吸着機能を有する繊維の製造方法及びこの繊維を用いた吸着材料
【課題】 繊維等に機能性物質を固定する従来の方法とは異なり、繊維材質を選択し、繊維組織の一部に化学変化を起こさせて、繊維自身が吸着機能効果をもつ繊維の製造方法及びこの製造方法によって製造された繊維を利用する吸着材料、繊維、並びに製品を提供する。
【解決手段】 例えば、絹、毛質系蛋白質繊維、皮革、羽毛ケラチン蛋白質、再生蛋白質繊維、及び芳香族を有する合成繊維のいずれか1又は2以上を主体とし、芳香族を有する繊維10を、0.01〜50%の硝酸にて処理し、繊維10にニトロ基を導入するアニオン性繊維の製造、及び更にこのアニオン性繊維を還元してアミノ基を導入したカチオン性繊維の製造。
【解決手段】 例えば、絹、毛質系蛋白質繊維、皮革、羽毛ケラチン蛋白質、再生蛋白質繊維、及び芳香族を有する合成繊維のいずれか1又は2以上を主体とし、芳香族を有する繊維10を、0.01〜50%の硝酸にて処理し、繊維10にニトロ基を導入するアニオン性繊維の製造、及び更にこのアニオン性繊維を還元してアミノ基を導入したカチオン性繊維の製造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族を有する繊維に化学処理を行って、ニトロ基を導入、更に必要な場合は更にニトロ基を還元し、例えばアンモニアやホルマリン等の物質の吸着機能性を持たせた繊維の製造方法及びこの繊維を応用した吸着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維を原料として特別な加工を行って、繊維に新機能を付与する製品の研究開発が活発に行われている。例えば、特許文献1(重金属捕集用濾材及びこれを用いる重金属捕集方法)、特許文献2(吸着体及びその製造方法)においては、機能性物質の粉体を繊維担持するものが、特許文献3(グラフト共重合体の製造法)、特許文献4(吸着剤)においては、機能を発現する物質をグラフト重合して吸着体や吸着剤を製造するものが開示されている。
一方、特許文献5では炭素系成型材料(主に炭素から構成され、かつ、一定の形状と大きさを有する材料であって、具体的には、粒状活性炭、炭素繊維、炭素成型品等を意味する)を濃硝酸で処理してニトロ基を導入した後、これを還元することによってアミノ基を有する炭素系成型材料の製造方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭55−50439号公報
【特許文献2】特開平3−118816号公報
【特許文献3】特開昭52−54800号公報
【特許文献4】特開昭52−141495号公報
【特許文献5】特開平11−335167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術においては、付着させた機能性物質の長期間の機能維持が困難であるほか、更には付着させた機能性物質が剥離しやすいという問題がある。
また、特許文献3、4に記載の技術は、機能性物質を原材料中に固定できるが、処理工程中での機能性物質の回収が困難であり、更にはコスト高になるという問題があった。
一方、特許文献5に記載の技術は、本発明の方法とその処理手法が類似しているが、原料が炭素成形体を対象としていて本願発明と異なり、更にこの特許文献5に記載の技術をそのまま繊維に当てはめても本願発明の作用、効果を有する吸着材料は製造できないものである。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、繊維等に機能性物質を固定する従来の方法とは異なり、繊維材質を選択し、繊維組織の一部に化学変化を起こさせて、繊維自身が吸着機能効果をもつ繊維の製造方法及びこの製造方法によって製造された繊維を利用する吸着材料、繊維、並びに製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る吸着機能を有する繊維の製造方法は、芳香族を有する繊維を希釈硝酸にて処理し、前記繊維にニトロ基を導入している。これによってアニオン性繊維となり、繊維中に存在するニトロ基が作用し、例えば、カドミウム、コバルト、クロム、鉛、水銀等の有害重金属、アンモニア、インドール等のカチオン又はカチオン系の物質が吸着される。ここで希釈硝酸(以下、単に「硝酸」という)の濃度は、反応温度と時間によって0.01〜50体積%(以下、単に「%」と記載する)とする。硝酸を0.01%未満とした場合には、ニトロ基の導入が不十分であり、低温状態でも50%を超えるとニトロ基導入が飽和して無駄であり、更には生地の種類によっては生地劣化が生じる。なお、より好ましくは0.1〜20%のものを使用するのがよい。また、この硝酸には、触媒として酢酸、無水酢酸、硫酸、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム等を加えてもよい。
また、第2の発明に係る吸着機能を有する繊維の製造方法は、第1の発明に係る繊維の製造方法において、前記ニトロ基を導入した繊維を還元処理してアミノ基を導入する。これによってカチオン性繊維となり、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、n−バレルアルデヒド等のアルデヒド誘導体、シアン化合物、塩素イオン等のアニオン又はアニオン系の物質が吸着される。
なお、この第1、第2の発明において、前記芳香族を有する繊維は、一般に動物性繊維であって、例えば絹、毛質系蛋白質繊維、皮革、及び羽毛ケラチン蛋白質、プロミックス等の再生蛋白質繊維、及びアラミド、ポリアリレート繊維等の合成繊維のいずれか1又は2以上を主体とするものがあるが、これらの繊維によって第1、第2の発明が限定されるものではない。
【0007】
第3の発明に係る吸着材料は、第1又は第2の発明に係る繊維の製造方法によって製造された吸着機能を有する繊維からなる。
また、第4の発明に係る繊維及び製品は、それぞれ第1又は第2の発明によって製造された繊維及びこれを一部又は全部に用いた製品からなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、芳香族を有する繊維(具体的には動物性繊維)に薬品を作用させて、動物繊維自身が有する機能を発揮させたものであり、以下の効果がある。
(1)繊維自身が機能を発現するため、機能性物質が不要で、機能性物質の脱落等の現象が生じない。
(2)繊維自身が機能を発現するため、従来技術のような機能性物質が不要で、機能性物質の回収が必要ない。
(3)吸着ニーズが一般的に大きいホルマリン及びアンモニアに対しては、従来の顆粒状活性炭に比べて5〜6倍の吸着機能を持つ。
(4)製造工程にて、成形工程が必要なく、高価な機能性物質を使わないので、従来技術に比較して加工コストの低減を期待でき、更には、本発明を回収繊維や未利用蛋白質材料に展開可能である。
(5)特に、芳香族を有する繊維を、希釈硝酸にて処理して製造した吸着機能を有する繊維は、pH8からpH10の間で黄色から橙色に色彩変化するpH応答性機能を有し、例えば、アンモニア吸着量がその色で判断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
続いて、図1を参照しながら本発明の一実施の形態に係る吸着機能を有する繊維の製造方法及びその繊維について説明する。
図1に芳香族を有する繊維の一例である動物繊維(例えば、羊毛、絹)10の分子構造の一部を示すが、図に示すように、一般に1又は2以上の芳香族基11〜13を備えている。この動物繊維10を0.01〜50%濃度で約20〜100℃(より好ましくは、0.1〜20%濃度で30〜70℃)の硝酸(希釈硝酸)に5〜70分程度で浸漬すると、キサントプロテイン反応を起こして黄化し、繊維自身の中に多数のニトロ基が導入されて、アニオン性繊維となる。このアニオン性繊維は、アンモニア等のカチオン性の分子やイオンを吸着する。この後、十分水洗いして余分な硝酸を除去し製品となるアニオン性繊維ができる。
【0010】
次に、このアニオン性の繊維を、図1に示すように、例えば0.1〜8%(より好ましくは2〜7%)で20〜100℃(より好ましくは、30〜70℃)のハイドロサルファイト水溶液に約10〜70分浸漬して、ニトロ基を還元してアミノ基としたカチオン性繊維を作製することができた。この反応は、アニオン性繊維のニトロ基が反応に関与していると思慮される。
このアニオン性繊維やカチオン性繊維の用途としては、繊維又は綿状としてカチオン(又はカチオン系の物質)やアニオン(又はアニオン系の物質)の吸着材料と使用できる他、布団、絨毯、建築用内壁材、カーテン等の製品に形成することによって有効に利用できる。
【実施例】
【0011】
続いて、本発明の作用、効果を確認するために行った実施例について説明する。
(実施例1)
アニオン性繊維の製造
毛(即ち羊毛製)の標準添付白布((財)日本規格協会製)10gを、20、15、10、5、0%の硝酸(キシダ化学株式会社製)水溶液に加え、30℃から60℃への昇温時間15分、60℃保温時間60分、60℃から30℃への冷却時間7分にてキサントプロテイン反応を行った(図2参照)。反応終了後、水、1%炭酸水素ナトリウム、水で順次洗浄し、アニオン性繊維を作製した。この繊維は硝酸濃度の増加に伴って黄色に着色できた。なお、絹についても同様に処理したが、20%硝酸濃度では劣化した。この処理における黄化値と硝酸濃度(%)との関係を図3に示す。
【0012】
図3から、絹のほうが毛よりも少量の硝酸濃度で黄化できることが示された。これは、ニトロ基が導入できる芳香族アミノ酸の量に依存すると思慮する。表1に絹フィブロインと羊毛ケラチンの芳香族アミノ酸組成(百分率)を示す。絹はチロシン含有量が毛よりも2.8倍多く、このチロシン含有量がニトロ基導入(黄化)に関与していると思慮する。
【0013】
【表1】
【0014】
また、絹、毛とも約10%前後の硝酸濃度で黄化は飽和することが明らかとなった。この黄化値はニトロ基導入量に依存すると思慮する。そこで、加工した繊維の元素分析を行い、色と窒素導入量の関係を調査した。図4は、繊維の炭素量が処理により変化しないと仮定して、硝酸濃度(%)に対する窒素(N)/炭素(C)の比を表している。この結果から、絹は硝酸濃度の向上でN/C比は大きくなり、窒素が増え、10%硝酸濃度でN/Cが飽和しており、黄化値(b)と同様な結果が得られた。一方、毛には値にバラツキがあったが、未処理よりも5〜15%処理で窒素が増加することは確認できた。
【0015】
(実施例2)
カチオン性繊維の製造
次に、実施例1の処理で羊毛性繊維をアニオン性繊維とした後、5%ハイドロサルファイト(キシダ化学株式会社製)水溶液に加え、図5に示すような条件で還元反応を行った。この還元反応により、アニオン性繊維では黄色であったが、漂白され繊維原色となった。冷却後、水にて数回洗浄した。洗浄時には洗液を採取し、この溶液に5%塩化バリウムを数滴加え、白濁しないことを確認した。これは、残存するSO4 2-を確認するためである。さらに、デンプン−ヨウ素反応により、還元性物質の有無を確認した。以上の試験にて、完全にハイドロサルファイトが除去できたことを確認した。
なお、カチオン性絹繊維の作成においても同様な処理にて行った。
【0016】
(実施例3)
アルデヒド吸着試験
まず、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)捕集−高速液体クロマトグラフ法(DNPH−HPLC)にて定量を行うことにした。反応液は、DNPH(和光純薬工業株式会社製)をアセトニトリル(和光純薬工業株式会社製)98mlと35%塩酸(キシダ化学株式会社製)2mlに溶解させ調整した。測定試料0.2mlに反応液1.8mlを加えて45±1℃、30分間加温した。反応後、冷却し、ポアサイズ0.5μmのフィルターでろ過し、その20μlを高速液体クロマトグラフへ注入した。HPLC条件は表2のように決定した。図6にそれぞれDNPHにてラベル化した各種アルデヒド誘導体のHPLCチャートを示す。アルデヒド誘導体の定量は、それぞれのピーク面積により検量線を作成し、絶対検量線法により行った。
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
アルデヒドの吸着試験は、30ppmの25ml溶液に、0.5gの動物繊維を加えて、20℃にて振盪させることにより行い、時間毎の吸着経時変化を測定した。まず、未処理、アニオン性繊維、カチオン性繊維、顆粒状活性炭にてホルムアルデヒドの吸着試験を行った結果を図7(A)に示す。なお、図中の表記は表3のようにした。
図7(A)の結果から、WNH10>SNH05>WNH00の順で吸着能が大きく、カチオン性繊維が効果的であった。吸着平衡に達したと考えられる20時間後の吸着率は、それぞれ96.8%、57.5%、51.7%であった。その他の繊維と顆粒状活性炭は16%以下であった。そこで、カチオン性繊維のみでホルムアルデヒドの吸着試験を行った結果を図7(B)に示す。これによって、WNH10及びWNH15のカチオン性繊維がホルムアルデヒドに対して優れた吸着性を示すことが分かる。なお、その他の分子量の大きい5種類のアルデヒド類(アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド)について、カチオン性繊維の吸着性を合わせて実験した結果を、図8(A)〜(C)及び図9(A)、(B)に示すが、いずれのアルデヒド類に対しても吸着性能を有することが分かる。
【0020】
実験結果から、6種のアルデヒド誘導体全てでカチオン性繊維は吸着能を示しているので、動物繊維の構成成分にアミノ基を導入することにより、アルデヒド吸着機能が発現できることが明らかとなった。各種の試験結果から、各種アルデヒド吸着では絹よりも毛のほうが高い吸着能を示し、その硝酸処理濃度は10%≧15%≫5%>0%の順で大きくなった。絹でも5%≧10%≫0%の順で吸着能は大きくなった。ホルムアルデヒドの吸着性能は、従来の吸着剤として用いられている顆粒状活性炭と比較しても、吸着能は6倍以上であった。
【0021】
アルデヒドの種類による吸着は、明らかに、分子量が小さいホルムアルデヒドではカチオン性繊維の吸着能は大きいが、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒドでは約1/3に減少した。しかし、さらに分子が大きいn−バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒドでは吸着能は1/2の減少に留まった。なお、顆粒状活性炭は分子が大きくなるほど吸着能の増大が見られた。活性炭の場合には、アルデヒド類を物理吸着(即ち、ポアで吸着)するので、分子量の大きいアルデヒド類がより捕捉され易いからと思慮される。
【0022】
(実施例4)
ビスフェノールA吸着試験
内分泌攪乱物質、所謂環境ホルモンの疑いがあるビスフェノールAについても上記と同様な試験を行った。今回は、10ppmの25ml溶液を調整し、0.5gの各種吸着剤にて20℃で振盪し、吸着試験を行った。ビスフェノールAの定量分析は表4の条件で高速液体クロマトグラフ測定し、絶対検量線法にて行った。この経時変化結果を図10に示す。
この結果から、各種動物繊維は活性炭の吸着能と大きく変化しなかった。しかし、動物繊維は吸着初段階の1〜10時間で活性炭よりも吸着能は大きく、例えば2時間後では、図11に示すように活性炭の2倍程度吸着しており、吸着速度は活性炭よりも大きいことが示された。また、今回はアルデヒド誘導体の結果と異なって、未処理、アニオン、カチオンのいずれの繊維でも毛より絹の方が吸着能は大きかった。
【0023】
【表4】
【0024】
(実施例5)
アンモニア吸着試験
悪臭物質であるアンモニアの吸着試験を行った。アンモニアは福祉や医療関連に対応した繊維等で消臭試験の項目としてあげられており、活性炭微粒子を練りこんだ繊維等が商品化されている。アンモニア吸着が可能であれば、用途展開が大きい。そこで、100ppmの40ml溶液を調整し、0.5gの各種吸着剤にて20℃で振盪し、吸着試験を行った。アンモニアの定量分析は伝導率検出器を付属した高速液体クロマトグラフにて表5の条件で測定し、絶対検量線法にて行った。この経時変化結果を図12に示す。
【0025】
【表5】
【0026】
この結果、アンモニア吸着に関しては、絹が毛、顆粒状活性炭よりも吸着量が大きく、特にアニオン化したSNO05とSNO10は2時間で70ppmまで吸着し、従来用いられている粒状活性炭よりも5倍の吸着能を示した。このことにより繊維のアニオン化によりカチオン性物質吸着機能が向上することが示された。一方、毛では未処理が20ppm程度吸着したものの、アニオン性毛繊維は吸着が確認できなかった。
【0027】
(実施例6)
6価クロム(Cr6+)吸着試験
6価クロム(Cr6+)は、水道水の水質基準(1992年12月厚生省令1993年12月施行)の健康に関連する項目(29項目)の一つであり、0.05ppm以下の規定がある。そこで、今回、6価クロム(Cr6+)の吸着実験を行った。吸着条件は、100ppmの6価クロム(Cr6+)水溶液40mlに各種吸着剤0.4gを加えた。4時間20℃で吸着し、6価クロム(Cr6+)の吸着反応溶液に残存する量を高周波アルゴンプラズマ電源装置:ICAP−88(日本ジャーレル・アッシュ(株)製)にて測定した。2時間後の結果を図13に示す。
【0028】
以上の実施例から以下のことが分かる。
(1)キサントプロテイン反応で複数のニトロ基を動物繊維に導入可能である。
(2)複数のアミノ基を動物繊維に導入することが可能である。
(3)キサントプロテイン反応条件にて窒素導入量は増加するが、硝酸処理条件が10%程度で飽和する。なお、使用上は20%程度使用しても問題はないが、それ以上の濃度の硝酸を使用すると繊維の劣化が発生し易く、また、余分の硝酸を使用するのでコスト高となる。
(4)ホルムアルデヒド吸着ではカチオン性繊維が優位、硝酸処理条件10%≧15%≫5%>0%の順である。
(5)カチオン性繊維のホルムアルデヒド吸着は、従来の顆粒状活性炭の6倍の吸着を示す。
(6)ビスフェノールAの吸着ではアニオン性絹繊維が優位であり、顆粒状活性炭より吸着初速度大である。
(7)アンモニア吸着では、アニオン性絹繊維が優位であり、顆粒状活性炭よりも5倍の吸着性を有する。
(8)6価クロム吸着もアニオン性毛繊維を使用すると吸着する。
【0029】
本発明は、前記した実施の形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での改良、変更等であっても本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記実施例においては、還元剤としてハイドロサルファイトを使用したが、他の還元剤であっても本発明は適用可能である。また、芳香族を有する繊維として、絹、毛質系蛋白質繊維、皮革、羽毛ケラチン蛋白質、プロミックス等の再生蛋白質繊維、及びアラミド、ポリアリレート繊維等の合成繊維のいずれか1又は2以上を主体とするものを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】芳香族を有する繊維の一例である動物繊維(例えば、羊毛、絹)の分子構造の一部を示す説明図である。
【図2】動物繊維のキサントプロテイン反応条件を示すグラフである。
【図3】硝酸濃度と黄化率を示すグラフである。
【図4】加工後の動物繊維の硝酸濃度とN/Cとの関係を示すグラフである。
【図5】動物繊維の還元反応条件を示すグラフである。
【図6】各種アルデヒド誘導体のHPLCを示すグラフである。
【図7】(A)はホルムアルデヒドの吸着時間と吸着量との関係を示すグラフ、(B)カチオン性繊維のホルムアルデヒド吸着結果を示すグラフである。
【図8】(A)はカチオン性繊維のアセトアルデヒド吸着結果を示すグラフ、(B)はカチオン性繊維のプロピルアルデヒド吸着結果を示すグラフ、(C)はカチオン性繊維のイソブチルアルデヒド吸着結果を示すグラフである。
【図9】(A)はカチオン性繊維のn−バレルアルデヒド吸着結果を示すグラフ、(B)はカチオン性繊維のイソバレルアルデヒド吸着結果を示すグラフである。
【図10】ビスフェノールAの吸着結果を示すグラフである。
【図11】2時間後のビスフェノールAの吸着結果を示すグラフである。
【図12】アンモニアの吸着結果を示すグラフである。
【図13】6価クロムの吸着結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
10:動物繊維(例えば、羊毛、絹)、11〜13:芳香族基
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族を有する繊維に化学処理を行って、ニトロ基を導入、更に必要な場合は更にニトロ基を還元し、例えばアンモニアやホルマリン等の物質の吸着機能性を持たせた繊維の製造方法及びこの繊維を応用した吸着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維を原料として特別な加工を行って、繊維に新機能を付与する製品の研究開発が活発に行われている。例えば、特許文献1(重金属捕集用濾材及びこれを用いる重金属捕集方法)、特許文献2(吸着体及びその製造方法)においては、機能性物質の粉体を繊維担持するものが、特許文献3(グラフト共重合体の製造法)、特許文献4(吸着剤)においては、機能を発現する物質をグラフト重合して吸着体や吸着剤を製造するものが開示されている。
一方、特許文献5では炭素系成型材料(主に炭素から構成され、かつ、一定の形状と大きさを有する材料であって、具体的には、粒状活性炭、炭素繊維、炭素成型品等を意味する)を濃硝酸で処理してニトロ基を導入した後、これを還元することによってアミノ基を有する炭素系成型材料の製造方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭55−50439号公報
【特許文献2】特開平3−118816号公報
【特許文献3】特開昭52−54800号公報
【特許文献4】特開昭52−141495号公報
【特許文献5】特開平11−335167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術においては、付着させた機能性物質の長期間の機能維持が困難であるほか、更には付着させた機能性物質が剥離しやすいという問題がある。
また、特許文献3、4に記載の技術は、機能性物質を原材料中に固定できるが、処理工程中での機能性物質の回収が困難であり、更にはコスト高になるという問題があった。
一方、特許文献5に記載の技術は、本発明の方法とその処理手法が類似しているが、原料が炭素成形体を対象としていて本願発明と異なり、更にこの特許文献5に記載の技術をそのまま繊維に当てはめても本願発明の作用、効果を有する吸着材料は製造できないものである。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、繊維等に機能性物質を固定する従来の方法とは異なり、繊維材質を選択し、繊維組織の一部に化学変化を起こさせて、繊維自身が吸着機能効果をもつ繊維の製造方法及びこの製造方法によって製造された繊維を利用する吸着材料、繊維、並びに製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る吸着機能を有する繊維の製造方法は、芳香族を有する繊維を希釈硝酸にて処理し、前記繊維にニトロ基を導入している。これによってアニオン性繊維となり、繊維中に存在するニトロ基が作用し、例えば、カドミウム、コバルト、クロム、鉛、水銀等の有害重金属、アンモニア、インドール等のカチオン又はカチオン系の物質が吸着される。ここで希釈硝酸(以下、単に「硝酸」という)の濃度は、反応温度と時間によって0.01〜50体積%(以下、単に「%」と記載する)とする。硝酸を0.01%未満とした場合には、ニトロ基の導入が不十分であり、低温状態でも50%を超えるとニトロ基導入が飽和して無駄であり、更には生地の種類によっては生地劣化が生じる。なお、より好ましくは0.1〜20%のものを使用するのがよい。また、この硝酸には、触媒として酢酸、無水酢酸、硫酸、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム等を加えてもよい。
また、第2の発明に係る吸着機能を有する繊維の製造方法は、第1の発明に係る繊維の製造方法において、前記ニトロ基を導入した繊維を還元処理してアミノ基を導入する。これによってカチオン性繊維となり、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、n−バレルアルデヒド等のアルデヒド誘導体、シアン化合物、塩素イオン等のアニオン又はアニオン系の物質が吸着される。
なお、この第1、第2の発明において、前記芳香族を有する繊維は、一般に動物性繊維であって、例えば絹、毛質系蛋白質繊維、皮革、及び羽毛ケラチン蛋白質、プロミックス等の再生蛋白質繊維、及びアラミド、ポリアリレート繊維等の合成繊維のいずれか1又は2以上を主体とするものがあるが、これらの繊維によって第1、第2の発明が限定されるものではない。
【0007】
第3の発明に係る吸着材料は、第1又は第2の発明に係る繊維の製造方法によって製造された吸着機能を有する繊維からなる。
また、第4の発明に係る繊維及び製品は、それぞれ第1又は第2の発明によって製造された繊維及びこれを一部又は全部に用いた製品からなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、芳香族を有する繊維(具体的には動物性繊維)に薬品を作用させて、動物繊維自身が有する機能を発揮させたものであり、以下の効果がある。
(1)繊維自身が機能を発現するため、機能性物質が不要で、機能性物質の脱落等の現象が生じない。
(2)繊維自身が機能を発現するため、従来技術のような機能性物質が不要で、機能性物質の回収が必要ない。
(3)吸着ニーズが一般的に大きいホルマリン及びアンモニアに対しては、従来の顆粒状活性炭に比べて5〜6倍の吸着機能を持つ。
(4)製造工程にて、成形工程が必要なく、高価な機能性物質を使わないので、従来技術に比較して加工コストの低減を期待でき、更には、本発明を回収繊維や未利用蛋白質材料に展開可能である。
(5)特に、芳香族を有する繊維を、希釈硝酸にて処理して製造した吸着機能を有する繊維は、pH8からpH10の間で黄色から橙色に色彩変化するpH応答性機能を有し、例えば、アンモニア吸着量がその色で判断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
続いて、図1を参照しながら本発明の一実施の形態に係る吸着機能を有する繊維の製造方法及びその繊維について説明する。
図1に芳香族を有する繊維の一例である動物繊維(例えば、羊毛、絹)10の分子構造の一部を示すが、図に示すように、一般に1又は2以上の芳香族基11〜13を備えている。この動物繊維10を0.01〜50%濃度で約20〜100℃(より好ましくは、0.1〜20%濃度で30〜70℃)の硝酸(希釈硝酸)に5〜70分程度で浸漬すると、キサントプロテイン反応を起こして黄化し、繊維自身の中に多数のニトロ基が導入されて、アニオン性繊維となる。このアニオン性繊維は、アンモニア等のカチオン性の分子やイオンを吸着する。この後、十分水洗いして余分な硝酸を除去し製品となるアニオン性繊維ができる。
【0010】
次に、このアニオン性の繊維を、図1に示すように、例えば0.1〜8%(より好ましくは2〜7%)で20〜100℃(より好ましくは、30〜70℃)のハイドロサルファイト水溶液に約10〜70分浸漬して、ニトロ基を還元してアミノ基としたカチオン性繊維を作製することができた。この反応は、アニオン性繊維のニトロ基が反応に関与していると思慮される。
このアニオン性繊維やカチオン性繊維の用途としては、繊維又は綿状としてカチオン(又はカチオン系の物質)やアニオン(又はアニオン系の物質)の吸着材料と使用できる他、布団、絨毯、建築用内壁材、カーテン等の製品に形成することによって有効に利用できる。
【実施例】
【0011】
続いて、本発明の作用、効果を確認するために行った実施例について説明する。
(実施例1)
アニオン性繊維の製造
毛(即ち羊毛製)の標準添付白布((財)日本規格協会製)10gを、20、15、10、5、0%の硝酸(キシダ化学株式会社製)水溶液に加え、30℃から60℃への昇温時間15分、60℃保温時間60分、60℃から30℃への冷却時間7分にてキサントプロテイン反応を行った(図2参照)。反応終了後、水、1%炭酸水素ナトリウム、水で順次洗浄し、アニオン性繊維を作製した。この繊維は硝酸濃度の増加に伴って黄色に着色できた。なお、絹についても同様に処理したが、20%硝酸濃度では劣化した。この処理における黄化値と硝酸濃度(%)との関係を図3に示す。
【0012】
図3から、絹のほうが毛よりも少量の硝酸濃度で黄化できることが示された。これは、ニトロ基が導入できる芳香族アミノ酸の量に依存すると思慮する。表1に絹フィブロインと羊毛ケラチンの芳香族アミノ酸組成(百分率)を示す。絹はチロシン含有量が毛よりも2.8倍多く、このチロシン含有量がニトロ基導入(黄化)に関与していると思慮する。
【0013】
【表1】
【0014】
また、絹、毛とも約10%前後の硝酸濃度で黄化は飽和することが明らかとなった。この黄化値はニトロ基導入量に依存すると思慮する。そこで、加工した繊維の元素分析を行い、色と窒素導入量の関係を調査した。図4は、繊維の炭素量が処理により変化しないと仮定して、硝酸濃度(%)に対する窒素(N)/炭素(C)の比を表している。この結果から、絹は硝酸濃度の向上でN/C比は大きくなり、窒素が増え、10%硝酸濃度でN/Cが飽和しており、黄化値(b)と同様な結果が得られた。一方、毛には値にバラツキがあったが、未処理よりも5〜15%処理で窒素が増加することは確認できた。
【0015】
(実施例2)
カチオン性繊維の製造
次に、実施例1の処理で羊毛性繊維をアニオン性繊維とした後、5%ハイドロサルファイト(キシダ化学株式会社製)水溶液に加え、図5に示すような条件で還元反応を行った。この還元反応により、アニオン性繊維では黄色であったが、漂白され繊維原色となった。冷却後、水にて数回洗浄した。洗浄時には洗液を採取し、この溶液に5%塩化バリウムを数滴加え、白濁しないことを確認した。これは、残存するSO4 2-を確認するためである。さらに、デンプン−ヨウ素反応により、還元性物質の有無を確認した。以上の試験にて、完全にハイドロサルファイトが除去できたことを確認した。
なお、カチオン性絹繊維の作成においても同様な処理にて行った。
【0016】
(実施例3)
アルデヒド吸着試験
まず、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)捕集−高速液体クロマトグラフ法(DNPH−HPLC)にて定量を行うことにした。反応液は、DNPH(和光純薬工業株式会社製)をアセトニトリル(和光純薬工業株式会社製)98mlと35%塩酸(キシダ化学株式会社製)2mlに溶解させ調整した。測定試料0.2mlに反応液1.8mlを加えて45±1℃、30分間加温した。反応後、冷却し、ポアサイズ0.5μmのフィルターでろ過し、その20μlを高速液体クロマトグラフへ注入した。HPLC条件は表2のように決定した。図6にそれぞれDNPHにてラベル化した各種アルデヒド誘導体のHPLCチャートを示す。アルデヒド誘導体の定量は、それぞれのピーク面積により検量線を作成し、絶対検量線法により行った。
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
アルデヒドの吸着試験は、30ppmの25ml溶液に、0.5gの動物繊維を加えて、20℃にて振盪させることにより行い、時間毎の吸着経時変化を測定した。まず、未処理、アニオン性繊維、カチオン性繊維、顆粒状活性炭にてホルムアルデヒドの吸着試験を行った結果を図7(A)に示す。なお、図中の表記は表3のようにした。
図7(A)の結果から、WNH10>SNH05>WNH00の順で吸着能が大きく、カチオン性繊維が効果的であった。吸着平衡に達したと考えられる20時間後の吸着率は、それぞれ96.8%、57.5%、51.7%であった。その他の繊維と顆粒状活性炭は16%以下であった。そこで、カチオン性繊維のみでホルムアルデヒドの吸着試験を行った結果を図7(B)に示す。これによって、WNH10及びWNH15のカチオン性繊維がホルムアルデヒドに対して優れた吸着性を示すことが分かる。なお、その他の分子量の大きい5種類のアルデヒド類(アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド)について、カチオン性繊維の吸着性を合わせて実験した結果を、図8(A)〜(C)及び図9(A)、(B)に示すが、いずれのアルデヒド類に対しても吸着性能を有することが分かる。
【0020】
実験結果から、6種のアルデヒド誘導体全てでカチオン性繊維は吸着能を示しているので、動物繊維の構成成分にアミノ基を導入することにより、アルデヒド吸着機能が発現できることが明らかとなった。各種の試験結果から、各種アルデヒド吸着では絹よりも毛のほうが高い吸着能を示し、その硝酸処理濃度は10%≧15%≫5%>0%の順で大きくなった。絹でも5%≧10%≫0%の順で吸着能は大きくなった。ホルムアルデヒドの吸着性能は、従来の吸着剤として用いられている顆粒状活性炭と比較しても、吸着能は6倍以上であった。
【0021】
アルデヒドの種類による吸着は、明らかに、分子量が小さいホルムアルデヒドではカチオン性繊維の吸着能は大きいが、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒドでは約1/3に減少した。しかし、さらに分子が大きいn−バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒドでは吸着能は1/2の減少に留まった。なお、顆粒状活性炭は分子が大きくなるほど吸着能の増大が見られた。活性炭の場合には、アルデヒド類を物理吸着(即ち、ポアで吸着)するので、分子量の大きいアルデヒド類がより捕捉され易いからと思慮される。
【0022】
(実施例4)
ビスフェノールA吸着試験
内分泌攪乱物質、所謂環境ホルモンの疑いがあるビスフェノールAについても上記と同様な試験を行った。今回は、10ppmの25ml溶液を調整し、0.5gの各種吸着剤にて20℃で振盪し、吸着試験を行った。ビスフェノールAの定量分析は表4の条件で高速液体クロマトグラフ測定し、絶対検量線法にて行った。この経時変化結果を図10に示す。
この結果から、各種動物繊維は活性炭の吸着能と大きく変化しなかった。しかし、動物繊維は吸着初段階の1〜10時間で活性炭よりも吸着能は大きく、例えば2時間後では、図11に示すように活性炭の2倍程度吸着しており、吸着速度は活性炭よりも大きいことが示された。また、今回はアルデヒド誘導体の結果と異なって、未処理、アニオン、カチオンのいずれの繊維でも毛より絹の方が吸着能は大きかった。
【0023】
【表4】
【0024】
(実施例5)
アンモニア吸着試験
悪臭物質であるアンモニアの吸着試験を行った。アンモニアは福祉や医療関連に対応した繊維等で消臭試験の項目としてあげられており、活性炭微粒子を練りこんだ繊維等が商品化されている。アンモニア吸着が可能であれば、用途展開が大きい。そこで、100ppmの40ml溶液を調整し、0.5gの各種吸着剤にて20℃で振盪し、吸着試験を行った。アンモニアの定量分析は伝導率検出器を付属した高速液体クロマトグラフにて表5の条件で測定し、絶対検量線法にて行った。この経時変化結果を図12に示す。
【0025】
【表5】
【0026】
この結果、アンモニア吸着に関しては、絹が毛、顆粒状活性炭よりも吸着量が大きく、特にアニオン化したSNO05とSNO10は2時間で70ppmまで吸着し、従来用いられている粒状活性炭よりも5倍の吸着能を示した。このことにより繊維のアニオン化によりカチオン性物質吸着機能が向上することが示された。一方、毛では未処理が20ppm程度吸着したものの、アニオン性毛繊維は吸着が確認できなかった。
【0027】
(実施例6)
6価クロム(Cr6+)吸着試験
6価クロム(Cr6+)は、水道水の水質基準(1992年12月厚生省令1993年12月施行)の健康に関連する項目(29項目)の一つであり、0.05ppm以下の規定がある。そこで、今回、6価クロム(Cr6+)の吸着実験を行った。吸着条件は、100ppmの6価クロム(Cr6+)水溶液40mlに各種吸着剤0.4gを加えた。4時間20℃で吸着し、6価クロム(Cr6+)の吸着反応溶液に残存する量を高周波アルゴンプラズマ電源装置:ICAP−88(日本ジャーレル・アッシュ(株)製)にて測定した。2時間後の結果を図13に示す。
【0028】
以上の実施例から以下のことが分かる。
(1)キサントプロテイン反応で複数のニトロ基を動物繊維に導入可能である。
(2)複数のアミノ基を動物繊維に導入することが可能である。
(3)キサントプロテイン反応条件にて窒素導入量は増加するが、硝酸処理条件が10%程度で飽和する。なお、使用上は20%程度使用しても問題はないが、それ以上の濃度の硝酸を使用すると繊維の劣化が発生し易く、また、余分の硝酸を使用するのでコスト高となる。
(4)ホルムアルデヒド吸着ではカチオン性繊維が優位、硝酸処理条件10%≧15%≫5%>0%の順である。
(5)カチオン性繊維のホルムアルデヒド吸着は、従来の顆粒状活性炭の6倍の吸着を示す。
(6)ビスフェノールAの吸着ではアニオン性絹繊維が優位であり、顆粒状活性炭より吸着初速度大である。
(7)アンモニア吸着では、アニオン性絹繊維が優位であり、顆粒状活性炭よりも5倍の吸着性を有する。
(8)6価クロム吸着もアニオン性毛繊維を使用すると吸着する。
【0029】
本発明は、前記した実施の形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での改良、変更等であっても本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記実施例においては、還元剤としてハイドロサルファイトを使用したが、他の還元剤であっても本発明は適用可能である。また、芳香族を有する繊維として、絹、毛質系蛋白質繊維、皮革、羽毛ケラチン蛋白質、プロミックス等の再生蛋白質繊維、及びアラミド、ポリアリレート繊維等の合成繊維のいずれか1又は2以上を主体とするものを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】芳香族を有する繊維の一例である動物繊維(例えば、羊毛、絹)の分子構造の一部を示す説明図である。
【図2】動物繊維のキサントプロテイン反応条件を示すグラフである。
【図3】硝酸濃度と黄化率を示すグラフである。
【図4】加工後の動物繊維の硝酸濃度とN/Cとの関係を示すグラフである。
【図5】動物繊維の還元反応条件を示すグラフである。
【図6】各種アルデヒド誘導体のHPLCを示すグラフである。
【図7】(A)はホルムアルデヒドの吸着時間と吸着量との関係を示すグラフ、(B)カチオン性繊維のホルムアルデヒド吸着結果を示すグラフである。
【図8】(A)はカチオン性繊維のアセトアルデヒド吸着結果を示すグラフ、(B)はカチオン性繊維のプロピルアルデヒド吸着結果を示すグラフ、(C)はカチオン性繊維のイソブチルアルデヒド吸着結果を示すグラフである。
【図9】(A)はカチオン性繊維のn−バレルアルデヒド吸着結果を示すグラフ、(B)はカチオン性繊維のイソバレルアルデヒド吸着結果を示すグラフである。
【図10】ビスフェノールAの吸着結果を示すグラフである。
【図11】2時間後のビスフェノールAの吸着結果を示すグラフである。
【図12】アンモニアの吸着結果を示すグラフである。
【図13】6価クロムの吸着結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
10:動物繊維(例えば、羊毛、絹)、11〜13:芳香族基
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族を有する繊維を、希釈硝酸にて処理し、前記繊維にニトロ基を導入することを特徴とする吸着機能を有する繊維の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の繊維の製造方法において、前記希釈硝酸は0.01〜50%濃度の硝酸であることを特徴とする吸着機能を有する繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の繊維の製造方法において、前記ニトロ基を導入した繊維を還元処理してアミノ基を導入することを特徴とする吸着機能を有する繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維の製造方法において、前記芳香族を有する繊維が、絹、毛質系蛋白質繊維、皮革、羽毛ケラチン蛋白質、再生蛋白質繊維、及び芳香族を有する合成繊維のいずれか1又は2以上を主体とすることを特徴とする吸着機能を有する繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維の製造方法によって製造された吸着機能を有する繊維からなる吸着材料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維の製造方法によって製造されたことを特徴とする繊維。
【請求項7】
請求項6記載の繊維を一部又は全部に使用したことを特徴とする製品。
【請求項1】
芳香族を有する繊維を、希釈硝酸にて処理し、前記繊維にニトロ基を導入することを特徴とする吸着機能を有する繊維の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の繊維の製造方法において、前記希釈硝酸は0.01〜50%濃度の硝酸であることを特徴とする吸着機能を有する繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の繊維の製造方法において、前記ニトロ基を導入した繊維を還元処理してアミノ基を導入することを特徴とする吸着機能を有する繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維の製造方法において、前記芳香族を有する繊維が、絹、毛質系蛋白質繊維、皮革、羽毛ケラチン蛋白質、再生蛋白質繊維、及び芳香族を有する合成繊維のいずれか1又は2以上を主体とすることを特徴とする吸着機能を有する繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維の製造方法によって製造された吸着機能を有する繊維からなる吸着材料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維の製造方法によって製造されたことを特徴とする繊維。
【請求項7】
請求項6記載の繊維を一部又は全部に使用したことを特徴とする製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−181538(P2006−181538A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380468(P2004−380468)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】
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