説明

回折格子型ローパスフィルタ

【課題】水晶板を用いた場合と比べ薄型化を実現できると共に、回折格子を用いた場合であっても画質の劣化を抑制することが可能な回折格子型ローパスフィルタを提案する。
【解決手段】回折格子型ローパスフィルタ1は、ガラス基板10の内部に、ガラス基板10自体の屈折率と異なる屈折率を有する屈折率変化領域が市松模様状に形成された回折格子を有し、この屈折率変化領域が光路長差による複数の位相を含むものである。また、回折格子は、一の対角方向に位相0の領域と位相2φの領域が配置され、他の対角方向に位相φの領域と3φの領域が配置された2行2列の領域を単位格子U1として構成されている。単位格子U1は、mを1〜3の整数としたとき、以下の条件式(1)を満足するものである。
|mφ−mπ/2|≦ (mπ/2)/5 ………(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光束を回折作用により分割する回折型光学素子に関し、特にCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの固体撮像素子の光学的ローパスフィルタ(OLPF:Optical Low Pass Filter)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータの一般家庭等への普及に伴い、撮影した風景や人物像等の画像情報をパーソナルコンピュータに入力することができるデジタルスチルカメラ(以下、単にデジタルカメラという。)が急速に普及しつつある。また携帯電話の高機能化に伴い、携帯電話に画像入力用のモジュールカメラ(携帯用モジュールカメラ)が搭載されることも多くなってきている。
【0003】
上記のような撮像装置には、撮像画素が離散的に2次元配置されたCCDやCMOSなどの固体撮像素子が用いられている。そして、このような固体撮像素子を有する光学系では、被写体に含まれる高周波成分に起因したモアレ縞や偽色の発生を抑制するため、光学的ローパスフィルタが用いられる。従来の回折格子型ローパスフィルタ100は、例えば図33に示したように、1/4波長板などの位相差板101を2枚の水晶板102A,102Bで挟み込んだ構造となっており、水晶の複屈折現象を利用して入射光束を分割するようになっている(例えば、特許文献5参照)。
【0004】
また、回折により光束を分割する回折型の光学的ローパスフィルタが提案されている(特許文献1〜4参照)。この回折型の光学的ローパスフィルタ(以下、回折格子型ローパスフィルタという)は、例えば図34に示した回折格子型ローパスフィルタ103のように、その表面が凸凹形状を有する回折格子となっている。また、表面の断面形状は矩形波、三角波、台形波、三角関数波(正弦波)、あるいは多値化されたバイナリ形状となっている。
【特許文献1】特開平7−198921号公報
【特許文献2】特開2005−77966号公報
【特許文献3】特開2006−30954号公報
【特許文献4】特許第3204471号公報
【特許文献5】特開平10−54960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水晶板を用いた回折格子型ローパスフィルタ100では、複数の光学素子を貼り合わせた構造であるため、全体の厚みが大きくなり、撮像装置を小型化する上で不利となる。また、回折格子型ローパスフィルタ103では、その表面が凸凹形状となっており、撮像素子に対して近接して配置されるため、回折格子型ローパスフィルタ103と撮像素子との間でモアレ縞が発生してしまう。また、回折格子型ローパスフィルタ103の裏面における全反射角に近い回折角の光が存在するため、撮像素子の撮像面と回折格子型ローパスフィルタ103の裏面との間で全反射する光によって、いわゆるフレアが発生してしまう。このため、上記特許文献1〜4では、このようなモアレ縞やフレアの発生を抑制するため、種々の工夫がなされている。また、入射光の波長によって回折効率が変化し、透過回折光や撮像素子面内の照度にばらつきが生じるという問題がある。この結果、照度むらが生じたり、色バランスが崩れるなど、撮像画像の画質が劣化してしまう。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、水晶板を用いた場合に比べて薄型化を実現すると共に、回折格子を用いた場合であっても画質の劣化を抑制することが可能な回折格子型ローパスフィルタを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の回折格子型ローパスフィルタは、透明基板と、この透明基板の内部に形成された回折格子部分とを備え、回折格子部分は、透明基板の内部に透明基板自体の屈折率とは異なる屈折率を有すると共に光路長差による複数の位相を含む屈折率変化領域を有し、かつ、この屈折率変化領域の複数の位相が2行2列に配列した領域を単位格子として、この単位格子が複数配列された構成とされている。
【0008】
本発明の撮像装置は、撮像素子と、撮像素子の受光面側に配置された本発明の回折格子型ローパスフィルタとを備えたものである。
【0009】
本発明の回折格子型ローパスフィルタおよび撮像装置では、回折格子部分が透明基板自体とは異なる屈折率を有すると共に光路長差による複数の位相を含む屈折率変化領域を有し、かつ屈折率変化領域の複数の位相が2行2列に配列した領域を単位格子として複数の単位格子が配列された構成とされていることにより、回折格子部分の屈折率変化領域中を光が伝播すると、位相差による回折作用により、入射光束が分割されて出射される。また、このような回折格子部分が透明基板内部に形成されていることにより、透明基板の表面は、隣接する空気層に対して平坦となると共に、回折格子部分の格子の高さおよび周期が大きくなる。
【0010】
このとき、回折格子部分は、一の対角方向に位相0と位相2φとの領域が配置されると共に、他の対角方向に位相φと3φとの領域が配置された2行2列の領域を単位格子とし、この単位格子が、mを1〜3の整数としたとき、以下の条件式(1)を満足することが好ましい。これにより、4位相値を有する回折格子を用いて、入射光の波長による回折効率のばらつきが低減される。
|mφ−mπ/2|≦ (mπ/2)/5 ………(1)
【0011】
もしくは、回折格子部分は、一の対角方向に位相0と位相2φとの領域が配置されると共に、他の対角方向に位相ψの領域が2つ配置された2行2列の領域を単位格子とし、この単位格子が、a=115/90およびb=(2−a)としたとき、以下の条件式(2)もしくは条件式(3)のいずれか一方、および条件式(4)を満足することが好ましい。これにより、3位相値を有する回折格子を用いて、入射光の波長による回折効率のばらつきが低減される。
|ψ−a・(aπ/2)|≦a・(aπ/2)/16 ………(2)
|ψ−b・(aπ/2)|≦b・(aπ/2)/16 ………(3)
|2φ−(aπ)|≦(aπ)/16 ………(4)
【0012】
もしくは、回折格子部分は、位相0と位相φとが交互に配置された2行2列の領域を単位格子とし、この単位格子が、以下の条件式(5)を満足することが好ましい。これにより、2位相値を有する回折格子を用いて、入射光の波長による回折効率のばらつきが低減される。
|φ−π|≦π/10 ………(5)
【0013】
また、透明基板の屈折率をN1、屈折率変化領域の屈折率をN2、位相πに相当する格子の高さをH、中心波長をλとしたとき、以下の条件式を満足する場合には、0次の回折光が打ち消される。
H・|N2−N1|=λ/2 ………(6)
【発明の効果】
【0014】
本発明の回折格子型ローパスフィルタによれば、透明基板と、この透明基板の内部に形成された回折格子部分とを備え、回折格子部分が、透明基板の内部に透明基板自体の屈折率とは異なる屈折率を有すると共に光路長差による複数の位相を含む屈折率変化領域を有し、かつ、屈折率変化領域の複数の位相が2行2列に配列した領域を単位格子として、この単位格子が複数配列された構成となるようにしたので、水晶板を用いたローパスフィルタのように複数の光学素子を貼り合わせることなく光線分離が可能となるため、水晶板を用いた場合に比べて薄型となる。また、撮像素子との間でのモアレ縞やフレアの発生を抑制することができる。よって、水晶板を用いた場合に比べて薄型化を実現すると共に、回折格子を用いた場合であっても画質の劣化を抑制することができる。さらに、回折格子の位相値に基づく所定の条件式を満足するようにすれば、波長による照度のばらつきを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る回折格子型ローパスフィルタ1の概略構成を表す斜視図である。図2(A),(B)は回折格子型ローパスフィルタ1の内部に形成された回折格子(回折格子部分)について模式的に示したものであり、(A)は平面図、(B)は単位格子部分の斜視図である。回折格子型ローパスフィルタ1は、図32に示したような撮像装置4、例えばデジタルスチルカメラ、カメラ付き携帯電話機、および情報携帯端末等において、CCDやCMOS等の固体撮像素子12の撮像面(受光面)側に配置され、回折作用により撮像光学系11からの入射光束を分割して、被写体に含まれる高周波成分に起因したモアレ縞や偽色の発生を抑制する回折格子型ローパスフィルタである。
【0017】
回折格子型ローパスフィルタ1は、透明基板、例えば石英基板などの光学ガラス基板(以下、単にガラス基板という)により構成されている。このガラス基板10の内部には、互いに同一形状の複数の微細領域が市松模様状に配列した回折格子が形成されている。具体的には、回折格子は、ガラス基板10の屈折率N1とは異なる屈折率を有する屈折率変化領域(図1における屈折率N2の領域)から構成され、この屈折率変化領域には、光路長差による複数の位相が配されている。
【0018】
例えば、図2(A),(B)に示したように、回折格子の屈折率変化領域では、一の対角方向D1に位相0の領域と位相2φの領域が配置され、他の対角方向D2に位相φの領域と位相3φの領域が配置された2行2列の領域を単位格子U1として、複数の単位格子U1が配列した構成となっている。すなわち、回折格子型ローパスフィルタ1は、4位相値を有する回折格子型ローパスフィルタとなっている。
【0019】
上記回折格子は、パルスレーザ光を集光照射することにより形成することができる。具体的には、ガラス基板10内部の所望の位置にレーザの焦点を合わせ、レーザ強度を適切な大きさに調節して、レーザ光を照射することにより、上記のようなパターンを描画することで形成することができる。
【0020】
このような4位相値の回折格子型ローパスフィルタ1は、以下の条件式(1)を満足する。但し、mを1〜3の整数とする。また、単位格子U1内の位相同士の間のばらつき公差(以下、単に公差という)の増減方向すなわち符号は同一であるとする。
|mφ−mπ/2|≦ (mπ/2)/5 ………(1)
【0021】
また、回折格子型ローパスフィルタ1として、例えば直進する0次回折光が不要である場合には、以下の条件式(6)を満足するようにする。但し、ガラス基板10の屈折率をN1、屈折率変化領域の屈折率をN2、位相πに相当する格子の高さをH、中心波長をλとする。
H・|N2−N1|=λ/2 ………(6)
【0022】
次に、上記のような構成を有する回折格子型ローパスフィルタ1の作用および効果を説明する。
【0023】
回折格子型ローパスフィルタ1では、ガラス基板10の内部に、ガラス基板10とは屈折率の異なる屈折率を有すると共に光路長差による複数の位相を含む屈折率変化領域が形成された回折格子を有していることにより、この回折格子内を光が伝播すると、位相差による回折作用により入射光束が分割され、撮像素子側へ出射される。これにより、光学的ローパスフィルタとして被写体に含まれる高周波成分に起因したモアレ縞や偽色の発生が抑制される。
【0024】
このとき、回折格子の格子周期をP、回折次数をm、回折格子と撮像素子の撮像面との間の距離をfとすると、回折の式は、回折角(回折伝搬していく方向)をθ、mを正の整数としてsinθ=mλ/Pとなる。また、光線分離幅dは、d=f・tanθ≒f・sinθ=mλf/Pとなる。すなわち、光線分離幅dは直接的に波長λに比例する。また、光学的ローパスフィルタとしてナイキスト周波数1.0で、MTF(Modulation Transfer Function)を0にすることは光線分離幅dを撮像画素1ピッチ幅に等しくすることである。
【0025】
ここで、図34に示した回折格子型ローパスフィルタ103では、その表面(撮像素子に対向配置される面)が凸凹形状となっており、この凸凹形状によって市松模様状の領域が配置されるようになっている。このとき、格子の高さは波長のオーダーとなり、格子周期はそれに相応して波長のおよそ10倍程度と小さくなる。また、格子周期Pが小さいと回折角θが大きくなり、それに対応して距離fを小さくする必要がある。このため、凸凹形状が撮像面に接近した位置、例えば撮像素子の受光面から0.05mm程の位置に配置されるため、格子状に配列された撮像画素の格子周期と、凸凹形状の格子周期とのずれによる干渉縞、いわゆるモアレ縞が発生し画質が劣化してしまう。なお、このようなモアレ縞は、例えば直角行列状の格子面を回転させたり、斜めに配置することにより発生を抑制することも可能であるが、製造工程が複雑となってしまう。
【0026】
また、上記のように格子の高さおよび周期が小さく、回折角θが大きいことにより、回折格子型ローパスフィルタ103の裏面において、その全反射角と回折角θとが一致し易くなる。このため、回折格子型ローパスフィルタ103を一旦透過して撮像素子の撮像面で全反射されてしまった光線が、上記裏面において全反射されたのち、再び撮像素子へ入射することがある。これにより、いわゆるフレアが発生し画質の劣化を引き起こす要因となる。
【0027】
これに対し、本実施の形態では、回折作用を生じる回折格子部分が、ガラス基板10の内部に設けられている。これにより、回折格子型ローパスフィルタ1の表面(ガラス基板10の表面)は平坦となる。また、単位格子U1における屈折率差をΔN=|N2−N1|とすると、格子の高さHはH=(λ/2)/ΔNと表すことができる。この屈折率差ΔNは、図34に示したような従来の凸凹形状の場合の屈折率差(空気と基板との屈折率差Δn=N−1)の約10分の1以下となる。よって、格子高さHは、凸凹形状に比べて約10倍以上になり、アスペクト比や斜入射回折効率等を考慮すると、それに相応して格子周期Pも約10倍以上になる。このため、格子周期Pの逆数である回折角θおよび光線分離幅dは凸凹形状の場合の約10分の1となり、1画素ピッチを光線分離幅dとする限り、撮像面とローパスフィルタとの距離fは約10倍以上となる。すなわち、撮像素子の撮像面から回折格子型ローパスフィルタ1を十分に離れた位置、例えば0.5mm〜1.0mm程の位置に配置することができる。
【0028】
従って、格子の高さおよび周期が大きくなることにより、撮像素子の撮像面から十分に離れた位置に配置することができるようになり、これにより撮像素子と回折格子との格子周期のずれに起因するモアレ縞の発生が抑制される。また、回折格子型ローパスフィルタ1の表面が平坦になっていることも、このようなモアレ縞の抑制に寄与している。
【0029】
また、格子の高さHおよび周期Pが大きく、回折角θが小さいことにより、回折格子型ローパスフィルタ1の表裏において光線の全反射が抑制される。すなわち、外観的にはガラス基板両面に反射防止コートを施した平行平面板と等価となる。これにより、上述したようなフレアの発生が抑制される。
【0030】
次に、条件式(1)の意義について説明する。条件式(1)は、4位相値を有する回折格子において、波長変化による単位格子U1における位相の公差範囲を最適化したものである。この条件式(1)を満足することにより、波長変化による回折効率の変化、ばらつきが低減される。これによって、波長による照度のばらつきを低減することができ、撮像画像の色バランスが良好となる。このような条件式(1)は、以下のように導出される。
【0031】
まず、波長変化による照度のばらつきが発生する要因として、波長による光線分離幅dのずれ、あるいは波長による回折効率のばらつきが考えられる。このうち、光線分離幅dのずれを改良することについて考える。上述したように、光学的ローパスフィルタとしてナイキスト周波数1.0でMTFを0にすることは、光線分離幅dを撮像画素1ピッチ幅に等しくすることである。言い換えると、波長による光線分離幅dのずれは画素1ピッチのずれであり、波長によるナイキスト周波数のずれとなる。このとき、短波長の光線分離幅dは比較的小さいため、ナイキスト周波数は高周波数側にシフトする。ところが、この短波長側では長波長側より光学ガラスの屈折率変化が大きいため、高周波数側において、長波長側のMTFに比べて短波長側のMTFがうまく低下することとなるため、実際にはそれほど問題とならない。また、比較的単純な構造の回折格子では、このような波長による光線分離幅dのずれを改良することは原理的に難しい。
【0032】
そこで、波長変化による回折効率のばらつきを低減することについて考える。ここで、回折格子の回折効率は、回折次数に従って回折角θの方向に伝搬していく光のエネルギーの効率であるから、波長によるエネルギー効率のばらつきとして考えることができる。なお、撮像面を一様な照度にした場合、撮像画素の感度のばらつきの割合は、感度不均一性(PRNU:Photo Response Non-Uniformity)と言われるが、例えば、出力電圧のばらつきの平均自乗根RMS(Root Mean Square)が1%以内、出力電圧のばらつきのP−V値(Peak to Valley)が3%以内などの規格がある。因みに、モニタの輝度のばらつきでは2%以内という規格があるが、これは各撮像画素の感度のばらつきやモニタ部分々々の輝度のばらつきを意味している。本実施の形態では、撮像面全体が均一の感度となっており、撮像面への入射光の側にエネルギー分布の不均一さがあると考えてみる。
【0033】
また、例えばCCDカメラでは、B(blue:青),G(Green:緑),R(Red:赤)などの3色原理となっており、その光学設計においては、B−ch、G−chおよびR−chを代表する波長としてそれぞれ、460nm、550nm(もしくはe線)および620nmを使用することが多い。従って、これら460nm、550nmおよび620nmの3つの波長領域の光に対して、公差範囲の最適化を行う。
【0034】
具体的には、単位格子U1の4位相(すなわち、格子高さ)のばらつき公差に対して、公差中心における上記3波長の平均回折効率に対して公差の±(プラスマイナス)端における3波長の平均回折効率を±1.5%のばらつきに抑えることを目標とする。好ましくは、公差中心に対する公差±端の3波長の平均回折効率が1.3%程度である。なお、ここでは、3色分解フィルタ(カラーフィルタ)や撮像面に到達する前では3波長の透過率に差がないものとし、平均回折効率は3波長の相加平均とする。
【0035】
このとき、回折光のうち−1次から+1次の回折光の回折効率は特に高くエネルギーが集中している。これは、これら(±1,±1)次の回折効率の和Σが高くなれば、次数2次以上の高次回折光へエネルギーの流れが少なくなることを示している。従って、公差中心と公差の±端における3波長それぞれの−1次から+1次の回折効率和Σを計算し、公差の中心と公差±端で−1次から+1次の回折効率和Σの3波長の相加平均回折効率Ωを計算する。
【0036】
また、格子設計波長は、例えば550nmとし、この波長550nmから前後に適宜シフトさせるようにして、上記目標1.5%を達成するように公差範囲を最適化する。以上のようにして条件式(1)が導出される。
【0037】
次に、条件式(6)の意義について説明する。条件式(6)は、位相差と光路長差に関するもので、この条件式(6)を満足することにより、光の干渉効果によって0次回折光が打ち消される。0次回折光を打ち消すためには、単位格子U1において、行方向、列方向もしくは対角方向において隣接する領域間での位相差がπ、すなわち光路長差が半波長(=λ/2)となっていればよい。これは、以下の式(7)のように表され、この式(7)を変形することにより、条件式(6)が導かれる。
光路長差=|H・N2−H・N1|=λ/2 ………(7)
【0038】
以上説明したように、回折格子型ローパスフィルタ1によれば、ガラス基板10の内部にガラス基板10とは屈折率の異なる屈折率を有すると共に光路長差による複数の位相を含む屈折率変化領域を有する回折格子部分を設けるようにしたので、この屈折率変化領域を光が伝搬することで生じる位相差による回折作用により、撮像素子との間でのモアレ縞やフレアの発生を抑制しつつ、入射光束を分割することができる。また、このとき、回折格子の4位相値に基づいて条件式(1)を満足するようにしたので、入射光の波長による照度のばらつきを低減することができる。
【0039】
また、図33に示した従来例に係る光学的ローパスフィルタ100に比べて、厚みを薄くすることができる。通常、水晶板では、正常光線と異常光線という結晶の複屈折性により入射光束を2本の光束に分割するようになっている。このため、光束を4本に分割するには、偏光を円偏光に変換する位相差板101を2枚の水晶板102A,102Bで挟んだ構造とし、入射光束を入射側の水晶板で2本の光束に分離したのち、位相差板で偏光を回転させ、この回転した2本の光束をそれぞれ出射側の水晶板で更に2本の光束に分割する必要がある。このため、光学的ローパスフィルタ100としては、3枚分の光学素子の板厚となり、光軸方向の厚みは約3mm〜5mmと厚くなってしまう。これに対し、本実施の形態の回折格子型ローパスフィルタ1では、内部に回折格子が描画された1枚の光学ガラス基板で構成されているため、厚み約0.5mm以下の平行平面板とすることができる。これは、小型撮像素子の光学系では撮像素子と光学レンズ系の最終面の間、すなわちバックフォーカスに十分な余裕がないので光学設計上非常に有利となる。以上により、水晶板を用いた場合と比べ薄型化を実現すると共に、回折格子を用いた場合であっても画質の劣化を抑制することが可能となる。
【0040】
また、設計パラメータをうまく選べば、撮像面の前面0.5mm程度の位置に、ゴミ防止用に配置する平行平面板(カバーガラス)としても機能させることができる。
【0041】
[第2の実施の形態]
図3(A),(B)は、第2の実施の形態に係る回折格子型ローパスフィルタ2の内部に形成された回折格子(回折格子部分)について模式的に示したものであり、(A)は平面図、(B)は単位格子の斜視図である。回折格子型ローパスフィルタ2は、ガラス基板10の内部に形成された回折格子における位相の配列以外は、上記第1の実施の形態と同様の構成となっている。よって、上記第1の実施の形態と同様の構成については適宜説明を省略する。
【0042】
回折格子型ローパスフィルタ2は、上記第1の実施の形態の回折格子型ローパスフィルタ1と同様に、ガラス基板10の内部に複数の位相が配された屈折率変化領域を有する回折格子が設けられている。但し、回折格子の単位格子U2は、一の対角方向D1に位相0,2φの領域、他の対角方向D2に位相ψ,ψの領域が配置された2行2列の格子となっている。すなわち、回折格子型ローパスフィルタ2は、3位相値を有する回折格子型ローパスフィルタとなっている。
【0043】
このような3位相値の回折格子型ローパスフィルタ2は、以下の条件式(2)もしくは条件式(3)のいずれか一方、および条件式(4)を満足する。但し、mを1〜3の整数とし、単位格子U2内の公差の増減方向すなわち符号は同一であるとする。また、これらの条件式(2)〜(4)についても、上記第1の実施の形態の条件式(1)と同様にして、3波長の光に対して回折格子の3位相値に基づく公差範囲の最適化を行うことにより導出される。
|ψ−a・(aπ/2)|≦a・(aπ/2)/16 ………(2)
|ψ−b・(aπ/2)|≦b・(aπ/2)/16 ………(3)
|2φ−(aπ)|≦(aπ)/16 ………(4)
【0044】
また、回折格子型ローパスフィルタ2として、例えば直進する0次回折光が不要である場合には、上述の条件式(6)を満足するようにしてもよい。
【0045】
上記のような構成を有する回折格子型ローパスフィルタ2によれば、ガラス基板10の内部に回折格子を設けるようにしたので、上記第1の実施の形態と同様に、水晶板を用いた場合に比べて薄型化を実現できる。また、撮像素子との間のモアレ縞やフレアの発生を抑制することができる。さらに、回折格子の3位相値に基づいて条件式(2)もしくは条件式(3)のいずれか一方、および条件式(4)を満足するようにしたので、入射光の波長による照度のばらつきを低減することができる。
【0046】
[第3の実施の形態]
図4(A),(B)は、第3の実施の形態に係る回折格子型ローパスフィルタ3の内部に形成された回折格子(回折格子部分)について模式的に示したものであり、(A)は平面図、(B)は単位格子の斜視図である。回折格子型ローパスフィルタ3は、ガラス基板10の内部に形成された回折格子における位相の配列以外は、上記第1の実施の形態と同様の構成となっている。よって、上記第1の実施の形態と同様の構成については適宜説明を省略する。
【0047】
回折格子型ローパスフィルタ3は、上記第1の実施の形態の回折格子型ローパスフィルタ1と同様に、ガラス基板10の内部に複数の位相が配された屈折率変化領域を有する回折格子が設けられている。但し、回折格子の単位格子U3は、一の対角方向D1に位相φ,φの領域、他の対角方向D2に位相0,0の領域が配置された2行2列の格子となっている。すなわち、回折格子型ローパスフィルタ3は、2位相値を有する回折格子型ローパスフィルタとなっている。
【0048】
このような2位相値の回折格子型ローパスフィルタ3は、以下の条件式(5)を満足する。但し、mを1〜3の整数とし、単位格子U3内の公差の増減方向すなわち符号は同一であるとする。また、この条件式(5)についても、上記第1の実施の形態の条件式(1)と同様にして、3波長の光に対して回折格子の2位相値に基づく公差範囲の最適化を行うことにより導出される。
|φ−π|≦π/10 ………(5)
【0049】
また、回折格子型ローパスフィルタ3として、例えば直進する0次回折光が不要である場合には、上述の条件式(6)を満足するようにしてもよい。
【0050】
上記のような構成を有する回折格子型ローパスフィルタ3によれば、ガラス基板10の内部に回折格子を設けるようにしたので、上記第1の実施の形態と同様に、水晶板を用いた場合に比べて薄型化を実現できる。また、撮像素子との間でのモアレ縞やフレアの発生を抑制することができる。さらに、回折格子の2位相値に基づいて条件式(5)を満足するようにしたので、入射光の波長による照度のばらつきを低減することができる。
【実施例】
【0051】
次に、本実施の形態に係る光学的ローパスフィルタの具体的な数値実施例について説明する。
【0052】
(実施例1)
実施例1として、上記第1の実施形態の4位相値(0,φ,2φ,3φ)の回折格子型ローパスフィルタ1において、B(波長460nm),G(波長550nm),R(波長620nm)の3つの波長に対する回折効率のばらつきを評価した。具体的には、まず、理想的な実施例として、設計波長550nm、位相φ=π/2の設計で、波長550nm(φ=π/2)に対する回折効率を測定した。次いで、設計波長を530nmにシフトし、波長460nm、波長550nmおよび波長620nmに対する公差中心での回折効率から回折効率和ΣB,ΣG,ΣRを求め、3波長の平均回折効率和Ωを算出した。また、設計波長530nmにおいて、理想的な実施例に対し位相(φ=π/2)を0.8倍したとき(公差−端)の各波長の回折効率和ΣB-,ΣG-,ΣR-から3波長の平均回折効率和Ω-を算出した。同様に、理想的な実施例に対し位相(φ=π/2)を1.2倍したとき(公差+端)の各波長の回折効率和ΣB+,ΣG+,ΣR+から、3波長の平均回折効率和Ω+を算出した。
【0053】
これらの結果を図5〜図11に示す。図5および図6は、設計波長550nm、位相φ=π/2の設計で、波長550nm(φ=π/2)での回折効率について次数−5〜+5まで示したものである。図7は、次数−5〜+5、−3〜+3、−1〜+1の回折効率和を示したものである。図8(A)〜(D)は、設計波長530nm、公差中心における回折効率および回折効率和を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均を示す。但し、図8(A)〜(D)には、次数−1〜+1までの値について示す。図9(A)〜(C)は、図8(A)〜(C)に対応する棒グラフであり、縦軸が回折効率、横軸が次数となっている。図10(A)〜(D)は、設計波長530nm、公差の−端における回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均を示す。図11(A)〜(D)は、設計波長530nm、公差の+端における回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均を示す。
【0054】
図5および図6に示したように、4位相値型の回折格子では、位相φ=π/2とした場合、次数(−1,0)、(0,−1)、(0,+1)(+1,0)の4本の光束に分割されることがわかる。このように、4位相値型では、−1〜+1の次数において、0次を含む回折成分が貢献している。これは、4位相値を有する回折格子が、一の対角方向に位相0,2φ、他の対角方向に位相φ,3φを配列した2行2列の単位格子として構成されているため、対角方向に位相が2φ(=π)、すなわち半波長λ/2だけ異なり、対角方向に光波を打ち消すように干渉するためである。
【0055】
また、設計波長550nmにおいて、4本の光束のそれぞれの回折効率は0.2026と完全に揃っており、これらの回折効率和は0.810569と高くなる。よって、入射光を4本に分割する場合には、後述の2位相値型や3位相値型の回折格子よりも有効である。
【0056】
このような4位相値型回折格子は、設計波長550nmで−1次から+1次の回折効率和Σは0.81を越え、2次以上の高次回折光のエネルギーが少なくローパスフィルタとしては良い性格と言える。
【0057】
また、設計波長を550nmから530nmにシフトさせると、図8(D)に示したように公差中心での平均回折効率和Ωは0.811142、図10(D)に示したように公差−端での平均回折効率和Ω-は0.821541、図11(D)に示したように公差+端での平均回折効率和Ω+は0.801684となる。この結果から、公差幅が位相φの2割に及ぶにも拘らず、公差中心と公差の±端における3波長の平均回折効率和のばらつきを1.3%以下に抑えることができることがわかる。
【0058】
(実施例2)
実施例2として、上記第2の実施形態の3位相値(0,ψ,2φ)の回折格子型ローパスフィルタ2において、3つの波長に対する回折効率のばらつきを評価した。具体的には、まず、理想的な実施例として、設計波長550nm、位相ψ=φ=a・(π/2)の設計で、a=115/90、ψ=φ=115°、2φ=230°、波長550nm、波長460nmおよび波長620nmにおける回折効率を測定し、3波長それぞれの回折効率和を求め、3波長の平均回折効率和を算出した。
【0059】
これらの結果を図12〜図16に示す。図12および図13は、設計波長550nm、位相ψ=φ=a・(π/2)の設計で、a=115/90、ψ=φ=115°、2φ=230°とした場合、波長550nmの回折効率について、次数−5〜+5まで示したものである。図14は、次数−5〜+5、−3〜+3、−1〜+1の回折効率和を示したものである。図15(A)〜(D)は、設計波長550nm、公差中心での回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)波長460nm、(B)波長550nm、(C)波長620nm、(D)3波長の相加平均について、次数−1〜+1までの値を示す。図16(A)〜(C)は、図15(A)〜(C)に対応する棒グラフであり、縦軸が回折効率、横軸が次数となっている。
【0060】
図12および図13に示したように、3位相値型の回折格子では、波長550nm、位相ψ=φ=a・(π/2)の設計で、a=115/90、ψ=φ=115°、2φ=230°とした場合、−1次〜+1次までの計9本の光束に分割されることがわかる。また、それぞれの回折効率はほぼ0.0832と揃っており、これら9本の回折効率和は0.748669となる。このため、3位相値型の回折格子は、特に入射光を9本に分割する回折格子型ローパスフィルタとして好適に用いられる。
【0061】
ところが、図16(B)に示したように波長550nmでは9本の光束の高さは揃ってはいるが、図16(A)に示したように波長460nmの回折効率では0次回折光の効率がかなり低く、図16(C)に示したように波長620nmの回折効率では0次回折光がかなり高くなっていることがわかる。このため、−1次〜+1次の波長460nmと波長620nmとの回折効率和の比は12.4%におよび、長波長側が高くなってしまう。
【0062】
そこで、設計波長を610nmにシフトし、3波長それぞれの公差中心での回折効率和ΣB,ΣG,ΣRを求め、3波長の平均回折効率和Ωを算出した。このとき、a=115/90=1.277778として、上記の位相ψ=φ=a(π/2)=115°の状態から位相2φ=230°を固定して、位相ψだけa倍または(2−a)倍して位相ψ=a(aπ/2)=115a=146.94°またはψ=(2−a)115=83.06°とする。また、この設計波長610nmにおいて、公差−端(位相0.9375x)での各波長の回折効率和ΣB-,ΣG-,ΣR-から3波長の平均回折効率和Ω-を算出した。同様に、+端(位相1.0625x)での各波長の回折効率和ΣB+,ΣG+,ΣR+から、3波長の平均回折効率和Ω+を算出した。
【0063】
これらの結果を図17〜図20に示す。図17(A)〜(D)は、設計波長610nm、公差中心における回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均を示す。図18(A)〜(C)は、図17(A)〜(C)に対応する棒グラフであり、縦軸が回折効率、横軸が次数となっている。図19(A)〜(D)は、設計波長610nm、公差の−端における回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均を示す。図20(A)〜(D)は、設計波長610nm、公差の+端における回折効率を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmでの回折効率、(D)は3波長の相加平均を示す。
【0064】
このように、設計波長を610nm、位相ψ=146.94°(あるいはψ=83.06°)とすると、3波長それぞれの0次回折光の回折効率が高くなり、特に短波長側の0次回折光の回折効率が高くなる。これにより、分割される9本の光束のバランスが良くなり3波長の回折効率和が全体的に高くなってくることがわかる。また、図16(D)に示したように公差中心での平均回折効率和Ωは0.738443、図19(D)に示したように公差の−端の平均回折効率和Ω-は0.749917、図20(D)に示したように公差の+端の平均回折効率和Ω+は0.729770となる。この結果から、公差中心と公差の±端における3波長の平均回折効率和のばらつきを1.5%程度に抑えることができることがわかる。
【0065】
なお、3位相値(0,ψ,2φ)型の回折格子において、φ=ψ,φ≠ψのいずれの場合にも、対角方向、行方向および列方向において、位相差はπすなわち180°ではないので、0次回折光は消えることはない。但し、このように0次回折光が存在する場合であっても、格子の高さHは上述の条件式(6)に基づいて設計され得る。例えば位相がa・π=230°の場合には格子高さも比例してa・Hとなる。
【0066】
(実施例3)
実施例3として、上記第3の実施形態の2位相値(0,φ)型の回折格子型ローパスフィルタ3において、3つの波長に対する回折効率のばらつきを評価した。具体的には、まず、理想的な実施例として、設計波長550nm、位相φ=πの設計で、位相(0,π)の1次元のDammann型回折格子を市松模様状に2次元的に配置したものについて、波長550nm、波長460nmおよび波長620nmにおける回折効率を測定し、3波長それぞれの回折効率和および3波長の平均回折効率和を求めた。
【0067】
これらの結果を図21〜図25に示す。図21および図22は、設計波長550nm、位相φ=πの設計で、波長550nmでの回折効率について、次数−5〜+5まで示したものである。図23は、次数−5〜+5、−3〜+3、−1〜+1の回折効率和を示したものである。図24(A)〜(D)は、設計波長550nm、公差中心における回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmでの回折効率、(D)は3波長の相加平均を示す。図25(A)〜(C)は、図24(A)〜(C)に対応する棒グラフであり、縦軸が回折効率、横軸が次数となっている。
【0068】
図21および図22に示したように、2位相値型の回折格子では、波長550nm、位相φ=πの設計で、−1次〜+1次までの回折光のうち、次数(−1,−1)、(−1,+1)、(+1,−1)、(+1,+1)の4本の光束に分割されることがわかる。これは、2位相値型の場合は、その対角方向に同じ位相値が並び、行方向および列方向に位相πの差があるので、行方向および列方向の光路長差が半波長λ/2になり干渉で弱め合い、行方向および列方向にある次数0次を有する回折光が消滅するためである。
【0069】
また、設計波長550nmにおいて、4本の光束のそれぞれの回折効率は0.164256と完全に揃っており、これらの回折効率和は0.657023となる。従って、入射光を4本の光束に分割する場合に、簡易な格子構成で比較的良好な回折効率を得ることができることがわかる。
【0070】
ここで、設計波長の増減に伴い、位相もπより増減するのであるが、それに応じて0次の回折光が加わり、分割される光束は5本となる。このとき、特例として位相φ=0.755π=135.9°および1.245π=224.1°のときは回折効率がほぼ0.141で揃った5本の光束に分割される。この2位相値型では、設計波長550nmより短波長側の方が位相のずれに対して敏感に回折効率、主に0次回折光の回折効率が変化する特徴がある。そこで、公差の−端(位相0.9x)で620nmの5本の光束の回折効率と同じになるように、公差の+端(位相1.1x)では460nmの5本の光束の回折効率と同じとなるように、設計波長を550nmから520nmにシフトした。この設計波長520nmにおいて、3波長それぞれの公差中心における回折効率和ΣB,ΣG,ΣRを求め、3波長の平均回折効率和Ωを算出した。また、公差の−端における回折効率和ΣB-,ΣG-,ΣR-から3波長の平均回折効率和Ω-を算出した。同様に、公差の+端における回折効率和ΣB+,ΣG+,ΣR+から、3波長の平均回折効率和Ω+を算出した。
【0071】
これらの結果を図26〜図31に示す。図26(A)〜(D)は、設計波長520nm、公差中心における回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均を示す。図27(A)〜(C)は、図26(A)〜(C)に対応する棒グラフであり、縦軸が回折効率、横軸が次数となっている。図28(A)〜(D)は、設計波長520nm、公差の−端における回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均を示す。図29(A)〜(C)は、図28(A)〜(C)に対応する棒グラフであり、縦軸が回折効率、横軸が次数となっている。図30(A)〜(D)は、設計波長520nm、公差の+端における回折効率および回折効率和を示したものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均を示す。図31(A)〜(C)は、図30(A)〜(C)に対応する棒グラフであり、縦軸が回折効率、横軸が次数となっている。
【0072】
上記のように設計波長を520nmとすると、図26(D)に示したように公差中心の平均回折効率和Ωは0.669775、図28(D)に示したように公差の−端の平均回折効率和Ω-は0.679397、図30(D)に示したように公差の+端の平均回折効率和Ω+は0.675079となる。この結果から、公差中心と公差の±端における3波長の平均回折効率和のばらつきを1.44%程度に抑えられることがわかる。
【0073】
以上のように、各実施例において、各位相値に対応した条件式を満足することにより、位相のばらつき公差が最適化され、波長による回折効率のばらつきを低減することができることが示された。
【0074】
以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上述した2行2列の位相配列を有する回折格子に限られず、その位相の配列は、90°もしくは180°の回転、左右の反転(鏡映変換)、および屈折率N1,N2の入れ替えなどに対しても、その回折効率が変わることはない。
【0075】
また、上記実施の形態等では、透明基板内部に形成された屈折率変化領域として、屈折率N1,N2の2つの領域で互いに屈折率が異なる場合を例に挙げて説明したが、これに限定されず、3つ以上の領域で屈折率が異なるようにしてもよい。
【0076】
また、上記実施の形態等では、本発明の回折格子型ローパスフィルタとして、撮像素子の光学的ローパスフィルタを例に挙げて説明したが、これに限定されず、要求される精度を満たせば2次元微細周期構造製作に対応する露光用の位相シフトマスクや、記録再生用CD、DVDなどの光ディスク光学系におけるトラッキング位置制御や、投影照明光学系おける照度ムラの補正や、波長分割多重通信などの導波路における分岐/分波・合波などに応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての光学的ローパスフィルタの概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態としての光学的ローパスフィルタ内部の回折格子を示すものであり、(A)は平面図、(B)は斜視図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態としての光学的ローパスフィルタ内部の回折格子を示すものであり、(A)は平面図、(B)は斜視図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態としての光学的ローパスフィルタ内部の回折格子を示すものであり、(A)は平面図、(B)は斜視図である。
【図5】実施例1の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率(設計波長550nm)を示すものである。
【図6】実施例1の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率(設計波長550nm)を示すものである。
【図7】実施例1の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率における各次数での回折効率和を示すものである。
【図8】実施例1の光学的ローパスフィルタの設計波長530nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図9】実施例1の光学的ローパスフィルタの設計波長530nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmについて示す。
【図10】実施例1の光学的ローパスフィルタの設計波長530nm、公差−端での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図11】実施例1の光学的ローパスフィルタの設計波長530nm、公差+端での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図12】実施例2の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率(設計波長550nm)を示すものである。
【図13】実施例2の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率(設計波長550nm)を示すものである。
【図14】実施例2の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率における各次数での回折効率和を示すものである。
【図15】実施例2の光学的ローパスフィルタの設計波長550nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図16】実施例2の光学的ローパスフィルタの設計波長550nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmについて示す。
【図17】実施例2の光学的ローパスフィルタの設計波長610nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図18】実施例2の光学的ローパスフィルタの設計波長610nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmについて示す。
【図19】実施例2の光学的ローパスフィルタの設計波長610nm、公差−端での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図20】実施例2の光学的ローパスフィルタの設計波長610nm、公差+端での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図21】実施例3の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率(設計波長550nm)を示すものである。
【図22】実施例3の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率(設計波長550nm)を示すものである。
【図23】実施例3の光学的ローパスフィルタの波長550nmに対する回折効率における各次数での回折効率和を示すものである。
【図24】実施例3の光学的ローパスフィルタの設計波長550nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図25】実施例3の光学的ローパスフィルタの設計波長550nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmについて示す。
【図26】実施例3の光学的ローパスフィルタの設計波長520nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図27】実施例3の光学的ローパスフィルタの設計波長520nm、公差中心での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmについて示す。
【図28】実施例3の光学的ローパスフィルタの設計波長520nm、公差−端での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図29】実施例3の光学的ローパスフィルタの設計波長520nm、公差−端での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmについて示す。
【図30】実施例3の光学的ローパスフィルタの設計波長520nm、公差+端での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nm、(D)は3波長の相加平均について示す。
【図31】実施例3の光学的ローパスフィルタの設計波長520nm、公差+端での回折効率を示すものであり、(A)は波長460nm、(B)は波長550nm、(C)は波長620nmについて示す。
【図32】図1に示した回折格子型ローパスフィルタを用いた撮像装置の一例を示すものである。
【図33】従来例に係る水晶板を用いた光学的ローパスフィルタの概略構成を示す斜視図である。
【図34】従来例に係る回折格子型の光学的ローパスフィルタの概略構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0078】
1,2,3…回折格子型ローパスフィルタ、10…ガラス基板、U1,U2,U3…単位格子、N1,N2…屈折率。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板の内部に形成された回折格子部分とを備え、
前記回折格子部分は、前記透明基板の内部に前記透明基板自体の屈折率とは異なる屈折率を有すると共に、光路長差による複数の位相を含む屈折率変化領域を有し、かつ
前記屈折率変化領域の複数の位相が2行2列に配列した領域を単位格子として、この単位格子が複数配列された構成とされている
ことを特徴とする回折格子型ローパスフィルタ。

【請求項2】
前記回折格子部分は、一の対角方向に位相0と位相2φとの領域が配置されると共に、他の対角方向に位相φと3φとの領域が配置された2行2列の領域を単位格子とし、
前記単位格子は、mを1〜3の整数としたとき、以下の条件式(1)を満足する
|mφ−mπ/2|≦ (mπ/2)/5 ………(1)
ことを特徴とする請求項1記載の回折格子型ローパスフィルタ。
【請求項3】
前記回折格子部分は、一の対角方向に位相0と位相2φとの領域が配置されると共に、他の対角方向に位相ψの領域が2つ配置された2行2列の領域を単位格子とし、
前記単位格子は、a=115/90およびb=(2−a)としたとき、以下の条件式(2)もしくは条件式(3)のいずれか一方、および条件式(4)を満足する
|ψ−a・(aπ/2)|≦a・(aπ/2)/16 ………(2)
|ψ−b・(aπ/2)|≦b・(aπ/2)/16 ………(3)
|2φ−(aπ)|≦(aπ)/16 ………(4)
ことを特徴とする請求項1記載の回折格子型ローパスフィルタ。
【請求項4】
前記回折格子部分は、位相0と位相φとが交互に配置された2行2列の領域を単位格子とし、
前記単位格子は、以下の条件式(5)を満足する
|φ−π|≦π/10 ………(5)
ことを特徴とする請求項1記載の回折格子型ローパスフィルタ。
【請求項5】
透明基板の屈折率をN1、屈折率変化領域の屈折率をN2、位相πに相当する格子の高さをH、中心波長をλとしたとき、以下の条件式(6)を満足する
H・|N2−N1|=λ/2 ………(6)
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の回折格子型ローパスフィルタ。
【請求項6】
撮像素子と、
前記撮像素子の受光面側に配置された請求項1ないし5のいずれか1項に記載の回折格子型ローパスフィルタとを備えた
ことを特徴とする撮像装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2009−217123(P2009−217123A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62417(P2008−62417)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構『ナノテクノロジープログラムの「三次元光デバイス高効率製造技術プロジェクト」事業』委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】