説明

回転コネクタ

【課題】遊星歯車と他の歯車を円滑に動作させることができ、がたつき音が生じないようにした回転コネクタを提供する。
【解決手段】外筒体21を有する固定ハウジング1と、固定ハウジング1と同軸に配置されて外筒体21と対向する内筒体32を有する可動ハウジング2とを有し、対向する外筒体21と内筒体32の間には環状空間部5が形成されると共に、環状空間部5にフラットケーブル3を巻回して収納し、固定ハウジング1の外筒体21には内周面に沿う内歯車12が設けられ、可動ハウジング2の内筒体31には外周面に沿う太陽歯車10が設けられ、太陽歯車10と内歯車12の間には、太陽歯車10と内歯車12の両方に噛合し、固定ハウジング1の底板部26の内面に沿って移動自在な遊星歯車11が設けられ、遊星歯車11と太陽歯車10は、歯車の内側に周方向に沿って複数の空隙部10e、11eを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定体と回転体の間で電気信号等を伝送可能な回転コネクタに関し、特に固定ハウジングと可動ハウジング間に遊星歯車を介在させて互いに回転自在とした回転コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などにおいては、固定体と回転体の間で電気信号や光信号を伝送したり、あるいは電力を供給するなどのために、回転コネクタが用いられる。具体的には、ハンドルにエアバッグを設けたり、オーディオ等の操作を行うためのスイッチを設けたりした場合には、回転体であるハンドル側と固定体である車両側との間で、電気的な通信等を行う必要があり、ここに回転コネクタが設置される。
【0003】
回転コネクタは、固定体側の固定ハウジングと、回転体側の可動ハウジングとを同一軸上に配置し、固定ハウジングに形成される外筒体と可動ハウジングに形成される内筒体との間に環状空間部を形成し、この環状空間部にフラットケーブルを巻回して収納する。フラットケーブルは、両端部がそれぞれ固定ハウジング側と可動ハウジング側に接続されており、回転体の回転に伴い可動ハウジングが回転すると、フラットケーブルが巻締め、あるいは巻緩められて、回転体の回転にかかわらず固定体側との電気的接続を維持する。
【0004】
かかる回転コネクタにおいては、フラットケーブルを巻回の途中で反転させることにより、回転コネクタの同じ回転可能な範囲を得るのに必要なフラットケーブルの長さを短くすることができる。このような回転コネクタとしては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−50283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フラットケーブルを反転させて短くした回転コネクタでは、固定ハウジングに内歯車(アウターギア)が、可動ハウジングに太陽歯車(サンギア)が、それぞれ設けられて互いに対向し、これら内歯車と太陽歯車の両方に噛合する遊星歯車(プラネタリギア)が設けられると共に、遊星歯車にはフラットケーブルの反転状態を維持する反転維持部を備えた構成が採用されている。
【0007】
しかしこの場合、円滑な動作をなすためには、歯車の変形等も考慮して、遊星歯車と内歯車及び太陽歯車との間にある程度のバックラッシュが必要となる。このため、自動車が振動した際などに、歯車同士が衝当してがたつくので、がたつき音を発生させる原因となる。
【0008】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、遊星歯車と他の歯車を円滑に動作させることができ、がたつき音が生じないようにした回転コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る回転コネクタは、外筒体及び底板部を有する固定ハウジングと、該固定ハウジングと同一軸上に配置されて前記外筒体と対向する内筒体を有する可動ハウジングとを有し、対向する前記外筒体と内筒体の間には環状空間部が形成されると共に、該環状空間部にフラットケーブルを巻回して収納した回転コネクタにおいて、
前記固定ハウジングの内面に内歯車が設けられ、前記可動ハウジングの内筒体に、前記内歯車と同一軸上に配置されて該内歯車と対向する太陽歯車が設けられ、該太陽歯車と前記内歯車に噛合して自転及び公転する遊星歯車が、前記底板部上に回動可能に設けられており、前記遊星歯車、前記内歯車及び前記太陽歯車の少なくともひとつは、周方向に沿って複数の空隙部を有してなることを特徴として構成されている。
【0010】
また、本発明に係る回転コネクタは、前記環状空間部に、前記遊星歯車を回転可能に支持すると共に、前記フラットケーブルの巻回方向が反転する状態を維持する反転維持部が回動可能に設けられたことを特徴として構成されている。
【0011】
さらに、本発明に係る回転コネクタは、前記反転維持部は、前記遊星歯車を回転可能に支持する回転リング体と、該回転リング体に形成された、前記フラットケーブルを反転させるための開口部とで構成されることを特徴として構成されている。
【0012】
さらにまた、本発明に係る回転コネクタは、前記遊星歯車及び太陽歯車の少なくとも一方は、外周に沿って歯が形成されたリング形状の外側基部と、該外側基部の内側に形成される内側基部とを、複数の連結部で連結してなり、それら複数の連結部間に前記複数の空隙部のそれぞれが形成されることを特徴として構成されている。
【0013】
そして、本発明に係る回転コネクタは、前記遊星歯車は、前記底板部及び前記回転リング体の少なくとも一方に弾性的に当接する弾接部を有し、前記回転リング体は、該回転リング体の径方向の内方及び外方で前記フラットケーブルの下端部を支持する鍔部を有し、前記内筒体は、前記鍔部と摺接する当接面部を有することを特徴として構成されている。
【0014】
また、本発明に係る回転コネクタは、前記弾接部は、前記空隙部内に向かって延びる弾性腕部であることを特徴として構成されている。
【0015】
さらに、本発明に係る回転コネクタは、前記内歯車が、内周に沿って歯が形成されたリング形状の内側リング体と、該内側リング体の外側に形成される外側リング体とを、複数の連結部で連結してなり、それら複数の連結部間に前記複数の空隙部のそれぞれが形成されることを特徴として構成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に係る回転コネクタによれば、遊星歯車、内歯車及び太陽歯車の少なくともひとつが、周方向に沿って複数の空隙部を有することにより、径方向に弾性変形することが可能となるため、温度変化などに対応するためのバックラッシュを各歯車間に設定する必要がなくなり、バックラッシュを設けなくても、遊星歯車と他の歯車を円滑に動作させることができ、がたつき音が生じるのを防止できる。また、各歯車間に異物が侵入しても、各歯車の噛合に支障を生じるのを回避でき、円滑に動作させることができる。
【0017】
また、本発明の請求項2に係る回転コネクタによれば、可動ハウジングの回転方向や回転速度に関わりなく、フラットケーブルの反転形状を安定して維持できるので、フラットケーブルの変形による支障を生じ難くして、回転コネクタの品質及び信頼性を向上できる。
【0018】
さらに、本発明の請求項3に係る回転コネクタによれば、開口部を複数形成したので、反転された複数枚のフラットケーブルを少ない部材で容易に巻回でき、低コスト化できる。
【0019】
さらにまた、本発明の請求項4に係る回転コネクタによれば、遊星歯車及び太陽歯車の少なくとも一方が径方向に偏りなく弾性変形することが可能となるので、各歯車を、より円滑に噛合させてがたつき音が生じるのをさらに確実に防止できる。
【0020】
そして、本発明の請求項5に係る回転コネクタによれば、回転リング体が可動ハウジングに弾接された状態を維持でき、フラットケーブルが上下に振られるスペースを狭くできるので、たとえ回転コネクタが上下に振動しても、回転リング体及びフラットケーブルによるがたつき音を極めて小さく抑えることができる。
【0021】
また、本発明の請求項6に係る回転コネクタによれば、簡単な構成で遊星歯車に軸方向における弾性を持たせることができ、がたつき音をさらに効率よく防止できる。
【0022】
さらに、本発明の請求項7に係る回転コネクタによれば、内歯車が径方向に偏りなく弾性変形することが可能となるので、各歯車を、より円滑に噛合させてがたつき音が生じるのをさらに確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態における回転コネクタの分解斜視図である。
【図2】各歯車の配置状態を表した平面図である。
【図3】遊星歯車を一側から見た斜視図である。
【図4】遊星歯車を他側から見た斜視図である。
【図5】変形した遊星歯車と太陽歯車及び内歯車との噛合状態を示す模式的平面図である。
【図6】回転コネクタの縦断面図のうち、遊星歯車が存在する位置の断面図である。
【図7】可動ハウジングと太陽歯車の分解斜視図である。
【図8】固定ハウジングを構成する上ケースの斜視図である。
【図9】図8のうち導出部付近の拡大図である。
【図10】図9の状態からフラットケーブルを環状空間部に導出させた状態の斜視図である。
【図11】フラットケーブルが切断された状態の拡大斜視図である。
【図12】図3とは異なる遊星歯車が太陽歯車及び内歯車と噛合する状態を示す模式的平面図である。
【図13】図6に示す回転コネクタの縦断面図のうち、図3とは異なる遊星歯車が存在する位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。図1は、本実施形態における回転コネクタの分解斜視図である。また図6は、回転コネクタの縦断面図のうち、遊星歯車が存在する位置の断面図である。本実施形態の回転コネクタは、自動車のステアリングコラム部に固定される固定ハウジング1と、ハンドルと共に回転する可動ハウジング2とを有し、これらの間で電気的接続をなすフラットケーブル3が、固定ハウジング1と可動ハウジング2の間に形成される環状空間部5(図6)内に巻回され納められて構成される。
【0025】
固定ハウジング1は、外筒体21を有する上ケース20と、底板部26を有する下ケース25とを、スナップ結合などにより連結・一体化して形成される。上ケース20には、外筒体21の上端から内方へ突出する略リング状をなすリング部22が形成されている。リング部22は、外筒体21の外周から外方へ突出する上部接続部23を一体的に備えている。
【0026】
下ケース25は、底板部26の外縁部から立設された壁部25aを備えて、その内周壁には内歯車12が形成されている。内歯車12には遊星歯車11が噛合し、遊星歯車11は可動ハウジング2に設けられる太陽歯車10に噛合する。各歯車の構成については後で詳述する。下ケース25はステアリングシャフトを挿通させる開口部27を有する。遊星歯車11は、この底板部26の内面上において自転及び公転する。
【0027】
また、下ケース25には、上ケース20と一体化した際に上部接続部23と一体化する下部接続部28が外周側に形成されている。下部接続部28には、固定側に引出されたフラットケーブル3を車両側に電気的に接続するためのコネクタ(図示しない)が設けられる。
【0028】
可動ハウジング2は、上部ロータ30と下部ロータ35とから構成される。可動ハウジング2は、環状空間部5の上方に位置するリング状の天板部31と、天板部31の内縁部から下ケース25の底板部26側に向かって突設された内筒体32とを有している。内筒体32は、外筒体21と同一軸上に配置され、環状空間部5を介して外筒体21の内周面と対向する。一方、下部ロータ35は、リング状のリング部36と、リング部36の内縁部から立設された筒状部37とを有している。
【0029】
可動ハウジング2の天板部31は、フラットケーブル3の内端部に接続されたリードブロック(図示略)を収納する可動側接続部33を有する。リードブロックには、例えば、ステアリング部側のエアバックシステムやホーンスイッチ回路などに接続された外部コネクタ(図示略)が接続される。また、固定ハウジング1内に挿入された上部ロータ30の内筒体32には、下ケース25の開口部27から挿入された下部ロータ35の筒状部37がスナップ結合によって連結される。このように、上部ロータ30と下部ロータ35とを連結すると、下部ロータ35のリング部36が、下ケース25の底板部26の外面に対して当接し、可動ハウジング2が固定ハウジング1に対して回転可能に支持される。
【0030】
フラットケーブル3は、導体線が可撓性を有する樹脂フィルムによって被覆されている。本実施形態では、第1フラットケーブル3aと第2フラットケーブル3bが、環状空間部5内に収納されて巻回される。第1フラットケーブル3aは、第1反転部3cを介して巻回方向が反転され、第2フラットケーブル3bは、第2反転部3dを介して巻回方向が反転される。
【0031】
各フラットケーブル3は、内端部が可動ハウジング2に固定され、外端部が固定ハウジング1に固定される。そして、可動ハウジング2を固定ハウジング1に対して回転させると、各フラットケーブル3は、内筒体32の外周面側に巻き取られ、外周面側から繰り出される。
【0032】
図6に示すように環状空間部5には、回転リング体(反転維持部)4が底板部26の内面上に配置される。回転リング体4には、遊星歯車11が回転可能に支持される。したがって、可動ハウジング2が回転すると、遊星歯車11が自転及び公転するのに伴い、回転リング体4が回動される。
【0033】
なお、回転リング4は、リング状の本体部40を備え、本体部40の周方向の異なる位置に、第1フラットケーブル3aの第1反転部3cを挿通させる第1開口部(反転維持部)41と、第2フラットケーブル3bの第2反転部3dを挿通させる第2開口部(反転維持部)42とを有している。このため、各フラットケーブル3の第1反転部3cと第2反転部3dは、可動ハウジング2の回転位置にかかわらず、第1及び第2開口部41,42によって各反転形状が維持される。ここで、本体部40は、外筒体21と内壁と内筒体32の外壁とに対向する周壁部40aを有する。なお、反転維持部としては、回転リング体4及び第1・第2開口部の他に、例えば、遊星歯車1に突設するように設けた円柱体、円筒体、又は回転可能なローラなどを適用することができ、フラットケーブル3の反転部(第1反転部3c,3d)の内側に配置される。
【0034】
このような構成によって、可動ハウジング2の回転方向や回転速度に関わりなく、フラットケーブル3の第1及び第2反転部3c,3dの形状を安定して維持できるので、フラットケーブル3が変形する支障を生じ難くして、回転コネクタの品質及び信頼性を向上できる。また、開口部を複数形成したので、反転された複数枚のフラットケーブル3を少ない部材で容易に巻回でき、低コスト化できる。
【0035】
図6に示すように、可動ハウジング2の内筒体32において、下ケース25の底板部26と対向する第1対向面32aに太陽歯車10が取付けられる。なお、第1対向面32aについては詳しく後述する。図7は、可動ハウジング2と太陽歯車10の分解斜視図である。太陽歯車10は、リング状の内側基部10bと外側基部10cとが複数の連結部10dで連結されてなり、外側基部10cの外周面には全周に渡って歯10aが形成されている。可動ハウジング2が固定ハウジング1に対し回転可能に支持されると、太陽歯車10は固定ハウジング1の内歯車12と径方向において対向する。
【0036】
図2は、各歯車の配置状態を表した平面図である。遊星歯車11は、同一軸上に配置された太陽歯車10と内歯車12とに、噛合している。したがって遊星歯車11は、可動ハウジング2の回転に伴い自転しつつ周方向に公転する。遊星歯車11の自転及び公転によって、回転リング体4が底板部26の内面上を回動する。
【0037】
遊星歯車11について詳細に説明する。図3は、遊星歯車11を一側から見た斜視図、図4は、遊星歯車11を他側から見た斜視図である。図3に示すように、遊星歯車11は、同一軸上に配置されたリング状の内側基部11bと外側基部11cとが、径方向に延びる連結部11dによって連結されている。連結部11dは周方向に均等な角度をなして3つ設けられ、これら連結部11d間に空隙部11eが形成される。外側基部11cの外周面には、全周に渡って歯11aが形成されている。
【0038】
内側基部11bには、突設部11fが軸方向に突設されている。突設部11fは、回転リング体4の嵌合凹部44に回転可能に取付けられる(図6)。遊星歯車11が自転及び公転すると、環状空間部5内で回転リング4が回動される。
【0039】
また、内側基部11bには、空隙部11e内に向かって延びる弾性腕部11gが形成されている。弾性腕部11g(弾接部)は、途中で屈曲して周方向に沿って延びている。図4に示すように、弾性腕部11gの先端部には、突起部11hが、図中下方、すなわち、底板部26へ向けて突出するよう形成されている。弾性腕部11gは、遊星歯車11の他の部位に比べて薄肉状で片持ち状に形成されているので、弾性変形が可能である。図6において遊星歯車11は、弾性腕部11g(図示略)が撓み変形した状態で配置されるため、突起部11hが底板部26内面から抗力(反力)を受けているので、軸方向における上方に向く弾性付勢力を生起している。
【0040】
なお遊星歯車11は、歯11aの内方において、周方向に沿って複数の空隙部11eが形成されているので、径方向に対して弾性変形が可能である。図2に示すように、太陽歯車10は、歯10aの内方において、各連結部10d間に周方向に沿って複数の空隙部10eが形成されているので、径方向に対して弾性変形が可能である。
【0041】
図5は、遊星歯車11と太陽歯車10及び内歯車12との噛合状態を示す模式的平面図である。この図は、温度変化などによって太陽歯車10と内歯車12の間隔が狭くなった状態を実際より強調して示している。
【0042】
このような状態であっても、遊星歯車11は、空隙部11eを有しており弾性変形が可能であり、また、太陽歯車10は、空隙部10eを有しており弾性変形が可能であるため、遊星歯車11、太陽歯車10及び内歯車12間のバックラッシュをゼロに設定しても、各歯車が円滑に噛合して回転することができる。したがって、車が走行中に振動しても、各歯車は平面方向においてがたつきなく円滑に噛合するので、がたつき音が生じるのを防止できる。なお、遊星歯車11と太陽歯車10及び内歯車12との間に異物が侵入しても、遊星歯車11と太陽歯車10の弾性変形によって、それら各歯車の噛合・回転に支障を生じることを回避できる。また、本実施形態では、遊星歯車11及び太陽歯車10に、周方向に沿って複数の空隙部11e及び空隙部10eを形成して弾性変形可能としているが、いずれか一方の歯車に空隙部を形成するようにしてもよい。なお、太陽歯車10に空隙を形成する場合、図2及び図5に示すように、同一軸上に配置されたリング状の内側基部10bと外側基部10cとが、径方向に延びる連結部10dによって連結される。連結部10dは周方向に均等な角度をなして複数設けられ、これら連結部10d間に空隙部10eが形成され、外側基部10cの外周面には全周に渡って歯10aが形成される。なお、全歯車が空隙部を有する構成であってもよいのは勿論であるが、弾性変形する各連結部の撓み率がより小さい方が望ましいので、寿命の観点からすると、遊星歯車11には空隙を形成せず、太陽歯車10及び内歯車12の少なくとも一方に空隙を形成するのが好ましい。例えば図12に示すように、遊星歯車11には空隙部を形成せず、太陽歯車10及び内歯車12のそれぞれに空隙10e、12eを形成してもよい。内歯車12としては、同一軸上に配置されたリング状の内側リング体12bと外側リング体12cとが、径方向に延びる連結部12dによって連結される。連結部12dは周方向に均等な角度をなして複数設けられ、これら連結部12d間に空隙部12eが形成されており、内側リング体12cの内周面には全周に渡って歯12aが形成される。
【0043】
また、遊星歯車11は、弾性腕部11gによって生起される弾性付勢力よって回転リング体4を押し上げて、第1対向面32a(内筒体32)に押し付ける。したがって、車が走行中に振動しても、環状空間部5内で回動リング体4が上下方向にがたつくことがないので、がたつき音が生じるのを防止できる。
【0044】
回転コネクタの構造を説明する。図6に示すように、環状空間部5内において、回転リング体4の内周側と外周側にはそれぞれフラットケーブル3が巻回されている。内筒体32の下部の径方向外方には、底板部26(下ケース25)と対向する第1対向面32a及び第2対向面32b(当接面部)が段差を介して形成されている。第1対向面32aは径方向内方に形成され、第2対向面32bは径方向外方に形成される。第1対向面32aには、前述のように太陽歯車10が取付けられる。
【0045】
回転リング体4は、下端部に内方及び外方へ突出する鍔部43を有する。なお、内方へ突出する鍔部43の内縁部43aは、内筒体32の外周壁よりも径方向内側に位置する。一方、外方へ突出する鍔部43の外縁部43bは、外筒体21の下部に形成した段部によって形成される外方空隙部21a内に延びており、外筒体21の内周壁よりも径方向外側に位置する。したがって鍔部43は、各フラットケーブル3の下端部を支持する。また、リング部22及び天板部31と鍔部43と前述した周壁部40aとによって、各フラットケーブルが上下及び径方向に移動できるスペースが限定されて狭くなるので、車が走行中に上下に振動しても、各フラットケーブルがリング部22及び底板部26のそれぞれの内面に衝突して生じる音を低く抑えることができる。また、弾性腕部11gの弾性付勢力によって鍔部43の内縁部43aが第1対向面32aに常時弾接されるため、車が走行中に振動しても、遊星歯車11及び回動リング体4が上下方向にがたつくことがなく、がたつき音が生じるのを防止できる。
【0046】
このように、本実施形態による回転コネクタは、遊星歯車11、太陽歯車10及び内歯車12間のバックラッシュをゼロに設定しても各歯車ががたつきなく円滑に噛合するので、車が走行中に振動しても、各歯車同士によるがたつき音が生じるのを防止できる。また、遊星歯車11に設けた回動リング体4が弾性腕部11gにより軸方向上方に付勢されるため、鍔部43の内縁部43aが第2対向面32bに常時弾接されるので、車が走行中に上下に振動しても、遊星歯車11及び回動リング体4が上下方向にがたつくことがなく、がたつき音が生じるのを防止できる。
【0047】
なお遊星歯車11は、突設部11fの突設方向と弾性腕部11gの突出方向とが同方向に形成されたものであってもよい。図13に示すように、このような遊星歯車11が弾性腕部11g(図示略)が撓み変形した状態で環状空間部5に配置されると、回転リング4が突起部11hによって軸方向上方を向く弾性付勢力が付与されるため、車が走行中に振動しても、遊星歯車11及び回動リング体4が上下方向にがたつくことはないので、がたつき音が生じるのを防止できる。また遊星歯車11は、回転リング体4の下面からの抗力(反力)によって底板部26の上面に常時押し付けられるため、車が上下に強く振動しても上下動しないので、太陽歯車10及び内歯車12に対する噛合状態を一定に保つことができ、それら歯車間に偏摩耗が生じるのを防止できる。
【0048】
次に、太陽歯車10の取付構造について説明する。前述したように、太陽歯車10は内筒体32(可動ハウジング2)の第1対向面32a(図6)に取付けられる。図7に示すように、太陽歯車10には、内側基部10bにピン状の凸部10fが回転軸方向に突設するように形成されている。凸部10fは、太陽歯車10の周方向3か所に形成されていて、太陽歯車10及び内筒体32の軸方向に沿って延びるように突出している。内筒体21の第1対向面32aには、周方向3か所に凹部34が形成されており、凸部10fと凹部34とが嵌合される。
【0049】
次に、図6に基づき固定解除手段6について説明する。固定解除手段6は、第1対向面32a(内筒体32)に形成した凹部34と、太陽歯車10の凸部10fと、凸部10fの根元部に形成された切欠10gとによって構成されている。この切欠10gは、太陽歯車10の軸方向と直交する方向に向かって食い込むように形成されている。また、切欠10gの形状及び深さなどは、凸部10fに対し傾倒方向に所定の力が加わるときに切欠10gが破断するように設定されている。したがって、太陽歯車10と可動ハウジング2の間に所定の力以上の捩れ荷重(トルク)が加わると、凸部10fが切欠10gで破断されて、太陽歯車部材10と可動ハウジング2の固定状態が解除されて、可動ハウジング2は太陽歯車部材10に対して回転自在となる。
【0050】
したがって、異物の侵入などにより遊星歯車11がロックされた場合であっても、固定解除手段6によって可動ハウジング2が回転可能となり、可動ハウジング2と連結されたハンドルも回転操作が可能となるので、ハンドル操作がロックされる危険性を回避することができる。
【0051】
固定解除手段6については、本実施形態で示した構成には限られない。例えば、可動ハウジング2(第1対向面32a)の凹部34を凸部にし、太陽歯車10の凸部10fを凹部にしてもよい。また、本実施形態では凹部34と凸部10fの向きが軸方向に延びているが、径方向に延びるように形成されてもよい。
【0052】
次に、フラットケーブル3の切断構造につき説明する。可動ハウジング2が固定ハウジング1に対して回転中立位置にない回転コネクタが、自動車のハンドルに装着される場合が極く稀にある。このような場合、ハンドル操作によって可動ハウジング2が過回転されると、遊星歯車11と太陽歯車10及び内歯車12が正常に噛み合わない状態で空回りするという歯飛びが発生して、可動ハウジング2が回転される虞がある。空回りが生じると、可動ハウジング2が回転中立位置にない状態がさらに続いてしまうという問題がある。本実施形態例による回転コネクタには、かかる問題を解決可能とするために、フラットケーブル3を確実に切断して異常を確実に検知できるようにした切断構造が設けられている。図8は、固定ハウジング1を構成する上ケース20の斜視図である。
【0053】
上ケース20は、前述のように外筒体21を備えている。フラットケーブル3を環状空間部5に導出させるために、外筒体21には導出部60が形成されている。導出部60は、外筒体21の壁面にフラットケーブル3を挿通させる案内経路61である。
【0054】
図9は、図8の導出部60付近の拡大図である。導出部60には、案内経路61において対向する2つの壁のうち、環状空間部5側に配置される壁に破断部62が形成されている。破断部62は、階段状に形成されていて、縦辺の部分は鋭利なカッター状となっている。
【0055】
外筒体21の内壁には、破断部62の近傍に保持部63が形成されている。保持部63は、外筒体21の内壁と離隔して対向する案内壁部63aと、外筒体21の内壁から案内壁部63a側に突出する保持壁部63bと、これら案内壁部63aと保持壁部63b間の隙間として形成される挿通部63cとで構成される。
【0056】
図10は、図9の状態からフラットケーブル3を環状空間部5に導出させた状態の斜視図である。この図に示すように、フラットケーブル3は、導出部60の案内経路61を挿通されて環状空間部5内に導出され、そこで反転して環状空間部5内に巻き回されている。フラットケーブル3の反転している部分である折り返し部3eは、その内側に位置する破断部62と対向する。
【0057】
環状空間部5内に導出されたフラットケーブル3は、保持部63を構成する挿通部63cに挿通され、その先方で案内壁部63aに沿うと共に、折り曲げ部3fで折り返され、保持壁部63bに突き当たる位置において折り曲げ部3gで再度折り返され、その先は外筒体21の内壁に沿って配置される。
【0058】
図10において、可動ハウジング2の過回転によってフラットケーブル3が力Fで引っ張られた場合、力Fが大きくなって後述の保持力に至ると、まず保持部63の折り返し状態が解除され、その直後に、折り返し部3eが瞬時に引っ張られる。そのときフラットケーブル3は、折り返し部3eが破断部62に瞬時に衝当され切断される。保持部63におけるフラットケーブル3の保持力は、フラットケーブル3と外筒体21の内壁および案内壁部63aとの摩擦力、折り返したフラットケーブル3同士の摩擦力、及び、フラットケーブル3の折り返し状態を解除するときの変形に対する抗力などによって定まる。したがって保持力は、フラットケーブル3の機械的性質や折り曲げ回数などによって設定される。
【0059】
図11は、フラットケーブル3が切断された状態の拡大斜視図である。この図に示すように、フラットケーブル3が切断されると、電気的な接続が完全に切断されるので、検査時において確実に異常として検出することができる。
【0060】
可動ハウジング2に過回転が発生した場合、歯飛びが生じる前に確実にフラットケーブル3を切断するには、以下のような力関係を設定する必要がある。歯飛びが生じるときのフラットケーブル3にかかる力をF1、保持部63においてフラットケーブル3を保持する力をF2、破断部62でフラットケーブル3を切断するのに必要な力をF3とすると、F1>F2>F3となるように設定される。
【0061】
この力関係により、歯飛びが生じる力F1よりも小さく、かつ、保持部63においてフラットケーブル3を保持する力F2よりも大きい力Fがフラットケーブル3にかかった場合、確実に保持部63におけるフラットケーブル3の保持状態が解除される。この場合、破断部62でフラットケーブル3を切断するのに必要な力F3よりも大きい力がフラットケーブル3にかかるから、歯飛びを生じることなく、破断部62により確実にフラットケーブル3が切断される。なお、フラットケーブル3にかかる力Fが、保持部63においてフラットケーブル3を保持する力F2より小さい場合には、保持部63におけるフラットケーブル3の保持が維持されるから、破断部62により切断されることがない。
【0062】
このように、外筒体21に保持部63を設けて上記3つの力関係を適切に設定することにより、異常があり過回転される場合には、フラットケーブル3を確実に切断して異常を発見できる。
【0063】
切断構造において、保持部63の構成は本実施形態のように2つの壁部を設けるものには限られない。例えば、外筒体21の近傍に固定ハウジング1における径方向位置の異なる2本のピン状の突起を形成しておき、これらの突起でフラットケーブル3を折り返すことで、フラットケーブル3を保持する保持部63を構成することもできる。
【0064】
また、図11において、保持部63の構成の代わりに、破断部62のさらに先の位置で、図中鎖線で示すような反転ピン64を底板部26に立設して、この反転ピン64を内側にして図中鎖線のフラットケーブル3を反転させるようにし、かつ、この反転ピン64がF2の力で折れるように設定したものであってもよい。この場合、反転ピン64が切断構造をなすことになる。
【0065】
また、外筒体21の内壁から突起を突出させ、フラットケーブル3には所定位置に突起を挿通させる孔部を形成しておき、孔部に突起を挿通させることで、フラットケーブル3を保持する保持部63を構成することもできる。この場合も、突起は、フラットケーブル3に対し所定のF2以上の力がかかると折れて、フラットケーブル3の保持状態を解除するように構成される。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。
【符号の説明】
【0067】
1 固定ハウジング
2 可動ハウジング
3 フラットケーブル
4 回転リング体(反転維持部)
5 環状空間部
6 固定解除手段
10 太陽歯車
10a 歯
10b,11b 内側基部
10c,11c 外側基部
10e 空隙部
10f 凸部
10g 切欠
11 遊星歯車
11a 歯
11e 空隙部
12 内歯車
12b 内側リング体
12c 外側リング体
21 外筒体
26 底板部
32 内筒体
32b 当接面部(第2対向面32b)
34 凹部
41 第1開口部(反転維持部)
42 第2開口部(反転維持部)
43 鍔部
60 導出部
61 案内経路
62 破断部
63 保持部
63a 案内壁部
63b 保持壁部
63c 挿通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒体及び底板部を有する固定ハウジングと、該固定ハウジングと同一軸上に配置されて前記外筒体と対向する内筒体を有する可動ハウジングとを有し、対向する前記外筒体と内筒体の間には環状空間部が形成されると共に、該環状空間部にフラットケーブルを巻回して収納した回転コネクタにおいて、
前記固定ハウジングの内面に内歯車が設けられ、前記可動ハウジングの内筒体に、前記内歯車と同一軸上に配置されて該内歯車と対向する太陽歯車が設けられ、該太陽歯車と前記内歯車に噛合して自転及び公転する遊星歯車が、前記底板部上に回動可能に設けられており、前記遊星歯車、前記内歯車及び前記太陽歯車の少なくともひとつは、周方向に沿って複数の空隙部を有してなることを特徴とする回転コネクタ。
【請求項2】
前記環状空間部に、前記遊星歯車を回転可能に支持すると共に、前記フラットケーブルの巻回方向が反転する状態を維持する反転維持部が回動可能に設けられたことを特徴とする請求項1記載の回転コネクタ。
【請求項3】
前記反転維持部は、前記遊星歯車を回転可能に支持する回転リング体と、該回転リング体に形成された、前記フラットケーブルを反転させるための開口部とで構成されることを特徴とする請求項2記載の回転コネクタ。
【請求項4】
前記遊星歯車及び前記太陽歯車の少なくとも一方は、外周に沿って歯が形成されたリング形状の外側基部と、該外側基部の内側に形成される内側基部とを、複数の連結部で連結してなり、それら複数の連結部間に前記複数の空隙部のそれぞれが形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転コネクタ。
【請求項5】
前記遊星歯車は、前記底板部及び前記回転リング体の少なくとも一方に弾性的に当接する弾接部を有し、前記回転リング体は、該回転リング体の径方向の内方及び外方で前記フラットケーブルの下端部を支持する鍔部を有し、前記内筒体は、前記鍔部と摺接する当接面部を有することを特徴とする請求項3または4記載の回転コネクタ。
【請求項6】
前記弾接部は、前記空隙部内に向かって延びる弾性腕部であることを特徴とする請求項5記載の回転コネクタ。
【請求項7】
前記内歯車は、内周に沿って歯が形成されたリング形状の内側リング体と、該内側リング体の外側に形成される外側リング体とを、複数の連結部で連結してなり、それら複数の連結部間に前記複数の空隙部のそれぞれが形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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