説明

嗅覚部位に物質を送達するための鼻用送達装置

嗅覚部位(22)に物質を送達するための装置(10)が説明される。この装置は、ノーズピース(32)、及びノーズピース内に摺動可能に配置されて後退位置と伸長位置との間を動く長い筒状部材(36)を備える。筒状部材は、送達すべき物質を収容している容器(34)と連通している。使用中、筒状部材は装置から伸びて、物質を嗅覚部位に向ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに説明される主題は、患者の嗅覚部位に物質を送達するように設計された鼻用の送達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鼻孔内投与には、血流への直接経路、薬剤の肝臓初回通(first pass)代謝の回避、高い生体内利用効率、容易さと利便性、及び中枢神経系への近接を含んだ多くの長所がある。即ち、中枢神経系への物質の送達は、脳血液関門のため困難である。脳血流関門が、数個の分子しか通過できない脳毛細血管の内皮から初めに発生する。脳血液関門は、アルツハイマー病、パーキンソン病、発作、脊髄損傷、うつ病、及びその他の中枢神経系疾患に対する治療用薬品の送達を妨げる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
匂いの感知及び薬品に関係する鼻腔内の嗅覚部位は、脳と外部環境との間の特有かつ直接的な結合を提供する。多くの研究が、鼻腔内に適用されたとき脳血液関門と交差せず又は僅かしか交差ぜず中枢神経系に急速に送達できる薬品を報告している。鼻の内部、特に嗅覚部位への送達は、薬品の中枢神経系への送達用経路を提供するが、嗅覚部位は通常の鼻用送達装置を使用しての接近が困難である。嗅覚部位は鼻腔の最も上方の部分に置かれ、吸入された空気の10%以下しか流れない。通常の鼻用のスプレイは、投与量の大部分が鼻腔の下方部分に置かれ、嗅覚部位には僅かしか到達しない。本技術においては、嗅覚部位を狙った送達を提供する装置が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
関連技術の先行例及びこれに関連する限界が示されるがこれだけではない。関連技術のその他の限界は、本明細書の読解及び図面の研究により本技術熟練者に明らかとなるであろう。
【0005】
以下の態様及び後で説明されかつ図示されるその実施例は例示及び図解のためのものであり本発明を限定するものではない。
【0006】
一態様において、嗅覚部位に物質を送達するための装置が提供される。一実施例においては、装置は、鼻孔と実質的に気密な封鎖を形成するようにされたノーズピース、及びノーズピース内に摺動可能に配置された長い筒状部材を備える。筒状部材は、後退位置と伸長位置との間を動き得るようにされる。筒状部材は、末端に出口を有し、そして手元側の端部には、筒状部材がその伸長位置にあるとき筒状部材をノーズピース内に保持するに適した構造を持つ。筒状部材は末端から手元側端部に伸びる送達通路を備え、手元側端部から末端への流体の流れに応答して筒状部材が動くようにされる。装置は前記長い筒状部材と連通している貯蔵器も備え、この貯蔵器は送達すべき物質を収容する。
【0007】
別の態様においては、装置の使用方法及び治療用物質の送達方法が説明される。
【0008】
上述の例示態様及び実施例に加え、図面の参照により、及び以下の説明により更なる態様及び実施例が明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
鼻用送達装置及び使用方法
一実施例においては、患者の嗅覚部位に物質を投与するための装置が説明される。嗅覚粘膜は嗅覚球内の経路及び脳と脳脊髄液との相互連結区域内への経路を提供するため、この装置は、脳又は中枢神経系における状態又は不調、或いは脳又は中枢神経系に治療対象を有する状態又は不調の治療又は予防に特に適している。鼻用送達装置の構成要素がまず説明され続いてその使用が説明される。図1−8は、鼻用送達装置の特別な実施例を示し、これらは装置の単なる例示である。熟練者は、説明される本発明の特徴を保持しつつ、ここに説明される装置に種々の変更をなし得ることを認めることができる。
【0010】
図1A−1Bは一実施例による装置を示し、これにおいては説明の目的で示される患者の鼻腔の鼻前庭12内に挿入された装置10が示される。鼻前庭は、それぞれ14、16、18で示された下鼻甲介、中鼻甲介及び上鼻甲介内に開口する。甲介の前上方に前頭洞20がある。22で示された破線で囲まれた区域が嗅覚部位を示す。蝶形骨洞が24で示され、鼻孔内部が26で示される。鼻腔は鼻咽腔30内に開口する。装置10は、外鼻孔壁にぴたりと適合するように形成し得る材料から形成されたノーズピース32を備える。本技術に普通の適宜の方法によりノーズピースに本体34が連結され、この本体は送達すべき物質を収容する。物質をどのように本体内に収容するかは重要でなく、物質は、これを本体内に実質的に直接置くこことができ、或いは本体内に配置された収容部材内に保持させることができる。装置10は、図1Aに蔭線で示された長い筒状部材36も備える。筒状部材36は、図1Aに見られる後退位置と図1Bに示された伸長位置との間で動けるようにノーズピース内に摺動可能に配置される。更に後述されるであろうように、装置10が鼻前庭内に挿入されたときノーズピースは鼻前庭内に伸びる。有効物質を嗅覚部位に向けるために、装置の操作により長い部材がその後退位置から伸長位置に動かされる。
【0011】
装置10の断面が図2A−2Cに示される。図2Aに完全後退位置において見られる長い部材36は、手元側の端部38と末端40とを有し、末端は送達すべき有効物質を放出するための出口42を持っている。使用の際は、物質は、装置の本体から送達路44を通って出口に移動する。この実施例においては、手元側の端部38は、長い部材が図2Cに見られるようなその完全伸長位置にあるとき、長い部材をノーズピース内に保持するように作用する移動止め46を備える。ここに示された装置において本体34を圧し又は絞ることによる装置の操作が、本体内に保持されていた物質と空気とを送達通路内に押し込み、同時に長い部材を強制してこれをその後退位置(図2A)からその伸長位置(図2C)に動かす。物質の送達は、長い部材が図2Bに示されるような部分的に伸ばされ位置にあるときに生ずるでろうことが認められるであろう。
【0012】
装置の別の実施例が図3A−3Cに示される。装置50は、上方本体部分56と可動の下方本体部分54とを有する本体52を備える。ノーズピース58が、本体、特に上方本体部分に連結され又は一体に成型される。ノーズピース58は、使用者の鼻口に適合するための球状部材60、及び鼻前庭内に伸びるノズル部分62を備える。下方本体部分56は、図3Aに矢印で示されるように時計方向又は反時計方向に動くことができる。下方本体部分の180゜の回転で装置の使用を開始する。回転運動は、使用者の吸い込みに応じて空気が通過する64で示された装置底部の空気取り入れ用の内部流体通路を整列させるように作用する。図3Bは、使用前の下方本体部分が回された後の装置を示す。下方本体部分ではなくて上方本体部分が回転するように設計できることが認められるであろう。装置50は、図3Cに見られる筒状部材66も備え、これは、使用者が装置を通して空気を吸い込んだときの圧力の上昇に応答してノズルから伸びる。筒状部材は、本体又はノーズピース内に収容された物質を放出するためにその末端に出口68を備える。筒状部材の手元側の端部は、この図面では見えないが、筒状部材が完全に伸長したときにノズル内の筒状部材を保持するための手段を備える。かかる手段は、例えば、筒状部材の手前側端部のリップ(lip)であって、筒状部材が通過して伸びる装置開口より僅かに大きいリップとすることができる。かかる手段は、筒状部材の一部分が、使用中、装置内に残るように選定された長さの筒状部材とすることもできる。かかる手段は、筒状部材の手元側部分が末端部分より大きい直径のものであるように直径を徐々に変化させた筒状部材とすることもできる。筒状部材ではなくて、ノズル又はノーズピースが、ノズル内に筒状部材を保持するための手段を備えることも認められるであろう。
【0013】
第3の装置の実施例が図4A−4Bに示される。装置70は、上方領域74及び下方の可動領域76を有する外側ハウジング72を備える。使用者の鼻の穴に当たるような形及び寸法にされた円い頭部78がハウジングの上方領域に連結される。円い頭部は、例えば使用のために置かれたとき鼻の穴と気密に組み合うコンアプライアントな材料で形成することにより鼻孔に当たるようにされる。頭部78は、下方部分76が回転運動したとき図4Bに見られるようにノズル82が通り抜けて伸びる開口80を備える。ノズル82は使用者の鼻腔内に伸び、装置内に収容されていた物質を嗅覚部位に向けて送達する。ノズル82の寸法は、鼻腔内への希望の進入深さを達成するように変更し得ることが認められるであろう。
【0014】
図4Cは、装置の上方部分を示す装置70の断面図である。ハウジング72は、ノズル82の配置された円い頭部78に当たる。ノズル82の外壁82が開口通路86を定め、送達すべき物質及び空気は、装置の使用中、この開口通路を通って移動する。外側ハウジング内及びノズルの末端には壊れやすい要素88が置かれる。壊れやすい要素88は装置使用者に送達すべき物質を外へもらさない。針として例示された穿刺用部材90が、例えば、曲線軌道92の運動に応答して壊れやすい部材と接触するように取り付けられる。曲線軌道92は、図4A−4Bに関して上述された下方ハウジング領域の回転運動に応答して動く。下方領域が、穿刺部材と接触する位置に湾曲軌道を回転させて動くと、穿刺部材が壊れ易い部材を破裂させる。下方ハウジング領域の連続回転が、湾曲軌道を最初の位置に戻し、ここで壊れ易い部材との接触が終わり、そしてノズルが円い頭部から伸ばされる。
【0015】
装置の別の実施例が図5A−5Cに示される。まず、図5A−5Bを参照すれば、鼻用送達装置100が使用者の鼻前庭内に挿入されて示される、図1A−1Bに関連して上述された数字表示が鼻腔領域を同定する。装置100は、本体103を定めかつ送達すべき物質を収容する容器(見えない)を囲んでいる外側ハウジング102を備える。装置は、患者の鼻孔内に挿入するように構成されたノーズ部分104も備える。ノーズ部分104は開口106を備え、この中を通って筒状送達部材108が伸長(図5B)及び後退することができる。送達部材108は、図には見えない内部通路を介して容器と連通している。送達手段108は物質を放出するためにその末端に出口を備える。
【0016】
装置の操作前又は操作中に拡大するように構成された1個又はそれ以上の構造が送達部材の外周に配置される。図5Cは、図5Bに示された緩和された非拡大状態に関して拡大された状態にある拡大可能な構造110を示す。拡大可能な構造は種々の構成とすることができ、かつ種々の材料から作ることができ、そしてその例が以下提供される。拡大可能な構造は下鼻甲介及び中鼻甲介への空気流を妨げ、下鼻甲介及び中鼻甲介を囲んでいる洞、下鼻道及び中鼻道への流れをそれぞれ減らす。これら領域への空気流への妨害は、空気を嗅覚部位と接触のために上鼻甲介(上方甲介)に向け直す。
【0017】
拡大可能な構造は種々の形状を取ることができ、そしてここでは、この構造が下鼻甲介及び中鼻甲介のいずれか又は双方への空気流を少なくも部分的に妨げるように作用することを意味して一般に流れ妨害用手段と呼ぶ。流れ妨害手段は、装置の作動の際、空気を装置の本体内に入れそして拡大可能なバルーン及び同等品内に流すように、例えば装置の本体に対する使用者の絞り、使用者の吸い込みにより膨らみむバルーン又はカフのような1個又は複数個の拡大可能な部材とすることができる。
【0018】
妨害用手段は、鼻粘膜と接触すると拡大する吸収性材料から作られた構造の形を取ることもできる。流体と接触したとき拡大し得る材料は広く知られ、そしてこれには、限定するものではないが、レーヨン、木綿、木材パルプ、及び化学的に硬化され、改質され又は架橋されたセルロース繊維のような繊維素材料;ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、泡吸収剤、吸収性スポンジ、超吸収性ポリマー、吸収性ゲル化材料のような合成材料;毛管(capillary channel)繊維及びマルチリムドファイバー(miltilimbed fiber)のような形成された繊維;或いはこれらと同等の材料又は材料の組み合わせ又はこれらの混合物を含む。本発明の一実施例においては、拡大可能な材料又は流れを妨害する手段は、種々の希望の挿入深さ及び快適度を受け入れる半固体ないし軟質の材料から作られる。
【0019】
図5Cに示された拡大可能な構造は送達用部材の回りに配置されて示されるが、拡大可能な構造は送達用部材の選定された区域に配置することができ、更に拡大可能な部材が複数個あるときは、これらを接触し又は非接触とすることができる。
【0020】
さて、続けて図5A−5Cを参照して装置の操作が説明されるであろう。装置の本体が使用者の鼻口に当たるまでノーズピース104が一方の鼻口内に挿入される(図5A)。次いで、使用者は、「吸い込み」作用が生ずるように、多くの場合、口を閉じて鼻から吸入する。使用者は、上述された装置の設計に応じて、同時に装置の本体を圧搾する。吸い込み作用が単独で又は装置の内向きの圧搾と組み合って、送達部材を装置のノーズピースから伸長させる(図5B)。同時に、拡大可能な構造の拡大により、又は吸収性の拡大可能な構造の拡大により妨害手段が作動される(図5C)。送達手段及び妨害手段の作動と本質的に同時に、送達用貯蔵器内に収容されていた物質が、送達部材の末端の出口を通って放出される。物質は、送達部材の末端出口の付近が嗅覚部位に近接しているため、及び空気流を上鼻甲介に向け直す妨害用構造のため、物質は嗅覚部位に向けられる。装置は、物質の送達後、送達部材がその伸長位置又は後退位置にある状態で、かつ拡大可能な構造がその特性に応じて拡大され又は緩和された状態で鼻から外される、
ここに説明された装置の実施例はいずれも、送達すべき薬品を、筒状部材の先端部に加えて、又は先端部に代わって、筒状部材本体に沿って部材から出し得ることが認められるであろう。例えば、筒状部材の本体に沿って1個又は複数個の出口を置くことができる。空気流用の通路から分離した薬品送達用通路を有する筒状部材を考えることもできる。
【0021】
上の例示装置の筒状部材は、主として、空気流により作動させられる。ばね装填式の筒状部材、又は筒状部材を伸長させるばね装填式のアクチュエーターもまた考えることができる。
【0022】
鼻用の送達装置が作られ、試験された。作動前及び後における例示装置が図6A−6Bにそれぞれ示される。装置120は、本体部分122及びノーズピース124より構成される。ノーズピース及び本体は一体に形成されたが、一緒にフィットさせる2個の分離したユニットとすることができる。ノーズピース124は開口126のその末端で終わり、装置作動の際はこの開口を通って送達部材128が伸びる、送達部材は、後退位置(図6A)と伸長位置(図6B)との間を動くようにノーズピース内に摺動可能に収容される。装置内に収容された物質を放出するために送達部材の末端に出口130が配置される。
【0023】
鼻の模型が、ポリジメチルシロキサンを使用し、図7A−7Cに示されるように構成された。模型の一方の端部の開口が鼻口を模した鼻装置の挿入口として作用し、そして他方が鼻咽腔を模した鼻からの出口として作用する。図7Aは鼻模型内に挿入された装置を示し、そして図7Bは送達部材が鼻模型内に深く延ばされた状態の作動後の装置を示す。解析のため、鼻模型は図7Cに示されるように区分けされ、区分1は鼻口に相当し、区分2は下鼻甲介及び中鼻甲介に、区分3は嗅覚部位に、区分4は鼻咽腔に相当する。
【0024】
研究は、図7Cの鼻模型及び図8A−8Dに示された原型装置を使用して行われた。図8A−8Dの顕微鏡写真に示される装置140は鼻模型内に挿入するノズル142を備え、このノズルの末端は薬品貯蔵器146内に収容された物質を放出するための出口144を持つ。ノズルの外周上にシース148が担持され、ノズルはシース内に摺動可能に配置される(図8B)。使用の際は、シースが装置のハウジング又は薬品貯蔵器に向けて手前側に引戻され及び/又はノズルが鼻腔内に進入するようにシースから伸びる。図8Cに見られるように、シースとノズルの外周との間に拡大可能な構造150が配置される。この実施例においては、拡大可能な構造150は、気体又は液体、典型的に空気又は食塩水のような流体で満たすことができるポリマー部材である。流体貯蔵器152が、通路154を介して拡大可能な構造と連通し、そし使用中、構造を図8Dに示されるように拡大させるように作動する。装置が使用者の鼻腔内の定位置にあるときの構造の拡大が、下鼻甲介及び中鼻甲介への空気流を妨害し、空気流を嗅覚部位に向ける。
【0025】
流れを指向させ、従って希望の物質を嗅覚部位に送達する装置140の能力が、図9A−9Dの顕微鏡写真に示される。この顕微鏡写真は、市販の12時間デコンジェスタント(decongestant)スプレイびん(図9A)、図8A−8Dの原型(図9B)、及び市販の噴霧器(図9C)からの液体の送達後の鼻腔模型のものである。通常のスプレイびんは、主に鼻孔内及び下鼻甲介と中鼻甲介の区域において液体が分布するパターンが得られた(図9A)。噴霧器は鼻孔のほぼ全体に液体を分散させた(図9C)。ここに説明された装置は、図9Bに見られるように、嗅覚部位への液体の集中的な送達を提供した。
【0026】
図8A−8Dの装置と鼻模型及びバロイス・コーポレーションからの市販の多数回投与形、非加圧式装置(VP−6)を使用して別の研究が行われた。鼻模型内に装置から蛍光液体が送達され、装置から送達後の鼻模型のコンピューター顕微鏡写真が図10A−10Cに示される。図10Aは、ここに説明された嗅覚部位への物質の送達を目標とした装置の液体の送達に相当する。対比して、2回試験された市販のVP6装置は、下鼻甲介骨及び中鼻甲介への液体の送達が生じ、嗅覚部位に送達された液体はあったとしても極めて少量であった(図10B−10C)。図10Cに線で示される鼻模型の頂部、中部、及び下部に分配された液量が定量され表1に示される。
【0027】
【表1】

【0028】
図8A−8Dの原型装置を使用して行われ、更に市販の12時間デコンジェスタントスプレイびん(ノストリラ、nostrilla))、バロイス・コーポレーション発売の多数回投与形の非加圧式装置(VP6及びVP7)、低速及び高速で操作される市販の噴霧器と比較した種々の調査が図11にまとめられる。各装置により鼻模型の種々の区域に分布された液体の量が、鼻前庭、下鼻甲介と中鼻甲介、嗅覚部位、鼻腔の後方、及び咽喉と肺の諸区域における液体の総量に対する百分率で定量され、図11に示される。小売りのデコンジェスタントスプレイびん(ノストリラ)は、液体の約60%を外鼻孔にそして投与量の約30%を下鼻甲介骨及び中鼻甲介に送達した。多数回投与形の非加圧式装置VP6及びVP7(vp6及びvp7)は、それぞれ約60%及び80%を下鼻甲介及び中鼻甲介に送達した。低速モード又は高速モードで操作される噴霧器(neb slow、neb fast)は下鼻甲介及び中鼻甲介に最大量(約40%)投与した状態で鼻の全区域に投与した。本発明の原型の装置(バルーン)は、投与量の約75%を嗅覚部位にそして約25%を下鼻甲介及び中鼻甲介に送達した。
【0029】
概括すれば、図9−11の結果は、特許請求される装置が鼻の中に投与された物質を嗅覚部位に向けて送達し得ることを示す。この装置は、嗅覚部位に送達を向けるように鼻腔内に単独で進入し、又は下鼻甲介及び中鼻甲介への空気流を妨げるように作用する構造と組み合って進入する伸長部材を備え、これにより嗅覚部位への堆積を増加させるように嗅覚部位により多くの空気流を向ける。
【0030】
別の実施例においては、装置は、更に、使用者の吸い込みに応答して装置を作動させるに有効な圧力センサーを備える。吸い込みが嗅覚部位への空気流を増加させるため、装置と組み合わせられた吸い込み作用が、空気の大部分を嗅覚部位を通って流れるようにさせ、現在の鼻用のスプレイ装置で達する堆積と比較して目標区域への大量の薬品の堆積をもたらす。圧力センサーは装置内の適宜適切な位置、例えば本体ハウジング内又はノーズピース内に置くことができる。圧力センサーは、大気圧に関連した装置内の空気圧力差を検出することにより使用者の吸入又は「吸い込み」を検出する。吸い込みによる圧力差が検出されると、筒状部材を伸長させ及び/又は拡大し得る構造を拡大させるように操作用装置に信号を送ることができる。この機能を成し遂げる適宜適切な圧力センサーを使用することができる。
【0031】
使用方法
別な態様においては、作用物質を嗅覚部位に送達する方法も提供される。この方法は、実質的に前述された装置の提供、鼻前庭内への装置のノーズピースの挿入、及び作用物質を送達するための装置の作動を含む。
【0032】
嗅覚部位への鼻内送達により種々の疾患及び状態を治療することができる。本発明の方法は中枢神経系(CNS)に治療目標のある疾患又は不調の治療に有用であるが、一実施例においては、本発明の方法は、中枢神経系の疾患又は不調の治療に有用かつ便利である。中枢神経系の疾患又は不調の例はよく知られ、かかる疾患又は不調は、限定するものではないが、頭部損傷、脊髄損傷、発作、虚血、てんかん、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、ウイルス性脳炎、細菌性又はウイルス性髄膜炎、脳腫瘍、脊髄腫瘍、ペリツェウス−メルツバッヘル病、多発性硬化症、ロイジストロフィー、外傷性脱髄、脳血管事故、双極性異常、うつ病、不安症、精神分裂症、偏頭痛、神経障害、急性痛、突破痛、慢性痛、睡眠障害、自閉症、イートン−ランバート症候群、睡眠発作、不眠症、脳性麻痺、嗅覚欠如、及び老年痴呆を含む。中枢神経系の要素を含むその他の疾患及び不調は、限定するものではないが、肥満症、高血圧と低血圧、及び疼痛を含む。
【0033】
この装置は、1回分の投与の送達に使用することができ、或いは多数回投与分の送達に使用することができる。ここで使用される「投与分」は、適宜の量の希望の物質或いは薬品又は組成物の組み合わせとすることができる。希望の物質は、治療薬、診断薬、又は予防薬とすることができる。
【0034】
投与すべき有効物質は、嗅覚部位、脳、又は中枢神経系における疾患又は不調を治療、検査、又は予防し得る適宜の作用物質とすることができる。常時ではないが、通常は、有効物質は、嗅覚部位、脳、又は中枢神経系に治療目標を有する疾患又は不調を治療、検査、又は予防するために投与されるであろう。従って、用語「物質」は、疾病又は不調、或いは嗅覚部位、脳、又は中枢神経系における治療対象の疾病又は不調を治療し、検出し、又は予防し得る物質を広く含むことを意図している。送達し得る物質は、限定するものではないが、人工又は天然の有機製薬品、放射性製薬品、ワクチン、人工又は天然のペプチド、タンパク質、抗体、ホルモン、ワクチン、DNA及びRNA、遺伝子操作微生物、糖、炭水化物、脂質、ホメオパチックソリューション(homeopathic solutions)を含む。これの合成物は、合成物の安定又は生体内利用効率を支援するための追加の処方あり又は無しで投与し得ることが認めらるであろう。
【0035】
嗅覚部位又は脳に影響する上述の疾患の医学的処置又は予防処置に使用し得る作用物質の特別な例は、例えば、抗ウイルス物質;抗プリオン物質;イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、ジクロフェナク、トルフェナム酸、ピロキシカム、及び同等薬のような抗菌性物質、抗腫瘍性物質、駆虫性物質、抗炎症性物質;イミプラミン、ノルトリプチリン、プリチプチレン(pritiptylene)、及び同等薬のような抗うつ物質;ミコナゾール、ケトコナゾール、アムフォテリシンB、ナイスタチン、メピラミン、エコナゾール、フルコナゾール、マイコスタチン、及び同等薬のような殺菌・殺カビ性物質である。投与される有効物質は、神経伝達、神経変調、ホルモン、ホルモン放出因子、ホルモン受容体作用役又は拮抗作用、及び神経向性因子としても作用する。有効物質は特定酵素の活性化又は抑制薬、抗酸化薬、遊離基除去薬、金属キレート薬、又は脳細胞膜のイオン通路の活性を変える薬剤、例えばニモジピンとすることもできる。有効物質は、更に、刺激剤、沈静剤、催眠剤、鎮痛剤、抗痙攣剤、抗嘔吐剤、精神安定剤、トランキライザー、認知増強剤、健忘症予防又は治療薬、代謝刺激薬又は抑制物質、食欲刺激又は抑制剤及び/又は麻薬拮抗薬又は作用物質とすることができる。更に、有効物質は、治療又は予防する脳の不調に関連して欠乏していることが見いだされた物質、例えばブドウ糖、ケトン体、及び同等のような栄養;アルツハイマー病の治療のための神経伝達物質の生産用のレシチン、コリン又はアセチルコエンザイムAのような代謝前駆物質或いは肥満症治療用のインスリンとすることができる。有効物質は、ウイルス、細菌、プリオン、寄生性感染又は腫瘍及び/又はがんの治療のため、或いは多クローン性又は単クローン性抗体及び/又は疾患又は疾病の生化学的マーカー特性が使用される脳疾患又は不調の診断のために適した抗体とすることができる。かかる診断用抗体は、適宜適切なラベル用薬剤でラベル付けすることができる。遺伝子操作微生物も使用することができる。嗅覚部位及び脳の腫瘍及び/又はがんの治療用に使用することができる。
【0036】
更に、ある状況においては、甲介(鼻甲介)は、特にアレルギー性鼻炎において肥大することがある。この肥大した甲介、特に鼻甲介を前処置し又は処置するために、肥大した甲介を、ここに明らかにされた方法に従って、アドレナリン、抗ヒスタミン、或いはエフェドリン、メタオクキセドリン(metaoxedrin)、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、ブデソニド、フルニソリド、ベクロメタゾニジプロピオナト(beclometasonidipropionat)、コカイン、又は同等のようなコルチコステロイド有効物質により処置することができる。
【0037】
有効物質は単独で適用され(この場合は、これが単独で製薬製剤を構成する)又は他の物質と組み合わせられて適用される。有効物質が適切な物理化学的特性を有するならば、有効物質を単独で投与することができる。これは有効物質が液体である場合、又は粉末にされた物質の形式である場合である。しかし、多くの場合、有効物質は他の成分と一緒の製薬製剤で存在することが好ましい。
【0038】
本発明による方法での使用に適した製薬製剤は、マイクロカプセル封じされた粉末、顆粒、ミクロスフェア及びナノスフェアを含む粉体;溶液、分散液、乳剤及び懸濁液を含む液体;リポソーム、ゲル、ヒドロゲル、泡、軟膏又は気体のような流体、半固体、又は固体の製剤とすることができる。しかし、製剤は液体製剤、好ましくは水溶液であることが好ましい。
【0039】
嗅覚部位に送達された有効物質の最適の濃度は、使用される特別な有効物質、患者の特性、及び疾病の性質と使用される治療の条件に必然的に依存するであろう。一般に、治療に必要な量の有効物質が嗅覚部位に送達される。鼻腔への1回の投与量については、投与される量は典型的に鼻孔当たり約300マイクロリットル以下、好ましくは鼻孔当たり200マイクロリットル以下、より好ましくは鼻孔当たり100マイクロリットル以下である。
【0040】
幾つかの例示の態様及び実施例が上に説明されたが、本技術熟練者は、幾つかの変更、置換、追加及びこれらのサブ組み合わせを認識するであろう。従って、請求項、及びかかる変更、置換、追加及びこれらのサブ組み合わせのすべてを含み誘導される請求項は本発明の精神及び範囲内にあることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1A−1B】ヒトの鼻腔を、鼻前庭内に置かれた一実施例による装置と共に示す。図1Aは装置の操作前、図1Bは操作後を示す。
【図2A−2C】図1A−1Bの装置の断面を、長い部材の完全後退状態(図2A)、部分的伸長状態(図2B)、及び完全伸長状態(図2C)で示す。
【図3A−3C】別の実施例による装置を示す。
【図4A−4B】別の実施例による装置を示す。
【図4C】図4A−4Bに示された装置の断面図である。
【図5A−5C】ヒトの鼻腔を、鼻前庭内に置かれた別の実施例による装置と共に示す。図5Aは装置の操作前、図5B−5Cは操作後を示す。
【図6A−6B】操作の前(図6A)及び後(図6B)における原型装置を示す。
【図7A−7B】鼻の模型内に挿入された装置の操作前(図7A)及び操作後(図7B)を示す。
【図7C】鼻腔の模型を示す。
【図8A−8D】操作前(図8A−8B)及び操作後(図8C−8D)における別の原型装置を示す。
【図9A−9C】商業的に入手可能な12時間用デコンジェスタントスプレイびん、図8A−8Dの原型、及び商業手に入手可能な噴霧器からの液体の送達後における鼻腔模型内への液体噴霧の分布を示す。
【図10A−10C】図8A−8Dの原型(図10A)及びバロイス・コーポレーションより商業的に入手可能な多数回投与形の非加圧式装置(VP6、図10B−10C)からの液体の送達後における鼻腔模型内への液体噴霧の分布を示す。
【図11】商業的に入手可能な12時間用デコンジェスタントスプレイびん(ノストリラ)、バロイス・コーポレーションからの多数回投与形の非加圧式装置(VP6、VP7)、図8A−8Dの原型、並びに低速及び高速で操作された商業的に入手可能な噴霧器からの送達により達成された鼻腔の種々の場所における液体噴霧の分布量を百分率で示す。
【図6B】

【図8D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
嗅覚部位に物質を送達するための装置であって:
鼻口との実質的に気密な封鎖を形成するようにされたノーズピース;
後退位置と伸長位置との間を動くようにノーズピース内に摺動可能に配置された長い筒状部材であって、(i)末端の出口、(ii)手元側端部にあって前記部材がその伸長位置にあるときに前記部材を前記ノーズピース内に保持するための手段、及び(iii)末端から手元側端部に伸びている送達通路を有し、前記長い部材が前記手元側端部から前記末端への流体の流れに応答して動くようにされた前記筒状部材;及び
前記長い筒状部材と連通し、送達すべき物質を収容している貯蔵器
を備えた前記装置。
【請求項2】
前記保持用手段が留め具を備える請求項1の装置。
【請求項3】
前記保持用手段が、前記筒状部材の手元側端部と末端との間の直径差を含む請求項1の装置。
【請求項4】
前記長い筒状部材が、流れを妨げる手段を更に備える請求項1の装置。
【請求項5】
前記流れを妨げる手段が、前記筒状部材上に配置された吸収部材を含む請求項4の装置。
【請求項6】
前記流れを妨げる手段が、前記筒状部材上に配置された1個又はそれ以上の膨らみ得る区域を含む請求項4の装置。
【請求項7】
前記長い筒状部材が、前記1個又はそれ以上の膨らみ得る区域と連通している流体通路を備える請求項6の装置。
【請求項8】
前記送達通路と前記流体通路とが同軸である請求項7の装置。
【請求項9】
前記送達通路と前記通路とが隣接した管腔である請求項7の装置。
【請求項10】
更に圧力センサーを備える請求項1の装置。
【請求項11】
圧力センサーが、嗅覚部位への空気流の変化に応答して作動する請求項10の装置。
【請求項12】
前記圧力センサーが、前記ノーズピース内又は前記送達通路内に位置決めされる請求項10の装置。
【請求項13】
流量制御弁を更に備える請求項1の装置。
【請求項14】
前記弁が、前記ノーズピースと前記貯蔵器との間に配置される請求項13の装置。
【請求項15】
嗅覚部位に有効物質を送達する方法であって:
請求項1による装置を準備し;
鼻前庭の中にノーズピースを挿入し;更に
有効物質を送達するために装置を作動させる
ことを含んだ方法。
【請求項16】
有効物質が、中枢神経系に治療目標を有する疾病又は不調を治療するためのものである請求項15の方法。
【請求項17】
有効物質が、中枢神経系の疾病又は不調を治療するためのものである請求項16の方法。
【請求項18】
有効物質が有機化合物である請求項15の方法。
【請求項19】
有効物質がペプチド又はプロテインである請求項15の方法。

【図11】
image rotate

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate


【公表番号】特表2009−517184(P2009−517184A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543396(P2008−543396)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/045598
【国際公開番号】WO2007/064657
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】