噴霧水耕栽培法
【課題】培養土を支持材とする噴霧水耕栽培法の問題点を解決し更に発展させた画期的な噴霧水耕栽培法の提供。
【解決手段】ハウス内に、植物の根が下方に向かって自由に伸張可能な底面を有する栽培培地容器を架台上に設置した栽培床を設置し、ハウス内の空間を上下に仕切って上層と下層に分離すると共に、空気循環用装置を設けて立体換気を行えるようにし、栽培培地容器に培養土を含有する無菌化処理を施した栽培培地を敷き詰め、架台の下方の空間の開放面を遮光可能な素材で覆ってドライミスト室とし、該ドライミスト室中の植物の根に、液肥をドライミスト状にして散布することを特徴とする噴霧水耕栽培法。
【解決手段】ハウス内に、植物の根が下方に向かって自由に伸張可能な底面を有する栽培培地容器を架台上に設置した栽培床を設置し、ハウス内の空間を上下に仕切って上層と下層に分離すると共に、空気循環用装置を設けて立体換気を行えるようにし、栽培培地容器に培養土を含有する無菌化処理を施した栽培培地を敷き詰め、架台の下方の空間の開放面を遮光可能な素材で覆ってドライミスト室とし、該ドライミスト室中の植物の根に、液肥をドライミスト状にして散布することを特徴とする噴霧水耕栽培法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の根に直接ミスト状の液肥(養液)を供給する噴霧水耕栽培法の改良に関し、特に農薬や化学肥料を用いない噴霧水耕栽培法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の農業は、長年に亘る農薬や化学肥料の使用により土壌の活力が失われたため植物の生命力が低下し、益々多くの農薬や化学肥料を必要とするという悪循環に陥っている。昭和20年代と最近との作物の栄養価を比較したところ、産地により差はあるが、総じて1/2〜1/10程度に低下しているという驚くべきデータも報告されている。更に農薬は、環境汚染、農業従事者への直接的薬害、残留農薬を含む作物を食べたことによる免疫力低下などを引き起すため、癌やアレルギー疾患などの原因の一つとなっている可能性も否定できない。従って、一日も早い無農薬、脱化学肥料農業の普及が望まれる。
土壌の劣化に対応可能な植物栽培方法として水耕栽培が知られている(例えば特許文献1〜2など)。水耕栽培は養液栽培とも言い、土壌を使わずに作物を栽培するので「無土壌栽培法」とも呼ばれており、21世紀の植物栽培法の一つとして土耕栽培とは違った分野で脚光を浴びている。今日、作物生産においては従事する人口の減少や高齢化が問題となっており、施設園芸においては塩類集積障害による土壌劣化が深刻なため、その対策として水耕栽培が研究されている。また、企業的な植物増産分野、特にバイオテクノロジーの面でも水耕栽培が注目されている。更に、作物の品質(栄養価の高いものを望む)についても、水耕栽培では高品質、高栄養的栽培を容易に実施できることが判り、益々重要視されつつある。見方によっては水耕栽培は既に普及段階に入っているとも言える。
現在、知られている水耕栽培の種類を示すと図10のようになる。
【0003】
水耕栽培では土壌の代りに様々な担持体を利用し植物を支持している。それぞれに一長一短があり作物の特性に合わせて選択する必要がある。また、水耕栽培には常に根の呼吸障害が伴うため、様々な工夫がなされているが、根が溶液中に在る限り完全には解決できない。そこで、近年、噴霧水耕栽培法という方式が注目され研究が進められている。噴霧水耕栽培法は、液肥(養液)を噴霧ポンプでミスト状にして根に吹き付ける方式であり、根が溶液中に浸らず空中に支えられているので呼吸障害を回避することができる。
しかし、従来の噴霧水耕栽培法では栽培培地に土壌を用いておらず問題があったため、本発明者は先に土壌を用いた噴霧水耕栽培法に関する発明を出願し(特許文献3参照)、更にその改良発明を出願した(特許文献4参照、以下、先願発明という)。そして全国の圃場で栽培を行ってきた。しかし、その後の検討により、先願発明には更に改善すべき点があることが分った。
【0004】
【特許文献1】特開平11−46577号公報
【特許文献2】特開平9−275831号公報
【特許文献3】特開2003−274774号公報
【特許文献4】特開2006−67999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、培養土を支持材とする噴霧水耕栽培法の問題点を解決し更に発展させた画期的な噴霧水耕栽培法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、次の1)〜2)の発明によって解決される。
1) ハウス内に、植物の根が下方に向かって自由に伸張可能な底面を有する栽培培地容器を架台上に設置した栽培床を設置し、ハウス内の空間を上下に仕切って上層と下層に分離すると共に、空気循環用装置を設けて立体換気を行えるようにし、栽培培地容器に培養土を含有する無菌化処理を施した栽培培地を敷き詰め、架台の下方の空間の開放面を遮光可能な素材で覆ってドライミスト室とし、該ドライミスト室中の植物の根に、液肥をドライミスト状にして散布することを特徴とする噴霧水耕栽培法。
2) 網目状底部を有する栽培培地容器の底に親水処理した不織布を敷き、その上に栽培培地を敷き詰めることを特徴とする1)記載の噴霧水耕栽培法。
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
前述した先願発明では、種々の改善を行ったが、その後の検討により更に改善すべき点があることが分かり、これらの解決を図ったのが本発明である。
図1に、先願発明の噴霧水耕栽培法での養液供給システムのイメージ図を示す。
設備管理上、噴霧水耕栽培法で散布するミストの液滴を50μmよりも小さくすることは容易でなく、先願発明では止むを得ずこの限界値のレベルで努力したが、散布した養液ミストで根の表面が濡れるため根の性状は水中根となってしまう。
また、気温の高い時期には養液が蒸発して根の表面に肥料塩が析出し、塩障害により根の活性が低下し草勢を衰えさせる。塩が逆浸透圧を生じさせ根が枯死する場合もある。
更に、根が濡れると余剰ミストが液化しドレーンを通して養液回収ピットに戻る。回収した養液はリサイクルするため高精密フィルターを通し養液貯槽に戻すが、散布時の各肥料塩濃度と比べて、養液貯槽では各肥料塩の濃度バランスが狂うため、定期的に養液の分析を行い単肥補正を行わなければならず、養液管理に大きなコストが掛かることとなる。
【0008】
そこで上記の問題を解決する新栽培法を開発した。図2に、本発明のドライミストを利用した養液供給システムのイメージ図を示す。主な改善点は次の(1)〜(3)である。
(1)養液を、根を濡らさない極微細なドライミスト状にして散布する。
ドライミストとは乾いた霧のことで、その中に手を入れても濡れることは無く、液滴の質量が極端に小さいため長時間空気中に存在し、少しずつ湿気に変化する。即ち、養液を10μm以下の液滴とすることにより養液は湿気となり、湿気中根を発根させて湿気に含まれる肥料塩と水分を吸収させる。ドライミストは養液を霧吹きと同様の原理で霧化できる2流体ノズル(フォグノズル)を用いれば得られる。その具体例としては、スプレーイングジャパン社のクイックフォガーなどが挙げられる。
雨や霧の粒子径の目安は図3に示す通りである。図中の※は、0.1μm以下になるとブラウン運動により空中に浮遊するようになることを示す。またMVDとは、スプレー液の体積(質量)で粒子径を表示する方法であり、スプレーされた全体積の50%が平均値よりも大きな粒子からなり、残りの50%が平均値よりも小さな粒子からなる値を指す。
【0009】
ここで湿気中根について説明すると、先願発明では水中根の状態で栽培するのに対し、本発明では湿気中根の状態で栽培する点で大きく相違する。水中根とは水に濡れた状態の根のことであり、湿気中根とは、前述したドライミスト中にある根のように、湿気中ではあるが乾いた状態の根のことである。
湿気中根を利用した栽培法としては、毛管水耕栽培法(長野農試法)やパッシブ耕が公知である。しかし、何れも噴霧水耕栽培法ではなく、本発明の参考にはならない。
本発明ではドライミストを散布して湿気中根の状態にする。湿気中と水中では、水分、温度、酸素など多くの物理・化学的条件において差異があるが、それらが根の機能や形態に及ぼす影響は明らかではない。そこで、養液中に浸漬して発達した根である「水中根」と、湿ったシート上に発達して空気中に露出している根である「湿気中根」を比較した。結果を図4に示す。図の横軸は根端からの距離(cm)、縦軸は一次側根軸上の根毛発生数(250μmの範囲に生えている毛根数)である。
湿気中根を持つ植物体と水中根を持つ植物体を比べると、地上部の成長については特に差がないが、根の成長については、根毛発生数からも分るように、湿気中根の方が水中根よりも旺盛であり、湿気中根を持つ植物体は「地上部重/地下部重」が小さい。
また、側根のフラクタル次元(構造の見た目の複雑さを表す尺度)は、湿気中根の方が水中根よりも大きく、湿気中根では分枝根が発達している。
しかし湿気中根の単位根重当りの養液吸収能は水中根よりも小さいから、湿気中根では根量が多いことによって養液吸収能が補償されていると考えられる。
【0010】
(2)養液は回収しない。
先願発明では散布した養液ミストの一部が液滴となるため、過剰の養液を回収するシステムが必要であるが、本発明では、養液をドライミスト状にして散布するため液滴が生じることはなく、養液回収システムは不要である。その結果、回収した養液をリサイクルするための養液管理も不要となり、大幅なコストダウンを図ることができる。
広さ20aのハウス内に、図1(先願発明)及び図2(本発明)の栽培設備を設置したときの設備費用の比較データを図5に示す。先願発明では液滴50μmのミストを用い、本発明では8μmのドライミストを用いた。図5から、本発明の方が、養液混合システムと養液循環システム費用の削減により、約22%のコストダウンとなることが分かる。
ドライミスト状の養液を根に散布するための2流体ノズルは、通常、10m間隔程度に配置する。ノズルとノズルの中間点に湿度センサーを設け、湿度が90%になったら散布を中止し、70%まで下がったら散布を行うという制御を行い、高湿度環境を維持する。
【0011】
(3)作物の病気にはウイルス病とカビ病があるが、ウイルス病の媒介者はタネと害虫である。タネはウイルスフリーの信頼できる種苗メーカーから入手することで対応できる。また、害虫は、進入路を絶つために精度の高い防虫ネット(目開き0.4mm)を用いると共に、ハウスの出入口に付室を設けて外部よりも付室の圧力を高くし、外部と付室との境目の扉が閉まらなければ、付室とハウス内部の境目の扉が開かない構造とする(二重扉とする)ことにより対応できる。これらは先願発明でも実施していたことである。
一方、カビ病は一般に室内の湿度が90%程度を超えると発症する。葉面温度が気温より低いと葉面に結露が生じ、カビが繁殖しやすくなる。しかし、葉面に気流があれば結露は生じないので、気流扇を作動させてハウス内に気流を生じさせているが、葉が繁茂してくると気流扇では葉面に気流を与えることが出来ない。
そこで、本発明では、ハウス内の空間を上下に仕切って上層と下層に分離すると共に、例えばハウスの一方の端部付近に大型換気扇などの空気循環用装置を設けて上層の空気を下層に送り込み、ハウスの他方の端部付近では上下の仕切りに隙間を設けて下層の空気が上層に流れるようにする。これにより、ハウス内で立体換気が可能となり、繁茂した葉面にも気流を与えることができるので、カビ病の発生を防止できる。
【0012】
図6に立体換気による空気循環を可能とするハウスのイメージ図を示す。(a)は側面から見た概要図、(b)は斜視図である。図では保温シートで空間を上下に仕切っている。
この立体換気を行うと、暖房費用を大幅に削減できるというメリットもある。
図13によりハウス内の熱の出入りについて説明すると、昼間は太陽光により熱が供給されてハウス内が温められると同時に、供給された熱の約20%が地中伝熱により地中に蓄えられる。また、供給された熱の約20%が隙間換気伝熱によりハウスの隙間から外に出て行く。逆に夜間は地中伝熱により地中に蓄えられていた熱がハウス内に戻ってくる。しかし、隙間換気伝熱により外に出て行った熱がハウス内に戻ることはない。
更に、ハウス内の温度は通常15℃程度に設定するので、季節や設置場所に応じて夜間暖房をする必要がある。その際、ハウス内の熱貫流により屋根面などから熱が放出されるが、この放出熱量はハウス上部の温度が高いほど大きくなる。
一方、設定温度15℃の場合、先願発明のハウスでは、ハウス上部の温度が栽培床付近の温度よりも7〜9℃位高くなるのに対し、本発明では1〜2℃位高くなるだけである。このとき貫流伝熱に伴う放出熱量は、先願発明では暖房により供給される熱量の約80%であるのに対し、本発明では約60%である。即ち、本発明ではハウス上部の温度上昇が抑えられるため、夜間の放出熱量が非常に少なくなり、約20%のコストダウンとなる。広さ20aのハウスでは、外気温度によらず凡そ8万kcal/日の熱量が節約できる。
【0013】
上記(1)〜(3)により、次の(イ)〜(ヘ)のような効果が得られる。
(イ)活性の高い湿気中根が旺盛に成長し、高い草勢が維持できる。
(ロ)カビ病の発生を防止できる。
(ハ)養液回収ピット、養液返送ポンプ、高精密フィルター等からなる養液循環システム
が不要になる。
(ニ)養液濃度に狂いが生じないため頻繁な分析や単肥補正が不要になり、養液混合シス
テムが簡略化できる。
(ホ)立体換気によりハウス内の温度ムラが解消でき、暖房コストも低減できる。
(ヘ)立体換気により葉面境界層を作らせないため光合成が促進され草勢が強くなる。
植物の多くは空気の流れの中で二酸化炭素や水蒸気などのガス交換を行いながら生育している。葉と周辺大気との間のガス交換は葉の表面付近に形成された葉面境界層と呼ばれる空気流動の小さな空気層を介して行なわれ、「葉面境界層の厚さ」はガス拡散抵抗としてガス交換速度に対して支配的に作用する。また、栽培ハウス内のような気流速度の小さい条件では、葉面上における二酸化炭素の拡散が抑制される。従って、光合成を促進させるためには、葉内に二酸化炭素を供給するための気流制御が重要である。
【0014】
更に、根の褐変を防止するためドライミスト室を遮光することが好ましい。
先願明細書にも記載したように、ドライミスト室を遮光しない従来法では根が褐変して活力が落ち、根の伸張速度が遅くなり、茎葉の成長も鈍くなってしまうのに対し、ドライミスト室の遮蔽用シートを遮光性にして光が入らないようにすると、根が褐色にならず真っ白となり伸張も旺盛で活力のある根となる。光が少しでも入ると褐変するため出来るだけ完全に遮光することが望ましい。また、遮光によりドライミスト室の藻類の発生も防止できる。
この他に、先願発明で開示した、ドライミスト室の覆いを開閉自在とすること、栽培床を可動自在とすることなども適宜採用することができる。
【0015】
ここで、図を参照しつつ、本発明の噴霧水耕栽培を実施するための施設の概要を簡単に説明するが、本発明の実施の態様はこれらに限られる訳ではない。
図2、図6に示すように、農業用の亜鉛メッキ鋼管などで作製した架台上に栽培培地容器を載せた高設ドライミスト栽培床をハウス内に設置し、栽培床の下部空間に、植物の根にドライミスト状の養液を散布するための設備を設ける。また、農業用保温シート(市販品)などによりハウス内の空間を上下に仕切ると共に、ハウスの端部に大型換気扇を設ける。更に換気用の側窓や巻き上げ式天窓を設けることが好ましい。
栽培培地容器の形状、構造、材質は、植物の根が底面を通り抜けて下方に向って自由に伸張できさえすれば特に限定されず、公知の底面が網目状になったものなどを用いるが、通常は一人で扱うのに便利なように、縦横60〜70cm程度で軽量なプラスチック製とする。但し、栽培培地を敷き詰めるので、容器から栽培培地がこぼれないように、端部に適当な高さ(6〜8cm程度)の側壁を有するものが好ましい。
【0016】
また、容器の網目状底部に親水処理した不織布などからなるシートを敷き、栽培培地の流出防止と保水性の向上を図ることが望ましい(図7参照)。シートの目開きは1mm以下、厚さは3〜10mm程度が好ましい。不織布は目開きの融通性が高く、根が成長して太くなっても自在に対応可能であるから、目合いを変えることができない通常のネットよりも優れているし、ネットに比べて培地の流出度合いも大幅に低下する。
容器内に敷き詰める培地の深さは通常4〜6cmとする。浅すぎると支持材としての機能を発揮することができないし、水耕栽培と土耕栽培を組み合わせるメリットがなくなるので好ましくなく、深すぎると水耕栽培の利点が失われるので好ましくない。しかし植物の種類や栽培培地の性質によっても変化するので上記の範囲に限定されるわけではない。架台は、高さ70〜80cm程度、幅60〜100cm程度とするが、作業環境などによって適宜変更可能である。長さはハウスの大きさ、並べる数や配置などによって変わるので任意である。栽培床の下部空間にはドライミスト状養液の散布装置(例えばフォグノズルを一定間隔で有する塩ビ製パイプ)を設ける。栽培床の両側面は遮光性のビニールシートなどで覆い、下部空間を簡易なドライミスト室とする。
図8に、架台と栽培培地容器からなる高設ドライミスト栽培床の一例の詳細組立て図(正面図)を示す。図中の寸法の単位はmmである。この図では、架台底部に洗浄水回収用のドレーンパンを有し、該ドレーンパンの上部に伸張した植物の根がドレーンパンまで降りないようにするためのネット棚を有する。また、架台の下部には不整地に対応するためのベースプレートを有する。
【0017】
本発明及び先願発明の特徴の一つは噴霧水耕栽培に培地を用いることである。
培地の役割は、a)作物の自立を補償すること、b)毛管孔隙に相当する微細な空間があるため保水性を有すること、c)気相率が高く通気性が高いこと、d)有機物が豊富で、共生根圏微生物の生活空間となること、e)豊かなミネラルの供給源であること、などが挙げられる。
培地の原料としては、赤玉土(保水性豊かな培土の中心的原料)、ピートモス(水苔の堆積物で保水性に富み酸性)、パーライト(真珠岩を焼いたもので通気性の改善に使う)、バーミュキュライト(蛭石を焼いたもので保水性改善に使う)、牛糞堆肥や鶏糞堆肥(有機資材)、腐葉土(広葉樹の落ち葉を堆肥化したもの)などがある。
本発明のドライミストを利用した栽培法では、土に、保水性や通気性の改善効果の高い資材と有機肥料(牛糞堆肥、鶏糞堆肥)を配合した培地を用いるとよい。その一例を図9に示す。
更に、最近の土壌に不足している微量ミネラルを補充するため、ミネラル水を用いることが好ましい。微粉砕した玄武岩、流紋岩、花崗岩、蛇紋岩を、100℃に加熱した30%硫酸により1時間かけて抽出するとミネラル原液が得られる。4種類の岩石の混合重量比を変えて抽出を行ったミネラル原液の含有元素の分析結果を図10に示すが、A〜Dのうち、Bの配合が最も好ましい。ミネラル原液をPH6に希釈調整してミネラル水とし、養液の原水又は灌水の原水として用いる。
【0018】
本発明は、噴霧水耕栽培が可能な植物であれば全て適用可能であり、代表的なものとして大葉シソ、トマト、ミツバ、レタス、イチゴ、メロン、ホウレン草などが挙げられる。
農薬や化学肥料を用いない栽培法であるから安全な作物が得られるし、市販のものよりも遥かに日持ちがよく栄養価も高い。トマト、イチゴ、メロンなどは糖度が飛躍的に向上するなど極めて高品質の作物が得られる。特に大葉シソでは、硝酸態窒素の残留量を大幅に低減でき、シソの香気成分であるアリルアルデヒドの値も高くなるし、柔らかさと味を保持したままで通常の大葉シソよりも大きいサイズのものが容易に得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、噴霧水耕栽培法のメリットと土耕のメリットを併せ持ち、植物は大地にドッシリと根を下ろした樹のようになり、促成効果を有し、収穫期間が伸び、驚異的な収穫量を確保できる上に、栄養価が高く日持ちのよい高品質の作物を、農薬や化学肥料を用いないで病気の発生を防止しつつ生産できるという画期的な栽培法を提供できる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、この実施例により限定されるものではない。
【0021】
実施例1
図2、図6に概要を示した栽培ハウスを用いて大葉シソを栽培した。
ハウス内の上下空間の仕切りには市販の農業用保温シートを用い、空気循環用装置には大型換気扇(松下ナベック製ベルト駆動換気扇、NK−17WA−50、換気風量445m2/min、消費電力630W)を用いた。
図7、図8に概要を示した約30mの長さの高設ドライミスト栽培床と栽培培地容器を用い、架台の下方の解放面(側面など)を遮光性のシート(ミカド化工社製の銀・黒ダブルマルチシート)で覆った。栽培培地容器の底には親水処理した不織布(王子キノクロス社製、TDS不織布、厚さ3mm)を敷いた。栽培培地には、図9の組成の土を95℃の高温水蒸気で無菌化処理して用いた。
播種から20日後に栽培床に定植し、栽培培地よりも下方に根が伸びた段階から、ドライミスト状の養液(図12参照)を根に散布した。フォグノズルにはスプレーイングジャパン社のクイックフォガー(YB1/8 MFJ−SU−EA−001−SS、噴霧液量:2.2リットル/時、ノズル当たりのエアー量:39リットル/分、平均粒子径:8μm、噴霧距離:4m)を用い、10m間隔に配置して、隣り合う二つのノズルの中間点に湿度センサーを設け、湿度が90%になったら散布を中止し、70%まで下がったら散布を行うという制御を行った。なお、噴霧距離とは、霧を目視で確認できる距離である。
上記のようにして栽培した結果、農薬や化学肥料を用いることなく、ウイルス病やカビ病が発生することもなく、大葉シソを収穫することができた。
また、図1に係る先願発明のシステムの場合に比べて、設備費用を約22%削減でき、暖房費用も約20%削減できた。
なお、大葉シソは水耕栽培では良質な葉が収穫できないため、豊橋や大分で試験栽培されたことはあったが何れも継続されず、現在の施設加温栽培は全て土耕で行われており、かつ大量に農薬を散布しなければ収穫できないのが実情である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】先願発明の噴霧水耕栽培法での養液循環システムのイメージ図。
【図2】本発明のドライミストを利用した養液供給システムのイメージ図。
【図3】雨や霧の粒子径の目安を示す図。
【図4】水中根及び湿気中根の一次側根軸上の根毛発生数を示す図。
【図5】本発明と先願発明の設備費用を比較した図。
【図6】立体換気による空気循環を可能とするハウスのイメージ図、(a)側面から見た概要図、(b)斜視図。
【図7】栽培培地容器と底部の培地流出防止兼保水シートの一例を示す図。(a)網目状底部を有する栽培培地容器、(b)網目状底部に敷く親水処理したシート、(c)栽培培地容器の底にシートを敷き詰めた状態。
【図8】架台と栽培培地容器からなる高設ドライミスト栽培床の一例の詳細組立て図(正面図)。
【図9】本発明で用いる培地の一例を示す図。
【図10】ミネラル原液の含有元素の分析結果を示す図。
【図11】水耕栽培の分類を示す図。
【図12】実施例で用いた養液の組成を示す図。(a)法律に基づく保証成分、(b)配合成分、(c)CSしそアミノに含まれるアミノ酸の組成。
【図13】昼間と夜間のハウスの熱の出入りを説明する図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の根に直接ミスト状の液肥(養液)を供給する噴霧水耕栽培法の改良に関し、特に農薬や化学肥料を用いない噴霧水耕栽培法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の農業は、長年に亘る農薬や化学肥料の使用により土壌の活力が失われたため植物の生命力が低下し、益々多くの農薬や化学肥料を必要とするという悪循環に陥っている。昭和20年代と最近との作物の栄養価を比較したところ、産地により差はあるが、総じて1/2〜1/10程度に低下しているという驚くべきデータも報告されている。更に農薬は、環境汚染、農業従事者への直接的薬害、残留農薬を含む作物を食べたことによる免疫力低下などを引き起すため、癌やアレルギー疾患などの原因の一つとなっている可能性も否定できない。従って、一日も早い無農薬、脱化学肥料農業の普及が望まれる。
土壌の劣化に対応可能な植物栽培方法として水耕栽培が知られている(例えば特許文献1〜2など)。水耕栽培は養液栽培とも言い、土壌を使わずに作物を栽培するので「無土壌栽培法」とも呼ばれており、21世紀の植物栽培法の一つとして土耕栽培とは違った分野で脚光を浴びている。今日、作物生産においては従事する人口の減少や高齢化が問題となっており、施設園芸においては塩類集積障害による土壌劣化が深刻なため、その対策として水耕栽培が研究されている。また、企業的な植物増産分野、特にバイオテクノロジーの面でも水耕栽培が注目されている。更に、作物の品質(栄養価の高いものを望む)についても、水耕栽培では高品質、高栄養的栽培を容易に実施できることが判り、益々重要視されつつある。見方によっては水耕栽培は既に普及段階に入っているとも言える。
現在、知られている水耕栽培の種類を示すと図10のようになる。
【0003】
水耕栽培では土壌の代りに様々な担持体を利用し植物を支持している。それぞれに一長一短があり作物の特性に合わせて選択する必要がある。また、水耕栽培には常に根の呼吸障害が伴うため、様々な工夫がなされているが、根が溶液中に在る限り完全には解決できない。そこで、近年、噴霧水耕栽培法という方式が注目され研究が進められている。噴霧水耕栽培法は、液肥(養液)を噴霧ポンプでミスト状にして根に吹き付ける方式であり、根が溶液中に浸らず空中に支えられているので呼吸障害を回避することができる。
しかし、従来の噴霧水耕栽培法では栽培培地に土壌を用いておらず問題があったため、本発明者は先に土壌を用いた噴霧水耕栽培法に関する発明を出願し(特許文献3参照)、更にその改良発明を出願した(特許文献4参照、以下、先願発明という)。そして全国の圃場で栽培を行ってきた。しかし、その後の検討により、先願発明には更に改善すべき点があることが分った。
【0004】
【特許文献1】特開平11−46577号公報
【特許文献2】特開平9−275831号公報
【特許文献3】特開2003−274774号公報
【特許文献4】特開2006−67999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、培養土を支持材とする噴霧水耕栽培法の問題点を解決し更に発展させた画期的な噴霧水耕栽培法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、次の1)〜2)の発明によって解決される。
1) ハウス内に、植物の根が下方に向かって自由に伸張可能な底面を有する栽培培地容器を架台上に設置した栽培床を設置し、ハウス内の空間を上下に仕切って上層と下層に分離すると共に、空気循環用装置を設けて立体換気を行えるようにし、栽培培地容器に培養土を含有する無菌化処理を施した栽培培地を敷き詰め、架台の下方の空間の開放面を遮光可能な素材で覆ってドライミスト室とし、該ドライミスト室中の植物の根に、液肥をドライミスト状にして散布することを特徴とする噴霧水耕栽培法。
2) 網目状底部を有する栽培培地容器の底に親水処理した不織布を敷き、その上に栽培培地を敷き詰めることを特徴とする1)記載の噴霧水耕栽培法。
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
前述した先願発明では、種々の改善を行ったが、その後の検討により更に改善すべき点があることが分かり、これらの解決を図ったのが本発明である。
図1に、先願発明の噴霧水耕栽培法での養液供給システムのイメージ図を示す。
設備管理上、噴霧水耕栽培法で散布するミストの液滴を50μmよりも小さくすることは容易でなく、先願発明では止むを得ずこの限界値のレベルで努力したが、散布した養液ミストで根の表面が濡れるため根の性状は水中根となってしまう。
また、気温の高い時期には養液が蒸発して根の表面に肥料塩が析出し、塩障害により根の活性が低下し草勢を衰えさせる。塩が逆浸透圧を生じさせ根が枯死する場合もある。
更に、根が濡れると余剰ミストが液化しドレーンを通して養液回収ピットに戻る。回収した養液はリサイクルするため高精密フィルターを通し養液貯槽に戻すが、散布時の各肥料塩濃度と比べて、養液貯槽では各肥料塩の濃度バランスが狂うため、定期的に養液の分析を行い単肥補正を行わなければならず、養液管理に大きなコストが掛かることとなる。
【0008】
そこで上記の問題を解決する新栽培法を開発した。図2に、本発明のドライミストを利用した養液供給システムのイメージ図を示す。主な改善点は次の(1)〜(3)である。
(1)養液を、根を濡らさない極微細なドライミスト状にして散布する。
ドライミストとは乾いた霧のことで、その中に手を入れても濡れることは無く、液滴の質量が極端に小さいため長時間空気中に存在し、少しずつ湿気に変化する。即ち、養液を10μm以下の液滴とすることにより養液は湿気となり、湿気中根を発根させて湿気に含まれる肥料塩と水分を吸収させる。ドライミストは養液を霧吹きと同様の原理で霧化できる2流体ノズル(フォグノズル)を用いれば得られる。その具体例としては、スプレーイングジャパン社のクイックフォガーなどが挙げられる。
雨や霧の粒子径の目安は図3に示す通りである。図中の※は、0.1μm以下になるとブラウン運動により空中に浮遊するようになることを示す。またMVDとは、スプレー液の体積(質量)で粒子径を表示する方法であり、スプレーされた全体積の50%が平均値よりも大きな粒子からなり、残りの50%が平均値よりも小さな粒子からなる値を指す。
【0009】
ここで湿気中根について説明すると、先願発明では水中根の状態で栽培するのに対し、本発明では湿気中根の状態で栽培する点で大きく相違する。水中根とは水に濡れた状態の根のことであり、湿気中根とは、前述したドライミスト中にある根のように、湿気中ではあるが乾いた状態の根のことである。
湿気中根を利用した栽培法としては、毛管水耕栽培法(長野農試法)やパッシブ耕が公知である。しかし、何れも噴霧水耕栽培法ではなく、本発明の参考にはならない。
本発明ではドライミストを散布して湿気中根の状態にする。湿気中と水中では、水分、温度、酸素など多くの物理・化学的条件において差異があるが、それらが根の機能や形態に及ぼす影響は明らかではない。そこで、養液中に浸漬して発達した根である「水中根」と、湿ったシート上に発達して空気中に露出している根である「湿気中根」を比較した。結果を図4に示す。図の横軸は根端からの距離(cm)、縦軸は一次側根軸上の根毛発生数(250μmの範囲に生えている毛根数)である。
湿気中根を持つ植物体と水中根を持つ植物体を比べると、地上部の成長については特に差がないが、根の成長については、根毛発生数からも分るように、湿気中根の方が水中根よりも旺盛であり、湿気中根を持つ植物体は「地上部重/地下部重」が小さい。
また、側根のフラクタル次元(構造の見た目の複雑さを表す尺度)は、湿気中根の方が水中根よりも大きく、湿気中根では分枝根が発達している。
しかし湿気中根の単位根重当りの養液吸収能は水中根よりも小さいから、湿気中根では根量が多いことによって養液吸収能が補償されていると考えられる。
【0010】
(2)養液は回収しない。
先願発明では散布した養液ミストの一部が液滴となるため、過剰の養液を回収するシステムが必要であるが、本発明では、養液をドライミスト状にして散布するため液滴が生じることはなく、養液回収システムは不要である。その結果、回収した養液をリサイクルするための養液管理も不要となり、大幅なコストダウンを図ることができる。
広さ20aのハウス内に、図1(先願発明)及び図2(本発明)の栽培設備を設置したときの設備費用の比較データを図5に示す。先願発明では液滴50μmのミストを用い、本発明では8μmのドライミストを用いた。図5から、本発明の方が、養液混合システムと養液循環システム費用の削減により、約22%のコストダウンとなることが分かる。
ドライミスト状の養液を根に散布するための2流体ノズルは、通常、10m間隔程度に配置する。ノズルとノズルの中間点に湿度センサーを設け、湿度が90%になったら散布を中止し、70%まで下がったら散布を行うという制御を行い、高湿度環境を維持する。
【0011】
(3)作物の病気にはウイルス病とカビ病があるが、ウイルス病の媒介者はタネと害虫である。タネはウイルスフリーの信頼できる種苗メーカーから入手することで対応できる。また、害虫は、進入路を絶つために精度の高い防虫ネット(目開き0.4mm)を用いると共に、ハウスの出入口に付室を設けて外部よりも付室の圧力を高くし、外部と付室との境目の扉が閉まらなければ、付室とハウス内部の境目の扉が開かない構造とする(二重扉とする)ことにより対応できる。これらは先願発明でも実施していたことである。
一方、カビ病は一般に室内の湿度が90%程度を超えると発症する。葉面温度が気温より低いと葉面に結露が生じ、カビが繁殖しやすくなる。しかし、葉面に気流があれば結露は生じないので、気流扇を作動させてハウス内に気流を生じさせているが、葉が繁茂してくると気流扇では葉面に気流を与えることが出来ない。
そこで、本発明では、ハウス内の空間を上下に仕切って上層と下層に分離すると共に、例えばハウスの一方の端部付近に大型換気扇などの空気循環用装置を設けて上層の空気を下層に送り込み、ハウスの他方の端部付近では上下の仕切りに隙間を設けて下層の空気が上層に流れるようにする。これにより、ハウス内で立体換気が可能となり、繁茂した葉面にも気流を与えることができるので、カビ病の発生を防止できる。
【0012】
図6に立体換気による空気循環を可能とするハウスのイメージ図を示す。(a)は側面から見た概要図、(b)は斜視図である。図では保温シートで空間を上下に仕切っている。
この立体換気を行うと、暖房費用を大幅に削減できるというメリットもある。
図13によりハウス内の熱の出入りについて説明すると、昼間は太陽光により熱が供給されてハウス内が温められると同時に、供給された熱の約20%が地中伝熱により地中に蓄えられる。また、供給された熱の約20%が隙間換気伝熱によりハウスの隙間から外に出て行く。逆に夜間は地中伝熱により地中に蓄えられていた熱がハウス内に戻ってくる。しかし、隙間換気伝熱により外に出て行った熱がハウス内に戻ることはない。
更に、ハウス内の温度は通常15℃程度に設定するので、季節や設置場所に応じて夜間暖房をする必要がある。その際、ハウス内の熱貫流により屋根面などから熱が放出されるが、この放出熱量はハウス上部の温度が高いほど大きくなる。
一方、設定温度15℃の場合、先願発明のハウスでは、ハウス上部の温度が栽培床付近の温度よりも7〜9℃位高くなるのに対し、本発明では1〜2℃位高くなるだけである。このとき貫流伝熱に伴う放出熱量は、先願発明では暖房により供給される熱量の約80%であるのに対し、本発明では約60%である。即ち、本発明ではハウス上部の温度上昇が抑えられるため、夜間の放出熱量が非常に少なくなり、約20%のコストダウンとなる。広さ20aのハウスでは、外気温度によらず凡そ8万kcal/日の熱量が節約できる。
【0013】
上記(1)〜(3)により、次の(イ)〜(ヘ)のような効果が得られる。
(イ)活性の高い湿気中根が旺盛に成長し、高い草勢が維持できる。
(ロ)カビ病の発生を防止できる。
(ハ)養液回収ピット、養液返送ポンプ、高精密フィルター等からなる養液循環システム
が不要になる。
(ニ)養液濃度に狂いが生じないため頻繁な分析や単肥補正が不要になり、養液混合シス
テムが簡略化できる。
(ホ)立体換気によりハウス内の温度ムラが解消でき、暖房コストも低減できる。
(ヘ)立体換気により葉面境界層を作らせないため光合成が促進され草勢が強くなる。
植物の多くは空気の流れの中で二酸化炭素や水蒸気などのガス交換を行いながら生育している。葉と周辺大気との間のガス交換は葉の表面付近に形成された葉面境界層と呼ばれる空気流動の小さな空気層を介して行なわれ、「葉面境界層の厚さ」はガス拡散抵抗としてガス交換速度に対して支配的に作用する。また、栽培ハウス内のような気流速度の小さい条件では、葉面上における二酸化炭素の拡散が抑制される。従って、光合成を促進させるためには、葉内に二酸化炭素を供給するための気流制御が重要である。
【0014】
更に、根の褐変を防止するためドライミスト室を遮光することが好ましい。
先願明細書にも記載したように、ドライミスト室を遮光しない従来法では根が褐変して活力が落ち、根の伸張速度が遅くなり、茎葉の成長も鈍くなってしまうのに対し、ドライミスト室の遮蔽用シートを遮光性にして光が入らないようにすると、根が褐色にならず真っ白となり伸張も旺盛で活力のある根となる。光が少しでも入ると褐変するため出来るだけ完全に遮光することが望ましい。また、遮光によりドライミスト室の藻類の発生も防止できる。
この他に、先願発明で開示した、ドライミスト室の覆いを開閉自在とすること、栽培床を可動自在とすることなども適宜採用することができる。
【0015】
ここで、図を参照しつつ、本発明の噴霧水耕栽培を実施するための施設の概要を簡単に説明するが、本発明の実施の態様はこれらに限られる訳ではない。
図2、図6に示すように、農業用の亜鉛メッキ鋼管などで作製した架台上に栽培培地容器を載せた高設ドライミスト栽培床をハウス内に設置し、栽培床の下部空間に、植物の根にドライミスト状の養液を散布するための設備を設ける。また、農業用保温シート(市販品)などによりハウス内の空間を上下に仕切ると共に、ハウスの端部に大型換気扇を設ける。更に換気用の側窓や巻き上げ式天窓を設けることが好ましい。
栽培培地容器の形状、構造、材質は、植物の根が底面を通り抜けて下方に向って自由に伸張できさえすれば特に限定されず、公知の底面が網目状になったものなどを用いるが、通常は一人で扱うのに便利なように、縦横60〜70cm程度で軽量なプラスチック製とする。但し、栽培培地を敷き詰めるので、容器から栽培培地がこぼれないように、端部に適当な高さ(6〜8cm程度)の側壁を有するものが好ましい。
【0016】
また、容器の網目状底部に親水処理した不織布などからなるシートを敷き、栽培培地の流出防止と保水性の向上を図ることが望ましい(図7参照)。シートの目開きは1mm以下、厚さは3〜10mm程度が好ましい。不織布は目開きの融通性が高く、根が成長して太くなっても自在に対応可能であるから、目合いを変えることができない通常のネットよりも優れているし、ネットに比べて培地の流出度合いも大幅に低下する。
容器内に敷き詰める培地の深さは通常4〜6cmとする。浅すぎると支持材としての機能を発揮することができないし、水耕栽培と土耕栽培を組み合わせるメリットがなくなるので好ましくなく、深すぎると水耕栽培の利点が失われるので好ましくない。しかし植物の種類や栽培培地の性質によっても変化するので上記の範囲に限定されるわけではない。架台は、高さ70〜80cm程度、幅60〜100cm程度とするが、作業環境などによって適宜変更可能である。長さはハウスの大きさ、並べる数や配置などによって変わるので任意である。栽培床の下部空間にはドライミスト状養液の散布装置(例えばフォグノズルを一定間隔で有する塩ビ製パイプ)を設ける。栽培床の両側面は遮光性のビニールシートなどで覆い、下部空間を簡易なドライミスト室とする。
図8に、架台と栽培培地容器からなる高設ドライミスト栽培床の一例の詳細組立て図(正面図)を示す。図中の寸法の単位はmmである。この図では、架台底部に洗浄水回収用のドレーンパンを有し、該ドレーンパンの上部に伸張した植物の根がドレーンパンまで降りないようにするためのネット棚を有する。また、架台の下部には不整地に対応するためのベースプレートを有する。
【0017】
本発明及び先願発明の特徴の一つは噴霧水耕栽培に培地を用いることである。
培地の役割は、a)作物の自立を補償すること、b)毛管孔隙に相当する微細な空間があるため保水性を有すること、c)気相率が高く通気性が高いこと、d)有機物が豊富で、共生根圏微生物の生活空間となること、e)豊かなミネラルの供給源であること、などが挙げられる。
培地の原料としては、赤玉土(保水性豊かな培土の中心的原料)、ピートモス(水苔の堆積物で保水性に富み酸性)、パーライト(真珠岩を焼いたもので通気性の改善に使う)、バーミュキュライト(蛭石を焼いたもので保水性改善に使う)、牛糞堆肥や鶏糞堆肥(有機資材)、腐葉土(広葉樹の落ち葉を堆肥化したもの)などがある。
本発明のドライミストを利用した栽培法では、土に、保水性や通気性の改善効果の高い資材と有機肥料(牛糞堆肥、鶏糞堆肥)を配合した培地を用いるとよい。その一例を図9に示す。
更に、最近の土壌に不足している微量ミネラルを補充するため、ミネラル水を用いることが好ましい。微粉砕した玄武岩、流紋岩、花崗岩、蛇紋岩を、100℃に加熱した30%硫酸により1時間かけて抽出するとミネラル原液が得られる。4種類の岩石の混合重量比を変えて抽出を行ったミネラル原液の含有元素の分析結果を図10に示すが、A〜Dのうち、Bの配合が最も好ましい。ミネラル原液をPH6に希釈調整してミネラル水とし、養液の原水又は灌水の原水として用いる。
【0018】
本発明は、噴霧水耕栽培が可能な植物であれば全て適用可能であり、代表的なものとして大葉シソ、トマト、ミツバ、レタス、イチゴ、メロン、ホウレン草などが挙げられる。
農薬や化学肥料を用いない栽培法であるから安全な作物が得られるし、市販のものよりも遥かに日持ちがよく栄養価も高い。トマト、イチゴ、メロンなどは糖度が飛躍的に向上するなど極めて高品質の作物が得られる。特に大葉シソでは、硝酸態窒素の残留量を大幅に低減でき、シソの香気成分であるアリルアルデヒドの値も高くなるし、柔らかさと味を保持したままで通常の大葉シソよりも大きいサイズのものが容易に得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、噴霧水耕栽培法のメリットと土耕のメリットを併せ持ち、植物は大地にドッシリと根を下ろした樹のようになり、促成効果を有し、収穫期間が伸び、驚異的な収穫量を確保できる上に、栄養価が高く日持ちのよい高品質の作物を、農薬や化学肥料を用いないで病気の発生を防止しつつ生産できるという画期的な栽培法を提供できる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、この実施例により限定されるものではない。
【0021】
実施例1
図2、図6に概要を示した栽培ハウスを用いて大葉シソを栽培した。
ハウス内の上下空間の仕切りには市販の農業用保温シートを用い、空気循環用装置には大型換気扇(松下ナベック製ベルト駆動換気扇、NK−17WA−50、換気風量445m2/min、消費電力630W)を用いた。
図7、図8に概要を示した約30mの長さの高設ドライミスト栽培床と栽培培地容器を用い、架台の下方の解放面(側面など)を遮光性のシート(ミカド化工社製の銀・黒ダブルマルチシート)で覆った。栽培培地容器の底には親水処理した不織布(王子キノクロス社製、TDS不織布、厚さ3mm)を敷いた。栽培培地には、図9の組成の土を95℃の高温水蒸気で無菌化処理して用いた。
播種から20日後に栽培床に定植し、栽培培地よりも下方に根が伸びた段階から、ドライミスト状の養液(図12参照)を根に散布した。フォグノズルにはスプレーイングジャパン社のクイックフォガー(YB1/8 MFJ−SU−EA−001−SS、噴霧液量:2.2リットル/時、ノズル当たりのエアー量:39リットル/分、平均粒子径:8μm、噴霧距離:4m)を用い、10m間隔に配置して、隣り合う二つのノズルの中間点に湿度センサーを設け、湿度が90%になったら散布を中止し、70%まで下がったら散布を行うという制御を行った。なお、噴霧距離とは、霧を目視で確認できる距離である。
上記のようにして栽培した結果、農薬や化学肥料を用いることなく、ウイルス病やカビ病が発生することもなく、大葉シソを収穫することができた。
また、図1に係る先願発明のシステムの場合に比べて、設備費用を約22%削減でき、暖房費用も約20%削減できた。
なお、大葉シソは水耕栽培では良質な葉が収穫できないため、豊橋や大分で試験栽培されたことはあったが何れも継続されず、現在の施設加温栽培は全て土耕で行われており、かつ大量に農薬を散布しなければ収穫できないのが実情である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】先願発明の噴霧水耕栽培法での養液循環システムのイメージ図。
【図2】本発明のドライミストを利用した養液供給システムのイメージ図。
【図3】雨や霧の粒子径の目安を示す図。
【図4】水中根及び湿気中根の一次側根軸上の根毛発生数を示す図。
【図5】本発明と先願発明の設備費用を比較した図。
【図6】立体換気による空気循環を可能とするハウスのイメージ図、(a)側面から見た概要図、(b)斜視図。
【図7】栽培培地容器と底部の培地流出防止兼保水シートの一例を示す図。(a)網目状底部を有する栽培培地容器、(b)網目状底部に敷く親水処理したシート、(c)栽培培地容器の底にシートを敷き詰めた状態。
【図8】架台と栽培培地容器からなる高設ドライミスト栽培床の一例の詳細組立て図(正面図)。
【図9】本発明で用いる培地の一例を示す図。
【図10】ミネラル原液の含有元素の分析結果を示す図。
【図11】水耕栽培の分類を示す図。
【図12】実施例で用いた養液の組成を示す図。(a)法律に基づく保証成分、(b)配合成分、(c)CSしそアミノに含まれるアミノ酸の組成。
【図13】昼間と夜間のハウスの熱の出入りを説明する図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウス内に、植物の根が下方に向かって自由に伸張可能な底面を有する栽培培地容器を架台上に設置した栽培床を設置し、ハウス内の空間を上下に仕切って上層と下層に分離すると共に、空気循環用装置を設けて立体換気を行えるようにし、栽培培地容器に培養土を含有する無菌化処理を施した栽培培地を敷き詰め、架台の下方の空間の開放面を遮光可能な素材で覆ってドライミスト室とし、該ドライミスト室中の植物の根に、液肥をドライミスト状にして散布することを特徴とする噴霧水耕栽培法。
【請求項2】
網目状底部を有する栽培培地容器の底に親水処理した不織布を敷き、その上に栽培培地を敷き詰めることを特徴とする請求項1記載の噴霧水耕栽培法。
【請求項1】
ハウス内に、植物の根が下方に向かって自由に伸張可能な底面を有する栽培培地容器を架台上に設置した栽培床を設置し、ハウス内の空間を上下に仕切って上層と下層に分離すると共に、空気循環用装置を設けて立体換気を行えるようにし、栽培培地容器に培養土を含有する無菌化処理を施した栽培培地を敷き詰め、架台の下方の空間の開放面を遮光可能な素材で覆ってドライミスト室とし、該ドライミスト室中の植物の根に、液肥をドライミスト状にして散布することを特徴とする噴霧水耕栽培法。
【請求項2】
網目状底部を有する栽培培地容器の底に親水処理した不織布を敷き、その上に栽培培地を敷き詰めることを特徴とする請求項1記載の噴霧水耕栽培法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−55871(P2009−55871A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227491(P2007−227491)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(507025526)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(507025526)
【Fターム(参考)】
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