説明

吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法

【課題】水和活性が高いアルミナセメントをコンクリートに含有させてもスランプロスが小さい吹付け用コンクリートを製造できる、吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法を提供する。
【解決手段】(1)ポルトランドセメント類100質量部に対して、Alが50〜60質量%、CaOが33〜40質量%、Feが2.0質量%以下、ブレーン比表面積が4000cm/g以上のアルミナセメントが2〜20質量部、前記アルミナセメント100質量部に対してポリマーエマルジョンが固形分で0.5〜20質量部を含有するセメントコンクリートと、硫酸アルミニウムを含有する液状急結剤とからなる吹付け材料であり、さらに、セメントコンクリートが、フライアッシュを含有する前記吹付け材料であり、ポリマーエマルジョンが、アクリル酸エステル系エマルジョンである前記吹付け材料であり、前記吹付け材料を用いた吹付け工法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界で使用される吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために急結剤をコンクリートに配合した急結コンクリートの吹付工法が行われている(特許文献1参照)。この工法は、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、アジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で、他方から圧送した急結剤と混合し、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。
【0003】
従来より使用されている急結剤としては、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩とアルカリ金属炭酸塩等との混合物、並びに、焼ミョウバン、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩等の混合物や、カルシウムアルミネートと3CaO・SiOとの混合物、消石灰、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩の混合物等が知られている(特許文献2〜5参照)。
これらの急結剤は、セメントの凝結を促進させる働きがあり、いずれもセメントコンクリートと混合して地山面に吹付けられる。急結剤は地山の緩みを早期に抑えるために吹付けコンクリートには必要な混和剤である。
近年では、粉じん発生量が少なく、人体に対するアルカリ刺激性が少ない作業環境を配慮した硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤の使用も増加している(特許文献6〜8)。液体急結剤は、粉じん発生量を抑制できる点、人体に対するアルカリ刺激性が少ない点で優れているが、吹付け直後からの凝結速度が一般の急結剤に比べ遅く、湧水などがある場合や厚付けした場合には、はく落する場合があった。また、セメント量を増加したコンクリート配合で吹き付けると凝結速度の問題は解決する傾向を示すが、材料コストが大幅に上がるといった経済的なデメリットがある。
一方、粉塵発生量が少ない工法として、粉体急結剤を水でスラリー化コンクリートに添加して吹付けを実施する技術も知られている(特許文献9〜11)。しかしながら、この方法は、粉じん発生量は低減でき、初期の凝結性状も改善できるが、スラリー化した急結剤はアルカリ性を示し、人体に対するアルカリによる刺激性の点では改善されていないのが実情である。
【0004】
そのため、セメントコンクリートに、カルシウムアルミネート、アルカリ金属硫酸塩、セッコウ、保水性物質を含有してなる急結剤と、アルミニウム、イオウを含有してなるスラリー水とを別々に圧送して合流混合したスラリー急結剤を含有してなる吹付け材料が開発されている(特許文献11)。この方法は、アルミニウム、イオウを含有する酸性のスラリー水でカルシウムアルミネートを含む急結剤をスラリー化してコンクリートに添加する方式であるため人体に対する刺激性が少なく、凝結速度も一般の急結剤と同等レベルであることから初期の強度発現性が良好となる面で優れている。しかながらし、カルシウムアルミネートを含む粉体の急結剤を空気搬送するシステムと酸性のスラリー水を圧送するシステムが必要となり、吹付けシステムとして複雑になり、設備コストが向上するという課題があった。
【0005】
水硬性材料(カルシウムアルミネート含有)、高分子エマルジョン、骨材、水を含有するセメントコンクリートに、水と粉体急結剤を含有する急結剤スラリーを含有する吹付け材料がある(特許文献12)。この方法も、粉体急結剤を空気搬送するシステムとスラリー水を圧送するシステムが必要となり、吹付けシステムとして複雑になり、設備コストが向上するという課題があり、使用しているカルシウムアルミネートは、セメントコンクリート側には、水和活性が弱いアウイン(4CaO・3Al・SO)を使用し、急結剤として水和活性の強いカルシウムアルミネート(12CaO・7Al)を主成分とする粉末急結剤を使用することが基本であり、セメントと混和することで硬化スピードが速くなるカルシウムアルミネートを適用した実例が示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭60−4149号公報
【特許文献2】特開昭64−051351号公報
【特許文献3】特公昭56−27457号公報
【特許文献4】特開昭61−026538号公報
【特許文献5】特開昭63−210050号公報
【特許文献6】特開2005−60201号公報
【特許文献7】特開2005−89276号公報
【特許文献8】特開2008−30999号公報
【特許文献9】特開平05−139804号公報
【特許文献10】特開平05−097491号公報
【特許文献11】特開2007−277051号公報
【特許文献12】特開2002−137953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特定のアルミナセメント、特定のポリマーエマルジョンを含有するセメントコンクリートに、硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤を適用することで、水和活性が高いアルミナセメントをコンクリートに含有させてもスランプロスが小さい吹付け用コンクリートを製造でき、硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤を混合したときに、一般的な遅延剤を併用したときと異なり、急激に水和活性が向上することで、低粉じんで、低リバウンドで、人体に対するアルカリ刺激の少ない吹付け施工を実現できる。さらに、セメント量を過剰に配合したコンクリート使用しなくても凝結性に優れた吹付け材料を提供できるので経済的にも有利である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、(1)ポルトランドセメント類100部に対して、Alが50〜60%、CaOが33〜40%、Feが2.0%以下、ブレーン比表面積が4000cm/g以上のアルミナセメントが2〜20部、前記アルミナセメント100部に対してポリマーエマルジョンが固形分で0.5〜20部を含有するセメントコンクリートと、硫酸アルミニウムを含有する液状急結剤とからなる吹付け材料、(2)さらに、セメントコンクリートが、フライアッシュを含有することを特徴とする(1)の吹付け材料、(3)ポリマーエマルジョンが、アクリル酸エステル系エマルジョンである(1)又は(2)の吹付け材料、(4)さらに、液状急結剤が、フッ素および/又はリチウムを含有する(1)〜(3)のいずれかの吹付け材料、(5)(1)〜(4)のいずれかの吹付け材料を用いた付け工法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、水和活性が高いアルミナセメントをセメントコンクリートに含有させてもスランプロスが小さい吹付け用コンクリートを製造でき、硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤を混合したときに、一般的な遅延剤を併用したときと異なり、急激に水和活性が向上することで、低粉じんで、低リバウンドで、人体に対するアルカリ刺激の少ない吹付け施工を実現できる。さらに、セメント量を過剰に配合したコンクリート使用しなくても凝結性に優れた吹付け材料を提供できるので経済的にも有利である。また、吹付けシステムも粉体の輸送装置が不要となり、液体急結剤の圧送ポンプがあれば対応できるため簡単なシステムで吹付け施工ができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0011】
本発明で使用するポルトランドセメント類とは、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、ブレーン比表面積で2000cm/g以上の石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合したフィラーセメント、並びに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)等のポルトランドセメントが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0012】
本発明のアルミナセメントとは、Alが50〜60%、CaOが33〜40%、Feが2.0%以下、ブレーン比表面積が4000cm/g以上の特性を有するもので、通常市販されているアルミナセメント1号に相当するものである。硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤と混合されることで急激な凝結作用を発揮するものである。
アルミナセメントは、12CaO・7Al(以下、C12という)や3CaO・Al(以下、CAという)組成に代表されるカルシウムアルミネートとセッコウの組成物よりもセメントに添加したとき水和活性が遅い。従って、作業時間を確保するのに有利である。しかし、吹き付けたときの急結性能を発揮する添加領域で1時間以上の作業時間を確保することが難しい。そこで、ポリマーエマルジョンを併用することで作業時間の確保と良好な急結性を実現できることを見出した。上記に示す水和活性の速いカルシウムアルミネートとセッコウを使用し、ポリマーエマルジョンを適用した場合は、遅延作用はほとんど示さず、アルミナセメント特有の効果であることがわかった。
本発明のアルミナセメントは、たとえば、本発明のアルミナセメントよりも鉄分が多いアルミナセメント2号、フォンデュと併用して使用してもよい。さらに、アルミ分とカルシウム分以外の成分を極力少なくした純度の高いアルミナセメントも併用できる。
本発明で使用するアルミナセメントの使用量は、ポルトランドセメント類100部に対して、2〜20部が好ましく、5〜15部がより好ましい。2部未満では、液体急結剤を添加したときの凝結性を向上させることが難しく、20部を越えるとコンクリートの流動性を保持することが難しくなる場合がある。
【0013】
本発明のポリマーエマルジョンとは、アルミナセメントの水和活性を抑制する働きがあり、オキシカルボン酸類などの一般的な遅延剤と異なり、硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤を混合したときに、瞬時にその遅延作用が消滅し、急激な凝結効果を発揮できる特性を有するものである。また、35℃以上の環境下でのアルミナセメント硬化体のコンバージョンの抑制も可能である。
ポリマーエマルジョンの種類は、例えば、JIS A 6203で規定されているセメント混和用のポリマー(ポリマーディスパージョン)が使用でき、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及び天然ゴム等のゴムラテックス、エチレン・酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、ポリアクリル酸エステル単独重合体、アクリル酸エステル・酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、及びスチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂に代表される液状ポリマー等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。液体急結剤を添加したときの初期強度発現性の点で、アクリル酸エステル系共重合体の使用が好ましい。
本発明のポリマーエマルジョンは、液状であってもよく、粉末状であってもよい。
本発明のポリマーエマルジョンの使用量は、アルミナセメント100部に対して、固形分で0.5〜20部が好ましく、2〜15部がより好ましい。0.5部未満では、流動性を保持することが難しい場合があり、20部を超えると液体急結剤を添加したときの凝結性が向上しない場合がある。
【0014】
本発明のフライアッシュとは、石炭火力発電所で微粉炭を燃焼する際に溶融された灰分が冷却されてなる球状粒子を主体とした粉末であり、これを電気集塵機等で捕集した副産物である。フライアッシュは品質にばらつきがあるため、JIS A 6201に規定される品質のものが好ましく、II種相当品以上の品質がより好ましい。本発明のコンクリートにフライアッシュを適用することで、吹き付けたときのコンクリートの付着性、長期的な強度発現性を向上できる。
フライアッシュの使用量は、ポルトランドセメント類100部に対して、2〜30部が好ましく、5〜20部がより好ましい。フライアッシュ使用量が少ないとフライアッシュの効果が発揮されない場合があり、フライアッシュ使用量が過剰では流動性の保持性が低下する場合がある。
【0015】
本発明の硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤とは、ポルトランドセメント類あるいはアルミナセメントの凝結を促進する成分であり、通常市販されているものが使用できる。たとえば、水の凝集剤として市販されている液体硫酸アルミニウムや、粉末状の硫酸アルミニウム(無水塩や含水塩)を任意の濃度で溶解またはスラリー状にしたものいずれも使用できる。
ポリマーエマルジョンによってアルミナセメントの水和活性を抑制しているコンクリートに硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤を添加すると、アルミナセメント粒子表面に吸着していたエマルジョン粒子が急激に凝集することで水との接触面積が増大するため急激な凝結作用を示すと考えられる。これは、オキシカルボン酸類や他の遅延効果を有する無機塩(リン酸塩類、ケイフッ化物)などの遅延剤を併用したときには見られない作用である。
【0016】
本発明のフッ素、リチウムとは、フッ素およびリチウムを含有する化合物であり、硫酸アルミニウムと併用することで、初期の凝結力をさらに向上する作用を示すものである。
【0017】
本発明のフッ素原子を含む化合物とは、水に溶解又は分散する化合物であれば特に限定されるものではなく、フッ化塩、ケイフッ化塩、フッ化ホウ素塩、有機フッ素化合物、及びフッ化水素酸等のフッ素化合物が挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。
フッ化塩としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、及びクリオライトなどが挙げられる。クリオライトは天然物又は合成したものいずれも使用可能である。ケイフッ化塩としては、ケイフッ化アンモニウム、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウム、及びケイフッ化マグネシウムなどが挙げられる。フッ化ホウ素塩としては、フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素モノエチルアミンコンプレックス、三フッ化ホウ素酢酸コンプレックス、及び三フッ化ホウ素トリエタノールアミン、ホウフッ化アンモニウム、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化カリウム、及びホウフッ化第一鉄等が挙げられる。本発明では、安全性が高く、製造コストが安く、かつ、凝結性状が優れる点から、フッ化塩が好ましい。
フッ素原子を含む化合物の使用量は、硫酸アルミニウム100部に対して2〜20部が好ましい。2部未満では、凝結の伸びが期待できず湧水下での付着が悪い場合があり、20部を越えると凝結を阻害し付着を悪く可能性がある。
【0018】
本発明のリチウムを含む化合物とは、水に溶解又は分散する化合物であり、硝酸、有機酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、ケイ酸、炭酸、重炭酸、アルミン酸、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸化物、のリチウム塩が挙げられる。これらの中で、アルミナセメントの水和に対して高い活性を示す硫酸リチウム、硝酸リチウムの使用が好ましい。
リチウムを含む化合物の使用量は、硫酸アルミニウム100部に対して0.5〜20部が好ましく、2〜15部がより好ましい。
【0019】
本発明の硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤の固形分は、22〜40%が好ましい。22%未満では、十分な凝結力を得ることが難しい場合があり、40%を越えると温度変化による析出物が発生し貯蔵安定性が悪くなる可能性がある。
本発明の液体急結剤の使用量は、セメント100部に対して固形分で0.5〜8部が好ましく、1〜6部がより好ましい。0.5部未満では、十分な凝結力を与えることが難しい場合があり、8部を越えると、水セメント比が増加しすぎて、液体急結剤添加直後の強ばりを阻害し長期強度が低下しすぎる場合がある。
【0020】
本発明のセメントコンクリートは、吹付けが可能であれば特に配合は限定されるものではない。一般的な配合としては、スランプ10cm程度、W/C=60%程度、s/a=60%程度、セメント量360kg/m程度、砂利の最大寸法13mmで実施されている場合が多く、高強度タイプでは、スランプ20cm程度、スランプフローで25〜35cm、W/C=40〜50%程度、s/a=60%程度、セメント量400〜500kg/m程度、砂利の最大寸法13mmで実施されている場合が多い。
本発明で使用する骨材は、特に限定するものではなく、市販されているあらゆる骨材の使用が可能であり、吹付け施工に支障をきたさないものであれば問題ない。
【0021】
本発明では、吹付け施工および硬化した吹付けコンクリートの性能に支障をきたさない範囲で、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、セルロースエーテル類、ポリアクリルアミド類、ポリエチレンオキサイド類、多糖類などの増粘剤、消泡剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子凝集剤、ビニロン繊維、鋼繊維、ポリプロピレン繊維等に代表される繊維類、ベントナイト等の粘土鉱物やハイドロタルサイト等のアニオン交換体等の各種添加剤、高炉徐冷スラグ、γ型ケイ酸2カルシウム等の無機粉末、無水セッコウ、ニ水セッコウ、半水セッコウ等のセッコウ類、アルミナセメント以外のカルシウムアルミネート類からなる群のうちの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0022】
本発明の吹付け方法は、特に限定するものではないが、圧送されてくる水を加えて練り混ぜたセメントコンクリートに急結剤を合流させて吹き付ける湿式吹付け工法や、ドライな状態でコンクリートを圧送し、ノズル手前で液体急結剤を合流させて吹き付ける乾式吹付け工法が可能である。
【0023】
湿式吹付け工法で施工する場合は、例えば、ポルトランドセメント類、骨材、アルミナセメント、ポリマーエマルジョンを練混ぜプラントで所定量軽量しミキサーで練り混ぜ、練り混ぜたコンクリートをアジテータトラックで吹付け箇所まで運搬する。そして、ピストン方式あるいは空気搬送方式のコンクリートポンプで練り混ぜたコンクリートを輸送し、ノズル手前に設けた液体急結剤挿入管より液体急結剤をコンクリートに合流混合し吹き付ける方法が挙げられる。
【0024】
乾式吹付け工法で施工する場合は、例えば、ポルトランドセメント類、骨材、アルミナセメント、ポリマーエマルジョン(粉体エマルジョンを使用する)を所定量計量し、水を加えずにミキサーで混ぜる。その際、0.5〜2%程度の水や粉じん低減剤を添加することで、発生粉じん量も抑制することもできる。混ぜたドライコンクリートをアジテータトラックで吹付け箇所まで運搬する。得られたドライコンクリートは空気搬送方式のポンプで空気搬送し、ノズル手前に設けた液体急結剤挿入管より液体急結剤をドライコンクリートに合流混合し吹き付ける方法が挙げられる。
なお、液体急結剤の輸送は、特に限定しないが、両工法ともにプランジャー方式の液体ポンプ等で送液し圧縮空気と共にコンクリートに添加する方式がこのましい。
【実施例】
【0025】
「実験例1」
ポルトランドセメント類400kg/m、細骨材1,058kg/m、粗骨材710kg/m、水200kg/m、ポルトランドセメント類100部に対してポリマーエマルジョンを5部、アルミナセメントを表に示すように加え、さらに、高性能減水剤4kg/mを加えセメントコンクリートを調製した。このセメントコンクリートを吹付け圧力0.4MPa、吹付け速度10m/hの条件下で、コンクリート圧送機「MKW−25SMT」によりポンプ圧送した。5m/minの圧縮空気でミスト化した液体急結剤をノズル先端から0.6mの位置に接続した合流管で圧送されてくるコンクリートと混合して吹き付けた。液体急結剤の添加率は、ポルトランドセメント類100部に対して固形分で3部となるように添加した。
液体急結剤を加える前のセメントコンクリートのスランプと、吹付けたセメントコンクリートについて、付着性、コンクリート圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。なお、実験No.1-19〜1-21は、ポリマーエマルジョンの代わりに一般的な遅延剤であるクエン酸ソーダをポルトランドセメント類100部に対して0.1部加え評価した結果である。
【0026】
(使用材料)
高性能減水剤:ポリカルボン酸系、市販品
粗骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.66、最大寸法13mm
細骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂、表乾状態、比重2.62
ポルトランドセメント類:普通ポルトランドセメント、市販品
アルミナセメント:CaO:54.4%、Al:36.2%、Fe:1.1%、ブレーン比表面積:4900cm/g、市販品
12組成に相当する非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウの1:1の混合物:C12組成に相当する非晶質カルシウムアルミネートのブレーン比表面積5800cm/g、無水セッコウのブレーン比表面積5300cm/g
ポリマーエマルジョンa:アクリル酸エステル−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル系共重合体(再乳化型粉末ポリマー)、市販品
ポリマーエマルジョンb:スチレン−ブタジエン系ラテックス(液体ディスパージョン)、固形分45%、市販品
液体急結剤A:硫酸アルミニウム水溶液、固形分26.8%、市販品
【0027】
(測定方法)
スランプ:JIS A 1101に準拠して測定した。測定は練り上がり直後と60分後とした。
付着性:吹付けノズルを1mの範囲で繰り返し動かしながら吹付けコンクリートを天井面に吹き付け、15cm以上の厚みで吹付けできれば○とし、吹付け中にはく落したり、15cm以上の厚みで吹き付けできない場合は×とした。
コンクリート圧縮強度:材齢1時間、24時間の圧縮強度は、幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から急結性吹付けコンクリートで被覆し、型枠の裏側よりピンを引き抜き、その時の引き抜き強度を求め、(圧縮強度)=(引き抜き強度)×4/(供試体接触面積)の式から圧縮強度を算出した。材齢28日の圧縮強度は、幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に急結性吹付けコンクリートを吹付け、1日後にコアドリルで採取した直径5cm×長さ10cmの供試体を20トン耐圧機で測定し、圧縮強度を求めた。測定までの養生は20℃水中養生とした。
【0028】
【表1】

【0029】
「実験例2」
ポルトランドセメント類100部に対してアルミナセメントを10部とし、ポリマーエマルジョンaをアルミナセメント100部に対して表に示すように加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
「実験例3」
ポルトランドセメント類100部に対してアルミナセメントを10部、ポリマーエマルジョンaをアルミナセメント100部に対して5部とし、液体急結剤を表に示すように加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0032】
(使用材料)
液体急結剤B:硫酸アルミニウム固形分25%、フッ化ナトリウム固形分3%となるように溶解した水溶液
液体急結剤C:硫酸アルミニウム固形分25%、硫酸リチウム固形分3%となるように溶解した水溶液
液体急結剤D:硫酸アルミニウム固形分25%、フッ化ナトリウム固形分2%、硫酸リチウム固形分2%となるように溶解した水溶液
【0033】
【表3】

【0034】
「実験例4」
ポルトランドセメント類100部に対してアルミナセメントを10部、ポリマーエマルジョンaをアルミナセメント100部に対して5部とし、フライアッシュを表に示すように加えセメントコンクリートを調製した。そのセメントコンクリートに、液体急結剤をセメント100部に対して3部加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0035】
(使用材料)
フライアッシュ:東北発電工業社製 フライアッシュ JISII種品
【0036】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、水和活性が高いアルミナセメントをセメントコンクリートに含有させてもスランプロスが小さい吹付け用コンクリートを製造でき、硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤を混合したときに、一般的な遅延剤を併用したときと異なり、急激に水和活性が向上することで、低粉じんで、低リバウンドで、人体に対するアルカリ刺激の少ない吹付け施工を実現できる。さらに、セメント量を過剰に配合したコンクリート使用しなくても凝結性に優れた吹付け材料を提供できるので経済的であり、土木および建築分野における環境にやさしい吹付け施工として広範囲に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント類100質量部に対して、Alが50〜60質量%、CaOが33〜40質量%、Feが2.0質量%以下、ブレーン比表面積が4000cm/g以上のアルミナセメントが2〜20質量部、前記アルミナセメント100質量部に対してポリマーエマルジョンが固形分で0.5〜20質量部を含有するセメントコンクリートと、硫酸アルミニウムを含有する液状急結剤とからなる吹付け材料。
【請求項2】
さらに、セメントコンクリートが、フライアッシュを含有することを特徴とする請求項1に記載の吹付け材料。
【請求項3】
ポリマーエマルジョンが、アクリル酸エステル系エマルジョンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の吹付け材料。
【請求項4】
さらに、液状急結剤が、フッ素および/又はリチウムを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のうちの1項記載の吹付け材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のうちの1項記載の吹付け材料を用いた吹付け工法。

【公開番号】特開2012−91941(P2012−91941A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237983(P2010−237983)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】