説明

哺乳動物細胞の形質転換方法

【課題】本発明は広範な哺乳動物細胞を宿主細胞として利用することができ、遺伝子の導入効率および発現効率が高く、目的遺伝子を高発現するクローンの選択効率が高い哺乳動物細胞の形質転換方法を提供する。
【解決手段】本発明の形質転換方法は、IR/MARベクターである第1ベクターと、哺乳動物細胞内において機能するプロモーターおよび分泌タンパク質をコードする目的遺伝子とを含む第2ベクターとを、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比が0.3〜5の範囲となるように、哺乳動物細胞へコトランスフェクションを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞を用いて、所望の分泌タンパク質をを高度に生産するための技術に関する。より具体的には、本発明者らが開発した「高度遺伝子増幅系」を用いて所望の目的遺伝子(所望の分泌タンパク質をコードする遺伝子)を増幅および発現させ、所望の分泌タンパク質を生産する際に、遺伝子導入効率および遺伝子増幅効率を向上させることができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、微生物、植物、酵母、昆虫細胞、及び哺乳類細胞が、大量の望ましいタンパク質の発現の宿主として使用されている。多くの種類の発現系の中で、微生物は発現系として最も容易に使用され、多くの種類の微生物系が研究され利用されている。しかしながら、微生物発現系の使用はいくつかの問題点が存在する。まず、遺伝子は微生物において発現され得るが、微生物はタンパク質発現や、例えばグリコシル化、リン酸化及びアミジル化のようなタンパク質修飾機序に関して異なる機序を有するため、発現されたタンパク質の構造および特性は動物タンパク質の構造および特性とは大きく異なる。よって、微生物を用いた組換えタンパク質生産は、元来修飾をほとんどされていないタンパク質、またはタンパク質の修飾や構造がその機能にあまり影響を受けないタンパク質の生産に限定されていた。
【0003】
そのため、動物のタンパク質生産には哺乳動物細胞が適している。外来性遺伝子が哺乳動物細胞で発現される場合、外来性遺伝子は選抜マーカーを有するベクターとコトランスフェクトされ、形質転換された細胞を選択培地で長時間培養することにより選別する。しかしながら高度に発現する細胞クローンを取得する頻度は低いというのが現状である。外来遺伝子は染色体への挿入されるものの、遺伝子の発現は挿入部位に依存するので、外来遺伝子の発現が予測できない(非特許文献1〜3を参照のこと)。よって、外来性遺伝子は安定して染色体に挿入されたとしても、哺乳動物細胞において多くの外来性遺伝子発現は近隣の核酸により阻止されてしまうために、少量しか発現できない場合がある(非特許文献4および5を参照のこと。)。
【0004】
上述のごとく、哺乳動物細胞では外来性遺伝子の発現量が少ないとい問題を解決するために、種々の遺伝子発現系が開発された。例えば、DHFR(ジヒドロ葉酸リダクターゼ)に対する阻害剤であるメトトレキセート(以下「MTX」という)を含有する培地でチャイニーズハムスター卵巣細胞(以下「CHO細胞」という)の細胞株を培養し、MTXの濃度に依存して生存し、遺伝子のコピー数の増加によりタンパク質を高度に発現するCHO細胞株を得る方法が知られている(例えば非特許文献7および8、特許文献2および3を参考のこと)。この方法は、現在広く利用され重要な技術となっているが、適用できる宿主細胞がCHO細胞に限られ、汎用性に欠けるという問題点がある。この問題点は、哺乳動物細胞内において医薬品等の有用タンパク質を生産する上での大きな障害となる。
【0005】
さらに上述した従来技術は、取り扱いが困難なCHO−DG44細胞等の特殊なCHO細胞に宿主細胞が限られる上に、選択薬剤であるMTXの毒性作用を考慮しつつ濃度を少しずつ増加させながら細胞を選択していかなければなければならない等の配慮が必要であるため、経験および熟練を必要とする。しかも、発現させたいタンパク質を細胞内に蓄積させた場合には、細胞内に蓄積したタンパク質を取得するために細胞破砕の工程が必要な上、破砕の際にタンパク質が変性する恐れもある。
【0006】
さらに哺乳動物細胞を用いた組換えタンパク質の発現は、微生物を用いた組換えタンパク質の発現に比して発現効率が低く、さらに培地コストが高いためにタンパク質の生産コストがより高くなるという問題がある。さらに、有用タンパク質を高生産する哺乳動物細胞クローンを選抜するには莫大な時間を必要としていた。このため、哺乳動物細胞を用いた組換えタンパク質の生産においては、少しでもタンパク質の発現効率、および所望のタンパク質を高生産するクローンの選択効率を高めることによって、タンパク質の生産コストを下げる必要があった。
【0007】
ところで本発明者らは、哺乳動物の複製開始領域(IR;Initiation Region)と核マトリックス結合領域(MAR; Matrix Attachment Region)とを持つプラスミド(以下「IR/MARベクター」または「IR/MARプラスミド」という)をヒト由来がん細胞(COLO 320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン(Blasticidine)あるいはネオマイシン(Neomycine))を利用して選択するだけで、
(1)発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子(以下「目的遺伝子」という)の細胞内コピー数を1万コピー程度にまで増幅できること、および、
(2)目的遺伝子はIR/MARベクターに対して同一の遺伝子構築物(シス)として導入した場合であっても、別の遺伝子構築物(トランス)として導入した場合であっても、高度に増幅することができるということを発見した(特許文献1および非特許文献6参照)。そして、本発明者は当該知見に基づいて、IR/MARベクターと目的遺伝子とを、哺乳動物細胞(例えば、ヒト由来がん細胞(COLO 320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)、CHO細胞等)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(BlasticidineあるいはNeomycine)を利用して選択するだけで、目的遺伝子を1万コピー程度に増幅できる系(「高度遺伝子増幅系」という)を完成させるに至った。
【0008】
ここで、染色体外のダブルマイニュート染色体(以下「DM」という)と染色体の均一染色領域(以下「HSR」という)がIR/MARベクターによって生じるメカニズムを図1に示す。IR/MARベクターは宿主細胞内で直列に反復してつながることで多量体化する(Step1)。この多量体は細胞が成長している間は宿主細胞内で安定して存在し、自己複製を行う。上記多量体がそのまま大きくなるか、宿主細胞内に元から存在するDMに取り込まれることでDMが発生する。また、Step2のように多量体の環状DNAは宿主細胞内でDNA2本鎖が切断され(DSB;double strand breakage)、直鎖状DNAになる。すると、当該直鎖状DNAはクロモソームに組み込まれ、Step3のようなBFB(Breakage-Fusion-Bridge)サイクルが開始され、HSRが生じる。
【特許文献1】特開2003−245083号公報(公開日:平成15(2003)年9月2日)
【特許文献2】国際公開第96/09383号パンフレット(国際公開日:1996年3月28日)
【特許文献3】特表平8−503615号公報(公表日:平成8年(1996)4月23日)
【非特許文献1】Grindley et al. Trends Genet.3:16-22(1987)
【非特許文献2】Kucherlapati et al. Crit.Rev.Biochem.16:349-381(1984)
【非特許文献3】Palmiter et al. Annu.Rev.Genet.20:465-499(1986)
【非特許文献4】Eissenberg et al. Trends Genet.7:335-340(1991)
【非特許文献5】Palmiter et al. Annu.Rev.Genet.20:465-499(1986)
【非特許文献6】Noriaki Shimizu, et al. (2001) Plasmids with a Mammalian Replication Origin and a Matrix Attachment Region Initiate the Event Similar to Gene Amplification. Cancer Research vol.61, no.19, p6987-6990.
【非特許文献7】Nunberg et al., Proc.Natl.Acad.Sci,75:5553-5556(1978)
【非特許文献8】Page et al., Biotechnology, 9:64-68(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のごとく、従来公知の哺乳動物細胞を用いたタンパク質生産系では、宿主細胞が限定される、操作が煩雑で熟練を要する等の様々の問題点があった。
【0010】
そこで本発明は、かかる従来技術の課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、広範な哺乳動物細胞を宿主細胞として利用することができ、遺伝子の導入効率および発現効率が高く、目的遺伝子を高発現するクローンの選択効率が高い哺乳動物細胞の形質転換方法を提供し、医薬品等の有用タンパク質の生産コストを低下させることである。また本発明は、目的タンパク質(発現させる所望のタンパク質)の精製を容易にして有用タンパク質の生産コストをさらに低下させるため、目的タンパク質を細胞内に蓄積させずに細胞外に分泌させることを画した哺乳動物細胞の形質転換方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、高度遺伝子増幅系を用いた目的タンパク質の生産条件について鋭意検討を行ったところ、分泌タンパク質をコードする目的遺伝子を含むベクターとIR/MARベクターとのモル比を所定の範囲となるようにしつつ、哺乳動物細胞へ同時に導入することよって、上記課題を全て解決し得ることを発見し本発明を完成させるに至った。
【0012】
さらに驚くべきことに、本発明を採用することによって、目的遺伝子が高発現するだけでなく、目的遺伝子を高発現するクローンの選択効率が著しく向上するという、当業者が予想し得る以上の有利な効果が得られた。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために以下の発明を包含する。すなわち本発明にかかる方法は、哺乳動物複製開始領域と、哺乳動物核マトリックス結合領域とを含む第1ベクター、および哺乳動物細胞内において機能するプロモーターと、分泌タンパク質をコードする目的遺伝子とを含む第2ベクターとを、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比が0.3〜5の範囲となるように、哺乳動物細胞へ同時に導入することを特徴とする、哺乳動物細胞の形質転換方法である。
【0014】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記哺乳動物複製開始領域が、遺伝子増幅活性部位を有する哺乳動物複製開始領域の部分断片であってもよい。
【0015】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記哺乳動物複製開始領域が、c−myc遺伝子座由来の複製開始領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座由来の複製開始領域、β−グロビン遺伝子座由来の複製開始領域、およびエプスタイン・バーウイルス潜在複製開始領域からなる群から選択されるいずれかであってもよい。
【0016】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記哺乳動物核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来するものであってもよい。
【0017】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記プロモーターが、ヒトサイトメガロウィルスプロモーター、SV40初期プロモーター、SRαプロモーター、ヒト伸長因子1−αプロモーター、ウシ成長ホルモンプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター、およびハムスターユビキチン/S27aプロモーターからなる群から選択されるのいずれかであってもよい。
【0018】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記プロモーターが、SRαプロモーターまたはヒト伸長因子1−αプロモーターを使用した場合において、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比は1.5であることが好ましい。
【0019】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記プロモーターが、ヒトサイトメガロウィルスプロモーターを使用した場合において、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比は3であることが好ましい。
【0020】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、目的遺伝子の5’末端側に分泌シグナル配列を含むことが好ましい。
【0021】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記第1ベクターおよび/または第2ベクターに、形質転換細胞を選択するための選択マーカー遺伝子が含まれていることが好ましい。
【0022】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記選択マーカー遺伝子は、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラスチシジンSデアミナーゼ遺伝子、グルタミンシンセターゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子、および緑色蛍光タンパク質遺伝子からなる群より選択されるものであってもよい。
【0023】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、上記哺乳動物細胞が、チャイニーズハムスター卵巣細胞、ヒト胎児腎臓細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト子宮頸部癌細胞、およびマウスミエローマ細胞からなる群から選択されるものであってもよい。
【0024】
また本発明にかかる哺乳動物細胞の形質転換方法は、第1ベクターおよび第2ベクターを哺乳動物細胞に導入した後に、目的遺伝子が高発現するクローンを選抜する選抜工程を含む方法であってもよい。
【0025】
一方、本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記本発明にかかる形質転換方法によって得られた形質転換細胞を培養する培養工程を含む方法である。
【0026】
本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記培養工程によって得られた培養物から所望のタンパク質を精製する精製工程を含む方法であってもよい。
【0027】
また本発明は、上記本発明にかかる形質転換方法によって得られた形質転換細胞をも包含する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、目的遺伝子の導入効率および発現効率が高く、目的遺伝子を高発現するクローンの選択効率が高い哺乳動物細胞の形質転換方法を提供し、医薬品等の有用タンパク質の生産コストを低下させることができる。なお、本発明において利用するIR/MARベクターを用いた高度遺伝子増幅系は、宿主細胞は特に限定されず、広範な哺乳動物細胞を利用することができる。
【0029】
さらに、本発明の形質転換方法において、IRの全長の代わりに遺伝子増幅活性を有するIRの部分断片を適用した場合は、従来の高度遺伝子増幅系で用いられていたIR/MARベクターと比べてサイズが小さいために、下記のメリットをさらに享受できる。
(A)哺乳動物細胞への遺伝子導入効率がさらに向上する。
(B)さらにサイズの大きい目的遺伝子を高度遺伝子増幅系へ適用することが可能となる。
(C)タグタンパク質やシグナルペプチド等のその他のエレメントをコードするポリヌクレオチドを、IR/MARベクターに容易に組み込むことができるようになり、より複雑なベクターを構築することも可能になる。
【0030】
また上記に加え、下記の効果が得られるということを本発明者らは偶然にも見出した。この効果は当業者が予想し得る以上の有利な効果であるといえる。
(D)全長のIRを用いた従来法よりもHSRの発生頻度が著しく向上する。
【0031】
したがって本発明によれば、所望のタンパク質を大量かつ容易に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0033】
<1.本発明の形質転換方法>
本発明の一実施形態は、哺乳動物細胞の形質転換方法に関する。上記方法のことを「本発明の形質転換方法」と称する。
【0034】
ここで本発明の形質転換方法は、哺乳動物複製開始領域と、哺乳動物核マトリックス結合領域とを含む第1ベクター、
および哺乳動物細胞内において機能するプロモーターと、分泌タンパク質をコードする目的遺伝子とを含む第2ベクターを、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比が0.3〜5の範囲となるように、哺乳動物細胞へ同時に導入する工程(以下、「導入工程」という)を含むことを特徴としている。
【0035】
(1)第1ベクター
本発明の形質転換方法において利用する「第1ベクター」は、哺乳動物複製開始領域(IR)と、哺乳動物核マトリックス結合領域(MAR)とを少なくとも含むベクター(すなわち「IR/MARベクター」)である。かかる第1ベクターに含まれるIRおよびMARは、哺乳動物をはじめとする真核生物細胞内で機能するIRおよびMARであれば特に限定されるものではない。
【0036】
上記IRとしては、例えばc−myc遺伝子座由来、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)遺伝子座由来、β-グロビン遺伝子座由来等の複製開始領域、やエプスタイン・バーウイルス潜在複製開始領域等が挙げられる。なおc−myc遺伝子座由来の複製開始領域については、「McWhinney, C. et al., Nucleic Acids Res. vol. 18, p1233-1242 (1990)」を参照のこと。またDHFR遺伝子座の複製開始領域については、「Dijkwel, P.A. et al., Mol. Cell. Biol. vol.8, p5398-5409 (1988) 」を参照のこと。またβ−グロビン遺伝子座の複製開始領域については、「Aladjem, M. et al., Science vol. 281, p1005-1009 (1998) 」を参照のこと。またエプスタイン・バーウイルス潜在複製開始領域については「Baer, R. et al., Nature vol.310, p207-211(1984)」を参照のこと。
【0037】
また上記MARとしては、例えば、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座等の核マトリックス結合領域に由来するポリヌクレオチドが挙げられる。なお、Igκ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、「Tsutsui, K. et al., J. Biol. Chem. vol. 268, p12886-12894 (1993) 」参照のこと。またSV40初期領域の核マトリックス結合領域については、「Pommier, Y. et al., J. Virol., vol 64, p419-423 (1990) 」を参照のこと。またジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、「Shimizu N. et al., Cancer Res. vol. 61, p6987-6990 」を参照のこと。
【0038】
なお本明細書において特に言及しない場合においては、哺乳動物複製開始領域を「IR」と表記し、哺乳動物各マトリクス結合領域を「MAR」と表記する。また全長のIRおよびMARのみならず、これらの部分断片により構成されているベクターも「IR/MARベクター」と称する。
【0039】
なお本発明の形質転換方法では、第1ベクター(IR/MARベクター)のサイズを小さくするために、全長のIRの代わりに遺伝子増幅活性部位を有するIRの部分断片(「増幅活性断片」という)を用いてもよい。ここで上記「哺乳動物複製開始領域(IR)の部分断片」とは全長のIRを除くIRの一部分であることを意味する。IRの部分断片の長さは特に限定されるものではないが、約2.4kbpであるc−myc遺伝子座由来のIRの場合は、部分断片の長さは0.5kbp以上2.0kbp以下であることが好ましく、0.5kbp以上1.5kbp以下であることがさらに好ましく、0.5kbp以上1.3kbp以下であることが最も好ましい。また約4.6kbpであるDHFR遺伝子座由来のIRの場合は、部分断片の長さは1.7kbp以上3.5kbp以下であることが好ましく、1.7kbp以上3.1kbp以下であることがさらに好ましい。上記好ましい範囲を満たす場合は、発明の効果の項で記載した(A)〜(D)の効果が得られやすい。
【0040】
ここで「遺伝子増幅活性部位」とは、高度遺伝子増幅系における遺伝子増幅が起こるために必須なエレメントのことを意味する。たとえばあるIRの部分断片が、上記遺伝子増幅活性部位を有しているか否かは、例えば、当該部分断片とMARとを用いてIR/MARベクターを調製し、当該IR/MARベクターと目的遺伝子とを哺乳動物細胞へ導入した際に遺伝子増幅形態(HSR、DM)の発生頻度を検討することによって判断することができる。すなわち上記検討において遺伝子増幅形態(HSR、DM)の発生頻度が全長のIRを用いた場合に比して著しく低下する、または遺伝子増幅形態(HSR、DM)が発生しなくなれば、その検討に用いたIRの部分断片には遺伝子増幅活性部位が含まれていないと判断できる。逆に、IRの部分断片を用いた場合の遺伝子増幅形態(HSR、DM)の発生頻度が、全長のIRを用いた場合のそれに比して、同等か若しくはそれ以上であれば、当該IRの部分断片が遺伝子増幅活性部位を有するIRの部分断片(増幅活性断片)であると判断することができる。形質転換細胞のクローンにおいて上記増幅形態(HSR、DM)が形成されたか否かを検出する方法については、特に限定されるものではないが、例えば分裂期の染色体について公知のFISH法(fluorescence in situ hybridization)を行い、哺乳動物細胞へ導入した遺伝子を検出することによって判断し得る。上記判断は、当業者であれば容易に行い得る。なおFISH法を実施する際の具体的な方法については特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。
【0041】
本発明者らの検討によれば、c−myc遺伝子座由来IRの場合、配列番号1、2、3、7、および12に示される塩基配列からなるIRの部分断片が遺伝子増幅活性部位を有していることが明らかとなった。特に配列番号1、3、および12に示される塩基配列からなるIRの部分断片をIR/MARベクターの全長IRの代わりに使用することで、全長IRを使用した場合に比して目的遺伝子の増幅効率が向上するという驚くべき知見が得られた。なお、c−myc遺伝子座由来IRの塩基配列は、例えばGenbank HSMYCC(accession number X00364)の第1〜2349位に相当するものが挙げられる。
【0042】
またDHFR由来IRの場合、配列番号52および55に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドが増幅活性断片に該当することを本発明者らは確認した。なおDHFR由来IRの塩基配列としては、Genbank CFORIDHFR(accession number X94372)の第1532〜6166位に示される塩基配列がその一例として挙げられる。特に配列番号52に示される塩基配列からなるIRの部分断片をIR/MARベクターの全長IRの代わりに使用することで、全長IRを使用した場合に比して目的遺伝子の増幅効率が向上するという驚くべき知見が得られた。
【0043】
増幅活性断片として機能するものであれば、配列番号1、2、3、7、12、52および55に示される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加されたポリヌクレオチド、すなわち変異ポリヌクレオチドもIRの部分断片の好ましい実施形態に該当するということを、当業者は容易に理解する。上記変異ポリヌクレオチドとオリジナルのポリヌクレオチド(配列番号1、2、3、7、12、52および55)との相同性は、80%以上が好ましく、約90%以上がさらに好ましく、約95%以上が最も好ましい。なお上記変異ポリヌクレオチドを用いてIR/MARプラスミドを構築した場合に目的遺伝子を増幅させる活性を有することはいうまでもない。
【0044】
本発明の形質転換方法の導入工程において使用する第1ベクター(IR/MARベクター)は、IRおよびMARが具備されていればよいが、当該IR/MARには、大腸菌内でクローニングを行うために必要な配列、選択マーカー(マーカータンパク質)としての薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子、ヒグロマイシン抵抗性遺伝子等)または緑色蛍光タンパク質遺伝子等が含まれていてもよい。これらの選択マーカーを指標とすることによって、第1ベクター(IR/MARベクター)が導入された哺乳動物細胞を選別できる。
【0045】
なお、第1ベクターは1種類のIR/MARベクターからなる場合に限定されず、複数種類のIR/MARベクターを組み合わせてからなるものであってもよい。
【0046】
(2)第2ベクター
本発明の形質転換方法において利用する「第2ベクター」は、哺乳動物細胞内において機能するプロモーターと、分泌タンパク質をコードする目的遺伝子とを少なくとも含むベクターである。
【0047】
ここで上記「目的遺伝子」とは発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子のことを意味する。本発明における目的遺伝子は、分泌タンパク質をコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、所望のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを適宜選択の上、採用すればよい。「分泌タンパク質」とは、細胞質膜外に分泌されるタンパク質の総称である。上記目的遺伝子としては例えば、抗体などの血液タンパク質、各種消化酵素、ペプチドホルモン、乳タンパク質、卵白タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。後述する実施例においては、抗Pyrococcus kodakaraensis(KOD)DNAポリメラーゼ抗体をコードする遺伝子、またはエリスロポエチンをコードする遺伝子を目的遺伝子として用いた。なお、上記抗体としては、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM)およびこれらの抗体フラグメント(Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)が挙げられる。また単鎖抗体であってもよい。免疫グロブリンをコードする遺伝子を目的遺伝子として利用する場合、重鎖および軽鎖を別々に含む2つのベクターからなる第2ベクターを用いてもよいし、また抗体の重鎖と軽鎖がタンデムにつながった1つのベクターからなる第2ベクターを用いてもよい。よって本発明の形質転換方法は第2ベクターが1種類であることに限定されず、複数種類のベクターの組み合わせからなる場合も意図している。
【0048】
また本発明の形質転換方法の導入工程において導入される、目的遺伝子はプロモーターに制御可能に連結されていることが好ましい。上記プロモーターは、導入される哺乳動物細胞において機能するものであれば特に限定されるものではなく、転写因子等による所定の操作によって、プロモーターの転写活性が活性化または不活性化されるプロモーター(本明細書においては「転写活性調節型プロモーター」という)であっても、恒常的に転写活性が活性化されている恒常型プロモーターであってもよい。「転写活性調節型プロモーター」は、上記特性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、TREプロモーター(クロンテック社製)、T−REXプロモーター(インビトロジェン社製)等の市販品が本発明にかかる方法において利用可能である。恒常型プロモーターとしては、ヒトサイトメガロウィルスプロモーター(CMVプロモーター)、SV40初期プロモーター、SRαプロモーター、ヒト伸長因子1−αプロモーター、ウシ成長ホルモンプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター、ハムスターユビキチン/S27aプロモーター等が利用可能である。
【0049】
本発明の形質転換方法の導入工程において使用する第2ベクターには、上記の他、分泌シグナルペプチドをコードする分泌シグナル配列が目的遺伝子の5’末端側に含まれていてもよい。宿主細胞外に目的タンパク質を分泌させるためである。分泌シグナル配列としては、特に限定されるものではなく、分泌シグナル配列として公知の配列を適宜選択の上、採用すればよい。分泌シグナル配列としては、例えばイムノグログリン κ鎖由来のシグナル配列(Karp,S.L et al., J.Immunol.vol.150, p867-879(1993))、イムノグロブリン 重鎖由来のシグナル配列(Castilla,J. et al., J.Virol.vol.71, p5251-5258(1997))等が挙げられる。
【0050】
本発明の形質転換方法の導入工程において使用する第2ベクターには、上記の他、大腸菌内でクローニングを行うために必要な配列や、ヒスチジンタグをはじめとする精製用タグ配列、選択マーカーをコードする選択マーカー遺伝子が含まれていてもよい。これらの選択マーカーを指標とすることによって、第2ベクターが導入された哺乳動物細胞を選別できる。上記選択マーカー遺伝子としては、薬剤耐性遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(ネオマイシン抵抗性遺伝子)、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子(ヒグロマイシン抵抗性遺伝子)、ブラスティサイジンSデアミナーゼ遺伝子(ブラスティサイジン抵抗性遺伝子))、グルタミンシンセターゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子等が挙げられる。なお第1ベクターおよび第2ベクターのそれぞれに選択マーカー遺伝子が含まれていることが好ましい。第1ベクターおよび第2ベクターがともに導入された哺乳動物細胞を選抜することができるからである。この時、第1ベクターに含まれる選択マーカー遺伝子と、第2ベクターに含まれる選択マーカー遺伝子とが異なることが好ましい。第1ベクターおよび第2ベクターがともに導入された哺乳動物細胞を、さらに確実に選抜することができるからである。
【0051】
(3)導入工程
本発明の形質転換方法の導入工程は、上記第1ベクターと上記第2ベクターとを、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比が0.3〜5の範囲となるように、哺乳動物細胞へ同時に導入する工程である。
【0052】
上記哺乳動物細胞(宿主細胞)は、特に限定されるものではなく、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(例えばCHO−K1細胞、入手先:例えば、ATCC CCL-61、理化学研究所バイオリソースセンターRCB0285、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0403等)、ヒト胎児腎臓細胞(例えばHEK293細胞、入手先:例えばATCC CRL-1573、理化学研究所バイオリソースセンターRCB1637、理化学研究所バイオリソースセンターRCB2202等)、アフリカミドリザル腎臓細胞(例えばCOS−7細胞、入手先:例えばATCC CRL-1651、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0539等)、ヒト子宮頸部癌細胞、マウスミエローマ細胞より選択される、各種腫瘍細胞等が挙げられる。ただし、上記哺乳動物細胞としては、無限増殖能を有する腫瘍細胞が特に好ましい。上記腫瘍細胞としては、例えば、ヒト子宮頸部癌細胞(HeLa細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-2、ATCC CCL-2.2、理化学研究所バイオリソースセンターRCB0007、理化学研究所バイオリソースセンターRCB0191)、HeLa S3細胞(入手先:例えばATCC CCL-2.2、理化学研究所バイオリソースセンターRCB0191、理化学研究所バイオリソースセンターRCB0271、理化学研究所バイオリソースセンターRCB1525等)、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-220)、ヒト大腸がんCOLO 320HSR細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-220.1)、NS0細胞(入手先:例えば、理化学研究所バイオリソースセンターRCB0213)等が挙げられる。なおヒト大腸がんCOLO 320DM細胞については、「Shimizu, N., Kanda, T., and Wahl, G. M. Selective capture of acentricfragments by micronuclei provides a rapid method for purifying extrachromosomally amplified DNA. Nat. Genet., 12: 65−71, 1996.」参照のこと。
【0053】
なお、本発明者らが開発した高度遺伝子増幅系では、IR/MARベクターおよび目的遺伝子を哺乳動物細胞に導入する際には、両者を連結して同一の遺伝子構築物として導入してもよいし、おのおの別々の遺伝子構築物として導入してもよいが、本発明の形質転換方法では特に別々の遺伝子構築物として導入する。換言すれば第1ベクターと第2ベクターとは別個の遺伝子構築物である。このようにすることで、それぞれのベクターのサイズを小さくすることができるために、発明の効果の項で記載した上記(A)〜(D)のメリットをさらに得られやすくなる。
【0054】
また遺伝子構築物の形態については、プラスミドであってもコスミドであってもよい。また第1ベクターおよび第2ベクターの哺乳動物細胞への導入方法は、哺乳動物細胞へ同時に導入することができる方法であれば特に限定されるものではなく、リポフェクション、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法等公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。
【0055】
また本発明の形質転換方法においては、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比が0.3〜5となるように哺乳動物細胞に導入する。第2ベクターにおけるプロモーターとして、SRαプロモーターまたはヒト伸長因子1−αプロモーターを使用した場合において、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比は1.5であることが特に好ましい。また第2ベクターにおけるプロモーターとして、ヒトサイトメガロウィルスプロモーターを使用した場合において、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比は3であることが特に好ましい。本発明者らの検討によって、第2ベクターに対する第1ベクターの最適なモル比が設定された。上記条件を採用することによって、目的遺伝子が高発現するクローンが取得できる。
【0056】
なお、複数種類のベクターの組み合わせからなる第1ベクターを用いて本発明の形質転換方法を実施した場合、当該複数種類のベクターのモル数の合計を第1ベクターのモル数とすればよい。同様に、複数種類のベクターの組み合わせからなる第2ベクターを用いて本発明の形質転換方法を実施した場合、当該複数種類のベクターのモル数の合計を第2ベクターのモル数とすればよい。
【0057】
(4)選抜工程
なお本発明の形質転換方法には、上記導入工程の他に、第1ベクターおよび第2ベクターを哺乳動物細胞に導入した後に、目的遺伝子が高発現するクローンを選抜する選抜工程が含まれていてもよい。選抜工程は、第1ベクターおよび第2ベクターのいずれか、または両方が導入されていない哺乳動物細胞、第1ベクターおよび第2ベクターがともに導入されてはいるが目的遺伝子が高発現していない哺乳動物細胞、第1ベクターおよび第2ベクターがともに導入されており且つ目的遺伝子が高発現している哺乳動物細胞が含まれる細胞の多クローン性集団から、第1ベクターおよび第2ベクターがともに導入されており且つ目的遺伝子が高発現している哺乳動物細胞(クローン)を選抜する工程である。具体的には、導入工程後、安定形質転換細胞を取得し、限界希釈法で単クローンにする(クローニングを行う)。クローニングによって得られた種々のクローンを対象に目的遺伝子の産物の生産量を測定し、目的遺伝子が高発現するクローンを選抜すればよい。
【0058】
本発明の形質転換方法によれば、目的遺伝子が高発現する形質転換細胞が取得し得るだけでなく、目的遺伝子を高発現するクローンの選択効率が著しく向上するという、当業者が予想し得る以上の有利な効果が得られた(後述する実施例を参照のこと)。
【0059】
<2.本発明のタンパク質の生産方法、および本発明の形質転換細胞>
上記本発明の形質転換方法によって得られた形質転換細胞は、目的遺伝子を高発現する細胞である。それゆえ、かかる形質転換細胞を培養することによって、目的遺伝子がコードする所望の分泌タンパク質を大量に生産することができる。つまり本発明は、本発明の形質転換方法によって得られた形質転換細胞を培養する培養工程を含む、タンパク質の生産方法(以下「本発明のタンパク質生産方法」という)をも包含する。また本発明のタンパク質生産方法には、培養工程によって得られた培養物から所望のタンパク質を精製する精製工程を含む方法であってもよい。以下、本発明にかかる方法を工程ごとに説明する。
【0060】
(1)培養工程
本発明のタンパク質生産方法における「培養工程」は、上記本発明の形質転換細胞にって得られた形質転換細胞(形質転換哺乳動物細胞)を培養する工程である。かかる培養工程によって、目的遺伝子が導入され且つ高度に増幅された哺乳動物細胞を培養することができ、所定の操作(転写誘導操作等)によって、目的タンパク質を生産することができる。
【0061】
上記培養工程の具体的方法は特に限定されるものではなく、培養する哺乳動物細胞に最適な条件を検討の上、適宜採用すればよい。例えば、浮遊培養法、担体付着培養法、ホローファイバー培養法等が好適である。特に浮遊培養法は、ジャーファーメンターを利用することができ、スケールアップが容易であるために、より好ましいといえる。形質転換細胞(形質転換哺乳動物細胞)を培養する際の培地としては、特に限定されるわけではなく、市販されている培地を利用してもよいし、適宜調製した培地を利用てもよい。培地には、アミノ酸、ビタミン類、ブドウ糖、塩類、血清等が含まれている場合がある。また、重炭酸/炭酸ガス系緩衝液がpH緩衝剤として培地に含まれていてもよい。培養装置としては、公知のCO2インキュベーターが適宜利用可能である。またpHのモニター用にフェノールレッドが培地に添加されていてもよい。培養条件は、一般的には37℃で培養するが、細胞株によっては、28℃、40℃の場合がある。例えばCHO細胞は、10% fetal bovine serum (FBS) を含むF12 media (GIBCO BRL社)やDMEM media(GIBCO BRL)、または無血清培地(CD-CHO(GIBCO BRL)、EX-CELL302(SAFC Bioscience)、EX-CELL CD-CHO(SAFC Bioscience))等に必要な栄養源を添加し、5% CO2、37℃の条件で培養され得る。
【0062】
(2)精製工程
本発明のタンパク質生産方法における「精製工程」は、上記培養工程によって得られた培養物から所望のタンパク質を精製する精製する工程である。上記目的遺伝子がコードするタンパク質は分泌タンパク質であるため、形質転換細胞の細胞質膜外へタンパク質が分泌される。すなわち形質転換細胞を培養すれば、その培養物(例えば培養液)内に所望のタンパク質が分泌されることになる。この培養物内に存在する所望のタンパク質を、タンパク質の精製方法として従来公知の手法を適宜採用の上、精製すればよい。
【0063】
従来公知のタンパク質の精製方法としては、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ろ過クロマトグラフィー等の公知のカラムクロマトグラフィーを用いた方法が挙げられる。また例えば、所望のタンパク質のC末端にヒスチジンタグが付加されるように第2ベクターを設計しておけば、ヒスチジンはニッケルに吸着する性質を利用することによって、ニッケルカラムを用いて所望のタンパク質を簡単に精製することができる。また、精製されたタンパク質溶液を適当な緩衝液に対して透析することで不要な塩を除去することもできる。なお、上記精製工程の具体的方法は、この限りではなく、公知の方法を適宜利用され得る。例えば、IgG抗体を精製する場合、Protein AやProtein Gをリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーが利用可能である。
【0064】
さらに本発明には、本発明の形質転換方法によって得られた形質転換細胞が含まれる。本発明の形質転換細胞はクローニングされた単クローンであっても、未クローニングの多クローン性集団であってもよい。本発明の形質転換細胞は、特に限定されないが、3ヶ月以上安定して所望のタンパク質を生産し得る細胞であることが、タンパク質生産を長期間計測して行うことができるために好ましいといえる。なお、本発明の形質転換細胞に関する説明は、本発明の形質転換方法における説明を適宜援用し得る。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例および参考例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例および参考例に記載のPCRは全てKODポリメラーゼ(東洋紡株式会社製)を用いて行った。また実験の諸条件は、特記しない限り実験に使用した試薬に添付されている説明書に記載されている標準の条件で行った。
【0066】
<参考例>
〔各種プラスミド〕
5’末端と3’末端とにAsc Iサイトを有する、DHFRβ―Ori遺伝子座(単に「DHFR遺伝子座」ともいう)のIR遺伝子、およびc−mycのIR遺伝子の作製方法は以下の通りである。DHFR遺伝子座のIR(4.6kbp)を、「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research, vol. 61, p6987-6990」に記載されているpSFVdhfrからNot Iで制限酵素消化することによって切り出した。また、c−mycのIR(2.4kbp)は「McWhinney, C. et al., Nucleic Acids Res. Vol. 18, p1233-1242 (1990)」に記載されているpNeo.Myc−2.4からNot IとHind IIIを用いて制限酵素消化により切り出した。上記2つのIR断片の5’と3’末端を平滑末端化した後、その平滑末端にAsc Iの制限酵素サイトを有するアダプターオリゴヌクレオチドを連結した。
【0067】
またpΔBN.AR1、pΔBN.polyA、およびpSFV−Vとして、「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research, vol. 61, p6987-6990」に記載のプラスミドをそれぞれ用いた。
【0068】
またpΔHはpSFV−Vに含まれる完全長のハイグロマイシン抵抗性遺伝子カセットをNot IとNru Iの制限酵素を用いて取り除き、代わりにその場所にマルチクローニングサイトを含む合成オリゴヌクレオチドを挿入することで作製された。上記マルチクローニングサイトの制限酵素サイトはブラスティサイジン抵抗性遺伝子(以下、「BSR」という)の下流に位置し、5’末端から3’末端にかけてKpn I−Not I−Asc I−Nru Iの順番である。
【0069】
また図3Dに示されているpΔHpAは、HSV poly A配列(1357bp)を含む遺伝子を5’末端および3’末端にKpn Iの制限酵素サイトが付加されるように設計したHSVpAKpnIRとHSVpAKpnILのプライマーセットとを用いてPCR法によって増幅し、当該Kpn Iの制限酵素サイトを用いて上記pΔHのKpn Iサイトに挿入することで作製された。HSVpAKpnIRおよびHSVpAKpnILの各プライマーの塩基配列を配列番号91と配列番号92にそれぞれ示した。また、上記、HSV poly A配列の塩基配列を配列番号93で示した。
【0070】
図3Eに示されているpΔHpAdhfrを、上記で作製したDHFRβ―Ori遺伝子座のIRを、そのIR断片の内部に存在するMAR配列が、BSRの転写開始点よりも遠くになるようにpΔHpAのAsc Iサイトに挿入することで作製した。
【0071】
また図3Fに示されているpΔHpA×2.dhfrは、平滑末端処理を施した上記HSV poly A配列(図3中「HSV pA」で示す)を含む遺伝子断片をpΔHpA.dhfrのNru Iサイトに挿入することで作製された。
【0072】
また図3CのpTH.IR.MARは下記の通りにして作製された。
(i)AR1のMAR(375bp)断片をHind IIIとBamH Iを用いて制限酵素消化することでpAR1より切り出し、当該断片の両末端を平滑末端処理した。なお、pAR1の詳細は「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research, vol. 61, p6987-6990」に記載されている。
(ii)SV40の初期領域のMAR遺伝子を、pNeo.Myc−2.4を鋳型としてSV40LとSV40Rのプライマーセットを用いてPCR法により取得した。SV40LおよびSV40Rの塩基配列を配列番号94および95にそれぞれ示した。また、上記SV40の初期領域のMAR遺伝子の塩基配列を配列番号96に示した。
(iii)RFB(replication fork barrier)配列を含む遺伝子(118bp)は、pSV2.SB2を鋳型として、5’末端と3’末端とにNot Iの制限酵素サイトが付加されるように設計したRFB Not ILとRFB Not IRのプライマーセットとを用いてPCR法により取得された。上記RFB配列は複製フォークの発生をブロックするため、当該RFB配列が導入されたプラスミドの複製を阻害することができる。RFB Not ILおよびRFB Not IRの塩基配列を配列番号97および98にそれぞれ示した。また、RFB配列の塩基配列を配列番号99で示した。
(vi)上記RFB配列を含む遺伝子を、IRからの複製フォークをブロックする方向性でpΔHpAのNot Iサイトに挿入した。次に、平滑末端処理したAR1とSV40との両方のMAR遺伝子を、上記プラスミドのNru Iサイトに挿入した。
(v)最後に、上記で作製したc−mycのIR遺伝子またはDHFRβ―Ori遺伝子座のIR遺伝子と、λ―ファージのHind IIIで制限酵素消化した4361bpの断片の両末端にAsc Iサイトを付加した遺伝子とを、それぞれ(vi)で作製したプラスミドのAsc Iサイトに挿入した。
【0073】
また図3Gに示されているpTH2.dhfr、またはpTH2.dhfr.invは、上記で取得したDHFRβ―Ori遺伝子座のIR遺伝子(4.6kbp)を平滑末端処理したものを、pΔHpAのEcoR I消化物を平滑末端処理したものに対して、BSRの転写に関して同じ、または反対の方向になるように挿入してそれぞれ作製された。
【0074】
また図3Hに示されているpEPI−I(「Schaarschmidt, D., Baltin, J., Stehle, I. M., Lipps, H. J., and Knippers, R. (2004) EMBO J. 23(1), 191-201.」、および 「Jenke, A. C., Stehle, I. M., Herrmann, F., Eisenberger, T., Baiker, A., Bode, J., Fackelmayer, F. O., and Lipps, H. J. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 11322-11327.」)はDaniel Schaarchmidt 氏(Department of Biology, Universitat of Konstanz)より提供された。
【0075】
また図3Jに記されているpTHVは、pΔHのKpn Iサイトに平滑末端ライゲーションでAR1のMARを挿入することで作製された。
【0076】
また図3Iに記されているpTH3は、上記pTHVのNot Iサイトに平滑末端ライゲーションでHSV poly A配列を挿入することで作製された。
【0077】
また2.4kbpのc−mycのIRの部分断片(C0〜C16)を含むベクターは、pNeo.Myc−2.4とpSFVdhfrとを鋳型とするPCRによって増幅された遺伝子を、pTHVのAsc Iサイトに挿入することによって作製された。また4.6kbpのDHFRβ―Ori遺伝子座のIRの部分断片(D1〜D11)を含むベクターは、pSFVdhfrとを鋳型とするPCRによって増幅された遺伝子を、pTHVのAsc Iサイトに挿入することによって作製された。
【0078】
上記のPCRで用いた、C1増幅用の5’プライマー(C1−5’)の塩基配列を配列番号18に、3’プライマー(C1−3’)の塩基配列を配列番号19に示した。また、C2増幅用の5’プライマー(C2−5’)の塩基配列を配列番号20に、3’プライマー(C2−3’)の塩基配列を配列番号21に示した。また、C3増幅用の5’プライマー(C3−5’)の塩基配列を配列番号22に、3’プライマー(C3−3’)の塩基配列を配列番号23に示した。また、C4増幅用の5’プライマー(C4−5’)の塩基配列を配列番号24に、3’プライマー(C4−3’)の塩基配列を配列番号25に示した。また、C5増幅用の5’プライマー(C5−5’)の塩基配列を配列番号26に、3’プライマー(C5−3’)の塩基配列を配列番号27に示した。また、C6増幅用の5’プライマー(C6−5’)の塩基配列を配列番号28に、3’プライマー(C6−3’)の塩基配列を配列番号29に示した。また、C7増幅用の5’プライマー(C7−5’)の塩基配列を配列番号30に、3’プライマー(C7−3’)の塩基配列を配列番号31に示した。また、C8増幅用の5’プライマー(C8−5’)の塩基配列を配列番号32に、3’プライマー(C8−3’)の塩基配列を配列番号33に示した。また、C9増幅用の5’プライマー(C9−5’)の塩基配列を配列番号34に、3’プライマー(C9−3’)の塩基配列を配列番号35に示した。また、C10増幅用の5’プライマー(C10−5’)の塩基配列を配列番号36に、3’プライマー(C10−3’)の塩基配列を配列番号37に示した。また、C11増幅用の5’プライマー(C11−5’)の塩基配列を配列番号38に、3’プライマー(C11−3’)の塩基配列を配列番号39に示した。また、C12増幅用の5’プライマー(C12−5’)の塩基配列を配列番号40に、3’プライマー(C12−3’)の塩基配列を配列番号41に示した。また、C13増幅用の5’プライマー(C13−5’)の塩基配列を配列番号42に、3’プライマー(C13−3’)の塩基配列を配列番号43に示した。また、C14増幅用の5’プライマー(C14−5’)の塩基配列を配列番号44に、3’プライマー(C14−3’)の塩基配列を配列番号45に示した。また、C15増幅用の5’プライマー(C15−5’)の塩基配列を配列番号46に、3’プライマー(C15−3’)の塩基配列を配列番号47に示した。また、C16増幅用の5’プライマー(C16−5’)の塩基配列を配列番号48に、3’プライマー(C16−3’)の塩基配列を配列番号49に示した。また、C0増幅用の5’プライマー(C0−5’)の塩基配列を配列番号50に、3’プライマー(C0−3’)の塩基配列を配列番号51に示した。
【0079】
また、D1増幅用の5’プライマー(D1−5’)の塩基配列を配列番号63に、3’プライマー(D1−3’)の塩基配列を配列番号64に示した。また、D2増幅用の5’プライマー(D2−5’)の塩基配列を配列番号65に、3’プライマー(D2−3’)の塩基配列を配列番号66に示した。また、D3増幅用の5’プライマー(D3−5’)の塩基配列を配列番号67に、3’プライマー(D3−3’)の塩基配列を配列番号68に示した。また、D4増幅用の5’プライマー(D4−5’)の塩基配列を配列番号69に、3’プライマー(D4−3’)の塩基配列を配列番号70に示した。また、D5増幅用の5’プライマー(D5−5’)の塩基配列を配列番号71に、3’プライマー(D5−3’)の塩基配列を配列番号72に示した。また、D6増幅用の5’プライマー(D6−5’)の塩基配列を配列番号73に、3’プライマー(D6−3’)の塩基配列を配列番号74に示した。また、D7増幅用の5’プライマー(D7−5’)の塩基配列を配列番号75に、3’プライマー(D7−3’)の塩基配列を配列番号76に示した。また、D8増幅用の5’プライマー(D8−5’)の塩基配列を配列番号77に、3’プライマー(D8−3’)の塩基配列を配列番号78に示した。また、D9増幅用の5’プライマー(D9−5’)の塩基配列を配列番号79に、3’プライマー(D9−3’)の塩基配列を配列番号80に示した。また、D10増幅用の5’プライマー(D10−5’)の塩基配列を配列番号81に、3’プライマー(D10−3’)の塩基配列を配列番号82に示した。また、D11増幅用の5’プライマー(D11−5’)の塩基配列を配列番号83に、3’プライマー(D11−3’)の塩基配列を配列番号84に示した。
【0080】
また、上記PCRで増幅されたC0の塩基配列を配列番号17に示した。また、上記PCRで増幅されたC1の塩基配列を配列番号1に示した。また、上記PCRで増幅されたC2の塩基配列を配列番号2に示した。また、上記PCRで増幅されたC3の塩基配列を配列番号3に示した。また、上記PCRで増幅されたC4の塩基配列を配列番号4に示した。また、上記PCRで増幅されたC5の塩基配列を配列番号5に示した。また、上記PCRで増幅されたC6の塩基配列を配列番号6に示した。また、上記PCRで増幅されたC7の塩基配列を配列番号7に示した。また、上記PCRで増幅されたC8の塩基配列を配列番号8に示した。また、上記PCRで増幅されたC9の塩基配列を配列番号9に示した。また、上記PCRで増幅されたC10の塩基配列を配列番号10に示した。また、上記PCRで増幅されたC11の塩基配列を配列番号11に示した。また、上記PCRで増幅されたC12の塩基配列を配列番号12に示した。また、上記PCRで増幅されたC13の塩基配列を配列番号13に示した。また、上記PCRに増幅されたC14の塩基配列を配列番号14に示した。また、上記PCRに増幅されたC15の塩基配列を配列番号15に示した。また、上記PCRに増幅されたC16の塩基配列を配列番号16に示した。
【0081】
また、上記PCRに増幅されたD1の塩基配列を配列番号52に示した。また、上記PCRに増幅されたD2の塩基配列を配列番号53に示した。また、上記PCRに増幅されたD3の塩基配列を配列番号54に示した。また、上記PCRに増幅されたD4の塩基配列を配列番号55に示した。また、上記PCRに増幅されたD5の塩基配列を配列番号56に示した。また、上記PCRに増幅されたD6の塩基配列を配列番号57に示した。また、上記PCRに増幅されたD7の塩基配列を配列番号58に示した。また、上記PCRに増幅されたD8の塩基配列を配列番号59に示した。また、上記PCRに増幅されたD9の塩基配列を配列番号60に示した。また、上記PCRに増幅されたD10の塩基配列を配列番号61に示した。また、上記PCRに増幅されたD11の塩基配列を配列番号62に示した。
【0082】
〔実験方法〕
上記で作製したプラスミドを用いて以下の実験を行った。
【0083】
本参考例では、上記プラスミドを細胞に遺伝子導入し、当該プラスミドで形質転換された形質転換細胞を選択し、FISH法を用いて当該形質転換細胞内のHSRの形成頻度を調べた。
【0084】
本参考例で用いられている遺伝子導入方法については以下の通りである。まず遺伝子導入に用いるプラスミドをキアゲンプラスミド精製キット(Qiagen Inc., Valencia, CA)を用いて大腸菌より精製した。さらに、上記プラスミドを細胞内に導入する際には、DNA精製の過程で混入する大腸菌由来の内毒素をMiraCLEAN(登録商標)endotoxin removalキット(Mirus., Madison,WI)を用いて除去した後に、メーカーの推薦する手法に従って、GenePorter(登録商標) 2 lipofectionキット(Gene Therapy Systems, San Diego,CA)を用いて細胞に遺伝子導入した。
【0085】
上記の遺伝子導入される細胞は、ヒト大腸癌細胞株であるCOLO 320DMまたはCOLO320 HSR、若しくはヒト頸癌細胞株であるHelaである。上記細胞株は「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research, vol. 61, p6987-6990」に記載の所から取得され、当該記載と同じ条件で培養された。COLO 320DMにはc−myc遺伝子の増幅によって多くの内在性のDMが生じており、一方、COLO 320DMと同質遺伝子系統のCOLO 320HSRにはDMよりもHSRが多く生じている。
【0086】
上記形質転換細胞を、遺伝子導入から2日後に、終濃度5μg/mlになるようにブラスティサイジンを加えた選択培地で上記細胞を培養することで選択した。選択培地は3日〜5日ごとに培養中の選択培地の半分を、新しく調製した上記選択培地と交換した。
【0087】
上記FISH法と、FISH法に用いる導入遺伝子を検出するためのプローブの調製と、メタフェーズスプレッディング(metaphase spreading)とは、それぞれ培養4、6、または8週後に、培養中の細胞の一部を回収し、「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research, vol. 61, p6987-6990」に記載の方法に従って行われた。また、上記プローブはビオチン化されており、緑色蛍光を発するFITC(fluorescein isothiocyanate)が結合したストレプトアビジンによって検出することができる。また、赤色蛍光を発するPI(propidium iodide)でDNAを対比染色した。FISH法によって蛍光標識したスライドガラス上の細胞を、蛍光色素を検出するのに適切なフィルタセットと100倍の対物レンズ(Nikon Plan Fluor、NA1.30 oil)を設置している倒立蛍光顕微鏡(ECLIPSE TE2000-U、Nikon)を用いて観察し、上記顕微鏡とつながれているFuji FinePix S1Pro digital camera(Fuji Film Co.Tokyo)を用いて、細胞内での導入遺伝子とDNAの態様の写真をデジタル画像として撮影した。得られた、それぞれの画像は画像解析ソフトAdobe(登録商標)Photpshop(登録商標)version 4.0J(Adobe Systems Inc)を用いて合成した。
【0088】
〔参考例1〕
プラスミドpSFVdhfr、pΔHpAx2.dhfr、pTH2.dhfr、またはpEPI−IをCOLO320DMに遺伝子導入した。pSFVdhfrを導入した場合には培養8週間後に、それ以外のプラスミドを導入した場合には培養6週間後に、形質転換細胞を回収した。回収されたそれぞれの形質転換細胞について、FISH法によってDMとHSRとを検出した。
【0089】
DMおよびHSRをFISH法により検出した結果を図2に示す。図2における「A」および「B」はpSFVdhfrが導入された形質転換細胞の結果、「C」はpΔHpAx2.dhfrが導入された形質転換細胞の結果、「D」はpTH2.dhfrが導入された形質転換細胞の結果、「E」はpEPI−Iが導入された形質転換細胞の結果をそれぞれ示す。図2において、矢頭はDMを示し、矢印はHSRを示す。
【0090】
種々のIRとMARとの組み合わせを含むpTH.IR.MARを作製し、COLO 320DMに遺伝子導入し、4、6、または8週間培養後に形質転換細胞を取得した。上記形質転換細胞に生じているHSRをFISH法により調べ、HSR発生頻度(Frequency of HSR)をもとめた。その結果を図4に示した。HSR発生頻度は、「(HSRが発生している形質転換細胞数÷形質転換細胞数)×100」として計算された。図4中のIRの欄における「(+)」および「(−)」は、IRがBSRの転写方向と同じである場合および反対である場合をそれぞれ示す。また、「λ―DNA fragment」はλファージの4361bpの遺伝子断片がIRの代わりに組み込まれていることを示し、「none」はIRを含まないことを示す。
【0091】
図4によれば、IRとMARとを有しているプラスミドを遺伝子導入されている形質転換細胞のみにHSRが生じていることが分かる。さらに、IRの代わりにλファージの4361bpの遺伝子断片を用いた場合や、IRを用いない場合には、HSRがほとんど生じていないことから、IR中にHRSを発生させる活性を有する塩基配列があることが示唆された。
【0092】
プラスミド(pΔBN.AR1、pΔHpA、pΔHpA.dhfr、pΔHpA×2.dhfr、pTH2.dhfr、pTH2.dhfr.inv、pEPI−1、またはpTH3)を、HeLaまたはCOLO 320HSR、COLO320DMに遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、4週間または8週間選択培地で培養することで、形質転換細胞を選抜した。次に、選抜された形質転換細胞HSR発生頻度を調べた。その結果を図5に示した。
【0093】
図5によれば、遺伝子複製と非コード転写との間で衝突が起きるように作製されたpΔHpA.dhfrを遺伝子導入した場合において、HSRが生じた。一方、ポリA配列を1つ追加して非コード転写と遺伝子複製との間の衝突が起きないように作成したpΔHpA×2.dhfrを遺伝子導入した場合には、HSRが生じなかった。このことは、遺伝子複製と非コード転写との間で衝突が起きることでプラスミドが不安定になり、プラスミドは多量体化し、HSRを生じるということを示唆している。また、非コード転写と遺伝子複製との間の衝突が起きないように作製したpTH2.dhfrが遺伝子導入された場合には、低頻度であるがHSRが生じた。このことは、遺伝子複製と非コード転写との間で衝突が起こっていたことが推察される。上記の結果から、IRの両端にポリA配列を付加することで、遺伝子複製と非コード転写との間に起こる衝突をなくすことができるということが分かった。
【0094】
また、転写領域の間に挿入されたMARが遺伝子複製と哺乳類エピソームの維持に必須であり、IRは必要ではないという文献「Jenke, A. C., Stehle, I. M., Herrmann, F., Eisenberger, T., Baiker, A., Bode, J., Fackelmayer, F. O., and Lipps, H. J. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 11322-11327.」がある。そこで、上記文献で用いられているプラスミド(pEPI−1)とpEPI−1と同様の構成のプラスミド(pTH3)を作製した。pTH3はAR1由来のMARがBSR転写領域の内部に存在するプラスミドである。上記プラスミドをHeLa、COLO 320HSR、またはCOLO320DMに遺伝子導入し、HSRの発生を調べたところ、当該形質転換細胞においてHSRおよびDMは全く発生していなかった。一方、極微小物体であるエピソームは確認することができた。このことはIRがHSRの発生に必須であることを示唆している。またIRは遺伝子複製に関与し、HSRは遺伝子増幅に関与することから、IRの遺伝子複製と遺伝子増幅とが関連すると考えられる。
【0095】
〔参考例2〕
遺伝子増幅活性を有するc−myc遺伝子座のIRの部分断片の同定を試みた。すなわち、PCRを用いてc−myc遺伝子座のIRの部分断片(C0〜C16)を作製し、当該部分断片(C0〜C16)をそれぞれpTHV(図3J)のAsc Iサイトに挿入し、C0〜C16を含むプラスミド(pC0〜pC16)を作製した(各種プラスミドの項を参照のこと)。
【0096】
上記各プラスミドを細胞へ導入した場合、組み込まれた部分断片に遺伝子増幅活性があると、MAR部位で複製と転写との間で衝突が起こり、当該プラスミドで形質転換された形質転換細胞にHSRが生じる。その反対に、組み込まれた部分断片に遺伝子増幅活性がないと、形質転換細胞にHSRが生じない。このことを利用することによって、遺伝子増幅活性を有するc−myc遺伝子座のIRの部分断片の同定を試みた。ここで上記の同定方法を便宜上「プラスミド安定化分析法」と称する。
【0097】
上記pC0〜pC16、陽性対照としてc−mycのIRの全長を含むプラスミド(「pCf.I」)、または陰性対照としてc−mycのIRを含まないプラスミド(「pTHV」)をそれぞれCOLO320DMに遺伝子導入し6週間選択培地で培養することで形質転換細胞を取得した。取得された形質転換細胞のHSR発生頻度(Frequency of HSR)を既述の方法により調べた。
【0098】
その結果を図6に示した。図6Aはc−myc遺伝子座(Genbank HSMYCC; accession number X00364)の概略図である。c−myc遺伝子座のIRは、c−myc遺伝子座のHind III-Xho I断片(2349bp)の相当する。図6BおよびCは、c−myc遺伝子座のIR全長と、その部分断片であるC0〜C16との位置関係、並びに各部分断片が導入された形質転換細胞のHSR発生頻度を示している。また図6中の「□(白四角)」はc−myc遺伝子座のIRにおけるtopoisomeraseII結合領域の位置を示し、「◆(黒ひし)」はDuplex Unwinding Element(DUE)の位置を示し、「○(白丸)」はプラスミドの自己複製を助けると報告されている、ヒトの36bpのコンセンサス配列の内のコア20bpに相当する配列の位置をそれぞれ示している。また、「cI」はDuplex Unwinding Element(DUE)を含む遺伝子増幅活性を有する塩基配列の位置、「cII」はtopoisomeraseII結合領域を含む遺伝子増幅活性を有する塩基配列の位置、「cII’」はCIIに類似した配列の位置、「N」はネガティブ領域(HSR形成を抑制する領域)の位置をそれぞれ示している。
【0099】
図6BおよびCによれば、pC3、pC1、pC12を遺伝子導入して得られた形質転換細胞のHSRの発生頻度が顕著に高く、また陽性対照のそれよりも多いことが分かった。またpC2またはpC7を遺伝子導入して得られた形質転換細胞のHSRの発生頻度は、陽性対照のそれと同等であった。またpC9またはpC6を遺伝子導入して得られた形質転換細胞についてHSRの発生が観察された。特にこの検討によって全長のIRに代えてIRの部分断片(C1、C3、C12)を用いた場合にHSR発生頻度がさらに高くなるという、新規知見が得られた。
【0100】
〔参考例3〕
遺伝子増幅活性を有するDHFR遺伝子座のIRの部分断片の同定を行った。DHFR遺伝子座のIRを用いた以外は、参考例2と同様にした。すなわち、PCRを用いてDHFR遺伝子座のIRの部分断片(D1〜D11)を作製し、当該部分断片(D1〜D11)をそれぞれpTHV(図3J)のAsc Iサイトに挿入し、D1〜D11を含むプラスミド(pD1〜pD11)を作製した(各種プラスミドの項を参照のこと)。陽性対照としてDHFR遺伝子座のIRの全長を含むプラスミド(「pDf.I」)を採用し、また陰性対照としてDHFR遺伝子座のIRを含まないプラスミド(「pTHV」)を採用した。
【0101】
本実施例の結果を図7に示す。図7にはDHFR遺伝子座(Genbank CFORIDHFR; accession number X94372)の概略図が示されており、DHFR遺伝子座のBamHI-Hind III断片(4.6kbp)がDHFR遺伝子座のIRに相当する。また図7には、DHFR遺伝子座のIR全長とその部分断片であるD0〜D11との位置関係、並びに各部分断片が導入された形質転換細胞のHSR発生頻度を示す。
【0102】
図7によれば、pD1を遺伝子導入して得られた形質転換細胞のHSRの発生頻度が最も高く、また陽性対照のそれよりも多いことが分かった。またpD4を遺伝子導入して得られた形質転換細胞のHSRの発生頻度は、陽性対照のそれと同等であった。またpD8、pD9、pD2またはpD3を遺伝子導入して得られた形質転換細胞についてHSRの発生が観察された。特にこの検討によって全長のIRに代えてIRの部分断片(D1)を用いた場合にHSR発生頻度がさらに高くなるという、新規知見が得られた。
【0103】
なお、図7中□(白四角)はtopoisomeraseII結合領域を示し、図7中◆(黒ひし形)はDuplex Unwinding Elementを示し、図7中=(二重線)は湾曲DNA(bent DNA)を示し、図7中△(白三角)はRIP60結合領域を示し、図7中「AT」はAT−richエレメントを示す。
【0104】
<実施例>
〔実施例1〕
特開昭63−185396号公報に記載のEPO782SVBPVプラスミドに含まれるエリスロポエチン遺伝子を、ヒトサイトメガロウィルスプロモーターを有するプラスミド(pCMV Vector(4.01kbp)、参考文献:米国特許5168062号、米国特許5385839号、またはBoshart,M.,et al., Cell vol.41,p521-530(1985))、SRαプロモーターを有するプラスミド(pSRα Vector(5.22kbp)、参考文献:YUTAKA TATEBE et al., Mol.Cell.Biol.vol.8, p466-472(1988))、シミアンウイルス40初期プロモーターを有するプラスミド(pSV40 Vector(14.09kbp)、参考文献:Buchman,A.R. et al., Mol.Cell.Biol.vol4, p1900-1914(1984))のXbaI−NotIサイトにそれぞれ連結してpCMV-EPO(4.78kbp)、pSRα-EPO(5.99kbp)、pSV40-EPO(4.40kbp)をそれぞれ構築した(図8を参照のこと)。
【0105】
IR/MARベクターとして特開2004−337066号公報に記載されているpΔBN.AR1(8.92kbp)を用いた(図9を参照のこと)。pΔBN.AR1(8.92kbp)は、ブラスティサイジン耐性遺伝子とブラスティサイジン耐性遺伝子の下流に強いMAR活性を示す配列(AR1)およびDHFR由来の全長IRを有しており、このプラスミドで哺乳動物細胞をコトランスフェクトすることによって、目的遺伝子が染色体に組み込まれたHSR産生が増大することが明らかになっている。
【0106】
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−K1細胞、入手先:理化学研究所バイオリソースセンター: RCB0285)を、24穴培養プレート(SUMILON社製:MS-80240)で4×104cells/wellになるまで培養した。その際DMEM/F-12培地(GIBCO社製:12400-024)に10%牛胎児血清(GIBCO社製:2614-079)を添加した培地を使用した。
【0107】
エリスロポエチン遺伝子を含むプラスミド(pCMV-EPO(4.78kbp)、pSRα-EPO(5.99kbp)、またはpSV40-EPO(4.40kbp))に対するpΔBN.AR1のモル比がそれぞれ0.3、1.5、3、5となるような条件で、エリスロポエチン遺伝子を含むプラスミド(pCMV-EPO(4.78kbp)、pSRα-EPO(5.99kbp)、またはpSV40-EPO(4.40kbp))とpΔBN.AR1とをLipofectamine2000試薬(Invitrogen社製:11668-019)を用いて、上記CHO−K1細胞にコトランスフェクションで導入した。
【0108】
トランスフェクションから2日後にブラスティサイジン(Invivogen社製:ant-bl-1)を5μg/mlの濃度となるように培地に添加し、2週間、37℃で培養し安定な形質転換細胞を取得した。次に、細胞培養シャーレ内径60mm(SUMILON社製:MS-11600)レベルまで、拡大培養後、段階的にブラスティサイジン濃度を高めていき、最終濃度320μg/mlで安定して生育できる細胞が得られるまで培養を続けた。
【0109】
このようにして得られた細胞からゲノムDNAを取得し、エリスロポエチン遺伝子のDNAコピー数の増加を、リアルタイム定量PCR(ABI社製:7900HT)を用いて確認した。測定試薬にはSYBR Green Realtime PCR Master Mix(東洋紡社製:QPK-201)を使用した。
【0110】
上記のようにして遺伝子増幅を確認した後、ブライスティサイジン320μg/mlを添加して3日間培養した上清を取得し、イムノエリット・EPO測定キット(東洋紡社製: LEPO-592)を用いてEIA法でエリスロポエチン濃度を測定した。具体的には、培養上清をイムノエリット・EPO測定キット付属の希釈液で1000倍希釈し、抗エリスロポエチン抗体結合プレートに25μl/well添加した。続いて、ペルオキシダーゼ標識抗エリスロポエチン抗体を75μl/well添加し、30℃で2時間インキュベートした。その後、プレートをイムノエリット・EPOキット付属の洗浄液で3回洗浄し完全に水分を除き、発色試薬100μl/wellを添加して室温で30分間反応させた。反応停止液100μl/wellを添加して反応を止め、プレートリーダー(主波長490nm、副波長650nm)で吸光度を測定した。標準品から作成した検量線をもとにエリスロポエチン濃度を算出した。
【0111】
その結果を図10および表1に示す。なお図10は、表1のデータを棒グラフで示したものである。図10および表1中の「モル比」は第2ベクターに対する第1ベクターのモル比を示し、「EPO濃度(U/ml)」はエリスロポエチン濃度を示す。
【0112】
【表1】

【0113】
pSRα-EPOとpΔBN.AR1とをCHO-K1細胞に導入した場合、pSRα-EPOに対するpΔBN.AR1のモル比が1.5の時にエリスロポエチン濃度が最高値を示した。また、pCMV-EPOとpΔBN.ARとをCHO-K1細胞に導入した場合は、pCMV-EPO に対するpΔBN.AR1のモル比が3.0の時にエリスロポエチン濃度が最高値を示した。また、pSV40-EPOとpΔBN.ARとをCHO-K1細胞に導入した場合は、pSV40-EPOに対するpΔBN.AR1のモル比が3.0の時にエリスロポエチン濃度が最高値を示した。
【0114】
よって、エリスロポエチン遺伝子を含むベクター(第2ベクターに相当する)に対するIR/MARベクター(第1ベクターに相当する)のモル比が0.3〜5の範囲となるように、哺乳動物細胞へ同時に導入することが極めて有効であることが確認できた。
【0115】
〔実施例2〕
実施例1においてpSRα-EPOに対するpΔBN.AR1のモル比が1.5となるような条件で遺伝子導入されたCHO−K1細胞を限界希釈法でクローニング行い、14日間培養後、比較的増殖能の良好なクローンを選抜した。そのクローンを細胞培養シャーレ内径60mm(SUMILON社製:MS-11600)レベルまで拡大培養し、拡大培養3日間後、イムノエリット・EPO測定キット(東洋紡社製: LEPO-592)を用いてEIA法でエリスロポエチン濃度を測定した。なお、pSRα-EPOを単独で導入されたCHO−K1細胞を陰性対照とした。
【0116】
その結果を図11、並びに表2および3に示した。なお図11(A)および表2はpSRα-EPOとpΔBN.AR1とを導入したCHO−K1細胞の結果を示し、図11(B)および表3は陰性対照の結果を示す。図11、並びに表2および3中の「Clone」はクローニングされたクローン名を示し、「EPO濃度(U/ml)」はエリスロポエチン濃度を示す。また表2および3中の「copy数」はエリスロポエチン遺伝子のコピー数を示す。
【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
クローニング前の未クロ−ニング細胞のエリスロポエチン濃度レベルを図11中矢印で示した。図11、並びに表2および3によればpΔBN.AR1とpSRα-EPOとをコトランスフェクションで導入されたCHO−K1細胞は、未クローニング細胞よりも高いエリスロポエチン発現量を示すクローン(「高発現クローン」という)の出現率が60%(=9÷15×100)であった。これに対して陰性対象の場合は高発現クローンの出現率が20%(=3÷15×100)であった。よってpΔBN.AR1とpSRα-EPOとを所定の条件でコトランスフェクションすることによって、高確率で高発現クローンを取得できるということが判明した。
【0120】
次に実施例1においてpCMV-EPOに対するpΔBN.AR1のモル比が3となるような条件で遺伝子導入されたCHO−K1細胞についても上記と同様にして、限界希釈法によるクローニングおよび培養後、エリスロポエチン濃度を測定した。なお、pSRα-EPOが単独で導入されたCHO−K1細胞を陰性対照とした。
【0121】
その結果を図12、並びに表4および5に示した。なお図12(A)および表4はpCMV-EPO とpΔBN.AR1とを導入したCHO−K1細胞の結果を示し、図12(B)および表5は陰性対照の結果を示す。図12、並びに表4および5中の「Clone」はクローニングされたクローン名を示し、「EPO濃度(U/ml)」はエリスロポエチン濃度を示す。また表4および5中の「copy数」はエリスロポエチン遺伝子のコピー数を示す。
【0122】
【表4】

【0123】
【表5】

【0124】
クローニング前の未クロ−ニング細胞のエリスロポエチン濃度レベルを図12中矢印で示した。図12、並びに表4および5によればpΔBN.AR1とpSRα-EPOとをコトランスフェクションで導入されたCHO−K1細胞は、未クローニング細胞よりも高いエリスロポエチン発現量を示すクローン(「高発現クローン」という)の出現率が30%(=6÷20×100)であった。これに対して陰性対象の場合は高発現クローンの出現率が15%(=3÷20×100)であった。よってpΔBN.AR1とpCMV-EPとを所定の条件でコトランスフェクションすることによって、高確率で高発現クローンを取得できることが判明した。
【0125】
〔実施例3〕
本実施例では、参考例2において使用したpC12(図14(A)を参照のこと)におけるSRαプロモーター(図14(A)において「PSRα」で示す)を、SV40初期領域由来プロモーター領域(以下、単に「SV40プロモーター」という)に置換したpC12.Psv40(図14(B)に示す)を使用した。図14(B)においてSV40プロモーターを「Psv40」として示す。pC12.Psv40の作製方法は以下の通りである。
【0126】
まずpC12をEco RIおよびXho Iで制限酵素消化することによりSRαプロモーター領域を切り出した。切り出した部位へ、マルチクローニングサイトを含む合成オリゴヌクレオチド(ESMXリンカー)を挿入した。このマルチクローニングサイトの制限酵素サイトはアンピシリン耐性遺伝子(AmpR)の下流(すなわちSRαプロモーターがあった部位)に位置しており、制限酵素サイトが5’末端から3’末端にかけてEco RI−Sal I−Mlu I−Xho Iの順番で配列している。なおESMXリンカーの塩基配列を、表6および配列番号85および配列番号86に示した。上記のようにして作製したプラスミドをSal IおよびMlu Iで制限酵素消化した。その後、Sal IおよびMlu Iで制限酵素消化したSV40プロモーターを、上記プラスミドに挿入し、pC12.Psv40を構築した。SV40プロモーターは、BSRを転写する方向でプラスミドに挿入された。
【0127】
なお、SV40プロモーターは下記のようにして作製された。pMACS4.1(Mitenyi Biotech社製)を鋳型として、SV40プロモーター増幅用プライマー(MACS4.1 4288LおよびMACS4.1 1454R)を用い、PCR法により増幅した。増幅されたSV40プロモーターは、Sal IおよびMlu Iで制限酵素消化して使用した。SV40プロモーター増幅用プライマーであるMACS4.1 4288L(配列番号87)およびMACS4.1 1454R(配列番号88)の塩基配列を表1に示す。SV40プロモーターの塩基配列を配列番号89に示し、SRαプロモーターの塩基配列を配列番号90に示した。
【0128】
【表6】

【0129】
抗Pyrococcus kodakaraensis KOD1株由来のDNAポリメラーゼに対する抗体(「抗KOD DNAポリメラーゼ抗体」という)を産生するマウスハイブリドーマ細胞(入手先:生命工学工業技術研究所、寄託番号:FERM BP−6057)から、RNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN社製、74134)を用いてトータルRNAを抽出し、Rever Tra Ace-α-(東洋紡社製、FSK-101)を使用して1本鎖cDNAを合成した。抗KOD DNA ポリメラーゼ抗体のシグナル配列を除く重鎖と軽鎖を特異的に増幅するプライマーを用いてPCR増幅し、それぞれの増幅産物にイムノグログリン κ鎖由来のシグナル配列を付加した後、CMVプロモーターを有するプラスミドのXba I−Not Iサイトに連結してpCMV-H(図13(A)を参照のこと)およびpCMV-L(図13(B)を参照のこと)を構築した。
【0130】
pCMV-HおよびpCMV-Lを、IR/MARベクターとともにCHO−K1細胞にコトランスフェクトした。この時、pCMV-HおよびpCMV-Lの合計のモル数に対するIR/MARベクターのモル比は3であった。トランスフェクションは、Lipofectamine2000試薬(Invitrogen社製:11668-019)を用いて行われた。なおIR/MARベクターにはpΔBN.AR1またはpC12.Psv40(4920bp)を用いた(図14を参照のこと)。
【0131】
トランスフェクションから2日後にブラスティサイジン(Invivogen社製:ant-bl-1)を5μg/mlの濃度となるように培地に添加し、2週間、37℃で培養し安定な形質転換細胞を取得した。
【0132】
次に、細胞培養シャーレ内径60mm(SUMILON社製:MS-11600)レベルまで、拡大培養後、段階的にブラスティサイジン濃度を高めていき、最終濃度320μg/mlで安定して生育できる細胞が得られるまで培養を続けた。
【0133】
上記で取得した細胞集団を限界希釈法でクローニングした後、培養上清を取得しEIA法で抗体濃度を測定した。詳細には、ヤギ抗マウス抗体を固相化したELISA用プレート(SUMILON社製:MS-8896F)に、10mM PBS(−)で5倍希釈した培養上清を添加し35℃で2時間インキュベートした。続いて、PBS−Tで3回洗浄し、PBS+1%BSA+10%ヤギ血清で4000倍希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体を、50μl/wellとなるようにELISA用プレートに添加し35℃で2時間インキュベートした。その後、ELISA用プレートをPBS−Tで4回洗浄し完全に水分を除き、発色試薬50μl/wellを添加して室温で15分間反応させた。1N硫酸溶液50μl/wellを添加して反応を止め、プレートリーダー(主波長450nm、副波長620nm)で吸光度を測定した。標準品から作成した検量線をもとに抗体濃度を算出した。
【0134】
その結果を図15、並びに表7〜9に示す。なお、IR/MARベクターが導入されずにpCMV-HおよびpCMV-Lのみが導入されたCHO−K1細胞を陰性対照とした。図15(A)および表7はIR/MARベクターとしてpΔBN.AR1を用いた場合の結果を示し、図15(B)および表8はIR/MARベクターとしてpC12.Psv40を用いた場合の結果を示し、図15(C)および表9は陰性対照の結果を示す。図15、並びに表7〜9中の「Clone」はクローニングされたクローン名を示し、「抗体濃度(μg/L)」は抗体濃度を示す。
【0135】
【表7】

【0136】
【表8】

【0137】
【表9】

【0138】
クローニング前の未クロ−ニング細胞の抗体濃度レベルを図15中矢印で示した。図15、並び表7〜9によれば、pCMV-HおよびpCMV-LをIR/MARベクターとともに導入されたCHO−K1細胞は、未クローニング細胞よりも高い抗体発現量を示すクローン(「高発現クローン」という)の出現率が95%(=19÷20×100)であった。これは、IR/MARベクターとして、全長のIRを備えるpΔBN.AR1、および遺伝子増幅活性部位を有するIRの部分断片を備えるpC12.Psv40のいずれを採用した場合も同じであった。これに対して陰性対象の場合は高発現クローンの出現率が25%(=5÷20×100)であった。よってpCMV-HおよびpCMV-Lを、IR/MARベクターとをコトランスフェクションすることによって、高確率で高発現クローンを取得できることが判明した。特にpC12.Psv40を用いた場合は、pΔBN.AR1場合に比して、抗体の生産量が高いクローンを多く取得することができるという興味深い結果が得られた。
【0139】
〔実施例4〕
6×ヒスチジンタグに対する抗体(「抗ヒスチジンタグ抗体」)を産生するマウスハイブリドーマ細胞構築し、当該ハイブリドーマ細胞からRNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN社製: 74134)を用いてトータルRNAを抽出しRever Tra Ace-α-(東洋紡社製: FSK-101)を使用して1本鎖cDNAを合成した。Mouse Ig-Primer Sets(Novagen社製: 69831-3)の5’プライマーと、抗体遺伝子全長を増幅する3’プライマーを用いてPCR増幅し増幅産物を得た。なお、PCRにはKOD FX(東洋紡社製:KFX-101)を使用した。
【0140】
ヒト伸長因子1−αプロモーター(「EF1αプロモーター」)を含む発現ベクター(pEF1α)に、抗ヒスチジンタグ抗体のH鎖をコードする遺伝子およびびL鎖コードする遺伝子をタンデムに連結し、抗ヒスチジンタグ抗体遺伝子を増幅するベクターpEF1α-HLを構築した(図16を参照)。なおpEF1αは、特許文献 特許第3051411号公報に記載のEF1αプロモーターを、pCI−neo(Promega社)ベクターのBglII−EcoRIサイトに導入することで構築された。
【0141】
IR/MARベクターとしてpC12.Psv40を用い、抗ヒスチジンタグ抗体の遺伝子を含むプラスミドpEF1α-HLに対するpC12.Psv40のモル比がそれぞれ0.3、1.5、3、5となるような条件で、抗ヒスチジンタグ抗体の遺伝子を含むプラスミドpEF1α-HLとpC12.Psv40とをLipofectamine2000試薬(Invitrogen社製:11668-019)を用いて、上記CHO−K1細胞にコトランスフェクションで導入した。
【0142】
トランスフェクションから24時間後に培養上清を回収しELISA法で抗体生産性を調べた。10μg/mlの6×ヒスチジンタグを付加したサルコシンオキシダーゼ抗原を50μl/wellとなるようにELISA用プレート(SUMILON社製:MS-8896F)に分注し、35℃で2時間インキュベートした後、0.1%(w/v)Tween入りPBS(PBS-T)で3回洗浄した。300μl/wellの1%(w/v)BSA入りPBSをELISA用プレートに分注し、4℃で一晩放置して、抗原固相化プレートを作製した。
【0143】
0.1%(w/v)Tween入りPBS(PBS-T)で3回洗浄後、PBSで5倍希釈した細胞培養液上清50μl/wellをELISA用プレートに添加し、35℃で2時間インキュベートした。続いて0.1%(w/v)Tween入りPBS(PBS-T)で3回洗浄後、1%(w/v)BSA入りPBSで4000倍希釈したHRP標識抗体(DAKO社製: P0161)を50μl/wellとなるようにELISA用プレートに添加し、35℃で2時間インキュベートした。0.1%(w/v)Tween入りPBS(PBS-T)で4回洗浄後、TMB発色試薬50μl/wellをELISA用プレートに添加し、室温で5分間反応させた。1N硫酸溶液50μl/wellを添加して反応を止め、プレートリーダー(主波長450nm、副波長620nm)で吸光度を測定した。標準品から作成した検量線をもとに抗体濃度を算出した。
【0144】
その結果を図17に示す。なお図17中の「モル比」は第2ベクターに対する第1ベクターのモル比を示し、「抗体濃度(μg/L)」は抗体濃度を示す。図17によれば、抗ヒスチジンタグ抗体遺伝子を増幅するベクターpEF1α-HLとpC12.Psv40とをCHO-K1細胞に導入した場合、pEF1α-HLに対するpC12.Psv40のモル比が1.5の時に抗ヒスチジンタグ抗体の濃度が最高値を示したことがわかる。
【0145】
〔実施例5〕
実施例3に記載の抗KOD DNAポリメラーゼ抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞から、RNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN社製:74134)を用いてトータルRNAを抽出し、Rever Tra Ace-α-(東洋紡社製:FSK-101)を使用して1本鎖cDNAを合成した。抗KOD DNAポリメラーゼ抗体のシグナル配列を除くH鎖とL鎖とを特異的に増幅し得るプライマーを用いてPCR増幅した。それぞれのPCR増幅産物にイムノグログリン κ鎖由来のシグナル配列を付加した後、SRαプロモーターを有するプラスミド(pSRα Vector(5.22kbp)のXbaI−NotIサイトに連結してpSRα-HおよびpSRα-Lを構築した。
【0146】
pSRα-HおよびpSRα-LをpΔBN.AR1とともにチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−K1細胞)、ヒト胎児腎臓細胞(HEK293細胞、入手先:理化学研究所バイオリソースセンター RCB1637)、ヒト子宮頸癌細胞(Hela S3細胞、入手先:理化学研究所バイオリソースセンター RCB0191)、アフリカミドリザル腎臓細胞(COS−7細胞、入手先:理化学研究所バイオリソースセンター RCB0539)それぞれにコトランスフェクトした。この時、pSRα-HおよびpSRα-Lの合計のモル数に対するIR/MARベクターのモル比は1.5であった。また実施例3で構築したpCMV-HおよびpCMV-Lについても上記と同様にコトランスフェクトした。この時、pCMV-HおよびpCMV-Lの合計のモル数に対するIR/MARベクターのモル比は3であったなお、IR/MARベクターが導入されずにpCMV-HおよびpCMV-Lのみを導入した場合を陰性対照とした。
【0147】
トランスフェクション2日後にブラスティサイジン(Invivogen社製:ant-bl-1)を5μg/mlの濃度で培地に添加して、3〜4日間隔で培地を入れ替えながら2週間培養し、安定な形質転換体を得た。次に、細胞培養シャーレ内径60mm(SUMILON社製:MS-11600)レベルまで、拡大培養後、段階的にブラスティサイジン濃度を高めていき、最終濃度320μg/mlで安定して生育できる細胞が得られるまで培養を続けた。
【0148】
このようにして得られた未クローニング細胞にブライスティサイジン320μg/mlを培地に添加して4日間培養した。この培養液上清を取得し、実施例3に記載した方法と同様にしてELISA法で抗KOD DNAポリメラーゼ抗体の濃度を測定した。
【0149】
その結果を図18および表10に示した。図18および表10中「pCMV−HL(without IR/MAR)」は陰性対照の結果を示し、「pCMV−HL(with IR/MAR)」はpCMV-HおよびpCMV-LをpΔBN.AR1とともに各種細胞へ導入した結果を示し、「pSRα−HL(with IR/MAR)」はpSRα−HおよびpSRα−LをpΔBN.AR1とともに各種細胞へ導入した結果を示す。図18の「抗体濃度(μg/L)」および表10中の数値は、抗体濃度を示す。
【0150】
【表10】

【0151】
図18および表10の結果から、IR/MARベクターと抗KOD DNAポリメラーゼ抗体遺伝子を含むプラスミドとを用いた遺伝子発現は、様々な哺乳類宿主細胞に適用可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0152】
上記説示したように、本発明によれば、目的遺伝子の導入効率および発現効率が高く、目的遺伝子を高発現するクローンの選択効率が高い哺乳動物細胞の形質転換方法を提供し、医薬品等の有用タンパク質の生産コストを低下させることができる。なお、本発明において利用するIR/MARベクターを用いた高度遺伝子増幅系は、宿主細胞は特に限定されず、広範な哺乳動物細胞を利用することができる。
【0153】
したがって、本発明はタンパク質の生産を行う産業、例えば、医薬品、化学、食品、化粧品、繊維等種々広範な産業において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】IR/MARベクターによってDMおよびHSRが生じるメカニズムを示す模式図である。
【図2】ベクターによって形質転換されたCOLO 320DMに生じたDMおよびHSRをFISH法によって検出した蛍光顕微鏡像であり、AおよびBはpSFVdhfrが導入された形質転換細胞の結果を示し、CはpΔHpA×2.dhfrが導入された形質転換細胞の結果を示し、DはpTH2.dhfrが導入された形質転換細胞の結果を示し、EはpEPI−Iが導入された形質転換細胞の結果を示す。
【図3】実施例および参考例において使用されている各種プラスミドの概略図である。
【図4】参考例1においてpTH.IR.MARプラスミドが遺伝子導入されたCOLO 320DMに生じたHSRの頻度を示す棒グラフである。
【図5】プラスミド(pΔBN.AR1、pΔHpA、pΔHpA.dhfr、pΔHpA×2.dhfr、pTH2.dhfr、pTH2.dhfr.inv、pEPI−1、またはpTH3)が導入された、HeLa(図5(A))、COLO 320HSR(図5(B))、またはCOLO320DM(図5(C))のHSR発生頻度を示す棒グラフである。
【図6】参考例2の結果を示す図であり、(A)はc−myc遺伝子座(GenBank HSMYCC; accession number X00364)の概略図であり、(B)および(C)はc−myc遺伝子座のIR全長とその部分断片C0〜C16との位置関係を示す図、並びに上記部分断片を含むプラスミド(pC0〜pC16)が導入された形質転換細胞のHSR発生頻度を示す図である。
【図7】参考例3の結果を示す図であり、DHFRβ―Ori遺伝子座(Genbank CFORIDHFR; accession number X94372)の概略図、DHFRβ―Ori遺伝子座のIR全長とその部分断片C0〜C11との位置関係を示す図、および各部分断片を含むプラスミドが導入された形質転換細胞のHSR発生頻度を示す図である。
【図8】実施例において使用したベクターの構築方法の概略を示す図である。
【図9】pΔBN.AR1の模式図である。
【図10】エリスロポエチン遺伝子を含むプラスミド(pCMV-EPO(4.78kbp)、pSRα-EPO(5.99kbp)、またはpSV40-EPO(4.40kbp))およびpΔBN.AR1がコトランスフェクションにより導入されたCHO−K1細胞のエリスロポエチンの生産量を示す棒グラフである。
【図11】(A)はpSRα-EPOおよびpΔBN.AR1がコトランフェクションにより導入されたCHO−K1細胞の各クローンのエリスロポエチンの生産量を示す棒グラフであり、(B)はpSRα-EPOのみが導入されたCHO−K1細胞の各クローンのエリスロポエチンの生産量を示す棒グラフである。
【図12】(A)はpCMV-EPOおよびpΔBN.AR1がコトランフェクションにより導入されたCHO−K1細胞の各クローンのエリスロポエチンの生産量を示す棒グラフであり、(B)はpCMV-EPOのみが導入されたCHO−K1細胞の各クローンのエリスロポエチンの生産量を示す棒グラフである。
【図13】(A)はpCMV-Hの模式図であり、(B)はpCMV-Lの模式図である。
【図14】(A)はpc12の模式図であり、(B)はpC12.Psv40の模式図である。
【図15】(A)はpCMV-HおよびpCMV-LとpΔBN.AR1とがコトランスフェクションによりCHO−K1細胞の各クローンの抗体生産量を示す棒グラフであり、(B)はpCMV-HおよびpCMV-LとpC12.Psv40とがコトランスフェクションによりCHO−K1細胞の各クローンの抗体生産量を示す棒グラフであり、(C)はpCMV-HおよびpCMV-Lのみが導入されたCHO−K1細胞の各クローンの抗体生産量を示す棒グラフである。
【図16】pEF1α-HLの模式図である。
【図17】pEF1α-HLとpC12.Psv40とがコトランスフェクションにより導入されたCHO-K1細胞の抗体生産量を示す棒グラフである。
【図18】pSRα-HおよびpSRα-Lと、pΔBN.AR1とがコトランスフェクションにより導入されたCHO−K1細胞、HEK293細胞、Hela S3細胞、またはCOS−7細胞の抗体生産量;pCMV-HおよびpCMV-Lと、pΔBN.AR1とがコトランスフェクションにより導入されたCHO−K1細胞、HEK293細胞、Hela S3細胞、またはCOS−7細胞の抗体生産量;並びにpCMV-HおよびpCMV-Lのみが導入されたCHO−K1細胞、HEK293細胞、Hela S3細胞、またはCOS−7細胞の抗体生産量を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物複製開始領域と、哺乳動物核マトリックス結合領域とを含む第1ベクター、
および哺乳動物細胞内において機能するプロモーターと、分泌タンパク質をコードする目的遺伝子とを含む第2ベクターを、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比が0.3〜5の範囲となるように、哺乳動物細胞へ同時に導入することを特徴とする、哺乳動物細胞の形質転換方法。
【請求項2】
上記哺乳動物複製開始領域が、遺伝子増幅活性部位を有する哺乳動物複製開始領域の部分断片である、請求項1に記載の形質転換方法。
【請求項3】
上記哺乳動物複製開始領域が、c−myc遺伝子座由来の複製開始領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座由来の複製開始領域、β−グロビン遺伝子座由来の複製開始領域、およびエプスタイン・バーウイルス潜在複製開始領域からなる群から選択される、請求項1または2に記載の形質転換方法。
【請求項4】
上記哺乳動物核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の形質転換方法。
【請求項5】
上記プロモーターが、ヒトサイトメガロウィルスプロモーター、SV40初期プロモーター、SRαプロモーター、ヒト伸長因子1−αプロモーター、ウシ成長ホルモンプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター、およびハムスターユビキチン/S27aプロモーターからなる群から選択される、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の形質転換方法。
【請求項6】
上記プロモーターが、SRαプロモーターまたはヒト伸長因子1−αプロモーターを使用した場合において、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比は1.5であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の形質転換方法。
【請求項7】
上記プロモーターが、ヒトサイトメガロウィルスプロモーターを使用した場合において、第2ベクターに対する第1ベクターのモル比は3であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の形質転換方法。
【請求項8】
目的遺伝子の5’末端側に分泌シグナル配列を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の形質転換方法。
【請求項9】
上記第1ベクターおよび/または第2ベクターに、形質転換細胞を選択するための選択マーカー遺伝子が含まれていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の形質転換方法。
【請求項10】
上記選択マーカー遺伝子は、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラスチシジンSデアミナーゼ遺伝子、グルタミンシンセターゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子、および緑色蛍光タンパク質遺伝子からなる群より選択される、請求項9に記載の形質転換方法。
【請求項11】
上記哺乳動物細胞が、チャイニーズハムスター卵巣細胞、ヒト胎児腎臓細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト子宮頸部癌細胞、およびマウスミエローマ細胞からなる群より選択される、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の形質転換方法。
【請求項12】
第1ベクターおよび第2ベクターを哺乳動物細胞に導入した後に、目的遺伝子が高発現するクローンを選抜する選抜工程を含む、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の形質転換方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の形質転換方法によって得られた形質転換細胞を培養する培養工程を含む、タンパク質の生産方法。
【請求項14】
上記培養工程によって得られた培養物から所望のタンパク質を精製する精製工程を含む、請求項13に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項15】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の形質転換方法によって得られた形質転換細胞。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−195197(P2009−195197A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42022(P2008−42022)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】