応が起こらず、そのため吸水率が著しく低く、本発明の目的とする繊維は得られなかった。
比較例3は高強度・高弾性率繊維がアラミド繊維であるため、吸水後の繊維強度に低下が見られた。比較例4は高吸水性樹脂が粒子状であるため、工程通過性が悪いだけでなく、耐摩耗性が著しく劣っていた。比較例5は油中水形エマルジョン中の水中に高吸水性樹脂を含有させて樹脂を付着させた繊維であるが、耐摩耗性が著しく劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、高吸水性樹脂とオルガノポリシロキサンが繊維表面にフィルム状にコーティングされているので耐摩耗性に優れ、さらには高吸水性樹脂が吸水した後でも、従来の高強度・高弾性率繊維であるアラミドなどの全芳香族ポリアミド繊維に比べて強度低下を起こさないので光ケーブルのテンションメンバーに用いた場合に優れた効果を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面の少なくとも一部に高吸水性樹脂およびオルガノポリシロキサンがフィルム状にコーティングされた全芳香族ポリエステル繊維。
【請求項2】
高吸水性樹脂がポリアクリル酸の部分的あるいは全体に中和された架橋体からなる請求項1記載の全芳香族ポリエステル繊維。
【請求項3】
オルガノポリシロキサンが重合度50000〜200000のオルガノポリシロキサンである請求項1または2に記載の全芳香族ポリエステル繊維。
【請求項4】
ポリアクリル酸の部分的あるいは全体に中和された化合物とポリエチレンイミンの水溶液とポリシロキサンおよび界面活性剤からなる水溶液を全芳香族ポリエステル繊維に付着、乾燥させた後、加熱して架橋させることにより吸水性を付与する請求項1〜3のいずれかに記載の全芳香族ポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2011−202317(P2011−202317A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71324(P2010−71324)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】