説明

吸湿剤の製造方法及び吸湿剤

【課題】水分の吸放出量が多い熱再生可能な吸湿剤およびその製造方法の提供。
【解決手段】吸湿剤1の製造方法は、カルシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属カチオンを有するゼオライト2の金属カチオンを、塩酸、硫酸および硝酸からなる群より選択される少なくとも一種の無機酸と水中で化学反応させてゼオライト2表面に潮解性を有する金属化合物3を形成させてなる反応工程と、ゼオライトから水を除去する除去工程と、からなる。この製造方法で製造される吸湿剤は、高湿度下でも液化した潮解性を有する金属化合物が垂れることなく、また水分の吸放出量が多く、熱再生可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で空気中の水分を吸収し、熱再生処理により水分を放出する吸湿剤の製造方法およびこれにより得られる吸湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の吸湿剤としては、ゼオライトやシリカゲルなどの多孔質体が知られていた。しかしながら、ゼオライトやシリカゲルは水分の吸放出量が少ないという課題があり、この課題を解決すべく下記に示す様々な取り組みがなされてきた。
【0003】
特許文献1では、潮解性無機化合物の水溶液中に気孔率20〜90%を有する導電性多孔質セラミックス体を浸漬し、必要により減圧下で含浸処理し、含浸処理後に乾燥することにより、導電性セラミックスの多孔質組織内に吸湿性物質が分散担持された構造の再生質吸湿材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−7673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術であっても、含浸処理では乾燥時に潮解性無機化合物が凝集するため比表面積が小さくなり、水分の吸放出量が少ないという課題があり、未だ改善の余地があった。また、相対湿度が60%を越える高湿度下では、凝集した潮解性無機化合物が水分を吸収し液化し、その液化した潮解性無機化合物が多孔質セラミックスから垂れてしまうという課題があり、未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高湿度下でも液化した潮解性無機化合物が垂れることなく、水分の吸放出量が多い熱再生可能な吸湿剤の製造方法およびこれにより得られる吸湿剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ゼオライトの金属カチオンを無機酸と水中で化学反応させることでゼオライト表面に潮解性を有する金属化合物を形成させ、反応後の残った水をゼオライトから除去することで吸湿剤を製造すること、およびその製造方法により得られた吸湿剤が、上記従来技術の有する課題を解決する上で極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、カルシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属カチオンを有するゼオライトの金属カチオンを、塩酸、硫酸および硝酸からなる群より選択される少なくとも一種の無機酸と水中で化学反応させてゼオライト表面に潮解性を有する金属化合物を形成させてなる反応工程と、ゼオライトから水を除去する除去工程と、からなる吸着剤を製造する吸着剤の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の吸湿剤の製造方法は、ゼオライトのカルシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属カチオンをイオンレベルで無機酸と水中で反応させ、分子レベルで潮解性物質化することで、水分子と結合しても大きな液滴にならずゼオライトから垂れることがないため、水分の吸放出量が多い熱再生可能な吸湿剤を製造することができる。
【0010】
また、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、反応工程は、ゼオライトを水に分散させた分散水溶液と無機酸とを混合した混合水溶液を攪拌することが好ましい。さらに、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、混合水溶液を沸点未満の温度で攪拌することが好ましい。
【0011】
また、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、ゼオライトは、親水性ゼオライトが好ましい。さらに、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、ゼオライトはA型であり、かつ金属カチオンはカルシウムイオンが好ましい。
【0012】
また、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、無機酸は塩酸が好ましい。さらには、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、無機酸は塩酸であり、塩酸にはカルシウムイオンの2倍のモル数の塩化水素が含まれることが好ましい。
【0013】
また、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、塩酸にはゼオライトの少なくとも2倍以上、10倍以下の質量の水が含まれることが好ましい。さらには、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、潮解性を有する金属化合物は塩化カルシウムが好ましい。
【0014】
また、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、除去工程は、減圧乾燥が好ましい。さらに、本発明の吸湿剤の製造方法においては、特に、減圧乾燥後に熱風乾燥を行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明は、先に述べた本発明の吸湿剤の製造方法により得られる吸湿剤を提供する。
【0016】
本発明の吸湿剤は、先に述べた本発明の吸湿剤の製造方法により製造されているため、ゼオライト表面に潮解性を有する金属化合物が分子レベルで形成されており、高湿度下でも液化した潮解性を有する金属化合物がゼオライトからたれることなく、水分の吸放出量が多い。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の吸湿剤の製造方法によれば、ゼオライトの金属カチオンを無機酸と水中で化学反応させることでゼオライト表面に潮解性を有する金属化合物を形成させ、反応後の残った水をゼオライトから除去することで、高湿度下でも液化した潮解性を有する金属化合物がゼオライトから垂れることなく、水分の吸放出量が多い熱再生可能な吸湿剤を製造することができる。
【0018】
また、本発明の吸湿剤は、ゼオライト表面に潮解性を有する金属化合物が分子レベルで形成されているので、高湿度下でも液化した潮解性を有する金属化合物がゼオライトから垂れることなく、また水分の吸放出量が多い熱再生可能な吸湿剤である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の吸湿剤の好適な一実施形態の基本構成を示す模式図
【図2】図1のRの部分の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の吸湿剤の製造方法および吸湿剤の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
(実施の形態1)
<吸湿剤>
以下、図1および図2を用いて本発明の吸湿剤の第1実施形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明の吸湿剤の基本構成を示す模式図である。また、図2は、図1のRの部分の拡大図である。
【0023】
図1に示すように、第1実施形態の吸湿剤1は、主として、ゼオライト2と、ゼオライト2の表面上に配置された潮解性を有する金属化合物3とから構成されている。そして図2に示すように、ゼオライト2はソーダライト単位11と、ソーダライト単位11が有する細孔12あるいはソーダライト単位11同士が形成する細孔12から構成されている。そして、ソーダライト単位11が有する細孔12の径は、ゼオライトの種類によっても異なるが、細孔12の入口部分の径は概ね1nm未満の大きさであり、細孔12内部の径は最大でも1.5nm程度の大きさである。
【0024】
以下、第1実施形態の吸湿剤1を構成するゼオライト2と潮解性を有する金属化合物3について説明する。
【0025】
まず、ゼオライト2について説明する。
【0026】
図1に示すゼオライト2は、後述する潮解性を有する金属化合物3を支持する支持体となる部材であるとともに、水分子を吸脱着することで水分を吸放出可能な部材である。
【0027】
ゼオライト2は、代表径が0.5μm〜50μm程度であることが好ましく、空隙率は30〜80%程度が好ましい。代表径が0.5μm以上とすると、取り扱いが容易になり、50μm以下とすると、比表面積を大きくすることができ、水分の吸放出量の大きい吸湿剤が実現できる。なお、図1ではゼオライト2の形状を球状で示しているが、形状は特に限定されるものではない。
【0028】
また、本発明の効果をより確実に得るという観点から、ゼオライト2は、親水性ゼオライトであることが好ましい。効果の詳細は後述するが、親水性ゼオライトとは、一般的にシリカ/アルミナ比(SiO2/Al2O3比)が2〜10程度のゼオライトのことを指し、この数値が大きくなるほどアルミナの含有量が減り、それと共に金属カチオンの含有量が減る。
【0029】
次に、潮解性を有する金属化合物3について説明する。
【0030】
図1または図2に示す潮解性を有する金属化合物3は、ゼオライト2の細孔12内外の表面上に分子レベルで配置されており、水分子を吸脱着することで水分を吸放出させるための部材である。潮解性を有する金属化合物3は、ゼオライト2の金属カチオンと無機酸が水中で反応して生成されるため、分子レベルでゼオライト2表面上に配置され、金属カチオン(図示せず)は水素イオン(図示せず)に置換され、ゼオライト2表面近傍に存在すると推察される。なお、図2では潮解性を有する金属化合物3の形状を球状で示しているが、形状は特に限定されるものではなく、潮解性を有する金属化合物3が1分子あるいは数分子の集合体で存在しているものと考えられる。
【0031】
また、潮解性を有する金属化合物3は、カルシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属カチオンと塩酸、硫酸、硝酸からなる群より選択される少なくとも一種の無機酸との化学反応生成物である。具体的には、塩化カルシウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウムまたはそれら物質の水和物のいずれか、あるいはこれらの群から選択される2種類以上の混合物が挙げられる。
【0032】
ここで、潮解性を有する金属化合物3としては、本発明の効果をより確実に得るという観点から、塩化カルシウム、塩化リチウムまたはそれらの水和物が好ましく挙げられる。特に、上述した中でも、最も水分の吸放出量が大きく、最も腐食性が小さいという観点から塩化カルシウムおよびその水和物が好ましい。
【0033】
本実施形態の吸湿剤1は、以上説明したように、ゼオライト2の細孔12内外の表面上に潮解性を有する金属化合物3を分子レベルで多数配置することで、高湿度下でも液化した潮解性を有する金属化合物3がゼオライト2から垂れることなく、また潮解性を有する金属化合物3を分子レベルで多数配置することで比表面積が大きくなるため水分の吸放出量が多い熱再生可能な吸湿剤1を実現できる。
【0034】
<吸湿剤の製造方法>
以下、本発明の吸湿剤の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0035】
本発明では、従来の含浸処理で課題となっていた、乾燥時に潮解性無機化合物が凝集するため比表面積が小さくなり水分の吸放出量が少ないことと、高湿度下では凝集した潮解性無機化合物が水分を吸収し液化し、その液化した潮解性無機化合物が多孔質セラミックスから垂れることを解決するために、ゼオライト2の金属カチオンを無機酸により化学反応させ、ゼオライト2表面に潮解性を有する金属化合物3を形成させることが特徴である。なお、潮解性を有する金属化合物3とは上述したとおり、塩化カルシウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウムのいずれか、あるいはこれらの群から選択される2種類以上の混合物を指す。
【0036】
次に、本実施形態の吸湿剤1の製造方法の具体的操作について説明する。
【0037】
まず、事前に水を添加して所定濃度に調整した所定量の無機酸の水溶液を容器に入れた後、所定量のゼオライト2を無機酸の水溶液に入った容器に添加し攪拌を継続する、もしくは、事前に所定量のゼオライト2を容器中で水に分散させた分散水溶液を作製しておき、この分散水溶液に無機酸を添加し、攪拌を継続する(反応工程)。
【0038】
このとき、所定量のゼオライト2を容器中で水に分散させた分散水溶液と、水を添加して所定濃度に調整した所定量の無機酸の水溶液とを混合することが好ましい。これにより、化学反応を均一、安全、かつ速やかに行うことができる。
【0039】
具体的操作としては、例えば、三角フラスコにゼオライト2を所定量投入し、次に所定量の水を投入した後、攪拌装置を用いて撹拌を行うことで、ゼオライト2を水に分散させ、分散水溶液を作製する。ゼオライト2を分散させるために使用する水の量は、ゼオライト2が浸漬し、分散可能な量で、ゼオライト2を10g程度用いる場合、20g程度が好ましい。また、ゼオライト2を分散させるための攪拌は、ゼオライトが水に十分に分散するまで継続し、ゼオライト2を10g程度用いる場合、1〜3時間程度が好ましい。
【0040】
さらに、その攪拌中の分散水溶液に、事前に水を添加し所定濃度に調整した無機酸の水溶液を所定量添加することで混合水溶液とし、それを攪拌し続けることでゼオライト2の金属カチオンと無機酸とを化学反応させる。攪拌時間は、主にゼオライト2の量や混合水溶液の温度に依存するが、ゼオライト2を10g程度用い、混合水溶液の温度が室温程度の場合、10分〜30分程度が好ましい。なお、添加する無機酸の濃度と量については後述する。
【0041】
ここで、本発明の効果をより確実に得るという観点から、混合水溶液を加温し、室温(25℃)から沸点未満の範囲で攪拌を行うことが好ましい。室温以上では化学反応速度が向上するため反応工程を速やかに終えることができ、沸点未満では反応工程を安全に終えることができる。
【0042】
また、ゼオライト2は、カルシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属カチオンを有する公知のゼオライトを用いることができる。さらには、ゼオライトは、カチオンがプロトン、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン等のゼオライトを、公知の方法により、カルシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属カチオンにカチオンを交換したゼオライト2を用いることができる。
【0043】
ゼオライト2は、代表径が0.5μm〜50μm程度の粉末固体を使用することが好ましく、空隙率は30〜80%程度が好ましい。代表径が0.5μm以上とすると、取り扱いが容易になり、50μm以下とすると、比表面積を大きくすることができ、水分の吸放出量の大きい吸湿剤1を製造することができる。なお、ゼオライト2の形状は特に限定されるものではない。
【0044】
ここで、本発明の効果をより確実に得るという観点から、ゼオライト2は、親水性ゼオライトを用いることが好ましい。親水性ゼオライトとは、上述したとおり、一般的にシリカ/アルミナ比が2〜10程度のゼオライトのことを指し、この数値が大きくなるほどアルミナの含有量が減り、それと共に金属カチオンの含有量が減る。したがって、親水性ゼオライトを用いると無機塩と化学反応してできる潮解性を有する金属化合物を多く形成することができ、水分の吸放出量の大きい吸湿剤1を製造することができる。
【0045】
また、本発明の効果をより確実に得るという観点から、ゼオライト2は、金属カチオンがカルシウムイオンのA型ゼオライトを用いることが好ましい。これは、一般的に5A型ゼオライトと称されるもので、入手が容易な金属カチオンがナトリウムイオンのA型ゼオライト(4A型)から容易に金属カチオンをカルシウムイオンに交換することができる。そして、金属カチオンをカルシウムイオンとすると、無機酸と化学反応し、後述する除去工程を経て形成される潮解性を有する金属化合物3はカルシウム化合物であるため、潮解性が強く、水分の吸放出量の大きい吸湿剤1を製造することができる。なお、5A型ゼオライトは、一般的には、Ca〔(AlO12 (SiO12〕・27HOで表される。
【0046】
これによると、分子量は約1669で、うち含まれるカルシウムは約240である。したがって、ゼオライトが10gの場合、含まれるカルシウムは1.44gであるため、カルシウムイオン濃度は0.0359molである。
【0047】
さらには、本発明の効果をより確実に得るという観点から、無機酸は塩酸を用いることが好ましい。無機酸を塩酸とすると、金属カチオンと化学反応し、後述する除去工程を経て形成される潮解性を有する金属化合物3は塩化物であるため、潮解性が強く、水分の吸放出量の大きい吸湿剤1を製造することができる。特に、金属カチオンがカルシウムイオンとすると、潮解性を有する金属化合物3は塩化カルシウムであるため、潮解性が強く、水分の吸放出量の大きい吸湿剤1を製造することができる。
【0048】
さらには、本発明の効果をより確実に得るという観点から、無機酸に塩酸を用い、塩酸にはゼオライト2の金属カチオンであるカルシウムイオンの2倍のモル数の塩化水素を含むことが好ましい。これにより、カルシウムイオンと塩化水素をほぼ完全に反応させ、塩化カルシウムを生成させることで、潮解性が強く、水分の吸放出量の大きい吸湿剤1を製造することができる。これは、5A型ゼオライトを10g用いる場合、前述したとおりカルシウムイオン濃度は0.0359molであり、カルシウムイオンは2価のイオンであるため、無機酸に塩酸を用いる場合、2倍の0.0718molの塩化水素を含むことでゼオライト中のカルシウムイオンをほぼ完全に反応させることができる。
【0049】
さらには、本発明の効果をより確実に得るという観点から、塩酸にはゼオライト2の2倍以上、5倍以下の質量の水を含むことが好ましい。塩酸にゼオライト2の2倍以上の質量の水を含むと、ゼオライト2が塩酸に十分に浸漬することができるため、金属カチオンとの反応を均一に行うことができるので好ましい。また、塩酸にゼオライト2の10倍以下の水を含むと、化学反応が速やかに進行し、また後述する除去工程を速やかに行うことができるので好ましい。これは、5A型ゼオライトを10g用いる場合、ゼオライト中のカルシウムイオンを完全に反応させる場合、前述したとおり塩化水素は0.0718mol必要であるが、これは市販されている12規定の濃塩酸(密度1.18g/cm3)では、約7.06gとゼオライトが十分に浸漬できる量ではない。そのため、水を添加する必要があるためである。
【0050】
次に、反応工程で残った混合水溶液の水の除去を行う(除去工程)。水の除去方法は、熱風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、遠赤外線乾燥、超臨界乾燥など公知の乾燥方法を行うことができる。特に、本発明の効果をより確実に得るという観点から、減圧乾燥が好ましい。減圧乾燥は、公知の乾燥方法で行い、例えば、ロータリーエバポレータを用い、混合水溶液を入れたナス型フラスコ内の水が蒸発するまで減圧乾燥を行うことで、ゼオライト2の表面上に均一に潮解性を有する金属化合物3が分散配置された吸湿剤1を得ることができる。なお、減圧乾燥温度および時間は、混合水溶液が100g程度の場合、60〜80℃程度で、1〜3時間程度が好ましい。また、エバポレーターの条件は、特に限定されるものではない。
【0051】
また、本発明の効果をより確実に得るという観点から、減圧乾燥で得られた吸湿剤1をさらに熱風乾燥させることが好ましい。この熱風乾燥方法は特に限定されず公知の熱風乾燥方法を用いて行うことができる。例えば、100℃に保持した恒温槽へ入れることで熱風乾燥させることができる。なお、熱風乾燥時間は、吸湿剤1を10g程度用いる場合、5〜10時間程度が好ましい。
【0052】
このようにして、吸湿剤1を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の吸湿剤について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
以下の手順で、ゼオライト2表面に潮解性を有する金属化合物3を形成させた吸湿剤1の製造を行った。
【0055】
市販の5A型ゼオライト10gと水30gとを1000mLのナス型フラスコに入れ、1時間の攪拌を行い、ゼオライトを分散させた分散水溶液を作製した。また、市販の12規定の濃塩酸7.06gと水40gとを100mLの共栓三角フラスコに入れ、栓をした後、上下に振ることで混合を行い、希塩酸を作製した。その後、分散水溶液が入ったナス型フラスコに希塩酸を入れ、攪拌を15分間行った(反応工程)。
【0056】
次に、ナス型フラスコをロータリーエバポレータに取り付け、浴の湯温を70℃、アスピレータの到達真空度を5000Pa、回転速度を120回転/minに設定し、2時間、減圧乾燥を行った(除去工程 減圧乾燥)。その後、ナス型フラスコより試料を取り出し、100℃に保持した恒温槽に入れ、8時間乾燥を行い(除去工程 熱風乾燥)、吸湿剤を完成させた。計算上、ゼオライト表面には約4.7gの塩化カルシウムが生成している。
【0057】
(比較例1)
市販の5A型ゼオライト10gと水200gとを1000mLのナス型フラスコに入れ、30分間の攪拌を行った。その後、潮解性物質として市販の塩化カルシウム(無水)4.7gを上記ナス型フラスコに入れ、さらに2時間の攪拌を行った。次に、ナス型フラスコをロータリーエバポレータに取り付け、浴の湯温を70℃、アスピレータの到達真空度を5000Pa、回転速度を120回転/minに設定し、4時間、減圧乾燥を行った。その後、ナス型フラスコより試料を取り出し、100℃に保持した恒温槽に入れ、12時間乾燥を行い、吸湿剤を作製した。
【0058】
[熱再生試験1]
以下の手順により熱再生試験を行い、実施例1および比較例1の吸湿剤の熱再生能力を評価した。
【0059】
まず、それぞれの吸湿剤サンプルを20℃・40%RHの恒温恒湿槽に24時間保持し、吸湿させた。そして、それぞれの吸湿剤を1.0gずつ測り取り、スチレン製のシャーレへ敷き詰めた。その後、それぞれの吸湿剤サンプルを40℃・13%RHに設定した恒温恒湿槽に3時間保持することで吸湿した水分を放出させた後、取り出して質量を測定した。
【0060】
それぞれのサンプルの40℃・13%RHに保持した恒温恒湿槽へ入れる前(1.0g)と取り出した後の質量差を算出し、その値を吸湿剤の質量(恒温恒湿槽から取り出した後の質量)で除した値を、吸湿剤の熱再生量と定義した。
これらの結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係る実施例1の吸湿剤は、比較例1の吸湿剤よりも多くの量の水が熱再生できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明の吸湿剤の製造方法により得られる吸湿剤は、例えば下駄箱や押入れ、バスルームなど居住空間で除湿が必要なところに配置し、その空間を強力に除湿することができ、そしてそれを熱再生し、繰り返し使用することができる吸湿剤として利用できる。
【0064】
また、本発明の吸湿剤をデシカント式除湿機のデシカントロータに担持させることで、小型で除湿性能の高いデシカント式除湿機として利用することができる。さらには、本発明の吸湿剤を担持したデシカントロータを用い、これに外気の水分を吸湿させ、熱再生により放出した水分を部屋へ導入することで加湿デバイスとして利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 吸湿剤
2 ゼオライト
3 潮解性を有する金属化合物
11 ソーダライト単位
12 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤の製造方法であって、カルシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属カチオンを有するゼオライトの前記金属カチオンを、塩酸、硫酸および硝酸からなる群より選択される少なくとも一種の無機酸と水中で化学反応させて前記ゼオライト表面に潮解性を有する金属化合物を形成させてなる反応工程と、前記ゼオライトから水を除去する除去工程と、からなる吸着剤を製造する吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記反応工程は、前記ゼオライトを水に分散させた分散水溶液と前記無機酸とを混合した混合水溶液を攪拌することによる請求項1記載の吸着剤の製造方法。
【請求項3】
前記混合水溶液を沸点未満の温度で攪拌することによる請求項1または2に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライトは、親水性ゼオライトである請求項1から3のいずれか1項に記載の吸湿剤の製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライトはA型であり、かつ金属カチオンはカルシウムイオンである請求項1から4のいずれか1項に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項6】
前記無機酸は塩酸である請求項1から5のいずれか1項に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項7】
前記無機酸は塩酸であり、前記塩酸には前記カルシウムイオンの2倍のモル数の塩化水素を含む請求項5に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項8】
前記塩酸には前記ゼオライトの少なくとも2倍以上、10倍以下の質量の水を含む請求項6または7に記載の吸湿剤の製造方法。
【請求項9】
前記潮解性を有する金属化合物は塩化カルシウムである請求項1に記載の吸湿剤の製造方法。
【請求項10】
前記除去工程は、減圧乾燥である請求項1から9のいずれか1項に記載の吸湿剤の製造方法。
【請求項11】
前記減圧乾燥の後に熱風乾燥を行う請求項10記載の吸湿剤の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の製造方法により得られる吸湿剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−156478(P2011−156478A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20074(P2010−20074)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】