説明

吸湿性複合繊維

【課題】これまでの架橋アクリル酸系繊維は、pH緩衝性、制電性、保水性等の調和機能や高吸湿率、高吸湿速度、高吸湿率差あるいはそれに由来する調温・調湿機能などの特徴を有するものであったが、吸湿に伴う繊維長の変動が大きいという点については課題を残すものであった。本発明は、かかる現状に基づきなされたものであり、高吸湿性、高吸湿率差等、これまでの架橋アクリル酸系繊維の特徴を保持し、かつ、繊維長の変動が小さいため加工時の条件制約が緩和でき、さらに白度にも優れた吸湿性繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】アクリロニトリル系繊維を架橋、加水分解することによって得られる吸湿性繊維であって、該繊維がカルボキシル基及び架橋構造を有するアクリル酸系重合体からなる表層部とアクリロニトリル系重合体からなる中心部を有し、且つ繊維長変動率が0.15以下、吸湿率差が40%以上であることを特徴とする吸湿性複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸系重合体およびアクリロニトリル系重合体から構成される吸湿性複合繊維に関する。特に、アクリル酸系重合体を鞘、アクリロニトリル系重合体を芯とする芯鞘構造の吸湿性複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
吸放湿性を有する繊維としては、綿、羊毛、レーヨン、アセテート、架橋アクリル酸系繊維などが知られているが、中でも、架橋アクリル酸系繊維は、他の吸放湿性を有する天然繊維に比べ、高い吸湿率を有するという特徴を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には、吸・放湿速度が制御された架橋アクリル酸系繊維が開示されている。該繊維は調温・調湿機能やpH緩衝性、制電性、保水性等の調和機能を合わせ持つことを特徴としている。また、特許文献2には、20℃×65%RH雰囲気下での飽和吸湿率が39〜89%の高い吸湿性を示し、吸湿速度が速いという特徴を有する架橋アクリル酸系繊維が開示されており、該繊維は乾燥重量1g当たり130〜800calという高い吸湿発熱量を有することが記載されている。さらに、特許文献3には、20℃×50%RH条件と20℃×95%RH条件との吸湿率差が50重量%以上150重量%以下という吸湿率差の大きな吸放湿性繊維が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの繊維は吸湿性能という点においては大変優れている一方で、吸湿に伴い繊維が膨潤するため、吸湿状態により繊維長が大きく変化し、特に、高吸湿率であればあるほど、また吸湿率差が大きいほど繊維長の変動も大きく、他素材と混紡した際など設計どおりの加工が出来ないなどの問題があった。そのため紡績加工等においては、空調装置等により、加工場全体の雰囲気、特に湿度を一定にコントロールするなどの対応が必要となる場合があり、加工時の制約となっていた。
【0005】
一方、特許文献4、5には、ピンク色を呈する架橋アクリル酸系繊維の白度を改善するための方法が提案されている。しかしながら、これらの方法では、白度を改善するため、製造工程において酸処理を行うこと、特定のモノマーの使用量を少なくすること、あるいは還元処理することなどが必要となり、製造方法が煩雑になる、コスト高となるなどの問題があった。
【特許文献1】特開平9−59872号公報
【特許文献2】特開平9−158040号公報
【特許文献3】特開2000−192342号公報
【特許文献4】特開平9−158040号公報
【特許文献5】特開2002−294556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、これまでの架橋アクリル酸系繊維は、pH緩衝性、制電性、保水性等の調和機能や高吸湿率、高吸湿速度、高吸湿率差あるいはそれに由来する調温・調湿機能などの特徴を有するものであったが、吸湿に伴う繊維長の変動が大きいという点については課題を残すものであった。本発明は、かかる現状に基づきなされたものであり、高吸湿性、高吸湿率差等、これまでの架橋アクリル酸系繊維の特徴を保持し、かつ、繊維長の変動が小さいため加工時の条件制約が緩和でき、さらに白度にも優れた吸湿性繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、以下に示す本発明に到達した。
【0008】
(1)アクリロニトリル系繊維を架橋、加水分解することによって得られる吸湿性繊維であって、該繊維がカルボキシル基及び架橋構造を有するアクリル酸系重合体からなる表層部とアクリロニトリル系重合体からなる中心部を有し、且つ以下に定義する繊維長変動率が0.15以下、吸湿率差が40%以上であることを特徴とする吸湿性複合繊維。
繊維長変動率=(B−A)/A
吸湿率差=D−C≧40
ここで、A及びCは夫々20℃×50%RH雰囲気下での繊維長(Amm)、同雰囲気下での飽和吸湿率(C%)であり、B及びDは夫々20℃×95%RH雰囲気下での繊維長(Bmm)、同雰囲気下での飽和吸湿率(D%)である。
(2)繊維重量に対するカルボキシル基量が2.5〜10.0mmol/gであることを特徴とする(1)に記載の吸湿性複合繊維。
(3)繊維断面に占めるアクリル酸系重合体からなる表層部の面積の割合が30%〜70%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の吸湿性複合繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸湿性複合繊維は、高白度、高吸湿率、高吸湿率差という性能を有し、且つ、繊維長変動が小さい。そのため加工時の湿度コントロールなどの条件制約が緩和でき、他の繊維素材との混紡においても、従来のアクリル酸系吸湿繊維が抱えていた吸湿による繊維長の変動に伴う様々な問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の吸湿性複合繊維は、アクリロニトリル系繊維を架橋、加水分解することによって得られる吸湿性繊維であって、該繊維がカルボキシル基及び架橋構造を有するアクリル酸系重合体からなる表層部とアクリロニトリル系重合体からなる中心部を有する芯鞘構造の繊維である。ただし、かかる表層部と中心部を有していれば、本発明の吸湿性複合繊維は表層部と中心部のみから構成されていてもよいし、表層部と中心部の間にアクリル酸系重合体とアクリロニトリル系重合体が混在する領域が存在してもよいし、これらの重合体とは異なる重合体で構成される領域が存在してもよい。
【0011】
本発明の吸湿性複合繊維は、20℃×50%RH雰囲気下での繊維長(Amm)、と、20℃×95%RH雰囲気下での繊維長(Bmm)とで算出される繊維長変動率、即ち(B−A)/Aが0.15以下である必要がある。吸湿により繊維長が変動すると、加工条件を設定する際の繊維長と実際の加工時の繊維長とが異なる場合があり、その差が大きいほど設計どおりの品質の生地や繊維製品が得られなくなる。そのため、そのような繊維の場合は、加工場全体の雰囲気、特に湿度を一定にコントロールするなどの対応が必要となる場合がある。本発明の吸湿性複合繊維は繊維長変動率が0.15以下であり、加工場全体の雰囲気、特に湿度を一定にコントロールするなどの対応が不要となるため、余計なエネルギーが不要となり、コスト低減が図れることはもちろん地球環境にも優しい繊維である。
【0012】
また、本発明の吸湿性繊維は、20℃×50%RH雰囲気下での飽和吸湿率(C%)と、20℃×95%RH雰囲気下での飽和吸湿率(D%)とで算出される吸湿率差、即ちD−Cが40%以上であることが必要である。一般に、多量に吸湿あるいは吸水する繊維の場合は、繊維が膨潤することによってその水分を繊維内に保持している。従って、そのような繊維は、繊維断面方向だけでなく、繊維軸方向にも膨らむこととなる。本発明の吸湿性複合繊維は、大きな吸湿率差を有しながら、しかも繊維長の変動が小さいという特筆すべき特徴を有している。なお、吸湿率差は、50%以上が好ましく、より好ましくは60%以上である。
【0013】
20℃×50%RH雰囲気下での飽和吸湿率(C%)と、20℃×95%RH雰囲気下での飽和吸湿率(D%)は、用途によって必要とされる吸湿率が異なるため一概には決められないが、C%として10%以上が好ましく、より好ましくは15%以上である。D%については、上述の吸湿率差が得られる必要があるため、50%以上が好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは75%以上である。
【0014】
本発明の吸湿性複合繊維において、カルボキシル基及び架橋構造を有するアクリル酸系重合体からなる表層部は、吸湿性能を主に担う部分である。かかる表層部は、例えばアクリロニトリル系繊維を1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物により架橋を導入し、アルカリ性金属塩水溶液により加水分解すること、あるいはそれらの処理を同時に行うことにより形成することが出来る。この場合、架橋あるいは加水分解されずに残ったアクリル系繊維が中心部となる。
【0015】
また、アクリル酸系重合体からなる表層部のカルボキシル基量としては、好ましくは2.5〜10mmol/g、より好ましくは3.0〜6.0mmol/gであることが望ましい。かかる範囲の下限を下回る場合十分な吸湿性能が得られない場合があり、また上限を上回る場合は膨潤のため繊維長の変動が大きくなる場合がある。該カルボキシル基はH型であっても塩型であっても、それらが混在していても構わないが、十分な吸湿性能を発現させるため、50%以上が塩型であることが好ましい。
【0016】
かかる塩型カルボキシル基を構成する陽イオンの例としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、Be、Ca、Ba等のアルカリ土類金属、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等の他の金属、NH、アミン等の陽イオンなどが挙げられ、複数種類の陽イオンが混在していてもよい。
【0017】
また、表層部の大きさとしては、特に限定されるものではないが、乾燥状態において繊維断面積の20〜80%、より好ましくは30〜70%の面積を表層部が占めるようにすることが望ましい。表層部の面積が20%に満たない場合は上述した吸湿率差が得られない恐れが有り、80%を超える場合には、繊維長変動率が0.15を上回る恐れがあり、また繊維としての物性が低下する恐れがある。
【0018】
ここで、表層部であるアクリル酸系重合体と中心部であるアクリロニトリル系重合体は、カチオン染料で染色処理した後、繊維断面を光学顕微鏡で観察し、染色されている領域がアクリロニトリル系重合体の領域で、染色されていないあるいは染色が確認できない領域がアクリル酸系重合体である。従って、上述の面積比率は、染色処理後、乾燥した繊維を切断し繊維断面を観察することにより算出したものである。
【0019】
本発明の吸湿性複合繊維において、アクリロニトリル系重合体からなる中心部は、強伸度などの繊維としての一般物性を主に担う部分である。上述したカルボキシル基及び架橋構造を有するアクリル酸系重合体は、架橋構造を有してはいるものの、該重合体のみで繊維を構成した場合、繊維物性は低くなりやすい。これに対して、アクリロニトリル系重合体を繊維の中心部に配することで、吸湿性複合繊維としての繊維物性の低下を制御することができ、また、表層部が吸湿した場合でも、該中心部はほとんど吸湿・膨潤しないため、吸湿性複合繊維の繊維長の変化を抑制することができる。
【0020】
また、中心部がアクリロニトリル系重合体からなることから、本発明の吸湿性複合繊維は、中心部の割合が多いほどカチオン染料などのアクリル系繊維の染色に使用される染料を用いて、アクリル系繊維の場合とほぼ同様の処方で染色することも可能となる。加えて、本発明の吸湿性複合繊維は白度が高く、従来の架橋アクリル酸系繊維のようなピンク色を呈さないので、白度を要求される用途にも好適に使用できる。
【0021】
また、本発明の吸湿性複合繊維は膨潤度が好ましくは2.0g/g以下、より好ましくは1.8g/g以下であることが望ましい。膨潤度が2.0g/gを上回る場合には、吸湿による繊維長変動率が大きくなる場合がある。
【0022】
以上に説明した本発明の吸湿性複合繊維の製造方法としては、アクリロニトリル系繊維を1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物により架橋を導入し、アルカリ性金属塩水溶液により加水分解すること、あるいはそれらの処理を同時に行うことにより形成し、架橋あるいは加水分解されずに残ったアクリロニトリル系繊維を中心部とする方法が製造設備やコストの面から望ましい。かかる方法について以下に詳述する。
【0023】
ここで、出発アクリロニトリル系繊維(以下、アクリル系繊維と呼ぶこともある)としてはアクリロニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維であり、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれの形態のものでも良く、また、製造工程中途品、廃繊維などでも構わない。AN系重合体は、AN単独重合体、ANと他の単量体との共重合体のいずれでも良く、他の単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物、メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩;スチレン、酢酸ビニル等の単量体等、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されないが、酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系化合物を5〜20重量%共重合させることが望ましい。かかるビニルエステルとしては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられる。
【0024】
該アクリル系繊維は、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物を含有する水溶液による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩化合物を含有する水溶液による加水分解処理を施される。これらの処理は架橋導入処理後に加水分解処理を施すという個別処理で行うこともできるし、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物とアルカリ性金属塩化合物を共存させた水溶液を用いる同時処理で行うこともできる。いずれの場合にも、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物とアクリル系繊維表層部のアクリロニトリル系重合体の有するニトリル基が反応することで架橋構造が形成され、また、アルカリ性金属塩化合物とニトリル基が反応することでカルボキシル基が形成されるため、表層部のアクリロニトリル系重合体は1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物による架橋構造を有するアクリル酸系重合体に変換されることになる。なお、形成されるカルボキシル基は、加水分解処理に使用されるアルカリ性金属塩化合物由来の金属イオンと結合するので、大部分が塩型カルボキシル基となる。
【0025】
上記架橋導入処理および加水分解処理の具体的な方法としては、処理結果として表層部に1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物による架橋構造を有するアクリル酸系重合体が形成される方法であれば特に制限はなく、処理に用いる水溶液に繊維を浸漬した状態で反応させる方法や該水溶液を噴霧するなどして繊維に付着させた状態で反応させる方法などを採用することができる。
【0026】
また、個別処理、同時処理のいずれの場合においても、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物の濃度としては、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜2重量%である。この濃度が低すぎるとアクリル酸系重合体の溶出抑制の効果が得られないことがあり、高すぎると繊維の着色が強くなる、あるいは、十分な吸湿性を発現させるだけのカルボキシル基を導入できなくなる恐れがある。また、アルカリ性金属塩化合物の濃度については、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましく0.5〜4重量%である。アルカリ性金属塩化合物の濃度が低すぎると生成されるカルボキシル基量が不十分となることがあり、高すぎると本来中心部として残すべきアクリロニトリル系重合体までも加水分解されてしまう恐れがある。
【0027】
また、反応温度および時間については、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物および/またはアルカリ性金属塩化合物の濃度に応じて適切な範囲が異なる。同時処理の場合で、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物濃度が0.5重量%程度、アルカリ性金属塩化合物濃度が2重量%程度であれば、90〜100℃で2時間程度の条件が推奨される。
【0028】
ここで、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物としては、2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物やヒドラジン系化合物が好ましい。2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、などのジアミン系化合物、ジエチレントリアミン、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)などのトリアミン系化合物、トリエチレンテトラミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどのテトラミン系化合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどで2個以上の1級アミノ基を有するポリアミン系化合物などが例示される。また、ヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネ−トなどが例示される。なお、1分子中の窒素原子の数の上限は特に限定されないが、12個以下であることが好ましく、されに好ましくは6個以下であり、特に好ましくは4個以下である。1分子中の窒素原子の数が上記上限を超えると架橋剤分子が大きくなり、繊維内に架橋を導入しにくくなる場合がある。
【0029】
本発明において1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物による架橋構造は、アクリル酸系重合体が水に溶出することを抑制するために導入をしているものである。従来の架橋アクリル酸系繊維において架橋構造は繊維物性を高める役割が大きく、多量に導入する必要があったが、本発明においては後述するようにアクリロニトリル系重合体からなる中心部が繊維物性に寄与するため、多量に架橋構造を導入する必要はなく、水に溶出しない程度に架橋されていれば十分である。
【0030】
また、アルカリ性金属塩化合物としては、特に限定されるものではなく、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などを使用することができるが、少量の使用で十分な効果の得られるアルカリ金属水酸化物を使用することが望ましい。
【0031】
上記の個別処理の場合、架橋導入処理を経た繊維は、加水分解処理の前に酸処理を施してもよい。かかる酸処理により、繊維の着色を淡色化することができる。ここで使用する酸としては硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが、特に限定されない。また、処理条件としては、酸濃度5〜20重量%、好ましくは7〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜10時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0032】
以上のようにして得られた繊維は、そのままでも本発明の吸湿性複合繊維として利用できるが、さらに酸性水溶液によって洗浄してもよい。これにより、より高白度の吸湿性複合繊維を得ることができる。かかる酸性水溶液としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが、特に限定されない。
【0033】
また、さらに、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩によるイオン交換処理、緩衝液などによるpH調整処理などを施すことによりカルボキシル基を所望の塩型カルボキシル基あるいはH型カルボキシル基に変換したり、異種の塩型を混在させたりすることによって、得られる吸湿性複合繊維の吸湿性能を調整することができる。
【実施例】
【0034】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。実施例中の特性の評価方法は以下のとおりである。
【0035】
(1)カルボキシル基量(mmol/g)
十分乾燥した試料約1gを精秤し(Xg)、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にし、次いで0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(Yml)を求め、次式によってカルボキシル基量(mmol/g)を算出した。
(カルボキシル基量)=0.1Y/X
【0036】
(2)飽和吸湿率(%)
試料約5.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W1g)。次に該試料を20℃×95%RHまたは20℃×50%RHのいずれかの条件に調節した恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして吸湿させた試料の重量を測定する。(W2g)。以上の測定結果から、次式によって算出した。
飽和吸湿率(%)=(W2−W1)/W1×100
【0037】
(3)膨潤度(g/g)
試料約3gを熱風乾燥機で70℃×3時間乾燥して重量を測定する(W3g)。次に該試料を水が300ml入ったビーカーに30分間浸漬した後、膨潤した試料を卓上遠心脱水機(160G×5分)で脱水し、試料の重量を測定する(W4g)。以上の測定結果から、次式によって算出した。
(膨潤度)=(W4−W3)/W3
【0038】
(5)繊維長変動率
試料を20℃×50%RH雰囲気下の恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして調湿させた繊維をJIS L1015:1999の平均繊維長 C法(直接法)に従って繊維長を測定する。次に該試料を20℃×95%RH雰囲気下で同様に調節し、調湿させた繊維を同法により繊維長を測定する。以上の測定結果から、20℃×50%RH雰囲気下での繊維長(Amm)、と、20℃×95%RH雰囲気下での繊維長(Bmm)とで次式によって算出した。
繊維長変動率=(B−A)/A
【0039】
[実施例1]
アクリロニトリル90%、酢酸ビニル10%からなるAN系重合体10部を48%ロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率:10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥後、湿熱処理して単繊維繊度0.9dtexの原料繊維(繊維長70mm)を得た。該原料繊維を、水加ヒドラジン0.5%および水酸化ナトリウム2%を含有する水溶液中、95℃で2時間架橋・加水分解処理を行い、pH2の硝酸水溶液で洗浄した。処理された繊維を、水に浸漬し、H型カルボキシル基に対し、Na中和度70モル%になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加して、90℃で2時間塩型調整を実施した。水洗し、アルキルアミド第4級カチオン油剤を付与した後脱水、乾燥し、実施例1の吸湿性複合繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。なお、油剤の付与量は繊維重量に対し0.5重量%となるように調整した。
【0040】
【表1】

【0041】
[実施例2]
実施例1において、架橋・加水分解処理の水加ヒドラジン濃度を1.0%および処理温度を100℃として実施すること以外は同様にして、実施例2の吸湿性複合繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0042】
[実施例3]
実施例1において、架橋・加水分解処理の水加ヒドラジン濃度を1.5%および水酸化ナトリウム濃度を2.5%とし、処理温度を95℃として実施すること以外は同様にして、実施例3の吸湿性複合繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例4]
実施例3と同様に架橋・加水分解処理を行い、pH2の硝酸水溶液で洗浄した後、水に浸漬し、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH11に調整した後、繊維に含まれるカルボキシル基のモル当量の0.65倍に相当するイオン交換処理を硝酸カルシウムを溶解させた水溶液に60℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施した。水洗し、アルキルアミド第4級カチオン油剤を付与した後脱水、乾燥し、実施例1の吸湿性複合繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。なお、油剤の付与量は繊維重量に対し0.5重量%となるように調整した。
【0044】
[実施例5]
アクリロニトリル90%、アクリル酸メチル10%からなるAN系重合体を用いること以外は実施例2と同様にして実施例5の吸湿性複合繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
実施例1に記載の原料繊維に、水加ヒドラジンの15%水溶液中で、110℃×3時間架橋導入処理を行い、洗浄した。架橋導入された繊維を、8%硝酸水溶液中に浸漬し、100℃×1時間酸処理を行った。続いて5%水酸化ナトリウム水溶液中で100℃×1時間の加水分解処理を行い、pH2の硝酸水溶液で洗浄した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整した後、水洗した。アルキルアミド第4級カチオン油剤を付与した後脱水、乾燥し、比較例1の吸湿性繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。なお、油剤の付与量は繊維重量に対し0.5重量%となるように調整した。
【0046】
[比較例2]
実施例1に記載の原料繊維に、水加ヒドラジンの15%水溶液中で、100℃×3.5時間架橋導入処理を行い、洗浄した。架橋導入された繊維を、10%硝酸水溶液中に浸漬し、90℃×1時間酸処理を行った。続いて2%水酸化ナトリウム水溶液中で75℃×1.5時間の加水分解処理を行い、水洗した。得られた繊維にアルキルアミド第4級カチオン油剤を付与した後脱水、乾燥することにより、比較例2の吸湿性繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。なお、油剤の付与量は繊維重量に対し0.5重量%となるように調整した。
【0047】
[比較例3]
実施例1に記載の原料繊維に、水加ヒドラジンの20%水溶液中で、98℃×5時間架橋導入処理を行い、洗浄した。続いて3%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃×2時間の加水分解処理をした。二酸化チオ尿素の1重量%水溶液中で、90℃×2Hr還元処理を行い、純水で洗浄した。続いて、硝酸の3重量%水溶液中、90℃×2Hr酸処理を行った。該酸処理後の繊維を、純水中に投入し、濃度48%の苛性ソーダ水溶液をH型カルボキシル基に対し、Na中和度70モル%になる様に添加し、60℃×3Hr塩型調整処理をした。以上の工程を経た繊維を、水洗し、アルキルアミド第4級カチオン油剤を付与した後、脱水、乾燥することにより、比較例3の吸湿性繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。なお、油剤の付与量は繊維重量に対し0.5重量%となるように調整した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル系繊維を架橋、加水分解することによって得られる吸湿性繊維であって、該繊維がカルボキシル基及び架橋構造を有するアクリル酸系重合体からなる表層部とアクリロニトリル系重合体からなる中心部を有し、且つ以下に定義する繊維長変動率が0.15以下、吸湿率差が40%以上であることを特徴とする吸湿性複合繊維。
繊維長変動率=(B−A)/A
吸湿率差=D−C≧40
ここで、A及びCは夫々20℃×50%RH雰囲気下での繊維長(Amm)、同雰囲気下での飽和吸湿率(C%)であり、B及びDは夫々20℃×95%RH雰囲気下での繊維長(Bmm)、同雰囲気下での飽和吸湿率(D%)である。
【請求項2】
繊維重量に対するカルボキシル基量が2.5〜10.0mmol/gであることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性複合繊維。
【請求項3】
繊維断面に占めるアクリル酸系重合体からなる表層部の面積の割合が30%〜70%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吸湿性複合繊維。

【公開番号】特開2009−167574(P2009−167574A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9524(P2008−9524)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】