説明

吸着材

【課題】より簡便に製造可能であり、かつ吸着能に優れた吸着材を提供する。
【解決手段】本発明に係る吸着材は、水相中又は気相中に含まれる有機物を吸着するための吸着材であって、多孔質金属酸化物と界面活性剤との複合体を含むことを特徴とする。この複合体は、界面活性剤を鋳型として金属酸化物を生成させることにより得ることができる。多孔質金属酸化物としては多孔質酸化チタンや多孔質酸化ケイ素等が挙げられ、界面活性剤としてはカチオン性界面活性剤等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水相中又は気相中に含まれる有機物を吸着するための吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン、酸化ケイ素等の金属酸化物を多孔質化した多孔質金属酸化物は、金属酸化物自体の機能及びその比表面積の大きさから、触媒担体、色素増感型太陽電池等の多岐の用途への応用が期待されている。このような多孔質金属酸化物は、界面活性剤を鋳型とし、この界面活性剤の周囲で金属酸化物の骨格を形成させた後、焼成により界面活性剤を除去することによって製造することができる(特許文献1〜5を参照)。
【0003】
また近年、このような多孔質金属酸化物の表面や細孔内部を有機基で修飾し、有害有機物等の吸着材として用いる試みがなされている。例えば、非特許文献1,2では、多孔質酸化ケイ素の表面を有機基で修飾し、この有機基の吸着能により有害有機物を吸着する方法が提案されている。また、特許文献6では、多孔質金属酸化物の細孔表面に光触媒物質と有機基とを固定し、有機基の吸着能により有害有機物を吸着し、光触媒物質の光触媒活性により、吸着された有害有機物を分解除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−119024号公報
【特許文献2】特開2006−069877号公報
【特許文献3】特開2006−206419号公報
【特許文献4】特開2008−222491号公報
【特許文献5】特開2008−239436号公報
【特許文献6】特開2005−270734号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chemistry Letters, 2003, 32(12), p.1110
【非特許文献2】Chemical Communication, 2000, p.903
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1,2や特許文献6の方法では、例えば、界面活性剤を鋳型とした多孔質金属酸化物の製造、界面活性剤の除去、有機基による修飾、といった多段階の操作が必要であるため、より簡便に製造可能であり、かつ吸着能に優れた吸着材が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、より簡便に製造可能であり、かつ吸着能に優れた吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、多孔質金属酸化物を製造する際の中間的材料が吸着材として有効に利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る吸着材は、水相中又は気相中に含まれる有機物を吸着するための吸着材であって、多孔質金属酸化物と界面活性剤との複合体を含むことを特徴とするものである。
【0010】
このような複合体は、界面活性剤を鋳型として金属酸化物を生成させることにより得ることが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る吸着材は、多孔質金属酸化物を製造する際の中間的材料を利用しているため、従来のように多孔質金属酸化物を有機基で修飾する必要等がなく簡便であり、しかも吸着能に優れている。また、界面活性剤を焼成除去することがないため、コスト面でも優位である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図2】多孔質酸化チタン/C16TAB複合体及び多孔質酸化チタンのそれぞれが4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールを吸着する吸着能を示す図である。
【図3】多孔質酸化チタン/C12TAB複合体が4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールを吸着する吸着能を示す図である。
【図4】多孔質酸化チタン/C14TAB複合体が4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールを吸着する吸着能を示す図である。
【図5】多孔質酸化チタン/C18TAB複合体が4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールを吸着する吸着能を示す図である。
【図6】多孔質酸化ケイ素/C16TAB複合体及び多孔質酸化ケイ素のそれぞれが4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールを吸着する吸着能を示す図である。
【図7】シリカゲル粉末が4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールを吸着する吸着能を示す図である。
【図8】多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体の光触媒活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
本発明に係る吸着材は、多孔質金属酸化物と界面活性剤との複合体(以下、「多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体」ともいう。)を含むものである。このような多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体は、界面活性剤を鋳型として多孔質金属酸化物を製造する際の中間的材料として得ることができる。
すなわち、界面活性剤を鋳型として多孔質金属酸化物を製造する際には、中間段階で、多孔質金属酸化物の細孔内部に界面活性剤が充填された多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体が得られる。従来は、この複合体を焼成して界面活性剤を除去することにより多孔質金属酸化物を得た後、この多孔質金属酸化物を有機基で修飾することにより、吸着材を得ていたが(前掲の特許文献6を参照)、本発明では、この中間段階における複合体をそのまま吸着材に利用する。
【0015】
このように、本発明に係る吸着材は有機基による修飾等を行わないため、従来の方法と比較して簡便に製造することができ、原料によってはワンポット合成も可能である。また、界面活性剤を焼成除去することがないため、原料や印加するエネルギが無駄にならず、コスト面でも優位である。
【0016】
多孔質金属酸化物の金属種としては、特に限定されるものではないが、チタン、ケイ素、ジルコニウム等が挙げられる。多孔質金属酸化物中には、これらの金属種のうち1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。また、界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、多孔質金属酸化物の種類に応じて1種又は2種以上が用いられる。
【0017】
また、界面活性剤を鋳型として多孔質金属酸化物を製造する方法としては、前掲の特許文献1〜6や非特許文献1,2に記載されている方法等の、従来から知られている方法を特に限定されずに利用することができる(必要であれば、“Chem. Rev., 1997, 97, p.2373”や“Chem. Rev., 2002, 102, p.4093”等も参照)。参考までに、代表的な2種類の方法について後述する。
【0018】
このようにして得られる多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体は、界面活性剤の可溶化能により有機物を吸着することができ、しかもその吸着能は吸着材として一般的なシリカゲル等よりも高いため、水相中又は気相中に含まれる有機物を吸着する吸着材として好適に用いることができる。例えば、水相中に含まれる有機物を吸着・除去するには、水相中に多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体を添加した後、有機物を吸着した複合体を遠心分離や濾過等によって回収すればよい。或いは、多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体が充填されたカラムに有機物が含まれた水を通すことによっても、有機物を吸着・除去することができる。また、気相中に含まれる有機物を吸着するには、有機物を含む気相中に多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体が存在していればよく、有機物を吸着した複合体をそのまま回収することにより気相中から有機物を除去することができる。
【0019】
なお、界面活性剤のみであっても、例えば水相中に含まれる有機物を吸着することはできるが、界面活性剤自体が水に可溶であるため、有機物を吸着した界面活性剤を回収することは困難である。一方、多孔質金属酸化物のみでは、有機物を吸着することは殆どできない。
【0020】
上記のように有機物を吸着した後は、吸着した有機物や多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体中の界面活性剤を除去することにより、多孔質金属酸化物として再利用することができる。例えば、多孔質金属酸化物が光触媒活性を有する場合、有機物の吸着後に光を照射し、吸着した有機物や多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体中の界面活性剤を分解することにより、多孔質金属酸化物を得ることができる。また、多孔質金属酸化物が光触媒活性を有するか否かに関わらず、有機物の吸着後に多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体を焼成し、吸着した有機物や多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体中の界面活性剤を除去することにより、多孔質金属酸化物を得ることができる。
【0021】
以下、本発明に係る多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体を製造する方法について、例示的に2種類説明する。
【0022】
(多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体)
多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体は、例えば、カチオン性界面活性剤と酸性のチタン塩とを水中で混合し、結晶性の酸化チタンを生成させることにより製造することができる。
【0023】
カチオン性界面活性剤は、結晶性の酸化チタンを生成させる際の鋳型となるものである。カチオン性界面活性剤を水に溶解すると、図1の(a)に示すようにミセルを形成する。この状態で酸性のチタン塩を加えると、チタン塩が水和チタン酸に変化し、この水和チタン酸がカチオン性界面活性剤のミセルが提供する局所的な塩基場と反応して水酸化チタンに変化する。水酸化チタンの生成後、ミセルの表面で重縮合反応が進行して酸化チタンが生成し、それに伴い、図1の(b)に示すようなヘキサゴナル状の規則的な配列が構成される。そして最終的には、図1の(c)に示すように、多孔質酸化チタンの細孔内部にカチオン性界面活性剤が充填された状態の多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体が得られる。
【0024】
カチオン性界面活性剤としては、水中で配列して、多孔質酸化チタンを得る際の鋳型となる性質を有するものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、アンモニウムに結合する4つの置換基のうち1つの置換基のみが長鎖で他が短鎖の四級アンモニウム塩が挙げられる。より好ましくはモノ長鎖脂肪族四級アンモニウム塩であり、特に好ましくは長鎖アルキル基の炭素数が10〜20であるモノ長鎖アルキル四級アンモニウム塩である。この長鎖アルキル基の炭素数は12〜18であることが好ましい。また、長鎖アルキル基以外の基については特に限定はないが、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
特に好ましいカチオン性界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。また、そのアニオンとしては特に限定はなく、塩素イオン、臭素イオン、水酸化イオン等が用いられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0025】
一方、酸性のチタン塩としては、硫酸塩、オキシ硫酸塩、オキシ塩化物、リン酸塩、酢酸塩、硝酸塩等が挙げられる。具体的には、硫酸チタン、酸化硫酸チタン、四硝酸チタン等が挙げられる。
【0026】
多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体のより詳細な製造方法は、以下のとおりである。
まず、所定量のカチオン性界面活性剤を水に溶解させ、水溶液を調製する。カチオン性界面活性剤の濃度は、30〜240mMであることが好ましく、50〜180mMであることがより好ましい。
【0027】
次に、調製した水溶液に所定量のチタン塩を添加する。チタン塩の添加量は、上記カチオン性界面活性剤1モルに対して10〜100モルであることが好ましく、30〜70モルであることがより好ましく、40〜60モルであることがさらに好ましい。添加量をこのような範囲とすることにより、界面活性剤を鋳型にして酸化チタンの生成反応を効率良く進行させることが可能となる。
【0028】
チタン塩を添加した後、所定温度で所定時間、混合撹拌することが好ましい。これによって酸化チタンの生成反応をより効率良く進行させることが可能となる。
混合温度は、使用するカチオン性界面活性剤の種類によって異なるが、10〜80℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましく、60℃近傍がさらに好ましい。液温が低すぎると生成する酸化チタンの結晶性が低くなる傾向にあり、液温が高すぎるとカチオン性界面活性剤が規則的に配列せず、ヘキサゴナル構造の規則性が低下する虞がある。
混合時間は特に限定されるものではないが、通常は5〜120時間であり、10〜80時間であることが好ましく、15〜60時間であることがより好ましく、20〜40時間であることがさらに好ましい。混合時間が短すぎると生成する酸化チタンの結晶性が低下する傾向にあり、混合時間が長すぎると結晶性は上がるが細孔の配列規則性が低下し、ヘキサゴナル構造が消失する場合がある。また、混合時間が長すぎるとアナターゼ型の酸化チタンのみならず、ルチル型の酸化チタンも形成される傾向にある。
なお、反応液のpHは、チタン塩の濃度にも依存するが、pH0.5〜4の酸性領域であることが好ましい。
【0029】
酸化チタンの生成反応の終了後は、生成した多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体を濾過により分離し、水やアルコールを用いて洗浄し、乾燥させる。このときの乾燥温度は、100〜150℃であることが好ましく、110〜140℃であることがより好ましい。乾燥時間は20〜28時間であることが好ましく、23〜25時間であることがより好ましい。
【0030】
この多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体は、一般には粒子の状態で得ることができる。この粒子の直径は特に限定はないが、製造の容易さ、表面積の増大等の点で、20〜500nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。
【0031】
また、この複合体中の多孔質酸化チタンは、結晶構造を有する酸化チタンで構成される。結晶構造はアナターゼ型及びルチル型のいずれでもよいが、アナターゼ型であることが光触媒活性等の点で好ましい。なお、多孔質酸化チタンは、粒子全体が結晶構造を有していることが好ましいが、必ずしも全てが結晶構造になっている必要はなく、不定形の構造部分があってもよい。
【0032】
また、多孔質酸化チタンの細孔の直径は、通常は5〜50nmであり、7〜15nmであることが好ましい。細孔の直径と細孔の壁膜の厚さとの比は、特に限定されるものではないが、5:1〜50:1であることが好ましく、7:1〜15:1であることがより好ましい。壁膜の厚さは、0.5〜5nmであることが好ましく、0.8〜1.5nmであることがより好ましい。このような範囲とすることにより比表面積を効率的に増大させることが可能となる。
【0033】
(多孔質酸化ケイ素/界面活性剤複合体)
多孔質酸化ケイ素/界面活性剤複合体は、例えば、カチオン性界面活性剤とアルコキシシランと開始剤(酸又はアルカリ)とを水中で混合し、酸化ケイ素を生成させることにより製造することができる。
この場合にも、多孔質酸化チタンの場合と同様に、カチオン性界面活性剤からなるミセルの表面で重縮合反応が進行して酸化ケイ素が生成し、それに伴いヘキサゴナル状の規則的な配列が構成される。そして最終的には、多孔質酸化ケイ素の細孔内部にカチオン性界面活性剤が充填された状態の多孔質酸化ケイ素/界面活性剤複合体が得られる。
【0034】
カチオン性界面活性剤としては、水中で配列して、多孔質酸化ケイ素を得る際の鋳型となる性質を有するものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、多孔質酸化チタンの場合と同様に、モノ長鎖アルキル四級アンモニウム塩を好ましく用いることができる。
【0035】
アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は1〜4が好ましく、2〜3がより好ましい。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。
【0036】
開始剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ;塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;クエン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0037】
多孔質酸化ケイ素/界面活性剤複合体のより詳細な製造方法は、以下のとおりである。
まず、所定量のカチオン性界面活性剤及び所定量の開始剤を水に溶解させ、水溶液を調製する。カチオン性界面活性剤の濃度は、2〜10mMであることが好ましく、4〜8mMであることがより好ましい。また、開始剤の濃度は、5〜25mMであることが好ましく、10〜20mMであることがより好ましい。
【0038】
次に、調製した水溶液に所定量のアルコキシシランを添加する。アルコキシシランの添加量は、上記カチオン性界面活性剤1モルに対して4〜12モルであることが好ましく、6〜10モルであることがより好ましく、7〜9モルであることがさらに好ましい。添加量をこのような範囲とすることにより、界面活性剤を鋳型にして酸化ケイ素の生成反応を効率良く進行させることが可能となる。
【0039】
アルコキシシランを添加した後、所定温度で所定時間、混合撹拌することが好ましい。これによって酸化ケイ素の生成反応をより効率良く進行させることが可能となる。
混合温度は、使用するカチオン性界面活性剤の種類によって異なるが、10〜80℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましく、60℃近傍がさらに好ましい。液温が低すぎるとカチオン性界面活性剤が析出する傾向にあり、液温が高すぎるとカチオン性界面活性剤が規則的に配列せず、ヘキサゴナル構造の規則性が低下する虞がある。
混合時間は特に限定されるものではないが、通常は5〜120時間であり、10〜80時間であることが好ましく、15〜60時間であることがより好ましく、20〜40時間であることがさらに好ましい。混合時間が短すぎると加水分解・重縮合反応が不十分となり、溶液中で形成したヘキサゴナル構造が乾燥後に崩壊する傾向にあり、混合時間が長すぎると細孔の配列規則性が低下し、ヘキサゴナル構造が消失する場合がある。
【0040】
酸化ケイ素形成反応の終了後は、生成した多孔質酸化ケイ素/界面活性剤複合体を濾過により分離し、水やアルコールを用いて洗浄し、乾燥させる。このときの乾燥温度は、100〜150℃であることが好ましく、110〜140℃であることがより好ましい。乾燥時間は20〜28時間であることが好ましく、23〜25時間であることがより好ましい。
【0041】
この多孔質酸化ケイ素/界面活性剤複合体は、一般には粒子の状態で得ることができる。この粒子の直径は特に限定はないが、製造の容易さ、表面積の増大等の点で、20〜500nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。
【0042】
また、多孔質酸化ケイ素の細孔の直径は、通常は5〜50nmであり、7〜15nmであることが好ましい。細孔の直径と細孔の壁膜の厚さとの比は、特に限定されるものではないが、5:1〜50:1であることが好ましく、7:1〜15:1であることがより好ましい。壁膜の厚さは、0.5〜5nmであることが好ましく、0.8〜1.5nmであることがより好ましい。このような範囲とすることにより比表面積を効率的に増大させることが可能となる。
【0043】
(変形例)
以上、多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体の製造方法を例示的に2種類挙げたが、種々の変形が可能であることは勿論である。
例えば、上記の2番目の例ではアルコキシシランを用いて多孔質酸化ケイ素を得たが、アルコキシシランの代わりにアルコキシチタンやアルコキシジルコニウムといった他の金属アルコキシドを用いることにより、多孔質酸化チタンや多孔質酸化ジルコニウム等を得ることができる。また、金属種の異なる複数種の金属アルコキシドを組み合わせて用いることにより、複数の金属種が混在した多孔質金属酸化物を得ることも可能である。
【0044】
また、上記の例では界面活性剤のみを用いてミセルを形成したが、界面活性剤とともに水に難溶性の有機化合物を用いるようにしても構わない。このように、水に難溶性の有機化合物を界面活性剤とともに用いると、界面活性剤からなるミセルの核に有機化合物が取り込まれ、体積の増加した膨潤ミセルが形成されることが知られている(前掲の特許文献4を参照)。したがって、この膨潤ミセルの表面で金属酸化物を生成させることにより、細孔径の大きな多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体を得ることができる。
【0045】
水に難溶性の有機化合物としては、炭素数3〜32の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の炭化水素基を有し、かつ、常温で液体のものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の直鎖状の飽和炭化水素化合物;イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、イソヘキサン等の分岐鎖状の飽和炭化水素化合物;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の環状の飽和炭化水素化合物;ブタテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン等の直鎖状の不飽和炭化水素化合物;イソブテン、イソペンテン、イソヘキセン等の分岐鎖状の不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。また、ベンゼン、ナフタレンのように芳香族環を有していてもよい。
その中でも、ミセルの中心部と表面付近との両方に可溶化される有機化合物である1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン等を用いることが好ましい。
これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
【実施例】
【0046】
[製造例1]
カチオン性界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロミド(C16TAB)(アルドリッチ社製)を用い、酸性のチタン塩として酸化硫酸チタン(アルドリッチ社製)を用いて、以下のようにして多孔質酸化チタン/C16TAB複合体を製造した。
まず、水にC16TABを添加し、60mMのC16TAB水溶液を得た。このC16TAB水溶液(25mL)に3Mの酸化硫酸チタン水溶液(25mL)を添加し、60℃で24時間、加熱撹拌した。次いで、反応が終了した溶液を吸引濾過し、得られた生成物を水で洗浄し、120℃で24時間乾燥させた。得られた生成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、ヘキサゴナル構造を有する多孔質酸化チタン/C16TAB複合体が確認された。
【0047】
[製造例2〜4]
カチオン性界面活性剤としてラウリルトリメチルアンモニウムブロミド(C12TAB)、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド(C14TAB)、又はステアリルトリメチルアンモニウムブロミド(C18TAB)(いずれもアルドリッチ社製)を用いたほかは上記製造例1と同様にして、多孔質酸化チタン/C12TAB複合体、多孔質酸化チタン/C14TAB複合体、及び多孔質酸化チタン/C18TAB複合体を製造した。
【0048】
[比較製造例1]
製造例1で得られた多孔質酸化チタン/C16TAB複合体を450℃で2時間焼成してC16TABを除去することにより、多孔質酸化チタンを得た。得られた多孔質酸化チタンを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、ヘキサゴナル構造を有することが確認された。
【0049】
[製造例5]
カチオン性界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロミド(C16TAB)(アルドリッチ社製)を用い、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(アルドリッチ社製)を用い、開始剤として水酸化ナトリウムを用いて、以下のようにして多孔質酸化ケイ素/C16TAB複合体を製造した。
まず、水(480mL)にC16TAB(1g)と2Mの水酸化ナトリウム水溶液(3.5mL)とを添加し、水溶液を得た。この水溶液を60℃で撹拌した後、TEOS(5mL)を添加し、さらに60℃で2時間撹拌した。次いで、反応が終了した溶液を吸引濾過し、得られた生成物を水で洗浄し、120℃で24時間乾燥させた。得られた生成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、ヘキサゴナル構造を有する多孔質酸化ケイ素/C16TAB複合体が確認された。
【0050】
[比較製造例2]
製造例5で得られた多孔質酸化ケイ素/C16TAB複合体を550℃で5時間焼成してC16TABを除去することにより、多孔質酸化ケイ素を得た。得られた多孔質酸化ケイ素を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、ヘキサゴナル構造を有することが確認された。
【0051】
[吸着能の評価]
上記製造例1〜4で製造した多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体と、上記比較製造例1で製造した多孔質酸化チタンとの吸着能を以下のようにして比較した。
まず、4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールを1.5×10−5Mの濃度で溶解した水溶液(50mL)に、多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体(5mg)又は多孔質酸化チタン(5mg)を添加し、超音波で1分間分散させた。次いで、所定時間静置した後、3500rpm、20分間の条件で遠心分離した。その後、紫外可視分光光度計を用いて上清の192nmの波長における吸光度を測定し、予め作成した検量線を基に4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールの濃度を算出した。
【0052】
多孔質酸化チタン/C16TAB複合体を用いた場合と多孔質酸化チタンを用いた場合とにおける結果を、それぞれ図2(a)、(b)に示す。また、多孔質酸化チタン/C12TAB複合体、多孔質酸化チタン/C14TAB複合体、又は多孔質酸化チタン/C18TAB複合体を用いた場合の結果を、それぞれ図3〜5に示す。図中、左側の縦軸は4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールの濃度(10−5mol・dm−3)を示し、右側の縦軸は吸着されずに残存した4−n−ヘプチルフェノール又は4−ノニルフェノールの割合(%)を示す。
図2(a)から分かるように、多孔質酸化チタン/C16TAB複合体を用いた場合には、1時間の静置後で4−n−ヘプチルフェノールの約63%、4−ノニルフェノールの約68%を吸着することができ、24時間の静置後で4−n−ヘプチルフェノールの約71%、4−ノニルフェノールの約84%を吸着することができた。一方、図2(b)から分かるように、多孔質酸化チタンを用いた場合には、1時間の静置後で4−n−ヘプチルフェノールの約8%、4−ノニルフェノールの約9%しか吸着できず、24時間の静置後でも4−n−ヘプチルフェノールの約14%、4−ノニルフェノールの約15%しか吸着できなかった。
また、図3〜5から分かるように、多孔質酸化チタン/C12TAB複合体、多孔質酸化チタン/C14TAB複合体、又は多孔質酸化チタン/C18TAB複合体を用いた場合にも、4−n−ヘプチルフェノール、4−ノニルフェノールを効率良く吸着でき、その吸着量はカチオン性界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウムブロミドのアルキル基が長くなるほど増加した。
【0053】
また、上記と同様にして、製造例5で製造した多孔質酸化ケイ素/C16TAB複合体と、上記比較製造例2で製造した多孔質酸化ケイ素との吸着能を測定した結果を、それぞれ図6(a)、(b)に示す。
図6(a)から分かるように、多孔質酸化ケイ素/C16TAB複合体を用いた場合には、1時間の静置後で4−n−ヘプチルフェノールの約74%、4−ノニルフェノールの約68%を吸着することができ、24時間の静置後で4−n−ヘプチルフェノールの約91%、4−ノニルフェノールの約92%を吸着することができた。一方、図6(b)から分かるように、多孔質酸化ケイ素を用いた場合には、1時間の静置後で4−n−ヘプチルフェノールの約15%、4−ノニルフェノールの約15%しか吸着できておらず、24時間の静置後でも4−n−ヘプチルフェノールの約10%、4−ノニルフェノールの約15%しか吸着できていなかった。
【0054】
また、上記と同様にして、代表的な吸着材であるシリカゲル(富士シリシア化学社製)を乳鉢で粉末化したシリカゲル粉末の吸着能を測定した結果を図7に示す。
図7から分かるように、シリカゲル粉末を用いた場合には、1時間の静置後で4−n−ヘプチルフェノールの約19%、4−ノニルフェノールの約25%しか吸着できておらず、24時間の静置後でも4−n−ヘプチルフェノールの約22%、4−ノニルフェノールの約25%しか吸着できていなかった。
【0055】
[比表面積の測定]
上記製造例1〜4で製造した多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体、上記比較製造例1で製造した多孔質酸化チタン、上記製造例5で製造した多孔質酸化ケイ素/C16TAB複合体、上記比較製造例2で製造した多孔質酸化ケイ素、及びシリカゲルについて、自動比表面積/細孔分布測定器(BELSORP−mini II;日本ベル社製)を用いてBET比表面積を測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
図2〜7の結果から、多孔質金属酸化物自体には顕著な吸着能はないものの、界面活性剤と複合化された状態では、水相中に含まれる有機物を効率良く吸着できることが確認された。しかも、その吸着能は、従来の代表的な吸着材であるシリカゲルよりも高かった。また、図2〜7及び表1の結果から、その吸着能は比表面積とは無関係であることが確認された。図2〜5のように、カチオン性界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウムブロミドのアルキル基が長くなるほど吸着量が増加していることから、吸着対象である有機物との疎水性相互作用が、多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体の吸着能の重要な因子であると考えられる。
なお、有機物を吸着した多孔質金属酸化物/界面活性剤複合体は、濾過等により容易に除去することが可能である。
【0058】
[光触媒活性の評価]
上記製造例1〜4で製造した多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体の光触媒活性について、以下のようにして確認した。
まず、4−n−ヘプチルフェノールを1.5×10−5Mの濃度で溶解した水溶液(50mL)に、多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体(5mg)を添加し、超音波で1分間分散させた。次いで、暗所で24時間静置した後、365nm、2mW/cmの紫外光を96時間照射した。その間、数回に亘り、上記と同様にして4−n−ヘプチルフェノールの濃度を算出した。また、参照のため、多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体を添加せずに上記と同様の操作を行った。結果を図8に示す。
【0059】
図8から分かるように、暗所で静置している間にも4−n−ヘプチルフェノールの濃度は減少したが、紫外光を照射することでその濃度はさらに減少した。この結果から、多孔質酸化チタン/界面活性剤複合体は、有機物に対する吸着能だけでなく、光触媒活性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相中又は気相中に含まれる有機物を吸着するための吸着材であって、
多孔質金属酸化物と界面活性剤との複合体を含むことを特徴とする吸着材。
【請求項2】
前記複合体が、界面活性剤を鋳型として金属酸化物を生成させることにより得られたものであることを特徴とする請求項1記載の吸着材。
【請求項3】
前記多孔質金属酸化物が多孔質酸化チタン又は多孔質酸化ケイ素であり、前記界面活性剤がカチオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の吸着材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−227930(P2010−227930A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43817(P2010−43817)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】