説明

周期外乱抑制装置および周期外乱抑制方法

【課題】システム同定モデル誤差を補正できる周期外乱抑制装置を提供する。
【解決手段】上位に制御指令値rnを発生する制御器を持ち、周期性外乱が発生する制御対象プラントPnの出力ynにおける、抑制制御対象とする周期外乱の周波数成分にシステム同定モデルの逆数で表現される逆システムを乗算して周期外乱を推定し、それを前記rnから差し引いて周期外乱dnを抑制する周期外乱オブザーバPDOと、周期外乱抑制制御中における周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡に基づいて、システム同定モデル誤差による位相誤差θrefを算出する位相算出手段(10,11)と、システム同定モデル誤差によるゲイン誤差Grefを算出するゲイン算出手段(20,21,22)と、前記θrefとGrefとを積算して求めた回転ベクトルPrefnを補正指令値として前記システム同定モデルを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象で発生する周期性の外乱を抑制する周期外乱抑制装置ならびに抑制手法に関する。
【背景技術】
【0002】
制御対象において周期性の外乱が発生することがある。例えば、制御対象がモータであればコギングトルクなどによる回転数に同期した外乱であるトルクリプルがこれに相当し、振動や騒音などの問題の要因となる。このような周期性の外乱が発生することはモータに限らず一般的であり、これを抑制するための制御方法は多く考案されている。
【0003】
周期外乱オブザーバは周期性の外乱を抑制するための制御手法の一つである。制御の基本構成は一般的な外乱オブザーバと同様であるが、各外乱周波数に同期した成分を個別に抑制する。逆システムモデルに複素ベクトルで表現した周波数成分毎のシステム同定モデルを用いることで、制御対象とする周波数の外乱を直接的に推定して補償する。これにより比較的単純な制御構成でありながら、対象とした周波数に対しては次数に関係なく高い抑制効果が得られる。
【0004】
このように周期外乱オブザーバを用いてモータのトルクリプルを抑制することは、例えば特許文献1および非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2010/024195A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y.Tadano,et al.“Periodic Learning Suppression Control of Torque Ripple Utilizing System Identification for Permanent Magnet Synchronous Motors”,IEEE IPEC−Sapporo,pp.1363−1370(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および非特許文献1に開示されている技術を図1とともに説明する。図1は周期外乱オブザーバの制御構成をn次成分について簡略して示したものである。図中の各記号の定義は下記のとおりである。
【0008】
n:プラント、P^n:システム同定モデル
n:制御指令
n:周期外乱、d^n:周期外乱推定値
n:制御対象出力
添字のnはn次成分であることを示す。
【0009】
※上記変数はいずれもXn=XAn+jXBnと表される複素ベクトルである。
【0010】
F(s):低域通過フィルタ
controlled object:制御対象
PDO:周期外乱オブザーバ(Periodic Disturbance Observer)
制御に先立ちまず、制御対象のプラントPnに対してあらかじめシステム同定を行い、1次元複素ベクトルの形で(1)式として表現する。
【0011】
P^n=P^An+jP^Bn (1)
※P^An:同定結果のn次成分実部、P^Bn:同定結果のn次成分虚部。
【0012】
例えば、1〜1000Hzまでのシステム同定結果を1Hz毎に複素ベクトルで表現した場合、1000個の1次元複素ベクトルの要素からなるテーブルを構築することができる。同定結果を近似数式で表現することも可能である。いずれの手法でも、常に簡素な1次元複素ベクトルでシステムモデルを表現することが可能となる。
【0013】
なお、上記システム同定モデルに限らず、以下の明細書中のP^n、rn、dn、d^n、ynもXn=XAn+jXBnと表される複素ベクトルである。
【0014】
制御手法として、プラント出力(制御対象出力yn)にフーリエ変換を簡易化した低域通過フィルタGF(s)を通すことで、周期外乱の制御対象とする周波数成分を抽出する。これに上記の抽出したシステム同定モデルの逆数P^n-1で表現される逆システムを乗算し、制御指令値との差分を加算器1で取ることにより周期外乱dnを推定する。推定した周期外乱d^nを補償指令値として、加算器2において制御指令値rnから差し引き、これによって加算器3に加算される周期外乱dnを抑制する。以上の流れが周期外乱オブザーバによる周期外乱を抑制する制御手法である。
【0015】
この制御手法に関して、制御の根幹を成し制御性能を左右するものはシステム同定モデルの真値に対する精度である。周期外乱の抑制能力向上のためには、より精度の高いシステム同定が求められる。
【0016】
しかしながら、同定モデルの高精度な取得は難しく、経年変化などによるプラントの変動や、頻繁なプラント特性の変動に対する追従などといった事象についても考慮する必要がある。真値との誤差は抑制完了までの収束時間の増大や、最悪の場合では位相誤差により抑制制御自身が外乱成分となり、制御を不安定にする可能性もある。このため、同定モデル誤差に対するロバスト性の向上が求められる。
【0017】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、システム同定モデル誤差を補正することができる周期外乱抑制装置および周期外乱抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための、請求項1に記載の周期外乱抑制装置は、上位に制御指令値を発生する制御器を持ち、周期性外乱が発生する制御対象の出力における、抑制制御対象とする周期外乱の周波数成分にシステム同定モデルの逆数で表現される逆システムを乗算して周期外乱を推定する周期外乱オブザーバを有し、該周期外乱オブザーバで推定された周期外乱を補償指令値として前記制御指令値から差し引いて周期外乱を抑制する周期外乱抑制手段と、前記周期外乱抑制手段による周期外乱抑制制御中における、前記周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡の、現在の検出位置から原点に向かうベクトルから見た、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルの回転角度を、システム同定モデル誤差による位相誤差として算出する位相算出手段と、前記周期外乱抑制手段による周期外乱抑制制御中における、前記周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡のゲインの現在値と所望値に基づいてシステム同定モデル誤差によるゲイン誤差を算出するゲイン算出手段と、前記位相算出手段により算出された位相誤差と前記ゲイン算出手段により算出されたゲイン誤差を積算した回転ベクトルを、システム同定モデルに対する補正指令値として算出する補正指令値算出手段とを備え、前記補正指令値算出手段により算出された補正指令値によって前記システム同定モデルを補正することを特徴としている。
【0019】
また請求項5に記載の周期外乱抑制方法は、上位に制御指令値を発生する制御器を持ち、周期性外乱が発生する制御対象の出力における、抑制制御対象とする周期外乱の周波数成分にシステム同定モデルの逆数で表現される逆システムを乗算して周期外乱を推定する周期外乱オブザーバを有した周期外乱抑制手段が、前記周期外乱オブザーバで推定された周期外乱を補償指令値として前記制御指令値から差し引いて周期外乱を抑制する周期外乱抑制ステップと、位相算出手段が、前記周期外乱抑制手段による周期外乱抑制制御中における、前記周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡の、現在の検出位置から原点に向かうベクトルから見た、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルの回転角度を、システム同定モデル誤差による位相誤差として算出する位相算出ステップと、ゲイン算出手段が、前記周期外乱抑制手段による周期外乱抑制制御中における、前記周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡のゲインの現在値と所望値に基づいてシステム同定モデル誤差によるゲイン誤差を算出するゲイン算出ステップと、補正指令値算出手段が、前記位相算出手段により算出された位相誤差と前記ゲイン算出手段により算出されたゲイン誤差を積算した回転ベクトルを、システム同定モデルに対する補正指令値として算出する補正指令値算出ステップと、前記算出された補正指令値によって前記システム同定モデルを補正するステップとを備えたことを特徴としている。
【0020】
上記構成によれば、システム同定モデル誤差を補正することができ、正確な同定モデルにより最適な抑制制御を行うことができる。
【0021】
また、請求項2に記載の周期外乱抑制装置は、請求項1において、前記位相算出手段は、前記回転角度を、前記ベクトル軌跡の、1周期前の検出位置から原点に向かうベクトルから、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルを見た回転角度と、現在の検出位置から原点に向かうベクトルから、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルを見た回転角度との和によって算出することを特徴としている。
【0022】
また請求項6に記載の周期外乱抑制方法は、請求項5において、前記位相算出ステップは、前記回転角度を、前記ベクトル軌跡の、1周期前の検出位置から原点に向かうベクトルから、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルを見た回転角度と、現在の検出位置から原点に向かうベクトルから、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルを見た回転角度との和によって算出することを特徴としている。
【0023】
上記構成によれば、システム同定モデル誤差による位相誤差を、現在状態に加えて過去状態も含めて算出するので、補正精度を向上させることができる。
【0024】
また、請求項3に記載の周期外乱抑制装置は、請求項1又は2において、前記位相算出手段は前記回転角度と所望の回転角度の偏差をPI制御器に通して前記位相誤差を算出し、前記ゲイン算出手段は前記ゲインの現在値と所望値の偏差をPI制御器に通して前記ゲイン誤差を算出することを特徴としている。
【0025】
また請求項7に記載の周期外乱抑制方法は、請求項5又は6において、前記位相算出ステップは前記回転角度と所望の回転角度の偏差をPI制御器に通して前記位相誤差を算出し、前記ゲイン算出ステップは前記ゲインの現在値と所望値の偏差をPI制御器に通して前記ゲイン誤差を算出することを特徴としている。
【0026】
上記構成によれば、所望値に対するベクトル軌跡の追随性能を向上させることができる。
【0027】
また、請求項4に記載の周期外乱抑制装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記位相算出手段、ゲイン算出手段および補正指令値算出手段を周期外乱の周波数成分の複数次数分設け、各次数の周期外乱の周波数成分における補正指令値を求めて、前記システム同定モデルの補正を行うことを特徴としている。
【0028】
また請求項8に記載の周期外乱抑制方法は、請求項5ないし7のいずれか1項において、前記位相算出手段、ゲイン算出手段および補正指令値算出手段は周期外乱の周波数成分の複数次数分設けられ、前記位相算出ステップ、ゲイン算出ステップおよび補正指令値算出ステップは、周期外乱の周波数成分の各次数について前記算出を各々実行することを特徴としている。
【0029】
上記構成によれば、抑制およびシステム同定モデルを補正すべき周期外乱の周波数成分が複数、同時に存在する場合においても、複数の次数の周期外乱を抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
(1)請求項1〜8に記載の発明によれば、システム同定モデル誤差を補正することができ、正確な同定モデルにより最適な抑制制御を行うことができる。
(2)請求項2、6に記載の発明によれば、システム同定モデル誤差による位相誤差を、現在状態に加えて過去状態も含めて算出するので、補正精度を向上させることができる。
(3)請求項3、7に記載の発明によれば、所望値に対するベクトル軌跡の追随性能を向上させることができる。
(4)請求項4、8に記載の発明によれば、抑制およびシステム同定モデルを補正すべき周期外乱の周波数成分が複数、同時に存在する場合においても、複数の次数の周期外乱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明が適用される周期外乱抑制制御系における周期外乱オブザーバの制御ブロック図。
【図2】本発明で利用するシステム同定モデル誤差による位相誤差を説明するための複素ベクトル平面軌跡図。
【図3】ベクトル平面軌跡例を表し、(a)はシステム同定モデル誤差なしの場合のベクトル軌跡図、(b)はシステム同定モデル誤差ありの場合のベクトル軌跡図。
【図4】本発明の実施例1によるシステム同定モデル補正器の制御ブロック図。
【図5】本発明をシステム同定モデル誤差ありの場合に適用した後のベクトル軌跡図。
【図6】本発明の実施例2の原理を説明するための複素ベクトル平面軌跡図。
【図7】本発明の実施例3によるシステム同定モデル補正器の制御ブロック図。
【図8】本発明の実施例4を示す制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態では、システム同定モデル誤差を学習し、これを補正するように構成した。尚、以下の実施例においては、モータ制御時のトルクリプル抑制を例として説明する場合もあるが、本発明はこれに限るものではない。
【実施例1】
【0033】
まず、制御対象出力として、例えばトルクリプルの各周波数成分について、n次トルク脈動抽出成分(余弦係数)TAnを実軸、n次トルク脈動抽出成分(正弦係数)TBnを虚軸とした複素ベクトル平面内(図2)に描く軌跡に着目する。
【0034】
尚、図2において100nは抑制開始からの経過時刻[t=tn]における位置(現在の検出位置)を示し、100n-1は抑制開始からの経過時刻[t=tn-1]における位置(1周期前の検出位置)を示している。
【0035】
システム同定モデルに真値と誤差がなければ、抑制開始点から原点、つまりトルクリプル(周期外乱)がない状態に、例えば図3(a)に示すように直線かつ、最適な応答時間で向かう。
【0036】
この軌跡は誤差の存在する状態では、例えば図3(b)に示すような曲線や円軌道を描き、最悪は発散し無限遠方向に向かう。
【0037】
尚、本実施例においてn次補償電流指令値(dI*An,dI*Bn)(図1の制御指令rn)をゼロとしてトルクリプル(図1の周期外乱dn)を打ち消すことを前提とするが、前記指令値をゼロ以外とする場合では補償電流指令のベクトル平面上での位置が原点に相当する。
【0038】
本発明では、抑制制御中に逐次、前記軌跡情報から下記(2)式におけるゲインGrefと位相θrefの回転ベクトルPrefnを決定し(3)式のとおり同定モデルP^nに乗算することで同定モデルを補正し、新たにP’nの同定モデルを得る。そして図1の周期外乱オブザーバPDOにて用いる逆システムの同定モデルにP’nを適用する。
【0039】
refn=Gref・(cosθref+jsinθref) (2)
P’n=P^n・Prefn (3)
図4に前記(2)、(3)式を実現する実施例1の制御ブロック図を示す。図4は図1の構成を周波数成分について簡略化して表しており、図1と同一部分は同一符号をもって示している。
【0040】
図4において10は、制御対象出力ynから、周期外乱の各周波数成分が描くベクトル軌跡の位相(回転角度)θを算出する回転角度算出部であり、11は前記位相θを反転させて位相θref(システム同定モデル誤差による位相誤差)を求める符号反転器であり、これら回転角度算出部10および符号反転器11によって、本発明の位相算出手段を構成している。
【0041】
20は、制御対象出力ynから、周期外乱の各周波数成分が描くベクトル軌跡の現在の速度(ゲインの現在値)|v|を算出する現在速度算出部であり、21は任意の所望速度vrefを決定する所望速度計算器であり、22は前記|v|とvrefの比によりゲインGref(=|v|/vref:システム同定モデル誤差によるゲイン誤差)を演算する演算器であり、これら現在速度算出部20、所望速度計算器21および演算器22によって、本発明のゲイン算出手段を構成している。
【0042】
30は、前記位相θrefとゲインGrefを乗算して回転ベクトルPref(システム同定モデルに対する補正指令値)を算出し、該Prefによって周期外乱オブザーバPDOのシステム同定モデルを補正する回転ベクトル算出部であり、本発明の補正指令値算出手段を構成している。
【0043】
前記位相θrefについては、図2に示すように、抑制開始からの経過時刻[t=tn]の位置100n(TAn、TBn)の原点方向のベクトルをPtとし、時刻[t=tn-1]の位置100n-1から時刻[t=tn]の位置100nへのベクトルをvとおく。Ptから見たvの回転角度をθとし、これをシステム同定モデルの真値からの位相誤差と近似的に見る。よって時刻[t=tn]の補正すべき角度θrefを(4)式にて定める。
【0044】
【数1】

【0045】
※(4)式において[×]記号は外積を表し、[・]記号は内積を表す。
【0046】
refは、所望速度vrefをPtの大きさ(原点からの距離)に基づいて所望速度計算器21によって決定し、演算器22において現在の速度|v|に対する比率として(5)式に定める。
【0047】
【数2】

【0048】
これをシステム同定モデル誤差によるゲイン誤差とする。
【0049】
本発明では、任意の所望速度vrefが決定出来れば、これに従ってシステム同定モデルを補正し、所望の応答を得ることが可能である。所望速度つまり抑制制御の応答速度または応答波形の形に関しては、制御の適用条件により必ずしも理想的な応答に設定するとは限らない。このような場合においても、要求を満たす所望速度を決定することでこれを満足することができる。
【0050】
この時、誤差が存在する図3(b)の状態に対して本発明を適用したシミュレーション結果を図5に示す。本発明の適用前では図3(b)のように曲線であった軌跡が直線に近づいており、本発明の効果を確認できる。
【実施例2】
【0051】
本実施例2では、実施例1に対して、角度補正の精度を向上させるように構成した。図3に示した複素ベクトル平面の軌跡を時刻[t=tn-2]の位置100n-2(2周期前の検出位置)まで拡張したものを図6に示す。また、図6においては、時刻[t=tn]の位置100nにおける角度誤差をθtnとする。前記実施例1では、前記θtnが同定モデルの真値に対する位相誤差であると近似的にみていた。より詳細には、周期外乱オブザーバにより移動方向がもともと決定されるため、時刻[t=tn+1]の位置(1周期後の検出位置)ではθrefで補正した方向以上もしくは以下の移動方向となる可能性がある。また、補正に対してこれ以外の誤差が発生することも考えられる。
【0052】
そこで本実施例2では、過去情報を反映させて補正精度を向上させるように構成した。
【0053】
図6において、時刻[t=tn-1]の位置100n-1の原点方向のベクトルPt-1から見たベクトルvの回転角度θtn-1を前記(4)式と同様に算出する。これを、時刻[t=tn-1]の位置100n-1の補正に対して実際に移動した方向との誤差と見ることができる。これを反映し、時刻[t=tn]の位置100nの補正すべき角度θrefを回転角度θtnとθtn-1の和の(6)式とする。
【0054】
【数3】

【0055】
したがって、本実施例2において実施例1と異なる点は、回転角度算出部10において前記位相(回転角度)θに代えてθtn+θtn-1を算出する点にあり、その他の部分は実施例1(図4)と同一に構成されている。
【0056】
以上のように、過去の補正に対する誤差を現在の補正に反映させることで補正精度を向上させることができる。
【実施例3】
【0057】
前記実施例1、実施例2においては回転ベクトルPrefnのゲインGrefと位相θrefを現在および過去の情報から一意に決定したが、図7のような制御器(14、24)を用いた構成によってもGrefとθrefを決定することが可能である。
【0058】
すなわち、実施例1と同様に、ベクトル軌跡における位相(回転角度)θおよびゲインvに対して、所望の角度を所望角度計算器12により設定し、所望の速度を所望速度計算器21により設定する。所望速度については実施例1と同様であり、所望角度は基本的にはゼロである。
【0059】
そして、所望角度計算器12で設定された所望角度と回転角度算出部10で算出された現在のθとの差分を加算器13により求めてPI制御器14に入力し、所望速度計算器21で設定された所望速度と現在速度算出部20で算出された現在速度|v|との差分を加算器23により求めてPI制御器24に入力し、位相θrefおよびゲインGrefを各々算出する。
【0060】
尚、図7において図4と同一部分は同一符号をもって示している。前記PI制御器14、24は一般的なものでよく、PID制御などでも実現可能である。
【0061】
また、本実施例3においても、回転角度算出部10が算出する位相(回転角度)は、θに代えて、実施例2で述べたθtn+θtn-1であってもよい。
【0062】
上記構成により、前記実施例1、実施例2に比較して、所望値に対するベクトル軌跡の追随性能を向上させることができる。
【実施例4】
【0063】
前記実施例1〜3では、ある特定の周波数成分について同定モデル誤差を推定し補正可能であることを示した。本実施例4では、図8に示すように、N個(周期外乱の周波数成分の次数n個)の同定モデル補正器付きPDO40P1〜40PNを設け、図4、図7の制御系を抑制する各次数に対する同定モデル誤差推定、補正を並列・同時に実施するように構成した。
【0064】
同定モデル補正器付きPDO40P1〜40PNは、図4(実施例1)に示す周期外乱オブザーバPDO、回転角度算出部10、符号反転器11、現在速度算出部20、所望速度計算器21、演算器22および回転ベクトル算出部30の各機能を備えるか、又は、図7(実施例3)に示す周期外乱オブザーバPDO、回転角度算出部10、所望角度計算器12、加算器13、23、PI制御器14、24、現在速度算出部20、所望速度計算器21および回転ベクトル算出部30の各機能を備えており、n次の制御指令r1〜rNに対して、同定モデル誤差を推定し、その誤差によってシステム同定モデルを補正した結果の周期外乱推定値d^1〜d^Nを各々出力する。
【0065】
上記構成によれば、抑制およびシステム同定モデル誤差を推定すべき周期外乱周波数成分が複数、同時に存在する場合においても、対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば、ダイナモメータシステムの軸トルク共振抑制、モータ筐体の振動抑制(電気自動車、エレベータなど乗り心地に関連するもの)、その他、トルクリプル(周期外乱)が問題となる可変速装置全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1,2,3,13,23…加算器
10…回転角度算出部
11…符号反転器
12…所望角度計算器
14,24…PI制御器
20…現在速度算出部
21…所望速度計算器
22…演算器
30…回転ベクトル算出部
40P1〜40PN…同定モデル補正器付きPDO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位に制御指令値を発生する制御器を持ち、周期性外乱が発生する制御対象の出力における、抑制制御対象とする周期外乱の周波数成分にシステム同定モデルの逆数で表現される逆システムを乗算して周期外乱を推定する周期外乱オブザーバを有し、該周期外乱オブザーバで推定された周期外乱を補償指令値として前記制御指令値から差し引いて周期外乱を抑制する周期外乱抑制手段と、
前記周期外乱抑制手段による周期外乱抑制制御中における、前記周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡の、現在の検出位置から原点に向かうベクトルから見た、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルの回転角度を、システム同定モデル誤差による位相誤差として算出する位相算出手段と、
前記周期外乱抑制手段による周期外乱抑制制御中における、前記周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡のゲインの現在値と所望値に基づいてシステム同定モデル誤差によるゲイン誤差を算出するゲイン算出手段と、
前記位相算出手段により算出された位相誤差と前記ゲイン算出手段により算出されたゲイン誤差を積算した回転ベクトルを、システム同定モデルに対する補正指令値として算出する補正指令値算出手段とを備え、
前記補正指令値算出手段により算出された補正指令値によって前記システム同定モデルを補正することを特徴とする周期外乱抑制装置。
【請求項2】
前記位相算出手段は、前記回転角度を、前記ベクトル軌跡の、1周期前の検出位置から原点に向かうベクトルから、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルを見た回転角度と、現在の検出位置から原点に向かうベクトルから、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルを見た回転角度との和によって算出することを特徴とする請求項1に記載の周期外乱抑制装置。
【請求項3】
前記位相算出手段は前記回転角度と所望の回転角度の偏差をPI制御器に通して前記位相誤差を算出し、
前記ゲイン算出手段は前記ゲインの現在値と所望値の偏差をPI制御器に通して前記ゲイン誤差を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の周期外乱抑制装置。
【請求項4】
前記位相算出手段、ゲイン算出手段および補正指令値算出手段を周期外乱の周波数成分の複数次数分設け、各次数の周期外乱の周波数成分における補正指令値を求めて、前記システム同定モデルの補正を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の周期外乱抑制装置。
【請求項5】
上位に制御指令値を発生する制御器を持ち、周期性外乱が発生する制御対象の出力における、抑制制御対象とする周期外乱の周波数成分にシステム同定モデルの逆数で表現される逆システムを乗算して周期外乱を推定する周期外乱オブザーバを有した周期外乱抑制手段が、前記周期外乱オブザーバで推定された周期外乱を補償指令値として前記制御指令値から差し引いて周期外乱を抑制する周期外乱抑制ステップと、
位相算出手段が、前記周期外乱抑制手段による周期外乱抑制制御中における、前記周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡の、現在の検出位置から原点に向かうベクトルから見た、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルの回転角度を、システム同定モデル誤差による位相誤差として算出する位相算出ステップと、
ゲイン算出手段が、前記周期外乱抑制手段による周期外乱抑制制御中における、前記周期外乱の各周波数成分が複素ベクトル平面に描くベクトル軌跡のゲインの現在値と所望値に基づいてシステム同定モデル誤差によるゲイン誤差を算出するゲイン算出ステップと、
補正指令値算出手段が、前記位相算出手段により算出された位相誤差と前記ゲイン算出手段により算出されたゲイン誤差を積算した回転ベクトルを、システム同定モデルに対する補正指令値として算出する補正指令値算出ステップと、
前記算出された補正指令値によって前記システム同定モデルを補正するステップとを備えたことを特徴とする周期外乱抑制方法。
【請求項6】
前記位相算出ステップは、前記回転角度を、前記ベクトル軌跡の、1周期前の検出位置から原点に向かうベクトルから、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルを見た回転角度と、現在の検出位置から原点に向かうベクトルから、1周期前の検出位置から現在の検出位置に向かうベクトルを見た回転角度との和によって算出することを特徴とする請求項5に記載の周期外乱抑制方法。
【請求項7】
前記位相算出ステップは前記回転角度と所望の回転角度の偏差をPI制御器に通して前記位相誤差を算出し、
前記ゲイン算出ステップは前記ゲインの現在値と所望値の偏差をPI制御器に通して前記ゲイン誤差を算出することを特徴とする請求項5又は6に記載の周期外乱抑制方法。
【請求項8】
前記位相算出手段、ゲイン算出手段および補正指令値算出手段は周期外乱の周波数成分の複数次数分設けられ、前記位相算出ステップ、ゲイン算出ステップおよび補正指令値算出ステップは、周期外乱の周波数成分の各次数について前記算出を各々実行することを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の周期外乱抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−226411(P2012−226411A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90733(P2011−90733)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 社団法人電気学会 〔刊行物名〕 平成23年 電気学会全国大会 講演論文集DVD 〔発行年月日〕 平成23年3月5日
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】