説明

吸着材の処理方法

【課題】 動物体液中の特定成分を吸着する処理を行う際に、体液通液初期の吸着不良の改良を行い、より効率的な吸着処理方法を提供する。
【解決手段】 動物体液中の特定成分を吸着する処理を行う際、タンパクを含む液体に、吸着材を事前に接触させることによって、効率的な吸着処理を行える方法を見出した。体液通液初期の吸着不良が改良されるので、より効率的な吸着処理を行うことが出来る。また本発明によれば、体液通液初期から、安定して吸着が行えるので、特定成分の処理後の体液への混入を最大限回避することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物体液から特定成分を吸着処理する際に、吸着効率を向上させることを目的として、タンパクを含む液体に吸着材を事前に接触させる、吸着材の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の体液中から選択的に細胞を分離する技術は、癌治療や細胞の成分輸血を始めとして、様々な医療現場で活躍している。特に近年、細胞医療、再生医療の発展に伴いそのニーズはさらに増大している。
【0003】
例えば、血液中の顆粒球を除去することは、移植後の炎症やGVHD(宿主対移植片反応)を抑制するためにも重要視されている。従来、血液中の顆粒球を分離する方法として、フィコール液やパーコール液などを利用し、細胞の比重差を利用して分離する比重密度勾配遠心法や、顆粒球を選択的に付着させるとされる素材、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維、綿などを利用した方法が開示されている(特許文献1、特許文献2など)。
【0004】
しかしながら、比重密度勾配遠心法の場合、密度勾配に使用する液の細胞毒性などの安全性の問題、また遠心洗浄操作などに時間を要し、開放系での操作であるためにコンタミネーションを起こしやすいなど操作性の問題、リンパ球の混入が生じるなど分離効率の点など多くの課題を残している。一方、比重密度勾配遠心法に比べ、顆粒球を選択的に吸着させる方法は、閉鎖系での操作が可能など安全面、操作性に優れ、さらに接触面積、材質や形状を工夫して分離効率を向上させる試みもなされている。
【0005】
(特許文献3)では、顆粒球吸着材の表面積を増加させているが、顆粒球以外にリンパ球も吸着する旨が記載されており、接触面積を増加させただけでは、顆粒球の選択性は発現されない。また(特許文献4)では、癌患者の病態変化の判断や癌治療に用い得る顆粒球吸着用担体として、リンパ球に比べて顆粒球に対する親和性が高い担体を用いることにより、顆粒球を選択的に吸着させる旨が開示されている。この担体は、水に対する接触角が55度から95度の範囲にある物質からなるとされており、顆粒球と高い親和性を有する材質として、ポリスチレン、酢酸セルロース、6−ナイロン、ポリエチレンテレフタレートなどが例示されている。また顆粒球の主構成細胞である好中球について、接触角と付着率に関する同様の報告がある。
【0006】
(特許文献5)では、セルロースの水酸基に官能基が固定化された水不溶性顆粒球吸着材を、アルカリ溶液にて処理することにより、体液中の顆粒球を選択的に除去する能力を大幅に向上することが可能となることが開示されている。しかし、この吸着材に体液を接触させ、通過した体液を経時的に回収して液中の顆粒球量を測定すると、通液初期の通過顆粒球量が多いことが明らかとなり、改良が望まれている。
【特許文献1】特開昭54−46812号
【特許文献2】特開昭57−11920号
【特許文献3】特公昭58−54126号
【特許文献4】特開平2−193069号
【特許文献5】国際公開公報WO2006/025371号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、動物体液中の特定成分を吸着する処理を行う際、体液通液初期の吸着不良の改良を行い、より効率的な吸着処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、動物体液中の特定成分を吸着する処理を行う際、タンパクを含む液体に、吸着材を事前に接触させることによって、効率的な吸着処理を行える方法を見出した。
【0009】
すなわち本発明は、動物体液中の特定成分を吸着する処理を行う際、タンパクを含む液体に、吸着材を事前に接触させることを特徴とする吸着材の処理方法に関する。
【0010】
また本発明は、前記特定成分が細胞である処理方法に関する。
【0011】
また本発明は、前記細胞が顆粒球である処理方法に関する。
【0012】
また本発明は、タンパクを含む液体が、被吸着動物体液から得られる血漿または血清、もしくはこれらを含む溶液である処理方法に関する。
【0013】
また本発明は、タンパクが補体のフラグメントである処理方法に関する。
【0014】
また本発明は、タンパクが抗体である処理方法に関する。
【0015】
また本発明は、動物体液が骨髄液である処理方法に関する。
【0016】
また本発明は、動物体液が末梢血液である処理方法に関する。
【0017】
また本発明は、末梢血液がG−CSF等のサイトカインを投与した後に採取したものである処理方法に関する。
【0018】
また本発明は、動物体液が臍帯血液である処理方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、動物体液中の特定成分を吸着する処理を行う際、体液通液初期の吸着不良が改良されるので、より効率的な吸着処理を行うことが出来る。また本発明によれば、体液通液初期から、安定して吸着が行えるので、特定成分の処理後の体液への混入を最大限回避することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0021】
本明細書にいう動物体液とは、血液、骨髄液、臍帯血以外に、それらの希釈液、細胞懸濁液を含む。細胞懸濁液とは、血液、骨髄液、臍帯血などを対象から採取し、所望によりフィコール、パーコール、バクティナーチューブ、リフォプレップ、ヒドロキシエチルスターチなどを使用し、比重密度遠心分離法により赤血球を除去した細胞画分(単核球画分、間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞(EPC)、顆粒球などの細胞画分)や、さらにこれらの細胞画分を再度遠心分離して濃縮したものなどを指す。
【0022】
本発明における吸着材の形状としては、球状、粒状、平膜状、繊維状、中空糸状等いずれも有効に用いられる。その素材としては、ガラス、シリカゲル、活性炭などの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や架橋アガロース、架橋デキストリンなどの多糖類からなる有機担体、セルロース、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸グラフト化ポリエチレン、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレン、さらにはこれらの組み合わせによって得られうる有機−有機、有機−無機などの複合担体などが代表例として挙げられるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。さらに任意の硬質担体、軟質担体の外表面を上記した素材で被覆して使用することもできる。以上に挙げた中でも、細胞との接触頻度や非吸着細胞の回収などの観点から球状であることが好ましく、その素材としては顆粒球を吸着することで知られている酢酸セルロースが好ましく、吸着能力の向上として部分的に鹸化されている酢酸セルロースがより好ましい。
【0023】
本発明における吸着材の事前処理は、以下に挙げる条件に代表されるが、これに限定されるものではない。処理方法として、吸着材を処理液に浸しても良く、この場合の処理液量は吸着材が十分に浸る量であれば特に制限は無いが、吸着体体積の0.3〜10倍量程度あれば良く、この中でも2〜5倍量が好ましく、3〜4倍量がより好ましい。また処理時間に関しても特に制限は無いが、生体試料を使用する場合、タンパクの変性を考慮して3日以内が好ましい。またその時の処理温度は4〜60℃、好ましくは25〜37℃、より好ましくは37℃が挙げられる。
【0024】
また、処理方法として吸着材をカラム化し、このカラムに処理液を通液しても良く、この場合の処理液量は吸着材体積の0.3〜10倍量程度あれば良く、この中でも2〜5倍量が好ましく、3〜4倍量がより好ましい。処理流速としては、極端に速い場合は吸着材と処理液との接触を十分に行うために必要な液量が増加してしまうため、10ml/min以下が好ましく、この中でも1ml/min以下が好ましく、0.3ml/minがより好ましい。またその時の処理温度は4〜60℃、好ましくは25〜37℃、より好ましくは37℃が挙げられる。
【0025】
また、処理方法として吸着材をカラム化し、このカラムに処理液を満たした際に通液を止め、インキュベーションしても良く、この場合の処理液量はカラム内を満たしていれば良い。またこの場合の処理時間は特に制限は無いが、生体試料を使用する場合、タンパクの変性を考慮して3日以内が好ましい。またその時の処理温度は4〜60℃、好ましくは25〜37℃、より好ましくは37℃が挙げられる。
【0026】
本発明における動物体液中の特定成分とは、該体液中に含まれるものであれば特に限定は無いが、例としては顆粒球、単球、マクロファージ、赤芽球、骨髄球、リンパ球、破骨細胞、骨芽細胞、繊維芽細胞、軟骨芽細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞、間葉系幹細胞等の細胞、β2ミクログロブリン、フィブロネクチン、活性化補体、βTG、顆粒球エラスターゼ、ブラジキニン等のタンパク質、フィブリノーゲン等の血液凝固因子、低密度コレステロール(LDL)等の脂質、TNFα、TGFβ等のサイトカイン、抗DNA抗体等の抗体等が挙げられる。
【0027】
本発明における顆粒球は、哺乳類末梢血液、骨髄液、臍帯血液中の顆粒球、及びアファレーシスにより濃縮された白血球中の顆粒球、フィコールやバクティナー管、ヒドロキシエチルスターチなどの密度勾配遠心法にて分取された白血球画分中の顆粒球、またこれら方法にて分取された白血球画分を緩衝液中や培養液、生理食塩液中に懸濁した細胞懸濁液中の顆粒球などを指す。
【0028】
本発明における血漿とは、抗凝固剤を添加して採取した末梢血液、骨髄液、臍帯血液等を遠心分離操作を行い、沈殿した血球を除くように上清を回収したものを指す。この場合、抗凝固剤としては特に限定はないが、ヘパリンが好ましい。遠心分離操作の速度、時間は、血球が十分沈降するものであれば特に制限はないが、例えば速度は1000〜4500rpm、時間は5〜30分程度で良く、血小板などの不要な成分を完全に除くためにも、3000rpm、15分程度がより好ましい。
【0029】
本発明における血清とは、抗凝固剤を添加せずに採取した末梢血液、骨髄液、臍帯血液等を56℃、30分間程度静置し、上清を回収したもの、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清(CS)ウマ血清(HS)、等が挙げられるがこの限りではない。
【0030】
本発明における血漿または血清を含む溶液とは、上記血漿、血清の少なくともどちらか一方を含む溶液であり、混在する溶液としては特に制限はないが、等張液であることが好ましく、例えば生理食塩水、リン酸緩衝液、α−MEM等の培地等が挙げられるが、この限りではない。またその濃度に関しては特に制限はないが、少量のプライミング液量で十分な効果を得るためには、20%(V/V)以上が好ましく、50%(V/V)以上がより好ましい。
【0031】
本発明における補体のフラグメントとしては、C1、C2、C3、C3a、C3b、C4、C4a、C4b、C5、C5a、C5b、C6、C7、C8、C9が挙げられる。その中でも活性化補体フラグメントであるC3a、C3b、C4a、C4b、C5a、C5bが好ましく、さらにその中でもC3bがより好ましい。
【0032】
本発明における抗体とは、免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンA(IgA)、免疫グロブリンM(IgM)、免疫グロブリンD(IgD)、免疫グロブリンE(IgE)を指し、この中でもIgGが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
以下、ブタ骨髄液から顆粒球を吸着するカラムを調製し、該カラムを用いた効率的な顆粒球吸着処理方法を示す。
【0035】
1.顆粒球吸着材の調製
酢酸セルロースをジメチルスルホキシドとプロピレングリコールの混合溶剤に溶解し、この溶液を特開昭63―117039号広報に記載された方法(振動法)により液滴化し、凝固させて酢酸セルロースの球形の粒子を得た。得られた球形粒子の粒径は、約450μmであった。この粒子を沈降体積比で、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液と1:1(V/V)の割合で混合し、30分間接触させることにより、部分加水分解反応を行った。吸着体沈降体積の約200倍量の蒸留水にて洗浄後、生理食塩液(最終濃度で5IU/mlのヘパリンを含む)にて置換を行った。このときの酢化度は、50.1%であった。
【0036】
2.顆粒球吸着カラムの調製
得られた上記吸着材をヘパリン(ヘパリンナトリウム注射液、ニプロファーマ(株))加生理食塩水(ヘパリンの最終濃度が5IU/mlになるように調製)で洗浄を行い、ヘパリンの平衡化を行った。次に担体の脱泡を行った後、沈降体積で3.5mlをミニカラム(アクリル製,内径10 mm,高さ38 mm)に充填した。カラム入口側にポリ塩化ビニル製のチューブ(内径1 mm,外径3 mm,長さ70cm)を装着し、またカラム出口側にも同様のポリ塩化ビニル製のチューブ(長さ30cm)を装着した。
【0037】
3.ブタ骨髄液の調製
ブタ(30kg)腸骨部より骨髄液を採取し、ヘパリンを50IU/mlとなるように添加した。該骨髄液を70μmセルストレーナーを通過させることにより血餅、骨粉などを取り除くことにより骨髄液を調製した。
【0038】
4.吸着材の前処理
調製した骨髄液を3000rpm、15min遠心分離を行い、上清である血漿を回収した。この血漿を流速0.26ml/minで10.5ml(カラム体積の3倍量)通液した。
【0039】
5.骨髄液−顆粒球吸着カラムの接触条件
上記で調製した骨髄液を、テフロン(登録商標)製三角フラスコ内(内容量50 ml,サンワ(株))に15ml入れ、37℃の恒温槽内に静置し、5minに一度穏やかに攪拌した。次に流速0.26ml/minで通血実験を開始した。カラム出口側から骨髄液が出てきた時点を開始時点として、経時的に1mlずつサンプリングを行った。
【0040】
(比較例1)
吸着材の前処理をヘパリン加生理食塩水(5IU/ml)に変えたほかは、実施例1と同様に行った。骨髄液採取も実施例1と同一の個体から行った。
【0041】
(実施例2)
吸着材の前処理をIgG(IgG from human serum、SIGMA) 溶液(生理食塩水を用いて10mg/mlに調製)に変えたほかは、実施例1と同様に行った。ただし、骨髄液採取は実施例1とは異なる個体(ブタ)から行った。
【0042】
(比較例2)
比較例1と同様に行った。骨髄液採取は実施例2と同一の個体から行った。
【0043】
6.評価
カラム出口側から流出する骨髄液を、経時的に1mlずつサンプリングした(通液開始から通算して7ml目からは2mlずつサンプリングを行った)。採取したサンプルを、自動血液細胞数カウンター(シスメックスK4500)にて細胞数を測定した。また、フローサイトメーター(FACSCanto ベクトンディッキンソン)にて単核球・顆粒球両画分比率を求めた。その結果をもとに、顆粒球吸着率を以下の式によって算出した。
顆粒球吸着率(%)
=100×[(通液前顆粒球数−通液後顆粒球数)/通液前顆粒球数]
実施例1および比較例1の結果をそれぞれ経時的に並べ表1及び図1に、また実施例2および比較例2の結果を表2及び図2に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

図1に示す結果より、比較例1では処理量4mlからは吸着材の吸着能力を最大限に発揮しているが、処理量3mlまでは顆粒球吸着率が低値を示しているのに対し、実施例1では初期から安定した吸着率が示された。また図2に示す結果より、比較例2に比べて実施例2では初期の顆粒球吸着率が改善された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1及び比較例1の顆粒球吸着率を経時的に図示したもの(表1をグラフ化したもの)
【図2】実施例2及び比較例2の顆粒球吸着率を経時的に図示したもの(表2をグラフ化したもの)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物体液中の特定成分を吸着する処理を行う際、タンパクを含む液体に、吸着材を事前に接触させることを特徴とする吸着材の処理方法。
【請求項2】
前記特定成分が細胞である、請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
前記細胞が顆粒球である、請求項2記載の処理方法。
【請求項4】
タンパクを含む液体が、被吸着動物体液から得られる血漿または血清、もしくはこれらを含む溶液であることを特徴とした、請求項1〜3記載の処理方法。
【請求項5】
タンパクが補体のフラグメントである、請求項1〜3記載の処理方法。
【請求項6】
タンパクが抗体である、請求項1〜3記載の処理方法。
【請求項7】
動物体液が骨髄液である、請求項1〜6記載の処理方法。
【請求項8】
動物体液が末梢血液である、請求項1〜6記載の処理方法。
【請求項9】
末梢血液がG−CSF等のサイトカインを投与した後に採取したものである、請求項8記載の処理方法。
【請求項10】
動物体液が臍帯血液である、請求項1〜6記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−260245(P2007−260245A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91488(P2006−91488)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】