説明

回り階段製造用治具とそれを用いた回り階段の製造方法

【課題】加工精度や組み立て精度を高めるとともに作業スペースの節約と製造コストの削減を図ることが可能な回り階段製造用治具とそれを用いた回り階段の製造方法を提供する。
【解決手段】回り階段製造用治具1は、互いに平行な一対の基準線3a,3aと、この基準線3a,3aと角度αで交差する複数の基準線3cが上面2aに記された鉄製の定盤2と、互いに所定の間隔をあけるとともに基準線3cに位置合わせをされて定盤2の上面2aに立設される複数の鉄製平板部材からなる型板4〜8と、定盤2の上面2aに対する型板4〜8の立設状態を維持するために設置される支持具9とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の気体や液体を貯蔵する縦置円筒型タンクに設置される昇降用の回り階段の製造方法に係り、特に、広い作業スペースを必要とせず、安価に、かつ、精度よく回り階段を製造することが可能な回り階段製造用治具とそれを用いた回り階段の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンビナート等においてナフサやガソリンなどを貯蔵する場合、大容量の鋼製縦置円筒型タンクが用いられることが多い。そして、貯蔵タンクには、保守や点検の際の昇降に用いられる回り階段が取り付けられている。この回り階段は、貯蔵タンクの外壁面に沿って螺旋状に形成される一対の側板(ささら板)と、この一対の側板に両端をそれぞれ固設された状態で水平に配置される複数の踏板とからなる。一般に、このような構造の回り階段は工場等で製造された後、組み立てられて現場へと運ばれる。しかしながら、形状が複雑なため、工場内で高精度に仕上げることは容易でない。そのため、従来、施行現場においてかなりの修正作業が発生していた。また、実際の設置状態を工場内で再現することによって加工精度や組み立て精度を高めることが可能であるが、この場合、広い作業スペースが必要となる上、製造コストが高くなってしまう。
これまでに、大型の縦置円筒型タンクに設置される回り階段について公開された公報類は少なく、上記課題を解決することを目的とした従来技術は現時点で発見されていない。ただし、螺旋階段の製造方法に関する従来技術としては、例えば、以下のような発明や考案が知られている。
【0003】
特許文献1には、「回り階段用側板の製造方法」という名称で、湾曲した昇降路を形成する回り階段用側板を安価に製造する方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明である回り階段用側板の製造方法は、湾曲した昇降路を形成する回り階段用側板の製造方法であって、端面が円弧形となるように長方形の合板を上下一対の型を用いてプレス成形する工程と、このプレス成形した合板の円弧形端面に踏み板を載置する段差部を施工現場に合わせて所要段数に切削加工する工程とを備えたことを特徴としている。
このような製造方法によれば、段差部を切削加工する前の合板の円弧形端面の形状は幅方向と厚み方向にのみ湾曲変形し、高さ方向には変形が生じていないことから、幅方向と厚み方向及び長手方向の3方向にねじれ変形した状態の従来の側板に比べると切削加工がはるかに容易となる。また、長方形の合板は単純な半円筒形を有する上下一対の型を使用してプレス成形できるので、型代が安い。さらに、合板を型に取付ける作業や成形に要する時間が短縮されるため、生産性が良い。従って、施工コストが大幅に低減される。
【0004】
特許文献2には、踏板を嵌め込む嵌合部の加工精度が高く、生産性の高い「カーブ階段用桁の製造方法」に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明であるカーブ階段用桁の製造方法は、階段の最内方に位置する板材に対して踏板の嵌合部を設け、接着剤を介してこの板材を複数枚積層することによって湾曲した形状のカーブ階段用桁を形成することを特徴としている。
このような製造方法によれば、加工精度の高い嵌合部を形成することができる。これにより、生産性が高まる。
【特許文献1】特開平7−173914号公報
【特許文献2】特許第3089494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術である特許文献1に開示された発明においては、工場等に設置される貯蔵タンク用の回り階段を製造する場合には側板製造用の型が巨大となるため、広い作業スペースが必要となり、また、製造コストが高くなるという課題があった。
【0006】
また、特許文献2に開示された発明においては、カーブ階段用桁が積層された複数枚の板材によって形成されるため、例えば、金属製の階段の場合には製造が容易でないという課題があった。また、貯蔵タンク用の階段を製造する場合には、巨大な型が必要となるという課題があった。
【0007】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、加工精度や組み立て精度を高めるとともに作業スペースの節約と製造コストの削減を図ることが可能な回り階段製造用治具とそれを用いた回り階段の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である回り階段製造用治具は、水平に設置される複数の踏板と,この踏板を介して互いに接合される平面視円弧状の外側板及び内側板とからなり,内側板が外壁面に接合された状態で円柱型設備に周設される回り階段を製造するための治具であって、平板状の定盤と、この定盤上に立設され,上端縁が,外壁面に接合された状態の内側板が形成する曲面に当接するように構成され,かつ,下端縁が,内側板が外壁面に接合された場合に鉛直方向と平行をなすように内側板用部材に想定される取付縁に対して平行になるように構成される複数の型板と、を備え、この型板は側面視した場合に、その上端縁が定盤を弦とする円と中心が同一であり,かつ円柱型設備の中心軸から内側板の外面までの水平距離と等しい半径を有する円弧上に配置されることを特徴とするものである。
このような構造によれば、型板の上端縁が定盤と平行となるように平坦に形成される。また、型板と定盤のみからなり、複数の型板は互いに平行に、かつ、定盤に対して垂直に設置される構成となっているため、治具を製造するための材料費が安い。加えて、加工誤差や組み立て誤差が小さくなる。
【0009】
また、請求項2記載の発明である回り階段の製造方法は、水平に設置される複数の踏板と、この踏板を介して互いに接合される平面視円弧状の外側板及び内側板とからなり、内側板が外壁面に接合された状態で円柱型設備に周設される回り階段の製造方法であって、長尺状をなす内側板用部材の片面を請求項1記載の回り階段製造用治具の型板の上端縁に押しあてつつ曲げることにより平面視した場合に円弧をなす内側板を形成する工程と、内側板が外壁面に接合された場合に鉛直方向と平行をなすように内側板用部材に想定される取付縁を回り階段製造用治具の定盤の上面に仮付けする工程と、平面視して円弧に垂直となるように内側板の内面に、幅が一定で両側面が平面視円弧状をなす踏板の一方の側面を仮付けする工程と、長尺状をなす外側板用部材の片面を踏板の他方の側面に押しあてつつ曲げることにより平面視円弧状の外側板を形成する工程と、この外側板を踏板に仮付けする工程と、内側板から回り階段製造用治具を取り外す工程と、内側板及び外側板に踏板が仮付けされた箇所を接合する工程と、を備えたことを特徴とするものである。
このような製造方法によれば、上面が平坦な複数の型板にそれぞれ密着するように内側板用部材の片面を押し当てることにより、平面視円弧状の内側板が容易かつ高精度に形成される。また、踏板の内側板に接合されない方の側面は、平面視した場合に内側板と同心円上に配置されるという作用を有する。すなわち、この側面に外側板用部材の片面を押しあてつつ曲げることによれば、平面視円弧状の外側板が容易かつ高精度に形成される。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の回り階段の製造方法において、内側板に踏板を仮付けする前に、定盤に仮付けされた内側板を平面視して内側板の側縁の両端を結ぶ直線と側縁の型板の幅方向のずれを測定し、このずれを第一の設計基準値と比較して内側板の寸法をチェックする工程を備えたことを特徴とするものである。
このような製造方法によれば、内側板の形状の確認作業及び修正作業が容易となる。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の回り階段の製造方法において、内側板から回り階段製造用治具を取り外す前に、内側板及び外側板の各側縁の両端を頂点とする四角形の対角線の長さを第二の設計基準値と比較して外側板の寸法をチェックする工程を備えたことを特徴とするものである。
このような製造方法によれば、外側板の形状の確認作業及び修正作業が容易となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1記載の回り階段製造用治具においては、型板の上端縁が平坦な形状であるため、内側板用部材を型板に押し当てつつ曲げることにより平面視円弧状の内側板を高精度に形成することができる。また、小型化や軽量化を図り、作業スペースを節約することが可能である。さらに、製造コストを安くすることができる。
【0013】
本発明の請求項2記載の回り階段の製造方法によれば、回り階段を高精度かつ安価に製造することができる。また、外側板を平面視円弧状に曲げるための治具を別個に用意する必要がないため、作業スペースを節約するとともに製造コストを安くすることができる。
【0014】
本発明の請求項3記載の回り階段の製造方法によれば、踏板の取り付け前に内側板を要求される形状に正確に仕上げることができる。これにより、踏板及び外側板の組み付け精度を高めることが可能となる。
【0015】
本発明の請求項4記載の回り階段の製造方法によれば、外側板の形状を設計値通りに正確に仕上げることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る回り階段用製造治具とそれを用いた回り階段の製造方法の実施例について図1乃至図9を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1(a)及び(b)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る回り階段製造用治具の実施例の外観斜視図である。なお、図1(b)は回り階段製造用治具に回り階段が仮付けされた状態を示している。
また、図2(a)は図1(b)の回り階段が縦置円筒型の貯蔵タンクに設置された状態を示す外観図であり、(b)は同図(a)の回り階段に対する回り階段製造用治具の位置関係を示した模式図である。
図3(a)は図2(a)の部分拡大図であり、(b)は同図(a)をY方向に矢視した場合の模式図である。なお、図3(a)では踏板の図示を省略している。
さらに、図4(a)は本実施例の回り階段製造用治具に画かれた基準線を示した図であり、(b)及び(c)はそれぞれ内側板用部材及び外側板用部材の平面図である。
また、図5(a)及び(b)は貯蔵タンクに対する内側板と外側板の位置関係を示した模式図であり、図6は図3(a)において基準線と外側板をX方向に矢視した場合の模式図である。
図7(a)及び(b)はそれぞれ本実施例の回り階段製造用治具を構成する定盤及び型板が取り付けられた状態の定盤(すなわち、回り階段製造用治具)の外観図である。
図1(a)に示すように、本実施例の回り階段製造用治具1は、基準線3a〜3cが上面2aに記された鉄製の定盤2と、互いに所定の間隔をあけて定盤2の上面2aに立設される複数の型板4〜8とを備えている。型板4〜8は鉄製の平板部材からなり、下端縁4b〜8bを基準線3cに一致させるようにしてそれぞれ設置されている。基準線3a,3aは互いに平行であり、基準線3cは基準線3a,3aに対して角度αで交わっている。そして、定盤2の上面2aに対する型板4〜8の立設状態を維持するとともに、基準線3cに対する取り付け位置のずれを防ぐために、型板4〜8の側面近傍には、支持具9が取り付けられている。なお、図1では、型板4〜8の片側のみに支持具9を取り付けているが、これに限定されるものではない。例えば、型板4〜8の両側に支持具9,9を取り付けても良い。
図1(b)に示すように、回り階段16は取付縁10b,10b及び外面10cがそれぞれ基準線3b,3b(図1(a)参照)及び型板4〜8の上端縁4a〜8a(図1(a)参照)に取り付けられる内側板10と、この内側板10に対して略平行に配置される外側板11と、この内側板10の内面10a及び外側板11の内面11aに側面12a,12bがそれぞれ接合される複数の踏板12とからなる。踏板12は平面視略矩形状をなす鉄などの金属製の平板部材(厚さ3〜6mm)であり、側面12a,12bは平面視円弧状をなしている。また、内側板10及び外側板11は鉄などの金属製の長尺部材(厚さ6〜12mm)である。
【0018】
次に、回り階段16について図2を用いて詳しく説明する。
図2(a)に示すように、踏板12が地面(図示せず)に対して略水平となるように、回り階段16の内側板10は外面10cが略全面にわたって貯蔵タンク13の外壁面13aに接合される。このとき、内側板10の取付縁10b,10bの両端をそれぞれ結ぶ線分14a,14aと交わり、かつ、鉛直方向と平行な線分14bと、内側板10の外面10cとの距離(線分14a,14aによって形成される平面に対して垂直な方向の距離)は一意に定まる。従って、図2(b)に示すように、線分14a,14bに基準線3a,3cがそれぞれ対応し、内側板10の取付縁10b,10bに基準線3b,3bが対応するように、回り階段製造用治具1を回り階段16に対して配置した状態を想定すると、内側板10の外面10cと線分14bとの距離は型板4〜8の高さ(以下、型板高さhという。)に相当する。
【0019】
型板高さhについて図3を用いて説明する。
図3(a)に示すように、貯蔵タンク13をY方向に矢視した場合、内側板10の上側縁10dは円弧ACに投影され、内側板10の上側縁10dの下端A及び上端Bを結ぶ線分ABは線分ACに投影される。また、線分14bは点Dに投影されるため、型板高さh(図2(a)参照)は図3(b)に示される線分DEの長さと等しくなる。従って、下端Aを含む貯蔵タンク13の水平切断面13bの半径をR、その中心を点Oとし、∠AOF及び∠FOCをθ(以下、単位は「度」とする。)、∠AOEをθとすると、線分DEの長さ(すなわち、型板高さh)は以下の式で表わされる。なお、線分OA及び線分OCの長さはともにRとなり、∠AOCは2θとなる。
【0020】
【数1】

【0021】
また、内側板10、外側板11及び踏板12について図4を用いて説明する。なお、図4(b)及び図4(c)はそれぞれ図3(a)に示される曲線ABと円弧ACと線分BCを三辺とする直角三角形及び曲線GHと円弧GIと線分HIを三辺とする直角三角形に相当する。また、図4(b)及び(c)は内側板用部材及び外側板用部材を示しているが、便宜上、内側板10及び外側板11として説明する。
図4(a)において、線分ACの長さLは式(2)のように表される。また、基準線3cと基準線3aとのなす角度がαであることから、∠BAC及び線分BCの長さLは、それぞれ式(3)及び式(4)のように表される。
【0022】
【数2】

【0023】
【数3】

【0024】
【数4】

【0025】
図4(b)において、∠BACをβとすると、内側板10の上側縁10dと踏板取付線15aのなす角度はβとなる。また、図4(b)における線分ACの長さLは図3(a)に示した円弧ACの長さに等しいことから、式(5)で表される。このとき、線分BCの長さLについて式(6)が成り立つ。
【0026】
【数5】

【0027】
【数6】

【0028】
図4(c)に示すように、外側板11の端縁11b,11dは互いに直交し、端縁11bは内側板10の取付縁10bと平行をなしている。
図4(c)において、外側板11の内径をRとし、∠HGIをβとすると、線分OI及び線分OG(ともに図3(a)参照)の長さはRとなり、線分GIの長さLは式(7)で表される。また、線分HIと線分BCの長さが等しいことから、Lについて式(8)が成り立つ。なお、外側板11の上側縁11cと踏板取付線15bのなす角度はβとなる。
【0029】
【数7】

【0030】
【数8】

【0031】
内側板10の踏板取付線15a及び外側板11の踏板取付線15bにそれぞれ接合される踏板12の側面12a,12bは平面視円弧状をなしている。従って、側面12aの長さsと側面12bの長さsの間には式(9)の関係が成り立つ。そして、踏板取付線15bの長さが踏板12の側面12bの長さsと等しい場合には、外側板11の幅wは式(10)で表わされる。また、内側板10の幅wは外側板11の幅wと等しいため、式(11)が成り立つ。さらに、基準線3bの長さが内側板10の取付縁10bの長さに等しいことから、基準線3a,3aの間隔wは式(12)で表わされる。さらに、基準線3cの長さ(型板4〜8の幅)wは取付縁10bより長く設定することが望ましいため、式(13)のように表わされる。
【0032】
【数9】

【0033】
【数10】

【0034】
【数11】

【0035】
【数12】

【0036】
【数13】

【0037】
このような構造の回り階段製造用治具1においては、型板4〜8の上端縁4a〜8aが定盤2と平行をなす平坦な形状となる。また、型板4〜8と定盤2のみによって構成されるため、治具を製造するための材料費が安い。そして、型板4〜8が互いに平行に、かつ、定盤2に対して垂直に設置される構成となっているため、製造が容易である。また、加工や組み立ての際に発生する誤差が小さくなる。
【0038】
以上説明したように、本実施例の回り階段製造用治具1においては、平坦な形状の型板4〜8の上端縁4a〜8aに内側板用部材を押し当てつつ曲げることにより平面視円弧状の内側板10を高い精度で形成することが可能である。また、治具の製造コストを抑えることで回り階段16を安価に製造することが可能である。さらに、治具を小型・軽量化して作業スペースの節約を図ることができる。
【0039】
ここで、内側板10と外側板11の位置関係について図5を用いて説明する。
図5(a)に示すように、内側板10の上側縁10dの下端A及び上端Bと外側板11の上側縁11cの下端G及び上端Hからなる四角形ABHGの対角線BGの長さLは線分CGの長さをLとすると次式(14)で表される。なお、線分CGの長さLは式(15)で表される。
【0040】
【数14】

【0041】
【数15】

【0042】
また、図5(b)に示すように、四角形ABHGの対角線AHの長さLは線分AIの長さをLとすると次式(16)で表される。なお、線分AIの長さLは式(17)で表される。すなわち、四角形ABHGで対角線BGの長さLと対角線AHの長さLは等しい。
【0043】
【数16】

【0044】
【数17】

【0045】
さらに、基準線14aと内側板10の位置関係について図6を用いて説明する。
図6において、基準線14aと基準線14bの交点をJとし、内側板10の上側縁10dと基準線14bの交点をKとすると、線分ADの長さL及び線分JDの長さL10はそれぞれ式(18)及び式(19)で表される。そして、線分KDの長さL11は式(20)で表される。
【0046】
【数18】

【0047】
【数19】

【0048】
【数20】

【0049】
次に、本実施例の治具の寸法について図7を用いて説明する。なお、内側板10の内径Rは300cm、角度βは45°、角度θを45°、外側板11の内径Rは400cm、踏板取付線15aの長さの長さsは50cmである。
式(4)と式(6)よりαは42°となり、式(6)と式(8)より外側板11の角度β(図4(c)参照)は36.9°となり、式(9)より踏板取付線15bの長さsは66.7cmとなる。また、式(10)と式(11)より内側板10の幅w及び外側板11の幅wはともに40cmとなり、式(12)よりwは37.7cmとなる。さらに、式(13)から型板4〜8の幅に対応する基準線3cの長さwは56.4cmよりも長いことがわかる。
すなわち、図7(a)において、定盤2の上面2aに画かれた平行な一対の基準線3a,3aの間隔は37.7cmであり、基準線3b及び3cと基準線3a,3aのなす角度は42°である。さらに、図7(a)に示すように、基準線3b,3cの間隔が62cmであり、基準線3c,3cの間隔が75cmである場合、線分ADの長さL(図3(b)参照)は表1に示す値となる。このLに対するθ(図3(b)参照)を式(18)から求め、式(1)に代入して得られた型板高さhの値を表1及び図7(b)に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
本実施例の回り階段製造用治具1を用いた回り階段の製造方法について図8及び図9を用いて説明する。
図8は本実施例の回り階段製造用治具1を用いて回り階段16を製造する手順を示す工程図であり、図9(a)及び(b)は回り階段製造用治具1に仮付けされた回り階段16の外観斜視図である。なお、図1〜図7に示した構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
図8に示すように、ステップS1において、長尺状の内側板用部材の片面(すなわち、内側板10の外面10c)を回り階段製造用治具1の型板4〜8の上端縁4a〜8aに押しあてつつ曲げることにより平面視円弧状の内側板10を形成する。
ステップS2では、図9(a)に示すように内側板10の取付縁10bを基準線3b(図7(b)参照)の位置に仮付けする。そして、内側板10の外面10cと型板4〜8の上端縁4a〜8aに隙間が生じないように、必要に応じて内側板10を型板4〜8に仮付けする。なお、本実施例では、内側板10が貯蔵タンク13の外壁面13aに接合された状態において両端縁が鉛直方向と平行をなすため、この両端縁を取付縁10b,10bとして用いている。しかし、内側板10の両端縁が上述の条件を満足しない場合には、予め内側板用部材に対して板状の取付部材を、内側板10が貯蔵タンク13の外壁面13aに接合された状態において鉛直方向と平行をなすような方向に設けておき、この取付部材を取付縁10bとする必要がある。
ステップS3では、図9(a)に示すように内側板10を矢印Zの向きに見た場合の上側縁10dと基準線3aとの型板4〜8の幅方向のずれと、式(18)〜式(20)から求めた計算値(設計基準値)を比較することにより、内側板10の寸法をチェックする。なお、内側板10の上側縁10dと基準線3aとの型板4〜8の幅方向のずれは、既に図6を用いて説明したようにL10とL11の差に相当する。
式(18)〜式(20)から求めた型板4〜8の位置での内側板10の上側縁10dと基準線3aとの型板4〜8の幅方向のずれ(L10とL11の差)を表2に示す。このように、内側板10の上側縁10dと基準線3aとの型板4〜8の幅方向のずれ(測定値)と、表2に示したL10とL11の差(設計基準値)を比較することによれば、内側板10の形状確認作業及び修正作業が容易となる。そして、踏板12を取り付ける前に内側板10を要求される形状に仕上げることができる。これにより、踏板12や外側板11の組み付け精度が高まる。
【0052】
【表2】

【0053】
ステップS4では、図9(b)に示すように略矩形状の踏板12の側面12aを内側板10の内面10aに画かれた踏板取付線15a(図9(a)参照)に対して正確に位置合わせするとともに、平面視して円弧状をなす内側板10に垂直となるように踏板12を内面10aに仮付けする。
ステップS5では、長尺状の鉄製の外側板用部材の片面(すなわち、内側板11の内面11a)に画かれた踏板取付線15bを踏板12の側面12bに対して正確に位置合わせした後、押しあてつつ曲げることにより平面視円弧状の外側板11を形成する。
ステップS6では、踏板12の側面12bに内側板11の内面11aを仮付けする(図1(b)参照)。
ステップS7では、内側板10の上側縁10dの下端A及び上端Bと外側板11の上側縁11cの下端G及び上端Hからなる四角形ABHGの対角線BG,AH(図5参照)の長さL、Lを測定し、式(14)〜式(17)から求めた計算値と比較することにより、外側板11の寸法をチェックする。なお、本実施例では、対角線BGの長さL及び対角線AHの長さLはともに687cmとなる。
このように、内側板10の上側縁10dの両端及び外側板11の上側縁11cの両端を頂点とする四角形ABHGの対角線BG,AHの長さ(測定値)と、L及びL(設計基準値)を比較することによれば、外側板11の形状確認と修正作業が容易となる。これにより、外側板11の形状を設計値通りに正確に仕上げることができる。
そして、ステップS8では、回り階段製造用治具1を内側板10から取り外した後、ステップS9において、内側板10及び外側板11に踏板12が仮付けされた箇所を溶接する。
【0054】
このような製造方法によれば、型板4〜8の上端縁4a〜8aが平坦な形状をしているため、これに内側板用部材の片面を押しあてつつ曲げることにより平面視円弧状の内側板10が容易かつ高精度に形成される。また、踏板12と内側板10を平面視した場合、内側板10に接合されない方の踏板12の側面12bは内側板10と同心円上に配置される。従って、この踏板12の側面12bに外側板用部材の片面を押しあてつつ曲げることにより平面視円弧状の外側板11が容易かつ高精度に形成される。
【0055】
以上説明したように、本実施例の回り階段の製造方法によれば、回り階段16を高精度に、かつ安価に製造することが可能である。また、外側板11を形成する際に、平面視円弧状に曲げるための専用治具を別個に用意する必要がないため、作業スペースを節約するとともに治具の製造コストを安くすることができる。
【0056】
なお、本発明の回り階段製造用治具は、本実施例に示す場合に限定されるものではない。すなわち、回り階段製造用治具や回り階段は鉄以外の金属であっても良いし、金属以外の例えば、熱硬化性樹脂のようなものであっても良い。さらに、踏板を内側板や外側板に接合する方法は溶接に限らず、ボルト締めであっても良い。そして、型板の厚さ、個数及び設置個所は本実施例に示す場合に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、本実施例の回り階段の製造方法においては、内側板の寸法をチェックする際に上側縁と基準線との型板の幅方向のずれを設計基準値と比較しているが、上側縁の代わりに下側縁を用いても良い。
ただし、この場合には設計基準値を計算する式(18)〜式(20)を修正する必要がある。さらに、外側板の寸法をチェックする工程において、内側板及び外側板の各上側縁の両端を頂点とする四角形の対角線の長さを設計基準値と比較しているが、このような方法に限定されるものではない。例えば、設計基準値を計算する式(14)〜式(17)を修正し、上側縁と下側縁のいずれかの両端を頂点とする四角形の対角線の長さを設計基準値と比較するようにしても良い。
また、本実施例では、踏板取付線の長さが踏板の側面の長さに等しいものとして外側板の幅を計算しているが、外側板の幅を決定する場合、必ずしもこのような方法によらなくとも良い。例えば、外側板や内側板の幅を踏板の側面の長さと無関係に設定することもできる。さらに、本実施例では、回り階段の内側板が略全面にわたって貯蔵タンクの外壁面に接合された状態となっているが、通常、内側板は取付部材を介して貯蔵タンクの外壁面に接合される。しかしながら、このような場合でも、内側板の外面全体に当接するような貯蔵タンクの外壁面を想定することによれば、本実施例の製造方法はそのまま適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の請求項1乃至請求項4に記載された発明は、縦置円筒型タンクに限らず、外形が円柱状をなすあらゆる設備全般に周設される回り階段を製造する場合に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(a)及び(b)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る回り階段製造用治具の実施例の外観斜視図である。
【図2】(a)は図1(b)の回り階段が縦置円筒型の貯蔵タンクに設置された状態を示す外観図であり、(b)は同図(a)の回り階段に対する回り階段製造用治具の位置関係を示した模式図である。
【図3】(a)は図2(a)の部分拡大図であり、(b)は同図(a)をY方向に矢視した場合の模式図である。
【図4】(a)は本実施例の回り階段製造用治具に画かれた基準線を示した図であり、(b)及び(c)はそれぞれ内側板用部材及び外側板用部材の平面図である。
【図5】(a)及び(b)は貯蔵タンクに対する内側板と外側板の位置関係を示した模式図である。
【図6】図3(a)において基準線と外側板をX方向に矢視した場合の模式図である。
【図7】(a)及び(b)はそれぞれ本実施例の回り階段製造用治具を構成する定盤及び型板が取り付けられた状態の定盤(すなわち、回り階段製造用治具)の外観図である。
【図8】本実施例の回り階段製造用治具を用いて回り階段を製造する手順を示す工程図である。
【図9】(a)及び(b)は回り階段製造用治具に仮付けされた回り階段の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
1…回り階段製造用治具 2…定盤 2a…上面 3a〜3c…基準線 4〜8…型板 4a〜8a…上端縁 4b〜8b…下端縁 9…支持具 10…内側板 10a…内面 10b…取付縁 10c…外面 10d…上側縁 11…外側板 11a…内面 11b,11d…端縁 11c…上側縁 12…踏板 12a,12b…側面 13…貯蔵タンク 13a…外壁面 13b…水平切断面13b 14a,14b…線分 15a,15b…踏板取付線 16…回り階段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に設置される複数の踏板と,この踏板を介して互いに接合される平面視円弧状の外側板及び内側板とからなり,前記内側板が外壁面に接合された状態で円柱型設備に周設される回り階段を製造するための治具であって、平板状の定盤と、
この定盤上に立設され,上端縁が,前記外壁面に接合された状態の前記内側板が形成する曲面に当接するように構成され,かつ,下端縁が,前記内側板が前記外壁面に接合された場合に鉛直方向と平行をなすように内側板用部材に想定される取付縁に対して平行になるように構成される複数の型板と、を備え、
この型板は側面視した場合に、その上端縁が前記定盤を弦とする円と中心が同一であり,かつ前記円柱型設備の中心軸から前記内側板の外面までの水平距離と等しい半径を有する円弧上に配置されることを特徴とする回り階段製造用治具。
【請求項2】
水平に設置される複数の踏板と,この踏板を介して互いに接合される平面視円弧状の外側板及び内側板とからなり,前記内側板が外壁面に接合された状態で円柱型設備に周設される回り階段の製造方法であって、長尺状をなす内側板用部材の片面を請求項1記載の回り階段製造用治具の前記型板の上端縁に押しあてつつ曲げることにより平面視した場合に円弧をなす内側板を形成する工程と、前記内側板が前記外壁面に接合された場合に鉛直方向と平行をなすように前記内側板用部材に想定される取付縁を前記回り階段製造用治具の前記定盤の上面に仮付けする工程と、平面視して前記円弧に垂直となるように前記内側板の内面に、幅が一定で両側面が平面視円弧状をなす踏板の一方の側面を仮付けする工程と、長尺状をなす外側板用部材の片面を前記踏板の他方の側面に押しあてつつ曲げることにより平面視円弧状の外側板を形成する工程と、この外側板を前記踏板に仮付けする工程と、前記内側板から前記回り階段製造用治具を取り外す工程と、前記内側板及び前記外側板に前記踏板が仮付けされた箇所を接合する工程と、を備えたことを特徴とする回り階段の製造方法。
【請求項3】
前記内側板に前記踏板を仮付けする前に、前記定盤に仮付けされた前記内側板を平面視して前記内側板の側縁の両端を結ぶ直線と前記側縁の前記型板の幅方向のずれを測定し、このずれを第一の設計基準値と比較して前記内側板の寸法をチェックする工程を備えたことを特徴とする請求項2記載の回り階段の製造方法。
【請求項4】
前記内側板から前記回り階段製造用治具を取り外す前に、前記内側板及び前記外側板の各側縁の両端を頂点とする四角形の対角線の長さを第二の設計基準値と比較して前記外側板の寸法をチェックする工程を備えたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の回り階段の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−77729(P2010−77729A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248917(P2008−248917)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【特許番号】特許第4231101号(P4231101)
【特許公報発行日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(508290378)
【Fターム(参考)】