説明

唯一の原料としての空気の中の二酸化炭素と水(水蒸気)からメタノール、ジメチルエーテル、合成炭化水素及びそれらの生成物を生産する方法

空気を唯一の材料とするメタノールとジメチルエーテルを生産する方法。この方法では、水と二酸化炭素とを大気圏の空気から分離し、その後メタノールとジメチルエーテルの生産に用いる。これらの化合物は、燃料若しくは燃料添加剤又はさらに合成炭化水素に転換されこれらの生産物として使用できる。二酸化炭素は、適切な吸収剤、好ましくはポリエチレンイミンが担持されるナノ構造のフュームドシリカ、に捕捉される。このプロセスでは、空気から取得された水の電気分解により生産された水素による水素化が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料としての空気の中の二酸化炭素と水(水蒸気)からメタノール、ジメチルエーテル、合成炭化水素及び生成物への転換について開示する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料は、今日、主要なエネルギー源である。化石燃料は、熱や電気を生成するために使用され、また、運輸燃料の原料である。化石燃料は、種々の炭化水素と、我々の毎日の生活に不可欠なそれらの生成物との原料でもある。しかし、化石燃料の燃焼は、環境に不利に影響し温暖化の原因となる二酸化炭素を生成する。また、化石燃料の埋蔵量は減少している。
【0003】
減少する埋蔵量の化石燃料の代替として、合成炭化水素と燃料の原料としてのメタノールの使用が提案されている。二酸化炭素は、原料の代替源としても提案されている(米国特許第5,928,806号明細書参照)。もし、二酸化炭素が大気から商業的に捕捉し再生ができれば、その供給が実質的に無尽蔵であることを考えると、二酸化炭素を使用するのは特に有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,928,806号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二酸化炭素は、火力発電所やその他の種々の工場が排出する燃焼ガスの中に高濃度に存在する。また二酸化炭素は、天然ガスにしばしば含まれている。多くの天然ガス源は、多量(50%あるいはそれ以上)の二酸化炭素を含む。二酸化炭素の排出量と地球規模の天候への不利な作用を和らげるために、工場の排出から二酸化炭素を捕捉し、捕捉された二酸化炭素を海底下の空洞に隔離することが考えられた。しかし、高いコストと二酸化炭素の漏洩の可能性のために、隔離することは、永久の解決手段を提供しない。二酸化炭素は、不安定であり、そのうち大気に漏洩し得る。不注意による二酸化炭素の漏洩は、地震や他の自然現象によって大いに促進され、壊滅的な衝撃をもたらすであろう。
【0006】
また、大気中への二酸化炭素の放出を削減することは決定的に重要であるが、近年の研究によれば、これのみでは既に発生した障害を改善するためには充分でないことが示唆されている。このように、二酸化炭素が大気中に入らないように安全に処分する方法を提供することに加え、大気中の二酸化炭素の増加による問題をより素早く解決するために二酸化炭素を大気から取り除くことも大いに有利であろう。大気中の二酸化炭素を再生すれば、燃料と合成炭化水素を生産するための無尽蔵な炭素源となり、また同時に大気中の二酸化炭素の増加により引き起こされたりそれが原因となったりしている地球規模の気候の変動を軽減でき、有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は、大気圏の空気からメタノールを生産する方法に関しており、水蒸気の除湿により大気圏の空気から水を除去し、触媒や他の分解手段により、除去された水から水素を取得し、除湿された大気圏の空気から二酸化炭素を吸収や吸着により二酸化炭素を取得し、このように取得された二酸化炭素を、メタノールを生産するのに充分な条件下で還元及び水素化の適切な方法で転換する。このプロセスにおいて、二酸化炭素、水及び抽出された水素は、如何なる必要な形態のエネルギーを用いて原材料としての大気のみから取得される。
【0008】
大気圏の空気に含まれる水(すなわち、空気中の水蒸気)と二酸化炭素は、生成物としてのメタノール、ジメチルエーテル、抽出される合成炭化水素のその後の生産に使われるために分離される。原料として空気を用いることは、そのような生成物を作るのに必要な出発材料を無尽蔵に供給することとなる。前記方法では、二酸化炭素と水を、メタノール及び/又はジメチルエーテルを生成するのに充分な条件下で転換する。メタノール及び/又はジメチルエーテルは、燃料又は燃料添加剤として使用でき、また、合成炭化水素とその生成物にさらに転換される。
【0009】
水は空気を除湿することにより取得することができ、二酸化炭素は適切な吸着剤へ大気中の二酸化炭素を吸着させて、吸着剤が吸着した二酸化炭素を放出させることで取得することができる。二酸化炭素は空気の水蒸気(すなわち、水分)を除去した後に取得することができる。
【0010】
一実施形態では、メタノールは二酸化炭素を触媒により水素化して生産され、水素化に用いられる水素は空気から得られる純水を電気分解することで取得される。別の実施形態では、メタノールは、一酸化炭素を得るのに充分な条件下で二酸化炭素を還元し、一酸化炭素を、ギ酸メチルを得るのに充分な条件下でメタノールと反応させ、使用したメタノールの二倍の量を生産するのに充分な条件下でギ酸メチルを触媒により水素化して得られる。
【0011】
本発明により生産されたメタノールは、所望の誘導または生成される化合物へと、さらに処理することができる。例えば、メタノールから、脱水素化によりジメチルエーテルを生産することができ、両者は価値のある運輸燃料である。メタノールとジメチルエーテルの両者は、エチレンやプロピレンのような化合物を生成するのに充分な条件下でさらに扱うこともできる。エチレンとプロピレンは、さらに高級のオレフィン、合成炭化水素、芳香族化合物や関連する生産物に転換することができ、したがって、化学や輸送燃料のための原材料として有用である。
【0012】
さらに別の実施形態では、メタノールは、また空気から分離されアンモニアやアンモニア塩を生産するための窒素とともに、微生物を用いたタンパク質の生産に用いられる。
【発明の効果】
【0013】
大気中のCOと水とを、主要燃料と生産物の生産に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、エネルギーの貯蔵と輸送、輸送燃料の生産、そして生成された合成炭化水素生産物に用いることができるメタノールとジメチルエーテルなどのメタノールから生成される化合物を生産するために大気中の空気を唯一の原料として用いることに関する。
【0015】
一実施形態においては、本発明は、空気の使用に関しており、少量であるが無視できない量の二酸化炭素と、より無視できない量の水(すなわち、水蒸気)が、メチルアルコール及び/又はジメチルエーテルの唯一の原料として用いられる。空気は、温度、気圧、湿度などを含む条件に依存して、低量(0.037%)のCO成分と比較的高(2−6%)い水成分を有する。水分を除くために空気を除湿した後、吸収、吸着剤による吸着、膜分離や他の技術といった如何なるプロセスも本発明のCOを取得して分離することに用いることができる。
【0016】
水は、多くの場所でしばしば利用できず、及び/又は、水素を生成するために用いる前に大規模な純化、浄化などを必要とする場合があるので、大気から取得した純水はしたがって水素源として用いるのに正に適している。
【0017】
COは、膜分離や吸着の装置や材料などの適した手段により空気から分離することができる。COを混合ガスから捕捉し可逆的に吸着する効率的なプロセスの一つとしては、同じく係属中であり、その参照により内容が本願に取り込まれる2006年8月10日出願された米国仮出願番号60/837,274に開示されたフュームドシリカのようなナノ構造単体の吸着剤を用いることである。二酸化炭素が捕捉された後には、ここに記述されている反応で用いるために熱及び/又は減圧して直ちに放出がされる。
【0018】
水(すなわち、空気の水蒸気成分)は、いかなる適した手段でも、空気から分離される。空気から分離された水は高い純度を有し、触媒や電気分解による水素生産源として所望の方法で直接に用いることができる。このように取得された水素はCOからメタノールへの水素化転換に使用することができる。
【0019】
COとHOはしたがって、その参照により内容が本願に取り込まれる米国特許第5,928,806号明細書及び同じく係属中の米国特許出願11/402,050号のプロセスにしたがって大気圏の空気を共通の原料として取得し、メタノールやジメチルエーテルの生産に用いることができる。米国特許第5,928,806号明細書は、二酸化炭素と水とを還元し、例えば、二酸化炭素と水が反応し、酸素と酸化炭化水素や炭化水素の混合物を生成するように二酸化炭素、水と電気エネルギーを還元層に入れ、メチルアルコール、ギ酸メチル、ホルムアルデヒドやギ酸などの酸化炭化水素を生成する方法を開示している。米国特許出願11/402,050号は、触媒による水素化によりCOをメタノールに転換する方法を提供し、触媒による水素化に用いられる水素は、水の電気分解を含む適切ないかなる源からでも取得することができることを開示している。本願は、二酸化炭素を還元し、ギ酸と、ホルムアルデヒドと少量のメタノールとを附属的に生成される反応混合物を生成することを開示する。その後、ホルムアルデヒドとギ酸とをメタノールに転換する処理がされる。ホルムアルデヒドとメタノールに転換するカニッザーローティシェンコ型化学反応に加え、ギ酸(水素源として)をホルムアルデヒドに反応させてメタノールを合成しメタノールの生産量を増加させることができる。あるいは、ギ酸にメタノールを反応させ、ギ酸メチルを生成することができ、触媒を用いた水素化により、二倍のメタノール量を得ることができる。別の経路として、二酸化炭素は、高温下での炭素の反応により一酸化炭素を発生させ、このように生産された一酸化炭素をメタノールに反応させ、ギ酸メチルを生成し、触媒を用いた水素化によりメタノールを生成することができる。COと水を空気から分離し、その後COと水素をメタノールやジメチルエーテルに転換するのに必要なエネルギーは、原子力、地熱、太陽、風力を含む従来のあるいは別の源から供給することができる。
【0020】
本発明による大気圏のCOとHOから生成されるメタノールとジメチルエーテルは、貯蔵と輸送に便利である。メタノールは優れた輸送燃料であり、合成炭化水素と生成物質の生産に簡単に用いることができる。それは、ジメチルエーテル(メタノールの脱水素化により生産される)やジメチル炭酸塩に転換することができる。ジメチル炭酸塩はメタノールの酸化的カルボニル化により生産することができる。ここに記載される発明によれば、全てのこれらの燃料が、空気だけから生産することができる。
【0021】
メタノール、ジメチルエーテル、合成炭化水素生成物とこれらから由来する合成物は、便利に安全に貯蔵できるエネルギー源として有用であり、種々の化学物質、合成炭化水素と関連する生成物の出発材料としても有用である。メタノール及び/又はジメチルエーテルは酸性基材あるはゼオライト触媒の存在下でエチレン及び/又はプロピレンに転換することができ、エチレン及び/又はプロピレンはポリマーの生産に、また、輸送燃料を含む他の合成炭化水素、由来物質、化学物質の原料として、有用である。
【0022】
これら全ての反応は、当業者に一般的に知られているので、ここにおいて詳細な反応条件について述べる必要はない。当業者は、ここに開示されている唯一の原料としての大気に由来する物質から出発して所望の生産物に到達したり生産したりする十分な条件について知っている。
【0023】
メタノールは、空気からの窒素を利用することにより窒素を含む栄養塩類の存在する水媒体の中においてタンパク質、例えば微生物タンパク質、を生産するための単一細胞生物や微生物の栄養源としても用いることができる。このように、本発明は、空気だけから取得されるCO、HO及びNを用いたタンパク質などの窒素を含む栄養生産物を生産する方法を提供する。本実施形態において、大気圏の空気は、再生可能な炭素源(すなわち、二酸化炭素)と水素源(空気の水蒸気成分から得られる)としてだけ用いるのではなく、窒素を含むタンパク質のための窒素源としても用いる。このようにして生産された単一細胞生物は、ヒトまたは動物の栄養物を含む所望の目的に使用することができる。
【0024】
空気を唯一の原料として、COとHをメタノールやジメチルエーテルに変換する本発明は、地上において普遍的に用いることができ、炭化水素生産物から主要燃料を生産することを皆に利用可能とし、空気の普遍的直接的な利用による特徴的且つ有意義な利点を提供する。水は地球上に豊富に存在するが、きれいな水は多くの地域で利用することができない。海水の脱塩は、費用がかかるが、きれいな水を得る可能性のある方法である。乾燥地域では、水は、外部から時として遠い場所から運ばなければならない。空気から取得されるきれいな水は、このように、利用価値があり、COの分離のさらに経済的な副生産物である。メタノールと生成される生産物の唯一の原料として空気を用いることで、本発明では、無尽蔵で普遍的に地球上のいかなる場所においてもCOとHを利用することができる。このように、埋蔵量がますます減少している化石燃料を置き換えるのに必要な燃料と材料の基板となる。プロセスも利点を有しており、COが大気圏にますます集中することによる地球規模の天候の変化を和らげ、大気中のCOと水とを、主要燃料と生産物の生産に有効に利用できる。
【実施例】
【0025】
以下の例は、説明のみのためであり、本発明の範囲を限定するように解釈されてはならない。
【0026】
(例1)
空気の水分は、適切な冷却及び吸収技術を用いて、適切に利用可能ないかなる除湿の方法によっても除去される。多量に大気中の水分を除去した後、処理された空気は、二酸化炭素を効率よく吸収することが知られている適切な化学的な吸収剤からなる吸収システムに通される。
【0027】
(例2)
空気の除湿により取り除かれたきれいな水は、電気分解による水素の生成に用いられる。
【0028】
(例3)
例1にしたがって吸収または吸着された二酸化炭素は、次に、加熱又は/及び減圧化により放出され、化学的にメタノールに転換される。
【0029】
(例4)
除湿された空気から二酸化炭素を取り除く吸収システムは、好ましくはポリエチレンイミンや他のポリマーからなるポリアミノからなる。
【0030】
(例5)
例4で用いる吸収剤は、フュームドシリカ、アルミナ、その他の高表面活性を有するナノ構造性質を有する適切な単体に、有意に活性が増大された状態で担持される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圏の空気からメタノールを生産する方法であって、
大気圏の空気から水蒸気を除湿して水を除去し、
触媒又は他の分解手段により除去された水から水素を取得し、
除湿された大気圏の空気から吸収又は吸着により二酸化炭素を取得し、
このように取得された前記二酸化炭素を、メタノールを生産するのに充分な条件下で適切な還元や水素化の方法により、変換し、
前記二酸化炭素、前記水及び生成された前記水素は、任意の必要なエネルギー形態を用いて原料としての大気圏の空気からだけから取得される方法。
【請求項2】
反応に用いられる全ての水は、空気を除湿して得られる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二酸化炭素は、除湿の後得られる空気から分離される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
吸収剤は、高表面活性を有するナノ構造性質を有する担体に堆積したポリマーを含むポリアミノである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ポリマーを含むポリアミノは、ポリエチルイミンであり、担体は、フューズドシリカである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記二酸化炭素は、大気圏中の二酸化炭素を吸着剤で捕捉した後、前記吸着剤を処理して捕捉した二酸化炭素を放出して取得される請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記吸着剤は、捕捉した二酸化炭素を、充分な加熱下、減圧下、真空下若しくはガスパージ下又はこれらの組み合わせにより、放出する処理が行われる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記水素は、大気圏中の空気から除去された水の電気分解又は触媒若しくは熱による分解で取得される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記空気から取得される前記二酸化炭素と水とからメチルアルコール又はジメチルエーテルが生産される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記二酸化炭素を、一酸化炭素を生成するのに十分な条件下で還元し、ギ酸メチルを取得するのに充分な条件下で前記一酸化炭素にメタノールを反応させ、メタノールだけを生産するのに充分な条件下で前記ギ酸メチルを触媒により水素化する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ジメチルエーテルを生産するのに充分な条件下でメタノールを転換する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ジメチルエーテルを、酸性基材あるはゼオライト触媒の存在下でエチレン及び/又はプロピレンを生成するのに充分な条件下にて反応させる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
エチレン又はプロピレンを、種々の合成炭化水素、生成された化学物質、ポリマー、これらより生産される生産物を生産するのに充分な条件下で転換する請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2010−500362(P2010−500362A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523894(P2009−523894)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/074601
【国際公開番号】WO2008/021698
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(592048844)ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (26)
【Fターム(参考)】