説明

哺乳類発現ベクター及びそれを含む組成物

【課題】IL-18は、T細胞からのIFN-γの産生を誘導し、細胞障害性T細胞やナチュラルキラー細胞を活性化して抗腫瘍免疫効果を著しく増強するサイトカインである。しかしながら、IL-18遺伝子は、分泌に必要なシグナル配列を欠くため、IL-18遺伝子を単独で哺乳類細胞に導入しても、細胞からサイトカインタンパクを分泌させることができず、遺伝子導入による癌治療への活用が困難となっている。
【解決手段】他のサイトカイン(IL-12p40)遺伝子のシグナル配列を持った哺乳類細胞発現ベクターを作製し、そこにIL-18の成熟タンパクをコードするcDNAを連結することによって、単独遺伝子導入でもIL-18サイトカインタンパクの細胞からの分泌を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類発現ベクター、特に生体の免疫効果を増幅するインターロイキン18(以下「IL-18」と略記する)を細胞に分泌させることができる哺乳類発現ベクター、及び該ベクターを含む組成物に関する。また、本発明は、該ベクターの製造方法、より詳しくはシグナルシークエンス付のIL-18遺伝子の作製法に関する。
【背景技術】
【0002】
IL-18は、T細胞からのインターフェロンガンマ(以下「IFNγ」と略記する)の産生を誘導し、免疫反応を増強するサイトカインで、細胞障害性T細胞やナチュラルキラー細胞を活性化して抗腫瘍免疫効果を著しく増強するものとして期待されている。
【0003】
例えばIL-18とインターロイキン12(以下「IL-12」と略記する)を含む薬剤を抗癌剤として用いたり(特許文献1参照)、免疫能力を高めるためのIL-18の産生促進剤が提案されたりしている(特許文献2参照)。また、IL-18をコードする遺伝子を癌細胞内に挿入させて癌の抑制に用いる方法の提案もある(特許文献3)。
【0004】
IL-18を遺伝子操作技術によってクローニングすることは、すでに行われており、遺伝子組み換え手法を用いた量産化も検討されている。細胞内で遺伝子情報をもとに合成されるタンパクは、通常小胞体を経由して細胞外に分泌される。しかし、IL-18遺伝子は小胞体内にタンパクを送り込むためのシグナル配列を欠くため、細胞内から成熟タンパクとして分泌されるためには、細胞内でインターロイキン1β変換酵素(以下「ICE」と略記する)の作用を受けて変形することが必要である。
【0005】
そのため、遺伝子導入によって動物細胞から活性のあるIL-18を分泌させるためには、IL-18遺伝子のみでなく、ICEをコードする遺伝子をも導入しなければならない。そこで、ICE遺伝子とIL-18をコードする遺伝子を結合させて、細胞内でIL-18を分泌させ、量産化を行おうという提案がある(特許文献4参照)。また、昆虫(カイコ)細胞でIL-18を産生するために、シグナル配列を含むDNAをバキュロウイルストランスファーベクターpVL1392(ファーミンジェン社)に入れ、組換えバキュロウイルスを作製した例も開示されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2001−521906号公報
【特許文献2】特開2001−233784号公報
【特許文献3】特開平11−139994号公報
【特許文献4】特開2000−78975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遺伝子組み換え手法を用いてIL-18を産生するのであれば、特許文献4に開示された方法でも可能である。しかし、哺乳類の細胞内でIL-18を意図的に産生させるには、ICEと共にIL-18のcDNAを導入するのでは、細胞からの分泌が十分でない。癌治療に活用するためには、癌細胞若しくはその周辺の細胞自体からIL-18を分泌させT細胞活性を促す必要がある。
【0007】
また、特許文献4で開示されたシグナル配列を含むIL-18のcDNAを有するベクターは哺乳類細胞での発現はできない。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする問題点は、哺乳類細胞からIL-18を分泌させるためのベクターを作成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
シグナルペプチドをコードする塩基配列と、
IL−18をコードする塩基配列と、
前記シグナルペプチドをコードする塩基配列と前記IL−18をコードする塩基配列とを結合する塩基配列と
を含む哺乳類発現ベクターである。
【0010】
また、本発明は、上記の哺乳類発現ベクターと、媒体とを含む組成物でもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の哺乳類発現ベクターを用いることにより、シグナル配列を有したIL-18のcDNAが哺乳類の細胞内に導入できるので、哺乳類の細胞自身がIL-18を多量に産生するという効果を得ることができる。IL-18の多量産生は、T細胞からのインターフェロンガンマ(IFNγ)の産生を誘導し、細胞障害性T細胞やナチュラルキラー細胞を活性化する。そのため、抗腫瘍免疫効果を著しく増強する。そのため癌細胞に対する免疫治療に利用できる期待が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のシグナル配列付のIL-18 cDNAを有した哺乳類発現ベクターは、哺乳類で発現するベクターにIL-12 p40のcDNAを付加し、そこからシグナル配列部分だけを残してIL-12のcDNAを切り取る。そして切り取った後にIL-18のcDNAを連結することにより作製できる。
【0013】
本発明の哺乳類発現ベクターが含むシグナルペプチドは、該ベクターにより発現されるIL-18のタンパク質の細胞外への分泌を可能にするシグナルペプチドであれば、特に限定されない。好ましくは、IL-12のシグナルペプチドである。
【0014】
本発明の哺乳類発現ベクターが含む、シグナルペプチドをコードする塩基配列とIL-18をコードする塩基配列とを結合する塩基配列は、遺伝子組み換え技術に従って上記のシグナルペプチドをコードする塩基配列とIL-18をコードする塩基配列とを連結する際に介在することが必要となる配列であり、好ましくは「ATATGG」の配列である。
【0015】
上記の哺乳類で発現するベクターは、当該技術において公知のものを用いることができ、例えばpcDNA3.1-Myc/His A (-)(Invitrogen社製)などの市販品を用いてもよい。
【0016】
本発明の哺乳類発現ベクターは、適切な緩衝液を媒体とする組成物として用いることができる。該緩衝液としては、当該技術において通常用いられる緩衝剤からなるもの、例えばリン酸緩衝生理食塩水を用いることができる。
【0017】
本発明の実施には、IL-12 p40遺伝子のシグナル配列連結したIL-18の成熟タンパクをコードするcDNAとそれらを組み込んだ哺乳類細胞用の発現ベクターを最良の形態とする。
【実施例1】
【0018】
以下に実施例としてイヌのシグナル配列付のIL-18 cDNAを有した哺乳類ベクターの作製を述べる。
1.RNAの抽出とcDNAライブラリーの作製
以下にのべる方法によって、(1)コンカナバリンAで活性化させたイヌ末梢血単核細胞からRNAを抽出し、(2)それを逆転写してクローニングする遺伝子の素となるcDNAのライブラリーを作製した。
【0019】
(1)リンパ球分離液(比重1.077g/ml、ナカライテスク社製)を用い、定法にしたがって、健常犬より採取した末梢血から末梢血単核細胞を回収した。ここで、定法は例えば文献(Sugiura et al., Immunobiol. (2004) 209:619-627)記載の方法である。しかし、末梢血から末梢血短核細胞を回収する方法であれば、これに限定されるものではない。
【0020】
回収した末梢血単核細胞を2×106 /mlになるように牛胎子血清(FBS:Valley Biomedical社製、Winchester、VA、USA)を10%含むRPMI1640培地(日水製薬社製、東京)(10% FBS加RPMI)に浮遊し、コンカナバリンAを最終濃度20μg /mlになるように加え、37℃、5% CO2の条件下で48時間培養した。
【0021】
培養後、細胞を回収し、細胞1×107個につき、セパゾール RNA I super(ナカライテスク社製)1 mlを加えて細胞を溶解した。その後、室温で5分間放置し、クロロフォルム200μlを加えて15秒間混和し、さらに室温で3分間放置して4 ℃、12,000×g、20分間遠心した。上部の透明層のみを1.5 ml用マイクロチューブに回収して、イソプロパノールを500μl加えて混和し、室温で10分間放置した後、4 ℃、12,000×g、20分間遠心した。
【0022】
上清を捨て、RNA沈殿に80%エタノールを950μl加えて充分に混濁させた後、4 ℃、12,000×g、10分間遠心した。上清を捨て、沈殿を乾燥させた後、ジエチルピロカーボネート(DEPC)処理水10μlに沈殿を溶解させた。そのRNA溶液10μlに、DNase Buffer(TAKARA社製、草津)1.25μl、DNase I(TAKARA社製)0.5μl、RNase Inhibitor(TOYOBO社製、大阪)0.5μlを加え、軽く混和した後、ブロックインキュベーター(BI-535型、アステック社製、志免)を用いて37 ℃で30分間および80 ℃で20分間の条件で反応させた。反応後、260 nmにおける吸光度を測定することによってtotal RNAの濃度を算定した。
【0023】
(2)DNase処理したトータルRNA 1μgに、random primer(TAKARA社製)2μl、5×RT Buffer 4μl、2.0 mM dNTP(TOYOBO社製)5μl、RTase(TOYOBO社製)0.25μl、RNase Inhibitor 0.5μlを加え、DEPC処理水で総量20μlとした。その後、ブロックインキュベーターを用いて、30℃で10分、42℃で30分および99℃で5分の条件で反応させることによりcDNAライブラリーを作製した。
【0024】
2.イヌIL-18 cDNAのクローニング
以下に述べる方法によって、(1)末梢血単球のRNAより作製したcDNAをテンプレートとしてPCRによってIL-18 cDNAの成熟タンパクコード配列を増幅し、(2)末端平滑化ベクターを用いてIL-18 cDNAをクローニングした。
【0025】
(1)文献1に提示された配列を基にIL-18 cDNAの成熟タンパクコード配列の5'側にNde-Iサイト、3'側にBamH-Iサイトが付加されるように2種類のプライマーを設計し、DNAシンセサイザーにて合成した。これらのプライマーを表1に示す。表1において、配列番号1はイヌIL-18 cDNAのPCR増幅のためのUpper PrimerのDNA配列を示し、その下線部は、制限酵素Nde-Iの作用部位(Nde-Iサイト)を示す。配列番号2は、イヌIL-18 cDNAのPCR増幅のためのLower PrimerのDNA配列を示し、その下線部は、BamH-Iサイトを示す。
【表1】

【0026】
なお、ここでNde-Iサイトとは、制限酵素でNde-Iが切断する塩基配列CATATGをいう。制限酵素でNde-Iはこの塩基配列をCAとTATGに切断する。また、BamH-Iサイトとは、制限酵素BamH-Iが切断する塩基配列GGATCCをいう。制限酵素BamH-Iは、この塩基配列をGとGATCCに切断する。
【0027】
PCRにあたっては、上記cDNAの溶液1μlに、最終濃度で10×PCR Buffer、25 mM MgSO4、2 mM dNTPs、KOD DNA Polymerase(TOYOBO社製)、senseおよびantisenseプライマー(各10 pmol)、およびDEPC処理水を加え、総量50μlとし、その後、My CyclerTM(日本バイオ・ラッドラボラトリー社製、東京)にて94 ℃で2分間加熱後、94 ℃ 15秒、55 ℃ 30秒、68 ℃ 2分の条件で35サイクル反応させた。PCRの反応終了後、反応液を、エチジウムブロマイドを加えた1%アガロースゲル内で100 Vで30分間、電気泳動した後、PRINTGRAPHTM(アート社製、東京)で目的とする約0.5KbのDNA断片のバンドを確認した。
【0028】
(2)ゲルカッターで目的とするDNA断片を切り出し、QIAEX II Agarose Gel Extraction Kit(QIAGEN社製、Hilden、Germany)を用いてcDNAを分離・精製した。精製したcDNAは、末端平滑化ベクター(pCR-Bluntベクター:Zero Blunt (登録商標) PCR Cloning Kit:Invitrogen社製、San Diego、CA、USA)に挿入した後、DH5αコンピテントセルに形質転換し、カナマイシン添加LB培地で培養して挿入DNA陽性クローンを選択した。
【0029】
その後、QIAprep (登録商標)Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミドを抽出し、BigDye (登録商標) Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製、Foster city、CA、USA)を用いたジデオキシ法により、シークエンサー(ABI PRISM 3100 Genetic Analyzers:Applied Biosystems社製)でプラスミドに挿入したDNA断片の塩基配列を決定した。
【0030】
<結果>
既報(文献1)の塩基配列に照らして選択し、得られた目的とする塩基配列{IL-18 cDNAの成熟タンパクコード配列からストップコドンを除いた471塩基 (Tyr(TAC)からSer(AGC)まで)の5'側にNde-Iサイト、3'側にBamH-IサイトをもつDNA配列}の全配列を配列番号5に示す。これらの配列を表2に示す。配列番号5は、クローニングで得たIL-18 cDNAの成熟タンパクコード配列からストップコドンを除いた471塩基を示す。5'側に付加した(CATATGG)は、シグナル配列との連結のためのNde-Iサイト、3'側に付加した(GGATCC)は、ベクターとの連結のためのBamH-Iサイトを示す。
【0031】
【表2】

【0032】
3.イヌIL-12 p40 cDNAのクローニング
以下に述べる方法によって、(1)末梢血単球のRNAより作製したcDNAをテンプレートとしてPCRによってIL-12 p40 cDNAのコード配列を増幅し、(2)末端平滑化ベクターを用いてIL-12 p40 cDNAをクローニングした。
【0033】
(1)文献2に提示された配列を基に5'側にXho-Iサイトサイト、3'側にBamH-Iサイトが付加されるように2種類のプライマーを設計し、DNAシンセサイザーにて合成した。これらを表3に示す。表3において配列番号3は、イヌIL-12p40 cDNAのPCR増幅のためのUpper PrimerのDNA配列を示し、その下線部は、Xho-Iサイトを示す。
配列番号4は、イヌIL-12p40 cDNAのPCR増幅のためのLower PrimerのDNA配列を示し、その下線部は、BamH-Iサイトを示す。
【表3】

【0034】
なお、Xho-Iサイトとは、制限酵素Xho-Iが切断する塩基配列CTCGAGをいう。制限酵素Xho-Iは、この塩基配列をCとTCGAGに切断する。
【0035】
PCRにあたっては、上記cDNAの溶液1μlに、最終濃度で10×PCR Buffer、25 mM MgSO4、2 mM dNTPs、KOD DNA Polymerase、senseおよびantisenseプライマー(各10 pmol)、およびDEPC処理水を加え、総量50μlとする。
【0036】
その後、My CyclerTMにて94 ℃で2分間加熱後、94 ℃ 15秒、55 ℃ 30秒、68 ℃ 2分の条件で35サイクル反応させた。PCRの反応終了後、反応液を、エチジウムブロマイドを加えた1%アガロースゲル内で100 Vで30分間、電気泳動した後、PRINTGRAPHTMで目的とする約1KbのDNA断片のバンドを確認した。
【0037】
(2)ゲルカッターで目的とするDNA断片を切り出し、QIAEX II Agarose Gel Extraction Kitを用いてcDNAを分離・精製した。精製したcDNAをpCR-Bluntベクターに挿入した後、DH5αコンピテントセルに形質転換し、カナマイシン添加LB培地で培養して挿入DNA陽性クローンを選択した。その後、QIAprep (登録商標) Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、BigDye (登録商標) Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kitを用いたジデオキシ法により、シークエンサー(ABI PRISM 3100 Genetic Analyzers)でプラスミドに挿入したDNA断片の塩基配列を決定した。
【0038】
<結果>
既報(文献2)の塩基配列に照らして選択し、得られた目的とする塩基配列{IL-12p40 cDNAの全990塩基(開始Metからストップコドン(TAG)まで)の5'側にXho-Iサイト、3'側にBamH-IサイトをもつDNA配列}の全配列を配列番号6として表4に示す。配列番号6は、クローニングで得たIL-12p40 cDNAの全塩基(990塩基)配列を示す。下線部は、シグナル配列を示す。また、5'側に付加した(CTCGAG)は、ベクターとの連結のためのXho-Iサイト、3'側に付加した(GGATCC)は、ベクターとの連結のためのBamH-Iサイトを示す。
【0039】
【表4】

【0040】
4.シグナル配列付のIL-18DNAを有した哺乳類ベクターの作製
以下に示す方法によって、(1)クローニングしたIL-12 p40 cDNAを哺乳類発現ベクターに組み込んだ後、(2)シグナル配列以外のIL-12 p40 cDNAの塩基配列を切断して除き、(3)その除外部位にIL-18の成熟タンパクをコードする塩基配列を組み入れることにより、シグナル配列付のIL-18 cDNAを有した哺乳類ベクターを作製した。
【0041】
(1)図1(a)に示すように、クローニングしたpCR-Bluntベクターに挿入されているIL-12 p40 DNAの5'側と3'側に付加したXho-Iサイト(CTCGAG)とBamH-Iサイト(GGATCC)を制限酵素のXho-I(Toyobo社製)およびBamH-I(Toyobo社製)で処理して、ベクターから切り離した。すなわち、10μlの緩衝液(H-Buffer)中に約2μgのpCR-Blunt-IL-12 p40 DNAおよび約5UのXho-IとBamH-Iが含まれるように作製した溶液を37℃で1時間反応させた。なお、以後の説明では簡便のためセンス側の配列をつかって説明を行う。
【0042】
図1(b)に示すように、哺乳類発現ベクターであるpcDNA3.1-Myc/His A (-)(Invitrogen社製、以下「pcDNA3.1」と略記する)をXho-IとBamH-Iによって同様に処理して環状構造を開裂し、そこに切り離したIL-12 p40 cDNAをDNA Ligation Kit Ver. 2.1(Takara社製)を用いて連結した。このようにして作製したIL-12 p40 cDNAを含む哺乳類発現ベクター(以下「IL-12 p40-pcDNA3.1」と略記する)を図1(c)に示す。
【0043】
(2)図2(a)に示すように、IL-12 p40 DNA中のシグナル配列(配列番号:6の下線部分)とIL-12 p40タンパクコード配列の境界にあるNde-Iサイト(CATATG)を制限酵素のNde-I(Toyobo社製)で処理することによって切断した。同時にBamH-Iで処理してIL-12 p40タンパクコード配列とpcDNA3.1の境界を切断して、シグナル配列を接続したpcDNA3.1ベクター(以下「SS-pcDNA3.1」と略記する)とIL-12 p40タンパクコード配列にIL-12 p40-pcDNA3.1DNAを分離した。
【0044】
ここでの制限酵素処理は、約5 U のNde-IとBamH-Iを用いて上記同様10μlの緩衝液(H-Buffer)中で反応を行った。反応後、アガロースゲル内での電気泳動とQIAEX II Agarose Gel Extraction Kitを用いてSS-pcDNA3.1を分離・精製した。
【0045】
図2(c)には、Nde-IとBamH-Iで切断し、シグナル配列「SS」が残ったpcDNA3.1を示す。「SS」の切り口を符号21で、IL-12p40の切り口を符号22で表す。
【0046】
一方、pCR-Bluntに組み込まれたIL-18は図2(b)のようになっている。組み込まれたIL-18の5'側にはNde-Iサイト(CATATGG)が付加されており、後ろ側にはBamH-Iサイト(GGATCC)が付加されている。これをNde-IとBamH-Iで切断する。切り口は符号23および符号24である。
【0047】
図2(b)で切り取ったIL-18を図2(c)につなげ合わせる。すなわち、IL-18の切り口23をSS-pcDNAの切り口21に、IL-18の切り口24をSS-pcDNAの切り口22に連結する。
【0048】
その結果図2(d)に示すSS- IL-18-pcDNAを得る。このベクターはシグナル配列であるSSの部分31とIL-18の部分32とこれらを接続するための接続塩基配列33である塩基配列「CATAG」を含む。
【0049】
なお、図2(d)のNde-Iサイト(符号33)の後に付加されているグアニンG(符号34)は、IL-18のアミノ酸配列を正しくコードするために付加されたものである。すなわち、IL-12 p40のシグナル配列「SS」の部分の最後は「・・・GCCATATG」となっている。これにグアニンを加えた9つの塩基配列は、それぞれA(アラニン)、I(イソロイシン)、W(トリプトファン)をコードする塩基配列である。
【0050】
Nde-Iは「CATATG」の配列があれば、切断できる。しかし、この配列の直後にIL-18の塩基配列をそのまま連結してしまったのでは、IL-18のアミノ酸をコードする塩基の配列がずれてしまう。すなわち、これらの塩基配列に続くIL-18が正しくコードされない。従って、「CATATG」の後にグアニンG(符号)34を付け加え、その後にIL-18をコードする塩基配列を結合する。このようにすることで、IL−12p40のシグナルペプチドをコードする塩基配列と、IL-18をコードする塩基配列を結合させ、ベクターに入れることができる。
なお、上記の9つの塩基配列のうち、アラニンをコードする「GCC」までがIL−12p40のシグナル配列に対応する部分である。従って、シグナル配列とIL-18との間にはI(イソロイシン)、W(トリプトファン)をコードする「ATATGG」が必ずあるとも言える。すなわち、シグナルペプチドをコードする塩基配列とIL-18をコードする塩基配列を「ATATGG」という塩基配列で連結させたとも言える。なお、このグアニンGは配列番号1のUpper Primerの設計時点で付加してある。
【0051】
(3)2でのクローニングしたpCR-Bluntベクターに挿入されているIL-18 DNAを制限酵素のNde-I(Toyobo社製)およびBamH-I(Toyobo社製)で処理して、ベクターから切り離した。そのIL-18 DNAを(2)で分離したSS-pcDNA3.1にDNA Ligation Kit Ver. 2.1(Takara社製)を用いて連結し、シグナル配列付のIL-18DNAを有した哺乳類発現ベクター(以下「SS-IL-18-pcDNA3.1」と略記する)を作製した。
【0052】
<結果>
このようにして作製した「シグナル配列付のIL-18 cDNA」の全塩基(555塩基)配列を配列番号7として表5に示す。なお、この配列は図2の符号36の部分である。配列番号7は、シグナル配列付のIL-18 cDNAの全塩基(555塩基)配列を示す。下線部は、シグナル配列を示す。また、5'側に付加した(CTCGAG)は、ベクターとの連結のためのXho-Iサイト、3'側に付加した(GGATCC)は、ベクターとの連結のためのBamH-Iサイトを示す。
【0053】
【表5】

【0054】
5.SS-IL-18-pcDNA3.1の哺乳類細胞でのタンパク発現能の解析
作製したSS-IL-18-pcDNA3.1の哺乳類細胞でのタンパク発現能を確認するため、(1)SS-IL-18-pcDNA3.1をチャイニーズハムスター卵巣由来株であるCHOに導入し、(2)遺伝子挿入によって翻訳される発現ベクターpcDNA3.1中のmycエピトープの発現を蛍光抗体法によって評価した。
【0055】
(1)SS-IL-18-pcDNA3.1をLipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いたリポフェクション法により、CHO細胞に導入した。すなわち、0.8μgの SS-IL-18-pcDNA3.1DNAと3.0μlのLipofectamine 2000をOpti-MEM培地(Invitrogen社製)中に加えて総量100μlとし、室温で20分間反応させてコンジュゲートを作製した後、24ウェルプレート(旭テクノグラス社製、東京)の1ウェルに90%飽和状態になるように0.5 mlのOpti-MEM培地で培養したCHO細胞上に滴下し、6時間反応させた。その後、1.5 mlの牛胎子血清を10%含有するF12培地(Invitrogen社製、以下10%FBS 加F12-」と略記する)を加えさらに24時間反応させた。
【0056】
反応後、培地を2.0 mlのF12-10%FBSに交換し、ネオマイシン(Geneticin、Invitrogen社製)を500μg/mlの濃度になるように添加して培養し、SS-IL-18-pcDNA3.1 DNAが導入されたCHO細胞を選択した。この選択培養においては、pcDNA3.1 ベクターDNA中に含まれるネオマイシン耐性遺伝子の作用によって、SS-IL-18-pcDNA3.1 DNAが導入されたCHO細胞は、ネオマイシン添加培地中で生存、増殖でき、非導入細胞は、生存できずに死滅するため、培養後SS-IL-18-pcDNA3.1導入細胞のみを得ることができる。
【0057】
(2)遺伝子共導入CHO細胞をチャンバースライドII(旭テクノグラス社製)で培養し、底面のスライドグラスに接着させた。4%パラホルムアルデヒドで固定した後、抗c-Myc抗体(ナカライテスク社製)で室温、40分間反応させた。その後、リン酸緩衝食塩水を用いて洗浄し、fluorescein isothiocyanate(FITC)標識ヤギ抗マウスIgG(American Qualex Manufacturers社製)で室温、40分間反応させた。リン酸緩衝食塩水を用いて洗浄した後、共焦点レーザー顕微鏡(ニコン社、東京)にて発現を評価した。
【0058】
<結果>
図3に結果を示す。白い部分は陽性の蛍光反応を示す。ほとんどの細胞に陽性の蛍光反応がみられた。この結果から、SS-IL-18-pcDNA3.1の導入によって、哺乳類細胞からタンパク発現が可能であることが証明され、このことは、IL-18 DNAに連結させたシグナル配列が正常に機能していることを示すものである。
【0059】
6.発現タンパクのIL-18としての機能解析
IL-18は、T細胞に作用してIFNγの産生を増強する。以下に示す方法によって、SS-IL-18-pcDNA3.1導入細胞から分泌されたタンパクがIL-18のサイトカイン機能を持つかどうかを評価した。
【0060】
すなわち、Okanoらの報告(文献番号3)に従い、平底96ウェルプレート(旭テクノグラス社製)の各ウェル中において、文献番号4に記載されている方法によって末梢血単核細胞から分離したT細胞(105個)を組換え体ヒトIL-2(5μg)とともに100μlの10% FBS加 RPMIに浮遊し、そこに100μlのSS-IL-18-pcDNA3.1導入細胞あるいはpcDNA3.1導入細胞(コントロール)の培養上清を加えて、37 ℃、5% CO2の湿環境下で48時間反応させた。
【0061】
その後、反応液を遠心して上清を回収し、そこに含まれるIFN-γの量をQuantikine Canine IFN-γImmunoassay Kit(R&D Systems社製)を用いたELISA法によって測定した。末梢血単核細胞からのT細胞の分離は、文献番号4に記載されている方法により、ナイロンウールファイバー(和光純薬工業)を充填したカラム(ナイロンウールカラム)を用いて行った。
【0062】
<結果>
図4はSS-IL-18-pcDNA3.1導入細胞の培養上清(図中のSS-IL-18-pcDNA3.1)およびpcDNA3.1導入細胞の培養上清(図中のpcDNA3.1)をT細胞に作用させたときのIFN-γの産生量をあらわした図である。
【0063】
図4に示すように、SS-IL-18-pcDNA3.1導入細胞の培養上清(図中のSS-IL-18-pcDNA3.1とある値)は、コントロールであるpcDNA3.1導入細胞の培養上清(図中のpcDNA3.1とある値)に比べ、T細胞から極めて有意に多くのIFN-γの産生を誘導した。このことにより、SS-IL-18-pcDNA3.1導入細胞から機能的IL-18が分泌されることが明らかとなった。よって、シグナル配列の付加により、単独遺伝子のみによって哺乳動物細胞からIL-18サイトカインを分泌できることが証明された。なお、検定に用いたサンプル数は、それぞれ5つである。統計については、スチューデントのt検定を用いて行い、P<0.05以下を有意な差があると判定した。
【0064】
参考文献
文献1.Argyle DJ, McGillivery C, Nicolson L, Onions DE. 1999. Cloning, sequencing, and characterization of dog interleukin-18. Immunogenetics 49:541-543.
文献2.Okano F, Satoh M, Yamada K. 1997. Cloning and expression of the cDNA for canine interleukin-12. J Interferon Cytokine Res. 17: 713-718.
文献3.Okano F, Satoh M, Ido T, Yamada K. 1999. Cloning of cDNA for canine interleukin-18 and canine interleukin-1beta converting enzyme and expression of canine interleukin-18. J Interferon Cytokine Res. 19: 27-32.
文献4.Wijewardana V, Sugiura K, Oichi T, Fujimoto M, Akazawa T, Hatoya S, Inaba M, Ikehara S, Jayaweera TS, Inaba T. 2006. Generation of canine dendritic cells from peripheral blood monocytes without using purified cytokines. Vet Immunol Immunopathol. 114: 37-48.
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は哺乳類の細胞にIL-18を産生させることができるベクターを得る。IL-18はIL−12と相まってIFN-γの産生を促す。そのため、癌細胞や癌細胞周辺の細胞にこの塩基配列をベクターなどで導入することで、癌抑制剤などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】IL-12p40 cDNAを哺乳類発現ベクターへ導入する過程を示す模式図である。
【図2】シグナル配列を付加したIL-18 cDNAを哺乳類発現ベクターに導入する過程を示す模式図である。
【図3】SS-IL-18-pcDNA3.1の哺乳類細胞でのタンパク発現を表した図である。
【図4】SS-IL-18-pcDNA3.1導入細胞の培養上清(図中のSS-IL-18-pcDNA3.1)およびpcDNA3.1導入細胞の培養上清(図中のpcDNA3.1)をT細胞に作用させたときのIFN-γの産生量をあらわした図である。
【符号の説明】
【0067】
10 Xho-Iサイト、矢印は、Xho-Iによって切断される箇所
11 BamH-Iサイト、矢印は、BamH-Iによって切断される箇所
12 Xho-Iサイト位、矢印は、Xho-Iによって切断される箇所
13 BamH-Iサイト、矢印は、BamH-Iによって切断される箇所
21 Nde-Iによって切断されたシグナル配列の断端
22 BamH-Iによって切断されたpcDNA3.1の断端
23 Nde-Iサイト、矢印は、Nde-Iによって切断される箇所
24 BamH-Iのサイト、矢印は、BamH-Iによって切断される箇所
31 シグナル配列部分
32 IL-18 cDNAとpcDNA3.1の接続部位(BamH-Iサイト)
33 シグナル配列とIL-18 cDNAの接続部位(Nde-Iサイト)
34 塩基配列のずれを矯正するために挿入したグアニン
36 SS-IL-18-pcDNA3.1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シグナルペプチドをコードする塩基配列と、
IL−18をコードする塩基配列と、
前記シグナルペプチドをコードする塩基配列と前記IL−18をコードする塩基配列とを結合する塩基配列とを含む哺乳類発現ベクター。
【請求項2】
前記シグナルペプチドはIL−12から得たものである請求項1記載の哺乳類発現ベクター。
【請求項3】
前記結合する塩基配列は、「ATATGG」である請求項1又は2に記載された哺乳類発現ベクター。
【請求項4】
配列番号7で示す塩基配列を有する請求項1〜3のいずれか1つに記載された哺乳類発現ベクター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載された哺乳類発現ベクターと、媒体と含む組成物。
【請求項6】
前記媒体は緩衝液である請求項5に記載された組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−187956(P2008−187956A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25931(P2007−25931)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】