説明

周期性信号の適応制御方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、周期性信号の能動抑制技術の技術分野に属する。例えば、周期性信号が振動であれば能動制振の技術分野に属し、周期性信号が雑音であればアクティヴ・ノイズ・サプレッションの技術分野に属するなど、周期性信号の種類によって応用範囲は広く拡がっている。
【0002】
【従来の技術】
(従来技術1:DXHS−LMSアルゴリズム)本発明に対する従来技術1としては、特開平8−44377号公報には、DXHS−LMSアルゴリズム(以下DXHSアルゴリズムと略称)と名付けられた最小二乗法に基づく周期性信号の適応制御方法が開示されている。
【0003】DXHSアルゴリズムは、周期性信号の基本周波数成分とその高調波成分との制御を行い、その観測点に及ぼす影響を抑制する適応制御方法を実現するものである。DXHSアルゴリズムでは、その影響を抑制すべき制御対象信号(周期性信号)と、これを相殺すべく発生させられる制御信号(適応信号とも呼ぶ)とは、それぞれ少なくとも一つの正弦波(調和関数)で表記され、これらの正弦波の角振動数、位相およびゲインが主要な変数として定義されていた。そして、周期性信号の影響を受ける観測点で観測される誤差信号の二乗を評価関数とする最小二乗法を基本として、制御信号のゲインおよび位相を適応的に調整して周期性信号の影響を最小化していた。また、制御対象システムの位相遅れ特性の変動にも配慮し、テーブルデータの導入による制御対象システムの特性の変動への適応能力の向上も図られていた。
【0004】このようなDXHSアルゴリズムは、上記公報中で従来技術としていたアルゴリズムに比べ、外乱の影響を受けにくく、演算量が少ないという利点があった。しかし、この従来技術1においては、制御信号を観測点に伝達する制御対象システムの時間変動(所定の角振動数で伝達特性が経時変化する)に対する適応能力が十分ではなかった。
【0005】(従来技術2:DXHS−LMS改良アルゴリズム)そこで、従来技術2として、発明者らは従来技術1の改良アルゴリズム(DXHS−LMS改良アルゴリズム、以下DXHS改アルゴリズムと略称)を開発した。その結果、同アルゴリズムによれば制御対象システムの伝達特性の大幅な変動に対しても速やかに適応することができるという実験成果を得た。この従来技術2もまた、前述の従来技術1と同様に最小二乗法に基づく方法であり、同方法は特開平8−272378号公報に公開されている。
【0006】DXHS改アルゴリズムでは、周期性信号および制御信号をそれぞれ調和関数で定義している点では従来技術1と同様である。しかし、適応係数ベクトルW(n)の成分に、制御信号の振幅および位相に加えて、制御対象システムの位相遅れに関する適応係数が導入されている点が異なっている。同適応係数の導入に伴い、適応係数ベクトルW(n)を更新する適応係数ベクトル更新アルゴリズムに、適応係数を調整する成分も含まれるようになっている。また、適応係数ベクトル更新アルゴリズムの適応係数を調整する成分に、位相調整パラメータを付加することにより、その収束性が改善されている。
【0007】その結果、この従来技術2のDXHS改アルゴリズムを用いた周期性信号の適応制御方法によれば、制御対象システムの伝達特性の経時変化に対する適応能力が飛躍的に高まるという効果を得ている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前述の従来技術1および従来技術2のいずれにおいても、適応制御のアルゴリズムは、最小二乗法に基づいて論理が展開され導出されてきた。すなわち、誤差信号e(n)の二乗を評価関数として採用し、同二乗値の極小値を与える方向へ適応係数ベクトルW(n)の各要素を調整する勾配法を基本とするアルゴリズムに則って、前述の両従来技術は開発されている。
【0009】それゆえ、両従来技術にはそれぞれの特徴および長所が備わっているが、それでもなお、誤差信号e(n)が極端に大きい場合には適応にある程度の時間が必要であった。それゆえ、初期誤差が大きく、しかも短時間中に適応することが要求される用途においては、誤差信号e(n)の収束に要する時間をさらに短縮したい、すなわち収束速度をさらに向上させたいという希望があった。
【0010】また、従来技術2では位相調整パラメータが導入されて伝達特性Gの位相特性の大幅な変動にも対応できるようになっていたが、これも最小二乗法に基づいて導出されたアルゴリズムであった。それゆえ、上記位相特性に関する適応範囲は飛躍的に拡大していたが、適応の初期に上記位相特性に大きな誤差がある場合には、なおいっそうの収束速度の向上が望まれる場合もあり得た。
【0011】そこで本発明は、上記両従来技術に比べても、適応制御の収束速度がいっそう向上している周期性信号の適応制御方法を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】上記課題を解決するために、発明者らは以下の各手段を発明した。ここで、通常ハットまたはルーフと呼び慣わされている数式中の記号は、明細書本文には電子出願上の制約でそのまま表記できないので、「ハット」の接尾辞で代替していることを付記しておく。
【0013】(第1手段)本発明の第1手段は、請求項1記載の周期性信号の適応制御方法である。本手段は、少なくとも一つの角振動数ωk (1≦k≦K’、K’は自然数)の信号成分を含み観測点に影響を及ぼす周期性信号f(n)に対する適応制御方法である。すなわち本手段では、周期性信号f(n)の角振動数ωk のうちK個(1≦k≦K≦K’、Kも自然数)の計測値である測定角振動数ωk'(1≦k≦K)の正弦波信号からなる適応信号y(n)が、直接または間接的に逆位相で観測点に加えるられる。その結果、周期性信号f(n)の特定成分の観測点への影響は能動的に除去され、観測点で検知される誤差信号e(n)は抑制される。
【0014】本手段では、各アルゴリズムが以下のように作用する。基準入力信号生成アルゴリズムは、周期性信号f(n)と相関がある基準信号により、角振動数ωk を計測して計測角振動数ωk'を供給する。それとともに、同アルゴリズムは、基準信号および計測角振動数ωk'に基づいて、周期性信号f(n)の特定成分と同期している基準入力信号xk (n)を生成する。ここで、基準入力信号x(n)は、正弦波信号(90度位相を変えて余弦波信号にもなる)でもよいし、矩形波信号でも良いし、あるいは基準信号そのままのパルス信号であっても良い。要するに基準入力信号x(n)は、周期性信号f(n)の特定信号と適応信号y(n)とが同期を取れるように作用する信号であれば、どのようなものでも良い。
【0015】適応信号発生アルゴリズムは、離散時間における時刻nにおいて、計測角振動数ωk'を角振動数とする振幅ak および位相φk の正弦波信号の少なくとも一つが合成されてなる適応信号y(n)を発生させる。適応信号y(n)は、前述の基準入力信号xk (n)に同期しているので、周期性信号f(n)とも適正な位相差で同期しており、通常は伝達特性Gを経て観測点に印加されて周期性信号f(n)の特定成分を相殺する。適応信号y(n)の振幅a(n)および位相φ(n)は、下記の適応係数ベクトル更新アルゴリズムで適応的に調整され、アップデートされる。
【0016】適応係数ベクトル更新アルゴリズムは、上記適応信号y(n)の振幅ak (n)および位相φk (n)を成分とする適応係数ベクトルW(n)=[・・・ak(n)・・・,・・・φk (n)・・・]を適応的に更新するアルゴリズムである。この更新は、観測点で計測される誤差信号e(n)と計測角振動数ωk'とに基づいて離散時間の時刻nの経過(更新周期T)毎に行われる。そして、周期性信号f(n)の特定成分の角振動数ωk ならびに振幅および位相の変動と、周期性信号f(n)から観測点までの伝達特性Gの変動とに対して、適応係数ベクトルW(n)の上記各成分が適応的に調整される。前述のように、更新された該適応係数ベクトルW(n)の上記各成分をもって、適応信号y(n)の各正弦波信号の振幅ak (n)および位相φk (n)が更新される。
【0017】本手段の特徴的な点は、前述の適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおいて、適応の度合いを評価する評価関数Jw として誤差信号e(n)の2N乗(2≦N)が用いられている点である。すなわち、本手段は勾配法ではあるが、最小二乗法ではなく、最小四乗法、最小六乗法、最小八乗法、・・・に則って、適応係数ベクトル更新アルゴリズムが構成されている。
【0018】このようなアルゴリズムでは、誤差信号e(n)の絶対値が1を越えると(または所定の単位誤差を越えると)、誤差信号e(n)の2N乗値は勾配が急速に増大するので、収束速度が飛躍的に向上する。それゆえ、ごく短時間に誤差信号e(n)の絶対値は1(ないし単位誤差)未満に収束する。したがって本手段によれば、前述の従来技術1に比べても、適応制御の収束速度がいっそう向上している周期性信号の適応制御方法を提供することができるという効果がある。
【0019】なお、誤差信号e(n)を適正な単位誤差でノーマライズして本手段の適応係数ベクトル更新アルゴリズムに供することにより、誤差信号e(n)がこの範囲を越えたら急速にその範囲内に収束させる閾値を設定することが可能である。同閾値は、本手段を適用するシステムの特性や要求仕様に基づいて、上記単位誤差により任意に設定することができる。
【0020】(第2手段)本発明の第2手段は、請求項2記載の周期性信号の適応制御方法である。本手段は、大半部分が前述の第1手段と同一であるが、伝達位相特性同定アルゴリズムを有する点と、同アルゴリズムおよび適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおけるそれぞれの評価関数とが、第1手段と異なっている。
【0021】伝達位相特性同定アルゴリズムは、伝達特性Gの各位相特性Φk の各推定値Φk ハット(n)を、誤差信号e(n)および計測角振動数ωk'に基づいて時刻nの経過毎に更新する。この更新の結果、各位相特性各推定値Φk ハット(n)は、伝達特性Gの位相特性Φの変動に対して適応的に調整され、伝達特性Gの位相特性Φの大幅な変動にも対処して誤差信号e(n)を収束させることができるようになる。
【0022】一方、適応係数ベクトル更新アルゴリズムは、おおむね前述の第1手段のそれと同一であるが、評価関数が二乗誤差である場合も含まれてる点で第1手段とは異なっている。すなわち、適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおいては、適応の度合いを評価する評価関数としてJw =e2N(n)が用いられており、Nは1以上の自然数である。
【0023】また、伝達位相特性同定アルゴリズムにおいても、各位相特性推定値Φk ハット(n)の同定の度合いを評価する評価関数としてJw =e2Q(n)が用いられており、Qもまた1以上の自然数である。ただし、NおよびQのうち少なくとも一方は2以上であり、このことが本手段の特徴となっている。
【0024】すなわち、適応係数ベクトル更新アルゴリズムおよび伝達位相特性同定アルゴリズムのうち少なくとも一方は、最小四乗法等の誤差信号e(n)の高次乗数による評価関数を用いて、勾配法が実施される。それゆえ、上記両アルゴリズムのうち、高次数の評価関数を用いてアルゴリズムが展開されているものは、誤差信号e(n)の絶対値が大きい適応制御の初期において、急速な収束速度を発揮する。
【0025】したがって本手段によれば、伝達特性Gの位相特性Φの大幅な変動にも対処できるばかりではなく、誤差の大きい範囲において急速な収束速度を発揮することができる周期性信号の適応制御方法を提供可能であるという効果がある。なお、本手段においても前述の第1手段と同様に、誤差信号e(n)を適正な単位誤差でノーマライズすることにより、誤差信号e(n)がこの範囲を越えたら急速にその範囲内に収束させる閾値を設定することが可能である。
【0026】また、適応係数ベクトル更新アルゴリズムの更新周期Tと伝達位相特性同定アルゴリズムの同定周期Tとは、必ずしも一致していなくとも良い。
(第3手段)本発明の第3手段は、請求項3記載の周期性信号の適応制御方法である。本手段は、前述の第1手段を多入力多出力制御系に拡張したものである。すなわち、周期性信号f(n)は少なくとも一つの観測点に影響を及ぼし、各観測点では、L個の誤差信号el (n)(1≦l≦L、Lは自然数)が検知される。一方、各観測点への周期性信号f(n)の影響のうち特定成分を相殺して抑制する適応信号もM個ある。つまり、M個の適応信号ym (n)(1≦m≦M、Mは自然数)を逆位相で直接または間接的に各観測点に加えることによって、周期性信号f(n)の特定成分の各観測点への影響が能動的に除去される。
【0027】その各々の誤差信号el (n)からM個の適応信号ym (n)を生成し、同誤差信号を抑制するための各アルゴリズムは、基本的に前述の第1手段をL入力M出力制御系に拡張しただけある。それゆえ、本手段の基本的な技術思想は、第1手段のものを踏襲している。したがって本手段によれば、多入力多出力制御系を形成しながら、各誤差信号el (n)をそれぞれ急速に所定範囲に収束可能な周期性信号の適応制御方法を提供することができるという効果がある。
【0028】なお、本手段においても前述の第1手段と同様に、誤差信号el (n)を適正な単位誤差でノーマライズすることにより、各誤差信号el (n)が各単位誤差を越えたら急速にその範囲内に収束させる閾値を設定することが可能である。
(第4手段)本発明の第4手段は、請求項4記載の周期性信号の適応制御方法である。
【0029】本手段は、前述の第2手段を多入力多出力制御系に拡張したものである。すなわち、周期性信号f(n)は少なくとも一つの観測点に影響を及ぼし、各観測点では、L個の誤差信号el (n)(1≦l≦L、Lは自然数)が検知される。一方、各観測点への周期性信号f(n)の影響のうち特定成分を相殺して抑制する適応信号もM個ある。つまり、M個の適応信号ym (n)(1≦m≦M、Mは自然数)を逆位相で直接または間接的に各観測点に加えることによって、周期性信号f(n)の特定成分の各観測点への影響が能動的に除去される。
【0030】その各々の誤差信号el (n)からM個の適応信号ym (n)を生成し、同誤差信号を抑制するための各アルゴリズムは、基本的に前述の第2手段をL入力M出力制御系に拡張しただけある。それゆえ、本手段の基本的な技術思想は、第2手段のものを踏襲している。したがって本手段によれば、多入力多出力制御系を形成しながら、伝達特性Gの位相特性Φの大幅な変動にも対処できるばかりではなく、各誤差信号el (n)をそれぞれ急速に所定範囲に収束可能な周期性信号の適応制御方法を提供することができるという効果がある。
【0031】なお、本手段においても前述の第2手段と同様に、誤差信号el (n)を適正な単位誤差でそれぞれノーマライズすることにより、各誤差信号el (n)が各単に誤差を越えたら急速にその範囲内に収束させる閾値を設定することが可能である。また、適応係数ベクトル更新アルゴリズムの更新周期Tと伝達位相特性同定アルゴリズムの同定周期Tとは、必ずしも一致していなくとも良い。
【0032】
【発明の実施の形態】本発明の周期性信号の適応制御方法および制御方法の実施の形態については、当業者に実施可能な理解が得られるように、以下の実施例で明確かつ十分に説明する。
[実施例1]
(実施例1のアルゴリズムの導出)本発明の実施例1としての周期性信号の適応制御方法は、理解が容易であるように、前述の第1手段においてK=1、すなわち周期性信号f(n)のうち単一の角振動数ωの周期性振動成分を抑制すべき特定成分とする適応制御方法である。本実施例の適応制御方法は、図1を参照しながら、以下のようにして導き出すことができる。
【0033】まず、角振動数ωの抑制すべき特定成分を含む周期性信号f(n)が、観測点24に加わっているものとする。周期性信号f(n)の上記特定成分と同期が取れており振幅は一定値Xの余弦波である基準入力信号x(n)が、次の数13に示すように適応制御系の入力として得られるものとする。
【0034】
【数13】 x(n) = Xcos[ω’Tn]
ここで、ω’は測定角振動数であって、周期性信号f(n)の特定成分の角振動数ωの測定値である。また、Tは適応係数ベクトルW(n)の更新周期であり、サンプリング周期と考えても良い。さらに、nは離散時間における時刻を表す整数である。
【0035】この基準入力信号x(n)をブロックGハット13’で観測することにより、計測角振動数ωk'と、所定の推定伝達特性Gハットの推定位相特性Φハット(一定値)とが提供されるものとする。ただし、図1中のブロックGハット13’は、適応係数ベクトル更新アルゴリズム12に計測角振動数ω’と、推定位相特性Φハットとを与えるものとして便宜的に描かれているものである。それゆえ、ω’およびΦハットが適応係数ベクトル更新アルゴリズム12に提供されるための手段であれば、その他の表現で図示されていても構わない。
【0036】前述のように、周期性信号f(n)のうち抑制すべき特定成分は、単一の角振動数ωをもつ抑制すべき周期性振動成分であるから、適応係数ベクトルW(n)は次の数14で表記される。
【0037】
【数14】 W(n) = [ a(n), φ(n) ]Tまた、適応信号y(n)が観測点24に至るまでの伝達特性G(23)は、角振動数ωの関数ベクトルとして、次の数15で表記される。なおこれからは、伝達特性G(ω)を単に伝達特性Gと略記するものとする。
【0038】
【数15】 G(ω) = [ A(ω), Φ(ω) ]T適応信号発生アルゴリズム11は適応フィルタとして機能し、上記基準入力信号x(n)を元に次の数16に従って適応信号y(n)を生成し、上記伝達特性G(23)に供給する。
【0039】
【数16】 y(n) = a(n)Xcos[ω’Tn+φ(n)]
この適応信号y(n)が伝達特性G(23)を介して観測点24に伝達されるときには、適応信号y(n)は次の数17に示す相殺信号z(n)に変換されている。
【0040】
【数17】 z(n) = a(n)A(ω’)X・cos[ω’Tn+φ(n)+Φ(ω’)]
この相殺信号z(n)が観測点24で周期性信号f(n)に加えられると、周期性信号f(n)は相殺信号z(n)によって相殺され、結果として観測点24で観測される誤差信号e(n)のレベルは低く抑制される。
【0041】ここで、上記数13で示した基準入力信号x(n)の振幅Xは任意の一定値であるから、X=1と置くものとする。このことによって、以下の適応係数ベクトル更新アルゴリズム12等の導出には影響がないので、X=1と置いて特に不都合は生じない。また、計測角振動数ω’は周期性信号f(n)の真の角振動数ωと工学的に等価であると仮定すれば、ω’=ωである。すると、前述の数13、数16および数17は、それぞれ次の数18〜数20に簡素に書き換えられる。
【0042】
【数18】 x(n) = cos[ωTn]
【0043】
【数19】 y(n) = a(n)cos[ωTn+φ(n)]
【0044】
【数20】 z(n) = a(n)A(ω)・cos[ωTn+φ(n)+Φ(ω)]
相殺信号z(n)の振幅成分a(n)A(ω)は、伝達関数のゲインA(ω)が角振動数ωによって一意に定まっているので、適応信号y(n)の振幅a(n)で定まる。同様に、相殺信号z(n)の位相成分[φ(n)+Φ(ω)]は、伝達関数の位相特性(位相遅れの符号を逆転させたもの)Φ(ω)が角振動数ωによって一意に定まっているので、適応信号y(n)の位相φ(n)で定まる。それゆえ、観測点24における誤差信号e(n)を適正に低いレベルに抑制できるか否かは、一に適応信号y(n)の振幅a(n)および位相φ(n)の調整如何にかかっている。
【0045】適応信号y(n)の振幅a(n)および位相φ(n)は、両者を要素とする適応係数ベクトルW(n) = [ a(n), φ(n) ]T の各要素によって更新される。それゆえ、適応係数ベクトルW(n)の調整を行う適応係数ベクトル更新アルゴリズム12が、本実施例の周期性信号の適応制御方法にとって、最も重要な部分である。本実施例の適応係数ベクトル更新アルゴリズム12は、次のようにして導き出すことができる。
【0046】まず、次の数21に示すように、評価関数Jw を誤差信号e(n)の2N乗と定義する。
【0047】
【数21】 Jw =e2N(n)=[f(n)+z(n)]2Nここで、前述の本発明の第1手段によれば、Nは2以上の自然数であるから、本実施例ではN=2と定め、誤差信号e(n)の4乗を評価関数として使用する。それゆえ、本実施例の適応係数ベクトル更新アルゴリズム12の構成は、勾配法ではあるが、最小二乗法ではなく最小四乗法になる。ただし、以後の数式の展開としては任意のN(すなわちN=2,4,6,・・・)に対応できるように、一般的に2N乗として表記しておくものとする。
【0048】勾配法よれば、適応係数ベクトル更新アルゴリズム12すなわち適応係数ベクトルW(n)の更新式は、勾配法に則って上記評価関数Jw を適応係数ベクトルW(n)の各要素で偏微分することによって得られ、次の数22によって定義される。
【0049】
【数22】


【0050】ここで、誤差信号e(n)は次の数23のように展開されるので、上記数22の各偏微分要素はその次の数24のように展開できる。
【0051】
【数23】e(n)=[f(n)+z(n)]
=f(n)+a(n)A(ω)cos[ωTn+φ(n)+Φ(ω)]
【0052】
【数24】∂e(n)/∂a(n)=A(ω)cos[ωTn+φ(n)+Φ(ω)]
∂e(n)/∂φ(n)=−a(n)A(ω)・sin[ωTn+φ(n)+Φ(ω)]
ここで、伝達特性GのゲインA(ω)および位相特性Φ(ω)を測定する機能を本実施例の周期性信号の適応制御方法では持ち合わせていないので、両者は推定値(所定値)としてのゲインAハットおよび位相特性Φハットで代替される。すると、上記数22で表記されていた適応係数ベクトル更新アルゴリズム12は、次の数25に書き換えられる。
【0053】
【数25】


【0054】ここでさらに、μa =μa'A2N,μφ=μφ'A2Nと置くと、上記数25は簡素化されて次の数26のように表記される。
【0055】
【数26】


【0056】本実施例に合わせてより具体的にN=2を代入すると、上記数26で表記されていた適応係数ベクトル更新アルゴリズム12は、次の数27で表記される。
【0057】
【数27】


【0058】以上で本実施例の周期性信号の適応制御方法の各アルゴリズムの導出および定義を終えるが、本方法は最小4乗勾配法であるので、上記数27において誤差信号e(n)の乗数が1ではなく3になっている。それゆえ、誤差信号e(n)のレベルが1(または単位誤差)を越えると、適応係数ベクトルW(n)の更新ピッチ(ステップサイズ)が飛躍的に増大する。
【0059】(実施例1のシステム構成および作用効果)本発明の実施例1としての周期性信号の適応制御方法を実施する系は、再び図1に示すように、基準入力信号生成アルゴリズム(図略)、適応信号発生アルゴリズム11および適応係数ベクトル更新アルゴリズム12を中心に構成されている。前節で各アルゴリズムの導出がなされたので、次に本実施例の周期性信号の適応制御方法の構成を、以下にまとめて説明する。
【0060】本実施例の周期性信号の適応制御方法は、少なくとも一つの角振動数ωの信号成分を含み観測点24に影響を及ぼす周期性信号f(n)に対する適応制御方法である。すなわち本実施例では、周期性信号f(n)の角振動数ωの正弦波信号(余弦波信号でも同じ)からなる適応信号y(n)が、直接または間接的に逆位相で観測点に加えるられる。その結果、周期性信号f(n)の特定成分の観測点24への影響は能動的に相殺されて除去され、観測点24で検知される誤差信号e(n)は抑制される。
【0061】本実施例の周期性信号の適応制御方法では、各アルゴリズムが以下のように作用する。基準入力信号生成アルゴリズム(図略)は、周期性信号f(n)と相関がある基準信号により、角振動数ωk を計測して計測角振動数ωk'を供給する。それとともに、同アルゴリズムは、基準信号および計測角振動数ωk'に基づいて、周期性信号f(n)の特定成分と同期している基準入力信号xk (n)を、次の数28に示すように生成する。
【0062】
【数28】 x(n) = cos[ωTn]
ここで、基準入力信号x(n)は、正弦波信号ないし余弦波信号でもよいし、矩形波信号でも良いし、あるいは基準信号そのままのパルス信号であっても良い。要するに基準入力信号x(n)は、周期性信号f(n)の角振動数ωの特定成分と適応信号y(n)とが同期を取れるように作用する信号であれば、どのようなものでも良い。
【0063】適応信号発生アルゴリズム11は、離散時間における時刻nにおいて、周期性信号f(n)の角振動数ωを角振動数とする振幅aおよび位相φの余弦波信号として、次の数29に従い適応信号y(n)を発生させる。
【0064】
【数29】 y(n) = a(n)cos[ωTn+φ(n)]
適応信号y(n)は、前述の基準入力信号x(n)に同期しているので、周期性信号f(n)とも適正な位相差で同期しており、伝達特性Gを経て相殺信号z(n)となって観測点24に印加される。相殺信号z(n)は、次の数30で表記される。
【0065】
【数30】 z(n) = a(n)A(ω)・cos[ωTn+φ(n)+Φ(ω)]
相殺信号z(n)は、観測点24に印加され、周期性信号f(n)の角振動数ωの特定成分を相殺する。適応信号y(n)の振幅a(n)および位相φ(n)は、次の数31で表記される適応係数ベクトル更新アルゴリズム12により適応的に調整され、アップデートされる。なお、ステップサイズパラメータμa ,μφは、適正な値に設定されるものとする。
【0066】
【数31】


【0067】適応係数ベクトル更新アルゴリズム12は、適応信号y(n)の振幅a(n)および位相φ(n)を成分とする適応係数ベクトルW(n)=[a(n),φ(n)]T を適応的に更新するアルゴリズムである。この更新は、観測点24で計測される誤差信号e(n)と角振動数ωとに基づいて、離散時間の時刻nの経過(更新周期T)毎に行われる。そして、周期性信号f(n)の特定成分の角振動数ωならびに振幅および位相の変動と、周期性信号f(n)から観測点24までの伝達特性Gの変動とに対して、適応係数ベクトルW(n)の各成分が適応的に調整される。前述のように、更新された該適応係数ベクトルW(n)の上記各成分をもって、適応信号y(n)の各正弦波信号の振幅a(n)および位相φ(n)が更新される。
【0068】前述のように本実施例の特徴的な点は、適応係数ベクトル更新アルゴリズム12において、適応の度合いを評価する評価関数Jw として誤差信号e(n)の四乗が用いられている点である。すなわち、本手段は勾配法ではあるが、最小二乗法ではなく、最小四乗法に則って、適応係数ベクトル更新アルゴリズム12が構成されている。
【0069】このような適応係数ベクトル更新アルゴリズム12では、誤差信号e(n)の絶対値が1を越えると(または所定の単位誤差を越えると)、誤差信号e(n)の四乗値は勾配が誤差信号e(n)の三乗に比例して急激に増大するので、収束速度が飛躍的に向上する。それゆえ、ごく短時間に誤差信号e(n)の絶対値は1(ないし単位誤差)未満に収束する。
【0070】したがって本実施例によれば、前述の従来技術1に比べても、適応制御の収束速度がいっそう向上している周期性信号の適応制御方法を提供することができるという効果がある。
(実施例1の実証試験)前述の実施例1としての周期性信号の適応制御方法の効果を実証するために、試験回路をもって実証試験を行った。同試験回路は、図2に示すように、周期性信号f(n)の信号源21としてのファンクションジェネレータと、適応制御系1としてのDSP(デジタル信号処理)コントローラ1と、伝達特性G(23)としてのLPF(ローパスフィルタ)23と、三個の10kΩの抵抗器とを回路要素として構成されている。
【0071】ファンクションジェネレータは、第1の抵抗器を介して観測点24に周期性信号f(n)を加えると共に、周期性信号f(n)に同期している矩形波信号(電圧信号)を基準信号としてDSPコントローラ1に入力する。DSPコントローラ1には、適応制御アルゴリズム1として、前述の基準入力信号生成アルゴリズム13、適応信号発生アルゴリズム11および適応係数ベクトル更新アルゴリズム12がプログラムとして内蔵され作動する。
【0072】基準入力信号生成アルゴリズム13は、上記同期信号をもとに周期性信号f(n)の特定成分の角振動数ωを割り出して適応信号発生アルゴリズム11および適応係数ベクトル更新アルゴリズム12に提供する。それとともに基準入力信号生成アルゴリズム13は、周期性信号f(n)の上記特定成分の所定の位相にて生成されている上記同期信号を基準に、周期性信号f(n)の上記特定成分に対して適応信号発生アルゴリズム11の同期を取る。
【0073】こうして適応信号発生アルゴリズム11で発生した適応信号y(n)は、DSPコントローラ1からLFP(23)および第2の抵抗器を経て観測点24に加えられる。ここでLFP(23)は、200Hz以上の周波数でゲインが落ちていくローパスフィルタであり、試験時の周波数では位相遅れが十分に小さく、比較的高周波のノイズ成分しかカットしない。観測点24は第3の抵抗器を介して接地されており、DSPコントローラ1は観測点24での電圧をもって誤差信号e(n)として観測する。
【0074】以上の構成をもつ試験回路を使用して、本実施例の周期性信号の適応制御方法によりDSPコントローラ1を駆動した場合の周期性信号f(n)の適応制御試験の結果を、図3に示す。また、比較例として、最小二乗法に基づき次の数32に従って演算される従来技術の適応係数ベクトル更新アルゴリズムを使用した場合の時間応答を図4に示す。
【0075】
【数32】


【0076】本実施例の応答結果である図3と、比較例としての従来技術の応答結果である図4とを比較すると、適応制御開始の時点から誤差信号e(n)がグラフ上で収束したと認められるまでの時間に、大幅な違いがある。すなわち、本実施例の図3の方が比較例の図4よりも、誤差信号e(n)の収束時間が半分ないし三分の一に激減している。
【0077】したがって本実施例の周期性信号の適応制御方法によれば、誤差信号e(n)の収束速度を大幅に向上させることができることが、以上の試験結果から確認された。
(実施例1の変形態様)以上の実施例1では、周期性信号f(n)のうち観測点24への影響を抑制すべき特定成分は、一つの角振動数成分であった。しかし、複数の角振動数ωk (1≦k≦K、Kは2以上の自然数)を抑制すべき特定成分に含む変形態様の実施が可能である。また、最小四乗法だけではなく、最小六乗法、最小八乗法・・・(N=3,4,・・・)に基づく勾配法で適応係数ベクトル更新アルゴリズム12を変形態様させることもできる。
【0078】本変形態様では、適応信号発生アルゴリズム11および適応係数ベクトル更新アルゴリズム12は、それぞれ次の数33および数34でより一般的に表記される。
【0079】
【数33】


【0080】
【数34】


【0081】本変形態様によっても、k=1,・・・,Kの各振動成分に対して、実施例1とほぼ同様に従来技術よりも向上した収束速度を持つ制御応答が得られる。なお、上記各振動成分は、一次から高次に至るまでの調和振動でも良いし、互いに独立な振動モードの角振動数を持っていても良いし、両者の混成であっても構わない。
【0082】[実施例2]
(実施例2の伝達位相特性同定アルゴリズムの導出)本発明の実施例2としての周期性信号の適応制御方法は、図5に示すように、大半部分が前述の実施例1と同一であるが、伝達位相特性同定アルゴリズム13を有する点が実施例1と異なっている。伝達位相特性同定アルゴリズム13は、伝達特性G(23)の位相特性Φをオンラインで逐次同定し、同定位相特性Φハット(n)を適応係数ベクトル更新アルゴリズム12に提供するアルゴリズムである。そこで、以下に伝達位相特性同定アルゴリズム13を導出する。なお、ここでいう同定とは、推定と同義である。
【0083】先ず、同定位相特性Φハットに関する評価関数を、同定位相特性Φハットに影響を受ける相殺信号z(n)の推定値z(n)ハットが混じっている形式で、数35のように定義する。
【0084】
【数35】


【0085】上記評価関数JΦに勾配法を適用することにより、同定位相特性Φハットの更新式は次の数36のように定められる。
【0086】
【数36】


【0087】上記数36は、次の数37のように展開される。
【0088】
【数37】


【0089】ここで、同定位相特性Φハット(n)≒Φ(真値)である場合、zハット(n)≒z(n)と見なすことができると仮定すると、上記数37において次の数38が成立する。実際に数値シミュレーションや電気回路試験をしてみると、同定位相特性Φハット(n)と真値Φとの差が100°程度ないしそれ以上あっても、適応制御アルゴリズムは収束して誤差信号e(n)を抑制することができることが確認されている。それゆえ、上記仮定はかなり広範囲で成り立つ。
【0090】
【数38】


【0091】その結果、上記数37の更新式は次の数39にまとめ上げることができ、数39をもって本実施例の伝達位相特性同定アルゴリズム13とすることができる。
【0092】
【数39】


【0093】(実施例2のシステム構成および作用効果)本発明の実施例2としての周期性信号の適応制御方法は、前述のように大半部分が実施例1と同一である。しかし、本実施例は、伝達位相特性同定アルゴリズム13を有する点と、同アルゴリズム13および適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおけるそれぞれの評価関数とが、実施例1と異なっている。
【0094】すなわち、伝達位相特性同定アルゴリズム13は、伝達特性Gの各位相特性Φの各推定値Φハット(n)を、誤差信号e(n)および計測角振動数ω’(工学的に真値ωと等価とする)に基づいて時刻nの経過毎に更新する。この更新の結果、各位相特性各推定値Φハット(n)は、伝達特性Gの位相特性Φの変動に対して適応的に調整され、伝達特性Gの位相特性Φの大幅な変動にも対処して誤差信号e(n)を収束させることができるようになる。
【0095】一方、適応係数ベクトル更新アルゴリズムは、おおむね前述の第1手段のそれと同一であるが、評価関数が二乗誤差である場合も含まれてる点で第1手段とは異なっている。すなわち、適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおいては、適応の度合いを評価する評価関数としてJw =e2N(n)が用いられており、Nは1以上の自然数である。
【0096】また、伝達位相特性同定アルゴリズムにおいても、同定の度合いを評価する評価関数としてJw =e2Q(n)が用いられており、Qもまた1以上の自然数である。ただし、NおよびQのうち少なくとも一方は2以上であり、このことが本実施例としての周期性信号の適応制御方法の特徴となっている。より具体的には、本実施例ではN=1,Q=2を適用している。
【0097】すなわち、適応係数ベクトル更新アルゴリズム12は通常の最小二乗法に基づく勾配法で導出されており、伝達位相特性同定アルゴリズム13は最小四乗法に基づく勾配法で導出されている。具体的には、適応係数ベクトル更新アルゴリズム12および伝達位相特性同定アルゴリズム13は、それぞれ数40および数41で定義される。
【0098】
【数40】


【0099】
【数41】


【0100】ちなみに適応信号発生アルゴリズム11は、前述の実施例1と同様であって、次の数式により表記される。
y(n) = a(n)cos[ωTn+φ(n)]
それゆえ、伝達位相特性同定アルゴリズム13は、高次数(四乗)の評価関数を用いてアルゴリズムが導出されているので、誤差信号e(n)の絶対値が大きい適応制御の初期において急速な収束速度を発揮する。
【0101】したがって本実施例によれば、伝達特性Gの位相特性Φの大幅な変動にも対処できるばかりではなく、誤差の大きい範囲において急速な収束速度を発揮することができる周期性信号の適応制御方法を提供可能であるという効果がある。
(実施例2の実証試験)以上に説明した本実施例の周期性信号の適応制御方法についても、実施例1とほぼ同様の実験回路(図2参照)を用いて、実証試験を行った。その結果得られた時間応答のグラフを二例取り上げ、図6R>6および図7に示す。
【0102】図6での実証試験では、周期性信号f(n)を振幅0.7Vの正弦波とした。その際の伝達特性G(23)の位相特性の真値Φは− °( °の位相遅れ)であるのに対し、同定位相特性Φハット(n)の初期値はゼロで制御を開始している。その結果、制御開始から4秒ほどで同定位相特性Φハット(n)の値はほぼ定常値に落ち着いており、制御開始から8秒ほどで誤差信号e(n)はほぼゼロ付近に収束している。
【0103】一方、図7での実証試験では、周期性信号f(n)を振幅1.25Vの正弦波とした。その際の伝達特性G(23)の位相特性の真値Φは−96°(96°の位相遅れ)であるのに対し、同定位相特性Φハット(n)の初期値はゼロで制御を開始している。その結果、制御開始から1秒ほどで同定位相特性Φハット(n)の値はほぼ定常値に落ち着いており、制御開始から2秒ほどで誤差信号e(n)は幾分残っているもののほぼゼロ付近に収束している。
【0104】なお、適応信号y(n)の位相φ(n)にも吸収されるので、同定位相特性Φハット(n)は必ずしも真値に収束する必要はない。以上の二例をもって、本実施例の有効性は確認されたものと発明者らは考えている。なお、本実施例ではN=1と置いたが、N=2と置くことによってより速やかな収束特性が得られることが期待できる。
【0105】また、本実施例の周期性信号の適応制御方法による伝達位相特性同定アルゴリズム13の周波数特性を調べるために、前述の試験回路(図2参照)を用いて周波数掃引試験を行った。その際、本実施例の適応制御方法は、周期性信号f(n)の正弦波の振幅を0.7Vおよび1.25Vに設定した2ケースについて、89〜111Hz程度の周波数範囲で実施された。
【0106】その結果をそれぞれ図8(b)および図8(c)に示す。ちなみに図8(a)は、別途実施された周波数掃引試験により測定された伝達特性Gの位相特性Φ(ω)であり、真値に近いものと見ることができる。図8(b)および図8(c)から、同定位相特性Φハット(n)はおおむね真値の付近に収束するものと見ることができる。また、周期性信号f(n)の振幅が大きい方がやや真値への収束精度が高く、安定した同定結果が得られるようである。
【0107】なお、周波数が90Hz付近で実線の折れ線グラフが破線になっているが、これは実験装置の一部に特異点に相当する不具合があり、90Hzでのみ測定ができなかったためである。
(実施例2の変形態様)以上の実施例2でも実施例1と同様に、周期性信号f(n)のうち観測点24への影響を抑制すべき特定成分は、一つの角振動数成分であった。しかし、実施例1の変形態様と同様に、複数の角振動数ωk (1≦k≦K、Kは2以上の自然数)を抑制すべき特定成分に含む変形態様の実施が可能である。また、最小四乗法だけではなく、最小六乗法、最小八乗法・・・(Q=3,4,・・・)に基づく勾配法で伝達位相特性同定アルゴリズム13を変形態様させることもできる。
【0108】本変形態様では、各周波数成分に対して、次の数42によってより一般的な伝達位相特性同定アルゴリズム13を定義することができる。
【0109】
【数42】


【0110】なお、適応信号発生アルゴリズム11および適応係数ベクトル更新アルゴリズム12については、前述の実施例1の変形態様で述べたとおりである。本変形態様によっても、前述の実施例1の変形態様と同様に、k=1,・・・,Kの各振動成分に対して、実施例2とほぼ同様に従来技術よりも向上した収束速度を持つ制御応答が得られる。同様に、抑制すべき上記各振動成分は、一次から高次に至るまでの調和振動でも良いし、互いに独立な振動モードの角振動数を持っていても良いし、両者の混成であっても構わない。
【0111】[実施例3]
(実施例3の構成およびアルゴリズム導出)本発明の実施例3としての周期性信号の適応制御方法は、図9に示すように、実施例1を多入力多出力系に拡張したものであり、周期性信号f(n)も複数の周波数成分(角振動数ωk,1≦k≦K、Kは自然数)をもつものに一般化されている。
【0112】すなわち本実施例は、周期性信号f(n)の影響が及ぶ少なくとも一つの観測点からL個の誤差信号el (n)(1≦l≦L、Lは自然数)が入力として得られ、M個の適応信号ym (n)(1≦m≦M、Mは自然数)を出力する多入力多出力型の周期性信号の適応制御方法である。ただし、その特殊な場合として、一入力系である場合(L=1)や、同様に一出力系である場合(M=1)、ならびに周期性信号f(n)の単一の角振動数ω成分のみを抑制する場合(K=1)も、本実施例の範疇に含まれる。
【0113】なお、図9では、K=2,L=2,M=2のケースが例示されている。以下に、本実施例での適応係数ベクトル更新アルゴリズム12’を評価関数の定義から導き出す。先ず、評価関数JW を次の数43のように定義する。
【0114】
【数43】


【0115】上記数43の評価関数JW に勾配法を適用することにより、次の数44に示すように、K×M個の適応係数ベクトルWkm(n)の更新式が得られる。
【0116】
【数44】


【0117】したがって、直接観測することができない伝達特性Gの位相特性Φ(ω)を適正な所定の推定値Φハットで代替することにより、上記数44の適応係数ベクトル更新アルゴリズム12’は、次の数45で記述される。
【0118】
【数45】


【0119】一方、適応信号発生アルゴリズム11’は、M個の適応信号ym (n)について次の数46で記述される。
【0120】
【数46】


【0121】(実施例3の作用効果)本実施例では、適応制御系が多入力多出力(入力である誤差信号el (n)はL個、出力である適応信号ym (n)はM個)の制御系であり、かつ、抑制すべき周波数成分が複数(K個)の場合にも適用できる。その結果、複数の周波数成分を抑制する他入力多出力系でありながら、複数の誤差信号el (n)を極めて速やかに収束させ、周期性信号f(n)の特定成分の影響を抑制することができるという効果がある。
【0122】[実施例4]
(実施例4の構成およびアルゴリズム導出)本実施例は、図10に示すように、前述の実施例2を多入力多出力制御系に拡張したものである。すなわち、周期性信号f(n)は少なくとも一つの観測点に影響を及ぼし、各観測点では、L個の誤差信号el (n)(1≦l≦L、Lは自然数)が検知される。一方、各観測点への周期性信号f(n)の影響のうち特定成分を相殺して抑制する適応信号もM個ある。つまり、M個の適応信号ym (n)(1≦m≦M、Mは自然数)を逆位相で直接または間接的に各観測点に加えることによって、周期性信号f(n)の特定成分の各観測点への影響が能動的に除去される。
【0123】なお、図10では、K=1,L=2,M=2のケースが例示されている。さて、その各々の誤差信号el (n)からM個の適応信号ym (n)を生成し同誤差信号を抑制するための各アルゴリズムは、基本的に前述の実施例2をL入力M出力制御系に拡張しただけある。それゆえ、本手段の技術思想は実施例2のものを踏襲しており、適応信号発生アルゴリズム11’および適応係数ベクトル更新アルゴリズム12’は、それぞれ前述の実施例3の数46および数45と同一である。
【0124】ただし本実施例では、実施例3の上記各アルゴリズム11’,12’に加え、L入力M出力に対応した伝達位相特性同定アルゴリズム13”を備えている。同アルゴリズム13”は、以下のようにして導き出される。先ず、評価関数JΦを次の数47のように定義する。
【0125】
【数47】


【0126】相殺信号zlm(n)を推定値zlmハット(n)で代替し、勾配法を適用すると伝達位相特性同定アルゴリズム13”は次の数48のように求められる。
【0127】
【数48】


【0128】したがって、(K×L×M)個の同定位相特性Φklm ハット(n)は、次の数49で定式化される伝達位相特性同定アルゴリズム13”により、オンラインで逐次同定される。
【0129】
【数49】


【0130】以上の各アルゴリズム11’,12’,13”によって、再び図10に示すように、本実施例の周期性信号の適応制御方法は構成されている。ただし、前述の各評価関数Jw ,JΦの誤差信号e(n)の乗数を定めるNおよびQは、いずれも1以上の自然数であるが、NおよびQのうち一方が1である場合には、他方は2以上の自然数である。
【0131】(実施例4の作用効果)したがって本実施例によれば、多入力多出力制御系を形成しながら、伝達特性Gの位相特性Φの大幅な変動にも対処できるばかりではなく、各誤差信号el (n)をそれぞれ急速に所定範囲に収束可能な周期性信号の適応制御方法を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1としての適応制御方法を示すブロック線図
【図2】 実施例1の試験装置の構成を示す回路図
【図3】 実施例1の試験結果の時間応答を示すグラフ
【図4】 従来技術の試験結果の時間応答を比較のために示すグラフ
【図5】 実施例2としての適応制御方法を示すブロック線図
【図6】 実施例2の試験結果1の時間応答を示すグラフ
【図7】 実施例2の試験結果2の時間応答を示すグラフ
【図8】 実施例2の伝達位相特性の同定作用を示す組図(a)掃引試験による伝達特性Gの位相特性測定結果を示すグラフ(b)試験結果1での伝達特性Gの位相特性同定結果を示すグラフ(b)試験結果2での伝達特性Gの位相特性同定結果を示すグラフ
【図9】 実施例3としての適応制御方法を示すブロック線図
【図10】実施例4としての適応制御方法を示すブロック線図
【符号の説明】
1:適応制御アルゴリズム(DSPコントローラ)
11,11’:適応信号発生アルゴリズム
12,12’:適応係数ベクトル更新アルゴリズム
13,13”:伝達位相特性同定アルゴリズム
13’:推定伝達特性Gハット
21:周期性信号源(ファンクション・ジェネレータ)
23,23’:伝達特性G[A,Φ](ローパスフィルタ)
24,24’:観測点
f(n):周期性信号
e(n),el(n):誤差信号(1≦l≦L)
y(n),ym(n):適応信号(1≦m≦M)
z(n),zm(n):相殺信号
W(n):適応係数ベクトル
a(n),akm(n):適応信号の振幅
φ(n),φkm(n):適応信号の位相
A,Aklm:伝達特性のゲイン Φ,Φklm:伝達特性の位相特性
n:離散時間の時刻 T:更新周期、同定周期
ω,ωk:角振動数(1≦k≦K)
ω’,ωk':計測角振動数(周期性信号f(n)の角振動数ωの計測値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも一つの角振動数ωk (1≦k≦K’、K’は自然数)の信号成分を含み観測点に影響を及ぼす周期性信号f(n)に対し、該角振動数ωk のうちK個の計測値である測定角振動数ωk'(1≦k≦K≦K’、Kも自然数)の正弦波信号からなる適応信号y(n)を逆位相で直接または間接的に加えることによって、該周期性信号f(n)の特定成分の該観測点への影響を能動的に除去し、該観測点で検知される誤差信号e(n)を抑制する周期性信号の適応制御方法において、前記周期性信号f(n)と相関がある基準信号により、前記角振動数ωk を計測して前記計測角振動数ωk'を供給するとともに、該基準信号および該計測角振動数ωk'に基づいて、該周期性信号f(n)の前記特定成分と同期している基準入力信号xk (n)を生成する基準入力信号生成アルゴリズムと、離散時間における時刻nにおいて、前記計測角振動数ωk'を角振動数とする振幅ak および位相φk の正弦波信号の少なくとも一つが合成されてなり、該基準入力信号xk (n)に同期して前記適応信号y(n)を発生させる適応信号発生アルゴリズムと、該適応信号y(n)の振幅ak (n)および位相φk (n)を成分とする適応係数ベクトルW(n)を、前記誤差信号e(n)および該計測角振動数ωk'に基づいて該時刻nの経過毎に更新することにより、該周期性信号f(n)の該特定成分の角振動数ωk ならびに振幅および位相の変動と、該周期性信号f(n)から前記観測点までの伝達特性Gの変動とに対して、該適応係数ベクトルW(n)の上記各成分を適応的に調整する適応係数ベクトル更新アルゴリズムとを有し、更新された該適応係数ベクトルW(n)の上記各成分をもって、該適応信号y(n)の各正弦波信号の該振幅ak (n)および該位相φk (n)が更新されると共に、前記適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおいて、適応の度合いを評価する評価関数Jw として数1に示すように前記誤差信号e(n)の2N乗が用いられ、該評価関数Jw =e2N(n)が勾配法によって極小化されるように、前記適応係数ベクトルW(n)が数2の更新式に従って更新されるにあたり、前記Nは、2以上の自然数であることを特徴とする、周期性信号の適応制御方法。
【数1】 Jw = e2N(n)
【数2】


【請求項2】少なくとも一つの角振動数ωk (1≦k≦K’、K’は自然数)の信号成分を含み観測点に影響を及ぼす周期性信号f(n)に対し、該角振動数ωk のうちK個の計測値である測定角振動数ωk'(1≦k≦K≦K’、Kも自然数)の正弦波信号からなる適応信号y(n)を逆位相で直接または間接的に加えることによって、該周期性信号f(n)の特定成分の該観測点への影響を能動的に除去し、該観測点で検知される誤差信号e(n)を抑制する周期性信号の適応制御方法において、前記周期性信号f(n)と相関がある基準信号により、前記角振動数ωk を計測して前記計測角振動数ωk'を供給するとともに、該基準信号および該計測角振動数ωk'に基づいて、該周期性信号f(n)の前記特定成分と同期している基準入力信号xk (n)を生成する基準入力信号生成アルゴリズムと、離散時間における時刻nにおいて、前記計測角振動数ωk'を角振動数とする振幅ak および位相φk の正弦波信号の少なくとも一つが合成されてなり、該基準入力信号xk (n)に同期して前記適応信号y(n)を発生させる適応信号発生アルゴリズムと、該適応信号y(n)の振幅ak (n)および位相φk (n)を成分とする適応係数ベクトルW(n)を、前記誤差信号e(n)および該計測角振動数ωk'に基づいて該時刻nの経過毎に更新することにより、該周期性信号f(n)の該特定成分の角振動数ωk ならびに振幅および位相の変動と、該周期性信号f(n)から前記観測点までの伝達特性Gの変動とに対して、該適応係数ベクトルW(n)の上記各成分を適応的に調整する適応係数ベクトル更新アルゴリズムと、該伝達特性Gの各位相特性Φk の各推定値Φk ハット(n)を、該誤差信号e(n)および該計測角振動数ωk'に基づいて該時刻nの経過毎に更新し、該伝達特性Gの位相特性Φの変動に対して適応的に調整する伝達位相特性同定アルゴリズムとを有し、更新された該適応係数ベクトルW(n)の上記各成分をもって、該適応信号y(n)の各正弦波信号の該振幅ak (n)および該位相φk (n)が更新されると共に、前記適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおいて、適応の度合いを評価する評価関数Jwとして数3に示すように前記誤差信号e(n)の2N乗が用いられ、該評価関数Jw =e2N(n)が勾配法によって極小化されるように、前記適応係数ベクトルW(n)が数4の更新式に従って更新され、前記伝達位相特性同定アルゴリズムにおいて、前記各位相特性推定値Φk ハット(n)の同定の度合いを評価する評価関数JΦとして数5に示すように前記誤差信号e(n)の2Q乗が用いられ、該評価関数Jw =e2Q(n)が勾配法によって極小化されるように、各前記位相特性推定値Φk ハット(n)が数6の更新式に従って更新されるにあたり、前記Nは1以上の自然数であり、前記Qも1以上の自然数であって、該Nおよび該Qのうち少なくとも一方は2以上であることを特徴とする、周期性信号の適応制御方法。
【数3】 Jw = e2N(n)
【数4】


【数5】 JΦ = e2Q(n)
【数6】


【請求項3】少なくとも一つの角振動数ωk (1≦k≦K’、K’は自然数)の信号成分を含み、少なくとも一つの観測点に影響を及ぼす周期性信号f(n)に対し、該角振動数ωk のうちK個の計測値である測定角振動数ωk'(1≦k≦K≦K’、Kも自然数)の正弦波信号からなるM個の適応信号ym (n)(1≦m≦M、Mは自然数)を逆位相で直接または間接的に加えることによって、該周期性信号f(n)の特定成分の各該観測点への影響を能動的に除去し、各該観測点で検知されるL個の誤差信号el (n)(1≦l≦L、Lは自然数)を抑制する周期性信号の適応制御方法において、前記周期性信号f(n)と相関がある基準信号により、前記角振動数ωk を計測して前記計測角振動数ωk'を供給するとともに、該基準信号および該計測角振動数ωk'に基づいて、該周期性信号f(n)の前記特定成分と同期している基準入力信号xk (n)を生成する基準入力信号生成アルゴリズムと、離散時間における時刻nにおいて、前記計測角振動数ωk'を角振動数とする振幅ak および位相φk の正弦波信号の少なくとも一つが合成されてなり、該基準入力信号xk (n)に同期して各前記適応信号ym (n)を発生させる適応信号発生アルゴリズムと、各該適応信号ym (n)の振幅akm(n)および位相φkm(n)を成分とする各適応係数ベクトルWkm(n)=[akm(n),φkm(n)]T を、各前記誤差信号el (n)および各該計測角振動数ωk'に基づいて該時刻nの経過毎に更新することにより、該周期性信号f(n)の該特定成分の角振動数ωk ならびに振幅および位相の変動と、該周期性信号f(n)から各前記観測点までの伝達特性Gの変動とに対して、各該適応係数ベクトルWkm(n)の上記各成分を適応的に調整する適応係数ベクトル更新アルゴリズムとを有し、更新された各該適応係数ベクトルWkm(n)の上記各成分をもって、各該適応信号ym (n)の各正弦波信号の該振幅akm(n)および該位相φkm(n)が更新されると共に、前記適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおいて、適応の度合いを評価する評価関数Jw として数7に示すように前記誤差信号el (n)の2N乗の総和が用いられ、該評価関数Jw =Σel 2N(n)が勾配法によって極小化されるように、前記適応係数ベクトルWkm(n)が数8の更新式に従って更新されるにあたり、前記Nは、2以上の自然数であることを特徴とする、周期性信号の適応制御方法。
【数7】


【数8】


【請求項4】少なくとも一つの角振動数ωk (1≦k≦K’、K’は自然数)の信号成分を含み、少なくとも一つの観測点に影響を及ぼす周期性信号f(n)に対し、該角振動数ωk のうちK個の計測値である測定角振動数ωk'(1≦k≦K≦K’、Kも自然数)の正弦波信号からなるM個の適応信号ym (n)(1≦m≦M、Mは自然数)を逆位相で直接または間接的に加えることによって、該周期性信号f(n)の特定成分の各該観測点への影響を能動的に除去し、各該観測点で検知されるL個の誤差信号el (n)(1≦l≦L、Lは自然数)を抑制する周期性信号の適応制御方法において、前記周期性信号f(n)と相関がある基準信号により、前記角振動数ωk を計測して前記計測角振動数ωk'を供給するとともに、該基準信号および該計測角振動数ωk'に基づいて、該周期性信号f(n)の前記特定成分と同期している基準入力信号xk (n)を生成する基準入力信号生成アルゴリズムと、離散時間における時刻nにおいて、前記計測角振動数ωk'を角振動数とする振幅ak および位相φk の正弦波信号の少なくとも一つが合成されてなり、該基準入力信号xk (n)に同期して各前記適応信号ym (n)を発生させる適応信号発生アルゴリズムと、各該適応信号ym (n)の振幅amk(n)および位相φmk(n)を成分とする各適応係数ベクトルWkm(n)=[akm(n),φkm(n)]T を、前記誤差信号el (n)および該計測角振動数ωk'に基づいて該時刻nの経過毎に更新することにより、該周期性信号f(n)の該特定成分の角振動数ωk ならびに振幅および位相の変動と、該周期性信号f(n)から各前記観測点までの各伝達特性Gの変動とに対して、各該適応係数ベクトルWkm(n)の上記各成分を適応的に調整する適応係数ベクトル更新アルゴリズムと、該伝達特性Gの位相特性Φの各推定値Φklm ハット(n)を、該誤差信号el(n)および該計測角振動数ωk'に基づいて該時刻nの経過毎に更新し、該伝達特性Gの位相特性Φの変動に対して適応的に調整する伝達位相特性同定アルゴリズムとを有し、更新された各該適応係数ベクトルWkm(n)の上記各成分をもって、各該適応信号ym (n)の各正弦波信号の該振幅akm(n)および該位相φkm(n)が更新されると共に、前記適応係数ベクトル更新アルゴリズムにおいて、適応の度合いを評価する評価関数Jw として数9に示すように前記誤差信号el (n)の2N乗が用いられ、該評価関数Jw =Σel 2N(n)が勾配法によって極小化されるように、前記適応係数ベクトルWkm(n)が数10の更新式に従って更新され、前記伝達位相特性同定アルゴリズムにおいて、前記各位相特性推定値Φklm ハット(n)の同定の度合いを評価する評価関数JΦとして数11に示すように前記誤差信号el (n)の2Q乗が用いられ、該評価関数JΦ=el 2Q(n)が勾配法によって極小化されるように、各前記位相特性推定値Φklm ハット(n)が数12の更新式に従って更新されるにあたり、前記Nは1以上の自然数であり、前記Qも1以上の自然数であって、該Nおよび該Qのうち少なくとも一方は2以上であることを特徴とする、周期性信号の適応制御方法。
【数9】


【数10】


【数11】


【数12】


【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate


【図10】
image rotate


【特許番号】特許第3389981号(P3389981)
【登録日】平成15年1月17日(2003.1.17)
【発行日】平成15年3月24日(2003.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−70209
【出願日】平成9年3月24日(1997.3.24)
【公開番号】特開平10−268905
【公開日】平成10年10月9日(1998.10.9)
【審査請求日】平成13年12月18日(2001.12.18)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【参考文献】
【文献】特開 平7−334165(JP,A)
【文献】特開 平7−133842(JP,A)
【文献】特開 平8−44377(JP,A)