説明

吸音板およびその製造方法

【課題】 吸音ピーク周波数をコントロールすることができる吸音板であって、施工が容易で、低コスト化が可能な吸音板、およびその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】 本発明の吸音板は、都市ゴミ焼却灰の溶融水砕物である加熱発泡性溶融スラグ粒子由来の焼成体であって、酸化物基準でSiO2 40〜60質量%、Al2 3 15〜25質量%、CaO 10〜20質量%、Fe2 3 2〜5質量%、MgO 1〜5質量%、Na2 O 2〜10質量%含み、かさ密度が0.7g/cm3 〜1.0g/cm3 、空気の流れ抵抗が0.2×104 NS/m4 〜1.0×104 NS/m4 である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般廃棄物や産業廃棄物から得られる仮焼発泡溶融スラグ粒子を原料とする吸音板であって、その吸音ピーク周波数をコントロールすることができる吸音板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで吸音材としては、グラスウール等の鉱物繊維系吸音材が知られているが含水すると吸音性能が著しく低下するという問題があり、また、石膏ボードに多数の貫通孔を穿設し、貫通孔での共鳴により音エネルギーを吸収する吸音板が知られているが、特定の周波数しか吸収できないという欠点があり、この欠点を解消するために、背後に空気層を設けたり、グラスウール等の裏打ち材を背面に取り付けることが行われているが、施工に手間を要するという問題がある。
【0003】
最近では、セラミックス原料を成形して高温で焼成したセラミックス系の吸音材が開発され、細かい気孔により音エネルギーを吸収する作用を持たせたものであるが、気孔による空隙の程度により吸音性能が多少異なるものの、材質によって吸音周波数がほぼ特定されるうえ、吸音しうる周波数領域も狭いという問題があり、この問題を解決するために、上記と同様に背後に空気層を設けたり、また、空気層と他の多孔質材料を組み合わせる等の工夫がされているが、上記と同様に施工に手間を要し、コストの上昇を招くという問題がある。
【0004】
そのため、吸音ピーク周波数をコントロールする観点から、特許文献1には連通気孔をもち少なくとも1cm3 ・cm/cm2 ・sec・cmH2 Oの通気率を有する多孔質のセラミックブロックに多数の同じ深さの非貫通孔をほぼ規則的に穿設したものとし、その非貫通孔の深さを変えた吸音材とすることによって吸音材としての吸音ピーク周波数を変化させることができることが記載され、非貫通孔の深さを適宜選択し、セラミックブロックに適切な一定の深さの非貫通孔を多数穿設することによって、吸音材の用途や設置場所に適した吸音ピーク周波数をもつセラミックス吸音材とできることが記載されている。しかしながら、原料であるセラミックス粒子等は高価であり、また、専用炉で長時間の焼結が必要となるなど、一般に高い製造コストを要するという問題がある。
【0005】
また、特許文献2には都市ゴミ焼却灰を溶融水砕して得られる加熱発泡性溶融スラグ粒子を利用することにより、セラミック材より安価に吸音板を製造できることが記載されているが、吸音する周波数の巾が狭く、吸音率も良くなく、また、図5に背後空気層50mmと記載されるように、吸音周波数の調整を目的として空気層を設けるなど施工に手間を要し、コストの上昇を招くという問題がある。また、吸音ピーク周波数を制御しうることを記載するものではない。
【特許文献1】特開平9−324475号公報
【特許文献2】特開平11−61748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、その吸音ピーク周波数をコントロールすることができる吸音板であって、施工が容易で、低コスト化が可能な吸音板、およびその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の吸音板は、都市ゴミ焼却灰の溶融水砕物である加熱発泡性溶融スラグ粒子由来の焼成体であって、酸化物基準でSiO2 40〜60質量%、Al2 3 15〜25質量%、CaO 10〜20質量%、Fe2 3 2〜5質量%、MgO 1〜5質量%、Na2 O 2〜10質量%含み、かさ密度が0.7g/cm3 〜1.0g/cm3 、空気の流れ抵抗が0.2×104 NS/m4 〜1.0×104 NS/m4 であることを特徴とする。
【0008】
上記の吸音板が、厚みが20〜500mmの吸音板であって、吸音ピーク周波数が1000Hz〜2500Hzの範囲にあり、厚みが増すにつれ、吸音ピーク周波数が低周波数化されると共に、該低周波数化されても高周波数側において0.7以上の垂直入射吸音率を有するものであることを特徴とする。
【0009】
本発明の吸音板の製造方法は、(1) 都市ゴミ焼却灰を溶融水砕して得られる加熱発泡性溶融スラグ粒子と粘土粉末との水混練物を、篩で裏ごしして得られる粒子を乾燥した後、900℃±50℃で仮焼して発泡させ、粒径が0.84〜2.0mmの仮焼発泡溶融スラグ粒子とする工程、
(2) 得られた仮焼発泡溶融スラグ粒子と粘土粉末とガラス粉末とα−デンプン粒子との水混練物を成形し、乾燥した後、1050℃±50℃で焼成し、酸化物基準でSiO2 40〜60質量%、Al2 3 15〜25質量%、CaO 10〜20質量%、Fe2 3 2〜5質量%、MgO 1〜5質量%、Na2 O 2〜10質量%含み、かさ密度が0.7g/cm3 〜1.0g/cm3 、空気の流れ抵抗が0.2×104 NS/m4 〜1.0×104 NS/m4 の吸音板とする工程
からなることを特徴とする。
【0010】
上記の加熱発泡性溶融スラグ粒子が、カルサイト(CaCO3 )、灰長石(SiO2 ・Al2 3 ・CaO)を含有するものであることを特徴とする。
【0011】
上記の(1)の工程では、加熱発泡性溶融スラグ粒子に対して粘土粉末を15〜30質量%の割合で添加して水混練物とされ、また、(2)の工程では、仮焼発泡溶融スラグ粒子に対して粘土粉末を5〜10質量%、ガラス粉末を15〜30質量%、α−デンプン粒子を2〜5質量%の割合で添加して水混練物とされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の吸音板は、厚みに応じて吸音ピーク周波数を制御できるので、吸音するために背後に空気層を設けたり、非貫通孔や溝を穿設する必要がなく、施工が容易な吸音板であり、また、仮焼発泡溶融スラグ粒子を原料とするものであり、高価なセラミックス材料に比して低コストで吸音ピーク周波数の制御が可能な吸音板を容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の吸音板は、原料物質として加熱発泡性溶融スラグ粒子を使用する。加熱発泡性溶融スラグ粒子は、公共施設の清掃工場等で発生する都市ゴミ焼却灰を溶融水砕した廃棄物溶融スラグで、公共施設の清掃工場等で入手可能である。加熱発泡性溶融スラグ粒子は、主成分としてカルサイト(CaCO3 )や灰長石(SiO2 ・Al2 3 ・CaO)を含有し、SiO2 40〜60質量%、Al2 3 15〜25質量%、CaO 10〜20質量%、Fe2 3 2〜5質量%、MgO 1〜5質量%、Na2 O 2〜10質量%含有し、溶融点は約1100℃であり、また、その真密度(真比重)は2.7〜2.8g/cm3 と高い。
【0014】
本発明の製造方法において、(1)の工程は加熱発泡性溶融スラグ粒子を原料とする仮焼工程である。加熱発泡性溶融スラグ粒子は、32メッシュ篩下(494μm以下)の粒径とし、粘土と混合されて加熱されると、900℃程度でスラグと粘土が一体化し、加熱発泡性溶融スラグ粒子が結晶化してガスを放出して発泡し、多孔体が形成されるもので、その孔構造は骨材空隙型のセラミックス吸音材とは相違する。
【0015】
このような粘土としては、Na−ベントナイト、水ヒ粘土、木節粘土等が例示され、粒径は350メッシュ篩下(平均0.3μm)のものであるが、加熱発泡性溶融スラグ粒子と反応してガスを放出して多孔体を形成する機能と成形助材としての機能との2つの機能を有する。成形助材としての機能とは、加熱発泡性溶融スラグ粒子と粘土とが水混練物とされ、目開き1〜6mmの篩で裏ごしされ、粒子状とされるに際して、加熱発泡性溶融スラグ粒子を被覆しその粒状を保持する機能を有する。
【0016】
加熱発泡性溶融スラグ粒子と粘土との使用割合は、加熱発泡性溶融スラグ粒子に対して粘土粉末を15〜30質量%、好ましくは15〜25質量%の割合で混合し、成形可能とする適量の水を添加して水混練物とした後、目開き1〜6mmの篩いで裏ごしして粒子状とし、得られた粒子状物を60℃前後で約12時間放置して乾燥させ、さらに、900℃±50℃で10時間〜13時間仮焼されて発泡処理され、仮焼発泡溶融スラグ粒子とされる。
【0017】
粘土の添加量が少ない場合には、水を添加したとしても、加熱発泡性溶融スラグ粒子に賦形性を与えることができず、また、発泡性も不充分となる。また、粘土の添加量が多い場合には、仮焼時での加熱発泡性溶融スラグ粒子と粘土との一体化物の粘性が大きくなり、発泡しても良好な発泡体を得ることができない。また、粘土自体は高価であり、経済面でも不利である。
【0018】
次に、(2)工程は、(1)工程で得られる仮焼発泡溶融スラグ粒子に粘土粉末とガラス粉末とα−デンプン粒子とを添加して水混練物とした後、型枠に充填・乾燥後、焼成して吸音板とする工程である。
【0019】
仮焼発泡溶融スラグ粒子としては、篩い分けし、粒径として0.84mm〜2mmのものとするとよい。粒径が0.84mmより小さいと、焼成して吸音板としても吸音性能が悪化するという問題があり、また、粒径が2mmより大きいと焼成して吸音板としても同様に吸音性能が悪化するという問題がある。
【0020】
粘土粉末は、吸音板に成形するに際して成形助材と収縮防止を目的に添加するもので、仮焼発泡溶融スラグ粒子に対して(1)工程で上述した粘土を5〜10質量%の割合で添加するとよい。粘土の量が少ないと成形性と収縮に問題があり、多いと原料コスト高を招くという問題がある。
【0021】
また、ガラス粉末は、仮焼発泡溶融スラグ粒子同士を結合することを目的とするもので、融点650℃〜750℃のものである。ガラス粉末は、平均粒径15μm程度とされ、仮焼発泡溶融スラグ粒子に対して15〜30質量%、好ましくは20〜25質量%の割合で添加される。ガラス粉末の量が少ないと曲げ強度の問題があり、多いと吸音性能(通気性)が悪化するという問題がある。
【0022】
また、α−デンプン粉末は、吸音板の形状に水混練物を成形するために添加されるもので、仮焼発泡溶融スラグ粒子に対して2〜10質量%、好ましくは2〜5質量%の割合で添加される。α−デンプン粉末の量が少ないと成形性が悪化し、多いと原料コスト高を招くという問題がある。
【0023】
仮焼発泡溶融スラグ粒子と粘土粉末とガラス粉末とα−デンプン粒子とは、成形性を発現する適宜の量の水で混練された後、型枠に均一に充填される。型枠に充填される量(g)は型枠の容積(cc)に対する割合として80%〜90%{(g/cc)×100}とするとよい。充填後は、ただちに脱型して乾燥させるとよい。乾燥条件は50℃〜70℃で12時間〜20時間とするとよい。乾燥後、1050℃±50℃、1時間〜2時間の焼成条件で焼成される。焼成温度が1100℃を超えると仮焼発泡溶融スラグ粒子が溶融するので、吸音板としての機能が消失する。
【0024】
焼成後は、吸音板としての形状に切り出されるが、吸音板の厚みとしては20mm〜500mm、好ましく50mm〜70mmである。厚みが厚くなるにつれて、吸音ピーク周波数は100Hz〜2500Hzの周波数領域で低周波数化し、また、逆に吸音板の厚みが薄くなるにつれて吸音ピーク周波数は高周波数化する。
【0025】
本発明においては、得られる吸音板は優れた吸音性能を有するものであり、厚みの薄い吸音板を重ねて使用することができ、重ねることにより吸音ピーク周波数を低周波数化することができることが見いだされた。そのため、背後に空気層を設けたり、非貫通孔や溝を穿設する等の施工をしなくても、使用目的、場所等に必要とされる吸音ピーク周波数を有する吸音板を容易に作製することができる。
【0026】
本発明の吸音板は、焼成後の酸化物基準でSiO2 40〜60質量%、Al2 3 15〜25質量%、CaO 10〜20質量%、Fe2 3 2〜5質量%、MgO 1〜5質量%、Na2 O 2〜10質量%含む。なお、本発明における酸化物組成は、蛍光X線回折によるものである。
【0027】
また、かさ密度が0.7g/cm3 〜1.0g/cm3 、また、好ましくは0.8g/cm3 〜0.9g/cm3 であり、また、空気の流れ抵抗が0.2×104 NS/m4 〜1.0×104 NS/m4 、好ましくは0.5×104 NS/m4 〜1.0×104 NS/m4 のものである。吸音板におけるかさ密度が0.7g/cm3 未満であると、曲げ強度が低下する問題があり、1.0g/cm3 より大きいと吸音性能が悪化するという問題がある。また、空気の流れ抵抗が1.0×104 NS/m4 より高いと吸音性能が悪化するという問題がある。
【0028】
本発明の吸音板は、(1)工程での仮焼工程で発泡処理がなされるため、(2)の焼成工程前後での収縮率等の厚み変動はほとんどなく、安定した性能の吸音板を容易に製造することができる。そして、厚みが50mmの場合、垂直入射吸音率が0.9以上である吸音ピーク周波数が1000Hz〜2500Hzの範囲にある吸音特性を有するものとできる。そして、厚みを500mmとすると、その吸音ピーク周波数は100Hz〜2000Hzの範囲で低周波数化されると共に該周波数領域における高周波数側においても、高周波領域での吸音特性を維持されることが見いだされた。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本明細書での各物性値の測定方法は下記の通りである。
(1) 吸音板における「かさ密度」、真密度(真比重)(単位:g/cm3 )は、JIS R 2614に準拠して測定した。
(2) 空気の流れ抵抗(単位:NS/m4 )は、JIS R 2115に準拠して測定した。
(3) 吸音率は、JIS A 1405管内法による建築材料の垂直入射吸音率測定方法により測定した。
(4) 残響室法吸音率は、小型残響室法(岡県工業技術試験所)で測定した。
【0030】
(実施例1)
S市清掃工場より入手した廃棄物溶融スラグ{加熱発泡性溶融スラグ(真密度:2.78g/cm3 )であり、カルサイト(CaCO3 )、灰長石(SiO2 ・Al2 3 ・CaO)を含有し、酸化物基準でSiO2 35質量%、Al2 3 19質量%、CaO 27質量%、Fe2 3 4質量%、MgO 3質量%、Na2 O 3質量%含有する}を粉砕し、32メッシュ篩下(494μm以下)のものとした。
【0031】
得られた加熱発泡性溶融スラグ粒子75質量部と、粘土粉末(Na−ベントナイト、粒径0.3μm)25質量部とを水8質量部と共に混練機で混練し、篩(目開き3mm)で裏ごしし、粒子状物とした後、60℃で12時間放置し、乾燥した。乾燥後、得られた粒子状物をシャトル炉に投入し、900℃で1時間、仮焼し、加熱発泡性溶融スラグ粒子を得た。
【0032】
得られた仮焼発泡溶融スラグ粒子の篩い分けを行った。粒径とかさ密度の関係を測定した結果、粒径が0.35〜0.84mmのもののかさ密度は0.9g/cm3 、粒径が0.84〜2.0mmのもののかさ密度は0.75g/cm3 、粒径が2.0〜3.0mmのもののかさ密度は0.8g/cm3 であった。
【0033】
仮焼発泡溶融スラグ粒子(粒径:0.84〜2.0mm、かさ密度:0.75g/cm3 )を73質量部、ガラスパウダー(平均粒径:15μm、融点700℃、エスケー鉱産(株)製)20質量部、粘土粉末(Na−ベントナイト、平均粒径0.3μm)5質量部、α−デンプン2質量部とを水13質量部と共に混練機で混練し、型枠(寸法φ93)にで充填率90%{重量(g)/容量(cc)×100}とし、プレス成形した。
【0034】
プレス成形後、直ちに脱型して、60℃で12時間放置して乾燥させた。乾燥した成型体をシャトル炉に投入し、1050℃(物温1020℃)で1時間、焼成し、焼成体を得た。収縮率は1.1%であった。焼成体のかさ密度は0.85g/cm3 であり、空気の流れ抵抗を測定したところ、0.6×104 NS/m4 であった。
【0035】
焼成体から直径87mm、厚さ20mmの吸音板を切り出し、その断面における粒子構造を光学顕微鏡(倍率50倍)で撮影した。光学顕微鏡写真を図1に示す。図1からわかるように、粒子内、また、粒子間に空隙があることがわかる。この吸音板における垂直入射吸音率を背後空気層を設けないで測定した。また、吸音板1枚(厚み20mm)の場合、2枚重ね(厚み40mm)した場合、4枚重ね(厚み80mm)した場合、8枚重ね(厚み160mm)した場合と、それぞれ厚みを相違させて垂直入射吸音率の測定に供した。その結果を図2に示す。
【0036】
図2は、100Hz〜2000Hzでの垂直入射吸音率の値を示すもので、1枚のものは、2000Hzでの垂直入射吸音率が0.6〜0.7であり、その吸音ピーク周波数は2000Hz以上である。また、2枚重ね(厚み40mm)のものの吸音ピーク周波数は約1100Hz、4枚重ね(厚み80mm)のものの吸音ピーク周波数は約600Hz、8枚重ね(厚み160mm)のものの吸音ピーク周波数は約200Hzである。また、4枚重ね(厚み80mm)のものは、600Hz以上の高周波域でも0.6以上の垂直入射吸音率があること、また、8枚重ね(厚み160mm)のものでは200Hz以上の高周波域でも0.7以上の垂直入射吸音率があることがわかる。このように、本発明のセラミック吸音板は、非常に高い吸音性能を有しているので、吸音板の厚みを変えることにより、吸音の周波数特性を制御できることがわかる。
【0037】
なお、上記では厚みが20mmのものを切りだし、重ねて厚みを変化させたが、切り出しに際して、厚く切り出しても重ねて同様の膜厚とする場合と同様の吸音特性を示すが、1枚の場合における厚みとしては、特に20mm〜500mmとすると優れた吸音性能を示すものである。
【0038】
また、吸音体から、500mm×500mm×50mmのタイル状の吸音板を切り出し、これを4枚、残響室の床に敷きつめて、残響室法による吸音性能を測定した。その結果を図3に示す。図3において、●印は本発明吸音板(厚み50mm)、■印は市販の吸音板(厚み75mm)である。周波数のズレは厚みの相違を考慮すると計算値と同じである。図3から、本発明の吸音板は、市販の吸音板に比して遜色のないものであることがわかる。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、その仮焼発泡溶融スラグ粒子として、粒径が0.35〜0.84mmでかさ密度:0.9g/cm3 のものに代え、また、充填率を100%{重量(g)/容量(cm3 )×100}とした以外は、実施例1と同様にして焼成体を得た。
【0040】
得られた焼成体の収縮率は、1.1%で、実施例のものと同様であった。かさ密度は1.0g/cm3 であるが、空気の流れ抵抗値が2.58×104 NS/m4 と高く、吸音板における吸音性能は悪いものであった。
【0041】
(比較例2)
実施例1と同様に、加熱発泡性溶融スラグ粒子75質量部と、粘土粉末(Na−ベントナイト、平均粒径0.3μm)25質量部とを水8質量部と共に混練機で混練し、篩(目開き3mm)で裏ごしし、粒子状物とした後、60℃で12時間放置し、乾燥した。得られた粒子状物を140mm角、深さ約30mmの耐火容器中に入れて、シャトル炉に投入し、1050℃(物温1020℃)で1時間、焼成し、焼成体を得た。
【0042】
得られた焼成体のかさ比重は0.85g/cm3 であり、空気の流れ抵抗は、7.34×104 NS/m4 と高く、吸音性能の悪いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明の吸音板断面における粒子構造を撮影した光学顕微鏡写真(倍率50倍)である。
【図2】図2は、背後空気層を設けないで吸音板における垂直入射吸音率を測定した結果を示す図である。
【図3】図3は、残響室法による吸音性能の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
都市ゴミ焼却灰の溶融水砕物である加熱発泡性溶融スラグ粒子由来の焼成体であって、酸化物基準でSiO2 40〜60質量%、Al2 3 15〜25質量%、CaO 10〜20質量%、Fe2 3 2〜5質量%、MgO 1〜5質量%、Na2 O 2〜10質量%含み、かさ密度が0.7g/cm3 〜1.0g/cm3 、空気の流れ抵抗が0.2×104 NS/m4 〜1.0×104 NS/m4 であることを特徴とする吸音板。
【請求項2】
厚みが20〜500mmの吸音板であって、吸音ピーク周波数が1000Hz〜2500Hzの範囲にあり、厚みが増すにつれ、吸音ピーク周波数が低周波数化されると共に、該低周波数化されても高周波数側において0.7以上の垂直入射吸音率を有するものであることを特徴とする請求項1記載の吸音板。
【請求項3】
(1) 都市ゴミ焼却灰を溶融水砕して得られる加熱発泡性溶融スラグ粒子と粘土粉末との水混練物を、篩で裏ごしして得られる粒子を乾燥した後、900℃±50℃で仮焼して発泡させ、粒径が0.84〜2.0mmの仮焼発泡溶融スラグ粒子とする工程、
(2) 得られた仮焼発泡溶融スラグ粒子と粘土粉末とガラス粉末とα−デンプン粒子との水混練物を成形し、乾燥した後、1050℃±50℃で焼成し、酸化物基準でSiO2 40〜60質量%、Al2 3 15〜25質量%、CaO 10〜20質量%、Fe2 3 2〜5質量%、MgO 1〜5質量%、Na2 O 2〜10質量%含み、かさ密度が0.7g/cm3 〜1.0g/cm3 、空気の流れ抵抗が0.2×104 NS/m4 〜1.0×104 NS/m4 の吸音板とする工程
からなることを特徴とする吸音板の製造方法。
【請求項4】
加熱発泡性溶融スラグ粒子が、カルサイト(CaCO3 )、灰長石(SiO2 ・Al2 3 ・CaO)を含有するものであることを特徴とする請求項3に記載の吸音板の製造方法。
【請求項5】
(1)の工程では、加熱発泡性溶融スラグ粒子に対して粘土粉末を15〜30質量%の割合で添加して水混練物とされ、また、(2)の工程では、仮焼発泡溶融スラグ粒子に対して粘土粉末を5〜10質量%、ガラス粉末を15〜30質量%、α−デンプン粒子を2〜5質量%の割合で添加して水混練物とされることを特徴とする請求項3に記載の吸音板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−280986(P2009−280986A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131735(P2008−131735)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(300032123)財団法人佐賀県地域産業支援センター (11)
【出願人】(596180995)株式会社セイブ (1)
【Fターム(参考)】