説明

呼設定システム、方法およびコールエージェント装置

【課題】複数のコールエージェントを使用するアドレス変換装置によって相互に接続された複数のパケット交換ネットワークにおける呼設定を実行する呼設定システムを提供する。
【解決手段】一連のコールエージェントへのメッセージは呼設定が完了したときの実際の呼のデータパケットに関連するネットワークにおけるメディアアドレスを含んでいる。SIPの改良版となりうる本発明の信号システムにおいて、呼設定メッセージは少なくとも先行して存在する以前のいくつかのコールエージェントへ送信されたメディアアドレスを含む。コールエージェントがNAT装置に組み込まれてもよい。また、メディアアドレスは暗号化されてもよいい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は呼を設定するためのシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
呼(コール)設定システムとして知られるものに、複数のコールエージェントによって呼設定を行うものがある。各コールエージェントが受持つそれぞれのパケット交換ネットワークは、アドレス変換装置とも言われるNAT(network address translation)装置を介して相互に他のパケット交換ネットワークに接続されている。NAT装置は接続すべき他のネットワークへの接続経路を提供するために1つのネットワーク内におけるアドレスを定義する。呼設定装置は、呼のメディアパケットの送信に介在するNAT装置のアドレスも含めて一連のアドレスを定める。たとえば、2つのユーザ端末間の呼においては、2つの端末の間に各方向に1つずつ、2つの経路が存在する。具体的には、メディア呼はインターネットで結ばれた一つ以上のプライベートネットワークの間で実行される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は詳しくは音声通話呼に関するものである。音声通信には、これまでの回線交換ネットワークに代わってIP(Internet Protocol:インターネットプロトコル)を用いることに注目が集まっている。これは、1つのネットワークが2つの異なった機能に共用できれば保守費の節約が可能になるからである。
【0004】
インターネットを介して音声呼を開始する方法の一つとして知られるものにセッション・イニシエーション・プロトコル(Session Initiation Protocol :SIP-RFC 3261)がある。これは、音声以外にもビデオやゲームのような他の対話形式の呼の開始にも用いられる。このプロトコルはプライベートネットワークとインターネットを経由する呼にも適合される。
【0005】
図1は2つのネットワーク間のSIPによる呼設定信号(シグナリング)を示す図である。
【0006】
ネットワーク1(例:プライベートネットワーク)のユ一ザエージェントPから中央ネットワーク2(例:インターネット)のユーザX(不図示)に起呼されるとしよう。呼はユーザXに代わってコールエージェントSから(発呼者と同一のプライベートネットワーク1にある)ユーザエージェントVに転送される。
【0007】
すべてのSIPシグナリングメッセージは図1に示されているが、メッセージ文自体は示されていない。SIPメッセージは標準化されており、IETFの呼メッセージ例の文書にメッセージのフォーマットが示されている。
【0008】
ユーザエージェントPは最寄りのコールエージェントにSIPインバイトメッセージを送ることによって呼を開始する。このメッセージはセッション記述(Session Description Protocol-RFC 2327)を含んでいる。セッション記述は、メディア特性やユーザエージェントPがメディアパケットを受信したいときに使用するアドレス(1.1.1.1)を示している。便宜上、図1ではこのアドレスとこれ以外のアドレスに対して最後から2つのセグメントだけが示されている。
【0009】
コールエージェントQはSIP「100:試行中(Trying)」メッセージを応答として送信する。
【0010】
コールエ―ジェントQは中央ネットワーク2の宛先Xと制御対象となる経由ネットワークのNAT装置Rを決定する。これによりNAT装置RRピンホールを開き、中央ネットワークからユーザエージェントのメディアアドレスP (1.1.1.1)へのメディアフローを許可する。NAT装置R(2.2.2.1)によってコールエージェントQに返送されるアドレスは、次にコールエージェントQにおいて中央ネットワークのコールエージェントSへ送信されるインバイトメッセージに使用される。(ピンホールとはNAT装置を通る経路のことで、特に単一のメディアフローのために開かれる。「ピンホール」という用語は、このNAT装置を通る特定の発・着信アドレスの組合せを持ったパケットのみを通過させ、ピンホールに合致しないパケットを遮断することを強調するための用語である。)
コールエ―ジェントSは「100:試行中」メッセージを応答する。
【0011】
コールエージェントSは、ユーザXの呼がユーザエージェントVへ転送されることをユーザXが要求したこと、および、新しい宛先がプライベートネットワーク1のコールエ―ジェントUを経由することを決定する。ユーザXはインターネット経由でアクセスできる家庭の電話番号であってもよく、ユーザは、その呼をプライベートネットワーク1にある自分の事務所に転送されるように設定してもよい。このため、コールエ―ジェントSは、変更されたURI(Uniform Resource Identifier)(この場合、新しい宛先を定義する通信リソースの名称)を有するインバイト(Invite)メッセージを、コールエ―ジェントUへ送付する。
【0012】
コールエ―ジェントUは「100:試行中」メッセージを送信することで応答する。
【0013】
コールエージェントUは制御対象のNAT装置Tを経て別のネットワークから呼が着信したことを認識する。次にNAT装置Tのピンホールを開け、末端のネットワーク1から中央ネットワークのメディアアドレス(2.2.2.1)へのメディアフローを許可する。NAT装置T (1.1.1.3)によって返信されるアドレスは、次にユーザエージェントVに送信されるインバイトメッセージに使用される。
【0014】
こうして呼は本来の宛先に到達する。ユーザエージェントVは「180:リンギング(ringing)」メッセージを送信することで応答し、これが一連のコールエージェントを経て発呼者に返信される。
【0015】
発呼に対する応答がなされるとユーザエージェントVは「200:OK」メッセージをコールエージェントUに返信する。このメッセージにはセッション記述として、ユーザエージェントVがメディアパケットを受信するためのメディアアドレス(1.1.1.4)とメディア特性とが含まれている。
【0016】
コールエージェントUはこのメッセージが制御対象のNAT装置Tを経由して到着した呼に対応するものであることを認識する。それによってNAT装置Tにはピンホールが開かれ、中央ネットワーク2から末端ネットワークのメディアアドレス(1.1.1.4)へのメディアフローを許可する。NAT装置T(2.2.2.2)によって返されたアドレスは、次にコールエージェントSに送出するOKメッセージに用いられる。
【0017】
このOKメッセージはコールエージェントSにおいてコールエージェントQへ向けて返信される。
【0018】
コールエージェントQはこの呼が制御対象のNAT装置Rを通過するものであることを認識する。それによってNAT装置Rにはピンホールが開けられ、末端ネットワーク1から中央ネットワークのメディアアドレス(2.2.2.2).へのメディアフローを許可する。NAT装置R(1.1.1.2)によって戻されたアドレスは、次にユーザエージェントPに送り出すOKメッセージに用いられる。
【0019】
それからユーザエージェントPはACKメッセージを送出することによってSIPシグナリングシーケンスを完了する。このメッセージは一連のコールエージェントを通って着呼ユーザエージェントVに送信される。
【0020】
各ユーザエージェントはメディアパケットを送信すべきそれぞれのローカルネットワーク内のアドレスを受信したことになる。このローカルネットワークのアドレスが、ネットワークアドレス変換装置RおよびTのアドレスである。これらのNAT装置は末端ネットワーク1で受信したメディアパケットを中央ネットワーク2の他のNAT装置へ送り出すように設定される。このNAT装置はまた、中央ネットワークで受信したメディアパケットを末端ネットワークのユーザエージェントのアドレスに送り出すように設定される。こうしてメディアパケットは、2つのユーザエージェントP、Vの間を2つのNAT装置R、Tを介して、順方向にはメディア経路3、4、5を、逆方向にはメディア経路3a、4a、5aを経由して送信される。
【0021】
この結果メディアフローは中央ネットワーク2において経路4と4a経由で不要なループを構成することになる。
【0022】
複数のNAT装置を経由するIP呼では、各NAT装置において先行して存在するネットワークの情報を失うことがわかる。すでに通ったネットワーク部分が逆向きに経路として設定されるようなことがあっても、その部分を直結することは出来ず、結果として不要なネットワークトラフィックを生み、ネットワーク経路の浪費になってしまう。
【0023】
実例として、末端のネットワークが小規模事務所のネットワークの場合、NAT装置TとRはインターネット2と通信できる1台のパソコンの中に搭載され、ユーザエージェントPとVは他のパソコンであり、さらに末端のネットワークにつながったパソコン(不図示)があってもよい。これらのパソコンのすべては、パソコンがインターネットと通信中であっても、SIPによる音声通信が互いに可能である。たとえば、ユーザエージェントPとVの間の呼が設定されるたびにNAT装置TとRを通過するので、不幸なことに数少ないメディア経路を使い切ってしまう。NATのピンホールを通るということは、通常のSIPプロトコルでは、コールエージェントが呼の最終目的地を決定する前にメディアアドレスが選択されてしまうということを意味する。NAT経由の経路が選択される場合、ほかのネットワークに呼が終端されれば呼接続は成功したことになり、(別のピンホールを発側のネットワークに向けて作成することによって)発側のネットワークに呼が終端され、呼接続が成功するであろう。効率は悪くてもNAT経路をすべての呼を調べてから選択することが確実に呼接続を成功させるオプションとなる。
【0024】
次に3つのネットワーク間のSIPシグナリングによる呼設定の例を、図2を参考にして示す。ネットワーク6(事務所LAN1)にある装置Aからの起呼情報は、最初にインターネット7を経由してネットワーク8(事務所LAN2)にある装置Bに経路ができた後で、ネットワーク6にある装置Cへ送信される。呼情報がネットワークをつなぐ各NAT装置9、10を通過する際に、先行して存在するそれ以前のネットワーク情報は失われる。結果として呼は3つのネットワークにおけるいずれのリソースも使っている。図2では呼の出と入りの経路は1本の線で示されている。この記述法はほかの図でも用いられる。
【0025】
経路後退再設定(ドロップバック・リルーティング)として知られる方法として、SIP RFC3261規定の「302:一時的に移動」応答のような方法を用いることが提案されてきた。この方法で、呼は直接AとCの間で設定されるので、もはやネットワークのほかの場所にある装置(たとえば装置B)で制御出来ないことになる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、複数のコールエージェントを使用するアドレス変換(NAT)装置によって相互に接続された複数のパケット交換ネットワークにおける呼設定を実行する呼設定システムであって、一連のコールエージェントに対してメッセージ(当該コールエージェントに関連するネットワーク内でのメディアパケット用のアドレス情報を含むメッセージである。)を送信する手段を含む。これは、当該呼についてのメディア経路を設定するために送信される。少なくともいくつかのメッセージは、当該呼の設定に関与する先行して存在するコールエージェントへ送信されるメディアパケット用のアドレス情報を含んでいる。
【0027】
本システムは呼のメディア経路に可能な近道(ショートカット)の活用を許容する。なぜなら、呼設定において、呼設定装置に関連するネットワーク内でのメディアパケット用のアドレス情報に加えて、先行して存在する呼設定装置に関連するネットワーク内でのメディアパケット用のアドレス情報も受け渡すからである。このようにして呼が第1のネットワークから第2のネットワークへ、さらに逆向きに第1のネットワークへと設定された場合、通過するメッセージによって、呼のメディア経路は従来のように第2のネットワークにおいてのみ通用するアドレスというよりも、第1のネットワークにおけるローカルなものとすることができる。本発明は、メディアフローに関連する経路を最適化することを可能にする。本発明に係る呼のシグナリングによれば、ネットワークリソースをほとんど使わずにもとの経路を保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は2つのネットワーク間のSIPによる呼設定信号(シグナリング)を示す図である。
【図2】図2は、3つのネットワーク間のSIPシグナリングによる呼設定の例を示す図である。
【図3】図3は本発明による改良SIPシグナリングシステムを用いた呼設定システムを示す図である。
【図4】図4は改良SIPシグナリングシステムに適用される規則を示した図である。
【図5】図5は、呼がいくつかのネットワークを通過する場合で、先行して存在するネットワークに再度入ることのないような一連のネットワークに対して改良SIPシグナリングシステムを用いた呼設定を示した図である。
【図6】、
【図7】、
【図8】図6から図8までは、呼が先行して存在するネットワークに再度入る場合の一連のネットワークに対して改良SIPシグナリングシステムを用いた呼設定を示した図である。
【図9】図9は呼が先行して存在するネットワークに再度入る場合であって、ネットワークアドレス変換装置とその制御対象のコールエージェントが旧来の装置である場合の、一連のネットワークに対して改良SIPシグナリングシステムを適用した場合の呼設定を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に基づく呼設定システムは、これからいくつかの添付図を参考にした実施例を用いて詳細に説明される。
【0030】
SIPシグナリングシステムのメッセージのすべてが図3の下側に示されているが、メッセージ文から抜粋した一部だけで表わされている。SIPメッセージの基本書式はIETFの呼例文集に見ることができる。
【0031】
SIPシグナリングシステムとして知られる図1を参考にして記述される例と同様に、ネットワーク1はプライベートネットワーク、ネットワーク2はインターネットとする。
【0032】
ユーザエージェントPはSIPインバイトメッセージを最寄りのコールエージェントQに送ることによって呼を開始する。このメッセージにはセッション記述として、ユーザエージェントPがメディアパケットを受信するためのアドレス(1.1.1.1)とメディア特性とが含まれている。便宜上、図3ではこのアドレスとこれ以外のアドレスに対して最後から2つの部分だけが示されている。
【0033】
IETF文書による標準に従った代表的なインバイトメッセージの全文は以下のとおりである。
【0034】

【0035】
コールエージェントQはSIP「100:試行中(TRYING)」メッセージを応答(レスポンス)として送信する。
【0036】
コールエージェントQは中央ネットワーク2の宛先と制御対象となる経由ネットワークのNAT装置Rとを決定する。これによりNAT装置Rのピンホールを開き、中央ネットワークからユーザエージェントのメディアアドレスP (1.1.1.1)へのメディアフローを許可する。NAT装置R(2.2.2.1)によって返送されるアドレスは、中央ネットワークのコールエージェントSへ送信されるインバイトメッセージに使用される。
【0037】

【0038】

【0039】
SIPメッセージの構文ではメッセージへの種々の「添付」を区分するための文字列が必要である。
【0040】
代表的なSIPインバイトメッセージと同様に、このメッセージはNAT装置RがユーザエージェントPへ送るメッセージを受信するアドレス「c==IN IP4 2.2.2.1」を含んでいる。しかしながら本発明においては、コールエージェントQはさらに以前のセッション記述をSIPメッセージへのマルチパート添付としてスタック構造の中に持っている。そこにはネットワークID(この場合は「edge.com」)とユーザエージェントPがメディアパケットを受信するための末端のネットワーク1におけるアドレス「c==INIP4 1.1.1.1」とが含まれている。これは図3ではコールエージェントQからコールエージェントSに向かう下り方向の最初の矢印により示されている。このプロトコルは(NAT装置間の)それぞれのアドレス地域に依存する。この地域には、全地域で一意に決まるグローバルな識別子が付与されており、当該地域内のすべての呼設定装置により呼の識別子が認識できるようになっている。これは、SIPの場合、(SIPグローバルコール参照識別子として用いられる。)SIPサーバのドメイン名に由来することが多いようである。
【0041】
コールエージェントSはSIP「100:試行中」メッセージを応答として送信する。
【0042】
コールエージェントSはユーザXの呼がユーザエージェントVに転送されるべきこと、プライベートネットワーク1のコールエ―ジェントUを経由する新しい宛先を決定する。ユーザXはインターネット経由でアクセスできる家庭の電話番号であってもよく、さらにその呼がプライベートネットワーク1にある自分の事務所に転送されるように設定されていてもよい。そのために、コールエ―ジェントSはインバイトメッセージのURIを書き換えて送出する。しかし上述したスタック構造は維持されるものとする。
【0043】
コールエージェントUはSIP「100:試行中」メッセージを応答する。
【0044】
コールエージェントUは制御対象のNAT装置Tを経て別のネットワークから呼が着信したことを認識する。さらに、SIPメッセージには局所(ローカル)の交換用スタックが含まれていることに着目し、スタック中のネットワークIDの値を見てこの呼が既にこのネットワークを通過しているかどうかを調べる。この例では自ネットワークを表わすエントリー(「edge.com」)を見つけ、このスタックのエントリーを送信対象となっているメッセージのセッション記述に使用する。したがって、NAT装置Tにピンホールをあける必要はない。よって、ユーザエージェントVに送信されたインバイトメッセージは、単にネットワーク1のアドレス(1.1.1.1)、すなわち、スタック中のアドレスでなく局所(ローカル)アドレスだけを含むことになる。このインバイトメッセージは以下のとおりである。
【0045】

【0046】

【0047】
このようにして呼は宛先に到達することになる。ユーザエージェントVは「180:リンギング」メッセージを応答として送信する。このメッセージは一連のコールエージェントを通って発呼者に送り返される。
【0048】
発呼への応答の後、ユーザエージェントVは「200:OK」メッセージをコールエージェントUに返す。このメッセージにはセッション記述として、ユーザエージェントVがメディアパケットを受信するためのアドレス(1.4)とメディア特性とが含まれている。代表的なメッセージは以下に示すようなものである。
【0049】

【0050】

【0051】
コールエージェントUは、このメッセージが局所的な交換機能で済む呼であることを認識する。局所交換機能を持たない(すなわち、改良以前のSIPシグナリングシステムを使っている)コールエージェントとの互換性を持たせるためにユーザエージェントVから与えられたセッション記述のコピーを含むスタックを作成し、この「200:OK」メッセージをコールエージェントSに送信する。これはさらにコールエージェントQにまで送り返される。
【0052】
コールエージェントQは、この呼が制御対象のNAT装置Rを通過するものであり、かつ、メッセージには局所交換用スタックを含んでいることを認識する。そうしてスタックを調べ、自ネットワークに対応するエントリーを見出す。一致するエントリーが見つかると、それはスタックからポップされ、それより上にあるエントリーはすべて削除される。一致したこのエントリーが新しいSDPとして用いられ、それより下のエントリーはそのままスタックに残された形でSIPメッセージのセッション記述が構成されてユーザエージェント Pに送信される。局所交換機能が使用されるため、インバイトメッセージの処理中に作られたピンホールはもはや必要がなくなり、削除される。
【0053】
ユーザエージェントPは「ACK」メッセージ(確認メッセージ)を送ることによってSIPシグナリングシーケンスを完了する。これは一連のコールエージェントを通って着呼ユーザエージェントまで送信される。
【0054】
ユーザエージェントはメディアパケットを送るべきローカルネットワーク内のアドレスをそれぞれ受信したことになる。局所交換機能が使用されるため、このアドレスは、同じネットワーク内における別のユーザエージェントのアドレスである。メディア情報の伝送には1本の局所メディア経路11が用いられる。各NAT装置内のすべての余分なピンホールが閉じられる。
【0055】
通常のSIP動作によると、NAT制御装置は、SDP(セッション記述プロトコル、Session Description Protocol (RFC 2616) )のアドレス情報を書き換え、到来したアドレスを捨て去ってしまう。呼が後にもとのネットワークにループバックしてきた場合、そのネットワークからのアドレスが失われているので局所的な接続が出来ない。本発明の局所交換を用いる方法によれば、以前のセッション記述をSIPシグナリングメッセージの中のスタックに入れて送るので情報の欠落を起こさない。呼が新しいネットワークに入るとき、スタックに以前このネットワークで挿入されたエントリーがあるか否かが調査される。もしエントリーが見つかり、局所交換が許可されるならば、スタックは以前このネットワーク地域に入ったときの状態まで戻される。これはこの地域に再度入る際に割当てられた最も新しいピンホールは必要がなくなって、直ちに閉じてよいということを意味する。
【0056】
本発明の価値は、呼がいくつかのNAT装置を通る場合に、局所交換の制御を柔軟にできるといった利点をSIPに付加したことにある。注目すべきことは、局所交換機能が存在しても、ユーザエージェントによって実行されるSIPシグナリングを変更することなく、最適なメディア経路を選べることである。本プロトコルはNAT装置経由のSIPメディアフローの通過を制御するコールエージェントに実装されうる。実装形態は、図3の実施例におけるように個々の独立した装置であってもよいし、図5から9までの実施例におけるようにNAT装置の中に組み込まれていてもよい。さらに、必要ならコールエージェントQとUは、ネットワーク1でなくネットワーク2に存在してもよい。これは小規模事務所における末端ネットワークで、インターネット2にあるコールエージェントが使える場合に有用である。この実施例はまた図9に示すような旧来の呼設定装置に適用されてもよく、そのような装置は、呼設定装置で生成された付加情報を単に通過させるだけでよい。
【0057】
これまでのことはSIPシグナリングシステムとの関連で説明してきた。しかし、同様の効果を得るために、上記の原理は、オファー/アンサー型のセッション記述に基づいた他のシグナリングプロトコルへ拡張してもよい。シグナリングプロトコルが何であっても、(NAT装置間の)アドレス地域には全地域で一意に決まる識別子が付与され、当該地域内のすべての呼設定装置で当該識別子が認識できるようになっている。
【0058】
SIPの場合、この識別子は(SIPグローバルコール参照識別子として用いられる。)SIPサーバのドメイン名に由来することが多い。SIPではベアラ情報を伝送するためにオファー/アンサープロトコル(RFC 3264)を用いる。使用されるメディアチャンネル、アドレスおよび符号化を記入したセッション記述がそれぞれの方向に送信される。(ALG (アプリケーション・レベル・ゲートウェイ)のような)NAT制御装置は、セッション記述におけるアドレス情報をローカルのNAT装置で実行されるアドレス変換と一致するように書き換える。
【0059】
局所交換ができないような項目が含まれている場合は、それらは送信時に単にスタックから取り除かれる。この結果、メディアフローはローカルネットワークアドレス経由で実行される。この方法はそれぞれの方向のセッション記述に対して独立に適用することができるが、結果として方向ごとに異なるNAT装置が選ばれることや、迂回用のピンホールが開いたままになることがある。したがって、スタックの処理は逆向きのセッション記述では修正されることになる。
【0060】
本発明を、以下、図4から図9までを使って説明する。
【0061】
図4は各コールエージェントで適用される規則と処置を表で示したものである。この規則は一致するものが見つかるまで順番にチェックされる。「オファー」メッセージには適用されずチェックの必要がない規則1と規則3を除けば、どちらの方向でも規則は同じであることがわかる。図5から図9までを参考にして記述される実施例では、各NAT装置における処理の際に使用される規則の番号が6角形の中に示されている。
【0062】
図5から9までの実施例において、コールエージェントはNAT装置に組込まれており、個々には示されていない。図5の実施例では、12-16の5個のネットワークがあり、17-20の4個のNAT装置により接続されている。AとKの文字はユーザ端末21、22のアドレスを示している。BからJまでの文字はNAT装置を通るピンホールのアドレスを示している。これらのネットワークはいずれも1対のNATしか共通していないものとする。図3の実施例のようにNAT装置に備えられるコールエージェントは、スタック構造の中に過去のセッション記述を登録し、SIPインバイトメッセージのマルチパート添付として各々の後続のNAT装置に送信する。たとえば、NAT装置18へ送信されるSIPインバイトメッセージは、NAT装置17を通って開けられたピンホールのアドレスCだけでなく、ネットワーク12(図5の上側矢印群において2番目の右向きの矢印を参照されたい。)にあるユーザ端末21のアドレスAも含んでいる。
【0063】
過去のセッション記述が通過している限り、共通のネットワークがないので、端末21と22の間のメディア経路として近道はなく、規則4だけが適用される。セッション記述の中で受取られたアドレスは、NAT装置に送信され、コールエージェントによって通過されてきたメッセージ中のNAT装置からのアドレスに置き換えられる。これはSDP内のアドレスの「変換」と見なされ、そのNAT装置でメディアパケットになされるアドレス変換に一致しなくてはならない。
【0064】
図5の実施例では、いくつかのネットワークを通過するものの先行して存在する以前のネットワークに再度入ることがない呼については、本発明による変更がないことを示している。
【0065】
図6の実施例では、3個のネットワーク23-25がNAT装置17-20で結ばれている。ネットワーク23には、NAT装置17と20が共存し、ネットワーク24には対(ペア)のNAT装置17と18および19と20が共存する。
【0066】
こうしてSIPインバイトメッセージがネットワーク25のコールエージェントからネットワーク24のコールエージェントへ送信されるとき、規則2が適用され、セッション記述のスタックが調査され、最も古いネットワーク24のセッション記述で始まるスタックの部分で置き換えられる。こうしてスタック(G) [E, C, A]が(C) [A]に置き換えられる。円26で示すように、再度ネットワーク24に入るのにピンホールは必要でない。
【0067】
同様に、SIPインバイトメッセージが呼設定装置を通って再度ネットワーク23に進入する場合、セッション記述はネットワーク23のセッション記述に戻される。規則2が適用されるとアドレス(J) [C, A]のスタックは(A) []だけで置き換えられ、地域23へ進入するためのピンホールは閉じられる。これで呼のメディア経路はネットワーク23の中で経路27として全部が設定されることになる。
【0068】
OK回答(アンサー)メッセージを受け、規則3に従ってピンホールは閉じられる。回答経路には、セッション記述上のスタックを複製する処理規則1および3から、1個だけでなく、多くのKが生成される。これは本発明を実装していない旧来のコールエージェントや、またはそのようなNAT装置を含む(図9のような)ネットワークを対象にする場合に必要になる。この処理がなければ、旧来のコールエージェントを通過する際にSDPが失われてしまう。しかし、失われない場合にはこの処理によってスタック上にSDPの多重コピーができる。これらは呼がループバックして以前のネットワークに入る場合には、次の処理の際に破棄される。
【0069】
図7の実施例においては、端末およびNAT装置28-33がネットワーク34-36で結ばれており、結果として得られるメディア経路は3つの間37-39に分かれている。NAT装置でメッセージを処理する場合のオファー/アンサーメッセージと適用可能な規則を図7に示す。
【0070】
図8の実施例は、さらに一つのNAT装置があり、端末とNAT装置は40-46で示されている。ここでも3個のネットワーク47-49があるが、ネットワーク47には端末40と46が共存しているので、最終的な呼設定のために一本の局所的なメディア経路が設定される。NAT装置でメッセージを処理する場合のオファー/アンサー一メッセージと適用可能な規則を図8に示す。
【0071】
セッション記述スタックは、あるオペレータにとっては秘密にしておきたい呼情報の詳細を他のネットワークに開示してしまう可能性がある。スタックエントリーの書式に必要なことは、ネットワークがエントリーを調べて自ネットワークに関する情報があるか否かを認識できることなので、スタック情報の秘密を確保するために、ネットワーク装置が暗号化を導入することを妨げるものではない。別の方法として、ネットワークは、セッション記述の代わりにスタック情報としてそのネットワークで読み出された参照先(URL)を送るようにしてもよい。この場合、呼の状態を保持することが必要で、ベアラ情報スタック(たとえば HTTP (Hypertext Transfer Protocol (RFC 2616) )で検索可能なXML (Extensible Markup Language)文書)で参照先を受信する将来の任意の呼に対して問合わせられるようにしておかなくてはならない。しかし、URLを使用するためには、本技術を用いるいかなるネットワークにおいても呼処理装置間でシグナリングシステムを追加する必要がある。
【0072】
NAT制御装置(コールエージェントQ、Tなど。但し、Sではない。)とSIPサーバは、ここで述べた局所交換技術を用いることなく、すでに広汎に使われている。図9はこれらの装置が局所交換機能を持つような場合の効果を示している。本実施例は、図8と同じであるが下方の対になった線が効果を示すもので、種々のNAT装置が旧型で、改良版でなく旧来のSIPシグナリングシステムを用いている場合である。ここで、第1の対になった線はNAT装置41が旧型のときの状況を示している。ネットワーク48に関連した呼設定装置へのインバイトメッセージはアドレス(A)を単にアドレス(C)に置き換える。以下、NAT装置におけるメッセージ処理の際に適用される種々の規則が示されている。
【0073】
(NAT制御装置以外の)SIP装置は、スタック情報を変えずにそのまま送信するか、除去してしまうかのいずれかを実行する。スタック情報が変わらずに送信される場合には、局所交換機能は普通どおりに作動する。スタックが除去される場合には、メディアは互換性のない装置を有するネットワークを横断するように強制される。非互換のNAT制御装置はスタックを変えずに送信するかまたは除去してしまう。SIPメッセージの中のアドレス領域が解読できない場合、NAT制御装置はアドレス変換を行わないと仮定する。このことが起きると、他のネットワークはスタックのエントリーにスクランブルをかけるだけで問題を回避できる。この操作は情報秘匿のところで述べた暗号化と同様の手法で行われる。スタックが除去されるときは、メディアは非互換の制御装置によってNAT制御装置を強制的に通過させられる。スタックが変化せず通過する場合は、ある地域では局所交換機能ができなくなり、ピンホールが以後使われないにもかかわらず、開いたままになる。
【0074】
図9のすべての場合において両方向へのメディアフローは設定されるが、最適な局所交換経路が常に見出されるわけではなく、使っていないピンホールも閉じられないままになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークアドレス変換装置(NAT)により相互に接続された複数のパケット交換ネットワークにおいて複数のコールエージェントを使用して呼を設定する呼設定システムであって、
前記呼のメディア経路を定義するために一連のコールエージェントへメッセージを送信する送信手段を含み、
前記メッセージは、前記コールエージェントに関連付けられたネットワーク内でのメディアパケット用のアドレス情報を含み、
前記メッセージの少なくともいくつかは、さらに、前記呼の設定に関与する先行して存在するコールエージェントへ送信されるメディアパケット用のアドレス情報を含むことを特徴とする呼設定システム。
【請求項2】
前記コールエージェントの少なくともいくつかは、先行して存在するコールエージェントへ送信された前記関連付けれたネットワークについてのエントリーを、受信された前記アドレス情報が含むかどうかを確認するために、前記メッセージを調査するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の呼設定システム。
【請求項3】
前記コールエージェントのそれぞれは、前記先行して存在するコールエージェントにより生成された形式へと前記アドレス情報を戻すことで、近道用のメディア経路を生成させるよう構成されていることを特徴とする請求項2に記載の呼設定システム。
【請求項4】
ネットワークへの再度の進入のために前記ネットワークアドレス変換装置(NAT)を通じて開かれたメディア経路が閉じられることを特徴とする請求項2または3に記載の呼設定システム。
【請求項5】
前記メッセージの少なくともいくつかは、セッション記述を含むことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項6】
前記メッセージの少なくともいくつかは、暗号化されたアドレス情報を含むことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項7】
前記メッセージの少なくともいくつかは、前記ネットワーク内において記憶されているアドレス情報を参照するための参照情報を含むことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項8】
前記メッセージの少なくともいくつかは、前記メディアパケットが通過することになるネットワークの識別情報を含むことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項9】
各ネットワークは、固有のグローバル識別情報を有していることを特徴とする請求項8に記載の呼設定システム。
【請求項10】
前記コールエージェントは、オファー/アンサー型のプロトコルを使用することを特徴とする請求項1ないし9の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項11】
前記オファー/アンサー型のプロトコルは、SIP(セッション・イニシエーション・プロトコル)であることを特徴とする請求項10に記載の呼設定システム。
【請求項12】
コールエージェントへ送信されるメディアパケット用の前記アドレス情報は、SIPメッセージへのマルチパート添付として、スタック内に含まれていることを特徴とする請求項11に記載の呼設定システム。
【請求項13】
メッセージのスタックには、オファーメッセージまたはアンサーメッセージが記入されることになる領域用のエントリーが含まれており、整合した最も深層のエントリーが新規のセッション記述となるまで、前記スタックが調査されることを特徴とする請求項12に記載の呼設定システム。
【請求項14】
前記オファーメッセージまたは前記アンサーメッセージが前記領域へ記入するためのネットワーク変換装置(NAT)において開いているいずれかのピンホールが閉じられることを特徴とする請求項13に記載の呼設定システム。
【請求項15】
メッセージのスタックが、前記アンサーメッセージが出てきた前記領域用のエントリーを有していない場合、ネットワーク変換装置(NAT)において開いている該領域へのいずれかのピンホールが閉じられることを特徴とする請求項12ないし14の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項16】
前記コールエージェントは、前記ネットワーク変換装置(NAT)を制御するよう構成されていることを特徴とする請求項1ないし15の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項17】
前記コールエージェントは、前記ネットワーク変換装置(NAT)内に搭載されていることを特徴とする請求項1ないし16の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項18】
前記ネットワークの少なくとも1つは、3G無線ネットワークであることを特徴とする請求項1ないし17の何れかに記載の呼設定システム。
【請求項19】
複数のコールエージェントを使用してネットワークアドレス変換装置(NAT)により相互に接続された複数のパケット交換ネットワークにおいて呼を設定する呼設定方法であって、
前記呼のメディア経路を定義するために一連のコールエージェントへメッセージを送信するステップを含み、
前記メッセージは、前記コールエージェントに関連付けられたネットワーク内でのメディアパケット用のアドレス情報を含み、
前記メッセージの少なくともいくつかは、さらに、前記呼の設定に関与する先行のコールエージェントへ送信されるメディアパケット用のアドレス情報を含むことを特徴とする呼設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−10395(P2012−10395A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−185231(P2011−185231)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【分割の表示】特願2006−537323(P2006−537323)の分割
【原出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(507002756)エリクソン エービー (26)
【Fターム(参考)】