説明

回転コネクタ

【課題】回転コネクタ内に異物が侵入して遊星歯車の回転を阻止(ロック)した場合でも、確実にハンドルの操作を可能とする回転コネクタを提供する。
【解決手段】固定ハウジング1の外筒体21には内周面に沿う内歯歯車12が設けられ、可動ハウジング2の内筒体31には外周面に沿う太陽歯車10が設けられ、太陽歯車10と内歯歯車12との両方に噛合し固定ハウジング1の底板部26に沿って移動自在な遊星歯車11が設けられ、可動ハウジング2の内筒体31と太陽歯車10とは、固定開放手段6により一体化されており、固定開放手段6は太陽歯車10と内筒体31の間に所定以上の捩れ荷重がかかると、太陽歯車10と内筒体31間の固定状態を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定体と回転体の間で電気信号等を伝送可能な回転コネクタに関し、特に固定ハウジングと可動ハウジング間に遊星歯車を介在させて互いに回転自在とした回転コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などにおいては、固定体と回転体の間で電気信号や光信号を伝送したり、あるいは電力を供給するなどのために、回転コネクタが用いられる。具体的には、ハンドルにエアバッグを設けたり、オーディオ等の操作を行うためのスイッチを設けたりした場合には、回転体であるハンドル側と固定体である車両側との間で、電気的な通信等を行う必要があり、ここに回転コネクタが設置される。
【0003】
回転コネクタは、固定体側の固定ハウジングと、回転体側の可動ハウジングとを同軸上に配置し、固定ハウジングに形成される外筒体と可動ハウジングに形成される内筒体との間に環状空間部を形成し、この環状空間部にフラットケーブルを巻回して収納する。フラットケーブルは、両端部がそれぞれ固定ハウジング側と可動ハウジング側に接続されており、回転体の回転に伴い可動ハウジングが回転すると、フラットケーブルが巻締め、あるいは巻緩められて、回転体の回転にかかわらず固定体側との電気的接続を維持する。
【0004】
かかる回転コネクタにおいては、フラットケーブルの長さによって回転可能な範囲が定まる。フラットケーブルを巻回の途中で反転させることにより、回転コネクタの同じ回転可能な範囲を得るのに必要なフラットケーブルの長さを短くすることができる。このような回転コネクタとしては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−50283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フラットケーブルを反転させて短くした回転コネクタでは、固定ハウジングに内歯歯車が、可動ハウジングに太陽歯車が、それぞれ設けられて互いに対向し、これら内歯歯車と太陽歯車の両方に噛合する遊星歯車が設けられると共に、遊星歯車にはフラットケーブルの反転形状を維持する反転維持部を支持させる構成が採用されている。
【0007】
ハンドルを回転操作させると、回転コネクタでは内歯歯車及び太陽歯車と遊星歯車とが、それぞれ噛合し回転するが、回転コネクタ内に砂等の異物が侵入して歯車間に異物が入り込んだ場合、遊星歯車の回転(自公転)が阻止(ロック)されて、ハンドルを回転操作することが困難になる虞があるという問題がある。
【0008】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、回転コネクタ内に異物が侵入して遊星歯車の回転を阻止(ロック)した場合でも、確実にハンドルの操作を可能とする回転コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る回転コネクタは、外筒体を有する固定ハウジングと、該固定ハウジングと同軸に配置されて前記外筒体と対向する内筒体を有する可動ハウジングとを有し、対向する前記外筒体と内筒体の間には環状空間部が形成されると共に、該環状空間部にフラットケーブルを巻回して収納した回転コネクタにおいて、
前記固定ハウジングの外筒体には内周面に沿う内歯歯車が設けられ、前記可動ハウジングの内筒体には外周面に沿う太陽歯車が設けられ、該太陽歯車と前記内歯歯車との両方に噛合し前記固定ハウジングの底板部に沿って移動自在な遊星歯車が設けられ、
前記可動ハウジングの内筒体と前記太陽歯車とは、固定開放手段により一体化されており、該固定開放手段は前記太陽歯車と前記内筒体の間に所定以上の捩れ荷重がかかると、前記太陽歯車と前記内筒体間の固定状態を解除することを特徴として構成されている。
【0010】
また、本発明に係る回転コネクタは、前記環状空間部には前記フラットケーブルの回転方向が反転する形状を維持する反転維持部が配置され、前記遊星歯車は前記反転維持部を支持することを特徴として構成されている。
【0011】
さらに、本発明に係る回転コネクタは、前記固定開放手段は、前記内筒体と前記太陽歯車の一方に形成した凸部と、前記内筒体と前記太陽歯車の他方に形成した凹部とを嵌合してなり、前記凸部には根元部に切欠が形成されていることを特徴として構成されている。
【0012】
さらにまた、本発明に係る回転コネクタは、前記固定開放手段は周方向複数箇所に形成され、前記凸部は前記内筒体の軸線方向に沿って伸びるように形成されることを特徴として構成されている。
【0013】
そして、本発明に係る回転コネクタは、前記切欠は前記凸部の根元部全周に渡って、前記内筒体の軸線方向と直交する方向に向かって食い込むように形成されることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る回転コネクタによれば、可動ハウジングの内筒体と太陽歯車は、固定開放手段により一体化されており、固定開放手段は太陽歯車と内筒体の間に所定以上の捩れ荷重がかかると、太陽歯車と内筒体の固定状態を解除することにより、異物の侵入などにより太陽歯車の回転が阻止(ロック)された場合であっても、太陽歯車と内筒体の間に所定以上の捩れ荷重をかけることによって可動ハウジングを回転可能とし、ハンドルの回転操作を確実に可能とすることができるので、ハンドルを回転操作することが困難になるという虞を回避することができる。
【0015】
また、本発明に係る回転コネクタによれば、環状空間部にはフラットケーブルの回転方向が反転する形状を維持する反転維持部が配置され、遊星歯車は反転維持部を支持することにより、歯車の噛合を必要とする構造において、ハンドルのロックを確実に防止することができる。
【0016】
さらに、本発明に係る回転コネクタによれば、固定開放手段は、内筒体と太陽歯車の一方に形成した凸部と、内筒体と太陽歯車の他方に形成した凹部とを嵌合してなり、凸部には根元部に切欠が形成されていることにより、固定開放手段を簡易な構造で構成できると共に、固定状態を解除する捩れ荷重につき、切欠の形状及び深さにより確実に設定することができる。
【0017】
さらにまた、本発明に係る回転コネクタによれば、固定開放手段は周方向複数箇所に形成され、凸部は内筒体または太陽歯車の軸方向に沿って伸びるように形成されることにより、凸部による固定を偏りなくなすことができ、また構造も簡単にすることができる。
【0018】
そして、本発明に係る回転コネクタによれば、切欠は前記凸部の根元部全周に渡って、内筒体または太陽歯車の軸方向と直交する方向に向かって食い込むように形成されることにより、切欠を容易に形成でき、また固定状態を解除する捩れ荷重も安定的にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態における回転コネクタの分解斜視図である。
【図2】各歯車の配置状態を表した平面図である。
【図3】遊星歯車を一側から見た斜視図である。
【図4】遊星歯車を他側から見た斜視図である。
【図5】遊星歯車が変形した状態における太陽歯車や内歯歯車との噛合状態を表した拡大平面図である。
【図6】回転コネクタの縦断面図のうち、遊星歯車が位置している側の断面図である。
【図7】可動ハウジングと太陽歯車の分解斜視図である。
【図8】固定ハウジングを構成する上ケースの斜視図である。
【図9】図8のうち導出部付近の拡大図である。
【図10】図9の状態からフラットケーブルを環状空間部に導出させた状態の斜視図である。
【図11】フラットケーブルに強い引っ張り力が加わって切断された状態の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。図1には、本実施形態における回転コネクタの分解斜視図を示している。また図6には、回転コネクタの縦断面図のうち、遊星歯車が位置している側の断面図を示している。本実施形態の回転コネクタは、自動車のステアリングコラム部に固定される固定ハウジング1と、ハンドルと共に回転するステアリングシャフトが挿通されてこれと共に回転する可動ハウジング2とを有し、これらの間で電気的接続をなすフラットケーブル3が、固定ハウジング1と可動ハウジング2の間に形成される環状空間部5(図6)内に巻回され納められて構成される。
【0021】
固定ハウジング1は、外筒体21を有する上ケース20と、底板部26を有する下ケース25とを、スナップ結合などにより連結・一体化して形成される。上ケース20には、外筒体21の上端から内方へ突出する略リング状をなすリング部22が形成されており、外筒体21の外周から外方へ突出する、フラットケーブル3を引き出して電気的接続するための固定側上部接続部23を一体的に備えている。
【0022】
下ケース25は、底板部26の外縁部から立設された壁部25aを備えて、その内周壁には内歯歯車12が形成されている。内歯歯車12には遊星歯車11が噛合し、遊星歯車11は可動ハウジング2に設けられる太陽歯車10に対して噛合する。各歯車の構成については後で詳述する。下ケース25はステアリングシャフトを挿通させる開口部27を有する。遊星歯車11は、この底板部26の内面上において自転及び公転動作する。
【0023】
また、下ケース25には、上ケース20と一体化した際に固定側上部接続部23と一体化する固定側下部接続部28が外周側に形成されている。固定側下部接続部28には、固定側に引出されたフラットケーブル3を車両側に電気的に接続するためのコネクタ(図示しない)が設けられる。
【0024】
可動ハウジング2は、上部ロータ30と下部ロータ35とから構成される。可動ハウジング2には、環状空間部5の上方に位置するリング状の天板部31と、天板部31の内縁部から下ケース25の底板部26側に向かって突設された内筒体32とを有している。内筒体32は、外筒体21と同軸状に配置され、環状空間部5を介して外筒体21の内周面と対向する。一方、下部ロータ35は、リング状のリング部36と、リング部36の内縁部から立設された筒状部37とを有している。
【0025】
可動ハウジング2の天板部31には、フラットケーブル3を引き出して電気的接続するための可動側接続部33が形成されている。すなわち、可動側接続部33には、フラットケーブル3の内端部に接続されたリードブロック(図示略)が収納される。リードブロックには、ステアリング部側のエアバックシステムやホーンスイッチ回路などから導出された外部コネクタ(図示略)が接続される。また、固定ハウジング1内に挿入された上部ロータ30の内筒体32には、下ケース25の開口部27から挿入された下部ロータ35の筒状部37がスナップ結合によって連結される。このように、上部ロータ30と下部ロータ35とを連結することで、下部ロータ35のリング部36が下ケース25の底板部26の下面に対して当接状態で回転自在であり、可動ハウジング2が固定ハウジング1に対して回転自在に保持される。
【0026】
フラットケーブル3は、内部に長手方向に沿う導通路が複数並設されてなり、可撓性を有する樹脂材料により被覆され形成されている。本実施形態では、フラットケーブル3が第1フラットケーブル3aと第2フラットケーブル3bの2本収納される。第1フラットケーブル3aは、環状空間部5内を巻回されると共に、第1反転部3cを介して巻回方向が反転する。第2フラットケーブル3bも、環状空間部5内を巻回されると共に、第2反転部3dを介して巻回方向が反転する。第1反転部3cと第2反転部3dは、周方向において異なる位置に形成される。
【0027】
各フラットケーブル3は、巻回された内周端部で可動ハウジング2に固定され、外周端部で固定ハウジングに固定される。したがって、可動ハウジング2を固定ハウジング1に対して回転させると、各フラットケーブル3は第1および第2反転部3c、3dからフラットケーブル3を内筒体32の外周面側に巻き取り、あるいは外周面側から繰り出すように駆動される。このため、フラットケーブル3においては、可動ハウジング2の回転位置にかかわらず、反転形状が維持される。
【0028】
図6に示すように、外筒体21と内筒体32の間の環状空間部5には、反転維持部としての回転リング4が底板部26の内面上に回転可能に配置される。回転リング4には、遊星歯車11が回転自在に配設され、遊星歯車11が自転及び公転移動するのに伴い、回転リング4も回転動作する。回転リング4は、リング状の本体部40を備え、周方向の異なる位置に、第1フラットケーブル3aの第1反転部3cを挿通させる第1反転維持部41と、第2フラットケーブル3bの第2反転部3dを挿通させる第2反転維持部42とを有している。なお、反転維持部は、回転リング体4の他に、遊星歯車1に突設した円柱体又は円筒体もしくは回転可能なローラも適用できる。
【0029】
図6に示すように、可動ハウジング2の内筒体32において、下ケース25の底板部26と対向する第1対向面32aには、太陽歯車10が固定される。図7には、可動ハウジング2と太陽歯車10の分解斜視図を示している。太陽歯車10は、図7に示すように、それぞれリング状で同軸に配置された内側基部10bと外側基部10cとを複数の連結部10dで一体的に形成してなり、外側基部10cの外周面には全周に渡って歯10aが形成されている。可動ハウジング2が固定ハウジング1に対し回転自在に配置されると、太陽歯車10は固定ハウジング1の内歯歯車12と同軸状に対向する。
【0030】
図2には、各歯車の配置状態を表した平面図を示している。この図に示すように、各歯車が配置された状態において、太陽歯車10と内歯歯車12は同軸状に配置されるから、周方向に一定の間隔を有して対向しており、その間に遊星歯車11が配置され、遊星歯車11は太陽歯車10と内歯歯車12の両方に噛合している。太陽歯車10は、可動ハウジング2の回転に伴い回転し、太陽歯車10に噛合した遊星歯車11は、太陽歯車10の回転に伴い自転しつつ周方向に沿って公転する。遊星歯車11の公転動作によって、回転リング4も底板部26の内面上を回転することとなる。
【0031】
遊星歯車11の構成につき、さらに詳細に説明する。図3には遊星歯車11を一側から見た斜視図を、図4には遊星歯車11を他側から見た斜視図を、それぞれ示している。図3に示すように、遊星歯車11は、同軸状に配置されたそれぞれリング状の内側基部11bと外側基部11cとを、径方向に向かって伸びる連結部11dにより一体化して構成されている。連結部11dは周方向に均等な角度をなして3つ設けられ、これら連結部11d間の領域はそれぞれ空隙部11eとなっている。外側基部11cの外周面には、全周に渡って歯11aが形成されている。
【0032】
内側基部11bには、連係部11fが突設されている。連係部11fは、回転リング4の連係凹部44に対し回転自在となるように取付けられ、遊星歯車11を自転自在とすると共に、公転動作に伴い環状空間部5内で回転リング4を回転動作させる。
【0033】
また、内側周基部11bの外周面からは、空隙部11e内に向かって伸びる弾性腕部11gが形成されている。弾性腕部11gは、内側基部11bの外周面から径方向に伸び、途中で屈曲して周方向に沿って伸びている。図4に示すように、弾性腕部11gの底面側には、先端部に突起部11hが、図中下方、すなわち、底板部26へ向けて突出するよう形成されている。弾性腕部11gは、遊星歯車11の他の部位に比べて薄肉状に形成されており、しかも片持ち状となっているから、弾性変形自在となっている。図6において遊星歯車11は、弾性腕部11g(図示略)が撓み変形した状態で配置され、突起部11hが底板部26内面から抗力(反力)を受けているので、遊星歯車11の軸方向における上方に向く弾性付勢力を生起することができる。
【0034】
遊星歯車11は、外周に形成された歯11aの内側に、周方向に沿って複数の空隙部11eが形成されているので、平面方向に対して弾性を有していて、若干の変形が可能である。また、図2に示すように、太陽歯車10についても、歯10aの内側において、連結部10d間に周方向に沿って複数の空隙部10eが形成されているから、平面方向に対して弾性を有している。
【0035】
図5には、遊星歯車11が変形した状態における太陽歯車10や内歯歯車12との噛合状態を模式的に表した拡大平面図を示している。この図に示されているのは、太陽歯車10と内歯歯車12の間隔が狭くなった状態である。なお、図5は噛合状態の変化を実際より強調して示している。
【0036】
遊星歯車11の、太陽歯車10及び内歯歯車12に対する噛合状態は、それらの歯車を含む各関係部材の寸法誤差や、温度変化による歯車の膨張又は収縮変形などにより変化する。このような場合であっても、一般に、各歯車が円滑に噛合するように各歯車間にバックラッシュ(クリアランス:噛合する歯車において、互いのピッチ円間に設定する隙間)を適宜設定するが、本実施形態例による遊星歯車11は、空隙部11eを有して弾性変形可能であり、また、太陽歯車10も空隙部10eを有して弾性変形可能であるため、遊星歯車11と太陽歯車10及び内歯歯車12との間における各バックラッシュをほぼゼロに設定しても円滑に噛合動作を実現することができる。これにより、走行中に車が振動しても、各歯車は平面方向においてがたつきのない円滑な噛合動作を実現することができ、がたつき音が生じるのを防止できる。なお、遊星歯車11と太陽歯車10及び内歯歯車12との間に異物が侵入しても、ある程度の大きさの異物であれば、遊星歯車11と太陽歯車10の弾性変形によって、それら各歯車の噛合・回転に支障を生じることを回避できる。また、本実施形態では、遊星歯車11と太陽歯車10の両方に、周方向に沿って複数の空隙部11e、10eを形成して弾性変形可能としているが、いずれか一方に空隙部を形成するようにしてもよい。
【0037】
また、遊星歯車11は、走行中に車が振動しても、弾性腕部11gにより生起される、遊星歯車11の軸方向に作用する弾性付勢力よって回転リング4を押し上げるため、環状空間部5内の上下方向についても、がたつくことなく、安定的な動作をなすことができる。詳しくは後述する。
【0038】
回転コネクタ内の構造につき、さらに説明する。図6に示すように、固定ハウジング1の外筒体21と可動ハウジング2の内筒体32との間には環状空間部5が形成され、環状空間部5内には回転リング4が配置されると共に、回転リング4の内周側と外周側にはそれぞれフラットケーブル3が巻回されている。
【0039】
遊星歯車11には連係部11fが上方へ突出するように形成されており、回転リング4にはこれに対応して連係凹部44が形成されている。遊星歯車11の連係部11fが連係凹部44に嵌合されることにより、遊星歯車11は回転リング4に対して回転自在に取付けられる。
【0040】
回転リング4は、下端部に外方へ突出する鍔部43を有する。鍔部43は、内筒体32の第1対向面32aの径方向外側に形成された第2対向面32bに対して弾接している。すなわち、遊星歯車11は、撓み変形状態にある弾性腕部11g(図示略)により生起される、遊星歯車11の軸方向上方に作用する弾性付勢力で回転リング4を押し上げるため、鍔部43が第2対向面32bに弾接している。
【0041】
このように、遊星歯車11は、太陽歯車10及び内歯歯車12との間におけるバックラッシュをほぼゼロに設定され、弾性腕部11gにより軸方向上方に付勢されると共に移動自在となっており、回転リング4を介して可動ハウジング2と固定ハウジング1との間に挟持されているから、走行中に車が振動しても、上下方向にがたつくことがなく、安定的な自転及び公転動作をなすことができる。
【0042】
次に、太陽歯車10の固定構造について説明する。図1について説明したように、太陽歯車10は内筒体32(可動ハウジング2)の第1対向面32a(図6)に対して固着される。そのために、図7に示すように、太陽歯車10には、内側基部10bにピン状の凸部10fが形成されている。凸部10fは、太陽歯車10の周方向3か所に形成されていて、それぞれ太陽歯車10及び内筒体32の軸方向に沿って伸びるように突出している。可動ハウジング2の底面には、周方向3か所に凹部34が形成されて、凸部10fと凹部34とが嵌合される。
【0043】
次に、図6に基づき固定開放手段6について説明する。固定開放手段6は、第1対向面32a(内筒体32)に形成した凹部34と、太陽歯車10の凸部10fと、凸部10fの根元部の周方向に沿って形成された切欠10gとによって構成されている。この切欠10gは、太陽歯車10の軸方向と直交する方向に向かって食い込むように形成されており、凸部10fに対し傾倒方向に所定の力が加わると、凸部10fが根元部から破断するように、形状及び深さが設定されている。これにより、太陽歯車10と可動ハウジング2の間に所定の力以上の捩れ荷重(トルク)が加わると、凸部10fが根元部から破断されて、太陽歯車10と可動ハウジング2の固定状態が解除されて、可動ハウジング2は太陽歯車10と無関係に回転自在となる。
【0044】
このように、太陽歯車10と可動ハウジング2が、所定の大きさ以上の捩れ荷重により固定状態を解除する固定開放手段6により一体化されていることで、異物の侵入などにより太陽歯車10などがロックされた場合であっても、固定開放手段6によって可動ハウジング2が回転可能であり、可動ハウジング2と連係するハンドルも回転操作が可能となるから、ハンドル操作のロックされることによってドライバーが遭遇する運転上の危険を回避することができる。
【0045】
固定開放手段6については、本実施形態で示した構成には限られない。例えば、可動ハウジング2側に凸部を形成し、太陽歯車10側に凹部を形成するようにしてもよい。また、凸部と凹部の向きについても、本実施形態では太陽歯車10の軸方向に伸びるように形成しているが、径方向に伸びるように形成してもよい。
【0046】
次に、固定ハウジング1におけるフラットケーブル3の切断構造につき説明する。本実施形態例による遊星歯車11を備えた遊星ギヤ方式の回転コネクタでは、製造時や自動車に対する組み付け時において、可動ハウジング2が固定ハウジング1に対して回転中立位置にない不良状態でハンドルに装着されるような場合、その後のハンドル操作において可動ハウジング2が過回転されることになり、遊星歯車11と太陽歯車10及び内歯歯車12との間において歯飛び、すなわち、各歯車同士が噛み合わない状態で遊星歯車11だけが空回りして、可動ハウジング2が回転されることがある。歯飛びが生じると、不良状態にある回転コネクタの状態がさらに悪化することになる。本実施形態例による回転コネクタには、かかる問題を解決可能とするために、フラットケーブル3を確実に切断して異常を確実に検知できるようにした切断構造が設けられている。図8には、固定ハウジング1を構成する上ケース20の斜視図を示している。
【0047】
上ケース20は、前述のように外筒体21を備えている。フラットケーブル3を固定側上部接続部23側から環状空間部5に導出させるために、外筒体21には導出部60が形成されている。導出部60は、外筒体21の壁面にフラットケーブル3を挿通させる案内経路61を形成している。
【0048】
図9には、図8のうち導出部60付近の拡大図を示している。導出部60には、案内経路61を構成する対向する2つの壁のうち、環状空間部5側に先端が配置される一方の壁の環状空間部5側端部に、破断部62が形成されている。破断部62は、階段状に形成されていて、縦辺の部分は鋭利なカッター状となっている。
【0049】
外筒体21を構成する内壁には、破断部62の近傍に保持部63が形成されている。保持部63は、外筒体21の内壁と対向するように形成される案内壁部63aと、外筒体21の内壁から案内壁部63a側に突出するように伸びる保持壁部63bと、これら案内壁部63aと保持壁部63bの間の隙間として形成される挿通部63cとで構成される。
【0050】
図10には、図9の状態からフラットケーブル3を環状空間部5に導出させた状態の斜視図を示している。この図に示すように、フラットケーブル3は、固定側上部接続部23側から導出部60に至る案内経路61を挿通されて環状空間部5内に導出され、そこで反転して環状空間部5内に巻き回されている。フラットケーブル3の反転している部分である折り返し部3eは、その内側に位置する破断部62と対向した状態となっている。
【0051】
折り返し部3eより環状空間部5側におけるフラットケーブル3は、そのまま外筒体21の内壁に沿って巻回されて保持部63を構成する挿通部63cに挿通され、その先で案内壁部63aに沿うと共に、折り曲げ部3fで折り返され、保持壁部63bに突き当たる位置において折り曲げ部3gで再度折り返され、その先は外筒体21の内壁に沿って配置される。
【0052】
フラットケーブル3が、このように保持部63によって2回折り返された状態で保持されるので、フラットケーブル3の導出部60付近が可動ハウジング2の過回転により、図10に示す力Fで引っ張られた場合に、力Fが大きくなって後述の保持力に至ると、まず保持部63の折り返し状態が解除され、その直後に、折り返し部3eが瞬時に引っ張られることとなる。そのときフラットケーブル3は、折り返し部3eが破断部62に瞬時に衝当され切断される。保持部63におけるフラットケーブル3の保持力は、フラットケーブル3の保持部分における、フラットケーブル3と外筒体21の内壁および案内壁部63aとの摩擦力、折り返したフラットケーブル3同士の摩擦力、及び、フラットケーブル3の折り返し状態を解除するときの変形に対する抗力などによって定まるから、フラットケーブル3の選定及び保持部63の形状によって、保持力を設定することができる。
【0053】
図11には、フラットケーブル3に保持力以上の力がかかり、保持部63の折り返し状態が解除され、フラットケーブル3に強い引っ張り力が瞬時に加わって切断された状態の拡大斜視図を示している。この図に示すように、フラットケーブル3の保持部63における折り返し状態は、フラットケーブル3に所定以上の引っ張り力がかかった時点で解除されており、この状態でさらに引っ張られると、折り返し部3eが破断部62の先端に瞬時に押し付けられるので、これによって切断される。フラットケーブル3が切断されると、電気的な接続が完全に切断されるので、検査時において確実に異常として検出することができる。
【0054】
可動ハウジング2に過回転が発生して歯車の歯飛びが生じる前に確実にフラットケーブル3を切断するには、以下のような力関係を設定することが必要となる。歯車の歯飛びが生じるときのフラットケーブル3にかかる力をF1、保持部63においてフラットケーブル3を保持する力をF2、破断部62でフラットケーブル3を切断するのに必要な力をF3とすると、F1>F2>F3となるように設定される。
【0055】
この力関係により、歯車の歯飛びが生じる力F1よりも小さく、かつ、保持部63においてフラットケーブル3を保持する力F2よりも大きい力Fがフラットケーブル3にかかった場合、確実に保持部63におけるフラットケーブル3の保持が解除される。この場合、破断部62でフラットケーブル3を切断するのに必要な力F3よりも大きい力がフラットケーブル3にかかるから、歯車の歯飛びを生じることなく、破断部62により確実にフラットケーブル3が切断される。なお、フラットケーブル3にかかる力Fが、保持部63においてフラットケーブル3を保持する力F2より小さい場合には、保持部63におけるフラットケーブル3の保持が維持されるから、破断部62により切断されることがない。
【0056】
このように、外筒体21に保持部63を設けて上記3つの力関係を適切に設定することにより、保持部63においてフラットケーブル3を保持する力F2以上の引っ張り力がフラットケーブル3に作用した場合には、歯車の歯飛びを生じることなくフラットケーブル3を確実に切断し、保持部63においてフラットケーブル3を保持する力F2より小さい引っ張り力がフラットケーブル3に作用した場合には、保持部63におけるフラットケーブル3の保持状態を維持して切断がされないようにすることができる。これによって、異常がある場合には確実に発見できると共に、それ以外の場合には確実に切断を防止することができるから、過回転による不具合発生を防止することができる。
【0057】
切断構造において、保持部63の構成は本実施形態のように2つの壁部を設けるものには限られない。例えば、外筒体21の近傍に固定ハウジング1における径方向位置の異なる2本のピン状の突起を形成しておき、これらの突起でフラットケーブル3を2回折り返すことで、フラットケーブル3を保持する保持部63を構成することもできる。この場合、突起は、フラットケーブル3に対し所定のF2以上の力がかかると折れて、フラットケーブル3の保持状態を解除するように構成される。
【0058】
また、図11において、保持部63の構成の代わりに、破断部62のさらに先の位置で、図中鎖線で示すような反転ピン64を底板部26に立設して、この反転ピン64を内側にして図中鎖線のフラットケーブル3を反転させるようにし、かつ、この反転ピン64がF2の力で折れるように設定したものであってもよい。この場合、反転ピン64が切断構造をなすことになる。
【0059】
また、外筒体21の内壁から突起を突出させ、フラットケーブル3には所定位置に突起を挿通させる孔部を形成しておき、孔部に突起を挿通させることで、フラットケーブル3を保持する保持部63を構成することもできる。この場合も、突起は、フラットケーブル3に対し所定のF2以上の力がかかると折れて、フラットケーブル3の保持状態を解除するように構成される。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。
【符号の説明】
【0061】
1 固定ハウジング
2 可動ハウジング
3 フラットケーブル
4 回転リング
5 環状空間部
6 固定開放手段
10 太陽歯車
10a 歯
10e 空隙部
10f 凸部
10g 切欠
11 遊星歯車
11a 歯
11e 空隙部
12 内歯歯車
21 外筒体
26 底板部
32 内筒体
34 凹部
60 導出部
61 案内経路
62 破断部
63 保持部
63a 案内壁部
63b 保持壁部
63c 挿通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒体を有する固定ハウジングと、該固定ハウジングと同軸に配置されて前記外筒体と対向する内筒体を有する可動ハウジングとを有し、対向する前記外筒体と内筒体の間には環状空間部が形成されると共に、該環状空間部にフラットケーブルを巻回して収納した回転コネクタにおいて、
前記固定ハウジングの外筒体には内周面に沿う内歯歯車が設けられ、前記可動ハウジングの内筒体には外周面に沿う太陽歯車が設けられ、該太陽歯車と前記内歯歯車との両方に噛合し前記固定ハウジングの底板部に沿って移動自在な遊星歯車が設けられ、
前記可動ハウジングの内筒体と前記太陽歯車とは、固定開放手段により一体化されており、該固定開放手段は前記太陽歯車と前記内筒体の間に所定以上の捩れ荷重がかかると、前記太陽歯車と前記内筒体間の固定状態を解除することを特徴とする回転コネクタ。
【請求項2】
前記環状空間部には前記フラットケーブルの回転方向が反転する形状を維持する反転維持部が配置され、前記遊星歯車は前記反転維持部を支持することを特徴とする請求項1記載の回転コネクタ。
【請求項3】
前記固定開放手段は、前記内筒体と前記太陽歯車の一方に形成した凸部と、前記内筒体と前記太陽歯車の他方に形成した凹部とを嵌合してなり、前記凸部には根元部に切欠が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の回転コネクタ。
【請求項4】
前記固定開放手段は周方向複数箇所に形成され、前記凸部は前記内筒体の軸線方向に沿って伸びるように形成されることを特徴とする請求項3記載の回転コネクタ。
【請求項5】
前記切欠は前記凸部の根元部全周に渡って、前記内筒体の軸線方向と直交する方向に向かって食い込むように形成されることを特徴とする請求項4記載の回転コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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