呼吸器疾患の抗ウイルス療法のためのインターフェロン−β
【課題】 喘息および慢性閉塞性肺疾患から選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を治療するための医薬を提供する。
【解決手段】 喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)から選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を治療するための医薬の製造における、(a)肺において内在性インターフェロンβ(IFN-β)の発現を増加させる薬剤、又は(b)(a)の薬剤を発現できるポリヌクレオチドの使用であって、前記治療は前記医薬の気道送達によりなされるものである、前記使用。
【解決手段】 喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)から選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を治療するための医薬の製造における、(a)肺において内在性インターフェロンβ(IFN-β)の発現を増加させる薬剤、又は(b)(a)の薬剤を発現できるポリヌクレオチドの使用であって、前記治療は前記医薬の気道送達によりなされるものである、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、呼吸器疾患のための抗ウイルス療法に関する。より詳細には、本発明はインターフェロン-β(IFN-β)またはIFN-βの発現を増加させる薬剤を気道送達することによって、喘息または慢性閉塞性呼吸器疾患 (COPD)のライノウイルスが誘発する増悪を治療することに関する。喘息およびCOPDは共に、感冒ウイルス(ライノウイルス)が複数の臨床的問題に関連する増悪を引き起こすことがわかっている炎症性気道疾患の例である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ウイルスの呼吸器への感染により、多数の呼吸器疾患の増悪を生じる。実際、ウイルスの呼吸器への感染は、85%の喘息増悪の原因である(Johnstonら、BMJ, 1995;310:1225-8;Nicholsonら、BMJ, 1993;307:982-6)(入院を必要とする最も重篤なものを含む:Johnstonら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1996;154:654-660)。コンプライアンスを持った患者が最適用量の吸入コルチコステロイドを摂取することによって、良好に喘息を制御していたとしても、ウイルスによる感染が重篤な喘息増悪を誘発しうることが懸念される(Reddelら、Lancet, 1999;353:364-369)。喘息増悪に関連する最も一般的な病原体はライノウイルスである。ライノウイルスによる感染により、炎症媒介物の放出(Teranら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997;155:1362-1366)、および増大した気管支応答を生じる(Grunbergら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997;156:609-616)。
【0003】
喘息を有する被験者は、ウイルスの呼吸器への感染により敏感であるのではなく、より重篤な下気道の症状を有するようである(Corneら、Lancet, 2002;359:831-834)。ライノウイルスは気管支の上皮細胞に感染することが知られており(Gernら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997;155:1159-1161)、下気道より単離されるが(Papadopoulosら、J. Infect. Dis., 2000;1821:1875-1884;Gernら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997;155:1159-1161)、なぜ喘息の下気道がライノウイルスによる感染の影響を受けやすいのかという理由は明らかではない。そのため、なぜ喘息の気管支上皮細胞が、長引きかつ増強された前炎症応答を誘発する増大したウイルスの複製およびシェディングを生じ、ならびに喘息症状の増悪に関連するウイルス感染に対する異常な応答を示すのかを明らかにする必要がある。また、ウイルスによって誘発される喘息増悪のための治療を提供する必要もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
意外にも、喘息の気管支細胞は、健全な正常コントロールと比べて増大したウイルス粒子の産生を誘発するウイルス感染に対する応答が異常であることがわかった。これは喘息および健全な細胞の両方が、感染に対する初期炎症応答を行うという事実にもかかわらずある。さらに、喘息の細胞が、感染後初期のアポトーシスに対してより耐性であり、不完全なI型インターフェロン応答を示すことが明らかにされた。この初期のアポトーシス応答は、重要な防御機構である。それは、健全なコントロール細胞におけるアポトーシスの阻害によって、増強されたウイルス産生が誘導されるためである。従って、喘息の気管支上皮細胞による増大されたウイルス粒子の産生は、アポトーシスを回避する細胞の能力に関連する。さらに、喘息の気管支上皮細胞におけるIFN-βを用いたアポトーシスの誘導によって、感染性ウイルス粒子の産生における顕著な減少を生じることがわかった。したがって、本発明は、ウイルスによって誘発された喘息増悪を、アポトーシス誘導剤(好ましくはIFN-βまたはその類似体)を用いて治療することに関する。
【0005】
これまでに米国特許第6,030,609号によって、気道における呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の感染をIFN-βのエアロゾル送達によって治療するための方法が提示されている。この提示は培養された肺上皮細胞を用いた実験にもっぱら基づいてなされたものであった。米国特許第6,030,609号には喘息、より具体的にはライノウイルスに誘発される喘息増悪(これは上記のように重大な臨床上の問題である)についての言及はない。実際に、RSVがI型インターフェロンの産生を妨げるタンパク質を産生することが知られているように、IFN-βが、ライノウイルスが誘発する喘息増悪を治療することに有効であると、米国特許第6,030,609号に報告される実験から推定することはできない (Bossert & Conzelmann, Respiratory syncytial virus (RSV) nonstructural (NS) proteins as host range determinants:a chimeric bovine RSV with NS genes from human RSV is attenuated in interferon-competent bovine cells. J Virol. (2002) 76, 4287-93;およびSpannら、Suppression of the induction of alpha, beta, and lambda interferons by the NS1 and NS2 proteins of human respiratory syncytial virus in human epithelial calls and macrophages [corrected].J Virol. (2004) Apr;78(8):4363-9;Erratum in:J Virol. (2005) 78 (12):6705)。だが一方、ライノウイルスによって引き起こされる同様の活性は知られていない。さらに、一般的な母集団における実験的なライノウイルス感染に対してIFN-β-serを用いた最初の臨床試験では、期待できる有利な効果を示したが (Higgins PG, Al-Nakib W, Willman J, Tyrrell DA. interferon-beta ser as prophylaxis against experimental rhinovirus infection in volunteers. J. Interferon Res. (1986) 6:153-9)、風邪の予防に関する続く試験においては、IFN-β-serは効果が無いことがわかった (Sperber SJ, Levine PA, Sorrentino JV, Riker DK, Hayden FG. Ineffectiveness of recombinant interferon-beta serine nasal drops for prophylaxis of natural colds. J. Infect Dis. (1989) 160, 700-5)。おそらく正常な細胞は、ライノウイルス感染に対する応答においてIFN-βを産生する生得的な能力を有しているためであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のように、本願発明者らは、喘息の上皮細胞を区別する重要な特徴が、ウイルスの複製を抑制なく進めることを可能にするIFN-βの障害性の産生による不完全なアポトーシス応答であり、それによって長引く症状や疾患増悪に関与することを見出した。本願発明者らによって、このような欠損をIFN-βを用いることによって治療することを、ライノウイルスに誘発される喘息増悪に関して最初に提示されたが、今回COPDのライノウイルスが誘発する増悪にも同様に適用できることを提示する。これは慢性気管支炎および気腫を含む症状の範囲を含む。
【0007】
発明の要旨
従って本発明は、喘息およびCOPDから選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を治療するための医薬の製造における、
(a) インターフェロン-β(IFN-β);
(b) IFN-βの発現を増加させる薬剤;または
(c) (a)または(b)を発現することができるポリヌクレオチド;
から選択される薬剤の使用を提供する。この治療はエアロゾル噴霧器を用いることによって、医薬を気道送達することによるものである。
【0008】
さらに本発明は、
(a)インターフェロン-β(IFN-β);
(b) IFN-βの発現を増加させる薬剤;または
(c) (a)または(b)を発現することができるポリヌクレオチド、
からなる群より選択した薬剤を個体に気道投与することを含む、喘息およびCOPDから選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を個体において治療する方法を提供する。このような治療は、予防的処置であっても、治療的処置であってもよい。「ライノウイルスに誘発される」とは、ライノウイルスまたは主にしかし排他的ではなくライノウイルスを含むウイルスによって、もっぱら誘導されることとして理解される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1a】図1aは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1b】図1bは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1c】図1cは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1d】図1dは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1e】図1eは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1f】図1fは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図2a】図2aは、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。
【図2b】図2bは、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。
【図2c】図2cは、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。
【図2d】図2dは、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。
【図3a】図3aは、RV-16感染後の細胞の生存率の変化を示す。
【図3b】図3bは、RV-16感染後の細胞の生存率の変化を示す。
【図4a】図4aは、RV-16感染後のカスパーゼ活性とその役割を示す。
【図4b】図4bは、RV-16感染後のカスパーゼ活性とその役割を示す。
【図4c】図4cは、RV-16感染後のカスパーゼ活性とその役割を示す。
【図5a】図5aは、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。
【図5b】図5bは、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。
【図5c】図5cは、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。
【図5d】図5dは、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。
【図6】図6は、非COPDの有志およびCOPD患者に由来する初代BEC培養物における、RV-16 (2moi)を用いた感染から8時間後のIFN-β mRNAの誘導を示す。
【図7】図7は、非COPDおよびCOPD患者に由来するBEC培養物におけるウイルス複製を、RV-16感染(2moi)から24時間後に比較したものを示す。
【図8】図8は、RV-16 (2moi)を用いた感染から8時間後の、外因性のIFN-βの存在下または非存在下における、COPD患者に由来する初代BECのIFN-β mRNAの誘導を示す。
【図9】図9は、IFN-βがCOPD患者に由来するBECにおけるRV-16複製を減少させたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面の簡単な説明
図1は、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症(proinflammatory)反応を示す。パネル(a)および(c):RV-16感染から8時間後のIL-8 (a)およびTNFα (c)のmRNAの誘導を、qPCRによって測定した。喘息の細胞は、IL-8の誘導倍量の中央値 (IQR)が33.2 (7.3, 208.6)であり、対して健全な細胞では101.4 (6.4, 802.9)であった(群間で有意な差異はなかった(p=0.8))。両群は、培地のみ(p=0.001)および紫外線で不活性化したRV (p=0.01)で処理した細胞と比べて、IL-8 mRNAの顕著な増加を示した。TNFα mRNAについては、喘息の細胞は、基準線に基づく誘導倍量の中央値が94.4 (5.8, 1001.4)であり、対して健全なコントロール細胞では272.9 (30, 676)であった(群間で有意な差異はなかった(p=0.8))。両群は、培地のみ (p<0.01)および紫外線で不活性化したRV (p<0.01)を用いて処理した細胞と比べて、TNF-α mRNAの顕著な増加を示した。パネル(b)および(d):RV-16感染から48時間後の上清におけるIL-8 (b)およびTNFα (d)のタンパク質産生をELISAによって測定した。IL-8の中央値 (IQR)レベルは、健全な細胞における705 pg/ml (414, 979) (p=0.6)と比べて、喘息の細胞においては922 pg/ml (868, 1065)であった。両群は、培地のみ (61.4pg/ml, p<0.001)および紫外線で不活性化したRV-16 (43.8, P<0.01)を用いて処理した細胞よりも、顕著な増加を示した。TNF-αの分泌は、RV-16に感染した喘息の細胞において10.4 pg/ml (6.9, 29.6)であり、RV-16に感染した健全なコントロール細胞(p=0.7)において24.6 pg/ml (9.2, 30.4)であった。両群は、培地のみ (1.85pg/ml, p<0.01)および紫外線で不活性化したRV-16 (4.69, P<0.01)を用いて処理した細胞よりも顕著な増加を示した。パネル(e)および(f):ICAM-1発現を、RV-16感染の直前(e)または感染から24時間後(f)に、フローサイトメトリーによって測定した。データを蛍光強度の平均値(MFI)として表す。感染前に、喘息の細胞は健全なコントロール細胞の67 (34, 83)と比べて31(12, 80)と中央値 MFIが低い傾向がみられたが、顕著ではなかった (p=0.3)。24時間後、喘息の細胞は、健全なコントロール細胞の110.4 (65, 195.3) (p=0.02)と比べて54.6 (27.6, 145.2)と顕著に低い中央値 MFIであった。グラフは箱ひげ図であり、重線(heavy line)は中央値を示し、上部箱のボーダーは第75四分位数を表し、下部は第25四分位数を表し、ひげは第5および第95百分位数である。* =培地のみおよび紫外線で不活性化したRV-16を用いて処理した細胞とは顕著に異なる。
【0011】
図2は、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。パネル (a):感染細胞の上清へのRV-16放出を、コンフルエントな状態の単層のOhio HeLa細胞におけるCPE に由来するTCID50 を算出することによって測定した。値はlog変換した;データ点は幾何平均値およびその平均値の標準誤差を表す。48時間までに、顕著に多いRVが喘息の細胞より検出され、平均TCID50が3.99であり、対して健全なコントロール細胞においては0.54 (p<0.01)であった。パネル (b):RV-16 mRNA産生を感染から8時間後にqPCRによって測定した。喘息の細胞からの産生の中央値 (IQR)は、健全な細胞に由来する0.4×105 (0.09×105, 0.6×105) (p< 0.01)と比べて、21×105 (1.6×105, 97×105)であった。グラフは箱ひげ図であり、重線は中央値を示し、上部箱のボーダーは、第75四分位数を示し、下部は第25四分位数を示す。ひげは第5および第95百分位数である。ドットは異常値を表す。パネル(c)および(d):RV-16感染の結果としての細胞溶解を培養上清中のLDH活性に基づいて分析した。値をlog変換した;データ点は幾何平均値およびその平均値の標準誤差を表す。両群は、時がたつにつれてLDH活性の累進的な増加を示し、この活性は喘息の細胞においては24時間までに基準線よりも顕著に増加した(p<0.01)が、健全なコントロール細胞においては48時間後においても顕著に増加しなかった(p=0.2) (c)。48時間までに、喘息の細胞のLDH活性は3.4倍の基準線に基づく平均増加量を示し、それに対して健全なコントロール細胞においては1.34倍の増加量を示した (p<0.001) (d)。培地のみまたは紫外線で不活性化したRVを用いて処理した細胞においては、LDH活性の顕著な変化は見られなかった。* =喘息の細胞および健全な細胞の結果が顕著に異なっている (p<0.01)。
【0012】
喘息 = 黒丸、健全な細胞= 白丸。
【0013】
図3は、RV-16感染後の細胞の生存率の変化を示す。RV-16感染から8時間の後、細胞をフルオロクロームフィコエリトリン (PE)にコンジュゲートしたアネキシン-Vおよびバイタル色素7-アミノ-アクチノマイシン (7-AAD)を用いて染色し、そしてフローサイトメトリーによって分析した。パネル (a):生存可能な(AxV−/7AAD−)細胞の数を測定し、そして生存率を%で表し、培地のみで処理した細胞と比べた。RV-16への感染により、喘息およびコントロールの細胞の両方において、培地のみと比べて細胞生存率の中央値 (IQR)に顕著な減少を生じた (p=0.03)。不活性化したRV-16を用いて処理した細胞の生存率は顕著に減少しなかった(96 (91, 98)%)。喘息の細胞は有意に良好な生存率を示した(中央値 80 (74, 86)%)。それに対して健全な細胞では63 (51, 69)%を示した (p=0.002)。パネル (b):さらにアポトーシスの(AxV+/7AAD−)細胞をRV-16感染から8時間の後に分析した。両群は、感染によりアポトーシスの増加を示したが、喘息の細胞は1.41倍(1.35, 1.69)の増加量であり、それに対して健全な細胞では2.19倍(1.98, 2.22) (p=0.02)であり、より耐性であることを示した。培地のみで処理した細胞では、アポトーシス増加を示さなかった。紫外線で不活性化したRV-16で処理した細胞は基準線を越えるわずかな増加を示した(1.2 (1.1, 1.4) (p=0.02))。* =培地のみで処理した細胞と有意に異なる (p<0.01)。** =喘息の細胞と有意に異なる(p<0.05)。
【0014】
図4は、RV-16感染後のカスパーゼ活性とその役割を示す。パネル(a):RV-16によるカスパーゼ 3/7活性化の時間経過を、細胞数について調整した読み取り装置を伴うApo-One Homogenous カスパーゼ 3/7アッセイ(Promega, Maddison, USA)を用いて測定した。値をlog変換し、時間の経過とともにそれらをプロットできるようにした;データ点は幾何平均値およびその平均値の標準誤差を表す。感染に対する活性なカスパーゼ 3/7の有意な誘導は、8時間でプラトーに達した(p<0.01)。喘息の細胞は、健全な細胞 (平均値(SEM) =2.16 (0.3);p=0.004)と比べて、活性なカスパーゼ 3/7の低い誘導を示した (平均値(SEM) = 1.47 (0.1))。パネル (b):阻害剤であるZVD-fmkを用いたカスパーゼ-3の阻害効果を図3の説明文に記載されるように、フローサイトメトリーを用いて測定した。細胞を、RV-16の感染の前後にRV-16のみ、またはZVD-fmkを用いて処理した。培地のみで処理したコントロール細胞を上回る、アポトーシスの誘導倍量が見られたという結果を示した。喘息の細胞において、RV-16のみを用いて、1.4 (1.35, 1.68)の基準線を越えるアポトーシス誘導の中央値 (IQR)を得た;ZVD-fmkによる細胞の前処理は、アポトーシスにほとんど影響しなかった(中央値 (IQR) = 1.17 (0.96, 1.95);p>0.05)。しかし健全なコントロール細胞においては、RV-16感染により、2.19 (1.98, 2.22)の基準線を越えるアポトーシス誘導の中央値 (IQR)を生じ、そしてこれはZVD-fmkによる前処理によって無効となった(中央値 (IQR) = 0.82 (0.78, 0.86);p=0.03))。パネル (c):RV-16産生におけるカスパーゼ-3阻害の効果を、感染から48時間の後に取り出したBEC上清にて、HeLa 滴定アッセイによって測定した。RV-16に感染した喘息の細胞から取り出した上清におけるTCID50 (中央値 (IQR) = 3.56 (3.50-3.62)は、ZVD-fmkで処理した感染細胞のもの(中央値 (IQR) = 3.56 (3.5-3.62);p=0.94)と比べて、差がなかった。しかし、健全なコントロールBECについては、そのTCID50が感染のみによる0.6(0.4, 0.63)からRV-16およびZVD-fmkの存在下における2.78 (0.63, 6.32) (p=0.01)まで中央値 (IQR)が増加した。* =喘息の細胞とは有意に異なる(p<0.01)。** = RV-16のみで処理した細胞とは有意に異なる。喘息 = 黒丸、健全な細胞 = 白丸。
【0015】
図5は、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。パネル(a):IFNβmRNAの産生をRV-16感染から8時間の後、qPCRによって測定した。喘息の細胞は、0.3倍(0.3, 0.8)の基準線コントロールに基づく誘導量の中央値 (IQR)を示した。この値は培地のみまたは紫外線で不活性化したRV-16で処理した細胞と有意に異なることはないが、健全なコントロールの3.6 (3.4, 3.6) (p=0.004)と比べた場合有意に小さかった。パネル (b):感染から48時間後におけるIFNβの培養上清への放出をELISAによって測定した。喘息のBECについては、IFNβレベルの中央値 (IQR)は721 (464, 1290)pg/mlであり、それに対して健全なコントロールにおいては1854 pg/ml (758, 3766) (p=0.03)であった。両群は、培地のみ (56.4pg/ml, p<0.001)および紫外線で不活性化したRV-16 (113.8pg/ml, P<0.01)を用いて処理した細胞を超える有意な増加を示した。パネル (c):RV-16に感染した喘息の細胞におけるアポトーシス誘導へのIFNβの効果を、図3の説明文に記載されるようにFACS分析によって測定した。喘息の細胞を12時間 IFNβ(100IU)で前処理するか、またはRV-16に曝してその後IFN-βで処理した。ウイルスRNAの存在を模倣するために、さらに細胞をRV-16の代わりに、ポリ(I):ポリ(C)合成二本鎖 RNA オリゴヌクレオチドに曝した。培地のみで処理したコントロール細胞を上回るアポトーシス誘導倍量として結果を表した。IFN-βまたはRV-16のいずれかのみに曝した細胞におけるアポトーシスは有意に増加した (アポトーシス誘導の中央値 (IQR) = それぞれ、1.11 (0.99, 1.94)または1.57 (0.98, 1.98)。RV-16とIFNβを共に用いて処理した細胞はアポトーシスが増加する傾向を示したが(中央値 (IQR) =3.75 (1.12, 5.25);p=0.11)、IFN-βで前処理してから感染した細胞は、アポトーシス誘導が有意に増加した (中央値 (IQR) = 5.69 (2.19, 5.69))。ポリ(I):ポリ(C)のみに曝した細胞は、アポトーシスのわずかな増加が見られた(中央値 (IQR) = 1.92 (1.34, 4))。これはIFN-βによる処理(中央値 (IQR) = 5.56 (3.15, 5.56))またはIFN-βによる前処理(中央値 (IQR) = 9.25 (3.46, 9.25);p< 0.05)によって増強した。パネル (d):喘息の細胞より産生されるウイルスへのIFNβの効果を、感染から48時間後に取り出した喘息のBEC 培養上清を用いたHeLa 滴定アッセイによって測定した。細胞を、IFNβ(100IU)を用いて12時間、前処理してからRV-15に曝すか、または感染の直後にIFNβを用いて処理した。感染後にIFNβで処理した細胞において、ウイルス産生の有意な減少がみられ(中央値 log TCID50 2.78 (2, 3.56))、IFNβで前処理した細胞においてはさらなる減少がみられた(1.12 (0.28, 1.34))。それに対して、RV-16に感染しただけの細胞は3.56 (3.5-3.62) (p<0.05)であった。* =培地のみおよびRV-16で処理した喘息の細胞とは有意に異なる。** =培地のみとは有意に異なる。 # = RV-16感染だけのものとは有意に異なる。## = ポリ(I):ポリ(c)のみだけのものとは有意に異なる。
【0016】
図6は、非COPDの有志およびCOPD 患者に由来する初代BEC培養物における、RV-16 (2moi)を用いた感染から8時間後のIFN-β mRNAの誘導を示す。IFN-β mRNAを逆転写定量的PCRによって測定し、未処理の(SFM)コントロールのIFN-βレベルに対して基準化した。
【0017】
図7は、非COPDおよびCOPD患者に由来するBEC培養物におけるウイルス複製を、RV-16感染(2moi)から24時間後に比較したものを示す。ウイルス粒子の産生を、HeLa細胞による滴定アッセイによって測定し、TCID50/mlとして表した。
【0018】
図8は、RV-16 (2moi)を用いた感染から8時間後の、外因性のIFN-βの存在下または非存在下における、COPD患者に由来する初代BECのIFN-β mRNAの誘導を示す。IFN-β mRNAを逆転写定量的PCRによって測定し、そして未処理の(SFM)コントロールのIFN-βレベルで基準化した。
【0019】
図9は、IFN-βがCOPD患者に由来するBECにおけるRV-16 複製を減少させたことを示す。細胞を外因性のIFN-β (100 IU/ml)の存在下、または非存在下においてRV-16 (2moi)に感染させた。ウイルス粒子の産生を、HeLa細胞滴定アッセイによりTCID50/mlとして測定した。
【0020】
配列表の簡単な説明
配列番号1は、ヒト IFNβ-1aのヌクレオチド配列を示す。
【0021】
配列番号2は、ヒト IFNβ-1aのアミノ酸配列を示す。
【0022】
配列番号3はヒト IFNβ-1bのヌクレオチド配列を示す。
【0023】
配列番号4はヒト IFNβ-1bのアミノ酸配列を示す。IFNβ-1bは、残基17のシステインがセリンと置換していることを除いて、ヒト IFNβ-1aと同一である。
【0024】
発明の詳細な説明
前述のとおり、本発明はIFN-βの新規治療用途に関する。とりわけ、例えば、IFN-βを気道送達し、ライノウイルスに感染した喘息患者の気管支上皮細胞におけるアポトーシスを促すといったIFN-βの治療用途に関する。提示されるように本発明は、IFN-βを気道送達して、ライノウイルスに誘発されるCOPDの増悪を治療することにも及ぶ。
【0025】
IFN-βの定義
本明細書中で用いられる場合IFN-βという用語は、未変性のIFN-βの生物学的活性を保持する、好ましくは、肺、特に気管支上皮に存在するIFN-βの活性を保持するIFN-βの任意の形態または類似体をいうものと理解される。
【0026】
IFN-βは、ヒト IFNβ-1a (配列番号2)またはヒト IFNβ-1b (配列番号4)の配列と同一であるか、または含むことができる。またIFN-βとは、配列番号2または4から変化したアミノ酸配列を有する変異ポリペプチドもいう。あるいは、IFN-βは化学的に改変されたものでありうる。
【0027】
IFN-βの変異体は天然の変異体、例えば、非ヒト種によって発現される変異体でありうる。さらに、IFN-βの変異体は、配列番号2または4から変化するが、必ずしも天然のものではない配列を含む。配列番号2または4のアミノ酸配列の全長にわたって、変異体は好ましくは、アミノ酸の同一性に基づいてその配列に少なくとも80%相同である。より好ましくは、ポリペプチドは全長配列にわたって、配列番号2または4のアミノ酸配列に対するアミノ酸同一性に基づいて、少なくとも85%または90%、より好ましくは少なくとも95%、97%または99%相同である。40またはそれ以上(例えば60、80、100、120、140もしくは160またはそれ以上)の連続アミノ酸からなるストレッチにわたって、少なくとも80%、例えば少なくとも85%、90%または95%のアミノ酸同一性が存在しうる(「高い相同性(hard homology)」)。
【0028】
相同性を当該分野で公知である任意の方法を用いて測定できる。例えば、UWGCG Packageは、相同性を例えば、そのデフォルト設定を用いて計算することに用いることができるBESTFITプログラムを提供する(Devereuxら(1984) Nucleic Acids Research 12, p387-395)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは相同性を計算するために、または配列を合致させるために用いることができる (等価の残基または対応する配列を同定するなど(一般にそれらのデフォルト設定による))(例えば、Altschul S. F. (1993) J Mol Evol 36:290-300;Altschul, S.Fら(1990) J Mol Biol 215:403-10に記載される)。
【0029】
BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)より公的に利用することが可能である。このアルゴリズムはまず、問い合わせ配列中の長さWの短いワード(データベース配列中の同じ長さのワードと整列させた場合に、ポジティブな値を示す閾値のスコアTと一致するかまたは満たす)を同定することによってハイスコアの配列対(HSP)を同定することを含む。Tとは近接するワードスコアの閾値をいう (Altschulら、上記)。これら最初の近接するワードヒットが検索を開始するためのシードとして機能し、それらを含むHSPを見つける。ワードヒットを、累積的アライメントスコアが増加しうる限り、各配列に沿って両方向に伸ばす。累積的アライメントスコアがその得られた最大値から、量Xだけ少ない;1つまたは複数のネガティブスコア残基のアライメントの集積により、累積的スコアが0またはそれ以下になる;あるいはいずれかの配列の末端に達する、以上の場合に各方向へのワードヒットの伸長を停止する。BLASTアルゴリズムのパラメータであるW、TおよびXは、感度およびアライメントの速さを決定する。BLASTプログラムはデフォルトとして、ワード長(W) 11、BLOSUM62スコアマトリクス(HenikoffおよびHenikoff (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915-10919を参照のこと)アライメント(B) 50、期待値(E) 10、M=5、N=4ならびに両鎖の比較を用いる。
【0030】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性を統計学的に分析する; Karlin およびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5787などを参照のこと。BLASTアルゴリズムによって与えられる類似性の1つの尺度は最小の総確率(P (N))であり、 2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列間の一致がたまたま生じる確率の指標を与える。例えば、第1の配列と第2の配列の比較における最小の総確率が、約1よりも小さい、好ましくは約0.1よりも小さい、さらに好ましくは約0.01よりも少ない、そして最も好ましくは約0.001よりも少ない場合、配列は別の配列と類似とみなされる。
【0031】
アミノ酸置換は配列番号1または2のアミノ酸配列に、例えば1、2、3、4または5〜10、20または30の置換が生じうる。同類置換が例えば表1に示すように生じうる。第2カラムの同じブロックと、好ましくは第3カラム中の同じ列のアミノ酸が相互に置換しうる:
【表1】
【0032】
配列番号1または2のアミノ酸配列中の1以上のアミノ酸残基を、選択的にまたは付加的に削除することができる。1、2、3、4または5〜10、20または30個の残基またはそれ以上を削除することが可能である。
【0033】
またIFN-βは上記配列の断片を含む。このような断片はIFN-β活性を保持する。断片は少なくとも120または140アミノ酸からの長さでありうる。このような断片を、以下に詳細に示すようなキメラ薬剤を作製するために用いることができる。
【0034】
IFN-βは配列番号2または4の断片または一部分を含むキメラタンパク質を含む。1以上のアミノ酸を上記ポリペプチドに選択的にまたは追加的に付加することができる。配列番号2もしくは4のアミノ酸配列またはそのポリペプチド変異体もしくは断片のN末端またはC末端に、伸長を生じうる。この伸長は極めて短く、例えば1〜10個のアミノ酸の長さでありうる。あるいは、もっと長い伸長でありうる。担体タンパク質を上記のアミノ酸配列に融合することができる。上記ポリペプチドの1つを含む融合タンパク質を、本発明に用いることができる。
【0035】
さらに、IFN-βは化学的に改変されている配列番号2もしくは4またはその変異体を含む。多数の側鎖の改変は、当該分野にて公知であり、上記で考察したタンパク質またはペプチドの側鎖に生じうる。このような改変としては、グリコシル化、リン酸化、アルデヒドとの反応に続くNaBH4を用いた還元による還元的アルキル化を用いたアミノ酸の改変、メチルアセチミダートによるアミド化(amidination)または無水酢酸によるアシル化などが挙げられる。この改変は好ましくはグリコシル化である。
【0036】
IFN-βを合成的に、または当該分野で公知である方法を用いた組換え方法によって作製することができる。タンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列を改変して、非天然のアミノ酸を含むか、または化合物の安定性を高めることができる。タンパク質またはペプチドを合成方法によって作製した場合、作製の間にこのようなアミノ酸を導入することができる。またタンパク質またはペプチドを、合成的にまたは組換え的に作製した後に改変することができる。
【0037】
また、IFN-βをD-アミノ酸を用いて作製することができる。このような場合、アミノ酸をCからN向きの逆配列に結合する。これはタンパク質またはペプチドを作製するための、当該分野において慣用的な方法である。
【0038】
IFN-βを、組換え発現ベクターに由来するin situにおけるポリペプチドの発現によって細胞内で作製することができる。発現ベクターは必要に応じて、ポリペプチドの発現を制御するための誘導可能なプロモータを保有する。IFN-βまたはその類似体を、組換え発現後のタンパク質液体クロマトグラフィー系による精製の後に、大量に作製することができる。好ましいタンパク質液体クロマトグラフィー系としては、FPLC、AKTA系、Bio-Cad系、Bio-Rad BioLogic系およびGilson HPLC系が挙げられる。
【0039】
IFN-βまたはその類似体の市販される形態を本発明に用いることができる。例としては、Betaseron(登録商標)およびAvonex(登録商標)が挙げられる。
【0040】
IFN-βの発現を増加させる薬剤
本発明はまた、肺または、好ましくは気管支上皮におけるIFN-βの内在性の発現を増加させる薬剤を用いることを含むことができる。この薬剤は、IFN-β遺伝子のプロモーター配列または他の調節配列に直接的に作用することができる。このような薬剤は、IFN-βプロモーターの構成的なサイレンシングを減少させるように作用しうる。あるいは、この薬剤は細胞を刺激し、細胞表面の受容体における作用によって、内在性 IFN-βを産生させることができる。本発明に関して、目的のIFN-βの内在性の発現を増加させる薬剤としては、ポリ(イノシン酸)-ポリ(シチジル酸) (ポリ(IC))およびACE阻害剤であるペリンドプリルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
ポリヌクレオチド
本発明はまた、IFN-βまたは肺気道におけるIFN-βの内在性の発現を増加させる薬剤を発現できるポリヌクレオチドを使用することを含みうる。このようなポリヌクレオチドは好ましくは、IFN-βまたは気管支上皮におけるIFN-βを誘導する薬剤を直接的に発現できるベクターの形態でありうる。このようにして、得られたIFN-βまたは薬剤は治療効果を有しえる(「遺伝子治療」)。ポリヌクレオチドは上記で考察したIFN-βの任意の形態(その変異体、断片およびキメラタンパク質を含む)をコードしうる。
【0042】
IFN-βをコードするポリヌクレオチドは、ヒト配列 (配列番号1もしくは3)または天然の配列変異体(非ヒト種によって発現される変異体など)を含むことができる。さらに、IFN-βをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1または3(これらは必ずしも天然ではない)より変化した配列を含む。配列番号1または3のアミノ酸配列の全長にわたって、変異体は好ましくはヌクレオチドの同一性に基づいて、少なくとも80%相同である。より好ましくは、ポリヌクレオチドは、全長配列にわたって配列番号1または3のヌクレオチドに対して、ヌクレオチドの同一性に基づいて少なくとも85%または90%、より好ましくは少なくとも95%、97%または99%相同である。40またはそれ以上(例えば60、80、100、120、140もしくは160またはそれ以上)の連続ヌクレオチドのストレッチにわたって、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%または95% ヌクレオチド同一性を有しうる(「高い相同性」)。相同性を上記で考察したように測定できる。
【0043】
ポリヌクレオチドはDNAまたはRNAを含むことができるが、好ましくはDNAを含む。これらはまた、合成または改変されたヌクレオチドを含むポリヌクレオチドでありうる。ポリヌクレオチドに対する多数の異なる型の改変が、当該分野にて公知である。これらはリン酸メチルおよびホスホロチオエートのバックボーンを含み、この分子の3'末端および/または5'末端におけるアクリジン鎖またはポリリジン鎖の付加を含む。本発明の目的に関して、本明細書中に記載されるポリヌクレオチドを、当該分野で利用可能である任意の方法によって改変しうることが認識される。
【0044】
ポリヌクレオチド(DNAポリヌクレオチドなど)を、組換え、合成または当業者が利用することができる任意の方法によって作製することができる。さらにこれらを標準的な技術によってクローン化できる。一般的に、ポリヌクレオチドを単離および/または精製した形態で得る。
【0045】
一般的に、ポリヌクレオチドを組換え方法(PCR (ポリメラーゼ連鎖反応)クローニング技術など)を用いて作製する。これは、クローンに所望される必要とされる遺伝子領域に対するプライマー対(例えば約15〜30 ヌクレオチド)を作製すること、そのプライマーを好適な細胞から得られたDNAと接触させること、所望される領域の増幅をなす条件下において、ポリメラーゼ連鎖反応を行うこと、増幅した断片を単離すること(アガロースゲルで反応混合物を精製するなど)、そして増幅したDNAを回収することを含む。プライマーを、好適な制限酵素認識部位を含み、その結果、増幅したDNAが好適なクローニングベクターにクローン化できるように設計しうる。
【0046】
一般的に、本明細書中で述べられる技術は当該分野において周知であるが、特にSambrookら、1989に説明がなされる。
【0047】
本明細書中前述のとおり、好ましくはポリヌクレオチドを発現ベクターに用いる。ここでポリヌクレオチドは、ヒト肺の気道にコード配列の発現を得ることができる制御配列に機能的に連結されている。
【0048】
本発明に用いるための発現ベクターは、遺伝子治療に従来的に用いられている任意の型のベクターでありうる。ネイキッド(naked)DNAまたは1以上のカチオン性両親媒性物質(1以上のカチオン性脂質など)との複合体(例えば、DNA/リポソームの形態)として投与されるプラスミド発現ベクターでありうる。あるいは、ウイルスベクターを用いることができる。ヒト肺の気道に治療用タンパク質を発現するためのベクターがこれまでに報告されている。このような目的のために、例えば、国際公開公報WO 01/91800 (Isis Innovation Limited)に、ヒトユビキチンCプロモーターまたはその機能的類似体を含む発現ベクターが記載されている。ヒトユビキチンCプロモーターは、マウスの気道において数週間にわたって高レベルのタンパク質発現を可能とすることが示されており、そのため、種々の呼吸器疾患の気道における遺伝子治療に用いることが好ましいプロモーターであるとして提案されている。気道上皮において導入遺伝子を発現するように用いる発現ベクターの例はまた、Chowら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1997;94:14695-14700にも記載されている。このような発現ベクターを、気道を介して、例えば鼻腔または気管に投与することができる。
【0049】
呼吸器疾患のウイルスによって誘発された増悪
本発明において、アポトーシス誘導剤を用いて呼吸器疾患のウイルスによって誘発された増悪を治療する。呼吸器疾患のウイルスによって誘発された増悪は、ウイルス(ライノウイルスなど)の存在による呼吸器疾患の重篤度を高める。ウイルスは一般的に、呼吸器疾患関連の症状を悪化させ、治療および場合によっては入院に対する応答を減少させる。ウイルスは一般的に、肺組織(気管支上皮を含む)に感染する。一般的に、ウイルスは炎症媒介物の放出を生じ、気管支の反応性を高める。本明細書中前述のとおり、ライノウイルスは喘息増悪の引き起こす一般的な病原体として認識されている。同様に、ライノウイルスは別の呼吸器疾患の望ましくない増悪を促進しうる。このように、本発明に関する目的の呼吸器疾患はまた、COPDと示されうる状態も含む。
【0050】
治療
IFN-β、IFN-βの発現を増加させる薬剤または上記のポリヌクレオチドの投与は、予防目的または治療目的のいずれかでありうる。予防的に与える場合、IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドをいずれかの増悪の前に与える。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドの予防的投与は、その後生じる増悪を防止または減少させる。治療的にIFN-βを与える場合、薬剤またはポリヌクレオチドを、増悪の症状の発症時(または直後)に与える。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドの治療的投与は、実際の増悪を減少させる。治療される個体は任意の動物でありうるが、好ましくは治療される個体は、ヒト、最も好ましくは喘息のヒトである。
【0051】
IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを、気道送達に好適な医薬または医薬組成物の状態で投与でき、これらは一般的に製薬上許容される賦形剤をさらに含む。このような「賦形剤」は一般的に実質的に不活性物質をいい、非毒性であり、かつ組成物の他の成分と有害な様式で相互作用しない。
【0052】
製薬上許容される賦形剤としては、水、食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロールおよびエタノールなどの液体が挙げられるが、これらに限定されない。製薬上許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などのような鉱酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸塩が挙げられうる。
【0053】
また好ましくは(しかし必要ではないが)、治療剤を含む組成物または医薬は、特にペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチドまたは他の薬剤の安定剤として与える製薬上許容される担体を含む。ペプチドの安定剤としても作用する好適な担体の例としては、医薬品グレードのブドウ糖、ショ糖、乳糖、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストランなどが挙げられるが、これらに限定されない。他の好適な担体としては、デンプン、セルロース、リン酸ナトリウムまたはリン酸カルシウム、クエン酸、酒石酸、グリシン、高分子量のポリエチレングリコール (PEG)、およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。また、電荷脂質および/または界面活性剤を用いることも有用でありうる。好適な電荷脂質としては、ホスファチジルコリン(レシチン)などが挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤は一般的に、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤である。好適な界面活性剤の例としては、Tergitol(登録商標)界面活性剤、およびTriton(登録商標)界面活性剤 (Union Carbide Chemicals and Plastics, Danbury, CT)、TWEEN(登録商標)界面活性剤などのポリオキシエチレンソルビタン(Atlas Chemical Industries, Wilmington, DE)、Brijなどのポリオキシエチレンエーテル、硫酸ラウリルおよびその塩(SDS)などの製薬上許容される脂肪酸エステルならびに同様の物質などが挙げられる。製薬上許容される賦形剤、担体、安定剤および他の補助物質の綿密な考察は、Remingtons Pharmaceutical Sciences (Mack Pub. Co., N. J.1991)より入手可能である。
【0054】
IFN-βを気道送達するための好適な組成物は、例えば、米国特許第6,030,609号に記載されるように、凍結乾燥したIFN-βを、IFN-β活性剤の効果を高めるために必要に応じて1種以上の担体、安定剤、界面活性剤または他の薬剤を添加した製薬上許容される溶媒(蒸留滅菌した水または滅菌生理食塩水)に溶解することによって処方することができる。
【0055】
予防的または治療的に有効量のIFN-β、薬剤または本明細書中に記載されるポリヌクレオチドを含む組成物を、エアロゾル噴霧器によって肺気道に都合よく送達することができる。適切な有効量は、適切な臨床試験によって決定でき、例えば、投与されるかまたは誘導されたIFN-βの活性によって変わる。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを例えば、マイクログラムの量で投与できる。これらを治療すべき個体に、投薬形態に適合する方法で、望ましい効果をもたらすのに有効な量で投与する。送達されるべき量は、治療されるべき被験体に応じて、1μg〜5 mg、例えば1〜50μgでありうる。必要とされる正確な量は、治療される個体の年齢および全身症状、選択した薬剤ならびに他の要因によって変化する。例えば、250μgのIFN-βを1日おきに投与するか、あるいは30μgのIFN-βを週に1回投与することができる (Cook, J Neurol, 2003;250 補遺4:15-20;Durelli, J Neurol 2003;250補遺4:9-14)。
【0056】
IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを単独で、または別の治療化合物と組み合わせて投与できる。特に、IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを、個体の呼吸器疾患を治療するために用いられる治療化合物と共に投与できる。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドおよび付加的な治療化合物を、同一または異なる組成物中に処方できる。1つの実施形態において、IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを吸入コルチコステロイドと組み合わせて、喘息を有する個体に投与する。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを、吸入コルチコステロイドと同時に、逐次的にまたは別々に投与しうる。
【0057】
このように、本発明のさらなる態様において、喘息を治療するための製品を提供する。これは(i) (a) IFN-β、(b) IFN-βの発現を増加させる薬剤 および(c) (a)または(b)を発現することができるポリヌクレオチド、から選択される第1薬剤、ならびに(ii) 吸入コルチコステロイドを、同時に、別々にまたは逐次的に気道投与するために含む。好ましくは、このような製品は、同時に、別々にまたは逐次的にIFN-βおよび吸入コルチコステロイド(フルチカゾン、ベクロメタゾンおよびブデソニドなど)を投与するために与える。
【0058】
例えば、上記の第1薬剤と吸入コルチコステロイドを、気道へのエアロゾル送達に好適な単一の医薬組成物の形態で与えうる。
【0059】
以下の実施例は、喘息およびCOPDの双方のライノウイルスが誘発する増悪を治療することに関する本発明を説明するために与える。
【実施例】
【0060】
実施例1:喘息患者の気管支上皮細胞の研究
材料および方法
被験体
全ての被験体は非喫煙者であり、4週間前より肺疾患の増悪も呼吸器の感染暦も有さなかった。一般的なエアロアレルゲン(ハウスダストダニ抽出物、草木の花粉、樹木の花粉、猫の鱗屑、犬の鱗屑、カンジダ(Candidia)、アスペルギルス(Aspergillus)を含む)ならびにネガティブコントロール(食塩水)およびポジティブコントロール (ヒスタミン)のパネルを用いたアレルギー皮膚テスト。テストは、ネガティブコントロールよりも3mmまたはそれ以上大きな膨疹反応が見られた場合、陽性とみなした。肺機能を肺活量測定により、1秒間の強制呼気量(FEV1)および強制肺活量(FVC)を測定することによって調べた。次に、気管支の過剰反応を、8mg/ml未満のPC20 ヒスタミンにより規定されるヒスタミンで誘発して調べた。喘息を有する被験体をGINAガイドラインによる臨床的重症度(National, H., Lung and Blood Institute. Global strategy for asthma management and prevention 96-3659a, Bethseda, 1995)に基づいて分類した。
【0061】
喘息を、8mg/ml未満のPC20 ヒスタミンにより規定される、気管支過剰反応の証拠を有する一貫した病歴によって診断した。喘息の被験体を、必要とされる場合のみ(1週間に3回未満)サルブタモールを用いた治療を必要とする安定した症状を有し、1日に1500μg未満の吸引ベクロメタゾンによる安定した症状を有する穏やかな疾患を有する、程度の軽いものとして分類した。健全なコントロールは、これまでに肺疾患の病歴がなく、正常肺機能を有し、ヒスタミン誘発による気管支過剰反応の証拠はなく、またアトピーではなかった。この研究は関連する倫理委員会によって承認された。全ての被験体は書面によるインフォームドコンセントを受けた。
【0062】
表2に、本研究に用いられた被験体の特徴の概要を示す。予測FEV1 %とは、1秒間の強制呼気量をパーセントで表した予測値をいう。ICSとは、吸入コルチコステロイドをいう。用量は1日あたりのベクロメタゾン (BDP)の用量(μg)で表される(1μg BDP =1μg ブデソニドまたは0.5μg フルチカゾン)。
【表2】
【0063】
組織培養
上皮細胞を、公表された標準的なガイドラインに従って、ファイバーオプティック気管支鏡を用いて得た。全ての被験体にはサルブタモールを予め投与し、(Hurd, J Allergy Clin Immunol, 1991;88:808-814)そして細胞培養をこれまでに報告されているように行った (Bucchieriら、Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., 2001;27:179-185)。要するに、細胞をシースドナイロン(sheathed nylon)細胞学ブラシを用いて、直接視で第2〜3世代の気管支を5〜10回擦過して得た。新たに擦過した気管支上皮細胞を培養皿に播種することによって、初代培養物を確立した。細胞を50U/ml ペニシリンおよび50μg/ml ストレプトマイシンを含有するホルモン添加した気管支上皮増殖培地(BEGM;Clonetics, San Diego, USA)中において、37℃かつ5%二酸化炭素にて培養した。細胞を培養し、トリプシンを用いて組織培養フラスコに継代した。2回目の継代時に、細胞を12ウェルトレイに播種し、80%コンフルエントな状態になるまで培養した (Bucchieriら、Am J Respir Cell Mol Biol, 2001;27:179-185)。上皮細胞の純度を回収した細胞のサイトスピンにおいて異なる細胞を数えることによって調べた。
【0064】
細胞を単に処理するか、または主要なグループであるRV-16に感染した後に処理した。感染後、細胞をさらに、120μMのカスパーゼ3阻害剤であるZVD-fmk(Calbiochem, La Jolla, CA, USA)、および100IUのヒトIFNβ(Sigma Chemical St Louis MO, USA)を用いて処理した。
【0065】
RVの調製および感染
本願発明者らは、これまでに報告されているようにOhio HeLa細胞の培養物を感染させ;細胞および上清を回収し、細胞を凍結解凍することによって破壊し、細胞片を低速遠心分離によってペレット化し、そして清澄した上清を-70℃で凍結して、RV-16ストックを作製した(PapiおよびJohnston, J Biol Chem, 1999;274:9707-9720)。
【0066】
RV滴定を、96ウェルプレート中コンフルエントな単層のHeLa細胞を10倍連続希釈したウイルスストックに曝し、5% CO2中37℃にて5日間培養して行った。細胞変性効果を調べ、次に50%組織培養感染量(TCID50/ml)を測定し、そして感染多重度 (MOI)を導き出した (PapiおよびJohnston, J Biol Chem, 1999;274:9707-9720)。全ての実験のネガティブコントロールとして、RV-16を、30分間1200μJ/cm2 の紫外線ライトによる紫外線照射に曝すことによって不活性化した。HeLa細胞におけるウイルス滴定を繰り返すことによって、不活性化を確認した。
【0067】
所望される濃度のRV-16を細胞に添加し、この細胞を、室温にて1時間、150rpmにて穏やかに振盪した。次に培地を取り除き、そしてウェルを1mlのハンクス平衡塩溶液を用いて2回洗浄した。次に、新たに培地を加え、そして細胞を37.5℃かつ5% CO2にて、所望される時間培養した。ネガティブコントロールとして、細胞を培地のみ、および紫外線で不活性化したRV-16を用いて処理した。
【0068】
上皮細胞感染の確証およびウイルス産生の定量化を、HeLa 滴定アッセイ (Papi およびJohnston, J Biol Chem, 1999;274:9707-9720)および定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (qPCR)(下記)によって調べた。
細胞生存率の分析
生存率およびアポトーシスを、これまでに報告されているようにフローサイトメトリーを用いて調べた (Puddicombeら、Am J Respir Cell Mol Biol, 2003;28:61-68)。簡潔にいえば、RV 感染から8時間の後、接着性細胞をトリプシンを用いて取り出し、非接着性細胞に添加した。細胞を、フルオロクロームフィコエリトリン (PE)にコンジュゲートしたアネキシン-V とバイタル色素7-アミノ-アクチノマイシン (7-AAD)を用いて染色した。フローサイトメトリーのデータをWinMDI 2.8を用いて分析した。カスパーゼ 3/7の活性形態を、Apo-One Homogenous Caspase 3/7アッセイ(Promega, Maddison, USA)を用いて検出した。細胞を4通りの各条件で播種した。2つのウェルをメチレンブルーで染色し、細胞の現存量を測定した。その他の2つのウェルを溶解緩衝液を用いて溶解し、励起波長485nmおよび蛍光波長530nmで蛍光プレートリーダーにおいて読み取った。次にカスパーゼ活性を細胞生存量に関して補正した。取り出され、そして48時間未満の間室温にて保管されていた細胞上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ (LDH)の活性を測定することによって、細胞溶解を測定した。LDH活性を、基質としてピルビン酸(Sigma, St Louis USA)を用いた酵素学的速度法(enzymatic rate method)により、37℃にて測定した。
【0069】
逆転写定量的PCR
IL-8、TNFα、ICAM-1、IFNβおよびRVの遺伝子発現分析を、TRIzol 試薬 (Life Technologies, Paisley, UK)を用いてBECより抽出したRNA(混入したDNAを製造者の指示に従ってRNeasy Mini Kits (Qiagen, Crawley, West Sussex, UK) を用いたデオキシリボヌクレアーゼ消化によって除去した)を用いて行った。総RNA (1μg)を、製造者のプロトコルに従ってReverse Transcription System (Promega, Southampton, UK)のランダムヘキサマーまたはオリゴ(dT)15 プライマーおよびトリ骨髄芽球症 ウイルス転写酵素を用いて逆転写した。蛍光発生プローブを、5'-レポーター色素 6-カルボキシ-フルオレセイン (FAM)および3'-クエンチャー色素 6-カルボキシ- N,N,N',N'-テトラメチル-ローダミン (TAMRA)を用いて標識した。
【0070】
ハウスキーピング遺伝子プライマーおよび18SリボゾームRNAのプローブを、Eurogentech (Eurogentech, Southampton, UK)より得た。鋳型のないコントロールおよび逆転写ネガティブ試料もコントロールとして含めた。icycler PCRプロトコルは以下のとおりであった:95℃にて8分間;その後95℃にて15秒の変性、続く60℃にて1分間のアニーリング、そして72℃にて15秒間の伸長の42サイクル。PCRの定量化およびリアルタイムの検出はon icycler 配列検出系に従った。PCR完了後、蛍光発光の基準線についての閾値を、FAMおよびVICレイアのバックグラウンドレベルの真上に設定した(15〜20サイクルまで)。標準曲線をデルタCTより算出し、標的遺伝子と18S rRNA 内在性コントロールについて作成した。そして標的および内在性コントロールの量を算出した。データを内在性コントロールに対する標的遺伝子の量の比率を用いて規準化した。IL-8のmRNA誘導が最大となる時間であるため、感染から8時間後に比較を行った。
【0071】
RV-16の定量化は上記とは異なっていた。RVを検出するために用いたプライマーは、0.05μM ピコルナウイルス順方向オリゴ(5'-GTG AAG AGC CCGC AGTG TGC T-3')と0.30μM ピコルナウイルス逆方向オリゴ(5'-GCT CGCA GGG TTA AGG TTA GCC-3')であった。OL-26-OL-27 アンプリコン (PCR 2.1 TOPO (Invitrogen)にクローン化されたOL-26およびOL-27プライマーの産物)を用いてRVを定量するために、標準曲線を作成した。プラスミドをE. coli 株XL-1blue (Stratagene)中で増殖し、市販の試薬(Qiagen)を用いたmaxiprep法により精製し、Tris EDTA緩衝液 pH 8.0に1μg/μLで再懸濁し、そして−80℃で保存した。
【0072】
ICAM-1の発現
細胞におけるICAM-1の発現を、感染直後、およびRV感染から24時間後までに、ICAM-1に対するモノクローナル抗体 (eBioscience 抗ヒトCD54)およびFITC標識された二次抗体(Dako, Denmark)を用いた上記フローサイトメトリーによって、基準線を用いて測定した。
【0073】
ELISAによる炎症媒介物の測定
インターロイキン (IL)-8、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)(R&D systems, Abingdon, UK)およびインターフェロン-β(IFN-β) (Biosource Nivelles Belgium)の培養上清への放出を、製造者の指示に従って酵素免疫測定法(ELISA)を用いて測定した。
【0074】
統計学的分析
データをSPSS version 10.1 (SPSS Inc)を用いて分析した。試料の大きさは小さく、変数は正常に分布していなかったために、グループ間の差異を非パラメトリック試験を用いて分析した; 2つの依存変数間の差異を符号順位検定、独立変数(ウィルコクソンの順位和検定)および多重比較(Kruskal Wallis検定)を用いて分析した。0.05未満のp値を有意であるとみなした。
【0075】
結果
正常および喘息の気管支上皮細胞(BEC)の反応を比較するために、臨床的に特徴付けられた有志よりファイバーオプティック気管支鏡により得た気管支擦過検体より初代培養を増殖した。RV-16を用いたBECの感染に関する用量および時間経過を、感染細胞より得た培養上清中のIL-8の放出を測定することによって、まず最適化した。これらの実験から、推定MOIが2であるRV-16用量を詳細な研究に用いた (データは示さない)。
【0076】
RV-16感染に対する正常および喘息のBECの炎症性反応
正常気管支上皮細胞と喘息の気管支上皮細胞との差異を調べるために、本願発明者らは14人の喘息を有する被験体と10人の正常なコントロール(表2を参照のこと)を新たに加え、ファイバーオプティック気管支鏡を受けさせた。2つの被験体群は年齢および性別に関して類似していた。全ての喘息を有する被験体は、穏やかで中程度のいつまでも続く症状を有しており、定期的に吸入コルチコステロイドを用いた。初代BEC培養物のRV-16感染に対する反応をまず、IL-8およびTNFαのmRNA発現誘導ならびにタンパク質放出を測定することによって比較した(図1a,c)。喘息または健全なコントロールのいずれかに由来するBECは、RV 感染の8時間後に、IL-8およびTNFαのmRNAの有意な誘導を示し、感染の48時間後にはIL-8およびTNFαのタンパク質放出が有意に増加した(図1b,d);2つのグループ間に有意な差異は無かった。紫外線によって不活性化したRVは前炎症反応を引き起こさなかった。
【0077】
主要群RVで細胞を処理したために、感染に対する感受性はICAM-1(主要群RVの受容体)の発現に依存すると予測された。喘息の細胞と正常な細胞で感染に対する感受性が異なるか否かを決定するために、ICAMのレベルをフローサイトメトリーによって評価した。感染前に、ICAM-1の発現はいずれの群においても有意に異なっていなかった (図1e)。感染から24時間後まで、両群における発現は類似した (図1f)。
【0078】
感染、ウイルス産生および初代気管支上皮細胞の細胞溶解液
BEC培養物のRV-16感染の後、生存可能なRVの回収率を、感染の伝染および感染したBECの上清によるOhio HeLa細胞における細胞変性効果 (CPE)によって測定した。感染後8時間までであって、初代培養の感染の後ウイルス粒子を産生した後に得られた上清を用いてもCPEは観察されなかったが、その後48時間まで徐々に生じた。前炎症反応に対して、喘息のBECは、24時間および48時間で検出されるTCID50で表されるRV-16が有意に大きく増加した(図2a)。健全なコントロールと比べて喘息においてはまた、感染から8時間後にRV-16 mRNAがより多く産生された(図2b)。ICAM-1の発現レベルが同等であるとすると、感染に対する即時感受性以外の要因が、感染細胞からのウイルス産生に影響していたことを示唆している。
【0079】
ウイルスの放出と並行して、RV産生の増加を示すLDH活性が、細胞溶解液中で累進的に増加した;48時間まで、喘息の細胞で有意に多かった(図2c)。SFMのみで処理した細胞におけるLDH活性は48時間において有意に増加しなかったが、紫外線で不活性化したRV-16で処理した細胞においては、わずかではあるが有意に増加した(データは示さない)。しかし、この増加は、活性なウイルスの培養物で見られる増加と比べるとわずかであった。これらの結果は、ウイルス産生と細胞溶解液との間の関連を示し、細胞生存率における初期の変化がウイルス産生を予測できるか否かを調べる気にさせた。
【0080】
RV-16感染後のBECの生存率
アポトーシスがウイルス複製に対して細胞を保護する天然の防御であるため、本願発明者らは、アネキシン-V (AxV)および核染色(7-アミノアクチノマイシンD (7AAD))を用いて、RV-16に反応した細胞死の性質を特徴づけ、アポトーシス細胞の外側表面に外在化されているホスファチジルセリンを識別した。フローサイトメトリーの分析によって、正常なBECのRV-16感染から8時間の後に、生存可能な細胞(すなわち、AxV−/7AAD−)の数が有意に減少したことが明らかとなった。これは、培地のみまたは紫外線で不活性化したRV-16で処理した細胞では見られず、感染と細胞死との直接的な関連を示している(図3a)。それに対して、喘息のBECのRV-16による感染は8時間における生存率にわずかに影響した(図3a)。AxV+/7AAD−細胞(すなわち、アポトーシス細胞)とAxV+/7AAD+細胞(すなわち、壊死細胞)とを比べることによって、正常BECと喘息のBECの全体的な生存率の差異が、正常な培養物におけるアポトーシスの有意な増加により見出された (図3b)。感染細胞におけるアポトーシス誘導を、変化したミトコンドリア膜の透過性をApoAlert Mitochondrial Membraneセンサー(Clontech, Palo Alto Ca, USA)を用いて示すことによって(データは示さない)、また活性なカスパーゼ 3/7の活性化を測定することによって確認した。後者の場合、正常なBECよりもRV-16に感染した喘息のBECにおいて、活性なカスパーゼが有意に少なかった(図4a)。
【0081】
アポトーシス阻害の効果とRV-16産生
喘息のBECによる増加したウイルス粒子の産生が、喘息のBEC のアポトーシスを回避する能力に関連していたため、本願発明者らは、RV-16に感染した正常BECにおけるアポトーシスの抑制がウイルス粒子の産生を促進するのに十分であるか否かを調べた。BECをRV-16による感染の前後に、カスパーゼ 3阻害剤 (C3I)であるZVD-fmkを用いて処理した。阻害剤により健全なコントロール細胞におけるアポトーシスの著しい減少が生じたが、感染のみと比べて喘息の細胞における効果は小さかった(図4b)。健全なコントロールの細胞のC3Iによる処理もまた、48時間における伝染性感染が有意に増加し、RV-16産生に直接的に影響したが、C3Iで処理した喘息の細胞においては同様の増加は見られなかった(図4c)。これらのデータにより、初期のアポトーシス阻害と増加したウイルス産生との直接的な関連を得た。
【0082】
喘息の上皮細胞の生得的な抗ウイルス反応の評価
喘息のBECによる異常な抗ウイルス反応に関連する根本的な機構を調べるために、本願発明者らは、ウイルス感染に応答するアポトーシスの重要な制御因子であると考えられているI型インターフェロン (IFN) (IFN-β)(Samuel, Clin Microbiol Rev, 2001;14:778-809;Takaokaら、Nature, 2003;424:516-523)の発現を分析した。前炎症性サイトカインで観察した場合、RV-16感染から8時間後、正常BECによるIFN-βmRNA発現において有意な増加があったが、喘息の細胞においては同様の増加は見られなかった(図5a);またRV-16感染から48時間後の喘息の細胞によるIFN-β産生も少なかった(図5b)。このIFN-β産生の差異が機能的に関連したことを確認するために、本願発明者らは、RV-16に感染した喘息のBECにおいて、外因性IFN-βがアポトーシスを誘導する能力について試験した。図5cは、IFN-β(100IU)を用いた細胞のRV-16による前処理によって、倍の数のアポトーシス細胞を生じたことを示す。IFN-βのみでは、アポトーシス指標に有意な影響を及ぼさなかったが、合成ポリ(I):ポリ(C)への暴露に応答して顕著なアポトーシス誘導を生じた。このことはIFN-βに応答してアポトーシスを行うために、二本鎖 RNAの認識を含む他のシグナルを必要とすることを示す。ウイルスに感染した喘息のBECのアポトーシスを誘導する能力と共に、IFN-βはRV-16感染性ウイルス粒子の産生の有意な減少を生じた(図5d)。
【0083】
これらの結果より、喘息の患者がRV 感染の結果として長引く下気道の問題を有する傾向があることについての最初の説明を与える。喘息の状態にかかわらず、上気道から下気道へのRVの拡散によって、気管支上皮細胞の感染および、急性炎症性反応の誘導を生じうる。さらなる感染は、非喘息の患者において、生得的な抗ウイルス反応および感染細胞におけるアポトーシス誘導によって制限されるが、喘息におけるIFN-βの欠乏は、ウイルス粒子の複製および有害な結果を伴う細胞溶解を促進する。これらは隣接細胞感染の高まる危険性およびウイルスによる細胞溶解効果に対して応答する拡大した炎症性反応を含む。決定的に、この欠損はin vitroにおいて外因性IFN-βの供給によって回復することができ、ウイルス複製を抑制すること、ならびに感染および炎症の自己永続性サイクルを最小化することができる。よって、IFN-βまたはIFN-βを誘導する薬剤は、ウイルスによって誘発された喘息増悪の間、治療的用途を有するものと考えることができる。
【0084】
実施例2:COPD患者の気管支上皮細胞の研究
慢性閉塞性肺疾患は炎症性気道疾患の別の例であり、感冒ウイルスが増悪を引き起こし(Seemungal TA, Harper-Owen R, Bhowmik A, Jeffries DJ, Wedzicha JA.Detection of rhinovirus in induced sputum at exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease. Eur Respir J. (2000) 16, 677-83)、しばしば入院を必要する症状を伴う(MacNee W. Acute exacerbations of COPD. Swiss Med Wkly. (2003) May 3;133 (17-18):247-57)。喘息の被験体の気管支上皮細胞が欠損したI型インターフェロン応答を有するという知見に基づいて、COPDにおける同様の欠損によってまた、この患者群の下気道症状の重篤度を説明することができると仮定された。この可能性を調べるために、培養気管支上皮細胞の保存されている試料(archival sample)をRV-16感染に対するそれらの反応について試験した。これらの細胞は、COPDを有する2人の被験体 (男性1人および女性一人、それぞれ61歳および57歳)ならびにCOPDを有さない年齢が一致したコントロール (男性、64歳)より回収した気管支擦過検体より増殖した。継代0にて細胞を、凍結保護剤として10% DMSOを含有するBEGM培地中に−170〜−180℃にて凍結保存したことを除いて、擦過検体を、喘息研究について記載したとおりに培養した。凍結保存を細胞培養物の長期保存のために慣用的に用いる。
【0085】
実験法に必要とする場合、凍結細胞培養物を1mlの予め暖めたBEGMに迅速に解凍し、次に新しい培地を入れた培養フラスコに再播種し、継代2まで増殖させた(正常および喘息の被験体の気管支上皮細胞の培養物については、実施例1に記載されるとおり)。継代2にて、細胞を12ウェルトレイに播種し、80%コンフルエントな状態まで培養した。次にこれらを上記と同一のプロトコルを用いてRV-16に曝した。
【0086】
COPD患者および非COPD患者の初代BEC培養物の生得的な免疫応答を比較するために、RV-16を用いた感染(2 moi)に対する反応における、IFN-β mRNAの誘導を測定した。図6に示すように、RV-16感染から8時間後に非COPD患者のBECは、25倍のIFNβ mRNA誘導を示したのに対し、COPD BECの反応は3分の1未満であった。この乏しい生得的な免疫応答と一致して、COPD被験体の細胞の24時間におけるウイルス粒子の産生は一桁の規模で多かった (図7)。
【0087】
次に、外因性IFN-βがウイルス複製からCOPD患者のBECを保護することができるか否かを試験した。図8および9に示すように、別のCOPD患者の細胞はまた、RV-16感染に反応する乏しいIFN-β誘導を示した。しかし、これらはIFN-β mRNAの活発な誘導による外因性IFN-βに反応することができた。これはTCID50が100倍減少するRV-16 複製の顕著な抑制を伴い、これは非COPDの有志の細胞にてみられるTCID50よりも低かった。
【0088】
これらの結果は、上記喘息の被験体のBECについての研究よりわかるように、COPD患者のBECもまた、乏しい生得的な免疫応答を有することを示唆する。このことは、なぜこれらの患者が、RV感染の結果として長引く下気道の問題を有するのかを説明することに役立つ。IFN-βが自身の発現を誘導でき、RV-16の複製を抑制できるという事実に基づいて、IFN-β、またはIFN-βを誘導する薬剤が、COPD、ならびに喘息のウイルスによって誘発された増悪の間の治療的用途を有すると予測することができる。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、呼吸器疾患のための抗ウイルス療法に関する。より詳細には、本発明はインターフェロン-β(IFN-β)またはIFN-βの発現を増加させる薬剤を気道送達することによって、喘息または慢性閉塞性呼吸器疾患 (COPD)のライノウイルスが誘発する増悪を治療することに関する。喘息およびCOPDは共に、感冒ウイルス(ライノウイルス)が複数の臨床的問題に関連する増悪を引き起こすことがわかっている炎症性気道疾患の例である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ウイルスの呼吸器への感染により、多数の呼吸器疾患の増悪を生じる。実際、ウイルスの呼吸器への感染は、85%の喘息増悪の原因である(Johnstonら、BMJ, 1995;310:1225-8;Nicholsonら、BMJ, 1993;307:982-6)(入院を必要とする最も重篤なものを含む:Johnstonら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1996;154:654-660)。コンプライアンスを持った患者が最適用量の吸入コルチコステロイドを摂取することによって、良好に喘息を制御していたとしても、ウイルスによる感染が重篤な喘息増悪を誘発しうることが懸念される(Reddelら、Lancet, 1999;353:364-369)。喘息増悪に関連する最も一般的な病原体はライノウイルスである。ライノウイルスによる感染により、炎症媒介物の放出(Teranら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997;155:1362-1366)、および増大した気管支応答を生じる(Grunbergら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997;156:609-616)。
【0003】
喘息を有する被験者は、ウイルスの呼吸器への感染により敏感であるのではなく、より重篤な下気道の症状を有するようである(Corneら、Lancet, 2002;359:831-834)。ライノウイルスは気管支の上皮細胞に感染することが知られており(Gernら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997;155:1159-1161)、下気道より単離されるが(Papadopoulosら、J. Infect. Dis., 2000;1821:1875-1884;Gernら、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997;155:1159-1161)、なぜ喘息の下気道がライノウイルスによる感染の影響を受けやすいのかという理由は明らかではない。そのため、なぜ喘息の気管支上皮細胞が、長引きかつ増強された前炎症応答を誘発する増大したウイルスの複製およびシェディングを生じ、ならびに喘息症状の増悪に関連するウイルス感染に対する異常な応答を示すのかを明らかにする必要がある。また、ウイルスによって誘発される喘息増悪のための治療を提供する必要もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
意外にも、喘息の気管支細胞は、健全な正常コントロールと比べて増大したウイルス粒子の産生を誘発するウイルス感染に対する応答が異常であることがわかった。これは喘息および健全な細胞の両方が、感染に対する初期炎症応答を行うという事実にもかかわらずある。さらに、喘息の細胞が、感染後初期のアポトーシスに対してより耐性であり、不完全なI型インターフェロン応答を示すことが明らかにされた。この初期のアポトーシス応答は、重要な防御機構である。それは、健全なコントロール細胞におけるアポトーシスの阻害によって、増強されたウイルス産生が誘導されるためである。従って、喘息の気管支上皮細胞による増大されたウイルス粒子の産生は、アポトーシスを回避する細胞の能力に関連する。さらに、喘息の気管支上皮細胞におけるIFN-βを用いたアポトーシスの誘導によって、感染性ウイルス粒子の産生における顕著な減少を生じることがわかった。したがって、本発明は、ウイルスによって誘発された喘息増悪を、アポトーシス誘導剤(好ましくはIFN-βまたはその類似体)を用いて治療することに関する。
【0005】
これまでに米国特許第6,030,609号によって、気道における呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の感染をIFN-βのエアロゾル送達によって治療するための方法が提示されている。この提示は培養された肺上皮細胞を用いた実験にもっぱら基づいてなされたものであった。米国特許第6,030,609号には喘息、より具体的にはライノウイルスに誘発される喘息増悪(これは上記のように重大な臨床上の問題である)についての言及はない。実際に、RSVがI型インターフェロンの産生を妨げるタンパク質を産生することが知られているように、IFN-βが、ライノウイルスが誘発する喘息増悪を治療することに有効であると、米国特許第6,030,609号に報告される実験から推定することはできない (Bossert & Conzelmann, Respiratory syncytial virus (RSV) nonstructural (NS) proteins as host range determinants:a chimeric bovine RSV with NS genes from human RSV is attenuated in interferon-competent bovine cells. J Virol. (2002) 76, 4287-93;およびSpannら、Suppression of the induction of alpha, beta, and lambda interferons by the NS1 and NS2 proteins of human respiratory syncytial virus in human epithelial calls and macrophages [corrected].J Virol. (2004) Apr;78(8):4363-9;Erratum in:J Virol. (2005) 78 (12):6705)。だが一方、ライノウイルスによって引き起こされる同様の活性は知られていない。さらに、一般的な母集団における実験的なライノウイルス感染に対してIFN-β-serを用いた最初の臨床試験では、期待できる有利な効果を示したが (Higgins PG, Al-Nakib W, Willman J, Tyrrell DA. interferon-beta ser as prophylaxis against experimental rhinovirus infection in volunteers. J. Interferon Res. (1986) 6:153-9)、風邪の予防に関する続く試験においては、IFN-β-serは効果が無いことがわかった (Sperber SJ, Levine PA, Sorrentino JV, Riker DK, Hayden FG. Ineffectiveness of recombinant interferon-beta serine nasal drops for prophylaxis of natural colds. J. Infect Dis. (1989) 160, 700-5)。おそらく正常な細胞は、ライノウイルス感染に対する応答においてIFN-βを産生する生得的な能力を有しているためであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のように、本願発明者らは、喘息の上皮細胞を区別する重要な特徴が、ウイルスの複製を抑制なく進めることを可能にするIFN-βの障害性の産生による不完全なアポトーシス応答であり、それによって長引く症状や疾患増悪に関与することを見出した。本願発明者らによって、このような欠損をIFN-βを用いることによって治療することを、ライノウイルスに誘発される喘息増悪に関して最初に提示されたが、今回COPDのライノウイルスが誘発する増悪にも同様に適用できることを提示する。これは慢性気管支炎および気腫を含む症状の範囲を含む。
【0007】
発明の要旨
従って本発明は、喘息およびCOPDから選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を治療するための医薬の製造における、
(a) インターフェロン-β(IFN-β);
(b) IFN-βの発現を増加させる薬剤;または
(c) (a)または(b)を発現することができるポリヌクレオチド;
から選択される薬剤の使用を提供する。この治療はエアロゾル噴霧器を用いることによって、医薬を気道送達することによるものである。
【0008】
さらに本発明は、
(a)インターフェロン-β(IFN-β);
(b) IFN-βの発現を増加させる薬剤;または
(c) (a)または(b)を発現することができるポリヌクレオチド、
からなる群より選択した薬剤を個体に気道投与することを含む、喘息およびCOPDから選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を個体において治療する方法を提供する。このような治療は、予防的処置であっても、治療的処置であってもよい。「ライノウイルスに誘発される」とは、ライノウイルスまたは主にしかし排他的ではなくライノウイルスを含むウイルスによって、もっぱら誘導されることとして理解される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1a】図1aは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1b】図1bは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1c】図1cは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1d】図1dは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1e】図1eは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図1f】図1fは、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症反応を示す。
【図2a】図2aは、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。
【図2b】図2bは、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。
【図2c】図2cは、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。
【図2d】図2dは、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。
【図3a】図3aは、RV-16感染後の細胞の生存率の変化を示す。
【図3b】図3bは、RV-16感染後の細胞の生存率の変化を示す。
【図4a】図4aは、RV-16感染後のカスパーゼ活性とその役割を示す。
【図4b】図4bは、RV-16感染後のカスパーゼ活性とその役割を示す。
【図4c】図4cは、RV-16感染後のカスパーゼ活性とその役割を示す。
【図5a】図5aは、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。
【図5b】図5bは、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。
【図5c】図5cは、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。
【図5d】図5dは、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。
【図6】図6は、非COPDの有志およびCOPD患者に由来する初代BEC培養物における、RV-16 (2moi)を用いた感染から8時間後のIFN-β mRNAの誘導を示す。
【図7】図7は、非COPDおよびCOPD患者に由来するBEC培養物におけるウイルス複製を、RV-16感染(2moi)から24時間後に比較したものを示す。
【図8】図8は、RV-16 (2moi)を用いた感染から8時間後の、外因性のIFN-βの存在下または非存在下における、COPD患者に由来する初代BECのIFN-β mRNAの誘導を示す。
【図9】図9は、IFN-βがCOPD患者に由来するBECにおけるRV-16複製を減少させたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面の簡単な説明
図1は、ライノウイルス(RV)感染後の、正常および喘息の気管支上皮細胞 (BEC)における前炎症(proinflammatory)反応を示す。パネル(a)および(c):RV-16感染から8時間後のIL-8 (a)およびTNFα (c)のmRNAの誘導を、qPCRによって測定した。喘息の細胞は、IL-8の誘導倍量の中央値 (IQR)が33.2 (7.3, 208.6)であり、対して健全な細胞では101.4 (6.4, 802.9)であった(群間で有意な差異はなかった(p=0.8))。両群は、培地のみ(p=0.001)および紫外線で不活性化したRV (p=0.01)で処理した細胞と比べて、IL-8 mRNAの顕著な増加を示した。TNFα mRNAについては、喘息の細胞は、基準線に基づく誘導倍量の中央値が94.4 (5.8, 1001.4)であり、対して健全なコントロール細胞では272.9 (30, 676)であった(群間で有意な差異はなかった(p=0.8))。両群は、培地のみ (p<0.01)および紫外線で不活性化したRV (p<0.01)を用いて処理した細胞と比べて、TNF-α mRNAの顕著な増加を示した。パネル(b)および(d):RV-16感染から48時間後の上清におけるIL-8 (b)およびTNFα (d)のタンパク質産生をELISAによって測定した。IL-8の中央値 (IQR)レベルは、健全な細胞における705 pg/ml (414, 979) (p=0.6)と比べて、喘息の細胞においては922 pg/ml (868, 1065)であった。両群は、培地のみ (61.4pg/ml, p<0.001)および紫外線で不活性化したRV-16 (43.8, P<0.01)を用いて処理した細胞よりも、顕著な増加を示した。TNF-αの分泌は、RV-16に感染した喘息の細胞において10.4 pg/ml (6.9, 29.6)であり、RV-16に感染した健全なコントロール細胞(p=0.7)において24.6 pg/ml (9.2, 30.4)であった。両群は、培地のみ (1.85pg/ml, p<0.01)および紫外線で不活性化したRV-16 (4.69, P<0.01)を用いて処理した細胞よりも顕著な増加を示した。パネル(e)および(f):ICAM-1発現を、RV-16感染の直前(e)または感染から24時間後(f)に、フローサイトメトリーによって測定した。データを蛍光強度の平均値(MFI)として表す。感染前に、喘息の細胞は健全なコントロール細胞の67 (34, 83)と比べて31(12, 80)と中央値 MFIが低い傾向がみられたが、顕著ではなかった (p=0.3)。24時間後、喘息の細胞は、健全なコントロール細胞の110.4 (65, 195.3) (p=0.02)と比べて54.6 (27.6, 145.2)と顕著に低い中央値 MFIであった。グラフは箱ひげ図であり、重線(heavy line)は中央値を示し、上部箱のボーダーは第75四分位数を表し、下部は第25四分位数を表し、ひげは第5および第95百分位数である。* =培地のみおよび紫外線で不活性化したRV-16を用いて処理した細胞とは顕著に異なる。
【0011】
図2は、正常および喘息のBECからのRV-16の複製および放出を示す。パネル (a):感染細胞の上清へのRV-16放出を、コンフルエントな状態の単層のOhio HeLa細胞におけるCPE に由来するTCID50 を算出することによって測定した。値はlog変換した;データ点は幾何平均値およびその平均値の標準誤差を表す。48時間までに、顕著に多いRVが喘息の細胞より検出され、平均TCID50が3.99であり、対して健全なコントロール細胞においては0.54 (p<0.01)であった。パネル (b):RV-16 mRNA産生を感染から8時間後にqPCRによって測定した。喘息の細胞からの産生の中央値 (IQR)は、健全な細胞に由来する0.4×105 (0.09×105, 0.6×105) (p< 0.01)と比べて、21×105 (1.6×105, 97×105)であった。グラフは箱ひげ図であり、重線は中央値を示し、上部箱のボーダーは、第75四分位数を示し、下部は第25四分位数を示す。ひげは第5および第95百分位数である。ドットは異常値を表す。パネル(c)および(d):RV-16感染の結果としての細胞溶解を培養上清中のLDH活性に基づいて分析した。値をlog変換した;データ点は幾何平均値およびその平均値の標準誤差を表す。両群は、時がたつにつれてLDH活性の累進的な増加を示し、この活性は喘息の細胞においては24時間までに基準線よりも顕著に増加した(p<0.01)が、健全なコントロール細胞においては48時間後においても顕著に増加しなかった(p=0.2) (c)。48時間までに、喘息の細胞のLDH活性は3.4倍の基準線に基づく平均増加量を示し、それに対して健全なコントロール細胞においては1.34倍の増加量を示した (p<0.001) (d)。培地のみまたは紫外線で不活性化したRVを用いて処理した細胞においては、LDH活性の顕著な変化は見られなかった。* =喘息の細胞および健全な細胞の結果が顕著に異なっている (p<0.01)。
【0012】
喘息 = 黒丸、健全な細胞= 白丸。
【0013】
図3は、RV-16感染後の細胞の生存率の変化を示す。RV-16感染から8時間の後、細胞をフルオロクロームフィコエリトリン (PE)にコンジュゲートしたアネキシン-Vおよびバイタル色素7-アミノ-アクチノマイシン (7-AAD)を用いて染色し、そしてフローサイトメトリーによって分析した。パネル (a):生存可能な(AxV−/7AAD−)細胞の数を測定し、そして生存率を%で表し、培地のみで処理した細胞と比べた。RV-16への感染により、喘息およびコントロールの細胞の両方において、培地のみと比べて細胞生存率の中央値 (IQR)に顕著な減少を生じた (p=0.03)。不活性化したRV-16を用いて処理した細胞の生存率は顕著に減少しなかった(96 (91, 98)%)。喘息の細胞は有意に良好な生存率を示した(中央値 80 (74, 86)%)。それに対して健全な細胞では63 (51, 69)%を示した (p=0.002)。パネル (b):さらにアポトーシスの(AxV+/7AAD−)細胞をRV-16感染から8時間の後に分析した。両群は、感染によりアポトーシスの増加を示したが、喘息の細胞は1.41倍(1.35, 1.69)の増加量であり、それに対して健全な細胞では2.19倍(1.98, 2.22) (p=0.02)であり、より耐性であることを示した。培地のみで処理した細胞では、アポトーシス増加を示さなかった。紫外線で不活性化したRV-16で処理した細胞は基準線を越えるわずかな増加を示した(1.2 (1.1, 1.4) (p=0.02))。* =培地のみで処理した細胞と有意に異なる (p<0.01)。** =喘息の細胞と有意に異なる(p<0.05)。
【0014】
図4は、RV-16感染後のカスパーゼ活性とその役割を示す。パネル(a):RV-16によるカスパーゼ 3/7活性化の時間経過を、細胞数について調整した読み取り装置を伴うApo-One Homogenous カスパーゼ 3/7アッセイ(Promega, Maddison, USA)を用いて測定した。値をlog変換し、時間の経過とともにそれらをプロットできるようにした;データ点は幾何平均値およびその平均値の標準誤差を表す。感染に対する活性なカスパーゼ 3/7の有意な誘導は、8時間でプラトーに達した(p<0.01)。喘息の細胞は、健全な細胞 (平均値(SEM) =2.16 (0.3);p=0.004)と比べて、活性なカスパーゼ 3/7の低い誘導を示した (平均値(SEM) = 1.47 (0.1))。パネル (b):阻害剤であるZVD-fmkを用いたカスパーゼ-3の阻害効果を図3の説明文に記載されるように、フローサイトメトリーを用いて測定した。細胞を、RV-16の感染の前後にRV-16のみ、またはZVD-fmkを用いて処理した。培地のみで処理したコントロール細胞を上回る、アポトーシスの誘導倍量が見られたという結果を示した。喘息の細胞において、RV-16のみを用いて、1.4 (1.35, 1.68)の基準線を越えるアポトーシス誘導の中央値 (IQR)を得た;ZVD-fmkによる細胞の前処理は、アポトーシスにほとんど影響しなかった(中央値 (IQR) = 1.17 (0.96, 1.95);p>0.05)。しかし健全なコントロール細胞においては、RV-16感染により、2.19 (1.98, 2.22)の基準線を越えるアポトーシス誘導の中央値 (IQR)を生じ、そしてこれはZVD-fmkによる前処理によって無効となった(中央値 (IQR) = 0.82 (0.78, 0.86);p=0.03))。パネル (c):RV-16産生におけるカスパーゼ-3阻害の効果を、感染から48時間の後に取り出したBEC上清にて、HeLa 滴定アッセイによって測定した。RV-16に感染した喘息の細胞から取り出した上清におけるTCID50 (中央値 (IQR) = 3.56 (3.50-3.62)は、ZVD-fmkで処理した感染細胞のもの(中央値 (IQR) = 3.56 (3.5-3.62);p=0.94)と比べて、差がなかった。しかし、健全なコントロールBECについては、そのTCID50が感染のみによる0.6(0.4, 0.63)からRV-16およびZVD-fmkの存在下における2.78 (0.63, 6.32) (p=0.01)まで中央値 (IQR)が増加した。* =喘息の細胞とは有意に異なる(p<0.01)。** = RV-16のみで処理した細胞とは有意に異なる。喘息 = 黒丸、健全な細胞 = 白丸。
【0015】
図5は、RV-16感染におけるIFNβ産生とその役割を示す。パネル(a):IFNβmRNAの産生をRV-16感染から8時間の後、qPCRによって測定した。喘息の細胞は、0.3倍(0.3, 0.8)の基準線コントロールに基づく誘導量の中央値 (IQR)を示した。この値は培地のみまたは紫外線で不活性化したRV-16で処理した細胞と有意に異なることはないが、健全なコントロールの3.6 (3.4, 3.6) (p=0.004)と比べた場合有意に小さかった。パネル (b):感染から48時間後におけるIFNβの培養上清への放出をELISAによって測定した。喘息のBECについては、IFNβレベルの中央値 (IQR)は721 (464, 1290)pg/mlであり、それに対して健全なコントロールにおいては1854 pg/ml (758, 3766) (p=0.03)であった。両群は、培地のみ (56.4pg/ml, p<0.001)および紫外線で不活性化したRV-16 (113.8pg/ml, P<0.01)を用いて処理した細胞を超える有意な増加を示した。パネル (c):RV-16に感染した喘息の細胞におけるアポトーシス誘導へのIFNβの効果を、図3の説明文に記載されるようにFACS分析によって測定した。喘息の細胞を12時間 IFNβ(100IU)で前処理するか、またはRV-16に曝してその後IFN-βで処理した。ウイルスRNAの存在を模倣するために、さらに細胞をRV-16の代わりに、ポリ(I):ポリ(C)合成二本鎖 RNA オリゴヌクレオチドに曝した。培地のみで処理したコントロール細胞を上回るアポトーシス誘導倍量として結果を表した。IFN-βまたはRV-16のいずれかのみに曝した細胞におけるアポトーシスは有意に増加した (アポトーシス誘導の中央値 (IQR) = それぞれ、1.11 (0.99, 1.94)または1.57 (0.98, 1.98)。RV-16とIFNβを共に用いて処理した細胞はアポトーシスが増加する傾向を示したが(中央値 (IQR) =3.75 (1.12, 5.25);p=0.11)、IFN-βで前処理してから感染した細胞は、アポトーシス誘導が有意に増加した (中央値 (IQR) = 5.69 (2.19, 5.69))。ポリ(I):ポリ(C)のみに曝した細胞は、アポトーシスのわずかな増加が見られた(中央値 (IQR) = 1.92 (1.34, 4))。これはIFN-βによる処理(中央値 (IQR) = 5.56 (3.15, 5.56))またはIFN-βによる前処理(中央値 (IQR) = 9.25 (3.46, 9.25);p< 0.05)によって増強した。パネル (d):喘息の細胞より産生されるウイルスへのIFNβの効果を、感染から48時間後に取り出した喘息のBEC 培養上清を用いたHeLa 滴定アッセイによって測定した。細胞を、IFNβ(100IU)を用いて12時間、前処理してからRV-15に曝すか、または感染の直後にIFNβを用いて処理した。感染後にIFNβで処理した細胞において、ウイルス産生の有意な減少がみられ(中央値 log TCID50 2.78 (2, 3.56))、IFNβで前処理した細胞においてはさらなる減少がみられた(1.12 (0.28, 1.34))。それに対して、RV-16に感染しただけの細胞は3.56 (3.5-3.62) (p<0.05)であった。* =培地のみおよびRV-16で処理した喘息の細胞とは有意に異なる。** =培地のみとは有意に異なる。 # = RV-16感染だけのものとは有意に異なる。## = ポリ(I):ポリ(c)のみだけのものとは有意に異なる。
【0016】
図6は、非COPDの有志およびCOPD 患者に由来する初代BEC培養物における、RV-16 (2moi)を用いた感染から8時間後のIFN-β mRNAの誘導を示す。IFN-β mRNAを逆転写定量的PCRによって測定し、未処理の(SFM)コントロールのIFN-βレベルに対して基準化した。
【0017】
図7は、非COPDおよびCOPD患者に由来するBEC培養物におけるウイルス複製を、RV-16感染(2moi)から24時間後に比較したものを示す。ウイルス粒子の産生を、HeLa細胞による滴定アッセイによって測定し、TCID50/mlとして表した。
【0018】
図8は、RV-16 (2moi)を用いた感染から8時間後の、外因性のIFN-βの存在下または非存在下における、COPD患者に由来する初代BECのIFN-β mRNAの誘導を示す。IFN-β mRNAを逆転写定量的PCRによって測定し、そして未処理の(SFM)コントロールのIFN-βレベルで基準化した。
【0019】
図9は、IFN-βがCOPD患者に由来するBECにおけるRV-16 複製を減少させたことを示す。細胞を外因性のIFN-β (100 IU/ml)の存在下、または非存在下においてRV-16 (2moi)に感染させた。ウイルス粒子の産生を、HeLa細胞滴定アッセイによりTCID50/mlとして測定した。
【0020】
配列表の簡単な説明
配列番号1は、ヒト IFNβ-1aのヌクレオチド配列を示す。
【0021】
配列番号2は、ヒト IFNβ-1aのアミノ酸配列を示す。
【0022】
配列番号3はヒト IFNβ-1bのヌクレオチド配列を示す。
【0023】
配列番号4はヒト IFNβ-1bのアミノ酸配列を示す。IFNβ-1bは、残基17のシステインがセリンと置換していることを除いて、ヒト IFNβ-1aと同一である。
【0024】
発明の詳細な説明
前述のとおり、本発明はIFN-βの新規治療用途に関する。とりわけ、例えば、IFN-βを気道送達し、ライノウイルスに感染した喘息患者の気管支上皮細胞におけるアポトーシスを促すといったIFN-βの治療用途に関する。提示されるように本発明は、IFN-βを気道送達して、ライノウイルスに誘発されるCOPDの増悪を治療することにも及ぶ。
【0025】
IFN-βの定義
本明細書中で用いられる場合IFN-βという用語は、未変性のIFN-βの生物学的活性を保持する、好ましくは、肺、特に気管支上皮に存在するIFN-βの活性を保持するIFN-βの任意の形態または類似体をいうものと理解される。
【0026】
IFN-βは、ヒト IFNβ-1a (配列番号2)またはヒト IFNβ-1b (配列番号4)の配列と同一であるか、または含むことができる。またIFN-βとは、配列番号2または4から変化したアミノ酸配列を有する変異ポリペプチドもいう。あるいは、IFN-βは化学的に改変されたものでありうる。
【0027】
IFN-βの変異体は天然の変異体、例えば、非ヒト種によって発現される変異体でありうる。さらに、IFN-βの変異体は、配列番号2または4から変化するが、必ずしも天然のものではない配列を含む。配列番号2または4のアミノ酸配列の全長にわたって、変異体は好ましくは、アミノ酸の同一性に基づいてその配列に少なくとも80%相同である。より好ましくは、ポリペプチドは全長配列にわたって、配列番号2または4のアミノ酸配列に対するアミノ酸同一性に基づいて、少なくとも85%または90%、より好ましくは少なくとも95%、97%または99%相同である。40またはそれ以上(例えば60、80、100、120、140もしくは160またはそれ以上)の連続アミノ酸からなるストレッチにわたって、少なくとも80%、例えば少なくとも85%、90%または95%のアミノ酸同一性が存在しうる(「高い相同性(hard homology)」)。
【0028】
相同性を当該分野で公知である任意の方法を用いて測定できる。例えば、UWGCG Packageは、相同性を例えば、そのデフォルト設定を用いて計算することに用いることができるBESTFITプログラムを提供する(Devereuxら(1984) Nucleic Acids Research 12, p387-395)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは相同性を計算するために、または配列を合致させるために用いることができる (等価の残基または対応する配列を同定するなど(一般にそれらのデフォルト設定による))(例えば、Altschul S. F. (1993) J Mol Evol 36:290-300;Altschul, S.Fら(1990) J Mol Biol 215:403-10に記載される)。
【0029】
BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)より公的に利用することが可能である。このアルゴリズムはまず、問い合わせ配列中の長さWの短いワード(データベース配列中の同じ長さのワードと整列させた場合に、ポジティブな値を示す閾値のスコアTと一致するかまたは満たす)を同定することによってハイスコアの配列対(HSP)を同定することを含む。Tとは近接するワードスコアの閾値をいう (Altschulら、上記)。これら最初の近接するワードヒットが検索を開始するためのシードとして機能し、それらを含むHSPを見つける。ワードヒットを、累積的アライメントスコアが増加しうる限り、各配列に沿って両方向に伸ばす。累積的アライメントスコアがその得られた最大値から、量Xだけ少ない;1つまたは複数のネガティブスコア残基のアライメントの集積により、累積的スコアが0またはそれ以下になる;あるいはいずれかの配列の末端に達する、以上の場合に各方向へのワードヒットの伸長を停止する。BLASTアルゴリズムのパラメータであるW、TおよびXは、感度およびアライメントの速さを決定する。BLASTプログラムはデフォルトとして、ワード長(W) 11、BLOSUM62スコアマトリクス(HenikoffおよびHenikoff (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915-10919を参照のこと)アライメント(B) 50、期待値(E) 10、M=5、N=4ならびに両鎖の比較を用いる。
【0030】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性を統計学的に分析する; Karlin およびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5787などを参照のこと。BLASTアルゴリズムによって与えられる類似性の1つの尺度は最小の総確率(P (N))であり、 2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列間の一致がたまたま生じる確率の指標を与える。例えば、第1の配列と第2の配列の比較における最小の総確率が、約1よりも小さい、好ましくは約0.1よりも小さい、さらに好ましくは約0.01よりも少ない、そして最も好ましくは約0.001よりも少ない場合、配列は別の配列と類似とみなされる。
【0031】
アミノ酸置換は配列番号1または2のアミノ酸配列に、例えば1、2、3、4または5〜10、20または30の置換が生じうる。同類置換が例えば表1に示すように生じうる。第2カラムの同じブロックと、好ましくは第3カラム中の同じ列のアミノ酸が相互に置換しうる:
【表1】
【0032】
配列番号1または2のアミノ酸配列中の1以上のアミノ酸残基を、選択的にまたは付加的に削除することができる。1、2、3、4または5〜10、20または30個の残基またはそれ以上を削除することが可能である。
【0033】
またIFN-βは上記配列の断片を含む。このような断片はIFN-β活性を保持する。断片は少なくとも120または140アミノ酸からの長さでありうる。このような断片を、以下に詳細に示すようなキメラ薬剤を作製するために用いることができる。
【0034】
IFN-βは配列番号2または4の断片または一部分を含むキメラタンパク質を含む。1以上のアミノ酸を上記ポリペプチドに選択的にまたは追加的に付加することができる。配列番号2もしくは4のアミノ酸配列またはそのポリペプチド変異体もしくは断片のN末端またはC末端に、伸長を生じうる。この伸長は極めて短く、例えば1〜10個のアミノ酸の長さでありうる。あるいは、もっと長い伸長でありうる。担体タンパク質を上記のアミノ酸配列に融合することができる。上記ポリペプチドの1つを含む融合タンパク質を、本発明に用いることができる。
【0035】
さらに、IFN-βは化学的に改変されている配列番号2もしくは4またはその変異体を含む。多数の側鎖の改変は、当該分野にて公知であり、上記で考察したタンパク質またはペプチドの側鎖に生じうる。このような改変としては、グリコシル化、リン酸化、アルデヒドとの反応に続くNaBH4を用いた還元による還元的アルキル化を用いたアミノ酸の改変、メチルアセチミダートによるアミド化(amidination)または無水酢酸によるアシル化などが挙げられる。この改変は好ましくはグリコシル化である。
【0036】
IFN-βを合成的に、または当該分野で公知である方法を用いた組換え方法によって作製することができる。タンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列を改変して、非天然のアミノ酸を含むか、または化合物の安定性を高めることができる。タンパク質またはペプチドを合成方法によって作製した場合、作製の間にこのようなアミノ酸を導入することができる。またタンパク質またはペプチドを、合成的にまたは組換え的に作製した後に改変することができる。
【0037】
また、IFN-βをD-アミノ酸を用いて作製することができる。このような場合、アミノ酸をCからN向きの逆配列に結合する。これはタンパク質またはペプチドを作製するための、当該分野において慣用的な方法である。
【0038】
IFN-βを、組換え発現ベクターに由来するin situにおけるポリペプチドの発現によって細胞内で作製することができる。発現ベクターは必要に応じて、ポリペプチドの発現を制御するための誘導可能なプロモータを保有する。IFN-βまたはその類似体を、組換え発現後のタンパク質液体クロマトグラフィー系による精製の後に、大量に作製することができる。好ましいタンパク質液体クロマトグラフィー系としては、FPLC、AKTA系、Bio-Cad系、Bio-Rad BioLogic系およびGilson HPLC系が挙げられる。
【0039】
IFN-βまたはその類似体の市販される形態を本発明に用いることができる。例としては、Betaseron(登録商標)およびAvonex(登録商標)が挙げられる。
【0040】
IFN-βの発現を増加させる薬剤
本発明はまた、肺または、好ましくは気管支上皮におけるIFN-βの内在性の発現を増加させる薬剤を用いることを含むことができる。この薬剤は、IFN-β遺伝子のプロモーター配列または他の調節配列に直接的に作用することができる。このような薬剤は、IFN-βプロモーターの構成的なサイレンシングを減少させるように作用しうる。あるいは、この薬剤は細胞を刺激し、細胞表面の受容体における作用によって、内在性 IFN-βを産生させることができる。本発明に関して、目的のIFN-βの内在性の発現を増加させる薬剤としては、ポリ(イノシン酸)-ポリ(シチジル酸) (ポリ(IC))およびACE阻害剤であるペリンドプリルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
ポリヌクレオチド
本発明はまた、IFN-βまたは肺気道におけるIFN-βの内在性の発現を増加させる薬剤を発現できるポリヌクレオチドを使用することを含みうる。このようなポリヌクレオチドは好ましくは、IFN-βまたは気管支上皮におけるIFN-βを誘導する薬剤を直接的に発現できるベクターの形態でありうる。このようにして、得られたIFN-βまたは薬剤は治療効果を有しえる(「遺伝子治療」)。ポリヌクレオチドは上記で考察したIFN-βの任意の形態(その変異体、断片およびキメラタンパク質を含む)をコードしうる。
【0042】
IFN-βをコードするポリヌクレオチドは、ヒト配列 (配列番号1もしくは3)または天然の配列変異体(非ヒト種によって発現される変異体など)を含むことができる。さらに、IFN-βをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1または3(これらは必ずしも天然ではない)より変化した配列を含む。配列番号1または3のアミノ酸配列の全長にわたって、変異体は好ましくはヌクレオチドの同一性に基づいて、少なくとも80%相同である。より好ましくは、ポリヌクレオチドは、全長配列にわたって配列番号1または3のヌクレオチドに対して、ヌクレオチドの同一性に基づいて少なくとも85%または90%、より好ましくは少なくとも95%、97%または99%相同である。40またはそれ以上(例えば60、80、100、120、140もしくは160またはそれ以上)の連続ヌクレオチドのストレッチにわたって、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%または95% ヌクレオチド同一性を有しうる(「高い相同性」)。相同性を上記で考察したように測定できる。
【0043】
ポリヌクレオチドはDNAまたはRNAを含むことができるが、好ましくはDNAを含む。これらはまた、合成または改変されたヌクレオチドを含むポリヌクレオチドでありうる。ポリヌクレオチドに対する多数の異なる型の改変が、当該分野にて公知である。これらはリン酸メチルおよびホスホロチオエートのバックボーンを含み、この分子の3'末端および/または5'末端におけるアクリジン鎖またはポリリジン鎖の付加を含む。本発明の目的に関して、本明細書中に記載されるポリヌクレオチドを、当該分野で利用可能である任意の方法によって改変しうることが認識される。
【0044】
ポリヌクレオチド(DNAポリヌクレオチドなど)を、組換え、合成または当業者が利用することができる任意の方法によって作製することができる。さらにこれらを標準的な技術によってクローン化できる。一般的に、ポリヌクレオチドを単離および/または精製した形態で得る。
【0045】
一般的に、ポリヌクレオチドを組換え方法(PCR (ポリメラーゼ連鎖反応)クローニング技術など)を用いて作製する。これは、クローンに所望される必要とされる遺伝子領域に対するプライマー対(例えば約15〜30 ヌクレオチド)を作製すること、そのプライマーを好適な細胞から得られたDNAと接触させること、所望される領域の増幅をなす条件下において、ポリメラーゼ連鎖反応を行うこと、増幅した断片を単離すること(アガロースゲルで反応混合物を精製するなど)、そして増幅したDNAを回収することを含む。プライマーを、好適な制限酵素認識部位を含み、その結果、増幅したDNAが好適なクローニングベクターにクローン化できるように設計しうる。
【0046】
一般的に、本明細書中で述べられる技術は当該分野において周知であるが、特にSambrookら、1989に説明がなされる。
【0047】
本明細書中前述のとおり、好ましくはポリヌクレオチドを発現ベクターに用いる。ここでポリヌクレオチドは、ヒト肺の気道にコード配列の発現を得ることができる制御配列に機能的に連結されている。
【0048】
本発明に用いるための発現ベクターは、遺伝子治療に従来的に用いられている任意の型のベクターでありうる。ネイキッド(naked)DNAまたは1以上のカチオン性両親媒性物質(1以上のカチオン性脂質など)との複合体(例えば、DNA/リポソームの形態)として投与されるプラスミド発現ベクターでありうる。あるいは、ウイルスベクターを用いることができる。ヒト肺の気道に治療用タンパク質を発現するためのベクターがこれまでに報告されている。このような目的のために、例えば、国際公開公報WO 01/91800 (Isis Innovation Limited)に、ヒトユビキチンCプロモーターまたはその機能的類似体を含む発現ベクターが記載されている。ヒトユビキチンCプロモーターは、マウスの気道において数週間にわたって高レベルのタンパク質発現を可能とすることが示されており、そのため、種々の呼吸器疾患の気道における遺伝子治療に用いることが好ましいプロモーターであるとして提案されている。気道上皮において導入遺伝子を発現するように用いる発現ベクターの例はまた、Chowら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1997;94:14695-14700にも記載されている。このような発現ベクターを、気道を介して、例えば鼻腔または気管に投与することができる。
【0049】
呼吸器疾患のウイルスによって誘発された増悪
本発明において、アポトーシス誘導剤を用いて呼吸器疾患のウイルスによって誘発された増悪を治療する。呼吸器疾患のウイルスによって誘発された増悪は、ウイルス(ライノウイルスなど)の存在による呼吸器疾患の重篤度を高める。ウイルスは一般的に、呼吸器疾患関連の症状を悪化させ、治療および場合によっては入院に対する応答を減少させる。ウイルスは一般的に、肺組織(気管支上皮を含む)に感染する。一般的に、ウイルスは炎症媒介物の放出を生じ、気管支の反応性を高める。本明細書中前述のとおり、ライノウイルスは喘息増悪の引き起こす一般的な病原体として認識されている。同様に、ライノウイルスは別の呼吸器疾患の望ましくない増悪を促進しうる。このように、本発明に関する目的の呼吸器疾患はまた、COPDと示されうる状態も含む。
【0050】
治療
IFN-β、IFN-βの発現を増加させる薬剤または上記のポリヌクレオチドの投与は、予防目的または治療目的のいずれかでありうる。予防的に与える場合、IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドをいずれかの増悪の前に与える。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドの予防的投与は、その後生じる増悪を防止または減少させる。治療的にIFN-βを与える場合、薬剤またはポリヌクレオチドを、増悪の症状の発症時(または直後)に与える。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドの治療的投与は、実際の増悪を減少させる。治療される個体は任意の動物でありうるが、好ましくは治療される個体は、ヒト、最も好ましくは喘息のヒトである。
【0051】
IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを、気道送達に好適な医薬または医薬組成物の状態で投与でき、これらは一般的に製薬上許容される賦形剤をさらに含む。このような「賦形剤」は一般的に実質的に不活性物質をいい、非毒性であり、かつ組成物の他の成分と有害な様式で相互作用しない。
【0052】
製薬上許容される賦形剤としては、水、食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロールおよびエタノールなどの液体が挙げられるが、これらに限定されない。製薬上許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などのような鉱酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸塩が挙げられうる。
【0053】
また好ましくは(しかし必要ではないが)、治療剤を含む組成物または医薬は、特にペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチドまたは他の薬剤の安定剤として与える製薬上許容される担体を含む。ペプチドの安定剤としても作用する好適な担体の例としては、医薬品グレードのブドウ糖、ショ糖、乳糖、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストランなどが挙げられるが、これらに限定されない。他の好適な担体としては、デンプン、セルロース、リン酸ナトリウムまたはリン酸カルシウム、クエン酸、酒石酸、グリシン、高分子量のポリエチレングリコール (PEG)、およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。また、電荷脂質および/または界面活性剤を用いることも有用でありうる。好適な電荷脂質としては、ホスファチジルコリン(レシチン)などが挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤は一般的に、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤である。好適な界面活性剤の例としては、Tergitol(登録商標)界面活性剤、およびTriton(登録商標)界面活性剤 (Union Carbide Chemicals and Plastics, Danbury, CT)、TWEEN(登録商標)界面活性剤などのポリオキシエチレンソルビタン(Atlas Chemical Industries, Wilmington, DE)、Brijなどのポリオキシエチレンエーテル、硫酸ラウリルおよびその塩(SDS)などの製薬上許容される脂肪酸エステルならびに同様の物質などが挙げられる。製薬上許容される賦形剤、担体、安定剤および他の補助物質の綿密な考察は、Remingtons Pharmaceutical Sciences (Mack Pub. Co., N. J.1991)より入手可能である。
【0054】
IFN-βを気道送達するための好適な組成物は、例えば、米国特許第6,030,609号に記載されるように、凍結乾燥したIFN-βを、IFN-β活性剤の効果を高めるために必要に応じて1種以上の担体、安定剤、界面活性剤または他の薬剤を添加した製薬上許容される溶媒(蒸留滅菌した水または滅菌生理食塩水)に溶解することによって処方することができる。
【0055】
予防的または治療的に有効量のIFN-β、薬剤または本明細書中に記載されるポリヌクレオチドを含む組成物を、エアロゾル噴霧器によって肺気道に都合よく送達することができる。適切な有効量は、適切な臨床試験によって決定でき、例えば、投与されるかまたは誘導されたIFN-βの活性によって変わる。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを例えば、マイクログラムの量で投与できる。これらを治療すべき個体に、投薬形態に適合する方法で、望ましい効果をもたらすのに有効な量で投与する。送達されるべき量は、治療されるべき被験体に応じて、1μg〜5 mg、例えば1〜50μgでありうる。必要とされる正確な量は、治療される個体の年齢および全身症状、選択した薬剤ならびに他の要因によって変化する。例えば、250μgのIFN-βを1日おきに投与するか、あるいは30μgのIFN-βを週に1回投与することができる (Cook, J Neurol, 2003;250 補遺4:15-20;Durelli, J Neurol 2003;250補遺4:9-14)。
【0056】
IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを単独で、または別の治療化合物と組み合わせて投与できる。特に、IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを、個体の呼吸器疾患を治療するために用いられる治療化合物と共に投与できる。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドおよび付加的な治療化合物を、同一または異なる組成物中に処方できる。1つの実施形態において、IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを吸入コルチコステロイドと組み合わせて、喘息を有する個体に投与する。IFN-β、薬剤またはポリヌクレオチドを、吸入コルチコステロイドと同時に、逐次的にまたは別々に投与しうる。
【0057】
このように、本発明のさらなる態様において、喘息を治療するための製品を提供する。これは(i) (a) IFN-β、(b) IFN-βの発現を増加させる薬剤 および(c) (a)または(b)を発現することができるポリヌクレオチド、から選択される第1薬剤、ならびに(ii) 吸入コルチコステロイドを、同時に、別々にまたは逐次的に気道投与するために含む。好ましくは、このような製品は、同時に、別々にまたは逐次的にIFN-βおよび吸入コルチコステロイド(フルチカゾン、ベクロメタゾンおよびブデソニドなど)を投与するために与える。
【0058】
例えば、上記の第1薬剤と吸入コルチコステロイドを、気道へのエアロゾル送達に好適な単一の医薬組成物の形態で与えうる。
【0059】
以下の実施例は、喘息およびCOPDの双方のライノウイルスが誘発する増悪を治療することに関する本発明を説明するために与える。
【実施例】
【0060】
実施例1:喘息患者の気管支上皮細胞の研究
材料および方法
被験体
全ての被験体は非喫煙者であり、4週間前より肺疾患の増悪も呼吸器の感染暦も有さなかった。一般的なエアロアレルゲン(ハウスダストダニ抽出物、草木の花粉、樹木の花粉、猫の鱗屑、犬の鱗屑、カンジダ(Candidia)、アスペルギルス(Aspergillus)を含む)ならびにネガティブコントロール(食塩水)およびポジティブコントロール (ヒスタミン)のパネルを用いたアレルギー皮膚テスト。テストは、ネガティブコントロールよりも3mmまたはそれ以上大きな膨疹反応が見られた場合、陽性とみなした。肺機能を肺活量測定により、1秒間の強制呼気量(FEV1)および強制肺活量(FVC)を測定することによって調べた。次に、気管支の過剰反応を、8mg/ml未満のPC20 ヒスタミンにより規定されるヒスタミンで誘発して調べた。喘息を有する被験体をGINAガイドラインによる臨床的重症度(National, H., Lung and Blood Institute. Global strategy for asthma management and prevention 96-3659a, Bethseda, 1995)に基づいて分類した。
【0061】
喘息を、8mg/ml未満のPC20 ヒスタミンにより規定される、気管支過剰反応の証拠を有する一貫した病歴によって診断した。喘息の被験体を、必要とされる場合のみ(1週間に3回未満)サルブタモールを用いた治療を必要とする安定した症状を有し、1日に1500μg未満の吸引ベクロメタゾンによる安定した症状を有する穏やかな疾患を有する、程度の軽いものとして分類した。健全なコントロールは、これまでに肺疾患の病歴がなく、正常肺機能を有し、ヒスタミン誘発による気管支過剰反応の証拠はなく、またアトピーではなかった。この研究は関連する倫理委員会によって承認された。全ての被験体は書面によるインフォームドコンセントを受けた。
【0062】
表2に、本研究に用いられた被験体の特徴の概要を示す。予測FEV1 %とは、1秒間の強制呼気量をパーセントで表した予測値をいう。ICSとは、吸入コルチコステロイドをいう。用量は1日あたりのベクロメタゾン (BDP)の用量(μg)で表される(1μg BDP =1μg ブデソニドまたは0.5μg フルチカゾン)。
【表2】
【0063】
組織培養
上皮細胞を、公表された標準的なガイドラインに従って、ファイバーオプティック気管支鏡を用いて得た。全ての被験体にはサルブタモールを予め投与し、(Hurd, J Allergy Clin Immunol, 1991;88:808-814)そして細胞培養をこれまでに報告されているように行った (Bucchieriら、Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., 2001;27:179-185)。要するに、細胞をシースドナイロン(sheathed nylon)細胞学ブラシを用いて、直接視で第2〜3世代の気管支を5〜10回擦過して得た。新たに擦過した気管支上皮細胞を培養皿に播種することによって、初代培養物を確立した。細胞を50U/ml ペニシリンおよび50μg/ml ストレプトマイシンを含有するホルモン添加した気管支上皮増殖培地(BEGM;Clonetics, San Diego, USA)中において、37℃かつ5%二酸化炭素にて培養した。細胞を培養し、トリプシンを用いて組織培養フラスコに継代した。2回目の継代時に、細胞を12ウェルトレイに播種し、80%コンフルエントな状態になるまで培養した (Bucchieriら、Am J Respir Cell Mol Biol, 2001;27:179-185)。上皮細胞の純度を回収した細胞のサイトスピンにおいて異なる細胞を数えることによって調べた。
【0064】
細胞を単に処理するか、または主要なグループであるRV-16に感染した後に処理した。感染後、細胞をさらに、120μMのカスパーゼ3阻害剤であるZVD-fmk(Calbiochem, La Jolla, CA, USA)、および100IUのヒトIFNβ(Sigma Chemical St Louis MO, USA)を用いて処理した。
【0065】
RVの調製および感染
本願発明者らは、これまでに報告されているようにOhio HeLa細胞の培養物を感染させ;細胞および上清を回収し、細胞を凍結解凍することによって破壊し、細胞片を低速遠心分離によってペレット化し、そして清澄した上清を-70℃で凍結して、RV-16ストックを作製した(PapiおよびJohnston, J Biol Chem, 1999;274:9707-9720)。
【0066】
RV滴定を、96ウェルプレート中コンフルエントな単層のHeLa細胞を10倍連続希釈したウイルスストックに曝し、5% CO2中37℃にて5日間培養して行った。細胞変性効果を調べ、次に50%組織培養感染量(TCID50/ml)を測定し、そして感染多重度 (MOI)を導き出した (PapiおよびJohnston, J Biol Chem, 1999;274:9707-9720)。全ての実験のネガティブコントロールとして、RV-16を、30分間1200μJ/cm2 の紫外線ライトによる紫外線照射に曝すことによって不活性化した。HeLa細胞におけるウイルス滴定を繰り返すことによって、不活性化を確認した。
【0067】
所望される濃度のRV-16を細胞に添加し、この細胞を、室温にて1時間、150rpmにて穏やかに振盪した。次に培地を取り除き、そしてウェルを1mlのハンクス平衡塩溶液を用いて2回洗浄した。次に、新たに培地を加え、そして細胞を37.5℃かつ5% CO2にて、所望される時間培養した。ネガティブコントロールとして、細胞を培地のみ、および紫外線で不活性化したRV-16を用いて処理した。
【0068】
上皮細胞感染の確証およびウイルス産生の定量化を、HeLa 滴定アッセイ (Papi およびJohnston, J Biol Chem, 1999;274:9707-9720)および定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (qPCR)(下記)によって調べた。
細胞生存率の分析
生存率およびアポトーシスを、これまでに報告されているようにフローサイトメトリーを用いて調べた (Puddicombeら、Am J Respir Cell Mol Biol, 2003;28:61-68)。簡潔にいえば、RV 感染から8時間の後、接着性細胞をトリプシンを用いて取り出し、非接着性細胞に添加した。細胞を、フルオロクロームフィコエリトリン (PE)にコンジュゲートしたアネキシン-V とバイタル色素7-アミノ-アクチノマイシン (7-AAD)を用いて染色した。フローサイトメトリーのデータをWinMDI 2.8を用いて分析した。カスパーゼ 3/7の活性形態を、Apo-One Homogenous Caspase 3/7アッセイ(Promega, Maddison, USA)を用いて検出した。細胞を4通りの各条件で播種した。2つのウェルをメチレンブルーで染色し、細胞の現存量を測定した。その他の2つのウェルを溶解緩衝液を用いて溶解し、励起波長485nmおよび蛍光波長530nmで蛍光プレートリーダーにおいて読み取った。次にカスパーゼ活性を細胞生存量に関して補正した。取り出され、そして48時間未満の間室温にて保管されていた細胞上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ (LDH)の活性を測定することによって、細胞溶解を測定した。LDH活性を、基質としてピルビン酸(Sigma, St Louis USA)を用いた酵素学的速度法(enzymatic rate method)により、37℃にて測定した。
【0069】
逆転写定量的PCR
IL-8、TNFα、ICAM-1、IFNβおよびRVの遺伝子発現分析を、TRIzol 試薬 (Life Technologies, Paisley, UK)を用いてBECより抽出したRNA(混入したDNAを製造者の指示に従ってRNeasy Mini Kits (Qiagen, Crawley, West Sussex, UK) を用いたデオキシリボヌクレアーゼ消化によって除去した)を用いて行った。総RNA (1μg)を、製造者のプロトコルに従ってReverse Transcription System (Promega, Southampton, UK)のランダムヘキサマーまたはオリゴ(dT)15 プライマーおよびトリ骨髄芽球症 ウイルス転写酵素を用いて逆転写した。蛍光発生プローブを、5'-レポーター色素 6-カルボキシ-フルオレセイン (FAM)および3'-クエンチャー色素 6-カルボキシ- N,N,N',N'-テトラメチル-ローダミン (TAMRA)を用いて標識した。
【0070】
ハウスキーピング遺伝子プライマーおよび18SリボゾームRNAのプローブを、Eurogentech (Eurogentech, Southampton, UK)より得た。鋳型のないコントロールおよび逆転写ネガティブ試料もコントロールとして含めた。icycler PCRプロトコルは以下のとおりであった:95℃にて8分間;その後95℃にて15秒の変性、続く60℃にて1分間のアニーリング、そして72℃にて15秒間の伸長の42サイクル。PCRの定量化およびリアルタイムの検出はon icycler 配列検出系に従った。PCR完了後、蛍光発光の基準線についての閾値を、FAMおよびVICレイアのバックグラウンドレベルの真上に設定した(15〜20サイクルまで)。標準曲線をデルタCTより算出し、標的遺伝子と18S rRNA 内在性コントロールについて作成した。そして標的および内在性コントロールの量を算出した。データを内在性コントロールに対する標的遺伝子の量の比率を用いて規準化した。IL-8のmRNA誘導が最大となる時間であるため、感染から8時間後に比較を行った。
【0071】
RV-16の定量化は上記とは異なっていた。RVを検出するために用いたプライマーは、0.05μM ピコルナウイルス順方向オリゴ(5'-GTG AAG AGC CCGC AGTG TGC T-3')と0.30μM ピコルナウイルス逆方向オリゴ(5'-GCT CGCA GGG TTA AGG TTA GCC-3')であった。OL-26-OL-27 アンプリコン (PCR 2.1 TOPO (Invitrogen)にクローン化されたOL-26およびOL-27プライマーの産物)を用いてRVを定量するために、標準曲線を作成した。プラスミドをE. coli 株XL-1blue (Stratagene)中で増殖し、市販の試薬(Qiagen)を用いたmaxiprep法により精製し、Tris EDTA緩衝液 pH 8.0に1μg/μLで再懸濁し、そして−80℃で保存した。
【0072】
ICAM-1の発現
細胞におけるICAM-1の発現を、感染直後、およびRV感染から24時間後までに、ICAM-1に対するモノクローナル抗体 (eBioscience 抗ヒトCD54)およびFITC標識された二次抗体(Dako, Denmark)を用いた上記フローサイトメトリーによって、基準線を用いて測定した。
【0073】
ELISAによる炎症媒介物の測定
インターロイキン (IL)-8、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)(R&D systems, Abingdon, UK)およびインターフェロン-β(IFN-β) (Biosource Nivelles Belgium)の培養上清への放出を、製造者の指示に従って酵素免疫測定法(ELISA)を用いて測定した。
【0074】
統計学的分析
データをSPSS version 10.1 (SPSS Inc)を用いて分析した。試料の大きさは小さく、変数は正常に分布していなかったために、グループ間の差異を非パラメトリック試験を用いて分析した; 2つの依存変数間の差異を符号順位検定、独立変数(ウィルコクソンの順位和検定)および多重比較(Kruskal Wallis検定)を用いて分析した。0.05未満のp値を有意であるとみなした。
【0075】
結果
正常および喘息の気管支上皮細胞(BEC)の反応を比較するために、臨床的に特徴付けられた有志よりファイバーオプティック気管支鏡により得た気管支擦過検体より初代培養を増殖した。RV-16を用いたBECの感染に関する用量および時間経過を、感染細胞より得た培養上清中のIL-8の放出を測定することによって、まず最適化した。これらの実験から、推定MOIが2であるRV-16用量を詳細な研究に用いた (データは示さない)。
【0076】
RV-16感染に対する正常および喘息のBECの炎症性反応
正常気管支上皮細胞と喘息の気管支上皮細胞との差異を調べるために、本願発明者らは14人の喘息を有する被験体と10人の正常なコントロール(表2を参照のこと)を新たに加え、ファイバーオプティック気管支鏡を受けさせた。2つの被験体群は年齢および性別に関して類似していた。全ての喘息を有する被験体は、穏やかで中程度のいつまでも続く症状を有しており、定期的に吸入コルチコステロイドを用いた。初代BEC培養物のRV-16感染に対する反応をまず、IL-8およびTNFαのmRNA発現誘導ならびにタンパク質放出を測定することによって比較した(図1a,c)。喘息または健全なコントロールのいずれかに由来するBECは、RV 感染の8時間後に、IL-8およびTNFαのmRNAの有意な誘導を示し、感染の48時間後にはIL-8およびTNFαのタンパク質放出が有意に増加した(図1b,d);2つのグループ間に有意な差異は無かった。紫外線によって不活性化したRVは前炎症反応を引き起こさなかった。
【0077】
主要群RVで細胞を処理したために、感染に対する感受性はICAM-1(主要群RVの受容体)の発現に依存すると予測された。喘息の細胞と正常な細胞で感染に対する感受性が異なるか否かを決定するために、ICAMのレベルをフローサイトメトリーによって評価した。感染前に、ICAM-1の発現はいずれの群においても有意に異なっていなかった (図1e)。感染から24時間後まで、両群における発現は類似した (図1f)。
【0078】
感染、ウイルス産生および初代気管支上皮細胞の細胞溶解液
BEC培養物のRV-16感染の後、生存可能なRVの回収率を、感染の伝染および感染したBECの上清によるOhio HeLa細胞における細胞変性効果 (CPE)によって測定した。感染後8時間までであって、初代培養の感染の後ウイルス粒子を産生した後に得られた上清を用いてもCPEは観察されなかったが、その後48時間まで徐々に生じた。前炎症反応に対して、喘息のBECは、24時間および48時間で検出されるTCID50で表されるRV-16が有意に大きく増加した(図2a)。健全なコントロールと比べて喘息においてはまた、感染から8時間後にRV-16 mRNAがより多く産生された(図2b)。ICAM-1の発現レベルが同等であるとすると、感染に対する即時感受性以外の要因が、感染細胞からのウイルス産生に影響していたことを示唆している。
【0079】
ウイルスの放出と並行して、RV産生の増加を示すLDH活性が、細胞溶解液中で累進的に増加した;48時間まで、喘息の細胞で有意に多かった(図2c)。SFMのみで処理した細胞におけるLDH活性は48時間において有意に増加しなかったが、紫外線で不活性化したRV-16で処理した細胞においては、わずかではあるが有意に増加した(データは示さない)。しかし、この増加は、活性なウイルスの培養物で見られる増加と比べるとわずかであった。これらの結果は、ウイルス産生と細胞溶解液との間の関連を示し、細胞生存率における初期の変化がウイルス産生を予測できるか否かを調べる気にさせた。
【0080】
RV-16感染後のBECの生存率
アポトーシスがウイルス複製に対して細胞を保護する天然の防御であるため、本願発明者らは、アネキシン-V (AxV)および核染色(7-アミノアクチノマイシンD (7AAD))を用いて、RV-16に反応した細胞死の性質を特徴づけ、アポトーシス細胞の外側表面に外在化されているホスファチジルセリンを識別した。フローサイトメトリーの分析によって、正常なBECのRV-16感染から8時間の後に、生存可能な細胞(すなわち、AxV−/7AAD−)の数が有意に減少したことが明らかとなった。これは、培地のみまたは紫外線で不活性化したRV-16で処理した細胞では見られず、感染と細胞死との直接的な関連を示している(図3a)。それに対して、喘息のBECのRV-16による感染は8時間における生存率にわずかに影響した(図3a)。AxV+/7AAD−細胞(すなわち、アポトーシス細胞)とAxV+/7AAD+細胞(すなわち、壊死細胞)とを比べることによって、正常BECと喘息のBECの全体的な生存率の差異が、正常な培養物におけるアポトーシスの有意な増加により見出された (図3b)。感染細胞におけるアポトーシス誘導を、変化したミトコンドリア膜の透過性をApoAlert Mitochondrial Membraneセンサー(Clontech, Palo Alto Ca, USA)を用いて示すことによって(データは示さない)、また活性なカスパーゼ 3/7の活性化を測定することによって確認した。後者の場合、正常なBECよりもRV-16に感染した喘息のBECにおいて、活性なカスパーゼが有意に少なかった(図4a)。
【0081】
アポトーシス阻害の効果とRV-16産生
喘息のBECによる増加したウイルス粒子の産生が、喘息のBEC のアポトーシスを回避する能力に関連していたため、本願発明者らは、RV-16に感染した正常BECにおけるアポトーシスの抑制がウイルス粒子の産生を促進するのに十分であるか否かを調べた。BECをRV-16による感染の前後に、カスパーゼ 3阻害剤 (C3I)であるZVD-fmkを用いて処理した。阻害剤により健全なコントロール細胞におけるアポトーシスの著しい減少が生じたが、感染のみと比べて喘息の細胞における効果は小さかった(図4b)。健全なコントロールの細胞のC3Iによる処理もまた、48時間における伝染性感染が有意に増加し、RV-16産生に直接的に影響したが、C3Iで処理した喘息の細胞においては同様の増加は見られなかった(図4c)。これらのデータにより、初期のアポトーシス阻害と増加したウイルス産生との直接的な関連を得た。
【0082】
喘息の上皮細胞の生得的な抗ウイルス反応の評価
喘息のBECによる異常な抗ウイルス反応に関連する根本的な機構を調べるために、本願発明者らは、ウイルス感染に応答するアポトーシスの重要な制御因子であると考えられているI型インターフェロン (IFN) (IFN-β)(Samuel, Clin Microbiol Rev, 2001;14:778-809;Takaokaら、Nature, 2003;424:516-523)の発現を分析した。前炎症性サイトカインで観察した場合、RV-16感染から8時間後、正常BECによるIFN-βmRNA発現において有意な増加があったが、喘息の細胞においては同様の増加は見られなかった(図5a);またRV-16感染から48時間後の喘息の細胞によるIFN-β産生も少なかった(図5b)。このIFN-β産生の差異が機能的に関連したことを確認するために、本願発明者らは、RV-16に感染した喘息のBECにおいて、外因性IFN-βがアポトーシスを誘導する能力について試験した。図5cは、IFN-β(100IU)を用いた細胞のRV-16による前処理によって、倍の数のアポトーシス細胞を生じたことを示す。IFN-βのみでは、アポトーシス指標に有意な影響を及ぼさなかったが、合成ポリ(I):ポリ(C)への暴露に応答して顕著なアポトーシス誘導を生じた。このことはIFN-βに応答してアポトーシスを行うために、二本鎖 RNAの認識を含む他のシグナルを必要とすることを示す。ウイルスに感染した喘息のBECのアポトーシスを誘導する能力と共に、IFN-βはRV-16感染性ウイルス粒子の産生の有意な減少を生じた(図5d)。
【0083】
これらの結果より、喘息の患者がRV 感染の結果として長引く下気道の問題を有する傾向があることについての最初の説明を与える。喘息の状態にかかわらず、上気道から下気道へのRVの拡散によって、気管支上皮細胞の感染および、急性炎症性反応の誘導を生じうる。さらなる感染は、非喘息の患者において、生得的な抗ウイルス反応および感染細胞におけるアポトーシス誘導によって制限されるが、喘息におけるIFN-βの欠乏は、ウイルス粒子の複製および有害な結果を伴う細胞溶解を促進する。これらは隣接細胞感染の高まる危険性およびウイルスによる細胞溶解効果に対して応答する拡大した炎症性反応を含む。決定的に、この欠損はin vitroにおいて外因性IFN-βの供給によって回復することができ、ウイルス複製を抑制すること、ならびに感染および炎症の自己永続性サイクルを最小化することができる。よって、IFN-βまたはIFN-βを誘導する薬剤は、ウイルスによって誘発された喘息増悪の間、治療的用途を有するものと考えることができる。
【0084】
実施例2:COPD患者の気管支上皮細胞の研究
慢性閉塞性肺疾患は炎症性気道疾患の別の例であり、感冒ウイルスが増悪を引き起こし(Seemungal TA, Harper-Owen R, Bhowmik A, Jeffries DJ, Wedzicha JA.Detection of rhinovirus in induced sputum at exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease. Eur Respir J. (2000) 16, 677-83)、しばしば入院を必要する症状を伴う(MacNee W. Acute exacerbations of COPD. Swiss Med Wkly. (2003) May 3;133 (17-18):247-57)。喘息の被験体の気管支上皮細胞が欠損したI型インターフェロン応答を有するという知見に基づいて、COPDにおける同様の欠損によってまた、この患者群の下気道症状の重篤度を説明することができると仮定された。この可能性を調べるために、培養気管支上皮細胞の保存されている試料(archival sample)をRV-16感染に対するそれらの反応について試験した。これらの細胞は、COPDを有する2人の被験体 (男性1人および女性一人、それぞれ61歳および57歳)ならびにCOPDを有さない年齢が一致したコントロール (男性、64歳)より回収した気管支擦過検体より増殖した。継代0にて細胞を、凍結保護剤として10% DMSOを含有するBEGM培地中に−170〜−180℃にて凍結保存したことを除いて、擦過検体を、喘息研究について記載したとおりに培養した。凍結保存を細胞培養物の長期保存のために慣用的に用いる。
【0085】
実験法に必要とする場合、凍結細胞培養物を1mlの予め暖めたBEGMに迅速に解凍し、次に新しい培地を入れた培養フラスコに再播種し、継代2まで増殖させた(正常および喘息の被験体の気管支上皮細胞の培養物については、実施例1に記載されるとおり)。継代2にて、細胞を12ウェルトレイに播種し、80%コンフルエントな状態まで培養した。次にこれらを上記と同一のプロトコルを用いてRV-16に曝した。
【0086】
COPD患者および非COPD患者の初代BEC培養物の生得的な免疫応答を比較するために、RV-16を用いた感染(2 moi)に対する反応における、IFN-β mRNAの誘導を測定した。図6に示すように、RV-16感染から8時間後に非COPD患者のBECは、25倍のIFNβ mRNA誘導を示したのに対し、COPD BECの反応は3分の1未満であった。この乏しい生得的な免疫応答と一致して、COPD被験体の細胞の24時間におけるウイルス粒子の産生は一桁の規模で多かった (図7)。
【0087】
次に、外因性IFN-βがウイルス複製からCOPD患者のBECを保護することができるか否かを試験した。図8および9に示すように、別のCOPD患者の細胞はまた、RV-16感染に反応する乏しいIFN-β誘導を示した。しかし、これらはIFN-β mRNAの活発な誘導による外因性IFN-βに反応することができた。これはTCID50が100倍減少するRV-16 複製の顕著な抑制を伴い、これは非COPDの有志の細胞にてみられるTCID50よりも低かった。
【0088】
これらの結果は、上記喘息の被験体のBECについての研究よりわかるように、COPD患者のBECもまた、乏しい生得的な免疫応答を有することを示唆する。このことは、なぜこれらの患者が、RV感染の結果として長引く下気道の問題を有するのかを説明することに役立つ。IFN-βが自身の発現を誘導でき、RV-16の複製を抑制できるという事実に基づいて、IFN-β、またはIFN-βを誘導する薬剤が、COPD、ならびに喘息のウイルスによって誘発された増悪の間の治療的用途を有すると予測することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)から選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を治療するための医薬の製造における、
(a)肺において内在性インターフェロンβ(IFN-β)の発現を増加させる薬剤、又は、
(b)(a)の薬剤を発現できるポリヌクレオチド、
の使用であって、前記治療は前記医薬の気道送達によりなされるものである、前記使用。
【請求項2】
前記呼吸器疾患が喘息である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記呼吸器疾患がCOPDである、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が気管支上皮において内在性IFN-βの発現を増加させる、請求項1〜3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記呼吸器疾患が喘息であり、且つ前記医薬が吸入コルチコステロイドと同時に、別々に又は逐次的に投与されるものである、請求項2又は4記載の使用。
【請求項1】
喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)から選択される呼吸器疾患のライノウイルスが誘発する増悪を治療するための医薬の製造における、
(a)肺において内在性インターフェロンβ(IFN-β)の発現を増加させる薬剤、又は、
(b)(a)の薬剤を発現できるポリヌクレオチド、
の使用であって、前記治療は前記医薬の気道送達によりなされるものである、前記使用。
【請求項2】
前記呼吸器疾患が喘息である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記呼吸器疾患がCOPDである、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が気管支上皮において内在性IFN-βの発現を増加させる、請求項1〜3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記呼吸器疾患が喘息であり、且つ前記医薬が吸入コルチコステロイドと同時に、別々に又は逐次的に投与されるものである、請求項2又は4記載の使用。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−144201(P2011−144201A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93677(P2011−93677)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【分割の表示】特願2007−502414(P2007−502414)の分割
【原出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(505093736)ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【分割の表示】特願2007−502414(P2007−502414)の分割
【原出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(505093736)ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン (6)
【Fターム(参考)】
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