説明

吸着ヒートポンプ

【課題】吸着器の容器そのものは変形しやすい構造であるにもかかわらず、吸着器の耐圧性が十分に確保された吸着ヒートポンプを提供すること。
【解決手段】吸着ヒートポンプ1は、吸着剤17が内部に封入された吸着器3と、吸着対象物質の蒸気圧が飽和蒸気圧に達した際に吸着対象物質を凝縮させる一方、吸着対象物質の蒸気圧が低下した際には、液化していた吸着対象物質を蒸発させる蒸発器5と、吸着器3と蒸発器5との間に介在して、吸着器3の内部空間と蒸発器5の内部空間とを連通させる配管7と、蒸発器5内の温度が低下した際に、蒸発器5との間で熱交換を行うことにより、蒸発器5から冷熱を取り出す熱交換手段9とを備えている。吸着器3は、金属容器13が、大気圧を受けて吸着剤17に密着する形態に変形することにより、受光面11との間に吸着剤17を挟み込む構造になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着ヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光を利用する吸着ヒートポンプシステムは、すでに提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このような吸着ヒートポンプシステムでは、吸着器や蒸発器を配管等で結ぶことによって外部空間から隔離された系を構成してあり、その系内において、吸着器に内蔵された吸着剤による吸着・脱着、蒸発器による凝縮・気化などが行われる。
【0003】
そのため、この種のシステムにおいては、系外から系内に外気が流入しないようにする必要があり、吸着器や蒸発器、それらを結ぶ配管などには、高度な気密性が要求される。また、系内が大気圧よりも低圧になることがあり、それ故、系の内外で圧力差が生じても問題を招かない程度の耐圧性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−257140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸着器の気密性や耐圧性を高めるため、従来は、吸着剤を収容する容器そのものの構造を耐圧構造にする、といった対応を行っていたため、そのような耐圧容器にコストがかかり、吸着ヒートポンプシステムの普及を妨げる要因になっていた。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、吸着器の容器そのものは変形しやすい構造であるにもかかわらず、吸着器の耐圧性が十分に確保された吸着ヒートポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
請求項1に記載の吸着ヒートポンプは、吸着対象物質を吸着可能で、加熱された際には吸着済みの前記吸着対象物質を脱着する吸着剤が、内部に封入された吸着器と、前記吸着対象物質の蒸気圧が飽和蒸気圧に達した際に、前記吸着対象物質を凝縮させる一方、前記吸着対象物質の蒸気圧が低下した際には、液化していた前記吸着対象物質を蒸発させる蒸発器と、前記吸着器と前記蒸発器との間に介在して、前記吸着器の内部空間と前記蒸発器の内部空間とを連通させる配管と、前記蒸発器内の温度が低下した際に、前記蒸発器との間で熱交換を行うことにより、前記蒸発器から冷熱を取り出す熱交換手段とを備え、前記吸着器は、一方の面が太陽光を受光する受光面となっていて、日中には、前記受光面側で太陽光を受光することにより、内部にある前記吸着剤を加熱して、前記吸着剤から前記吸着対象物質を脱着させ、当該脱着させた前記吸着対象物質が前記配管を介して前記蒸発器に到達すると前記蒸発器内で前記吸着対象物質が凝縮し、一方、夜間には、前記吸着剤によって前記吸着対象物質を吸着すると、前記蒸発器内で前記吸着対象物質が蒸発して前記蒸発器内の温度が低下し、その際、前記熱交換手段によって前記蒸発器から取り出される冷熱で、冷却対象を冷却可能に構成されており、しかも、前記吸着器は、少なくとも一部が、大気圧を受けて前記吸着剤に密着する形態に変形することにより、前記受光面との間に前記吸着剤を挟み込む構造になっていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の吸着ヒートポンプは、請求項1に記載の吸着ヒートポンプにおいて、前記吸着器は、前記受光面が透明材料で形成されることにより、太陽光が受光面を透過して前記吸着剤に照射される構造になっていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の吸着ヒートポンプは、請求項2に記載の吸着ヒートポンプにおいて、前記吸着器は、前記受光面が透明なガラス又は透明なプラスチックによって形成されており、しかも、前記吸着剤を挟んで前記受光面とは反対側となる部分が、大気圧を受けて前記吸着剤に密着する形態に変形する金属容器によって構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の吸着ヒートポンプは、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の吸着ヒートポンプにおいて、前記吸着器は、前記受光面以外の部分が、断熱材によって包囲されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の吸着ヒートポンプは、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の吸着ヒートポンプにおいて、前記吸着剤が、シリカゲルであることを特徴とする。
以下、本発明の構成について、さらに詳しく説明する。
【0012】
本発明の吸着ヒートポンプにおいて、吸着器は太陽光を受ける場所に設置される。そのため、日中には、太陽光が吸着器に照射され、吸着器の温度が上昇することになる。一方、蒸発器は、吸着器が太陽光を受けて高温になった場合でも、ほぼ常温に維持されるような設置状態とされる。
【0013】
より具体的には、蒸発器は、例えば、日中でも日陰になる場所などに設置される。また、温度が上昇した吸着器からの熱が、熱伝導や対流によって蒸発器へ伝わらないようにするため、例えば、吸着器と蒸発器は十分に離れた場所に設置される。さらに、必要があれば、吸着器と蒸発器との間に放熱を促す手段(例えば、常温の外気との熱交換を行う放熱器)などが設けられていてもよい。
【0014】
以上のような吸着ヒートポンプにおいて、蒸発器には、常温において液体となり、且つある程度は気化もする吸着対象物質が入れられる。そして、吸着器から配管を経て蒸発器に至る系内は、例えば真空ポンプなどを利用して真空引きが行われ、吸着対象物質以外の気体成分は系外へ除去される。
【0015】
これに伴い、蒸発器内の吸着対象物質は、系内の蒸気圧に応じて気化することになり、気化した吸着対象物質は、吸着器内で吸着剤に吸着されることになる。また、このような吸着の結果、系内の蒸気圧が低下するので、さらに蒸発器内の吸着対象物質は気化することになり、これらの現象は、系内が平衡状態に至るまで連続的に起こることになる。
【0016】
そして、この状態(例えば、系内が平衡状態に達した状態)において、日中は吸着器の受光面に太陽光が照射され、これにより吸着剤の温度が上昇する。このとき、請求項2に記載したように、受光面が透明材料で形成されていれば、太陽光は透明な受光面を透過して吸着剤に直接当たるので、太陽光が吸着剤に直接当たらない構造(例えば、吸着剤を封入した不透明な金属容器に太陽光が当たるものなど)に比べ、吸着剤そのものを効率良く加熱することができる。
【0017】
そして、吸着剤が加熱されると、すでに吸着剤に吸着されていた吸着対象物質が吸着剤から脱着され、系内の蒸気圧が上がる。ただし、蒸発器側の温度は、吸着器側よりも温度が低いため、蒸発器内では吸着対象物質が凝縮・液化し、蒸発器内に溜まる。
【0018】
一方、夜間になると、吸着器の受光面に太陽光が照射されなくなり、しかも、吸着剤からは熱放射により放熱が図られ、これに伴って吸着剤の吸着能が回復するため、系内において気化していた吸着対象物質は、吸着器内で吸着剤に吸着されることになる。また、このような吸着に伴い、蒸発器内の吸着対象物質も気化することになり、その結果、蒸発器内では気化熱が奪われて、蒸発器内の温度が低下する。
【0019】
こうして低温化した蒸発器からは、熱交換手段によって冷熱が取り出され、これにより、冷却対象を冷却することができる。具体的には、冷却対象が室内である場合には、熱交換手段によって取り出された冷気を室内に送り込むことで、冷房を行うことができる。
【0020】
さらに、この吸着ヒートポンプにおいて、吸着器は、少なくとも一部が、大気圧を受けて吸着剤に密着する形態に変形することにより、透明材料で形成された受光面との間に吸着剤を挟み込む構造になっている。
【0021】
このような構造の一例としては、請求項3に記載したように、受光面を透明なガラス又は透明なプラスチックによって形成してあり、吸着剤を挟んで受光面とは反対側となる部分が、大気圧を受けて吸着剤に密着する形態に変形する金属容器によって構成されているものを挙げることができる。
【0022】
この場合、金属容器としては、例えば、金属の薄板をプレス加工して、透明なガラス板やプラスチック板と重ねた際に、吸着剤の収容空間が形成されるような形態としたものを利用することができる。金属の薄板としては、厚さ1mm未満程度のものでも十分である。
【0023】
また、上記のような金属容器の他、さらに薄い金属薄膜とプラスチックフィルムとを積層してなる多層構造のフィルムなどで、大気圧を受けて吸着剤に密着する形態に変形する容器を形成してもよい。
【0024】
以上のような構造を採用すると、吸着剤そのものが、外部からの圧力を受ける耐圧構造物の一部として機能するので、吸着剤を収容する容器自体には過度な耐圧性能が要求されず、大気圧を受けて変形する程度の材料で容器を構成することができる。
【0025】
したがって、吸着剤を収容する容器そのものの構造を、内部が減圧しても変形しない程度の耐圧構造にしていた従来技術に比べ、吸着剤を構成する容器にコストがかからなくなり、ひいては吸着ヒートポンプシステム全体の製造コストを抑制することができる。
【0026】
また、本発明の吸着ヒートポンプにおいて、請求項4に記載のように、吸着器は、受光面以外の部分が、断熱材によって包囲されていると、太陽光を受けたときに吸着器内の温度が効率良く上昇するので、吸着剤を迅速に再生し、吸着能の回復を図ることができる。
【0027】
さらに、本発明の吸着ヒートポンプにおいては、請求項5に記載のように、吸着剤が、シリカゲルであると好ましい。特に、シリカゲルの場合、他の各種吸着剤に比べ、吸着剤粒子の透明度が高いので、請求項2に記載したように、受光面が透明材料で形成されていれば、吸着器内にシリカゲル粒子を充填した場合に、充填層の奥まで太陽光が透過しやすくなり、吸着剤の充填層を効率良く加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は吸着ヒートポンプの概略構造を示す説明図、(b)は吸着器の縦断面図。
【図2】吸着ヒートポンプの性能試験結果を示すグラフ(その1)。
【図3】吸着ヒートポンプの性能試験結果を示すグラフ(その2)。
【図4】(a)は吸着器の一部を示す縦断面図、(b)は吸着器の一部を金属容器側から見た外観を示す説明図。
【図5】(a)はA部を拡大して示す説明図、(b)はA部の変形例を示す説明図、(c)はB部を拡大して示す説明図、(d)はB部の変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態について、いくつかの具体的な例を挙げて説明する。
〔1〕第一実施形態
以下に説明する吸着ヒートポンプ1は、図1(a)に示すように、吸着器3と、蒸発器5とを備え、これらの内部間が配管7を介して接続された構造になっている。配管7の途中には、三方バルブ7Aが設けられ、この三方バルブ7Aを介して真空引きを行うことができる。また、蒸発器5には、蒸発器5と熱交換を行う熱交換流路9が設けられ、この熱交換流路9に熱交換用媒体を流通させることにより、蒸発器5から冷熱を取り出し可能となっている。
【0030】
これらの構成のうち、吸着器3は、図1(b)に示すように、透明な受光面11と、金属容器13と、断熱材15とを備え、受光面11と金属容器13との間に形成される内部空間には、吸着剤17が充填されている。また、配管7の一端は、受光面11と金属容器13との間に形成される内部空間に連通している。配管7の先端にはメッシュ19が設けられており、配管7内に吸着剤17が入り込まないようにされている。
【0031】
受光面11は、無色透明な板ガラス11A,11Bを2枚重ねて、それらの板ガラス11A,11B間にスペーサ11Cを介装することにより、板ガラス11A,11B間に空間を確保した構造とされている。なお、本実施形態においては、板ガラス11Aは900mm×900mm×3mm、板ガラス11Bは900mm×900mm×5mmのものを利用し、板ガラス11A,11B間の距離は3mmとされている。
【0032】
このような透明な部材で吸着器3の受光面11を形成すると、太陽光を吸着器3の内部へと透過させることができ、吸着剤17を太陽光で直接加熱することができる。ただし、吸着器3の受光面11は、金属板のような不透明な部材で構成することもでき、この場合は、受光面11が太陽光で加熱され、その熱が吸着剤17へ伝わることになる。
【0033】
また、上記のような二重構造(ペアガラス製)の受光面11を用いると、吸着器3の保温性を向上させることができる。ただし、いくらか保温性が低下しても問題がない場合は、単一の板ガラスで受光面を形成してもよい。さらに、二重構造の受光面11を用いる場合、板ガラス11A,11B間の距離については任意に設定すれば構わないが、実用上は、3〜10mm程度の距離が確保されていると好ましい。
【0034】
金属容器13は、図4(a)及び同図(b)に示すように、受光面11によって開口面が塞がれる皿状のものである。本実施形態の場合、厚さ0.3mmのステンレス板をプレス加工したもので、受光面11と重なり合う部分は、受光面11と同様900mm×900mmの正方形、プレス加工で形成された凹部の深さは、最大で30mmとなっている。
【0035】
この金属容器13の底面(図4(b)に表れる面)には、プレス加工による折り目13Aが形成されており、これにより、同様の折り目が設けられていないものよりも、柔軟性と強度を向上させてある。また、折り目13Aは、金属容器13の底面側から見て略正方形となる形態になっているが、そのコーナー部分13Bには丸みが付けられて、真空引きの際に受ける力が局所に集中しにくい構造とされている。
【0036】
なお、折り目13Aは、金属容器13の底面側から見て略正方形に見えるものに限らず、例えば、略円形に見えるものなどでもよい。また、略正方形、略円形といった、閉じた環状の形態をなす折り目に限らず、十字状の折り目、格子状の折り目、直線状の折り目などでもよい。また、折り目の数についても、ひとつでもふたつ以上でもよい。
【0037】
いずれにしても、これらのような折り目を形成しておくと、吸着器3の内部が減圧された際には、金属容器13の底面が平板状になっているものよりも、金属容器13の底面が吸着剤17側へ変形しやすくなり、これにより、金属容器13の吸着剤17に対する密着性を向上させることができる。
【0038】
これら受光面11と金属容器13は、両者の周縁部において10mm幅で全周にわたってエポキシ樹脂系接着剤を介して互いに接着され、これにより、配管7以外の部分からは気体が透過することのない気密容器を構成している。
【0039】
断熱材15は、無数の独立気泡を内包する発泡樹脂(発泡フェノール断熱材、35mm厚さ、熱伝導率0.019W/m/k)によって形成されたもので、この断熱材15と受光面11との間に形成される空間内に、上述の金属容器13が収容された構造になっている。
【0040】
吸着剤17は、本実施形態においては、平均粒子径3mmのシリカゲル粒子によって構成されている。吸着剤17の粒子径は、吸着器3内に充填された場合でも、吸着対象物質の蒸気がスムーズに流通する程度の隙間ができる程度の粒子径であると好ましく、シリカゲルの場合であれば、平均粒子径20μm〜6mm程度、好ましくは100μm〜3mm程度とされているとよい。
【0041】
シリカゲルの場合、他の各種吸着剤に比べ、粒子の透明度が高いので、受光面11を透過した太陽光は、シリカゲル粒子の充填層のより奥まで透過しやすく、これにより、吸着剤17の充填層を効率良く加熱することができる。
【0042】
以上のように構成された吸着ヒートポンプ1において、吸着器3は太陽光を受ける場所(例えば、屋根の上、庭、家屋の南側など)に設置される。また、蒸発器5は、ほぼ常温に維持されるような場所(例えば、屋根裏、地下、家屋の北側など)に設置される。
【0043】
また、吸着器3の温度が上昇した際に、吸着器3からの熱が熱伝導や対流によって蒸発器5へ伝わらないようにする必要がある。通常は、配管7が日陰に配設され、その配管7において放熱が行われるのであれば、それだけで十分であるが、必要があれば、配管7の途中に熱交換器を設けて、空冷又は水冷を行うようにしてもよい。
【0044】
さらに、蒸発器5には、常温において液体となり、且つある程度は気化もする吸着対象物質が入れられる。本実施形態の場合、吸着対象物質としては、水を利用するように構成してあるが、水以外の物質であってもよく、例えば、アルコール、アンモニア、その他常温で液体となる各種炭化水素類などを利用することができる。
【0045】
そして、図示しない真空ポンプなどが、三方バルブ7Aを介して配管7に接続されて真空引きが行われ、これにより、吸着器3から配管7を経て蒸発器5に至る系内から、吸着対象物質以外の気体成分が除去される。
【0046】
真空引きが行われると、金属容器13は、大気圧を受けて吸着剤17に密着する形態に変形し、受光面11との間に吸着剤17を挟み込む。これにより、吸着剤17そのものが、外部からの圧力を受ける耐圧構造物の一部として機能する状態になるので、金属容器13自体には過度な耐圧性能が要求されず、大気圧を受けて変形する程度の材料で金属容器13を構成してあっても、何ら問題なく運用することができる。
【0047】
さて、真空引きが行われると、蒸発器5内の吸着対象物質は、系内の蒸気圧に応じて気化することになり、気化した吸着対象物質は、吸着器3内で吸着剤17に吸着されることになる。また、このような吸着の結果、系内の蒸気圧が低下するので、さらに蒸発器5内の吸着対象物質は気化することになり、これらの現象は、系内が平衡状態に至るまで連続的に起こることになる。
【0048】
この状態において、日中には吸着器3の受光面に太陽光が照射され、これにより吸着剤17の温度が上昇する。本実施形態においては、実験的に確認したところ、吸着器3内の温度は最大で100℃を上回る高温にまで達することがあった。
【0049】
そして、このような高温になる吸着器3内で吸着剤17が加熱されると、吸着対象物質が吸着剤17から脱着され、系内の蒸気圧が上がる。ただし、蒸発器5側の温度は、吸着器3側よりも温度が低く、本実施形態の場合、30℃前後の温度域にあるため、吸着器3側から吸着対象物質(本実施形態の場合は水蒸気)が流入すると、蒸発器5内では吸着対象物質が凝縮・液化し、蒸発器5内に溜まる。
【0050】
一方、夜間になると、吸着器3の受光面に太陽光が照射されなくなり、しかも、吸着剤17からは熱放射により放熱が図られ、これに伴って吸着剤17の吸着能が回復するため、系内において気化していた吸着対象物質は、吸着器3内で吸着剤17に吸着されることになる。また、このような吸着に伴い、蒸発器5内の吸着対象物質も気化することになり、その結果、蒸発器5内では気化熱が奪われて、蒸発器5内の温度が低下し、本実施形態の場合、蒸発器5内の温度は氷点下となる温度域にまで到達する。
【0051】
したがって、熱交換流路9に熱交換用媒体を流通させることにより、低温化した蒸発器5から冷熱を取り出すことができ、これにより、室内の冷房を行うなど、冷却対象を冷却することができる。
【0052】
〔2〕第二実施形態
上記第一実施形態と同様の吸着ヒートポンプ1を構成し、その性能試験を行った。ただし、この第二実施形態において、吸着器3としては、受光面(ガラス)が23cm角(厚さは2.5cm)のものを利用した。また、吸着器3を加熱する熱源としては、投光器(500W)を使用し、投光器熱源と受光面(ガラス)の距離は20cmとした。
【0053】
そして、日中に相当する時間帯を模して、投光器から吸着器3の受光面に対して光を照射し、夜間に相当する時間帯を模して、投光器を消灯し、48時間にわたって吸着ヒートポンプ1各部の温度を測定した。その結果を、図2に示す。
【0054】
図2のグラフにおいて、「表面」は吸着器3内部の表面側で測定した温度、「裏面」は吸着器3内部の裏面側で測定した温度、「連結管」は吸着器3と蒸発器5を結ぶ配管7内で測定した温度、「外気」は吸着ヒートポンプ1の周囲の温度、「蒸発器」は蒸発器5内部の温度を、それぞれ表している。
【0055】
このグラフから明らかなように、日中に相当する時間帯(投光器を点灯した時間帯)には、吸着器3内部の温度は表面側及び裏面側双方とも急激に上昇し、特に表面側温度については、最大で100℃を超える温度域にまで到達した。このとき、蒸発器5内の温度も最大となった(図2中の時刻t1)。
【0056】
一方、この時点で投光器を消灯したところ、その後、吸着器3内部の温度は急激に低下した。このとき、蒸発器5内の温度も低下し、図2中の時刻t2の時点で、蒸発器5内の温度は氷点下に至ることとなった。つまり、夜間に相当する時間帯(投光器を点灯した時間帯)には、蒸発器5内の温度がきわめて低い温度になる。
【0057】
したがって、熱交換流路9等を利用して蒸発器5内の冷熱を取り出せば、夜間の冷房などに利用することができる。
〔3〕第三実施形態
上記第一実施形態、第二実施形態と同様の吸着ヒートポンプ1を構成し、その性能試験を行った。ただし、この第三実施形態において、吸着器3としては、31×54×2.5cmのものを利用した。また、金属容器13としては、銅板をプレス加工したものを利用し、受光面11をなすガラスと金属容器13をなす銅板は、エポキシ接着剤で接着した。
【0058】
さらに、吸着器3の内部には、墨汁を混合したシリカゾルをゲル化させて得た球状の半透過黒色シリカ(粒子径5−10mesh)を充填した(充填量:2.85kg)。このような着色シリカを使用することにより、太陽光の吸収・発熱を促すことができる。蒸発器5としては容積3リットルのガラス瓶を利用し、その蒸発器5に1リットルの水を充填した。
【0059】
以上のように構成された吸着ヒートポンプ1のうち、吸着器3を太陽光の当たる場所に設置して、48時間にわたって吸着ヒートポンプ1各部の温度を測定した。その結果を、図3に示す。
【0060】
図3のグラフにおいて、「吸着器裏」は吸着器3内部の裏面側で測定した温度、「吸着器表」は吸着器3内部の表面側で測定した温度、「蒸発器」は蒸発器5内部の温度、「連結管」は吸着器3と蒸発器5を結ぶ配管7内で測定した温度、「外気温」は吸着ヒートポンプ1の周囲の温度を、それぞれ表している。
【0061】
このグラフから明らかなように、日中には、吸着器3内部の温度は表面側及び裏面側双方とも上昇し、表面側温度については、最大で80℃を超える温度域にまで到達した。このとき、蒸発器5内の温度も最大となった(図3中の時刻t3)。この時点で、蒸発器5内の水量は980mlあった。
【0062】
その後、日没の時刻に向かって各部の温度は下降傾向となった。このとき、蒸発器5内の温度も低下し、図3中の時刻t4の時点で、10℃近くまで低下した。この時点で、蒸発器5内の水量は820mlあった。このことから、蒸発器5では、160mlの水が蒸発し、その蒸発に伴って蒸発器5内の温度が低下したことがわかる。
【0063】
〔4〕その他の実施形態
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0064】
例えば、上記実施形態では、吸着剤17を封入する容器(受光面11及び金属容器13)として、特定形状・特定寸法のものを例示したが、このような容器の具体的形態は任意であり、他の形態となっていてもよい。
【0065】
一例を挙げれば、吸着剤17の充填層の厚さは、上記実施形態では30mmとしてあったが、これは1〜10cm程度であればよく、好ましくは2〜5cm程度としてあるとよい。また、受光面の面積に関しては特に制限はないが、実用上は0.1〜10m2程度であると好ましく、少なくとも気体不透過で、耐熱性に関しては100〜150℃程度の温度に耐える耐熱性素材を利用してあると好ましい。
【0066】
また、上記実施形態では、金属容器13として、ステンレス板で形成したものを例示したが、銅板、アルミニウム板などの他の金属素材で形成した容器や、プラスチックフィルムなどで形成した容器を利用してもよい。
【0067】
また、吸着器3内での伝熱を促進するため、太陽光受光面側(受光面11側)と裏面側(金属容器13側)との間を、高伝熱性架橋材(例えば、金属部品)で架橋した構造としてもよい。このような高伝熱性架橋材を設ければ、迅速且つ均一に吸着器3内を加熱することができる。
【0068】
また、上記実施形態では、吸着剤17としてシリカゲルを用いる例を示したが、シリカゲル以外の吸着剤を用いてもよく、例えば、シリカライト、ゼオライト、活性炭、リン酸アルミニウム、MCM(Mobil社)、FSM(株式会社豊田中研)などの粒状吸着剤も使用可能である。
【0069】
また、上記実施形態のように、太陽光の受光面が透明体で構成される場合、受光面近くでは透明な吸着剤をそのまま使用することで、充填層の深層まで太陽光を透過させることができるが、受光面から遠い深層においては、太陽光を吸収する吸着剤を配置してもよい。
【0070】
このような太陽光を吸収する吸着剤としては、例えば、吸光性の高い活性炭、黒鉛、その他濃色の顔料等といった有色粉体で吸着剤粒子の表面をコーティングしたもの、あるいは、そのような有色粉体を吸着剤粒子の内部に一様に分散させたものなどを挙げることができる。
【0071】
さらに、上記実施形態では、金属容器13の形状を、図5(a)に拡大して示すような形態としてあったが、この部分に、図5(b)に示すようなベローズ構造21を設けることにより、真空引きした際に、より柔軟に金属容器13が変形し、吸着剤17に密着する構造としてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、金属容器13において、凹部のコーナー部分13Bの形状を、図5(c)に拡大して示すように、円弧を描く形態としてあったが、図5(d)に示すように、多角形を描く形態としてあってもよく、これでも局所に力が集中するのを緩和することができる。
【符号の説明】
【0073】
1・・・吸着ヒートポンプ、3・・・吸着器、5・・・蒸発器、7・・・配管、7A・・・三方バルブ、9・・・熱交換流路、11・・・ガラス板、13・・・金属容器、13A・・・折り目、13B・・・コーナー部分、15・・・断熱材、17・・・吸着剤、21・・・ベローズ構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着対象物質を吸着可能で、加熱された際には吸着済みの前記吸着対象物質を脱着する吸着剤が、内部に封入された吸着器と、
前記吸着対象物質の蒸気圧が飽和蒸気圧に達した際に、前記吸着対象物質を凝縮させる一方、前記吸着対象物質の蒸気圧が低下した際には、液化していた前記吸着対象物質を蒸発させる蒸発器と、
前記吸着器と前記蒸発器との間に介在して、前記吸着器の内部空間と前記蒸発器の内部空間とを連通させる配管と、
前記蒸発器内の温度が低下した際に、前記蒸発器との間で熱交換を行うことにより、前記蒸発器から冷熱を取り出す熱交換手段と
を備え、
前記吸着器は、一方の面が太陽光を受光する受光面となっていて、日中には、前記受光面側で太陽光を受光することにより、内部にある前記吸着剤を加熱して、前記吸着剤から前記吸着対象物質を脱着させ、当該脱着させた前記吸着対象物質が前記配管を介して前記蒸発器に到達すると前記蒸発器内で前記吸着対象物質が凝縮し、一方、夜間には、前記吸着剤によって前記吸着対象物質を吸着すると、前記蒸発器内で前記吸着対象物質が蒸発して前記蒸発器内の温度が低下し、その際、前記熱交換手段によって前記蒸発器から取り出される冷熱で、冷却対象を冷却可能に構成されており、しかも、
前記吸着器は、少なくとも一部が、大気圧を受けて前記吸着剤に密着する形態に変形することにより、前記受光面との間に前記吸着剤を挟み込む構造になっている
ことを特徴とする吸着ヒートポンプ。
【請求項2】
前記吸着器は、前記受光面が透明材料で形成されることにより、太陽光が受光面を透過して前記吸着剤に照射される構造になっている
ことを特徴とする請求項1に記載の吸着ヒートポンプ。
【請求項3】
前記吸着器は、前記受光面が透明なガラス又は透明なプラスチックによって形成されており、しかも、前記吸着剤を挟んで前記受光面とは反対側となる部分が、前記受光面よりも変形しやすい構造とされた金属容器によって構成され、前記吸着器内が減圧された際には、前記金属容器が大気圧によって加圧されることで、前記吸着剤に密着する形態に変形する
ことを特徴とする請求項2に記載の吸着ヒートポンプ。
【請求項4】
前記吸着器は、前記受光面以外の部分が、断熱材によって包囲されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の吸着ヒートポンプ。
【請求項5】
前記吸着剤が、シリカゲル又は顔料を含む着色シリカゲルである
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の吸着ヒートポンプ。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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