哺乳類の中枢神経系における導入遺伝子の調節発現
組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターが、哺乳類の中枢神経系(CNS)に調節可能な導入遺伝子を送達するために提供される。また、ベクターを使用して神経変性病の患者を処置する方法、ならびにベクターを構築もしくは使用するか、あるいは本発明の方法を行うためのキットを提供する。導入遺伝子の配列は、小分子誘導体に応答する転写因子の一以上の結合部位を含む、プロモーター/エンハンサー領域から発現される。導入遺伝子の構築物および転写因子を含む構築物の両方が標的細胞に送達される。調節可能な導入遺伝子は、転写因子として同一のrAAVベクター上もしくは別々のベクター上で送達される。転写因子は2つのポリペプチド鎖、例えば、DNA結合ドメインおよび転写活性ドメインを含んでよく、該ポリペプチド鎖は、ラパマイシンもしくはその非免疫原性の類似体などの二量体化物の存在下で活性化二量体を形成する。本発明のベクター、方法およびキットは、AADCもしくはGDNFなどの遺伝子をパーキンソン病のような神経変性病の患者の脳に送達するのに使用されてよく、脳におけるAADCもしくはGDNFの発現は、後からラパマイシンもしくはラパマイシン類似物で患者を処置することによって調節可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子治療によって導入された遺伝子の調節、特に哺乳類の中枢神経系(CNS)に形質導入された導入遺伝子の発現調節に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのヒトの疾患は遺伝子の異常な発現によって引き起こされる。遺伝子が低発現である場合、あるいは遺伝子産物自体が欠失している場合には、相当する機能的遺伝子産物の不在は、喪失遺伝子産物を患者に送達することによって処理されてよい。しかしながら、タンパク質の送達は、しばしば困難であり、限られた期間にのみ利益を授与し、タンパク質は、定期的に、あるいは慢性疾患の場合には無期限に繰り返し再投与されなければならないことを意味する。繰り返しの投与は、コストが高く、不便であり、貧困の患者によっては苦しいかもしれない。加えて、遺伝子産物のレベルは、1用量の投与直後と次の用量の投与直前の間で急速に変化しうる。このレベルの変動性は、低薬物動態(例、短い半減期)もしくは低い治療指数を伴う治療薬剤において特に問題である。
【0003】
遺伝子治療は、遺伝子産物よりもむしろ遺伝子の準最適発現を示す細胞に遺伝子を送達することで用いられ得る。内在性遺伝子の低発現もしくは不完全な発現を供給することに加えて、遺伝子治療はまた、サイトカイン、ホルモン、抗体もしくは遺伝学的に修飾されたタンパク質などの標的細胞で発現される時に有益な効果を有しうる他の遺伝子を送達するためにも使用され得る。遺伝子治療によって送達される遺伝子は、本明細書では導入遺伝子を意味する。導入遺伝子が標的細胞内で安定して発現される時には、遺伝子治療は、無期限に定常レベルの遺伝子産物を送達する能力を有する。遺伝子治療は、遺伝子産物自体の繰り返し送達と比較して、一度、もしくは少なくとも低頻度で実施されることのみを必要とする。全身に投与されたタンパク質は血液脳関門のために脳に入りにくく、脳への直接定位注射は繰り返し投与には非実用的であることから、遺伝子治療が治療タンパク質を脳に送達する方法として特に好ましい。
【0004】
(アデノ随伴ウイルス介在の遺伝子治療)
ウイルスベクターは、本明細書で形質導入を意味する過程である、標的細胞への導入遺伝子の効率的な送達を補助するために開発されてきた。遺伝子送達に使用されてきた一つのウイルス系はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVはディペンドウイルス属に属するパルボウイルスである。AAVは、他のウイルスでは見られないいくつかの魅力的な特徴を有する。第一に、AAVは非分裂細胞を含む広範囲の宿主細胞に感染しうる。非分裂細胞に感染する能力は、AAVをCNS組織、例として脳への形質導入に特に適切な選択肢とする。第二に、AAVは異なる種由来の細胞に感染可能である。第三に、AAVはヒトもしくは動物の病気に関連せず、組込みによって宿主細胞の生物学的特性を変化させないようである。実際、ヒトの人口の80−85%がウイルスに感染していると推測されている。最後に、AAVは、広範囲の物理的および化学的状態において安定であり、生成、貯蓄および輸送に容易である。
【0005】
AAVゲノムは、約4681ヌクレオチド(nt)長の直状一本鎖DNA分子である。AAVゲノムは、一般的に両末端に末端逆位配列(ITRs)が配置された内部非繰り返しゲノムを含む。ITRsは約145nt長である。ITRsはDNA複製の複製開始点およびウイルスゲノムのパッケージングシグナルとして作用する。
【0006】
ゲノムの内部非繰り返し部分は、AAVの複製(rep)およびキャプシド(cap)遺伝子による2つの主要なオープン・リーディング・フレームを含む。repとcapの遺伝子は、ウイルスが複製し、ウイルスゲノムをビリオン内にパッケージさせるタンパク質をコードする。特に、少なくとも4つのウイルスタンパク質を含む一つのファミリーは、AAVのrep領域から発現される;Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40は、それらの見かけ上の分子量から名付けられた。AAVのcap領域は少なくとも3つのタンパク質をコードする;VP1、VP2、およびVP3。
【0007】
AAVはヘルパー依存性ウイルスである。すなわち、一般的にAAVビリオンを形成するためにはヘルパーウイルス(例、アデノウイルス、ヘルペスウイルスもしくはワクシニア)との共感染を必要とする。ヘルパーウイルスによる共感染の非存在下では、AAVはウイルスゲノムがエピソームとして持続するか、もしくは宿主細胞の染色体に挿入する、潜伏状態を確立するが、感染ビリオンは生成されない。ヘルパーウイルスによる後の感染は、組込まれたゲノムを「レスキュー」する、すなわち、複製し、感染性AAVビリオンにゲノムをパッケージすることを許容する。AAVが異種由来の細胞に感染可能である一方、ヘルパーウイルスは宿主細胞と同一種でなければならない。それゆえ、例えば、ヒトAAVはイヌアデノウイルスに共感染されたイヌ細胞で複製するだろう。
【0008】
AAVベクターは、AAVゲノムの内部非繰り返し部分(すなわち、repおよびcap)を欠失すること、ならびにITR間に異種性遺伝子(「導入遺伝子」)を挿入することによって目的の遺伝子を送達するように設計されている。導入遺伝子は異種性プロモーターに連結されてよい。ポリアデニル化部位などの末端シグナルもまた含まれ得る。
【0009】
導入遺伝子を含む感染性組み換えAAV(rAAV)のストックを得るために、適合する産生細胞系列がAAVのITRs間に挟まれた導入遺伝子を含むAAV発現ベクターでトランスフェクトされる。AAVヘルパーの機能および補助的な機能もまた産生細胞で発現される。ヘルパーの機能は、一般的にAAVコード遺伝子(例えば、repおよびcap)によって供給される機能であり、補助的な機能は、一般的に野生型AAV(wtAAV)がヘルパーウイルス(例、アデノウイルス)と共感染された細胞で複製する時にヘルパーウイルスによって供給される。WtAAVにおいてヘルパー機能をコードする遺伝子は、rAAVベクターの構築時に除去されて導入遺伝子配列用のスペースを作ることから、別々に供給されなくてはならない。ヘルパーおよび補助的な機能の存在下において、導入遺伝子およびAAVのITRsを含むベクター構築物は、複製、パッケージされて組み換えAAVビリオン(rAAV)を形成する。rAAVのストックの生成は、出典明示により本明細書に一体化させた米国特許第5,622,856号、第6,001,650号、第6,027,931号、第6,365,403号、第6,376,237号、第5,945,335号、第6,004,797号、および第6,482,633号でさらに記述される。
【0010】
こうして調製されたrAAVストックは、次にヘルパーウイルスの非存在下において標的細胞をrAAVで感染させることによってin vitroの標的細胞に、あるいはin vivoの患者に、導入遺伝子を導入するために使用され得る。患者の細胞はrepおよびcapの遺伝子ならびに補助的な機能遺伝子を欠如しているから、rAAVベクターは標的細胞内で複製を欠失する。すなわち、それらはさらに自身のゲノムを複製およびパッケージができない。同様に、repおよびcapの遺伝子の源がないと、wtAAVは患者の細胞内で形成され得ない。
【0011】
(導入遺伝子発現の調節)
AAV介在遺伝子治療、および一般的な遺伝子治療に不利な点の一つは、一度投与されると、処置を元に戻すこと、あるいはその効果を調節することが不可能なことである。必要であればいつでも中断可能な薬剤の送達と異なり、成功した遺伝子治療はベクター投与後に持続性のある長期遺伝子発現を提供する。導入遺伝子発現を遮断できる能力は、ヒトの患者の処置において重要な安全性の考慮すべき事項である。さらに、導入遺伝子の発現を下流調節する能力は、患者内で導入遺伝子産物の適正な薬理学的制御を確保するのに有用であろう。
【0012】
小分子誘導体を用いた導入遺伝子発現を調節する様々な系が開発されている。Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32、Noら(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:3346−51、Gossen and Bujard(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:5547−51、the GeneSwitch(登録商標)system(カリフォルニア州、バーリンゲームのValentis社)。これらの系は、小分子薬物によって制御される改良された転写因子の活性、および調節された転写因子によって促進される導入遺伝子発現の使用に基づく。かかる系の一つは、ラパマイシンによる誘導(本明細書では「二量体化物系」(dimerizer system)という)に基づく、ラパマイシンの添加による2つの合成融合タンパク質に由来する機能的な転写因子の形成に関する。Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32。ラパマイシンは自然産物の免疫抑制剤FK506に密接に関連する経口的に生物利用可能な小分子薬物であり、細胞タンパク質FKBP12に高い親和性(200pM)で結合し、該複合体はFRAPに結合する。ラパマイシンは内在性の免疫抑制作用を有するが、非免疫抑制類似物質は、修飾FRAP遺伝子配列と一緒に使用されることで所望しない免疫抑制のない二量体物系での転写を促進できるように開発されてきた。Pollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26。
【0013】
In vivoの遺伝学的調節の二量体化物に基づいた系は、Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32およびPollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26でより詳細に記載されている。二量体化物系は、筋肉(Yeら(1999)Science283:88−91、Riveraら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA96:8657−62、Johnstonら(2003)Mol.Ther.7:493−7)、肝臓(Auricchioら(2002)Gene Ther.9:963−71)、および眼(Auricchioら(2002)Mol.Ther.6:238−42)に遺伝子を送達するウイルスベクターとの使用に採用されている。二量体化物系はまた、ARIAD Pharmaceuticals社(マサチューセッツ州、ケンブリッジ)のARGENT転写技術基盤(AGENT Transcription Technology platform)の要素でもある。この技術は、さらにARGENT二量体化物に基づいた系を一般的に記述する、Crabtreeらの米国特許第6,043,082号、ならびに合成DNA結合ドメイン、p65転写活性ドメインおよび減少された免疫抑制を有するラパログ(rapalogs)を包含する、ラパマイシンもしくはラパマイシン類似物を使用する二量体物に基づいた系を記述する、Clacksonらの米国特許第6,649,595号で開示されている。米国特許第6,043,082号および米国特許第6,649,595号を出典明示によりそれら全体を本明細書に一体化させる。
【0014】
二量体化物系は、転写活性融合タンパク質の機能的な要素を示す配列が全てヒト由来のタンパク質であり、それゆえヒトにおいて不都合な免疫応答の可能性を減少させるという点で十分にヒトへの適応に有利な点を有する。Riveraら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA96:8657−62。
【0015】
(パーキンソン病)
パーキンソン病(PD)は、遺伝子治療、特にAAV遺伝子治療に適合し得る病気の例である。PDは、アメリカで二番目に多い神経変性疾患であり、100万人以上に影響する。PDは、自発運動の減退、歩行困難、姿勢不安定、硬直および震えに特徴付けられる。これらの臨床徴候は、脳の基底ガングリア領域の黒質内の着色神経(すなわち、ドーパミン作動性神経)変性の直接的な結果である。黒質の着色神経が重要なカテコールアミン神経伝達体の合成部位であるので、黒質の進行性変性は、利用可能なドーパミンの減少を引き起こす。
【0016】
ドーパミンは、黒質、特に黒質緻密部のドーパミン作動性神経の終神経末端で合成される。ドーパミン作動性神経は、線条体、特に神経支配する被殻および尾状核に投射する。3つの酵素が効果的なドーパミンの生合成には必要である;それらはチロシン水酸化酵素(TH)、グアノシン三リン酸シクロヒドロラーゼI(GCH)、および芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)である。チロシン水酸化酵素は、アミノ酸のチロシンにヒドロキシル基を付加し、L−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−dopa)を合成する。GCHはTH活性に必要な補因子であるBH4の最初の段階および生合成律速段階を触媒する。最終的に、AADCがL−dopaの末端カルボキシル基を除去してドーパミンを生成する。
【0017】
PDの処置は、現在では、しばしばAADCの関連抑制剤との組み合わせによるL−dopaの経口投与に関する。PDの進行と同時に、患者の大半は、脳の影響を受けた領域(すなわち、黒質)におけるAADC含有量の減少を経験する。AADCがL−dopaをドーパミンに変換するのに必要であることから、L−dopa用量を増加させることが治療効果に必要であるが、これがしばしば副作用の増多を招く。さらに、黒質が次第に悪化するに連れてAADCの減少が絶えず続き、しばしばL−dopa投与による治療の有益性がもはや認識されないレベルに達する。
【0018】
(AADC)
PD治療への遺伝子治療に基づいた試みの一つは、AADCのようなドーパミン生合成に関する一つ以上の酵素をコードする遺伝子を供給することである。供給AADCは、L−dopa処置の有効性を回復する。哺乳類の患者の脳におけるAADCの送達および発現によるPD処置に使用されるAAV由来ベクターおよび方法は、その全体を出典明示により本明細書に一体化させた米国特許出願公開第2002/0172664号に記述される。
【0019】
パーキンソン病(PD)は、黒質におけるドーパミン作動性神経の進行的な喪失および線条体におけるドーパミンの重度な減少に特徴付けられる。Hornykiewicz(1975)Natl.Inst.Drug Abuse Res.Monogr.Ser.13−21。6−OHDAモデルは、黒質から線条体へ投射する内側前脳束を化学的に損傷させることによって作成され、病理組織学的にPDに類似する。Ungerstedt(1971)Acta Physiol.Scand.Suppl.367:69−93。一側的に片方の半球を6−OHDA損傷されたラットは、治療用量のL−dopaもしくはドーパミン受容体アゴニストに応答して急速な対側性回転活性を生じる。Ungerstedt(1971)。これまでの研究においては、ヒトAADC(hAADC)をコードする遺伝子をラットもしくは非ヒト霊長類の線条体に移入すること、および外因的にL−dopaを送達することが、パーキンソン病(PD)の動物モデルにおいて、ドーパミンを有効なレベルにまで回復させ、L−dopaの必要性を低下させることが可能であると示されている。Bankiewiczら(2000)Exp.Neurol.164:2−14、Sanchez−Pernauteら(2001)Mol.Ther.4:324−30。
【0020】
(GDNF)
PDの処置への別の遺伝子治療に基づいた試みは、変性過程の進行を阻害するもしくは遅らせる遺伝子を送達することである。グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)は、in vitroおよびin vivoのPD動物モデルの双方におけるDA神経の生存を増進することが示されている強力な神経栄養因子であり(Bjorklundら,Brain Res.(2000)886:82−98、Bohn,M.C.,Mol.Ther.(2000)1:494−496、et al.,J.Neural Transm.Suppl.(2000)58:181−191)、出典明示により本明細書に一体化させた。哺乳類の患者の脳でのGDNFの送達および発現によるPD処置のAAV由来ベクターおよび方法は、出典明示により本明細書に取り入れた米国特許出願公開第2003/0050273号に記述される。
【0021】
パーキンソン患者の脳におけるAADCもしくはGDNFの発現は有益である反面、これらの遺伝子の過剰発現は危険な副作用を引き起こし得る。遺伝子治療に使用される典型的なベクターが、強力な構成性プロモーターを組み込むように設計され、そのプロモーターは、治療の有効性を確実にするために全体の導入遺伝子発現を最大にするように意図されている。多くの過去の研究においては、形質導入されたごくわずかの細胞から発現を最大にするための試行がなされ、それは、形質導入効率が比較的低いと予想される場合、および導入遺伝子産物が形質導入された細胞から全身循環へ分泌されるような場合には合理的な目的であるかもしれない。二量体化物により調節される導入遺伝子発現のいくつかの以前の研究がこのような分泌タンパク質に関連する。Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32、Riveraら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA96:8657−62、Yeら(1999)Science283:88−91、Pollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26、Auricchioら(2002)Gene Ther.9:963−71、Johnstonら(2003)Mol.Ther.7:493−7、Auricchioら(2002)Mol.Ther.6:238−42。
【0022】
分泌タンパク質の産生物が循環器系で蓄積されることと対照的に、非分泌性導入遺伝子産物がいくつかの細胞で過剰発現され、全体的に他の細胞で欠乏する場合、治療の有益性は達成され得ない。非分泌性タンパク質を利用する遺伝子治療は、各々の形質導入細胞内において所望するレベルで調節される導入遺伝子発現を必要とし、このようなタンパク質の発現が形質導入後に調節可能であることが特に重要とされ得る。
【0023】
神経変性疾患および他のCNS障害の遺伝子治療は、拡大しつつある技術分野であり(TinsleyとEriksson(2004)Acta Neurol.Scand.109:1−8)、導入遺伝子の調節は、投与調節と安全性の両方の目的に必要であり得る。ドーパミンの産生が、原理上前駆体L−dopaの外因的な送達によって制御可能であることから、調節遺伝子発現は、AADC治療の場合に必要でないかもしれないが、調節は、送達される酵素量を正確に制御すること、あるいは、必要ならば治療を終結することに有益であり得る。調節は、過剰発現が有害な効果である神経栄養因子(GDNFなど)の遺伝子送達に必要であり、必要な制御の程度は、個々の適用例により決定される。
【0024】
遺伝子治療による患者のCNS(例えば、脳)に導入された遺伝子発現を調節する方法、およびこのような調節を可能にするベクターの必要性が存在する。特に、PDなどの神経変性疾患にかかっている患者の脳において、導入遺伝子の発現を調節する方法の必要性が存在する。好ましくは、調節系は、抑制状態下においては導入遺伝子発現の低いバックグラウンドレベルであるだけでなく、高い誘導率をも示す。最適な系はまた、全てをヒトタンパク質に由来する機能的な要素を含むことでヒト遺伝子治療期間に有害な免疫反応の機会を最小にするだろう。
【発明の開示】
【0025】
(発明の要約)
当該技術分野における上記ならびに他の要求は本発明に適合する。すなわち、本発明は、神経系の標的細胞内における導入遺伝子の発現が誘導体を用いて調節可能である、AAV介在の遺伝子治療用のベクター、方法およびキットを提供する。
【0026】
一の態様では、本発明は、導入遺伝子の発現が患者のCNS(例えば、脳)への導入遺伝子の形質導入後に調節され得る、組み換えAAV(rAAV)ベクターに関する。
【0027】
一の具体例では、調節は2つのポリペプチド要素を含む転写因子を用いて達成され、該転写因子は、2つの要素が相互に結合する時にのみ活性化し、これらの要素は、誘導体の存在下でのみ相互に結合する。一の具体例では、2つのポリペプチドはDNA結合ドメイン融合および活性化ドメイン融合を含む。典型的なDNA結合ドメイン融合は、ヒト転写因子Zif268、Oct−1に由来するホメオドメイン、に由来する2つのDNA結合ドメイン、およびFK506の細胞受容体に由来する3つの薬物結合ドメインを含む。典型的な活性ドメイン融合は、NFκBのp65サブユニットに由来する転写活性化ドメインに融合されたヒトFRAPのラパマイシン結合ドメインを含む。
【0028】
一の具体例では、第一のrAAVベクターは導入遺伝子を含み、第二のrAAVベクターは転写因子要素の配列を含む。別の具体例では、単一のrAAVベクターは転写因子要素と導入遺伝子の配列を含む。
【0029】
一の具体例では、調節は、誘導体の投与によって成される。別の具体例では、誘導体は、ラパマイシンなどの二量体化物もしくはその非免疫抑制性類似物、例えば、AP21967である。
【0030】
別の態様では、本発明は、導入遺伝子が患者のCNS(例えば、脳)に形質導入された後に導入遺伝子の発現が調節され得るrAAVベクターを用いて患者を処置する方法に関する。一の具体例では、処置方法は、誘導体、例えば、ラパマイシンなどの二量体化物もしくはその非免疫抑制性類似物、例えば、AP21967の投与に関する。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は、本発明のベクターを構築するため、もしくは本発明の方法を行うためのキットに関する。一の具体例では、キットは、使用者の目的とする導入遺伝子をクローニングするためのポリリンカー領域を有している第一のrAAVベクターを含む。別の具体例では、キットは、第一のrAAVベクターにクローニングされた導入遺伝子からの発現を調節できる転写因子をコードする第二のrAAVベクターをさらに含む。さらに別の具体例では、キットは、誘導体、例えば、ラパマイシンなどの二量体物もしくはその非免疫抑制性類似物、例としてAP21967などを含む。
【0032】
一の具体例では、本発明は、ヒト神経変性疾患、例えば、パーキンソン病(PD)の処置に関する。
【0033】
いくつかの具体例では、調節された導入遺伝子は、AADCもしくはGDNFであるが、一般的には、調節された導入遺伝子は、標的組織での発現が望まれるいずれかの遺伝子であり得る。
【0034】
本発明のこれらおよび他の具体例は、本明細書の開示のために当業者によって容易に行われるだろう。
【0035】
(図の説明)
図1Aは、導入遺伝子発現調節用転写因子の活性化およびDNA結合ドメインをコードするrAAVベクター(AAV−CMV−TF)の図式である。
【0036】
図1Bは、発現がラパマイシンもしくはその誘導体物の添加によって調節可能である、hAADCをコードする組み換えAAVベクター(AAV−Z12−hAADC)の図式である。
【0037】
図1Cは、発現が構成性CMVプロモーターによって促進されるhAADCをコードする組み換えAAVベクター(AAV−CMV−hAADC2)の図式である。
【0038】
図2は、D7−4細胞に様々なrAAV構築物を形質導入し、0、5もしくは25nMのラパマイシン類似物AP21967で処理した実験結果を示す。未処理コントロールも示す。「OD」値は、基準ロットのAAV−CMV−hAADC2で形質導入された細胞から得られた標準曲線を用いて計算した(AADCの発現ELISAにおけるOD405で測定した)相対的なAADC発現を意味する。
【0039】
図3は、L−dopaに対する回転応答を6−OHDA損傷ラットでラパマイシン処置の機能として測定した実験の時系列である。
【0040】
図4は、6−OHDA損傷ラットにおける5mg/kgのL−dopaに対する回転応答を示し、図3で示される時系列に沿った時間の関数として時間あたりの対側性回転数で表される。ラットに賦形剤単体(コントロール)もしくは調節可能なhAADCおよび対応する転写因子をコードするベクターを注入する。データは第1週と第2週の結果を示していない。図3で示すように、注入を0日に行い、その日を週の数を数え始めた日とする(例えば、「3週」は、注入後21日を意味する)。簡単にするため、図3で示される4回のラパマイシン注射(「ラパマイシン」)を図4では単一の矢印として表した。
【0041】
図5Aは、hAADCのラパマイシン調節発現に必要な配列を有するAAVベクターとともにラパマイシンで処理した注入7週後ラット線条体内のAADC免疫組織化学の結果を示す。スケールバーは75μmを表す。
【0042】
図5Bは、ラットがラパマイシン未処理であること以外には図5Aと同様の実験結果を示す。
【0043】
図6は、注入7週後で得られた3つの処理群における典型的なラット由来のホールマウント脳切片のAADC免疫組織化学の結果を示す:A:ベクター注入(+)ラパマイシン;B:ベクター注入(−)ラパマイシン;C:賦形剤注入(+)ラパマイシン。図4で示すように、ラットに賦形剤のみ(図6C)、もしくは調節可能なhAADCと対応する転写因子(図6Aと6B)をコードするベクターを注入した。その後、図6Aと6Cのラットをラパマイシンで処理した(図3で示すように)が、図6Bのラットは処理しなかった。左側の半球は、6−OHDA損傷と線条体内ベクター(もしくは賦形剤)注入の部位であり、右側の半球は、正常ラットのAADC陽性繊維の内在性染色を示す。
【0044】
図7は、図6に準拠して考察された3つの処理群において、ウエスタンブロット解析で測定された注入7週後のAADC発現を示す。上の図は、3つの処理群各々からの典型的なラット脳由来のタンパク質の電気泳動によって観察されたAADCとβ−アクチンのバンドである。β−アクチンをコントロールとして使用した。棒グラフは、3つの各処理群ラットのAADCバンドにおけるタンパク質バンドの平均した統合像密度、および標準偏差を示す。
【0045】
図8Aは、hGDNFの発現がラパマイシンもしくはその類似物によって調節され得る、転写因子の活性化ドメイン融合およびDNA結合ドメイン融合をコードする転写、ならびに導入遺伝子hGDNFをコードする調節可能な転写、を含むrAAVベクター(AAV−TF−Z8−hGDNF)の図式である。
【0046】
図8Bは、転写因子のDNA結合ドメインの発現が活性化ドメインの発現とは別々の転写上でSV40プロモーターによって促進されること、ならびに活性化ドメインが反対の鎖(すなわち、反対方向)から発現されることを除いて、図8Aで示されるベクターに類似するベクターの図式である。
【0047】
図8Cは、発現が構成性CMVプロモーターによって促進される、hGDNFをコードする組み換えAAVベクター(AAV−CMV−hGDNF)の図式である。
【0048】
図9は、0、5もしくは25nMのラパマイシン処理に応じて、調節TF−GDNFプラスミド(AAV−TF−Z8−hGDNF)もしくは構成性CMV−GDNFプラスミド(AAV−CMV−hGDNF)のどちらかで一時的にトランスフェクトされたHelaD7−4細胞におけるピコグラム(pg)単位のGDNF発現を示す。
【0049】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施は、他に特に規定がなければ、当技術分野内のタンパク質化学、生化学、組み換えDNA技術および薬理学の慣用的方法に従って行われる。このような技術は文献で十分に説明されている。T.E.Creighton,Proteins:Structures and Molecular Properties(W.H.Freeman and Company,1993)、A.L.Lehninger,Biochemistry(Worth Publishers,Inc.,current addition)、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition,1989)、Methods In Enzymology(S.Colowick and N.Kaplan eds.,Academic Press,Inc.)、Remington’s Pharmaceutical Science,18th Edition(Easton,Pa.:Mack Publishing Company,1990)を参照。
【0050】
(I、定義)
本出願で使用される全ての科学的および技術的用語は、他に特に規定がなければ、当該技術分野で一般的に使用される意味を有する。本出願で使用される場合において、以下の単語もしくは語句は特定の意味を有する。
【0051】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」「an」および「the」は、内容が明確に他に指示しない限り、複数形の関連物を含むことに注意しなければならない。それゆえ、例えば、「a vector」に関しては、二以上のかかるベクターの混合物、およびその類似物を含む。
【0052】
用語「導入遺伝子」は、本明細書で使用されるように、いくつかの具体例において、標的細胞にすでに存在する内在性遺伝子の付加コピーもしくは配列変化を含む、導入遺伝子由来の如何に関わらず標的細胞に送達される遺伝子を意味する。導入遺伝子は、生物から得られる遺伝子配列もしくは部分的な遺伝子配列、かかる遺伝子の遺伝学的に操作された配列変化、または合成(非自然発生)DNA配列であり得る。導入遺伝子は、タンパク質をコードするメッセンジャーRNAの産生を指示してよく、あるいはアンチセンス、リボザイム、三重鎖形成性、RNAiもしくは他のRNA配列などの生物学的な活性RNA分子をコードしてよい。
【0053】
「調節可能な導入遺伝子」は、本明細書で使用されるように、標的細胞に形質導入された後に遺伝子の発現が誘導体の投与によって変化され得る遺伝子である。治療用導入遺伝子発現の調節は、導入遺伝子産物のレベルの薬理学的な制御を提供する。
【0054】
「発現カセット」は、目的の配列もしくは遺伝子の発現を指示することが可能である構築物を意味する。発現カセットは、目的の配列もしくは遺伝子(の直接的な転写を行うため)を作動可能であるように結合させたプロモーターもしくはプロモーター/エンハンサーを含み、しばしばポリアデニル化配列も含む。本発明の特定の具体例の範囲内において、本明細書に記述された発現カセットは、アデノウイルス随伴ウイルス構築物内に含まれてよい。
【0055】
本明細書で核酸に関して使用される「組み換え」は、その起源もしくは操作によって、ゲノム、cDNA、ウイルス、半合成、もしくは合成由来のポリヌクレオチドが、本来関連する全てもしくは一部のポリヌクレオチドと関連していないことを意味する。タンパク質もしくはポリペプチドに関して使用される用語「組み換え」は、組み換えポリヌクレオチドの発現によって産生されるポリペプチドを意味する。一般的に、さらに下記のように、目的の遺伝子がクローン化され、次に形質転換された動物で発現される。宿主生物は発現条件の下で外部遺伝子を発現してタンパク質を産生する。
【0056】
「コード配列」もしくは選択ポリペプチドを「コード」する配列は、適合する調節配列(もしくは「制御エレメント」)の制御下に配置された場合に、in vivoでポリペプチドに転写(DNAの場合)および翻訳(mRNAの場合)される核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンによって決定され得る。コード配列は、ウイルス由来のcDNA、原核生物もしくは真核生物のmRNA、ウイルスもしくは原核生物DNA由来のゲノムDNA配列、ならびに合成DNA配列さえも含み得るが、それらだけに限らない。転写終結配列は、コード配列の3’側に配置され得る。
【0057】
典型的な「制御エレメント」は、転写プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列(3’側翻訳停止コドンに局在する)、翻訳開始の最適化配列(5’側コード配列に局在する)、および翻訳終結配列を含むが、それらだけに限らない。
【0058】
用語「核酸」は、DNAとRNA、および修飾骨格(例、ホスホロチオエート)などのそれらの類似物、ならびにペプチド核酸(PNA)なども含む。本発明は、上記のものに相補的な配列を包含する核酸(例、アンチセンスもしくはプローブ用)を含む。
【0059】
用語「トランスフェクション」は、細胞への外部DNAの取り込みを意味することに使われる。細胞は、外因性DNAが細胞膜の内部に導入される時に「トランスフェクトされる」。多くのトランスフェクション技術が当該技術分野で一般的に知られている。Grahamら(1973)Virology,52:456、Sambrookら(1989)Molecular Cloning,a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York、Davisら(1986)Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier、およびChuら.Gene13:197,1981を参照。かかる技術は、プラスミドベクターおよび他の核酸分子などの一つ以上の外因性DNA部分を適する宿主細胞に導入することに使用され得る。用語は遺伝学的物質の安定的および一時的な取り込みの両方を意味する。
【0060】
用語「形質導入」は、組み換えアデノ随伴ウイルスベクターなどのベクターを介してin vivoもしくはin vitroにおける受容細胞へのDNA分子の送達を意味する。
【0061】
遺伝子配列および制御配列などの核酸配列に関連する、用語「異種性」は、通常、一緒に結合せず、および/もしくは特定の細胞に一般的に関連しない配列を意味する。それゆえ、核酸構築物もしくはベクターの「異種性」領域は、本来、他の分子に関連して見出されない別の核酸分子内もしくは別の核酸分子に結合している核酸の断片である。例えば、核酸構築物の異種性領域は、本来のコード配列に関連して見出されない配列により隣接されるコード配列を含み得る。異種性コード配列の別の例は、コード配列自身が本来見つけられない構築物である(例、野生型の遺伝子と異なるコドンを有している合成配列)。同様に、一般的に細胞内に存在しない構築物で形質転換された細胞は、本発明の目的である異種性と考えられる。対立遺伝子変異もしくは自然発生変異現象は、本明細書で使用されるような異種性DNAを生じない。
【0062】
用語「制御エレメント」は、受容細胞内のコード配列の複製、転写、および翻訳を提供する、プロモーター領域、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製開始点、配列内リボソーム進入部位(「IRES」)、エンハンサー、およびその類似物を総じて意味する。選択されたコード配列が、適する宿主細胞内で複製、転写および翻訳可能ならば、これらの制御エレメントの全てが常に必要ではない。
【0063】
本明細書で使用される用語「プロモーター領域」は、一般的な意味においてDNA調節配列を含む核酸領域とするのであって、調節配列は、RNAポリメラーゼが結合し、下流(3’方向)コード配列の転写を開始できる遺伝子に由来する。
【0064】
「作動可能に連結された」は、そのように記述された要素が通常の機能を果たすために設定されたエレメントの配置を意味する。それゆえ、コード配列に作動可能に連結された制御エレメントはコード配列の発現をもたらし得る。制御エレメントは、コード配列の発現を指示する働きを有する限り、コード配列に隣接する必要はない。それゆえ、例えば、介在する未翻訳の転写配列がプロモーター配列とコード配列の間に配置されても、プロモーター配列はなおコード配列に「作動可能に連結された」と考えられる。
【0065】
ヌクレオチド配列に関して「単離」によるとは、その特定の分子が同一型の他の生物学的高分子の実質的な非存在化で存在することを意味する。それゆえ、「特定ポリペプチドをコードする単離核酸分子」は、目的ポリペプチドをコードしていない他の核酸分子を実質的に含んでいない核酸分子を意味するが、化合物の基本的な性質に有害的に影響しない付加塩基もしくは分子を含んでよい。
【0066】
「ベクター」は、核酸配列を標的細胞に移入することが可能である(例えば、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、微粒子キャリア、およびリポソーム)。典型的には、「ベクター構築物」、「発現ベクター」、および「遺伝子移入ベクター」は、目的の核酸の発現を指示し、核酸配列を標的細胞に移入可能である核酸構築物を意味する。それゆえ、この用語は、クローニングおよび発現の担体、ならびにウイルスベクターを含む。
【0067】
「患者」とは、チンパンジーおよび他の類人猿ならびにサル種などの非ヒトの類人猿、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマなどの家畜動物、イヌおよびネコなどの家畜哺乳類を含むヒトおよび他の霊長類、マウス、ラット、テンジクネズミなどの齧歯類を含む実験動物、ニワトリ、七面鳥および他の家禽鳥、カモ、ガチョウ、およびその類似生物などの飼い鳥、野鳥および狩猟鳥を含む鳥を包含する脊索動物亜門を意味するが、それらだけに限らない。本用語は、特定の年齢を意味しない。それゆえ、成体および新生児の各々を範囲とする。
【0068】
調節可能な転写因子および/もしくは導入遺伝子をコードするAAVベクターの「治療上有効な用量もしくは量」によるとは、AAVベクターが本明細書の記載通りに投与される時に陽性の治療応答、例えば、神経疾患の症状の改善もしくは進行の抑制をもたらす量が意図される。例えば、治療上有効な量のAAVベクターの投与は、パーキンソン病を治療する患者内で治療因子(例、AADC、GDNF)の発現を生じ、例えば、運動機能を改善するか、または静止時の震えの軽減などの症状を改善するかもしれない。必要とされるAAVベクターの適正な量は、種、年、および患者の総体的な状態、処置される状態の程度、および使用される個々の化合物、投与形態、およびその類似要素によって患者ごとに変化するであろう。
【0069】
(II、本発明の実施形態)
本発明の詳細を記述する前に、本発明では、特に例示された分子もしくは方法のパラメーターに限定されるものではなく、そのようなものとして当然に変更されてもよいことが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、個々の具体例を記述することのみを目的とするのであって、限定することを意図しないことも理解されるだろう。加えて、本発明の実施は、他に規定がない限り、ウイルス学、微生物学、分子生物学、組み換えDNA技および免疫学全ての通常の技術範囲内における慣用的方法を採用するだろう。このような技術は文献で十分に説明される。Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd edition,1989)、DNA Cloning:A Practical Approach,vol.I&II(D.Glover編)、Oligonucleotide Synthesis(N.Gait編,1984)、A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)、およびFundamental Virology,2nd Edition,vol.I&II(B.N.Fields and D.M.Knipe編)を参照。材料と方法の多くは本明細書に記述したものに類似するか、もしくは等価であり、本発明の実施に使用され得るが、好ましい材料と方法は本明細書に記述されている。
【0070】
本発明は、標的細胞において導入遺伝子の発現を調節するためのベクターの構築、方法およびキットを提供する。一の具体例では、細胞内で調節可能な導入遺伝子の形質導入に必要である配列が、複数の別々の組み換えAAVベクター分子上に提供される。実施例1および2においては、本発明の二重ベクターの具体例の構築物および使用を示す。別の具体例では、単一の組み換えAAVベクターが、標的細胞内で調節可能な導入遺伝子の形質導入に必要である全ての配列を運ぶ。実施例3においては、本発明のこのような単一ベクターの一つの具体例の構築物および使用を示す。
【0071】
一の具体例において、AADC遺伝子の調節可能な形態が標的細胞に送達される。実施例1および2は、AADC遺伝子の調節可能な形態の送達を示す。別の具体例では、GDNF遺伝子の調節可能な形態が標的細胞に送達される。実施例3は、GDNF遺伝子の調節可能な形態の送達を示す。
【0072】
本明細書で使用される用語、導入遺伝子は、ある具体例において、すでに標的細胞に存在する内在性遺伝子の付加的なコピー、もしくは配列変化を包含する、導入遺伝子の起源にかかわらず標的細胞に送達される遺伝子を意味する。導入遺伝子は、いくつかの生物から得られた遺伝子配列もしくは部分的な遺伝子配列であって、このような遺伝子の遺伝学的に改良された配列変化、あるいは合成(非自然発生)DNA配列であり得る。導入遺伝子は、タンパク質をコードするメッセンジャーRNAの産生を指示し得るか、またはアンチセンス、リボザイム、三重鎖形成性、RNAiもしくは他のRNA配列などの生物学的な活性RNA分子をコードし得る。
【0073】
本明細書で使用される調節可能な導入遺伝子は、遺伝子が標的細胞に形質導入された後に、誘導体の投与によって発現が変化可能な遺伝子である。治療上の導入遺伝子発現の調節は、導入遺伝子産物レベルの薬理学的制御を提供する。一つのこのような小分子薬物はラパマイシンである。
【0074】
一の具体例では、本発明の調節可能な遺伝子発現系は、ラパマイシンもしくはAP21967、非免疫抑制ラパマイシン類似物の存在下でのイムノフィリンFKBPおよび脂質キナーゼ相同体FRAPの特異的な二量体化を利用することで、特異的に誘導可能なプロモーターを活性化する活性な転写因子の複合体を産生する。Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32。AP21967の構造を下記に提供する。
【化1】
【0075】
AP21967(分子量1017.4Da)は、米国特許第6,649,595号(‘595特許)の化合物69で示される7−メチルインドリル類似物であり、その中の実施例5に記述されるように、7−メチルインドールをジメトキシベンゼンに置換させることによって調製され得る。AP21967は、インドール環上に7−メチル基を有することを除いて‘595特許の化合物71に一致する。
【0076】
他のラパマイシン類似物もまた、本発明の範囲から逸れることなく使用され得る。ラパマイシン類似物は、患者の内在性FRAPと相互作用せず、所望しないラパマイシンの免疫抑制性および細胞周期阻害性効果を潜在的に有さないであろう。Pollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26。FRAP変異型は、二量体化物系の活性化ドメイン融合タンパク質のFRB部分の使用によって、非免疫抑制性ラパマイシン類似物への結合能を維持するように作成され得る。例として、Pollockら(2000)を参照。
【0077】
(AADCの調節発現)
実験は、in vitroのHeLaD7−4細胞において、およびin vivoのパーキンソン病(PD)の齧歯類モデルにおいて、AAVベクター介在のラパマイシン依存性AADC導入遺伝子発現の調節を用いて行われる。ヒトAADC(hAADC)導入遺伝子の発現は、実施例1ならびに図1Aおよび1Bでさらに記載されるベクターを用いて二量体化物ラパマイシンによる機能的な転写因子(TF)の再構成に依存してなされる。転写因子AAVベクターは、転写因子のDNA結合ドメインおよび活性化ドメインを送達することに使用され、発現AAVベクターは調節可能なプロモーターの制御下においてhAADC導入遺伝子を送達することに使用される。
【0078】
(In vitroのAADC調節)
In vitroのヒト細胞における二量体化物依存性AADC発現を行う実験を実施例1に記述した。実施例1で使用される二量体化物、AP21967は、ラパマイシンより約3倍少ない活性を有する非免疫抑制性ラパマイシン類似物である。結果を図2に示し、一番右のデータは、二量体化物依存性転写因子(AAV−CMV−TF)をコードするベクターと共形質導入された細胞におけるラパマイシン用量依存性hAADC発現(AAV−Z12−hAADC)を示す。ELISAデータは、AADC発現がAP21967の非存在下より25nM AP21967の存在下では9倍高いことを示す。25nMは、AP21967の最大限に有効な濃度であり、in vitroにおいて導入遺伝子発現に安定的なレベルを与える。25nMのAP21967における調節可能なプロモーターからのhAADC発現は、構成性CMVプロモーターの制御下(AAV−CMV−hAADC2)におけるhAADC発現の約半分のレベルである(図1C、およびSanftnerら(2004)Mol.Ther.9:403−9)。
【0079】
両方のベクター(AAV−Z12−hAADCおよびAAV−CMV−TF)を有する細胞は、AP21967の非存在下で低レベルのAADC産生のみを示す、すなわち、系は「漏洩しやすい」ものでない。漏洩の非存在は、導入遺伝子が必要に応じて総体的に遮断可能であることを裏付け、広範囲な薬理学上の調節を提供するために遺伝子治療にとって重大であり得る。
【0080】
(In vivoにおけるAADC調節)
In vitroにおける二量体化物調節hAADCのAAV介在形質導入を行うことに使用された同一ベクター(図1Aおよび1B)が、実施例2で記述されるように、線条体脱神経の外科的モデルである、パーキンソン病の6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)ラットモデルのin vivoにおいて調べられた。処置日程を図3において図式的に表わす。図4で示されるように、パーキンソン病ラットにAAV−CMV−TFおよびAAV−Z12−hAADCの両方を形質導入し、次に一連のラパマイシン処理後にそれらの回転行動を測定する。
【0081】
ラパマイシンの適正な濃度が以前に調べられているという単純な理由から、in vivo実験においては、in vitroで使用したAP21967よりむしろラパマイシンを使用する。二量体化物のラパマイシンは、ヒト遺伝子治療における誘導体としての使用に多くの有利な特性を有するが、その特有な免疫抑制性がその利用性を限定し得る。AP21967のようなラパマイシンの非免疫抑制性類似物は、特にヒト患者の処置において、導入遺伝子発現の優れた誘導体であり得る。In vivoである動物およびヒトの患者におけるAP21967の適正な用量は、臨床試験を含む一般的な実験方法によって決められてよい。
【0082】
L−dopaおよびラパマイシン投与の組み合わせによる調節hAADCベクターの形質導入は、ドーパミンの有意なレベルの産生に一致する6−OHDA損傷ラットにおける行動効果を生じる。図4で表されるように、ラパマイシン処理は、損傷線条体でhAADC発現を可逆的に増加させ、それは、ベクター注入(+)rap群においてラパマイシン使用停止によって可逆的である5mg/kgに対する変化した回転応答によって示される。ベクター注入(+)ラパマイシン群のL−dopaに対する回転応答は、3、5および7週において、ラパマイシン処置直後にはベクター注入(−)ラパマイシン群および賦形剤注入コントロール群の両方を上回って有意に増加する(P<0.001)が、4および6週ではコントロールレベル近くに戻る。
【0083】
定量的リアルタイムPCRにおいては、2つの群で観察された異なる結果の説明としての異なる形質導入効率の可能性を排除するため、ベクター注入(+)ラパマイシン群およびベクター注入(−)ラパマイシン群のラットが同等コピー数のhAADC遺伝子で形質導入されたことを確認する。
【0084】
研究の終了時点で実施された免疫組織化学およびタンパク質発現アッセイ(表1ならびに図5、6および7)は、以下において詳細を考察するような行動結果を裏付ける。
【0085】
図5Aは、ベクター注入(+)ラパマイシン群由来のラット線条体の中間にある棘状神経におけるAADCの強度の免疫組織化学染色、それゆえ有効な導入遺伝子発現を示す一方、図5Bは、ベクター注入(−)ラパマイシン群由来ラットにおける非常に低レベルのAADC発現のみを示す。
【0086】
図6A−6Cは、AADCの免疫組織化学で染色されたホールマウント脳切片の低倍率図を表す。結果は、ベクター注入(−)ラパマイシン群由来ラットの左側(処理済み)半球(図6A)と比較してベクター注入(+)ラパマイシン群由来ラットの左側(処理済み)半球(図6B)では、AADCが有意に高いレベルの発現であるという視覚的な確認を与える。ベクター注入(−)ラパマイシン群由来ラットの結果は、コントロール賦形剤注入ラットの結果に類似する(図6C)。
【0087】
免疫組織化学の立体的解析は、陽性細胞のカウントで測定される発現レベルが、ベクターがラパマイシンとの組み合わせで投与される時に有意に増加することを確認する。表1は、ラパマイシン誘導およびラパマイシン未誘導ラットにおける定量的立体解析による導入遺伝子由来の免疫染色および推定された陽性細胞数の結果を表す。ラパマイシン誘導ラットは、未誘導ラットと比較すると、約2倍のAADC免疫染色の前後方向の拡散、AADC免疫染色の拡散体積、およびAADCの陽性細胞数を示す。
【0088】
総体的なタンパク質解析は、タンパク質レベルでさらにより大きな相違を示す。図7で示すように、線条体タンパク質サンプル電気泳動後のhAADC酵素レベルのウエスタンブロット解析は、(−)ラパマイシン群と比較して(+)ラパマイシン群においては有意により高いhAADC発現を示す。内在性AADC発現が図7のプロットされたデータから差し引かれると、hAADCレベルは(+)ラパマイシン群と比較して(−)ラパマイシン群では88%低い。
【0089】
未誘導ラットで観察される低レベル発現はin vivoの調節系における「漏洩」を示唆するが、実施例2で記述される実験結果は、hAADC遺伝子発現が二量体化物ラパマイシンによって誘導されることを示す。系の漏洩理由は明白ではなく、結合転写因子の非存在下で最小IL−2プロモーター由来の未調節発現によって引き起こされるかもしれないが、理論によって限定することを意図しない。しかしながら、誘導なしで観察される低レベルのhAADCは、治療用量以下のL−dopaに応答する行動を引き出すのに十分ではなく、誘導薬剤の非存在下で誘導可能なプロモーターによって生成される少量の遺伝子発現が、この特定用途に許容可能であるかもしれないことを示唆する。
【0090】
In vivoにおいて所望するレベルの導入遺伝子誘導を生じるためのラパマイシン(もしくは類似物)の適正な投薬量は、治療プロトコールにおいて一般的であるように、ケースバイケースで実験によって調べられてよい。投薬量を表現型の測定もしくは代理マーカーに基づいた試行錯誤によって調節してよい。また、投薬量を患者の標的組織もしくは血中におけるラパマイシンの所定標的濃度を達成するようにも調節し得る。静脈注射によって導入される場合、典型的な投薬量は0.01から50mg/kg、好ましくは0.1から10mg/kgの範囲であり、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.8、0.9、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10mg/kgである。ヒトの患者を処置する場合において、投薬量は臨床試験の結果を参照に決定されるか、あるいは動物データから推測され得る。
【0091】
組み換えAAVベクターは、送達される導入遺伝子、その作用メカニズム、および所望する標的細胞に応じて、脳の様々な局所に外科的に導入され得る。例えば、基底ガングリアは皮質下に位置する神経群である。それらは、尾状核、被殻、および淡蒼球を含む。尾状核および被殻は、一緒になって大脳基底核の線条体(もしくは単に線条体)を形成する。尾状および被殻は各々、黒質緻密部(SNpc)および黒質網様部から成る黒質と相互に連結される。SNpcはドーパミン生合成の通常部位であり、SNpcの変性はPDの特徴である。大脳基底核線条体の被殻もしくは尾状核の神経にAADCのようなドーパミン生合成経路の酵素をコードする遺伝子を形質導入することによって、ドーパミン合成が回復され、それによって機能的に減少したSNpcネットワークを克服可能である。
【0092】
大脳基底核の線条体細胞は、当該技術分野で知られる多様な技術を用いて形質導入され得る。例えば、定位注射は、様々な化合物をCNSに投与するために神経外科医によって使用される一般的な外科技術である。直接注射もまた使用され得る。この技術を使用する場合、CT、PET、もしくはMRIスキャンからの解剖学的なマップが、注射部位を選択する際に補助するために外科医によって用いられ得る。対流促進送達(出典明示により本明細書に取り入れた米国特許第6,309,634号で詳細に記述される)を含む他の技術が、rAAVビリオンをCNSに送達する本発明の方法に採用され得る。
【0093】
実施例1および2で記述される実験は、別々のベクターが転写因子融合タンパク質および導入遺伝子を送達することに使用される、本発明の二重ベクターの具体例に関する。他の具体例では、異なる遺伝子が発現ベクター内のhAADCに代わって使用される。最大約5000−5200ヌクレオチド(nt)がAAVビリオンにパッケージされ得、最適であるのは約4500ntである。Dongら(1996)Hum.Gene Ther.7:2101−12。図1Bで表される一つのようなrAAV発現ベクターの他の必要な配列エレメント(例、ITR領域、プロモーター、転写因子結合配列、等)が与えられると、発現ベクター内の導入遺伝子配列は約2500ヌクレオチド(nt)もないかもしれない。この大きさの制限内において、所望する導入遺伝子が本発明の二重ベクターの具体例で示されるrAAV発現ベクター構築物を用いて送達され得る。より短小化されたITR、プロモーターもしくは転写因子結合領域を有する最適化された発現ベクターの改良型は、より長い導入遺伝子配列の送達を可能にするように構築され得る。
【0094】
実施例1および2の結果は、二量体化物依存性hAADC導入遺伝子の発現が、本発明の二重ベクターrAAV介在の具体例を用いてヒトの培養細胞、およびin vivoのラット神経において調節され得ることを示す。
【0095】
(単一ベクター系におけるGDNF調節)
実施例3で記述されるように、実験を本発明の単一ベクターの具体例を用いて行い、単一のrAAVベクターを、GDNF導入遺伝子発現の二量体化物依存性調節に必要である全てのタンパク質を発現するように設計した。調節されたrAAVのhGDNF発現ベクターの図式を、図8Aで提供し、構成性(非調節)hGDNF発現を有するコントロールベクターの図式を図8Cで提供する。(図8Bは、実施例3で使用されない調節GDNF発現ベクターの代替的なデザインを示す。)プラスミドベクターをin vitroでHEK−293細胞に一時的にトランスフェクトさせる。次に細胞を0、5もしくは25nMのラパマイシンを含む培地で処理する。
【0096】
トランスフェクション3日後に行なったGDNFのELISAの結果を図9で表す。データは、構成的に発現したGDNF(pAAV−CMV−hGDNFを意味する「CMV−GDNFプラスミド」)からの発現の最大で約4分の1レベルの観察された発現を有する、調節された構築物(pAAV−TF−Z8−hGDNFを意味する「TF−GDNFプラスミド」)でトランスフェクトされた細胞におけるGDNFのラパマイシン投与量応答性発現を表す。pCMV−GDNFからのGDNF発現はラパマイシンの添加によっても増加しない。
【0097】
実施例3に記載される実験は、ヒトの培養細胞において、GDNF発現が単純に小分子誘導体ラパマイシンの添加によって調節され得るような、単一ベクター調節可能なAAV−GDNF構築物が構築され得ることを表す。結果は、GDNF発現が調節可能なAAV−GDNFベクターによってin vivoの患者でも調節され得ることを示唆する。実施例3の単一ベクターは、前記で考察した二重ベクターの具体例における転写因子ベクターおよび発現ベクターの両方の役割を果たす。2つのベクターを標的細胞に共トランスフェクションする必要がある二ベクター法と比較して、単一ベクターによる処置は、調節可能なGDNFを導入するために1回の形質導入イベントのみを必要とする点で有利である。この単一ベクターの具体例の利点は、非常に少ない割合の標的細胞が両ベクターによって同時に形質導入されると予想される遺伝子治療方法などの低形質導入効率を供するプロトコールに対して特に有意である。例えば、非依存性形質導入効率を推定すると、全体の形質導入効率が各ベクターについて5%である場合、細胞の僅か0.25%のみが両方のベクターで形質導入されるだろう。
【0098】
AAVビリオンにパッケージされるベクターが約5000−5200ヌクレオチド(nt)より長いことはあり得ないことから、単一ベクターの調節可能な構築物は、比較的短い導入遺伝子の送達のみに有用である。例えば、図8Aで表されるrAAVベクターで使用される転写因子融合タンパク質および調節エレメントの特定の選択物(実施例3で使用されるように)と一緒で、導入遺伝子(GDNF)配列は約600nt長である。配列エレメントのより効率的な置換とともに、不必要なヌクレオチドが融合タンパク質および調節可能なエレメントから除去された、最適化単一ベクター調節可能なAAV−構築物を用いて、より長い導入遺伝子配列、例えば、850まで、もしくは1000ntでさえが送達可能である。AAV−パッケージの大きさ制限内において、所望する導入遺伝子が本発明の単一ベクター構築物を用いて送達され得る。導入遺伝子は、単一ベクターの送達を促進するために、全長の遺伝子よりもむしろ所望する遺伝子の活性部分断片を含み得る。
【0099】
特定の治療効果を達成するために必要とされるrAAVビリオンの用量、例えば、体重キログラムあたりベクターゲノムの単位用量(vg/kg)は、rAAVビリオン投与経路、治療効果を得るために必要とされる導入遺伝子発現レベル、ならびに異種性遺伝子産物の安定性を包含するいくつかの因子に依存してよいが、それらだけに限らない。当該技術分野における技術の一つは、前記の因子、ならびに当該技術分野でよく知られる他の因子に基づいた特定の病気もしくは疾患にかかっている患者を処置するrAAVビリオンの用量範囲を決定しうる。本発明のいくつかの具体例では、哺乳類で形質導入を生じさせることに使用されるrAAVの適正用量は、1X108vg/kgから1X1015vg/kgまで、好ましくは4X109vg/kgから4X1012vg/kgまでの範囲であり得るが、実験で調べられることによってより高いもしくは低い用量であってもよい。AADCおよびGDNFを本明細書の実施例で典型的な導入遺伝子として示すが、送達される特定の導入遺伝子を本発明の態様に限定しない。他の遺伝子もしくは遺伝子の一部は、利益的な(例、治療上の)効果を提供することが期待され、その配列がAAVビリオンにパッケージされ得るAAVベクター構築物内に合うほどに短い場合、本発明のベクター、方法およびキットを用いて脳に導入され得る。
【0100】
上記で議論したように、AADC(OMIM107930、EC4.1.1.28、ジェンバンク受託番号M76180)は、ドーパミン生合成に関する導入遺伝子である。ドーパミン生合成に関連する他の可能性のある導入遺伝子は、チロシン水酸化酵素(TH)(OMIM191290、EC1.14.16.2、ジェンバンク受託番号X05290)およびグアノシン三リン酸シクロヒドロラーゼI(GCH)(OMIM600225、EC3.5.4.16、ジェンバンク受託番号NM_000161)である。さらに他の可能性のある導入遺伝子は、GDNF(OMIM600837、ジェンバンク受託番号AX713049、L19063)ならびにアルテミン(artemin)(OMIM603886、ジェンバンク受託番号AF109401)、ニューチュリン(neurturin)(OMIM602018、ジェンバンク受託番号HSU78110)、およびパーセフィン(persephin)(OMIM602921、ジェンバンク受託番号AF040962)などのGDNFタンパク質ファミリーの他のメンバーを包含するニューロトロフィンを含む。Saarmaら(1999)Microscopy Res.Tech.45:292−302。さらに他の導入遺伝子はIL−10(OMIM124092、ジェンバンク受託番号M57627)を含む。
【0101】
OMIM番号は、ジョンホプキンス大学によって管理されているOnline Mendelian Inheritance in Manのデータベースを意味し、国立医学図書館のウェブサイトwww.ncbi.nlm.nih.gov/entrez.を通してインターネット上で利用可能である。本明細書に記載される全てのOMIM項目の内容、および受託番号で記載される配列は、出典明示により本明細書に一体化させる。
【0102】
ジェンバンク受託番号は代表的な完全なcDNA配列のみを提供し、本発明の範囲を制限することを意図しない。特に、可能性のある導入遺伝子は、ジェンバンクで報告された他の遺伝子、自然遺伝子の全長および部分断片、他種由来の相同性遺伝子、これらの配列の対立遺伝子多型、ならびに自然発生もしくは人工創出変異型の遺伝子を含む。
【0103】
導入遺伝子はまた、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、カナバン病、脳虚血、進行性核上麻痺、レビー小体型認知症、シャイ・ドレガー症候群、AIDS認知症候群、本態性振戦、筋失調症、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症および網膜変性(例、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、緑内障)などの他の神経変性疾患を処置するための遺伝子も含む。
【0104】
誘導体は、好ましくは有意な毒性もしくは副作用を有さずにヒト患者に送達され得る化合物から選択される。神経系もしくは他のCNS疾患を治療するための好ましい具体例において、誘導体は血液脳関門を通過することが可能である。より好ましい具体例において、誘導体は二量体化物、例えば、ラパマイシンもしくはその非免疫抑制性類似物である。
【0105】
いくつかの具体例において、誘導体は局所的、例えば、皮下、筋肉内、眼球内もしくは静脈内注射によって送達される。好ましい具体例において、誘導体は、経口的に、局所に鼻腔送達による(スプレー式点鼻薬)、エアロゾル/肺送達による(吸入器)、眼の送達による(点眼)もしくはその他の利便的な送達様式によって、比較的便利に送達され得る一つである。誘導体はまた、経皮貼布、皮下移植、埋め込み型浸透圧ミニポンプ、機械的輸液ポンプもしくは制御放出医薬組成物を用いて継続的もしくは半継続的に送達されてもよい。
【0106】
本発明によるrAAVベクターのストックは、AAVビリオン生成のための当該技術分野で知られるいくつかの方法を用いて調製されてよい。野生型AAVおよびヘルパーウイルスが、rAAVビリオン生成用に必要な複製機能を提供するために使用され得るか、あるいは、プラスミドが、ヘルパー機能遺伝子(例、pHLP19)、補助的な機能遺伝子(例、pladeno5)のどちらか、または三重形質導入法の場合ではそれら両方を供給するために使用され得る。出典明示により本明細書に一体化させた、米国特許第5,139,941号、第5,622,856号、第6,001,650号および第6,004,797号を参照。
【0107】
In vivo送達用では、rAAVビリオンは、適切な用量の一種以上のrAAVビリオンおよび医薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物に製剤化される。このような賦形剤は、個々の受容組成物に有害である抗体の産生を自身で誘導せず、過度の毒性を伴うことなく投与され得る薬学的な剤を含む。医薬上許容される賦形剤は、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールなどの液体を包含するが、それらだけに限らない。
【0108】
医薬上許容される塩は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩およびその類似塩などの鉱酸塩、ならびに酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩、およびその類似塩などの有機酸塩を含み得る。加えて、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝薬剤、およびその類似薬剤などの補助薬物がこのようなビヒクル内に存在する。医薬上許容される賦形剤に関する詳細な考察は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE(Mack Pub.Co.,N.J.1991)で利用可能である。
【0109】
いくつかの具体例において、本発明のrAAVビリオンは、長期ストックおよび繰り返される凍結融解サイクルへの曝露に対するウイルスの安定性を高め、輸液用器具へのベクターの付着を軽減させる賦形剤を包含する医薬組成物として供給される。好ましい具体例において、賦形剤は、標的組織、例えば、CNSでは低い毒性を示す。例えば、ビリオンは、0.01%から0.0001%、好ましくは0.001%のプルロニックF−68(ニュージャージー州、マウントオリーブのBASF社)を含む緩衝液でストックされ、供給され得る。付加的な化合物および賦形剤が、出典明示により本明細書に一体化させた米国特許第6,759,050号および第6,764,845号に記述される。
【0110】
別の態様において、本発明は、導入遺伝子の調節発現用キットに関する。いくつかの具体例では、図1Aおよび1B、または図8Aもしくは8Bで示されるベクターに実質的に同一である一種以上のベクターがこのようなキットに含まれる。
【0111】
他の具体例において、図1B、8Aもしくは8Bで表されたベクターに類似するベクターは、AADCおよびGDNFのコード配列がポリリンカーなどの利便的なクローニング配列によって置換されることを除くこのようなキットに含まれる。図1Bで示されるベクターに類似する発現ベクターが、二重ベクター法で有用である一方、図8Aおよび8Bで示されるベクターに類似するベクターは、本発明の単一ベクター法において有用である。本発明のキットの使用者は、目的の遺伝子もしくは遺伝子断片を発現ベクターにクローン化し、続いて形質導入用にrAAVビリオンを調製し得る。
【0112】
二重ベクター法で使用する発現ベクターを包含しているキットはまた、図1Aで示されるベクターに実質的に類似する転写因子ベクターも含んでもよい。
【0113】
キットはまた、ラパマイシンもしくはその類似物を選択的に含んでもよい。
【0114】
キットはまた、米国特許第6,001,650号および第6,004,797号でさらに十分記載されるように、プラスミドpHLP19およびpladeno5などのrAAVビリオンストックの調製に使用するプラスミドを選択的に含んでもよい。
【0115】
キットは使用説明書を含んでもよい。
【0116】
いくつかの具体例において、本発明の遺伝子治療ベクター、方法およびキットは、治療効果を提供するために、パーキンソン病のような病気にかかっている患者に投与される。一般的に言うと、「治療効果」は、患者の病気もしくは疾患が症状の改善を示すような、所望する結果もしくは臨床治療の終結に向けた病気(もしくは疾患)の要素を変化させるのに十分な一つ以上の導入遺伝子の発現レベルであって、しばしば病気もしくは疾患に関する臨床的徴候もしくは症状の改善によって反映されることを意味する。パーキンソン病の場合では、治療効果は、例えば、手先の器用さの改善によって現れた運動機能、(例、繊細な運動作業)の改善であり得る。代替的には、静止時の震えの減少もPD改善の徴候であり得る。特定のPD処置に対する治療の有効性(すなわち、治療効果)を調べるために、いくつかの他の当該技術分野公知の観察および測定可能な評価項目がある。
【0117】
PDの臨床的徴候および症状を示しているヒトの患者において、医師は、病気の程度を評価し、また特定の処置様式の治療の有効性を測定するために、よく知られるパーキンソン病統一スケール(UPDRS)にしばしば依存する。UPDRS系に類似して、科学者は、微細運動テスト、静止時の震え、運動緩慢、運動低下、および筋固縮などの他の特徴について測定する、霊長類パーキンソン病統一スケール(PPRS、治療評価スコア−CRSとしても知られる)を用いてPDの霊長類モデルにおいてPDの特徴を評価する。PPRS系は、Langstonら(2000)Ann.Neurol.47:S79−89に記述されている。
【0118】
(III、実験)
以下は、本発明を実施するための特定な具体例である。実施例においては、事例的な目的のみを提案し、決して本発明の範囲を限定することを意図していない。使用される数量(例えば、量、温度など)に関して正確性を裏付ける試みを行ったが、いくぶんかの実験誤差および狂いは許されるべきであろう。
【実施例】
【0119】
実施例1
(In vitroにおけるAADCの調節発現)
In vitroにおけるAADC導入遺伝子の調節を以下の通りに行う。
【0120】
(AAVベクター)
hAADCの二量体化物依存性発現を実践するために2つのベクターを構築する:AAV−CMV−TFおよびAAV−Z12−hAADC。図1Aは、AAV−CMV−TFの図式であり、その中のサイトメガロウイルス(CMV)のエンハンサー/プロモーターは、活性化ドメインおよびDNA結合ドメイン融合タンパク質の2シストロン性メッセージの発現を促進する。活性化ドメイン融合タンパク質は、NFκBのp65サブユニット(p65)由来の転写活性化ドメインに連結されたヒトFRAPのラパマイシン結合ドメイン(FRB*)を含む。本具体例で使用された特定のFRBドメイン(FRBT2098L)は、図1Aで表され(FRB*)、野生型FRB配列と比較すると、2098番目でTからLへの変異が入っている。Pollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26。FRBT2098Lは、AP21967もしくはラパマイシンのどちらかを用いてDNA結合ドメイン融合で二量体化され得る。
【0121】
配列内リボソーム進入部位(IRES)は脳心筋炎ウイルスに由来する。DNA結合ドメイン融合タンパク質は、ヒト転写因子Zif268、Oct−1由来のホメオドメインの2つのDNA結合ドメイン(ZFHD1)、および細胞質受容体FK506由来の3つの薬物結合ドメイン(3xFKBP)を含む。図1Bは、AAV−Z12−hAADCの図式であり、ヒトAADC(hAADC)の発現は最小IL−2プロモーターに連結された転写因子の12個の結合部位によって制御される。AAV2の末端逆位配列(ITR)、hAADCコード配列(hAADC)およびヒト成長ホルモンのポリアデニル化領域(pA)を示す。
【0122】
(In vitro発現解析)
hAADCの遺伝子発現を調節する能力を、1:1の割合のAAV−CMV−TFとAAV−Z12−hAADCをHeLaD7−4細胞に共形質導入し、続いて0、5もしくは25nMのラパマイシン類似物AP21967(マサチューセッツ州、ケンブリッジのARIAD Pharmaceuticals,Inc.)で細胞を処理することによってin vitroにおいて測定する。結果を図2で表し、それらは、非形質導入細胞、転写因子ベクター単独を形質導入された細胞(AAV−CMV−TF)、構成性発現hAADCベクターを形質導入された細胞(AAV−CMV−hAADC2)、ならびに転写因子ベクターを除いた調節hAADCベクター(AAV−Z12−hAADC)を形質導入された細胞を包含する様々なコントロール実験を含む。
【0123】
実施例1で使用された実験方法に関する実験の詳細は以下の通りである。
【0124】
(ベクターの構築)
AAV−CMV−TFは以前に記述されている(AAV−CMV−TF1Nc、Auricchioら(2002)Mol.Ther.6:238−42)。pAAV−hAADCのCMVエンハンサーおよびプロモーター(Sanfinerら(2004)Mol.Ther.9:403−9)を、最小IL−2プロモーターの上流にあるZFHD1のDNA結合ドメインの12個の結合部位を含む、Z12−IL2−SEAPの領域(Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32)に置換することによって、AAV−Z12−hAADCを作成する。
【0125】
(組み換えベクターの産生)
組み換えAAVベクター(血清型2)をHEK−293(ATCC受託番号CRL1573)細胞における三重トランスフェクションによって作成し、塩化セシウム密度勾配遠心によって精製する。Grimmら(2003)Blood102:2412−9。簡単に説明すると、rAAVを含む細胞の回収を微量流動化させ、0.2−μmのフィルターを通して濾過して行う。ベクターを塩化セシウム密度勾配遠心によって抽出された細胞溶解物から精製し、送達カテーテル内の本ベクター喪失分が添加された0.001%プルロニックF−68(ニュージャージー州、マウントオリーブのBASF社)を含む、pH7.4の5%ソルビトールを包含するリン酸緩衝食塩水(PBS−ソルビトール)で限外濾過およびダイアフィルトレーション(diafiltration)によって濃縮する。ベクターの純度をSDS−PAGEで測定する。本研究で使用された精製rAAVベクターは、SDS−PAGEゲルの銀染色によるVP1、VP2、およびVP3のみを示す。力価をベクターゲノムのQ−PCR解析で調べる。
【0126】
(発現ELISAによるin vitroのAADC解析)
発現ELISAにおいては、hAADCに対する抗体を用いて透過性HeLaD7−4細胞中のhAADCタンパク質の発現を測定する。HeLaD7−4細胞をrAAVベクターで形質導入させ、3つの異なる濃度(0、5、25nM)のAP21967で処理する。各群n=3。形質導入の24時間前に細胞を96ウェルプレートに蒔く。細胞に完全培地100μl中で(多重ベクターを使用する時は各ベクターの)104vg/細胞のMOIで形質導入させる。
【0127】
ELISAを形質導入48時間後の細胞で行う。簡単に説明すると、培地を吸引し、細胞をPBSで洗浄する。細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、室温で20分培養する。細胞をPBSで洗浄し、振盪させながら、ブロッキング緩衝液(PBS中の3%ヤギ血清、0.5% TritonX−100)でブロックし、次に振盪しながら室温で60分間培養する。一次抗体(AB136ラビット抗hAADC、Chemicon社、1:1000)を洗浄緩衝液(PBS中の1%ヤギ血清、0.5% TritonX−100)で希釈し、室温で60分間シェーカーによって反応させる。プレートを洗浄緩衝液で洗浄し、二次抗体(ヤギ抗ラビットIgG−AP(カリフォルニア州、バーリンゲームのVector Labs)、洗浄緩衝液中に1:1000)と室温で30分間シェーカーにおいて反応させる。プレートを洗浄緩衝液で洗浄する。基質溶液〔基質緩衝液(100mM NaHCO3、pH10.0)(カリフォルニア州、バーリンゲームのVector Labs)中の1Xp−ニトロフェニルリン酸、1Xレバミゾール(消光剤)〕を添加し、プレートを30−60分間室温で反応させ、次にプレートリーダーでOD405を読み取る。このhAADCの発現ELISAからのデータを、AAV−CMV−hAADC2基準ロットの形質導入の投与反応曲線と比較して、ベクターを形質導入された細胞で測定された相対光学密度として報告する。
【0128】
実施例2
(In vivoにおけるAADCの調節発現)
In vitroにおいて二量体化物調節hAADCのAAV介在形質導入に使用された同一ベクターを、パーキンソン病の6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)ラットモデルにおいて、以下のようにin vivoでもテストする。より高い可能性と公知の薬学動態から、実施例2では、AP21667の代わりにラパマイシンを二量体化物として使用する。ラパマイシンは、in vivoで急速なクリアランスを伴う約10時間の半減期を有する。Gallant−Haidnerら(2000)Ther.Drug Monit.22:31−5。
【0129】
本実施例で使用される全てのラットを、一側的に左側を6−OHDAによって損傷させる。3つの実験群、すなわち、賦形剤注入コントロール群(賦形剤注入(+)ラパマイシン処理)、ベクター注入(−)ラパマイシン処理コントロール群、およびベクター注入(+)ラパマイシン処理群がある。ベクター注入(−)ラパマイシン群はラパマイシン非存在下のhAADC遺伝子発現のコントロール、すなわち、系が漏洩するかを調べるためのコントロールを供給する。
【0130】
AAV−CMV−TFおよびAAV−Z12−hAADCの1:1混合物(各3x1010ウイルスゲノム(vg))を片側6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)損傷ラットの同側に注入した。賦形剤のみを賦形剤注入コントロール群に注入する。以下で考察するように、導入遺伝子の発現は設定時点におけるラパマイシンの腹腔内注射を介してもたらされる。
【0131】
図3は、本実施例で記述される実験の時系列を示す。rAAV処理前において、L−dopa(5mg/kg)投与による基準回転テストを全ての群で行う。ベクターもしくは賦形剤を0日目で線条体内に注入する。17日目のラットをラパマイシンで誘導するか、あるいは希釈剤で処理する。誘導は、4日連続の10mg/kg/日のラパマイシン腹腔内注射から成る。(ラパマイシンを4日連続投与して脳中での最大循環レベルを確保する。)図4の矢印は、4日間のラパマイシン誘導の初回を示す。21日目のラットにおける5mg/kgのL−dopaに対する回転応答を再度テストする。ラットは一週間にわたってラパマイシンから回復させ、続いて28日目に応答テストを行う。31日目のラットに2回目の誘導を行い、35日目に回転応答をテストする。一週間にわたってラパマイシンから回復させた後、回転テストを42日目で繰り返した。45日目のラットに3回目の誘導を行い、続けて最後の誘導後の49日目に最後の回転テストを行う。この時の誘導(+ラパマイシン)状態でラットを安楽死させ、免疫組織化学が行われる。
【0132】
(L−dopaに対する行動回転応答)
ドーパミンのアゴニストに対する古典的な回転応答を用いた行動解析を行う。今回の場合には、アゴニストは、PDの片側性6−OHDAラットモデルにおいて外因性L−dopaから合成されるドーパミンである。Ungerstedt(1971)Acta Physiol.Scand.Suppl.367:69−93。図4で示されるように、形質導入3週後のベクター注入(+)ラパマイシン群ラットは、ベクター注入(−)ラパマイシン群のラットより有意に高いL−dopa(5mg/kg)に対する強い対側回転応答を示す(60分間で16.33±21.92の右旋回に対して215.13±73.86である。P<0.001)。統計的な差異を複数群用の一元分散分析を用いて比較する。
【0133】
ベクター注入(+)ラパマイシン群では、3、5、および7週におけるL−dopaに対する対側回転応答が、前注入のスコアもしくは時間を合わせた対照(ベクター注入(−)ラパマイシン群および賦形剤注入(+)ラパマイシン群)と比較して有意に上昇する(P<0.001)。対照的に、ベクター注入(+)ラパマイシン群は、前注入時点とその後のラパマイシン効果の引き下がった時点(4および6週)において2つのコントロール群(P>0.05)と有意な相違がない。
【0134】
ベクター注入(−)ラパマイシン群および賦形剤注入コントロール群は、いずれの時点でも有意な相違がない(P>0.05)。理論により拘束されるつもりはないが、両方のコントロール群における7週経過以降の緩やかな上昇は、反復されたL−dopa処理に対する感受性のためであるかもしれない。
【0135】
「オフ」ラパマイシン時点である4および6週におけるベクター注入(+)ラパマイシン群の回転応答は、同時点におけるベクター注入(−)ラパマイシン群もしくは賦形剤注入(+)ラパマイシン群と有意な相違がなく、誘導応答の可逆可能性を示す。hAADC発現の誘導、その後の未処理の週における減少した発現が3回以上の連続的なラパマイシン処理サイクルで観察されたという結果は、in vivoにおいてラパマイシン誘導遺伝子発現の誘導が生じるという結論を強める。
【0136】
(注入線条体におけるhAADC導入遺伝子コピーの定量)
定量的リアルタイムPCRを全てのラットで行うことで、両方のベクター注入群に等量コピー数のhAADC遺伝子が形質導入されていることを確認する。ベクター注入(+)ラパマイシン群におけるhAADC遺伝子のコピー数(222±92ゲノムコピー/20ngDNA)(±SD)は、ベクター注入(−)ラパマイシン群(229±48ゲノムコピー/20ngDNA)と相違がない。
【0137】
(免疫組織化学および発現の定量化)
hAADC発現のレベルを注入7週後の免疫組織化学的な解析によって評価する。ベクター注入(+)ラパマイシン群の代表的なラット線条体注入部位内の高率拡大図を図5Aに示し、ベクター注入(−)ラパマイシン群からのものを図5Bに示す。図5Aで表されるように、hAADC導入遺伝子発現は、ラット線条体の中間の棘状神経に局在する。対照的に、誘導されないベクター(ベクター注入(−)ラパマイシン群)を注入されたラットは、非常に低レベルのhAADC導入遺伝子発現を示す(図5B)。
【0138】
図6は、線条体注入7週後の各群からの代表的なラット由来のホールマウント脳切片におけるAADC免疫組織化学の低倍率図を示す。ラパマイシン誘導有り(A)もしくはラパマイシン誘導無し(B)のAAV−CMV−TF+AAV−Z12−hAADC(各ベクター3x1010vg)ラットをラパマイシン誘導した賦形剤コントロール(C)と比較して示す。左側半球は6−OHDA損傷および線条体内ベクター(もしくは賦形剤)注入部位である。右側半球は未損傷および非注入であり、右側半球の染色は未処理のAADC陽性線維由来の内在性染色を反映する。
【0139】
6−OHDA損傷は、内在性AADCの欠失を引き起こし、図6Cの賦形剤注入コントロール群でよく表されるように、左側半球における酵素の低い組織化学染色を生じる。ベクター注入(+)ラパマイシン群のラット全てが、注入された左側においてhAADC導入遺伝子染色を示す(例、図6Aを参照)。ベクター注入(−)ラパマイシン群のラットは、低レベルのhAADC導入遺伝子発現を有する(例、図6Bを参照)。このhAADC発現は、ベクター注入(−)rapラットの6匹中5匹で観察される。ベクター注入(+)ラパマイシン群と比較するとベクター注入(−)ラパマイシン群では、陽性細胞がほとんどなく、細胞当たりの染色が低強度であって、ラパマイシン非存在化における誘導可能なプロモーターからの低レベルのhAADC発現のみを示す。
【0140】
線条体内注入後すぐにラパマイシンを投与し、7週で安楽死させたラットから得られた連続脳切片において定量的な立体解析学をも行う。AADC免疫染色を固定させた脳組織の連続切片において立体解析学によって評価し、定量化する。統計的に最適化された空間的な試料採取手順と光学的な解像を組み合わせた、効率的に無作為に計数する方法である、光学的な分画装置の立体解析学プロトコールを用いる。Gundersenら(1988)Apmis96:857−81およびGundersen(1986)J.Microsc.143(Pt1):3−45。結果を表1で表す。表1は、ベクター注入(+)ラパマイシン群が、最も広い染色の前後方向への拡張(3,720±1,276μm)(±SD)である一方、ベクター注入(−)ラパマイシン群がより低いレベルの拡散(1,920±1,577μm)であることを明らかにする。
【表1】
(表1)ラットの脳におけるAADC発現
「n」は調べた半球の数である。
データ値を±標準偏差で表す。
ラパマイシン誘導群の平均の前後方向への拡張、拡張体積、およびAADC陽性細胞数は、Studentのt−検定による「非誘導」群(P<0.02)の値と統計的に異なる。
【0141】
表1はまた、線条体内の導入遺伝子陽性細胞の平均的な分布および拡張体積も表す。ベクター注入(+)ラパマイシン群は、最も多いAADC陽性細胞数(75,825+/−30,506細胞)であり、続いてベクター注入(−)ラパマイシン群(P<0.01)では、より少ない陽性細胞数(31,000+/−25,812細胞)であり、賦形剤注入コントロール群では、検出可能な発現が見られない(データなし)。同様に、ベクター注入(+)ラパマイシン群が、多くのhAADCの線条体拡散(15.75±8.16mm3)を示す一方で、ベクター注入(−)ラパマイシン群は、線条体拡散の55%低い体積(7.09±5.69mm3)を示す。
【0142】
立体解析学は、形質導入された線条体の神経数およびウイルスベクター粒子の分布の精密な測定である。しかしながら、細胞当たりで作成されたhAADC量が群の間で異なり得ることから、総体的なタンパク質解析が、産生hAADC酵素量のより正確な測定である。免疫染色によって観察された非誘導群におけるより低強度のhAADC発現がより低いhAADC発現の合計レベルと相互に関連することを裏付けるために、全タンパク質を連続的な組織切片から抽出し、ウエスタンブロット解析によって調べる。
【0143】
非誘導群におけるより低いhAADCタンパク質濃度を確認する。図7は、線条体内のhAADCのタンパク質レベル(50kDa)において変化を示す、ベクター注入(+/−)ラパマイシンおよび賦形剤注入(+)ラパマイシンの片側6−OHDA損傷ラット由来の関連ゲルバンドの図および統合されたバンド強度のプロットを示す。β−アクチンをローディングコントロールとして含む。AADCのバンド濃度は、両方のコントロール群と比較してベクター注入(+)ラパマイシン群で有意に高い、P<0.001。ベクター注入(+)ラパマイシンおよび(−)ラパマイシンのラット由来のウエスタンブロットのバンド密度は、注入7週後において、各々102.04±7.02メガピクセル(MP)および30.63±3.47MPである。平均の全AADCタンパク質レベルは、ベクター注入(+)ラパマイシン群と比較してベクター注入(−)ラパマイシン群では、内在性ラットAADCレベルを補正した後に88%まで減少する。これらのデータは、2群間のhAADC酵素レベルにおいて立体解析学によって推定された結果よりより大きな相違を示す。
【0144】
実施例2で使用された実験方法に関する詳細は以下の通りである。
【0145】
(外科的処置)
6−OHDA損傷スプラーグ−ドーリーラット(賦形剤注入およびベクター注入(−)ラパマイシン群用ラットn=6、ならびにベクター注入(+)ラパマイシン群用ラットn=8)をTaconic Farms(ニューヨーク州、ジャーマンタウン)から入手する。ラットを一般的な条件下:調節された温度と湿度、12時間の光周期、および餌と水の自由な提供、においてケージ当たり1匹で飼育する。ベクターを対流促進送達(convection−enhanced delivery、CED)によって注入して線条体中への最適な分布を成し遂げる。Bankiewiczら(2000)Exp.Neurol.164:2−14、Liebermanら(1995)J.Neurosurg.82:1021−9。簡単に説明すると、ベクターを1mlの気密ハミルトンシリンジから送り出されるオリーブオイルで満たされた管に接続したポリマーチュービング(OD、1/16’’;ID、0.030’’;ワシントン州、オークハーバーのUpchurch Scientific社)にロードする。ベクターをプログラム可能なポンプ(インディアナ州、ウエストラフィエットのBioanalytical System社)で送達する。27ゲージのニードルに組み込んだ融合シリカキャピラリー(OD、164μm;ID、100μm;アリゾナ州、フェニックスのPolymicro Technologies社)から成るカニューレをポリマーチュービングの先端に接続する。O2循環下の3%イソフルラン(2L/分)で麻酔にかけ、ラットを定位フレーム(カリフォルニア州、タハンガのKopf社)に配置する。次に定位フレームに固定されたマスクを通してO2中の1%イソフルランで麻酔を維持する。ドリルウェル(Burr holes)を標的部位上方に開け、ブレグマと硬膜に対する以下の座標において、カニューレを尾状核から被殻へ垂直方向に挿入する。切歯バーを3.3mmにセットしてAP0.0mm、ML−3.5mm、DV−5.0mm。ラットに1:1の割合の2つのベクター10μlを0.5μl/分の速度で片側的に注入する。20分の注入期間終了後に速度を0μl/分まで減速し、5分間静止してカニューレをゆっくり抜く。
【0146】
(行動解析)
アポモルヒネ(0.05mg/kg、ミズーリ州、セントルイスのSigma社)およびL−dopa(メチルエステル、Sigma社)に対する応答をロトマックス回転解析ソフトウエア(オハイオ州、コロンバスのAccuScan Instruments社)を作動するコンピューターに接続された自動化ロトメーターで測定する。合計の反対側回転および同側回転を30分以上(アポモルヒネ用)と60分以上(L−dopa用)において算出する。損傷3週後にアポモルヒネ(0.05mg/kg)に反応して30分間で平均的な回転>6の反対側回転/分を有するラットのみを適切に損傷させる(Ungerstedt(1971)Acta Physiol.Scand.Suppl.367:69−93)と判断し、L−dopa応答をテストする。これらのラットを下記の治療範囲用量、2.5mg/kgのベンセラジド(ミズーリ州、セントルイスのSigma社)と一緒に共投与される5mg/kgのL−dopaメチルエステルを使用してL−dopa応答を測定する。テストしたラットの95%以上は、5mg/kgのL−dopaに応答して回転しない。この用量に対する最終的に反対側回転を示すラットを実験から排除する。L−dopa応答を外科手術前および線条体内注入後の異なる時点(3、4、5、6および7週)で評価する。
【0147】
(免疫組織化学)
組織学的な研究のために、ラットを生理食塩水、続けて4%パラホルムアルデヒドで大動脈を通して浸透させる(賦形剤注入およびベクター注入(−)ラパマイシン群、n=6のラットならびにベクター注入(+)ラパマイシン群、n=8のラット)。脳を4%パラホルムアルデヒドで一晩かん流し、勾配スクロース溶液で平衡化させ、イソペンタン中で凍結する。脳をクラリオスタットで40μm厚の冠状断片に連続的に切断する。AADC(カリフォルニア州、テメキュラのChemicon社、1:1500)の免疫組織化学を浮遊性(Free−floating)切片上で行う。切片を3%過酸化水素水で30分間処理して内在性ペルオキシダーゼを抑える。5%の一般的なヤギ血清で非特異的な結合を阻害した後、切片を室温で一次抗体と一晩反応させる。ビオチン化抗ラビットIgG抗体(カリフォルニア州、バーリンゲームのVector Laboratories社、1:300)、続いてストレプトアビジン抱合西洋わさびペルオキシダーゼ(Vector Laboratories社、1:300)と室温で1時間ずつ反応させ、複合体を3−3’−ジアミノベンジジン(DAB、Vector Laboratories社)および過酸化水素で可視化する。切片をゼラチンコートしたスライド上にマウントして、乾燥させ、エタノールを逐次増加させて脱水し、キシレンで透明にし、Cytoseal−60(ミシガン州、カラマズーのRichard−Allen Scientific社)を用いてマウントする。hAADC免疫染色の前後方向の分布を式(nx12x40μm)によって調べる。ここで、nはhAADC陽性細胞を伴う切片の数であり、40μmが切片の厚さであり、12切片毎に調べる。分布体積および陽性細胞数をビデオカメラ搭載のZeissの顕微鏡および立体解析学ソフトウエア(Stereoinvestigator stereology software)(バーモント州、ウィリストンのMicrobrightfield社)上において63X倍率で立体解析学的方法に基づいた光学的分画装置−光学的解剖(the Optical Fractionator−Optical Dissector)を用いてAADCで染色した連続的な切片(12切片毎)中で算出する。各群CEE<5%。結果を平均±SDとして報告する。Studentのt−検定を統計的な有意性を測定するために使用する。
【0148】
(定量的なリアルタイムPCR)
本研究で使用されたベクターAAV−Z12−hAADCはヒトAADC標的遺伝子を含む。Q−PCRプライマーおよびプローブは、AADC遺伝子のエクソン2および3に対合し、それゆえにベクター配列に存在しないイントロンを及び、従ってゲノムDNAの増幅を最小限にする。リアルタイムQ−PCR(Heidら(1996)Genome Res.6:986−94)をベクターの挿入部を含むプラスミドDNAで標準化する。プラスミドを制限酵素で直鎖状にし、精製し、UV吸光度で定量し、Q−PCR希釈緩衝液(10mM Tris−HCl、pH8.0、1mM EDTA、10μg/ml yeast tRNA、および0.1% Tween 80)で希釈して1回の反応あたり3から106コピーの範囲の10種類の標準を提供する。各標準を96ウェルの光学的プレート中の3つの50μl反応液に流す。各20ngのDNAを含む10μlのサンプルを40μlの反応混合液を含む3つのQ−PCRウェルに添加する。PCRをApplied Biosystems 7700 Sequence Detection Systemで実行する。hAADC遺伝子のコピー数を検量曲線との比較によって計算し、1ウェルあたりに生じるコピー数に2をかけ、二本鎖プラスミドDNAの1コピーが2つの一本鎖ベクターゲノムに等価であることと推定する。
【0149】
(ウエスタンブロット解析)
全体脳の10個の連続的な切片(各40μm)を脱リン酸化酵素阻害剤とタンパク質分解酵素阻害剤の混合液を包含する溶解緩衝液で手操作のホモジェナイザーによって別々に均質化する。タンパク質をブラッドフォード法によって定量する。タンパク質サンプル(15μg)をSDS−PAGEゲル(4−15%の勾配ゲル;カリフォルニア州、ハーキュリーズのBio−rad社)で分離し、二フッ化ポリビニリデンフィルター(マサチューセッツ州、ベッドフォードのMillipore社)に移行させる。
【0150】
フィルターを3%スキームミルクでブロッキングし、ポリクローナルラビット抗AADC(1:500、カリフォルニア州、テメキュラのChemicon社)一次抗体と1時間反応させる。次にブロットを対応するHRP−抱合二次抗体(1:3000;イリノイ州、アーリントンヘイツのAmersham Biosciences社)と室温(RT)で1時間反応させ、ECL溶液(カリフォルニア州、エメリービルのPerkinElmer Life Sciences社)で1分間発色させ、Kodak(ニューヨーク州、ロチェスター)のX−Omatフィルム上に1−30分間露光する。最後に、ブロットを剥離緩衝液(67.5mM Tris、pH6.8、2% SDS、および0.7% β−メルカプトエタノール)において50℃で30分間反応させ、ローディングコントロールとしてのポリクローナルラビット抗β−アクチン抗体(1:1000;テキサス州、サンアントニオのAlpha Diagnostics社)と再対合させる。抗AADC一次抗体は、過去の研究で広範囲に使用されており、本研究で観察されたウエスタンブロットのバンドは、抗体情報シートで示される同一バンドの大きさ(〜50kDa)を示す。
【0151】
各特異的なバンドの密度をコンピューター補助画像解析システム(computer−assisted imaging analysis system)(AlphaImager(登録商標)、カリフォルニア州、サンリアンドロのAlpha Innotech社)を用いて測定する。各群間のβ−アクチンローディングコントロールのバンド濃度に有意な相違はない。賦形剤注入(+)ラパマイシンコントロール群およびベクター注入群の相違を比較することによって、各特異的なバンド濃度を、対応する内部ローディングバンドの濃度(各群n=3)に対して最初に標準化する。賦形剤注入ラットで見られた内在性hAADCレベルをベクター注入群から差し引いた後に全タンパク質の百分率の減少を調べる。
【0152】
実施例3
(In vitroにおけるGDNFの調節発現)
哺乳類細胞に二量体化物調節可能なGDNF導入遺伝子の構築物を以下の通りに形質導入させる。
【0153】
(AAV−GDNFベクター)
図8Aおよび8Bは、調節可能なヒトGDNF(hGDNF)導入遺伝子送達用の組み換えAAVベクタープラスミド構築物の図式である。構成的に発現されるhGDNFの送達用コントロールベクター(pAAV−CMV−hGDNF)を図8Cに示す。
【0154】
調節可能な構築物(図8Aおよび8B)は、hGDNFをコードする遺伝子、ならびに転写因子の活性化ドメイン融合タンパク質およびDNA結合ドメイン融合タンパク質の要素を有している、単一のrAAVベクターに関する。両方の構築物において、hGDNF発現は、さらに詳細を以下に記述した二量体化可能な転写因子用の8つの結合部位に隣接する最小IL−2プロモーターによって促進される。
【0155】
図8Aで表される構築物(pAAV−TF−Z8−hGDNF)では、CMVエンハンサー/プロモーターが、転写因子の活性化とDNA結合ドメインの両方をコードする単一の転写発現とともにその2つの間にある内部リボソーム進入部位(IRES)を促進する。対照的に、図8Bで表される構築物では、SV40プロモーターがDNA結合ドメインの発現を促進し、CMVエンハンサー/プロモーターが反対鎖からの異なる転写(すなわち、反対方向)の活性化ドメインの発現を促進する。
【0156】
DNA結合ドメイン融合タンパク質は、ヒト転写因子Zif268、Oct−1由来のホメオドメインの2つのDNA結合ドメイン(ZFHD1)、および細胞質受容体FK506由来の3つの薬物結合ドメイン(3xFKBP)を含む。
【0157】
活性化ドメイン融合タンパク質は、NFκBのp65サブユニット由来の転写活性ドメイン(p65)に連結されたヒトFRAPのラパマイシン結合ドメイン(FRB*)を含む。図8Aおよび8Bで表されるFRB*は実施例1で記述されている。
【0158】
AAV2の末端逆位配列(ITR)、最小SV40ポリアデニル化(Min.SV40 pA)、最小ラビットβ−グロビンポリアデニル化(Min.RBG pA)および最小ヒト成長ホルモンポリアデニル化(Min.hGH pA)配列を示す。
【0159】
コントロールベクターpAAV−CMV−hGDNF(図8C)では、CMVプロモーター/エンハンサーがhGDNFの発現を促進する。AAV2末端逆位配列(ITR)およびヒト成長ホルモンポリアデニル化(pA)配列を示す。
【0160】
ラパマイシン誘導実験の結果を図9で表し、GDNF発現をベクター構築物およびラパマイシン濃度の関数として表す。pAAV−TF−Z8−hGDNFは、細胞をラパマイシンで処理した時に濃度に応答する形でGDNF産生を指令する一方で、pAAV−CMV−hGDNFは、ラパマイシン処理に関係なく構成性(高)レベルのGDNF発現を指令する。
【0161】
実施例3で使用されたELISAアッセイ法に関する実験の詳細は以下の通りである。
【0162】
(GDNFのELISA)
GDNF発現を定量するためのELISAアッセイを以下の通りに実施する。
【0163】
HEK−293細胞(5x105細胞/ウェル)を2つの6ウェルプレートで一晩増殖させて60−70%集合にする。プレートに300μM CaCl2を用いてpAAV−TF−Z8−hGDNFもしくはpAAV−CMV−hGDNFのどちらか10μgでトランスフェクトする。6時間後に培地をラパマイシン(2つとも各々0nM、5nM、もしくは25nM)を含む新鮮な培地と交換し、3日間培養する。培地と細胞の両方を別々に回収し、急速に凍結し、ELISAを行うまで−80℃で保存する。全てのサンプルを1N HClで処理して15分間pH3.0まで酸性にし、次に1N NaOHで約pH7.6まで中和して戻す。
【0164】
培地サンプルをPromega Emax(登録商標)免疫アッセイシステム(ウィスコンシン州、マディソンのPromega社)によってGDNFの存在を測定する。コーティング緩衝液を96ウェルプレートに添加し、4℃で一晩培養した。コーティング緩衝液を除去し、プレートを乾燥させる。ブロッキング緩衝液(200μL)をプレートに添加し、振蘯せずに室温で1時間培養する。ブロッキング緩衝液を除去し、プレートを乾燥させる。
【0165】
96ウェルプレートの2つの8ウェルの段をGDNF標準段と設定する。1Xブロック&サンプル緩衝液(100μL/ウェル)を標準段の列B−Hに添加する。希釈したGDNF標準液(1000pg/mlの200mL)を標準段の列Aに添加し、100μL/ウェルの2倍の連続的な希釈を列Gまで作成する。列HはGDNFを含まない緩衝液のみのコントロールである。
【0166】
実験サンプルをpAAV−TF−Z8−hGDNFは1:300およびpAAV−CMV−hGDNFは1:1000で希釈し、各100μLを重複したウェルに添加し、振蘯(500rpm)させながら室温で6時間培養する。ウェルを5回洗浄し、各回約400μlのキット付属の推奨洗浄緩衝液を使用する。100μLの抗hGDNFポリクローナル抗体1:500希釈液(1Xブロック&サンプル緩衝液中)を各ウェルに添加し、振蘯することなく4℃で一晩反応させる。プレートを上述のように再度洗浄する。100μLの抗ニワトリIgY、HRP抱合の1:250希釈液(1Xブロック&サンプル緩衝液中)を各ウェルに添加し、振蘯(500rpm)しながら室温で2時間反応させる。プレートを上述のように再度洗浄する。100μLの室温の(HRP基質3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを包含する)TMB One溶液を各ウェルに添加し、振蘯せずに室温で15分間反応させる。100μLの1N塩酸を各ウェルに添加することで発色を停止させる。吸光度をTMB添加後30分以内にプレートリーダーにおいて450nmで測定する。pg/ml単位におけるGDNFレベルを同一プレート上のGDNF標準と実験サンプルから得られるシグナルの比較によって調べる。標準偏差を各サンプル(2プレート各々の2つのサンプル)の4つの測定値の合計に由来する。
【0167】
本発明の好ましい事例の具体例が記述される一方で、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更と修正がなされることは当業者なら言うまでもなく、添付した請求の範囲は、本発明の精神と範囲内にある全てのかかる変更と修正を網羅するであろう。
【0168】
本明細書で参照した全ての出版物、特許、特許出願、配列およびデータベース項目を出典明示により本明細書に一体化させる。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1A】図1Aは、導入遺伝子発現調節用転写因子の活性化およびDNA結合ドメインをコードするrAAVベクター(AAV−CMV−TF)の図式である。
【図1B】図1Bは、発現がラパマイシンもしくはその誘導体物の添加によって調節可能である、hAADCをコードする組み換えAAVベクター(AAV−Z12−hAADC)の図式である。
【図1C】図1Cは、発現が構成性CMVプロモーターによって促進されるhAADCをコードする組み換えAAVベクター(AAV−CMV−hAADC2)の図式である。
【図2】図2は、D7−4細胞に様々なrAAV構築物を形質導入し、0、5もしくは25nMのラパマイシン類似物AP21967で処理した実験結果を示す。
【図3】図3は、L−dopaに対する回転応答を6−OHDA損傷ラットでラパマイシン処置の機能として測定した実験の時系列である。
【図4】図4は、6−OHDA損傷ラットにおける5mg/kgのL−dopaに対する回転応答を示し、図3で示される時系列に沿った時間の関数として時間あたりの対側性回転数で表される。
【図5A】図5Aは、hAADCのラパマイシン調節発現に必要な配列を有するAAVベクターとともにラパマイシンで処理した注入7週後ラット線条体内のAADC免疫組織化学の結果を示す。スケールバーは75μmを表す。
【図5B】図5Bは、ラットがラパマイシン未処理であること以外には図5Aと同様の実験結果を示す。
【図6】図6は、注入7週後で得られた3つの処理群における典型的なラット由来のホールマウント脳切片のAADC免疫組織化学の結果を示す:A:ベクター注入(+)ラパマイシン;B:ベクター注入(−)ラパマイシン;C:賦形剤注入(+)ラパマイシン。
【図7】図7は、図6に準拠して考察された3つの処理群において、ウエスタンブロット解析で測定された注入7週後のAADC発現を示す。
【図8A】図8Aは、hGDNFの発現がラパマイシンもしくはその類似物によって調節され得る、転写因子の活性化ドメイン融合およびDNA結合ドメイン融合をコードする転写、ならびに導入遺伝子hGDNFをコードする調節可能な転写、を含むrAAVベクター(AAV−TF−Z8−hGDNF)の図式である。
【図8B】図8Bは、転写因子のDNA結合ドメインの発現が活性化ドメインの発現とは別々の転写上でSV40プロモーターによって促進されること、ならびに活性化ドメインが反対の鎖(すなわち、反対方向)から発現されることを除いて、図8Aで示されるベクターに類似するベクターの図式である。
【図8C】図8Cは、その発現が構成性CMVプロモーターによって促進される、hGDNFをコードする組み換えAAVベクター(AAV−CMV−hGDNF)の図式である。
【図9】図9は、0、5もしくは25nMのラパマイシン処理に応じて、調節TF−GDNFプラスミド(AAV−TF−Z8−hGDNF)もしくは構成性CMV−GDNFプラスミド(AAV−CMV−hGDNF)のどちらかで一時的にトランスフェクトされたHelaD7−4細胞におけるピコグラム(pg)単位のGDNF発現を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子治療によって導入された遺伝子の調節、特に哺乳類の中枢神経系(CNS)に形質導入された導入遺伝子の発現調節に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのヒトの疾患は遺伝子の異常な発現によって引き起こされる。遺伝子が低発現である場合、あるいは遺伝子産物自体が欠失している場合には、相当する機能的遺伝子産物の不在は、喪失遺伝子産物を患者に送達することによって処理されてよい。しかしながら、タンパク質の送達は、しばしば困難であり、限られた期間にのみ利益を授与し、タンパク質は、定期的に、あるいは慢性疾患の場合には無期限に繰り返し再投与されなければならないことを意味する。繰り返しの投与は、コストが高く、不便であり、貧困の患者によっては苦しいかもしれない。加えて、遺伝子産物のレベルは、1用量の投与直後と次の用量の投与直前の間で急速に変化しうる。このレベルの変動性は、低薬物動態(例、短い半減期)もしくは低い治療指数を伴う治療薬剤において特に問題である。
【0003】
遺伝子治療は、遺伝子産物よりもむしろ遺伝子の準最適発現を示す細胞に遺伝子を送達することで用いられ得る。内在性遺伝子の低発現もしくは不完全な発現を供給することに加えて、遺伝子治療はまた、サイトカイン、ホルモン、抗体もしくは遺伝学的に修飾されたタンパク質などの標的細胞で発現される時に有益な効果を有しうる他の遺伝子を送達するためにも使用され得る。遺伝子治療によって送達される遺伝子は、本明細書では導入遺伝子を意味する。導入遺伝子が標的細胞内で安定して発現される時には、遺伝子治療は、無期限に定常レベルの遺伝子産物を送達する能力を有する。遺伝子治療は、遺伝子産物自体の繰り返し送達と比較して、一度、もしくは少なくとも低頻度で実施されることのみを必要とする。全身に投与されたタンパク質は血液脳関門のために脳に入りにくく、脳への直接定位注射は繰り返し投与には非実用的であることから、遺伝子治療が治療タンパク質を脳に送達する方法として特に好ましい。
【0004】
(アデノ随伴ウイルス介在の遺伝子治療)
ウイルスベクターは、本明細書で形質導入を意味する過程である、標的細胞への導入遺伝子の効率的な送達を補助するために開発されてきた。遺伝子送達に使用されてきた一つのウイルス系はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVはディペンドウイルス属に属するパルボウイルスである。AAVは、他のウイルスでは見られないいくつかの魅力的な特徴を有する。第一に、AAVは非分裂細胞を含む広範囲の宿主細胞に感染しうる。非分裂細胞に感染する能力は、AAVをCNS組織、例として脳への形質導入に特に適切な選択肢とする。第二に、AAVは異なる種由来の細胞に感染可能である。第三に、AAVはヒトもしくは動物の病気に関連せず、組込みによって宿主細胞の生物学的特性を変化させないようである。実際、ヒトの人口の80−85%がウイルスに感染していると推測されている。最後に、AAVは、広範囲の物理的および化学的状態において安定であり、生成、貯蓄および輸送に容易である。
【0005】
AAVゲノムは、約4681ヌクレオチド(nt)長の直状一本鎖DNA分子である。AAVゲノムは、一般的に両末端に末端逆位配列(ITRs)が配置された内部非繰り返しゲノムを含む。ITRsは約145nt長である。ITRsはDNA複製の複製開始点およびウイルスゲノムのパッケージングシグナルとして作用する。
【0006】
ゲノムの内部非繰り返し部分は、AAVの複製(rep)およびキャプシド(cap)遺伝子による2つの主要なオープン・リーディング・フレームを含む。repとcapの遺伝子は、ウイルスが複製し、ウイルスゲノムをビリオン内にパッケージさせるタンパク質をコードする。特に、少なくとも4つのウイルスタンパク質を含む一つのファミリーは、AAVのrep領域から発現される;Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40は、それらの見かけ上の分子量から名付けられた。AAVのcap領域は少なくとも3つのタンパク質をコードする;VP1、VP2、およびVP3。
【0007】
AAVはヘルパー依存性ウイルスである。すなわち、一般的にAAVビリオンを形成するためにはヘルパーウイルス(例、アデノウイルス、ヘルペスウイルスもしくはワクシニア)との共感染を必要とする。ヘルパーウイルスによる共感染の非存在下では、AAVはウイルスゲノムがエピソームとして持続するか、もしくは宿主細胞の染色体に挿入する、潜伏状態を確立するが、感染ビリオンは生成されない。ヘルパーウイルスによる後の感染は、組込まれたゲノムを「レスキュー」する、すなわち、複製し、感染性AAVビリオンにゲノムをパッケージすることを許容する。AAVが異種由来の細胞に感染可能である一方、ヘルパーウイルスは宿主細胞と同一種でなければならない。それゆえ、例えば、ヒトAAVはイヌアデノウイルスに共感染されたイヌ細胞で複製するだろう。
【0008】
AAVベクターは、AAVゲノムの内部非繰り返し部分(すなわち、repおよびcap)を欠失すること、ならびにITR間に異種性遺伝子(「導入遺伝子」)を挿入することによって目的の遺伝子を送達するように設計されている。導入遺伝子は異種性プロモーターに連結されてよい。ポリアデニル化部位などの末端シグナルもまた含まれ得る。
【0009】
導入遺伝子を含む感染性組み換えAAV(rAAV)のストックを得るために、適合する産生細胞系列がAAVのITRs間に挟まれた導入遺伝子を含むAAV発現ベクターでトランスフェクトされる。AAVヘルパーの機能および補助的な機能もまた産生細胞で発現される。ヘルパーの機能は、一般的にAAVコード遺伝子(例えば、repおよびcap)によって供給される機能であり、補助的な機能は、一般的に野生型AAV(wtAAV)がヘルパーウイルス(例、アデノウイルス)と共感染された細胞で複製する時にヘルパーウイルスによって供給される。WtAAVにおいてヘルパー機能をコードする遺伝子は、rAAVベクターの構築時に除去されて導入遺伝子配列用のスペースを作ることから、別々に供給されなくてはならない。ヘルパーおよび補助的な機能の存在下において、導入遺伝子およびAAVのITRsを含むベクター構築物は、複製、パッケージされて組み換えAAVビリオン(rAAV)を形成する。rAAVのストックの生成は、出典明示により本明細書に一体化させた米国特許第5,622,856号、第6,001,650号、第6,027,931号、第6,365,403号、第6,376,237号、第5,945,335号、第6,004,797号、および第6,482,633号でさらに記述される。
【0010】
こうして調製されたrAAVストックは、次にヘルパーウイルスの非存在下において標的細胞をrAAVで感染させることによってin vitroの標的細胞に、あるいはin vivoの患者に、導入遺伝子を導入するために使用され得る。患者の細胞はrepおよびcapの遺伝子ならびに補助的な機能遺伝子を欠如しているから、rAAVベクターは標的細胞内で複製を欠失する。すなわち、それらはさらに自身のゲノムを複製およびパッケージができない。同様に、repおよびcapの遺伝子の源がないと、wtAAVは患者の細胞内で形成され得ない。
【0011】
(導入遺伝子発現の調節)
AAV介在遺伝子治療、および一般的な遺伝子治療に不利な点の一つは、一度投与されると、処置を元に戻すこと、あるいはその効果を調節することが不可能なことである。必要であればいつでも中断可能な薬剤の送達と異なり、成功した遺伝子治療はベクター投与後に持続性のある長期遺伝子発現を提供する。導入遺伝子発現を遮断できる能力は、ヒトの患者の処置において重要な安全性の考慮すべき事項である。さらに、導入遺伝子の発現を下流調節する能力は、患者内で導入遺伝子産物の適正な薬理学的制御を確保するのに有用であろう。
【0012】
小分子誘導体を用いた導入遺伝子発現を調節する様々な系が開発されている。Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32、Noら(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:3346−51、Gossen and Bujard(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:5547−51、the GeneSwitch(登録商標)system(カリフォルニア州、バーリンゲームのValentis社)。これらの系は、小分子薬物によって制御される改良された転写因子の活性、および調節された転写因子によって促進される導入遺伝子発現の使用に基づく。かかる系の一つは、ラパマイシンによる誘導(本明細書では「二量体化物系」(dimerizer system)という)に基づく、ラパマイシンの添加による2つの合成融合タンパク質に由来する機能的な転写因子の形成に関する。Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32。ラパマイシンは自然産物の免疫抑制剤FK506に密接に関連する経口的に生物利用可能な小分子薬物であり、細胞タンパク質FKBP12に高い親和性(200pM)で結合し、該複合体はFRAPに結合する。ラパマイシンは内在性の免疫抑制作用を有するが、非免疫抑制類似物質は、修飾FRAP遺伝子配列と一緒に使用されることで所望しない免疫抑制のない二量体物系での転写を促進できるように開発されてきた。Pollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26。
【0013】
In vivoの遺伝学的調節の二量体化物に基づいた系は、Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32およびPollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26でより詳細に記載されている。二量体化物系は、筋肉(Yeら(1999)Science283:88−91、Riveraら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA96:8657−62、Johnstonら(2003)Mol.Ther.7:493−7)、肝臓(Auricchioら(2002)Gene Ther.9:963−71)、および眼(Auricchioら(2002)Mol.Ther.6:238−42)に遺伝子を送達するウイルスベクターとの使用に採用されている。二量体化物系はまた、ARIAD Pharmaceuticals社(マサチューセッツ州、ケンブリッジ)のARGENT転写技術基盤(AGENT Transcription Technology platform)の要素でもある。この技術は、さらにARGENT二量体化物に基づいた系を一般的に記述する、Crabtreeらの米国特許第6,043,082号、ならびに合成DNA結合ドメイン、p65転写活性ドメインおよび減少された免疫抑制を有するラパログ(rapalogs)を包含する、ラパマイシンもしくはラパマイシン類似物を使用する二量体物に基づいた系を記述する、Clacksonらの米国特許第6,649,595号で開示されている。米国特許第6,043,082号および米国特許第6,649,595号を出典明示によりそれら全体を本明細書に一体化させる。
【0014】
二量体化物系は、転写活性融合タンパク質の機能的な要素を示す配列が全てヒト由来のタンパク質であり、それゆえヒトにおいて不都合な免疫応答の可能性を減少させるという点で十分にヒトへの適応に有利な点を有する。Riveraら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA96:8657−62。
【0015】
(パーキンソン病)
パーキンソン病(PD)は、遺伝子治療、特にAAV遺伝子治療に適合し得る病気の例である。PDは、アメリカで二番目に多い神経変性疾患であり、100万人以上に影響する。PDは、自発運動の減退、歩行困難、姿勢不安定、硬直および震えに特徴付けられる。これらの臨床徴候は、脳の基底ガングリア領域の黒質内の着色神経(すなわち、ドーパミン作動性神経)変性の直接的な結果である。黒質の着色神経が重要なカテコールアミン神経伝達体の合成部位であるので、黒質の進行性変性は、利用可能なドーパミンの減少を引き起こす。
【0016】
ドーパミンは、黒質、特に黒質緻密部のドーパミン作動性神経の終神経末端で合成される。ドーパミン作動性神経は、線条体、特に神経支配する被殻および尾状核に投射する。3つの酵素が効果的なドーパミンの生合成には必要である;それらはチロシン水酸化酵素(TH)、グアノシン三リン酸シクロヒドロラーゼI(GCH)、および芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)である。チロシン水酸化酵素は、アミノ酸のチロシンにヒドロキシル基を付加し、L−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−dopa)を合成する。GCHはTH活性に必要な補因子であるBH4の最初の段階および生合成律速段階を触媒する。最終的に、AADCがL−dopaの末端カルボキシル基を除去してドーパミンを生成する。
【0017】
PDの処置は、現在では、しばしばAADCの関連抑制剤との組み合わせによるL−dopaの経口投与に関する。PDの進行と同時に、患者の大半は、脳の影響を受けた領域(すなわち、黒質)におけるAADC含有量の減少を経験する。AADCがL−dopaをドーパミンに変換するのに必要であることから、L−dopa用量を増加させることが治療効果に必要であるが、これがしばしば副作用の増多を招く。さらに、黒質が次第に悪化するに連れてAADCの減少が絶えず続き、しばしばL−dopa投与による治療の有益性がもはや認識されないレベルに達する。
【0018】
(AADC)
PD治療への遺伝子治療に基づいた試みの一つは、AADCのようなドーパミン生合成に関する一つ以上の酵素をコードする遺伝子を供給することである。供給AADCは、L−dopa処置の有効性を回復する。哺乳類の患者の脳におけるAADCの送達および発現によるPD処置に使用されるAAV由来ベクターおよび方法は、その全体を出典明示により本明細書に一体化させた米国特許出願公開第2002/0172664号に記述される。
【0019】
パーキンソン病(PD)は、黒質におけるドーパミン作動性神経の進行的な喪失および線条体におけるドーパミンの重度な減少に特徴付けられる。Hornykiewicz(1975)Natl.Inst.Drug Abuse Res.Monogr.Ser.13−21。6−OHDAモデルは、黒質から線条体へ投射する内側前脳束を化学的に損傷させることによって作成され、病理組織学的にPDに類似する。Ungerstedt(1971)Acta Physiol.Scand.Suppl.367:69−93。一側的に片方の半球を6−OHDA損傷されたラットは、治療用量のL−dopaもしくはドーパミン受容体アゴニストに応答して急速な対側性回転活性を生じる。Ungerstedt(1971)。これまでの研究においては、ヒトAADC(hAADC)をコードする遺伝子をラットもしくは非ヒト霊長類の線条体に移入すること、および外因的にL−dopaを送達することが、パーキンソン病(PD)の動物モデルにおいて、ドーパミンを有効なレベルにまで回復させ、L−dopaの必要性を低下させることが可能であると示されている。Bankiewiczら(2000)Exp.Neurol.164:2−14、Sanchez−Pernauteら(2001)Mol.Ther.4:324−30。
【0020】
(GDNF)
PDの処置への別の遺伝子治療に基づいた試みは、変性過程の進行を阻害するもしくは遅らせる遺伝子を送達することである。グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)は、in vitroおよびin vivoのPD動物モデルの双方におけるDA神経の生存を増進することが示されている強力な神経栄養因子であり(Bjorklundら,Brain Res.(2000)886:82−98、Bohn,M.C.,Mol.Ther.(2000)1:494−496、et al.,J.Neural Transm.Suppl.(2000)58:181−191)、出典明示により本明細書に一体化させた。哺乳類の患者の脳でのGDNFの送達および発現によるPD処置のAAV由来ベクターおよび方法は、出典明示により本明細書に取り入れた米国特許出願公開第2003/0050273号に記述される。
【0021】
パーキンソン患者の脳におけるAADCもしくはGDNFの発現は有益である反面、これらの遺伝子の過剰発現は危険な副作用を引き起こし得る。遺伝子治療に使用される典型的なベクターが、強力な構成性プロモーターを組み込むように設計され、そのプロモーターは、治療の有効性を確実にするために全体の導入遺伝子発現を最大にするように意図されている。多くの過去の研究においては、形質導入されたごくわずかの細胞から発現を最大にするための試行がなされ、それは、形質導入効率が比較的低いと予想される場合、および導入遺伝子産物が形質導入された細胞から全身循環へ分泌されるような場合には合理的な目的であるかもしれない。二量体化物により調節される導入遺伝子発現のいくつかの以前の研究がこのような分泌タンパク質に関連する。Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32、Riveraら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA96:8657−62、Yeら(1999)Science283:88−91、Pollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26、Auricchioら(2002)Gene Ther.9:963−71、Johnstonら(2003)Mol.Ther.7:493−7、Auricchioら(2002)Mol.Ther.6:238−42。
【0022】
分泌タンパク質の産生物が循環器系で蓄積されることと対照的に、非分泌性導入遺伝子産物がいくつかの細胞で過剰発現され、全体的に他の細胞で欠乏する場合、治療の有益性は達成され得ない。非分泌性タンパク質を利用する遺伝子治療は、各々の形質導入細胞内において所望するレベルで調節される導入遺伝子発現を必要とし、このようなタンパク質の発現が形質導入後に調節可能であることが特に重要とされ得る。
【0023】
神経変性疾患および他のCNS障害の遺伝子治療は、拡大しつつある技術分野であり(TinsleyとEriksson(2004)Acta Neurol.Scand.109:1−8)、導入遺伝子の調節は、投与調節と安全性の両方の目的に必要であり得る。ドーパミンの産生が、原理上前駆体L−dopaの外因的な送達によって制御可能であることから、調節遺伝子発現は、AADC治療の場合に必要でないかもしれないが、調節は、送達される酵素量を正確に制御すること、あるいは、必要ならば治療を終結することに有益であり得る。調節は、過剰発現が有害な効果である神経栄養因子(GDNFなど)の遺伝子送達に必要であり、必要な制御の程度は、個々の適用例により決定される。
【0024】
遺伝子治療による患者のCNS(例えば、脳)に導入された遺伝子発現を調節する方法、およびこのような調節を可能にするベクターの必要性が存在する。特に、PDなどの神経変性疾患にかかっている患者の脳において、導入遺伝子の発現を調節する方法の必要性が存在する。好ましくは、調節系は、抑制状態下においては導入遺伝子発現の低いバックグラウンドレベルであるだけでなく、高い誘導率をも示す。最適な系はまた、全てをヒトタンパク質に由来する機能的な要素を含むことでヒト遺伝子治療期間に有害な免疫反応の機会を最小にするだろう。
【発明の開示】
【0025】
(発明の要約)
当該技術分野における上記ならびに他の要求は本発明に適合する。すなわち、本発明は、神経系の標的細胞内における導入遺伝子の発現が誘導体を用いて調節可能である、AAV介在の遺伝子治療用のベクター、方法およびキットを提供する。
【0026】
一の態様では、本発明は、導入遺伝子の発現が患者のCNS(例えば、脳)への導入遺伝子の形質導入後に調節され得る、組み換えAAV(rAAV)ベクターに関する。
【0027】
一の具体例では、調節は2つのポリペプチド要素を含む転写因子を用いて達成され、該転写因子は、2つの要素が相互に結合する時にのみ活性化し、これらの要素は、誘導体の存在下でのみ相互に結合する。一の具体例では、2つのポリペプチドはDNA結合ドメイン融合および活性化ドメイン融合を含む。典型的なDNA結合ドメイン融合は、ヒト転写因子Zif268、Oct−1に由来するホメオドメイン、に由来する2つのDNA結合ドメイン、およびFK506の細胞受容体に由来する3つの薬物結合ドメインを含む。典型的な活性ドメイン融合は、NFκBのp65サブユニットに由来する転写活性化ドメインに融合されたヒトFRAPのラパマイシン結合ドメインを含む。
【0028】
一の具体例では、第一のrAAVベクターは導入遺伝子を含み、第二のrAAVベクターは転写因子要素の配列を含む。別の具体例では、単一のrAAVベクターは転写因子要素と導入遺伝子の配列を含む。
【0029】
一の具体例では、調節は、誘導体の投与によって成される。別の具体例では、誘導体は、ラパマイシンなどの二量体化物もしくはその非免疫抑制性類似物、例えば、AP21967である。
【0030】
別の態様では、本発明は、導入遺伝子が患者のCNS(例えば、脳)に形質導入された後に導入遺伝子の発現が調節され得るrAAVベクターを用いて患者を処置する方法に関する。一の具体例では、処置方法は、誘導体、例えば、ラパマイシンなどの二量体化物もしくはその非免疫抑制性類似物、例えば、AP21967の投与に関する。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は、本発明のベクターを構築するため、もしくは本発明の方法を行うためのキットに関する。一の具体例では、キットは、使用者の目的とする導入遺伝子をクローニングするためのポリリンカー領域を有している第一のrAAVベクターを含む。別の具体例では、キットは、第一のrAAVベクターにクローニングされた導入遺伝子からの発現を調節できる転写因子をコードする第二のrAAVベクターをさらに含む。さらに別の具体例では、キットは、誘導体、例えば、ラパマイシンなどの二量体物もしくはその非免疫抑制性類似物、例としてAP21967などを含む。
【0032】
一の具体例では、本発明は、ヒト神経変性疾患、例えば、パーキンソン病(PD)の処置に関する。
【0033】
いくつかの具体例では、調節された導入遺伝子は、AADCもしくはGDNFであるが、一般的には、調節された導入遺伝子は、標的組織での発現が望まれるいずれかの遺伝子であり得る。
【0034】
本発明のこれらおよび他の具体例は、本明細書の開示のために当業者によって容易に行われるだろう。
【0035】
(図の説明)
図1Aは、導入遺伝子発現調節用転写因子の活性化およびDNA結合ドメインをコードするrAAVベクター(AAV−CMV−TF)の図式である。
【0036】
図1Bは、発現がラパマイシンもしくはその誘導体物の添加によって調節可能である、hAADCをコードする組み換えAAVベクター(AAV−Z12−hAADC)の図式である。
【0037】
図1Cは、発現が構成性CMVプロモーターによって促進されるhAADCをコードする組み換えAAVベクター(AAV−CMV−hAADC2)の図式である。
【0038】
図2は、D7−4細胞に様々なrAAV構築物を形質導入し、0、5もしくは25nMのラパマイシン類似物AP21967で処理した実験結果を示す。未処理コントロールも示す。「OD」値は、基準ロットのAAV−CMV−hAADC2で形質導入された細胞から得られた標準曲線を用いて計算した(AADCの発現ELISAにおけるOD405で測定した)相対的なAADC発現を意味する。
【0039】
図3は、L−dopaに対する回転応答を6−OHDA損傷ラットでラパマイシン処置の機能として測定した実験の時系列である。
【0040】
図4は、6−OHDA損傷ラットにおける5mg/kgのL−dopaに対する回転応答を示し、図3で示される時系列に沿った時間の関数として時間あたりの対側性回転数で表される。ラットに賦形剤単体(コントロール)もしくは調節可能なhAADCおよび対応する転写因子をコードするベクターを注入する。データは第1週と第2週の結果を示していない。図3で示すように、注入を0日に行い、その日を週の数を数え始めた日とする(例えば、「3週」は、注入後21日を意味する)。簡単にするため、図3で示される4回のラパマイシン注射(「ラパマイシン」)を図4では単一の矢印として表した。
【0041】
図5Aは、hAADCのラパマイシン調節発現に必要な配列を有するAAVベクターとともにラパマイシンで処理した注入7週後ラット線条体内のAADC免疫組織化学の結果を示す。スケールバーは75μmを表す。
【0042】
図5Bは、ラットがラパマイシン未処理であること以外には図5Aと同様の実験結果を示す。
【0043】
図6は、注入7週後で得られた3つの処理群における典型的なラット由来のホールマウント脳切片のAADC免疫組織化学の結果を示す:A:ベクター注入(+)ラパマイシン;B:ベクター注入(−)ラパマイシン;C:賦形剤注入(+)ラパマイシン。図4で示すように、ラットに賦形剤のみ(図6C)、もしくは調節可能なhAADCと対応する転写因子(図6Aと6B)をコードするベクターを注入した。その後、図6Aと6Cのラットをラパマイシンで処理した(図3で示すように)が、図6Bのラットは処理しなかった。左側の半球は、6−OHDA損傷と線条体内ベクター(もしくは賦形剤)注入の部位であり、右側の半球は、正常ラットのAADC陽性繊維の内在性染色を示す。
【0044】
図7は、図6に準拠して考察された3つの処理群において、ウエスタンブロット解析で測定された注入7週後のAADC発現を示す。上の図は、3つの処理群各々からの典型的なラット脳由来のタンパク質の電気泳動によって観察されたAADCとβ−アクチンのバンドである。β−アクチンをコントロールとして使用した。棒グラフは、3つの各処理群ラットのAADCバンドにおけるタンパク質バンドの平均した統合像密度、および標準偏差を示す。
【0045】
図8Aは、hGDNFの発現がラパマイシンもしくはその類似物によって調節され得る、転写因子の活性化ドメイン融合およびDNA結合ドメイン融合をコードする転写、ならびに導入遺伝子hGDNFをコードする調節可能な転写、を含むrAAVベクター(AAV−TF−Z8−hGDNF)の図式である。
【0046】
図8Bは、転写因子のDNA結合ドメインの発現が活性化ドメインの発現とは別々の転写上でSV40プロモーターによって促進されること、ならびに活性化ドメインが反対の鎖(すなわち、反対方向)から発現されることを除いて、図8Aで示されるベクターに類似するベクターの図式である。
【0047】
図8Cは、発現が構成性CMVプロモーターによって促進される、hGDNFをコードする組み換えAAVベクター(AAV−CMV−hGDNF)の図式である。
【0048】
図9は、0、5もしくは25nMのラパマイシン処理に応じて、調節TF−GDNFプラスミド(AAV−TF−Z8−hGDNF)もしくは構成性CMV−GDNFプラスミド(AAV−CMV−hGDNF)のどちらかで一時的にトランスフェクトされたHelaD7−4細胞におけるピコグラム(pg)単位のGDNF発現を示す。
【0049】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施は、他に特に規定がなければ、当技術分野内のタンパク質化学、生化学、組み換えDNA技術および薬理学の慣用的方法に従って行われる。このような技術は文献で十分に説明されている。T.E.Creighton,Proteins:Structures and Molecular Properties(W.H.Freeman and Company,1993)、A.L.Lehninger,Biochemistry(Worth Publishers,Inc.,current addition)、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition,1989)、Methods In Enzymology(S.Colowick and N.Kaplan eds.,Academic Press,Inc.)、Remington’s Pharmaceutical Science,18th Edition(Easton,Pa.:Mack Publishing Company,1990)を参照。
【0050】
(I、定義)
本出願で使用される全ての科学的および技術的用語は、他に特に規定がなければ、当該技術分野で一般的に使用される意味を有する。本出願で使用される場合において、以下の単語もしくは語句は特定の意味を有する。
【0051】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」「an」および「the」は、内容が明確に他に指示しない限り、複数形の関連物を含むことに注意しなければならない。それゆえ、例えば、「a vector」に関しては、二以上のかかるベクターの混合物、およびその類似物を含む。
【0052】
用語「導入遺伝子」は、本明細書で使用されるように、いくつかの具体例において、標的細胞にすでに存在する内在性遺伝子の付加コピーもしくは配列変化を含む、導入遺伝子由来の如何に関わらず標的細胞に送達される遺伝子を意味する。導入遺伝子は、生物から得られる遺伝子配列もしくは部分的な遺伝子配列、かかる遺伝子の遺伝学的に操作された配列変化、または合成(非自然発生)DNA配列であり得る。導入遺伝子は、タンパク質をコードするメッセンジャーRNAの産生を指示してよく、あるいはアンチセンス、リボザイム、三重鎖形成性、RNAiもしくは他のRNA配列などの生物学的な活性RNA分子をコードしてよい。
【0053】
「調節可能な導入遺伝子」は、本明細書で使用されるように、標的細胞に形質導入された後に遺伝子の発現が誘導体の投与によって変化され得る遺伝子である。治療用導入遺伝子発現の調節は、導入遺伝子産物のレベルの薬理学的な制御を提供する。
【0054】
「発現カセット」は、目的の配列もしくは遺伝子の発現を指示することが可能である構築物を意味する。発現カセットは、目的の配列もしくは遺伝子(の直接的な転写を行うため)を作動可能であるように結合させたプロモーターもしくはプロモーター/エンハンサーを含み、しばしばポリアデニル化配列も含む。本発明の特定の具体例の範囲内において、本明細書に記述された発現カセットは、アデノウイルス随伴ウイルス構築物内に含まれてよい。
【0055】
本明細書で核酸に関して使用される「組み換え」は、その起源もしくは操作によって、ゲノム、cDNA、ウイルス、半合成、もしくは合成由来のポリヌクレオチドが、本来関連する全てもしくは一部のポリヌクレオチドと関連していないことを意味する。タンパク質もしくはポリペプチドに関して使用される用語「組み換え」は、組み換えポリヌクレオチドの発現によって産生されるポリペプチドを意味する。一般的に、さらに下記のように、目的の遺伝子がクローン化され、次に形質転換された動物で発現される。宿主生物は発現条件の下で外部遺伝子を発現してタンパク質を産生する。
【0056】
「コード配列」もしくは選択ポリペプチドを「コード」する配列は、適合する調節配列(もしくは「制御エレメント」)の制御下に配置された場合に、in vivoでポリペプチドに転写(DNAの場合)および翻訳(mRNAの場合)される核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンによって決定され得る。コード配列は、ウイルス由来のcDNA、原核生物もしくは真核生物のmRNA、ウイルスもしくは原核生物DNA由来のゲノムDNA配列、ならびに合成DNA配列さえも含み得るが、それらだけに限らない。転写終結配列は、コード配列の3’側に配置され得る。
【0057】
典型的な「制御エレメント」は、転写プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列(3’側翻訳停止コドンに局在する)、翻訳開始の最適化配列(5’側コード配列に局在する)、および翻訳終結配列を含むが、それらだけに限らない。
【0058】
用語「核酸」は、DNAとRNA、および修飾骨格(例、ホスホロチオエート)などのそれらの類似物、ならびにペプチド核酸(PNA)なども含む。本発明は、上記のものに相補的な配列を包含する核酸(例、アンチセンスもしくはプローブ用)を含む。
【0059】
用語「トランスフェクション」は、細胞への外部DNAの取り込みを意味することに使われる。細胞は、外因性DNAが細胞膜の内部に導入される時に「トランスフェクトされる」。多くのトランスフェクション技術が当該技術分野で一般的に知られている。Grahamら(1973)Virology,52:456、Sambrookら(1989)Molecular Cloning,a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York、Davisら(1986)Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier、およびChuら.Gene13:197,1981を参照。かかる技術は、プラスミドベクターおよび他の核酸分子などの一つ以上の外因性DNA部分を適する宿主細胞に導入することに使用され得る。用語は遺伝学的物質の安定的および一時的な取り込みの両方を意味する。
【0060】
用語「形質導入」は、組み換えアデノ随伴ウイルスベクターなどのベクターを介してin vivoもしくはin vitroにおける受容細胞へのDNA分子の送達を意味する。
【0061】
遺伝子配列および制御配列などの核酸配列に関連する、用語「異種性」は、通常、一緒に結合せず、および/もしくは特定の細胞に一般的に関連しない配列を意味する。それゆえ、核酸構築物もしくはベクターの「異種性」領域は、本来、他の分子に関連して見出されない別の核酸分子内もしくは別の核酸分子に結合している核酸の断片である。例えば、核酸構築物の異種性領域は、本来のコード配列に関連して見出されない配列により隣接されるコード配列を含み得る。異種性コード配列の別の例は、コード配列自身が本来見つけられない構築物である(例、野生型の遺伝子と異なるコドンを有している合成配列)。同様に、一般的に細胞内に存在しない構築物で形質転換された細胞は、本発明の目的である異種性と考えられる。対立遺伝子変異もしくは自然発生変異現象は、本明細書で使用されるような異種性DNAを生じない。
【0062】
用語「制御エレメント」は、受容細胞内のコード配列の複製、転写、および翻訳を提供する、プロモーター領域、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製開始点、配列内リボソーム進入部位(「IRES」)、エンハンサー、およびその類似物を総じて意味する。選択されたコード配列が、適する宿主細胞内で複製、転写および翻訳可能ならば、これらの制御エレメントの全てが常に必要ではない。
【0063】
本明細書で使用される用語「プロモーター領域」は、一般的な意味においてDNA調節配列を含む核酸領域とするのであって、調節配列は、RNAポリメラーゼが結合し、下流(3’方向)コード配列の転写を開始できる遺伝子に由来する。
【0064】
「作動可能に連結された」は、そのように記述された要素が通常の機能を果たすために設定されたエレメントの配置を意味する。それゆえ、コード配列に作動可能に連結された制御エレメントはコード配列の発現をもたらし得る。制御エレメントは、コード配列の発現を指示する働きを有する限り、コード配列に隣接する必要はない。それゆえ、例えば、介在する未翻訳の転写配列がプロモーター配列とコード配列の間に配置されても、プロモーター配列はなおコード配列に「作動可能に連結された」と考えられる。
【0065】
ヌクレオチド配列に関して「単離」によるとは、その特定の分子が同一型の他の生物学的高分子の実質的な非存在化で存在することを意味する。それゆえ、「特定ポリペプチドをコードする単離核酸分子」は、目的ポリペプチドをコードしていない他の核酸分子を実質的に含んでいない核酸分子を意味するが、化合物の基本的な性質に有害的に影響しない付加塩基もしくは分子を含んでよい。
【0066】
「ベクター」は、核酸配列を標的細胞に移入することが可能である(例えば、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、微粒子キャリア、およびリポソーム)。典型的には、「ベクター構築物」、「発現ベクター」、および「遺伝子移入ベクター」は、目的の核酸の発現を指示し、核酸配列を標的細胞に移入可能である核酸構築物を意味する。それゆえ、この用語は、クローニングおよび発現の担体、ならびにウイルスベクターを含む。
【0067】
「患者」とは、チンパンジーおよび他の類人猿ならびにサル種などの非ヒトの類人猿、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマなどの家畜動物、イヌおよびネコなどの家畜哺乳類を含むヒトおよび他の霊長類、マウス、ラット、テンジクネズミなどの齧歯類を含む実験動物、ニワトリ、七面鳥および他の家禽鳥、カモ、ガチョウ、およびその類似生物などの飼い鳥、野鳥および狩猟鳥を含む鳥を包含する脊索動物亜門を意味するが、それらだけに限らない。本用語は、特定の年齢を意味しない。それゆえ、成体および新生児の各々を範囲とする。
【0068】
調節可能な転写因子および/もしくは導入遺伝子をコードするAAVベクターの「治療上有効な用量もしくは量」によるとは、AAVベクターが本明細書の記載通りに投与される時に陽性の治療応答、例えば、神経疾患の症状の改善もしくは進行の抑制をもたらす量が意図される。例えば、治療上有効な量のAAVベクターの投与は、パーキンソン病を治療する患者内で治療因子(例、AADC、GDNF)の発現を生じ、例えば、運動機能を改善するか、または静止時の震えの軽減などの症状を改善するかもしれない。必要とされるAAVベクターの適正な量は、種、年、および患者の総体的な状態、処置される状態の程度、および使用される個々の化合物、投与形態、およびその類似要素によって患者ごとに変化するであろう。
【0069】
(II、本発明の実施形態)
本発明の詳細を記述する前に、本発明では、特に例示された分子もしくは方法のパラメーターに限定されるものではなく、そのようなものとして当然に変更されてもよいことが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、個々の具体例を記述することのみを目的とするのであって、限定することを意図しないことも理解されるだろう。加えて、本発明の実施は、他に規定がない限り、ウイルス学、微生物学、分子生物学、組み換えDNA技および免疫学全ての通常の技術範囲内における慣用的方法を採用するだろう。このような技術は文献で十分に説明される。Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd edition,1989)、DNA Cloning:A Practical Approach,vol.I&II(D.Glover編)、Oligonucleotide Synthesis(N.Gait編,1984)、A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)、およびFundamental Virology,2nd Edition,vol.I&II(B.N.Fields and D.M.Knipe編)を参照。材料と方法の多くは本明細書に記述したものに類似するか、もしくは等価であり、本発明の実施に使用され得るが、好ましい材料と方法は本明細書に記述されている。
【0070】
本発明は、標的細胞において導入遺伝子の発現を調節するためのベクターの構築、方法およびキットを提供する。一の具体例では、細胞内で調節可能な導入遺伝子の形質導入に必要である配列が、複数の別々の組み換えAAVベクター分子上に提供される。実施例1および2においては、本発明の二重ベクターの具体例の構築物および使用を示す。別の具体例では、単一の組み換えAAVベクターが、標的細胞内で調節可能な導入遺伝子の形質導入に必要である全ての配列を運ぶ。実施例3においては、本発明のこのような単一ベクターの一つの具体例の構築物および使用を示す。
【0071】
一の具体例において、AADC遺伝子の調節可能な形態が標的細胞に送達される。実施例1および2は、AADC遺伝子の調節可能な形態の送達を示す。別の具体例では、GDNF遺伝子の調節可能な形態が標的細胞に送達される。実施例3は、GDNF遺伝子の調節可能な形態の送達を示す。
【0072】
本明細書で使用される用語、導入遺伝子は、ある具体例において、すでに標的細胞に存在する内在性遺伝子の付加的なコピー、もしくは配列変化を包含する、導入遺伝子の起源にかかわらず標的細胞に送達される遺伝子を意味する。導入遺伝子は、いくつかの生物から得られた遺伝子配列もしくは部分的な遺伝子配列であって、このような遺伝子の遺伝学的に改良された配列変化、あるいは合成(非自然発生)DNA配列であり得る。導入遺伝子は、タンパク質をコードするメッセンジャーRNAの産生を指示し得るか、またはアンチセンス、リボザイム、三重鎖形成性、RNAiもしくは他のRNA配列などの生物学的な活性RNA分子をコードし得る。
【0073】
本明細書で使用される調節可能な導入遺伝子は、遺伝子が標的細胞に形質導入された後に、誘導体の投与によって発現が変化可能な遺伝子である。治療上の導入遺伝子発現の調節は、導入遺伝子産物レベルの薬理学的制御を提供する。一つのこのような小分子薬物はラパマイシンである。
【0074】
一の具体例では、本発明の調節可能な遺伝子発現系は、ラパマイシンもしくはAP21967、非免疫抑制ラパマイシン類似物の存在下でのイムノフィリンFKBPおよび脂質キナーゼ相同体FRAPの特異的な二量体化を利用することで、特異的に誘導可能なプロモーターを活性化する活性な転写因子の複合体を産生する。Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32。AP21967の構造を下記に提供する。
【化1】
【0075】
AP21967(分子量1017.4Da)は、米国特許第6,649,595号(‘595特許)の化合物69で示される7−メチルインドリル類似物であり、その中の実施例5に記述されるように、7−メチルインドールをジメトキシベンゼンに置換させることによって調製され得る。AP21967は、インドール環上に7−メチル基を有することを除いて‘595特許の化合物71に一致する。
【0076】
他のラパマイシン類似物もまた、本発明の範囲から逸れることなく使用され得る。ラパマイシン類似物は、患者の内在性FRAPと相互作用せず、所望しないラパマイシンの免疫抑制性および細胞周期阻害性効果を潜在的に有さないであろう。Pollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26。FRAP変異型は、二量体化物系の活性化ドメイン融合タンパク質のFRB部分の使用によって、非免疫抑制性ラパマイシン類似物への結合能を維持するように作成され得る。例として、Pollockら(2000)を参照。
【0077】
(AADCの調節発現)
実験は、in vitroのHeLaD7−4細胞において、およびin vivoのパーキンソン病(PD)の齧歯類モデルにおいて、AAVベクター介在のラパマイシン依存性AADC導入遺伝子発現の調節を用いて行われる。ヒトAADC(hAADC)導入遺伝子の発現は、実施例1ならびに図1Aおよび1Bでさらに記載されるベクターを用いて二量体化物ラパマイシンによる機能的な転写因子(TF)の再構成に依存してなされる。転写因子AAVベクターは、転写因子のDNA結合ドメインおよび活性化ドメインを送達することに使用され、発現AAVベクターは調節可能なプロモーターの制御下においてhAADC導入遺伝子を送達することに使用される。
【0078】
(In vitroのAADC調節)
In vitroのヒト細胞における二量体化物依存性AADC発現を行う実験を実施例1に記述した。実施例1で使用される二量体化物、AP21967は、ラパマイシンより約3倍少ない活性を有する非免疫抑制性ラパマイシン類似物である。結果を図2に示し、一番右のデータは、二量体化物依存性転写因子(AAV−CMV−TF)をコードするベクターと共形質導入された細胞におけるラパマイシン用量依存性hAADC発現(AAV−Z12−hAADC)を示す。ELISAデータは、AADC発現がAP21967の非存在下より25nM AP21967の存在下では9倍高いことを示す。25nMは、AP21967の最大限に有効な濃度であり、in vitroにおいて導入遺伝子発現に安定的なレベルを与える。25nMのAP21967における調節可能なプロモーターからのhAADC発現は、構成性CMVプロモーターの制御下(AAV−CMV−hAADC2)におけるhAADC発現の約半分のレベルである(図1C、およびSanftnerら(2004)Mol.Ther.9:403−9)。
【0079】
両方のベクター(AAV−Z12−hAADCおよびAAV−CMV−TF)を有する細胞は、AP21967の非存在下で低レベルのAADC産生のみを示す、すなわち、系は「漏洩しやすい」ものでない。漏洩の非存在は、導入遺伝子が必要に応じて総体的に遮断可能であることを裏付け、広範囲な薬理学上の調節を提供するために遺伝子治療にとって重大であり得る。
【0080】
(In vivoにおけるAADC調節)
In vitroにおける二量体化物調節hAADCのAAV介在形質導入を行うことに使用された同一ベクター(図1Aおよび1B)が、実施例2で記述されるように、線条体脱神経の外科的モデルである、パーキンソン病の6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)ラットモデルのin vivoにおいて調べられた。処置日程を図3において図式的に表わす。図4で示されるように、パーキンソン病ラットにAAV−CMV−TFおよびAAV−Z12−hAADCの両方を形質導入し、次に一連のラパマイシン処理後にそれらの回転行動を測定する。
【0081】
ラパマイシンの適正な濃度が以前に調べられているという単純な理由から、in vivo実験においては、in vitroで使用したAP21967よりむしろラパマイシンを使用する。二量体化物のラパマイシンは、ヒト遺伝子治療における誘導体としての使用に多くの有利な特性を有するが、その特有な免疫抑制性がその利用性を限定し得る。AP21967のようなラパマイシンの非免疫抑制性類似物は、特にヒト患者の処置において、導入遺伝子発現の優れた誘導体であり得る。In vivoである動物およびヒトの患者におけるAP21967の適正な用量は、臨床試験を含む一般的な実験方法によって決められてよい。
【0082】
L−dopaおよびラパマイシン投与の組み合わせによる調節hAADCベクターの形質導入は、ドーパミンの有意なレベルの産生に一致する6−OHDA損傷ラットにおける行動効果を生じる。図4で表されるように、ラパマイシン処理は、損傷線条体でhAADC発現を可逆的に増加させ、それは、ベクター注入(+)rap群においてラパマイシン使用停止によって可逆的である5mg/kgに対する変化した回転応答によって示される。ベクター注入(+)ラパマイシン群のL−dopaに対する回転応答は、3、5および7週において、ラパマイシン処置直後にはベクター注入(−)ラパマイシン群および賦形剤注入コントロール群の両方を上回って有意に増加する(P<0.001)が、4および6週ではコントロールレベル近くに戻る。
【0083】
定量的リアルタイムPCRにおいては、2つの群で観察された異なる結果の説明としての異なる形質導入効率の可能性を排除するため、ベクター注入(+)ラパマイシン群およびベクター注入(−)ラパマイシン群のラットが同等コピー数のhAADC遺伝子で形質導入されたことを確認する。
【0084】
研究の終了時点で実施された免疫組織化学およびタンパク質発現アッセイ(表1ならびに図5、6および7)は、以下において詳細を考察するような行動結果を裏付ける。
【0085】
図5Aは、ベクター注入(+)ラパマイシン群由来のラット線条体の中間にある棘状神経におけるAADCの強度の免疫組織化学染色、それゆえ有効な導入遺伝子発現を示す一方、図5Bは、ベクター注入(−)ラパマイシン群由来ラットにおける非常に低レベルのAADC発現のみを示す。
【0086】
図6A−6Cは、AADCの免疫組織化学で染色されたホールマウント脳切片の低倍率図を表す。結果は、ベクター注入(−)ラパマイシン群由来ラットの左側(処理済み)半球(図6A)と比較してベクター注入(+)ラパマイシン群由来ラットの左側(処理済み)半球(図6B)では、AADCが有意に高いレベルの発現であるという視覚的な確認を与える。ベクター注入(−)ラパマイシン群由来ラットの結果は、コントロール賦形剤注入ラットの結果に類似する(図6C)。
【0087】
免疫組織化学の立体的解析は、陽性細胞のカウントで測定される発現レベルが、ベクターがラパマイシンとの組み合わせで投与される時に有意に増加することを確認する。表1は、ラパマイシン誘導およびラパマイシン未誘導ラットにおける定量的立体解析による導入遺伝子由来の免疫染色および推定された陽性細胞数の結果を表す。ラパマイシン誘導ラットは、未誘導ラットと比較すると、約2倍のAADC免疫染色の前後方向の拡散、AADC免疫染色の拡散体積、およびAADCの陽性細胞数を示す。
【0088】
総体的なタンパク質解析は、タンパク質レベルでさらにより大きな相違を示す。図7で示すように、線条体タンパク質サンプル電気泳動後のhAADC酵素レベルのウエスタンブロット解析は、(−)ラパマイシン群と比較して(+)ラパマイシン群においては有意により高いhAADC発現を示す。内在性AADC発現が図7のプロットされたデータから差し引かれると、hAADCレベルは(+)ラパマイシン群と比較して(−)ラパマイシン群では88%低い。
【0089】
未誘導ラットで観察される低レベル発現はin vivoの調節系における「漏洩」を示唆するが、実施例2で記述される実験結果は、hAADC遺伝子発現が二量体化物ラパマイシンによって誘導されることを示す。系の漏洩理由は明白ではなく、結合転写因子の非存在下で最小IL−2プロモーター由来の未調節発現によって引き起こされるかもしれないが、理論によって限定することを意図しない。しかしながら、誘導なしで観察される低レベルのhAADCは、治療用量以下のL−dopaに応答する行動を引き出すのに十分ではなく、誘導薬剤の非存在下で誘導可能なプロモーターによって生成される少量の遺伝子発現が、この特定用途に許容可能であるかもしれないことを示唆する。
【0090】
In vivoにおいて所望するレベルの導入遺伝子誘導を生じるためのラパマイシン(もしくは類似物)の適正な投薬量は、治療プロトコールにおいて一般的であるように、ケースバイケースで実験によって調べられてよい。投薬量を表現型の測定もしくは代理マーカーに基づいた試行錯誤によって調節してよい。また、投薬量を患者の標的組織もしくは血中におけるラパマイシンの所定標的濃度を達成するようにも調節し得る。静脈注射によって導入される場合、典型的な投薬量は0.01から50mg/kg、好ましくは0.1から10mg/kgの範囲であり、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.8、0.9、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10mg/kgである。ヒトの患者を処置する場合において、投薬量は臨床試験の結果を参照に決定されるか、あるいは動物データから推測され得る。
【0091】
組み換えAAVベクターは、送達される導入遺伝子、その作用メカニズム、および所望する標的細胞に応じて、脳の様々な局所に外科的に導入され得る。例えば、基底ガングリアは皮質下に位置する神経群である。それらは、尾状核、被殻、および淡蒼球を含む。尾状核および被殻は、一緒になって大脳基底核の線条体(もしくは単に線条体)を形成する。尾状および被殻は各々、黒質緻密部(SNpc)および黒質網様部から成る黒質と相互に連結される。SNpcはドーパミン生合成の通常部位であり、SNpcの変性はPDの特徴である。大脳基底核線条体の被殻もしくは尾状核の神経にAADCのようなドーパミン生合成経路の酵素をコードする遺伝子を形質導入することによって、ドーパミン合成が回復され、それによって機能的に減少したSNpcネットワークを克服可能である。
【0092】
大脳基底核の線条体細胞は、当該技術分野で知られる多様な技術を用いて形質導入され得る。例えば、定位注射は、様々な化合物をCNSに投与するために神経外科医によって使用される一般的な外科技術である。直接注射もまた使用され得る。この技術を使用する場合、CT、PET、もしくはMRIスキャンからの解剖学的なマップが、注射部位を選択する際に補助するために外科医によって用いられ得る。対流促進送達(出典明示により本明細書に取り入れた米国特許第6,309,634号で詳細に記述される)を含む他の技術が、rAAVビリオンをCNSに送達する本発明の方法に採用され得る。
【0093】
実施例1および2で記述される実験は、別々のベクターが転写因子融合タンパク質および導入遺伝子を送達することに使用される、本発明の二重ベクターの具体例に関する。他の具体例では、異なる遺伝子が発現ベクター内のhAADCに代わって使用される。最大約5000−5200ヌクレオチド(nt)がAAVビリオンにパッケージされ得、最適であるのは約4500ntである。Dongら(1996)Hum.Gene Ther.7:2101−12。図1Bで表される一つのようなrAAV発現ベクターの他の必要な配列エレメント(例、ITR領域、プロモーター、転写因子結合配列、等)が与えられると、発現ベクター内の導入遺伝子配列は約2500ヌクレオチド(nt)もないかもしれない。この大きさの制限内において、所望する導入遺伝子が本発明の二重ベクターの具体例で示されるrAAV発現ベクター構築物を用いて送達され得る。より短小化されたITR、プロモーターもしくは転写因子結合領域を有する最適化された発現ベクターの改良型は、より長い導入遺伝子配列の送達を可能にするように構築され得る。
【0094】
実施例1および2の結果は、二量体化物依存性hAADC導入遺伝子の発現が、本発明の二重ベクターrAAV介在の具体例を用いてヒトの培養細胞、およびin vivoのラット神経において調節され得ることを示す。
【0095】
(単一ベクター系におけるGDNF調節)
実施例3で記述されるように、実験を本発明の単一ベクターの具体例を用いて行い、単一のrAAVベクターを、GDNF導入遺伝子発現の二量体化物依存性調節に必要である全てのタンパク質を発現するように設計した。調節されたrAAVのhGDNF発現ベクターの図式を、図8Aで提供し、構成性(非調節)hGDNF発現を有するコントロールベクターの図式を図8Cで提供する。(図8Bは、実施例3で使用されない調節GDNF発現ベクターの代替的なデザインを示す。)プラスミドベクターをin vitroでHEK−293細胞に一時的にトランスフェクトさせる。次に細胞を0、5もしくは25nMのラパマイシンを含む培地で処理する。
【0096】
トランスフェクション3日後に行なったGDNFのELISAの結果を図9で表す。データは、構成的に発現したGDNF(pAAV−CMV−hGDNFを意味する「CMV−GDNFプラスミド」)からの発現の最大で約4分の1レベルの観察された発現を有する、調節された構築物(pAAV−TF−Z8−hGDNFを意味する「TF−GDNFプラスミド」)でトランスフェクトされた細胞におけるGDNFのラパマイシン投与量応答性発現を表す。pCMV−GDNFからのGDNF発現はラパマイシンの添加によっても増加しない。
【0097】
実施例3に記載される実験は、ヒトの培養細胞において、GDNF発現が単純に小分子誘導体ラパマイシンの添加によって調節され得るような、単一ベクター調節可能なAAV−GDNF構築物が構築され得ることを表す。結果は、GDNF発現が調節可能なAAV−GDNFベクターによってin vivoの患者でも調節され得ることを示唆する。実施例3の単一ベクターは、前記で考察した二重ベクターの具体例における転写因子ベクターおよび発現ベクターの両方の役割を果たす。2つのベクターを標的細胞に共トランスフェクションする必要がある二ベクター法と比較して、単一ベクターによる処置は、調節可能なGDNFを導入するために1回の形質導入イベントのみを必要とする点で有利である。この単一ベクターの具体例の利点は、非常に少ない割合の標的細胞が両ベクターによって同時に形質導入されると予想される遺伝子治療方法などの低形質導入効率を供するプロトコールに対して特に有意である。例えば、非依存性形質導入効率を推定すると、全体の形質導入効率が各ベクターについて5%である場合、細胞の僅か0.25%のみが両方のベクターで形質導入されるだろう。
【0098】
AAVビリオンにパッケージされるベクターが約5000−5200ヌクレオチド(nt)より長いことはあり得ないことから、単一ベクターの調節可能な構築物は、比較的短い導入遺伝子の送達のみに有用である。例えば、図8Aで表されるrAAVベクターで使用される転写因子融合タンパク質および調節エレメントの特定の選択物(実施例3で使用されるように)と一緒で、導入遺伝子(GDNF)配列は約600nt長である。配列エレメントのより効率的な置換とともに、不必要なヌクレオチドが融合タンパク質および調節可能なエレメントから除去された、最適化単一ベクター調節可能なAAV−構築物を用いて、より長い導入遺伝子配列、例えば、850まで、もしくは1000ntでさえが送達可能である。AAV−パッケージの大きさ制限内において、所望する導入遺伝子が本発明の単一ベクター構築物を用いて送達され得る。導入遺伝子は、単一ベクターの送達を促進するために、全長の遺伝子よりもむしろ所望する遺伝子の活性部分断片を含み得る。
【0099】
特定の治療効果を達成するために必要とされるrAAVビリオンの用量、例えば、体重キログラムあたりベクターゲノムの単位用量(vg/kg)は、rAAVビリオン投与経路、治療効果を得るために必要とされる導入遺伝子発現レベル、ならびに異種性遺伝子産物の安定性を包含するいくつかの因子に依存してよいが、それらだけに限らない。当該技術分野における技術の一つは、前記の因子、ならびに当該技術分野でよく知られる他の因子に基づいた特定の病気もしくは疾患にかかっている患者を処置するrAAVビリオンの用量範囲を決定しうる。本発明のいくつかの具体例では、哺乳類で形質導入を生じさせることに使用されるrAAVの適正用量は、1X108vg/kgから1X1015vg/kgまで、好ましくは4X109vg/kgから4X1012vg/kgまでの範囲であり得るが、実験で調べられることによってより高いもしくは低い用量であってもよい。AADCおよびGDNFを本明細書の実施例で典型的な導入遺伝子として示すが、送達される特定の導入遺伝子を本発明の態様に限定しない。他の遺伝子もしくは遺伝子の一部は、利益的な(例、治療上の)効果を提供することが期待され、その配列がAAVビリオンにパッケージされ得るAAVベクター構築物内に合うほどに短い場合、本発明のベクター、方法およびキットを用いて脳に導入され得る。
【0100】
上記で議論したように、AADC(OMIM107930、EC4.1.1.28、ジェンバンク受託番号M76180)は、ドーパミン生合成に関する導入遺伝子である。ドーパミン生合成に関連する他の可能性のある導入遺伝子は、チロシン水酸化酵素(TH)(OMIM191290、EC1.14.16.2、ジェンバンク受託番号X05290)およびグアノシン三リン酸シクロヒドロラーゼI(GCH)(OMIM600225、EC3.5.4.16、ジェンバンク受託番号NM_000161)である。さらに他の可能性のある導入遺伝子は、GDNF(OMIM600837、ジェンバンク受託番号AX713049、L19063)ならびにアルテミン(artemin)(OMIM603886、ジェンバンク受託番号AF109401)、ニューチュリン(neurturin)(OMIM602018、ジェンバンク受託番号HSU78110)、およびパーセフィン(persephin)(OMIM602921、ジェンバンク受託番号AF040962)などのGDNFタンパク質ファミリーの他のメンバーを包含するニューロトロフィンを含む。Saarmaら(1999)Microscopy Res.Tech.45:292−302。さらに他の導入遺伝子はIL−10(OMIM124092、ジェンバンク受託番号M57627)を含む。
【0101】
OMIM番号は、ジョンホプキンス大学によって管理されているOnline Mendelian Inheritance in Manのデータベースを意味し、国立医学図書館のウェブサイトwww.ncbi.nlm.nih.gov/entrez.を通してインターネット上で利用可能である。本明細書に記載される全てのOMIM項目の内容、および受託番号で記載される配列は、出典明示により本明細書に一体化させる。
【0102】
ジェンバンク受託番号は代表的な完全なcDNA配列のみを提供し、本発明の範囲を制限することを意図しない。特に、可能性のある導入遺伝子は、ジェンバンクで報告された他の遺伝子、自然遺伝子の全長および部分断片、他種由来の相同性遺伝子、これらの配列の対立遺伝子多型、ならびに自然発生もしくは人工創出変異型の遺伝子を含む。
【0103】
導入遺伝子はまた、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、カナバン病、脳虚血、進行性核上麻痺、レビー小体型認知症、シャイ・ドレガー症候群、AIDS認知症候群、本態性振戦、筋失調症、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症および網膜変性(例、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、緑内障)などの他の神経変性疾患を処置するための遺伝子も含む。
【0104】
誘導体は、好ましくは有意な毒性もしくは副作用を有さずにヒト患者に送達され得る化合物から選択される。神経系もしくは他のCNS疾患を治療するための好ましい具体例において、誘導体は血液脳関門を通過することが可能である。より好ましい具体例において、誘導体は二量体化物、例えば、ラパマイシンもしくはその非免疫抑制性類似物である。
【0105】
いくつかの具体例において、誘導体は局所的、例えば、皮下、筋肉内、眼球内もしくは静脈内注射によって送達される。好ましい具体例において、誘導体は、経口的に、局所に鼻腔送達による(スプレー式点鼻薬)、エアロゾル/肺送達による(吸入器)、眼の送達による(点眼)もしくはその他の利便的な送達様式によって、比較的便利に送達され得る一つである。誘導体はまた、経皮貼布、皮下移植、埋め込み型浸透圧ミニポンプ、機械的輸液ポンプもしくは制御放出医薬組成物を用いて継続的もしくは半継続的に送達されてもよい。
【0106】
本発明によるrAAVベクターのストックは、AAVビリオン生成のための当該技術分野で知られるいくつかの方法を用いて調製されてよい。野生型AAVおよびヘルパーウイルスが、rAAVビリオン生成用に必要な複製機能を提供するために使用され得るか、あるいは、プラスミドが、ヘルパー機能遺伝子(例、pHLP19)、補助的な機能遺伝子(例、pladeno5)のどちらか、または三重形質導入法の場合ではそれら両方を供給するために使用され得る。出典明示により本明細書に一体化させた、米国特許第5,139,941号、第5,622,856号、第6,001,650号および第6,004,797号を参照。
【0107】
In vivo送達用では、rAAVビリオンは、適切な用量の一種以上のrAAVビリオンおよび医薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物に製剤化される。このような賦形剤は、個々の受容組成物に有害である抗体の産生を自身で誘導せず、過度の毒性を伴うことなく投与され得る薬学的な剤を含む。医薬上許容される賦形剤は、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールなどの液体を包含するが、それらだけに限らない。
【0108】
医薬上許容される塩は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩およびその類似塩などの鉱酸塩、ならびに酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩、およびその類似塩などの有機酸塩を含み得る。加えて、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝薬剤、およびその類似薬剤などの補助薬物がこのようなビヒクル内に存在する。医薬上許容される賦形剤に関する詳細な考察は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE(Mack Pub.Co.,N.J.1991)で利用可能である。
【0109】
いくつかの具体例において、本発明のrAAVビリオンは、長期ストックおよび繰り返される凍結融解サイクルへの曝露に対するウイルスの安定性を高め、輸液用器具へのベクターの付着を軽減させる賦形剤を包含する医薬組成物として供給される。好ましい具体例において、賦形剤は、標的組織、例えば、CNSでは低い毒性を示す。例えば、ビリオンは、0.01%から0.0001%、好ましくは0.001%のプルロニックF−68(ニュージャージー州、マウントオリーブのBASF社)を含む緩衝液でストックされ、供給され得る。付加的な化合物および賦形剤が、出典明示により本明細書に一体化させた米国特許第6,759,050号および第6,764,845号に記述される。
【0110】
別の態様において、本発明は、導入遺伝子の調節発現用キットに関する。いくつかの具体例では、図1Aおよび1B、または図8Aもしくは8Bで示されるベクターに実質的に同一である一種以上のベクターがこのようなキットに含まれる。
【0111】
他の具体例において、図1B、8Aもしくは8Bで表されたベクターに類似するベクターは、AADCおよびGDNFのコード配列がポリリンカーなどの利便的なクローニング配列によって置換されることを除くこのようなキットに含まれる。図1Bで示されるベクターに類似する発現ベクターが、二重ベクター法で有用である一方、図8Aおよび8Bで示されるベクターに類似するベクターは、本発明の単一ベクター法において有用である。本発明のキットの使用者は、目的の遺伝子もしくは遺伝子断片を発現ベクターにクローン化し、続いて形質導入用にrAAVビリオンを調製し得る。
【0112】
二重ベクター法で使用する発現ベクターを包含しているキットはまた、図1Aで示されるベクターに実質的に類似する転写因子ベクターも含んでもよい。
【0113】
キットはまた、ラパマイシンもしくはその類似物を選択的に含んでもよい。
【0114】
キットはまた、米国特許第6,001,650号および第6,004,797号でさらに十分記載されるように、プラスミドpHLP19およびpladeno5などのrAAVビリオンストックの調製に使用するプラスミドを選択的に含んでもよい。
【0115】
キットは使用説明書を含んでもよい。
【0116】
いくつかの具体例において、本発明の遺伝子治療ベクター、方法およびキットは、治療効果を提供するために、パーキンソン病のような病気にかかっている患者に投与される。一般的に言うと、「治療効果」は、患者の病気もしくは疾患が症状の改善を示すような、所望する結果もしくは臨床治療の終結に向けた病気(もしくは疾患)の要素を変化させるのに十分な一つ以上の導入遺伝子の発現レベルであって、しばしば病気もしくは疾患に関する臨床的徴候もしくは症状の改善によって反映されることを意味する。パーキンソン病の場合では、治療効果は、例えば、手先の器用さの改善によって現れた運動機能、(例、繊細な運動作業)の改善であり得る。代替的には、静止時の震えの減少もPD改善の徴候であり得る。特定のPD処置に対する治療の有効性(すなわち、治療効果)を調べるために、いくつかの他の当該技術分野公知の観察および測定可能な評価項目がある。
【0117】
PDの臨床的徴候および症状を示しているヒトの患者において、医師は、病気の程度を評価し、また特定の処置様式の治療の有効性を測定するために、よく知られるパーキンソン病統一スケール(UPDRS)にしばしば依存する。UPDRS系に類似して、科学者は、微細運動テスト、静止時の震え、運動緩慢、運動低下、および筋固縮などの他の特徴について測定する、霊長類パーキンソン病統一スケール(PPRS、治療評価スコア−CRSとしても知られる)を用いてPDの霊長類モデルにおいてPDの特徴を評価する。PPRS系は、Langstonら(2000)Ann.Neurol.47:S79−89に記述されている。
【0118】
(III、実験)
以下は、本発明を実施するための特定な具体例である。実施例においては、事例的な目的のみを提案し、決して本発明の範囲を限定することを意図していない。使用される数量(例えば、量、温度など)に関して正確性を裏付ける試みを行ったが、いくぶんかの実験誤差および狂いは許されるべきであろう。
【実施例】
【0119】
実施例1
(In vitroにおけるAADCの調節発現)
In vitroにおけるAADC導入遺伝子の調節を以下の通りに行う。
【0120】
(AAVベクター)
hAADCの二量体化物依存性発現を実践するために2つのベクターを構築する:AAV−CMV−TFおよびAAV−Z12−hAADC。図1Aは、AAV−CMV−TFの図式であり、その中のサイトメガロウイルス(CMV)のエンハンサー/プロモーターは、活性化ドメインおよびDNA結合ドメイン融合タンパク質の2シストロン性メッセージの発現を促進する。活性化ドメイン融合タンパク質は、NFκBのp65サブユニット(p65)由来の転写活性化ドメインに連結されたヒトFRAPのラパマイシン結合ドメイン(FRB*)を含む。本具体例で使用された特定のFRBドメイン(FRBT2098L)は、図1Aで表され(FRB*)、野生型FRB配列と比較すると、2098番目でTからLへの変異が入っている。Pollockら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13221−26。FRBT2098Lは、AP21967もしくはラパマイシンのどちらかを用いてDNA結合ドメイン融合で二量体化され得る。
【0121】
配列内リボソーム進入部位(IRES)は脳心筋炎ウイルスに由来する。DNA結合ドメイン融合タンパク質は、ヒト転写因子Zif268、Oct−1由来のホメオドメインの2つのDNA結合ドメイン(ZFHD1)、および細胞質受容体FK506由来の3つの薬物結合ドメイン(3xFKBP)を含む。図1Bは、AAV−Z12−hAADCの図式であり、ヒトAADC(hAADC)の発現は最小IL−2プロモーターに連結された転写因子の12個の結合部位によって制御される。AAV2の末端逆位配列(ITR)、hAADCコード配列(hAADC)およびヒト成長ホルモンのポリアデニル化領域(pA)を示す。
【0122】
(In vitro発現解析)
hAADCの遺伝子発現を調節する能力を、1:1の割合のAAV−CMV−TFとAAV−Z12−hAADCをHeLaD7−4細胞に共形質導入し、続いて0、5もしくは25nMのラパマイシン類似物AP21967(マサチューセッツ州、ケンブリッジのARIAD Pharmaceuticals,Inc.)で細胞を処理することによってin vitroにおいて測定する。結果を図2で表し、それらは、非形質導入細胞、転写因子ベクター単独を形質導入された細胞(AAV−CMV−TF)、構成性発現hAADCベクターを形質導入された細胞(AAV−CMV−hAADC2)、ならびに転写因子ベクターを除いた調節hAADCベクター(AAV−Z12−hAADC)を形質導入された細胞を包含する様々なコントロール実験を含む。
【0123】
実施例1で使用された実験方法に関する実験の詳細は以下の通りである。
【0124】
(ベクターの構築)
AAV−CMV−TFは以前に記述されている(AAV−CMV−TF1Nc、Auricchioら(2002)Mol.Ther.6:238−42)。pAAV−hAADCのCMVエンハンサーおよびプロモーター(Sanfinerら(2004)Mol.Ther.9:403−9)を、最小IL−2プロモーターの上流にあるZFHD1のDNA結合ドメインの12個の結合部位を含む、Z12−IL2−SEAPの領域(Riveraら(1996)Nat.Med.2:1028−32)に置換することによって、AAV−Z12−hAADCを作成する。
【0125】
(組み換えベクターの産生)
組み換えAAVベクター(血清型2)をHEK−293(ATCC受託番号CRL1573)細胞における三重トランスフェクションによって作成し、塩化セシウム密度勾配遠心によって精製する。Grimmら(2003)Blood102:2412−9。簡単に説明すると、rAAVを含む細胞の回収を微量流動化させ、0.2−μmのフィルターを通して濾過して行う。ベクターを塩化セシウム密度勾配遠心によって抽出された細胞溶解物から精製し、送達カテーテル内の本ベクター喪失分が添加された0.001%プルロニックF−68(ニュージャージー州、マウントオリーブのBASF社)を含む、pH7.4の5%ソルビトールを包含するリン酸緩衝食塩水(PBS−ソルビトール)で限外濾過およびダイアフィルトレーション(diafiltration)によって濃縮する。ベクターの純度をSDS−PAGEで測定する。本研究で使用された精製rAAVベクターは、SDS−PAGEゲルの銀染色によるVP1、VP2、およびVP3のみを示す。力価をベクターゲノムのQ−PCR解析で調べる。
【0126】
(発現ELISAによるin vitroのAADC解析)
発現ELISAにおいては、hAADCに対する抗体を用いて透過性HeLaD7−4細胞中のhAADCタンパク質の発現を測定する。HeLaD7−4細胞をrAAVベクターで形質導入させ、3つの異なる濃度(0、5、25nM)のAP21967で処理する。各群n=3。形質導入の24時間前に細胞を96ウェルプレートに蒔く。細胞に完全培地100μl中で(多重ベクターを使用する時は各ベクターの)104vg/細胞のMOIで形質導入させる。
【0127】
ELISAを形質導入48時間後の細胞で行う。簡単に説明すると、培地を吸引し、細胞をPBSで洗浄する。細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、室温で20分培養する。細胞をPBSで洗浄し、振盪させながら、ブロッキング緩衝液(PBS中の3%ヤギ血清、0.5% TritonX−100)でブロックし、次に振盪しながら室温で60分間培養する。一次抗体(AB136ラビット抗hAADC、Chemicon社、1:1000)を洗浄緩衝液(PBS中の1%ヤギ血清、0.5% TritonX−100)で希釈し、室温で60分間シェーカーによって反応させる。プレートを洗浄緩衝液で洗浄し、二次抗体(ヤギ抗ラビットIgG−AP(カリフォルニア州、バーリンゲームのVector Labs)、洗浄緩衝液中に1:1000)と室温で30分間シェーカーにおいて反応させる。プレートを洗浄緩衝液で洗浄する。基質溶液〔基質緩衝液(100mM NaHCO3、pH10.0)(カリフォルニア州、バーリンゲームのVector Labs)中の1Xp−ニトロフェニルリン酸、1Xレバミゾール(消光剤)〕を添加し、プレートを30−60分間室温で反応させ、次にプレートリーダーでOD405を読み取る。このhAADCの発現ELISAからのデータを、AAV−CMV−hAADC2基準ロットの形質導入の投与反応曲線と比較して、ベクターを形質導入された細胞で測定された相対光学密度として報告する。
【0128】
実施例2
(In vivoにおけるAADCの調節発現)
In vitroにおいて二量体化物調節hAADCのAAV介在形質導入に使用された同一ベクターを、パーキンソン病の6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)ラットモデルにおいて、以下のようにin vivoでもテストする。より高い可能性と公知の薬学動態から、実施例2では、AP21667の代わりにラパマイシンを二量体化物として使用する。ラパマイシンは、in vivoで急速なクリアランスを伴う約10時間の半減期を有する。Gallant−Haidnerら(2000)Ther.Drug Monit.22:31−5。
【0129】
本実施例で使用される全てのラットを、一側的に左側を6−OHDAによって損傷させる。3つの実験群、すなわち、賦形剤注入コントロール群(賦形剤注入(+)ラパマイシン処理)、ベクター注入(−)ラパマイシン処理コントロール群、およびベクター注入(+)ラパマイシン処理群がある。ベクター注入(−)ラパマイシン群はラパマイシン非存在下のhAADC遺伝子発現のコントロール、すなわち、系が漏洩するかを調べるためのコントロールを供給する。
【0130】
AAV−CMV−TFおよびAAV−Z12−hAADCの1:1混合物(各3x1010ウイルスゲノム(vg))を片側6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)損傷ラットの同側に注入した。賦形剤のみを賦形剤注入コントロール群に注入する。以下で考察するように、導入遺伝子の発現は設定時点におけるラパマイシンの腹腔内注射を介してもたらされる。
【0131】
図3は、本実施例で記述される実験の時系列を示す。rAAV処理前において、L−dopa(5mg/kg)投与による基準回転テストを全ての群で行う。ベクターもしくは賦形剤を0日目で線条体内に注入する。17日目のラットをラパマイシンで誘導するか、あるいは希釈剤で処理する。誘導は、4日連続の10mg/kg/日のラパマイシン腹腔内注射から成る。(ラパマイシンを4日連続投与して脳中での最大循環レベルを確保する。)図4の矢印は、4日間のラパマイシン誘導の初回を示す。21日目のラットにおける5mg/kgのL−dopaに対する回転応答を再度テストする。ラットは一週間にわたってラパマイシンから回復させ、続いて28日目に応答テストを行う。31日目のラットに2回目の誘導を行い、35日目に回転応答をテストする。一週間にわたってラパマイシンから回復させた後、回転テストを42日目で繰り返した。45日目のラットに3回目の誘導を行い、続けて最後の誘導後の49日目に最後の回転テストを行う。この時の誘導(+ラパマイシン)状態でラットを安楽死させ、免疫組織化学が行われる。
【0132】
(L−dopaに対する行動回転応答)
ドーパミンのアゴニストに対する古典的な回転応答を用いた行動解析を行う。今回の場合には、アゴニストは、PDの片側性6−OHDAラットモデルにおいて外因性L−dopaから合成されるドーパミンである。Ungerstedt(1971)Acta Physiol.Scand.Suppl.367:69−93。図4で示されるように、形質導入3週後のベクター注入(+)ラパマイシン群ラットは、ベクター注入(−)ラパマイシン群のラットより有意に高いL−dopa(5mg/kg)に対する強い対側回転応答を示す(60分間で16.33±21.92の右旋回に対して215.13±73.86である。P<0.001)。統計的な差異を複数群用の一元分散分析を用いて比較する。
【0133】
ベクター注入(+)ラパマイシン群では、3、5、および7週におけるL−dopaに対する対側回転応答が、前注入のスコアもしくは時間を合わせた対照(ベクター注入(−)ラパマイシン群および賦形剤注入(+)ラパマイシン群)と比較して有意に上昇する(P<0.001)。対照的に、ベクター注入(+)ラパマイシン群は、前注入時点とその後のラパマイシン効果の引き下がった時点(4および6週)において2つのコントロール群(P>0.05)と有意な相違がない。
【0134】
ベクター注入(−)ラパマイシン群および賦形剤注入コントロール群は、いずれの時点でも有意な相違がない(P>0.05)。理論により拘束されるつもりはないが、両方のコントロール群における7週経過以降の緩やかな上昇は、反復されたL−dopa処理に対する感受性のためであるかもしれない。
【0135】
「オフ」ラパマイシン時点である4および6週におけるベクター注入(+)ラパマイシン群の回転応答は、同時点におけるベクター注入(−)ラパマイシン群もしくは賦形剤注入(+)ラパマイシン群と有意な相違がなく、誘導応答の可逆可能性を示す。hAADC発現の誘導、その後の未処理の週における減少した発現が3回以上の連続的なラパマイシン処理サイクルで観察されたという結果は、in vivoにおいてラパマイシン誘導遺伝子発現の誘導が生じるという結論を強める。
【0136】
(注入線条体におけるhAADC導入遺伝子コピーの定量)
定量的リアルタイムPCRを全てのラットで行うことで、両方のベクター注入群に等量コピー数のhAADC遺伝子が形質導入されていることを確認する。ベクター注入(+)ラパマイシン群におけるhAADC遺伝子のコピー数(222±92ゲノムコピー/20ngDNA)(±SD)は、ベクター注入(−)ラパマイシン群(229±48ゲノムコピー/20ngDNA)と相違がない。
【0137】
(免疫組織化学および発現の定量化)
hAADC発現のレベルを注入7週後の免疫組織化学的な解析によって評価する。ベクター注入(+)ラパマイシン群の代表的なラット線条体注入部位内の高率拡大図を図5Aに示し、ベクター注入(−)ラパマイシン群からのものを図5Bに示す。図5Aで表されるように、hAADC導入遺伝子発現は、ラット線条体の中間の棘状神経に局在する。対照的に、誘導されないベクター(ベクター注入(−)ラパマイシン群)を注入されたラットは、非常に低レベルのhAADC導入遺伝子発現を示す(図5B)。
【0138】
図6は、線条体注入7週後の各群からの代表的なラット由来のホールマウント脳切片におけるAADC免疫組織化学の低倍率図を示す。ラパマイシン誘導有り(A)もしくはラパマイシン誘導無し(B)のAAV−CMV−TF+AAV−Z12−hAADC(各ベクター3x1010vg)ラットをラパマイシン誘導した賦形剤コントロール(C)と比較して示す。左側半球は6−OHDA損傷および線条体内ベクター(もしくは賦形剤)注入部位である。右側半球は未損傷および非注入であり、右側半球の染色は未処理のAADC陽性線維由来の内在性染色を反映する。
【0139】
6−OHDA損傷は、内在性AADCの欠失を引き起こし、図6Cの賦形剤注入コントロール群でよく表されるように、左側半球における酵素の低い組織化学染色を生じる。ベクター注入(+)ラパマイシン群のラット全てが、注入された左側においてhAADC導入遺伝子染色を示す(例、図6Aを参照)。ベクター注入(−)ラパマイシン群のラットは、低レベルのhAADC導入遺伝子発現を有する(例、図6Bを参照)。このhAADC発現は、ベクター注入(−)rapラットの6匹中5匹で観察される。ベクター注入(+)ラパマイシン群と比較するとベクター注入(−)ラパマイシン群では、陽性細胞がほとんどなく、細胞当たりの染色が低強度であって、ラパマイシン非存在化における誘導可能なプロモーターからの低レベルのhAADC発現のみを示す。
【0140】
線条体内注入後すぐにラパマイシンを投与し、7週で安楽死させたラットから得られた連続脳切片において定量的な立体解析学をも行う。AADC免疫染色を固定させた脳組織の連続切片において立体解析学によって評価し、定量化する。統計的に最適化された空間的な試料採取手順と光学的な解像を組み合わせた、効率的に無作為に計数する方法である、光学的な分画装置の立体解析学プロトコールを用いる。Gundersenら(1988)Apmis96:857−81およびGundersen(1986)J.Microsc.143(Pt1):3−45。結果を表1で表す。表1は、ベクター注入(+)ラパマイシン群が、最も広い染色の前後方向への拡張(3,720±1,276μm)(±SD)である一方、ベクター注入(−)ラパマイシン群がより低いレベルの拡散(1,920±1,577μm)であることを明らかにする。
【表1】
(表1)ラットの脳におけるAADC発現
「n」は調べた半球の数である。
データ値を±標準偏差で表す。
ラパマイシン誘導群の平均の前後方向への拡張、拡張体積、およびAADC陽性細胞数は、Studentのt−検定による「非誘導」群(P<0.02)の値と統計的に異なる。
【0141】
表1はまた、線条体内の導入遺伝子陽性細胞の平均的な分布および拡張体積も表す。ベクター注入(+)ラパマイシン群は、最も多いAADC陽性細胞数(75,825+/−30,506細胞)であり、続いてベクター注入(−)ラパマイシン群(P<0.01)では、より少ない陽性細胞数(31,000+/−25,812細胞)であり、賦形剤注入コントロール群では、検出可能な発現が見られない(データなし)。同様に、ベクター注入(+)ラパマイシン群が、多くのhAADCの線条体拡散(15.75±8.16mm3)を示す一方で、ベクター注入(−)ラパマイシン群は、線条体拡散の55%低い体積(7.09±5.69mm3)を示す。
【0142】
立体解析学は、形質導入された線条体の神経数およびウイルスベクター粒子の分布の精密な測定である。しかしながら、細胞当たりで作成されたhAADC量が群の間で異なり得ることから、総体的なタンパク質解析が、産生hAADC酵素量のより正確な測定である。免疫染色によって観察された非誘導群におけるより低強度のhAADC発現がより低いhAADC発現の合計レベルと相互に関連することを裏付けるために、全タンパク質を連続的な組織切片から抽出し、ウエスタンブロット解析によって調べる。
【0143】
非誘導群におけるより低いhAADCタンパク質濃度を確認する。図7は、線条体内のhAADCのタンパク質レベル(50kDa)において変化を示す、ベクター注入(+/−)ラパマイシンおよび賦形剤注入(+)ラパマイシンの片側6−OHDA損傷ラット由来の関連ゲルバンドの図および統合されたバンド強度のプロットを示す。β−アクチンをローディングコントロールとして含む。AADCのバンド濃度は、両方のコントロール群と比較してベクター注入(+)ラパマイシン群で有意に高い、P<0.001。ベクター注入(+)ラパマイシンおよび(−)ラパマイシンのラット由来のウエスタンブロットのバンド密度は、注入7週後において、各々102.04±7.02メガピクセル(MP)および30.63±3.47MPである。平均の全AADCタンパク質レベルは、ベクター注入(+)ラパマイシン群と比較してベクター注入(−)ラパマイシン群では、内在性ラットAADCレベルを補正した後に88%まで減少する。これらのデータは、2群間のhAADC酵素レベルにおいて立体解析学によって推定された結果よりより大きな相違を示す。
【0144】
実施例2で使用された実験方法に関する詳細は以下の通りである。
【0145】
(外科的処置)
6−OHDA損傷スプラーグ−ドーリーラット(賦形剤注入およびベクター注入(−)ラパマイシン群用ラットn=6、ならびにベクター注入(+)ラパマイシン群用ラットn=8)をTaconic Farms(ニューヨーク州、ジャーマンタウン)から入手する。ラットを一般的な条件下:調節された温度と湿度、12時間の光周期、および餌と水の自由な提供、においてケージ当たり1匹で飼育する。ベクターを対流促進送達(convection−enhanced delivery、CED)によって注入して線条体中への最適な分布を成し遂げる。Bankiewiczら(2000)Exp.Neurol.164:2−14、Liebermanら(1995)J.Neurosurg.82:1021−9。簡単に説明すると、ベクターを1mlの気密ハミルトンシリンジから送り出されるオリーブオイルで満たされた管に接続したポリマーチュービング(OD、1/16’’;ID、0.030’’;ワシントン州、オークハーバーのUpchurch Scientific社)にロードする。ベクターをプログラム可能なポンプ(インディアナ州、ウエストラフィエットのBioanalytical System社)で送達する。27ゲージのニードルに組み込んだ融合シリカキャピラリー(OD、164μm;ID、100μm;アリゾナ州、フェニックスのPolymicro Technologies社)から成るカニューレをポリマーチュービングの先端に接続する。O2循環下の3%イソフルラン(2L/分)で麻酔にかけ、ラットを定位フレーム(カリフォルニア州、タハンガのKopf社)に配置する。次に定位フレームに固定されたマスクを通してO2中の1%イソフルランで麻酔を維持する。ドリルウェル(Burr holes)を標的部位上方に開け、ブレグマと硬膜に対する以下の座標において、カニューレを尾状核から被殻へ垂直方向に挿入する。切歯バーを3.3mmにセットしてAP0.0mm、ML−3.5mm、DV−5.0mm。ラットに1:1の割合の2つのベクター10μlを0.5μl/分の速度で片側的に注入する。20分の注入期間終了後に速度を0μl/分まで減速し、5分間静止してカニューレをゆっくり抜く。
【0146】
(行動解析)
アポモルヒネ(0.05mg/kg、ミズーリ州、セントルイスのSigma社)およびL−dopa(メチルエステル、Sigma社)に対する応答をロトマックス回転解析ソフトウエア(オハイオ州、コロンバスのAccuScan Instruments社)を作動するコンピューターに接続された自動化ロトメーターで測定する。合計の反対側回転および同側回転を30分以上(アポモルヒネ用)と60分以上(L−dopa用)において算出する。損傷3週後にアポモルヒネ(0.05mg/kg)に反応して30分間で平均的な回転>6の反対側回転/分を有するラットのみを適切に損傷させる(Ungerstedt(1971)Acta Physiol.Scand.Suppl.367:69−93)と判断し、L−dopa応答をテストする。これらのラットを下記の治療範囲用量、2.5mg/kgのベンセラジド(ミズーリ州、セントルイスのSigma社)と一緒に共投与される5mg/kgのL−dopaメチルエステルを使用してL−dopa応答を測定する。テストしたラットの95%以上は、5mg/kgのL−dopaに応答して回転しない。この用量に対する最終的に反対側回転を示すラットを実験から排除する。L−dopa応答を外科手術前および線条体内注入後の異なる時点(3、4、5、6および7週)で評価する。
【0147】
(免疫組織化学)
組織学的な研究のために、ラットを生理食塩水、続けて4%パラホルムアルデヒドで大動脈を通して浸透させる(賦形剤注入およびベクター注入(−)ラパマイシン群、n=6のラットならびにベクター注入(+)ラパマイシン群、n=8のラット)。脳を4%パラホルムアルデヒドで一晩かん流し、勾配スクロース溶液で平衡化させ、イソペンタン中で凍結する。脳をクラリオスタットで40μm厚の冠状断片に連続的に切断する。AADC(カリフォルニア州、テメキュラのChemicon社、1:1500)の免疫組織化学を浮遊性(Free−floating)切片上で行う。切片を3%過酸化水素水で30分間処理して内在性ペルオキシダーゼを抑える。5%の一般的なヤギ血清で非特異的な結合を阻害した後、切片を室温で一次抗体と一晩反応させる。ビオチン化抗ラビットIgG抗体(カリフォルニア州、バーリンゲームのVector Laboratories社、1:300)、続いてストレプトアビジン抱合西洋わさびペルオキシダーゼ(Vector Laboratories社、1:300)と室温で1時間ずつ反応させ、複合体を3−3’−ジアミノベンジジン(DAB、Vector Laboratories社)および過酸化水素で可視化する。切片をゼラチンコートしたスライド上にマウントして、乾燥させ、エタノールを逐次増加させて脱水し、キシレンで透明にし、Cytoseal−60(ミシガン州、カラマズーのRichard−Allen Scientific社)を用いてマウントする。hAADC免疫染色の前後方向の分布を式(nx12x40μm)によって調べる。ここで、nはhAADC陽性細胞を伴う切片の数であり、40μmが切片の厚さであり、12切片毎に調べる。分布体積および陽性細胞数をビデオカメラ搭載のZeissの顕微鏡および立体解析学ソフトウエア(Stereoinvestigator stereology software)(バーモント州、ウィリストンのMicrobrightfield社)上において63X倍率で立体解析学的方法に基づいた光学的分画装置−光学的解剖(the Optical Fractionator−Optical Dissector)を用いてAADCで染色した連続的な切片(12切片毎)中で算出する。各群CEE<5%。結果を平均±SDとして報告する。Studentのt−検定を統計的な有意性を測定するために使用する。
【0148】
(定量的なリアルタイムPCR)
本研究で使用されたベクターAAV−Z12−hAADCはヒトAADC標的遺伝子を含む。Q−PCRプライマーおよびプローブは、AADC遺伝子のエクソン2および3に対合し、それゆえにベクター配列に存在しないイントロンを及び、従ってゲノムDNAの増幅を最小限にする。リアルタイムQ−PCR(Heidら(1996)Genome Res.6:986−94)をベクターの挿入部を含むプラスミドDNAで標準化する。プラスミドを制限酵素で直鎖状にし、精製し、UV吸光度で定量し、Q−PCR希釈緩衝液(10mM Tris−HCl、pH8.0、1mM EDTA、10μg/ml yeast tRNA、および0.1% Tween 80)で希釈して1回の反応あたり3から106コピーの範囲の10種類の標準を提供する。各標準を96ウェルの光学的プレート中の3つの50μl反応液に流す。各20ngのDNAを含む10μlのサンプルを40μlの反応混合液を含む3つのQ−PCRウェルに添加する。PCRをApplied Biosystems 7700 Sequence Detection Systemで実行する。hAADC遺伝子のコピー数を検量曲線との比較によって計算し、1ウェルあたりに生じるコピー数に2をかけ、二本鎖プラスミドDNAの1コピーが2つの一本鎖ベクターゲノムに等価であることと推定する。
【0149】
(ウエスタンブロット解析)
全体脳の10個の連続的な切片(各40μm)を脱リン酸化酵素阻害剤とタンパク質分解酵素阻害剤の混合液を包含する溶解緩衝液で手操作のホモジェナイザーによって別々に均質化する。タンパク質をブラッドフォード法によって定量する。タンパク質サンプル(15μg)をSDS−PAGEゲル(4−15%の勾配ゲル;カリフォルニア州、ハーキュリーズのBio−rad社)で分離し、二フッ化ポリビニリデンフィルター(マサチューセッツ州、ベッドフォードのMillipore社)に移行させる。
【0150】
フィルターを3%スキームミルクでブロッキングし、ポリクローナルラビット抗AADC(1:500、カリフォルニア州、テメキュラのChemicon社)一次抗体と1時間反応させる。次にブロットを対応するHRP−抱合二次抗体(1:3000;イリノイ州、アーリントンヘイツのAmersham Biosciences社)と室温(RT)で1時間反応させ、ECL溶液(カリフォルニア州、エメリービルのPerkinElmer Life Sciences社)で1分間発色させ、Kodak(ニューヨーク州、ロチェスター)のX−Omatフィルム上に1−30分間露光する。最後に、ブロットを剥離緩衝液(67.5mM Tris、pH6.8、2% SDS、および0.7% β−メルカプトエタノール)において50℃で30分間反応させ、ローディングコントロールとしてのポリクローナルラビット抗β−アクチン抗体(1:1000;テキサス州、サンアントニオのAlpha Diagnostics社)と再対合させる。抗AADC一次抗体は、過去の研究で広範囲に使用されており、本研究で観察されたウエスタンブロットのバンドは、抗体情報シートで示される同一バンドの大きさ(〜50kDa)を示す。
【0151】
各特異的なバンドの密度をコンピューター補助画像解析システム(computer−assisted imaging analysis system)(AlphaImager(登録商標)、カリフォルニア州、サンリアンドロのAlpha Innotech社)を用いて測定する。各群間のβ−アクチンローディングコントロールのバンド濃度に有意な相違はない。賦形剤注入(+)ラパマイシンコントロール群およびベクター注入群の相違を比較することによって、各特異的なバンド濃度を、対応する内部ローディングバンドの濃度(各群n=3)に対して最初に標準化する。賦形剤注入ラットで見られた内在性hAADCレベルをベクター注入群から差し引いた後に全タンパク質の百分率の減少を調べる。
【0152】
実施例3
(In vitroにおけるGDNFの調節発現)
哺乳類細胞に二量体化物調節可能なGDNF導入遺伝子の構築物を以下の通りに形質導入させる。
【0153】
(AAV−GDNFベクター)
図8Aおよび8Bは、調節可能なヒトGDNF(hGDNF)導入遺伝子送達用の組み換えAAVベクタープラスミド構築物の図式である。構成的に発現されるhGDNFの送達用コントロールベクター(pAAV−CMV−hGDNF)を図8Cに示す。
【0154】
調節可能な構築物(図8Aおよび8B)は、hGDNFをコードする遺伝子、ならびに転写因子の活性化ドメイン融合タンパク質およびDNA結合ドメイン融合タンパク質の要素を有している、単一のrAAVベクターに関する。両方の構築物において、hGDNF発現は、さらに詳細を以下に記述した二量体化可能な転写因子用の8つの結合部位に隣接する最小IL−2プロモーターによって促進される。
【0155】
図8Aで表される構築物(pAAV−TF−Z8−hGDNF)では、CMVエンハンサー/プロモーターが、転写因子の活性化とDNA結合ドメインの両方をコードする単一の転写発現とともにその2つの間にある内部リボソーム進入部位(IRES)を促進する。対照的に、図8Bで表される構築物では、SV40プロモーターがDNA結合ドメインの発現を促進し、CMVエンハンサー/プロモーターが反対鎖からの異なる転写(すなわち、反対方向)の活性化ドメインの発現を促進する。
【0156】
DNA結合ドメイン融合タンパク質は、ヒト転写因子Zif268、Oct−1由来のホメオドメインの2つのDNA結合ドメイン(ZFHD1)、および細胞質受容体FK506由来の3つの薬物結合ドメイン(3xFKBP)を含む。
【0157】
活性化ドメイン融合タンパク質は、NFκBのp65サブユニット由来の転写活性ドメイン(p65)に連結されたヒトFRAPのラパマイシン結合ドメイン(FRB*)を含む。図8Aおよび8Bで表されるFRB*は実施例1で記述されている。
【0158】
AAV2の末端逆位配列(ITR)、最小SV40ポリアデニル化(Min.SV40 pA)、最小ラビットβ−グロビンポリアデニル化(Min.RBG pA)および最小ヒト成長ホルモンポリアデニル化(Min.hGH pA)配列を示す。
【0159】
コントロールベクターpAAV−CMV−hGDNF(図8C)では、CMVプロモーター/エンハンサーがhGDNFの発現を促進する。AAV2末端逆位配列(ITR)およびヒト成長ホルモンポリアデニル化(pA)配列を示す。
【0160】
ラパマイシン誘導実験の結果を図9で表し、GDNF発現をベクター構築物およびラパマイシン濃度の関数として表す。pAAV−TF−Z8−hGDNFは、細胞をラパマイシンで処理した時に濃度に応答する形でGDNF産生を指令する一方で、pAAV−CMV−hGDNFは、ラパマイシン処理に関係なく構成性(高)レベルのGDNF発現を指令する。
【0161】
実施例3で使用されたELISAアッセイ法に関する実験の詳細は以下の通りである。
【0162】
(GDNFのELISA)
GDNF発現を定量するためのELISAアッセイを以下の通りに実施する。
【0163】
HEK−293細胞(5x105細胞/ウェル)を2つの6ウェルプレートで一晩増殖させて60−70%集合にする。プレートに300μM CaCl2を用いてpAAV−TF−Z8−hGDNFもしくはpAAV−CMV−hGDNFのどちらか10μgでトランスフェクトする。6時間後に培地をラパマイシン(2つとも各々0nM、5nM、もしくは25nM)を含む新鮮な培地と交換し、3日間培養する。培地と細胞の両方を別々に回収し、急速に凍結し、ELISAを行うまで−80℃で保存する。全てのサンプルを1N HClで処理して15分間pH3.0まで酸性にし、次に1N NaOHで約pH7.6まで中和して戻す。
【0164】
培地サンプルをPromega Emax(登録商標)免疫アッセイシステム(ウィスコンシン州、マディソンのPromega社)によってGDNFの存在を測定する。コーティング緩衝液を96ウェルプレートに添加し、4℃で一晩培養した。コーティング緩衝液を除去し、プレートを乾燥させる。ブロッキング緩衝液(200μL)をプレートに添加し、振蘯せずに室温で1時間培養する。ブロッキング緩衝液を除去し、プレートを乾燥させる。
【0165】
96ウェルプレートの2つの8ウェルの段をGDNF標準段と設定する。1Xブロック&サンプル緩衝液(100μL/ウェル)を標準段の列B−Hに添加する。希釈したGDNF標準液(1000pg/mlの200mL)を標準段の列Aに添加し、100μL/ウェルの2倍の連続的な希釈を列Gまで作成する。列HはGDNFを含まない緩衝液のみのコントロールである。
【0166】
実験サンプルをpAAV−TF−Z8−hGDNFは1:300およびpAAV−CMV−hGDNFは1:1000で希釈し、各100μLを重複したウェルに添加し、振蘯(500rpm)させながら室温で6時間培養する。ウェルを5回洗浄し、各回約400μlのキット付属の推奨洗浄緩衝液を使用する。100μLの抗hGDNFポリクローナル抗体1:500希釈液(1Xブロック&サンプル緩衝液中)を各ウェルに添加し、振蘯することなく4℃で一晩反応させる。プレートを上述のように再度洗浄する。100μLの抗ニワトリIgY、HRP抱合の1:250希釈液(1Xブロック&サンプル緩衝液中)を各ウェルに添加し、振蘯(500rpm)しながら室温で2時間反応させる。プレートを上述のように再度洗浄する。100μLの室温の(HRP基質3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを包含する)TMB One溶液を各ウェルに添加し、振蘯せずに室温で15分間反応させる。100μLの1N塩酸を各ウェルに添加することで発色を停止させる。吸光度をTMB添加後30分以内にプレートリーダーにおいて450nmで測定する。pg/ml単位におけるGDNFレベルを同一プレート上のGDNF標準と実験サンプルから得られるシグナルの比較によって調べる。標準偏差を各サンプル(2プレート各々の2つのサンプル)の4つの測定値の合計に由来する。
【0167】
本発明の好ましい事例の具体例が記述される一方で、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更と修正がなされることは当業者なら言うまでもなく、添付した請求の範囲は、本発明の精神と範囲内にある全てのかかる変更と修正を網羅するであろう。
【0168】
本明細書で参照した全ての出版物、特許、特許出願、配列およびデータベース項目を出典明示により本明細書に一体化させる。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1A】図1Aは、導入遺伝子発現調節用転写因子の活性化およびDNA結合ドメインをコードするrAAVベクター(AAV−CMV−TF)の図式である。
【図1B】図1Bは、発現がラパマイシンもしくはその誘導体物の添加によって調節可能である、hAADCをコードする組み換えAAVベクター(AAV−Z12−hAADC)の図式である。
【図1C】図1Cは、発現が構成性CMVプロモーターによって促進されるhAADCをコードする組み換えAAVベクター(AAV−CMV−hAADC2)の図式である。
【図2】図2は、D7−4細胞に様々なrAAV構築物を形質導入し、0、5もしくは25nMのラパマイシン類似物AP21967で処理した実験結果を示す。
【図3】図3は、L−dopaに対する回転応答を6−OHDA損傷ラットでラパマイシン処置の機能として測定した実験の時系列である。
【図4】図4は、6−OHDA損傷ラットにおける5mg/kgのL−dopaに対する回転応答を示し、図3で示される時系列に沿った時間の関数として時間あたりの対側性回転数で表される。
【図5A】図5Aは、hAADCのラパマイシン調節発現に必要な配列を有するAAVベクターとともにラパマイシンで処理した注入7週後ラット線条体内のAADC免疫組織化学の結果を示す。スケールバーは75μmを表す。
【図5B】図5Bは、ラットがラパマイシン未処理であること以外には図5Aと同様の実験結果を示す。
【図6】図6は、注入7週後で得られた3つの処理群における典型的なラット由来のホールマウント脳切片のAADC免疫組織化学の結果を示す:A:ベクター注入(+)ラパマイシン;B:ベクター注入(−)ラパマイシン;C:賦形剤注入(+)ラパマイシン。
【図7】図7は、図6に準拠して考察された3つの処理群において、ウエスタンブロット解析で測定された注入7週後のAADC発現を示す。
【図8A】図8Aは、hGDNFの発現がラパマイシンもしくはその類似物によって調節され得る、転写因子の活性化ドメイン融合およびDNA結合ドメイン融合をコードする転写、ならびに導入遺伝子hGDNFをコードする調節可能な転写、を含むrAAVベクター(AAV−TF−Z8−hGDNF)の図式である。
【図8B】図8Bは、転写因子のDNA結合ドメインの発現が活性化ドメインの発現とは別々の転写上でSV40プロモーターによって促進されること、ならびに活性化ドメインが反対の鎖(すなわち、反対方向)から発現されることを除いて、図8Aで示されるベクターに類似するベクターの図式である。
【図8C】図8Cは、その発現が構成性CMVプロモーターによって促進される、hGDNFをコードする組み換えAAVベクター(AAV−CMV−hGDNF)の図式である。
【図9】図9は、0、5もしくは25nMのラパマイシン処理に応じて、調節TF−GDNFプラスミド(AAV−TF−Z8−hGDNF)もしくは構成性CMV−GDNFプラスミド(AAV−CMV−hGDNF)のどちらかで一時的にトランスフェクトされたHelaD7−4細胞におけるピコグラム(pg)単位のGDNF発現を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写増進活性を有している調節可能な転写因子をコードする組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター;および
導入遺伝子をコードする組み換えAAVベクター;
を含む、神経疾患にかかっている患者を処置する医薬組成物であって、導入遺伝子の発現が転写因子の活性によって影響を受けるものである、医薬組成物。
【請求項2】
調節可能な転写因子および導入遺伝子が別々のrAAVベクター上にコードされる、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
調節可能な転写因子の活性がラパマイシンもしくはラパマイシン類似物の存在下で上昇する、請求項1もしくは2の医薬組成物。
【請求項4】
ラパマイシン類似物がAP21967である、請求項3の医薬組成物。
【請求項5】
神経疾患がパーキンソン病である、請求項1から4のいずれかの医薬組成物。
【請求項6】
導入遺伝子が芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)である、請求項1から5のいずれかの医薬組成物。
【請求項7】
導入遺伝子がグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)である、請求項1から5のいずれかの医薬組成物。
【請求項8】
医薬上有効な用量の請求項1から7のいずれかの医薬組成物を投与することを含む、神経疾患にかかっている患者を処置する方法。
【請求項9】
調節可能な転写因子をコードする組み換えAAVベクター:
導入遺伝子をコードする組み換えAAVベクター:および
ラパマイシンもしくはラパマイシン類似物
を含む、請求項8の方法を行うためのキット。
【請求項10】
神経疾患にかかっている患者を処置する方法における、請求項1から7のいずれかの組成物の使用。
【請求項11】
神経疾患にかかっている患者を処置する組成物の製造における、導入遺伝子をコードする組み換えAAVベクターおよび転写増進活性を有している調節可能な転写因子をコードする組み換えAAVベクターの使用であって、導入遺伝子の発現が転写因子の活性によって影響を受けるものである、使用。
【請求項1】
転写増進活性を有している調節可能な転写因子をコードする組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター;および
導入遺伝子をコードする組み換えAAVベクター;
を含む、神経疾患にかかっている患者を処置する医薬組成物であって、導入遺伝子の発現が転写因子の活性によって影響を受けるものである、医薬組成物。
【請求項2】
調節可能な転写因子および導入遺伝子が別々のrAAVベクター上にコードされる、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
調節可能な転写因子の活性がラパマイシンもしくはラパマイシン類似物の存在下で上昇する、請求項1もしくは2の医薬組成物。
【請求項4】
ラパマイシン類似物がAP21967である、請求項3の医薬組成物。
【請求項5】
神経疾患がパーキンソン病である、請求項1から4のいずれかの医薬組成物。
【請求項6】
導入遺伝子が芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)である、請求項1から5のいずれかの医薬組成物。
【請求項7】
導入遺伝子がグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)である、請求項1から5のいずれかの医薬組成物。
【請求項8】
医薬上有効な用量の請求項1から7のいずれかの医薬組成物を投与することを含む、神経疾患にかかっている患者を処置する方法。
【請求項9】
調節可能な転写因子をコードする組み換えAAVベクター:
導入遺伝子をコードする組み換えAAVベクター:および
ラパマイシンもしくはラパマイシン類似物
を含む、請求項8の方法を行うためのキット。
【請求項10】
神経疾患にかかっている患者を処置する方法における、請求項1から7のいずれかの組成物の使用。
【請求項11】
神経疾患にかかっている患者を処置する組成物の製造における、導入遺伝子をコードする組み換えAAVベクターおよび転写増進活性を有している調節可能な転写因子をコードする組み換えAAVベクターの使用であって、導入遺伝子の発現が転写因子の活性によって影響を受けるものである、使用。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【公表番号】特表2008−523093(P2008−523093A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545670(P2007−545670)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/044654
【国際公開番号】WO2006/063247
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(593119583)ジェンザイム・コーポレイション (17)
【氏名又は名称原語表記】Genzyme Corporation
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/044654
【国際公開番号】WO2006/063247
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(593119583)ジェンザイム・コーポレイション (17)
【氏名又は名称原語表記】Genzyme Corporation
【Fターム(参考)】
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