説明

呼息抵抗弁

【課題】気道閉塞を改善することで動的肺過膨張を抑制する効果が得られるステント型の呼息抵抗弁を提供する。
【解決手段】気管支内に設置される呼息抵抗弁50であって、気管支51から呼吸域への空気の流れを許容し、吸息時には弁体自体が気管から肺胞実質への空気の流れを許容し、呼息時には肺胞実質から気管への流れを抑制することで、呼息時には弁体より末梢側の気道内圧が上昇して気道の虚脱を防止することができる逆方向の流れを制御する弁体を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼息抵抗弁に関し、特に呼吸域に留置するステント型の呼息抵抗弁に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、正常な呼吸を妨げる肺疾患の広範な群を意味し、肺が、喘息、肺気腫及び慢性気管支炎から選択される、少なくとも1つの疾患の存在により閉塞する疾患であり、COPDと関連のある2つの最も重篤な状態としては、慢性気管支炎および肺気腫がある。
【0003】
このうち、肺気腫は、ガス交換の場となる呼吸細気管支や肺胞および肺胞嚢などの肺胞実質と呼ばれる組織に破壊をともなった異常な拡大が生じた状態をいう。正常な肺胞実質は呼息時に収縮するが、気腫化した肺胞実質は呼吸により拡張した後はもとにはもどらない。このため、呼気を十分に行えない。その上、肺胞の有効面積や血管床(肺胞の表面に縦横に走る毛細血管)が減るため、肺全体の換気能力が低下する。加えて、炎症によりエラスチンやコラーゲンなどが破壊されているため、肺の弾力性も低下し、気道を引っ張って広げていることができず、気管支が変形しやすい状態になっている。このため、呼気のときに肺が縮むと、その気管支が空気に満たされた周りの肺胞に圧迫されて狭くなり、肺が過膨脹し、空気が出にくくなる。
【0004】
現在のところ、COPDの治療法としては、在宅酸素療法、薬物療法、呼吸リハビリテーション、鼻マスクを使った非侵襲的陽圧呼吸療法、肺容量減少手術療法が挙げられる。在宅酸素療法や口すぼめ呼吸、腹式呼吸などの呼吸リハビリテーションは、肺機能が重度に傷害されているため、空気から充分な酸素を吸収できない状況において、しばしば使用されるが、症状を緩和するだけであり、有効な治療方法とはいえない。また、薬物療法としては、気管支拡張薬を使用して、肺内の気道の開放を助け、息切れを少なくする方法;吸入用ステロイド剤や経口用ステロイド剤を使用することで、気道内の炎症を減らす方法;抗生物質を用いて、付加的な感染を予防・治療する方法;去痰薬を使用することで、気道からの粘液を取り除く方法などがある。しかし、全てのこれらの薬物療法は、肺気腫の制御や症状の緩和の助けとなるが、有効な治療法とはいえない。加えて、過度に膨張した肺の損傷部分を除去し、肺の正常部分の膨張を促す肺容量減少手術療法などの外科的治療方法もあるが、この方法は患者への負担が大きく、また、代替される肺の確保が困難である。さらに、鼻マスクを使った非侵襲的陽圧呼吸療法では、鼻マスクで鼻周囲(特に鼻根部)の皮膚が圧迫壊死や褥創を引き起こす問題がある。ゆえに、肺気腫の有効な治療方法は、現在のところ当該分野には存在しないのが実情である。
【0005】
かかる実情を解決するために、例えば特許文献1のように肺容量を減少する目的で人工弁を内視鏡により気管支に挿入する治療法がある。当該特許文献1では、両端部が開口する円筒状の編組構造の表面の一部に非透過性材料がコーティングされており、かつ当該円筒状の編組構造の一部が狭窄され漏斗状の構造を有し一方弁が備えつけられている肺容量減少弁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−511173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の肺容量減少弁は中枢側(気管支)から末梢側(呼吸域)に向けての空気の流入は防止するが、末梢側から中枢側に向けては空気を制御せずに流出させる構造であるため、呼気時に弁よりも末梢側の気管支内を陽圧に保つことが出来ない。さらに特許文献1では、当該弁を内視鏡で挿入するためガス交換部である肺胞実質近傍の気管まで挿入できないことに起因して、気腫化した肺胞実質を多く含む呼吸域内だけを選択的に封鎖することが困難であり、結果的に正常な呼吸域への空気流入をも妨げ正常な肺の換気機能を低下させる。加えて、特許文献1の肺容量減少弁は、気腫化した肺胞実質への空気の流入を防止するために設置されるが、気腫化した肺胞実質は多くの場合に側副路を有しており、前記弁を設置しも周辺の気管支や肺胞実質から側副路を介して空気が流入するために、肺容量の減少を達することが困難な場合が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は上記問題を解決するために、気管支内に設置される呼息抵抗弁であって、気管支から呼吸域への空気の流れを許容し、逆方向の流れを制御する弁体を備えることを特徴とする呼息抵抗弁である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るステント型の呼息抵抗弁によれば、当該弁を境界に肺胞実質側の気道内圧が上昇し、気道の虚脱を防ぎ気道閉塞を改善することができるため、動的肺過膨張を抑制する効果が得られる。また、肺への空気の流入を妨げることが無いので、正常な肺の換気機能を妨げない。さらに、気腫化した気管支や肺胞実質に側副路が存在した場合でも、そもそも呼気時の気道の虚脱を防ぎ気道閉塞を改善、空気を流出させるので問題がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のステント本体の一例の展開した状態を示す図である。
【図2】本発明のステント本体の一例を示す図である。
【図3】本発明の逆止弁状弁体の一例および本発明の逆止弁状弁体の作用を模式的に示す図である。
【図4】本発明の呼息抵抗弁を近位側から遠位側を見た平面図およびその断面図、ならびに本発明の呼息抵抗弁の作用を模式的に示す図である。
【図5】本発明のステント本体における回動部の一例を示す図である。
【図6】本発明の呼息抵抗弁を近位側から遠位側を見た平面図である。
【図7】図6の平断面図である。
【図8】本発明のステント本体の骨格の形状の一例を示す図である。
【図9】図8のステント本体の骨格の一部を示す図である。
【図10】本発明の骨格ユニットにおけるL字型のツメ部を示す図である。
【図11】本発明のステント本体の製造方法の一例を示す図である。
【図12】本発明の呼息抵抗弁の一例を示す図である。
【図13】本発明の呼息抵抗弁を留置する方法の一例を示す図である。
【図14】本発明の呼息抵抗弁を留置する方法の一例を示す図である。
【図15】本発明の呼息抵抗弁の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第一は、気管支内に設置される呼息抵抗弁であって、気管支から呼吸域への空気の流れを許容し、逆方向の流れを制限する弁体を備えることを特徴とする呼息抵抗弁である。
【0012】
COPDなどの疾患は、閉塞性換気障害を特徴とする疾患であり、気腫化した肺胞または肺胞嚢(以下、肺胞または肺胞嚢を「肺胞実質」とも称する)では、呼気時の気流制限および細気管支の虚脱・閉塞により、肺胞実質内部に取り込んだ空気を吐き出すことが出来ない。
【0013】
本発明に係わる呼息抵抗弁は、吸息時には弁体自体が気管から肺胞実質への空気の流れを許容し、呼息時には肺胞実質から気管への流れを抑制することで、呼息時には弁体より末梢側の気道内圧が上昇して気道の虚脱を防止することができ、COPDなどでみられる中枢および末梢気道の虚脱・閉塞による呼気の気流制限を防止することが出来る。
【0014】
また、当該弁体を例えば径方向に伸縮自在な管状のステントなどに設置することで、所望の場所に留置することができ、かつ所望の呼吸域の圧力を制御することができる。そのため、本発明に係るステント型の呼息抵抗弁は、当該弁を境界に肺胞実質側の気道内圧を上昇させ、気道の虚脱を防ぎ気道閉塞を改善するものである。
【0015】
本発明に係る呼息抵抗弁は、径方向に伸縮自在な管状のステント本体と、弁体とを有することが好ましく、気管域内に設けられ、径方向に伸縮自在な管状のステント本体と、前記ステント本体内に設けられ、当該ステント本体内における気管から肺胞実質への空気の流れを許容し、逆方向の流れを制限する弁体と、を備えることを特徴とする呼息抵抗弁であることが好ましい。以下、ステント本体および(逆止弁状)弁体を詳説する。
「ステント本体」
図1は、本発明に係るステント本体の一態様を長軸方向に切断し展開した状態を示す図である。次に、ステント本体の骨格を構成する各構成要素について、以下により詳細に説明する。
【0016】
ステント本体1は、両端部が開口する円筒体である。円筒体の側面は、その外側面と内側面とを連通する多数の切欠部11を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっており、気道、気管支のような生体管腔内に留置され、その形状を維持する。
【0017】
図1に示す態様において、ステント本体1は、弾性線材2からなり、同一平面上に波形に成形した線材の両端を環状になるよう連結した要素を基本単位とし、当該基本単位を、軸方向に複数個連結した構造である。換言すると、ステント本体は、弾性線材からなり、内部に切欠部を有する略菱形の要素11を基本単位とする。複数の略菱形の要素11が、略菱形の形状がその短軸方向に連続して配置され結合することで環状ユニット12をなしている。環状ユニット12は、隣接する環状ユニットと線状の弾性連結部材13を介して接続されている。これにより複数の環状ユニット12が一部結合した状態でその軸方向に連続して配置される。ステント本体は、このような構成により、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体をなしている。そして円筒体の側面は、略菱形の切欠部を有しており、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっている。
【0018】
本発明に係るステント本体は、弁体を支持する第1支持部材と、弁体の変形を制限するストッパとしての第2支持部材と、から構成される弁体支持部(ツメ状の弁体支持部を含む)を備えることが好ましく、当該弁体支持部については、後述する「呼息抵抗弁」の欄で詳説する。
【0019】
図2は、本発明に係るステント本体の他の一態様を示す斜視図である。以下、当該ステント本体の骨格を構成する各構成要素について、詳細に説明する。
【0020】
図2に示す態様において、ステント本体1は母線材151から構成され、当該ステント本体1は、両端部が開口する円筒体であり、母線材151を略矢尻のような枠150に成形された骨格ユニット153を基本単位とし、当該骨格ユニット153を環状に配置したものである。当該骨格ユニットの先端および/または後端に屈曲部が形成されることで、この屈曲部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっており、気道、気管支のような生体管腔内に留置され、その形状を維持する。なお、当該屈曲部の形状は特に制限されることはなく、円弧状であっても角状であっても制限されず、さらにステント本体外部に凹状であっても凸状であってもよい。
【0021】
図2に示されるように、本発明に係るステント本体は、軸方向に伸延し、枠状に成型された母線材からなる骨格ユニット153、および前記母線材より突出成型されたツメ状の前記弁体支持部155、158から構成され、かつ前記骨格ユニット153を環状に配置されてなることが好ましい。
【0022】
また、後述で詳説するが、当該ステント本体1は、さらに、母線材151より突出成形された線材であるツメ状の弁体支持部155、158が形成されており、当該弁体支持部は、前記ユニットの放射方向内方(すなわちステント本体の軸中心)に向かって突出されて設けられている。
【0023】
さらに、図2では弁体支持部の数は4本であるが、当該弁体支持部の数は特に制限されることは無く、少なくとも3本〜8本形成されていることが好ましく、これら当該弁体支持部は、ステント本体断面の同一平面上に形成されていれば、ステント本体における位置は特に制限されない。また、図2では、骨格ユニット153が8個のステント本体を例示しているが、本発明に係るステント本体においては、当該骨格ユニットの数も特に制限されることはない。
【0024】
また、当該ツメ状の弁体支持部は、(逆止弁状)弁体と固定される第1支持部材155と、(逆止弁状)弁体の変形を制限するストッパとしての第2支持部材158としての役割を有することが好ましい。
【0025】
なお、本発明によるステント本体の一例の構造は、図示した態様に限定されず、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体であって、その側面上に、外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造を広く含む概念であり、コイル形状もまた本発明の概念に含まれる。
【0026】
上記ステント本体を構成する切欠部の形状についても、図1に示すような楕円形に限定されず、円形、菱形、三角形、正方形、長方形、矩形、略矢尻型、その他多角形等、他の形状であってもよい。
【0027】
本発明に係るステント本体の材料としては、ポリマー材料、金属材料、炭素繊維、セラミックス等が挙げられ、これらの材料は単独で使用されてもあるいは適宜組み合わせて使用されても良く、ある程度の剛性と弾性を有するものであれば特に制限はないが、生体適合性を有する材料であることが好ましく、金属、ポリマー材料、炭素繊維であることがより好ましく、金属およびポリマー材料であることがさらに好ましい。
【0028】
具体的には、前記ポリマー材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の脂肪族ポリエステル、セルロースアセテート、セルロースナイトレート等のセルロース系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等の含フッ素ポリマー等が好ましい。
【0029】
前記金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、タンタル、タンタル合金、チタン、チタン合金、ニッケルチタン合金(超弾性合金)、タンタルチタン合金、ニッケルアルミニウム合金、インコネル、金、プラチナ、イリジウム、タングステン、タングステン合金、コバルト系合金、等が好ましい。ステンレス鋼の中では、最も耐食性が良好であるSUS316Lが好ましい。コバルト系合金の中では、MP35N、L605等が好ましい。タングステン合金ではW−Rh25%、W−Rh26%が好ましい。
【0030】
本発明に係るステント本体は、上記例示した材料から、その適用箇所または拡張手段に応じて適宜選択した材料により好適に形成することができる。例えばステント本体を金属材料で形成した場合、金属材料は強度に優れているため、呼息抵抗弁を病変部に確実に留置することが可能である。ステント本体を高分子材料で形成した場合、高分子材料は柔軟性に優れているため、呼息抵抗弁の病変部への到達性(デリバリー性)という点で優れた効果を発揮する。
【0031】
また、ステント本体が自己拡張型である場合、元の形状への復元力が必要なことからニッケルチタン等の超弾性合金等が好ましく、バルーン拡張型である場合、拡張後の形状復帰が起こりにくいことが好ましいことからステンレス鋼等が好ましい。
【0032】
また、ステント本体を炭素繊維で作製した場合、高強度で、かつ柔軟性に優れており、しかも生体内での安全性が高いという点で優れた効果を発揮する。
【0033】
本発明に係るステント本体の大きさは、適用箇所に応じて適宜選択すればよい。例えば、区域気管支に用いる場合は、拡張前における外径は0.6〜10mm、長さは0.5〜30mmが好ましく、拡張前における外径は1〜4mm、長さは5〜15mmがより好ましい。また、拡張後における外径は1〜20mm、長さは3〜30mmが好ましく、拡張後における外径は2〜15mm、長さは2〜10mmがより好ましい。
【0034】
本発明に係るステント本体の製造方法は、特に限定されず、ステント本体の構造および材料に応じて、通常使用される製造方法から適宜選択すればよい。例えば、レーザエッチング、化学エッチング等のエッチング技術、およびレーザーカット技術を利用した製造方法を選択することができる。
「弁体」
本発明に係る弁体は、気管から肺胞実質への空気の流れを許容し、逆方向の流れを制限する機能を有する膜である。以下、本発明に係る弁体の好ましい実施形態を以下説明する。
【0035】
本発明に係る弁体の投影面積は、ステント本体の断面積より小さいことが好ましく、その形状は、特に制限されるものではなく、円形、楕円形、菱形、三角形、正方形、長方形、矩形、その他多角形等、他の形状であってもよい。また、本発明に係る弁体は、膜状のものが好ましく、その膜の厚さは適宜選択される。
【0036】
そのため、本発明に係る弁体は、ステント本体の断面積と同一の投影面積の弁体内にベント穴を設けても、ステント本体の断面積より小さい弁体として、ステント本体に設けられた弁体支持部に前記弁体と前記気管支との間にベント穴が形成されるように前記弁体を固定してもよい。
【0037】
図3(A)は、本発明に係る弁体の一態様を示す斜視図であり、図3(B)は、当該弁体の断面図であり、図3(C)は、当該弁体の平面図である。当該弁体を構成する各構成要素について、以下図3(A)、(B)、および(C)を参照してより詳細に説明する。
【0038】
本発明に係る弁体は、複数の前記ベント穴と、空気を流す複数の貫通孔と、前記貫通孔を流れる空気により開閉する弁葉体と、を備えた逆止弁状弁体であることが好ましい。
【0039】
図3(A)に示す態様において、逆止弁状弁体21において、所定の厚みを有する円板状の弁体20、ベント穴22、貫通孔23および前記弁体20より遠位側に設けられる弁葉体24は、構成要素である。当該弁体は後述するが、伸縮可能な材料で構成されていることが好ましい。これにより、拡張する前においてステント本体内に折り畳まれて収納されている当該弁体が、ステント本体の拡張にあせて常態の円板体に復元することができる。
【0040】
円板状の膜20を貫通して8つの円状の孔であるベント穴22が設けられている。また、当該ベント穴22の通気面積より大きい貫通孔23が6つの前記弁体20に設けられており、当該貫通孔23それぞれにおいて、円板状の弁葉体24の端部が当該貫通孔23の縁部の一部に固定され、かつ貫通孔23を覆うように取り付けられている。また、円板状の弁葉体24の端部および当該貫通孔23の縁部の一部の固定された部位は固定端として作用するため、円板状の弁葉体24が固定端を基準に可動することができる。これにより、貫通孔23を流れる空気により弁葉体24が当該貫通孔23を開閉する。
【0041】
また、弁葉体24は、ステント本体において弁体20の位置より遠位側(すなわち末梢気道側)に設けられている。これにより、末梢気道側から中枢気道側への通気の場合は、弁葉体24が貫通孔23を覆うことができる。
【0042】
次に、本発明に係る弁体の作用を模式的に示す図(D)を用いて当該弁体を説明する。図3(D)に示すように、本発明に係る空気を流す複数の貫通孔23には扉のように開閉する弁葉体24が取り付けられているため、吸気時は中枢気道側から末梢気道側への通気により弁葉体24が貫通孔を開口させて気管から肺胞実質への空気の流れを許容する。一方、呼気時は末梢気道側から中枢気道側への通気の場合は、弁葉体24が貫通孔23を覆うため、貫通孔23を通る肺胞実質から気管への空気の流れを遮断する。さらに、本発明に係るベント穴22は、前記逆止弁状弁体21を貫通して設けられているため、常時空気が流通可能であり、吸気時および呼気時のいずれも空気の流れを許容する。以上のことから、本発明に係る逆止弁状弁体は、気管から肺胞実質への空気の流れを許容し、逆方向の流れを制限する。
【0043】
尚、本発明に係る弁体は、その周囲に余剰の領域であるカフ部を設け、ステント本体と縫合糸で縫合する方法、または接着剤でステント本体と固定する方法など公知の方法で固定することができる。
【0044】
上記略円板状または円板状の膜の直径は、1〜20mmが好ましく、2〜15mmがより好ましい。
【0045】
上記略円板状または円板状の膜の材料は、特に制限されることはなく、樹脂であってもまた金属であっても良く、樹脂の場合は、織り合わされたポリエステル、ダクロン(Dacron(登録商標))、テフロン(Teflon(登録商標))、ダイニーマ(Dyneema(登録商標))、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、およびポリウレタンのうちの少なくとも1種のグラフトに用いられている材料が挙げられ、中でも抗菌性の観点から抗菌加工が施されたテフロン膜が好ましい。
【0046】
上記弁葉体の材料は、略円板状または円板状の膜の材料と同一であっても異なってもよく、特に制限されることはなく、織り合わされたポリエステル、ダクロン(Dacron(登録商標))、テフロン(Teflon(登録商標))、ダイニーマ(Dyneema(登録商標))、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、およびポリウレタンのうちの少なくとも1種のグラフトに用いられている材料が挙げられ、中でも抗菌性の観点から抗菌加工が施されたテフロン膜が好ましい。
【0047】
前記略円板状または円板状の膜の厚さは、特に制限されることはないが、例えば5〜30μmが好ましい。
【0048】
上記弁葉体の形状は、特に制限されるものではなく、円形、楕円形、菱形、三角形、正方形、長方形、矩形、その他多角形等、他の形状であってもよい。
「呼息抵抗弁」
次に、本発明に係る弁体およびステント本体を有する呼息抵抗弁について、以下図4(A)、(B)、(C)を参照してより詳細に説明する。図4(A)は、本発明の呼息抵抗弁を近位端方向から遠位部の方向に向かってみた一態様を示す平面図であり、かつ当該呼息抵抗弁が拡張した状態を示すものであり、図4(B)は、図4(A)の当該呼息抵抗弁の側断面図であり、図4(C)は、図4(A)の呼息抵抗弁の平面断面図である。
【0049】
本発明に係る呼息抵抗弁は、ステント本体が拡張される前には折り畳まれ、拡張時には前記ステント本体の空気の流通を妨げるように拡げられる前記弁体(例えば、膜体など)30と、常時空気が流通可能なベント穴(図示せず)と、前記弁体30を支持する第1支持部材と、前記弁体の変形を制限するストッパとしての第2支持部材33と、から構成される弁体支持部を備え、前記弁体の折り畳み時は、前記第1支持部材32と第2支持部材33のいずれも前記ステント本体の長手方向に沿うように折り畳まれる構成としたことが好ましい。
【0050】
図4(A)、(B)、(C)に示すように拡張後のステント本体に弁体30が取り付けられた態様において、呼息抵抗弁において、所定の厚みを有する略円板状または円板状の弁体30と、弁体支持部(第1支持部材32、および弁体30の位置より遠位側に設けられるストッパとしての第2支持部材33)とは構成要素である。図4において、第1支持部材32は、接着剤層37を介して弁体と固定化されており、かつ第1支持部材32は、ステント本体の線材(図示せず)または母線材(図示せず)と第2回動部35を介して結合している。第2支持部材33と弁体とは固定化しておらず、当該第2支持部材33はステント本体の線材(図示せず)または母線材(図示せず)と第1回動部36を介して結合している。
【0051】
また、当該弁体30は、先述した伸縮可能な材料で構成されていることが好ましい。これにより、拡張する前においてステント本体内に折り畳まれて収納されている当該弁体が、ステント本体の拡張にあわせて常態の円板体に復元することができる。また、前記弁体の面積は、ステント本体の軸直角断面積より小さいことが好ましく、これによりステント本体と弁体との間に隙間ができ、この隙間が常時空気の流通可能なベント穴としての役割を担う。
【0052】
以下、本発明に係る第1回動部36、第2回動部35、および弁体支持部について図を参照して説明する。
【0053】
図4(A)、(B)、(C)に示すように、当該弁体支持部の一対の第1支持部材32は、前記弁体30の拡張・収縮状態を支持するものであり、ステント本体を構成する線材に回動可能に設けた第2回動部35を有し、この第2回動部35に第1支持部材32が取付けられている。当該弁体支持部の一対のストッパとしての第2支持部材33は、前記弁体30の拡張状態を保持するものであり、ステント本体を構成する線材に回動可能に設けた第1回動部36に取り付けられている。そして、当該一対の第1支持部材32と前記弁体30とは、弁体(例えば膜)の表面で固定されており、前記弁体30と第1支持部材32とが一体的な構成となっている。さらに、第1支持部材32を中心に弁体30が折り曲げることができる。したがって、それぞれの支持部材32、33の長手方向軸線が膜30の折り曲げ軸になる。そのため、折り曲げ軸が複数あるように支持部材を膜上に配置してもよく、図4(A)では、前記一対の第1支持部材32はそれぞれ当該膜の円周から円の内部(例えば中心)に向かって互いに向き合うように固定されている。そのため、図4(A)においては折り曲げ軸は1つである。これにより、空気の流通により当該膜が折り曲げられ気管から肺胞実質への空気の流れを許容できる(図4(D))。また、予め弁体30の折り曲げ軸を形成させておいてもよい。
【0054】
なお、拡張前のステント本体に弁体が取り付けられた本発明の弁においては、図4(A)に示す一対の第1支持部材32と交差するように、例えば一対のストッパとしての第2支持部材33を基準に折り曲げられてステント本体に収容される。
【0055】
当該一対のストッパとしての第2支持部材33は、第1回動部36を介してステント本体と連結されている。図5(A)に示すように、第1回動部36は、第2支持部材33と当り40とを有するリング部材41が、ステント本体の端部に回動可能に設けられているものであり、第2支持部材33が当初(ステント拡張前)ステント本体の軸線方向に伸延した状態から回動し、ステント本体内方に突出したとき(図5(A)の実線状態)、当り40が線材42の表面に当接し、第2支持部材33の突出状態を保持するようになっている。また、第1回動部36のその他の実施形態としては、図5(B)に示すように、ステント本体を構成する線材42に第2支持部材33の貫通穴を挿通し、かつ貫通穴近傍のステント本体上に極めて短い当り40を設けてもよい。また、当該一対の第2支持部材33は、ステント本体拡張後に前記弁体30の位置より遠位側、すなわち肺胞実質側の位置に存在する。
【0056】
さらに、一対の第1支持部材32は、図5(A)、(B)には示されていないが、第2回動部35を介してステント本体と接合されている。当該回動部35の構造は、上記の第1回動部36と同様であるので省略する。
【0057】
また、当該一対の第1支持部材32は、ステント本体拡張後に前記弁体の位置より遠位側、すなわち肺胞実質側の位置であっても、近位側、すなわち気管側にあってもよい。
【0058】
尚、本発明に係る弁体は、その周囲に余剰の領域であるカフ部を設け、ステント本体と縫合、接着剤など公知の方法で固定することができる。
【0059】
また、第1支持部材32、および第2支持部材33の形状および個数は、特に制限されることはない。
【0060】
以上のことから、図4(D)で示すように、ステント本体には本発明に係る弁体と一体的に連結される一対の第1支持部材32と、当該弁体が空気の流れにより変形する一対のストッパとしての第2支持部材33とが取り付けられているので、吸気時は中枢気道側から末梢気道側への通気により弁体の本体が第1支持部材32を基点として折り曲げるよう変形されて気管から肺胞実質への空気の流れを許容する。一方、呼気時は末梢気道側から中枢気道側への通気の場合は、第2支持部材が弁体の本体の変形を制限するため、肺胞質から気管への空気の流れを遮断する。
【0061】
また、本発明に係る弁体における通気面積がステント本体の断面積より小さいため、図3で示される弁体をステント本体に取り付けられた弁は、常時空気が流通可能なベント穴を有している。呼息時に呼気が通気可能なベント穴の有効開口面積は、ステント本体の断面積に対して、1〜70%が好ましく、1.5〜50%がより好ましい。
【0062】
さらに、本発明に係るベント穴22または貫通孔23を、前記弁体を構成する略円板状または円板状の膜内に設けてもよく、その場合ベント穴22または貫通孔23に設けられた逆止弁状の弁葉体24は図3(D)のように、吸気時には開放され、呼気時には閉鎖される。以上のことから、本発明に係る弁体は、気管から肺胞実質への空気の流れを許容し、逆方向の流れを制御する。
【0063】
上記第1支持部材およびストッパ部材の材料は、特に制限されることはなく、例えば上述のステント本体で使用される材料を同様に使用することができ、また上記第1支持部材およびストッパ部材の材料は、ステント本体と同一または異なってもよい。
【0064】
また、本発明に係る弁体支持部の他の実施形態としては、図6および図7に示すような線材であるツメ状の弁体支持部125、128が挙げられる。図6は、図2に示される本発明に係るステント本体に弁体126を固定した呼息抵抗弁であって、呼息抵抗弁を近位部方向から遠位部の方向に向かうようにみた一態様を示す平面図であり、図7は図6の縦断面図をしめすものである。図6、7において当該ツメ状の弁体支持部125、128は、ステント本体を構成する母線材121より突出成形された構造であって、当該弁体支持部125、128は、前記骨格ユニットの放射方向内方(すなわちステント本体の軸中心)に向かって突出されて設けられている。これら3本〜8本のツメ状の弁体支持部125、128は、ステント本体断面の同一平面上に形成されていることが好ましく、これらの弁体支持部それぞれが、前記弁体を支持する第1支持部材125と、前記弁体の変形を制限するストッパとしての第2支持部材128との役割を担うため、上記と同様に、前記弁体126と、ステント本体を構成する母線材121より突出成形された線材である第1支持部材125と、は膜の表面で接着剤層127を介して固定されており、前記弁体126と第1支持部材125とが一体となっている。そのため、第1支持部材125を中心に膜が折り曲がることができる。したがって、それぞれの支持部材の長手方向が弁体の折り曲げ軸になり、これにより、吸気時は中枢気道側から末梢気道側への通気により弁体の本体が第1支持部材125を基点として折り曲がるよう変形されて気管から肺胞実質への空気の流れを許容する。また、ステント本体を構成する母線材121より突出成形された線材である前記弁体の変形を制限するストッパとしての第2支持部材128が、弁体の変形を制限するため、呼気時は末梢気道側から中枢気道側への通気の場合は、肺胞質から気管への空気の流れを遮断し、当該弁を境界に肺胞実質側を陽圧に保持することができる。
【0065】
なお、上記図2で示すツメ状の弁体支持部を有するステント本体の製造方法は、特に制限されることはないが、図11に示す製造ステップに従いながら、図8、図9、図10を参照して好ましい製造方法の一例を以下に説明する。
【0066】
例えば、図8の破線で示される形状のように、Ni−Ti合金などの超弾性合金の円筒体をレーザー加工して、図9に示される円筒体由来の母線材81が略矢尻状をした枠体82に成形された構造の骨格ユニット83が複数環状に配置されるように切断するとともに、当該骨格ユニット83に円筒体由来の母線材81で形成されたL字型のツメ部84が突出するように、当該ツメ部を複数有する円筒状のステント本体を切り出す。次いで、図10に示すように、前記L字型のツメ部84を、頸部102と柱部103の接続部を起点にして当該ステント本体の内側に断面中心方向に折り曲げる(図10)。その後、頸部102と柱部103とから構成される前記L字型のツメ部84を内側に折り曲げたステント本体内部に金型110を挿入し、折り曲げ片であるL字型のツメ部81を金型110により径方向に伸す(図10、図11(A)、(B))。そして、金型を骨格ユニット83から抜去して(図11(C))、変態点(Af)400〜650℃、好ましくは500℃〜550℃で20分間加熱したのち4〜10℃で急冷し、ツメ状の弁体支持部115を有する本発明のステント本体を製造する。
【0067】
ここで得られたステント本体111の放射方向内方に向かって突出されたツメ状の弁体支持部115に、弁体を接着剤または結紮糸などの公知の方法で固定し、かつ当該弁体支持部に前記弁体と前記気管支との間に前記ベント穴が形成されるようにして本発明の呼息抵抗弁を製造することができる。
【0068】
図12に、上記方法で得られた本発明に係る呼息抵抗弁の一態様を斜視図で示す。すなわち、本発明に係る呼息抵抗弁は、気管支内に設けられ、径方向に伸縮自在な管状のステント本体を有する呼息抵抗弁であって、軸方向に伸延し、枠状に成形された母線材121からなる骨格ユニット123、および前記母線材121より突出成形されたツメ状の前記弁体支持部125、128から構成され、かつ前記骨格ユニットを環状に配置されてなるステント本体と、前記ステント本体内に備えられた前記弁体と、からなり、前記ユニットの放射方向内方に向かって前記ツメ状の弁体支持部を突出させ、当該弁体支持部に前記弁体と前記気管支との間に前記ベント穴129が形成されるように前記弁体を固定することが好ましい。
【0069】
また、この図12における本発明に係る呼息抵抗弁を近位端方向から遠位部の方向に向かうようにみた一態様を示す正面図が図6であり、図7は図6の平断面図を示すものであるため、その作用・効果は上述した通りでありここでは省略する。
【0070】
本発明に係る呼息抵抗弁がツメ状の弁体支持部を有する場合は、上述したような回動部35、36を有しないため、Ni−Ti超弾性合金等のようなステントを収縮した後、当該ステントを復元する形状記憶合金等の材料を使用することが好ましい。
【0071】
本発明に係る呼息抵抗弁は、上記ステント本体内に、上記弁体が取り付けられているものであり、当該弁体が取り付けられる位置は、特に制限されることはないが、ステント本体の端部、あるいはステント本体の長手方向の中央に取り付けられることが好ましい。
【0072】
また、本発明に係る呼息抵抗弁の中心付近に例えば、金、白金、タングステンあるいはそれらの合金、あるいは銀−パラジウム合金等の固定された造影性の高い物質を所定の長さを有するリング状のもの、もしくは線状体をコイル状に巻き付けたもの人工弁支持体の外表面に設けることが好ましい。
【0073】
このようにすれば、固定された造影性の高い物質が外部から、呼息抵抗弁の中心を把握させ、封止材を設置した位置および留置の際の指標となる。
【0074】
なお、本発明に係る呼息抵抗弁の弁体として逆止弁状膜を使用する場合は、ステント本体に弁体支持部を設けなくてもよい。
【0075】
以下、内視鏡を用いて、本発明に係る呼息抵抗弁を気管支または細気管支に留置する方法について図面を参照しながら説明する。
【0076】
図13に示すように、カテーテルのルーメン52内に本発明の呼息抵抗弁50を圧縮させて縮径状態とされた当該呼息抵抗弁50を遠位端に設置する。そして、当該カテーテル52を気管支または細気管支51の所定の部位まで挿入する(ステップ(A))。ここにおいて当該呼息抵抗弁50の常態における放射方向の外寸は、カテーテル52の放射方向の内寸より小さい。次いで、当該カテーテル52の上記ルーメンにプッシュデバイス53を挿入し、図13(B)に示すように、当該プッシュデバイス53で当該呼息抵抗弁50を動かないよう固定して、カテーテルを近位側に引く(ステップ(B))。これにより図13(C)に示すように、当該呼息抵抗弁50がカテーテルより突出され自らの弾性により拡開しつつ気管支または細気管支51の所定の部位に設置される。この設置を確認した後、カテーテル52およびプッシュデバイス53を抜去する(ステップ(C))。
【0077】
また、図14に示すようにして呼息抵抗弁を留置してもよい。図14(A)にしめすように、まずガイドカテーテル62の遠位端部に設置された一対のずれ防止手段であるストッパー63間に呼息抵抗弁60を固定し、ワーキングカテーテル64内に当該呼息抵抗弁60を圧縮するように取り込む(ステップ(A))。ここにおいて当該呼息抵抗弁60の常態における放射方向の外寸は、ワーキングカテーテル64の放射方向の内寸より小さい。ガイドカテーテル62は内腔を有しても、有しなくても良いが、内腔を有する場合には循環器領域で用いられるガイドワイヤーのような誘導デバイスを用いることが出来る。次いで、当該ワーキングカテーテル64を気管支または細気管支61の所定の部位まで挿入する。そして、図14(B)に示すように、当該ガイドカテーテル62を固定しながら、ワーキングカテーテル64を近位側に引く(ステップ(B))。これにより当該呼息抵抗弁60が気管支または細気管支61の所定の部位に設置される。図14(C)に示すように、この設置を確認した後、ガイドカテーテル62を抜去する(ステップ(C))。
【0078】
以下、本発明を特に好ましい実施形態により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図15(A)は、本発明の呼息抵抗弁の一態様を示す斜視図であり、図15(B)は、本発明の呼息抵抗弁を近位端方向から遠位部の方向をみた一態様を示す平面図であり、かつ当該呼息抵抗弁が拡張した状態を示すものであり、図15(C)は、当該図15(B)の当該呼息抵抗弁の側断面図であり、図15(D)は、当該図15(A)の当該呼息抵抗弁の平面断面図である。図15で示す呼息抵抗弁は、図4または図12で示す呼息抵抗弁と同様の構成であり、弁体と第1支持部材との固定方法を接着剤層ではなく、結紮することで固定されている点で相違する。
【0079】
Ni−Ti系合金からなる自己拡張性を有するステント本体は、気管支表面からの分泌物を排出しようとする気管支表面における繊毛の運動を妨げることがないように格子のデザインが配慮なされている。
【0080】
このステント本体71は、循環器の領域で用いられる血管拡張用のステントと異なり内腔に向けて突出する支柱が設けられている(図15中、74、76)。この支柱74、76の少なくとも1本に弁体75が固定されている。当該弁体75としてテフロン膜を使用し、このテフロン膜の固定方法には、幾種類かの手段があるが、例えば、テフロン製の糸72で支柱76に結紮することで固定される。
【0081】
このテフロン膜75は支柱74、76が弁体支持部としての役割を担うため、逆支弁のような機能を果たし一方向からの空気の通過を許容するが、逆向きに通過しようとする空気の流れを遮断する。ただし、膜の断面積Aは、ステント内径の断面積Bよりも小であるため、空気の流れは完全に遮断されることがない。前記支柱76に弁体75を固定したステントは、クリッピング装置により外径を縮小されて、縮小後のステントの外径よりも僅かに大きい内径を有するシースに収納される。このとき支柱74、76はステントの長軸方向に沿うように折り畳まれる。
【0082】
当該ステントは、シースの遠位部側に膜が開くように配置され、気管支に留置した際には、吸息時の口側から肺の末梢側への空気の流入を許容するが、呼息時の肺末梢側から口側への空気の流れを阻害するように作動する。治療を行おうとする患者の口腔もしくは鼻腔から内視鏡を挿入し、気管支に到達させる。治療の対象となる分葉を支配する気管支に内視鏡を配置し、気管支鏡のワーキングルーメンへステントを配置したシースを挿入する。
【0083】
このとき、縮小前のステントの大きさは、治療しようとする気管支の内径に等しいもしくは僅かに大きい事が望ましい。またシースは、気管支の外径よりも小さい外径を有し、縮小したステントよりも大きな内径を有する。シースの後端からステントを押し出すための芯材を挿入し、シースの位置がずれることがないよう、しっかりと固定する。シースを固定した状態で、芯材をゆっくりとシース遠位部側へ押し込み、分葉を支配する気管支内にステントを突出させる。このとき、ステントのシースから突出した部位は速やかに、縮小前の形状に復元する力が働き、外径が拡大する。続けて芯材をシース内へ押し込み、完全にステントをシース外へ押し出した状態では、ステントの外径は縮小前の状態に復元している。ステントの外径が縮小前の大きさに復元するに伴い、ステント内に折り畳まれていた支柱74、76は、ステント縮小前の形状に復元する。
【0084】
以上の操作により気管支内腔に配置されたステントは呼息時の気管支から気道を経て体外へ出る空気の流動抵抗を高めることとなり、結果としてステントより末梢側における気管支内腔の圧力は吸息時よりも高くなる。これにより、呼息時に気管支内腔圧力の減少に伴う気管支の閉塞によって生じる呼吸細気管支や肺胞および肺胞嚢などの肺胞実質への空気の捕らえこみ(エアートラッピン現象)が防止される。
【実施例】
【0085】
ステントの骨格は、TiNi合金(51原子%Ni)の合金パイプを冷間加工して、外径約2.0mm、肉厚0.25mm、長さ約100mmの金属パイプを作製した。そして、金属パイプを軸がぶれないようにファスナー機構の付いた回転モーター付治具にセットし、さらにこれを数値制御可能なXテーブル上にセットした。そして、Xテーブルおよび回転モーターをパーソナルコンピュータに接続し、パーソナルコンピュータの出力が、Xテーブルの数値制御コントローラーおよび回転モーターに入力されるものとした。パーソナルコンピュータ内には図面ソフトが記憶されており、ここに図8に示すような構図のステントの展開図面を入力した。このような構成により、パーソナルコンピュータより出力される図面データに基づいて、Xテーブルおよび回転モーターが駆動する。
【0086】
このようにして金属パイプにレーザーを照射することにより、図8のような斜視図を有する形状のステント基材を作製した。
【0087】
上記金属パイプのレーザー加工条件としては、平均出力5.5W、駆動スピード180mm/分にて行った。そして、上記のステント基材に内面研削加工を行った。
【0088】
次に、ステント基材内面にできたバリを細長いヤスリで除去し、3.0mmのテーパー付ロッドに挿入してステントの径を拡大した。この状態で、500〜550℃の電気炉に入れて一定時間後に、取り出して急冷した。次に4.0mmのテーパー付ロッドに挿入して同様な操作を行った。拡張ステント基材を表面研磨(具体的には、化学研磨)して、図1に示すステントを得た。このようにして作製したステントは、外径約3mm、全長約45mm、各線状部の幅は、0.11mm〜0.12mm、肉厚は0.19mm〜0.2mm、環状体の軸方向の長さ約3mm、共有線状部の長さ約1.6mmであった。このようにして金属パイプにレーザーを照射することにより、所定の形状のステント本体を作製した。次いで、作製したステントの骨格に、形成した長さ1.8mmの4本のL字型のツメ部を内側に折り曲げた後、当該ステントの骨格内部に金型を挿入して、弁体支持部を径方向に伸ばした。そして、直径3.6mm、厚さ25μmのテフロン膜をテフロン製の糸で前記ステンレス線材に結紮することで固定し、ステント型の呼息抵抗弁を得た。
(ステント型の呼息抵抗弁の挿入)
次いで、ステント型の呼息抵抗弁を、クリンプ装置(SC−910, Machine solution Inc.)により外径を縮小して、縮小後のステントの外径よりも僅かに大きい内径を有するシースに収納した。当該ステント型の呼息抵抗弁は、シースの遠位部側に膜が開くように配置され、高度に肺気腫化したブタの口腔から、気管支鏡のワーキングルーメンを介して、患部となる肺気腫化した肺胞実質に挿入された。そして、シースの後端から当該ステント型の呼息抵抗弁を押し出すための芯材を挿入し、シースの位置がずれることがないよう、しっかりと固定し、シースを固定した状態で、芯材をゆっくりとシース遠位部側へ押し込み、分葉を支配する気管支内に当該ステント型の呼息抵抗弁を突出させた。
【符号の説明】
【0089】
1 ステント本体
2 弾性線材
11 略菱形の要素
12 環状ユニット
13 線状の弾性連結部材
150 枠
151 母線材
153 骨格ユニット
155、158 ツメ状の弁体支持部
155 第1支持部材
158 第2支持部材
20 円板状の膜
21 逆止弁状弁体
22 ベント穴
23 貫通孔
24 弁葉
30 弁体
32、33 弁体支持部
32 第1支持部材
33 第2支持部材
35 第2回動部
36 第1回動部
37 接着剤層
40 当り
41 リング部材
42 線材
50 呼息抵抗弁
51 気管支または細気管支
52 カテーテル
53 プッシュデバイス
60 呼息抵抗弁
61 気管支または細気管支
62 ガイドカテーテル
63 ストッパー
64 ワーキングカテーテル
71 ステント本体の骨格
72 糸
74 支柱
75 弁体(テフロン膜)
76 支柱
80 円筒体
81 母線材
83 骨格ユニット 84 L字型ツメ部
101 母線材
102 頸部
103 柱部
104 L字型ツメ部
110 金型
111 ステント本体
115 ツメ状の弁体支持部
121 母線材
123 骨格ユニット
125 第1支持部材
126 弁体
127 接着剤層
128 第2支持部材
129 ベント穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管支内に設置される呼息抵抗弁であって、
気管支から呼吸域への空気の流れを許容し、逆方向の流れを制御する弁体を備えることを特徴とする呼息抵抗弁。
【請求項2】
気管支内に設けられ、径方向に伸縮自在な管状のステント本体と、
前記ステント本体内に設けられ、当該ステント本体内における気管支から呼吸域への空気の流れを許容し、逆方向の流れを制御する弁体と、を備える、請求項1に記載の呼息抵抗弁。
【請求項3】
ステント本体が拡張される前には折り畳まれ、拡張時には前記ステント本体の空気の流通を妨げるように拡げられる前記弁体と、
常時空気が流通可能なベント穴と、
前記弁体を支持する第1支持部材と、
前記弁体の変形を制限するストッパとしての第2支持部材と、から構成される弁体支持部を備え、
前記弁体の折り畳み時は、前記第1支持部材とストッパ部材のいずれも前記ステント本体の長手方向に沿うように倒れる構成とした、請求項1または2に記載の呼息抵抗弁。
【請求項4】
気管支内に設けられ、径方向に伸縮自在な管状のステント本体を有する呼息抵抗弁であって、
軸方向に伸延し、枠状に成形された母線材からなる骨格ユニット、および前記母線材より突出成形されたツメ状の前記弁体支持部から構成され、かつ前記骨格ユニットを環状に配置されてなるステント本体と、
前記ステント本体内に備えられた前記弁体と、からなり、
前記ユニットの放射方向内方に向かって前記ツメ状の弁体支持部を突出させ、当該弁体支持部に前記弁体と前記気管支との間に前記ベント穴が形成されるように前記弁体を固定した、請求項1〜3のいずれか1項に記載の呼息抵抗弁。
【請求項5】
前記弁体は、複数の常時空気が流通可能なベント穴と、空気を流す複数の貫通孔と、前記貫通孔を流れる空気により開閉する弁葉体と、を備えた逆止弁状弁体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の呼息抵抗弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−55566(P2012−55566A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203319(P2010−203319)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】