説明

器官型細胞培養物の生産方法

本発明は細胞および組織の培養に関する。特に、本発明は、動物の器官から得られた解離細胞または微小外植片を用いて器官型培養物を調製する方法を提供する。器官型培養物を調製する前記方法は、器官由来の細胞を表面上で培養することを含み、前記細胞が圧縮されることを特徴とする。本発明は更に、器官型培養物のコレクションの高処理量調製方法に関する。本発明は更に、本発明による器官型培養の方法を実行するための装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞および組織の培養に関する。より詳しくは、本発明は、動物の器官から得られた解離細胞(dissociated cells)または微小外植片(microexplants)を用いた器官型培養物(organotypic culture)の調製方法を提供する。
【0002】
組織培養とは、動物または植物有機体の器官または組織由来の細胞を生体外で(ex vivo)維持させることである。組織培養の方法は何十年にもわたって開発および改良されてきた。
【0003】
植物または動物の器官または組織から直接得られた細胞を培養することは初代培養と呼ばれる。初代培養の一方法によれば、器官の外植片は、該外植片の縁から細胞が成長するように、適当な組成からなる無菌の雰囲気が供給された適当な培養容器に入った適当な無菌培地中に置かれる。初代培養への別のアプローチは、器官または組織を構成する細胞間の接着の原因となるタンパク質を分解するトリプシンなどのタンパク質分解酵素で処理することにより、器官または組織の細胞を解離させることである。器官または組織の細胞を解離させるためには、機械的な方法も用いることができ、または、機械的および酵素的方法の組み合わせを用いることができる。その後、解離細胞は上記の適切な環境中で培養することができる。特定の細胞の集団を培養することが望ましい場合には、該解離細胞を、例えば、密度勾配遠心分離法により分別してもよい。次に、興味の対象である単離された細胞集団は、細胞が解離し、該集団の解離細胞が適切な環境中で培養されるように、培地に再懸濁される。
【0004】
動物細胞の初代培養の不都合な点は、該細胞が限定された寿命しか持たないということである。初代培養における細胞は細胞分裂することはできるが、通常、そのようなことをするのは、セネッセンスと呼ばれる細胞死の形態を経る前の限られた回数のみである。外植片に基づく動物細胞初代培養の別の不都合な点は、生体内における供給源の器官中の細胞に典型的な特徴の喪失を妨げるために特別の方策を講じない限り、培養した細胞が、通常、その特徴の多くを失うということである。生体内における特徴のこのような喪失は3つの異なった経路によって起こる。第一に、すべての器官は種々の細胞型(cell types)の混合物であり、初代培養では1つの細胞型が他より速く成長して培養を支配する場合がある。第二に、構成成分である1種以上の細胞型がある程度脱分化してその特定の特徴の多くを失う場合がある。第三に、培養物中の1種以上の脱分化した、あるいは部分的に脱分化した細胞が不死になり、老化しないで成長して、永久細胞系(permanent cell line)になる場合がある。このような不死の細胞系は無限に培養することができ、ヒトならびにラットおよびマウスなどの実験用動物のほとんどあらゆる器官由来の不死の細胞系の例が何千も存在する。
【0005】
外植片に基づくまたは解離細胞に基づく初代培養の間に生体内における特徴が失われ、不死の細胞系が出現することは、生物学的および医学的研究ならびに製品開発に関して重大な意味合いを有している。なぜならば、このことは、このような初代細胞培養(primary cell cultures)は生体内での応答を正確に予測するためには用いることができないことを意味しているからである。結果として、候補薬物の安全性と有効性を評価する多くの生物学的試験は丸ごとの動物(whole animals)の生体内で行わなくてはならない。丸ごとの動物内でのこのような試験は、費用がかかって、より高い医療費へとつながり、そして、動物の福祉を危うくする場合がある。したがって、何年もの間、より正確に生体内応答を予測する生体外試験の開発に駆り立てる少なからぬ推進力が存在してきた。
【0006】
器官培養とは、動物の器官の全部または一部を生体外で、該器官の生存および機能を一定期間維持する条件下、維持させることである。例えば、肝臓(Wicks W., 1968)、心臓(Wildenthal K., 1971)および腸(Corradino R., 1973)を培養する手順が確立されている。器官培養は、該器官の生理学的特性の大部分あるいはすべてが維持される点において、外植片に基づく初代細胞培養および細胞系に対して大きな利点を有している。しかしながら、器官培養の処理量は、器官を外科的にホストから取り除き、培養システムを組み立てるために必要な操作によって制限される。さらに、ドナー動物(donor animal)毎にたった1つ、2つあるいは少数の培養物しか得ることができない。これらの限界のせいで、器官培養は、生物学的研究における他の多くの応用と共に、薬物スクリーニングおよび薬物標的スクリーニングのためには、あまりにも遅くて高価なものとなっている。
【0007】
組織培養の分野における主要な前進は、器官および組織切片のための器官型培養方法の導入である。動物の器官の薄い(50〜500μm)切片を、該切片が供給源の器官の細胞組成、形態および生理学的特性を維持する条件下で培養する。器官切片を培養する条件は、器官型培養を達成するのに重要である。器官切片は、完全には浸らないが培地の薄膜でのみ覆われるように、多孔質膜の上側表面の上で培養され、該多孔質膜の下側表面から栄養分を供給される(Stoppini L. et al, 1991)。酸素の取り込みおよび二酸化炭素の除去のための切片へのガスの移動は、外植片培養の方法に従って培地中に切片を完全に浸す場合よりもはるかに効率的である。加えて、器官型切片培養(organotypic slice culture)は、上で論じた外植片に基づくまたは解離細胞に基づく初代培養に関連する不都合な点による被害を受けない。例えば、げっ歯類の脳の海馬領域由来の解離細胞の初代培養は、ニューロンの喪失とグリア細胞による代替を引き起こし、2〜3日間しかニューロンの研究に用いることができない。対照的に、海馬培養物(hippocampal culture)の器官型切片方法(organotypic slice method)により、最初にグリア細胞は前記膜と接触している該切片の表面へ移動するが、ニューロンは維持され、特に、ニューロン間(interneuronal)およびグリア細胞−ニューロンの接続が維持される。新しいシナプスが器官型脳切片培養物(organotypic brain slice cultures)中で発達し(Buchs P. et al, 1993)、器官型脳切片培養物におけるニューロン接続(neuronal connections)に対する損傷が軸索の生長とシナプスの発生とにより少なくとも部分的に修復されうる(Stoppini L et al, 1993)ことが示されている。同じ原理に基づいて他の組織の切片の器官型培養を行った例が多く存在し、単一の器官型切片を培養する方法を改良するための提案がなされている。例えば、 Giehl (2002)は、より高齢の動物由来の器官型切片の表面濡れ(surface wetting)の程度を下げるために、吸引を使用することを開示している。
【0008】
器官型切片培養は器官培養よりも際立って速く柔軟であるが、薬物発見のために必要な大規模なスクリーニングのためにはまだあまりにも遅く高価である。動物由来の器官を分析したり手術後のヒト由来の物質(material)を処理したりするために使われる手順は大きな労働力を要し、たいていの研究室では並行して数十の培養を実行できるのみである。薬物スクリーニングのためには、並列して数千個、数万個あるいは数十万個の培養物が供給されれば、はるかに有用であろう。さらに、器官の切片は、導入遺伝子もしくは小干渉RNA(small interfering RNA)(siRNA)の発現のためにトランスフェクトもしくは形質導入されるベクターを用いること、または、遺伝子発現の siRNA 除去(siRNA ablation)のために直接オリゴリボヌクレオチドを使用することには比較的無反応(relatively refractory)である。通常、切片の表面層だけが効率的にトランスフェクトまたは形質導入され、トランスフェクションあるいは形質導入の全体的な効率は、通常、該切片中の細胞の10-30%の範囲内である。これでは、導入遺伝子の発現またはsiRNA によって引き起こされた遺伝子発現の除去の生物学的な効果を評価するには不適切な場合が多い。
【0009】
器官型切片培養に関連する不都合を考慮して、器官の切片の代わりに特定の器官由来の解離細胞を使って器官型培養物を作り出す方法を開発する努力がなされてきた。
【0010】
解離細胞から器官型培養物を開発することへの1つのアプローチは、解離細胞が適切な層あるいは領域中に移動して適切な増殖因子の存在下で機能的な細胞−細胞相互作用を再形成するのを促進する細胞外マトリックスタンパク質を使うことである。このアプローチは器官型肝臓培養物(organotypic liver cultures)の調製で使われてきた(Michalopoulos G. et al, 2001; Michalopoulos G. and Bowen W., 2004)。同様に、人工のマトリックスが、懸濁液中で成長する神経細胞の組織化のために「足場」として使用されており、疾病を治療するためのインプラントとして潜在的に有用な細胞凝集物を成長させることができる(Rochkind S. et al, 2002; Shahar A. et al, 2001)。上皮組織は特に研究の焦点とされており、解離した腸上皮細胞が器官型培養物を形成するのを促進するためにタンパク質マトリックスを使用できることが示されている(Kalabis J. et al, 2003; Herlyn M., 2004)。皮膚のけがの後に移植するのに重要な皮膚上皮の器官型培養に対して類似のアプローチが多く存在する。しかしながら、これらの方法はマトリックスタンパク質に依存しているため、理想的ではない。マトリックスタンパク質は、培養物を構築する前にマトリックスタンパク質の三次元構造を構築する必要があるせいで使用するのが高価かつ複雑である。
【0011】
マトリックスタンパク質を使用することに依存しない2つの培養方法が開発されている。例えば、いわゆる「ニューロスフィア(neurospheres)」を形成させるために、解離させた神経細胞の回転媒介性凝集(rotation-mediated aggregation)を使用できることが分かっている(Honegger, P., and Monnet-Tschudi, F., 2001)。重層上皮の基底層由来の幹細胞(その増殖能力の結果、解離させた上皮から培養により単離されたもの)を、特定の増殖因子を使って重層角化上皮(stratified and cornified epithelium)を作り出す段階的方法において誘導させて分化させることができることも分かっている(Wille J., 1998)。しかしながら、この方法は、重層上皮特異的であり、重層上皮の分化に適した精製増殖因子を使用することが必要である。
【0012】
今までに行なわれてきた大規模な研究にもかかわらず、いまだに、多種多様な組織に適用でき、高処理量(high-throughput)スクリーニングのために数千の培養物を並行して生成するのに適した器官型組織培養のための単純、安価かつ柔軟な方法が必要とされている。
【0013】
本発明の概要:
第一の様相によれば、本発明は、器官由来の細胞を表面上で培養することを含む器官型培養物の生産方法において、該細胞が圧縮されることを特徴とする方法を提供する。
【0014】
「器官型培養物」とは、細胞が、該細胞が由来する器官の生化学的および生理学的特性を可能な限り厳密に複製するように連携していることを意味する。
【0015】
好ましくは、前記細胞は解離細胞、微小外植片または外植片である。本文書中で使われるとおり、用語「解離細胞」は器官から単離された単一の細胞を意味する。用語「微小外植片」は、器官から単離された500個までの細胞からなる小さな群を意味する。用語「外植片」は、器官から単離された500個を超える細胞からなるより大きい群を意味する。本発明の方法は、1を超える解離細胞、あるいは1を超える微小外植片、あるいは1を超える外植片を圧縮し培養することを含む。好ましくは、本発明の方法は、器官から単離された多数の解離細胞、あるいは多数の微小外植片、あるいは多数の外植片を圧縮し培養することを含む。
【0016】
好ましくは、前記細胞が培養される表面は膜であり、好ましくは多孔質膜である。前記圧縮細胞(compacted cells)が多孔質膜の一方の表面上で培養される場合、本方法は好ましくは栄養分を該膜の反対側の表面に供給することを含む。好ましくは、該膜の反対側の表面に供給される栄養分は液状であり、よって本方法は該膜の反対側の表面に液体培地を供給することを含む。この実施形態で、膜上の細胞は、例えば、Stoppini L. et al (1991)によって記述されたとおり、液体培地に浸るのではなく、培地の薄膜でのみ覆われて、培地と細胞との間のより良好なガス交換が可能となる。したがって、該膜は、液体媒体が該膜を浸透して反対表面上の圧縮細胞に達するのに十分な多孔性を有することが好ましい。適当な膜の例が本文書中で提供される。好ましくは、液体培地は毛管現象によって該膜の反対側の表面との接触が維持される。一定の体積の液体培地を毛管現象によって維持することができる適当な装置は本文書中に記載される。
【0017】
驚くべきことに、器官の切片由来の器官型培養物を生産するための技術に関して記述された培養条件(例えば、Stoppini L. et al, 1991参照)が、実際には、器官由来の細胞、特に解離細胞、微小外植片および外植片から器官型培養物を生産するために使用できることが分かった。ただし、該細胞が、互いに密に充填されるように圧縮されているのが条件である。圧縮細胞は時間とともに複雑な三次元の機能的な柔組織へと自発的に再編成する。例えば、圧縮された脳細胞は組織様の構造の形成を引き起こし、その中では無傷の中枢神経系領域の適切なシナプス回路の多く、生理学、および神経伝達物質受容体分布が存在している。該培養物中のニューロンの機能的な活性は、脳における、および、器官型切片培養における対応物に類似している。
【0018】
解離細胞から器官型培養物を生産するための先行技術の方法と異なり、本発明の方法は生体分子も合成の足場も使用する必要がない。さらに、大部分の先行技術の方法によって生産される培養物は3-5日間しか器官型特徴(organotypic features)を示さない。対照的に、本発明の方法により生産された器官型培養は数週間あるいは数カ月間、器官型特徴を示す。
【0019】
このように、本発明は、多種多様な器官由来の細胞、特に解離細胞、微小外植片あるいは外植片を使って、数週間あるいは数カ月間維持することができる器官型培養物を生成する単純な方法を提供する。該器官型培養物は、生産し維持するのが容易であるという事実から、薬物候補の高処理量スクリーニングのために単一の器官から並行して数千もの培養物を構築するのに理想的である。さらに、解離細胞は、器官型培養物を構築する前に、適切なベクターを用いたトランスフェクションあるいは形質導入により1つ以上の導入遺伝子を導入して、または、オリゴヌクレオチドとしてもしくは適当なベクターから発現させてsiRNA を導入することによって、効率的に遺伝的操作をすることができる。
【0020】
本文書中で使われるとおり、用語「圧縮された(compacted)」は、細胞が、密に充填されるように、互いを押しあう圧縮力(compaction force)を受けたことを意味する。本出願人は理論に拘束されることを望まないが、器官型成長(organotypic growth)を誘発するのは圧縮に起因する細胞−細胞接触であると信じられている。
【0021】
生細胞は剛体としてではなく実質的に非圧縮性の物体として振る舞う。それらは、表面を変形させ適合させてお互いに接着しあうが、液体を失わない限り、体積は実質的に一定のままである。十分な圧縮力が加えられた場合には、100%の密な充填(close packing)が達成される、すなわち、細胞は、細胞膜を隣接する細胞のそれと接触させて、完全に密に充填される。100%の密な充填とは、液体を失うまでは加圧せずに、所定の細胞サイズについて定まる単位体積当たりの最大の細胞数である。本発明による細胞、微小外植片あるいは外植片の培養物は、その培養物を構成する要素間の密な充填の平均の度合いが少なくともおよそ10%、より好ましくは5%である場合に、器官型培養物として機能することが分かっている。
【0022】
本発明の方法における前記細胞が圧縮されて、本文書中で記載された密な充填の定義に従って5%から100%の密な充填が達成されることが好ましい。前記細胞が圧縮されて、本文書中で定義されたとおりに、5%を超える密な充填、好ましくは10%, 20%, 30%, 40%, 50%, 60%, 70%, 75%, 80%, 85%, 90%, 95%, 97%, 98% または 99%を超える密な充填が達成されることが好ましい。
【0023】
本発明の方法が解離細胞を利用する場合、密な充填の近似的な度合いは、式
密な充填の度合い = (Ne x Ve/Vcm) x 100% (式1)
(式中、Ne は細胞の数であり、
Ve は細胞の平均体積であり、
Vcm は培養物中の細胞集団(cell mass)の全体積の測定値である)
を用いて計算することができる。したがって、50%の密な充填は、培養物中の細胞の全体積の測定値が細胞の平均体積の合計の体積の2倍である場合に達成される。10%の密な充填は、細胞集団の全体積の測定値が細胞の平均体積の合計の体積の10倍である場合に達成される。以下、細胞の数(Ne)、細胞の平均体積(Ve)および細胞集団の全体積(Vcm)を定量するための方法をより詳細に記述する。
【0024】
器官から単離された解離細胞が本発明の方法で使われる場合、式1は密な充填の度合いの良好な近似値を与える。しかしながら、式1は外植片および微小外植片の密な充填の度合いについてはこのような良好な近似値を与えない。外植片および微小外植片の大きさは、少数の細胞から数千の細胞までの間で変動しうる。おのおのの外植片あるいは微小外植片を構成する細胞はすでに100%あるいはほぼ100%密に充填されているが、圧縮後に隣接する外植片あるいは微小外植片の表面にある細胞間では細胞表面の接触の度合いは100%よりも際立って低い場合がある。外植片あるいは微小外植片が大きくなればなるほど、式1により測定される密な充填の度合いに対するこのような表面接触の影響は小さくなるが、外植片あるいは微小外植片が単一の器官型培養物として振る舞う能力に対するその影響は大きくなる。
【0025】
この問題を克服する1つの方法は、微小外植片および外植片の間で細胞表面の接触を測定してこれらの要素の密な充填の度合いを定量することであるかもしれない。しかしながら、細胞表面の接触を測定する方法は困難かつ不正確であり、高い倍率の顕微鏡検査と主観的な判断に依存している。したがって、代わりに、培養塊(mass)と構成成分である外植片あるいは微小外植片の体積の合計との間の体積の相違が、本発明に従い圧縮力によって除去される細胞表面間の空間の効果的な基準として使用される。体積のこのような相違を測定して外植片あるいは微小外植片の充填度を定量するのが都合が良い。なぜなら、細胞表面の接触と異なり、外植片あるいは微小外植片の数および体積の測定は下記のとおり比較的容易かつ迅速に達成することができるからである。
【0026】
したがって、外植片あるいは微小外植片中にあって新たな接触を形成することができる細胞の体積を、それらが、培養された細胞集団中で実際に占める全空間の割合として表すことによって、外植片および微小外植片の密な充填の度合いを見積もることができる。このように、微小外植片あるいは外植片の密な充填の度合いは、式
密な充填の度合い =
((Nnc x Vnc x Pnc) / ((Nnc x Vnc x Pnc) + (Vcm - (Ne x Ve))) x 100% (式2)
(式中、Nnc は新たな接触を形成することができる細胞の数であり、
Vnc は新たな接触を形成することができる培養物中の細胞の平均体積であり、
Pnc は、新たな接触を形成することができる細胞の表面積であって、新たな接触を形成するのに実際に利用可能なものの平均の割合であり、
Vcm は培養物中の細胞集団の全体積の測定値であり、
Ne は培養物中の要素(細胞、外植片あるいは微小外植片)の数であり、
Ve は培養物中の要素(細胞、外植片あるいは微小外植片)の平均体積である)
により測定することができる。
【0027】
解離細胞の場合、培養物中のすべての細胞は全表面にわたって新たな接触を形成することができるので、Nnc = Ne, Vnc = Ve および Pnc = 1である。よって、解離細胞の場合、式2は式1と等しい。
【0028】
式1および2を用いることで、いかなる大きさの細胞、外植片あるいは微小外植片から構成される培養物中の培養物要素(culture elements)の密な充填の度合いも近似することができる。
【0029】
100%の密な充填とは、細胞集団を構成する要素の間に、これらの要素が細胞、外植片あるいは微小外植片であるかどうかにかかわらず、空間がないことを意味する。
【0030】
50%の密な充填とは、細胞集団を構成する要素の間の空間の全体積が、新たな接触を形成することができる細胞の体積の関連割合の合計に等しいことを意味する。解離細胞の場合、すべての細胞は全表面にわたって新たな接触を形成することができるので、新たな接触を形成することができる細胞の体積の合計は、細胞集団を構成する細胞の体積の合計と等しい。培養物の要素が外植片あるいは微小外植片である場合、外植片あるいは微小外植片の表面の細胞のみが新たに接触することができ、その表面のおよそ50%に及ぶのみである。したがって、50%の密な充填とは、外植片あるいは微小外植片の間の空間の全体積が、新たな接触を形成することができる細胞の体積の合計の半分に等しいことを意味する。
【0031】
10%の密な充填とは、細胞集団を構成する要素の間の空間の全体積が、新たな接触を形成することができる細胞の体積の関連割合の合計の10倍であることを意味する。解離細胞の場合、これは細胞集団を構成する細胞の体積の合計の10倍と等しい。培養物の要素が外植片あるいは微小外植片である場合、10%の密な充填とは、外植片あるいは微小外植片の間の空間の全体積が、新たな接触を形成することができる細胞の体積の合計の5倍であることを意味する。
【0032】
式1および2に従って密な充填のおよその度合いを計算するために必要となる経験的な量はNe, Ve, および Vcmである。式2では経験的な量Nnc, Vnc, および Pncがさらに必要である。
【0033】
解離細胞については、細胞の数(Ne)および細胞の体積を、ベックマン・コールター社により市販されているコールターカウンターを使って測定することができる。この機器はエレクトリカル・センシング・ゾーン技術(electrical sensing zone technique)を用いて細胞の体積と細胞の数の両方を測定する。解離細胞の平均の体積(Ve)および数(Ne)は、圧縮前に懸濁液中で都合よく測定することができる。その後、圧縮に続いて、培養物中の全細胞集団の体積(Vcm)を測定することにより、式1に従って密な充填の度合いを直接計算することができる。
【0034】
Vcm を計算するためには、例で記述された培養物の形状をモデル化してもよい。本発明による典型的な器官型培養物は直径5000μm、深さ100μmの球帽(spherical cap)の形状をしている。球帽は平面により切断された球の部分であり、球帽の体積は式(π/6)(3r2+h2)h(式中、r = 底面の半径、および h = 高さ)に従って計算することができる。よって、典型的な培養物の全体積は9.8 x 108μm3である。培養物中の細胞集団の全体積を測定するための都合の良い手段は、目盛り付き接眼レンズを使って低い倍率の倒立顕微鏡により培養物サンプルの直径を測定すること、および、培養物の全深さ(full depth)をカバーするのに必要な既知の深さの共焦点断面(confocal sections)の数を数えることによりその深さを測定することである。その後、球帽の体積を計算するために前述の式を使うことができる。
【0035】
用いることのできる培養物中の要素の数(Ne)、培養物中の要素の平均の体積(Ve)および細胞集団の全体積(Vcm)を測定するための他の方法は、目盛り付き顕微鏡接眼レンズを使用すること、および、ピクセル計数(pixel counting)に基づく画像解析を使用することを含む。共焦点顕微鏡法を使用することにより、既知の深さの複数の視野内で正確な計数を行うこともできる。
【0036】
顕微鏡法と画像解析とに基づく方法を用いて、解離細胞の、または外植片もしくは微小外植片中の細胞の数および平均の体積、ならびに、外植片および微小外植片自体の数および体積を定量してもよい。単一の細胞を調べるのに必要とされる倍率は外植片および微小外植片を調べるのに必要とされるものよりも一般に高いことは明らかである。細胞の体積は、該細胞が同じ型である場合でさえも、細胞集団中の異なる個々の細胞の間で変動しうる。よって、顕微鏡の視野の所定の領域内にある細胞の数と体積は変動しうる。同様に、外植片および微小外植片の数と大きさは、単一の調製物を調べる場合には異なる視野の間で変動しうるし、異なる調製物の間で変動しうる。好ましくは、外植片あるいは微小外植片の数と体積は、目盛り付き接眼レンズを使って低い倍率の倒立顕微鏡および操作用のプラスチック針あるいはガラス針により、圧縮前に直接測定してもよい。外植片あるいは微小外植片の適切なサンプルの数と体積は、ランダムに選ばれた既知の大きさの顕微鏡視野内で測定される。その後、既知の体積の液体あるいは細胞集団中の細胞あるいは細胞群の平均の数と寸法を計算することは単純な事柄である。
【0037】
異なる解離細胞の混合物を使用する場合、100%の密な充填は細胞の混合物中の全細胞の体積の合計として定義される。100%密に充填された細胞の混合集団の全体積は、細胞の数と平均の細胞体積との積に等しい。よって、平均の細胞体積は、適切な細胞サンプルの寸法を測定し、おのおのの細胞の体積を計算することによって得ることができる。低い割合の非典型的な寸法の細胞が平均の体積の計算に本質的な影響を与えうる場合には、非典型的な寸法のこのような細胞がサンプリング誤差によって除外されないことを確実とするために、十分に多数の細胞サンプルの寸法を測定することが必要となる。
【0038】
細胞または細胞集団の体積をエレクトリカル・センシング・ゾーン技術または別の直接的な方法によって直接測定できない場合は、細胞、微小外植片または外植片の体積はその寸法から計算してもよい。本発明の目的のためには、細胞、外植片または微小外植片の形状を近似すれば十分である。例えば、細胞または細胞群の形状が近似的に立方形である場合、該細胞または細胞群の体積は式 Vcm = L1 x L2 x L3(式中、L1, L2 および L3 は、互いに直交する3本の主軸(three principle mutually perpendicular axes)に沿って測定した近似的に立方形の細胞または細胞群の寸法である)に従って計算することができる。別の例としては、楕円体の細胞型の寸法が長さ12μm, 幅8μm および深さ 5μmである場合、そのような細胞の体積は、楕円体の体積を計算するための有名な式: 4/3 x π x L1 x L2 x L3(式中、L1, L2 および L3 は、互いに直交する3本の主軸に沿って測定した近似的に楕円体である細胞の寸法である)に従えば、2010μm3である。複雑な形状の細胞または細胞群については、多数の寸法から体積を計算するためのコンピューターアルゴリズムがある。その後、適当な数の細胞, 外植片または微小外植片の平均の体積を計算することができる。
【0039】
解離細胞については Ne = Nnc, Ve= Vnc および Pnc = 1であり、Ne および Ve は直接測定することができ、または、間接的に測定し上記の方法で計算できると理解される。外植片および微小外植片については、Ne および Ve は直接測定しても、間接的に測定し上記の方法で計算してもよい。外植片または微小外植片の表面の細胞(新たな細胞-細胞接続を形成することができる細胞である)のおよその平均の体積 Vnc も外植片または微小外植片中の細胞の平均の寸法から簡単に計算することができる。
【0040】
外植片および微小外植片のPnc(新たな接触を形成することができる細胞の表面積であって、新たな接触を形成するのに実際に利用可能なものの平均の割合)は、外植片または微小外植片の表面にある細胞の形状と、その表面積のうち、新たな細胞−細胞接触の形成に利用できるものの割合との関数である。この値は顕微鏡法で定量することができる。本発明により生産される培養物の観察に基づけば、Pnc は一般に0.5である、すなわち、実際には、新たな接触を形成することができる細胞の表面積のおよそ半分が新たな接触を形成するのに利用できると見積もられる。
【0041】
Nnc(平均の体積の外植片および微小外植片の表面にある細胞の数)はVnc および外植片または微小外植片の平均の寸法から見積もることができる。例えば、外植片または微小外植片およびそれらを構成する細胞が近似的に立方形であり、平均の体積を測定および計算した外植片または微小外植片が長さLx1, 幅Lx2 および厚さLx3, という寸法を有し、平均の体積を測定および計算した構成細胞が長さ Ly1, 幅 Ly2 および厚さ Ly3という寸法を有すると仮定すると、外植片または微小外植片の表面にある細胞の平均の数を見積もった値は、細胞からなる表面層を除いた外植片または微小外植片の表面積を、該表面層中にある各細胞の平均の接触面の見積もり面積の割合として見積もった値である。この近似のためには、表面層上の細胞の厚さは外植片または微小外植片の寸法から差し引かれ、表面層を除いて見積もった表面積が導出される。よって、Nnc(平均の体積の外植片および微小外植片の表面にある細胞の数)は式:
Nnc = ((2 x ((Lx1 - 2Ly3) x (Lx2 - 2Ly3))) + (2 x ((Lx1 - 2Ly3) x (Lx3 -
Ly3))) + (2 x ((Lx2 - 2Ly3) x (Lx3 - Ly3)))) / ((Ly1 x Ly2) 式3
に従って計算することができる。
【0042】
種々の寸法および形状の細胞の体積ならびに種々の寸法および形状の培養物の体積も、種々の測定装置を用い、適当な公式またはコンピューターアルゴリズムを適用することにより計算できることは当業者には自明である。
【0043】
我々の測定によれば、器官型培養物の圧縮の度合いはおよそ6%〜100%の間となりうる。本発明により形成され、520μm3の平均の細胞体積を有する10,000個の解離細胞を含み、機能する器官型培養物は、9 x 107 μm3と同じ大きさの空間を占有しうる。これは5.8% の圧縮と同等である。本発明により形成され、14,000μm3の平均の細胞体積を有する20,000個の解離細胞を含み、機能する器官型培養物は、28.1 x 107 μm3と同じ小ささの空間を占有しうる。これは99.6% の圧縮と同等である。
【0044】
細胞、好ましくは解離細胞、微小外植片または外植片は、好ましい密な充填の度合いを達成するために、公知のいかなる手段で圧縮してもよい。加えられる圧縮力は、細胞を密に接触させて、細胞を損傷させることなく、望ましいレベルの密な充填に到達するのに十分なものである。好ましくは、解離細胞に、または外植片もしくは微小外植片中の細胞に加えられる圧縮力は、該細胞への損傷を回避するためには、細胞当たり2 x 10-3ダイン未満、より好ましくは細胞当たり10-5ダインから細胞当たり5 x 10-4ダインである。
【0045】
細胞は重力、動水力学的力または静水力学的力により圧縮されることが好ましい。細胞は遠心分離により加えられる重力場によって圧縮されることが好ましい。細胞は吸引によって圧縮してもよい。1つを超える圧縮メカニズムの組み合わせを用いてもよい。例えば、細胞を遠心分離で圧縮した後、続けて吸引で圧縮してもよい。
【0046】
細胞を遠心分離で圧縮する場合、懸濁させた状態の細胞を、該細胞が解離細胞、微小外植片または外植片の形態にあるかどうかにかかわらず、100-5000gの遠心分離により圧縮することが好ましく、これにより細胞当たり10-5ダインから細胞当たり5 x 10-4ダインの好ましい範囲の力が加わる。
【0047】
細胞を吸引で圧縮する場合、懸濁させた状態の細胞を表面の一方の側に載せ、該表面の反対側に吸引力を加えて該細胞を該表面の方に移動させてもよい。細胞を載せる表面は、該表面の一方の側に加えられる吸引力が該表面の反対側にある細胞を圧縮するのに有効となるように適合していなければならない。動水力学的力を加えて該表面を通過する液体流を駆動するために、ポンプを使用してもよい。この場合、細胞を圧縮する表面と同じ側にポンプを配置する。
【0048】
細胞は、それらが培養される表面への移動の前に圧縮しても後に圧縮してもよい。本発明の第一の様相の第一の実施形態によれば、細胞は培養を行うための表面への移動前に圧縮される。したがって、
i)器官由来の細胞、好ましくは解離細胞、外植片または微小外植片を圧縮し、
ii)圧縮した該細胞を表面に移動させ、
iii)圧縮した該細胞を適当な条件下で培養して器官型培養物を形成させる
ことを含む器官型培養物の生産方法が提供される。
【0049】
上記で議論したとおり、細胞の圧縮は遠心分離で行っても、吸引で行っても、当業者に公知の他の手段で行ってもよい。好ましくは、細胞は、上記のとおりに遠心分離で圧縮される。この方法は、通常の継代培養中にトリプシン処理細胞を採取する既存の方法とは異なる。なぜなら、既存の方法では、平板培養する前に、遠心分離した細胞を培地に再懸濁して解離させることが必要となるからである。本発明の第一の様相の第一の実施形態において、細胞の遠心分離により得られた沈殿は、遠心分離後に培養を行うための表面に移される。本発明の第一の様相の第二の実施形態によれば、遠心分離による細胞の圧縮と該細胞の表面への移動とが同時に行われる。この第二の実施形態では、重力場による圧縮のための表面に対して適切な方向に細胞懸濁液を保持する導管を装備することが有利である。最適の方向は、重力場の強さが最小となる点から、該表面が細胞懸濁液よりも遠くなる方向である。遠心分離機中で生成される重力場の場合、該表面は、細胞懸濁液と比べて、遠心分離機ローターの回転軸よりも遠くに配置される。導管と表面との接点で、該表面と該表面に隣接する該導管の縁との間にシールを設けて、細胞が効率よく該表面に移動し、該導管からは失われないことを確実にすることが好ましい。
【0050】
本発明の第一の様相の第一および第二の実施形態の方法は、圧縮細胞を表面への移動後に更に圧縮する段階を含んでもよい。更に圧縮するこの段階は、上記のメカニズムのいずれか1つにより実行してもよい。例えば、圧縮細胞を表面の一方の側に移し、その後、表面の他方の側に向かう吸引力を加えることにより更に圧縮してもよい。
【0051】
細胞は、表面への移動後に、毛管現象により生成する静水力学的力により更に圧縮されることが好ましい。この好ましい実施形態によれば、細胞が培養される表面は好ましくは多孔質膜であり、該膜の反対側の表面には、該膜との接触が維持されている液体培地が供給される。このようにして該液体培地は毛管現象により該膜中の細孔を通して引き寄せられ、該膜中の細孔により発揮される毛管現象は静水力学的力により細胞を更に圧縮するように作用する。このようにして細胞は、膜の反対側に保持される液体培地により発揮される毛管現象により更に圧縮される。好ましくは、液体培地は、毛管現象により膜の反対側に保持される。
【0052】
別の実施形態では、細胞は表面への移動後にのみ圧縮してもよい。本発明の第一の様相の第二の実施形態によれば、
i)器官由来の細胞、好ましくは解離細胞、外植片または微小外植片を表面に移動させ、
ii)該細胞を該表面上で圧縮し、
iii)圧縮した該細胞を適当な条件下で培養して器官型培養物を得る
ことを含む器官型培養物の生産方法が提供される。
【0053】
細胞は、上記のとおりに表面上で遠心分離により圧縮しても、吸引により圧縮しても、他のいずれのメカニズムにより圧縮してもよい。この実施形態による方法は、圧縮を行う段階をいくつか含んでもよい。例えば、表面に移動させた解離細胞を該表面上で遠心分離により圧縮し、引き続き吸引により圧縮してもよい。
【0054】
圧縮細胞を移す表面が多孔質膜である場合、更に圧縮を行う段階は毛管現象により行うことが好ましい。更に圧縮を行う段階は、圧縮細胞に対して該膜の反対側に保持される液体により発揮される毛管現象により行うことが好ましい。好ましくは、該液体は、細胞の器官型成長に必要な栄養分を含む液体培地である。好ましくは、圧縮細胞は多孔質膜の一方の表面に移され、液体培地は該多孔質膜の反対側の表面に供給され、該液体は毛管現象により該膜の反対側の表面に保持されて、細胞は該膜の反対側で更に圧縮され、確実に該膜に付着し平たい形状となる。
【0055】
本発明の好ましい方法によれば、器官由来の細胞は遠心分離により圧縮され、多孔質膜の一方の側に移され、該多孔質膜の反対側に供給された液体培地による毛管現象により更に圧縮される。毛管現象により細胞を更に圧縮するために多孔質膜の反対側に液体培地を保持するのに適した装置は本文書中に記載される。本発明の別の好ましい方法によれば、細胞は多孔質膜の一方の表面上で遠心分離により直接圧縮され、該多孔質膜の反対側に供給された液体培地による毛管現象により更に圧縮される。遠心分離の前および間中、多孔質膜の一方の側に細胞懸濁液を保持するのに適し、毛管現象により細胞を更に圧縮するために多孔質膜の反対側に液体培地を保持するのに適した装置は本文書中に記載される。
【0056】
好ましくは、本発明の方法は、器官から細胞を単離する予備段階(preliminary step)を更に含む。
【0057】
器官から解離細胞を単離する方法は、当業界において公知である。解離細胞は、組織を機械的または酵素的に解離することにより、または両方により、興味の対象である器官から単離することができる。例えば、解離細胞は、カルシウムおよびマグネシウムを含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS)に溶解したタンパク質分解酵素トリプシン0.25% (w/w)を用いて器官を解離させることにより得ることができる。トリプシン阻害剤を添加して酵素的解離を停止させた後、細胞を懸濁させた状態でしばらくインキュベートして、解離していない細胞を底に沈め、解離細胞を懸濁させた状態に保ってもよい。
【0058】
その後、これらの解離細胞は上記のとおりに圧縮することができる。例えば、懸濁させた状態の解離細胞を吸引して新しい遠心分離管に移し、200-1000gで1-5分間遠心分離することにより圧縮してもよい。上清を吸引した後、圧縮した解離細胞を含む細胞の沈殿を適当な器具、例えば、使い捨てピペットの先端で該管から取り出し、培養を行うための表面、例えば、多孔質膜に直接載せてもよい。あるいは、懸濁させた状態の解離細胞を適当な表面に直接載せ、該表面および該細胞を遠心分離にかけて該細胞を圧縮してもよい。この実施形態においては、遠心分離による圧縮のための表面に対して適切な位置および方向に細胞懸濁液を保持する導管を備えることが有利である。該表面は、細胞懸濁液を収容する導管と比べて、遠心分離機ローターの回転軸よりも遠くに配置される。好ましい実施形態においては、導管の接点で、該表面と該表面に隣接する該導管の縁との間にシールが設けられて、細胞が効率よく該表面に移動し、該導管からは失われないことが確実となる。
【0059】
本発明の方法において使用される微小外植片および外植片は、興味の対象である器官を機械的に分解して組織の小片とすることにより得てもよい。例えば、微小外植片は、通常、生後の組織を、使い捨てピペットの先端で繰り返し吸引することにより、またはメスの刃でやわらかくすることにより得ることができる。好ましくは該組織は新生児の組織である。
【0060】
本発明の方法は多種多様な器官から器官型培養物を生産するために用いることができ、その工程で用いられる細胞の性質は所望の器官型培養物に依存する。好ましくは、細胞を得る器官は動物の器官, 好ましくは哺乳類の器官, 好ましくはヒトの器官である。
【0061】
細胞は、中枢神経系、骨髄、血液(例えば、単球)、脾臓、胸腺心臓、乳線、肝臓、膵臓、甲状腺、骨格筋、腎臓、肺、腸、卵巣、膀胱、睾丸、子宮または結合組織を含むがこれらに限定されない動物のいかなる器官から得てもよい。好ましくは、解離細胞、外植片または微小外植片は、中枢神経系、心臓、肝臓または腎臓由来である。解離細胞、外植片または微小外植片が中枢神経系由来である場合、それらは脳由来または脊髄由来であってよい。好ましくは、細胞は脳由来、好ましくは海馬または皮質由来である。解離細胞を用いる場合、それらは幹細胞由来であってもよい。幹細胞は誘導されて分化することができる多能性細胞であり、いくつかの幹細胞は複数の細胞系統に分化することができる。胚性幹細胞は原理的にはいかなる細胞型にも分化することができる。胚性幹細胞を用いる場合、それらは好ましくはヒト胚性幹細胞ではない。
【0062】
細胞は器官の特定の領域から得てもよい。例えば、器官が脳である場合、細胞は海馬または皮質から得てもよい。本文書の例で示すとおり、皮質領域由来の解離細胞を用いて、海馬に特有の細胞組成および細胞間接続(intercellular connections)を示す器官型培養物を生産することができる。器官が心臓である場合、細胞は心筋から得てもよい。例で示したとおり、本発明の方法に従って培養した解離筋細胞(dissociated myocytes)は、堅い細胞間結合および心臓組織の生理学的特徴の多く(鼓動している心臓のものと類似の律動的で調和の取れた収縮を含む)を有する器官型培養物を形成する。
【0063】
細胞は1つを超える器官から得、1つに合わせて培養してもよい。例えば、細胞は2つ、3つ、4つまたはそれよりも多くの異なる器官から得てもよい。1つを超える器官から得た細胞の共培養により、異なる器官由来の組織の相互作用のモデルを作成することができる。1つを超える器官由来の細胞を用いる場合、これらの器官由来の細胞の共培養から得られる器官型培養物が生体内の状態のモデルを提供するように、該器官は生体内で接触した状態で天然に存在する器官であることが好ましい。例えば、免疫細胞、特に白血球であれば、炎症の研究のために種々の器官由来の細胞と共培養することができる。腫瘍細胞をガンの発生の研究のために種々の器官由来の細胞と共培養してもよい。幹細胞は混合培養物(mixed cultures)を得るために他の細胞型と共培養することができる。骨格筋細胞は、神経筋接合部のモデルを得るために、海馬、皮質、小脳および脊髄を含む中枢神経系由来の細胞と共培養することができる。血管の内側を覆う内皮細胞は、血液脳関門のモデルを作成するために、脳細胞と共培養することができる。
【0064】
種々の器官から得た細胞を一緒にして培養する場合、本発明の方法は、異なる器官由来の細胞(それらが解離細胞、微小外植片または外植片であるかどうかにかかわらず)の混合物を圧縮し、圧縮した該混合物を培養することを含んでもよい。特定の場合には、異なる細胞型を培養物中で確実にランダムに分布させることが有利である可能性がある。他の場合には、各細胞型が実質的に分離した層をなすように、異なる細胞型からなる層を形成させることが有利である可能性がある。異なる細胞型からなる層を形成させることが有利であるとき、別の場合には、1つ以上の細胞型からなる1つ以上の層を多孔質膜の一方の側に載せ、更に、1つ以上の細胞型からなる1つ以上の層を該多孔質膜の反対側に載せることを確実に行うことが有利である可能性がある。この原理を説明するのに役立つ一例は、中枢神経系細胞からなる層とともに培養した血管内皮細胞からなる層を含む血液脳関門のモデルである。ある場合には、多孔質膜の一方の側で、例えば、培地に対して反対側の多孔質膜の側面上で、両方の層を培養することが有利である可能性がある。このような場合には、内皮細胞層を多孔質膜に隣接させ、中枢神経系細胞層を内皮細胞層に隣接させて培養することが有利である可能性がある。培地に導入した分子が中枢神経系細胞層で検出された場合、それらは内皮細胞層を横断したと推測することができる。ただし、直接多孔質膜を横断して中枢神経系細胞層へと向かう動きにより該分子が内皮細胞層を迂回することが培養物の構成から不可能であることが条件である。同様に、内皮細胞層を多孔質膜の一方の側で培養し、中枢神経系細胞層を該多孔質膜の反対側で培養することにより、内皮細胞層に隣接する培地に導入した分子は、中枢神経系細胞層へと到達するために、確実に内皮細胞層を横断する。ただし、直接多孔質膜を横断して中枢神経系細胞層へと向かう動きにより該分子が内皮細胞層を迂回することが培養物の構成から不可能であることが条件である。しかし、後者の場合、内皮細胞と中枢神経系細胞との直接の接触は多孔質膜により妨げられる。分子が一方の層を迂回して多孔質膜から遠い位置にある他方の層に到達することが培養物の構成から確実に不可能となるように、本発明は同じ大きさの層を取り付けることができる装置を提供する。このような装置は、圧縮、例えば、遠心分離による圧縮の前および間中、細胞懸濁液を保持する導管を備える。異なる細胞型を該導管に順次導入し、各細胞型の層を順次圧縮することにより、細胞型を層状に集合させることができる。導管の形状は、後続の細胞層が先行する細胞層以下の半径を確実に有するように設計することができる。
【0065】
あるいは、異なる器官由来の細胞を培養の前に別々に圧縮し、それらが成長する間に相互作用するように、培養のための表面上の異なる位置に載せてもよい。例えば、該表面上で、一方の器官由来の圧縮細胞をもう一方の器官由来の圧縮細胞から数mm離して載せてもよい。この状況で、2つの器官由来の圧縮細胞を5mm未満の間隔だけ離すのが好ましく、3 mm未満の間隔だけ離すのがより好ましい。本発明の方法は、同じ器官由来の1つを超える群の圧縮細胞を、これらの細胞同士の相互作用のモデルを提供するために、表面上の異なる位置で共培養することも含んでよい。これらの圧縮細胞は1つの器官の異なる領域由来であってもよいし、1つの器官の同じ領域由来であってもよい。例1には、3mmだけ離して多孔質膜の異なる領域に載せた脳皮質領域由来の2群の圧縮細胞を調製して、該2群の細胞が相互作用したときに脳梁のモデルが生み出されたことが記載されている。
【0066】
ある場合には、各型の解離細胞を遠心分離することにより得た沈殿を遠心分離後に表面上の異なる領域に移すことにより、圧縮細胞の異なる培養物を多孔質膜の異なる領域に載せることが有利である。他の場合には、異なる細胞型を遠心分離により圧縮することと、各細胞型の圧縮細胞を表面に移動させることとを同時に行うことが有利である。後者の場合には、遠心分離による圧縮のための表面に対して適切な方向に各細胞懸濁液を保持する別々の導管を装備することが有利である。このような数本の導管は、表面の異なる領域に個々の培養物が配置されるように装備することができる。このような個々の培養物は1つの細胞型または数種の細胞型を含みうる。このような個々の培養物が1つを超える細胞型を含む場合、これらの細胞型をランダムに混合することもできるし、異なる細胞型を導管に順次導入し、各細胞型を順次圧縮することにより層状に集合させることもできる。
【0067】
本発明の第一の様相の方法で用いる細胞は、健常な器官由来でも罹病した器官由来でもよい。以下で詳細に説明するとおり、本発明の第一の様相の方法により器官型培養物を迅速かつ容易に生成することができることは、疾病の関連性の研究のために、および、薬物スクリーニングのために器官型培養物を生産する場合に、該方法を広く応用することができることを意味する。本発明の方法により健常な器官および罹病した器官から得た器官型培養物を比較することで、病状に関する最新知識が増進し、病状を示すバイオマーカーおよび薬物標的の同定が可能となる。
【0068】
本発明の方法で用いられる細胞は遺伝学的に改変されていてもよい。例えば、細胞は、薬物標的またはバイオマーカーの発現が調整されるように遺伝学的に改変されていてもよい。バイオマーカーとは、特定のレベルまたは特定の分子形態で存在することにより、罹病した状態の存在を示す分子マーカーである。薬物標的とは、調整を受けて疾病の進行に影響を与えうる分子種、即ち、薬物が作用する媒介となる分子である。薬物標的の機能の性質またはレベルを変えることにより、疾病がもたらす結果(disease outcome)に対して肯定的な影響が及ぼされなければならず、該標的は調整しやすい分子種であるべきである。多くの場合、薬物標的に関する情報は遺伝的または他の生物学的研究から得られ、そのような標的と相互作用することが知られている化合物類は利用可能である。これらのバイオマーカーおよび薬物標的のレベルを生体系内で調整し、その生物学的な結果を研究することは望ましい場合が多い。
【0069】
あるいは、細胞を遺伝的に改変して、細胞を視覚的に追跡することができる視覚的マーカー、例えば、蛍光マーカーを発現させてもよい。
【0070】
クローニングした遺伝子を発現させたり、クローニングした遺伝子または内在性遺伝子の発現を除去したりするための技術は当業界において公知である。これらの技術を用いて、本発明の方法で用いられる細胞中でのマーカー、例えば、薬物標的またはバイオマーカーの発現を増加させてもよいし減少させてもよい。例えば、選択された解離細胞中で薬物標的の発現を調整した後で、該細胞を圧縮し、器官型培養物を調製してもよい。このアプローチは、最終的な器官型培養物中で薬物標的の発現を改変しようとすることよりもはるかに能率的である。なぜなら、単一の解離細胞ははるかに容易に操作することができるからである。
【0071】
クローニングした遺伝子または内在性遺伝子の発現を増加させる技術は、細胞の発現系を強化する形で異種DNAを導入することに基づいており、多くの異なるアプローチが当業者に周知である。ある場合には、発現すべき遺伝子と導入されるDNAの細胞質での複製(cytoplasmic replication)を可能とする複製開始点との同一線上にある強力なプロモーターを含むむき出しのDNAを親油性のトランスフェクション試薬(transfection reagent)とともに用いてもよい。他の場合には、DNAの導入効率を上昇させるためにウイルスベクターを用いてもよい。同様に、アンチセンスDNAオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸および二本鎖RNA干渉を含む、当業者に周知の、遺伝子発現を除去する手段。ある場合には、むき出しの核酸を用いてもよい。他の場合には、特に小干渉RNAを利用するために、自己会合ヘアピン形状(self-assembling hairpin form)の分子を発現する発現ベクターを用いてもよい。タンパク質を細胞に直接導入できることも示されている。ただし、それらが細胞の外側から内側への輸送を促進する存在に付着している場合である。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のTatタンパク質は1つのこのような存在であり、移入すべきタンパク質はHIV-Tatとの融合タンパク質として生成され細胞に導入される(Becker-Hapak M. et al, 2001)。
【0072】
上記のとおりに細胞を形質転換またはトランスフェクトする代わりに、本発明の方法で用いられる細胞がトランスジェニック動物由来であってもよいことも当業者には明らかである。例えば、細胞は、蛍光マーカー等の視覚的マーカーを発現するトランスジェニック動物由来であってもよいし、特定の薬物標的またはバイオマーカーの発現が増加または減少しているトランスジェニック動物由来であってもよい。
【0073】
本発明の方法において圧縮細胞を培養する表面は、対物レンズを用いた顕微鏡法の利用により該表面のいずれの側からも細胞を見ることができるように、光学的に透明であることが好ましい。圧縮細胞を培養する表面が多孔質膜である場合、光学的に透明な親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、デュポンの商品名テフロン(登録商標)でも知られている)膜であることが好ましい。本発明の方法において用いるための代替的な膜の例は、ポリカーボネート製、PET (ポリエチレンテレフタレート)製, または AnoporeTM (無機酸化アルミニウム, Whatman Corpの商標)製であってもよい。
【0074】
圧縮細胞は、器官型成長に必要な栄養分を供給する培地の存在下で培養される。培地は液体培地であることが好ましい。好適な液体培地の例は、例えば、Stoppini L. et al (1991) および Muller et al (2001)に記載されている。
【0075】
本発明の第一の様相の別の実施形態によれば、本発明の方法は、得られる器官型培養物を低温保存する段階を更に含んでもよい。低温保存により、スクリーニングの目的で使用する培養物の蓄積および貯蔵が可能となる。通常、低温保存は液体窒素温度での凍結により遂行される。
【0076】
特殊な材料から構成される人工のマトリックスを必要とする先行技術の方法とは異なり、本発明の方法は何ら特殊な材料を必要としないので、大規模に実行することができ、複数の器官型培養物を並行して調製することができる。したがって、本発明は、複数の器官型培養物を本発明の第一の様相の方法により並行して調製することを含む器官型培養物のコレクション(collection)の高処理量調製方法を提供する。本発明の高処理量方法は、大量生産され予め組み立て済みの(mass-produced pre-fabricated)培養装置とロボット分注(robotic dispensing)とを用いて実行することが好ましい。
【0077】
本発明の第一の様相の方法は、装置当たり複数の培養を並行して行うことができる、好ましくは装置当たり2個, 4個, 8個, 16個, 24個, 96個, 384個, 1536個またはそれよりも多くの培養を並行して行うことができる装置中で行うことが好ましい。
【0078】
本発明の第二の様相によれば、本発明の第一の様相の方法を実行するための装置が提供される。該装置は、並列させた培養装置により数千個の培養物、好ましくは数万個の器官型培養物を同時に調製し維持することができる程度に十分小さいことが好ましい。各培養物は、別々の表面上で維持してもよいし、広い平面の別々の区画上で維持し、個々に栄養分を与えてもよい。該培養装置は、得られる器官型培養物中の電気生理学的応答を測定するための電極を更に含むことが好ましい。好適な装置はヨーロッパ特許EP1133691に記載されている。
【0079】
上記のとおり、本発明の第一の様相の方法が圧縮細胞を多孔質膜上で培養することを含む場合、該方法は、該膜の反対側の表面に栄養分を好ましくは液体培地の形で供給することを含むことが好ましい。液体培地が膜の表面に毛管現象により保持されて、該膜上で細胞が更に圧縮されることが好ましい。したがって、本発明は、本発明の第一の様相のこの好ましい方法を実行するように適合した装置も提供する。したがって、本発明の第二の様相の好ましい実施形態によれば、本発明の第一の様相の方法を実行するための装置であって、該装置は
1つの開口端と、多孔質膜によって閉鎖された1つの末端とを有し、該閉鎖末端はその全体にわたって融着された該多孔質膜により閉鎖されている培地導管、および
該導管を実質的に鉛直方向に保持する枠体(frame)
を備え、
前記多孔質膜の表面に接触し、それにより、該多孔質膜上で成長しうる細胞に栄養分を供給するのに十分な体積の液体培地を毛管現象により該導管中に保持することができるように、該導管が適合している該装置が提供される。
【0080】
毛管力を利用して培地を導管中に保持すれば、ピペット操作を行う工程により、直立(upright)方向または倒立(inverted)方向で培地を取り除くことおよび取り替えることが可能となる。培地を供給するとき、ピペットの先端は膜の表面に対し実行可能な限り近くに配置するのがよい。
【0081】
該導管は、前記装置が直立位置または倒立位置にあるときに、該導管中の多孔質膜の表面と液体培地との間の接触が維持されるのに十分な体積の該培地が毛管現象により保持されるように適合していることが好ましい。
【0082】
直立位置とは、装置の使用中に器官型培養物が多孔質膜の上側の表面で成長するように、該膜で封止された末端を最も高い位置に配置させて、枠体が実質的に鉛直方向に導管を保持することを意味する。倒立位置とは、装置の使用中に器官型培養物が多孔質膜の下側の表面にあるように、開口端を最も高い位置に配置させ、該膜で閉鎖された末端を最も低い位置に配置させて、枠体が実質的に鉛直方向に導管を保持することを意味する。このように、当業界で利用可能な装置とは対照的に、本発明の装置では、該装置を直立位置または倒立位置に配置して、器官型培養物をインキュベートし、器官型培養物のための培地を替えることができる。培養物および装置の方向がこのように柔軟であることは、上向きの対物レンズを有する顕微鏡または下向きの対物レンズを有する顕微鏡を培養物の研究のために交換可能に用いることができ、培地の添加または除去を行う液体取扱装置をどちらの方向でも使用できることを意味する。
【0083】
導管は円筒であることが好ましい。導管は断面が長方形であって非対称であってもよい。導管の正確な寸法および構成は、器官型培養の間中、好ましくは装置が直立位置にあるか倒立位置にあるかどうかにかかわらず、導管中の多孔質膜の表面と培地との間の接触が維持されるのに十分な体積の液体培地が毛管現象により保持されるように選択される。保持される液体の体積は、使用中に、培地を不当に短い間隔で替えることを必要とせずに、十分な栄養分が器官型培養物に供給されるほど十分であるのがよい。
【0084】
毛管現象は数個のパラメーターに依存する。毛管力は円筒管の直径または断面が長方形である導管の広さ、即ち、幅の逆関数である。水溶液に及ぶ毛管力は溶液の表面張力にも依存し、該溶液は、洗剤等の界面活性剤が溶液の状態で存在することにより弱められうるその力によって保持される。毛管現象は液体の分子と表面の分子との間の吸引力の度合いに影響される。水性液体の場合、毛管現象は導管表面の親水性の度合いに影響される。導管中に液体培地が保持されることに影響を与える別の要因は培地の体積である。したがって、本発明の装置が多孔質膜と接触する一定の体積の液体培地を毛管現象により確実に保持できるようにするために、これらの要因を考慮に入れる必要がある。
【0085】
本装置においては、2つの異なる毛管力が作用して、多孔質膜と接触する導管中に液体培地が保持される。液体培地と管との間の引力により発揮される毛管力が一方の力である。もう一方の力は、液体培地と膜の細孔中の壁との間の引力により発揮される。十分に強ければ、前者は重力に対抗して、直立であるか倒立であるかにかかわらず導管中に液体を保持し、後者は液体と膜との接触を保持する。ある境界で、培地に及ぶ重力が毛管力を超え、付加的な力(additional force)によって制止されない培地は導管から落下する。
【0086】
導管が円筒である場合、該円筒中に収容される液体の質量、したがって、該液体を該円筒から除去するように作用する重力は、該円筒の半径の二乗に正比例するのに対し、該液体を該円筒中に保持するように作用する毛管力は該半径に反比例する。このように、所定の液体および円筒の長さについては、それを超えると所定の表面組成からなる円筒中の液体が重力に対抗して保持されることがなくなる最大の半径が存在するが、それを下回ると液体が重力に対抗して保持されることがなくなる最小の半径は存在しない。
【0087】
導管は、0.5cm以下、好ましくは0.3cm, 0.25cm, 0.2cm, 0.15cm以下の半径を有する円筒であることが好ましい。該円筒は、約0.3cm, 0.15cmまたは 0.075 cmの半径を有することが好ましい。0.5cm以下の半径を有する円筒形の導管は、装置が直立位置にあるか倒立位置にあるかどうかにかかわらず、ダルベッコ最小必須培地(Dulbecco's Minimum Essential Medium)などの標準の液体培地からなる1cmの円柱が導管中の多孔質膜の表面と接触するのを維持するように適合していることが分かっている。
【0088】
導管、好ましくは円筒は、液体からなる1cmの円柱を保持することができるように、長さが約1cmであることが好ましい。導管の長さは、1cmをわずかに超えることが好ましく、約1.1cmまたは1.2 cmであることが好ましい。
【0089】
導管中に存在するときに液体培地に加わる毛管力が増加するように、導管は親水性材料、好ましくは親水性ポリマーでできていることが好ましい。親水性ポリマーは当業者には公知である。導管を作製するポリマーの親水性は、例えば、ポリエチレングリコール基を含有させることで更に上昇させてもよい。
【0090】
本発明の第二の様相の装置は0.5cm未満の半径を有する円筒に限定されない。なぜなら、該装置において用いてもよい他の導管の寸法を決定することは十分に当業者の能力の範囲内であるからである。具体的には、当業者は、異なる寸法の導管中に入った所定の体積の液体培地に加わる毛管力と重力とを計算することができ、よって、液体が導管中に保持されるように毛管力が重力を確実に超えるためには該装置においていかなる寸法の導管を用いるべきかを決定することができる。更に、培地を導管から取り除くように作用する重力に対する抵抗を増加させるために、導管中には狭窄部、踊り場(platforms)または他の障害物が含まれていてもよい。
【0091】
ラプラス−ケルビン(Laplace-kelvin)方程式によれば、
毛管力 = 表面張力 / (R1-R2)
(式中、R1 = 管または細孔(この場合は導管)の半径(cm)および R2 = 該管または細孔の壁と接触するメニスカス層の厚さ)
である。
【0092】
1ダインは1グラムを1cm秒-2で加速するのに要する力である。洗剤等の界面活性剤を含まない限り、水性培地の表面張力は約73ダイン cm-2である。培地に洗剤を含ませることは一般的な習慣ではないが、タンパク質は同様に表面張力に影響を与え、培地には特に血清の形で一般的に含まれている。一般に、液体培地の表面張力は50ダイン cm-2以上である。所定の体積の液体培地に作用する合計の重力は98 x(体積(cm3))ダインである。本発明の目的のために毛管現象を評価する場合には、通常、メニスカス層の厚さ(R2)は考慮に入れる必要がない。R2が小さいときは毛管現象に与える影響を無視してよく、R2がR1に近づくにつれて毛管力は大きくなる。本発明の目的のために所定の導管および水性培地について最小の毛管力の要件が満たされるかどうかを決定することのみが必要であるときには、R2の測定は必要ない。しかし、毛管力をより正確に計算することが望ましい場合には、もちろんR2を測定してもよい。
【0093】
したがって、長さ1cm、半径0.5cmの円筒について、倒立時に重力に対抗して、表面張力50ダイン cm-2の液体からなる1cmの円柱を毛管現象により該円筒中に保持するには、全体として少なくとも77ダインの毛管力が必要である。円筒表面の親水性が十分に高い場合は、毛管力は液体からなるこのような円柱に対して100ダインを超える力を加えることができる。
【0094】
長さ1cm、半径0.3cmの円筒について、倒立時に重力に対抗して、表面張力50ダイン cm-2の液体からなる1cmの円柱を該円筒中に保持するには、全体として少なくとも28ダインの毛管力が必要である。円筒表面の親水性が十分に高い場合は、毛管力は液体からなるこのような円柱に対して170ダインを超える力を加えることができる。
【0095】
装置が移動または振動しなければ、これらの毛管力は液体からなるこのような円柱を倒立時に保持するのに十分である。なぜなら、移動または振動により生じる加速度は液体からなる円柱の運動量を変化させ、抑制力(restraining force)に打ち勝ちうるからである。導管の寸法は、手動によるまたはロボットによる通常の操作で生じうるような相応の運動量変化によっては導管から液体が失われないようになっていることが好ましい。
【0096】
好ましくは、導管の寸法は、所定の体積の液体培地を多孔質膜の表面に保持するように作用する毛管力が、該培地を解放するように作用する重力の少なくとも6倍となるように選択される。重力の6倍の毛管力は、培地が該培地の表面張力を弱めるタンパク質成分、例えば、血清中のものを含んでいるときでも、通常の操作下において液体培地を装置の導管中に確実に保持するのに十分であることが分かっている。
【0097】
多孔質膜は、導管の一端の全体にわたって、接着により、またはヒートシールにより、または超音波シールにより融着していることが好ましい。多孔質膜は、該膜中の細孔の半径および表面組成に依存しつつ、ラプラス−ケルビン方程式 (上記参照)に従って導管中の液体に毛管力を加える。膜により発揮されるこの毛管力は、該膜を湿らせ、該液体が該膜と接触するのを維持するのに十分なものであるのがよい。本発明の装置中の多孔質膜は大きさ〜0.4μmの細孔を有することが好ましい。本発明の装置中で用いるのに適した膜には、光学的に透明なミリポア社(Millipore Corporation)製親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、デュポンの商品名テフロン(登録商標)でも知られている)膜、ポリカーボネート製、PET (ポリエチレンテレフタレート)製, または AnoporeTM (無機酸化アルミニウム, Whatman Corpの商標)製の膜が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
多孔質膜は光学的に透明であることが好ましい。この特徴により、試験培養物を顕微鏡検査や生物学的アッセイのためのサンプリングに常に利用しやすくなる。励起に使用される、通常、400-750nmの範囲内の波長において多孔質膜が生成するバックグラウンド蛍光は低いことが好ましい。好ましくは、多孔質膜は親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜から構成される。
【0099】
枠体は、導管の、膜により閉鎖された末端および導管の開口端のどちらもがいかなる表面にも接触しないように、導管を鉛直方向に保持することが好ましい。本装置は、枠体が確実に導管との堅い接触を保持するようにする密閉リング(sealing ring)を更に備えることが好ましい。該装置はこのような密閉リングを2つ備えることが好ましい。該装置は、倒立時に導管が外れないよう枠体が確実に導管との堅い接触を保持するようにする付加的な手段を更に備えてもよい。このような付加的な手段には、例えば、枠体と導管との間のバネなどの摩擦手段(friction means)が含まれていてもよい。
【0100】
該装置は、導管の開口端を囲むチャンバーを更に備えていてもよい。該チャンバーは、導管を鉛直方向に保持する枠体の一部を形成してもよい。装置の使用時、該チャンバーは、培地中の最適な酸性度および酸素レベルを維持するために、導管中の培地と接触する適当なガス組成の雰囲気を含む。該チャンバーは、使用中に液体培地が外部の雰囲気にさらされないことを確実にするために、密閉されていることが好ましい。該チャンバーは、該チャンバー中の雰囲気の条件をコントロールできるようにするためのガス出入口を更に備えてもよい。
【0101】
該装置は、圧縮の前および間中、細胞を収容する1つ以上の導管、好ましくは除去可能な導管を更に備えることが好ましい。このような導管または除去可能な導管は、培地を収容する導管に対して膜の反対側に配置される。圧縮の前および間中、細胞を収容する1つを超える導管を使用することにより、各培地導管(conduit of culture medium)と接触する膜の領域内の異なる場所に1つを超える培養物を構築することができる。細胞を収容する導管が除去可能でない場合、それらは接着により、またはヒートシールにより、または超音波シールにより永久的に(permanently)多孔質膜に封着(sealed)していてもよい。細胞を収容する導管が除去可能である場合、それらは非永久的に(non-permanently)多孔質膜に封着する。非永久的なシールの例としては、圧力を集中させる成形縁部(shaped edges)や、導管の全部または導管のシール縁部(sealing edge)を構成してもよいシリコーンまたは他の圧縮可能な物質が挙げられる。遠心分離に精通している者は、遠心分離機ローターの回転軸に対して多孔質膜よりも近い位置にある導管を備える装置に重力を加えることにより、導管のシール縁部が多孔質膜に対して押し付けられると理解する。除去可能な導管の場合、これによりシール縁部のシール特性が強化される。また、重力場中で使用するための装置のデザインに関する当業者は、負荷に耐える表面は不具合を回避するのに十分な強度の構造により支持されていなければならないと理解する。例えば、本発明の多孔質膜は、弱い重力場中でさえも多孔質膜への損傷無しに導管を支持するのに十分な強度を有していない。したがって、本発明の導管が装置の枠体内の十分な強度の構造により支持されることを確実にする措置が取られている。圧縮可能なシールが導管と多孔質膜との間で使用される場合、重力場の影響下における圧縮の度合いは、全ての場合において、導管を装置の枠体内の十分な強度の構造と接触させることにより制限される。これらの考慮事項は、重力場中で使用するための装置のデザインの当業者とって自明である。
【0102】
シールされたチャンバーは、培地を替えることができる開口部を更に備えることが好ましい。開口部は、培地を替えるときに培地が雰囲気にさらされるのを最小限にするように設計することが好ましい。開口部は、通常はシールされているが培地を取り出し新しい培地を導入するためにピペットの先端で突き通してもよい隔膜または弁によりシールされていてもよい。隔膜はゴム製またはネオプレン製であってもよい。開口部は、培地を完全に替えるためではなく、既存の培地に増殖因子または抗体または毒素などの特定の成分を導入するために用いてもよい。ピペット操作は、培地が静水力学的力の有意な変化を受けることなく行うことが好ましい。
【0103】
導管から液体を取り出すためには導管内の液体を保持する圧力よりも大きい陰圧をかけなければならないことは、手動によるまたはロボットによるピペットの構成(pipette construction)に関する当業者には明らかである。ピペットの先端による多孔質膜への損傷を回避することは重要であり、このためピペットの先端は前進しても該膜とは接触しない。したがって、全ての液体培地を導管から単一のピペット操作で除去することができない場合がある。液体は導管中でピペットの先端が最大限に移動する点と膜との間の導管の領域にとどまる場合がある。液体が毛管力によって導管中にこのようにとどまることは、非常に小さい円筒の半径について最も当てはまりそうに思われるが、ピペットの先端および液体の正確な特性にも依存する。液体がとどまっても、たいていの場合、培養物の健康状態には影響しない。
【0104】
しかし、ある状況では、例えば、培養物の毒性物質への暴露を試験する場合には、液体がとどまることにより潜在的に実験データに影響が及びうる。この場合、液体の除去および新しい液体との交換からなるピペット操作は、毒性物質を希釈により除去するのに必要なだけ多く繰り返してもよい。例えば、円筒が1cmの長さで、ピペットの先端が膜から0.1cm以内の地点まで支障なく進むことができる場合、せいぜい10%の体積が円筒中にとどまる可能性がある。1cmの長さいっぱいに新しい液体を添加すれば、毒素は元の濃度の10%に希釈される。この工程を繰り返せば、毒素は元の濃度の1%に希釈される。ピペット操作を行う工程の時間プログラミングを行う場合には、希釈による除去の効率を最大化するために毒素を平衡化する必要があることが考慮される。
【0105】
本装置は、導管の外側の多孔質膜の表面を覆うふたを更に備えることが好ましい。該ふたは、装置の使用時に培養物が位置する多孔質膜の表面を覆う。圧縮の前および間中、細胞を収容する導管が用いられ、該導管が永久的に固定されている場合、該ふたは該導管を覆う。圧縮の前および間中、細胞を収容する導管が用いられ、該導管が永久的には固定されていない場合、該導管は該ふたを取り付ける前に取り外してもよい。装置がふたを備える場合、チャンバーおよび枠体は、該チャンバーと膜の上の該ふたにより囲まれる空間との間でガスが流れるようにする付加的な出入口を備えることが好ましく、培養物を囲む雰囲気をコントロールすることでき、数週間以上にわたって無菌に保つことができるようになる。
【0106】
本発明の第二の様相の装置は、複数の器官型培養物を同時に調製し維持することを含む高処理量方法での使用に適合していることが好ましい。したがって、本発明のこの様相の第二の実施形態によれば、本発明の第一の様相による装置を複数有する高処理量器官型培養のための装置が提供される。高処理量器官型培養のための装置は、本発明の第二の様相による装置を96個, 384個, 1536個またはそれよりも多く有することが好ましい。
【0107】
よって、高処理量装置は数千の導管を備えていてよく、その各々には培地を独立に供給することができ、培地を独立に交換することができる。培地の交換は上記のとおりマルチチャンネルピペット(multichannel pipette)またはロボットにより行うことが好ましい。
【0108】
高処理量装置は、該装置内の個々の導管全てを覆う単一のふたを備えることが好ましい。
【0109】
高処理量装置中の各々の導管の開口端を囲むチャンバーは開口部により接続しており、装置内のチャンバー全てへのガスの流れが高処理量装置中の単一のガス流出入口によりコントロールされるように、チャンバーの間にガスを流すことが好ましい。
【0110】
高処理量装置中の複数の装置は単一のユニットとして組み立ててもよい。あるいは、高処理量装置は、おのおの単一の導管を有し、所望の数の導管を有する高処理量装置に使用者が組立てることができる個々の装置として供給してもよい。高処理量装置は、所望の数の導管を有する高処理量装置に―場合により、使用者が―組立てることができる個々の装置複数からなる連なり(strips)として、例えば、2, 4, 8,または12個からなるグループとして供給してもよい。所定の数のウェル(well)を有する連なりを備える高処理量装置は、細胞培養の技術においては公知だが、器官型培養については公知ではない。このタイプのマルチウェル(multiwell)装置はDynatechによりThorne A. (1979)中で米国特許4,154,795として記載されている。
【0111】
好ましくは、高処理量装置については、装置の全体のサイズおよび装置内の個々の導管の位置が標準のマイクロタイタープレートのサイズに合っており、該装置を標準のマイクロタイタープレート用に設計されたロボットとともに使用できるのがよい。例えば、96個の装置から構成される高処理量装置においては、該装置は、標準の96ウェルマイクロタイタープレートに似せて、8×12個の装置のアレイとして配置することが好ましい。高処理量装置を構成する96個の装置中の導管は円筒であることが好ましい。各円筒は、標準の96ウェルマイクロタイタープレート中のウェルの半径である約0.3cmの半径を有することが好ましい。このような円筒中で作用する毛管力および重力ついては上記した。
【0112】
384個の装置から構成される高処理量装置においては、各装置中の導管は円筒であることが好ましく、円筒の半径は約0.15cm、即ち、標準の384ウェルマイクロタイタープレートにおけるウェルの半径であることが好ましい。同じ1cmの長さのこの円筒中の液体の重量は、0.3cmの円筒の半径に対応する重量のわずか25%であるが、毛管力は上記のより大きい円筒と比較して2倍である。1536個の装置から構成される高処理量装置においては、各装置中の導管は円筒であることが好ましく、円筒の半径は約0.075cm、即ち、標準の1536マイクロタイタープレートにおけるウェルの半径であることが好ましい。この場合、同じ1cmの長さの円筒中の液体の重量は、0.3cmの円筒の半径に対応する重量のわずか6.25%であるが、毛管力は4倍高い。このように、本発明に従って標準のマイクロタイタープレートの全体のサイズに合わせて作製した96, 384または1536本の円筒からなる装置は全て、倒立位置にある円筒中に液体を保持する。
【0113】
本発明の第三の様相によれば、本発明の第一の様相の方法により得られる器官型培養物または器官型培養物のコレクションが提供される。圧縮細胞から本発明の第一の様相の方法により生産される器官型培養物は、器官型器官切片培養物(organotypic organ slice culture)と同じ機能的な特徴を保持しているが、解剖学的構造の点で器官型器官切片培養物とは異なる。
【0114】
器官型器官切片培養物は元の器官の解剖学的特徴を保持する。ただし、その特徴が、該器官のうちで、該切片を作製するために切断した部位に見出される場合に限る。例えば、脳の海馬領域から作製した横断切片(transverse slice)は、海馬を特徴づける特有の細胞配列、例えば、CA1, CA2およびCA3領域の空間的配置を保持する。本発明の第一の様相の方法に従って作製した器官型培養物は、切片から作製した器官型培養物とは異なる。なぜなら、解剖学的特徴は、器官中の細胞を解離させたことにより、または、器官を切断して複数の外植片または微小外植片としたことにより失われるからである。
【0115】
驚くべきことに、解剖学的特徴がこのように失われているにもかかわらず、第一の様相の発明の方法に従って作製した器官型培養物は器官型特徴を有する、即ち、器官の機能的特徴を保持する。例えば、大脳皮質由来の圧縮した解離細胞から本発明の第一の様相の方法に従って作製した培養物が解剖学的に分化していないことは図1で分かる。しかし、培養期間中に培養物内で生成した細胞間接続は、通常は生体内で接続を形成する細胞間で発生する。これらの接続が正確かつ適切であるのは、生体内で生成される化学信号を各細胞が生成しており、該信号に対し他の細胞が適切に応答しているからであると思われる。
【0116】
該信号に対する応答は該細胞の通常の機能に依存する。ある場合には、このような信号に応答する細胞は、ニューロンの軸索突起(axonal processes)などの細胞突起(cellular processes)を伸長させることで応答する可能性がある。他の場合には、応答する細胞は、培養物中を通って、該信号を生成する1つまたは複数の細胞へと向かうまたはそれから離れる細胞運動(cellular movement)へと導く細胞突起により応答する可能性がある。あるいは、応答する細胞は細胞分裂をして応答する可能性があり、または、他の場合にはそれらが経る細胞分裂が阻害される可能性がある。応答する細胞は、第一の細胞により生成された信号には直接は応答しない細胞が応答する他の信号を生成することで応答する可能性もある。このように、細胞の数、機能および分布におけるさまざまな変化が培養期間中に培養物内で起こる可能性があり、これらの変化により培養物の器官型振る舞い(organotypic behaviour)が生じる。
【0117】
熟練した読者(skilled reader)には明らかなとおり、本発明の第一の様相の方法により得られる本発明の第三の様相の器官型培養物には、非常に多くの用途がある。例えば、該器官型培養物は、所定の健常な器官における細胞の機能および構成成分ならびに細胞間連絡の結果を研究するために用いてもよい。これらの機能および結果は罹病した状態では一般に変化し、該器官型培養物は、正常な組織だけでなく罹病した組織およびこれらの罹病した状態に対する外因性の因子(候補薬物を含む)の影響を研究するために用いることができる。
【0118】
上記のとおり、バイオマーカーとは、特定のレベルまたは特定の分子形態で、罹病した状態の存在を示す分子マーカーである。薬物標的とは、調整を受けて疾病の進行に影響を与えうる分子種である。本発明の器官型培養物の1つの用途は、バイオマーカーおよび薬物標的を同定することにある。
【0119】
罹病した状態または対応する罹病していない状態を表現する器官型培養物においてタンパク質および脂質などのいくつかの分子類をスクリーニングすることにより、バイオマーカーを同定してもよい。一般に、有効なバイオマーカーは、罹病した状態の運搬体(carriers)を同定すること、および、場合により薬物などの治療的生活規制(therapeutic regime)によって支援されて常態へと向かう経過を観測することの両方のために用いられる。臨床試験で用いるためのバイオマーカーを確認するために、候補バイオマーカーと罹病した状態との間の統計的に有意な関連性を確立することが必要である。本発明の器官型培養物は、器官の機能および生理を再現し、高処理量アッセイに適用できるように本発明の方法により迅速かつ容易に生成することができる事実から、バイオマーカーの発見および確認に理想的に適している。このように、本発明の器官型培養物ならば、バイオマーカーの同定および確認のために現在用いられている丸ごとの動物よりもはるかに迅速かつ安価に用いることができる。
【0120】
したがって、本発明の別の様相によれば、本発明の第三の様相の器官型培養物をスクリーニングすることを含むバイオマーカーおよび薬物標的を同定および確認する方法が提供される。バイオマーカーおよび薬物標的を同定するためのアッセイには、転写プロファイリング(transcriptional profiling)、プロテオミクス、質量分析、ゲル電気泳動、ガスクロマトグラフィーおよび当業者に公知の分子プロファイリング(molecular profiling)のための他の方法を用いることが含まれる。
【0121】
代用マーカー(surrogate markers)とは、罹病した状態の存在または経過を評価するために用いることができるが、疾病の臨床的な結果を直接測定するものではないバイオマーカーの一部分(sub-set)である。本発明の器官型培養物は、他のバイオマーカーと同じ方法で代用マーカーを同定および確認するために用いてもよい。
【0122】
本発明の器官型培養物は、罹病した状態に関連するバイオマーカーおよび薬物標的を同定するのに有用であるだけでなく、このような罹病した状態を緩和する薬物を同定するためのスクリーニングにも有用でもある。器官型培養物は候補薬物をスクリーニングするのに特に有用である。なぜなら、目的とする培養物が、生体内の目的とする器官の特徴とできる限りよく一致する生化学的および生理学的特性を有していることがこのようなスクリーニングには重要であるからである。しかし、先導薬物(lead drugs)を首尾よく同定する確率を高めるために十分に多数の薬物候補をスクリーニングすることができるためには、器官型培養物を高処理量で用いることができなければならない。前臨床的および臨床的な薬物開発計画において先導薬物が含まれていることを確認するためには、付加的な大規模アッセイが必要であることが多い。
【0123】
本発明の第一の様相の方法は、何千もの器官型培養物を同時に生成するために用いてもよいので、各培養物について複数のアッセイを行うことを含む高処理量用途に比類なく適している。1つの実施形態では、本発明の第一の様相に従って器官型培養物を生産する方法は、候補薬物をスクリーニングし前臨床的に確認する方法において、得られた器官型培養物を用いてスクリーニングを行う段階を更に含む。上で議論したとおり、本発明の方法の特に有用な様相の1つは、細胞を遺伝的に改変してバイオマーカーまたは薬物標的の発現を調整した器官型培養物を高処理量で形成させることが容易になることである。このような調整を受けた器官型培養物は、候補薬物のスクリーニングにおいても有用である。
【0124】
毒物学の分野は、本発明の方法により提供される向上した柔軟性および処理量により大いに利益を得る本発明の別の適用分野である。器官型応答(organotypic response)はこの分野では決定的に重要である。なぜなら、異なる組織では、毒素に対する応答が非常に異なり、異なる臨床的な結果を伴うからである。異なる組織は、異なる種類の外因性化合物を代謝させる特にシトクロムP450類からなる異なる酵素系を含みうる。化合物の代謝の度合いおよび種類はその毒性に深く影響を及ぼしうる。多種多様な組織において大規模に毒性をスクリーニングすることは今のところ非常に高価であるので、一般的に用いられる多数の化学物質はいまだ十分に試験されていない。潜在的な毒性に関する認識の高まりにより、そのようなことをすることなしに、許容できる費用でこのような試験を実行すべきであるという強い要求が生じている。したがって、本発明は、本発明の器官型培養物を用いて化学物質の毒性を評価する方法も含む。
【0125】
本発明の種々の様相および実施形態をより詳細に例を用いて説明する。細部の変更は本発明の範囲から離れることなくなしうると理解される。
【0126】
例:
例1:マウス胚の皮質(E-18)由来の解離細胞の器官型培養物
胚の脳をマウス胚から取り出し、2つの半球を分離した。視床および基底核に加えて小脳も除去した後、軟膜を注意深く除去し、5つの脳由来の皮質領域をHepes緩衝塩溶液(HBSS)に溶解した0.1% トリプシンで消化した。細胞の塊を重力下で沈降させ、懸濁液中の上部の解離細胞を静かにピペットで吸引し、新しい遠心分離管に入れた。
【0127】
解離細胞を1000 x g で10分間回転させることにより圧縮し、得られた細胞の沈殿2-5μlを滅菌したピペットの先端で直接取り出し、ミリポア(Millipore)-CM 培養装置のバイオポア(Biopore)親水性PTFE膜の中心に載せた。
【0128】
皮質培養培地(1x培地となるようにDMEM(+ショ糖)に溶解させて作製した10% Ham's F12 (シグマ), 8% FBS, 2% ウマ血清, 10mM Hepes (ギブコ), 2mM L- グルタミン (ギブコ), 50単位の Pen/strep)を前記膜の下面に添加した。血清を含む他の培地を用いることもできる。培養物は液面レベルの平衡を通じて毛管現象により更に圧縮した。
【0129】
解離させたマウス皮質細胞から本発明の方法に従って作製した典型的な器官型培養物を図1に示す。該培養物は、切片培養物に特有の巨視的な解剖学的特徴は示さないが、均一な表面を有している。3-5 日以内に、そして、少なくとも5 週間、これらの培養物は器官型特徴を示す。例えば、適当な細胞型が存在することは、細胞型特異的な抗原を認識する標識抗体で染色することにより示すことができる。解離させたマウス皮質細胞から本発明の方法に従って作製した典型的な培養物にこのような抗体3種を使用したことを図2に示す。図2Aは、ケミコン(Chemicon)(カタログコード AB144P)により提供されたヤギ抗コリンアセチルトランスフェラーゼを1:100に希釈して用いて染色した活性(active)コリン作動性ニューロンを示す。該ヤギ抗体は、サイ・スリー(Cy3)を結合しアフィニティー精製されたロバ抗ヤギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc)で検出した。図2Bは、シグマ由来のウサギ抗グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)抗体(カタログコード G9269)を1:200に希釈して用いて検出した星状膠細胞を示す。該ウサギ抗体は、Alexa FluorTM568で標識したヤギ抗ウサギIgG 抗体(Molecular Probes, Invitrogen)で検出した。図2Cは、Covance モノクローナル抗βチューブリンIII抗体(カタログコード MMS-435P)を1:200に希釈して用いて検出した、ニューロン特異的なβチューブリンIIIを発現するニューロンを示す。該マウスモノクローナル抗体は、Alexa FluorTM488で標識したヤギ抗マウスIgG 抗体(Molecular Probes, Invitrogen)で検出した。これらの像は、5週後であっても培養物中に健常かつ機能するニューロンが存在することを示し、ニューロンと星状膠細胞の標識化は適切な星状膠細胞−ニューロン接続を示した。培養物が器官型でなければ、グリア細胞が数日後に培養物の優位を占めていたであろう。解離細胞を用いて本発明に従って作製された培養物は、器官型脳培養物には典型的だが解離細胞を他の手順で培養した場合には見出されないニューロン間接続を示す。
【0130】
器官型活性(organotypic activity)の別の証拠は、培養物の電気生理学的活性により示される。器官型培養物を図3に示す多電極アレイ(multi-electrode array)(M.E.A.)(器官型切片培養とともに一般的に用いられる電気生理学的装置である。)で重層した(overlaid)。膜中に組み入れられる適切なM.E.A.は本発明者によりEP1133691 および US patent 6,689,594に記載されている。この装置は細胞の圧縮を妨げない。
【0131】
誘発電場電位(Evoked Field Potentials)と同様に自発的活動をM.E.A.の異なる電極から記録することができる。上記の方法に従って得られた皮質培養物中でのこのような自発的電気生理学的活動(spontaneous electrophysiological activity)を図4に示す。任意の組の電極間に印加される電位の違いに対する該培養物の影響をM.E.A.を用いて測定することもできる。上記の方法に従って得られた皮質培養物中で引き起こされた電気生理学的活動を図5に示す。誘発電位のこのようなパターンは脳の器官型培養物に特有のものであり、本方法発明に従って作製された培養物が驚くべきことに器官型培養物に特異的な特徴を有していることを示している。このような解離細胞または多数の外植片もしくは微小外植片は高処理量培養が可能であるのに対して、器官型切片培養物は大量処理に応用するのには適していない。
【0132】
別に記録された実験では、マウス皮質由来の解離細胞から上記のとおりに調製された2つの同一の培養物を同じバイオポア親水性PTFE膜に3mm幅の空間だけ離して載せた。培養物の配置を模式的に図6に示す。このように隣接させた2つの培養物の例を図7に、該2つの培養物の間に置いたヒドロゲル(BDTM PuraMatrixTM Peptide Hydrogel, BD Biosciences catalogue number 354250)の部分とともに示す。BD Biosciences MatrigelTM またはアガロースをPuraMatrixTM hydrogelの代わりに用いることもできる。本事例ではTHY-1 GFP トランスジェニックマウス (Feng G. et al 2000)由来の皮質を用いた。なぜなら、これらのマウス由来のニューロンは緑色蛍光タンパク質を発現し、そのまま画像化することができるからである。図7は、マウス皮質由来の解離細胞を用いて本発明に従って作製した培養物が、該培養物の境界を越えて、同じ多孔質膜に載せた第二の培養物に向かって軸索を成長させることができることを示す。軸索突起(Axonal processes)は走化性シグナルの拡散により両方向に伸び、新たなニューロン結合が該培養物間で形成される。図8に図示する配置のM.E.A.を、ニューロン結合の完全性を示すために用いた。更に、ニューロン結合の完全性を国際的な航空移動(international air travel)の前後で同じ培養物で示し、本発明の方法の安定性および有用性を示した。
【0133】
本発明の方法の有用性および柔軟性を更に示すことは、図9に示すデータにより可能である。解離細胞は、本発明の方法による器官型培養の前に、十分に確立した手順により凍結および保存することができる。図9は、マウス皮質由来の凍結および解凍した解離細胞から作製した培養物の電気生理学的応答を示す。図9に示すペアパルス(paired-pulse)誘発電場電位および図9に示す自発的活動は、器官型脳切片培養物や本発明に従って作製された他の器官型脳培養物に特有のものである。
【0134】
本発明の培養方法の高い再現性は、異なる培養物間で図10に示すタンパク質濃度の変動が小さいことにより示される。タンパク質濃度はBCA アッセイ(Smith P. et al. 1985)により測定した。
【0135】
我々は、マウス皮質由来の解離細胞を用いて本発明に従った共培養において、マウス神経幹細胞(neuronal stem cells)が成長および分化することも示した。他の共培養の例としては、解離させた脳細胞を用い本発明に従って器官型の共培養を行った場合にマクロファージがミクログリアに分化することが挙げられる。
【0136】
例2:ラット心臓由来の解離細胞の器官型培養物
解離させた新生児ラット心室筋細胞をRen et al (1998)により記載されたとおりに単離した。手短に述べると、該動物を安楽死させ、その心臓をすばやく取り出し、酸素で処理した(oxygenated)Krebs-Henseleit bicarbonate (KHB)緩衝液を灌流させた。続いて、心臓には、名目上Ca2+を含まない KHB 緩衝液を自発性収縮が止まるまで2〜3 分間灌流させ、その後、Ca2+を含まず0.5%w/v II型コラゲナーゼ (Invitrogen カタログ番号 17101) および 0.1 mg/mL ヒアルロニダーゼ (Sigma-Aldrich カタログ番号 H 4272)を含むKHBを20分間灌流させた。灌流後、左心室を取り出し、細かく刻み、新鮮な酵素溶液(Ca2+を含まず0.5%w/v II型コラゲナーゼを含むKHB)で3〜5分間インキュベートした。該細胞は、0.2%トリプシンで更に消化した後、ナイロンメッシュ(300 μm)を通してろ過した。細胞の塊を重力下で沈降させ、懸濁液中の上部の解離細胞を静かにピペットで吸引し、新しい遠心分離管に入れた。
【0137】
解離細胞を1000 x g で10分間回転させることにより圧縮し、得られた細胞の沈殿2-5μlを滅菌したピペットの先端で直接取り出し、ミリポア-CM 培養装置のバイオポア親水性PTFE膜の中心に載せた。
【0138】
ギブコ(Gibco)(Invitrogen カタログ番号 17504-044)で補ったNeurobasal medium (Invitrogen カタログ番号 21103-049)を前記膜の下面に添加した。培養物は液面レベルの平衡を通じて毛管現象により更に圧縮した。
【0139】
得られた培養物は、切片培養物に特有の巨視的な解剖学的特徴は示さないが、均一な表面を有している。10日以内にこれらの培養物は器官型特徴を示す。図11は、心臓の拍動に匹敵する自発性の律動的電気生理学的活動(spontaneous rhythmic electrophysiological activity)を示す。示された拍動数(beating rate)は2.6 秒当たり1回の拍動であり、神経支配の非存在下で心筋細胞培養物において他の者により達成された拍動活性(beating activity)に特有のものである。しかし、本発明の場合、解離細胞培養のための以前の方法と異なり、培養物の器官型特徴は数週間または数ヶ月間安定であり、他の解離細胞培養物に典型的な3-5日ではない。本発明により達成される器官型培養物の長期安定性により、導入遺伝子およびsiRNAの安定した発現を伴う実験、ならびに、スクリーニング実験において長期の時間的経過にわたる薬物応答の測定が可能となるのに対し、他の解離細胞培養物は数日しか安定ではなく、導入遺伝子の安定した発現が最適となるときにはもはや器官型ではない。
【0140】
例3:ヒト心臓由来の解離細胞の器官型培養物
サザンプトン大学の許可の下で提供された組織から、解離させたヒト胎児心筋細胞をMummery C. et al (2002)により記載されたとおりに単離した。手短に述べると、胎児の心房および心室を0.2%トリプシンでほぐして消化した後、ナイロンメッシュ(300 μm)を通してろ過した。細胞の塊を重力下で沈降させ、懸濁液中の上部の解離細胞を静かにピペットで吸引し、新しい遠心分離管に入れた。解離細胞を1000 x g で5分間回転させることにより圧縮し、得られた細胞の沈殿5−10μlを滅菌したピペットの先端で直接取り出し、ミリポア-CM 培養装置のバイオポア親水性PTFE膜の中心に載せた。ギブコ(Invitrogen カタログ番号 17504-044)で補ったNeurobasal medium (Invitrogen カタログ番号 21103-049)を前記膜の下面に添加した。培養物は液面レベルの平衡を通じて毛管現象により更に圧縮した。
【0141】
例2と同様に、拍動する培養物が10 日以内に確立した。心房の培養物の場合、拍動数は1分当たり140-150回の拍動であった。心室の培養物は、より遅く1分当たり約30回で拍動する。この例は本発明の方法がげっ歯類の器官に特異的ではないことを示し、他の例はそれが一連の組織に適用されることを示している。
【0142】
例4:マウス胚の肝臓(E-16-18)由来の解離細胞の器官型培養物
胎の肝臓をマウス胚から取り出し、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水中に置いた。次に、該肝臓をメスで切り刻んでより小さな断片とし、その後、37℃に加温したEarle's Balanced Salts Solution (EBSS)中に移した。その後、肝臓の断片を、開口の大きさが徐々に小さくなっていく3本のフレーム・ポリッシュ(flame-polished)パスツールピペットですりつぶし、細胞懸濁液を得た。細胞の塊を重力下で沈降させ、懸濁液中の上部の解離細胞を静かにピペットで吸引し、新しい遠心分離管に入れた。解離細胞を1500 x g で3分間遠心分離することにより圧縮した。その後、残った沈殿を1μl当たり約20,000細胞の濃度となるように再懸濁し、得られた細胞の沈殿5−10μlを滅菌したピペットの先端で直接取り出し、ミリポア-CM 培養装置のバイオポア親水性PTFE膜の中心に載せた。肝臓培養培地(Verrill C. et al (2002))を前記膜の下面に添加した。培養物は液面レベルの平衡を通じて毛管現象により更に圧縮した。肝臓培養物は生体外で少なくとも10日間維持された。
【0143】
図12は、本発明に従って作製したマウス胚の肝臓の培養物のモノクローナル抗平滑筋αアクチン(SMA)抗体(クローン1A4、精製したマウス免疫グロブリン)による染色を示す。結合した抗体は、AlexaFluorTM488で標識したヤギ抗マウスIgG抗体 (Molecular Probes, Invitrogen)で検出した。SMAは活性肝星細胞(activated hepatic stellate cells)に存在しており、活性を有する肝臓の再生のマーカーを提供する。本発明の方法により生成された肝培養物は器官型の振る舞いを行う。これにより、肝細胞を用いた高処理量薬物開発アッセイに対して、非常に多大なる利点がもたらされる。本発明により、解離させた肝細胞から器官型培養物を作り出すことができ、それを大量に得ることができることにより、高処理量アッセイを開発することが容易となる。適切な細胞間接続を有する器官型培養物は、薬物または毒素に対する生体内の応答に関して、非器官型の培養解離細胞を用いたアッセイよりも信頼できる指標である。肝臓は薬物代謝および毒性において決定的な役割を果たしているので、器官型肝培養物(Organotypic liver cultures)は商業上の大きなチャンスである。
【0144】
例5:ヒト膵臓由来の解離細胞の器官型培養物
ヒト胎児膵臓由来の解離細胞をTurnpenny L. et al (2003)により記載されたとおりに単離した。手短に述べると、胎児膵臓を0.2%トリプシンで消化した後、ナイロンメッシュ(300 μm)を通してろ過した。細胞の塊を重力下で沈降させ、懸濁液中の上部の解離細胞を静かにピペットで吸引し、新しい遠心分離管に入れた。解離細胞を1000 x g で5分間遠心分離することにより圧縮し、得られた細胞の沈殿5−10μlを滅菌したピペットの先端で直接取り出し、ミリポア-CM 培養装置のバイオポア親水性PTFE膜の中心に載せた。ギブコ(Invitrogen カタログ番号 17504-044)で補ったNeurobasal medium (Invitrogen カタログ番号 21103-049)を前記膜の下面に添加した。培養物は液面レベルの平衡を通じて毛管現象により更に圧縮した。
【0145】
図13は、本発明の方法により、解離させた膵臓細胞から、生体内の膵臓の重要な特徴を保持する器官型培養物が生成されることを示す。培養11日後に、抗インシュリン抗体による染色は、膵臓に特徴的なインシュリンの発現を示した。膵臓の発生はSOX9ホメオドメイン転写因子の発現を伴う(Piper K. et al 2002)。本発明に従って作製した器官型膵臓培養物(organotypic pancreatic culture)におけるSOX9の発現は、図13Cに示すとおり、抗SOX9抗体 (Chemicon由来のポリクローナルウサギ抗SOX9抗体、ビオチンで標識した (ビオチン化した) 抗ウサギに続きストレプトアビジン- テキサスレッドで検出、両方ともVector Labs由来)により示された。図13DはDAPIで染色した細胞核を示す。
【0146】
例6:マウス脳由来のトランスフェクトされた解離細胞の器官型培養物
本発明の方法の重要な特徴は、器官型培養物の生成の前に、過剰発現のための遺伝子または発現の除去のためのsiRNAを解離細胞に導入することができることである。導入遺伝子またはsiRNAの導入は、器官型切片培養物よりも解離細胞において効率的である。なぜなら、導入に用いられる親油性複合体またはウイルスベクターは各解離細胞の全表面に到達できるからである。図14は、P0 マウス脳由来の解離細胞から生成した器官型培養物を示す。該細胞は、培養の直前に、エンハンスト(Enhanced)緑色蛍光タンパク質 (EGFP)の遺伝子で形質導入した。
【0147】
新生児の脳を取り出し、2つの半球を分離した。視床および基底核に加えて小脳も除去した後、軟膜を注意深く除去し、脳由来の皮質領域をHepes緩衝塩溶液(HBSS)に溶解した0.2% トリプシンで消化した。細胞の塊を重力下で沈降させ、懸濁液中の上部の解離細胞を静かにピペットで吸引し、新しい遠心分離管に入れた。解離細胞を1000 x g で5分間回転させることにより圧縮し、得られた細胞の沈殿5μlを滅菌したピペットの先端で直接取り出した。ミリポア-CM 培養装置のバイオポア親水性PTFE膜の中心に載せる前に、水疱性口内炎ウイルス血清型G(VSVG) 外被で包まれたレンチウイルスコンストラクトrHIV1-cPPT-SYN1-GFP-WPRE2μlを、1.811 物理的粒子/mlの濃度で、遠心分離した調製物各5μlに添加した。皮質培養培地(1x 培地となるようにDMEM(+ショ糖)に溶解させて作製した10% Ham's F12 (シグマ), 8% FBS, 2% ウマ血清, 10mM Hepes (ギブコ), 2mM L- グルタミン (ギブコ), 50単位の Pen/strep)を前記膜の下面に添加した。培養物は液面レベルの平衡を通じて毛管現象により更に圧縮した。デジタル画像を7日後に取り込んだ。
【0148】
例7:器官型培養のための装置
図15に示すとおり、本発明の好ましい装置は、円筒および該円筒の一端に接着またはヒートシールまたは超音波シールした多孔質膜、および該円筒を鉛直に保持し該円筒の開口端を囲むチャンバーを作り出す枠体を備える。
【0149】
該円筒は、毛管現象により円筒中に保持される一定の体積の液体培地を、それが多孔質膜の下側表面と接触するように収容する。その体積の液体培地の液体メニスカスを示す。
【0150】
該装置は、膜でシールされた、導管の末端を囲むふたを更に備え、ガス交換は可能であるが微生物汚染は防止する点において、器官型培養物を囲む雰囲気の制御手段を与える。
【0151】
図16および17に示すとおり、本発明の別の好ましい装置は、付加的な円筒が図15に示した円筒に対して多孔質膜の反対側の多孔質膜に封着するように図15の装置を改良したものからなる。本発明の方法のこの様相に関する図16における模式的記載において示すとおり、付加的な円筒は、圧縮の直前および間中、細胞懸濁液を収容する導管として用いられる。例えば、遠心分離または吸引による圧縮の後で、細胞懸濁液を収容するために用いられる円筒は除去してもよいし所定の場所に残してもよい。それが所定の場所に残される場合、器官型培養物を囲む雰囲気の制御手段を与えるふたで培養の間中、それを覆ってもよい。細胞懸濁液を収容するためには用いない円筒は、毛管現象により保持される一定の体積の液体培地を収容するために遠心分離後に用いる。細胞懸濁液を収容するために用いる円筒は、培地が多孔質膜を通じて培養物の全ての領域に確実に到達できるように、液体培地を収容するために用いる円筒よりも内断面が小さくてもよい。細胞懸濁液を収容するために用いる円筒は、該円筒が十分に支持され、該円筒が重力場の影響の下で多孔質膜に損傷を与えないことが確実となるように設計される。例えば、該円筒の外断面と内断面との間でのサイズの相違は、該円筒の重量が遠心分離の間、本装置の枠体によって完全に支持されるのに十分なものである。
【0152】
高処理量のための装置の組立品の場合、ふたは組立品全体を覆うことが好ましい。該ふたは、ガスが拡散できるようにゆるく取り付けられ、空気の乱流がわずかに存在するときに汚染を最小化するために、該組立品の縁と重なるスカートを有してもよい。空気の乱流を最小化すべきことは組織培養の専門家には周知である。あるいは、該ふたは堅く取り付けられてもよく、その場合、ガスがチャンバーとふた・膜間の空間との間で循環できるように出入口が枠体中に装備されていてもよい。
【0153】
チャンバーは、チャンバーを円筒の基部の周りに堅固に配置する2つの密閉リングを組み込んだ組み立て済みの柔軟な形状(pre-fabricated plastic shape)を有することが好ましい。シールは、円筒の基部の周りに気密シールを形成するネオプレンで作られた密閉リングであることが好ましい。
【0154】
チャンバーの基部は、培地を周囲の環境にさらすことなくチャンバー中の培地の交換を容易にするために、ピペットで突き通すことができる隔膜を更に備える。
【0155】
チャンバーの内部へはガスの拡散または潅流のために到達しやすいことが好ましく、チャンバーは、雰囲気の条件をコントロールするためにガス流用の2つの孔または出入口を備える。チャンバーと枠体は、チャンバーとふたにより覆われる膜の上の空間との間でガスが流れるようにする付加的な出入口を備えることが好ましい。
【0156】
図18および19に示すとおり、本発明による複数の器官型培養物のための好ましい高処理量装置は、図15および17に示す単一の器官型培養物のための装置を複数有する。高処理量装置中の各円筒は、毛管現象により膜との接触が保持される液体培地を独自に供給する。しかし、円筒の基部にあるチャンバーは連通しており、チャンバーの間でガスは流れることができ、これにより、装置のどちらか一方の端にあるガス流出入口を通して全チャンバーの雰囲気の条件をコントロールすることができる。更に、ふたと培養物との間の空間は枠体中の出入口によりチャンバーと連続的になり、これにより、膜上の培養物を囲む雰囲気の条件をコントロールすることができる。
【0157】
図19に示すとおり、単一の挿入部品(insert accessory)は、圧縮の前および間中、細胞懸濁液を収容する高処理量装置のための複数の除去可能な導管を備えてもよい。液体培地を収容するために用いる固定された各導管につき1または数本のこのような除去可能な導管が存在してよい。示した例では、固定された各導管につき4本のこのような除去可能な導管が存在する。
【0158】
図20に示すとおり、図15および17の装置は、枠体に対して所定の位置に導管を保持する要素、例えば、導管と枠体との間のバネを更に備えてもよい。
【0159】
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【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】解離させたマウス皮質細胞から本発明の方法に従って作製した典型的な器官型培養物の顕微鏡写真。
【図2】マウス皮質の器官型培養物中で機能する5週後のニューロンおよびグリア細胞。 A.抗ChATで染色したコリン作動性ニューロン。 B.抗GFAPで検出した星状膠細胞。 C.抗βチューブリンIIIで検出したニューロン。
【図3】電気生理学的測定用多電極装置上に重層して本発明の方法により作製した器官型培養物。
【図4】解離させたマウス皮質細胞から本発明の方法に従って作製した器官型培養物を重層した図3の装置上の8組の電極間の自発的電場電位(Spontaneous field potential)の変化。
【図5】ペアパルス刺激(Paired-pulse stimulations)が、解離させたマウス皮質細胞から本発明の方法に従って作製した器官型培養物から誘発電場電位(EFP)を誘発する。
【図6】脳梁を再現するために載せたマウス皮質由来の解離細胞(中枢神経系 (CNS)と表示)から本発明の方法に従って作製した2つの器官型培養物の共培養(co-culture)の概略図。
【図7】器官型培養10日後のTHY-1 GFPマウス皮質の2つの培養物間での軸索成長。 A.培養物およびヒドロゲル・ブリッジ(hydrogel bridge)の明視野像(左) および蛍光像(右)での低倍率視野。 B.ヒドロゲル内の軸索の高倍率視野。
【図8】多孔質膜中に組み入れた電気生理学的測定用多電極装置。
【図9】マウス皮質由来の凍結および解凍した解離細胞から作製した培養物の電気生理学的応答。 A. ペアパルス誘発電場電位。 B. 自発的活動。
【図10】マウス皮質の同型培養物(replicate cultures)中でのタンパク質濃度。
【図11】解離させたマウス心筋細胞から本発明の方法に従って作製した器官型培養物の下に位置する図8の装置上の8組の電極からの自発的電場電位の変化。
【図12】マウス胚の肝臓の器官型培養物。 A.明視野 B.抗平滑筋αアクチン(anti-smooth muscle alpha actin)で染色 C.ヘキストで染色(核)
【図13】ヒト胎児膵臓の器官型培養物: A.明視野 B.抗インシュリン抗体で染色 C.抗SOX9抗体で染色 D.DAPIで染色(核)
【図14】EGFPを発現するレンチウイルスベクターによる形質導入後24時間の、解離させたP0マウス脳細胞の器官型培養物。
【図15】器官型培養用装置の断面図。
【図16】圧縮の前および間中、に細胞を収容するための除去可能な導管を含む装置において器官型培養物を生成する方法の模式的な記載。
【図17】圧縮の前および間中、細胞を収容するための導管を含む器官型培養用装置の断面図。
【図18】器官型培養用高処理量装置の断面図。
【図19】高処理量装置ならびに圧縮の前および間中、細胞を収容するための導管をウェル当たり4本含む高処理量装置用の除去可能な導管。
【図20】導管を所定の位置に保持する付加的な部品を有する改造された器官型培養用装置の断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
器官由来の細胞を表面上で培養することを含む器官型培養物(organotypic culture)の生産方法において、該細胞が圧縮されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記細胞が解離細胞, 外植片または微小外植片である請求項1に係る方法。
【請求項3】
前記細胞が解離細胞である請求項 2に係る方法。
【請求項4】
前記細胞が培養される前記表面が多孔質膜である請求項 1〜3のいずれか1項に係る方法。
【請求項5】
前記膜の反対側の表面に液体培地を供給することを含む請求項 4に係る方法。
【請求項6】
前記液体培地は毛管現象により前記膜の反対側の表面との接触が維持されている請求項 5に係る方法。
【請求項7】
前記細胞が圧縮されて、5%を超える密な充填(close packing), 好ましくは10%, 20%, 30%, 40%, 50%, 60%, 70%, 75%, 80%, 85%, 90%, 95%, 97%, 98% または 99%を超える密な充填が達成される請求項 1〜6のいずれか1項に係る方法。
【請求項8】
前記細胞が細胞当たり2 x 10-3ダイン未満の圧縮力(compactive force)により圧縮される先行するいずれかの請求項に係る方法。
【請求項9】
前記細胞が細胞当たり10-5ダインから細胞当たり5 x 10-4ダインの力により圧縮される請求項 8に係る方法。
【請求項10】
前記細胞が重力、動水力学的力または静水力学的力により圧縮される先行するいずれかの請求項に係る方法。
【請求項11】
前記細胞が遠心分離または吸引により圧縮される請求項 10に係る方法。
【請求項12】
前記細胞が遠心分離により圧縮される請求項 11に係る方法。
【請求項13】
前記細胞が100-5000gの遠心分離により圧縮される請求項 10に係る方法。
【請求項14】
前記細胞は、それらが培養される前記表面への移動前に圧縮される請求項 1〜13のいずれか1項に係る方法。
【請求項15】
圧縮された前記細胞を前記表面への移動後に更に圧縮する段階を含む請求項 14に係る方法。
【請求項16】
前記細胞が前記表面への移動前に遠心分離により圧縮され、前記表面への移動後に毛管現象により生成する静水力学的力により更に圧縮される請求項 15に係る方法。
【請求項17】
前記表面が多孔質膜であり、前記細胞が、毛管現象により前記膜の反対側の表面上に保持されている培養液により発揮される毛管現象により更に圧縮される請求項 16に係る方法。
【請求項18】
前記細胞は、それらが培養される前記表面への移動の間中、圧縮される請求項 1-13のいずれか1項に係る方法。
【請求項19】
前記細胞は、それらが培養される前記表面への移動後に圧縮される請求項 1〜13のいずれか1項に係る方法。
【請求項20】
前記器官から前記細胞を単離する予備段階を更に含む請求項 1〜19のいずれか1項に係る方法。
【請求項21】
前記器官が動物の器官, 好ましくは哺乳類の器官, 好ましくはヒトの器官である請求項 1〜20のいずれか1項に係る方法。
【請求項22】
前記器官が中枢神経系、骨髄、血液(例えば、単球)、脾臓、胸腺心臓、乳線、肝臓、膵臓、甲状腺、骨格筋、腎臓、肺、腸、卵巣、膀胱、睾丸、子宮または結合組織である請求項 21に係る方法。
【請求項23】
前記細胞が中枢神経系、心臓、肝臓または膵臓由来である請求項 22に係る方法。
【請求項24】
前記細胞が中枢神経系由来である請求項 23に係る方法。
【請求項25】
前記細胞が脳由来である請求項 24に係る方法。
【請求項26】
前記細胞が幹細胞である先行するいずれかの請求項に係る方法。
【請求項27】
前記細胞が1つを超える器官由来である先行するいずれかの請求項に係る方法。
【請求項28】
前記細胞が1つまたは複数の健常な器官由来である請求項 1〜27のいずれか1項に係る方法。
【請求項29】
前記細胞が1つまたは複数の罹病した器官由来である請求項 1〜27のいずれか1項に係る方法。
【請求項30】
前記細胞が遺伝学的に改変されている請求項 1〜29のいずれか1項に係る方法。
【請求項31】
前記細胞がトランスジェニック動物の器官由来である請求項 1〜30のいずれか1項に係る方法。
【請求項32】
前記膜が光学的に透明である請求項 1〜31のいずれか1項に係る方法。
【請求項33】
得られる器官型培養物を低温保存することを更に含む請求項 1〜32のいずれか1項に係る方法。
【請求項34】
複数の器官型培養物を請求項 1〜33のいずれか1項の方法により並行して調製することを含む器官型培養物のコレクション(collection)の高処理量調製方法。
【請求項35】
請求項 1〜33のいずれか1項に係る器官型培養(organotypic culture)の方法を実行するための装置であって、該装置は
1つの開口端と、多孔質膜によって閉鎖された1つの末端とを有し、該閉鎖末端はその全体にわたって融着された該多孔質膜により閉鎖されている培地導管、および
該培地導管を実質的に鉛直方向に保持する枠体
を備え、
前記多孔質膜の表面に接触し、それにより、該多孔質膜上で成長しうる細胞に栄養分を供給するのに十分な体積の液体培地を毛管現象により該培地導管中に保持することができるように、該培地導管が適合している該装置。
【請求項36】
請求項 1〜33のいずれか1項に係る器官型培養の方法を実行するための装置であって、該装置は
1つの開口端と、多孔質膜によって閉鎖された1つの末端とを有し、該閉鎖末端はその全体にわたって融着された該多孔質膜により閉鎖されている培地導管、および
1つの開口端と、該培地導管に封着した前記多孔質膜の表面とは反対側の前記多孔質膜の表面によって閉鎖された1つの末端とを有する細胞懸濁液導管、
該培地導管と該細胞懸濁液導管とを実質的に鉛直方向に保持する枠体
を備え、
前記多孔質膜の表面に接触し、それにより、該多孔質膜上で成長しうる細胞に栄養分を供給するのに十分な体積の液体培地を毛管現象により該培地導管中に保持することができるように、該培地導管が適合している該装置。
【請求項37】
請求項 35または請求項 36に係る装置であって、該装置が直立または倒立位置にあるときに、少なくとも1つの導管が、該導管中の前記多孔質膜の表面と接触するのに十分な体積の液体培地を毛管現象により保持することができるように適合している該装置。
【請求項38】
少なくとも1つの導管が円筒である請求項 35〜37に係る装置。
【請求項39】
前記細胞懸濁液導管が円筒である請求項36または請求項 37に係る装置。
【請求項40】
前記培地導管が円筒であり、前記細胞懸濁液導管が円筒である請求項36または請求項 37に係る装置。
【請求項41】
少なくとも1つの導管が0.5cm以下の半径を有する円筒である請求項38または請求項 40に係る装置。
【請求項42】
前記多孔質膜が、少なくとも1つの導管の一端の全体にわたって、接着により、ヒートシールにより、または超音波シールにより融着している請求項 35〜41のいずれかに係る装置。
【請求項43】
前記細胞懸濁液導管が、重力場により前記多孔質膜に対して加圧された縁により該多孔質膜に封着している請求項 36〜42のいずれか1項に係る装置。
【請求項44】
前記細胞懸濁液導管がネオプレンシールにより前記多孔質膜に封着している請求項 36〜43のいずれか1項に係る装置。
【請求項45】
前記細胞懸濁液導管がシリコーンシールにより前記多孔質膜に封着している請求項 36〜43のいずれか1項に係る装置。
【請求項46】
請求項 36〜45のいずれか1項に係る装置であって、前記細胞懸濁液導管は細胞培養の前に該装置から取り除くことができる装置。
【請求項47】
前記細胞懸濁液導管が接着により、ヒートシールにより、または超音波シールにより前記多孔質膜に封着している請求項 36〜42のいずれか1項に係る装置。
【請求項48】
前記細胞懸濁液導管がシリコーンで構成されている請求項 36〜47のいずれか1項に係る装置。
【請求項49】
前記細胞懸濁液導管の内側の断面積が前記培地導管の内側の断面積より小さい請求項 36〜48のいずれか1項に係る装置。
【請求項50】
前記多孔質膜が光学的に透明である請求項 35〜49のいずれかに係る装置。
【請求項51】
前記多孔質膜が親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で構成されている請求項 50に係る装置。
【請求項52】
前記枠体が少なくとも1つの導管を、該導管の、前記膜によって閉鎖された末端および該導管の開口端がいかなる表面にも接触しないように、実質的に鉛直方向に保持する請求項 35〜51のいずれか1項に係る装置。
【請求項53】
前記枠体が少なくとも1つの導管を、前記細胞懸濁液導管の、前記膜と接触する末端が該膜に対する損傷を防止する該枠体により重力場において支持されるように、実質的に鉛直方向に保持する請求項 36〜51のいずれか1項に係る装置。
【請求項54】
前記培地導管の開口端を囲むチャンバーを更に備える請求項 35〜53のいずれか1項に係る装置。
【請求項55】
前記チャンバーが、前記培地を替えることができる開口部を備える請求項 54に係る装置。
【請求項56】
前記液体培地とは反対側の前記多孔質膜の表面を覆うふたを備える請求項 35〜55のいずれか1項に係る装置。
【請求項57】
請求項 35〜56のいずれか1項に係る複数の装置を有する請求項34の方法による高処理量器官型培養のための装置。
【請求項58】
請求項 35〜56のいずれか1項に係る装置を96個, 384個, 1536個またはそれよりも多く有する請求項57に係る高処理量器官型培養のための装置。
【請求項59】
請求項 1〜33のいずれか1項の方法により得られる器官型培養物または請求項34の方法により得られる器官型培養物のコレクション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2008−543303(P2008−543303A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516447(P2008−516447)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際出願番号】PCT/IB2006/002062
【国際公開番号】WO2006/136953
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(507409450)カプサント・ニューロテクノロジーズ・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】