説明

吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法

【課題】水和活性が高いアルミナセメントをコンクリートに含有させてもスランプロスが小さく、温度依存性の少ない吹付け用コンクリートを製造できるなどの効果を奏する吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法を提供する。
【解決手段】ブレーン比表面積2500cm/g以上の不溶解残分と、ケイ酸三カルシウム50〜60質量%、アルミン酸三カルシウムが0〜4質量%、鉄アルミン酸四カルシウム10〜18質量%とからなる鉱物組成のセメント100質量部と、骨材と、硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤を固形分換算で0.5〜10質量部とを含有する吹付け材料であり、セメント100質量部に対して、アルミナセメントを1〜20質量部含有する前記吹付け材料であり、アルカリ金属塩、アミン化合物、フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上を含有する前記吹付け材料であり、前記吹付け材料を用いた吹付け工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界で使用される吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために、急結剤をモルタルやコンクリートに配合した急結性モルタル又はコンクリートの吹付工法が行われている(特許文献1、2参照)。
これら工法は、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、アジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で、他方から圧送した急結剤と混合し、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。また、TBM工法では、掘削した直後の地山の安定化をはかるために予め工場で水硬性成分と骨材をブレンドしたモルタルを使用し、水を練混ぜてポンプ圧送し、途中に設けた合流管で他方から急結剤と混合し急結性吹付けモルタルとして吹付ける工法である。
【0003】
使用されている急結剤としては、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩とアルカリ金属炭酸塩等との混合物、並びに、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩等の混合物や、カルシウムアルミネートと3CaO・SiO(ケイ酸三カルシウム)との混合物等が知られている(特許文献3〜6参照)。
これら急結剤は、セメントの凝結を促進させる働きがあり、いずれもモルタルやコンクリートと混合して地山面に吹付けられる。急結剤は地山の緩みを早期に抑えるために吹付けモルタルやコンクリートには必要な混和剤である。また、近年では、粉じん発生量が少なく、人体に対するアルカリ刺激性が少ない作業環境を配慮した硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤の使用も増加している(特許文献7〜9)。いずれも、粉じん発生量を抑制できる点、人体に対するアルカリ刺激性が少ない点で優れているが、吹付け直後からの凝結速度が一般の急結剤に比べ遅く、湧水などがある場合や厚付けした場合には、はく落する場合があった。また、セメント量を増加したコンクリート配合で吹き付けると凝結速度の問題は解決する傾向を示すが、材料コストが大幅に上がるといった経済的なデメリットがある。
【0004】
一方、粉塵発生量が少ない工法として、粉体急結剤を水でスラリー化コンクリートに添加して吹付けを実施する技術も知られている(特許文献10〜13)。この方法は、粉じん発生量は低減でき、初期の凝結性状も改善できるが、スラリー化した急結剤はアルカリ性を示し、人体に対するアルカリによる刺激性の点では改善されていないのが実情である。
また、コンクリートに、カルシウムアルミネート、アルカリ金属硫酸塩、セッコウ、保水性物質を含有してなる急結剤と、アルミニウム、イオウを含有してなるスラリー水とを別々に圧送して合流混合したスラリー急結剤を含有してなる吹付け材料が知られている(特許文献12)。この方法は、アルミニウム、イオウを含有する酸性のスラリー水でカルシウムアルミネートを含む急結剤をスラリー化してコンクリートに添加する方式であるため人体に対する刺激性が少なく、凝結速度も一般の急結剤と同等レベルであることから初期の強度発現性が良好となる面で優れている。
しかしながら、カルシウムアルミネートを含む粉体の急結剤を空気搬送するシステムと酸性のスラリー水を圧送するシステムが必要となり、吹付けシステムとして複雑になり、設備コストが向上するという課題があった。
【0005】
さらに、水硬性材料(カルシウムアルミネート含有)、高分子エマルジョン、骨材、水を含有するセメントコンクリートに、水と粉体急結剤を含有する急結剤スラリーを含有する吹付け材料が知られている(特許文献13)。この方法も、粉体急結剤を空気搬送するシステムとスラリー水を圧送するシステムが必要となり、吹付けシステムとして複雑になり、設備コストが向上するという課題があり、使用しているカルシウムアルミネートは、セメントコンクリート側には、水和活性が弱いアウイン(4CaO・3Al・SO)を使用し、急結剤として水和活性の強いカルシウムアルミネート(12CaO・7Al)を主成分とする粉末急結剤を使用することが基本であり、セメントと混和することで硬化スピードが速くなるカルシウムアルミネートを適用した実例が示されていない。
【0006】
吹付け材料に特定のセメントを使用した吹付け技術としては、3CaO・SiO含有量が45〜75重量%、3CaO・Al含有量が6〜12重量%、硫酸アルカリをNaO換算で0.4〜0.7重量%、残部が主として2Ca0・SiO(ケイ酸二カルシウム)、4CaO・Al・Fe(鉄アルミン酸四カルシウム)からなるクリンカー粉末に、不溶性無水石膏を30%以上含む石膏をSO換算で2.5〜4.0重量%配合してなるブレーン比表面積が3200〜4700cm/gであるセメントを用いる技術(特許文献14)、石炭燃焼時に生じた石炭灰を原料とした焼成物であって、3CaO・Al(アルミン酸三カルシウム)を10〜40重量%、及び少なくとも3CaO・SiO、2CaO・SiOの1種類以上を含む焼成物と石膏からなる水硬性組成物(CAエコセメント)を用いる吹付け方法に関するもの(特許文献15)、早強ポルトランドセメントを使用し、水/セメント比が33〜38重量%であり、かつスランプが15cm以上のベースコンクリートに、急結剤を配合してなることを特徴とする湿式吹付けコンクリートに関するもの(特許文献16)、鉱物相として3CaO・SiOを50〜70重量%および3CaO・Alを6〜20重量%含む早強セメント系水硬性組成物と水硬性アルミナとを主成分とする吹付け工法用セメント組成物に関するもの(特許文献17)、が挙げられる。
特許文献14〜17は、吹付けコンクリートの初期及び/又は長期の強度発現性の向上を目的とした技術に関するものであり、特許文献17は強度発現性の向上に加えアルカリフリー粉末急結剤と組み合わせることによるアルカリ骨材反応の抑制についても言及している。これら技術はセメントの鉱物相としての3CaO・Alは6重量%以上を含有するものであり、温度依存性の少ないフレッシュコンクリートや吹付けコンクリートの強度発現性に関する実施例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭60−4149号公報
【特許文献2】特開平9−227198号公報
【特許文献3】特開昭64−051351号公報
【特許文献4】特公昭56−27457号公報
【特許文献5】特開昭61−026538号公報
【特許文献6】特開昭63−210050号公報
【特許文献7】特開2005−60201号公報
【特許文献8】特開2005−89276号公報
【特許文献9】特開2008−30999号公報
【特許文献10】特開平05−139804号公報
【特許文献11】特開平05−097491号公報
【特許文献12】特開2007−277051号公報
【特許文献13】特開2002−137953号公報
【特許文献14】特開平11−21158号公報
【特許文献15】特開2001−130939号公報
【特許文献16】特開2001−302322号公報
【特許文献17】特開2003−40659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特定の鉱物組成のセメントを使用することで、水和活性が高いアルミナセメントをコンクリートに含有させてもスランプロスが小さく、温度依存性の少ない吹付け用コンクリートを製造でき、さらに、硫酸アルミニウムを主成分とする硬化促進剤を適用することで、低粉じんで、低リバウンドで、人体に対するアルカリ刺激の少ない吹付け施工を実現でき、温度依存性の少ない性状の吹付けモルタル又はコンクリートを提供できる。そのため、経済的にも有利である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、(1)ブレーン比表面積2500cm/g以上の不溶解残分と、ケイ酸三カルシウム50〜60質量%、アルミン酸三カルシウムが0〜4質量%、鉄アルミン酸四カルシウム10〜18質量%とからなる鉱物組成のセメント100質量部と、骨材と、硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤を固形分換算で0.5〜10質量部とを含有する吹付け材料、(2)セメント100質量部に対して、アルミナセメントを1〜20質量部含有する(1)の吹付け材料、(3)アルカリ金属塩、アミン化合物、フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上を含有する(1)又は(2)の吹付け材料、(4)硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤が、アルカリ金属塩、アミン化合物、フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上を含有する(1)〜(3)のいずれかの吹付け材料、(5)凝結遅延剤を含有する(1)〜(4)のいずれかの吹付け材料、(6)分散剤を含有する(1)〜(5)のいずれかの吹付け材料、(7)繊維を含有する(1)〜(6)のいずれかの吹付け材料、(8)硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤以外の吹付け材料を水とともに練り混ぜてセメントコンクリートあるいはモルタルを製造し、それをポンプ圧送し、ノズルの手前で圧縮空気、硫酸アルミXニウムを含有する硬化促進剤を合流混合して吹き付ける(1)〜(7)のいずれかの吹付け材料を用いた吹付け工法、である。
【発明の効果】
【0010】
水和活性が高いアルミナセメントをコンクリートに含有させてもスランプロスが小さく、温度依存性の少ない吹付け用コンクリートを製造でき、低粉じんで、低リバウンドで、人体に対するアルカリ刺激の少ない吹付け施工を実現できる。さらに凝結性状も優れた吹付け材料を提供でき、長期的な強度発現性も阻害しにくいので性能的および経済的にも有利である。また、吹付けシステムも粉体の輸送装置が不要となり、液体急結剤の圧送ポンプがあれば対応できるため簡単なシステムで吹付け施工ができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
【0012】
本発明で使用するセメントとは、ケイ酸三カルシウム50〜60%、アルミン酸三カルシウムが0〜4%、鉄アルミン酸四カルシウム10〜18%からなる鉱物組成を有するセメントであり、その他の成分としてはケイ酸ニカルシウム、硫酸カルシウム類、炭酸カルシウムなどが含まれる。また、JISに規定されたポルトランドセメントとしては耐硫酸塩セメントも使用できる。
【0013】
本発明で使用するセメントの粉末度は、ブレーン比表面積で3000cm/g以上であれば特に限定するものではない。
【0014】
本発明のブレーン比表面積2500cm/gの不溶解残分とは、JIS R 5202の試験で求めた不溶解残分であり、シリカを多く含むものであれば特に限定するものではない。例えば、フライアッシュ、珪石を微粉砕した石粉、シリカフュームなどに由来するものが挙げられる。この中で入手しやすく流動性の阻害が少ないフライアッシュの使用が好ましい。
不溶解残分の使用量は、特に限定するものではないが、不溶解残分を除くセメント100部に対して5〜20質量部であればよい。
本発明は、ブレーン比表面積2500cm/gの不溶解残分と、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO)50〜60%、アルミン酸三カルシウムが0〜4%、鉄アルミン酸四カルシウム10〜18%の範囲のセメント鉱物組成と組み合わせることで、初期および長期強度に関して温度依存性が小さい特性などを有する吹付け材料を提供できることを見出したものである。
【0015】
本発明のアルミナセメントとは、アルミナセメント1号、アルミナセメント2号、フォンデュ、さらにアルミ分とカルシウム分の純度をさらに向上させたハイアルミナセメントの使用が可能である。ブレーン比表面積は4000cm/g以上であり、アルミナセメント1号に相当するものを使用することが好ましい。硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤と混合されることで急激な凝結作用を発揮する。
アルミナセメントは、12CaO・7Alや3CaO・Al組成に代表されるカルシウムアルミネートとセッコウの組成物よりもセメントに添加したとき水和活性が遅い。従って、作業時間を確保するのに有利である。
しかしながら、吹き付けたときの急結性能を発揮する添加領域で1時間以上の作業時間を確保することが難しい。そこで、セメントに含まれる3CaO・Al成分を極力少なくすることで十分な作業時間を確保でき、他の効果として、フレッシュ性状や急結剤を添加した後の硬化体の強度発現性に関する温度依存性が小さくなる。また、急結剤を添加しないベースモルタルやコンクリートの強度に対する強度低下率を抑える効果も発揮することが可能となった。
本発明で使用するアルミナセメントの使用量は、セメント100部に対して、1〜20部が好ましく、4〜15部がより好ましい。1部未満では、液体急結剤を添加したときの凝結性を向上させることが難しく、20部を越えるとコンクリートの流動性を保持することが難しくなる場合がある。
【0016】
本発明で使用する骨材は、特に限定するものではなく、市販されているあらゆる骨材の使用が可能であり、吹付け施工に支障をきたさないものであれば問題ない。
骨材の使用量は、セメント100部に対して50〜800部であり、モルタルで使用する場合は骨材粒径5mm下の砂をセメント100部に対して50〜300部で調整すればよく、コンクリートで使用する場合は骨材粒径5mm下の砂と骨材粒径15mm下の砂利を細骨材率50〜75%の範囲になるように調整し、セメント100部に対して500〜〜800部で調整すればよい。
【0017】
本発明の硫酸アルミニウムは、セメントあるいはアルミナセメントの凝結を促進する成分であり、通常市販されているものが使用できる。例えば、水の凝集剤として市販されている液体硫酸アルミニウムや、粉末状の硫酸アルミニウム(無水塩や含水塩)を任意の濃度で溶解またはスラリー状にしたものいずれも使用できる。
【0018】
本発明では、アルカリ金属塩、アミン化合物、フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上を併用できる。これら物質はセメントモルタル又はコンクリート側に添加してもよく、硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤側に含有させてもよい。
これら物質はいずれも初期の凝結速度をさらに増進する効果を有する物質である。
【0019】
本発明で使用のアルカリ金属塩とは、硫酸、硝酸、炭酸、重炭酸、ケイ酸、リン酸、ホウ酸のリチウム、ナトリウム、カリウム塩や、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸などのカルボン酸やオキシカルボン酸のリチウム塩などが使用できる。これらの中で、凝結速度を増進する効果の高い炭酸や硫酸のリチウム塩、炭酸ナトリウムの使用が好ましい。
アルカリ金属塩の使用量は、硫酸アルミニウム固形分100部に対して0.5〜20部が好ましく、1〜15部がより好ましい。0.5部未満では、さらなる凝結速度の増進効果は望めない場合があり、20部を超えると増進効果は頭打ちとなり長期強度発現性の低下を起こす可能性がある。
【0020】
本発明で使用するアミン化合物とは、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、アリルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピリジン、及びアニリン等が挙げられる。また、アミンのロンペアに炭素数1〜30のアルキル基(ベンゼン環、カルボニル基、ヒドロキシル基、不飽和結合を有するアルケニル基などでもよい)が結合しイオン化している四級アンモニウム塩も使用できる。対となる陰イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、フッ素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、ヒドロキシイオン、酢酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオンなどが挙げられる。この中で、水との又はセメント等のアルカリ性物質との親和性が良好なトリエタノールアミン、四級アンモニウム塩などの使用が好ましい。
アミン化合物の使用量は、硫酸アルミニウム固形分100部に対して、0.5〜20部が好ましく、1.0〜15部がより好ましい。0.5部未満では凝結速度をさらに向上する効果が小さい場合があり、20部を越えると強度発現性を阻害する可能性がある。
【0021】
本発明で使用するフッ素化合物とは、水に溶解又は分散する化合物であれば特に限定されるものではなく、フッ化塩、ケイフッ化塩、フッ化ホウ素塩、有機フッ素化合物、及びフッ化水素酸などのフッ素化合物が挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。
フッ化塩としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、及びクリオライトなどが挙げられる。クリオライトは天然物又は合成したものいずれも使用可能である。
ケイフッ化塩としては、ケイフッ化アンモニウム、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウム、及びケイフッ化マグネシウムなどが挙げられる。
フッ化ホウ素塩としては、フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素モノエチルアミンコンプレックス、三フッ化ホウ素酢酸コンプレックス、及び三フッ化ホウ素トリエタノールアミン、ホウフッ化アンモニウム、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化カリウム、及びホウフッ化第一鉄などが挙げられる。
本発明では、安全性が高く、製造コストが安く、かつ、凝結性状が優れる点から、フッ化塩が好ましい。
フッ素化合物の使用量は、硫酸アルミニウム固形分100部に対して5〜40部が好ましく、10〜30部がより好ましい。5部未満では、凝結速度の増進効果が小さい場合があり、40部を越えると長期強度発現を阻害する可能性がある。
【0022】
本発明の硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤の固形分は、22〜40%が好ましい。22%未満では、十分な凝結力を得ることが難しい場合があり、40%を越えると温度変化による析出物が発生し貯蔵安定性が悪くなる可能性がある。
本発明の硬化促進剤の使用量は、セメント100部に対して固形分で0.5〜10部が好ましく、1〜7部がより好ましい。0.5部未満では、十分な凝結力を与えることが難しい場合があり、10部を越えると、水セメント比が増加しすぎて、硬化促進剤添加直後の強ばりを阻害し長期強度が低下する場合がある。
【0023】
本発明のセメントモルタルやコンクリートは、吹付けが可能であれば特に配合は限定されるものではない。一般的なコンクリート配合としては、スランプ10cm程度、W/C=60%程度、s/a=60%程度、セメント量360kg/m程度、砂利の最大寸法13mmで実施されている場合が多く、高強度タイプのコンクリートでは、スランプ20〜26cm程度、スランプフローで25〜70cm、W/C=30〜50%程度、s/a=60%程度、セメント量400〜600kg/m程度、砂利の最大寸法15mmで実施されている場合が多い。
モルタルとしては、例えば、セメントを主成分とする水硬性粉体100部に対して砂100〜250部程度のドライモルタルで、水は水硬性粉末と砂の合計100部に対して12〜25部で実施するケースが多い。
本発明で使用する凝結遅延剤とは、硬化促進剤を添加する前のコンクリートやモルタルの流動性の保持時間をコントロールする目的で使用する。
【0024】
本発明の凝結遅延剤とは、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、これらのナトリウム、カリウム塩などのオキシカルボン酸類、ショ糖などの糖類、これらの1種又は2種以上の混合物、さらにこれらと炭酸、ケイ酸、硫酸などのアルカリ金属塩との混合物が挙げられる。
これらの中でオキシカルボン酸類単独又はオキシカルボン酸類とアルカリ金属炭酸塩の混合物の使用が好ましい。
凝結遅延剤の使用量は、セメント100部に対して0.02〜2部が好ましく、0.1〜1部がより好ましい。0.02部未満では、流動性を調整することが難しい場合があり、1部を超えると初期強度発現性を阻害する可能性がある。
【0025】
本発明で使用する分散剤とは、水を加えて練り混ぜたモルタルやコンクリートの流動性を調整する目的で使用する。
分散剤の種類としては、特に限定するものではなく市販されているものが使用できる。例えば、ナフタレンスルホン酸塩系、リグニンスルホン酸塩系、メラミン系、ポリカルボン酸系などの分散剤が使用できる。また、これらを二種以上併用することもできる。低添加で幅広く流動性を調整できる点でポリカルボン酸系の分散剤の使用が好ましい。
分散剤の使用量は、セメント100部に対して、0.05〜3部が好ましく0.3〜2部がより好ましい。0.05部未満では、流動性を調整できる効果が小さい場合があり、3部を超えると強度発現性を阻害する可能性がある。
【0026】
本発明で使用する繊維とは、得られる硬化体の曲げ特性を改善したり、ひび割れ抵抗性を改善する目的で使用する。
繊維の種類としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、鋼繊維、炭素繊維などが挙げられる。
繊維の使用量は、水を加える前のモルタル又はコンクリート100部に対して0.1〜2部がこのましい。
【0027】
本発明では、吹付け施工及び硬化した吹付けコンクリートの性能に支障をきたさない範囲で、セルロースエーテル類やグアーガム等に代表される多糖類、ポリアクリルアミド類、ポリエチレンオキサイド類などの増粘剤、消泡剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ベントナイトなどの粘土鉱物やハイドロタルサイトなどのアニオン交換体などの各種添加剤、高炉徐冷スラグ、γ型ケイ酸2カルシウム等の無機粉末、無水セッコウ、ニ水セッコウ、半水セッコウなどのセッコウ類、アルミナセメント以外のカルシウムアルミネート類からなる群のうちの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0028】
本発明の吹付け方法は、特に限定するものではないが、圧送されてくる水を加えて練り混ぜたセメントコンクリートに急結剤を合流させて吹き付ける湿式吹付け工法や、ドライな状態でコンクリートを圧送し、ノズル手前で硬化促進剤を合流させて吹き付ける乾式吹付け工法が可能である。
湿式吹付け工法で施工する場合は、例えば、セメント又はセメントとアルミナセメント、骨材、を練り混ぜてプラントで所定量軽量しミキサーで練り混ぜ、練り混ぜたコンクリートをアジテータトラックで吹付け箇所まで運搬する。そして、ピストン方式あるいは空気搬送方式のコンクリートポンプで練り混ぜたコンクリートを輸送し、ノズル手前に設けた硬化促進剤の挿入管よりコンクリートに合流混合し吹き付ける方法が挙げられる。
乾式吹付け工法で施工する場合は、例えば、セメント又はセメントとアルミナセメント、骨材を所定量計量し、水を加えずにミキサーで混ぜる。その際、0.5〜2%程度の水や粉じん低減剤を添加することで、発生粉じん量も抑制することもできる。混ぜたドライコンクリートをアジテータトラックで吹付け箇所まで運搬する。得られたドライコンクリートは空気搬送方式のポンプで空気搬送し、ノズル手前に設けた硬化促進剤の挿入管より硬化促進剤をドライコンクリートに合流混合し吹き付ける方法が挙げられる。
なお、硬化促進剤の輸送は、特に限定しないが、両工法ともにプランジャー方式の液体ポンプなどで送液し圧縮空気と共にコンクリートに添加する方式が好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例で本発明を詳細に説明するがこれらに限定されるものではない。
【0030】
「実験例1」
各材料の単位量、表2に示す鉱物組成のセメント400kg/m、細骨材1058kg/m、粗骨材710kg/m、水232kg/mを加え吹付けコンクリートを調製し、この吹付けコンクリートを吹付け圧力0.4MPa、吹付け速度10m/hの条件下で、コンクリート圧送機「MKW−25SMT」によりポンプ圧送した。2m/minの圧縮空気でミスト化した硬化促進剤Aをノズル先端から0.6mの位置に接続した合流管で圧送されてくるコンクリートと混合して吹き付けた。硬化促進剤Aの添加率はセメントに対して固形分で3%となるように添加した。硬化促進剤Aを加える前のコンクリートの流動性の変化と、吹付けコンクリートの圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
【0031】
(使用材料)
粗骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.66、最大寸法13mm
細骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.62
セメントA:普通ポルトランドセメント、市販品、3CaO・SiO49.6%、2CaO・SiO23.4%、3CaO・Al8.6%、4CaO・Al・Fe9.2%、ブレーン比表面積3300cm/g
セメントB:早強度ポルトランドセメント 市販品、3CaO・SiO63.2%、2CaO・SiO10.8%、3CaO・Al8.8%、4CaO・Al・Fe10.6%、ブレーン比表面積4350cm/g
セメントC:中庸熱ポルトランドセメント 市販品、3CaO・SiO42.0%、2CaO・SiO32.4%、3CaO・Al5.7%、4CaO・Al・Fe14.1%、ブレーン比表面積3250cm/g
セメントD:低熱ポルトランドセメント 市販品、3CaO・SiO28.2%、2CaO・SiO51.1%、3CaO・Al2.5%、4CaO・Al・Fe15.1%、ブレーン比表面積3300cm/g
セメントE:フライアッシュセメントB種 市販品、3CaO・SiO34.3%、2CaO・SiO31.9%、3CaO・Al8.8%、4CaO・Al・Fe7.9%、ブレーン比表面積3500cm/g、不溶解残分12.1%
【0032】
セメントF〜Hは以下の方法で調製した。
【0033】
<使用材料>
セメントクリンカーの原料として、石灰石、珪石及び鉄精鉱と、粘土代替廃棄物である石炭灰を使用した。
石灰石:CaO54.9%
珪石:SiO97.8%
石炭灰:Al27.7%
鉄精鉱:Fe65.5%
二水石膏:ig.loss21.3%、CaO31.9%、SO45.6%
フライアッシュ:市販品 JISII種品相当
【0034】
<セメントの製造方法>
次に、セメントの製造方法について説明する。
上記セメントクリンカー原料を表1に示す配合割合で混合し、ロータリーキルンを用いて1500℃で焼成した。得られたクリンカーを徐冷し、二水石膏をSO換算で3%加えてボールミルで粉砕した。その後、ブレンディングサイロでフライアッシュをセメントE、Fは15%、セメントGは12%混合しセメントを製造した。鉱物組成はボーグの式より算出した。
【0035】
【表1】

【0036】
セメントF:3CaO・SiO50.3%、2CaO・SiO15.3%、3CaO・Al0.5%、4CaO・Al・Fe14.6%、不溶解残分15.2%、ブレーン比表面積3200cm/g
セメントG:CS54.6%、2CaO・SiO14.3%、3CaO・Al1.9%、4CaO・Al・Fe10.6% 不溶解残分14.8%、ブレーン比表面積3250cm/g
セメントH:3CaO・SiO59.2%、2CaO・SiO5.3%、3CaO・Al3.7%、4CaO・Al・Fe17.7%、不溶解残分11.9%、ブレーン比表面積3200cm/g
【0037】
硬化促進剤A:硫酸アルミニウム水溶液、固形分26.8%、市販品
【0038】
(測定方法)
流動性:JIS A 1101に準拠してスランプを測定した。測定は10℃、20℃、30℃の温度で練り上がり直後と60分後とした。
圧縮強度:材齢1時間、24時間の圧縮強度は、幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から急結性吹付けコンクリートで被覆し、型枠の裏側よりピンを引き抜き、その時の引き抜き強度を求め、(圧縮強度)=(引き抜き強度)×4/(供試体接触面積)の式から圧縮強度を算出した。材齢28日の圧縮強度は、幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に急結性吹付けコンクリートを吹付け、1日後にコアドリルで採取した直径5cm×長さ10cmの供試体を20トン耐圧機で測定し、圧縮強度を求めた。測定までの養生は10℃、20℃、30℃の水中養生とした。吹付けたコンクリートの試験体採取は屋外の実験場で実施した。気温は20℃。
【0039】
【表2】

【0040】
「実験例2」
アルミナセメントをセメント100部に対し表3に示すように添加した以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。流動性は20℃で評価した。吹付けたコンクリートの試験体採取は屋外の実験場で実施した。気温は19℃。
【0041】
(使用材料)
アルミナセメント:アルミナセメント1号 市販品
【0042】
【表3】

【0043】
「実験例3」
セメントF(F)、セメントF100部に対して内割りでアルミナセメント1号を4部加えた混合セメント(F−AC)を調整し、これらセメント100部に対して表4に示す種類の硬化促進剤を固形分で3部加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に示す。流動性は20℃で評価した。吹付けたコンクリートの試験体採取は屋外の実験場で実施した。気温は21℃であり水中養生は20℃で実施した。
【0044】
(使用材料)
硬化促進剤B:液体硫酸アルミニウム(固形分濃度26.8%)に硫酸リチウムを8%加えた液状硬化促進剤。
硬化促進剤C:液体硫酸アルミニウム(固形分濃度26.8%)にトリエタノールアミンを5%加えた液状硬化促進剤。
硬化促進剤D:液体硫酸アルミニウム(固形分濃度26.8%)にフッ化ナトリウムを20%加えた液状硬化促進剤。
硬化促進剤E:液体硫酸アルミニウム(固形分濃度26.8%)に硫酸リチウム8%、トリエタノールアミン5%加えた液状硬化促進剤。
硬化促進剤F:液体硫酸アルミニウム(固形分濃度26.8%)に硫酸リチウム8%、フッ化ナトリウム20%加えた液状硬化促進剤。
硬化促進剤G:液体硫酸アルミニウム(固形分濃度26.8%)にフッ化ナトリウム20%、トリエタノールアミン5%を加えた液状硬化促進剤。
硬化促進剤H:液体硫酸アルミニウム(固形分濃度26.8%)に硫酸リチウム8%、フッ化ナトリウム20%、トリエタノールアミン5%加えた液状硬化促進剤。
【0045】
【表4】

【0046】
「実験例4」
セメントF(F)、セメントF100部に対して内割りでアルミナセメント1号を4部加えた混合セメント(F−AC)を調整し、これらセメント100部に対して硬化促進剤Aを固形分で表5に示すように加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に示す。吹付けたコンクリートの試験体採取は屋外の実験場で実施した。気温は21℃であり水中養生は20℃で実施した。
【0047】
【表5】

【0048】
「実験例5」
セメントF、セメントF100部に対して内割りでアルミナセメント1号を4部加えた混合セメント(F−AC)を調整し、これらセメント100部に対して凝結遅延剤を表5に示すように加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0049】
(使用材料)
凝結遅延剤: クエン酸50部と炭酸ナトリウム50部の混合物
【0050】
【表6】

【0051】
「実験例6」
単位水量を200kg/mとしてセメントF、セメントF100部に対して内割りでアルミナセメント1号を4部加えた混合セメント(F−AC)を調整し、これらセメント100部に対して分散剤を表7に示すように加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0052】
(使用材料)
分散剤: 液状ポリカルボン酸系高分子化合物 市販品
【0053】
【表7】

【0054】
「実験例7」
セメントF、セメントF100部に対して内割りでアルミナセメント1号を4部加えた混合セメント(F−AC)を用いたコンクリート100部に対して表8に示すように繊維を加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表8に示す。
【0055】
(使用材料)
繊維:鋼繊維、長さ30mm、市販品
【0056】
(測定方法)
曲げタフネス:JSCE−G552−2007に準拠して測定した。
【0057】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、水和活性が高いアルミナセメントをコンクリートに含有させてもスランプロスが小さく、温度依存性の少ない吹付け用コンクリートを製造でき、低粉じんで、低リバウンドで、人体に対するアルカリ刺激の少ない吹付け施工を実現できる。さらに凝結性状も優れた吹付け材料を提供でき、長期的な強度発現性も阻害しにくいので性能的および経済的にも有利である。また、吹付けシステムも粉体の輸送装置が不要となり、液体急結剤の圧送ポンプがあれば対応できるため簡単なシステムで吹付け施工ができるため、土木・建築業界等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーン比表面積2500cm/g以上の不溶解残分と、ケイ酸三カルシウム50〜60質量%、アルミン酸三カルシウムが0〜4質量%、鉄アルミン酸四カルシウム10〜18質量%とからなる鉱物組成のセメント100質量部と、骨材と、硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤を固形分換算で0.5〜10質量部とを含有する吹付け材料。
【請求項2】
セメント100質量部に対して、アルミナセメントを1〜20質量部含有することを特徴とする請求項1記載の吹付け材料。
【請求項3】
アルカリ金属塩、アミン化合物、フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の吹付け材料。
【請求項4】
硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤が、アルカリ金属塩、アミン化合物、フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項記載の吹付け材料。
【請求項5】
凝結遅延剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項記載の吹付け材料。
【請求項6】
分散剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1項記載の吹付け材料。
【請求項7】
繊維を含有することを特徴とする請求項1〜6記載のうちのいずれか1項記載の吹付け材料。
【請求項8】
硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤以外の吹付け材料を水とともに練り混ぜてセメントコンクリートあるいはモルタルを製造し、それをポンプ圧送し、ノズルの手前で圧縮空気、硫酸アルミニウムを含有する硬化促進剤を合流混合して吹き付けることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか1項記載の吹付け材料を用いた吹付け工法。

【公開番号】特開2012−224511(P2012−224511A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93852(P2011−93852)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】