説明

呼吸インピーダンス測定装置及びその測定方法、呼吸インピーダンス表示方法

【課題】ノイズ除去を行って極めて高精度で呼吸インピーダンスの連続測定を可能とする。
【解決手段】ラウドスピーカ21により口腔内に複数の異なる周波数から間引きして残った周波数成分のみを有するように周波数間引きされたオシレーション波による空気振動圧を加え、口腔内の圧力を検出し、呼吸の流量を検出し、この得られた信号をフーリエ変換手段32にてフーリエ変換してスペクトルを得て、このフーリエ変換結果について間引きした周波数成分対応のスペクトルにより雑音として寄与する呼吸高周波成分を抽出手段33にて求め、間引きにより残った周波数成分対応のスペクトルからこの呼吸高周波成分を減算してオシレーション波成分を抽出し、この抽出結果について周波数毎に圧力成分を流量成分で除算する演算を演算手段34において行って呼吸インピーダンスを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人などの呼吸インピーダンスを連続測定することが可能な呼吸インピーダンス測定装置及びその測定方法、更に呼吸インピーダンス表示方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置は、呼吸器系に正弦波空気振動圧を負荷するための正弦波加圧装置と、呼吸器系の気流速度を検出するための気流速度検出器と、呼吸器系の気圧を検出するための気圧検出器と上記気流速度検出器および気圧検出器で検出した気流速度および気圧から呼吸抵抗を算出する抵抗演算部とを有したものが知られている。
【0003】
上記従来の装置は、正弦波加圧装置が負荷する正弦波空気振動圧の信号を基準信号に変換するための基準信号変換器と、この基準信号変換器からの正弦波空気振動圧の基準信号により気流速度の信号を処理して上記基準信号と同じ周波数の成分のみを取り出すベクトル演算器とが設けられ、このベクトル演算器で得られた気流速度の信号と上記気圧検出器で検出した気圧の信号とから抵抗演算部で呼吸抵抗を算出するように構成したものである。
【0004】
この装置は上記の通り、ベクトル演算器で得られた気流速度の信号と上記気圧検出器で検出した気圧の信号とから抵抗演算部で呼吸抵抗を測定するようにしているので、換気量が少なくまた換気数が多い呼吸であってもノイズを除去することができ、精度の高い呼吸抵抗の測定を行うことができる利点を有するものである(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記従来の装置によってもノイズ除去は十分とは言えず、更に高性能な呼吸インピーダンス測定装置の実現が求められている。
【特許文献1】特開平03−39140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような呼吸インピーダンス測定における現状に鑑みてなされたもので、その目的は、1度に複数の周波数に対するインピーダンスを連続測定可能とする呼吸インピーダンス測定装置及びその測定方法を提供することである。また、ノイズ除去を行い、極めて高精度で呼吸インピーダンス測定が可能な呼吸インピーダンス測定装置及びその測定方法、呼吸インピーダンス表示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定装置は、腔内に空気振動圧を加えるための加圧手段と、この加圧手段を駆動する信号であって、複数の異なる周波数から間引きして残った周波数成分のみを有するように周波数間引きされた信号であるオシレーション波による空気振動圧を生じさせる制御手段と、口腔内の圧力を検出する圧力検出手段と、呼吸による流量を検出する流量検出手段と、前記加圧手段による加圧状態下において前記圧力検出手段と前記流量検出手段により得られる信号を得て、この得られた信号をフーリエ変換してスペクトルを得るフーリエ変換手段と、このフーリエ変換手段による変換結果について間引きした周波数成分対応のスペクトルにより呼吸高周波成分を求め、間引きにより残った周波数成分対応のスペクトルから減算してオシレーション波成分を取り出す抽出手段と、この抽出手段による抽出結果について周波数毎に圧力成分を流量成分で除算する演算手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定装置では、制御手段は周波数間引きとして、周期Tのパルス波を与えることにより、n/T(n:整数T:実数)の周波数成分のみを有するオシレーション波による空気振動圧を生じさせることを特徴とする。このような周波数間引きを、<周波数間引き1>とする。<周波数間引き1>では、Tを決めると、n/T(n:整数)以外の周波数成分を間引きして残った複数の周波数成分とすることができる。
【0009】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定装置では、制御手段は、異なる複数周波数の正弦波を複数合成することにより、周波数間引きされたオシレーション波を得て当該シレーション波による空気振動圧を生じさせること特徴とする。このような周波数間引きを、<周波数間引き2>とする。<周波数間引き2>では、連続する整数から所望の整数を間引きして残った複数の整数の周波数成分のみを有するようにすることも可能であるため、奇数の周波数成分を間引きして残った複数の整数の周波数成分とすることができる。
【0010】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定装置では、制御手段は、加圧手段の入力信号と出力信号及び前記加圧手段の伝達関数を用いた逆演算に基づき所望の圧波形のオシレーション波が出力信号となるように前記加圧手段へ入力信号を与える信号入力手段を具備することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定装置では、信号入力手段は、逆演算により得られた信号の各周波数成分に一定の値を加えるか、前記出力信号のオンセット部分にインパルスを加えた信号を逆演算して、得られた信号を前記加圧手段へ入力信号を与えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定方法は、口腔内に空気振動圧を加えるための加圧ステップと、この加圧ステップを制御し、複数の異なる周波数から間引きして残った周波数成分のみを有するように周波数間引きされた信号であるオシレーション波による空気振動圧を生じさせる制御ステップと、口腔内の圧力を検出する圧力検出ステップと、呼吸による流量を検出する流量検出ステップと、前記加圧ステップによる加圧状態下において前記圧力検出ステップと前記流量検出ステップにより得られる信号を得て、この得られた信号をフーリエ変換して得られるスペクトルを得るフーリエ変換ステップと、このフーリエ変換ステップによる変換結果について間引きした周波数成分対応のスペクトルにより呼吸高周波成分を求め、間引きにより残った周波数成分対応のスペクトルからこの呼吸高周波成分を減算してオシレーション波成分を取り出す抽出ステップと、この抽出ステップによる抽出結果について周波数毎に圧力成分を流量成分で除算する演算ステップとを具備し、前記各ステップをコンピュータ処理・制御において実行することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定方法では、制御ステップは周波数間引きとして、周期Tのパルス波を与えることにより、n/T(n:整数T:実数)の周波数成分のみを有するオシレーション波による空気振動圧を生じさせることを特徴とする。このような周波数間引きは、<周波数間引き1>である。
【0014】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定方法では、制御ステップは、異なる複数周波数の正弦波を複数合成することにより、周波数間引きされたオシレーション波を得て当該シレーション波による空気振動圧を生じさせること特徴とする。このような周波数間引きは、<周波数間引き2>である。
【0015】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定方法では、制御ステップは、加圧ステップの入力信号と出力信号及び前記加圧ステップの伝達関数を用いた逆演算に基づき所望の圧波形のオシレーション波が出力信号となるように前記加圧ステップへ入力信号を与える信号入力ステップを具備することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る呼吸インピーダンス測定方法では、信号入力ステップは、逆演算により得られた信号の各周波数成分に一定の値を加えるか、前記出力信号のオンセット部分にインパルスを加えた信号を逆演算して、得られた信号を前記加圧ステップへ与えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る呼吸インピーダンス表示方法は、呼吸インピーダンス測定装置により測定された呼吸インピーダンスに基づき表示装置に表示を行う呼吸インピーダンス表示方法において、インピーダンス軸と周波数軸と時間軸とにより三次元に値をとって表示を行い、間引かれた周波数について補間処理を行って得られる呼吸インピーダンスを前記三次元に値をとって表示する場合に含めた画像を作成して表示を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る呼吸インピーダンス表示方法は、時間軸方向の長さを、呼気と吸気との組を少なくとも二組繰り返す長さとして、画像を作成して表示を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る呼吸インピーダンス表示方法は、インピーダンス値の大小を、色の変化または濃淡変化により表現した画像を作成して表示を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、口腔内に周波数間引きされたオシレーション波による空気振動圧を加え、口腔内の圧力を検出し、呼吸の流量を検出し、この得られた信号をフーリエ変換してスペクトルを得て、このフーリエ変換結果について間引きした周波数成分対応のスペクトルにより雑音として寄与する呼吸高周波成分を求め、間引きにより残った周波数成分対応のスペクトルからこの呼吸高周波成分を減算してオシレーション波成分を抽出し、この抽出結果について周波数毎に圧力成分を流量成分で除算する演算を行って呼吸インピーダンスを得るので、呼吸高周波成分を確実に除去したオシレーション波成分を用いて呼吸インピーダンスを得ることができ、極めて高精度で呼吸インピーダンス測定が可能となる。
【0021】
本発明によれば、周期Tのパルスを与えることにより、n/T(n:整数T:実数)の周波数成分のみを有するオシレーション波による空気振動圧を生じさせるので、間引いた周波数成分対応のスペクトルにより呼吸高周波成分を求め、間引きにより残った周波数成分対応のスペクトルからこの呼吸高周波成分を減算して呼吸高周波成分を確実に除去し、極めて高精度で呼吸インピーダンス測定が可能となる。
【0022】
本発明によれば、異なる複数周波数の正弦波を複数合成することにより、周波数成分間引きされたオシレーション波による空気振動圧を生じさせるので、間引きした周波数成分対応のスペクトルにより呼吸高周波成分のみが含まれ、呼吸高周波成分を確実に除去し、極めて高精度で呼吸インピーダンス測定が可能となる。
【0023】
本発明によれば、加圧の入力信号と出力信号及び加圧実行部分の伝達関数を用いた逆演算に基づき所望波形のオシレーション波が出力信号となるように加圧実行部分へ入力信号を与えるので、所望の圧波形のオシレーション波を用いて測定を行うことが可能となり、極めて高精度で呼吸インピーダンス測定が可能となる。
【0024】
本発明によれば、逆演算により得られた信号の各周波数成分に一定の値を加えるか、前記出力信号のオンセット部分にインパルスを加えた信号を逆演算して、得られた信号を入力信号とするので、逆演算の結果の信号波形を安定させ、これによって所望波形のオシレーション波を用いて測定を行うことが可能となり、極めて高精度で呼吸インピーダンス測定が可能となる。
【0025】
本発明に係る呼吸インピーダンス表示方法によれば、呼吸インピーダンス測定装置により測定された呼吸インピーダンスに基づき表示装置に表示を行う呼吸インピーダンス表示方法において、インピーダンス軸と周波数軸と時間軸とにより三次元に値をとって表示を行い、間引かれた周波数について補間処理を行って得られる呼吸インピーダンスを前記三次元に値をとって表示する場合に含めた画像を作成して表示を行うので、補間処理の結果についても画像化して表示するため、インピーダンス値の変化がきめ細かく滑らかに表示され、周波数全体についてインピーダンスの把握を適切に行うことが可能となる。
【0026】
本発明に係る呼吸インピーダンス表示方法は、時間軸方向の長さを、呼気と吸気との組を少なくとも二組繰り返す長さとして、画像を作成して表示を行うので、突発的な変化ではなくある程度のスパンをもった観測が可能となり、適切な観測が確保される。
【0027】
本発明に係る呼吸インピーダンス表示方法は、インピーダンス値の大小を、色の変化または濃淡変化により表現した画像を作成して表示を行うので、インピーダンス値の大小を一目瞭然に識別することが容易に可能となり、呼吸インピーダンスによる各種の研究、検査に極めて役立つことが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明に係る呼吸インピーダンス測定装置及びその測定方法の実施例を説明する。図1に、本発明に係る呼吸インピーダンス測定装置の実施例構成図を示す。この呼吸インピーダンス測定装置は、人の口腔に先端が取り付けられ、呼吸流が流れるチューブ11と、チューブ11に取り付けられ口腔内の圧力を検出する圧力検出手段を構成する圧力センサ12と、圧力センサ12と同位置において呼吸による流量を検出する流量検出手段を構成する流量センサ13と、口腔内に空気振動圧を加えるための加圧手段を構成するラウドスピーカ21と、コンピュータ30とを主な構成要素とする。
【0029】
圧力センサ12の出力信号はアンプ14により増幅され、A/D変換器15によりディジタル化されてコンピュータ30に取り込まれる。また、流量センサ13の出力信号はアンプ16により増幅され、A/D変換器17によりディジタル化されてコンピュータ30に取り込まれる。
【0030】
コンピュータ30には、制御手段31、フーリエ変換手段32、抽出手段33、演算手段34が備えられている。また、制御手段31は、信号入力手段35を備えている。制御手段31は、加圧手段であるラウドスピーカ21を駆動する信号を出力し、奇数周波数成分または偶数周波数成分のみを有するオシレーション波による空気振動圧を生じさせるものである。制御手段31の出力はD/A変換器22によりディジタル化されてドライバ23へ送られ、ドライバ23がラウドスピーカ21を駆動して、口腔内に空気振動圧が加えられる。
【0031】
上記において、制御手段31は、T秒周期のパルス波与えることにより、n/T(n:整数、T:実数)の周波数成分を有するオシレーション波による空気振動圧を生じさせるものである(<周波数間引き1>)。パルス波としては様々な波形が考えられるが例えば三角パルスは、図2(a)に示すようにベースレベルの時間幅が25ms程度のものである。この三角パルスを例えばT=0.5秒周期で出力すると2,4,6,8Hz,・・・のスペクトルを有する三角パルス波を与えることができる(図2(b))。また、上記の三角パルスを例えばT=0.333秒周期で出力すると3,6,9,12Hz,・・・のスペクトルを有する三角パルス波を与えることができる。
【0032】
また、他の例としてのハニングパルスは、図3に示すようにベースレベルの時間幅が25ms程度のものである。三角パルス波の場合と同様にして作成され、出力される。
【0033】
また、制御手段31は、異なる複数周波数の正弦波を複数合成することにより、合成により得られる波を与えることにより、所望の実数周波数成分のみを有するオシレーション波による空気振動圧を生じさせる。(<周波数間引き2>)この場合には、雑音波であり図4により示される信号が出力される。ここで、例えば2、4、6、・・・、34Hzのように偶数周波数を有する正弦波を合成することにより偶数周波数成分のみを有する雑音波を得る。また、例えば1、3、5、・・・、33Hzのように奇数周波数を有する正弦波を合成することにより奇数周波数成分のみを有する雑音波を得る。雑音は各正弦波の位相をランダム化することによって実現される。
【0034】
制御手段31に備えられている信号入力手段は、ラウドスピーカ21の入力信号と出力信号及びラウドスピーカ21の伝達関数を用いた逆演算に基づき所望波形のオシレーション波が出力信号となるようにラウドスピーカ21へ入力信号を与えるものである。
【0035】
具体的には、例えば三角パルスを用いて説明すると、図5(a)に示されるような三角パルスを入力してラウドスピーカ21を駆動した場合には、ラウドスピーカ21の出力信号は、図5(b)に示されるようなゼロレベルの上下に極大点を有する信号となる。そこで、図5(c)に示されるようなモデルを考える。ラウドスピーカ21の伝達関数をH(ω)、入力信号をX(ω)、出力信号をY(ω)とすると、以下のようになるので、逆変換によりx(t)を求めて駆動信号とする。
【0036】
【数1】

【0037】
求めたY(ω)は、高い周波数までの成分を持たないので、(式1)から得られるx(t)は不安定となる。このため(式2)のように分母に定数A0を加えたものをフーリエ逆変換してx(t)を求めて駆動信号とする。これはまた、図5(b)に示されるようなラウドスピーカ21の出力信号に対し、図5(d)に示されるようにオンセット部分にインパルスを加えた信号を逆演算して図5(e)に示される信号x(t)を得ることも出来る。
【0038】
以上の説明では、三角パルスの場合を説明したが、ハニングパルスについても同様にして逆演算により信号を得て、この信号によりラウドスピーカ21を駆動することができる。更に、正弦波についても同様に逆演算により信号を得ることが可能であり、この信号合成により雑音波を得ることも可能である。
【0039】
パルス波、雑音波さらには、単一周波数を有する正弦波のいずれを用いるかに関しては、図示しないキーボードなどによりコンピュータ30へ指示を与えることができ、これに応じて制御手段31が選択した信号波形を出力する。
【0040】
コンピュータ30に備えられているフーリエ変換手段32、抽出手段33、演算手段34について説明する。フーリエ変換手段32は、ラウドスピーカ21が上記のようにして駆動された口腔内の加圧状態下において、圧力センサ12と流量センサ13により信号を得て、この得られた信号をフーリエ変換してスペクトルを得るものである。フーリエ変換手段32の前段には、CICフィルタ36が設けられ、圧力センサ12と流量センサ13により得られる呼吸信号とオシレーション成分との分離が行われる。また、フーリエ変換手段32は処理の前に必要であれば、ハニング窓により信号の取り出しを行う。
【0041】
抽出手段33は、フーリエ変換手段32による変換結果について間引きした周波数成分対応のスペクトルにより呼吸高周波成分を求め、間引きにより残った周波数成分対応のスペクトルから減算してオシレーション波成分を取り出すものである。<周波数間引き1>で説明すると、フーリエ変換手段32により得られたスペクトルについてn/T(n:整数)の周波数成分を除く他の周波数対応のスペクトルにより呼吸高周波成分を求め、間引きにより残った周波数成分(n/Tの周波数成分)対応のスペクトルから減算してオシレーション波成分を取り出すものである。
【0042】
抽出手段33は、<周波数間引き2>で説明すると、フーリエ変換手段32により得られたスペクトルについて上記ラウドスピーカ21に与えた周波数成分(ここでは、偶数周波数成分または奇数周波数成分)とは異なる周波数成分(奇数周波数成分または偶数周波数成分)対応のスペクトルにより呼吸高周波成分を求め、上記ラウドスピーカ21に与えた周波数成分対応のスペクトルから減算してオシレーション波成分を取り出すものである。
【0043】
演算手段34は、抽出手段33による抽出結果について周波数毎に圧力成分を流量成分で除算することにより呼吸インピーダンスを算出するものである。即ち、呼吸インピーダンスをZ(ω)、口腔内圧力のオシレーション波成分をP(ω)、流量のオシレーション波成分をF(ω)とし、呼吸インピーダンスをZ(ω)が抵抗成分R(ω)とリアクタンス成分X(ω)からなるものとすると、次の式により呼吸インピーダンスをZ(ω)が求められる。
【0044】
【数2】

【0045】
演算手段34により求められた呼吸インピーダンスをZ(ω)は、コンピュータ30に接続されたLCDなどの表示部40用の表示信号とされて表示部40へ出力され、表示がなされる。
【0046】
以上の通りに構成された呼吸インピーダンス測定装置による動作を説明する。この例では、三角パルス波が選択されて測定動作が開始される。制御手段31及び信号入力手段35により、逆演算された波形によりスピーカ21がT秒周期で(例えば0.5秒間隔で)駆動される。
【0047】
このとき、圧力センサ12と流量センサ13により得られる信号の波形は、いずれも図6(a)に示されるように、呼吸信号に三角パルス波が重畳した波形となっており、これがCICフィルタ36を通過させられて呼吸波とオシレーション波(三角パルス波)の分離が行われる。図7にCICフィルタ36の周波数特性を示す。CICフィルタ36により位相の変化なく、分離を行うことができる。但し呼吸信号には高周波成分(オシレーション信号と同一の周波数帯)が含まれるために完全には分離できない。
【0048】
CICフィルタ36による分離の後には図6(b)に示されるように、オシレーション波について、二つの三角パルスの中間点から1秒間の区間を取り出し、信号処理に用いる。次に図8に示されるように、T秒の区間を取り出した各パルスにハニング窓による処理を行い、パルスの取出しを行う。
【0049】
ハニング窓による処理に続き、フーリエ変換手段32によるフーリエ変換が行われてスペクトルが得られる。このとき、得られるスペクトルについては、例えばパルスが0.5秒周期で駆動された場合、図9に示されるように、間引きした周波数成分対応の1、3、5、・・・の奇数周波数のスペクトルにはオシレーション波成分が含まれない呼吸信号スペクトルとなっている。また、間引きにより残った周波数成分対応の2、4、6、・・・の偶数周波数のスペクトルにはオシレーション波成分と呼吸信号成分が含まれている。
【0050】
そこで、抽出手段33では、図10に示すように上記偶数周波数のスペクトルから、奇数周波数のスペクトルより推定された雑音成分を減算し、オシレーション波成分を取り出す。
【0051】
上記抽出手段33による処理によって、従来、呼吸信号に含まれていないとされていた3Hz以上の呼吸高周波信号が除去され、高精度な呼吸インピーダンス測定が可能となっている。次に演算手段34は、抽出手段33による抽出結果について周波数毎に式(2)により示した通り、圧力成分を流量成分で除算することにより呼吸インピーダンスを算出する。算出された呼吸インピーダンスの表示信号が作成され、表示部40へ出力され、表示がなされる。
【0052】
このようにして測定され表示された呼吸インピーダンスを図11に示す。また、図12に呼吸高周波信号が除去を行わない場合の呼吸インピーダンスを示す。これらの図では、横軸は1目盛りが1Hzの周波数軸であり、縦軸がインピーダンスである。斜めの軸が時間軸であり、図の上側に純抵抗分を表示し、図の下側にリアクタンス分を表示している。ここでは0.5秒毎に三角パスル波を与え続けることにより、新たなインピーダンスの表示が次々に現れ更新されることによりインピーダンスの連続測定が行われる。この図11と図12から明らかな通り、ノイズが除去され高精度な呼吸インピーダンス測定が可能となっていることが分かる。なお、上記抽出手段33による減算処理から明らかな通り、減算により残る成分は、間引きにより残った周波数成分対応の2、4、6、・・・の偶数周波数の成分であり、間引きした周波数成分対応の1、3、5、・・・の奇数周波数の成分は存在しない。そこで、演算手段34が補間処理を行い、存在しない成分に関しても呼吸インピーダンス測定が可能となっている。
【0053】
次に、三角パルス波に代えて、雑音波が選択されて測定動作が開始された場合(<周波数間引き2>)について説明する。制御手段31及び信号入力手段35により、合成された波形による偶数周波数成分のみの雑音波によりラウドスピーカ21が駆動される。このとき、圧力センサ12と流量センサ13により得られる信号の波形は、いずれも図13(a)に示されるように、呼吸信号に雑音波が重畳した波形となっており、これがCICフィルタ36を通過させられて呼吸波とオシレーション波(雑音波)の分離が行われる(図13(b))。
【0054】
CICフィルタ36による分離の後には図14(a)に示されるように、オシレーション波について、1秒間の区間を取り出し、信号処理に用いる。即ち、図14(b)に示されるように、1秒間の区間を取り出した雑音波に対し、フーリエ変換手段32によるフーリエ変換を行ってスペクトルを得る。
【0055】
このフーリエ変換によって得られるスペクトルについては、制御手段31と信号入力手段35によって合成された偶数周波数成分のみを有する雑音波によりラウドスピーカ21の駆動を行っているので、間引きした周波数成分対応の1、3、5、・・・の奇数周波数のスペクトルにはオシレーション波成分が含まれない呼吸信号スペクトルとなっている。また、間引きにより残った周波数成分対応の2、4、6、・・・の偶数周波数のスペクトルにはオシレーション波成分と呼吸信号成分が含まれている。
【0056】
そこで、抽出手段33では、偶数周波数のスペクトルから奇数周波数のスペクトルの引き算を行い、オシレーション波成分を取り出す。これ以降の処理は、三角パルス波を用いた場合の処理(図9と図10及び式(2)による演算)と同様であって、算出された呼吸インピーダンスの表示信号が作成され、表示部40へ出力され、表示がなされる。このように雑音波を用いた場合にも、ノイズが除去され高精度な呼吸インピーダンス測定が可能であると共に、雑音波を連続して与えることにより、新たなインピーダンスの表示が次々に現れ更新されることによりインピーダンスの連続測定が行われる。雑音波を用いた場合にも、図11に示したと同様にノイズ除去された表示がなされ、インピーダンスの連続測定が可能である。
【0057】
本発明の実施例では、演算手段34が表示装置に表示を行うための画像を作成して、表示を行うことにより、呼吸インピーダンス表示方法が実現される。即ち、演算手段34は、自らが算出した呼吸インピーダンスについて、例えば、各周波数を画面の奥側から手前側に値をとるように座標を定め、各周波数毎に抵抗成分Rrsを取り出し、これを表示装置の画面における高さ方向にプロットし、測定時間を画面の右方向として、図15に示すような三次元画像を作成して表示装置に表示する。即ち、インピーダンス軸と周波数軸と時間軸とにより三次元に値をとって表示を行うものである。
【0058】
上記の画像作成に際しては、間引かれた周波数について補間処理を行って得られる呼吸インピーダンスを上記三次元に値をとって表示する場合に含めた画像を作成して表示を行う。例えば、奇数の周波数を間引いた場合には、間引いた奇数に隣接する偶数の周波数に対応する2つのインピーダンス値が求まっているから、この2つのインピーダンス値の平均を求め、これを間引いた周波数対応のインピーダンス値とする。このようにして、補間処理の結果についても画像化して表示するため、インピーダンス値の変化がきめ細かく滑らかに表示され、周波数全体についてインピーダンスの把握を適切に行うことが可能となる。
【0059】
サンプリング時間は0.5秒であり、図15(b)に示すように、時間軸方向の長さを、呼気と吸気との組を少なくとも二組繰り返す長さとして、画像を作成して表示を行う。図15の例では、呼気と吸気との組を三組繰り返す長さとしている。
【0060】
更に、インピーダンス値の大小を、色の変化または濃淡変化により表現した画像を作成して表示を行う。図15では、抵抗値Rrsについて、図15の下側に示すカラースケールによる色付けを行い、画像を作成して表示している。
【0061】
以上の各処理により得られる画像を表示するので、被検者は呼気と吸気とを繰り返しているだけで、自動的に図15に示されるような画像が時系列に作成されて表示され、しかも呼吸インピーダンスの変化を間引いた周波数対応の部分を含めて、色の変化または濃淡変化により表現した画像として目視観察することができる。
【0062】
このため、図15(a)に示す66歳の健常者の呼吸インピーダンス変化と、図15(b)に示す65歳のCOPD(慢性閉塞性呼吸疾患)患者の呼吸インピーダンス変化とに明らかな如く、視覚的に非健常者と健常者を一目瞭然に識別することが容易に可能となり、呼吸インピーダンスによる各種の研究、検査に極めて役立つことが期待される。なお、図15(b)の%FEV1は、努力肺活量の何%を1秒に呼出することができたかを示す値である。従って、この例では24.4%を1秒に呼出することができたかを示している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置の構成図。
【図2】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置に用いるオシレーション波である三角パルス波の一例を示す図。
【図3】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置に用いるオシレーション波であるハニングパルス波の一例を示す図。
【図4】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置に用いるオシレーション波である雑音波の一例を示す図。
【図5】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置に用いるオシレーション波を逆演算により生成する過程を説明するための図。
【図6】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置によりオシレーション波である三角パルス波を用いて呼吸インピーダンスを求める過程を示す図。
【図7】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置に採用されているフィルタの周波数特性を示す図。
【図8】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置によりオシレーション波である三角パルス波を用いて呼吸インピーダンスを求める過程を示す図。
【図9】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置によりオシレーション波である三角パルス波を用いて呼吸インピーダンスを求める過程を示す図。
【図10】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置によりオシレーション波である三角パルス波を用いて呼吸インピーダンスを求める過程を示す図。
【図11】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置により得られた呼吸インピーダンスを示す図。
【図12】本発明の手法を用いない呼吸インピーダンス測定装置により得られた呼吸インピーダンスを示す図。
【図13】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置によりオシレーション波である雑音波を用いて呼吸インピーダンスを求める過程を示す図。
【図14】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置によりオシレーション波である雑音波を用いて呼吸インピーダンスを求める過程を示す図。
【図15】本発明の実施例に係る呼吸インピーダンス測定装置を用いて健常者と日健常者について呼吸インピーダンスを表示した一例を示す図。
【符号の説明】
【0064】
11 チューブ
12 圧力センサ
13 流量センサ
21 ラウドスピーカ
30 コンピュータ
31 制御手段
32 フーリエ変換手段
33 抽出手段
34 演算手段
35 信号入力手段
36 CICフィルタ
40 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内に空気振動圧を加えるための加圧手段と、
この加圧手段を駆動する信号であって、複数の異なる周波数から間引きして残った周波数成分のみを有するように周波数間引きされた信号であるオシレーション波による空気振動圧を生じさせる制御手段と、
口腔内の圧力を検出する圧力検出手段と、
呼吸による流量を検出する流量検出手段と、
前記加圧手段による加圧状態下において前記圧力検出手段と前記流量検出手段により得られる信号を得て、この得られた信号をフーリエ変換してスペクトルを得るフーリエ変換手段と、
このフーリエ変換手段による変換結果について間引きした周波数成分対応のスペクトルにより呼吸高周波成分を求め、間引きにより残った周波数成分対応のスペクトルから減算してオシレーション波成分を取り出す抽出手段と、
この抽出手段による抽出結果について周波数毎に圧力成分を流量成分で除算する演算手段と
を具備することを特徴とする呼吸インピーダンス測定装置。
【請求項2】
制御手段は周波数間引きとして、周期Tのパルス波を与えることにより、n/T(n:整数、T:実数)の周波数成分のみを有するオシレーション波による空気振動圧を生じさせることを特徴とする請求項1に記載の呼吸インピーダンス測定装置。
【請求項3】
制御手段は、異なる複数周波数の正弦波を複数合成することにより、周波数間引きされたオシレーション波を得て当該シレーション波による空気振動圧を生じさせること特徴とする請求項1に記載の呼吸インピーダンス測定装置。
【請求項4】
制御手段は、加圧手段の入力信号と出力信号及び前記加圧手段の伝達関数を用いた逆演算に基づき所望の圧波形のオシレーション波が出力信号となるように前記加圧手段へ入力信号を与える信号入力手段を具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の呼吸インピーダンス測定装置。
【請求項5】
信号入力手段は、逆演算により得られた信号の各周波数成分に一定の値を加えるか、前記出力信号のオンセット部分にインパルスを加えた信号を逆演算して、得られた信号を前記加圧手段へ入力信号を与えることを特徴とする請求項4に記載の呼吸インピーダンス測定装置。
【請求項6】
口腔内に空気振動圧を加えるための加圧ステップと、
この加圧ステップを制御し、複数の異なる周波数から間引きして残った複数の周波数成分のみを有するように周波数間引きされた信号であるオシレーション波による空気振動圧を生じさせる制御ステップと、
口腔内の圧力を検出する圧力検出ステップと、
呼吸による流量を検出する流量検出ステップと、
前記加圧ステップによる加圧状態下において前記圧力検出ステップと前記流量検出ステップにより得られる信号を得て、この得られた信号をフーリエ変換して得られるスペクトルを得るフーリエ変換ステップと、
このフーリエ変換ステップによる変換結果について間引きした周波数成分対応のスペクトルにより呼吸高周波成分を求め、間引きして残った周波数成分対応のスペクトルからこの呼吸高周波成分を減算してオシレーション波成分を取り出す抽出ステップと、
この抽出ステップによる抽出結果について周波数毎に圧力成分を流量成分で除算する演算ステップと
を具備し、前記各ステップをコンピュータ処理・制御において実行することを特徴とする呼吸インピーダンス測定方法。
【請求項7】
制御ステップは周波数間引きとして、T周期のパルスを与えることにより、n/T(n:整数T:実数)の周波数成分のみを有するオシレーション波による空気振動圧を生じさせることを特徴とする請求項6に記載の呼吸インピーダンス測定方法。
【請求項8】
制御ステップは、異なる複数周波数の正弦波を複数合成することにより、周波数間引きされたオシレーション波を得て当該シレーション波による空気振動圧を生じさせること特徴とする請求項6に記載の呼吸インピーダンス測定方法。
【請求項9】
制御ステップは、加圧ステップの入力信号と出力信号及び前記加圧ステップの伝達関数を用いた逆演算に基づき所望の圧波形のオシレーション波が出力信号となるように前記加圧ステップへ入力信号を与える信号入力ステップを具備することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の呼吸インピーダンス測定方法。
【請求項10】
信号入力ステップは、逆演算により得られた信号の各周波数成分に一定の値を加えるか、前記出力信号のオンセット部分にインパルスを加えた信号を逆演算して、得られた信号を前記加圧ステップへ与えることを特徴とする請求項9に記載の呼吸インピーダンス測定方法。
【請求項11】
呼吸インピーダンス測定装置により測定された呼吸インピーダンスに基づき表示装置に表示を行う呼吸インピーダンス表示方法において、
インピーダンス軸と周波数軸と時間軸とにより三次元に値をとって表示を行い、
間引かれた周波数について補間処理を行って得られる呼吸インピーダンスを前記三次元に値をとって表示する場合に含めた画像を作成して表示を行うことを特徴とする呼吸インピーダンス表示方法。
【請求項12】
時間軸方向の長さを、呼気と吸気との組を少なくとも二組繰り返す長さとして、画像を作成して表示を行うことを特徴とする請求項11に記載の呼吸インピーダンス表示方法。
【請求項13】
インピーダンス値の大小を、色の変化または濃淡変化により表現した画像を作成して表示を行うことを特徴とする請求項11または12に記載の呼吸インピーダンス表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−240752(P2009−240752A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160042(P2008−160042)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(597129229)チェスト株式会社 (31)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】